#author("2023-06-11T06:41:10+00:00","","") #author("2025-01-26T02:03:41+00:00;2023-06-11T06:41:10+00:00","","") ※この作品には官能描写があります。 ※[[いいえ藤井>https://twitter.com/iie_EFG]]さんが主人公二人を描いてくださったので、ページ最下部に掲載させていただいています。ありがとうございます‼ ※[[いいえ藤井>https://twitter.com/iie_EFG]]さんが主人公の二人のイラストを描いてくださったので、ページ最下部に掲載させていただいています。ありがとうございます! CENTER: &size(20){月の下で}; RIGHT: [[さかなさかな]] LEFT: 「いい天気だね。このへんでピクニックにしよっか」 「はいっ!」 ご主人の声が、モンスターボールの外から響く。それに答えるのは、ご主人の相棒のウェルカモ、アークだ。がちゃがちゃとテーブル類をセットする音がしばらく聞こえて、それが静まると、ご主人がボールを六つまとめて手に取った。 ぽーん、空中に放り投げられたのを感じ、ボールから飛び出して地面に着地する。ほかのポケモンたちも、同じように飛び出した。 ボールの外には、険しい山々が広がっていた。乾燥しているためだろう、緑の姿は近くには見当たらず、裸の岩がそのまま姿のを露出させている。周囲より少し高いちょっとした丘になっているここからは、その様子が広々と見渡せた。透視ができる私は見通しの善し悪しをあまり気にしないが、主人がピクニックに選ぶのもわかる。 「アギャス! アギャアス⁉」 「そうだぞ、ミライドン。ご主人がご飯を作ってくれるそうだ」 「きゃはは! おひさまおひさま~! からっとしててきもちい~!」 思い思いに元気のいい仲間たち。だけど、私は動けなかった。 「ここ、って……」 「ケイトどうした~。げんきないぞ!」 もふもふもふっ。ワタッコのナビスが、私のおでこを両手で叩く。彼女は手加減していないのだろうが、柔らかな綿毛で覆われているので全然痛くない。 「す、すまん……大丈夫だ」 そう、大丈夫。色合いが似ていたから、一瞬戸惑ってしまっただけ。よく見れば地形は全然違う。ただの早とちりだ。それに、今更あそこに戻ったからといって、恐れることなどない。私はご主人に鍛えられて、こんなに強くなったのだから。 「もしかして、シンイリにびっくりしたか~? ケイト、あうのはじめてだもんな!」 「新入り……?」 「よっ」 後ろから声をかけられる。景色に圧倒されていたせいで気づいていなかったが、見たことのない薄水色の四足獣がそこにいた。まだ若い、というより幼さの見える体。声変わりもまだのようで、女の子のように高い声。 「ケイトさんだっけ? 俺はグレイシアのウルスってんだ。よろしくなっ」 「うるすは、ナッペやまでなかまになったんだぞ! なんでもこおらせちゃうんだぞ! すごいだろ~」 「ちょっとお! あのとき戦ったのセルージでしょ! あんた凍らされて手も足も出なかったくせにっ」 「もぉみんな喧嘩しないでよぉ。ご主人がサンドイッチ作ってくれるんだからさぁ」 わいわいと仲間たちは盛り上がっていくけど、私はそれどころではなかった。飛び退いて逃げ出すのを抑えるので精一杯だった。内心の恐慌で体は硬直し、つばを飲み込もうとして口の中がカラカラになっていることに気づく。 ──落ち着け。落ち着け。ここはふるさとじゃない。あいつも、私の同族ではない。色が似ているだけ。額に大きな結晶があるポケモンなど、見たことがないではないか。 幸いにも喧噪から一歩離れていたおかげで、誰も私に話を振ることはなかった。疑われることはなかった。 私の恐怖が落ち着いた頃になって、件のグレイシア、ウルスとやらが私の方に歩み寄ってきた。仲間たちの会話は、すでにウルスのことでも私のことでもなく、サンドイッチの具材は何がいいかにシフトしていた。 「なあケイトさん。ちょっと話したいことがあるんだけど」 「……あ。ああ、いいぞ」 言った直後に後悔した。今から断ったら逆に怪しまれるだろう。私は、この弱みを誰にも見せないと決めているのだ。 先を行く彼について行く形で、私はその場を後にした。 「すごいテンションだったな。いっつもあんな感じなのか?」 「ああ。ついて行くのに苦労するよ」 「はは。悪くない歓迎だな」 話をしながら二人で歩くうちに、ピクニックの場所から大分離れていた。振り返ってみると、ご主人が取り出したボールでサッカー大会が始まっていた。この分だと、サンドイッチができるまでかなりかかりそうだ。 私はその間、彼の一挙手一投足を監視していた。持ち前の透視能力も使って、全力で。表情や、心拍、発汗、それらすべてに目をとがらせる。こうして長時間観察していれば、相手の考えていること、抱いている感情もぼんやりとだがわかる。 結果、少なくとも彼には私を害する意図はないことがわかった。嫌悪や敵意を抱いた相手を&ruby(み){視};たとき特有のひりつく感覚を慎重に探したが、見つけられない。 だが一方で、彼が何かを心の内に隠しているということもわかった。私の過去を知っている? それとも全部全部私の思い過ごしで、単純に二人で話したいことがあっただけなのだろうか。 私は思案する。出会ったばかりの私に相談とは、一体何事だろう。四足歩行特有の悩みがあって、それを相談したいとかだろうか。ほかにいる四足といえば、おなじ生物なのかすら怪しいサンドイッチフリーク機械獣くらいだし。大穴から来たからかしらんが、あいつにはなぜか言葉も通じない。 それともほかに、何か、パーティーで困っていることでもあるんだろうか。あの賑やかな輪の中に入らない私にしか、相談できないようなことが。 ……いじめ、とか。 あの気のいい奴らが? 想像したくはない。だけど、信じられないからこそ、もしそうだとしても頭ごなしに否定してしまいそうだ。そうしてしまわないように、心の準備だけはしておかなくては。 足を止めて、耳を澄ませる。パーティーのみんなはもう、姿は見えるけれど、声は届かないくらい離れている。この辺でいいだろう。 「で、話って何だ?」 「ああ。会ったときから思ってたんだけどさ」 なんだろう、この前置きは。まさか告白とかではないと思うが。 「あんた、俺の女になれよ」 「…………は?」 そのまさかだった。 「見た瞬間びびっときたね。その輝くように美しい毛並み。鋭い視線。何より尻がいい。でかくて形もよくて、元気な子を産んでくれそうだ」 しかも告白の内容が最低だった。毛並みと目つきはともかく、尻って何だ尻って。野生相手だと喜ばれるのかも知らんが、ロマンチックさのかけらもない。ナッペ山とかいう田舎はこんな奴らばっかなのか? はああ、声に出してため息をついてみせる。あれこれと心配して損した。本当に損した。 「何言ってんだオマエ。一回死ぬか?」 ウルスは少し面食らったようだが、すぐに楽しそうな笑みを浮かべた。 「はっはー、なるほどな。いいぜ、強気な女は嫌いじゃない。だがもう決めたんだ。いやだってんなら、力尽くで俺様のものにするだけさ!」 そう言うやいなや、私の返事も聞かず、彼は私に飛びかかってきた。 「ぐええ……」 「で、誰の女になるって?」 まあ、勝負にもならなかった。先制で氷のキバを当てられたが、甘噛みかと勘違いするくらいの威力しかない。普段のバトルで鍛え上げられた私の筋肉と毛皮を貫くことなどできず、間抜けにフガフガやっているだけ。そこから軽く電流を流してやっただけで彼はダウンしてしまった。 「ちくしょう……あんた、綺麗なだけじゃなくてめちゃくちゃ強いじゃんかよ」 「……ふん。おまえとは踏んできた修羅場の数が違うんだ」 ウルスは悔しそうに後ろ足で地団駄を踏んでいる。少なくとも、私に惚れたという言葉は嘘ではないようだ。 ごろり、起き上がると、先ほどの軽薄な雰囲気は消え失せ、真剣なまなざしでこちらを見ていた。 