#include(第九回短編小説大会情報窓,notitle) それは、満点の夜空に覆われた日のことだった。 曇りのない月光が降り注ぐ地上には木々が立ち、普段は青々しているであろう木の葉は、淡い光を放っていた。 草花に覆われた地面は薄暗く、風にそよぐ葉の間から、わずかながら光が注ぐばかりだった。それは単純な白ではなく、葉を通してなのか、若干ながらも青みを帯びているようにも見えていた。 そんな光を反射して、地上に横たわる繭。もともと薄い紫であっただろうそれは、きめ細やかな糸の通りときらめきを持っていた。普段でさえ美しいであろう表面は、月光により更に美しく、煌びやかに輝いていた。 針のように飛び出しているいくつかの糸。儚げに見上げる赤い目は、何かを待っているかのよう。 満月は、上っていた。 周囲の煌めきと共に上る月は、薄い影を移動させてゆく。しかし、そのきめ細やかに煌めく繭に関しては、一切陰に隠れることはなかった。 やがて。月が光を増すように、薄紫の輝きが、白く包まれてゆく。 月の力か、はたまた自身の力か。繭は目を閉じ、光に身を任せる。淡く煌めくばかりだったそれは、まばゆい光へと変わったのだった。 そしてそれは。森のいたる箇所にて発光し、森を一時、鮮やかな白色光に包んだのだった。 繭は、姿を変える。丁寧にほどくように、内部を恥ずかしげに晒すように、絹のような体は変化する。次第にそれは翅を成し、触覚を成し、脚を成した。 光の収束とともに、紫の体が露わとなる。羽ばたくたびに舞う鱗粉は月光をまとって落ち、彼女の美しさを際立たせていた。 「なんて綺麗なんだ」 近くの木からぶら下がる声は、さも感嘆していた。 「あら、見てたの?」 彼女は問う。この傍観者の存在に気づかなかったようだった。 「うん」 艶やかに翅で舞いながら、彼女は近づく。 月光の下。2組の目は、ひたすら見つめ合っていたのだった。 ---- &size(25){成体の儀は正装で}; 作者:[[カナヘビ]] ---- ミフトは、誰もが口をそろえて言うほど変わったミノムッチだった。 通常ミノムッチは、草・地・ゴミのいずれか形態を取り、その場の環境に対応していくポケモンである。 ところが彼の場合。体にミノを纏うことなく、自らの素肌を晒した状態で過ごしているのだった。 そもそも彼は、ミノムッチにしてはアクティブ過ぎたのである。自らの足で地上を這いずり回り、その好奇心を満たすがごとく、あちこちへと赴く。とはいえやんちゃということはなく、どちらかといえば危険を冒したがらず、強いて言えば体を動かしたくてたまらないといったような、そういった少年だった。 そのアクティブさにそぐわず聞き分けはよく、ややせっかちなきらいはあるが、ミノをまとわないことを除いては、常識的なミノムッチといってよかった。 そんな彼だからこそ、相も変わらずあちこちを赴き、悩ましそうに葉や枝などを見つめている姿に、皆が疑問を持った。誰も理由は知らないが、とにかく彼はミノをまとわない。にもかかわらず、明らかにミノの材料になるものの目の前で何か悩むなど、まさしく晴天の霹靂だった。ミノムッチなのだからミノをまとうことなど当然なのだが、こういった当然のことすら周囲に驚愕を与えるほど、彼は断固としてミノをまとわなかったのである。 あまりの驚愕からか、普段は特に詮索しなかった周囲さえ、ついにミフトに問いただそうと思ったらしく。1体のミノムッチが、自身の触角を伸ばし((ミノムッチは、黒いムチのような器官でぶら下がっている。これは推定2m以上伸びることが分かっており、さらに自分の意思で操作できる。このことから、この器官は触角だろうと断定した。))、ミフトの元まで下りていったのだった。 「な、なにを悩んでるんだ?」 「え? ああ。ぼくら、もうすぐ進化するだろ? そういう時くらいは、なんかミノが欲しいなって思って」 「嘘だろ!? ミフトが、ミノ!?」 