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時渡りの英雄第8話:とりあえず、奴らを殺す!!・後編 の変更点


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**109:リンゴの森へ [#c5ae8f72]
**109:リンゴの森へ [#m231a6a9]


 ドクローズが仲間になってから四日後――

 順調に仕事を終えて戻って来た二人はギルドの部屋で一夜を明かし、そして迎えた翌日の日。
「三つ!! みんな笑顔で明るいギルド!!」
 なんだかんだでみんなも匂いにある程度慣れてしまった頃の事、いつものように朝礼を終えた二人に待っているのは、通常はギルドの業務かオフの日で、予定もオフの予定であったのだが。
「ああ、お前達……今日はちょっとオフの所悪いんだが……食料を調達してきて欲しいんだ」
 気まずそうな前置きからチャットはアグニ達へ頼みごと。
「しょくりょう……って食べ物のことだよね? 買い物でしてくるの?」
「いや、それがなぁ……買い物じゃ手に入らない代物でな。今朝、倉庫を見たらギルドの食料が、ごっそり無くなっていたんだ……セカイイチって言う高級品のリンゴでね」
「あぁ、親方がいつも食べている……確か、前に手繋ぎ祭りの数日後くらいだっけか……ラウドが取りに行かされていたよね」
「そう、良く覚えているね。ミツヤ。加えて、見ての通り親方様の大好物で……セカイイチがないと親方様は……親方様は…………………………」
 チャットは閉口して顔を落としてしまう。それほど恐ろしいということなのだが、黙っていては二人には伝わらない。
「ん? セカイイチがないとソレイス親方はどうなっちゃうの?」
 痺れを切らしてアグニが尋ねると、チャットは俯かせていた顔を上げる。
「お、親方様は…………………………………………………………なのだ」
「と、とにかくとんでもない事になると思えば間違いないんだね」
「ま、まあな……」
 伝わったような伝わっていないような。アグニとのよくわからない会話が終わって、チャットは息をつく。
「だから頼む。セカイイチを取って来てくれ」
「もう……全然わからないよう……気になるなぁ。まぁ、仕方ない……じゃあ、オイラ達に任せて」
「ただし、給料はきちんと出してよね?」
 きっちりと出すものを出すように要求して、シデンもしぶしぶながら休日出勤を承諾する。
「うん、ありがとう。セカイイチはリンゴの森というダンジョンの台風の目にある、ひときわ大きな大木だ。だがいいかい、これは簡単なようだが大事な仕事だ」
 そう言って、チャットはまた言葉を詰まらせる。
「なにしろ、親方様の………………………………………………うわぁぁぁぁぁ!! だめ、ダメ!! そんな事になったら絶対駄目!! だから、しっかり頼むぞ!!」
「な、何があったの……本当に?」
「何が起こったか分からなかった……けれど、その時皆が倒れていた事だけは覚えていて……」
 そう言い残してチャットは口を噤む。
「そ、そう……そう言うことなら、もう詳しく聞かない事にするけれど……あーもう、何でもいいや。ミツヤ、頑張ろう」
「分かった。とりあえず頑張ろう。頑張ってなるべくすぐ帰ろう」
「いや、本当にごめんね。休みの日程はずらしておくからさ……一応、大変だとは思うけれど明日までには帰って来て欲しいんだ」
「はい、かしこまりました……それじゃ頑張ろう、ミツヤ」
「うん、早いうちにいこいこ」
 二人は部屋に戻り、ダンジョンへと出かける準備へと向かう。リンゴの森と言えば比較的近場のダンジョンではあるが、一般人が入って無事でいるのは厳しいダンジョンだ。何かがあった時のためにも、それなりの準備は必要だ。
 そのディスカベラーの二人が準備している間、何やら不穏な気配と悪臭の漂う三人が。

「ケッ、アイツら食料を取ってくるみたいだぜ」
 悪臭の発生源第一号のドガースことガラン。
「昨日俺様達が食べちまったせいで、とんだとばっちりだな。ククククッ」
 下品な笑みを浮かべて、悪臭の発生源第二号のスカタンク事、インドールは笑う。
「へへっ、少しちょっかい出してやるか」
 最後にコーダがにやりと笑って、三人は意見が合致した。誰かを不幸に陥れることこそ、この者達には生きる糧であった。

 ◇

 リンゴの森のそばにある街にたどり着いた二人は、まず始めにその圧倒される程のリンゴジャムの甘いく香り高い芳香に息を飲んだ。匂いを嗅ぐだけでお腹のすいてくるような強烈な甘さ。しかし、ただの下品な甘い匂いではなく、酸味のほのかに混ざる上品な甘い香り。
 リンゴだけで醸し出される香りではなく、これは蜂蜜の香りも混ざっていた。
 温泉で出会ったヒメグマが言う養蜂の森という場所程ではないが、ダンジョンの周囲やダンジョンの中心部、台風の目となる場所ではリンゴの受粉のために養蜂も盛んに行われ、ほのかにリンゴの面影を残した香りがする蜂蜜は周囲ではとても人気である。
 ジャムだけでなく、蜂蜜にも残るリンゴの香りが甘ったるく嫌らしくないこの街の香りを作っているのだ。

 一日三分の一近くの時間を歩いて料理を楽しむだけでは少々割に合わないが、乳を発酵させた真っ白なヨーグルトに林檎の蜂蜜漬けをトロリとかけた甘味は一口食べるだけでも元気が出ると非常に評判も高い。
 その他、ヨーグルトで柔らかくした肉を、すりおろしたリンゴの甘いソースと一緒に焼いて食すなど、ジャム、蜂蜜、この森の周囲はジャム、蜂蜜、ヨーグルト、三つの名物が犇めいており、行商人が一度は訪れたい街の一つである。
サニーの著書、『トレジャータウンのきゃー!!』にもこの街の事は載っており、それを元に街へ訪れた二人は疲れた体を労わるべくその名物料理の二つを食した。
 看板通りの美味しさに舌鼓をうってから、二人はその店でまったりと談笑する。シデンが話す内容は、遠征に向けて妄想を全開にしていたサニーに対するレナと自分の反応とか、取りとめないことを延々と話され、アグニはあまり話に入る隙がない。
 そして、アグニの方は、街の友達と遊んだ時にあった出来事を、延々と話す。二人の話を聞いていると非常によくわかるのが、シデンには友達が極端に少ないという事。記憶を失ってしまったのだから仕方がないのだが、友達に乏しいせいで話題に乏しい今の生活でも長い時間話を続けられるのだからアグニは真似出来ない才能だなぁと感じてしまう。
 長く話を続けられるからと言って、面白いかどうかは別問題だが。