「……あんたを倒せるようになるには、どうしたらいい」 どうやら、私のことを認めたらしい。格下だと思っていた相手にこっぴどく負かされ、プライドも傷ついているはずなのに、虚心にこちらから学び取ろうとしている。そこには好感を抱いた。 「急ぐことじゃない。旅を続けてれば、自然と強くなっていけるさ」 私は笑いかける。はぐらかされたとでも思ったのか、ウルスはむっすりと顔をゆがませるとそっぽを向いてしまった。ご主人と受けた体育の授業の先生のような、さっぱりとした励ましの笑みを浮かべたつもりだったが、うまくいかなかったみたいだ。そんな表情は素直にかわいらしく思えて、今度は本心から笑みがこぼれる。 だが正直言って、つがいの相手としては見ることはできない。弱すぎる……というより、若すぎるのだ。さっきの氷のキバだって、正直言ってただの噛みつきと大差なかった。体から発せられる冷気からは並ならぬ力を感じるが、未熟故にその力を使いこなせていないのだろう。 いやまあ、私なんかに欲情するあたり、オスとしての性成熟は始まっているようだが。だがこちらとしては、年の離れた弟でも見ている気分だ。 そんなふうにして、気がつけば、先ほどまでの彼に対する警戒心はすっかり消え去っていた。やや直情的なきらいはあるが、悪いやつではない。仲良くできそうではないか。 「立てるか? 歩けないなら、せめて背中に乗れ」 さっきまで内心では戦々恐々していたわけだが、もちろんそんなことはおくびにも出さない。パーティーの頼れる姉御としての調子を取り戻し、彼に背中を向ける。 よじ登ってきながら彼が尋ねてきた。 「もしかしてそれって誘ってたりする?」 「んなわけあるかバカ」 まだ冗談を言う元気があったようなので、もう一発スパークをお見舞いしておいた。 「おまえ、ナッペ山の出身っていったか」 「うん。なんていったっけ、あの炎の剣士と戦ってたら、いつの間にかボールぶつけられてたんだよ」 「セルージな」 「そうそうセルージ。あいつの剣、熱くて痛いし、しかも斬った分だけ回復しやがるし。ずりーよな」 一瞬で終わった勝負の後、私たちはピクニックの場所に戻るために歩き出した。いや、正確には歩いているのは私だけ。ウルスは背中の上に脱力して乗っかっており、いまはセルージの能力にぶつぶつと文句を垂れている。つい強めに電撃を当ててしまったところ、本当に歩けなくなってしまったのだ。 「珍しく子供のニンゲンがいたから、ちょっといたずらしてやろうって思っただけなのになあ。あいつもあいつで、ボール当てんのめちゃくちゃ上手いしよ。何度逃げ出しても当てられるから、こっちが根負けしちまった」 彼のいうとおりだった。主人は、ポケモンバトルもそれなりに得意だが、なによりもボール投げの技術が超人的だった。 さっき、ピクニックの時に私たちのボールを投げたときもそう。無造作に投げているだけのようにも思えるが、そうではない。出てきたポケモンたちがテーブルやお互いにぶつからないよう、均等に散らばるように投げている──&ruby(・・){六つ};&ruby(・・・){同時に};。 さっき、ピクニックの時に私たちのボールを投げたときもそう。無造作に投げているだけのようにも思えるが、そうではない。出てきたポケモンたちがテーブルやお互いにぶつからないよう、均等に散らばるように投げている──&ruby(・){六};&ruby(・){つ};&ruby(・){同};&ruby(・){時};&ruby(・){に};。 しかも、彼女はそんな芸当を息をするようにこなす。失敗したらポケモンがけがしてしまうとか、愛用しているピクニックグッズが押しつぶされてしまうかもしれないとか、そんなことは心配すらしていない。一つ一つ出していては面倒だからという理由だけで、いつも横着するのだ。 当然、そんな彼女がボールを狙って投げれば、どんなに小さなポケモンでも、空を複雑に三次元飛行している飛行タイプでも、外れることは一度もない。電気技が飛行タイプに吸い込まれていくみたいにぴたりと当ててしまう。 旅の行く先々で出会うポケモンを片端から捕まえては図鑑をものすごいペースで埋めていくから、学校の生物教師も彼女には目をかけているのだとか。それもそうだろう。こんなことができる人間がホイホイいては、ポケモンたちなどあっという間に獲り尽くされてしまう。 ──そしておそらく、私はその中でも真っ先に。 私は運がよかった。人間たちがみんな、主人のようにボールを投げるのがうまくなくて。そして、私を捕まえたトレーナーが、主人のような善人で。 「でもま、こうして強い奴らと一緒に旅できるわけだし、悪くないかもな。見てろよ、あんたもセルージも、すぐに追い抜いてやっからな」 「……ふふ。楽しみにしておこう」 背中からの声で我に返る。そうだ、かもしれない未来など考えなくてもいい。今ここにある生活を、精一杯楽しめばいいじゃないか。 ---- 今日のピクニックは、青い香りが吹き抜けるのどかな山肌にて。パーティーのみんなが注目する中、恒例となった私たちの練習試合が始まった。サンドイッチの準備ができるまでの余興だ。 「いつでもこい」 「へへえ、そんなに余裕を見せていていいのか? 今日の俺様はひと味もふた味も違うぜ!」 バトルの前はいつも威勢がいいが、今日は一段と高飛車だ。そういうには、何か秘策があるのだろう。私は頭を低くして身構える。 「ピクニックもおまえとのバトルも久々だ。楽しませてくれよ」 いつもみたいにいきなり飛びかかってくるのかと思いきや、ウルスは距離をとったままうんうんうなり始めた。何をするのかわからないが、直接攻撃以外の作戦を覚えたのならいい成長だ。 目を凝らし、彼の動きを注視する。食いしばられた歯。ふらふら揺れる尻尾。それらのディテールに気をとられることなく、全体としての違和感を見逃すな。 本気を出せば透視すらできる私の鋭い視力が、その微細な変化を捉えた。顔のあたりが、ほんのわずか不自然にぶれた。何らかの精神攻撃を一瞬疑うが、即座に切り捨てる。そんな器用なまねができるやつではない。 だとしたら。 (これは……歪んでいるんだ。冷えた空気で光が曲がっている!) 気づいた瞬間、背筋を悪寒が撫ぜた。全力で横に跳ぶ。 「れいとうビーム!」 ひゅおっ、音すらも凍らせて、光束が私のいた場所を引き裂いた。足先に冷気が触れる。 「はっはあ! まだまだ!」 「うおっ!」 一度回避し、わずかに油断した隙を突かれた。着地際を狙って、連続して放たれたビームを、すんでの所で躱す。 直撃を受けた地面の草は凍り付いていた。特別冷気に強いわけではない私も、まともに食らえば同じ目に遭いかねない。そうすれば、勝負は決まったも同然。 「いいぞいいぞ~! こおらせちゃえ~!」 ナビスが無責任な声援をかける。自分が以前凍りづけにされてひどい目に遭ったことなどすっかり忘れているのだろう。 だが。 よける、よける、よけ続ける。光線が着弾する直前に私は地を蹴り、左右に大きく蛇行しながらも少しずつ彼との距離を詰めていく。 放たれる光線自体を見てからでは間に合わない。私が注目しているのは、それを放つ彼のほうだ。体や耳の動き、呼吸、目線。心拍や血流量、筋肉の緊張と弛緩すらも透視して、そのすべてに注意を払えば、彼の心の内すらも透かし視ることができる。次に光線がどこに飛んでくるかを当てることなどたやすい。 奇妙な一体感。彼の感情の動きすらも、今の私は捉えていた。 私も覚えがある、新しく覚えた技を思いっきり放ったとき特有の全能感。大技を連続して使ったが故に、少しずつ蓄積していっている疲労感。そして──それをすべて躱されているが故の、焦り。 同情はしない。戦いにおいて、それこそが最も失礼な感情だとわかっているから。 狙いの甘くなったビームを飛び越え、至近距離に着地。次はもう間に合わない。牙をむきだし、彼の喉笛にむけて最短距離で飛びかかる。 私を避けるように大きく跳び上がるウルス。無茶な回避、着地際を狩っておしまいだ。 