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星たちの血の喜悦 の変更点


・現実と虚構の区別がつかないポケモナー
・生きているのが辛いポケモナー
・犯罪行為をする予定のあるポケモナー
・何かにすがりたいポケモナー
・殺ポケ癖のあるポケモナー
※この小説には精神的嫌悪感を与える内容が含まれています。上記に該当する方はご遠慮くださるよう、あらかじめお願い申しあげます。

&size(30){星たちの血の喜悦}; 作:[[群々]]

#contents


**今宵見えずとも、月は綺麗じゃないか [#ABhlWCC]

 やっと、捕まえることができたよ。それも、今回はとびっきりの個体だ。僕の喉がゴクリと勝手に音を鳴らす。
「な、なにヲしやう刀してゐるのダつ!」
 どこかこなれない口ぶりで抵抗するのは、僕の「大好物」のスターミー。生意気にもすばしっこくて捕まえるのに苦労した。自然の摂理を舐めてるのかな? でも、そこがすごく可愛いんだよなあ。
 平坦な岩場に置かれた、アメジストのような体が、見た目とは裏腹に柔軟にくねって、僕に対して無駄な抵抗をする。それで光がキラキラと反射して、あちこちに出来る陰影やハイライトがとても綺麗で、眼福な僕は、丸い口から垂れるヨダレを抑えきれないんだ。
 それに何より、スターミーの中心に嵌められたコアの輝きは垂涎ものだ。出会ったときにはグラードンのルビー、弱らせればカイオーガのようなサファイア。何度見ても飽きることがないな。でも、それよりももっと、美しいものがあるんだよねえ。
「じゃっ、いくよおぅ!」
 僕は竜騎士のような跳躍をして、喜びあまって空中で一回転し、渾身の力と愛のこもった全体重をかけて、スターミーの上にのしかかった。
「喜矢武!」
 チャーミングな悲鳴と共に、パリン、って取り返しのつかない音が、心地よく鳴る。僕の心が和む。
「阿ッ、阿ッ……」
 その瞬間は、僕という一匹のシビルドンにとって、とても唆る瞬間なのだ。この時のために、僕は生を受け、何とか今日まで生き延びてきたかのように。生きることに深い意味があるとすれば、僕にとってはきっと、コレなんだ。
 コアを砕かれ、瀕死となったスターミーは、それだけでも十分可愛らしすぎるのだけれど、今回はもっと痛めつけてあげたい気分だった。もっともっと弱らせて、恐怖に怯えさせるとよさそうだ。
 丸い口を、ひび割れたコアに嵌める。牙もしっかりと差し込んで。ピッタリだ。運命みたいに。
「伊、イヤだつ」
 スターミーがジタバタする。そこが僕にとっての頭なのか、手なのか、足なのかわからないけれど、腕がプルプル、クネクネと動くのは、いかにも水ポケモンという感じだ。なぞのポケモンと呼ばれてるくせして、そういう脇の甘いところがたまらなく愛おしいなあ。
「助氣テゑつ……!」
 懇願するスターミーに応えて、舌と唾液を交換し合う代わりに、僕はとっておきの10万ボルトを与える。僕とスターミーを黄色い電撃のオーブが纏う。確かな徴、証、絆。どこから上げてるのかわからない断末魔が、僕の細ながくヌルヌルした体に伝導して気持ちがいい。抵抗と諦念が混ざり合った手足の痙攣も、それこそヒトデ同然に蠢く後背部も、淫靡すぎる。さっきまで、こんな目に遭わされるなんて夢にも思わなかったんだろうなあ。素敵な偶然、幸せな結末。可愛いが過ぎるよ。
「ん、ん、ん、ン、ン、ん、ん」
 壊れたポリゴンかロトムのような、制御不能の喘ぎ声をあげている。電撃にコンガリと焼けて琥珀のようになったその姿は見るからに美味しそうだ。
 ゆっくりと口を離す。溜まっていた唾液がだらりと、スターミーの身体にかかる。ああ、水が垂れてる。破壊されたコアが弱々しく輝いている。
「於まエは、アクマ、だつ」
 絞り出される非難の言葉も、僕には褒め言葉でしかない。僕は両脇に垂れ下がるようにある腕であり鰭で、スターミーの足と思われる二本を掴んで、その間に舌で舐めてみる。
「矢メろ、夜めテク礼つ」
 そういえば、スターミーのあそこはどこにあると言うべきなんだろ? 僕は当たり前のように股間に顔を突っ込んだけれど、スターミーにとっての股とはいったいなんなのだろう?……そんな概念はあるのだろうか。第一、恥ずかしがって盤を赤らめているけれど、感じているようには全然見えない。