**110:リンゴの森の殺し合い [#o31c0121]
**110:リンゴの森の殺し合い [#r5239ef3]

 食事を終えた二人は『危険!! Aランク未満の探検隊は立ち入り禁止』の立て札をかけられたダンジョンに足を踏み入れる。奥へ行けば行くほど美味しいというわけではないが、立ち込める闇の一切ないダンジョンの中心地、台風の目にはそれはもう良質な土が形勢されるのだとか。
 そもそも、セカイイチとは品種ではなく土がセカイイチなのである。セカイイチの木の枝を、その他大勢の木の根元に接ぎ木したとて、セカイイチは育たず、育つリンゴは普通のリンゴになり下がってしまう。それが、セカイイチの味と希少性を世界一たらしめる理由であった。
 また、ダンジョンの闇の影響を少なからず受けたここの品種は、季節を問わず花を咲かせ実を成らせる。
 夏に蜂蜜漬けのリンゴを食べるのも十分に美味しいが、どんな季節でも林檎を食べたいというこだわりを持った猛者は、台風の目に住む者もいたという。しかしながらダンジョンの中心部である台風の目はその大きさもまちまちで、とりわけリンゴの森のダンジョンに存在する台風の目は非常に狭く、街の一区画ほどもない。そのため、住む者は僅かで居ても数人であった。
 居住すれば無限にリンゴはとれるし、実際に草食のポケモンならばそれで食料も事足りるのだが――警察の目の届かない場所であるここで酷い事件があってからは、このダンジョンの台風の目からは自然と人は離れて行った。
 それ以来は、ディスカベラーのようにダンジョンの最深部に者好きな強者が乗り込むくらいがせいぜいである。

 今回、シデン達はチャットから借り受けたゴンベの腹巻と呼ばれる装備を着用している。いつもは愛らしい桃色のモモンスカーフ、白を基調にした黒の水玉模様がオシャレな防御スカーフを装備しているアグニとシデンだが、今回は不格好な腹巻。
 と、言うのもここのリンゴは美味しすぎるほど美味しい。ゴンベの腹巻は代謝を活発にして攻撃力と防御力を高める他、腹が減り易くなってダイエット効果が高まるという。
 食料をなるべく消費したくない探検隊にとっては傍迷惑な副作用だが、このリンゴの森に於いては別。好きなだけ美味しいリンゴを口にできるので、二人は道中ご満悦の様子。ピカチュウに腹巻なんて似合わない組み合わせ、見た目の不格好さなんてお互い愛があれば問題なかった。


「ここが台風の目かぁ……地元の人たちやサニーの本では出来るだけ腹を減らしておけって言われたけれど……言われてみれば、ダンジョンの道中のリンゴよりも遥かに美味しそうな赤くてテカテカしているのばっかりだなぁ……よだれが出ちゃいそう」
「こりゃ、予想以上だね……自分はちょっとお腹がすいてきたよ」
 きょろきょろと目移りさせながらシデンは笑顔になる。今日ばかりは、このリンゴを好きなだけ味わって彼奴らドクローズの事なんて思い出さずに過ごせるのだと思うと胸がすっとする。ほのかに漂って来るリンゴの香りと、この安全な空間で悠々と蜜を運ぶ蜂達。平和な雰囲気と木々の匂いの中で、二人は自然と深呼吸をしていた。
「あ、ほらミツヤ。あそこを見てよ。あのひときわ大きな木……アレがセカイイチなんじゃないかな? オイラが登って取ってくるよ」
 セカイイチの木を見つけて、アグニは小走りで大木に向かって駆けてゆく途中で、その違和感に気づく。
 喰いかけのリンゴが落ちていた。それも、食べる場所がまだ半分以上もある状態で。
「あれ……リンゴが食べかけだ……しかも、随分と無駄な食べ方……なんて奴だ」
 ここに来たばかりのシデンも食べ物を無駄にする者に対して憤っていたが、大木の元に散らばるリンゴの食べカスは食べ物を粗末にする云々のレベルが違う。酷い物は一口食べただけで投げ捨てられ、無残な姿を晒している。
「くそ、こんなふざけた奴見つけたらとっちめてやる」
「この匂い……」

「見つけたら? その必要はねぇよ」
 上からは不快な声。声の主は――
「ドクローズ……殺されに来たか!?」
 ありったけの殺気を放ちながら、シデンは体毛を逆立てる。
「へへっ、お前達来るのが遅かったな」
 コーダが食べかけのリンゴを放り捨てながら舌舐めずり。
「俺達はここでセカイイチを食べながら……お前達が来るのを待っていたんぜ」
 インドールが唾を吐いた。
「言いたい事はそれだけか?」
 瞼をピクピクと動かしながらシデンは脅すような声で喰ってかかる。
「ケッ、来るのが遅いんで喰い過ぎちまったよ」
 汚いげっぷと共に、ガランはリンゴを口に入っていた分ごと吐き捨てる。
「殺す……歩く公害め」
 シデンは見開いた目を血走らせて、殺気を放つ。
「今回ばかりはミツヤに同意だ。でも、ミツヤ……先走ったりしないでよ?」
「当然……殺すために最善を尽くすよ」
 流石に殺したらまずいんじゃないかなとアグニは言いたかったが、とりあえず危なくなったら(相手が)シデンを止められればいいかもしれないなどと、アグニは気楽に考えていた。
「俺様達を倒すだと? 失礼な奴らだな。俺等は収穫に協力して、毒見をしてやっているだけだというのになぁ」
「あんた、脳みそが毒に侵されたみたいだね。ちょっと抜き取ってやるよぉ!!」
 虫唾の走る不快な笑顔を見せつけられ、シデンは物騒な言葉を吐きながら電磁波を飛ばす。いきなり十万ボルトを放ってやりたいところだが、木が燃えてしまっては困るので、まずはダメージを与えない技から。
 流石に距離が開いているせいか難なく避けられてしまったが、そのまま枝から地面に降り立とうするインドールに雷パンチ。顔面を強かに貫く衝撃で、吹っ飛びこそしないもののインドールの体勢は大きく崩れる。シデンは反動で後方に吹っ飛び、そのまま後ろから現れたアグニがシデンの真下をくぐる形でインドールに接近。
 目の前に星が散っている真っ最中のインドールへ炎を纏った足で踵落としを放ち、顎を地面に埋める。
 浮遊していたり、空を飛べる二人が戸惑っているうちにアグニは更に閉じられたインドールの瞼を引っ掻いて眼潰しにかかる。空の二人が駆けつけて来たころには、シデンは近距離の二人相手へ向け、指向性の高い電撃を浴びせてアグニへ当たらないよう極力気をつけながら攻撃。
 風を起こして攻撃する飛行タイプの技は後ろにいる相手にもあたりかねないおかげか、攻めあぐねていたズバットのコーダはそれだけで倒れてしまった。シデンの元に飛んできた毒ガスは、まともに食らってしまっては目も当てられないので目と口を閉じ鼻からは息を吐いてそこから離脱。
 巻き込まれたアグニも急いでそこから走って逃げた。ガランの機転でなんとか袋叩きを逃れたインドールは、片目が潰れたまま二人を憎々しげに睨みつけて歯を食いしばる。
「てめえら……調子に乗りやがって」
「食べ物粗末にしてんじゃねぇ……てめえらも粗末にしてやる……」
 シデンは高速移動の呼吸法を行いながら腕に電気をためて間合いをゆっくりと詰める。アグニは筋肉を同じしなやかさのまま、硬く強くするビルドアップの呼吸法で、シデンに続けて追撃する準備を始める。
「くっそ、威勢が良いじゃねえか……」
「いいから死ね。さっさと呼吸を止めろ!!」
 シデンはまくし立てるように暴言を吐いて、敵への憤りを露わにする。
「初めて会った時はひるんじゃったし……今だって怖いけれど。ミツヤが一緒なら負けない!! オイラだって戦えるんだ!!」
「良かろう……そんなに死にてぇなら殺してやる!! 行くぞガラン、毒ガススペシャルコンボだ!!」
「お、おう!!」
 言われるがままにガランはドガースの代名詞である毒ガスを全身から放つ。インドールの臭腺から放たれた毒ガスと合わせて放たれたそれは、互いに混ざりあって変色し、シデン達へ襲いかかった。