そう、思っていたら。 「まだ、だぁ!」 (なっ……⁉) そこで、彼は私の予想を超えた。空中で縦回転した彼が、尻尾を振り下ろしてくる。反射的に開いていた顎でかみつくが、まるで鋼のように堅く、牙が全く通らない。 両者の力が拮抗し、膠着する。 だがそれも、現実には一瞬の出来事だっただろう。地に足をつけている私の方が結局は有利だ。首を横に振るようにして彼を投げ飛ばす。 「っだ……!」 強かに地面に打ち付けられ、ごろごろと草むらを転がっていくウルス。痛みをこらえていた彼が目を開けたときには、飛びついた私が首元に前足の爪をかけていた。 「……ああ、くそ、降参だ」 緊張していた体から力を抜く。透視能力も解除すると、普段の光景が戻ってきた。 「よし。立てるか?」 「無理。運んで」 「……たく」 背中を向けて座る。彼が背中をよじ登り、しがみついたのを感じたところで、私は立ち上がって歩き出した。 「んふふ……」 「本当は歩けるだろうに」 「ケイトの背中、暖かくておっきくて、落ち着くんだもん」 彼はいつもこうだ。戦いの後、背負われる間だけは私に触れていられることを学んでしまったらしい。 最初に言い寄られたとき、そこそこひどい目に遭わせてやったはずだった。だが彼は全く諦めず、何かと理由をつけては私に体を接触させようとしてくるのだ。体を洗いっこしようだの、遠くを見たいから背中に乗せてだの。この間など、寒いから一緒に寝ようなどと&ruby(のたま){宣};うものだからあきれてしまった。おまえ自分のタイプも忘れたのか。 だが、私も私だ。彼が歩けることをわかっているのに、こうやって甘えられると仕方なく背中に乗るのを許してしまう。もちろん、真面目に戦いの練習をした後限定だが。結局、仕方ないと言い訳ができる理由が必要なだけなのかもしれない。 はあ。聞こえよがしにため息をついてみせる。だが、それは一体どちらに向けたものだったのやら、自分でもよくわからなかった。 「ん……いい匂いする……あせくさい」 「おいやめろ、嗅ぐなっ! 感電させるぞ」 「いでっ! させてからいうなよ!」 だが少なくとも、初対面で尻がいいだのと宣ってくるこいつには通じるわけもなかった。静電気くらいの威力でお仕置きしておく。 少し、沈黙が下りる。 「……なあ、それよりさ」 彼が前置きをするとは珍しい。また突拍子もないことを言い出すんじゃなかろうか。 「なんだ」 「今日、満月らしいんだ。もしよかったらさ……」 と、そこで、ナビスがふわふわっと飛んできた。 「すごいすごいすごーい! ウルスもケイトもかっこよかった~!」 ぽふぽふ、労るように手の先の綿毛で額を撫でられる。こそばゆい。 「……いいバトルだった」 「うんうん。とくにアイアンテール。グレイシアは物理技は得意じゃないみたいだけど、ウルスの性格なら使いこなせると思ったんだよね。正解だった」 「ギャオス!」 彼女の後ろから歩み寄ってくる仲間たち。順に、ソウブレイズのセルージと、この前ウェーニバルに進化したアークだ。ミライドンの言葉は相変わらず聞き取れない。 とくにアークは、真面目一辺倒だった進化前と比べて、明るく快活な性格になった。密かに思いを寄せているというご主人にアタックを続けた結果、ついに種族の壁を越えて結ばれたのだとか。 ウルスはそのことを聞いて、彼を恋愛の師匠のように慕うようになった。これまでの彼は、暇さえ見つければ私に勝負を挑んでばかりだったのだが、最近は彼とも遊んだり、二人きりで話しているのを見かける。動機がやや不純な気もするが、交友関係が広がるのは素直に喜ばしい。 彼の言葉からするに、先のアイアンテールは格闘技の得意なアークに仕込まれたものだったようだ。なるほど、試合前に彼の言っていた『ひと味もふた味も』とは、文字通り新しく技を二個覚えたことだったらしい。 「だろだろ⁉ 不意打ち完璧に決まったと思ったのにな~」 褒められて調子に乗ったウルスが同調する。 「何を言ってる。追い詰められてとっさに尻尾が出ただけだろう」 「ぎくっ……」 「反応は悪くなかったが、練度が全く足らん。明日からも基礎練は欠かすなよ」 「ま、それはそうだね。ダンスもバトルも、練習が一番!」 和気藹々とした会話の中、私たちはご主人たちの元へと戻っていった。そろそろサンドイッチもできている頃だろう。 ---- ピクニックとサンドイッチを楽しんだ後、私たちは午後いっぱいサッカーをして遊んだ。ご主人が疲れて動けなくなったので、このまま野外でキャンプしようということになった。ご主人は人間なのにポケモンの体力に合わせて遊ぼうとするから、こうなることはしばしばだ。そのため準備も万端で、彼女はいそいそと防水寝袋をバックパックから取り出す。 その日の夜空は、ウルスが言っていたとおり、きれいな満月だった。少しだけ夕立が降ったものの、夜半には再び雲はいなくなり、日没と同時に陰りのない黄色い真円が空に昇ってきた。 こんな夜、私は眠れなくなる。視力が良すぎるせいで、月光でも真昼と同じくらいにものがよく見えるから、目が覚めてしまうのだ。野生の場合、私たちの種族は闇夜に潜みながら獲物を探すことも多いから、そもそも夜行性に近い睡眠サイクルを持っているというのもある。 それでも、寝ておかないと明日が大変だ。目を閉じて、うとうととまどろんでいた。時々眠りが少し深くなったり、また目覚めたり。 月もかなり高い位置にのぼったとき、何度目かの覚醒。寝ぼけたままの頭で、昼間のバトルのことをぼんやりと考える。 本人には言わないが、かなりいい勝負だった。早撃ちにもかかわらず精度も申し分ないれいとうビーム。私に隠れて相当練習したに違いない。私の隠し技──透視を使った読心術──抜きでは、私はなすすべなく氷漬けにされてしまい、初めての敗北を喫していたはずだ。 咄嗟に放たれたアイアンテールも素晴らしい判断だった。電気属性の私には相性の上では効果は薄いが、命中すれば距離をとられ、戦いは仕切り直しになっていただろう。 もちろん、私が電気技を使っていたとしたら、その尻尾から感電させられておしまいだ。私がれいとうビームを恐れ、出の早いかみつきで仕留めようとするのを本能的に予測して、あの体勢から出せる唯一の技を選択したのだ。彼の戦いのセンスは伸び続けている。 彼を押さえつけたとき、私は高揚していた。成長していく彼への誇らしい気持ちが半分、そんな彼と最高の勝負を演じ、勝利できたことへの達成感が半分。 きっと、彼はこれからも成長を続ける。次の勝負では、私の方が負けてしまうかもしれないが、それも悪くないと思えた。なんだかんだいって、私もあの馬鹿に情がわいていたようだ。 ──負ける、か。 そしたらどうなるのだろう。しばらくは、いいライバルでいられるはずだ。だが、もしそれを通り越したら。私は彼の師匠ではいられなくなるのか。私から学ぶことがなくなったからって、私を見限るようなやつではないことはわかっている。みんなの姉貴分として、調子に乗りがちなあいつには特に厳しく教え諭すように接してきたから、それ以外の関係になったときにどう振る舞えばいいのか思い浮かばなかった。 悔しい、のだろうか。彼に追い抜かれていくのが。 いや、そうではないとすぐに否定できる。むしろうれしい気持ちのが大きい。ただ、戸惑っているだけで。 うんうんうなっていると、そのときふと、彼の言葉が脳裏によぎった。 『あんた、俺の女になれよ』 かあっと、顔が熱くなる。そういえば。 (えっ──いや、まさか、だって……嘘だろう?) 否定しようとする。だけど、するするとあふれ出てくる記憶は止まらない。 『あんた、綺麗なだけじゃなくてめちゃくちゃ強いじゃんかよ……』 『あんたを倒せるようになるには、どうしたらいい』 あれも。これも。全部全部、すべて一つの事実を指し示していた。 「なんてこった……馬鹿は、私じゃないか」 今の今まで、理解していなかった。ウルスが、あそこまで熱心にバトルの訓練をしていた理由を。毎日のように私と手合わせしていた理由を。 