*一人では生きていけない俺 [#w44f8da1] http://www32.atwiki.jp/hhnovel/pub/%a5%ae%a5%e3%a5%ed%a5%ea%a5%ad.png written by [[リング]] special thanks [[美優]] 人の数だけ物語はある。神の目ともう一人の目から見た物語。 [[Lilil side>一人では生きていけない私]] [[Story teller side>一人では生きていけない二人]] #contents ---- **【1】 [#k9686f9c] ああ、くっそ……なんだってんだよ。草がどこにも生えていない……みんな食い過ぎなんだよなぁ。 見渡してみれば、どこを見ても根元まで食いちぎられていてこれ以上短くできないような草ばかり。それもこれも、群れている仲間が多すぎるのが原因だよ。 タチの悪いことに、今は俺が所属しているギャロップの群れ以外にもキリンリキの群れがご一緒しているのだ。これじゃあ、俺の取り分が少なくなるのも当たり前だよな。 「しゃあねぇか」 ここら辺に草がないなら、群れから少し離れてでも草を探さなきゃね。群れから離れるのはちょっと心細いけれど大丈夫だろうよ。雨季とはいえもう雨は通り過ぎたし、まだ日が照っているうちに俺たちギャロップに手を出す奴なんてウインディくらいだ。そんな奴は滅多に現れるものじゃないし、な…… しかし、どうせ食べるならおいしい草が良いよなぁ……などと、より好みの果てに良い餌場にありつけたころには日はすでに傾きかけている。時間かけすぎた気もするけれど……まぁ、おいしいからいいかぁ。 夢中でかぶりついているうちに、腹はどんどん満たされて行く。満足したころには、日はさらに傾いて遠くにある太陽よりもむしろ、俺自身の方が明るく感じられる時間帯になっていた。 「もうこんな時間かぁ……」 ん……なんだろ? あっちの方から何か来ているけれど……ありゃ、キリンリキかぁ。後ろで追っかけているのは……逆光でよくわからないけれど少なくともお友達ではなさそうだな。 「なんだよあれ……こっちに向かってくるなよ」 こりゃ巻き込まれる前に逃げた方がよさそうだな……。で、どれだけ逃げ続けてもあいつは追ってくるし…… 「なんだってんっだよ……俺をそんなに道連れにしたいっていうのか?」 毒づいたって仕方がない……こうなったら何が何でも振り切ってやる。そう思って走りまくったんだけれどね……地平線を何個か超えた気がするんだけれど地平線を超えるほど引き離すのは難しいみたいだね。 「んあぁぁ……もう、面倒くさい」 もう疲れたし……うざったいし……これ以上群れから離れるのもいいことじゃない。来るなら来いってんだよ。ギャロップの強さ存分に見せてやる。相手がこちらに来るまでの間に力を貯めて、万全の準備を整えておくべきだろう。夜ともなれば強い日差しはささないからと、油断している奴らの目に物見せてやるにはうってつけの技がある。 『日本晴れ』って呼ばれている太陽を作り出す技だ。これなら雨の日だって、『絶対に手を出してはいけない』ギャロップになることが出来る。 「あのギャロップやる気だ……引くわよ!! 返り討ちにあうよ」 グラエナのリーダー……かどうかは分からないけど、それが正しい。こちらだって手加減する気は毛頭ないし、ひとたび戦いとなれば相手が生きて返せるかどうかなど知ったことではない。 「あのキリンリキは私たちの仲間を怪我させたのよ!? 今更引き下がれないわよ」 「このまま手ぶらで帰ったら男と子供にどの面下げて帰れっていうのよ?」 でも、リーダーが有能であったとしても部下が無能では意味がない。リーダーのありがたい警告を無視するようではあいつらの知能の高さも知れているな。これならあいつらを撃退するのもそう難しいことではないだろう。 ったくよう…… 「ビビってくれりゃあ楽だったのによぉ……しょうがねぇ。&ruby(の){退};け、キリンリキ」 「は、はい……」 一発で怖気づかせてやる。俺の体内にあるすべての炎をぶつけるつもりで、全身に業火を纏う。一般にオーバーヒートと呼ばれるこの技ならば、相手を確実に葬ることもできるだろうと、向かってきた二匹のうちの一匹に俺のすべてを叩きこんだ。 おそらくは致命傷であろう。一匹の体毛という体毛はすべて焼き尽くしてやったし、勢い余ってもう一匹も少しばかり焼いてやった。 「この野郎……女の顔に何すんのよ!!」 だが、その一匹は頭に血が昇って仲間がやられたことにすら気が付いている様子はない。流石に連続で技を放つことはできず、俺の前脚は奴の牙にとらえられた。 「くそ……離れろ、離れろ」 痛い!! こんなんじゃ痛みで炎の力を高めることに集中が出来ない…… 「そうだよ、離れるんだ。殺されるよ」 それでも、疑似太陽が浮かんでいる間の俺の力を十分に理解しているリーダーらしき女が止めに入る。くそ、無能な部下め…… そうやって、俺がグラエナを振り払おうともがいている間に、さっきのキリンリキが俺の前に躍り出る。てっきり逃げていたとでも思っていたが、まさか…… 「痛みなんて……尻尾が感じていれば……」 そう言って、長い首を強かに俺に噛みついているグラエナに叩き付ける。牙が強引に引き抜かれる瞬間は、あいつの尻尾どころか俺の脚が無茶苦茶痛い。 だが、助かった。 「よし来た!!」 