**111:モモンスカーフがないせいで [#r2afa344]
**111:モモンスカーフがないせいで [#l2689cfe]

 二人は目を瞑ったが、その間に泥爆弾の追撃を受けて、その風に押し倒された所をインドールによって片足ずつ胸を踏みつけられ圧迫される。その状態で更に毒ガスをばらまかれれば、息苦しさも手伝って二人はそれを吸ってしまう。 
 一気にせき込んで、二人は毒に侵された。そうして十分に毒を吸いこんだのを見ると、炎や電気や蹴りが飛んでくる前にインドールは二人を抑えつけていた前脚を離してバックステップ。咳こみながら立ち上がるシデンを見て、満足げに舌舐めずりをした。
 そこから先は、なぶり殺しであった。これ以上ないくらいに肺を毒ガスで満たしてしまった二人は、立つのもやっと。
 お腹をすかせるためにと着用していたゴンベの腹巻がいけなかった。せめてモモンスカーフを装備しているのならばシデンだけでもなんとかなったのかもしれないが、生憎今日はシデンもモモンスカーフを排してゴンベの腹巻を着用している。
 二人はようやく目覚めたコーダの風起こしで倒されてしまうほど踏ん張りが利かず、敗れた二人は虚ろな目を揺らしている。

「ふん……散々苦しめてくれやがったな、この女」
 今だ開かない右目のひっかき傷を気にしながら、インドールはシデンを足蹴にする。ご丁寧にその脚はシデンの秘所を踏みにじっており、シデンの女性としてのプライドをズタズタに傷つけている。
「いいこと考えた……おい、ミツヤ。てめぇ、生きてギルドに帰りたかったら俺のをチンコを咥えろ」
「へへっ、もはやお決まりですね」
「ケッ、この女が泣き叫ぶ姿を見られてせいせいすらぁ」
 インドールの提案に、コーダ、ガラン共に笑う。
「ほら、お前がダメならアグニ君をやっちゃっても良いんだぜ?」 
 毒でぐったりとしているアグニの頭蓋を、踏みにじってインドールは笑う。
 虚勢を吐く元気すらないアグニは、シデンを止めることもしなければ『助けて』とも言えない。完全に参っている。
「アグニには……手を出さないで」
 かすれた、消えてしまいそうな声でシデンは懇願する。
「良いぜ、ただしちゃんとイかせてくれよな」
「分かってる……」
 そう言って、シデンは何のためらいもなくインドールの生殖器を口に含もうとするが――
「ひっ!!」
 流石に、自身の狙いが敵にも気づかれた。
「こいつ、噛みつこうとしやがったぞ!!」
 後少しだったのに、とシデンはこめかみを動かす。
「えぇ、そんな様子には見えませんでしたけれど……」
「そんな様子も何もねぇぞコーダ!! 噛みつく気でもなけりゃここまで躊躇いなく殺したいくらい憎たらしい相手のもの咥えられっかよ!?」
「う……そう言われると……」
 インドールの言い分にコーダは納得して露骨に嫌な顔をする。
「この野郎……俺等がここで殺せないことを分かってやがるな。殺せないってわかているから安心して反抗してきやがる」
 舌打ちしながら、インドールは唾を吐く。
「え、ここで殺っちまわないんですか?」
 ガランが尋ねると、インドールは呆れて溜め息をつく。
「当たり前だ。こいつらはリンゴの森に行く用に頼まれて、リンゴの森に来たんだぞ? 殺して死体を埋めるなりしても見つかるし、ダンジョンに置いて『ヤセイ』のポケモンの餌にしても、ここにこびりついた臭いはどうするんだ!? 毒ガススペシャルコンボの匂いは洗濯玉((物に付いた粘液や油、匂いなどを綺麗に取り去る効果のある道具。不思議のダンジョンの産であり、不思議のダンジョンでしか使えない))かなんかのような道具でも使わないと長い間取れんぞ!?
 それとも、このリンゴの森の木、全部に使う分だけの洗濯玉でも持ってくるか? 洗濯玉はダンジョンじゃなきゃ使えないし、ダンジョンでも台風の目じゃ使えないがな。あぁ?」
「そりゃ……無理っすね」
 ガランが納得して呟いた。
「ふん、分かったらセカイイチを回収して行くぞ。こいつをこのまま犯すの簡単だが、ここでこの女を犯したら今度は寝込みを襲って来る。そこまで追いつめても、こっちにゃ全く得はねぇ」
「えぇ!?」
「ほぼ確実に……の話だ、ガラン。お前らの歯をへし折るなんて馬鹿みたいな発想をするこの女ならやりかねないって事でな。今の段階なら、こっちの常識人のヒコザルがストッパーになってくれるさ」
「た、確かに……今度は寝込みを襲ってきて、歯を抜かれるどころか顎を砕かれるかも……」
「ま、ここまで圧倒的な実力差を見せておけば、しばらくは俺達に逆らおうとは思わないはずだ」
(勝手なこと言いやがって)
「身ぐるみ剥いで、放置しておこうぜ」
(動けよ、私の体……)
 そんな会話を聞きながら、微かに残っていたシデンの意識は奈落へと落ちて行った。


「ミツヤ……大丈夫?」
 先に起きたのはアグニ。まだ意識の戻らないシデンの瞼がぴくぴく動きだしたのを見て、アグニはミツヤに声をかける。
「ア……グ……ニ?」
 酷い吐き気と、地面に残る吐瀉物の匂い。眩暈と頭痛と全身の悪寒と燃えるような熱さの中でシデンは横向きの体勢で目を覚ます。熱いのだか寒いのだか、シデンはまるでわからない。多分熱いのだろうけれど、寒気がするのかもしれない。
「まだ動かないで……解毒効果のある草、ほんの少しだけあったから、今から口移しで飲ませる……苦いけれどきちんと呑み込んでね?」
「だい……じょぶ」
 アグニもまだ回復しきっていないのだろう。体毛に覆われていない唇の色は酷く変色しており、体調の悪さを伺わせる。しかしながら、薬草を取ってこれる程度に回復しているあたり、彼はすでにその草を食べたのかも知れない。
 なら、貰っておこうと、良く働かない頭とぼやけた景色の中でシデンは考え、アグニの口付けを受け入れた。口の中で噛み砕かれた薬草をシデンに飲ませるにあたって、舌を使ってアグニはシデンの口へそれを流し込む。普段なら色気の一つも感じる所だが、この激しい頭痛の中ではもはやそんなことも意識の外。
 口移しを終ると、アグニも精根尽き果てたのか横向きになって吐いても窒息しない体制を取る。悔しくて涙の一つでも出したいところであったけれど、それよりも先に猛烈な吐き気が襲ってくるが、もう胃袋に残っていた物は吐きつくしてしまったらしく(アグニが横向きにしてくれたおかげで窒息しないで済んだようだ)薬草を吐いてしまう心配はなさそうだ。
 酷く苦しい体調に苛まれながら、シデンとアグニは夜通しうめき声をあげてその場に寝転がっていた。

