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兎ある好事家のバニーボーイ の変更点


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 バニーの日なのでバニーさんになってもらいました。
 白エス♂×灰エス♂ のBLえっちだよ。

* 兎ある好事家のバニーボーイ[#E5000B]

 物好きというものは何処にでもいるもので希少価値を求めて蒐集する変わり者は総じて裕福な身分である事が多い。
 そんな彼等の欲望を満たすべく色めき立つ声が右から左へ、間を置かず次は二段離れた席からのコール、負けじと対抗心を燃やす声があちらこちらで繰り返される。
 付与された値段は予想を遥かに上回り、法外を軽く撫でる額を見て萎んでいく声々を主催者が煽り立てた。
 金額を読み上げ、誰も声を掲げる者が無いのを確認すると手元の鐘が鳴らされる。
 落札の幕が下り、そして次の商品が彼等の前へと運ばれ、再び会場は熱気を帯びた声に包まれる。
 ここに集う仮面の亡霊達は何れもが貴族に連なる身分であり、そうした彼等の審美眼は紛れもなく一流を自他共に認めさせる風格があった。
 故に出品される物の価値を事前にリサーチし、現物を見て真贋を確かめる事も容易い彼等が商品を見て首を横に振り、失笑するとなればそれは紛れもなく価値の無い贋作であり贋物に尽きる。
 主催者が掲げた金額に上乗せる愚か者はこの会場には居ない。落札の幕も下りず取り下げられるであろう。
 そう思われた矢先に一人の亡霊が声を掲げた。提示額に十倍の色を乗せて。
 失笑はどよめきに変わり、自分の審美眼に疑問を抱いた亡霊達が後を追おうにも手を掲げるにはあまりにもリスキーな数字であった。
 続く声が無いのを確認して落札の鐘が鳴った。
 落札の幕が被され、檻という名の鳥籠が舞台の外へと運ばれる。
 檻の隙間から抜け落ちた灰の跡を次の商品が吹き消した。
 始めからそこには何も居なかったかの様に。
 どよめきは直ぐに元の彼等の姿を取り戻す。
 そう、何もそこには居ない。
 ここに居る限り彼等は亡霊達なのだから。
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 狭い所が怖い。
 暗い所が怖い。
 冷たい所が怖い。
 けれど一番怖いのは――誰からも必要とされなくなったその瞬間。
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 豪華絢爛な装飾が鏤められた壁画、続く廊下へ敷かれた絨毯は果てが見えず、境目を測る部屋の戸が連綿と続く。
 その上で一羽の白兎が鼻歌を吹きながら絨毯に咲く花を踏み締め、花から花へと跳び跳ねる。
 子供の遊戯の様でありながらも一連の所作に宿る優雅さは決して損なわれず、延々と振られる尻や尻尾と爪先を眺めてしまう。
 着地の後に舞い下りる黒色のミニスカートが尻尾の上に乗り、尾先に引っ掛かって隠しきれていない後ろ姿は優雅さとは掛け離れているものの、それもまた魅力のひとつとして目が離せない理由にもなろう。
 花弁の足跡を追うと白兎は一つ先の部屋の前で姿勢を正し、先の無邪気さは何処へ仕舞い込んだのかと問い詰めたくなる変貌ぶりだ。
 肩から腰へと着の身の乱れを直し、黒で統一されたノースリーブの燕尾ジャケットとミニスカートを纏う白兎は一目で好き者を誘う小悪魔の魅了を湛えている。
 身嗜みを整えると目的地の前で戸を叩き、部屋の中へ入る。周囲を見回し、何かを探しているものの目星はついているのか迷わず歩を進め、窓際の寝具の側を覗き込んだ。
 溝の中でシーツカバーに包まって熟睡する灰色兎を容赦ない踏みつけが襲い、苦鳴を漏らしながらの苦情を訴えた。
 しかしながら白兎の表情は冷ややかで文句ごと踏み潰す勢いに加えて全体重を乗せ、笑顔を崩さず灰色兎に朝の挨拶を返す。
 不意に背後で正午を告げる鐘の音が時計台から発された。
 訂正して昼の挨拶を灰色兎に返すのだった。
「お昼になっても帰ってこない後輩君、何かあったのかもしれないねぇ。心配だねぇ。ね、どう思う、後輩君?」
「……」
「ボクの記憶が確かなら後輩君の今日の仕事は各部屋のベッドのシーツカバーを剥がして洗濯場へ持ってくる、だったと思うんだけど、ねぇ?」
「……」
「ふふっ、その状態だと喋れないよね。そうだよねぇ。口を踏まれたら誰でも喋れないもんねぇ」
「……!」
「でも喋る必要はないよ。君の仕事はボクが全部片付けたからね。あっ、違うか。この部屋だけまだ終わってなかったね。まぁ今日一日くらい気にしなくても良いよね。キミとボクの夫婦部屋だもんね」
「……」
「そろそろお昼寝の時間だし、一緒に寝ようか」
「……っごめ」
 爪先の拘束が解かれた矢先に灰色兎が何かを言い掛けるも続く言葉は形を成さず、白兎の口吻に口端を噛み付かれ、戦く舌平を舌先が絡み付き、呼吸を許さない執拗な攻めは白兎の怒りが込められている様に感じられるが、断じてそういう態度を白兎は灰色兎にぶつけない。