「ああ。でも、なかなかいいのが見つからなくて。なんかこう、進化するなら、きちんと進化したいしさ。この森から出て探すべきなのかな」 「きちんとって……。葉っぱや枝をまとってもきちんと進化はできるぞ? というか、なんで普通にミノをまとわないんだよ?」 「いや、別に。そんなことより、いいミノないかな?」 そういってはぐらかす。やはり彼は、理由を口にしない。 「いいミノって言われてもな。ミノにいいも悪いもないし、そもそも、そんなこと言うのお前くらいだぞ?」 「そうか。それはそうとして、本当にいいミノはないのか?」 「お前な……」 やはりミフトの常識性は、ミノのことに関しては除くようだった。 「ミノを扱ってるかどうかは分からないが、セシリアさんがよくクルミルの着物を作ってるのは聞くぞ。作ってもらえよ」 「なるほど、セシリアさんか! ありがとうな!」 「えっ」 ミフトは言葉を真に受けたようだったが、かの傍観者は真面目に言っていなかったようだった。話が通じないので、とりあえず頭に浮かんだことを伝えると、嬉々として礼を言われてしまい、戸惑ってしまったのである。そんなことは露知らず、ミフトはこれぞ名案とばかりにいきりたち、脚をばたつかせて走っていくのだった。後に残された傍観者のミノムッチは、呆れるあまり表情も変わらず真顔だった。 ミノをまとわないミノムッチさえ珍しいというのに、森の中を疾走するミノムッチなどこの森の他にはいないだろう。しかし種族故か走りなれることはなく、妙にばたつくような、飛び跳ねるようなものになってしまうのだった。 ミフトが向かっているのは、森でも名の知れたハハコモリの住み処である。森における唯一のハハコモリであり、生きた経験も長いことから、森に住むポケモンの相談役のような存在になっている。ミフトもまた相談にいくことは間違いないのだが、今回の彼の場合それだけではない。ハハコモリは、両腕の鎌を起用に使い、クルミルやクルマユのおくるみを作るのだという。ポケモンでも数少ない、着物を作ることができるものとして、ミフトは確信をもって歩んでいくのだった。 皆の相談役と言われているとおり、ハハコモリの住み処は遠くなかった。森も大して広くはなく、またハハコモリの住み処も森の中央付近にあるので、誰もが気軽に立ち寄ることができたのだった。 かくして彼は、ハハコモリの住み処に到着する。やや大きめの木に穴が開けられた住み処だった。その中でハハコモリは、小粋に歌を口ずさみながらおくるみを仕立てているのであった。 「セシリアさん!」 「あらまあ……ミフト? どしましたの?」 聞くものに安心感と安らぎを与えるような、柔らかい声。 「あれ!? ぼくのこと、知ってるの?」 「ええ。ミノをまとわないミノムッチの噂は、しょっちゅう聞くわ」 セシリアは微笑みながら返す。驚きつつもミフトは気を取り直し、真顔で話す。 「あの、ちょっとお願いがあるんだけど。ぼくに、何かいいミノを仕立ててくれないかな?」 「ミノ?」 セシリアは作業を止め、ミフトと向き合う。 「うん。ぼく、近いうちに進化するんだけど、その時まとうミノを作って欲しいんだ」 「まあ、もうそんな時期? でも、あなたのミノを、私が作るの?」 「お願いできないかな?」 「あらあら。どういう風の吹き回しかしら?」 セシリアの問いに、ミフトは俯いてしまう。その様子はなにやら恥ずかしげだった。 「ひょっとして、好きな子ができたのかしら?」 「えっ」 ミフトは跳ね上がる。普段は縮めている触角は盛んに伸縮し、全ての足がわしゃわしゃと動いていた。 「そうなのね?」 問い詰めているわけではないのだが、セシリアの言葉には、何かしら精神にくるものがあったようで。次第に湧き上がる紅潮を隠し切れない彼は、ゆっくり言葉を紡ぐ。 「実はさ……。ほら、カラサリスとマユルドの進化の日があったでしょ? あの日、ぼくの好きな子が進化したんだ。