**112:言葉ではなく実感で [#l69e10f9]
**112:言葉ではなく実感で [#c562dcaa]

 ようやく目覚めた時には、翌日の夕暮れ時であった。毒はまだ抜けきってはいないのか酷い頭痛に苛まれたが、代わりに酷い空腹を覚える。シデンはその辺に落ちていた手つかずのリンゴを食べ、胃袋を目覚めさせると未だ眠っているアグニの方を見る。かなり&ruby(うな){魘};されているようで、このまま起こして良いものか分からなかった。
 時折アグニはミツヤの名を呟いては安否を確認する声が小さく聞こえる。
「大丈夫だよ、アグニ……」
 どうやら、飲ませてもらった薬草の量はシデンの方が多かったらしい。アグニがどれほど飲んでいたのかすら不明だが、アグニならばわが身を犠牲にしてでも自分を活かそうとする事もやりかねないと思うと、シデンは頭痛と吐き気の中で微かな嬉しさを感じて笑顔になる。
 モモンの実やラムの実、現金もきっちりと盗まれているために満足な治療は望めないが、この世界ならば親切な誰かが助けてくれるさ。そう思うと、シデンは希望と力がわいた。
 いつもより重いアグニの体を引きずってシデンはダンジョンの台風の目にあるワープゾーン、空間の穴へ飛び込みダンジョンを脱出、街を目指した。街に辿り付く前に、アブソルの行商人が二人に気が付き、荷物を地面に下ろして駆けつけた。旅の道中何があっても良いようにと持って来たラムの実を口で器用に取り出しては頭の鎌で切り分け、二人に差し出す。まずはシデンがそれを食べてから、今度はシデンがアグニに口移しをする番で、アグニは口の中に物を入れられると、空腹も手伝ってか意識のない中で本能的に嚥下した。
 シデンはこの世界の人間の親切な性質をありがたく思い、いつだったかアグニに言われた言葉を思い出す。
『この世界はシデンの基準じゃ回っていないの!!』
 この言葉を、ようやく言葉ではなく実感で理解する。あの時は少しカチンときた言い回しだったけれど、こんな時はとてもありがたい。あの時、旅人を見捨てないでよかったと、あの時のアグニには感謝してもしきれない。

「……すみません。私達、お金も何も無くって」
「いいって。その見なり……盗賊にでも襲われたんだろ? 流石の探検隊も集団でかかってくる盗賊相手じゃあひとたまりもないってのはよくある話だからなぁ……しっかし相手は悪臭の特性でも持っているのかな……酷い匂いだよ」
 顔をしかめながら、しかし笑顔でアブソルの行商人は言った。
「困っている時はお互い様だよ。ほら、洗濯玉。布商人なものでね、商品が汚れた時のためにもこう言うのを持っているんだ」
「あ、はい……」
 自由に使ってくれと笑いながら、アブソルの行商人は礼を言う前に去って行った。アグニはもうすでに魘されておらず、すやすやと気持ちの良さそうな寝息を立てているだけ。噛み砕いたリンゴを口移しで食べさせると、やはりそれも本能的に飲み込んでいった。

「ミツヤ……?」
 そうして口移しをしているうちに、リンゴが気管に入ってしまって咳こんだアグニは驚きながら目覚めてシデンを見る。
「良かった……起きたんだね、アグニ」
「オイラ達……どうなって?」
「おかげさまで、なんとか生きているよ。親切なアブソルの行商人にラムの実を分けてもらったおかげで大分力も戻って来たし……」
「そう……良かった」
 アグニは安心して、まだ休んでいたいのか目を閉じる。しかし、寝過ぎて眠れないのか目は瞑っているだけで意識は保っていた。寝ようにも眠れない状況でアグニは口を開く。
「ミツヤ……セカイイチは?」
「全滅してた……ごめん」
「ミツヤのせいじゃないよ」
「奴らに目の敵にされるのは自分のせい……アグニを護れなかったのも、自分の責任。確かに、自分が悪いわけではないけれど……自分がアグニを巻き込んでしまった事だけは確かだから」
「大丈夫、ミツヤ。オイラはミツヤを軽蔑したりしないし、怒ってもいないから……だから、一緒に帰ろう。帰って一緒に怒られよう。ね?」
 しばらく顔を伏せて考え込んでいたシデンは、アグニに添えられた手を握り返して顔を上げる。
「うん……どんな時でも一緒に」
 まだ目を合わせられない雰囲気だったけれど、握り返したその手から伝わってくるぬくもりにアグニは微笑む。
「そうだ、アグニ……自分たち酷い匂いだから……これ、洗濯玉って言ってね……アブソルの行商人から貰ったの」
 シデンは洗濯玉を差し出してアグニの顔を見上げる。
「一緒にさっぱりしよう?」
「うん」
 アグニは嬉しそうに頷いてシデンと共に近道のために突っ切れるダンジョンへと脚を急がせる。ダンジョンでしか発動しない不思議な珠を渡されるのは、普通に考えれば困りものだが、腹ごしらえのためにも早く帰るためにも、こうしてダンジョンに入らざるを得ない彼らには、逆に都合が良かった。

 ◇

「ええ~っ!? 失敗しちゃったの~!?」
 予定よりも一日遅れのシデン達の帰還。待ちわびていたはずの朗報は来なかった。いや、うすうす嫌な予感はしていたのだ。シデン達がいつまでたっても帰ってこないのと、ドクローズが依頼を受けたわけでもないのに二日ほどギルドを開けていたこと。
 チャットも、この二つの事実を組み合わせればよからぬ考えの一つや二つは浮かんでくる。あの性格の悪そうなドクローズのことだ、聞き及んだ限りでは掲示板前のトラブルで非常に険悪な仲になっているし、それ以前からも何か因縁があったような事もほのめかされていたとか。
 本当ならば、ここはドクローズをとっちめてからシデン達を広い心で許してあげたいところなのだが、親方様の命令で遠征までドクローズの機嫌を取るように言われている以上、ディスカベラーを責めないわけにはいかない。
「本当に本当にどうしよう……あわわ、ギルドのポケモンを避難させて……あぁ、でも……う~ん……どうすればいいんだ」
「で、でも……仕方がなかったんだよ。ドクローズの奴らが……」
「お黙り!!」
 いいわけを始めようとするアグニを、チャットは突っぱねる。
「言い訳は聞きたくないし、させるつもりもないからね!!」
「うっ……そんなのってないよ」
 アグニが歯を食いしばりながら悲しげに顔を伏せる。
「くっそ……糞野郎め。どいつもこいつも」
 拳を固く握りしめて、シデンは毒づくがそれ以上の事はしなかった。ここで何かチャットに手を出してしまえば、余計立場が悪くなるだけだ。