いや、でも。彼はただの弟子で、弟みたいなもので、恋愛の相手になんて思えないはずで。 なのに、どうしてこんなにも、もどかしい気持ちになってしまうのか。 彼がもし私に勝ったら何というのか、気になって気になって、いつまでたっても寝付けやしなかった。 最初は、怖かった。同族たちと同じ色をした彼のことが。それが思い過ごしだったと知って、安心した。 勝手に疑ってしまった罪悪感もあったのだろう──その揺り戻しで、彼は無害で無邪気な存在だと思おうとした。いつまでも私より弱い、守ってやるべき存在だと。彼からアプローチは続けられていたが、子供の頃によくある遊びのような恋だと決めつけていた。 そうやって自分の気持ちに振り回されていたせいで、彼のことを、彼がどれだけ真剣かを、きちんと見られていなかった。彼の一匹のポケモンとしての気持ちを、捉えることができていなかった。いつまでも見ないふりなど、できるわけがないのに。 決断しなければならないときは、目の前に迫っていた。 考えても考えても、答えなど出るわけもなく。気恥ずかしさとなれない感情の整理でオーバーヒートした頭が、無性に彼の顔を見たくなった。寝ている顔でもいい。 周りを見渡してみる。ご主人に腕枕するアーク。ミライドンの上で、自身の綿毛をベッドにして眠っているナビス。器用に立ったまま腕を組んで寝ているセルージ。 (……いない?) ウルスの姿だけが、忽然と消えていた。 普通のポケモンだったら焦るべき場面だろう。だが、私たちはご主人の手持ちだから、その心配はいらなかった。人間の使うモンスターボールは、一度捕まえて登録したポケモンならば、どんなに離れた距離であっても再収容できるからだ。一度、崖の下に落ちかけたセルージすらもそれで回収したことがある。最悪ご主人を起こしてボールのボタンを押してもらえばいい。はぐれることなどあり得ない。 そして、焦らなくていい理由がもう一つ。私の透視能力だ。 (あいつ……どこに行ったんだ) 目の奥に力を込めるイメージ。透視強度を様々に変えながら、彼の姿を探していく。 そうかからずに見つかった。山のてっぺんの少しだけ向こう側、こちらに背中を向けて座っている。こちらからでは山体に隠れて直視することはできないが、あの特徴的な水色と背中の模様は間違えようがない。 だが。彼の方に歩いて行っている途中で、違和感を覚えた。 (あれは……誰だ?) 彼の向こう側に、もう一匹ポケモンがいる。同じくらいのサイズ、似たような色をしていたから、近づくまで気がつかなかった。 近づいていくにつれて、その姿がはっきりと見て取れるようになっていく。そのポケモンがウルスに近づくと、彼は気を失ったように倒れてしまった。それで、そいつの顔がはっきりと見えた。 ルクシオ。私の進化前の姿だ。倒れたまま動かない彼の上にのしかかり、何かをしようとしている。 ──押し倒される彼の姿に、幼い頃の私を幻視する。 全速力で駆け出した。一歩目で加速し、二歩目で大きく飛び、三歩で丘の上までたどり着く。彼らの姿をはっきりと捉える。そいつは大口を開けて、ウルスにかみつこうとしていた。 (させるかっ!) 体中に電気をまとわせ、そのままの勢いでタックルする。 「いぎゃ!」 高い声を上げて、ルクシオは転がっていった。メスだったようだ。 とはいえ、電気タイプ同士では効果は今ひとつ。たいしたダメージを受けた様子もなく、彼女はすぐに起き上がろうとしていた。 「おい、大丈夫か⁉」 ウルスに怒鳴りかける。こいつは一匹のようだが、仲間がどこかにいるかもしれない。一対一なら負けることはないだろうが、多勢に無勢になりそうなら逃げることも考えなくては。 だが、彼の方はいつまでたっても転がったまま。顔をしかめて力を入れているが、立ち上がるどころか起き上がることもできていない。 (麻痺させられている……!) 逃げることは難しそうだ。諦めて彼女の方を振り返る。 立ち上がった彼女は、私を視界に入れると、ぎょっとしたように目を見開いた。 「うわ、何よあんた⁉ キモっ!」 胸の奥が、ずきんと痛む。故郷でのことはもう乗り越えたと思っていたが、同族に罵られるのは、やはりトラウマを刺激される。 「……こいつに何の用だ」 そんな内心を覆い隠すように、低く重い声で彼女を威嚇する。 「ひっ⁉ い、いい男だったからちょっかいかけようとしただけだよ……」 彼女はすっかり震え上がってしまった。焦って弁明している。私の強さにおびえている。つまり、仲間はいない。ここで仕留めてしまえば、後顧の憂いも絶たれる。 「ごめんって、先約がいるとは思わなかったのよぅ。もうしないから、謝るからそんな怒んないでよ……」 私のうなり声にすっかりおびえてしまった彼女は、涙目になり耳を畳んで小さくなっていた。 ──うなり声? 言われて気づいた。ぐるる、喉の奥から重低音が響いていた。 それに。今、私は、このルクシオを手にかけることを考えていた。同族に対する厭悪もあるが、何よりウルスに手を出されたことが、自分でも気がつかないうちに相当腹に据えかねていた。 「……もういい。行け」 はあ、大きく息を吐いて、無理矢理喉から力を抜く。彼女は一目散に逃げ出していった。私の放つプレッシャーに足が硬直してしまっていたらしい。 彼女の背中が小さくなり、見えなくなるまで私はそちらをにらみつけ続けていた。万が一これがすべて罠だったときのために、周囲への警戒も怠らない。 虫ポケモンたちのりんりんという鳴き声だけが響く静寂が、辺りを包む。 「……ありがと」 「まだ立てないのか。相手が電気タイプなら、麻痺技を警戒するのは当然だろう」 彼のお礼を無視して、厳しい言葉を投げかける。悪いのがあのルクシオであることは間違いないが、あの程度の相手に負けてしまうとは情けない。 「いやその、あいつのタイプ知らなかったし……あのポケモン、見たことなかったから」 言われてみればそうだ。私の進化前なのだが、かなり体格も違うし、確かに初見で気づくのは難しいかもしれない。 だが、ほかにも疑問はある。 「そもそも、なぜ接近を許した?」 ウルスは私とほぼ互角に戦える力をつけている。それに対して、あのルクシオは私の威嚇で尻尾を巻いて逃げ帰るくらいの力しかない。彼の得意な遠距離にいる間に先制攻撃してしまえば、追い返すことなどたやすかったはずだ。 「いや……なんというか……その」 彼はもごもごと判然としない。 普段なら叱責を飛ばすところだが、私はそれ以上追求するのをやめておいた。今日は機嫌がよく、それ以上怒る気になれなかったのだ。彼が無事でよかったと、素直に喜べている自分がいた。 「……まあいい。月を見たかったのだろう」 「……え」 「ほら、よっ……と」 彼の後ろに足を開いて腰掛けると、その首根っこを咥えて引き上げる。麻痺して動けない体を抱きかかえる格好。 「え、へっ? ケイト……⁉」 「ほら、こうすればちょうどいいだろう」 「は、はひ……」 空に高く昇った月が、彼に見えやすいようにしてやる。 麻痺して動けないはずなのに、彼がガチガチに緊張していることが伝わってくる。 「どうした? 月が見たいんじゃなかったのか?」 「や、だって……こんな密着すんの、初めてで……」 「嫌ならやめてもいいんだぞ」 「い、嫌じゃないです!」 「そうか」 ほう、軽く息を吐いて、肩の力を抜く。 なんとなくわかっていたが、彼には女性経験があるわけではないらしい。初めて会ったときの威勢のいい態度は、ああするのがメスを口説くときの山でのやりかただったからのようだ。強気で生意気な態度はハリボテで、こちらから攻めてやれば年相応の可愛らしい反応を見せてくれる。 再び、静寂が下りる。りんりん、虫ポケモンたちの合唱が響き続ける。風がさやかに吹いて、月光をいっぱいに浴びる草花を揺らした。 「ふひひっ。くすぐったいよ」 おなかの上にある彼の体に手を回す。胸に手を当てると、緊張のせいか、心臓が少しだけ早く拍動しているのがわかる。肺が呼吸に合わせて周期的に膨らむのも。