[[同的7]]の続きです たぶんこれで終わりかも。[[青浪]] #hr あの交流試合の出来事があってからだった。ウチの部に勝つ、という気概が生まれたのは。 秋の練習試合で、上位校相手にあわや、というところまで行くと、12月の個人記録会のインドアでは僕も含め、ウチの学校が上位を占めた。 ケイとの関係?あれ以来デートにはなんどか行ったけど・・・関係が深くなったわけじゃないなぁ・・・友達と変わらない感じ。 アーチェリーの腕もいつの間にかフィーアに抜かされてた。 そして3月・・・最後のリーグ戦が始まった。 「よし、じゃあ明日のリーグ戦第1試合のメンバーの発表をする。」 監督が緊張した面持ちで僕たちに言う。 「1的、ノイン。」 「はい。」 ♂のメンバー8匹が読み上げられていく。僕は今回は10位。ゼクスは9位だった。また記録・・・か。 「8的、フィーア。」 「はい!」 「以上だ。明日はみんな、緊張しないように、勝てる試合だから。」 リーグ戦ではレンジに有利不利が出ないように、違う学校でやるのがルールだ。だから準備も何もしなくてもいい。 「帰ろうよ、シャオ?」 ケイが僕に声をかけてくれた。僕もうん、と応じ、カバンを持ってケイのところに行く。 「明日、不安だなぁ・・・」 ♀の試合もある。その不安をケイは僕にぶつけた。 「大丈夫だって。今までケイが失敗したことある?」 「ある!」 ケイは自信に満ちた顔でそう答えた。僕はすこしガクッと顔をうつむける。 「そうだ。ねぇシャオ。約束してくれない?」 「何を?」 ケイがにこっと微笑んで僕に言う。僕は何かされるのかと思って少し警戒する。 「リーグ戦、1試合でも出て!」 今まで見たことないような真剣な顔でケイは僕に言う。僕は無理な注文だな、と思ってケイを見た。 「それは・・・」 「出て!出ないと・・・出ないと、シャオがされて一番嫌なことしちゃうよ?」 「え?」 僕がされて一番嫌なこと?・・・なんだっけ・・・ケイにされるようなこと・・・無いかな? 「出れる?」 ケイは問いただす。 「出る。出ます。」 意を決して答える。 「よし。じゃ、私もベストを出すから。」 気付くと僕たちは分かれ道についた。初めてケイと一緒に帰って、別れた道・・・ 「じゃ、がんばれ。」 「うん!シャオも記録がんばってね!」 ケイと僕は軽くキスをするとそのまま別れた。 家に帰るまで僕はずっと考えてた。どうしたら今以上に点が出るかな・・・って。今日の選考。僕は496点だった。ゼクスは501点。この5点・・・大きな壁。 そして次の日、リーグ戦第1試合・・・ ノインがサークルで何やら喋っている。僕は記録なので電卓やら何やらの確認をしている。 「よし。これで準備は大丈夫。」 ボールペンも試し書きをしたし・・・記録用紙もあるし。ふと、サークルを見るとゼクスが周りがユニフォームだらけの中、制服でぽつんと立っている。 「ゼクス・・・」 リーグ戦では得点報告がある。記録がホワイトボードに書き込むのに時間がかかるので、先に計算しちゃおう、そう言う考えだ。 ちなみに監督が電卓持って計算してる。変な光景。 みんなが弓の弦を軽く弾いて、いよいよ試合が始まった。 僕は何も考えずただひたすらに、記録の仕事をこなしていった。退屈だった。 退屈なうちに試合は終わった。 「結果を発表します。先攻、ジョウト第5学校、4110点、後攻、カントー第4学校、4090点、よってジョウト第5学校を勝者とします。」 ウチの学校が勝った・・・みんな大喜びだ。 「みんなお疲れ~。」 試合に出てない僕は労をねぎらった。フィーアはどうもいまいちだったみたいで首をかしげてる。 「フィーアはどうだったの?」 僕はフィーアに聞くと、フィーアは少し不満そうな顔をした。 「550点・・・もうちょっとだったのに・・・自己ベストまで。」 「フィーア・・・惜しいじゃん。・・・にゃぁっ!」 後ろからのもふもふが僕を覆った。びっくりして身体が縮む。 「シャオ?そんなにびっくりした?」 やっぱりノインだった。 「ノイン・・・離れてよ・・・」 「もうちょっといいじゃん。」 まだ3月中旬。セーターを着て、制服を着てると少し寒い。ノインはうれしそうにそんな寒がる僕に抱きつく。 「シャオのもふもふ~。」 ぎゅっ・・・ 「ふぃ、ふぃーあくるしいって・・・」 ノインが後ろから抱きついてきたのに、フィーアまで僕の前に抱きつく。フィーアは満足げに僕の首周りの毛を嬉しそうに触ってる。 僕は寒さどころか、急に暑くなってきた。息苦しいし・・・ 「そんなこと言って~・・・うれしいんでしょ~?」 「暑い・・・苦しいし・・・はぁっ、はぁっ・・・」 やっと僕から離れてくれた2匹。 「おいゼロ、どうした?」 監督がゼロに声をかけたみたいだ。虚ろな僕は聞き耳を立てる。 「肩が、少し・・・」 「病院行ったほうがいいんじゃないのか?」 「はい・・・」 その会話を聞いていた僕はあわててゼロのところに走る。 「シャオ・・・俺は大丈夫だから。」 僕を止めるゼロ。すこし我慢してるみたい。 「・・・やっぱ無理。病院行ってくる。」 「そんなに痛い?」 「まぁね・・・最後にやっちゃったかも・・・今日最後外したから・・・それで510点だったから・・・」 ゼロは監督に支えられると、僕をじっと見た。黄色いゼロの顔が少し蒼かった。 「もし、俺に何かあったら、シャオ、頼んだぞ。今まで特に何もしてやれなかったけど・・・な。」 「ゼロ、もういいだろ。後は病院で。」 監督はあわてた表情でゼロを連れて行った。戦勝ムードのチームを不安が包む。 そのあと病院に行ったゼロは、肩の疲労骨折だったらしくて、僕たちは苦しいチーム運営に迫られることになった。 「知っての通り、ゼロは射てない。だから、ゼクス、あとシャオもメンバーを追いぬくようなスコアを出してほしい。」 第1戦の翌練習日、監督は僕たちにそう訓示した。 「シャオ・・・がんばろう。これで最後なんだから。」 ゼクスが僕にそう言った。僕もうなずく。僕はここ半年、全く点が上がっていない。自己ベストもいつ出したか忘れた504のまま。 熱くなるチームに対して、僕は少し意欲を失いかけていた。だから、ゼロが怪我したって聞いたとき、もうダメだ、そう思った。結局部員数が9に戻って、1匹補欠、という状況に変わりはなかった。 その後の練習でも大して成果が出せないまま、2週間後、第2戦を迎えることになった。 メンバーは選考の結果の通りゼクスが代わりに入った。その時の選考、僕は488点。ゼクスは504点。差は16にまで広がった。フィーアは545点でノインに次いで二番目。 通常、最上級生は5月で引退を迎えるけど、今年は大きなスポーツイベントがあるらしく、リーグ戦の時期も5月初めで終わりじゃなくて、4月後半で終わりっていうことになった。 僕たちには後輩がいない。つまり、リーグ戦の僕たちの学校の順位が決定した瞬間、部としての活動を終えることになる。 僕たちが第2戦をするこの日、♀チームは3週連続で試合があったみたいで、もう今日でおしまいらしい。昨日、ケイも泣いてた。 ゼクスはかなり緊張してるみたいで、手がブルブル震えてる。ノインも必死に声をかけるけど、震えは止まらない。 試合中、記録をしている僕はずっとゼクスのことが気になっていた。やっぱり緊張が隠せないのか、選考のときの勢いはなく、487点だった。 そして、チームも負けた。 「もうだめだ・・・」 そう言う声がちらほら聞こえてきた。学校に帰ると♀チームが上機嫌で僕たちを迎える。 「ノイン!大丈夫だよ!」 