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時渡りの英雄第8話:とりあえず、奴らを殺す!!・前編 の変更点


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**101:アグニは優秀? [#da8af592]
 &ruby(からみつき){唐美月};&ruby(かおる){薫};は、プクリンのギルドの正面地下にオープンしたパッチールの経営するカフェ、『マイペース』の常連として日々を過ごしていた。北の大陸で救助隊として大金を稼ぎ、今は有り余った財産を消費しながら静かに余生を過ごしている。
 彼が入り浸るこの店、『パッチールのカフェ ~マイペース~』は、地下という立地のおかげか、どんなに地上がにぎわっていても静かな雰囲気で来客を迎えてくれる。どんな時でも落ち着ける空間だ。たまに、キレイハナとルンパッパが軽快なリズムに合わせてやかましく踊る事もあるが、そういったメリハリも活きているこのマイペース。
 経営者であるパッチールの可愛らしいルックスがなくとも、常連になるに耐えられるクオリティの料理を出す店であった。
「あらぁ、ソレイスさんじゃない」
 それゆえ、ここにはいろんな客が訪れる。すぐそばにあるギルドへ依頼の受注に来た探検隊はもちろん、朝の軽食に来る者、通りがかりに利用する者。夜の時間はバーになるため、それを見計らって酒を飲みに来る者。
 プクリンのギルドの弟子たちだって多数来て、サニーからアグニの近況を聞いたり、朝食に訪れたアグニを気にかけたりと、知り合いの探検隊と談笑したりと、退屈する事は無い。
 だが、親方自ら訪れるのは珍しい。彼のメロメロボディの香りは男である薫には通じないが、その柔らかでふくよかな体ときめ細かな彼の体毛は、ある種の魅力に満ちている。&ruby(よわい){齢};30を超えてなお若さを失わない体を改めて目の当たりにして、薫はごくりと生唾を飲む。
 少々変わった男色の気のある彼は、絡みついてタチになるのが趣味という。&ruby(からみつき){唐美月};の名は体を表し、それでいて第一印象そのままな性癖をしている。それも、若い男の方が好きなようで、アグニやここの経営者であるパッチールを食事がてら観察に来ているのもそのためである。

 もちろん、彼にも節操はあって、親友の息子であるアグニやパッチールをどうこうしようだなんてよこしまな考えは全く……というと語弊がある。脳内の妄想以上の行為では考えた事は無く、実際に手を出そうとした事は一度もないので、ご安心。

 ソレイス=プクリンは大陸で移民に誘われて以来、会う機会は段々と減って、そのため最近は若い子ばかり見て来たが少しくらいなら年を重ねていても悪くないと思い直すには、ソレイスの体は十分すぎるほど魅力的だ。
「やぁ!! 唐美月さん。お久しぶり」
 少しばかり心が弾んで、薫は正面から時計回りに数えて三本目の脚を振り上げて挨拶する。
「お久しぶりぃ。アグニ君は元気でやっているかしらぁ?」
 それは、毎日サニーやたまに来る本人の口から聞いている事。しかしながら、視点が違えば意見も違うもので、上司の立場。とりわけ、弟子を息子のように可愛がっているという噂のソレイスにとっては親の視点でもあるだろう。
 唐美月はアグニの親ではないが、生活能力に乏しい頃のアグニを育てていた頃は、自分も親のつもりでアグニに接していたものだ。同じく親のように見守っているであろうソレイスの、同じような視点から語ってもらえれば、薫としても非常に参考になる。
「うん、元気過ぎてね……書類上のランクが低いのが心苦しいくらいだよ」
 果たして、その答えは嬉しいものであった。
「あらぁ、って言うと北の大陸のセイバーズみたいに才能が豊かな子だったのねぇ、アグニ君」
「うん、君が育ててくれたんだよね、薫さん。本当にありがたいよ」
 間の抜けた表情とは対照的に爽やかな声でソレイスは薫にお礼を述べるが、薫は触手を振って謙遜する。
「私は、二年も育てていないわよ。あの子は全部自分でできちゃう子だから……一人でも逞しいのよね」
「そっか、その頃はアグニ君もそんな子だったんだよね」
 ソレイスはメニューをめくりながら、ギルドに入門した当初のアグニを思い出す。ちらちらと入口を見ているのは誰かを待っているのか。

「そうだね、アグニ君は生活力があるよ。料理も美味しいし、掃除も率先してやるし一人り暮らしはお手の物だ。でも、彼の欠点と言えば、自分の感情には鈍感だから……」
「鈍感? あんなに感情表現が豊かな子なのに?」
 思いがけないことを言われ、薫は首を傾げた。
「うん、鈍感だよ。言われてから、この感情が嬉しいんだって理解する……そうだね、ちょっとした腰痛を年のせいだと思って甘く見て、知らないうちに取り返しのつかない事になってしまいそうな。そんな子……気づかない感情が『嬉しい』とか『楽しい』なら良いんだけれど……『寂しい』とか『哀しい』だったら、彼は取り返しのつかない事になるかもしれない。
 でも……うん、それを解消してくれたのがきっと薫さんであり、今のミツヤなんだろうなぁ。親方として、感謝するよ」
「あぁ、そう言えばミツヤ……あの子との関係はどうなっているのかしら? 今頃キスの一つや二つは行っているんじゃないのかしらぁん?」
「そう言う匂いはしなかったよ。まぁ、旅先でどうなっているかまでは把握していないけれど……っていうか、薫さんも野暮だね。若い男女の秘め事なんてあんまり気にするものじゃないよ」
 やれやれと苦笑して、ソレイスは店員を呼ぶベルを鳴らす。
「あらぁん。もしもミツヤ君がその気なら、男の攻め方の一つや二つ教えてあげたいだけよぉん」
「それは……確かにそれは僕には教えられないことだね。ふふ、男の体の探検は唐美月さんの方が上かぁ」
 かろうじて動揺を隠しながらソレイスが言い終えると、二人の前に店員が現れ、メニューを訪ねる。案の定というべきか、ソレイスは飲み物にはりんごベースの飲料を頼む。料理の方は、シンプルな塩焼きの魚にホエルオーの暖流交易船から送られてきた貴重な香辛料を香り立たせた料理を頼む。
 しばらく談笑して届いたつけあわせのミルク粥には、たっぷりのカエデ蜜と香辛料。腹の底から空腹を目覚めさせる甘く刺激的な香りのそれを、彼は口いっぱいに頬張りながら鼻孔に空気を通していた。