グラエナはさっきの攻撃で目を回している。対グラエナ用ギャロップ専売特許のメガホーンは普段は当てるのが難しい技だけど、今のグラエナなら簡単に当てることもできるだろうよ。 「ダメッ!!」 リーダーの悲痛の叫びが聞こえてくるが、そのセリフは俺たちにとっては親も子も言いなれた言葉。それを耳にしても牙を止めることのないお前ら肉食ポケモンのそんなセリフを聞いてやる義理も慈悲もない。それに、手を出したのはお前らの方だ。 ニチャ……と、血と肉が音を立てて角に貫かれた。脇腹を角の根元まで貫かれたグラエナからは大量の血液が吹き出し、体温の高い俺にとっては冷たい血となって額を濡らす。ぴくりとも動かないことを確認すると首が疲れる前に頭を振り、首から事切れたグラエナを取り外した。 「まだやるか?」 残るは後一匹。炎の力を外に放つための器官は疲弊しているものの、炎の力を体の内側にため込んで放つ技ならば、何ら遜色なく放つことが出来る事は奴だって知っているはず。さすがに悔しそうに牙をむいたものの、それを殺気として俺たちに向けることはなく目をそらした。 「あんたらの&ruby(つら){面};……覚えたからね」 どうぞ覚えておいてくれ。二度と会うこともないだろうからな。全く……飛んだ災難だぜ。 「あの……」 さっきのキリンリキの声……そうだよ、さっき助けてもらったとか思っていたけど、俺の脚はこいつのせいで怪我したんじゃないか。あの野郎……文句言わなきゃ気が済まねぇ。 「ああ……なんだってんだよお前。俺を巻き込みやがってぇ……」 俺も、少し熱くなって鬣が燃え上がりそうだ。それだけは何とかこらえるが、声には精いっぱいのドスは利かせたつもりだ。 「あ、す、すみません…ごめんなさい…」 詰め寄られたキリンリキは迫力あるギャロップの剣幕に思わずたじろぎながら、頭を下げて謝った。 「えっと、その……とりあえず、私の言い訳を聞いてもらえませんか…?」 言い訳? 自分がああいう行動をとったのには、理由があったとでも言いたいのか、こいつは? 「言い訳? ふぅん、そんなこと言うからには相当な理由があったんだろうなぁ」 理由なんてものがあるなら、ぜひ聞かせてもらおうじゃないかと、俺は威圧感をたっぷりに上から見下ろした。 「…えっと……えっと、貴方は、自身のその炎のおかげで、この暗い中でも周りが見えているわけじゃないですか」 ふむ……それがどうしたことかね? 「私は貴方のように炎を纏っているわけじゃないですので、どうしても周りがよく見えないんです。…それはわかって頂けますよね…?」 「なるほど……」 確かにそうだな。本当にこいつにはこいつなりの考えがあるのか? それなら、こうまで威圧したらかわいそうかもな。 「で、それと俺を追いかけまわしたことに何の関係があるっていうんだ?」 とはいえ、俺もまだまだ納得出来たわけではない。こいつを許すかどうかはまだ決めかねるな。 「あの、えっと…追いかけまわすつもりはなかったんです。…ほ、本当ですよ?…本当に追いかけまわすすもりは…」 それはもうわかった。それじゃあなんだっていうのかを早く言ってもらいたいな。 「あいつらから逃げるのに必死だったんです。…木にぶつかったり石に躓いたりして、それであいつらに捕まって死んじゃうのは嫌だったんですよ。……誰だって死ぬのは嫌でしょ…? 貴方達の炎を頼りにして、障害物に当たらないように気をつけながら必死に逃げてきたんです」 ああ、そういうこと。こいつ……以外と賢いじゃないか。 「なるほど……道連れにしようなんてのは俺の勘違いだったわけかぁ」 あれ……? でも、なんか変だぞ。ああ……こういうことか…… 「いや、でもさぁ……それじゃあグラエナも障害物に邪魔されないんじゃないのか? むしろ、相手が&ruby(つまづく){躓く};ことを期待してわざと足場の悪いところに逃げ込んだ方がよかった気も……」 俺の考えは間違って……いないよなぁ? もしかしてこいつ……考えが浅いんじゃないだろうか。 「えっと…それは………………」 あらら……図星だったみたいね。触れない方がよかったかも。 「…とにかく命が惜しくて。…そこまで考えられなかったんです。……言われてみれば確かにそうですが…」 やっぱり……こいつ頭悪いなww 「くっ……ふっ……」 駄目だ……笑いが止まんね 「くはは……ふっははっ……くっはははははは……ふ……なんだよそれぇ。ドジな奴だなぁ……」 あ~……笑わせてもらった。ああ……でもこいつそんなに怖い目に会っていながらも俺を見捨てなかったし……結構いいやつなのかもな。 「うん、でもあれだな。命が惜しくて必死だった割には俺のことちゃんと助けてくれたじゃないか。なんつうか……さ、ちょっと気に入ったよ。お前、名前なんて言うんだ?」 気がつけば俺の表情はいつの間にか笑顔になっている。でも、面白くて良い奴に出合えたんだから当然だよな。 「な、名前ですか…?…えっと、私、リリルっていいます」 このキリンリキ、名前が…… 「リリル……? なるほど、どちらから読んでも『LILIL』なわけかぁ……キリンリキらしい名前だなぁ」 そう言う名前だとこちらとしてはとても覚えやすい。そうだ…… 「ああ、俺も名乗んなきゃな。俺はトーチって言うんだ。よろしくな」 この子、ちょっとおどおどしているけれど可愛いな。さっきは怒っちゃったけど……可愛さに免じて許してあげるかな……ふぅ。 