ドライが必死に声をかける。ノインとドライはいつの間にか交際してたみたい。僕がケイと付き合ってるのは実はまだたぶん誰も知らないと僕は思うんだけど・・・。 「はぁぁ・・・上のリーグにはもういけない・・・」 ノインがドライに弱音をこぼした。 「上のリーグに行けなくても、最下位は脱出できるでしょ?」 ドライも励ます。僕に自然と悔しい思いが芽生えてきた。 「うん・・・でも・・・」 ノインはドライを振り切って僕のところに来た。 「シャオ・・・」 あまりにも元気がなかったノインに僕は少し悔しさをぶつけた。 「ノイン!まだ試合はある。」 「シャオ・・・俺は・・・がんばれるかな?相手は手ごわいよ。もし勝っても得点差で最下位、っていうこともあるからね。」 自信のなさそうな目つきで僕に尋ねたノイン。僕は勿論という具合にノインを見た。 「まだいけるって。がんばろうよ。」 「がんばろう・・・か。」 そう呟くとノインは急に目を輝かせた。 「そうだ・・・俺たちはまだ終わってない。がんばろう!」 そう叫ぶとみんなノインのほうを見た。相当びっくりしたみたいだ。 「シャオ!がんばれるよな!」 ノインは僕に向かってそう言うと、白い前肢で僕の耳をプニプニと触った。 「やめっ・・・こら・・・ノイン。」 「がんばろう。」 何かの決め台詞のようにノインはがんばろうを連呼した。次第にみんなも感化されていったみたいで、落ち込んでいたモチベーションも上がってきた。 1週間後に迫った、最後のリーグの試合・・・僕は出れるんだろうか・・・ その日から僕はフィーアに教えを請いつつ練習に取り組んだ。フィーアは後で授業料貰うよと、すこし怖いことをいいつつ、喜んで教えてくれた。 ケイはその間僕が相手をしなかったのが頭に来たらしく、練習が終わったらばしばし叩かれた。といっても嫉妬とかじゃなくて、寂しいんだって、ずっと言ってた。 選考の日・・・つまり明日が試合だ。僕はいつになく緊張していた。♀も一応リーグは終わったとはいえ、形式上練習に参加していた。 「えいっ!」 「やあ!」 そう言うとみんなバシバシと射ち始める。僕もゆっくりと弓を引いて引き手を弾く。・・・ビュッ・・・カッ・・・矢が的に当たる。 「ふむ・・・5?6?ってとこか。」 緊張を押し隠すように僕は余裕を気取る。横で射ってたフィーアがぱしっとタブを付けた手で叩く。 「似合わないって。」 ニコニコ笑顔で、僕を見るフィーア。僕もテヘッと笑って再び弓を引く。 50m射ち終わって212点。久しぶりにいいスコアが出た。 「50mどうだった?」 フィーアが笑顔で聞いてきた。隣で見てたから知ってたのにね。 「よかったよ。自己新記録まであと1点ってとこかな?」 僕がそう言うとフィーアはにこっと笑うと、弓を持って前いこう、そう言った。僕もフィーアの後を追う。 30mが始まると、僕は50mうまく行ったせいなのか、ガチガチに緊張してしまった。でもフィーアがバシバシ当ててるのを見て、覚悟を決めた。 「もう引き返せない。行くぞ。」 僕は力みつつも、さっき余裕を気取ったように楽な姿勢で射った。矢は僕の気持ちを見透かしたように、ど真ん中、ではないがそれに近いところには当たってくれた。 「よし。8かな?」 ゆっくり考えるように、矢を射つ。その都度調整しつつ当てていく。 「シャオ、けっこういいじゃん。」 「そう?今のペースだと290乗るかのらないかくらいかな。」 フィーアも僕をじっと見てる。僕の言葉の通りそのペースのまま終わった。 僕たちは監督に得点報告をしに行く。 「えーと、フィーア。50m258点、30m301点、トータルが559点でした。」 「おおっさすがだね、フィーア。」 「そう?シャオも頑張りなよ~。」 フィーアはの頭を撫でた。おほん、と監督が注意を向けさせた。僕はあわてて監督のところに行く。 「シャオです。50m、212点、30m291点、トータルが503点でした。」 「おっ・・・ふむ・・・ま、後の奴次第だな。」 監督は驚いた顔で僕を見た。僕はその監督の顔を見ることなくフィーアに引っ張られていった。 僕たちはみんなが点数の報告を終えるまで、楽しく会話をしていた。 「ねぇねぇ・・・今日遊びに行こうよ。」 笑顔でフィーアは僕に言う。 「フィーア、明日試合でしょ?」 僕があきれ顔をしてもフィーアはにこにこしたままだ。 「おい。メンバー発表するぞ。」 監督はすこし嬉しそうに怒ってる声を出した。何が何だか・・・ 「サークル。」 ノインがそう言うと、みんなは緊張しているのか、普段見せないような機敏さを見せた。 「えっと・・・いよいよ最後だな。1的、ノイン。」 「はい。」 僕はずっと聞いていた・・・振りをしてた。監督の言葉が左耳から右耳へ抜けていく。 「7的、シャオ。」 「・・・」 「シャオ!」 「は、はい!」 「何ボーっとしてんの?」 あわてて返事をした僕をみんなが笑う。 「8的、フィーア。で、明日は戦います。」 僕は何が何だかわからなくなっていた。選ばれた?僕が?そう考えたら急に手が震えてくる。 「じゃ、解散。また明日。」 ボーっとして、何も考えられない。 「シャオ!」 「あ・・・ケイ・・・」 突っ立ってた僕にケイが声をかけてくれた。 「おめでと・・・いやまだこれは言っちゃいけないね。明日だよ。がんばろう!」 そういうとケイはドライに呼ばれて僕から離れて行った。 ふたたび僕はボーっと弓を触ってた。はぁ・・・明日・・・怖いな。とんとん、と肩を叩かれたのがわかって、振り返る。 「フィーア。」 「明日、隣だよ。よろしく。」 「うん。」 フィーアは僕の前肢を掴むと引っ張った。まるで・・・その・・・ずっと前からの戦友・・・みたいな・・・ ケイは僕が緊張するといけないから、って言ってヌルととっとと帰ってしまった。 僕とフィーアは弓のケースを背負って帰った。 「じゃ、また明日。」 「うん。」 フィーアは僕を家まで送ってくれた。僕をまじまじと見つめるフィーア。 「な、何?」 「ん~?相変わらず可愛いなって。昔と変わらないじゃん。」 そう言うフィーアに照れる僕。うう・・・なんで照れてるんだ?僕は。 「ま、いいや。また明日ね。」 「ばいばい。」 そう言うとフィーアは帰って行った。僕は玄関のドアを開けると、父さんが帰ってきていて、リビングでTV見てるみたいだ。 僕はリビングに顔を出した。 「ただいま。」 寝てた父さんが僕の言葉に反応して、むくっと起き上がった。 「おかえり。試合・・・出れるか?」 父さんも僕を心配してくれてたみたいで、すごくうれしい。 「うん。」 僕が笑顔で答えると、父さんは僕をギュッと抱いてきた。柔らかい父さんのお腹に僕は顔を当てている。 「そうか!・・・そうか~・・・シャオよくやったぞ~・・・よしよし・・・」 大柄な父さんは小柄な僕を抱くと何度も大きな前肢で僕を撫でてくる。その慣れない感覚に、僕は少し戸惑うけど、父さんの気のすむまでずっと抱かれてた。 「さて、晩御飯だな。」 一息ついて、そう言うと、父さんはテーブルの上にオムライスを並べた。 「好きだろ?ちっちゃかったころはよく作ったもんだ。」 「父さん・・・」 少し恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しい気持ちが勝った。僕はイスに座ってがむしゃらに食べる。 「うまいか?」 「あたりまえじゃん。」 僕がそう言うと父さんは顔を真っ赤にした。父さんらしくないな、と僕は思いながら、そのオムライスを食べる。 「今日は早く風呂に入って、早く寝な。もう沸かしてあるから。」 