**113:被害者は四人 [#g520a4f1]
**113:被害者は四人 [#o52b7605]

 その二人の様子を見て、ここはわけを話しておくかとも考えたが、たまには『世の中どうしようもなく理不尽な状況だってある』という事を教えるのも悪くないチャットは思う。その状況の渦中に自ら放り込むのは少々……否、かなり気が重かったが、遠征が終わった時にでも謝ろうと心に誓って、今回ばかりは二人にどん底まで落ちてもらおう。
「……仕方がない。お前達、今日はとりあえず夕飯抜き。もちろん、自室にこもって外出禁止だからね!!」
「えぇ!? 昼食もとらずに帰って来たのに……まだ今日何も食べていないんだよ」
 アグニが不満を漏らすが、チャットはジト目で睨み返すだけ、
「うっ……」
 無言の圧力に気押されて、アグニは何も言い返せなかった。
「期日を過ぎての帰還の上に……大切な仕事が出来なかったんだ。そのくらいは我慢しな」
「酷い……」
 いいわけの一つでも聞いてもらいたかったアグニは、とうとう目を潤ませて小さく呻く。
「ふん、泣きたいのはこっちだよ。そのくらいは我慢しな……」
 そう言って、チャットは溜め息をついた。この二人を見ていると良心が痛む。けれど、依頼人の悲痛な叫びを聞いたら、あの依頼の成功をなんとしてでも成功させなくてはいけない気持ちになる。本当にかわいそうだが、ディスカベラー之二人にはここで我慢してもらわなければなるまい。
「私はこれから、今回の事を親方に報告しなきゃならないんだ」
 薬を買いに行こうと護衛としてドクローズを雇えば強姦され、泣き寝入りして仲間と合流すれば、体にこびりついた彼らの匂いを指摘され、夫や仲間に糾弾され、逃げるようにマニューラ率いる探検隊に助けを求めた結果、全てを失ってトレジャータウンにたどり着いた。
 本来ならば、行商の途中に風邪をこじらせた&ruby(キャラバン){隊商};の仲間のために、ちょっと薬を取ってくるだけのつもりだったと言うのに。
 警察が与える罰では、罰が足りないし、納得できないと涙ながらに語っていたそうである女性の嘆きを、ソレイスは聞き入れないわけにはいかなくて。そして、チャットもその話を聞いた以上、親方に協力しないわけにはいかず。
 そのためにシデン達が不利益をこうむっている……。
 あー泣きたい!! 泥をかぶるのはいっつもわたしだよ!!

 遠征まで待つのにはわけがある。国を越えた先での犯罪は、よほどひどい例でもない限りは基本的に警察もノータッチなのである。だから、最悪殺すことになろうとも、遠征先でなら問題ないとソレイス親方は考えたのである。それに、探検中なら事故として処理もしやすいから。
 そこまでのお話を、シデン達に話してしまえればどんなにか楽だろうと思いながら、チャットは溜め息をつく。
「失敗の報告を聞いた親方様はきっと…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 遺言状を用意しておかなきゃ!! あぁ、やっぱりみんなを避難させておこう……あぁもう、やる事がいっぱいだよもう!!
 ……親方様には、比較的機嫌の良い夕飯の後に報告しに行く。だから、その時はお前達もついてこい。親方様のアレを食らうのが私だけというのは、あまりにも不公平だからな」
「だからお前達も、必ず来るように……わかったね!!」
 チャットは色んな気苦労を吐き出すように大きなため息をつく。とぼとぼと哀愁漂うチャットの後ろ姿を見送って、二人も部屋へと戻って行った。


「食料の備蓄……していなかったのはまずかったねー……お金は少し置いてあるけれど、外出は禁止……」
 アグニは肩を落とす。
「食料は街で買えるもので事足りるからね……ふむ、仕方がない」
「どうするの?」
「寝る。起きていてもお腹がすくだけだから」
「……なるほど。オイラもそうするよ」
 二人は溜め息をついて不貞寝を始める。もう、何もかもわずらわしくて、投げ出したい気分だった。

**114:理不尽 [#d951236a]
**114:理不尽 [#h9d14c94]

「起きな、二人とも!! なに寝ているんだい!?」
 チャットに大声で起こされ、二人は不機嫌そうに立ち上がる。
「『寝るな』、なんて指示はなかったよ」
 起きてすぐに毅然とした態度でシデンは言い返す。こっちだってイライラしているのだと、目で訴えかけるシデンの表情は不機嫌そのもの。アグニも、今日の出来事にはもううんざりしている様子だ。聞き上手なサニーやトラスティ辺りに愚痴る事でも出来ればすっきり出来たかも知れないのに、食事に参加できないから愚痴ることすらできやしない。
 おまけに、空きっぱらの二人にはレナの作った料理の香りがここまで届いてきて、それを口にしたくても出来ない不条理さに悩まされる。二人のストレスがたまるのも仕方のないことである。チャットも顔をゆがめていた。
 親方とは秘密裏に色々と事情は話してある。『泣き喚く時の音声は控えめにするし、処分も重いものはかけない方針で』と。そういう方向に話は決まっていたが、ディスカベラーの二人を騙している自分が酷く腹立たしい。
「やあ、君達!! セカイイチを持って来てくれたんだね。ありがとう」
 いつもの彫像のような笑顔を崩さないままに、ソレイスはお礼から話に入る。そんな導入では、これから告げる事が物凄くやりにくいではないか。これでは、シデンもいつもの魅惑的なメロメロフレグランスも楽しめそうにない。
「そ、それがですね……その、大変言いにくいことなのですが……」
「ん、どうしたの?」
 首を傾げるように体を傾け、ソレイスは頭上に疑問符を浮かべる。
「実は、その……この者達がセカイイチを取ってくることに失敗しましてですね……」
「いいよ、分かったよ」
 意外な事に、ソレイスはあっさりと二人の事を許した。その言葉に二人はほっと胸をなでおろしそうになったが、チャットの表情は曇ったまま。
「大丈夫、失敗は誰にでもあるよ。挫けない挫けない!」
 そう言ってソレイスが微笑むので、二人はほっと胸をなでおろした。しかし、本当に恐ろしいのはこれからだ。
「それで、セカイイチはどこなの?」
 なんと、今までの話を聞いていなかったかのようにぬけぬけとソレイスは尋ねた。
「ですから、そのー……セカイイチの……セカイイチの収穫には失敗したわけですから、つまりその……セカイイチの収穫はゼロ、という事に」
「え」
 小さくソレイスが反応する。嫌な予感。アグニの掌にはびっしりと冷や汗が浮かび、シデンの体毛も心なしか逆立っている。チャットの羽毛も同様だ。
「なので……セカイイチは一つも取れなかった……つまりは親方様にも……当分の間はセカイイチを食べるのを我慢していただかないといけない……と、言う事なんですね!」
 気まずい沈黙が辺りに流れる。
「あはっ……あはははっ……あははは、ふふはふあふはははあははは……」
 あまりにも気まずすぎるその雰囲気を打開するために、なんとか笑ってごまかそうとするチャットだが、余計に気まずい雰囲気は深まるばかりである。
「お、親方様?」
 ひとしきり笑って、冷静に周囲を見回してみると、親方は彫像のような笑顔を崩さないまま目を潤ませ始める。

