ポケモン小説wiki
愛を込めて微睡みを の変更点


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writer is [[双牙連刃]]

突発的に書きたくなった作者久々の官能小説になります。ヒト♂×フローゼル♀です。
官能小説はNGという方はブラウザバックを! 一向に構わんという方は↓からになりますので、お楽しみ頂けましたら幸いです!

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 朝、日差しを感じて目を開けると、窓から差し込む陽だまりの中で俺の顔を覗き込む相棒にすぐに気付く。俺の寝顔なんて見てて楽しいのか? とも思うんだけど、当の本人、いや本ポケモンは鼻をヒクつかせながらじっと見つめている。喋れない相棒からの朝の挨拶って事で一応納得してるけど、寝起きドアップは下手をすると頭突きになってしまうから出来れば止めてほしいところだ。
 まぁいい、俺からの朝の挨拶をそっと待ってる相棒に一先ず挨拶をしよう。

「お早う、フローゼル」

 言いながらゆっくり頭を撫でてやると、目を細めて俺の手の温かさをじっくりと味わうように触れた手に擦り寄ってから、フローゼルは返事として一つ鳴いて返してくれる。毎朝の習慣になってるこれをすると眼が冴えてくるんだから、日常の繰り返しって言うのは面白いものだなと思う。さて、いつまでもベッドに居ないで、自分とフローゼルの朝飯を用意するとしようか。
 スクランブルエッグにソーセージ、トーストにシーザーサラダ(昨夜の作り置き)のそれぞれが乗った皿を食卓に並べて、自分が座る席の反対側にはフローゼル用のポケモンフードを皿に盛って置く。ポケモンの食事を人の食卓に並べるのに嫌悪感を抱く人も居るらしいけど、俺は特に気にしないのでこうして一緒の食卓を囲むようにしてる。それにうちのフローゼルは食べ方も綺麗で、がっついたり零したりせずにポケモンフードを一つ一つゆっくり手に取ってから口に運ぶので食べてる様子を見ていても嫌にならないのもこうしている要因の一つだ。

「あぁごめんごめん、見てないでお茶淹れて食べ始めないと冷めちゃうな」

 どうしたの? とでも言いたげに、自分用の席に座って俺の着席を待つフローゼルが見ているので、さっさと用意している紅茶を淹れてしまおう。こういう朝食にはコーヒーを合わせたくなるけど、フローゼルがコーヒーの香りを好まないのでうちにはコーヒーの備蓄は無い。あ、コーヒー牛乳は寧ろフローゼルの好物なので常備してる。香り以外は寧ろ好きらしいから、ポケモンの味覚というか感覚も面白いものだなと思ってる。

「お待たせ、頂こうか」

 返事の一鳴きをしてフローゼルが食事を始めると共に、俺も用意した食事を口に運ぶ。相手がフローゼルとは言え、食事を一緒に出来る誰かが居るって言うのは良い事だと思う。流石に会話は無理だけど、フローゼルは俺の言う事を概ね理解してるらしく、俺が話し掛けると何かしらのリアクションを返してくれる。それを子供の頃から見て話し掛けているから、俺もフローゼルが何を思っているかはそれなりに察してやれてると思う。これはお互い子供とブイゼル、ブイゼルに至ってはタマゴから孵った頃からの仲だからの特技のようなものだと、密かに自慢だったりするのだ。
 ゆったりとした食事の時間を終えて、役目を果たしてくれた食器達を綺麗に洗い片付けていく。とは言ったが、洗った食器を拭いて戸棚に戻しているのはフローゼルだ。孵ってからずっと俺、もとい俺の家族と共に生きてきたフローゼルは誰に教わるでもなく家事の手伝いをするようになり、生活も人と大変わり無く出来ている。フローゼルという種族自体、昔から人と接してきた種族という事もありその辺りの抵抗のようなものも元から少ないのかもしれないな。

「ありがとう。もうこっちは大丈夫」

 言いながら頭を撫でてやると、嬉しそうににっこりと笑った後にテレビ前にあるソファーへと向かった。こういったフローゼルとのやり取りを感覚で言うと、家事手伝いをしてくれる妹と接している……と言った感じだろうか。あぁ、うちのフローゼルの性別はメスだ。自分で言うのもアレだが、フローゼル自身のセルフケアも相まって毛艶は上々、プロポーションも他のフローゼルと並んでも全く見劣りする要素は無いと見ている。他者に伝えるとブリーダー馬鹿だと言われるから言わないけども。
 けど実際、何度かフローゼルの事を譲ってくれないかと声を掛けられた事もある。それくらいの魅力はうちのフローゼルには備わっているという証拠だろう。あぁ、現状フローゼルが俺と暮らしている事で分かると思うが、当然家族同然のフローゼルを譲る気なんてさらさら無い。しつこい手合いにはバトルを申し込まれた事もあるが、うちのフローゼルはバトルに乗り気にはならないが普通に勝利出来るくらいには強いと付け加えておこう。
 朝の諸々を終わらせて、そろそろ俺は出勤時間だ。フローゼルにもそう伝えると、自分が収まる事になるボールを持ってきてくれる。基本的に俺の仕事にフローゼルを出すような事は無いんだが、極稀に手を借りる事もあるからついて来てくれるのは助かってる。さて、出るとしようか。