「しかし、ソレイスさんがこのお店に来るのは珍しいわねぇ。こんなに近いのに、もったいない……」
「まぁ、今日は用があったからね。待ち合わせ場所には、こんな所も分かりやすくっていいものさ」
 そう言って、ソレイスはチラチラと外を気にしていた。談笑を弾ませている間も、会話の邪魔にならない程度によそ見をしては、周囲に気を配るソレイス。やがて、飲み物のグラスが溶けかけの氷だけになった所、砂漠からの客人と思われる、布をかぶった女性の客人がカフェに現れた。
「おや、来たようだね」
 その姿を確認すると、ソレイスは椅子から立ち上がる。
「済まないね、薫さん。僕はあの人に用がある……いや、あの人が僕に用があるんだけれど、とにかく行って来るね」
 そう言って、ソレイスはその女性の元に歩いて行く。
「行ってらっしゃぁい」
 正面から時計回りに数えて三本目の脚を振り上げて、唐美月薫はソレイスに手を振る。
 二人が奥の席に移動したとき、唐美月は考察する。あの布の中身は恐らくラッタであろう。砂嵐に対してダメージを受けてしまう体の者は、グラードン信仰に置いてはその肌自体が『穢れ』と認識され、肌を隠すこと義務付けられている。そして、それがああした形で服装に違いが出る。
 ホウオウ信仰とは逆で、服を着るものほど身分が低いので、あのラッタの経済状況も恐らくはたかが知れているといったところか。
 その女性と共に消えて行ったソレイスとの間に何が起こったのか、グラードン信仰の女性とあらば、あまり他の宗教とは関わりを持たない戒律のはずで、特に異教徒の異性とは決して話してはならない。
 外の世界にあこがれてその戒律を無視するか一時的に捨てることで探検隊や商人、出稼ぎに出る者もいるが、こうして砂嵐の無い土地でも布をかぶっている以上は、なるべく戒律を守って行く心がけはあるはず。
 だと言うのにあのラッタ、異性と話すような行為をするとは一体どんな理由でソレイスを訪ねたのか? ソレイスとの間に何が行われるのか? 不可解な状況なので、薫の疑問には仮説すら浮かばなかった。


**102:服を着る日はバークアウト日和 [#ta1dd969]

十二月五日

 年の変わり目も近い、夏が徐々に深まってゆく日々。海から来る風は寒流に冷やされた涼しい風、冷たい流れは雲を吐きだすことも無くカラリと乾燥した夏の気候は、他の季節よりは暑いけれども、じめじめした夏に比べればとても過ごしやすい。
「おい、お前達!! 親方様がお呼びだ!!」
 良く晴れた仕事日和の日だと言うのに、朝礼が終わってすぐにこのチャットの声掛け。最初は、いやな予感がしたが、予感などそうそう当てになるものではなかったらしい。

「親方様。ディスカベラーの二人を連れてまいりました……親方様? おーやーかーたーさーまー?」
 また目を開けたまま寝ているのか、プクリンは無反応だ。
「やあっ!!」
 ビクッ!! と、皆が肩をすくめる。
「君達、先日は大変だったね。でも、苦労した分だけ、僕は君たちの活躍を見ているから、大変なだけだったとはどうか思わないでね」
「は、はい……」
 若干ソレイス親方の雰囲気に気押されつつ、アグニは答える。
「それで……ここからが本題なんだけれど……実は、僕達のギルドでは近々遠征の予定があるんだよ、君達が仕事に行っている間に他のメンバーにはもう話した事なんだけれど……ね」
「え、遠征?」
 アグニはソレイスの言葉に食い付き、勢いよくオウム返し。
「うん、ギルドを上げて遠くまで探検に行くんだ。当然御近所を探検するのとはわけが違うから……準備も相応のものをね」
「マジですか!?」
 チャットの言葉に、目をキラキラと輝かせてアグニは尋ねる。
「マジだ。だが、無条件で行けるほど甘くは無いぞ」
 チャットはご機嫌な様子でアグニに告げる。
「いつもなら新弟子は遠征メンバーに入れたりしないのだけれど……でも、最近の君達はとても頑張っているじゃない? だからね、今回は特別に君達も候補に入れることにしたんだよ!」
 ソレイスはアグニに微笑みかける。
「……ホントに!?」
「意地の悪い嘘はつかないと何度言ったらわかるんだい、この子は……」
 チャットは苦笑してシデンを見る。
「その点、シデン君は落ち着き払って優秀だね……感情の起伏に乏しいと言い変えることもできるが」
「……そこがアグニの良い所ですよ。悪い所でもあるけれど」
 チャットの皮肉に対して、シデンは見事な答えを返す。
「はっは、違い無い!! アグニのその気質は私も可愛いと思っているよ!!」
 チャットに笑いものにされたアグニ肩をすくめながら照れ笑いしていた。

「さてさて、さっきも言った通り、まだお前らはメンバーを選ぶための候補でしかない。だから、メンバーを選ぶ日までに良い働きをしなければ、この街に居残ってもらうから、そのつもりでね」
「僕は君たちならば大丈夫だと信じているよ。頑張ってね」
 チャットの言葉を引き継ぐように、ソレイスが激励して笑う。シデンがアグニに目をやれば、案の定というべきか彼は武者震いをしている。
「ミツヤ!! 遠征だって!! すごいよね!!」
「あ、あぁ……うん。アグニがそう言うのならきっと……」
 若干テンションについて行けない様子でシデンは答える。
「オイラ、急にドキドキしてきたよ!! オイラ達も絶対メンバーに選ばれるように頑張ろうね!!」


 そうして、やる気の出たアグニはその日から今までよりも難しめの依頼を積極的に選ぶようになる。飴と鞭ならアグニには鞭を与えた方がいいと思っていたシデンだが、最近は鞭を与える機会も少なくなんだかんだで飴を得るために自分から試練に挑むようになった。思えば目覚ましい成長だ。
 アグニの成長を嬉しく思いながら依頼をこなしているある日、シデンの体は不意に不調をきたす。シデンは朝から頭痛に悩まされていた。今日は服を着る日、シデンは探検隊仕様の丈夫で汚れも目立ちにくい服を身につけようとも思ったが、アグニは今日は依頼を選ぶだけにして休もうと提案する。
 そのため、白を基調に先端へ薄紫、胸元に朱色のアクセントをつけたフレアスカートのドレスを身にまとい、オシャレついでに局所から滴り落ちる赤い血が零れないように誤魔化している。
 そんな、ただでさえ服を着る日で((月経の事。ホウオウ信仰では月経の際には服を着て足元を汚さないように気を使う))イライラしていると言う日でも少しは機嫌が良くなるようにと、とびっきりのおしゃれをしてきたのだが、掲示板の前ではウジ虫の湧きでる池に蹴り落としてやりたくなるような、性根の腐った屑の姿。
 シデンの機嫌もいきなり悪くなる。