「なんにせよ……早く、群れに戻らなきゃな。それまで、よければ一緒に行かないか……リリル……ちゃん」 ああ、言ってしまった。『ちゃん』付けなんて慣れないことはするものじゃないな……恥ずかしい。やばい……ちょっと顔熱いかも。っていうかさっきよりも周りがちょっと明るくなったかな……鬣の火力あがっているかも。 「…?…トーチさん、ですね。…わかりました。…しかし……」 なんだろう……頭に疑問符が付いてるよ。やっぱり火力あがっているみたいだな。 「また迷惑を掛けてしまいますよ、絶対。…また貴方に怪我をさせるわけにはいかないですし」 なるほど……やっぱり俺のことを傷つけたいわけではないんだな、疑ったら悪かったかな…… 「……あっ、そうだ」 なにかひらめいたようだ。余計なこと考えていなければ良いけれど…… 「…今更気づいたんですが……お体のほうは大丈夫でしょうか…?……大丈夫じゃないですよね、すみません……えっと、お詫びと言っちゃあ何ですが、私に貴方の傷を治療させて下さい。…お願いします」 「ああ、そう言えば……前脚の噛みつかれた傷が結構痛いな。治療してくれるって言うと舐めてくれるのか? はは、ありがとう」 傷を治す……? ってことはあれかなぁ、俺の傷口を丁寧舐めてくれるんだろうか? こんな可愛い子だったら……俺は大歓迎だな。それにしても……苦労したお礼にこれならちょっと苦労した甲斐があるかなもな? 「はい!?…い、いや、その…私にはそんな恥ずかしいことはできないので、えっと……"ねがいごと"という技を覚えていますので、それを使って……意外とすぐに終わりますので」 どうやら違うようである……あら~……恥ずかしい。でも、ねがいごとかぁ……催眠術が使える俺たちの仲間もいるくらいだから、キリンリキがそう言う技を使えてもおかしくないのかもなぁ…… 「ああ、そんな力を持っているんだ……なら、お願いするよ」 そう言う不思議な力を体験できるギャロップなんてそんなに沢山いるもんじゃないよなぁ……キリンリキとは一緒になることはあってもこうして話をする機会なんて全然なかったから…… それにしても、なんでリリルは上目づかいなんだろう? ちょっと……また火力があがっちゃいそうだな。 とりあえず、見ちゃ駄目だ見ちゃ駄目だ……準備出来てますって感じで眼をつぶっちゃえばいい。 「わかりました。…それじゃあいきますよぉ」 俺が目をつぶったのを確認したのだろうか、リリルがそう言って何事かをつぶやき始める。何を言っているのかすら聞こえないくらい小さな音なのに、不思議だな……心地いい。 今、リリルはどんな表情してるんだろ……? 綺麗だ……あいつの上から光が降り注いで……さっきよりも可愛いかもしれない…… あれ? 痛みがない……傷はまだ消えていないけれど・・・・・ 「すげ……」 それにしてもリリルの尻尾……相変わらずモゴモゴ動いているんだな、本体もだけどこっちも可愛いかも……見てて飽きないな。 「――すように」 リリルがそうつぶやいたら、光が収まっていった。終わったのかな? 「あまり無理はしないで下さいね。――徐々に直ってきているからといって、あまりそんなことはしないで下さいね。また傷が広がってしまいますから」 だよな……さすがにこんな風にいきなり治すのは無理があるよな……うん。それに無理がるのは俺だけじゃなくってあいつもだろう。ため息なんてついたんだから…… 「ああ、ありがとう……今は痛みも全くないけどこれから少し安静にしたほうがいいなら、少し休んでから群れに追いつこうよ。それに、お前も疲れたろ? 俺は起きているし、その尻尾だって起きてくれるんだろうから、ちょっと休もうか……まぁ、正直に言うと俺がこの傷を治したいだけなんだけれどさ」 俺の傷を治したいっていっておけば……きっと彼女も折れるよな? ちょっと我の強そうな子だけれど、こう言っておけば。 「…そうですね。…実は私はそこまで疲れてはないんですけど……休んでおきましょうか。――貴方の傷のためにも」 無理しちゃって……疲れた顔してるのに…… 「今日は二人だけですけど、貴方が傍にいますからね。安心して眠れます…ふあぁ……ああ、ごめんなさい。……強がってはみたものの、やはり私も結構疲れているようです。…すみませんが、お先に」 最後に言ったリリルのセリフ……照れるじゃないかよ……この馬鹿野郎……全く、すぐに目ぇつぶってくれてよかった…… ふぅ……俺も疲れちゃったな。尻尾が起きてくれているだろうし……俺もちょっと休んじゃおうかな。 「お休み……」 やっぱりオーバーヒートとか日本晴れとか……はしゃぎ過ぎたかな……今日は静かだ。二人きりなんて今まで初めてだよ……静かすぎて余計眠くなってきそうだ…… 「あんまり熟睡するのもどうかと思うし……あんまり寝すぎないように注意しなきゃな」 リリル……寝顔も可愛いな……なんて、余計なこと考えないで寝た方がいいかもな……お休み… **【2】 [#u4a6f95e] 傷が治ったのはいいんだけれど……こりゃ厳しいな。群れはもう川まで行っちまっただろうか? 太陽が出ているうちに……雨でスタミナ奪われる前に追いつかないと…… 「さて……すっかり群れから離れちまったなぁ。群れの方もまだ川は渡り切ってはいないと思うけれど……急がないと全員渡り終えちゃって二人で取り残されるぞ」 間に合ったとしても……またたくさんの仲間が死ぬとしたら……憂鬱だな。