彼がくすぐったそうに身をよじるから、それ以上は動かさずにおいてやった。 そうしながらも、視線は上を向いていた。ぽつり、独り言のようにつぶやく。 「きれいだな、月」 「……うん。ケイトと見てるからね」 ──あぁ、そうか。 たった一言、その言葉で、こんがらがっていた感情がするりと&ruby(ほど){解};けていた。どれだけ考えても出なかった答えが、壁の向こうを透視するみたいに簡単にわかってしまった。 ウルスと見るから──好きなひとと見るから、こんなにも綺麗なんだ。 「それに、真っ暗な夜空に浮かぶお月様って、ちょうど&ruby(・・・・・){ケイトの色};だもん。そりゃきれいだよ」 「それに、真っ暗な夜空に浮かぶお月様って、ちょうど&ruby(・){ケ};&ruby(・){イ};&ruby(・){ト};&ruby(・){の};&ruby(・){色};だもん。そりゃきれいだよ」 はっと、息を呑んだ。 ウルスにとってはなんでもない言葉だったんだろう。だけど、私にとってはそうじゃなかった。忘れようとしていた過去を、私に思い知らせた。 このまま、雰囲気に身を委ねたい気持ちもあった。私の弱さが、そう囁いていた。 だけど、それじゃだめだ。彼は今までずっと、隠すことなく自分をさらけ出してくれていたではないか。ならば、私の方も、そうするべきだ。 「……私の色は、きれいか」 「うん。俺の水色なんかより、ずっと」 「そんなことを言ってくれるやつは、お前だけだよ」 ウルスの体を、ぎゅうっと抱き寄せる。彼の長い耳だけに届くささやきで、ずっと隠してきた秘密を、私は打ち明けた。 「私たちの……レントラーの体は、本当はこんな色じゃないんだ」 彼が眉をひそめ、首をかしげる。私は補足した。 「さっきのポケモン──ルクシオっていうんだが。あれが、私の進化前だ」 「え……? それじゃ……」 私は彼を抱きしめたまま、沈黙する。ギロチンの刃が落ちてくるのを待った。彼が、私の言葉の意味を理解してくれるのを待った。 三たび、静寂。怒濤のように拍打つ心臓がドキドキとうるさくて、いまはもう、虫ポケモンたちの鳴き声も聞こえない。怖くて閉じてしまった目では透視もできず、彼の様子もわからない。 彼は何を言うのだろう。私を慰める言葉か、突き放す言葉か。救う言葉か、殺す言葉か。 たっぷり時間をかけて、彼は返事を紡いだ。 「……俺の生まれ育ったところ、何もないんだ。見渡す限り雪と氷ばかりでさ」 予想していたどの言葉とも違っていたから、私は面食らってしまった。 彼の故郷は知っている。彼をご主人が捕まえたとき、私も一緒に旅をしていたからだ。ナッペ山。パルデア最高峰も抱える、雪に覆われた厳しい土地。 長い毛に覆われた私は寒さに強かったから、よくバトルに出されたのを覚えている。タイプ的に氷に有利なのはセルージだけど、彼の鎧はすぐ冷え切ってしまうから戦うのを嫌がったのだ。 「俺の種族、生まれた頃は茶色い毛がたくさん生えてるんだ。だけど俺、物心ついたときにはこの姿になってた。毛皮程度じゃ寒さを防ぎきれないから、生まれてすぐに氷の石に触らせて進化させるんだって」 聞いたことがある。彼の種族は、様々な環境に適応できる性質を持って生まれるのだと。生まれたままの姿では生きていけないとなれば、確かにすぐさま極寒の環境に適応した姿にしてしまうのは理にかなっている。 私ほど毛が長くても、あそこの寒さはなかなかに応えた。まだ幼く体温調節も難しいイーブイならなおさらだろう。 「んで、さ。俺の妹も普通じゃない色してたんだ」 かなり昔のことだけどね、と彼は前置きした。 零下数十度のブリザードは、グレイシアの体をもってしても耐え忍ぶのが難しい。空気が取り入れられる限界まで入り口を狭めた狭苦しい洞窟の中、身を寄せ合って彼らは春の訪れを待ちわびていた。そんな中、幼いウルスは、親たちの産んだいくつかの卵を、じっと見つめていた。誰も触っていないのにぐらぐらと揺れている。親に理由を聞くと、もうすぐ生まれるんだよ、と言われた。卵が揺れるたびに、彼も体を揺らしながら、そのときを今か今かと待っていた。 激しく&ruby(ふぶ){吹雪};いていた天気が凪いで、雲間から日差しが差した。ちょうど朝だったから、天までつながる光の柱が、緩く傾斜している洞窟の奥まで届いた。 そのとき、卵にひびが入って、一斉に弟妹たちが飛び出してきたのだ。その一匹が、朝日に照らされて銀色に輝いていた。 「親も驚いてたよ。一緒に生まれた弟たちみたいに、茶色の毛をしてるのが普通なんだって教えてくれた。気味悪がって、誰も彼女に近寄ろうとしなかった。 だけどさ、俺はわくわくしてたんだ。父さんたちが怖がる理由がわかんなかった。今でさえこんなにきれいなんだから、進化したらもっと別嬪さんになるに違いないって。冷たい色に囲まれてずっと生きてきた俺に、別の彩りを見せてくれてるんじゃないかって。勝手な話だけどさ」 晴れ間が見えたのは一瞬で、また強く雪が吹き始めた。産卵の時期は寒さの厳しい季節を避けていたのだが、その年は冬将軍がしつこく居座っていた。 生まれてすぐの彼らだが、早急に寒さに適応させる必要があった。洞窟の奥、群れの神棚に安置されている大氷石に運ばれていった。親の背中に乗せられて、右も左もわからない彼らが、次々にその石に触れていく。妹はウルスが運んでやったという。 弟たちに続いて、彼女が光に包まれ、それが消えたとき。ウルスは唖然とした。 妹の毛並みは、自分たちとほとんど変わらない、氷の色に染まってしまっていた。 「親たちは安心してたよ。変な色に生まれても、やっぱりグレイシアの仔はグレイシアなんだって。まだほんの少しだけ色は違ったけど、あいつもきょうだいと同じになれて嬉しそうだった。 少ししたら、イーブイのころに白かったことなんてみんな忘れちゃって……。結局、喜んでたのもがっかりしたのも、俺だけだったってわけ」 ぽす。私の胸に頭を預け、彼は自嘲げに笑った。 ある日、彼は妹と二人っきりになったタイミングで聞いてみたのだという。自分が&ruby(アルビノ){白子};だったことを覚えているかと。 おまえは特別だったんだ、今でもそのはずなんだと言いつのるウルスを、気の強い彼女は突っぱねた。 「お兄ちゃんの理想をあたしに重ねるのはやめて、だってさ。ま、そりゃそうだよな。俺がどう思ってようが、あいつには知ったこっちゃない。俺は、自分のほしいもんが都合よく降ってこないかって願ってるだけだった」 洞窟の中で吹雪が止むのを&ruby(じ){凝};っと待っているのと同じ、消極的な生き方。それが嫌になった彼は、次の春に洞窟を飛び出した。 「なんでもいい。与えられるんじゃなくて、自分で選んだものをつかみ取りたかった。思いついたことは何でも試した。みんなで仲良く冒険してるのが楽しそうだったから、ご主人の前にも飛び出したし、ケイト、あんたにも勝負を挑んだ」 ごろりと、彼が体を反転させる。私の目を、彼の吸い込まれそうなほど濃い紺の瞳が、伏し目がちにじっと見つめる。 「ごめん。なんか、うまくまとまんなかったな……」 「……いいや。聞けてよかった」 申し訳なさそうにするウルスの頬をなでる。気持ちよさそうに目を細めている。 彼の話を聞いて、私は決心がついた。 「私は、ずっと自分の姿が嫌いだった。故郷じゃひどくいじめられたし、人間だって、いきなりポケモンをけしかけてくるかボールを投げてくるか。コリンクの私に目線を合わせて話しかけてくれたのはご主人くらいなもんさ。 ご主人と一緒に旅をするようになってからもそう。色を気にするようなやつはいなくなったけど、それでも、同族と出会うのがいつも怖かった。この皮を剥けば、その下にはきれいな青色が眠ってるんじゃないかと思って、体を傷つけてみたりもした。だけど、そんなものはどこにもなかった」 「……ケイト」 彼が顔をくしゃりとゆがめる。さっきのルクシオに私が言われた言葉の意味を理解したのだろう。 