「あ……お前ら……」
 ズバットとドガース。記憶を失って目覚めて初めて出会ったその二匹である。
「あー……普通に喋ってる。牙は大丈夫だったんだ」
 ドガースの言葉に、シデンはそんな嫌味から会話を始める。
「て、テメェ……」
 ズバットがシデンを威嚇する。
「お前ら、オイラの大切な物を奪おうとした屑……こんなところで何をやっているんだ!?」
「ケッ、俺等は探検隊なんだよ。お前らと同じな」
「一緒にするな屑」
 ドガースが嫌味ったらしく言うと、間髪いれずにシデンは口にする。服を着る日でイライラしているせいもあって、いつもよりも遥かに言葉がきつい。ドガースはグッ、と歯ぎしりをする。
「へへ、探検隊が掲示板の前に居て何がおかしいんだよ」
「お前が探検やっている事がそもそもおかしいだろ屑」
 またもやシデンは間髪いれない。ズバットも舌打ちをする。
「はは、やり方が少しあくどいだけだ。何の問題もないだろ?」
「存在自体が問題だゴミだ。肥え溜めにでも入浴してろ屑」
 シデンは毒舌が容赦ない。
「あー……ミツヤ。容赦ないね……ともかく、シデンの言う事に全面的に同意だよ。お前ら帰れ!!」
「ケッ、やだね。そう言うお前こそ何探検隊なんてやっているんだ?」
「おい、クズ。五月蠅い」
 ドガースには発言すら許したくないらしいシデンは、そう言って吐きダメでも見るような目。
「ふん、そんなのオイラが一流の探検隊になりたいからに決まっているだろ」
「ええ~~~っ!?」
「探検隊になりたいだって~!?」
 アグニの発言を、ドガースとズバットは嘲って笑う。
「お前、ちょっとこっち来いよ」
「自分のアグニに、糞尿の濁流にすら劣る穢れた体で触るとか、また歯を折られたいの、お兄さん?」
 アグニの体に触れようとしたドガースに対し、シデンはアグニの所有権を(勝手に)主張する。頬からバチバチと放っている電気の高電圧たるや、脅しにしても物騒過ぎる範疇に達している。
 今は義歯を入れているドガースは、そのシデンの顔が本気である事を悟ると、思わず球体の体を引っ込めた。
「あら、遠慮しないでもいいのに……歯茎へのマッサージはいつでも受け入れているのになぁ」
 まるで電撃を放てなかったことを残念がるようにシデンは嫌味を吐き捨てる。シデンの嫌悪感にやられて、掲示板の前からは徐々に、そしてさりげなく人が消えていったことなど四人はまるで気づいていない。

**103:バーク☆アウト [#i339dce6]

「と、ともかくなんだ。悪い事はいわねぇから、探検隊は諦めろ」
「……なんでさ!?」
 ドガースの有り難くない助言に、アグニは噛みつくように反論する。
「だって、お前は臆病じゃないか」
「ちがいねえや。お前みたいな弱虫君に探検隊は無理だぜ!!」
「ふぅん……その弱虫にやられて、歯を折られたのはどこの誰だったっけ? たしか、紫で丸っこくって……」
 歯を折ったのはシデンだが、まるでアグニがそれをやったかのように言ってシデンは笑う。
「うるせぇ!!」
「お前がな、屑」
 ともすれば激昂するドガースに、シデンは反論を髪の毛一本分も許さない。
「確かに、オイラは弱虫だけれど……でも、そんな自分に負けないように修行しているつもりだよ」
 噛みつくようにアグニが反論する。
「うん、その努力を知らないダボが口を開くな屑」
 やっぱり、シデンの悪口は止まらない。バークアウトを彷彿とさせる、口の速い罵倒の嵐。ドガースとズバットはイライラが最高潮に達しているようで、ギリギリと歯を食いしばる様子は如何にも怒りを押さえるのが大変そうだ。
「今も、ギルドの遠征メンバーに選ばれるように頑張っているんだ!!」
「ほう、遠征があるのか!」
 アグニの言葉を拾ってドガースは笑う。
「へへ、でも頑張ればいいってもんじゃないぜ」
「そうね、歯が全部折れたりなんかしていたらどんなに頑張っても無理よねぇ」
 シデンは腕にバチバチと電気を這わせて笑う。その言葉を笑顔に乗せて言うだけで怖いが、目だけは全く笑っていないのが更に怖い。
「て、てめぇ!! さっきからうるせえってんだよ!! やるのか?」
「やらない。みんなに迷惑だし、服が汚れるもん」
 どや顔でシデンは笑う。つくづく単純な思考の屑だと、心の中で嘲りながら。

「大体、臆病だなんだってうざったいけれど……お前らオイラ達より弱かったじゃない。偉そうに言って……オイラあの時よりも随分強くなったけれど、どうなの? お粥ばっかり食べてて頭も体も弱くなっているんじゃない?」
 ついにアグニまで罵倒を始めるが、シデンに比べればキレがない。
「ケッ、あの時は兄貴がいなかったからな」
「ウインディの威を狩るキュウコンか? 雑魚が。いや、魚に失礼なほど性根が腐っているし、キュウコンが喩えられた事を知ったらショックで自殺者が相次ぐレベルの屑だ」
 あんまりなシデンの言い草に、言い返せない二人は言葉を詰まらせる。
「え、ええい!! 我が探検隊は全部で三人。そのリーダー……つまり兄貴が物凄い実力の持ち主なのだ」
「お前らの兄貴じゃたかが知れている。それにお前らが強いわけではないだろ屑」
 ズバットの言葉に、シデンは面倒そうに答える。
「いいから聞け!! はっきり言って物凄く強いのだ!!」
「へへ、兄貴さえいればお前達なんか一捻りだぜ!!」
 ドガース、ズバットの順でそう宣言すると。シデンは首を横に振りながら溜め息。
「ふぅ~……」
 更に腕を広げてお手上げポーズも加えて、さらにもう一つ溜め息
「はぁ~~っ……」
 そして、肩を落としてシデンは一言。
「馬鹿」
 何の抑揚もつけない棒読みで、シデンは二人を小馬鹿にした。
「この、糞女……」
 ズバットはこめかみに青筋を立てていきり立つ。
「待て待て、噂をすればこの匂いだ」
 ともすれば襲いかかりそうなズバットを制止したのは、ドガースのこの一言だ。
「匂い?」
 と、首を傾げてアグニは鼻をひくつかせる。シデンはすでに後ろに向き直ってその匂いを嗅いでいた。
「臭い……この悪臭がお前らの兄貴か?」
「へへ、その通りだ。兄貴のお出ましだぜ」
 ズバットがくぐもった笑いでシデンに告げる。現れたのは、深い紫色の巨体に、白い筋が入った毛皮の美しいポケモン。しかしながら、その美しい毛皮の模様は警戒色で、警戒するに値するだけの悪臭が彼からは漂って来る。
 周囲にいるものの大多数がその腐った卵のような、にんにくのような、時間のたった小便のような悪臭に顔をしかめ、まゆを潜めていた。
「どけ、邪魔だ!!」
 その匂いにまゆをひそめている間に、シデンは弾き飛ばされた。殺気も敵意もない、まるで路傍の石を蹴り飛ばすように自然に行われたその不意打ちに、シデンは全く対応する事が出来なかった。彼女は尻もちをついて、蹴り飛ばされた額を痛そうに撫でている。
「ミ、ミツヤ!!」
 シデンの元に駆け寄って、アグニはシデンの体に怪我がない確認をする。血の匂いはしないが、せっかくのおしゃれな服は汚れている。それだけでも憤懣やるかたないというのに、シデンは尻尾の部分が破けて裂けたのをしっかりと感じていた。
(アグニが……デザインを考えてくれた大事な服なのに……)
 シデンが歯を食いしばる。
 血の匂いがしないかどうかを確認する時、アグニは思いっきり悪臭を吸ってしまって顔をしかめた。リーダーと呼ばれる彼の匂いはスカタンクの出す匂いとしては普通の匂いだが、もちろん普通の個体は常にこんな風に匂いを噴出しているわけではない。
 周りのものが避けて通るのをいい事に、傍若無人な悪臭発生。よっぽど自分勝手な奴なのだろう
「どけ、お前もさっきの奴みたいに張り倒されたいか!?」
「……うう」
 凄まれて、アグニは身を縮めて恐怖する。そんなアグニの様子を見て、ズバットとドガースはスカタンクを囃し立てていた。
「そんなことより、お前達金になりそうな仕事はあったか?」
 兄貴と呼ばれているスカタンクは、下っ端二人に問いかける。
「いえ、掲示板にはせこい仕事しかなかったのですが……」
「それよりも兄貴、耳寄りな話があるんですよ。ここのギルドで久々の遠征が行われるらしくって……ソレイスの指揮する探検隊ならおこぼれにあずかるのも不可能じゃないかと」
 スカタンクの問いかけにドガース。次いでズバットが答える。そんな会話が繰り広げられている横で、シデンは唇から血を流すほど強く噛みしめていた。まだ何も具体的な行動を起こしていないシデンだが、アグニは思う。
――ああ、止めても無駄だな、と。
 ただでさえ、服を着る日のシデンは気が立っているのだ。服を着る日で気が立っている上に、体毛も服の上からでもわかるくらい毛が立っている。過去に来て、恐らくは一番の怒りをともなってシデンはチャンスを伺っていた。
 チャンスを満たした時、彼女はどれほど相手を甚振るのだろうか。ギルドで殺しまではしないだろうが、親方を呼んだ方がいいかどうかを彼はおぼろげに考えていた。