「ぐすんっ……」
 鼻をすする音。涙をチャージしている事が容易に理解出来た。
「わぁぁぁ……いけない!!」
 チャットは全身の羽根を逆立て、慌てている。なんだか一大事らしいが、それは部屋――ひいては大気が脈動していることからも容易にうかがえる。ソレイスの感情に呼応するように世界が打ち震え、嘶く。
「お、お前達……耳を塞ぐんだ!! 手には唾をつけて塞ぐんだ!!」
「ど、どうして!?」
「どうしてもこうしても……ひぃぃぃぃゃぁぁぁぁぁ!!」
 ソレイスのチャージが完了したところで、揺れはぴたりとおさまる。嵐の前の静けさというべきか、不気味なまでの静かさは周囲の物の不安を煽る。だが、煽られる暇なんて、良心的に見積もってせいぜい一秒。その瞬間に去来した恐怖や畏怖といった想いの物量は雪崩か滝か、隕石か。
 漠然とした不安が、膨大な質量と速度で以って頭の中をよぎって、それは爆発し――なかった。
「ごめんください! セカイイチを届けに参りました」
 唐突に親方の部屋を開けて入りこんできたインドールが、ぬけぬけと口にする。
「その声、テメェェェェェ!! どの面下げてここに来やがった!! 今日こそ、ここで引導を……」
「ミツヤ、ダメ!!」
 電流の流れる頬袋を抑えて、アグニが咄嗟に止める。こればっかりはチャットも一緒にシデンを抑えつける他なかった。弱点タイプのシデンに抱きつかなければいけない恐怖、彼にとっていかばかりであっただろう?
 アグニが巻き込まれるからシデンも手荒なまねはできないと、信じたかった。
 
「え?」
 と、ソレイスが泣くのを止めた。
「ほら、本物のセカイイチです。お近づきのしるしにどうぞ」
 シデンはギリギリと歯を食いしばって怒りをこらえる。歯茎から血が出るほど、憤怒の滲んだ顎は震えていた。
「ミツヤ……あとで話があるから……今ここでは押さえて」
 精神を落ちつけようとゆっくり息を吐いてから、アグニは震える声でシデンに告げる。
「アグニ……話をしたら、奴らを殺していいの?」
 上瞼を痙攣させるほど怒りの感情を高ぶらせ、今にも噛みつきそうな表情でシデンは尋ねる。
「そういうわけじゃないけれど……まぁ、そんな所」
 殺すと言う話を、普通なら忌避するはずのアグニも、こればっかりはもう許せない。手柄を横取りされただけでそうまで思うのは確かに大人気ないのかもしれないが、徹底的にやらなければやり返されるし、何より他人を毒まみれにさせておいてぬけぬけとあの態度をとるドクローズは、アグニも許せなかった。
「ちょっとアグニ、何言っているんだい!?」
「チャット……お前はもういい!! 部下の話を聞かないなんて、お前は最低だよ!! 今後一切、お前の事は尊敬しないからな」
 シデンはともかくとして、ついにアグニまでチャットに対して暴言を吐く。チャットに自身の発言を諌められても、もはやアグニの心はきまっていた。節穴の目しかない上司に、尊敬する心などもう捨てる。
 向こうでは、ドクローズ達がセカイイチをソレイスに渡し、打ち解けている。もはやシデンは歯を食いしばることすらしなかった。体から力を抜くとアグニ達から解放されたので、ゆっくりと立ち上がると親方の部屋の外へと歩き出す。
「アグニ、ごめん。私、少し休む……ちょっと外出するけれど、必ず戻ってくるから気にしないで」
「こ、こらシデン!! 今日は外出禁止だと言ったろう!?」
「チャット、あんたは、私達の言葉を無視した。お前の言葉を聞いてやる義務は、あんたが私の言葉を聞く義務を放棄した時点で消滅したんだ!! 死ね、死んで詫びろ!!」
「上司になんて口を……もう勝手にしなさい!!」
「させて貰うよ」
 チャットに怒られようともひるむことなく、ミツヤはそう言って外へ消えてゆく。何をするつもりなのかは分からないが、彼女がよからぬことを考えていることだけは理解出来た。
 親方の部屋では、チャットが必死にドクローズのご機嫌とりを続ける。シデンが消えてしまって気が気でないアグニは、チャットに頭を下げるように命令されてもまるで上の空にそれに従うことしか出来なかった。

**115:水酸化ナトリウム [#i1255906]
**115:水酸化ナトリウム [#i719c171]

「しかし、兄貴……あの時なんであいつらを助けたんだい? あそこでセカイイチをあげるよりも……あの後あいつらがどうなるのかを見ていた方が面白かったと思うんだけれどなぁ」
 ソレイスの部屋を出たコーダは、空中で羽ばたきながら首を傾げる。
「俺もそう思うぜ」
 ガランもただ同意する。
「全く、頭が回らない奴だなお前ら。今が楽しけりゃいいってのは同意だが、せめて一ヶ月後くらいまでは見通して楽しもうって気ぐらい持てよな、単細胞」
「うう、すみません」
 あからさまに馬鹿にされて、コーダは飛び方に元気が無くなる
「俺様達がギルドに来た目的はなんだ? 遠征の手柄を横取りするためだろ?」
「なるほどー」
 分かったのか分かっていないのか、ガランは重みの無い同意をした。
「しかし、有名なギルドなんで始めは俺様も警戒していたが……拍子抜けだな。チャットの目は節穴、俺達はやりたい放題……ぬるいギルドだ。ソレイスなんてのも、生きた伝説の一人に数えられているが、ただのお子様よ。
 なんでみんなソレイスを恐れるのか……全くわかんねぇなぁ」
 クツクツとくぐもった笑い声をひとしきり上げ、インドールは続ける。
「とにかく、遠征先でお宝を見つけたら……」
 含み笑いを浮かべて、インドールは部下二人に目配せをする。
「ギルドの連中を始末して」
 ガランが全身の穴から毒ガスをまいて口に出す。
「お宝を奪ってトンズラする」
 愉快そうに飛びまわりながら、コーダが締め、ドクローズ一同は笑い合った。
「ケッ、今回の計画は楽勝っぽいな」
 最後にそう言い残して、ドクローズ達は灯りを消して眠りについた。