 僕は至る所を舐めてみたが、一向にわからなかった。でも、ウネウネと抵抗する触手のような腕と触れ合えただけで、十分よかった。いくら口では抵抗し、罵っても、もうれいとうビームやハイドロポンプを放つ気力もあるまい。放つことができたとしても、僕には痛くも痒くもないんだ。
 僕はスターミーを置き直して、その姿態をじっくりと眺めながら、鰭で股の裂け目を撫でる。ずっとさっきから、外に出たがっていた交合のためのひょろ長い器がすぐに出てくる。
「うウつ!」
 その瞬間のスターミーの、困惑と恥じらいの赤らみが最高に僕を興奮させた。間違いなく初めてそれを見た、無垢な処女か童貞の反応なのだ。スターミーたちはみんなそういう反応を見せるのは僕の経験則。進化までしたくせに、いったいどうやって繁殖をしているのだろうと不思議がりながらも、これが最高のオカズになるんだあ。
「はあっ……」
 両鰭でペニスを扱こうとする。どちらもヌルヌルしているせいでよく滑る。思うようにオナニーできないのはいつものことでもどかしいけれど、怯えるスターミーをたっぷりと堪能できるから、それはそれでオツなんだな。
「ほおっ……ほおんっ……」
 ちょっとずつだが僕の長いペニスの先端から、汁が湧いてくる。でも絶頂にはほど遠い。心の方はもうとっくに昂りきっているんだけれど、スローペースな身体が追いつくにはもうちょっとだけ時間がかかる。
 呆気に取られて、どうすればいいかわからなくなっているスターミーが本当に、もう。いったいこの子はどこで何をしてきたのだろう。群れとか、仲間とかいるのかな? それとも子どもを持ってたり? いわゆる雄か雌か? 性格はどうだろう、意外とスターミー同士では勝気だったりするのかな? いじめられてたり、その真逆? 僕は一度きりの存在に過ぎないスターミーに様々な設定を与えて、そのいずれにも興奮する。とにかく、この子のつまらない日常を、一瞬で奈落の底へ落としてあげられたのだから。
 僕はもう、この瀕死のスターミーでしか自分を満足させてあげられなくなってしまったパブロフのシビルドンなのさ。はあ、気障だなあ。
「ねえ」
 両鰭でもどかしくシコリながら、充血したような目をギョロリとスターミーに向ける。
「ナ、勿んデせう」
「君も手伝ってよ、僕のオナニーに」
「曾、そンな事つ!」
 僕はすかさず、コアに口を嵌め込んで、でんげきを浴びせる。言葉にならない悲鳴と虚しい懇願が藍色の僕の身体にこだます。
「ねえ」
 もう一度僕は言う。
「君も手伝ってよ、僕のオナニーに」
 ペニスもそうだよと頷いている。
 スターミーが口を噤んだせいで、僕は何度か繰り返しでんげきを浴びせなければならなかった。こんなことを繰り返していたら、黒焦げになってしまうだろう。
「手伝って、君も手伝ってよ、僕のオナニーに」
「和カり、ま為た、分か利ましタ、からつ!……」
 ようやく分からせることができたスターミーは、ガタガタと弱った腕を伸ばして、僕の太いペニスに抱きつく。ちょうどいいサイズ感、まるで抱き枕をしてるみたいだ。
 ゴツゴツしたフォルムのわりに柔軟なスターミーの腕が、やみくもにペニスをさする。上手じゃない手コキ、でもスターミーにされているというだけで感度は何千倍にもなる。なんでこんな目に遭わなければいけないんだろう、って考えながらしぶしぶする手コキなんて、気持ちよくないワケがないじゃない。
「はあっ!……気持ちいいっ……!」
「うつ……」
 僕の喘ぎとスターミーの嗚咽がハモる。僕は両鰭をスターミーの腕と重ね合わせ、そのままスターミーが動かすに任せる。僕と、無作為に選ばれた一体のスターミーとの共同オナニーだ。
 コアの上にでっぷりと置かれた僕のペニスが快楽にのたうつ。僕の興奮がようやく、そこまで達したのだ。
「ああ、射精るうっ、射精る射精る射精るっ……」
「無無無つ!」
 僕は丸い口からポッと、空気砲を吐いた。それと同時にドバッと出すべきものが出た。体中の鰭がヒラヒラと振れる。とめどない、マリルのような臭いを放つ精液、それがどす黒くなってしまったひみつのコハクをべったりと汚す。ああ、プテラが生まれてしまいそう。
「ふうううううっ……」
 深く息を吐いて、僕はスターミーを見下ろす。美味しそうなチーズハンバーグだあ。ぐったりと伸びた星形の体の表面は真っ白くベタベタとしている。気絶してしまったのか、中心のコアの輝きは失せていた。
 よく耳を澄ますと、譫言が聞こえた。ア苦ま、あ久マ、足く馬、一定しないイントネーションで繰り返される僕への恨み節だった。
 でもそんなくずおれた君が好きなんだよ、スターミー。次会う時は別のスターミーなんだろうけれど、ね。