いや、ぼくが好きだって知ってるかどうかは分からないんだけど……。その子が進化したとき、体がすごく綺麗に輝いてさ。もちろん、進化の光っていうのもあったと思うよ。でも、月に照らされた絹のような体は、本当に綺麗だったんだ。だから、ぼくもなんとか、綺麗な進化をしてあの子を感動させたくて…… 「そうなのね。その子とは長いの?」 「うん。生まれた時から知ってる。彼女がちょっと上だから、言ってみればお姉ちゃんみたいな感じかな。ちょっとだけ気が強くて、困ったときはいつもアドバイスしてくれるんだ。たまに、ミノを着せられかけたこともあったけど……。彼女のためにも、進化の時くらいはミノを着たい。だからその、セシリアさんなら、月の光の下で、最高の進化ができるミノを作ってくれるんじゃないかって思って」 「へえ、そういうことなの」 セシリアは穏やかに構えて考えているようだった。目の前の少年の言葉は真剣そのものであり、本気で頼んでいるようだった。 「私を頼ってきてくれたのは嬉しいのだけれど、実を言うと、ミノなんてつくったことないの。あなたが望むようなものを作れるとは限らないけど、構わないかしら?」 「も、もちろん! お願いするよ!」 「たーだーし」 ミフトは思わずのけぞる。目に映るセシリアの顔は、好奇心に満ち溢れた、どことなくいたずらっぽい表情だった」 「1つだけ、教えてもらえるかしら」 「な……何?」 セシリアの口元が、柔らかく裂けていく。 「どうして、あなたはミノをまとわないのかしら?」 「うっ……」 当然の問い。先ほどより更に恥ずかしそうに、より一層激しく脚をばたつかせているのだった。 「それは……その……」 ◇ 森を歩くセシリア。なにやら可笑しそうにくすくす笑っている。時折周囲から声をかけられ、笑っていることについて問われるが、決まって何でもないと返すのだった。 そうしてしばらく歩いて目指すのは、1本の木。森の木には、うろにしろ樹上にしろポケモンが複数住んでおり、セシリアはそのうちの1つに向かっていたのだった。 「あれ、セシリア? どうしたの?」 樹上から声をかけ、降りてきたのはドクケイル。 「ジョアン。実はあなたに用があってね」 穏やかながらもかしこまった様子で話す。対してジョアンと呼ばれたドクケイルは、特にかしこまることなく軽い調子だった。 「あのね。あなた、進化前マユルドだったでしょ? 実はね、あなたの糸を使って着る物を作りたくて。もともと体に糸を体にまとってたから、丈夫かなって思って」 「着る物? 糸で? どうして?」 ジョアンは翅をやや速く羽ばたかせながら聞く。するとセシリアは、再びくすくすと笑い始めるのだった。 「私のところにね、着る物を作ってほしいって子が来たの。なんでも、あなたと同種族で好きな子がいるらしくて、その子のために綺麗に進化したいらしいの。だったら、ドクケイルの繭に使われる糸が一番綺麗なんじゃないかって思ってね」 「へぇ。そういうことだったの。そんなこと考える子がいるのね。あの子もそうだったらなぁ……」 「あの子?」 ジョアンのぼやきに、セシリアは思わず反応する。 「ほら、セシリアも知ってるでしょ? ミフトよ。あたし、昔からあの子を知ってるんだけど、どうしてだかミノを着ようとしないのよ。他のポケモンからも心配されて、将来が心配なの。何か悩み事かと思って聞くんだけど、いつもはぐらかされるのよ。世の中には、進化するのに綺麗なものを着たいって子がいるのに、あの子ときたら……って、セシリア? どうしたの?」 セシリアは必死で笑いをこらえているようで、涙まででていたのだった。鎌を左右に振ってなんでもないとジェスチャーするも、笑いは止まらない。 「……いえ。私が言ってる子、ミフトなの」 笑いながらのセシリアの言葉に、ジョアンが飛び上がってしまう。 「え、ええっ!? 嘘ぉっ!?」 「……うふ、あははははっ!」 その驚きぶりにセシリアはついに我慢しきれず、大いに笑い出してしまう。 