顔を赤らめたまま父さんは言った。僕はうん、と答えて洗濯物の山の中から着替えを取り、風呂場に向かった。 ばしゃん・・・僕は威勢よく浴槽に浸かった。 「ふぁぁ・・・緊張するなぁ・・・」 明日・・・僕たちの全てが・・・終わるんだな・・・そう思ったらなんか・・・目頭が熱くなってきた・・・ ばしゃばしゃとお湯から前肢をあげて目をこする動きをするけど、顔の毛が湿ってるのは汗でもない間違いなく僕が泣いているからだ。 風呂場から出るとバスタオルを取って頭から拭いていく。身体をぶるぶるとふるわせて頭にバスタオルをかけたまま僕は歯磨きを取った。 寝る身支度を済ませると、身体が乾いたのでパンツを穿いて室内着を来た。 自分の部屋に戻って、予備の弓具を確認する。予備の弦、予備のタブ、予備の・・・とことんチェックする。気が済むまで。 「もういいや、寝よう。」 僕はそのままベッドに飛び込んだ。緊張で寝れないかな?と思ってたけど、疲れてたみたいで割とすぐに眠りに入れた。 「おはよう。」 父さん?僕を起こそうとしてる。 「ん・・・」 「おはよう。もう朝だぞ。」 身体がゆさゆさと揺さぶられる。 「んあ・・・」 「起きろって・・・」 さっきよりも強くなる。目を覚ますしかない、そう思って僕は身体を起こした。 「うぃ・・・」 「おはよう。」 「おはよ。」 僕は眠い目をこすって、父さんにあいさつをする。すると父さんもにっこりと笑う。 試合だから制服・・・じゃないんだ。ジャージなんだ。試合に出るのか、っていう自覚が目覚めの僕を再び緊張に陥れる。 「緊張してる?」 父さんが僕に聞いてきた。その父さんの言葉に僕はドキッとする。 「そ・・・そんなこと・・・ある。」 「やっぱりな。」 父さんは笑うと、僕をリビングまで連れて行った。 リビングには昨日急いで洗濯したであろうジャージがちゃんと乾かしてあった。僕は少し驚く。 「そんなにびっくりしなくてもいいだろ。やるときはやるよ。」 「父さん・・・」 僕が嬉しくて少し泣きそうになると父さんは朝ごはんをキッチンから運んできた。 朝ごはんを僕がゆっくりと食べてると、父さんが僕の前に座った。お茶飲んでるけど・・・食べないのかな? 「食べないの?」 「何言ってるんだ。これから戦に行く、っていう奴の前でのんきにご飯なんて食えるか。」 父さんらしい言い草だなぁ・・・でも父さんの目は本気だ。顔は・・・少し赤いな。 「何じろじろ見てるんだ?」 「なんでもないよぉ・・・」 突っ込まれた僕はあわててごまかす。コップを取ってお茶を入れると一気に飲み干す。朝だから喉が渇いてたっていうのもあるけど。 ご飯を食べ終わると、僕は顔を洗って、ジャージに着替えた。 「ふぅ・・・」 部屋に戻って、弓具を背負うと、またリビングに戻る。弓具は普段と同じはずなのに、少し違う重みが僕に伝わる。・・・これが試合に出る重みなんだ・・・ リビングに戻ると父さんがじっと僕を見てる。 「もう行くのか?」 「うん。」 「そうか、よし。行って来い。」 そう言うと父さんは僕に近づいて、頭のふさふさを押しつぶすように頭を撫でる。 「寝ぐせ、取れてないぞ。」 「もういいじゃんか~。」 「ふっ・・・自然体でいいな、シャオは。」 玄関まで、父さんは僕を送ってくれた。 「じゃあ、行ってきます。」 「おう・・・堂々とな、自分の力を信じろ。シャオにはその力がある。努力に基づいた、確固たる力が。・・・行って来い。」 そう、かっこつけて父さんは言うと、僕は玄関を出た。でも、今の父さんかっこいいな・・・そう思いながら。 家を出るとなぜか目の前に制服姿のブースターが・・・ 「ケイ?」 「おはよっ!」 僕はびっくりした。なんでここにケイが?って。 「びっくりしたでしょ?シャオのお父さんに連絡入れてもらったんだ。家を出そうになったら電話してって。えへへへへ・・・」 「はぁぁ・・・」 大きなため息をついた僕にケイは笑顔で近づいてくる。 「今日は応援だからさ。でもシャオを応援しないよ。私が今日記録やらせてもらうから。」 「ほんとに?」 「そうだよ~。じゃ、行こ行こ!」 ケイは僕を引っ張った。僕も引っ張られる力に自分から従う。 駅までの道のりをずっとケイに記録の方法を教えてた僕。緊張は確かにしないよね。ケイは首をかしげながらも熱心に僕の話を聞いてくれた。 「駅だ・・・切符買おうか。」 「そうだね。」 僕の話を遮ってケイは切符を買いに行った。僕も後をついていくけど。ケイは料金表を確かめると切符を買った。 「はい!シャオ。わたしの気持ち。」 そう言うとケイは切符をくれた。 「え?いいの?本当に?」 「当たり前でしょ?だって彼女なんだから。シャオが困ったり、私が気持ちを伝えたいときとか・・・」 話の途中でケイは顔を真っ赤にして、黙っちゃった。僕も少し恥ずかしくなる。 「さ!行こう!」 「うん。」 ケイに導かれるようにホームに行く。ホームの上で朝日を受ける僕たち。まだ肌寒かったのが、太陽のおかげで結構温かくなった。 「シャオ・・・」 ぴとっと、ケイは僕の体にすり寄る。首周りのもふもふが僕の首に当たってくすぐったい。 「ケイ・・・」 「今日で終わりたくない・・・えっ・・・えっ・・・」 ケイは涙ながらに言う。僕だってそうだ。 「がんばるからさ、泣かないで。」 「シャオ・・・がんばってね。」 初めて恋人っぽい会話をしたかな?そうこうしているうちに電車がやってきた。 電車に乗ってからもケイは僕から離れなかった。立ってたからね・・・目的の駅に着くまでずっと。 「もう着くよ。」 「うん・・・」 ケイはいつもより相当おとなしい。やっぱり嫌なのかな・・・今日で最後っていうのが。まぁ僕もだけど。 駅に着いて、改札前の集合場所に出てもやっぱり誰もいなかった。 「やっぱり早いね。シャオは・・・ふぁぁ・・・眠くなってきちゃった。」 「何か飲む?」 「うふふぅ・・・じゃあお茶。」 僕が聞くとケイはにこっと笑って言う。お茶か・・・ 「じゃあちょっと待ってて。」 そう言って僕が買いに行こうとするとグイッとケイが引っ張った。 「私も行く。」 ケイは僕の後についてきた。お茶を買うとはいっ、とケイに渡す。 「シャオ、ありがとう。」 愛らしい笑顔で僕を見るケイ。僕の心臓はもう破裂するか止まるかの2つに1つ、そんな状態だ。 ふと時計を見ると、集合時間の30分前になっていた。 「ん?」 改札からノインがやってくるのが見えた。 「ノインが来たね。」 「そう?」 「うん。」 じっと僕を見続けるケイ。僕の話なんかお構いなしみたいだ。 「おはよう~、しゃ・・・・お・・・・?ケイ?」 ノインは唖然とした表情でケイを見ている。 「お・・・おまえら付き合ってたの?い・・・いつから・・・?」 相当ショックなようで、声もぶるぶる震えてる。 「ええとねぇ・・・」 ケイが言おうとする。 「教えない。今日いい点数出したら教えたげる。」 別に教えてもいいのになぁ~・・・僕のそんな気持ちをよそにケイはノインにいじわるした。 「ふ、ふ~ん・・・シャオが・・・ケイと?う~ん・・・ひょっとしてダメなところが好き、とかそういうのじゃないよな?」 信じられない、といった感じでノインはケイに聞いた。 「そんなわけないじゃん。たしかにシャオはミスター残念かもしれないけど、それと違う部分のほうが多いって言うことにも気づいて・・・」 「へえ・・・シャオもすごいなぁ。俺はドライと付き合ってるけど、ドライに散々振り回されてるからなぁ・・・」 ノインも自分の話をするときには照れくさそうに言う。 