 突然だが、この世界の人間にはサイキッカーと呼ばれる人種が居る。所謂超能力者という奴だ。祖先がポケモンに能力を教わった、血筋の中にエスパーポケモンの血が混じっている……言われようは色々あるが、エスパーポケモン程でないにしろ確かに能力を使える人というのは存在している。とは言え、言った通りこの世界ではより強力な力を持つポケモンという存在が人と共に生活している。だからサイキッカーだからと言って極めて特別かと言われればそうでもなかったりする。一般人より出来る事は多いが、ポケモンという高い壁は超えられない。そんな所だ。
 そんなサイキッカーはどのように生活しているか? 簡単だ、特別ではなく普通として生きている。ポケモンは超えられないとは言え、やはり超能力とは便利な物で、悪用さえしなければ生活の利便さを増してくれるだけでなく、身を立ててくれる事だってある。
 実は俺もそんな一人で、使える能力は催眠術。なんて言っても相手を強制的に眠らせるような物ではなく、何らかの理由で眠れない、眠りが浅いと言った症状に悩まされている相手の眠気を刺激し、少しだけ良い寝付きを提供するという程度の物だ。
 しかしこれがなかなかウケが良く、今では睡眠導入屋なんて呼ばれる程度の商売として成立し生計を立てられている。俺の仕事とはそういう物だ。
 睡眠導入剤のように副作用の心配は無いし、どういう夢見にしたいかを聞いてそれに多少なりとも誘導するって事が出来る為にニーズを満たし易いんだと思う。流石に重度の、治療行為が必要なレベルの問題の場合は心療内科へ行くよう促すが、俺自身もカウンセラーの資格を持っているので簡単にならカウンセリングを行ったりも出来て、それも俺の睡眠導入屋の人気に繋がっていたりするそうだ。
 今日も電話で予約された依頼者の家や指定されたホテルに向かい依頼者の話を聞いて眠りを導く。時に心に不安を抱えて眠れなくなってしまってる依頼者なんかも居るんだが、そういう時にフローゼルの手を借りてる。俺が催眠術を掛けてる間にフローゼルと触れあったりしていると、どうも依頼者の精神状態が緩やかに安定していき眠り易くなる。ポケモンセラピー効果って言うのを聞いた事があるけど、恐らくそれが作用しているんだと思う。穏やかな性格のうちのフローゼルには打って付けの役回りだったという事なんだろう。
 そうしてあちこちを巡り次々と依頼をこなし、昼には手短にフローゼルと一緒に休憩と軽食を摂り午後も仕事に巡る。これが俺の一日のルーティーン。社会人なり立ての時はサラリーマンをしてたのに、同僚の寝付きを改善したりしてる間に能力が口コミで色々な人に伝わって、こんな仕事に行き付く事になってるんだから面白いものだなと思いながら今は生活してるよ。

「んー……はぁっ! やれやれ、一日に16件も回らされたら俺の身が持たんぞ……さっさと帰るか」

 夕陽に照らされながら帰路に就く。同じような事をしてる奴が、少なくとも俺の近間には居ない事で需要が俺に集中してるのは儲けとしては助かるが、休暇という点では困りもの。一応週に一日は休日は設けているが、そこ以外は予約用に立ち上げたサイトのスケジュールは二週間程埋まってる。嬉しい悲鳴だろと言われればそれまでだが、俺が忙しいというのはそれだけ不眠に悩む者が居るという裏返しなので素直に喜び難いものでもある。

「止めた止めた。明日は休みなんだし、今日くらいは仕事の事は置いておこう。晩飯、何にするかな」

 今日はボールから出て来てもらう必要も無かったから、フローゼルは昼しか外に出してやらなかったな。埋め合わせとして好きな魚料理でも作ってやろうか。煮つけもいいがこれから作ると晩飯の時間が遅くなるし、刺身か焼き魚にしようか。