「お、おれ、ケイトに謝らなきゃいけないことがある……」 「なんだ」 「あのルクシオにやられちゃったのって、その……誘ってきたから、なんだ……」 「はぁ⁉」 「ほんとに、ごめんなさい……」 いつも快活な彼なのに、申し訳なさのあまりかもごもごと聞き取りづらい。だが彼のいわんとすることはなんとなくわかった。 要するに、近づかれるまで気づいていなかったわけではなく、近づくのを許してしまったと、そういうわけだ。しかもあいつの色気に当てられて。 「…………ふうん」 感情を乗せず、できるかぎり平板な声を出したつもりだったが、思った以上に不機嫌な声色だった。さっきまでは彼が無事ならそれでいいと思えていたはずなのに。自分の心持ちも制御できずに、彼に苛立ちをぶつけてしまう。 「そうかそうか。お前、ああいうメスが好きだったんだな」 「いや、その……言い訳になっちゃう、けど、あの子ケイトに似た雰囲気がしてて……ケイト誘ってみたのに来なくて、寂しかったから……」 「ほんとに言い訳だな……って、誘った?」 そういえば。バトルの後に満月がなんとかもごもご言っていた気がする。 「私を誘おうとしてたのか……すまん、聞こえてなかった」 「うう、そうだよな……アークの兄貴に教えてもらったんだけど、こういうロマンチックなの慣れてなくて……」 うじうじと下を向いている彼が見ていられなくて、私の方から彼のほっぺたをつかんで上を向かせる。 「無理するな。アークは相手が人間のご主人だったから、ああいうふうに口説いてただけだ。お前の得意なやり方じゃないだろう」 「で、でも……普通にやっても、俺じゃずっと振り向いてもらえなくて……」 「それは悪かったと思ってる、でもな……」 どうやって伝えよう。自分のことを責めたりなんてしなくていいということを。理想の自分になろうと無理する必要などないのだということを。だけど、そうやって夢を見て、理想を描いて、努力してしまう彼のひたむきな姿も、嫌いではないということを。 ロマンチックな言い方はいくつも思いついた。だけど結局、私は最もシンプルな言葉に頼ることにした。 「ウルス。おまえ、私の男になれよ」 「…………はぇ?」 話のつながりが見えなかったのか、彼が目を見開いた。だけど、まとまりのなかった彼の昔話も、その後の会話も、私の行動も。私にとっては全部つながってる。 「おまえのことが好きだ。おまえの透き通るような水色も、輝くような笑顔も、歩くたびに揺れるおさげも。ちょっと口が悪いところも、お調子者なところもひっくるめて愛してる」 「や、あの、えっと……?」 動揺して耳をぴょこぴょことせわしなく動かすウルス。だが、同時に尻尾もぶんぶん振り回されているのを、私は見逃さなかった。 「欲しいものは自分からつかみ取る。そうだよな?」 体を起こし、その勢いで彼を地面に押し倒す。両肩に前足を乗せれば、体格差で彼はもう動けない。 心の準備ができていなかったのか、ウルスは呆けた顔のまま泣き出しそうになっている。気の強い彼が、まだ見せたことのない表情。きっと、私だけしか見られない表情。私の中の意地悪な部分が、そんな顔をもっと見たいとささやいた。 「かまわないよな? まだおまえは私に勝ってないんだから、『力尽くで私のものに』しても」 「や、まっ……⁉ ん、あっ、や……」 彼の言葉を待たず、かみつくようにキスをした。あむ、あむっと、唇を食むようにして、時々舌先でくすぐってやる。恥ずかしさのせいか、彼のあげる声はすごく小さい。それでも少しだけ息がかかる。 満足するまでたっぷりとふれ合ってから、唇を離した。ウルスは、熱い息を小さく吐きながら、目尻に涙を浮かべている。 「もっとしよう」 「ん……」 再び唇を押しつけるが、さっき散々蹂躙されたからか、ウルスはきつく唇を閉じてしまった。 だが、別にそこだけを攻める必要はない。私は彼のうなじに顔を近づけると、口を開け、今度は本当にかみついた。 「ひゃうっ⁉」 もちろん、バトルの時よりもずっと甘噛みだが、皮膚の薄い首筋には十分すぎるほどの威力になった。 「あ、ん、は、っつ……っふあぁっ⁉」 口を押し当てたまま、毛繕いするように何度も何度もなめていく。時々、アクセントとして肌に傷をつけてしまわない程度に歯を押し当ててやれば、切なげな声を上げて身をよじる。喉仏はまだ小さくて、彼が成長途上であることを感じさせた。 じっくりと時間をかけながら、愛撫する場所を少しずつ変えていく。 「はんっ、だ、にゃあぁ……」 胸元。肋骨のゴツゴツとした感触を、一本一本楽しみながら、ゆっくり下っていく。肩から手を離してやるが、彼は頭を起こしてこちらを見るだけで、逃げだそうとはしなかった。本気で嫌がってはいない。 「は、はうう、もう、いいだろお……?」 それを過ぎると、今度はおなか。筋肉の柔らかで暖かい感触。バトルとサッカーをして過ごしたあと、横着なこいつはそのまま寝たのだろう。少し汗の香りが残る乱れた毛並みを、整えるように舌で撫でつける。 「いい゙っ⁉」 ちいさな突起に舌先が触れたと思った途端、彼が電撃でも食らったみたいに背中を反らせた。ぐに、腹を押しつけられた頬にさらにいくつもの突起を感じる。 これは……。 「……ふふっ。敏感、なんだな」 「やだ、もう触るなって……!」 さすがに焦ったのか、両手でぐいぐいと私の頭を押しのけようとしてくる。いつも元気に走り回っているだけあって、力はかなり強い。でも。 「邪魔だ」 「あでっ……」 電磁波を放つ。痛みは与えず、行動の自由だけを奪う。深く麻痺してしまった体から力が抜け、こてんと草むらに転がった。この至近距離では、彼が私に勝つ方法などない。 「観念しろ。もう逃がさないからな」 彼の腹に目をこらしてみる。ほかの部分より柔らかくなっている、まるで綿毛のような毛皮の下に、真っ赤に充血しているかわいらしいものが並んでいるのが見て取れた。 両手で彼の体を固定し、狙いを定めると、今度こそ&ruby(・・・・・){毛づくろい};を始める。 両手で彼の体を固定し、狙いを定めると、今度こそ&ruby(・){毛};&ruby(・){づ};&ruby(・){く};&ruby(・){ろ};&ruby(・){い};を始める。 「ふうー、ふゔー……」 時々視線をあげて、彼の表情を観察する。羞恥と快楽の板挟みになって涙をこぼす顔。逃げ出したり、それができずとも抵抗したりしたいだろう。だが、麻痺したからだがどうなるかは私もよく知っている。声を出したり頭を動かすくらいしかできない彼は、無防備な体をまさぐられ続けながら、歯を食いしばって声を出すまいと必死にこらえている。 「くそ、こんなのでっ……っひあっ‼」 彼が何か言おうと口を開いたタイミングでぢゅうっと吸い付いてやると、面白いようにうまくいった。腹にピクンと力が入って、彼が明確に甘い声を上げる。まだ声変わりも終わっていない彼の嬌声が、その背徳でもって私の首筋をさざめかせる。 「大丈夫。恥ずかしいことなんかじゃないさ。私に任せておけ……」 陰圧で膨らみ、敏感になったそこを、ぴちゃぴちゃとわざと音を立てるようにして嘗め回す。 「はひっ、や……あっ、っくうん……くフうう……くるる……」 快楽に反応してしまう羞恥も、一度経験させられればいくらか軽減されたらしい。おとなしく力を抜いて、開いた口から幸せそうにとろけた声を漏らしたり、喉を鳴らしたり。耳に心地よく響く彼の声を、心ゆくまで堪能した。 「お、ねがい……も、いいからあ……」 真っ赤に染まった頬。涙をたたえた目で懇願されて、私は名残惜しみながら顔を離した。 見下ろすと、彼のおなかは、毛繕いを通り越した私の愛撫に濡れそぼり、ほかの部分より明らかに色が濃くなっていた。すっかり倒れてしまった体毛の間には、月の光に照らされて、真っ赤に腫れ上がった乳頭がはっきりと見て取れた。 彼が泣きついてきたのも無理はない。先ほどから胸元に感じていた熱い感触を、私は意図的に無視してきた。体を起こしたときには、にちり、液体が胸から糸を引く感覚もあった。当然彼がしてほしいことなんてわかりきっていたけれど、決定的な言葉はウルスの口から直接聞き出したくて、しつこく、ねちっこく、嘗め続けていた。 