 ◇

「ミツヤ……何をしに行って来たの?」
 深夜、崖からロープを下ろし、窓を開けて帰って来たシデンに対してアグニは眠い目を擦りながら尋ねる。
「部屋に合った道具を持ち出して……有り合わせの道具で武器を作っていた。今後いつ、奴らと戦いになっても良いように……街中じゃ流石にやらないけれど、外で出会ったら……とりあえず、チャンスさえあれば……自分は奴らを殺す!!」
「そりゃまた物騒な……そんなに嫌いなんだね、ミツヤは……あいつらの事が」
「当然……というか、あいつらを嫌いじゃない奴とは、友達になりたくない……あいつらを嫌いじゃない奴とはきっと感性が合わないもん」
  冷ややかな目を向けて、シデンは口にする。そんなにか……と、アグニは言葉を詰まらせた。
「あのね、ミツヤ。奴ら自身言っていた事なんだけれど……殺すのなら、場所を選んだ方がいい。少なくとも街のそとどころかダンジョンの中でやった方がいい。『ヤセイ』のポケモンに心と体を食われてしまえば証拠もほとんど残らないし……ダンジョン特有の大いなる破壊と創造((入るたびに形が変わるダンジョンの、形が変わる現象。そのフロアに存在する全ての物体が崩壊して、フロアが新しく作り替えられる))が巻き起こった時は、証拠の全てをダンジョンの闇が葬り去ってくれる。
 それに、探検途中の未開の地……事故なんていくらでもあるさ。だからその時まで……待とうよ、ミツヤ。もう、今のミツヤを止めるのはオイラもしたくないから、だから我慢する期限を決めよう。機嫌があれば我慢できるさ……オイラだって、もうアイツらは嫌いだ……」
 アグニ自身も相当悔しい思いをしているのだろう。今までため込んできた思いを吐き出すようにアグニは涙を流す。
「躊躇いはないよ……ミツヤと一緒なら、オイラなんだって出来る」
 アグニの覚悟がついに決まってしまった。毒で死ぬほど苦しんで、仕事を邪魔された揚句に現金や食料を奪われ、おまけに評価を奪い取られる。温厚で御人よしなアグニももはや限界であることを察して、ミツヤは安心した。
 こうして苦しみを共有していれば、この怒りも乗り越えられる気がしてくる。
「分かった……本当に、色々巻き込んで……迷惑かけてごめん」
 そうしてシデンも感極まって、アグニに涙目で謝りながらその胸に抱かれる。
「いいよ、ミツヤ。遅かれ早かれ、オイラはあいつらを放っておけないし……ところで、なにを作って来たの?」
 暗い気分を打破しようと、アグニはシデンに笑顔で尋ねる。
「肉を溶かす液体さ。溶解液なんて目じゃないくらいのね」
「いや、わけがわからないよ……なに、それ?」
 見たことも聞いたこともない物をまるで当たり前のように告げられ、アグニは首を傾げる。
「一滴でも目にかかれば失明しかねない、恐ろしい液体……海水から作ったの」
「ぶ、物騒だね……しかし、それって何なの?」
「水酸化ナトリウム水溶液」
「すいさんかなとりうむすいようえき?」
 アグニは、自分の耳には音の羅列である言葉をそのままオウム返し。うん、と頷いてシデンは続ける。
「自分は……あんまりの怒りに、奴らに恐怖と痛みを与える薬品でも作ってやろうかと考えて……考え抜いた結果、これの作り方を思いだしたの。多分……人間の時の記憶」
「ホントに!? 人間の記憶なの……? 他に何か思い出した事は?」
 喜ぶアグニを見て、申し訳なさそうに首を振る。
「ごめん、思い出してない……」
「そう……残念だね」
 そう言って、アグニは寝転がり天井を見上げた。
「あーあ……武器を作る記憶が戻ったのはいいけれどさー……もっと他に役に立つものの記憶も戻ればよかったのに……」
 アグニの言葉を聞いてシデンは黙りこくる。
「どしたの?」
 起きあがってから見たシデンは笑顔だった。
「役に立つ記憶……あったよ」
「ホント!? なになに!?」
「秘密っ!!」
 シデンの耳寄りな言葉にアグニは食い付くが、シデンは舌を出して笑う。
「そ、そんあぁ」
「でも、断言する。これは、今後絶対に役に立つ記憶……楽しみにしててよ」
 シデンが今までの暗い気分が吹き飛んだかのような笑顔をアグニへ向ける。
「だからえーと……ねぇ、アグニ!! 手先がそれなりに器用で、冷凍ビームとか吹雪使える知り合いいない? 出来れば街に常駐してる人に……頼みたい事があるんだ」
「あぁ、それなら……唐美月さんなら。あの人もう仕事も無いし、暇してるから……」
「それだ……あぁ、よし……まだバターの貯蓄は沢山あるし……明日になったら作業しよ……」
 シデンはあちらこちらに視線を移しながら、喜びで小躍りしている。何が何だかわけのわからないアグニは共感することもできずにいるが、とにかくシデンが喜んでいるのでまぁいいかと楽観的に結論付けた。

 一通りはしゃぎ終えたシデンは、小さくため息をついて中断された武器の話の続きを語る。
「それで、この液体なんだけれどね……さっき、抜いた毛を抜いて入れてみたら……数秒で全部溶けた。水の無い場所で使えば、かなり痛いと思う。これでは致命傷は与えられないけれど……隙くらいは作れるしね。
 それともう一つは、爆裂の種の粉を唐辛子の粉と一緒にもろい木の実に封入したもの……衝撃で爆発して、周囲に唐辛子をばらまくの……これは、あまり危険も無いし、奴ら以外にも程々に使って行こうと思う……」
「唐辛子爆弾はいいね、使って行こう。でも、肉を溶かす液体とか言うのは……変なところで使わないでよ?」
「それは、大丈夫。賞金首は殺さない。そうでしょ?」
 シデンがおどけて笑って見せる。
「そ、そうだね……それが分かっているのなら大丈夫。とりあえず……なにがあっても、オイラはミツヤと一緒にいるから」
「刑務所が別になっても、自殺しないでしょね?」
「大丈夫……遠征先は、国外だから。ドクローズの3人くらい殺しても、国際指名手配されるような人数でも、要人でもないもの。そもそも、あいつらが死んでも誰も気にしないよ」
 本当は今から不安でしょうがないが、アグニは強がって殺すことを大丈夫と言い張る。虚勢を張る彼の姿は、今回ばかりは流石に可愛いなんて悠長なことを言っていられない。
 巻きこんでおいてなんだけれど、シデンはちょっと心配だった。
「ふぅ……もう寝よっか。起きていても、どうせお腹が減るだけだし……」
 空きっ腹を抱えながら、アグニは藁のベッドに横になる。
「そんなアグニに……はい、お魚……」
 シデンは持ちかえってきた荷物の中から、電撃で仕留められた魚を差し出す。
「何これ……どしたの?」
「もちろん海で……とって来てたんだ」
 シデンは照れた風にアグニへ魚を手渡した。
「あんまり見つからなくって、一匹だけだけれど……一緒に食べよ?」
「うん……ありがとう」
 シデンの差し出すそれをアグニは受け取り、器用に切り分けて口にする。体の小さな二人にさえ物足りない量しかなかったが、空腹の二人には何よりのごちそうな刺身となった。

**116:励まし [#t9172099]
**116:励まし [#lae2bc9c]

 翌朝、朝礼に置いて全体への連絡事項を伝える段階になると、チャットは思わせぶりに口を開く。
「え―最後に……約二週間ほど先になるが……近々遠征メンバーの発表を行おうと思う」
 弟子たちが全員湧きたった。だが、ここで二人は、重大な事に気づいて気が気でなかった。遠征に行けないのなら遠征先でドクローズを始末する事が出来ない……と。それは、遠征中に始末しようと考えている二人にとって非常にまずい。
 逆に、同じように遠征中に始末しようと考えているチャットの方は、これで二人を危険に巻き込む事がないと思っていたのだから、親の心子知らずとはよく言ったものである。
「みんな、最後のアピールだ。メンバーに選ばれるよう、しっかりと仕事で活躍するんだぞ?」
 チャットの呼び掛けに鼓舞され、ギルドの弟子たちは全員が一斉に拳を振り上げる。前脚の無い者は首を振ったり短冊を振ったりなどして、その意気込みをアピールした。
 朝礼が終わると、チャットはとことこと歩いてディスカベラーの二人の元へ向かい、溜め息をつく。