「ノインを振りまわすなんて・・・ドライも相当だよね。」 ケイはすこし面白がって言った。 「あ、そうそうこの話は今を以てわすれること。ノインもシャオもいいよね?」 何を思ったのか、つまりケイは僕たちに今の話を他の奴にするな、そう言ってきたのだ。 「うん。」 「ああ。いいよ。ドライに振りまわされてるなんて言わないで。」 出来ないキャラっていうレッテルを貼られるのがノインは相当嫌なんだな・・・僕とケイは笑った。 「おはよう~。ノイン~シャオ~ケイちゃ~ん。」 ヌルがテンション低めのフィーアとやってきた。僕はすかさずフィーアに言い寄る。 「どしたの、フィーア?」 僕の言葉を受けてフィーアは少し泣きそうな顔をした。 「今日で・・・終わりなんだよな・・・俺たち・・・」 「まだ終わってないよ。」 僕がそう言うと、フィーアはえ?という具合に僕を見た。 「まだ、今日の試合が終わるまで・・・まだ終わってない。」 「よし・・・よおし!今日は600出す!」 フィーアは練習でも出したことないスコアを出す、そう僕に宣言した。その言葉ですこしプレッシャーのかかった僕も一応フィーアに頑張れ、と言う。 ノインとフィーアが到着してから間もなく、みんな集まった。 「もうそろそろだな。」 そう言うとノインは時計を見た。 「じゃあ、出発!」 みんなにノインが号令をかけると、部員が動き始めた。 「そういえばさ、シャオ?」 急にフィーアが僕の隣に来て尋ねる。 「なに?フィーア。」 「今日の対戦校ってデルのいる学校だよな?」 デルか・・・そう言えば夏の記録会から会ってなかったな・・・馬鹿にしたから結構うまくなってたりして。 「そうだね。」 「あいつ上手くなってるかな?」 いじめっ子のフィーアはニヤッと笑って僕に聞く。 「多分うまくなってると思うけど。」 素直に僕は言う。フィーアもそうだよね、と笑って答えた。ふと空を見上げると、綺麗な曇り空・・・久しぶりに見るかな・・・ 綺麗な曇り空っていうのは僕の基準で・・・って言っても誰も理解してくれない。仕方ないか。曇り空が好きな奴のほうが少ないもんね。 「おお、あれだあれだ。」 そうノインが言うと、目の前にはピカピカの校門。校舎は・・・少しぼろい。 「見かけ倒し・・・か。」 僕と同じことを思ってたのか、フィーアがそう呟いた。聞こえてたのか、ふふっとノインも笑う。 「おーい!シャオ!」 校門のほうから僕の名前を呼んでるやつがいる。よく目を凝らすと黒い身体・・・デルだ。先に来てたのかな? 「デルじゃん。行ってきたら?」 フィーアが言う。僕はうん、と答えるとデルのほうに走って行った。 「シャオ~!」 デルの目の前に立つ。ぎゅぅ・・・やっぱり抱きついてきた。 「相変わらずのもふもふだな~。今日はよろしく~。」 「あぁ・・・わかったから離れてって。」 「やだね~。」 相変わらず悪乗りするなぁ・・・そんなことしてたら 「デ~ル~!元気だね?俺と遊ぼうぜ!」 フィーアが威圧するようにデルに迫る。やっぱりね・・・ 「ふぃ・・・フィーア・・・ごめん・・・やめて・・・」 「後でいたずらしてあげるね?」 デルは僕から離れると蛇に睨まれた蛙みたいに、すっかり委縮してる。 「じゃあ、みなさま、レンジはこちらです。」 フィーアに勘弁してもらうと、デルは自分の学校でもないのに僕たちをレンジに案内してくれた。 「んじゃ、弓組んで。組んだら各自でストレッチして。」 少し疲れたような声で言うノインは、そそくさと弓を組み始める。それを聞いた僕たちも弓を組み始めた。つんつん、と背中を突っつかれたので振り返る。 「フィーア、どしたの?」 「やばい・・・タブ壊れちゃった・・・今。」 タブが壊れた、つまり弓を射てない・・・ということは試合に出れない・・・ということだ。僕は一瞬パニックになったけど・・・ 「えええええええぇぇぇ・・・あ、僕の予備タブ使って。」 あっという間にアイデアが出た。 「いいの?」 「使いにくかったら言ってね。多分こっちのが使いにくいと思うけど。」 僕はそういうとフィーアに僕が2番目に使ってたタブを差し出す。僕はタブを3つ持ってる。監督に最初に貰ったやつと、自分で初めて買ったやつと、その予備。 今使ってるのは、その予備、ってやつ。フィーアには自分で初めて買ったやつを貸した。 「ありがとう・・・絶対いい点出す。」 そう言ってフィーアはタブを手に取った。 「追いこまなくても・・・」 「うん・・・おお、全然違和感ないな。これ、借りるよ。」 「使いにくいと思うけど、がんばって。」 「おう。」 フィーアは満足そうに再び弓を組み始めた。僕も弓を組み、ストレッチをしようと、四肢を伸ばす。 「シャオ、ストレッチしてあげる。」 察したのかどこからともなく現れたケイは僕にそう言う。ケイは顔が少し赤い。 「ケイ・・・」 ケイは僕の身体をゆっくりとほぐしていく。 「痛い痛い・・・シャオ・・・ごめん。」 「なんでケイが痛がるかな・・・」 申し訳なさそうに、ケイはストレッチしてくれた。 「終わったよ。」 「ありがとう。」 僕はそう言ってケイの頭の黄色いもふもふを撫でた。ケイは嬉しそうに目を細めてる。 「あ、記録だから行くね?」 「がんばって。」 「ありがと。」 ケイは記録席に向かって走って行く。僕はその様子をじっと見ていた。 再び弓を組みながら、今日は暖かいな・・・とかそんな他愛のないことを僕は考えた。 ベンと軽く弦をはじくと弓をスタンドに置いた。センターロッドを付けて、クイーバーに矢を6本入れる。 「ええと・・・こんなもんかな・・・」 クイーバーをスタンドの下に置くと、Tゲージで弦とノッキングポイントの位置と、レストの位置、上下のリムの付け根からの弦までの距離を確認した。 もう準備は十分だ。ノインが僕にスコアカードをくれた。小さなプラスチックボードに僕はスコアカードを挟んだ。 「サークル!」 スコアカードを渡し終えるとノインが僕たちに集合をかけた。輪のように並ぶ僕たち。 「じゃあ、監督からどうぞ。」 エルフ監督がおほん、と咳払いをして話し始める。 「もう今日は楽に、リラックスして射ってくれ。それ以上のことは望まないから。それでいい結果が出たら、それでいい。悪い結果が出たら修正しながら射ってくれ。以上。」 珍しく手短に挨拶を済ませる監督。ノインはその横で深呼吸をしていた。 「ええと・・・この試合は終わりじゃありません!」 と、いきなりノインが言った。監督もかなりびっくりしていた。 「僕たちが、いなくなっても、また3年したら後輩が出来ます。だから絶対にあきらめないで!がんばるぞ!」 ノインのモチベーションはマックスに達しようとしている。 「がんばろう!」 「おう!」 最近のノインの口癖の掛け声にみんなが元気よく応える。解散すると僕はクイーバーを腰につけた。 「集合してください。」 計ったように審判の声が聞こえた。試合に出る僕たちは弓を持って審判3匹のまえで一列に並んだ。 「ただいまより、ジョウト第5学校対ジョウト第1学校のリーグ戦を行います弓具検査を行います。」 主審が言うとそばの副審2匹がお互いの選手の弓具の検査にやってきた。相手校をみると、一番最後、つまり8的にデルがいた。 「フィーアとデル、同的じゃないの?」 「ふっ、まさか・・・」 僕がフィーアにそう言うとフィーアはフッと笑う。何か嫌な笑いだな。 すこしして、副審が僕の前に立った。 「ええと・・・本日7的を射ちますジョウト第5学校のシャオです、よろしくお願いします。」 副審は僕の声に反応して軽く挨拶をすると手早く、弦、矢、サイトを確認していった。 