**月が綺麗ですね。綺麗だって言えよ [#FMFe31K]

 水も滴るいいオトコ、なんて言うけれど、そう言う意味じゃあ僕なんかはさしあたり、罪作りなオトコ、ってトコかなあ。
 なんてったって、ぼんやりとうたたねなんかしてたら、僕の顔面、というか口? に一枚の紙が飛んできたんだ。見たら、そこには僕が写ってた。凛とした顔つきだった。あんまり周囲には見せないんだけれど、ものすごくキマってた。デカデカと「おたずねもの」なんて書いてあって、「スターミー殺し」って粋な二つ名がつけられていてね。僕には大した価値がつけられていたんだよ。ふふふふ。
 僕はそんな僕を見て、思わずニッコリしてしまった。この世界にはしっかりと僕のことを認めてくれる誰かがいるってことは感激の極み、ありがたいことだと思うよ。僕は無価値じゃないんだ。僕はこの世界にいていいんだ、って心から思える、そういう至上の時。世界には恵まれない、不遇なヤツがたくさんいる中で、何たる光栄!
 シビルドンな僕だけど、それなりに哲学は知ってるつもりだよ。独我論というのが、この世で一番ダメなものだってことくらい、僕もしっかりわかってる。だって、そんなの自己中じゃないかって思うから。僕はアルセウス様じゃない。世界はある、って僕が思ったって、世界は存在しない。時間も、空間も、そんなやわなことでは存在できない。僕はそんなにゴーマンじゃない。汝がいなけりゃ、僕は存在しない。したがって、世界も存在しない。と言っても、僕はアルセウス様が世界を作ったなんて御伽噺、信じちゃいないんだけど、ね。
 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
 胃がピクピクと震えてる。いつもはまん丸の僕のお腹が凹んでいる、萎えている。僕は腹ペコのシビルドンになっていた。カラダの中が空虚になっていた。ああ、ひもじい。
 満たされない感じになると、当然だけれど飢える。僕はものすごく飢える。僕はものすごく飢える。カラダはもちろん、心までも。それに、周りがやたらと静かだ。何の音もしない。しいん、って音じゃない音、耳鳴りみたいなものが僕の耳に鬱陶しいテッカニンくんみたいに付き纏っていて。
 そうすると、僕はとても苦しい気持ちになってしまう。無性に寂しい気持ちになってしまう。僕は独りぼっちで、誰も僕のことを見てくれてないようなそんな狂いそうな気持ちになる。苦しいと、僕はシビビールの頃を思い出してしまう。シビシラスの頃を思い出してしまう。
 ——違うよ。
 いや、間違えた。ごめん、ごめん。僕にはそんなものは存在しなかったっけね。そんなものは捏造された記憶だ。イマジナリーな過去だ。ダークライによる捏造だ。アイツは本当にカス野郎だから、ありもしない記憶を悪夢の見過ぎによって植え付けてしまう。そうじゃなくって、僕は男前のシビルドンだ。初めに言ありき、そのように僕もありきなんだ。僕はシビビールなんかじゃなかった。シビシラスなんかじゃもとよりなかった。そんなものは無かった。そんなものは存在しないんだ。初めに僕、シビルドンありき、なんだから。
 僕はささやかながらも幸福な命を生きてきた。僕が幸いだったのは、ひとえに天使たちがいたおかげだった。僕のために舞い降りた至上の天使たち。すなわち、スターミー、なぞの存在。僕の進む道には、いつもスターミーたちがいて、常に正しい方向へと導いてくれたんだ。僕は何度もポケの道を踏み外しそうなった時には、必ずスターミーたちが現れて、僕の曲がりくねってふにゃふにゃした道を、真っ直ぐ、ピンと直してくれるんだった。僕はとことん感謝しなければならない、スターミーたちに、いつも海の底に気持ち悪く張り付いて、気まぐれに七色のコアを輝かせて、水面に飛び出しては何かと会話をしている、得体の知れない、それだからこそ崇高な天使たちなんだスターミーは。
 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
 ああ、僕の悪い癖だ。お腹が減っている時はやたらと饒舌になってしまう。お腹が減っていることをなるだけ思い出さないために違うことに熱心になってしまう。どうせ、そんなことしたって数分だって凌げるものじゃない。何かをしまいとすると、余計にその何かをしようという逆の意識が働いてしまいがちだ、しかもそういうことを考えてしまうこと自体が、もう一つのワナなんだ。二分法の世界というのは、かくも僕らの獣性を顕わにしてしまうね。