 俺が自分の能力に気が付いたのは子供の頃、ちょっとした切っ掛けで発覚した。その頃の俺はポケモントレーナーに憧れてて、いつもブイゼルを連れては冒険やバトルの訓練だと言いながら遊び回っていた。
 その頃の俺の不満は一つだけ。ブイゼルの性格だ。親から貰ったタマゴから孵って、それからずっと世話したり遊んでいるブイゼルの事は無論好きだったが、如何せん性格が穏やかだからかバトルへのやる気が全く無かった。進化した今でもそうだが、戦うくらいなら踊ろうかと言わんばかりに相手のポケモンと和やかな雰囲気になってしまい、バトルになった相手と和解してしまう。今の俺はそれもまたフローゼルの魅力だと思ってるが、子供の頃の憧れを抱いていた俺としては悩みの種だった。戦いたくないが、戦ったら普通に強い。相手の攻撃を自分に掠めるような距離で見切って避けるし、相手の隙を突くのが上手過ぎて大抵の攻撃が急所に当たるという嘘のようなバトルセンスがフローゼルには備わっている為に余計にやきもきしたものだ。
 そんな時だった、ポケモンの性格を変える方法があるなんて噂が子供達の間で流行り始めたのは。
 今でこそ香りでポケモンの気持ちを傾向させて疑似的に性格が変わったように感じさせるハーブなんて物もあるが、俺が子供の頃にはそんな物は発見されてなかった。だから子供達の間で流行った方法も子供騙しな願掛け程度のものだった。そもそも用意する物が五円玉と糸な時点でお察しだったと今では思うけどな。
 そう、誰でも一度は聞いた事がある五円玉催眠術、それがポケモン相手で性格に関するものだけは効果があるってデマが流れたんだ。元々は、ポケモンが覚える自己暗示って技で能力が上がるんなら他の暗示を掛けるような方法でもポケモンに影響を与えられるんじゃないかって実験番組で、五円玉催眠術でポケモンの性格が変わった! って実験結果をテレビが放映したのが始まりらしい。ま、その実験は実は催眠を掛けた前と後で同種の別のポケモンを用意して、映像を切り替える間にすり替えてた。所謂ヤラセだったって後に発覚してテレビ局が謝罪してたけどな。
 でもその謝罪がされるまでの間、半信半疑ながらポケモンの性格を変えられる方法として世間を騒がせる事になって俺の耳にも届いたって訳だ。
 そんな噂を聞いて、ブイゼルの性格に多少なりとも不満があった俺は嬉々としてその方法を試した。とは言えブイゼルの性格が丸っきり変わってしまうのは嫌だったから『今よりちょっとだけ積極的になって』と念じながら暗示を試みた。
 その時は思わなかったんだ、その暗示が成功するなんて。揺れる五円玉を見ながらブイゼルの目は次第に眠りそうなようにとろんとしていき、正に暗示に掛かったようになったかと思ったら……俺はブイゼルにいきなり抱き着かれた。その時は何が起こったか分からなかったが、これが俺の能力である催眠術の初の発現だったのは言うまでもないだろう。
 催眠に掛かったブイゼルは微睡みの中で俺の暗示を受信してしまい積極的になった。が、俺の念じ方がぼんやりしたものであった為にバトルに積極的になる訳ではなく自分のやりたい事、したい思いに積極的になってしまったらしい。
 もっと俺と遊びたい、仲良くしたい。そんな気持ちに積極的になった結果が抱き着きになったようだが、離してもらおうとすると涙目でもっと強く抱き着いて来るしどうしたらいいかと本当に頭を悩ませた。けど、意外とアッサリと催眠が解ける切っ掛けも見つかった。
 そんな事しなくても俺はブイゼルの事大好きだよ。困りながら必死に考え俺がそう言うと、憑き物が落ちたようにブイゼルは正気に戻りバッと離れた。自分がなんであんな事をしたか分かってないようで、俺を困らせたのを凄く悪い事をしたとでも思ったのか涙まで流したくらいだ。慰める為に頭を撫でたりして機嫌が直るまで更に苦労する事になったんだよな。

「今じゃあそれを商売にしてるんだから、現金なもんだよなぁ……」

 茶碗片手に過去に耽って吐いた一言に、フローゼルは不思議そうに首を傾げる。前にこの時の事を覚えてるかってフローゼルに聞いたら微妙そうな顔をしてたから、多分覚えてるんだろうなと思ってそれ以上は触れてない。恥ずかしそうにするフローゼルを見てるのは、それはそれでちょっと楽しいんだけどな。
 そうそう、それ以来俺はブイゼルのように意識を変革させるような暗示は誰にも行ってはいない。けどなんで俺にそんな事が出来たかだけは知っておかないとならないと思って、申し訳無いと思いながらブイゼルに協力してもらったりはした。なにせ、噂を聞いた子供の中でそんな珍事が起きたのは俺だけだったからな。
 先触れのような能力の発動、最初は五円玉催眠術が偶然成功した、もしくはブイゼルがそう言った催眠が効き易い体質なのかと思ったが、どうもそうではないって事が次第に分かってきた。重要なのは、俺が対象をしっかり決めて眠れと念じる事。それが催眠のトリガーだって言う事が分かった。その間に申し訳無いけど野生の鳥ポケモンなんかに勝手に付き合って貰ったりした事はお目溢し頂こう。なんせ、いきなり人相手に試したり出来なかったからな。
 催眠のコツを掴んだ後は、割とすんなりと俺は自分の能力を把握していった。最初のブイゼルとのやり取りで催眠を掛けた相手の意識に影響を与えられるのは分かってたからな、後は力加減や念じるイメージをはっきりさせたりする訓練をした。そうして誕生したのが、睡眠導入屋の俺という訳だ。悪用すれば幾らでも出来たんだろうが……する気も起きなかったしな。きっと、そんな事に能力を使ってたら、今俺はこんなに平和に生活は出来てなかっただろうな。そうなればフローゼルの事ももっと悲しませてただろうし、俺が道を逸れなかったのはフローゼルが居てくれたからなのかもしれないな。