願わくばリリルは……俺よりも生き残る可能性は高いんだから、生き残って欲しい…… 「二人で取り残されたら……さすがにやばいわよね。急がなきゃ」 その通りだ……二人で川を乗り越えようだなんて、肉食ポケモンの群れに飛び込むくらいの自殺行為だ。 「ああ、出来れば雨が降る前にはな」 とはいえ……雨、降りそうだな。早く群れが通った跡……草が食い尽された跡を見つけないと。 ん、この感じは……? そのまま俺達が進んでいると、背筋に寒気が走る。反射的に歩みを止めてみたけど……ありゃ、めちゃくちゃな威力の悪の波導じゃないか。 「待ちな!!」 ふえぇ……あぶねぇ。あんな悪の波導が当たったら、怪我するじゃすまねぇよ。こんなことする奴は……あの声、あの顔……昨日のグラエナのリーダーじゃないか。 それだけじゃねぇ……8頭はいるぞ。雄も混じっているところを見ると総力戦ってところか? 「おいおい……せっかく助かったって言うのに昨日みたいにやられたいのか?」 くそ、強がっては見たが……俺の最も嫌いな雨が降りそうだ。狙いやがったか? それに……これはいくらなんだって、メガホーンだけで相手にできる数じゃない。 「どうしよう……?」 俺が聞きたいくらいだよ……くっそ、汗が出てくる……仕方ない強行突破っきゃねぇ。 「雨になる前に俺が道を開く……俺が合図する前に高速移動に耐えうる呼吸を十分にして……合図があったらその尻尾で敵を驚かしてくれ」 リリル……聞こえたよな? 「わ、わかった……」 くそ、そんな頼りない声なんか出して大丈夫なのかよ…… 「私たちの仲間を二人も殺った落とし前……きっちりとつけさせてもらうよ」 どうやら、昨日のことで相当な恨みを買ったらしいな。アレはあいつらが攻めてきたんだから仕方がなかったことなのに……奴らにゃそれじゃ通じねぇってか。 「恐怖なんて……尻尾が考えていればいい……尻尾が感じていればいい……」 またそんなこと言って……でも、行っているうちにどんどん声の震えが収まっている。これなら大丈夫かもしれないな……だが、油断は禁物だ。 ……まだだ、もう少し……いまだ!! 「掛かれ!!」 「行くぞ!!」 くそ、一瞬遅れて…… 「バウバウバウッ」 いや、けれどリリルはうまくやってくれた。俺がフレアドライブで突っ込めば奴らが手を出せる道理はない。高速移動の呼吸法を使った俺たちなら追いつかれるはずだってない……なにより、こんなところで死ねない。 うまく包囲網は抜けた……けれど、雨のせいでいつもの走りにキレがない……くそ……このままじゃ追いつかれてしまう。 「こうなったら一か八ね……あの丘を登りましょうよ」 リリルは俺の顔を見て疲れていることを悟ってくれたのか、それとも距離が縮まっていることに不安を覚えたのか、俺のことを気遣って何か案を出してくれたようだ。 だが、こいつのことを信用してもいいのだろうか? 「何をする気だ……? あんなところに登ったら……追い詰められるだけじゃないか?」 もう時間がない……選ぶべき丘は目前じゃないか…… 「高い所からでも私のサイコキネシスで安全に着地できる……信じて!!」 サイコキネシス……そんなとこが出来るのか? いや、リリルを信じなかったら……どっち道、俺たちの運命はきまったようなものだ。 「わかった、信じる」 なら、こう答えるしかないよな……頼むぞ、リリル。 くそ、思ったより足場が悪い……転んだら一巻の終わりだ。絶対にそんなことになってたまるか……。 そろそろ……崖が見えてきた。ここを飛ぶのか……ポニータのころならいざ知らず今の俺が普通に飛び降りたら……雨で足場も悪いし、確実に危ないな。 それは、リリルにとっても同じはず……だからってわけじゃないけれど、リリルが大丈夫だと信じてやるならば……行けるはずだ。 「躊躇っちゃ駄目」 ああ、わかっているさ……リリル。 「っ……」 怖い……けれど、跳んだ以上はもう、後戻りはできない。 「んっ……」 目はつぶっちゃ駄目だ……しっかり地面を見て着地しなきゃ。この落ちる感覚……慣れないな。お腹が浮くようなこの感覚…… ん、これは……支えられている? リリルのサイコキネシスが……すごい。どんどん力が強くなって……ああ、これなら地面が怖くない! ダシッ…… ああ、着地出来た……リリル……お前、すごいぜ。いまので大して疲れた様子もないし……よし、これならいける と、蹄が強く地面を噛む音を立てるときにも足に痛みは無かった。そのサイコキネシスという行為で、リリルには大した疲れがある様子もなく、二人は勝利を、詰まるところの逃げられることを確信して、再び走り出した。 ---- 逃げられたはいいけれど……俺たちこれからどうすりゃいいんだよ。群れには追いつけないし、とどまって別の群れを待とうにもいつになるか分からない…… 「どうする……俺達、群れのいる方向とはま逆に着ちゃったけれど……このままじゃもう、群れには追いつけない……だからと言って、ここにとどまれば……いずれ奴らの餌食だ」 ああだめだ、何度考えても同じ……同じ考えばっかりぐるぐる回ってきちまう。こんな堂々めぐりしている場合じゃないのに…… 「どうしよう……」 だよな……リリルに聞いて分かるくらいならば苦労はしない。わずかな望みにかけてみたけれど無駄か……いや、何か考えがあるって表情しているな。 