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俺と煙草と青空と馬鹿兎と の変更点


この拙作には、「ポケモンの喫煙」、「キス」及び「呼出煙(口から吐き出す煙)の口移し」、「R-17.9(全年齢向けギリギリ)程度の性描写(♂♂)」が描かれています。

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「バンバドロ! 10万馬力!」
「カビゴン! のしかかりだ!」

 今日は鬱陶しいほど良く晴れている。その下の、広大な大地の小高い丘の上、ヒトが作った竜の顔の門の前で、主上と主上の親友が戦いを繰り広げている。
 主上はあの親友の兄、あの長髪の男に勝ってからというもの戦い好きが増した。逆に言えば、主上にはそれしかない。主上の友はそれぞれ違う道を選んだ。あの生意気なガキにしても、主上のようなヒトとは少し違う言葉を喋る少女にしても。
 主上が選んだ道は主上が自分で選んだ道であり、俺のような主上に付き従う獣が示した道でもある。だから、俺達はこれからも主上を勝たせ続けなければならない役目がある。ヒトに付き従う獣が戦いで死ぬ事はないが、主上は一回でも負ければ、それは死と同じだ。
 進化して頭が冴えるようになったのが恨めしく思う時がある。主上の苦痛を分かってしまうのだから。その痛みの共有を誇らしく感じる部分もあるが、痛いものは痛い。俺と同じ主上に付き従うあのバンバドロのように、俺も並みの獣と同じくらいの頭を持っていた方が幸せだったのかもしれない。
 俺達は負けられない。負けたら最後、退く先がない。だから俺達は強くなり続けなければならない。
 とはいえ、俺の目の前で繰り広げられているような泥臭い戦いは好きじゃない。まあ、草むらの上を転がって取っ組み合いをしているバンバドロとカビゴンにはお似合いだろうが、俺は、インテレオンは優雅に戦うものだ。
 だから俺はさっきから、竜の門の中にある階段に座って見物を決め込んでいる。水を操る獣だろうが暑いものは暑い。馬鹿は馬鹿なりに鍛錬を続けてくれ。見てる分には暇潰しになる。それにしても、強くなり続ける以外の道を選んだのに主上の鍛錬に付き合うあの親友は、義理堅いというか気の毒というか。いずれにせよ、俺はああいう額の汗を手で拭うような戦いが好きじゃない。最も少ない手数で確実に仕留める。それがインテレオンの流儀だ。
 俺は、俺の隣に置かれた主上の使い込まれた革の鞄から、紙箱と小さな機械を取り出す。煙草とライターだ。紙箱から黒い紙で巻かれた細長い一本を取り出し、口に咥え火を点す。ヒトの作るものはこういう時に良い。俺の力だけでは炎を操れない。
 主上と街を歩く中でヒトの仕草を見様見真似で覚え、その懐からくすねた煙草で味も覚えた。主上はまだ子供だが、ヒトの群れの中で一目置かれている主上は俺に甘い。俺が軽く強請ればすぐに買い与えてくれる。
 手は膝に置いたまま煙草に添えず、煙草の煙を吸い込む。チリチリと小さな音して煙草が燃える。竜の上顎の先に広がる青空へ煙草から立ち昇る煙が消えていく。咥えたまま口を少し開き、胸に溜めた煙を吐き出す。煙草葉の甘味と付け加えられたミントの涼しさと、僅かな雑味。いつも好んで吸っているものと違うものを強請ってみたが失敗だった。これはこの一箱だけにしよう。
 もう一度煙草を吸い、そして吐く。右手で煙草を摘み、階段の上に灰を落とす。竜の門の近くで獣を従える子供達を見守っているヒトの大人も、主上の獣である俺には文句を言えない。力で捻じ伏せられる者は、心を捻じ伏せる力も併せ持つ。