 白兎にとって彼は掛け替えのない番であり、彼の失態は余すことなく自分の物であると主張している。
 そういう事情もあり灰色兎の目に余る失敗も番である白兎がフォローに回る為、周囲は新人の彼を然程に心配しておらず、新人育成も全て白兎に一任して各々の仕事を完遂に勤めていた。
 灰色兎も割り振られた仕事に対してやる気はあるのだが、不意に襲い来るトラウマに怯え、動かぬ我が身を掻き寄せて隅で踞る。
 そうしている内に現と幻の区別もつかなくなり、白兎の手助けがあるまで時間の流れを揺蕩っていく。
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 灰色兎の兎生は誰かの代替品として作られた。
 ある所に不動の王者と呼ばれる時の兎が居た。数多の挑戦者がその兎に挑み、敗れる事から畏れを込めて付けられた別称であったが、ある時を境にかの兎は姿を消した。
 挑戦者を嬲り殺しにした、ギャラリーの目の前で挑戦者を辱しめた等、様々な噂が錯綜し何が嘘で真実なのかも分からなかった。
 別称は蔑称へと変わり、不在の王者として人々の記憶に残った。
 かの兎に何があったのか真実を追い求める者も居れば、かの兎の話題性を利用しようと企む悪党も居る。
 計画が決まった悪党の行動は迅速で、山林の至る所で色違いのみを対象とした兎狩りが行われた。
 暗く、狭く、冷たい世界で名も知らぬ誰かの代替品として育てられ、幼い記憶に残る親兄弟の顔は恐怖に塗り潰されて何も思い出せない。
 灰色兎に分かるのは役割を全うするだけだった。それに従っている限りは手酷い仕打ちも飢餓に苦しむこともなかったからだ。
 そして売られ、好事家に買われた灰色兎を待つのは自分と同じ姿形をした別色の白兎であった。
 灰色兎を一目見て白兎が跳ねた。
「やぁ! キミがボクの番になる兎さんだね!」
 そして灰色兎の役割は再び零になった。
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 誰かに必要とされなくなる恐怖。
 今の好事家に引き取られる前の白兎は常にそんな恐怖に怯えて生きてきた。
 灰色兎と同じく身売りされた過去を持ち、前好事家の歪んだ愛を一心に注がれ、飽きたという理由で棄てられた。
 自分を愛し、可愛がる存在が急に別の方向を向くという衝撃は心を二つに割くに足るもので、今でもその傷は癒えずに白兎の中で涙を流している。
 前好事家から好事家に引き渡され、白兎の取った行動は愛される為に過去から学んだ技法を好事家に振る舞う事だった。
 だが好事家はそれを止めさせ、白兎に役割を持たせた。
 肉体奉仕を求めず、仕事を通して健全な奉仕精神が磨かれ、白兎の心に安堵の言葉が生まれるものの、身体に染み付いた穢れと傷痕は疼きが募るばかりで自身を慰めても解消に至らない。
 一度でも歪んだ愛を向けられた者は歪んだ愛でしか己を満たせない。
 健全で清らかな愛を向けられても過去が消えることはない。
 肉欲に溺れ、狂い果てる白兎を見かねた好事家が取った行動は白兎に番を見つけてくるという答えだった。
 それが果たして正解であったのかは分からない。
 分かるのは好事家は兎達の言葉をあまねく聞き、理解する者である事だ。
 好事家の言葉を信じ、そして白兎は灰色兎を受け入れた。
 自身に巣食う肉欲の、歪んだ愛情の受け皿として。
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 狭く、暗く、冷たい世界で灰色兎は一羽きりで生きてきた。
 それを否定するべく身を重ねる白兎が灰色兎に愛を説く。
「狭い所を好むのはボクらの、兎の習性」
 互いが溶け合う程の密着が溝の中で続いている。
「暗い所を好むのもボクらの、兎の習性」
 白兎が身動ぎ、灰色兎が跳ねる。
「でも冷たい所は大嫌い。ボクらはいつもこうして身を重ねて生きてきた。それがボクらの、兎の習性」
 白兎の口吻が灰色兎の頚筋に伸び、咬み痕を残していく。
 白兎と灰色兎が達する度に痕は増やされ、頸回りの灰がこそげ落ちて赤黒い大地が覗いている。
「でもこうやって愛を説くのは番同士だけ。ボクとキミだけ。それ以外の者が入るのは絶対に許されない。これは兎じゃなくてボクらの習性」
 十を越えてから数えるのを止めた何度目かも分からない絶頂の波が鎮まると白兎は咬むのを中断して半身を起こす。
 口端から垂れる銀糸は出血を含んで紅く輝き、続く胸板では灰色兎の吐精が絶頂の分だけ粘糸を引いていた。
 腹部を覆う程とはいかずとも白く染まりゆくその姿に白兎は失くした半身を見つけた悦びに煽られ、下腹部に渦巻く肉欲を一所に集めていく。
「このまま白くなったらボクらどっちか見分けつかなくなっちゃうかもね」
 冗談と受け取るには言葉に重みを感じ、笑って流す程の余裕も灰色兎にはない。
 それでも構わず白兎は灰色兎を愛する。愛し続ける。
 