 このやりきれないしがらみから逃れるためにはどうすればいいか? それこそ道だ。スターミーたちが教えてくれた。何も考えないこと、何かをしようと考えないこと、僕が何であるかなんて考えないこと、普遍なんて嘘っぱち、これっぽっちも考えないようにすること。そう、お腹が減ってひもじくて、何もかもが虚しい! なんて時にはやることは一つしかない。
 ——そうだ。そうだ。
 というわけで、僕はあるがままであるために、スターミーに会いに行くことにした。会うのはとても簡単だ。そこらへんの海にそれこそウヨウヨ暮らしてる。ヒトデマンの一匹や二匹を見かければ、その一帯はスターミーたちの生息域だからあとは好き勝手できる。それに限らず、海の世界というのはとても広大で、自然のままで、純粋無垢だ。ある意味、道にふさわしい世界なのかも。何せ、さっき僕の顔面に飛んできたあの紙切れだって、ここでは何の意味も成さないもの。それはそれで残念だとは思うけど、僕の存在が肯定されることも否定されることもないから、従って存在の苦しみは全然感じない。みんな、生は生として、死は死として何の抵抗もなく受け入れている。だから、何も生じない。でも何も生じない、からといって海の世界は虚無じゃない。そこが肝なんだ。あまりにも何も生じないから、無であるように見える有、ってやつ。ああ、海ってなんて素敵で自由なんだろう。そんな海に掃いて捨てるほどいるスターミーは、何て尊い存在なんだろうなあ! ああ、もう涎が出ちゃうよ。
 無意味の意味なんてない。うん。
「な、ナンなんだ」
 浜辺に打ち上げられてしまったスターミーだ。スターミーがそう言った。
「なンなのダ、オマエは」
 スターミーが言った。言ったんだ、スターミーが。僕のことを、単なるオマエと言った! 罪作りなシビルドンではなく、スターミー殺しのシビルドンでもなく、「オマエ」って!
 僕はすかさずスターミーの輝かしいコアに口を押し当てて、激しい電撃を浴びせてあげる。たっぷりと愛情を込めた10まんボルトだよ、スターミー。大概のスターミーはこれで僕に参ってしまう。ゾッコンさ、僕に。立ちあがろうとしても紫色の手足がクラクラして動いてくれない。後ろ側の手足はグルグルとただ回転しているだけで、何の役にも立たないのが、とても、らしいなって思うんだ。うっかり千切れてしまえば、面白いと思うかもだけど、それは素人の発想って気がするなあ。
「じゃっ、スターミー、『いつものように』、じゃっ、いっくよおぅ!」
 傷ついたスターミーの上空で慈悲深く跳躍する僕は、マナフィに躾けられたカイオーガみたい。ジャンプの最高到達点でクルリと一回転できるかどうかも大事。これは僕にとってのおまじない。うまく回転できれば、NICE! 僕の頭の上に浮かぶんだ。これで僕は全てが僕にとって良くなるって確信できる。幸福な気持ちになれる。このありがたい感じ、何度味わったって足りない。
「うウっ!」
 成功! 僕の心は喝采! 丁寧にお辞儀しよう。
 パリン、という音がまるで青春の美しさのように響いてる。甘美だ、とても甘美な音だ。ざんぎり頭を叩いて見れば、ってね。それにしてもスターミーは迂闊だ。ウウッじゃなくてウッウだよ、馬鹿だなあ。でも、そういうところがチャーミングなんだあ。
「な、なゼ、こんナことヲ」
 それは瞳なのか、そうじゃないのか? コアは脆弱に青い光を放ってた。「べにいろ」から「あいいろ」。グラードンからカイオーガに心変わりしたみたいな移り気な色の変化は僕をくすりとさせる。
「ヒやっ!」
 僕はもう一度スターミーの綺麗なコアに口を当てる。ああ、スターミーのコアはいつだって僕の丸い口にピッタリなんだったら。たまたまどこかで拾った何物でもなかった鍵が、この瞬間に大きな意味を持つってことに、僕は毎度毎度深い感動というものを覚えるんだ。これこそ生っていうもの! 全てに意味というのはある! 僕の場合、それはスターミー、君のことだよ。
 熱烈な10まんボルトを唾液のように浴びせる。ねっとりとした電撃が、スターミーのなぞのカラダをぶち抜いてるって感じられる。腕の一本一本がビクン、ビクン、って引きつってる。感じてるんだ、僕を、こうも激烈に。僕は心委ねて直撃してる!
「ねえスターミー」
 僕は言うんだ。
「君に出会えたことを僕はとってもかけがえのないことだと思っているんだよ」
「し、シるか」
 10まんボルトを浴びせる。100まんボルトってつもりで。スターミーの紫色がゲンガーくらいに濃くなった。僕は続ける。
「だからこの出会いを僕はとても大切にしたいって思うんだよ、スターミー?」
「……」
「なぜ黙るの? 僕は君に出会えて心から嬉しいと思ってるのに」
「お、おまヱのコとなんテ、しラない」