「…もし川を渡るんなら、とりあえず食べられないようにすればいいんだよね。…うーん……どうにかして、オーダイルと仲良くなれないかなぁ?」 ダメだこいつ……早く何とかしないと。まさかリリルがここまで頭の悪い奴だとは思わなかった。危うくずっこける所だったじゃないか。 「いやいや、あのね……」 こんな風に注意したところで分かるかどうかも怪しいものだけれど……言わないよりかはましか。 「仲良くなるっていったって……俺達は奴らには獲物としか見られていないんだよ。こんなこと言うのもなんだけれどさ、俺たちを助けるメリットてものがなきゃ……仲良くなるにもきっかけがないと俺達はただの餌なわけだし」 はぁ、リリルに期待した俺が馬鹿だったよ。 「とにかく、その案はダメ。別の案を考えよう」 もう期待できないけれど……な。 「ええ、そんなぁ……せっかくいい考えだと思ったのに」 これだから期待できないんだよなぁ……冗談じゃなくて本気で言っているところが……よくこんなんで今まで生きてこられたな…… 「…メリット…メリットねぇ……」 ほ、本当に大丈夫かな……こんな感じで? っていうか、俺も考えないと……色仕掛けは無理だろうし……う~ん…… 「あっ、そうだ。――それならさ、何か私たち以外で、食べれるもの――ほら、丁度いいのがあるじゃない。――食料渡す変わりに、川を渡して欲しいんだって、交渉できないかな?」 ああ、またそんな……名案が喉まで出かかった気がしたのに余計なこと言うから忘れちゃったじゃないか…… 「いやいや、それは……? まてよ、食糧……ちょうどいい……」 そうだ……奴らグラエナのせいで困っているんだから、グラエナに責任を取ってもらえばいい。あいつらを差し出して嘘をつけばいいんだ……他の餌が大量に隠してあるって。でもそれは…… 「なるほど。まるで奴ら肉食ポケの真似ごとになる……が、それしかないな」 奴らにさしだす食料は、必然的にグラエナの死体ということになる……それはつまり…… 「なぁ、リリル。俺達は今まで専守防衛……手を出されなきゃ手を出すことは無かった……が、いいんだな? 俺達を探しているだろうあいつら……奴らグラエナの一匹を狩ってそれをオーダイルに差し出すんだ。奴らの真似ごとをすることになるけど、いいな?」 こういうことだ。それでも、やるしかないんだろう。 「えっ、いや、そんな……」 リリルは……戸惑うよな、そりゃあ。俺と違って、受動的ですら命を奪ったことはないはずだもんな。 「…いや、やっぱり抵抗はあるよ?…そんな言い方されちゃうと、正直困っちゃうんだけど、でも――でも、私が言い出した事だし、ここでいつまでも悩んでても仕方ないし。――大丈夫、やれる」 出来んのかよ……でも、表情は嘘をついてない。やっぱり、生きるためになら誰だって覚悟決められるんだろうな。 「分かった……心配するな。俺だって、襲われているわけでもないのに、誰かの命を奪ったことはない……だから、お互い初めて同士だ」 そうだよ、お互い初めて同士……それだけじゃない。あいつらだってギャロップなんかに襲われるのは初めてだろう。だから…… 「奴らはきっと、群れが川を渡り切る前に追いつけないように、わざわざ俺達に後ろを振り向かせて……さらには群れのいる方向とは反対側を手薄にした。 だからこそ、きっと奴らはまだあきらめちゃいない。どこまでも追い続けて仕留める気でいるはずだろう。 でも、逆に狙われるなんてことは全く考えていないはずだ――俺たちと違ってな。そこに隙がある……その隙をつけば出来る……だから、生き残れるはずだ」 そうだ、そのはずなんだ。だから大丈夫。リリルだってそう思って自信つけてもらえば……俺たちなら成功するはずだ。 「…失敗なんかしないよね。――いや、疑っているわけじゃないんだよ?――ただ、やっぱり不安でさ」 そう言って聞かせると、少しの不安は見えるけど……うん、心は決まっているよな? 「私たちなら絶対大丈夫。――絶対にね」 今は無理やりにでもそう言って自信をつけてもらうしかないよな……大丈夫だ。言葉に重みがあるもんな……こうやって強気でいてくれるとなんだかほっとするよ。 リリル……決まったな? 「わかった。それじゃあ行こう……」 いつまでもこんなところに隠れていたら決心が鈍っちまうからな。ほら、リリルも立ってくれ…… 「うん……」 リリルは俺の後に続いてちゃんと歩いてくれると……なんでだろうな? 一頭しかいないのにこんなに頼もしく感じるのは…… 「奴らが俺達を探しているなら、多分方々に散らばっていると思う。大きな群れを探すってのとはわけが違うからな……だから、相手が一人でいるところに、仲間を呼ばれる前に襲うことになるけれど、リリルは何か相手の動きを止められる技ってあるかい?」 サイコキネシスは便利だけれど……奴らには通じないから……な。だからこそ、ほかの技があった方がいい。出来れば驚かすような音が漏れる技は控えたいし…… 「えっと……草結びって技が使えるんだけど、どうかな?」 名前を信じるならば、草で結んで動きを止める技……だよな? なら、悪くないはず。 「…相手の動きを止めるにはそれが一番使えると思うんだ」 リリルも自信があるって言っているんだ。二人しかいないこの状況で、リリルを信じれなかったら……駄目だよな。信じよう、たまに信用できないこともあるけれど、出来る限り……リリルのことを。 