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口への誘い の変更点


#include(第二回短編小説大会情報窓,notitle)

&size(25){口への&ruby(いざな){誘};い};
※この作品には口付けの他、&color(white){流血};や&color(white){捕食};に伴う&color(white){死亡};などが含まれます。
ご注意下さい。
 作者:[[カナヘビ]]
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 真っ昼間だというのに、鬱蒼と生い茂る木々は森を暗くしている。好き放題に伸びた雑草が地面を覆い尽くし、じめじめとした空気が辺りに漂う。最後に雨が降ったのはずいぶん前だというのに草は湿り、水滴さえもその表面に浮かばせていた。
 ふと、激しい空気の揺らぎと共に微かな羽音が聞こえてきた。草むらに落ちた影は次第に大きくなり、やがてその姿を現した。
 胴体から生えた激しく動く4つのひし形の羽、全体的に白いが、つぶらな黒い目の周りと顔はオレンジ色だ。頭頂は細長く伸び、頭から生えた2本の半円の触角は外側からオレンジ、白、紫になっていて大きな目のように見える。そんなポケモン、アメモース。
 アメモースはゆっくりと高度を下げていき、草露の1つをじっと見つめる。今にも落ちそうに危なっかしく葉に乗っている水滴。水滴を落とさないよう羽の速度を下げ、近づいて行く。
「甘い香りだ」
 静かな調子で言う。水滴から香りを感知し、1本しかないまつげが付いた目を閉じて香りを楽しむ。香りは水滴から出ていた。非流動的で粘着質なその水滴は、他の草とは違いアメモースの目の前の草にしか付いてなかった。
 突然、目の前の草が大きくしなる。水滴が1滴、また1滴と草の上に落ち、誘うような甘い香りを放っている。アメモースが上を見上げると、葉に隠れた木々の狭間からそれは垂れ落ちていた。
「あそこからだな」
 アメモースは好奇心のままに上昇を始める。羽の速度を上げ、空気をうならして水滴の源に近付いて行く。
 上がっている間も甘い香りの水滴は葉に向かって落ち続け、落下の頻度も増している。
 触角が葉に触れるまでに近づくと、葉の中に違った色が見えた。緑ではなく、それより明るい黄緑。暗い色の中にそれは目立って現れていた。
 よくよく見ると、黄緑と共に目が覚めるような赤色が見えた。赤と黄緑は交互に見え隠れし、そこから雫が垂れ落ちていた。黄緑色のベースから放たれる1つの視線。白目と黒目を視界に確認したアメモースは、触角をゆっくり上下に揺らし、威嚇の体勢で近づいていった。目はこちらをじっと見ていた。やけににやけた表情で、へらへらとした空気が辺りに漂っている。
「よだれだ…」アメモースは目をしかめて言った。
 おもむろに葉が揺れだす。がさがさという音が静かな森に響き渡り、葉の中の黄緑色が姿を現した。やがて体全体が見え、アメモースの前に頭を上にしてふわりと浮かぶ。
 葉の中に見えていた黄緑は、まるで横たえた円盤のような顔の色で、円い白目の中に小さな点のような黒い目がある。口には牙のような鋭い突起物が噛み合っており、その間から赤い口内が見え隠れしている。胴体は黄色い球体なっていて、そこから左右に緑で葉脈の浮き出た葉の腕と、下部からは無数の黄緑と赤の触手が生えている。
「こんにちは」口が大きく上下に動き、高いアルトの声が響く。
「うわっ!」アメモースは飛び上がって驚いた。
 すぐさま羽を更に激しく羽ばたかせ、旋回して一目散に飛んでいった。しかし好奇心が祟ってか途中で止まり、再び旋回してその場に浮遊する。触角を激しく振るわせて威嚇を続け、警戒して遠方から様子を窺うアメモース。
 そんな彼を見て、そのポケモン、マスキッパは両腕の先の指のように3つ又に分かれた部分を口の前に添えて可笑しそうに笑った。
「何してるの?怖がっちゃって!わたしってそんなに怖く見える?」
 威嚇に一切動じない相手を見てアメモースは警戒を高め、羽を擦り合わせて虫のさざめきの構えに入っている。
「自己紹介しなくちゃね。わたし、カンニュ・カーニバイン。あなたは?」
 目の前で起こりつつあることを知ってか知らずか、カンニュと名乗った彼女は&ruby(ひょうひょう){飄々};とした様子で話を続けている。アメモースはじりじりと後退しつつ小さな声を出した。
「…ワステライ・マスケレイン」
「じゃあよろしくね、ワステライ君」
 カンニュは左腕を差し出し、にこにこしてワステライの行動を待った。ワステライは不振そうに腕を見つめ、次にカンニュの顔を見る。
「あ、ごめんね。きみって腕無かったね!」カンニュは腕を引っ込めてまたもや笑う。「とにかくね、仲良くしょうよ!」
 高く陽気に響くカンニュの声。ワステライとは違い、疑うことを知らないようなあっけらかんとした表情。先程から変わらない面白可笑しそうな口調は、明るさと親しみが込められているようだった。