 スターミーは弱々しく叫んだ。
「おまヱのこトなンてシラナい! オマえ! おマエなンて! はなレろ、ウせてクれ、たすケてクれ、コンなこと、もウ、やめテくれ」
 スターミーのコアは青褪めていた。何かに何かを伝えたがっているかのように、ほのかに微かな光を灯らせてた。まるで宇宙みたいだあ。僕はくらくらとした気持ちで空を見上げた。星たちがキラキラ光ってる、満点の夜空。喜んでるんだな、キャッキャキャッキャって、子どもみたいに、無垢みたいに。
「キもチ、わるい」
 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
 そうだった。スターミーのおかげで僕は忘れることができていたのだった。僕はお腹を空かしていたんだ。もちろん、ちょっとプニプニなお腹は気になるけれど、それにしたって僕は何も食べてなかった!
 僕の頭がギギギ、と唸ってる、ギアル、ギギアル、ギギギアル……僕は頭を抱える。僕はまたあのダークライのクソ野郎が見せるまやかしに囚われそうになってしまってる。あいつ、クレセリアに手ひどくやり込められたからと言って、僕に八つ当たりしてくるんだ。ひどいものを僕に見せようとしてくる! そうやって僕の頭を痛くして、僕を狂わせようなんて考えてるんだ、あいつ。
——だめだよ。
 僕は鰭を思いっきり振り上げて、スターミーのコアにもっとたくさんのヒビを入れなくちゃならなかった。僕はあまりにも苦しめられてた。お腹が空いた。頭が痛い。苦しくなりそうだ。だから僕は、スターミーのことを殴ってやらないといけなかった。僕を慰めてくれるのは、スターミー、君だけだ。
「あア! やメろ! ヤメろ! やめ、やメ……!」
 スターミーは叫んでた。コアは七色になって、目まぐるしく、走馬灯のように僕をクラクラとさせた。僕は参ってしまいそうだった。パリ、パリってひび割れたコアのカケラが粉をふいて夜風に舞っていく。それが月の光に照らされて細かな粒子までくっきりと僕には見えた。僕はそれをとっても美しいなと思える。僕は安堵する。美しいな、って思えるってことは、僕はまだ冷笑的でもないってこと。僕は世界を感受することができる。何もかもに心を閉ざす終わった連中とは違って、僕はまだ終わってないシビルドンだってことがわかる。素晴らしいんだ、僕は、偉大なんだ。
 それにしても、目の前が真っ赤になってた。ずっとスターミーの放つ混濁した淡い光しか目に入っていなかったから、僕は目くらましをくらったみたいになってた。空を見上げる。夜空も真っ赤になってた。しばらくは、僕の瞳に焼き付けられた赤は消えないみたいだった。それくらいに、スターミーの威光は凄まじくて。けれど、あの星たちは相変わらずだった。生まれたての赤ん坊みたいに、みんな一様に笑ってたんだ。
 星たちの血の喜悦! 僕は僕の世界が最高に素晴らしいって思える!
「ねえ、スターミー。わかるだろ? 僕は君に会いたくて会いたくてたまらなかったんだ。だって僕は君が好きなんだもん、当然だろ。僕はありったけの愛を注いでるって、わかるだろ?」
「……」
 スターミーは沈黙していた。僕は話を続けた。
「いや、答えなくたっていいんだ。だって沈黙は肯定を意味するものだって、僕はよく理解しているんだから。もう、わかってるんだ。ねえ、スターミー、君は唯一無二なんだ。僕は君がいるから僕でいられるんだ。僕は『いる』んだ。僕の思いを全部ぶつけてやりたくて、この上ないんだよ、スターミー?」
 もうたまらなくなっていた。僕の股の間の縦線から抑えきれなくなった僕の気持ちがにょろりと顔を出して、その先端がスターミーのコアに触れてひんやりとした。
「あツい……」
 スターミーが朧げにつぶやいた。僕は前進を揺らしてペニスをグニャリとしならせて、ペチペチとスターミーのコア、というか顔面? を叩いた。叩かれたスターミーの腕がくねくねとうねっていて、それもまた良いなあ、って思った。
「ねえ、スターミー。僕は僕の思いを全部君にぶつけてやりたいんだ。ありがとうって思うんだよ。君がいなければ、僕は何者でもありえなかったんだから」
「わケの、わ、からナ、イコ、とを、イわナい、デくれ、ナいカ」
 スターミーのひび割れたコアにはポッカリと黒い孔が開いていた。それはどんな夜よりも真っ黒で、奥が知れなくて、不気味で、だからこそ知りたくなるようなアビスのように僕には見えたんだ。ああ、そんなことにも気づかなかっただなんて。僕は瞼にシワを作ってニヤリとする。その孔は瞳のようでもあるし、それに何よりも——ね。
「……ひヤあツ!」