**104:魔性のメロメロボディ [#ledb26ca]

「なるほど、それは美味しそうな話だな」
「でしょー?」
 ニヤついた顔でドガースはスカタンクにウインクをする。
「早速帰って計画を練ろうぜ。俺等も何か恩恵にあずからなくっちゃなぁ。じゃーな、弱虫君!!」
 シデンがやられても立ち向かおうとしないアグニを馬鹿にして、スカタンクが後ろを振り向いた瞬間であった。シデンは項垂れたままやられたふりをしていたが、彼奴が自分に尻を向けた瞬間に全身の体毛を針のように逆立て、鋼の波導を纏わせた尻尾でスカタンクの後頭部を叩く。
 電気技はパチパチという帯電音でばれるので、確実に急所に当てようと考えた結果がこの技だ。
 しかしながら、張り倒された際に頭が揺らされてしまったのか、シデンの脚はおぼ付かず狙いを誤ってしまう。果たして、肩口にヒットしたアイアンテールは、スカタンクのバランスを崩して地面にキスさせる程度に終わる。
 彼女が本調子であったならば、頭蓋を地面に沈ませることすら容易であっただろう。
「人の服汚しておいて言いたい事はそれだけか、屑!? おいゴミ、答えろウジ虫!!」
 シデンの暴言は今までの中で最高潮に達する。血走ったシデンの目から放たれる憤怒と殺気は、一目見れば子供が泣いてもおかしくは無い。
「んーどうしたの、シデン? あ、怪我してる」
 そんな一触即発の雰囲気を割って出たのは、ソレイス親方であった。地下二階の自室にこもりながら、どうやって争いの匂いを嗅ぎつけたのか、彼はシデンを抱き寄せる。
「あ……」
 ソレイスはプクリンである。そして、プクリンの特性はメロメロボディ。男性であるソレイスの匂いは女性にとっていい匂いであり、思わず嗅ぎたくなるような魅惑の芳香。しかしながら、交尾の準備が完了する状態まで強引に持って行くその魔性の香りは、戦意を剥ぐ催淫の香り。
 だれも、敵意を抱いている相手と性交をしたくは無いし、戦っている途中や逃げている途中に性交なんてするものではない。『なら、敵意をなくさせよう』、『闘争も逃走もお終いにしよう』とか、そういう力を持ったこの香り。
 女性に取って一番性欲が減退するこの『服を着る日』だが、彼のメロメロボディはそんなことぐらいで効果は揺るがない。

 強引に抱きつかれて、無理矢理その匂いを嗅がされているうちに、シデンの戦意も殺意も徐々に薄らいでいく。シデンの目がとろんとしてきたところで、ソレイスはスカタンクに向き直る。
「大丈夫かい? ミツヤ君がよろけて君の肩に当たったみたいだけれど……」
「ざ、ざけんな!! アレがよろけたっていうのかよ?」
「うん、僕にはそう見えたよ。ほら、ミツヤ君の足取りはこんなにおぼつかない」
 言葉の通り、シデンの足取りはおぼつかない。否、むしろ虚ろな目をして人形のようになっているといった方が正しいか。
「これでは、よろけた拍子にアイアンテールのような形になって、君の肩口を強く殴打するのも仕方がないよね? そして、足元がおぼつかない理由はなんなのかな? ミツヤ君の額には、君の匂いがこびりついているけれど……何か関係があるのかな? インドール=スカタンクさん?」
 スカタンクのフルネームを呼んでソレイスは微笑む。喧嘩両成敗ではなく、喧嘩した両方を無傷で済ませる。ソレイスらしい信念を垣間見て、傍で見ている事しか出来ないアグニはハッと息を飲んだ。ソレイスのその澄んだ瞳に宿る、底知れない意思の力。
 何を考えているか分からない妖精のような方だとチャットに言われているが、下手に逆らえば何をされるのか全く分からない怖さがある。
「くっ……」
 その怖さは、インドールにも理解出来たようで、彼は小さく毒づくとソレイスから目を背け、ギルドを去って行った。


「ふうっ。アグニ……ミツヤが転んじゃうなんて大変だったね」
 にっこりと笑って、ソレイスが抜け殻もしくは恍惚状態のシデンをアグニの胸に抱かせる。
「さて、僕はもう仕事に戻るよ。ともだちともだちー」
 アグニが戸惑っているうちに、ソレイスは軽快な足取りで地下二階へと向かって行った。後に残された掲示板の周りの者達は、ただ呆然とその様子を見ている事しか出来なかった。
「ミ、ミツヤ……大丈夫?」
「大丈夫……思ったより、蹴り飛ばされた時のダメージがでかくって……あのまま戦っていたら負けてたかもしれない……親方にはお礼を言わなくっちゃ……」
「あぁ、そう……ごめんね、ミツヤ。あいつを前にして、オイラ戦う勇気が出なかったよ……」
「いや、確かに弱虫だけれど、それで構わないよ」
 シデンは溜め息をつきながらアグニの抱擁を振りほどき、頭を覚醒させるようにかぶりを振る。
「あのまま戦っていたら、きっとチャットあたりに怒られていたよ。それに、ギルドの仲間に助けてもらえるから負けても死にはしないけれど……それで安心って言うのも後味が悪いし。
 一発殴れば気も済んだ……お相子って事でさ、なんとか心を静めてみせるよ」
 シデンは力ない笑みを浮かべる。
「ふぅ……やっぱり弱虫か。オイラ……」
 意気消沈した様子でアグニは溜め息をつく。
「でも、臆病ってそれだけ生き残る可能性が高いとも言えるよ、アグニ。めげても仕方がないよ……弱虫でも良い、いざという時だけ戦えればいいじゃない? 今回は戦う時じゃなかった……そうでしょ? サライの時は戦えたんだし……さ」
「そ、そうだよね……オイラが弱虫なのは今更なことだし。勇気がなくても頑張ろうって決めたんだから……こんなことで挫けたりはしない。オイラ元気出していくよ」
「よし、その意気だよアグニ」
 アグニの背中をバシン!! と叩いて、シデンは笑う。
「いててて……励ましてくれてありがとう、ミツヤ」
 力加減の出来ていない激励に顔をしかめながら、アグニはシデンに笑顔を向ける。
「とりあえず……遠征に選ばれるためにも、お仕事を頑張らなくっちゃね」
 気を取り直して、二人は依頼を選び合う。遠征へ期待を馳せるアグニと、その様子を暖かく見守るシデンは、今日も仲むつまじく笑い合っていた。