「何それ? うわ、臭い」

 優雅に煙草を嗜んでいると、主上の親友の馬鹿兎が近寄ってきた。こいつはこれまで何度も俺の狙い撃ちに負けたくせに、一向に生意気な口ぶりを直そうとしない。さっきまで主上と親友の戦いを輝いた瞳で見つめていたのにもう飽きたらしい。
 その馬鹿で単純な兎は臭いと文句を言い放ったくせに、俺の隣に座った。煙を吐き出した後に、横目だけで兎の顔を見る。馬鹿兎はまっすぐ俺を見つめていた。

「煙草だよ。この豊潤な香りが良いと思えないなんて、可哀想だね」
「臭いものは臭い」

 さっきは心の中でこき下ろした煙草を、馬鹿兎を馬鹿にする為に褒め称える。そしてお互いに無言。胸の中に煙を溜め、今度は兎の顔に向かって吐き出す。

「やめろよ〜! 鼻が曲がりそうだ〜!」

 馬鹿兎が鼻を両手で押さえて顰め面を浮かべる。進化しきってもガキ臭さが抜けない兎は見ていて飽きない。俺はきっと優雅な微笑みを湛えているだろう。それをうすら笑いとか言う奴がいたら狙い撃ちの的にするだけだ。指で叩き煙草の灰を階段に落とす。

「君はもう少し成長しな。君の主上の為にも」
「なんだっうっ!?」

 またもや生意気を言いかけた兎の口を、俺の口で塞ぐ。離れようとする兎の後ろ頭を腕で抱いて逃さない、俺の尻尾で腕も背中で縛る。右手には短くなったが火が点いた煙草を指に挟んだまま。炎を操るこいつなら、これくらいの火に触れたところで熱いとも感じないだろう。
 舌で兎の口をこじ開けて、さっき急いで吸った煙草の煙を吐き出す。俺の舌の上を煙草の味が流れていく。兎がもっと暴れる。往生際が悪い奴は嫌いだ。馬鹿兎の口にもっと吸い付く。煙草を持っていない左手で兎の頭を撫でてやる。こいつの毛並みはいつ撫でてもフワフワだ。
 その気になればこいつは炎を巻き起こして抵抗できて、俺はそれを一瞬で消し去るほどの水を扱える。お互いにそうしない。俺が普通の獣より頭が冴えて、こいつが普通の獣より馬鹿なのに。ヒトはこういう仲をどう呼ぶのだろうか。もっとも、主上も親友も戦いに夢中で、これまでも俺達の事は気付かれていない。俺が抱いた兎の頭の奥でヒトの大人が何かを言いたそうにしているが、それは俺に、俺達に関係がない。
 俺が口と腕と尻尾の力を緩めると、馬鹿兎は俺の胸を突き飛ばして大きく咳き込んだ。これだから馬鹿は見ていて飽きない。うっすらと涙目すら浮かべている兎が俺を睨んだ。まあ、暇潰しにはなった。

「お前……こういうのが好きなのかよ……」
「そっちこそ、俺に抱かれたかったんでしょ? そのお粗末なもの、早く縮めなよ」

 俺は燃えない部分に差しかかるまで短くなった煙草で馬鹿兎の股間を指した。煙草とは反対に、馬鹿兎の汚いものは馬鹿元気にいきり立っている。馬鹿兎が俺に抱きついてきた。俺のお腹に当たってるんだけど、それ。

「……したい」
「夜まで待ちなよ、万年発情兎君」

 もう一度、馬鹿兎の後ろ頭を左腕だけで抱く。こいつの身も心も抱ける夜はそう多くない。主上に気づかれず機械の玉の中から抜け出すには、忍び足が得意な俺でさえ一苦労だ。それでも俺もこいつもそうするのは、一緒にいて飽きないからだ。馬鹿は馬鹿なりに俺を楽しませてくれる。自分でも素直じゃない言い方をしているのは分かっている。

 俺は右手に持っていた煙草を竜の顎の外へ放り投げ、狙い撃ちで消し飛ばした。

 
 了


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