「ありがとうございました。」 最後に副審は僕にそう言い、フィーアの弓の検査をしていた。 弓具検査が終わると、主審がぺらぺらしゃべっている。 「メンバー表の交換です。」 ノインは審判の所へ行くと、相手校の部長とともにメンバー表にサインをして、交換をする。ノインが走って戻ってきた。 「あのさ、先攻後攻決めるジャンケンだけど何出そうか?」 「パーだよね。」 後ろに立ってたドライがノインにそう言う。 「じゃあ、パーで行きます。」 ノインは再び審判の所へ向かう。 腕を何回かふるノイン。多分ジャンケンしてるんだろな。ノインがうれしそうに手を上に掲げる。 「勝ったな。」 フィーアがぼそっと呟いた。 「ではジョウト第1学校の先攻でいまから5分後の10時より試合を開始します。」 主審の説明が終わると、僕たちは解散した。 弓をシューティングラインの10mくらい後方に置いて僕はのんびりしていた。 「あの・・・」 「はい?」 声に気付いて振り返ると、メリープがいた。 「スコアカードの交換を・・・」 「あ、ごめんなさい。はいどうぞ。」 僕とそのメリープは同的みたいだ。スコアカードを交換すると記入欄にいろいろと書き込んだ。 弓を手にとって軽く弦をはじく・・・弓を持つと緊張するなぁ・・・ 先攻のメリープもデルもすでに弓を持ってシューティングラインの後ろに並んでいる。 ぴ~ぴ~ 「先攻、ジョウト第1学校、フリープラクティス。」 その声とともに、バシバシと的に矢が刺さる音がする。フィーアはずっと僕が貸したタブを見ている。 「大丈夫?」 ついつい僕は声をフィーアにかける。 「大丈夫。プラクティスの間にいろいろ試すから。」 フィーアは笑顔で僕を見た。僕もフィーアの笑顔に安堵して笑顔でフィーアを見る。 ぴ~ぴ~ぴ~ 笛の音が聞こえると、僕たちは弓を持って先攻チームがしたようにシューティングライン後方に待機した。 先攻チームが射ち終えて後ろに下がると、笛がもう一度なる。 ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校、フリープラクティス。」 僕は緊張しつつシューティングラインに立った。 「えいっ!」 「やぁっ!」 ノインの声に合わせて射つときの掛け声を出した。 矢をつがえて・・・ゆっくり弦を引いて・・・引き手を弾く。・・・カッ・・・ 「ふうん・・・ちょっと右下だな。じゃ、左上に狙うか。」 そう呟くと矢を再びつがえて狙って・・・射つ。 「よし・・・ねらった通りだ。っていってもまあ6だな。」 そのまま僕はクイーバーに入れた6本、全て射った。 ぴ~ぴ~ぴ~ 僕は急いで弓を置いた。 「ジョウト第5、矢取り!」 そうノインが叫ぶと相手校の部長も負けじと叫ぶ。 「ジョウト第1、矢取り!」 僕は最初のノインの声を聞いて、クイーバーを前肢で抑え、走る。 先攻後攻、両方とも的前に立つと、チェックをして矢を抜く。一応点数をメモした。 矢取りが終わるとまたダッシュをして、後攻の僕たちはシューティングライン後方に待機する。フィーアは満足そうに僕を見た。 「どうだったの?フィーア?僕は6本で23だった。」 「6本で、48点。」 「すごいじゃん。僕のタブの効果あった?」 「当たり前です。シャオありがと。」 フィーアは僕の頭を撫でた。フィーアの言葉が嬉しくて僕は目を細める。 ぴ~ぴ~ 「先攻、ジョウト第1学校50m1回目。」 その声とともに、僕たちの最後の試合が始まった。 先攻チームがシューティングラインに立った。集中するために僕は少しうつむく。上手くいくだろうか・・・試合に勝つか・・・じゃない、僕が点を出せるか・・・だけど。 もうここまできたら気楽に考えるか。さっきの23点を6回繰り返したら130は乗るしね。 チームのためでも、自分のためでもない・・・今を楽しむんだ。 「シャオ、行くよ?」 「うん。」 僕はフィーアに呼ばれて弓を取った。もう先攻チームが射ち終わりそうだったからね。 ぴ~ぴ~ぴ~ 先攻チームが射ち終わった。先に射ってたメリープは少し表情が暗い。 あわてて僕はシューティングラインに立って、的を確認した。 「ちょっと癖があるのかな?さっき射ってて思ったけど。」 どうにもこのレンジは50mを射つと、思ったより上に当たるみたい。目を凝らすと対戦校さんの矢はほとんど上の白い部分、点が低いか点にならないところに当たってる。 でも僕さっき、右下に射ってたな・・・もしかしてこのレンジに合ってるのかな? ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校50m1回目。」 「えいっ!」 「やぁっ!」 ノインの声はいつもより澄んでいるように感じる。僕はあわてることなくゆっくりと、弓を引いた。そしていつものように射つ。カッ! 「おおっ・・・6っぽい・・・」 続けざまに2本目、3本目を射る。思った以上に上手くいってる。射ち終わるとすぐにシューティングラインから離れた。 同じように射ち終わったフィーアもかなり満足げだ。 「どうだった?シャオ?」 「たぶん6,5,6かな?」 「おおっ・・・俺は8,8,9だと思う。」 「ええっ!すごいじゃん。」 「なんかあってるような気がするんだよね。このレンジ。」 フィーアも僕と同じこと思ってるみたいだ。 ぴ~ぴ~ぴ~ 射ち終わりの合図の笛が鳴ると僕たちは弓を置いて、的前までダッシュする。 「ジョウト第5、矢取り!」 僕が的前に着くスピードが1番早かった。同的のメリープは少しあわててる。的を見ると3本とも6だった。1本は線を噛んでたけどね。 「はぁっはぁっ・・・よろしくお願いします。ええと・・・今回の点数は6,6,6の3射18点でよろしいでしょうか?」 「はい。」 メリープがスコアボードに書き終わると、僕も同様にメリープに点を言って、同意を求める。 「またダッシュだ~!」 矢取りが終わると再び弓の置いてある場所までダッシュをする。後攻だから連続して射たないといけないから。 ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校、50m2回目。」 射ち続けるうちに僕は自分の本心がわかってきた・・・本当はずっと試合に出たかったこと、もっとアーチェリーを続けたかったこと・・・ そんなことを考えてるうちに50mは終わってしまった。 ぴ~ぴ~ぴ~ 「10分後の11時45分から30mを行います。」 気付けばあっという間だった・・・僕は点数を全く気にしてなかった。それは本当だ。 「サークル!」 ノインの元気な声が響き渡る。僕はフィーアと一緒にサークルに入った。 「ええと、50mお疲れ様です。点数報告!1的ノイン、50mトータル245点でした。」 みんなからワッという歓声が起こる。僕は自分のスコアカードを眺めてちょっと憂鬱になっていた。自分では新記録なのに試合に出てこんな点数・・・って思った。 「7的!」 「・・・」 「シャオ!こら!話聞けよ。」 ノインの怒声が耳に入ってきた。あわてて僕はスコアカードを見直す。 「あ・・・ごめんなさい、7的227点でした。ごめんなさい。」 怒られてすっかりテンションも下がっちゃった・・・もう周りが見れない。 「8的!」 「8的フィーア、278点でした。」 フィーアの点数にみんなは盛り上がる。そんな盛り上がりをよそに僕は再びしょんぼりしていた。 「じゃあ30mも頑張ってください。解散!」 一目散に僕は弓の近くへ行く。今は誰とも話したくなかったから。