**105:嫌われ役 [#c36f4287]

「あぁん!? ドクローズがウチのギルドの遠征に参加したいだって? そんなの無視無視!!」
 インドールの計画というのは、簡単な物で、まずはプクリンのギルドに取り入って遠征に参加する事であった。チャットは仲間入りという言葉を聞いた瞬間、頭ごなしにそれを突っぱねるが、これはインドール達にとっては意外なことである。
 彼奴等の悪評は世間一般に広まっているわけではないし、そもそも警察でさえ知らないものが多いため、そこいらの中小ギルドならば成功したかもしれない。
 なぜ一般には知られていないのか、というのは簡単だ。被害者は弱みを握られているために言えない。奴らの罪を告白してしまえば、自分の首を絞めることになってしまうから言えない。それだけの単純な理由。しかし、強力な理由である。
 しかしながら、チャットは情報屋。どこからかそういった悪評の情報を仕入れては頭の片隅においている。今日プクリンのギルドを利用されただけでも内心憤慨していたチャットが、奴らが自分たちの仲間になりたいなんて良迷いごとを聞いた時は酷い物で、親方相手だというのに烈火の如く怒り出したくらいだ
 彼らのやり口の汚さを知っていれば、当然である。
「うん、僕もそう言いたいところだけれど……ここはどんな者でも、犯罪者以外は柔軟に受け入れるギルド。警察が立件出来ていない以上、僕は仲間入りを認めるよ」
「またそんな事を……親方様、確かに親方様は犯罪者を師匠と仰いだ事があるから、貴方が性善説を支持したい理由も分かりますが……心の底から悪い奴はいないなんて言ったって……奴らは危険すぎます。何をたくらんでいるのか……」
 チャットは焦ってソレイスを説得しにかかるが、ソレイスは静かに首を振った。
「だからこそだよ」
 力強い声で話を遮られ、チャットは黙る。
「彼らを僕の監視下における。それは、いい事じゃないのかい?」
「物はいいようですね……しかし、それでは弟子達が危険にさらされます」
「そうだね、でも最後の文を見てみなよ」
 ソレイスは力なく笑いながらドクローズの書いた手紙をチャットに渡す。
「『''お互いのためにも''、私達を臨時でチームに入れてもらえませんでしょうか?』って書いてあるけれど……『お互いのためにも』が、心無しく太い字になっておりますね……脅しなのかどうか」
「僕の目の前で読み上げる時、インドールは『お互いのためにも』を強調した。十中八九脅しとみて間違いない。多分、仲間にしてあげた方が安全だ……」
「では、泳がせておくしか方法がないという事ですか?」
 チャットの問いに、ソレイスは頷く
「うん。奴ら、今日の朝方にシデンが反撃したおかげで、内心はらわたが煮えくりかえっている。辛いだろうけれど、奴らを刺激しないためにも、僕らは遠征までの間二人には手出しをしない方がいい……」
「ちょっと、待ってください。インドールは、砂漠を往復していた女性を……強姦したのですよ? グラードン信仰では、犯された被害者も立派な姦通罪だから泣き寝入りしか出来ず……それで貴方に復讐を依頼したんじゃないですか!?」
「知ってるよ。その人から依頼も受けた事も忘れちゃいない」
 まるで当然のようにソレイスが言うので、チャットは目を見開いた。
「親方様……貴方にとっては、まさに願ったりかなったりという状況だということなのですね」
「当然だよ。その依頼の内容だけれど、いかんともしがたいものだし、こっちの国ではあまり罪を犯したくない……やるなら国外だ」
「と、言いますと……」
「国際指名手配は滅多なことじゃされない。それに、奴らは基本的に警察に泣きつく事は出来ない身分……僕は遠征中に決着をつけたいと思っている」
「……彼らが弟子たちとトラブルを起こした時はどうしましょうか?」
「不自然と……思われない程度にドクローズを立ててあげてくれ」
「私に憎まれ役を演じろと?」
「そう言う事になるね」
 ソレイスは沈黙しチャットを見つめ続ける。澄んだ目で、遠くに聞こえる波の音だけが耳につく時間を、無為に流れ去らせて見つめ合う。
「分かりました」
 チャットが根負けした。
「すまない……それで、僕の計画というのはだね」
 ソレイスは溜め息をついて計画の一端を話し始める。それを聞いてしまえば、チャットも奴らの臨時的な入門を許可しないわけにはいかなそうだ。

