#include(第十七回短編小説大会情報窓,notitle)
 まずは一匹殺した。
 いや、自滅か。
 それも違う。
 挙動が急におかしくなった。
 きな臭い話だ。
 だが、それはこっちも一緒だ。
 自由の為に戦う俺は、俺の翼は、元々の黒が血で真っ赤になって、その上に更に白塗りまでした。
 「あいつ」を継ぐはずだったのに、やっている事は昔からさほど変わらない。
 まあ、俺は&ruby(アーマーガア){鋼の烏};だから。
 戦う事しか能がない。
 それでも、今まで「彼女」を守り通してきた。
 いずれにせよ、後は&ruby(レパルダス){迷い猫};一匹だ。
 あいつの噂は聞いている。
 近ごろ名を上げ始めた手練れらしい。
 「彼女」の話によると、俺が&ruby(集めた){HALした};情報があったとはいえ、あのデカブツを一匹で鉄屑にしたとか。
 油断はできない。
 「彼女」とその仲間たちにとって、俺だけが戦力だ。
 それが俺と「彼女」が選んだ道だ。
 どんなに汚れた世界で、どんなに翼が汚れたとしても。
 &ruby(全てが壊れている){All is Fantasy};としても。
 いや、俺の目はそんなものをもう見れない。
 そもそも肉眼がない。
 「あいつ」との一騎打ちの時には、俺の目は壊れかけていた。
 その後には、五感の全部が消えた。
 今、あの&ruby(レパルダス){迷い猫};を見据えているのは、目があった場所に嵌め込んだカメラアイだ。
 俺はもう、ポケモンと呼べるか怪しい。
 &ruby(アーマーガア){鋼の烏};の姿をしているだけの怪物だ。
 背中にミサイルコンテナとライフルを積んで。
 自分のものじゃない鋼の鎧を纏って。
 まあ、あっちも猫のくせに装甲を着て推進器で空を飛んでいるが。
 反則だよな、普通に考えて。
 だが、人間の機械によって、人間の、「彼女」の言葉が分かるようになった。
 人間と同じように考えられるようになった。
 そうしないと、俺は「あいつ」を殺した後に死んでいた。
 「彼女」の為に戦って、それで命を削り続けた。
 俺はもう、ポケモンであるかはおろか、生き物であるかも怪しい。
 猫に向かってライフルの銃口が勝手に向く。
 俺の体にある機械のおかげだ。
 「墜ちろ」と念じただけで、俺の背中で轟音が鳴り響く。
 巨大な橋の下で戦っている俺たちの間を、銃弾やミサイルが飛び交う。
 あいつが&ruby(ガラル){粒子加速砲};を積んでいなくて助かった。
 元は一対二だった。
 俺の方が消耗が激しい。
 ガラル粒子で作った壁があるが、それはあっちも同じだ。
 大昔に、この世界の全てを救おうとした人間の男が雛形を作った装置だ。
 まあ、ありがた迷惑だな。
 俺と同じように、この世界は死を遅らせる事しかできない。
 その中でもがく哀れで小さな存在だ、俺も、あいつも。
 俺の背中からミサイルが飛ぶ。
 そのミサイルから更に小型のミサイルの束が飛ぶ。
 まずいな、押されてるのは俺だ。
 噂は嘘じゃないらしい。
 「彼女」は何も言わない。
 俺に言う必要がない。
 俺は伝説の&ruby(アーマーガア){鋼の烏};だ。
 一対一の戦いくらい俺だけでやる。
 それに、「彼女」に「何も言うな」と言ったのは俺だ。
 俺はもう、俺がこうして猫に向けて撃っているライフルと同じ、ただの道具だ。
 道具に情を持つものじゃない。
 俺はいつ壊れても、いつ墜とされてもおかしくはない。
 それに、&ruby(AI){次の俺};はもう出来上がっている。
 俺が墜ちたら、次の俺はもう本当にただの道具だ。
 まずい、避けきれな
 ぐレネードに当タルなんてナ。
 あっチは驚いテいルだろうな。
 マさかノ再起動ダカらな。
 自分の体ヲ実験台にシて、「彼女」ニ頼ンで&ruby(保険){AI};を積ンでキテ正解だっタ。
 サっキノ被弾で、俺ノ、元々ノ脳は半分焼き切れタダロウ。
 アあ、自慢の羽もぼろボロダ。
 これハモウ、直せナイカもな。
 そレデいい。
 「彼女」が、道具なんカニ情ヲ持タナいヨうに。
 俺は別にいイガ、「彼女」は救ワレテホしい。
 俺や他ノ&ruby(俺){AI};は、「彼女」に救われタカラ、恩返しヲサせテホしい。
 まだ十分ニ返しテイない。
 欲張りだろウか。
 いい加減墜チろ。
 いや、そレはアッチの台詞カ。
 ミサいルが切れた。
 こンテナを切リ離す。
 突撃だト。
 猫の肩に突キ飛ばサレテ、橋の足ニ背中かラ激突する。
 ラいふルも壊レタだロうな。
 それに、ノイズの方が多い俺ノかめラアイは、猫の銃口が俺に向いテイるノヲ捉えル。
 我儘を言ウなら、まだ「彼女」ト一緒にいたかッたんだケどな。
 仕方ガナい。
 ここデ終わリダ。
 呆気なイモノダな。
 そうイエば、俺が殺しタ「あいつ」もそうダッタ。
 因果、なんだろウナ。
 ヤれ、躊躇ウな。
 お前にハ、そノ権利と義務ガアる。
 俺はもウコれで終ワリ。
 大袈裟な「&ruby(アーマードコア){白い閃光};」ノ伝説モ終わる。
 いや、&ruby(俺){AI};ガ終ワラセナいンダガ。
 いヤ、次は「アイつ」ノ&ruby(方){AI};カモな。
 迷い猫ハヤハり躊躇ワなカった。
 みサいルが、グレねードガ、俺を焼ク。
 「彼女」ハソレでも何モ言わない。
 ソウダ、ソレデいい。
 ダケど、ごめんナ。
 俺ハコこまデ隠シてきた、&ruby(喉の奥){バっファ};の中ノ言葉を「彼女」に送信スル。
 「ああ、聞こえてるよ」。
 「あノ時」、言えナカッた事ヲ。
 アア、送ラナい方がヨかっタカもな。
 泣かせテしマッた。
 ゴめン、俺はココまデダ。
 コちら    コソ    ありガ      ト
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 拙作をお読み頂き本当にありがとうございます。
 ここからは大会投票所にて頂いたコメントの返答を致します。
>&color(#465DAA){不気味なんですけど、文体に加えて、行ごとに隙間が空いていて、病的なほどの左揃え、一行が短いという要素がいい味を出しておりました。};
「生命維持を機械で補っている感」を出したかったので、不気味さや病的な様を感じて頂けたなら物書き冥利に尽きます。どうしてこういう描写になったかは、「アナト◯アの傭兵」「ホワイトグ◯ント」「N-WG◯/v」で検索して頂けると分かるかと。それらに独自の解釈とポケモン要素を足したのがこの拙作です。
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