 僕は勃起して留めようがなくなってしまったペニスをゆっくりと、スターミーの中へ挿れたんだ。僕はスターミーの中に入ったことはあまりなかった。だってスターミーは「なぞ」の存在なのだし、僕にとって当たり前のものが当たり前のようにある当たり前の存在なんかではなかったからだ。けれど、どうすればスターミーに僕の思いを率直に伝えることができるんだろう? って考えるなら、僕は何でもしないわけにはいかないんだあ。
「ひやダ! ダめ! ダ! ヒやメて! く! クれ!」
 もちろん、全てを入れることは困難だった。ただ、僕はジェントルに挨拶をするみたいに、たとえば片方の鰭で軽くシルクなハットを持ち上げて、もう片方の鰭に持ってるステッキを楽しげに掲げるように、僕のペニスの先っぽをスターミーのコアの隙間に入れてみただけだ。コアは今や青白い光を放って、空の上の月みたいにね、僕のおおきなねっこを蒼白に見せていた。
「ふほお……おおん……」
 ゆっくりと腰のあたりを前後させると、やっぱりスターミーは僕のことを幸福にさせてくれていると思えた。窺い知れないアビスの中で、僕の先っぽは何かぐにゃぐにゃとしてぶにぶにとしたものに触れていた。僕は未知と触れ合ってる! その感動が僕をどんどん高次へと高めていくってことを確信できる、何て幸せもんなんだって、僕は思うんだったら!
「ああ……射精るよ……射精ちゃう……スターミーぃ……」
「ヤ、や……!」
「おおん! おおほおん! おっ、おおおんっ! ほう!」
 最大限にいきり立っているのを強く感じながら、僕はしゃにむに全身をシェイクした。それはとても恥ずかしいけれど気持ちがいいことなんだ。誰だってそうなるんだ、僕だって例外じゃない。だから僕は誰だってそうなるのうちの一匹であるからして、僕は特別で、普遍的なんだ。僕は心の底からとても安心ができる。救われたって気持ちになる。
「んふう……」
 僕はすっかり射精た。底の見えない暗い亀裂の中に僕が吐き出したものがどくどくと注がれて、溢れ出していた。相変わらず量はとても多くて、熱くて、ドロっとしているのだった。スターミーはそれを涙のように流していた。僕はそれを見ているうち、頭の痛さがいつの間にか消え失せていたことに気付いた。苦しみというのは、耐えてる間は辛いけど、終わるときはとても呆気なく終わってしまうんだ。そしてみんな忘れてしまう。次の苦しみがやってくるまで。何だか哲学、って感じ?
 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
 でも、ああ、そうだ、腹ペコなお腹だけはどうにもできなくって。僕にできることは、ただひたすらその時を先延ばしし続けることなんだった。別に運命論を信奉してるシビルドンじゃないけれど、そうした運命なるものに立ち向かうものっていうのはカッコいいって思うよね。時の歯車を盗んで回ったヤツみたいに、
「うウつ……グすン、ぐスつ、グすん……」
 スターミーは泣いていた。でも、どうして泣いてるんだろう?
「どうして泣いてるの? 僕は君に会えてとても嬉しかったんだよ?」
「だツテ、おまヱ、おマえが、ワたシのことヲ」
 僕は10まんボルトを浴びせた。ゆっくりと、丁寧な筋トレをする時みたいに、時を数えた。1……2……3……あれ? 途中いつまで数えたっけ? みたいな風に忘れたりなんかして、僕は20まで数えるのにひどく手間取ってしまった。スターミーは日に灼けたように褐色になっていた。
「ねえ」
 僕は言った。
「僕は君と仲良くやっていきたいと思ってるよ」
「いヤだ」
 スターミーは力を振り絞って言った。
「イ、や、ダ」
——違うでしょ?
 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
「あああっ!」
 僕はグッタリと地面にしな垂れたスターミーを掲げた。すぐ真下には真ん丸にポッカリ開いた僕の顔と同じくらい大きい口の孔があった。
「!!!!!」
 今日出会ってから、スターミーが一番の反応をしたのはこの時だった。
「や、やメロ……!」
 僕は目の前を真っ暗にさせていた。僕から空間は消え去り、スターミーの悲痛な叫びの持続に僕は満たされている。
 僕は鰭でスターミーのあんなところやこんなところに触れる。その複雑な一個一個の腕の形を、後ろでぐるぐる回ってるものの輪郭に僕は触れる。スターミーのことは、いつまでベタベタしていても、まだ理解には及ばない。だって、スターミーがどこで何を感じるのかってこと、いまだに僕はわかってない。スターミーは一個の哲学である、って、どこかの誰かが気障に言った言葉を、僕はキリッと言ってみたくなっちゃうな。えっへん、ってね。