**106:不愉快な仲間入り [#a7f313e1]

 数日後――
「三つ、みんな笑顔で明るいギルド!!」
 全員で唱和して、いつものように各々仕事に取り掛かる……はずなのだが。今日はいつもとは事情が違い、チャットは解散の合図を出さなかった。
「さて、みんな。今日は解散する前に、新しい仲間を紹介するよ」
 笑顔でそう宣言すると、チャットは翼で梯子を指し示す。ギルドの弟子たちは、また新しい弟子でも増えたのかと心を躍らせていたが、果たして、その期待は裏切られる事となる。
「おーい、こっちに来てくれ!!」
 楽しげに声をかけたチャットの呼び掛けに応じて、それは姿を現す。
「なに、この匂い……」
 まず、サニーが顔をしかめる。意外と匂いに敏感なのか、位置の関係もあって彼女の反応が真っ先に反応する。鼻をさすような刺激臭、排泄物の匂い、カラシナの匂いを濃縮したような不快な匂い。
「この匂い……ゴミの匂いだ」
 シデンがいきなり殺気をむき出しにして毛を逆立てる。
「ケッ、ガラン=ドガースだ」
「へへっ、コーダ=ズバット」
 まともに自己紹介をする気もないそいつらを、ギルドのメンバーは冷ややかな目で見ていた。
「インドール=スカタンクだ、覚えていてもらおう。特にお前ら二人にはな」
 にんまりと、胸糞悪い笑顔をこびりつかせてインドールはディスカベラーの方を見た。
「テメェら……どの面下げてこのギルドにきやがった!?」
 声を荒げないように、低く唸るような声でシデンは尋ねる。もはや脅しに近い。
「なんだ、顔見知りなのか? 仲が悪いようだが……これからギルドで行われる遠征の助っ人として彼らは参加してもらう事になったのだ」
「あぁん!? なに勝手に決めているんだチャットこの糞野郎!! 十万ボルト浴びせられてぇのか!!」
「ちょ……ミツヤ。流石にそれはまずいから……」
 あまりに粗ぶっているシデンを諌めるように、アグニはシデンの腰を抱く。しかし、アグニが掴むその力は弱々しく、振り払おうと思えば簡単だろう。しかし、アグニの静止が効いたのか、歯ぎしりしながら彼女は落ち着いた。
「ま、まぁ……色々あるようだが……ははは。ともかく、みんな仲良くするようにな」
 チャットは苦笑して話を切ろうとするが、他の弟子からもブーイングに近い言葉がチャットに飛んでいる、あんな自己紹介をするような奴と、仲良く出来そうもないだとか。チャットへ届く苦情の念は絶えない。
 彼も親方の話を聞いた以上、協力せざるを得ない状況になって色々大変なのだが、それを口に出すわけにもいかず、チャットはぐっとこらえるしかない。嫌われ役を演じざるを得ない彼も中々の苦労人である。
「と、ともかく!! 今回親方様は、遠征にこの三人が居てくれた方が戦力になると判断されたのだ!! 文句なら私じゃなく親方様に言ってくれ!!」
 チャットが弟子に一括すると、流石に皆黙ってしまった。親方には、誰も意見出来ないくらい信頼を寄せているようで、『何か考えがあるのだろう』と思うと反論も難しかった。
「ただ、いきなり一緒に行動してもチームワークは望めない。なので、遠征までの期間、共に生活してもらう事になったのだ。短い間だが仲良くしてやってくれ」
「糞が……」
 シデンはあからさまに毒づいた。これだけシデンに言われても、意見を曲げないチャットの精神力も中々にタフである。彼も本当に苦労人だ。
「チャットは臭いと思わないのかな……」
 ラウドが悪臭に顔をしかめながら、珍しく声を潜めて仲間に話しかける。
「トリですもの。視力はいいけれど匂いには鈍感ですわ。黙れトリって感じですわ!!」
 サニーも、いつもは太陽のような眩しい笑顔だが、この時ばかりはキマワリの笑顔も型なしだ。
「うう、早い所遠征が終わって欲しいでゲス……臭いでゲスよぉ」
 楽しみにしていた遠征もこれでは憂鬱だとばかりにトラスティは言う。単純の特性を持つビッパの彼は、匂いによって上下するテンションも極端だ。
 皆、小さな声だが明らかに喋っている事はバレバレで、それをチャットはどういう思いで見ていたのか。恐らくは、『私だってこんなことはしたくないんだよ!!』くらいの事は思っていた事であろう。
「それではみんな。仕事にかかるよ!!」
 その声も、心なしか元気がなかった。しかして、苦労をしているのだと同情はしても、下がったモチベーションまではどうしようもない。応える声も、酷く元気に乏しいものであった。

「……元気がないね」
 それは正直な所仕方がない。
「だって、こんなに匂うのによぉ……元気出せっていう方が無理だってぇの……」
 ラウドが大声を張り上げる。これでも普通に話しているつもりなのだが、これは彼がドゴームである以上仕方がないことなのか。
「……あ、あれ?」
 そこまで言ったところで、ラウドは何か強烈な違和感を感じる。
「たぁ……たぁぁぁぁぁ……」
 ソレイスが震えていた。プクリン特有のつぶらな瞳を存分に潤ませて、嵐を呼ぼうとしている。
「い、いかん……親方様のいつもの怒りが……」
 収集を付けられなくなっていると判断したらしいソレイスは、この場をこれでお茶を濁す事に決める。
「親方様を怒らせてはとんでもない事に……みんな、とにかく無理矢理のでも元気を出すんだよ、ホラ!! さぁ、仕事に取り掛かって!!」
 周りの者達はチラチラと様子を伺いつつ、もはや仕方がないと諦める。
「お仕事、頑張りますわー!!」
「ハイでゲス!!」
「おっしゃー。気合い入れて行くぜ―」
「もう、どうにでもなれ!!」
「あ、はははは……みんなの気合いに負けないようにオイラも頑張らなくっちゃ」
「えと……わたし、こんな匂いの中でもめげません」
 サニー、トラスティ、ラウド、シデン、アグニとやけくそになって声を張り上げた。おしとやかなレナだけは叫ばなかったが、一応は前向きな言葉なので良しとしよう。
 最後に、ドクローズの三人が不快な声でよろしくと言って去って行った。
「くたばれ、掃き溜めにも劣る汚物の塊が」
「まぁ、そう言いたくもなるよね……あいつら絶対何か企んでいるだろうし……注意しなきゃね」
「注意どころか、仕事に邪魔したらなぶり殺しにしてやる……」
 どうやらシデンは昔のように戻ってしまったらしく、言動がいちいち不穏である。どうしてこうなったと溜め息を付きつつアグニは悪臭に意気消沈する。
 チャットから掲示板の依頼を消化するよう頼まれた時は、いつもならやる気がうせるのに、今日はここから離れられる事がひたすら嬉しかった。

**107:帰郷 [#v4fb3a3b]
十二月十三日

 コリンへ大陸中のポケモンを敵に回させる作戦はまだ効果らしい効果は出ていない。殺したのはアーカードのほかにシデンが人間の頃の姿で行商人一人仕留めただけ。その数を考えればある意味では当たり前なのかもしれない。
 しかしながら、エッサがアーカードへの復讐のためにと、大量の金貨を片手に探検隊連盟に頼みこんだ影響で、すでに強盗殺人犯のジュプトルと金髪の人間には滅多に見る事の無い額の懸賞金が掛けられている。そのジュプトルとコリンはまだ結びつけられた存在として考えられていないが、それも時間の問題かもしれない。
 コリンや人間時代のシデンに変装したクシャナは時の歯車のレプリカを腰に下げてとして行動していた。この世界に唯一送り込まれた刺客であるコリンとシデンが時の歯車を盗んでいるという確信の元に。
 コリンが誰かに荷物を調べられた際、歯車を指摘されればいつでも捕縛される口実を作られるように。

 エッサは、探検隊連盟への報告を終えた後はしばらくやるべき仕事も無いので、アーカードの故郷で死体の埋葬を手伝うことにした。
 アーカードの故郷では、あまりにもひどい状況を見かねてキザキの森やミステリージャングルを離れる者が後を絶たなかったため、まだ多くの死体は野ざらしだ。
 このままでは腐ることも無いから、永遠に暖かい死体のまま死に顔を晒し続けることになってしまう。放っておいても計画に鼻にも支障がないのだが、どうしてもそれを放っておくことが出来なかった。