もう自分のことにだけ集中しよう・・・ ぴ~ぴ~ 「先攻、ジョウト第1学校30m1回目。」 僕はその声を聞いて、自分の弓の前に突っ立ってた。ふとデルを見るとかなり苦戦してるみたいで、射つたびに何度も首をかしげている。 「シャオ?」 横にいたフィーアが僕に声をかけた。機嫌の虫の居所の悪い僕は聞こえないふりをする。 「シャオ!」 ぴ~ぴ~ぴ~ 特にあわてず僕は弓を取ってシューティングラインに並んだ。 ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校30m1回目。」 弓を持つ手が震える。心を見透かされてるみたいだ。矢を放っても、うまく当たってくれない。 結局1回目は3射で18点。明らかに足を引っ張ってる。 2回目の開始を告げる笛が聞こえる。僕は弓を引くけど、結局さっきと変わらない。 矢取りにあわてて行くも2回目、3射で20点。6射で38。明らかに心理的な作用が大きい、僕はそう思った。 僕はこの場から逃げたくなった。記録に得点報告をしたあと、ずっと空を見てる。 「シャオ!」 「フィーア?」 僕はフィーアの声に振り向いた。 「どうしたんだよ?シャオ・・・」 フィーアは僕の得点を教えられたらしくて、心配そうに僕に聞く。 「わかんない。」 「わかんない・・・か。シャオらしくないよ。まま、挽回しようなんて考えなくていいよ。自分のペースを維持して。」 僕を励ましてくれるけど・・・いまいち乗らないな・・・ 「うん・・・」 「いい?」 フィーアはなんだか知らないけど、僕の肩に両手を置いて揺さぶる。 「こうやったら緊張とれるんだよ~!」 「わぁぁぁっぁ!揺さぶりすぎ!」 肩ががくがくゆられて首を痛めそうだ・・・フィーアは僕がすっかりもとの調子に戻ったと見て、離してくれた。 「シャオ!がんばろう!」 「うん!」 僕もフィーアの声に元気よく応える。もう、プレッシャーとか自分の心理なんて気にしない。自分の思うように射つんだ、僕は自分にそう言い聞かせた。 ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校。30m3回目。」 その声が聞こえると、僕はフィーアと競うようにシューティングラインに並んだ。 力を抜いて弓を引いて・・・自分に言い聞かせるように僕は身体を動かす。矢をつがえて・・・引き手を引いて・・・弾く!矢はさっきと全く違う動きを見せる。 ・・・カッ! 「おっ・・・8だ。」 僕はこの調子を続けようと連続するように射つ。矢はさっきと同じように素直に飛ぶ。 射ち終わると、フィーアが笑顔で僕を見た。僕ももちろん笑顔で答える。 「ジョウト第5、矢取り!」 フィーアと僕はノインの掛け声に全速力でダッシュをする。 矢取りをすると、フィーアと僕は点の確認をした。 「シャオどうよ?」 「残念ながら24かな・・・」 「そっか・・・俺も26だ。」 ふふっと2匹で微笑むとまた弓を取ってシューティングラインに立つ。僕たちはずっとそんな感じで射ってた。 「シャオ・・・もう次で最後なんだな。」 「うん・・・」 もう30mも次で12回目。僕は今までの立ち、合計は264。自己ベストにはすこし難しい感じだ。 「円陣!」 ノインの叫び声がする。僕たちはレンジの中央で円陣を組んだ。 「俺たちのいよいよ・・・最後だ。力を出し切ろう。」 みんなに力強く話しかけるノイン。みんなも真剣な表情で聞き入っている。 「シャオ?どうだ?50mかなりよかった気がしたけど。」 ノインが急に僕に話を振る。 「うーん・・・ちょっと最初が悪かったから。」 「そっか・・・よし。じゃあ、掛け声やるぞ。」 僕はすこし申し訳ないな、と思いつつノインの気配りが嬉しかった。 「がんばろう!」 「オー!」 「がんばろうシャオ!」 「オー!!」 ノインは急に僕の名前を出した。かなり恥ずかしかったけど、自分の中で覚悟ができた。円陣を解散すると、僕たちは弓を持つ。 ぴ~ぴ~ 「後攻、ジョウト第5学校30m12回目。」 僕はシューティングラインに立つと、もう最後だと思って思いっきり時間を使うことにした。 構えて、弓をゆっくり引いて・・・クリッカーが切れるまでに弦サイトを合わせて・・・カチッ、いまだ!引き手を後ろに弾く。ばしゅっ!・・・カッ! 矢は僕の想定を超えてまっすぐ飛んだ。ほぼど真ん中だ。 「シャオ、ナイショー!」 フィーアから声がかかった。その声で少し照れた僕は、あわてて次の矢をつがえる。 さっきと同じように・・・弓を持つ手に力を入れすぎないように・・・軸を意識して・・・ばしゅっ!・・・カッ! さっきとほぼ同じコースだ。 「シャオ、やるねぇ!」 フィーアは僕のことばっかり気にかけてるのかな?と思ってたら、もう射ち終わってた。 最後の矢に手をかける。・・・今までの思いがふと蘇ってきた。もっと射ちたい・・・ここで終わりたくない・・・この思いは・・・変わらない! 僕は矢をつがえると、何も考えることなく、今までの集中力をフルに使う。引き手だけを意識して・・・ばしゅっ!・・・カッ! あり?少し外しちゃったかな?まあ真ん中コースだからいっか。 「シャオ、すごいぞ!」 フィーアが大はしゃぎで僕を呼ぶ。僕はシューティングラインを離れると、フィーアとハイタッチした。 「27かな?」 自信なさげに言うとフィーアは僕の手を取った。 「自信持って!」 「うん!」 ぴ~ぴ~ぴ~ 僕は弓を置いた。どうやらフィーアの声に反応したみたいで、射ち終わったチームのみんなも、ゼクスもずっとこっちを見てる。 監督があわててこっちにやってくる。 「どうだった?30m。」 「えっと・・・さっきまで264でした・・・」 「そっか・・・最後はどれくらいだと思う?」 「27くらいかと。」 監督は落ち着きを取り戻してフィーアに声をかけた。僕は的をずっと見てた。 ぴ~ぴ~ぴ~ いつの間にか試合は終わった・・・終わったんだ・・・もう・・・ 「ジョウト第5、矢取り!」 レンジをもう走ることはないんだ。そう思うと急にゆっくり歩きたくなった。でもフィーアに引っ張られるように僕は走った。 同的のメリープは少し眠そうだ。的にささった僕の矢は10,10、9を示している。 「ええと、今回の得点は7,7,6の20点、6射計48点、30mトータルが288点、グランドトータル498点でよろしいですか?」 メリープははい、とうなずいた。 僕はスコアカードを見せて同意を求める。メリープがうなずいたので採点者サインをしてそのスコアカードを渡した。 次に僕の番だ。 「いいですか?今回の得点は10,10,9の29点、6射計56点。30mトータルが293点、グランドトータル520点でよろしいですか?」 「はい。」 僕はうなずいて、メリープからスコアカードを貰う。矢を抜くとお疲れ様でした、とお互い労をねぎらう。 「シャオ?どうだった?」 フィーアが聞いてきた。 「29だった。」 「おおっ!シャオ後半29点です!」 「ちょっ!」 いきなりフィーアが僕の名前と点を叫ぶ。恥ずかしくて僕は赤面するけど、ノインがすっごく嬉しそうに僕を見てた。 記録席に得点の報告に行くと、さっきの声が聞こえてたのか、ケイがにっこりほほ笑んでいる。 「えと・・・ジョウト第5の7的シャオです・・・50m最終立ち56点、グランドトータル520点でした。」 「シャオ!お疲れ!」 ケイが太陽みたいな笑顔を見せると、僕も笑顔でケイを見た。 「お疲れ様。」 得点の集計をしている間、デルが弓を片付けている僕のところにやってきた。フィーアがいないことを確認すると、僕の前に突っ立った。 