「まさかあの子がそんなこと……って、え? 好きな子!?」 「十中八九、あなたね」 セシリアの笑いながらの断定に、ジョアンは紅潮してしまう。その事実に言葉が出ず、おろおろしてしまう。 「これはいいわね。ちょうど、進化の日の夜に、彼に来てもらうことになってるの。間違いなくあなたを誘うでしょうから、好都合ね。あなたに相談して、大正解だったわね」 セシリアが言葉を続けるが、ジョアンはさらに顔を赤くしてしまう。 「……そんなに綺麗だったのかな」 ぽつりとつぶやく。 「確かにあの時、あたしのことじーっと見てたし、あの子の前で進化したけど……。でも……」 「その様子じゃ、彼の気持ちを知らなかったみたいね。彼自身も、あなたが知ってるかどうかは分からないって言ってたけど。これはもう、間違いなくこくは……」 「やめてセシリア! は、恥ずかしいから!」 思わず、セシリアの言葉を遮る。動揺するあまり激しく羽ばたき、鱗粉が舞っていた。 「ど、どうしよう……」 ジョアンは戸惑っているようだった。 「あの子のことは、嫌ってわけじゃないけど、今までそういう目で見たことがなくて……」 「だったら、来たるべき日までに気持ちを決めなさいな」 セシリアは穏やかに言う。ジョアンはやはり気持ちの整理がつかないようだった。 「うーん。せめて、なんでミノを着たがらないのか、知りたいんだけど」 ジョアンがぼやくと、またもやセシリアが笑い出したのだった。 「セシリア、どうしたの?」 「いえ。あのね、ミフトって実は――」 ◇ 「なんで教えちゃうんだよセシリアさん……」 時と場所が変わって、ミフト。自身の計画通りにジョアンを迎えにいった時のこと。 「あはははは!! 何よあんた、ミノが作れないなんて!! それでミノムッチなんておっかしい!!」 ミフトはしきりに赤面しながら、ジョアンと共に進んでいた。爆笑しているものの、ジョアンは極力声を抑えているのだった。。 「仕方ないじゃないか。いくら作ろうとしたって、うまく貼り付けられないし、まとえないし。ぼくは気持ちよく走りたいから、作れなくっていいんだよ。……恥ずかしい」 「あははっ、恥ずかしくって教えてくれなかったの? もう、可愛いんだから」 「うう」 ジョアンはセシリアに理由を教えてもらい、それについてミフトをからかっていた。とはいえ実のところ、セシリアに会った際のことはほとんど話しておらず、会ってミフトがミノを着ない理由を教えてもらったという程度しか話していなかった。 これはセシリアの提案で、ジョアンと会ったことはミフトに話さず、当日になって驚かせようという魂胆だった。しかしジョアンは我慢しきれず、少しだけ話してしまったのだった。 結局からかわれながらセシリアのもとへ到着した2体。セシリアは、1体のクルミル相手におくるみを作っているところだった。 「セシリアさん!!」 ミフトが呼びかけると、ちょうど作業が終わったらしいセシリアが顔をあげ、笑顔で迎えるのだった。 「いらっしゃい」 2体と入れ違いでクルミルはいそいそと去る。 「イメージはできてるわ。ぶっつけ本番だけど、最善を……、ジョアン、どうしたの?」 ジョアンは必死で笑いを堪えているが、堪えきれず噴出しているのだった。 「どうしたも何も、セシリアさんがぼくが言ったことを教えたりするから……」 「あら、まあ。ごめんなさい」 セシリアは笑ってごまかす。ミフトはげんなりとするが、すぐさま表情を治す。 「セシリアさん。お願いしてた物、用意してもらえましたか?」 「ええ」 セシリアは腕でミフトの横を指し示す。そこにいたのは、もちろんジョアンだった 「彼女の糸で作ることにしたの」 「ええっ!?」 ミフトは驚いてしまう。 「嫌かしら?」 セシリアの問いにミフトは大きく首を振った。 「嫌ではないんですけど……ええと」 ミフトは顔を伏せ、しきりに顔を赤らめているのだった。 