 ◇

 ドゥーンへの説教と脅しを終えたセセリ達チャームズ一行は、数日後にようやく宿屋の店主と朝食がてらの会話中に故郷のミステリージャングルに起こった惨劇のことを知る。
 気楽な旅の身。未攻略の遺跡に意気揚々と繰り出した先は当然のように未開の地。ドゥーンがいつ発掘品が危険に晒されるかもわからない所へ寄贈した行為を諌めようと思い、追いかけた時は周りの情報なんて耳に入らなかった。
 ただ、歴史を舐めているのかと叱責したい。そのことだけで頭がいっぱいで情報を仕入れるのが遅れてしまい、飛行タイプの高速便を駆ってたどり着いたのは、惨劇から一ヶ月半ほどほどたった……夜なのか、昼なのか。一応、時間が分からなくなる領域まで入りこんだ時は昼だった。

 あまりに静かで、怖いくらいだ。仲間の息遣いや脚音が不気味なほどに響き、それが一層不安を引きたてる。なんせ、ミミロップの巨大で敏感な耳でさえ何も音を捉える事が出来ないのだ。リーダーであるセセリもあまりの静けさに何か悪い夢でも見ているのではないかと気分が悪そうだ。
 また、魂の弱い生物は時間を停止させてしまっているため、草木や虫の微弱な感情すら一切なく、サーナイトのエヴァッカはあまりに角が寂しすぎて肩をすくめる。このパーティーは全員周囲の環境の変化に敏感なだけに、それが全くないこの時間停止と言う状況にはどうにも居心地が悪い。
 だからと言って、人恋しいと思うのは間違いだったといいうことを、まず最初にエヴァッカが気づく。

「エヴァッカ、大丈夫……? じゃないわね……どう見ても」
 みしみしと音がしそうなほどに握りしめられたエヴァッカの指は、赤く充血している。歯を食いしばり、自身の指に痛みを分かち、それでも耐えがたいのは角に伝わる不快感。感情を感じる能力が、すさまじいまでに膨れ上がった負の感情を無尽蔵に受信して、エヴァッカの体調をむしばんでいる。
「まだ、いけます」
「無理しちゃダメよ、エヴァッカ。あんた、角を悪くしても知らないよ?」
「でも……」
 エヴァッカとセセリは、住んでいる地区こそ大きく違うものの、どちらもミステリージャングルの出身。家族の安否は当然のように気になるものだ。
「倒れられても困るのよ……真面目に」
「それでも、家族の安否が……」
 当然の感情だ。家族や友人がどれだけ無事かを知りたいのは。
「それに、あのジュプトルの賞金首の話聞いたでしょ? アーカードさんが死んだって聞いて……私……」
「それは……わかるんだけれど……」
 角を取り外しでも出来ないと、これ以上進めそうな様子ではない。
「大丈夫。私は大丈夫だから……」
 それでもあくまでエヴァッカは大丈夫と虚勢を張る。こうなるともう、梃子でも動いてくれなそうだ。
「仕方がないわね」
 セセリは溜め息をつく。近づいただけでもこんなに顔色が悪いのに、集落の中に入ってしまえばどれだけの絶望や悲しみがあふれていると言うのか。感情を感じ取る能力の無いセセリには到底理解のできないことだが、相当きつい事だけは想像に難くない。

「帰った方がいいわ、エヴァッカ」
 いや、むしろ舐め掛かっていたと言うべきか。残留思念まで凍りついたこの状況では、生の感情のみならず鮮度を保ったままの残留思念まで容赦なくエヴァッカに襲いかかる。それをまともに食らい続けたエヴァッカは、集落に入る前に一度吐く。
 吐いて楽になったからと虚勢を張ってからも再び吐いた。おまけに過呼吸にまで陥ってしまったところを、一度吸気した生命力の弱い空気を口移しで送り込み、なんとか過呼吸をやわらげ今に至る。
「……角がね、麻痺してきたわ。だからもう大丈夫」
 虚勢を張って絞り出した表情は、力無い笑顔であった。
「それって、良いことじゃないと思うんだけれど、エヴァッカ?」
 アキがエヴァッカの体をさすりながら、すっかり蒼くなった彼女の顔を覗きこむ。やはり、健康的なはずの彼女の白い陶器肌は病的なほどに黒ずんでいる。
「分かってる……もう、拷問なんじゃないかって思うくらいの感情を浴びて来たから……体がもう拒否しちゃったみたい」
 自嘲気味に浮かべた笑顔から、その笑顔を着飾るように綺麗な大粒の涙が漏れる。背中をさすりながらアキは周りを見渡した。住民は殆ど旅立っているし。残っていたとしても家に閉じこもっている者がほとんどである。
 この状況じゃ食料もまともに食えたものではないのだろう、皆やつれていた。

 食料を食べられる状態にするには、ゆっくりじっくり口の中でほぐすようにしなければ時間を取り戻さないし、相当の力を加えなければ時間の止まった物体は砕けない。
 ここでは食事だけでも相当の時間が喰われるだけでなく、体調を崩してしまったものや怪我人の介抱に追われて未だに死体の埋葬は済んでいない。見ているだけで悲しみと絶望と憐れみが湧き上がってくるが、そんなことを考えていると余計にエヴァッカを苦しめることになるので、アキは瞑想して心を鎮める。チャーレムである彼女ならば、歩きながら瞑想することなどそう難しくは無い。
 歩きながら自然と一体になって、幸も不幸も超克すれば、アキの感情がエヴァッカの負担にはならない。そして、アキはその状態でエヴァッカの体をサイコパワーで支える。瞑想で強化されたサイコパワーでなら、こうして運ぶのも楽な仕事だ。
「ありがとう、アキ……貴方の気遣いがうれしいわ。ちょっと元気が出たかも」
 ともすれば、リーダーであるセセリまで非常に不快な負の感情をまき散らしているこの状況。無心の状態のアキに肩を預けられると言うのは非常にありがたい。
 枯れた葦のように頼りない足取りのエヴァッカを連れ生存者を捜すが、結局エヴァッカが急ごしらえの墓場で再び過呼吸を起こして倒れるまで彼女らと親しい間柄の生存者は見つからなかった。

 親しい生存者が見つからないのも当然だ、アルセウス信仰とミュウ信仰は仲が悪い。対立する宗教同士では、表立って恋人や友人などといった関係になることはせず、宗教を気にせず話せるアーカードやチャームズが特別なのだ。
 よって、必然的に付き合う友達もミュウ信仰になってしまったセセリとエヴァッカには、アルセウス信仰に比べて数でも兵力でも劣るミュウ信仰がほぼ全滅と言う重い現実がのしかかるのはある程度当然だ。
 しかしながら、分かっていてもミュウ信仰の集会場がつぶされていたり、ミュウ信仰の神官等の役職連中が軒並み息絶えている事は耐えがたい。

「……みんな、辛かったのね」
 それを、残留思念で感じ取ってしまうエヴァッカであれば尚更のこと。麻痺した胸の角でさえも、きちんと感じ取ってしまうほどの濃い感情の奔流。
「その辛さ……その悲しみ……少しでも癒してあげられたら……」
 そう言って、エヴァッカはバッグから取り出したナイフで自身の親指に傷をつけ血を流す。陶器のように白い肌に赤い血がにじむと、その血液は空気に触れた途端、光を放って揮発する。
「貸して……」
 続いて、倣うようにセセリもナイフを受けとり、親指に傷をつけて血を流す。二人が使った技はアキはそれに追従するでもなく、黙って見守り、自身も手を合わせた。
 二人が行っていた技は癒しの願いであった。いかなるポケモンとも生殖し、その&ruby(からだ){躰};に血の系譜を刻みこむミュウを信仰する彼女らは、血液を神聖視し死者を弔う時も好んで血を捧げ、時にはその血で癒しの願いを発動させることすらあるがゆえ、こんな弔い方が一般的だ。
 ひとしきり祈りを捧げた彼女らは、大多数の者が故郷を捨てて旅立ったこの場所で、知り合いの生存者を捜す。
 誰でもいいから誰か居てくれればいいのだけれど、と。かすかな希望を頼りにして。