 スターミーを僕の口の中へとゆっくり、ゆっくりと導き入れていく。ゴーストタイプのガラガラが、青い炎が燃え盛る骨をなんだかうっとりとした表情をしながら口の中に突っ込んで、それから火を吹くみたいに、そうやって僕はスターミーを咥えると、傷だらけのスターミーは口の中で必死にへばり付きながら抵抗した。まるで僕の口に蓋をするみたいに。でもちょっとピッタリじゃなくって、僕の口から隙間風が漏れてしまってた。
「イ、やだ、こンなノ。ああ! シにたクない! コんなヤつに、クわレるだなんテ。こんナ、アタまの! おかシなヤ、つに! あア! タスけて! たスけテ! だレカア! ヤだつ、やダあつ!」
 けたたましい震えと一緒に、僕は満たされようとしてるのを感じてた。だって、スターミーの音声が、僕の内臓を響かせて、ソウルを激しく揺さぶってくれてるんだ。交歓してるってわかる。響き合ってる、僕と、スターミーが! それはとても詩的なことだって思うんだな。メロエッタの優雅なクラブ歩きみたいにね。ああっ、なんて、この上なく、僕は。ううん。
「カみさマあつ! ヒどいツ、こんナ、ひどイつ! せうカサレてしヌなんて、ぜツタい、ニいヤなンだあ! みンな! ミンナあ!」
 天使が舞い降りてくるこの一瞬、僕は導かれたような、そんな気になって、これならアルセウス様を信じてもいいな、だなんて思える。
 僕はぎゅっと口を閉じた。そして、思いっきりゴクリ、と音を立てて僕のもっと奥へと導いてやった。ぎこちない騒音と共に、スターミーが下へと下がっていく。
 お腹が生きているみたいにもごもごと動いていた。呻くような音声が今や僕と一体となって、まるで僕は壊れかけの、ふふふふふっ。ああ、僕はうとうとしてきた。お腹が満たされると、すぐに眠くなってしまう。うつら、うつらしてしまう。けど、すぐに寝たらブーピッグになってしまうよ。ただでさえ僕のお腹はちょっとプニプニなんだから、気をつけないといけないのに。でも、僕は寝てしまいそうだ。
——だめだよ。
 そうなんだ、そんなことしたらあのクズのダークライがまたろくでもない捏造された記憶を僕に見せてくるんだから。僕はあいつをズタズタにしてやらなきゃいけない。あの生意気にスマートな足をトロピウスの房みたいに引きちぎって、僕はケラケラと笑ってやるんだ。みんな! みんな! もう悪夢を見ることはないんだぞって。これからは誰もかも、枕を高くして眠ることができるだろうって。ざまあみろ!……
 きゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるううううううううんんんんん……
 僕のお腹がゆっくりと凹んでいく。でも、ぷにぷにであることには何の変わりもないけれど。マチスモにはちょっと憧れているってとこだけど、ガブリアスみたいなのはちょっとご遠慮って感じだなあ。
 僕の目からいつの間にやら涙なんて流れてきていた。僕は泣いていた。なんだか、心揺り動かされたような気持ちでいっぱいになっている。僕の意識が打たれたように一気に冴えた。僕はハッとした。何かが上へと上ってくる。うっぷ。僕は吐きそうだ。喉にまでそれが来た時、僕はとても辛かった。けど、ポン、ってあっけなく飛び出して、苦しみはヤドンの記憶のようにきれいさっぱりなくなってしまった。
 砂浜に落っこちて、一回、とびっきりのバウンドをして、コロコロとよろめきながら転がって、やがてパタリと倒れたそれを僕は見た。それは真っ赤で、グラードンのルビーのように赤々しかった。それは、スターミーのコアだった、ものだった。くしゃくしゃにした紙みたいになって、しかもちょっと僕のザーメンが残ってたけれど。思春期って感じがするよね。僕はとっても瑞々しいなって思うよ。
 そうわかった時に、僕は余計に泣けてきたんだ。
「かわいそうなスターミー!」
 僕は泣いた。けれど、スターミーは天使なんだから、また僕の目の前に現れてくれるはずだった。これは一時の別れに過ぎない。スターミーは不滅なんだから。ドーブルの素晴らしい絵画を観た後のカタルシスのように、僕はすっかり涙を流しきって、あまりにもせいせいとしていた。感動はいくらでも僕の世界にはありふれてる。けれど、僕とスターミーとの一瞬が、常に輝かしいんだ。感動的って次元が違うんだ。僕はこれからもずっと、そのことを、スターミーを通じて感じ続けるだろう。
 さよならだけが人生だなんて、そんなことあるもんかよ。僕らは何度だって巡り会うことができるんだよ。ね、スターミー、良かったね。