「なにが、もういいんだ?」 きっと私は、ものすごく意地悪な顔をしているのだろう。対戦相手に仕掛けた引っかけがうまくいったときのセルージみたいに。この前戦った、校長の手持ちの仮面猫みたいに。普段の私なら恥ずかしくてできない、大胆な言葉を彼にかける。 「何してほしい? 言ってくれないとわからないな」 再び視線を下ろす。今度は、さらに下に。すらりと伸びた剣先から先走りを垂らしているそれは真っ赤に充血し、根元には大きなこぶも二つほどある。 フッと、息を吹きかけてやる。 「ひィあっ……!」 前足の肉球で触れてみる。できる限り優しく、幼子に触るように、先端を、側面を、なでてやる。 「は、にゃアッ……⁉」 「なあ。聞かせてほしいな。おまえの口から。でないと、いつまでもこのまんまだぞ?」 だけど、そこで彼は黙りこくってしまい、返事をしてくれなかった。私は別の場所から攻めることにした。 「なあ、ウルス。おまえ、初めてなのか?」 「……うっさい」 やっぱりそうか。まだ恥ずかしさを捨て切れていない、いじらしい彼の姿に母性をくすぐられた私は、気がつけば普段では考えられないような行動に出ていた。 「へ、ケイト、何して……⁉」 体を反転させると、彼を前後反対にまたぐような姿勢になる。当然、私の後ろ足の間は、彼の眼前にさらされる。 股の間をのぞき込むようにして、彼の顔をうかがう。彼は大きな目を見開いて、私のそこに釘付けになっていた。その熱視線がこそばゆく感じて、おなかの奥がうずく。彼の目から放たれるのは冷凍ビームのはずなのに。 「ほら、見ろよ……おまえのを見てたら、私もこんなになってしまって……」 初めてなら、メスのここがどういう風になっているかも知らないはずだ。足を広げ、しっかりと見えるようにしてやる。触ってもいないのに、すでにじっとりと濡れたそこを、彼に見せつけ、匂いすらも嗅がせるように目の前に突き出す。 私の豹変に驚いたせいもあるのだろう、彼は絶句したまま。だけど、視線だけはずっとそらさずにいる。 「こっちは正直だな」 再び、彼の欲望に目をやる。その姿に、つい感想がこぼれた。自分で聞いても驚くくらい、うれしさを隠し切れていない声で。 彼のそれはどんどんと大きくなり、私の種族のものと比べても遜色ないくらいになっていた。年齢と体格を考えば相当なものだ。びく、びくり、彼の心臓が拍動するたびに震えるそれを突っ込まれれば、私もきっと陥落してしまうのだろう。さっきまでの彼と同じように恥ずかしいよがり声を上げて、彼とともに二匹の獣になってしまうのだろう。でも、それこそが私の望みだった。ごくり、熱い唾液を飲み込んだ。 「なあ、こんなにおっきくして、辛いだろう……? 口に出して言ってくれれば、おまえのためなら何だってしてやるんだぞ」 彼からの言質にこだわるのは、ただの意地悪ではない。いや、それもあるのだが、それだけではない。私が彼に欲情しているように、彼も私を求めてくれていることの証拠がほしかった。 「い、いれたい……」 「なにを。どこに、いれたいんだ?」 すこし、間があって。彼も決断したのか、絞り出すような声で。 「け……ケイトのここに、俺のちんちん、いれたいっ……!」 ぞくぞくぞくぞくっ。 達成感と多幸感が電流となって脊髄をほとばしる。大好きな彼を屈服させた征服感と背徳感で脳髄がびりびりとしびれた。 「……ふふ。それじゃあ、お望み通り……」 私は再び彼の方へと向き直る。腰を下ろす。熱い雄槍が秘所に触れた瞬間、ぴりりと走った甘い感覚で腰が引けてしまう。ふたたび、恐る恐る足を曲げて、今度はさらに慎重に、息を深く吐きながら触れさせる。腰をゆっくり前後させる。ずり、ずりゅ、ずり。何度も何度も、これからすることの予行演習をするみたいに。まだ本番は始まってもいないのに、ウルスは息を荒くしてつらそうにしている。もどかしい快感につい逸ってしまいそうになるが、ふう、ふうう、と食いしばった歯の間から息を吐きながら我慢する。彼のおちんちんを刺激に慣れさせていくつもりで、優しくじっくりと。 彼の表情を、もう一度まじまじと見てみる。期待と劣情が混じった目で、私の下半身をじっと見ていた。それを見られていたのに気がついて、恥ずかしそうに目をそらした。 ──ああ、まずい。 そんなことされたら、優しくできそうにない。彼の初めてを、純粋な幸せ色の時間にしてあげたかったのに、意地悪したくてたまらなくなってしまう。 くちゅ、くちっ。お尻の位置を動かして狙いを定める。あとはもう足の力を抜けば&ruby(はい){挿入};ってしまうだろう。彼が期待に満ちた視線で、こっそりちらちらとそれを伺っている。 そのかわいらしい顔を視界に収めたまま、ゆっくりと腰を下ろした。 「は、うううゔっ……!」 「んんっ……」 秘所をこじ開けられる、久々の感覚。挿入される肉茎によって、おなかにこもった熱が奥の方へと圧縮されていくような。ぎぷ、ぎゅぷ、反射的に力が入って、彼のそこをきつく締め上げる。だけど、私が散々煽り立てた彼の劣情がいっぱいに詰まったそれはびくともせずに、むしろ私の柔肉のほうがその感触に酔いしれた。 濡れそぼっていた膣肉が、一番奥まで貫かれた。根元の太くなっているところに、私の入り口が軽く触れる。それと同時に、おなかの一番奥を細くとがった先端が撫でて、ひゃう、と声を漏らしてしまった。鈍い快楽が熱となって広がる。 「ふ、うううっ……!」 体から力が抜けて、とさり、崩れ落ちるように体を前に倒し、ウルスの顔を間近で見つめる。初めての体験に紅潮したほっぺた。快楽に飲み込まれそうになりながらも、私のことをじっと見つめてくる瞳。何もかも愛おしくて、両手で彼の顔を捉える。 「好きだ、ウルス……愛してる……」 「ケイ、トっ……俺も、俺も好きぃ……!」 愛しさがあふれて、制御が効かなくなる。ウルスの顔を、べろべろと乱暴になめ回すと、彼も負けじと、精一杯ベロを伸ばしてきた。私の半分くらいしかないその肉舌が無防備に差し出されたから、むさぼるように激しくキスした。ぢゅうぢゅうと吸い付き、舌を絡ませ、歯でなぞり、自分の唾液が彼の口にだらだらとはしたなく垂れていても気にすることなく。 少しずつ腰を持ち上げる。下の口からもたっぷりとよだれを垂らしてしまっていたようで、にちゃり、粘性の水音が響く。さっきからずっと、私の方もおあずけを食らって、我慢の限界だった。びりびり甘い感覚が広がって、抜けてしまいそうになる腰を叱咤する。もう一度腰を下ろすと、今度こそ真っ白なスパークが視界に広がった。 「っん゙、んっ……」 たったひと擦りで、イっていた。 だけど動くのはやめない。にぢにぢと締め上げながらも、たん、たんっ、子種がほしくて降りてきた敏感な最奥を、そのたび押し返すかのごとく無我夢中で腰を振り下ろす。亀頭球を入り口に打ち付けられる。彼の肉棒が怒張して、限界を超えて熱く、大きくなるのを赤ちゃんの部屋で感じる。 「いっ……⁉ け、えと、だ、っひ、いぐ、いっちゃゔう……!」 情けない声を上げながら、びゅるるるううっ! と、煮えたぎった彼の情欲が大量に吐き出される。それを感じた途端、腰が勝手に折れ曲がり、彼の白濁を子宮の入り口で受け止めていた。暖かい精液を子宮口にかけられるたび、イきっぱなしになった膣内の甘肉がじんじんとした感覚を発する。どくん、どくん、何度も震えながら注ぎ込まれ続ける熱を感じながら、彼の顔に、額に、耳に、がむしゃらにキスを落とす。 「い、ひっああ……♡」 すっかりグロッキーになって、目の焦点も合わないままに快楽に溺れているグレイシアに見蕩れる。私のほうも腰が抜けて動けなくなってしまっていたから、おなかを密着させあったまま私たちはずっと抱き合っていた。どちらからともなく、キスをした。舌を絡ませ、お互いの口を封じて、息が苦しくなって、それすらも気持ちよくて、私はまたイった。体がびくりと震えて、毛皮にまとわりついていた性交臭が空気に揺れる。 どれくらい経っただろう。