「シャオ何点でた?」 「520だった。デルは?」 「ふっふっふ・・・503。」 「おおっ・・・夏の記録会よりいいじゃん。」 「だろ?俺ってすごくね?」 自分で言うかな・・・こういうこと。 「フィーア・・・601だったよ。」 デルが憂鬱そうに僕に言う。僕がそれで?という具合のリアクションをすると、デルは抜かれた・・・って言ってがっくりしてた。 結局、僕が弓を片付けてる間、ずっとデルと喋ってた。 「集合してください!」 審判の声が響く。話をしていたデルと僕はあわてて整列する。 「結果を発表します。先攻ジョウト第1学校、4130点、後攻ジョウト第5学校4348点、よってジョウト第5学校を勝者とします。」 僕たちのチームに安堵と、喜びが広がる。隣に並んでたフィーアが僕の肩をポンポンと叩く。 「解散してください。」 ・・・終わったんだ・・・僕たちの最後の試合・・・そして最初で最後の僕が出たリーグ戦が。 「うにゃぁっ!」 隣にいたフィーアが僕に抱きついてきた。僕は耐えられずその場に突っ伏す。 「シャオ!シャオ!よくやったじゃん~!お疲れ~!」 完全に混乱した僕はただフィーアが抱きついてくるのにずっと耐えてた。 ん?僕の目の前に白い身体が・・・ノイン? 「フィーア・・・お楽しみは後でだよ。先にサークルやんないと。」 「おっと・・・じゃあシャオ。またサークルの後で。」 そう言うとフィーアは僕から離れた。僕もあわてて立ち上がるとサークルに加わる。僕の真横にいるノインがなにやら挨拶をするみたいだ。 「えーと、この1年?の間ありがとうございました。っ・・・これで心おきなく・・・っ・・・」 ノインは手で目を覆うと、それ以上何も言わなくなった。泣いてるんだなぁ・・・そう思える。 「えっ・・・とじゃあ、みんな一言ずつどぞ・・・じゃあ監督から。」 監督はノインの隣にいる・・・って僕が最後?うわぁ~・・・最悪。 「えーっと最後の最後にこんないい試合を見せてもらって・・・特にシャオ。なかなか大舞台に強いみたいだな。・・・もっと試合に・・・試合に出してやりたかった・・・」 僕の名前を監督はあげるとうつむき、涙目になってぼそぼそしゃべってる。もらい泣きしそうだ。ってもう視野はぼやけてきてるけどね。 監督が喋り終わると次々にみんな喋っていく。ゼクスも、そしてフィーアも・・・僕も。 「じゃあ、締めはシャオで。」 ノインが振る。もう頭の中は真っ白だ。何しゃべっていいかわからないよ。みんな僕を凝視してる。 「ええと・・・」 僕はとりあえず口を開く。 「最後の大舞台に出させてもらって、本当にありがとうございます。ええと・・・ご覧の通り、僕は期待にこたえられず、まだまだだって言う感じですが・・・」 出来る限り頭をフル回転させて言葉を紡いでいく。 「ええと・・・試合の最後の最後に10,10,9で30点は取れず、ミスター残念として、オチはつけたかな・・・そう思います。最後に・・・」 だんだんみんなにこやかになる。 「もうちょっとこのチーム、この部でアーチェリーを続けたかったです。それが出来ないのが心残りです。以上です。」 僕がそう言うとノインとゼクスがわっと僕のほうにやってくる。 「にゃぁっ!」 フィーアが僕に抱きついてきた。ノインもゼクスも僕に抱きついてきそうだ。耐えきれず、レンジに仰向けに倒れた。 「シャオ~!ありがと~!」 ゼクスもノインもフィーアも僕の身体を抑えつけるようにただ抱いてくる。だんだん暑くなってきたけど、うれしくもある。誰かが僕の右の後ろ足を引っ張った! 「にゃっ!足触ったの誰?」 「私だよ~・・・」 ドライだった。ドライはずっと僕の足を触ってる。だんだん身体の自由が利かなくなってきた。いつの間にか監督まで僕の足抑えてるし。 「やぁ!」 僕が頭をあげるとケイがニコニコして僕の頭に手を当てようとしてる。 「おつかれ~シャオ。」 ケイは耳を触ったり、僕の頭のふさふさを触ったり、自由気ままに僕で遊んでる。 「うにゃああ・・・暑いって・・・」 「なんだと~、じゃあもっと暑くしてやる。」 ケイがそう言うと顔を僕の・・・口に・・・ん?ケイの口が僕の口に・・・ チュッ・・・ 「ん~ん~・・・」 この状況だと呼吸もままならないって。しばらくして僕の息が上がってくると、みんな離れてくれた。 「はぁ・・・はぁ・・・疲れた。」 僕がポロっとこぼすとフィーアはニコニコして僕に話しかけてくる。 「シャオ。このタブさ、貰っていい?」 「え?いいの?違和感ない?」 「うん。全然。今日600取れたし。」 フィーアは僕のタブを大事そうに手に乗せてる。僕も今日フィーアが大活躍してくれたから、あっさり了承することにした。 「いいよ。あげる。って今から何に使うの?」 「え?俺は・・・このままアーチェリーを続けたい。だから卒業したら実業団に入る。」 フィーアは今まで僕に見せたことのない真剣なまなざしをする・・・僕はそれに圧倒された。 「監督と、相談して決めた。」 「フィーア・・・がんばって。」 「うん。」 むにゅっ・・・ 僕が励ますとフィーアまで僕にキスしてきた。 「ん~ん~・・・」 しかも結構長い。フィーアはいつの間にか僕の頭を抑えてる。そしてもう片方の手を、僕の胸に当ててる。 「ぶぁっ・・・はぁはぁ・・・なにするのさ?」 離れた僕は少し不可解な気持ちでフィーアに聞く。 「ん?シャオもさ、生きてるんだなって。」 フィーアは僕の思ってる以上に不可解なことを言う。 「へ?」 「シャオって本当に少年みたいだよね。いつまでたっても声は女の子とも男の子とも取れない声だし。それに、性格も外見も可愛いしさ。」 「なにそれ?」 僕に対する告白のなのか・・・でも♂同士だし。 「ん?だから生きてるのかなって。」 「ここは天国でも地獄でもないよ。」 フィーアの問いに答えたのはケイだった。 「ケイ?俺たちの会話に入らないでくれる?」 「変な会話だよね。やたらに一方通行だし。」 ケイに話を邪魔されて、少しフィーアがむっとしてる。やっぱり告白なのか?・・・うーんわからない。 「でもさ・・・シャオも生きてるんだから。こうやって。」 「ゃっ!」 そう言うとケイはおもむろに僕の胸を触る。ドクドクと心臓の鼓動が、ケイに伝わる。この2匹は意思疎通出来てるのかな?僕は全く話を理解できてないけど。 「ケイ・・・そいつから手を離すんだぁ・・・俺のシャオに何するんだよぉ。」 「ふふふっ、今日を以てシャオは私の所有物だぁ!」 「んんだとぉ!」 うわぁ・・・わけわからない会話で一触即発の危機だ・・・逃げたいけど、ケイが僕の胸にずっと手を当ててるから逃げるに逃げられないし。 「お前ら付き合ってるわけでもないのに!」 「ふふふっ・・・フィーア。シャオはいただいたよ。」 怒るフィーアを抑えてそう言うケイは僕の唇を唐突に奪った。僕はこうなるか・・・と意外にも少し落ち着けた。 「んぁっ・・・んふぅ・・・」 「シャオ・・・付き合ってたの?」 「んーんー!」 ケイに完全に抑えられてる僕はフィーアの問いに答えられない。へんな奪い合いだなぁ・・・♂と♀が♂を奪い合うって。やっぱり僕は子供なのかな。 父親と母親が子供の優先権を争って喧嘩してる・・・そんな構図に近いなぁ。 「ぷはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」 「ふふふぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・どだ、フィーア、恐れ入ったか。」 