 その会話の際間。ワステライの嗅覚は、覚えのある香りを捉えていた。つい先程草の上て嗅ぎ、そしてずっと感知しているその香り。
「どうしたの?」
 カンニュの声が聞こえて途端に彼は我に帰った。果たして彼は俯いていたのか、ぼーっとしていたのか。彼女の話は聞いていたが、いずれにせよ香りに気をとられてきちんと目の前の相手に意識を集中していなかったのは確かだった。
「…気にしなくていいよ」
 カンニュに対して初めて言葉を放ったワステライ。しかしその口調は、カンニュの親しげなそれとは対照的な、警戒心のこもった突き放したものだった。
「あ、結構ハンサムな声じゃない!」カンニュはからからと笑う。「気にしなくていいなんて言っちゃって!とっても気にしちゃう!ま、分かってるけどね!」
 言いながら、カンニュはその口を大きく開いた。牙のような突起物の奥に広がっていたのは、大量のよだれを満々と&ruby(たた){湛};えた紅の地獄。コミカルな外見とは対をなす凶暴な一面がそこにあった。
 そして。口の中に湖のように広がるよだれから放たれる、虫を誘惑する甘ったるい香り。口の狭間から漂っていただけのその香りは、口が開かれたことで大きく強まっていた。
「…!」
 ワステライの本能が痛く刺激される。カンニュは口を閉じ、彼の呆然とした表情を見て再び笑う。
「わたしのよだれって、甘〜い香りがするの。いい香りでしょ?」
「え?」
 突然聞かれて戸惑うワステライ。いい香りだと思ったのは確かだし、それは本能が認めている。
 しかしその正体を知ってみれば、口から止めどなく溢れてくるよだれ。相手は&ruby(じょせい){雌性};だから否定的なことを言うのは気が引けるが、かといってよだれに対して褒め言葉というのもしっくりこない。
 なら、よだれに対してではなく、香りに対して言えばいいのではないか。
「…うん、とてもいい香りだと思うよ」ワステライは『香り』の部分の語意を強めて言った。
 カンニュは再び両腕を口に添えて嬉しそうに笑う。
「本当?ありがとう!今までそうやって褒めてくれたのってわたし彼氏だけだったの!」
「そ、そうだったんだ」
 カンニュの言葉を聞きながらワステライは曖昧に笑っている。じゃあ別に自分も褒めなくてよかったのではないかと思ったりしたが、目の前で喜ぶカンニュを見たら、これはこれでいいかなと思ったりも。警戒は徐々に解けていき、虫のさざめきの体勢もいつの間にか元に戻りかけている。
「そろそろ、警戒解いてくれないかな?」と、カンニュ。彼女は、ワステライが警戒していることを分かっていたらしい。
 カンニュの態度や姿勢から、恐らく敵ではないとワステライは判断する。親しく話しかけてくる相手に警戒の姿勢を見せるなど、互いにいい気もちのするものではない。
 ワステライは擦り合わせていた羽を離し、普通に飛行を始めた。ただし、心の中には少し警戒を残して。甘い香りを出して彼を誘っていたのは確かだったから。
「ごめん。君みたいなポケモン初めて見たからさ。ちょっと警戒しちゃって」ワステライは謝る。
「いいのいいの!初めて会った相手を信頼することほど怖いものはないもの!信頼は積み上げが大事でしょ?わたしを信頼してくれて嬉しい!」
 カンニュは体全体を躍動させて喜んでいた。大きな口はばくばくと上下し、両腕は万歳をするように頭上に掲げられ、下半身の触手は忙しそうにうねっている。何か引っ掛かるものを感じつつも、目の前で喜ぶカンニュを見てワステライは顔を綻ばせた。
「きみもいい香りがするね!」カンニュは唐突に言った。
 左腕の、指のように3つ又に分かれた先端のうち左側の2本を折り曲げ、極端に伸びたワステライの頭頂を指した。
「え?」ワステライは虚を突かれた様子でぽかんとする。
「甘〜い香り。同じ甘いでも、わたしのよだれとは違う感じかな?」
 カンニュは両腕を伸ばし、ひらひらと扇いで香りを引き寄せている。ワステライの頭頂から漂う甘い香りを、カンニュは目を閉じて楽しんでいた。彼女は香りに徐々に引き寄せられ、ワステライにふよふよと近づいていく。
 ワステライの出す香りは、食料となる小さな虫などを引き寄せることに役立ってはいるが、普段から常に漂っているため嗅覚が慣れ、自分ではその香りを感知できなくなっている。
「…君に言われるまですっかり忘れていたよ。そういえば僕もそんな香りを出してたんだ」ワステライは言う。
「あら、結構長い間香りを出してるのね!」カンニュが関心ありげに聞く。
「まあ、ね。アメタマの頃からずっと出てるんだ。そんなにいい香りかな?」ワステライが聞く。
「ええ、とっても甘い香り。ちょっと薄いけど、ちゃんと染み渡るいい香り」
 今やカンニュはワステライに触れるか触れないかというところまで近づき、心地良さそうに嗅いでいる。
 あまりに近いせいでカンニュの口からの香りも強くなる。遠かったりよだれが小さかったりしたから丁度いい香りだったが、近くではかなり濃厚だった。頭が少しくらくらとくるような、思わず羽を速めてしまう妖艶な甘ったるさ。