「ははっ、そんなに変な事は考えてないさ。ただ、いつも俺の傍に居てくれてありがとうって思ってただけさ」

 朝のように食器を片付ける手伝いをしてくれているフローゼルの頭を、水気を拭いた手で撫でる。傍に居てくれて、か。本当なら俺にそんな資格は無いのかもしれない。俺は……散々フローゼルに能力を確かめる為に催眠を掛けた。傍に居てくれるからと言って、能力の実験台にしてしまった。物心付いた頃に俺はフローゼルにとんでもない事をしてしまった、傍に居るべきじゃないと思ってフローゼルを逃がそうとした事もあったくらいだ。まぁ、フローゼルが大泣きしながら俺に縋りついて来るような事態になっちゃって逃がすのは止めにしたんだが。
 それ以来俺は、今まで以上にフローゼルの事を大事にしようと思うようになった。単なるポケモンとそのトレーナーじゃなく、同じ時を生きていくパートナー……言葉にするとそんな相手だと思うようになった、かな。
 フローゼルの方もそう思ってる。かは分からないが、少なくとも俺と別れるのを泣いて嫌がる程には俺の事を慕ってくれているのは逃がそうとした時に分かったけど、それがどういう感情からなのかは分かってないんだよな。嫌われてるとは思いたくないがな。
 そもそもにフローゼルは孵化からずっと俺の傍に居たから、野生に帰されても勝手が分からず途方に暮れるだろう。そういう点では人に依存しなければ生きていけなくなってしまっているのかもしれない。まぁ、社交性は本来バトルする筈の相手ポケモンとも和解してしまうくらいに高いから、なんだかんだ上手く馴染んでいきそうな気もするけども。
 まぁ、それが無かったにしても俺にもフローゼルにも他の人やポケモンには言えない秘密があるんだが……別れようとした理由にはその秘密も関わっていたりはする。別れずフローゼルの事を大事にするって誓った今となっては秘密でこそあれ、別れる理由にはもうする気も無いけどな。
 不意に、少しだけシャツを引かれるような感覚がした。見てみるとフローゼルは俺のシャツの裾を軽く握りながら、上目遣いのように見上げてくる。あぁそうか、どうやらフローゼルなりに俺の様子がいつもとは少し違うのを察してくれたらしい。これはフローゼルからの合図。今日は一緒に寝ようって言うな。
 諸々の片付けは終わらせてテレビを観ながら寛いでいただけだから、もう寝室に行くのは別に構わない。明日は休みでのんびりしようと思ってたし……行こうか。
 普段俺とフローゼルの寝床は分けている。俺がベッドで、フローゼルはポケモン用のベッドを別に寝室に置いていてそちらを使ってる。実家暮らしをしてる時は同じベッドで寝てたが、流石にポケモンとは言え異性だから独立してからはそうしているんだ。……実家では妙な変化は即両親に見抜かれる可能性も高かったしな。

 俺は自分の能力を確かめる為にブイゼル、進化してフローゼルになってからもしばしば催眠を試していた。その度にフローゼルは催眠状態になっていたんだが、困った事に最初の暗示も同時に掛かってしまう症状が残ってしまっていた。つまり、催眠に掛かる度に俺に対して積極的になってしまうという訳だ。
 この症状が出るのはフローゼルだけだ。睡眠導入の依頼を受けた依頼者に経過を訊ねた事もあったが、何かしらの後遺症のような物が残った事は一度も無い。寧ろ一度きちんと眠れた事でそれ以降の眠りの質も良くなったという感謝の言葉を貰ったくらいだ。
 ならば何故フローゼルの暗示は再発するのか? ……何の事は無い、俺が無意識下で再度暗示を掛けているのだ。確証は得ようが無いが、恐らくそうだと自覚している。
 始めのブイゼルへの催眠で抱き締められた時のブイゼルの温かさや柔らかさ、それが催眠を掛ける度に脳裏を掠めた。それまでも風呂でブイゼルの体を洗ってやったりはしてたけど、抱き締めた事なんて無かった。その感触の心地良さが頭から離れない、もう一度抱き締められたい。そんな願望が……欲望が俺の中に燻っている。いや、燻っていただな。
 そんな欲を抱えた俺と、俺に対する好意の堰が外れたブイゼルが何度も同じ場に居たらどうなるか? それは火を見るより明らかと言う奴だろう。
 催眠を掛ける度に俺との触れ合いを求められるのも、子供とブイゼルって関係のままであればまだ我慢も出来た。けれど俺も思春期や多感な時期を迎える。ブイゼルを異性と認識し始めてからは、例え人と体の造りが違うと言っても、自分と違う部分に惹かれてしまう。密着される柔らかさも増していき、次第に俺も理性での制御が効かなくなっていった。
 ブイゼルは俺の能力で積極的になっているだけ、そんな相手に手を出すのはいけない事。そう思いながらも俺の手は止められずにブイゼルに吸い寄せられるように撫でていく。背中を、頭を、尻尾を。そして、普段のブイゼルなら隠そうとする部分へも手は伸びた。いつもならば隠してしまうメスの部分、催眠暗示に掛かっているブイゼルはそこに触れる事すらも受け入れてくれた。
 俺が撫でる手を受け入れていく度に、ブイゼルの甘え方にも変化が見えるようになっていった。俺の腕の中に入れた事を喜んで嬉しそうするのは変わらないけども、もっと触ってくれないのかと誘うような視線を向けるようになり、それがどんどんと熱を帯びるようになっていく。それは多分、メスのポケモンがオスのポケモンを誘う為のものなんだろう。それは俺を、ブイゼルは番う者として見ているという事を示していた。
 その変化は暗示を掛けていないブイゼルにも影響を与えていた。それまでは人のする事、家事手伝いや生活には興味が無さそうだったのに、よく俺や家族が何をしているのかを見たり手伝ってみたりするようになった。それが何を意味するのかは暫くは分からなかった。何となく人の真似をしてみたくなったんだろうとしか思ってなかったけど、それには確かな理由があった。
 フローゼルに進化してからその理由は如実にはっきりとした。フローゼルは朝が弱かった俺を早起きして起こすようになったし、食事の際に食器を用意してくれたりと自分の出来る限りで俺の手助けをしてくれるようになっていた。凡そ人が行う生活習慣や家具の使い方もマスターしており、俺との生活は同居と言っても差支えの無い物だ。ポケモンとしての限界はあるにしてもだ。
 そこまでの努力を見ていれば、フローゼルの選択も分かる。ポケモンとして他のオスのポケモンと番う未来を捨てて、俺の隣に居る。それが種としては間違っているとしてもだ。だからこそポケモンではなく人の生き方を覚えようとした。言葉は話さなくても真っ直ぐ俺の事を見つめて微笑むフローゼルからは、そんな決意を感じた。
 そこまでの決意、いや覚悟か。それをさせた俺はと言うと……正直言って、悪戯な好奇心でそこまでの気持ちを抱かせてしまった事を後悔した。このままじゃフローゼルはポケモンとしての正しい未来から外れてしまう。そう思ったからこそ、フローゼルを逃がそうとした。……改めて考えると無責任な奴だな俺。相手に手を出しておきながら惚れられたら怖くなって離れようとするとか、相手が人間の女性なら絶対にアウトなダメ男の典型パターンじゃないか。
 まぁそこで逃がさなかったからギリギリでダメ男にはならずに済んだが、代わりに人として普通に恋愛する事を俺は放棄した。詰まるところを言えば……フローゼルの求めを男、いやオスとして受け入れた。そもそもにこうなったのは俺が欲と好奇心に任せてフローゼルのメスを揺り動かしてしまった所為なんだ、俺も本気でフローゼルに、彼女に向き合わないと釣り合いも取れやしないだろ?