誇示するようにケイは言うけど、フィーアは少し不機嫌そう。僕は息が切れて、口をはさむどころじゃない。 「お前ら・・・付き合ってたのか・・・全く気付かなかった。なんとなく仲いいなぁとか思ってたのに・・・」 フィーアはがっくりうなだれた。僕たちの関係に気付かなかったのがよっぽど悔しかったみたい。 ケイはへへん!と僕の前肢を引っ張り、フィーアに誇示する。 「フィーアが気付かなかったのも、無理はないよ。だって私たち、今日の朝までそれっぽい行動をみんなに見せたことなかったからね。」 「ああ・・・確かにいちゃつくシーンとか見てないな・・・部活でシャオに何かあっても、普段と同じように接してる場面しか見たことないし・・・」 気付かなかった理由を淡々と述べるフィーア。ケイはにこっと笑って僕を見た。 「フィーア、シャオは、性格がすっごく男の娘って感じだよね?」 「だよなぁ・・・ついつい手が出ちゃうんだよな。友達以上の関係のギリギリのラインに。何度か危ない橋を越えそうになったことあるし。」 なぜか意気投合したみたいだけど・・・なんの話してるんだろう・・・僕は首をかしげる。 「外見の少年っぽい要素と中身の少女っぽい要素が上手くまじってるよねぇ。」 「だからって女々しいわけじゃないんだよな。少年、として見ると可愛いすぎるし、少女、として見てるちょっと違和感感じるし。」 「シャオのご両親にお会いしたことある?」 「あるけどな・・・普通だぞ。」 「本当に?」 「ああ。母親はとくに普通のグラエナだって。父親は家庭的なウィンディだって。」 「お母さんってどんな方なの?」 「えっと・・・今は単身赴任で、カントーで看護師やってるって聞いた。」 「へぇ・・・」 僕はケイとフィーアの話が終わるまでにケースを片付けて、帰る準備を整えた。帰ったろうか。でも後が怖いなぁ。 空をポカーンと見てると、夕焼けが綺麗に空を染めていく。 「でさでさ・・・」 まだ話してる・・・もう帰るか。 「帰るね。」 「待って。」 ケイが僕を引きとめる。振りかえるとだんだん僕に近づいてきた。 「早く帰ろうよ。」 ぎゅぅ・・・ケイが抱きついてきた。 「ちょっ・・・抜け駆けはひどいぞ。」 「フィーアは・・・ヌルがいるじゃん。」 「そうだけど・・・」 「じゃ、帰ろうか。シャオ。」 そう言うとケイは僕の前肢を引っ張る。 「あっ、そうそう!」 声の主を探ると離れたところにいたゼクスが大声で叫んでた。 「監督が晩御飯いかないか?って。」 「あっ。行く行く!」 ケイはフィーアにも声をかけて僕を引っ張って行った。僕は本当に物心のついてない子供みたいな扱いだよね。 とことことフィーアと学校に帰ってる・・・連行されてる途中、どことなく誰かに似てるエーフィとブラッキーに出会った。 「こんにちは。」 その夫婦らしい2匹は僕たちと目が合うと、笑顔で僕たちにあいさつしてきた。 僕もこんにちは、と挨拶すると、その夫婦は少し嬉しそうに、遠ざかっていった。 「ケイ?あの夫婦、誰かに似てるような気がする。」 「そう?すっごく可愛い夫婦だとは思うけどね。」 「だよね~。にゃっ・・・」 ケイは僕の返事がよかったのか僕の頭を何度も撫でる。前を行くフィーアとヌルは僕を見て少し微笑んでる。フィーアはなんか裏がありそうな笑顔だったけどね。 学校について道具を置くと、そのまま僕たちは監督と一緒にご飯に行った。 「ここだぞ~。」 監督が連れてきたところは何ともこぎれいなレストランだった。しかも・・・と、いうかやっぱり食べ放題。 見たことのあるサンダース・・・ゼロ? 「ゼロ!」 僕はそう言うと、ケイを振り切ってゼロのところに行く。ゼロもうれしそうに僕に近づいてくる。 「シャオ~!ありがと~・・・」 怪我のせいか、肩を固定されてるらしくて、不器用に前肢を動かすゼロ。ゼロは僕の頭を何度も撫でる。 「ゼロ~・・・」 「シャオのおかげで、一番下のリーグの暫定2位らしいぞぉ~!」 あんまりうれしくないよね。これ。一番下の、ってところがポイントだね。 「そうなんだ・・・」 ゼロは僕が今まで見たことのない笑顔で、ホントに嬉しいんだな・・・と感じた。 「さささ、食べるぞ。」 その様子を見ていた監督は、僕たちの話が終わるとみんなを引っ張って、レストランに入っていった。ガラガラのレストラン。 「誰もいない・・・」 「貸し切りにきまってるだろ。」 貸し切り、という言葉を聞いた瞬間、みんな嬉しそうにはしゃぐ。監督もすごくうれしそうだ。テーブルがいくつかあって、その奥にはバイキングのテーブルが置いてある。 「さぁ、たーんと食べろ!」 監督の一言でみんなが席について、料理を食べ始める。 「いただきまーす!」 僕の目の前のドライが元気よく挨拶をした。 「入れてきてあげたよ。」 えへへ・・・と笑顔のケイが僕に差し出したのは、山盛りの料理・・・大きなお皿に本当に山のように盛ってある。 「ケイ?」 間違いない、食べろっていう命令だ。食べれるわけない。こんなに。 「食べて?」 「無理・・・です。」 「え?聞こえないけど。」 うう・・・聞こえないふりとかされても困るし。仕方なく僕は手を伸ばして山盛りの料理を食べ始める。 「うぇっ・・・もう食べられない・・・」 頑張って食べても・・・全然減らない・・・ 「ごめん・・・」 さすがのケイも悪いと思ったのかなぁ・・・謝ってきた。 「食べたげる。」 ケイはにこっと笑って、僕のまだ食べてない残りを食べ始めた。 「ふぅ・・・これくらい・・・うぇっ・・・よ・・・ゆう。」 余裕だとケイは僕にみせつけるけど、どっからどう見てもケイは気分が悪そう。 「大丈夫?」 「大丈夫だって。何かあったらシャオが送ってくれるんでしょ?」 ケイは僕をじっと見つめている。照れくさくて僕はついつい視線を泳がせてしまった。 「監督!ごちそうさまです!」 みんな口をそろえて監督に言う。監督もご満悦な表情でいやいや・・・と返した。 「ま、今日から3日、連休だから・・・連休明けに普通の授業の準備ができるようにな。」 監督はそうとだけ言うとみんなを解散させた。 「しゃーお!かえろ!」 ニコニコのケイだ。すっかり元気になってた。 そのまま僕はケイと仲良く付き合って・・・学校での部活・・・その幕はとじた。 僕たちは雨の中を傘もささずに、無邪気な子供みたいに走り回ってる。 「シャオーこっちこっちー。」 「わぁっ!すべった!」 僕は何度も水たまりに脚を取られて転倒した。ケイはそんな僕を起こしてはまた走り、楽しそう。ずぶぬれのジャージ。ケイも制服はびしょ濡れで・・・なんだか申し訳ないなぁ。 ずぶぬれで風邪をひきそうになりながらも、ケイの家の前になんとかたどり着いた。 「シャオ・・・今日はありがとね・・・部のためにも。」 「ううん。ここまでうまくいくと、思わなかった。」 「明日・・・デートしよ?」 「うんっ。」 ケイは僕に軽くキスをすると、そのままびしょ濡れになったことをお母さんに怒られながら家に入っていった。 仮終。 僕も家路を急ぐ。 もう全て終わった?いやいや終わりじゃない。これからまだまだあるんだ。 部活は復活するって言ってたから・・・また来るかもしれないし。ケイとのこともあるし。 僕は、これから起こるであろう喜びを想像して・・・期待に胸を躍らせる。 これからも・・・ミスター残念でも・・・なんでもやってやる! 終。 ---- もうモチベーションが続かなくて・・・仮に終わりってことにしときます・・・ もうモチベーションが続かなくて・・・おわりってことにしときます・・・ 長編はやっぱり厳しいですね・・・