「そんな技がまで使えるのか……。そうだな、足を引っかけたりする技だとすれば……確かに使えるはずだ。奴ら肉食の奴らには使えない、全く経験したことのない技だろうし……な」 出来る、口に出してみると出来るような気がしてくる。不思議と……心が落ち着いてくる。でも、逆にちょっと不安でもあるな……リリルのと俺には違いがあるから。 まだ、リリルは誰も殺したことがないから……今回のことでショックを受けてほしくない。 「よし、もし獲物を見つけたら俺の合図と一緒に飛び出して射程圏内に入ったら速攻でそれをやってくれ。相手が何もできないうちに俺が……汚れ役は俺が引き受けるから」 だから、汚れるのは俺だけでいいだろうよ。 「頼んじゃって……いいのかな…?」 いいんだよ……お前は気遣ったりしないでさ。 「…ただ、精一杯援護するから。……それで充分かな?」 それだけで十分。それが一番大事なことだからな。 「大丈夫」 俺は力技で、リリルはサポート。2回の窮地をそうやって乗り越えてきたんだ。いまさら変えない方が都合がいいはずだ。 なんせ、2度あることは3度あるんだから……な。リリルに見つめられていると、より一層そう思えるや。 「精一杯やってくれれば……きっと俺が成功させる。だから……な、頑張ろう」 二人で生き残りたい……俺達は一人では生きていけないんだから。 ・ ・ ふん、グラエナの奴……呑気に姿見せながら歩いてやがる。囲んで蹴りつける気かもしれないがそうはいかない……その油断が命取りだ。油断していりゃ俺たちだってやれるはずだ……ぜったいにそうだ。 でも……おちつけ、俺。タテガミの炎でばれたら元も子もないんだからな。 「相手が近付いてきた……もっと距離が近くなったら、『今だ!!』で飛び出すからな……練習はできないぶっつけ本番だが……心の準備はできているな?」 「ええ、もちろんよ」 リリルがためらわないのは珍しいな。もっとも、そっちのが頼もしくて助かる。 「きっと大丈夫。――そうでしょ?」 ああ――そうだ。 「ああ、大丈夫だ。俺達……以外といいコンビかもしれないからな」 後はひたすら待つだけ……落ち着いて落ち着いて、待って待って……それで確実に成功させなきゃ待っているのは死ぬことだからな。 よし、相手がこれだけ近づいてくれれば行けるはずだ。 「リリル……3・2・1で飛び出すからな?」 ちゃんと集中しているみたいだな。これならいけるはずだろう。 「……3……2……1……今だ!」 「よぉしっ!」 俺達は走り出した。風を切る音も蹄の音もいつもと違って五月蠅く聞こえる……立場は逆なのに襲われている時と同じ感覚だ。おそらく、命がけという意味で繋がっているのだろう……狩りも、逃走も。 だから不安になってしまう……なぜなら、狩りというのは大半が失敗だからだ。ここで失敗すれば……いや、今はよそう。 後悔は死んでからすればいいんだ。全力で逃げて……それでだめならあきらめようって、そうやって生きてきたじゃないか。立場が逆になったら、『逃げて』が『狩って』になるだけだ…… 俺はベストを尽くす、だからリリル……頼むぜ? 奴はもう気が付いている、俺はこれから首を曲げて角を相手に向けないといけないから、相手に動かれると案外簡単によ蹴られちまう……お前の草結びにかかっているんだ。 ズンッ……!? この音、この感触……断末魔……成功したんだな。グラエナのことも、殺したくはなかったけれど……ごめんな。 「ハァ……ハァ……」 くそ、ダメだな……死に際の声がまだ耳に残っている。本当にごめんな。こっちも生きるために必死なんだから……駄目だ駄目だ、どうしても暗くなっちまう。明るいことを考えるんだ。……俺達生きて群れに追いつけそうな気がしてきたってさ。 そうだよ……リリルと一緒にいられるじゃないか。 「仲間が来る前に川まで行こう。この死体は俺が背負っていくから、背中に乗せてくれるか?」 でも、まだ終わりじゃない。これを終えて――川を渡って始めて危機から脱出したって言えるんだろうな。ちょっと疲れたけれど、まだ休んではいられないんだ。 「大丈夫?…乗せるよ…?」 そんな心配そうな目で見ないでくれ……なんか心苦しいからさ。気遣われているのは嬉しいけれど、出来れば早く忘れてほしいな。 背中に死体を載せられた時、ちょっと嗚咽を漏らしたのは俺の気のせいだといいんだけれど…… ――済まないな。 ――気にしないで、さあ、行きましょう もう大丈夫……って、早く言えるようになりたいな。俺のためにも、リリルのためにも…… さあ、俺達が越えるべき川が見えてきた。ここを越えれば……もうほとんど安全だ。 【3】 さて……これからオーダイル達と交渉するわけだが……心配なのは俺の隣にいるこいつ…… 「リリル……悪いが、ちょっとだけ黙っていてくれ。お前が喋るとボロが出そうだから……すまんな」 そう、リリルだ。いらんことをしゃべって何か台無しにされたらそれはすなわち死を意味する。だから……黙っていてくれないと困る。 そういう意を伝えるために大分まじめな顔をしているつもりだが、さて、リリルは納得するのかな? 「そ、そんなぁ……」 さすがに不満そうだけど……俺も何回も呆れさせたぐらいだからな。 「あ~……そう言われてもなぁ」 ここは引けない、譲れない。 「わかったわよぉ……その代わり絶対成功させてよぉ」 多分、自覚はあったんだろうな。