「大丈夫?」
 カンニュの呼び掛けにワステライは我に帰る。ぼーっとしていたのは2回目だ。カンニュの笑う顔が至近距離で見える。
「ワステライ君ってかーわいい!」カンニュは腕を空中でばたつかせて可笑しそうに言う。
 目をうつらうつらとさせるワステライのその様子は、カンニュからすればかなり愛らしく見えたようだ。ただし、この言葉のニュアンスとしては、容姿や顔立ちといったことではなく愛玩的な要素のほうが多いようだったが。
「えぇっ!?」
 カンニュの言葉にワステライは衝撃を受ける。今にも飛び出してしまいそうに目を見開き、カンニュを凝視する。
「わたしも真似しようかな?」
 そう言うと、カンニュは両腕を無気力にだらりと放り出して下半身の触手も浮かせるがままにし、誘われるように顔を更にワステライに近づける。
「あ…」
 ワステライの頭頂に、カンニュの閉じられた口がそっと触れる。カンニュの口とワステライの頭頂。甘い香りの出る2つの場所が触れ、新たな香りができる。それはほんの少し濃くて、体中が甘さを体感できるような香り。
「………」
 ワステライは緊張してその場に留まっていた。激しく羽ばたく羽がカンニュに当たらないよう、腹部を少し後ろに引っ込めて。恋などの対象にはならないが相手はやはり&ruby(じょせい){雌性};。こんな風に触れられると体が熱くなってしまう。心拍数が上がっていき、恥ずかしくなってくる。
 特に今は、いい具合にマッチした2つの香りの影響か、目の前のカンニュが&ruby(なまめ){艶};かしく見えていた。
「…ちょっと怖い」
 カンニュは唐突に言うと口を頭頂から離して両腕を挙げ、ワステライの触角にそっと触れる。
 相手から見れば怒っているように見えるその触角。カンニュは傷つけないよう慎重に上から掴み、くるりと半回転させる。そこにあったのは悲しみの表情に見える触角。
「ちょっと…」
 戸惑うワステライを尻目に、カンニュはにこりと笑って腕を離した。
「これなら怖くないね!」
 威嚇をするより逆に威嚇を受けてしまいそうだ。少々不服だが、目の前で笑顔を見せるカンニュを見たらやっぱり怒れないワステライ。涙目になった触角を気にしつつカンニュを見上げる。
「ちょっと情けない感じだけど平気でしょ?ふふっ、もしかしたら守りががっくり下がるかも((嘘泣き的な何か))!」
「そ、そうだね…」
 お茶目な振るまいにたじたじのワステライ。彼女が笑うその合間にも、やっぱり濃厚な甘い香りが漂っている。彼女に会ってから今までずっと嗅いでいたこの香りは、ワステライの脳を&ruby(いた){甚};く刺激した。
 カンニュの真近くで、何かが引き締まるような、何かが振動するような、そんな小さな音が響く。目の前のワステライは恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「もしかして…お腹が空いたの?」
 カンニュの意地の悪そうな問いかけに、ワステライは思わず視線を下に反らす。&ruby(はた){端};から見れば頷いているようにしか見えない。
「あははは!ちょっと待っててね!」
 笑いながらカンニュはその場を離れる。浮遊して移動するその様子は、笑っているせいか少々不安定にふらふらと揺れていた。
 カンニュは音もなく移動し、木の実を見つけてはマジカルリーフを飛ばしてヘタを切り、落ち始めたところを両腕で優しく受け止めていた。そうして色とりどりの木の実を3つ集め、抱えこんでワステライのもとへと戻る。
「枝の上に置くね!」
 カンニュは左腕でオボンを掴んだ。残り2つの緑と水色の木の実を右腕で抱えた体勢で浮き上がり、やや太めの枝の上にバランスよく置いた。
「あ、ありがとう」
 ワステライは恐縮した様子で礼を言った。彼も小さな羽を羽ばたかせて上昇し、オボンへと近づいた。
「いいのいいの!遠慮せず食べて!」カンニュはそう言うと、自らが抱えていた2つの木の実を口に放り込み、一口でたいらげた。
「…すごいなぁ」
 ワステライは苦笑しつつ、目前のオボンに目を向ける。目には非常に見えにくい小さな口でオボンを少しずつ食べていく。
「美味しいね」ワステライは静かに言う。
「そう?ありがとう!取ったかいがあったわ!」
 カンニュがまた笑顔を見せた。ワステライもつられて笑い、オボンを食べ進める。
「口ちっちゃいね!」
 ワステライが食べている間もカンニュはタネマシンガンのように話を続けていた。口が開くたびに甘い香りが漏れ、ワステライの意識を刺激する。
「うぅ…」
 満腹感も相まって飛行が覚束なくなってくる。やがて飛行が止まり、体が落下を始める。
「うわあ!」ワステライは悲鳴をあげる。
 羽をばたつかせてはみるものの、意識がはっきりせずうまく動かせない。朦朧とした意識の中、視界にかすかに見覚えのある黄緑が見えた。
「カンニュ!」ワステライは呼んだ。