**あとがき [#tXFHu7u]

7月21日でえ、しかも土用の丑の日だったからあ…で書いてしまったもの
端的に言えば「コアの割れたスターミーでしか興奮できないシビルドン♂」、細かすぎて伝わらないね!

スターミーもヒトデ可愛いし、シビルドンもウナギ可愛い。
その可愛いを掛け合わせると、こういう風になるという「業」
(※pixiv版キャプションの再掲)

これに関して特に付け足すことはないんですけど、何と言ってもシビルドンに陰キャなキャラ付けはとても合いますねえ……
というのは、やはり「わかる」人にはわかるもので、触発された陰キャ童貞(かどうかまでは知らないけど)シビルドン作品を紹介します。むしろそっちを読んで、で性癖を広げるんだ!

[[水のミドリ]]『[[カクレミノ]]』(2019)
第八回帰ってきた変態選手権投稿作品。人間のエゴに振り回されてきた暗い過去を持つシビルドンが、ギンガ団から逃げ出して自由を得ようとする少女とともに、エイチ湖にいるというユクシーへ会いに行く……濃厚なユクシー脳姦プレイをはじめとした作者のポケ嗜好と、重く破滅的な結末を迎える小説としての読みざわりが巧く一体化していて、ポケエロ小説書きてえってなってる字書きたちにお手本にしてもらいたい一作です。

ヅョソザーイ『[[狂い花>https://www.pixiv.net/artworks/92297133]]』(2021)
いつも雌ポケモンたちに取り囲まれるミロカロスと、いつも一匹ぼっちのシビルドン。激しいコンプレックスに苛まれたシビルドンは、元凶であるミロカロスを凌辱し、食ってしまうという妄想をいよいよ実行に移すのだが……先日のけもケでの戦利品の一冊でしたが、これがどストライクだったので、ご紹介。とにかくコンプレックスまみれのシビルドンくんが哀れでカワイイのです。突然叫び声をあげて、雌たちからキモがられるシビルドンくんたまんねえな……それに何もかも手のひらの上で転がされて、最後ああなってしまうのは最高なんですよね。どうなるのか、本を買って確かめてみて欲しいですね!

スターミーの日(ポケモナー有志が勝手に認定)というわけでね、お楽しみいただければ幸甚でございます……

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