「もうミフト!! あんた本当に可愛いんだから!!」 ジョアンにからかわれることで、更に赤みが増す。 「月の下で、マユルドが進化したのが綺麗だったって言ってたでしょう? だったら、あなたも繭になって、その状態から進化したらいいんじゃないかなって思ったの。どうかしら?」 ミフトは俯いた顔を上げる。その顔は赤くありながらも、毅然としたものだった。 「お、お願いします!」 セシリアは頷き、ジョアンに目くばせした。 ジョアンは、口から糸を吐く。まるで蚕の繭に使われているような滑らかな糸が、さらさらと出てくる。セシリアは片方の鎌でからめとり、切れないようにもう一方の鎌に巻き付け、両腕を互いに回転させながら糸を巻き取っていく。 「ミフト。さあ、こっちへ」 ミフトは頷いて進む。触覚を伸ばして手近な枝に引っ掛け、ぶら下がる形になった。 ある程度巻き取ったところでセシリアは糸を切断。同時にジョアンも糸吐きをやめ、一息つく。 「少し唾液をもらえるかしら?」 セシリアの頼みで、ミフトは自身の体に唾液を少量垂らした((恐らく、自身の唾液でミノを接着させているのものと思われる。))。そこへ、正面から両腕にまたがる糸の橋を密着させ、両腕をミフトの後ろへまわす。その時点で鎌から糸を切り離し、余ってはためいている箇所を切り、後頭部から体に向けて貼り付ける。結果、丸っこいミイラのようなものができあがったのだった。 「ど、どうかしら……」 聞くセシリアは苦笑している。 「す、すごい! 本当に繭みたいだ! いい進化ができそう! ありがとう、セシリアさん!」 そう言うとミフトは、そのまま樹上へと引っ込んでいったのだった。 背後から聞こえるのは、忍び笑い。セシリアはほっと息を付き、空を仰ぐのだった。 「何あれ……変なの」 無情な言葉が、ジョアンの口から洩れたのだった。 ◇ 生憎の三日月。満月には及ばず、空はそれほど明るくない。 しかし、雲はほぼなく、満天の夜空だった。光を遮るものはヤミカラス程度で、森は青く輝いていた。 森では、至る所で、多くのミノムッチが、いつもより高い場所で進化の時を待っていた。 そして、彼も。 「何、その格好」 ジョアンは今にも笑い出しそうに聞いた。 「見ててくれ」 ミフトは多くを語らない。 とは言っても、ジョアンは全てを知っていた。ミフトが繭を着て進化する理由も、そしてその後起こるであろうことを。繭で身を包んで進化するなどというミノムッチなどいないに等しいし、いたとしたら、それは関わるべきではない存在である。 しかしそれが今回は、自分がよく知るミノムッチ。溜息を吐きつつも、見守るしかなかった。 とは言うものの。 ミフトの繭は、月光を反射して煌めいているのだった。セシリアが勘で仕立てた故に、多少のあらは見られるものの、そのきめ細やかな糸の通りは、ミフトが惚れるのも納得がいくものだった。 「ジョアン。見ててくれよ」 自然に、ジョアンに朱がさす。 まるで、月から力をもらっているかのように、繭は煌めく。それは、見ようによっては、薄い紫にも見えてしまいそうだった。 繭の光が広がるように。ミフトの体が銀色に包まれ、輝く。 まるで、ひとり舞台のように。ただ1体、ミフトだけを月が照らし、その為だけに光り輝くように。ミフトは激しく輝いていた。 光が、繭を破る。 はだけていく繭から孵るように、2対4枚の翅が生え、それもまた月光のもとに輝いた。 役目を終えた絹のミノは、地に舞い落ちていく。 月に照らされて輝いているのは、ドクケイルとガーメイル。ジョアンがはばたくたびに鱗粉がきらびやかに光り、ミフトがはばたくたびに翅が白く輝く。 「ジョアン」 ジョアンの紅潮も、月に照らされていてはよく見えないのだった。 「ぼくと……!」 三日月のもとで美しくはばたくガーメイルとドクケイル。それを仰ぎながら、セシリアはしとどに目を濡らしていた。 