一応納得してくれたようでよかった。 「わかってる……ふぅ」 成功しなきゃ死ぬから!! どちらか一人で生きるっていうのも……何か今更ね。 とにかく、自信満々って感じで嘘なんて一つもないって感じでやるっきゃない。深呼吸深呼吸俺はまだ死ぬたくないんだよ。あぁもう……なんでオーダイルなんてもんがこの世にいるんだよ。 2~3分でいいから消えてしまえ。 ……はい、どんなにそんなこと祈ってもその程度で消えてくれるほど世の中甘くありませんよね。見つかったのは一匹だけれどもう何十匹もわらわら集まってきたからそんなの関係無し。 ああ、どうせ逃げる気はねぇからそんなに焦る必要はないっていうの。ああ、あっという間に水色になっちゃったよ……もう、好きに集まってくれ。俺は、腹決めたから。 「大丈夫なの?」 まぁ、やるっきゃないさ……気を滅入らせても仕方ない。 「分からない。相手が俺を信じるかどうか……だな」 だからそうだ……なるようになるさ、今までもそうだっただろう? それでダメなら、それまでだ。それが生きるってことだろう? もう……それしかないんだ。ここまで生きてきただけでも奇跡なんだから。 「そう、わからないんだぁ……じゃあ、信じてほしいね。私も信じるから……」 一人で死んだら寂しいけれど今回は生き残るのも死ぬのも二人一緒だ。死んだらどうなるかなんて知ったこっちゃないけれど……まぁ、なんとかなるでしょ。 まだ一日しか一緒にはいなかったけれど……こいつを失ったらこの先何かが起こった時に対処できなそうだしなぁ。どちらも失えないし失ったらとも倒れだ。 それにしてもリリル……嘘をついているってわかっている俺を信じてどうするんだお前? 「お前が信じたって意味がないだろう? まあ、いいか……おそらくは、これが最後の試練だ。乗り越えてやろうぜ」 全く……オーダイルが信じなきゃ意味がないっていうのに……いや、違うか。きっとリリルはオーダイルとの交渉を成功させることを信じたってことなんだな……変な風に意味を履き違えていた。 っでも、いまさら言いなおすのも恥ずかしいし……ああ、そんなことどうでもいいってば。集中集中…… 「うん。じゃあ私……もう喋らない。トーチ……頑張って」 うん……なんだか死ぬって感じの顔してないな。これはこれでいいのかもしれない……恐れているよりかはずっと怪しまれない。 ……………えっとまずなんだっけ? …………………そうだ、たくさん餌があるって嘘をついて。 ………………………………よしっ 「オーダイル達……この川に住むみんな……聞いてほしい事がある」 餌が一頭……水の中じゃ何もできない餌に、盛大にだまされてもらおうじゃないか。くそ……でも、話が出来るって雰囲気じゃないなこりゃ。 うるせぇ……うぜぇ…… 「聞け!!」 よし、黙った。素直すぎるほどいい子だな。 「聞いてほしいことってななんだ? 言っておくが、どちらか一人が犠牲になるから、もう一人を生かしてくれなんて寝言は聞かないぞ? 二人ならお前らをまとめて仕留めることも容易いのだからな」 あいつがリーダーかな? っと言っても、オーダイルに群れなんてないが実質ナンバーワンならば関係ない。平常心平常心……落ち着くんだ。 「そうか……それは残念だ。見ての通り、グラエナの死体を用意している……今持っているのは一頭だがとある場所に大量に……大人4匹子供8匹、群れの半分以上の死体を隠している。 お前らには絶対に見つからない場所だ。その隠し場所と交換で、俺達の命を助けちゃくれないか?」 これは本当のことなんだから……本当の話だから……さっき12匹殺したんだ……いや、13ってどうでもいい。とにかく……本当だから。 「どっちが得かは、考えてくれ……俺を喰うか、渡り切った後で……その隠し場所を教えてもらうのとどっちが得か……考えてくれ」 っふぅ。後はもう……なるようになれだ。 「通せ。全員それで文句はないな?」 いよっしゃぁぁぁ、よかったぁぁぁ。いまので何日分の体力消費したかな……全く、泥水が体にきついわこれ。でも……なんかもう疲れてどうでもよくなってきたなぁ……ふぅ。 ……あのオーダイルが後ろにぴったりと。少し怖いけれど、ほかの奴らが手を出せないから……頼もしい。しっかし、良く見ればオーダイルの奴らは全員肥えてやがるな。今は獲物が向こうからやってくる時期だってか。 「どうしてこんなことをする必要があった? どうしてウソをついたり、グラエナを殺す必要があった?」 ばれてた!? やべぇ……殺される……ってわけなら川の中ほどで殺しているよな。 「嘘だって分かっていたなら何で……」 「身構えるな。この時期エサなら向こうからいくらでもやってくる……」 やっぱりか……じゃあ、俺らが以外で犠牲になった奴らがいるってことか。その犠牲がなかったら……ぞっとするな。 「まだ、喰い尽されてなくて残っているからお前らの言うことが嘘でも問題はない。だからな……聞かせてくれないか?」 そういう訳かよ……首突っ込みたがりな奴め。まぁ、ここで黙っていてこいつの機嫌を 「私たち……」 あのなぁリリル……いや、もういいや。 「グラエナに恨みを買って追い回された揚句に群れからはぐれて、こうでもしなければ……川を越えられなかったから。だから、生まれて初めて……自分から攻撃したの。私が動きを止めて、彼が角で刺し貫いた……あとはここを越えて群れに追いつくだけ」 「そう言うことだ……」 結構酷いことしたよなぁ……まだ血の匂いがするし。