 目の前の黄緑が、赤に変わる。
 そして強まる、甘い香り。

「…!!」
 気が付いたその瞬間、ワステライの体はカンニュの口の中に頭から突っ込んだ。
「そんな…!」
 口は閉じられ、更に口に力が入れられる。ワステライの体は大きすぎてはみ出していたため、牙のような突起物が体を貫通する。
「あぁ…!」
 激痛にワステライは思わず声をあげる。本能に任せて羽を羽ばたかせ、虫のさざめきやエアスラッシュを発動するが、命中しているはずなのにカンニュは動じない。
「うわぁ…!」
 口の力にワステライの体が限界を迎える。いくつもの小さな骨が砕かれ、表皮が破れて緑の血が流れる。
「どうして…!」
 ワステライの小さな声は次第に消えていき、やがて羽の動きが止まる。
 カンニュは相変わらず笑いの混じった表情。口の間から、甘い香りとともに緑の血が滴る。
 カンニュは力無くはみ出したワステライの体を両腕で掴み、口を開けてゆっくりと出す。
 無惨にもワステライの体はほとんど潰れ、ところどころ表皮が破れていた。ガラス玉のような目は焦点が合っておらず、先程まで激しく羽ばたいていた羽も今は見る影もなかった。
「…ごめんね」カンニュは言った。静かに、そして悲しむように。カンニュは愛おしむようにワステライの体を顔に触れさせる。
「本当にごめんね」
 カンニュは再びワステライを見下ろす。がっくりと肩を落とし、バコウとタンガの木に目をやり、ワステライを持ったままその場からゆっくりと離れた。
 カンニュは速くも遅くもない速度で移動していた。前屈みに体を傾け、ワステライを乗せた両腕を前に差し出して。森を突き進むうちにカンニュは進行を止め、下降する。
「クタン!」
 カンニュの目の前には黄色をベースとした筒のようなポケモン。筒といっても下方に出口がなく丸まっている。甘い香りの漂う上方の入り口、つまり口は縁がオレンジ色で中に鋭い牙が2本見え、縁に半円の目が付いている。体の左右に生えた1対の葉、口のふたの葉、体の斑点は緑。口のふたからは茶色い蔓が伸びていて先端は黄色く、ブースターの尻尾に似た形をしている。
「カンニュ!」クタンと呼ばれたウツボットはカンニュの呼び掛けに応える。
 カンニュはクタンの前にそろそろと下降し、両腕に乗せているものを見せる。
「…また、ダメだったのか?」クタンは優しく聞く。カンニュはうつむき、体を震わせていた。
「…仲良くなりたいだけなのに。食べるとか、食べないとか考えずに仲良くしたいのに…。いつの間にか、こうなっちゃう」
 カンニュの目から小さな雫が沸きだし、ゆっくりと伝っていく。クタンは何も言わずに蔓を伸ばし、先端で雫を拭う。そして彼女の薄い左腕に静かに蔓が置かれる。
「カンニュももう分かってるんじゃないのか?おれ達は虫を食べずにはいられない。カンニュが虫と友達になりたいのは分かるけど、本能には逆らえないんだよ」クタンは諭すように言う。
「でも…!わたしは怖がられたくない!みんなわたしと笑ってほしい!」わがままのようにカンニュは言う。「途中まで上手くいってたのに…!いい香りだって誉めてくれたのに…!とっても可愛かったのに…!」
 クタンは少しうつむきげな顔になる。カンニュの左腕に乗せていた蔓を持ち上げてカンニュの体に巻き付け、ゆっくりと引き寄せる。カンニュは虚ろな顔でいつつも、その大きな口をゆっくりと開き、口の先をクタンの口の縁につけた。カンニュの口からよだれが漏れ、クタンの口に入っている。
 長い時間が経ち、クタンはゆっくりとカンニュを引き離す。カンニュの表情はいくらか晴れていた。クタンは蔓を体から離し、カンニュの頭を撫でる。