END ---- あとがき だって、あんなあられもない姿を見たらどうしても使ってみたくなるじゃないですか!! というわけで、裸ミノムッチを速攻で使わせていただきました。本当はエロで使いたかったんですが、我慢しきれずこんな形に。 そもそも、DP時代のアニポケはほぼ見れなかったので、僕が初めてミノムッチの裸を見たのは、かの推理ものでした。あの時は悲鳴と同時に爆笑してしまいました。 しかしホント、あんな中身だったとは……。ギュッとしたいです。抱っこでは物足りません。ギュッとしたいんです!! 作品について かいこって聞いて、どうしてもいいものが思いつかず、すごく悩んでました。同音異義語を検索してみてもぱっとしたものがなく……。 そんな時、僕の尊敬する作者さんが「ハハコモリ」というキーワードを出してくださったのを目にしまして。 瞬く間にガーメイル、ドクケイル、ハハコモリとその他もろもろが爆発的に出てきたんです。感謝してもしきれません!! そのおかげか、今回は得票数5、優勝タイに輝くことができました!! ありがとうございます! コメント返しをさせてもらいます。 >>ミノが作れないからミノを着ないんかよw って思わず心の中で突っ込んでしまいましたw 終始楽しく読ませていただきました。 →そんなミノムッチがいてもいいと思ったんです。何よりそうじゃないと、物語が成立しません( その他にも、物語のためにミノムッチに色々と設定を付け足したりしてしまってますw 楽しんでいただけたようで幸いです。 >>繭を作る蛾のポケモンと、衣を纏う蛾のポケモンで絹糸を表現するアイデアが秀逸です。三日月の下で寄り添って飛ぶ2匹の描写がとても美しく、感涙したセシリアさんの気持ちも伝わってきました。 →インスピレーションを得てからのアイデアの開始から終了まで5分かかってなかったりしますw やっぱり「かいこ」から創作するとしたら蚕が一番簡単で、それに一番近いのがマユルドでした。そこから「服を作る」で派生していった結果こうなりました。もうすべて「ハハコモリ」のおかげです!! 三日月の下の描写は、クライマックスというのもあって僕なりに結構気を使ったので、評価していただいて嬉しいです。 >>ミフトの真っ直ぐな想い。ジョアンのミフトを想う気持ち。 そして、セシリアさんの大胆に2体を導こうとする姿。 登場キャラクターたちが、とても魅力的に映りました。 月明りでの進化描写も上手く表現されており、蚕の美しさを堪能させていただきました。 →ミフトとガーメイルの関係は割と王道にいきました。僕的にも結構書きやすかったです。 →ガーメイルとドクケイルの関係は割と王道にいきました。僕的にも結構書きやすかったです。 セシリアさんには結構無理させてしまいました。あの鎌、見た目以上に切れ味があるので、仕立てるのも切れないように保つのも大変だったと思います。ハハコモリってすごい( 進化シーンはとにかく、光、光、光! と、僕の考えうる限りありとあらゆる美要素を出しました。月の力は偉大ですね。 >>登場するポケモンたちの仕草が可愛らしかったです。 繭をまとうミフトの格好を想像すると……うーんw →不足の感は否めませんが、思いつく限りの仕草をいれました。裸ミノムッチなんて、そうそう書けるものじゃないですし! ミノムッチは周りにある物なんでもまとうことが明言されているので、繭オンリーでも問題なしです! 頭だけ出して繭をまとえる蛾なんて、それこそミノムッチだけですw( >>ほのぼのまったりとしていい作品でした →これからもこういう作品を書けたらいいなと思います。思いつくかどうかは分かりませんが…… みなさん、投票、ありがとうございました! みなさんからの感想、指摘、評価、重箱の隅つつきなど、何かあればなんでもお寄せください。 カナヘビはみなさんの言葉を真摯に受け止め、より良い作品作りにむけて精進していきます。 #pcomment(繭をまとったコメントログ,5);