「さて、と。……ほら、おいでフローゼル」

 俺がベッドに腰掛けながら腕を拡げてフローゼルを誘うと、恥ずかしがりながらもちょこんと俺の前に座った。いつものフローゼルの気質は穏やかで大人しい。精一杯甘えて一緒に寝ようと誘ってはきてくれるが、そこから先は恥ずかしさが勝ってしまって踏み込んでは来てくれない。その先を求めるならば、普段は掛けている鍵を外すとしよう。
 そっと包むようにフローゼルを抱いて、耳元で囁くようにまずは確認を取る。これは能力の訓練でもないし、やる事はフローゼルにも負担の掛かる事だ。同意が無いのならば今日はベッドに倒れ込んでそのまま眠りに就くだけ。実際そう言う日も少なくないしな。

「今日はどうする? このまま休むか? それとも……しようか?」

 一応言っておくが、まだ俺は能力を使ってはいない。適度に雰囲気を作ってるだけだぞ。ここから先の選択は、あくまでフローゼルの意思だからな。
 このまま休む場合は一度フローゼルは立ち上がって、向き合うようになってからベッドに横になる。一緒に寝る際はフローゼルは俺の顔を見ながら寝たいようなんでそういう行動になる。これも言葉での意思疎通の取れないフローゼルの考えた応え方の一つだな。
 そうじゃない場合、フローゼルはそのまま俺に身を預けるようにもたれ掛かってくる。この重さが、俺を信頼して身を任せるってフローゼルの気持ちを伝えて来てくれているようで嬉しかったりする。
 それじゃあ意を決してくれた彼女を待たせても悪いし、早速始めよう。今の俺は能力を使うのに五円玉なんて使わない。睡眠導入なら言葉で意識を誘導しつつ念じるが、フローゼルに使う催眠はもっと簡略化されてる。あるキーワードを言うだけだ。

「さぁ、好きにしていいぞ……ルゼ」

 俺の一言にフローゼルの体はピクリと反応して、くたりと力が抜ける。これを支える為にも俺はフローゼルを包んでた訳だ。
 ルゼ、これがキーワードだ。元々俺はフローゼルをニックネームで呼んでいた。子供の頃に考えて、進化してからも呼べるもの。単純かもしれないけど、呼び易いし覚え易くていいだろう。
 それを催眠の鍵になったのは、半ば偶然と言ってもいい。フローゼルの事をルゼと呼びながら能力の訓練をしていた所為で、気が付いた時にはそうなっていたんだ。何度も催眠と暗示を掛けている内にフローゼルの意識に刷り込まれたという感じかな。
 今の種族名で呼ぶようになったのもその所為だ。ルゼって呼ぶ度にスイッチが入っちゃって大変だったからな、いっその事明確に催眠の鍵にしたって訳だ。事情の説明をした時のフローゼルは大層不満そうだったけど、何とか納得して貰ったよ。
 かくしてルゼって呼び方はニックネームから二人だけの魔法の言葉に早変わり。囁かれるだけでフローゼルは、ゆったりと動き出したかと思ったら振り向いて俺の唇を奪ってくるくらいの積極的なフローゼルに様変わりって訳だ。