「おれはお前のことを応援しようと思うけど、やっぱり死んだものは食べないといけないぞ」クタンは少し厳しい口調で言う。
「…うん」
 カンニュは両腕に乗った哀れな死骸を惜しそうに見つめる。両腕をゆっくり持ち上げ、口を大きく開ける。死骸はゆっくりと頭から口に入れられた。カンニュは口を閉じ、はみ出した部分を掴んで引きちぎった。カンニュの口からはみ出していた目のような触角がひらひらと地面に落ちる。表皮はもはや見るに耐えないくらいボロボロになっている。
 カンニュは掴んだ部分をクタンの口に落とした。カンニュは気の進まない様子だったが、一気に飲み込む。
「…これからも、その香りでポケモンを誘って、友達になろうとするのか?おれ達の出すこの香りは、ポケモンを口へと&ruby(いざな){誘};う手段に過ぎないんだぞ?」クタンが聞いた。
「うん。絶対にいつか食べないようになって、お友達を作りたい。この香りを、口へと&ruby(いざな){誘};う手段じゃなくて、友達になろうって誘える手段にしたいの」カンニュは答えた。
 クタンの目が穏やかになり、彼はカンニュの横に並ぶ。
「いこうか」
「うん」
 クタンがカンニュの背中に蔓を回して、2体は進み始める。
 一方は浮きながら、一方は跳ねながら、その場を後にした。
 静まりかえった森に残ったのは、上を悲しげに見つめる、オレンジと白と紫でできた半円の目だけだった。

END
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 あとがき
  これはひどい……。 
 これはひどい……。 
 まあ、仕方ないですよね。誤字はあるわ文章がひどいわで当然の結果です。もっともっと精進します。駄文にも関わらず参加してしまって本当にすいませんでした。
 僕がマイナーばかり使う理由っていうのは、単に僕自身に力量がないからです。僕がメジャーを使おうとすると劣化や2番煎じになるのが目に見えています。
 こんなことを思っていながらも、今回はこんな結果。僕の元来の力量の低さはもちろん、語彙の乏しさや視野の狭さ、発想の安直さがもたらした最悪の結果です。
 こんな駄文を「大会」なんて大きなイベントに出してしまい、皆さんに読ませてしまったことを重ね重ねお詫びします。
 本当にすいませんでした。

 作品について
 ベースとなった構想は「ウツボット♂×マスキッパ♀の官能」でした。当初は触手プレイの混じった官能だったんですが、大会に出すためにちょっと変更。アメモースを登場させての完成になりました。
 この食虫植物達の絡みって全然見かけないんですよね。かたや晴れパエース、かたや超上級者向け。役割は違いますが、この2体が愛しあう光景っていい感じだと思うんですよ。需要がなくてもいつか官能シーンを書こうと思います。
 ここまで4回の大会に参加し、その他の短編も書いてきました。ここまできてようやく、僕のやり方というか、カナヘビの作風というか、そういうのが確立してきたと思います。
 これからも頑張ります。
 ちなみに、本来アメモースには甘い香りの記述はなく、アメタマにあります。でも進化してなくなったってことはないだろうと思い、どちらかといえば使いやすいアメモースにしました。

 もうこんなことは2度とないよう、せめて1票は入れる価値がでるような作品を書けるよう精進します。

 指摘、アドバイスなどがあればどうかお願いします。

#pcomment(口への誘いへのコメント,10)

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