お月様だけが見ている透き通った夜の下、彼のほっぺたに顔をすり寄せて、気持ちよくまどろんでいたら。 「……なあ、ケイト」 「どうした……」 彼の声が聞こえてきて、耳がじんわりと温かくなる。ぼうっとしながら返事をする。 私の頭が、彼の両手に捕まれた。 「今度は、俺がしてあげるね」 「へっ?」 予想していなかった言葉が飛び出してきて、目を見開いた。 ふんっ、と小さく力むと、彼が四本の足で私の体を持ち上げた。そのまま横に転がされる。 「な、なにをするっ」 「もう動けないんだろ。わかってるよ。俺のこといじめるのに夢中になりすぎたな」 言われたとおりだった。四本の足をおっぴろげて、私は地面に倒れたまま。起き上がろうにも全身がだるくて、手足を少々動かすのが精一杯。ウルスがのしのしと私の上に乗り上げてくるのを見ていることしかできない。 「おまっ、何で麻痺治ってるんだ!」 「へっ。あれだけ毎日毎日感電させられてたら、いい加減耐性もつくっての」 そういいながら私の上に乗った彼。わざわざ私をひっくり返して、何をしようとしているのかは明白だった。 股の間の肉棒を、彼が私に見せつけてくる。私に文字通りマウンティングしていることで興奮しているのか、彼のそれはすっかり元気を取り戻していた。愛液と精液でコーティングされ、月明かりの下でてらてらと光っていた。むわりと鼻につく精臭で、性懲りもなく子宮がうずいた。 「い゙っ……だ、はんっ……」 ずり、ぐちゅっ。ペニスが恥丘にこすりつけられる。クリトリスを押しつぶされて、強烈な刺激に思わず声が漏れてしまう。さっきと同じ動きだけど、今度は彼が動いていて私はされるがまま、制御できない。快感が予測できない。それだけでこんなに違うだなんて。 「ひひ、なんだ。かわいい声だせんじゃん」 「う、っさい……! とっとと、いれ、ひぁああ⁉」 ずにゅうう、何の断りもなく、躊躇なく突き入れられる。最初に入れたときよりも解れていたから痛みはなかったけど、叩き込まれる快感はむしろずっと大きかった。 「はっ、お、まえっ! いきなりいれるやつがあるかっ……」 「うっさいな! 気持ちいいんだろう、がっ!」 「はううっ……♡」 ったん、腰を打ち付けられただけで、息が詰まって文句も言えなくされる。制御できなくなった電気を体から地面へと垂れ流しながら、私は背骨を反り返らせてあえいだ。抵抗したい。なのにできない。 「い、っく……! だ、も、い゙ってる……! これ、いじょ、きづ……!」 「なんだよ、やめてほしいのか⁉ どうなんだっ!」 「やぁ、やめ、ないでっ……」 違う。私は、彼にこうされて、悦んでいる。ずっと、こうやって組み伏せられたかったんだ。彼を厳しく育てていたのも、でも突き放さずに師匠と弟子としての関係をつかず離れず続けていたのも、全部こうされたかったからだ。私の殻を、トラウマを突き破って、その中にある膿んでしまった心の傷を、めちゃくちゃにしてほしかった。 「もっとっ、してくれっ……私を、おまえので、いっぱいにしてくれっ……!」 にやり、ウルスが笑うと、返事の代わりに彼が体に力を込めた。ぐっ、押し広げるように力強く圧迫される。大きく息を吐いて、意識して腹から力を抜くと、ぐ、っぽ、亀頭球が完全に膣内に入った。入り口を強く拡げられて、本能が子作りしていることを理解して、際限なく興奮が高まっていく。 私のおなかに抱きつくようにして、彼が自分の体を固定した。胸の下あたりに、彼の顔が押しつけられて、そのままふすふすと呼吸をされるのがくすぐったい。そういえば、こいつ私の匂いが好きだとかいっていたっけ。途端に恥ずかしさが沸いてくるが、彼が、地面につけた後ろ足に力を込めてピストン運動を始めたから、そんな感情も吹き飛んでしまった。亀頭球が&ruby(はい){挿入};ったままだから、彼が腰を下げるたびに、私のおなかも引っ張り出されそうになり、涙が出そうなほど気持ちいい。その直後に逆に押し込められるたび、腹の底から大きな声を出して啼いてしまう。 「あ、いっ、そこ、い゙っ……っぐっ……! は、はひ、もっと、もっとお……♡」 「すき、すきだ、ケイトッ。 いつもの凜々しい姿も好きだし、こうやって俺の下で可愛く喘いでるのも全部好きだっ……」 どちゅどちゅどちゅどちゅっ♡ 彼の腰の動きが限界まで激しくなる。自我が吹き飛ばされて、彼のことしか考えられない新しい自分に作り替えられてしまうような、めちゃくちゃな快楽。 「あ、たしもっ♡ あたしの、ほうがっ、すきだからっ……♡」 どちゅどちゅどちゅどちゅっ♡ 彼の腰の動きが限界まで激しくなる。自我が吹き飛ばされて、彼のことしか考えられない新しい自分に作り替えられてしまうような、めちゃくちゃな快楽。 「あ、たしもっ♡ あたしの、ほうがっ、すきだからっ……♡」 いうことを聞かない体を無理矢理引き起こして、彼の体をぎゅうっと抱きかかえた。後ろ足も、絶対に逃がさないとばかりに彼のお尻に回し。 「は、イ゙っ♡ っぐぅっ……♡♡」 「は、イ゙っ♡ っぐぅっ……♡♡」 全力で抱きしめながら、一番深く絶頂した。何度も何度も小突かれ続けていた子宮口が今一度押しつぶされて、これまで与えられてきた快感を全部ひっくるめたかのような幸せが爆発して、脳がとろけ、胸の中にいる彼のことしか考えられなくなる。びゅるびゅると吐き出される精液が、おなかの奥の方まで満たされ広がっていくのを感じて、あ、これタマゴできたな、と&ruby(わけ){理由};もわからず確信した。 「……はあっ、はあっ、はあーっ……♡」 筋肉が本当に限界を迎えるまで、彼を抱きしめ続けていた。絶頂の余韻が引くにつれて、少しずつ脱力する。彼の体を解放し、地面にべったりと仰向けになる。ウルスも、おちんちんをぴくぴくと震わせているだけで、私のおなかに突っ伏したまま動かない。今度こそ、私たちどちらともみじんも動けなかった。体力を使い果たして瀕死だけど、バトルを正々堂々戦い抜いたかのような達成感があった。 おもむろに目を開く。星々の青白い光がちりばめられた夜空の中、まん丸の月が、変わらず私たちを見下ろしていた。 夜空が白んできた頃。ご主人も、ほかのメンバーも、みんなぐっすり眠っているキャンプ地に、私たちはこっそり帰ってきた。ウルスが私の背中の上に乗って。だけど、それは彼が動けなかったからじゃない。 「よいしょ、と……」 背中の上で、彼は一抱えほどもあるそれを大事に持ってくれていた。テーブルのそばにあるカゴにそれを入れる。私たちでこっそり育てることもできはしたが、ご主人にも知っておいてもらった方がいいと思った。それに、ポケモンの卵は人間が持ち運んで温めてやることで発育が良くなるという。二人で話し合って、こちらのほうがいいだろうと決めた。 落としてしまわないよう慎重に運んできたから、また少し疲れてしまった。結局、この一晩ほとんど寝られていないから、へとへとだ。地面に腰を下ろし、目を細める。 「どっちの子が生まれるのかなぁ」 「知らないのか。異種間の子供は、基本的に母方の種族になる」 「あ、そうなんだ。俺のとこ、グレイシアしかいなかったから……」 言われてみればそうだ。親がどちらもグレイシアなら、子はイーブイだけ。当然の理屈か。 「てことは、ケイトみたいな子が生まれるのかな」 「色素異常は遺伝しない。多分、おまえと同じ、水色の子だよ」 「ふうん」 興味なさそうにいうから、私はさすがに心配になる。 「なんだ、水色はいやか。私はずっと水色に憧れてたっていうのに、贅沢なやつだな」空を見上げ、私は励ますようにいった。「見ろ。おまえの色だ」 「あ、ううん。もう、いやなわけじゃない」 ぴょん、と軽快に飛び上がると、彼は私の背中に乗った。いつもの定位置。 「ケイトが好きっていってくれたから。俺も好きになってみようと思うんだ」 「……そうか」 月は沈み、日が昇り始めていた。夜は終わりだ。またいつもの朝が来る。 &ref(4534A89C-8B07-42FF-BE76-ADACC80816CE.jpeg);