「ふっ……んんっ……」

 さっきまでの恥ずかしがってた彼女は何処へやらと言いたくなる程に、重なったフローゼルの口からするりと入り込んだ舌が俺の口の中で暴れて舌へと絡みついて来る。番うと誓った時から今日に至るまでに、既に何度も彼女とはこういった情事も重ねてる。その度に彼女の腕前というかテクニックというか、性欲を満たす術は卓越していく。今では、きっと俺は彼女以外と情事に及ぼうとしても満足のいく結果は得られないんだろうなと思ってるくらいだ。
 息を吸うのも忘れるくらいに長く濃厚なキスを終えて肺に空気を送ると、口の中に満たされていた彼女の香りも目一杯に吸い込み、染み渡っていく感覚がする。最初こそ多少なりとも抵抗感もあったが、今ではもうこれも興奮の誘発剤みたいなものだ。吐息も唾液も飲み込んで、恍惚とした表情を浮かべている彼女の前で服を脱ぎ捨てる。素肌で触れる彼女の毛並みは艶やかで柔らかく、優しい香りが鼻孔をくすぐっていく。胸を重ねるように抱き合わせると感じる彼女の鼓動も、空気が貯められていないフワフワとした感触の浮き袋を優しく揉むように握るのもまた心地良い。
 彼女は俺が触れる刺激を味わうように、体を小さく震えさせながらねだるように鳴いている。時折キスをしながら彼女の体をくまなく撫で上げていき、ゆっくりと秘所へと差し掛かっていく。

「痛かったら、教えてくれよ?」

 彼女の体を心配してるのは本音だが、今言った事は建前に近い。彼女もその事を理解しているからか、今更だとでも言うように悪戯っぽい顔をして一鳴きする。既に俺を何度も受け入れているんだから、本当に今更なんだけどな。そうは言っても彼女が痛がるところを見て悦に浸る趣味は目覚めていないので、最大限労わる事は決して忘れない。
 じっくりと周りを指でなぞると、期待からかじんわりと毛が濡れてきているのが感触で分かる。そこで少し、彼女の様子を見ていたいと思い彼女を仰向けに寝かせて体を起こす。俺が何をしたいのかが分かっているかのように、彼女は足の力を抜いて開いたままにしている。いつもの彼女だったらこんな無防備を晒すどころか尻尾まで使って晒すのを避けようとするだろう。……別段催眠によって彼女の別人格のようなものが表出している訳ではなく、ただ積極性が噴き出しているようなものなので今のこの行動を普段の彼女はばっちり覚えている。故にあまり変態的な事をすると情事を終えた後の彼女に凄く恥ずかしがりながら態度で非難されるんだが、こんなに艶めかしく誘惑されているのに我慢してしまうのは勿体無い。今は彼女の体に溺れさせてもらおう。
 足が開かれうっすらと開く彼女の秘所を両の人差し指で更に拡げると、綺麗な桃色の膣が目の前に露わになる。俺の愚息を受け入れた事があるものの、中は傷や汚れの類いは見えない。彼女が自分で洗っているのか? と少しだけ疑問が頭を掠めていったが、俺だって愚息を洗っている。彼女が自分の秘所を洗っていてもなんらおかしな事は無いと決定付ける事にした。
 彼女の息遣いと共にゆっくりと動く膣内、そして漂ってくる愛液の匂いに誘われるように俺は口を近付けていって……その輪郭からじっくりと舌を這わせていく。舐められるぬるりとした感触に彼女は力が入ってしまったのか、手を口元へ持って行ってキュッと目を閉じている。その姿がいじらしくて、もっと見ていたくなる。それと同時に彼女に満足してほしいとも思っているので舌の動きも続けていく。
 たっぷりと唾液を塗すように舐め上げて、少しづつ舐める場所を彼女の中へと移していく。これは流石に変態が過ぎるんじゃないかとも思うんだが、舌が動くのに合わせて快楽を堪えようとしている彼女を見ていたいが為に止められない。慣れてしまえば、愛液も彼女の一部だとして飲み込む事に抵抗も無くなった。……あまり思いたくはないが、俺は大分変態的な嗜好を好んでしまってるのかもしれない。
 じっくりと彼女の中を味わって、溢れてきた蜜を啜り上げ終わり顔を上げるとすっかり彼女の顔は蕩けていた。解し具合から言ってももう挿入しても痛みは無いだろう。
 しかし、どうやら彼女は自分だけが味わわれたのが少し不満だったらしい。ふっと体を起こしたかと思ったら、掴まれて今度は俺がベッドに仰向けにされた。覆い被さるように彼女に乗られ、頭を浮かすと目の前にはさっきまで味わっていた彼女の秘所がある。その体勢で彼女の前にある物が何なのかは説明する必要も無いだろう。
 自分の物である以上、愚息が今どのような状態なのかは理解している。抑えきれない興奮で怒張したそれを彼女はどんな気持ちで見ているのか? 少なくとも触れ合って感じる彼女の鼓動は少し速くなったように感じる。
 不意に、愚息をぬるりとした感触が撫で上げる。何度も、何度も。その刺激に愚息は打ち震えて、背筋にはゾクゾクとした感覚が奔る。まだ射精を促される程ではないにしろ、この刺激が続けられれば俺は我慢する事も許されずに射精を迎えるだろう。