 飽くなき肉欲。
 歪んだ愛欲。
 欠けた歯車。

 噛み合わない歯車同士は互いの吐精を差し合い、ぎこちない駆動音を廻していく。
 
 ぎち、ぎち、ぎち、と。
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 兎の夫婦部屋から遠く離れた主人の部屋にノックの音が響く。
 既に起床を済ませていた主人は短く入室を促すと部屋の外で待機していた兎達が朝の挨拶と朝食を積んだサービングカートを運んでくる。
 手近の机に配膳を並べ、食事の合図を促す。
 黒を基調とした燕尾ジャケットとミニスカートに身を包む白兎へ主人の穏やかな手が礼と共に撫ぜられる。
 続く視線がもう一羽へと伸びるが、若干身を引いた距離感からまだ馴染めない空気を察して手を引く主人へ、白兎が灰色兎の背を押して距離を詰めさせた。
 人間への不信感を拭えない灰色兎は両目を固く結んで事の終わりを待っており、苦笑しつつも手短に灰色兎へ礼を施した。
 白兎とは対照的な衣装に身を包む灰色兎の姿を、通り行く者が見ればあまりにも過激かつ挑発的な衣装に息を呑むだろう。
 何故あんな衣装を纏わせているのかと客人が問えば主人は迷わずこう応える。

――私の趣味です。

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 後書

 去年はバニーの日なのに兎を書かなかったけれど今年はしっかり書けたので満足です。
 ♂も♀も等しく愛そう兎の日。

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