**108:墓参り [#x230581f]

「アーカード……貴方……どうしてこんなことに……」
 セセリこと、美しいミミロップはミステリージャングルに運び込まれたアーカードの墓の前で跪いて泣いていた。ミステリージャングルにはもう、墓石が足りないらしく、彼が愛用していた荷車とその金具が墓標代わりにおかれていた。
 生前の名であるアーカードと刻まれた木の板が彼の唯一の面影だ。もうかなりの日数が立っているが、このミステリージャングルに転がった死体を見る限りでは、きっと掘り返せばまだ腐食の進んでいないアーカードの顔が見られるのだろう。だが、それをする気はもう起きなかった。
 死体ならもう十分すぎるほど見ていて飽き飽きしている。
「すまない……セセリ。俺は護衛役だったのに……あのジュプトルの前には何も出来なかったんだ」
 エッサはセセリの背中を叩いて共に悲しみを分かち合う。アーカードは、セセリがミミロルであった時代、セセリに森の外の暮らしを聞かせて、彼女が外界に出るきっかけを作った男性である。
「貴方の、女顔負けの美しさに……サイコパワーの強さに……商売上手で賢い立ち回りが出来る所に……私、憧れてたのに……なんで死んじゃうの……」
 良質なタバコを売り歩くアーカードは気の良い行商として皆に親しまれていた事を風の噂で聞いていたのだが、その後の彼の顛末をまさか訃報で聞くことになるなど思ってもみなかった。
 後ろに居るアキとアーカードの間にはあまり関わりが無いが、リーダーであるセセリに同情するあまり、彼女も涙を流し追悼している。
 エヴァッカの方は、サーナイトという種族の感覚器官がそうさせるのか、哀しみの感情を受け取り過ぎて吐き気がこみ上げ、こめかみに青筋を立てながらなんとか祈りをささげている。
 アキは修行の山と呼ばれるダンジョン周辺特有の仕草でアーカードを追悼し、冥福を祈っている。全員の仕草がこの場に漂う悲しみの深さを伺わせた。

 ひとしきり泣いた後、セセリは耳の豊かな体毛で涙を拭いて、アーカードの相方であったエッサに振り返る。
「犯人は、ジュプトルの男だったわね? 詳しい特徴は分かるかしら。探検隊連盟に伝えていない事でも、思い出した事でも」
「顔を隠していたから、よくわからない。だが、何か変な……綺麗な青白い腕輪のような物を持っていた」
「青白い腕輪?」
「ええと、よくわからないけれど……そんな装飾品を持っていた。でも、腕輪には小さすぎるし指輪には大きすぎたから、やっぱり違うかもしれない……」
 そう言って、エッサは地面に具体的な形を描いてみる。中心に穴が開き、凹凸の付いた正多角形と表現すればいいのだろうか、それはまるで――
「時の歯車?」
 セセリがその絵を見て、最初に感じた印象を口にした。即答するあたり、きっと彼女らはどこかでそれを見た事があるのだろう。
「ですよねリーダー。あたいもそう思いました」
 アキもそれに同意して、セセリはごくりと息を飲んだ。
「時の歯車って言えばそいつが盗まれたせいでこうなったのんだろ? じゃあ、その強盗殺人ジュプトルは時の歯車を盗んでいる犯人と同一人物なのか?」
 言いながら、エッサは険しい顔をして首をかしげる。普通なら無条件で恐れてしまいそうなエッサの歯を食いしばった顔にも、平然としたまま、セセリは考えた。

「その可能性は高いけれど……いや、ともかく案ずるより産むが易し……ともかく、私達も動こうと思う。我らチャームズは、狙った獲物は逃さない……そのジュプトルは絶対に許さなくってよ……お前の血で、死者を弔わせてやる!!」
「リーダー……そんな乱暴な事しちゃって、アタイらチャームズのイメージが崩れないかい? せっかく築きあげたイメージも台無しだよ」
「アキ。償いの血……っていう習慣があるのよ、ミュウ信仰には……文字通り、罪人の血で死者を弔うの。乱暴じゃない、神聖な儀式なのよ……ミュウ信仰にとっては、だけれど」
「で、でも……」
 セセリの握りしめた拳でメキメキと骨が軋む。セセリは何も言わなかったし、睨みつけもしなかったが、その怒りを推し量ることは出来る。
「分かったよ、エヴァッカ……リーダーも。アタイも協力する」
 憎しみが薄いだけに、協力しかねるアキであったが、彼女らの怒りはどうやら本物だ。
 当然だ。滅びかけの宗教であったミュウ信仰を守って行くべきだと信じ続けて今日まで生きて来たというのに、ミュウ信仰はもはや自分達以外に生き残りを見つけることすら大変な状況だ。
 今や自分達には、帰る場所も親しい人たちも何も残っていない。失うものを殆ど失ったセセリとエヴァッカに、もう残された行動的な選択肢なんて復讐しか思い浮かばないのだ。それに、復讐の是非はどうあれ時の歯車を盗んだ奴とあれば捕まえないわけにはいかないだろう。
 アキにもまた、選択肢なんてほとんど残されていなかった。
「お前達程の探検隊が動いてくれるなら心強いよ……アーカードの仇……とってくれ」
「よろしくてよ」
 エッサの方を見もせずにセセリは答えた。ミュウ信仰では血を神聖視し、そして血の価値はあらゆるものにとって平等。罪人の血でさえ神聖視する彼女らにとっては、死人を弔うためならば罪人の血も使う。
 アーカードの墓を目の当たりにして、エッサと話をする事で沸騰するように湧きあがった怒り抱いて、この大陸最高峰の探検隊チャームズが動き出す。
 『強く、賢く、美しく』ミュウ信仰の教義の一節であるそれを、彼女らはいつもならば陽気な声で高らかに宣言し、狙った獲物は逃さないと付け加える。彼女ら三人組の探検隊は、今までその獲物が『ナカマ』であった事は無かった。
 それが今、生きている者に対して牙を剥く。

 それが頼りになるというのは本音だった。アーカードを殺すことでチャームズを釣れたのは幸運だった。しかし、エッサの心の中に燻る罪悪感は、この一件で更に激しく増長した。











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薫「ちなみに正面から時計回りに数えて三本目の足って実は生殖器なのよねぇ」
アグニ「ノーコメントで……」
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[[後編へ>時渡りの英雄第8話:とりあえず、奴らを殺す!!・後編]]

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**コメント [#gf1bdf67]

#pcomment(時渡りの英雄のコメントページ,12,below);

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