「ああ、お前達……色々言いたい事はあるけれど、今は整理しないと……お互い暴言だらけになっちゃいそうだから、言わないでおく……遠征が終わるまでは、互いに触れるのをよそう。今日は予定通り休暇だけれど、一応仕事の受注だけはしていおいてくれ……」
 チャットはこれ以上シデン達にドクローズと関わって欲しくなく、少々ずるい手段かもしれないとわかってそんな提案をする。ともかく、全てを話して楽になるのはこれが最善の方法だと彼は考えていた
「それと、遠征メンバーのことだが……お前達がメンバーになるのは諦めた方がいい……私個人としては、昨日の失敗が大きいのだ……」
「そんなのひ……」
 言いかけて、シデンに口を塞がれアグニは言葉を途中で切る。
「続けて」
 何の抑揚もつけずにシデンは言った。
「親方様はあのように何を考えているのか見当がつかないが……内心では、快く思っていないことには違いない。それだけに、お前達が遠征メンバーに選ばれるかどうかとなると、どうしても首をひねらざるを得ないのだ。
 だから、済まないが……メンバー発表の時はあまり期待しないでくれ……じゃあな」
 シデン達には土下座の仕方を今のうちに考えておかねばなるまいなと、チャットは深くため息をつく。

「うぅっ……ただでさえお腹が空いて力が出ないのに……あんなことを言われちゃったらもうやる気が出ないよぉ……」
「仕方がないさ。昼になったらどっか食べに行こう……」
 この地方では朝は食事無しが普通である。それゆえ、朝から開いている店と言われれば非常に貴重で、だからと言ってその貴重な店まで行くほどの気力も萎えている。
「ねぇ、ちょっとお二人さん」
 また寝てしまおうかなんて、怠惰な事を考え始めたその時に、トラスティの声が聞こえる。
「こっちこっち、こっちでゲスよー」
 トラスティはにっこり笑って、二人を手招き。弟子たちの部屋のある一角へと誘われる。
「どしたの、トラスティ?」
「シーッ。あまり声を出しちゃダメでゲスよぉ」
 トラスティはビッパ。4足歩行だと言うのに無理して口に手を当てようとするが、それが出来ずによろけてしまうと言うファインプレイを見せつけ、二人の失笑を誘った。
「と、とにかくこっちに来るでゲスよ」
 そう言って二人が手招きされたのは、ディスカベラーの寝室。鍵がかかっていないとはいえ、そこには待ちかまえていたサニーとレナの姿が。
「チャットと親方にはみられていないでゲスね……」
「ど、どうして二人がオイラ達の部屋に?」
「朝っぱらから怪談でもするの?」
 シデンはつまらない冗談を言って、めんどくさそうに頭を掻いた。
「そんな事じゃありませんわ」
 サニーがニコニコとしながら、太陽の如き笑顔を二人に振りまいた。やっぱり、キマワリの笑顔は癒される。
「ほら、探検用の非常食ですが、どうぞ」
「私が作ったのですよー」
 そう言ってサニーとレナは粉にした甘いトウモロコシに乾燥したフルーツとナッツと乳脂を、たっぷり混ぜて焼き固めた焼き菓子を差し出した。匂いを嗅ぐだけで一気に食欲がわき上がる香りに、二人は口の中に唾液がたまるのを押さえる術がない。
「アッシからも、赤身魚の燻製と芋虫の干物でゲス。ちょっと味が濃いでゲスが……」
「昨日は夕食抜きだったと言うのは聞かされておりますわ……ですので、どうぞ」
 二人は笑顔で食料を差し出すと。二人はお礼を言うよりも先に手を伸ばす。
「あ、ありがとう」
「自分も……ありがとうございます」
 手に持ってからようやくお礼を言っていない事に気づいて、慌てて二人は礼を言う。一斉に食べ出した二人の喰いっぷりは、見ていて気持ちの良いもので。三人は渡して良かったと素直に感じていた。

「はぁ……ごちそうさま。生き返ったよ」
 ほっと息をついて、アグニは笑う。
「ありがとうございます……その、本当に」
 味は大したことは無かったのかもしれない。けれどそのありがたみを感じて涙が出た。
「なに、適当に作った焼き菓子ですよ」
「そうでゲスよー。なんというか、見ちゃいられなかったんでゲスよー」
「……なんというか、ありがとう」
「自分からも、ありがとう」
 レナとトラスティの言葉を聞いて、心まで満たされるのを感じて二人はもう一度お礼を言う。
「なに、骨が無くなれば肉が困り、肉が無くなれば骨が困る。私達ホウオウを信仰するものたちならば、困った時は常にお互い様ですわ」
「がんばって、みんなで遠征メンバーに選ばれるでゲスよ」
 二人は微笑みかける。他者の幸福を素直に祈れる、純粋な笑顔であった。だが、そんな笑顔を向けられて言われたトラスティのセリフは、逆に辛い。

「本当に……ありがとう、トラスティ。でも、遠征についてはさっきチャットが……選考からは落ちるだろうって言って……」
「そんなの……そんなことまだ分かんないでゲス!!」
 トラスティの励ましは、月並みだが力強い。
「まだ、メンバーは決まってはいませんわ!」
 サニーもだ。単純で飾りっけの無い、しかし添えられた微笑みが暖かい励ましだ。それでもアグニは内心無理なんじゃないかと思う。シデンもそうだった。
「みんな……でも、そんなこと言っちゃったら……仮に万が一オイラが選ばれちゃったら、代わりに他の誰かが落ちることになるかもしれないよ?」
「そうだよ。今回ばかりは自分も分が悪いと思ってる……そんな私達が選ばれて自分が落ちるとしても……いいの?」
 シデンとアグニはそう言って顔を曇らせるが、二人は笑い飛ばす勢いだ。
「もちろん良くないですわ」
 きっぱりとサニーは宣言する。

「でも、その時はその時。貴方達の健闘を祈るだけです」
「何、選ばれればどうという事は無いですわ」
 そこをフォローするようにレナが微笑み、サニーが付け加える。
「アッシもでゲス。適材適所というでゲスし……悔しいでゲスが、実力のある物が正しく評価された方がすっきりするでゲス……だからこそ、ミツヤさん達には頑張ってほしいでゲスし……みんなアグニやミツヤと一緒に遠征に生きたいんでゲスよ」
 ささくれだった心を労わるような二人の言葉に、アグニは思わず涙ぐむ。
「うぅ……みんな、本当にありがとう……」
 一時期は完全に失い始めた熱意も、ここにきて再び燃え上がるのを感じる。
「分かったよ、みんな。オイラ立ち、遠征のメンバー入りを目指して最後まで頑張る」
「分かったよ、みんな。オイラ達、遠征のメンバー入りを目指して最後まで頑張る」
「アグニがそう言うのなら、自分も……」
 追従してシデンが微笑むと、みんなの笑顔もより一層輝きを増した。
「よし、その意気でゲス」
「元気出していきましょう」
「貴方達はそれが似合いますわ」
 三人の先輩たちの励ましに抱かれ、二人は完全にやる気を取り戻した。

「では、やる気を取り戻したディスカベラーさんのお二人に、私からのプレゼントですわ……きっと、喜んでもらえるはずですわ。後で、私の部屋に来てくださいね」
 頼もしい笑顔を見せ始めた二人を見下ろし、有能と名高いサニーは思わせぶりにそう言った。後にシデン達の運命を大きく変える、大変だけれど楽しいお仕事が始まりを告げた。













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シデン「[[とある人>漫画家]]に、『服を着ている時点でフラグが立っている』って言われたんだけれど……」
アグニ「いや、うん……なんとなく汚されたり破れたりするような展開を予想していた人もいるんじゃないかな」
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[[次回へ>時渡りの英雄第9話:伝説への挑戦・前編]]

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**コメント [#gf1bdf67]

#pcomment(時渡りの英雄のコメントページ,12,below);



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