「うっ、ぐぅ……」

 口から零せるのももはや呻きだけ。急速に余裕を削り取られていく俺に、彼女が愚息を咥える事を妨げる余裕も何も無かった。
 先端を口に含み、鈴口を拡げるように舌が動く。それだけでも気を抜けばすぐに精液を吐き出しそうだが、俺の余裕の無さなど何処吹く風と言わんばかりに彼女の口は俺の愚息を飲み込んでいく。
 膣とはまた違う肉壁に包まれた愚息からの刺激は、堪えようの無い快感として脳へと伝わってくる。口内が愚息を絞り上げ、絡みついた舌が更に射精を促してくる。そんな刺激の中でいつまでも射精を堪えている事など出来ず、俺は一度目の射精を迎えた。
 どくりと送り出される精液は彼女の口から溢れる事も無く彼女の喉の奥へと消えていく。初めて咥えられ射精してしまった時は勢いに驚きむせてしまっていた彼女だが、情事を繰り返してきた内にすっかりこの感覚に慣れてしまったらしい。結局収まるまで彼女は口を離す事は無く、最後に綺麗に舐め取って俺の前に来た顔は何処か誇らしげだった。

「はぁぁ……なんと言うか、恐れ入ったよ」

 労いを込めて頭を撫でると、目を細めて嬉しそうにしている。この辺りはいつもと彼女と変わらず、催眠中でも彼女の根幹は変わっていないのだと感じられる。それがどうにも愛おしくて、きゅっと彼女を抱き締めた。
 少しだけお互いに抱擁の心地良さを堪能し、いよいよ情事の本番だと言うように彼女は体を起こした。どうやら今日は彼女が上をご所望らしい。俺の上から降りる様子も無く、腰を浮かせて俺の愚息を自分の秘所に宛がった。
 ゆっくりと愚息は彼女の中へと飲み込まれてゆき、徐々に姿が見えなくなっていく。その様子もまた表現し難い快感があるんだが、それ以上に彼女の膣壁に包まれてゆく愚息から伝わる彼女の熱が俺の胸の高鳴りを速めていく。
 愚息が丸ごと彼女の中に消えると、彼女は少し体を逸らせて、まるで俺の物がここに入っているんだよと言うように膨らんで見える自分の腹を撫でてみせる。本当にこれがいつもは穏やかで大人しめのフローゼルと同一の存在なのかと驚かされる誘惑の仕草だ。
 自分の中に俺の愚息が入っている感覚を十分に楽しめたのか、少し屈むようにして手を俺の胸元に置いた彼女は腰を浮かせて自分の中から愚息の姿を露わにする。しばし空気の涼しさに晒された愚息は、彼女がまた腰を沈める事で勢い良く熱の中へと戻っていく。
 振られる腰の動きと共に擦り合う膣壁は何処までも柔らかく愚息を包み、絞り上げる。苦痛な痛みは無い。ただただ擦れ合い彼女の深い部分に潜り込んでいく快感に声も無く身が震える。もっと彼女の内へ進みたい、一つになるように彼女に溺れたい。頭の中がそんな思考で埋め尽くされていく。
 腰を振る彼女も喘ぎを抑える事も無く、口を閉じる事すら忘れて快感を貪っていく。それだけ自分の伴侶を満たしてやれているというのは、なかなかどうして心地が良い。もっと彼女を満足させたいと下からも腰を突き上げると、より強まった快感に彼女は体を逸らせる。
 強い快楽の刺激に体を起こしてられなくなったらしい彼女の体を支えながら腰を振り続ける。もう限界ギリギリというところまで高まった射精感を、これで締めだというように彼女の腰を手で押し付けるようにして、これ以上無い程深く繋がっている状態で解き放った。
 放たれた精液は彼女の中へ溢れていき、深く繋がる事で塞がれた出口から溢れる事無く彼女の膣、そして子宮を満たしていく。その衝撃に震えながら、彼女は少しだけ涙を流していた。
 そんな彼女をしっかりと抱いて、射精による疲労感を和らげていく。射精が終わる頃には程良い酩酊のような感覚の中に居た。感じるのは、腕の中の荒くなった息遣いが穏やかになった彼女の存在。酩酊は、次第に彼女を愛おしいと感じる想いに変わっていく。今はただ、こうして彼女と抱き合ったままで居たい。繋がったまま、眠ってしまいたい……。

「お休み……愛してるよ、ルゼ……」

 最後に辛うじて彼女を……フローゼルを微睡みから目覚めさせる言葉を掛けて俺は意識を手放した。フローゼルが目覚めたかは確認出来てないが、もう既にフローゼルから寝息が聞こえてきているし、明日目覚めてからでも大丈夫だろうと言い訳をしながら……。

 翌日、目が覚めてきた俺が真っ先に感じたのは腕の中の振動だった。これはその、あれだ。しっかり催眠からも目覚めてるフローゼルが照れ爆発し掛けてる予兆だ。急いで開放しないとフローゼルはオーバーヒートするな。

「ふ、フローゼルごめん! そのまま寝落ちした!」

 バッと俺が腕を拡げると跳び出すようにフローゼルは起きた。ほぼ落ち着いてたとは言え膣に俺の愚息を収めたままそんな事をしたんだ。予想外の股間の刺激に俺もフローゼルも驚いて固まってしまったぞ。
 フローゼルは昨晩の痴態を思い出して湯気が出るんじゃないかと言う程熱くなっている。頭を冷ましがてら、片付けもせずに眠ってしまった所為でぐちゃぐちゃになっている体を洗いに二人揃って風呂場に向かう。勿論昨日のアレやコレを吸ってしまってるシーツはすぐに剥がして洗濯機に放り込んだ。
 一先ず自分の体の前にフローゼルを洗ってやろうとシャワーを手に取り振り向くと、恥ずかしながらも嬉しいという様子で自分の秘所から溢れ出た俺の精液を拭いているフローゼルの姿が目に飛び込んでくる。その様子にまた俺の情動に火が点きそうになるが、フローゼルはいつもの調子に戻っているのでそのまま情事が始まる事は無い。抑えてくれと言わんばかりにフローゼルがポカポカと叩いてくるから、その可愛さで収まるのもあったりはする。

「いやぁ……昨日は少し羽目を外し過ぎたな。悪い、フローゼル」

 アレコレを済ませて朝食を食べる中で謝罪をしたんだが、恥ずかしくはあるが怒ってはいないという感じでフローゼルは鳴いて答えてくれる。本当、今日が休みで良かった。多分鼻が良いポケモンとかなら俺達の臭いに気付くだろうし、今日は一日家で大人しくしてるのが吉だな。
 フローゼルにもその旨を伝えると、それでいいという返答の一鳴きが返ってきた。まだ若干の疲れも感じるし、今日は本当に休養日だな。
 朝食が済み片付けも終わって、昼までの穏やかな時間が過ぎていく。テレビは点けているけど、内容なんて半分も頭の中には残ってない。傍らでソファーに座っているフローゼルも似たようなものだろう。

「はぁ……なんか眠いし、昼寝でもするか」

 そう言いながら立ち上がった俺にフローゼルも続いた。昨日盛って疲れた上に寝るのも遅くなったし、フローゼルも昼寝に興じるのに異論は無いんだろう。
 寝室に戻ると、換気はしてるんだがまだ少しだけ残り香を感じる。その事に気恥ずかしくなりながら、新しく敷いたシーツの上に寝転ぶ。掛け布団を掛けるか少し迷ったが、暖かい事もあって布団は掛けない事にした。
 横になってふとフローゼルの方を向くと、フローゼルはちょっとだけ不満そうに自分のベッドを見ていた。んー……あぁ、そう言う事か。

「フローゼル。こっち来るかい?」

 俺がそう声を掛けると、少しもじもじとした後に俺の方まで来て、向かい合わせになるように横になった。どうやらフローゼルに掛けた催眠の名残が抜け切ってないみたいだな。一匹で寝るのが寂しくなったんだろう。
 横になった俺を見ながら、フローゼルはニッコリと笑う。どうやらこっちに誘ったのは正解だったみたいだな。

「このくらい、何も無くたって強請ってきていいんだからな? ちょっと甘えられたくらいで俺がフローゼルを嫌いになる事なんて無いんだからさ」

 そう言うと、フローゼルは照れたような仕草をする。そんな様子が可愛らしくて、また俺はフローゼルの頭を撫でてやった。
 すると突然フローゼルの頭が動いたかと思ったら、次の瞬間には俺とフローゼルの口が重なっていた。
 昨日とは比べ物にならないほど極短い時間ではあるけど、俺はいつものフローゼルとキスをした。あまりに唐突の事だから、固まって動けなくなったぞ。

「ふ、ふふふフローゼル!? 俺、催眠なんか使ってないよな!?」

 慌てる俺にふいっと背を向けて、それからこっちを向こうとはしない。ただフローゼルの尻尾はするりと俺の腕に巻き付いていた。
 あまりに急だったから慌ててしまったが、落ち着いてくるとどういう返しをしてやればいいかは自然と思いついた。
 穏やかで大人しい相棒……いや、妻からの精一杯のラブコール。夫としてオロオロしたまま終わりだなんて、あまりにも情けないからな。ちゃーんと気持ちを込めて伝えるとしよう。

「ありがとう。俺も大好きだよ、フローゼル」

 シンプルに、ありったけの想いを込めた俺の言葉は無事にフローゼルをこちらに向ける事に成功。……端から見たら恥ずかしい事してる夫婦だなぁ俺達って。
 ま、けどたまにはこういうのもいいさ。満面の笑みの後、ウトウトとし始めたフローゼルに少し身を寄せて俺も目を閉じる。フローゼルの優しい温かさを感じながらの昼寝は、なかなか夢見が良さそうだ。

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~後書き~

まずは、ここまでお読み頂きありがとうございます! 久々に官能物でしたが如何でしたでしょうか?
そう言えばポケモン世界ってサイキッカーとか居たなーって言う割とぼんやりした着想から書き出した今作ですが、お楽しみ頂けたのなら何より、イマイチだった場合は……もっと面白い物を書けるよう頑張っていきたいと思いますので、またお読み頂けたらありがたいです!

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