……あぁ、嫌なこと思い出しちまった。 「ふぅん」 こっちはどうやら……信じてもらえたようだな。 「そうか、大変だったな……普段やらないことをやってまで、生き延びようと頑張って」 大変だったさ…… 「そんでお前らそんなに仲よさそうなのか?」 はい……? こいつと!? 「気が付いて無かったって顔だな? まぁ、いいか……お前らの嘘に乗ってやった対価はその話で十分だ。後のことは任せろよ、さっき言った理由で群れは今穏やかだ。 ちょっとくらい批難されるようなことはあっても制裁受けるなんてことはないだろうから……心配すんな。たまには敵に助けてもらうのもいいものだろ?」 ……飯食っていれば、こいつらとだって仲良くなれる……ってか。いやだな、空腹なんて……あればあるだけ敵が増える。 「あんまり……大きな声で言えないのが心苦しいけれど……ありがとう」 でも、そうか……今度会うとしたら確実に敵だとしても、今はこいつに感謝しなきゃ。礼儀とかそんなの抜きにして、言わなきゃ気がすまないね。死なずに済んだんだから。 「私からも……ありがとう」 「それとだ……グラエナを殺したことに関しては気にするな? そんなもの気にするなんて親切すぎるぜ……だから、大丈夫。気にせず群れまで突っ走れよ。 さぁいけ!! あまり長く話していると怪しまれる」 「本当にありがとう」 親切……か。それは正論かもしれないけれど……いや、もう気にするのはやめよう。草食ポケモンだからって黙ってやられたくないのは当たり前だ。生きるためにやったことなんて悪くないよな。 ってか、お前の方がよっぽど親切だよ。嬉しいけどさ…… 「ありがとう」 さあ、行こうか……群れに追いつくまで突っ走ろう。 ・ ・ ああ、追われていないとか川を渡るとか、そんなの考えなくてもいいんだよなぁ……改めて嬉しい。 「俺達……これで群れに追いつけるかもな」 リリルも嬉しそうだな。 それにしても、仲がいい……か。こうしてみるとなんか可愛いしこいつが恋人でも悪くないかもしれないな……だめだ、顔が引きつる。こんなんじゃ火力も無駄にあがっちまうよ。 「…これも全部トーチのおかげだよ。……今まで本当に色々とありがとう」 ダ・メ・だ。可愛い、火力が上がる…… しかし何だろうなぁ……ギャロップにも可愛い子なんて星の数ほどいるっていうのに、リリルなんてトップと比べれば見劣りするのに……なんでこんな風にまで熱くなっちゃうんだろう? 何でずっとこの調子なんだろう…… 一緒に居たいって……なんだか、どうしようもなくそんな感じだ。リリルは……どうなのかな? 「なぁ……俺達さぁ。オーダイルに仲がいいって言われたよな。俺達ってそんなに仲いいのかな?」 さて、どう答えるのやら。 「さあ、どうなんだろう…?…やっぱり、気が合うしさ、そう見られてもおかしくないんじゃないかな。――私は、仲がいいんだと思ってるよ?」 そうだよな……仲がいいのは確かかもしれない。けれど……それだけなのかな? 「そっか……仲がいいのは確かなんだろうな」 ふぅ、そんなこと言っていたら…… 「もうすぐ……雨が降るな」 あ~あ……せっかく乾いてきたのにまた濡れるのか……やだやだ。いや……待てよ、少しくらいは役得ってものを……よし、体をより合わせちゃえ。 「昼間ならともかく雨で体が冷えるといけないから……な」 隣にぴったりとくっついて、こうやって肌を合わせるのも不自然じゃない……よな? 「え、えっと、その……う、うん」 不自然かどうかはともかくとしても悪い反応じゃない……むしろ……自分から寄ってきたよな? ここまでとは……いや、落ちつけ。リリルはギャロップじゃないんだ。火力が上がったらとてもじゃないが火傷する……落ちつけ。 「…あったかぁい…」 会・心・の一撃!! くそ、危うく爆発炎上する所だったじゃないか…… 「じゃあ、行こう」 平静を保って言う事ができるのにも……限界が有りそうだな。触れ合っている部分があったかいのはわかるんだけれど……他の所まで暖か過ぎる。 これも雨のおかげ……雨に感謝するなんて俺らしくもない……リリルは? ちょっと恥ずかしそう……なのかな? 俺の方をあんまり見てくれないから、どんな表情なのかわからない。けれど、リリルの表情が一瞬見えた。嬉しかった……のかな? そうなら俺も、少し嬉しい……だめだ、また体温があがる。 はは――目に毒だ。俺は見るのをやめた。 ・ ・ 俺は、リリルの方を見る事ができず、ひたすら前を見ながら進んでいた。そうして、どれだけ時間がたったのだろう、俺たちの前にぽっかりと口を開けた洞窟があったのだ。 「こりゃ運がいい……ディグダ達が掘った穴じゃないか。中には……あんまり何かいる気配みたいなものは感じないし、少しお邪魔させてもらおう」 大丈夫……中は広い。俺の鬣のおかげで明るいからリリルも安心して中に入れるだろう。それに、熱がこもるから暖かいはずだ……夜は乾燥しているせいで寒いけれど、これならばリリルも大丈夫だよな? とはいえ、その逆も……か。俺には丁度よくてもリリルにはわからない。 「大丈夫か、暑かったら言えよ?」 「うん、ありがとう。…ちょうどいいくらいだから、心配しないで」 「そうか」 ……よかった。とはいえ、こんな風に会話をきっちゃったら何を話せばいいか、わからないな……。隣にいるリリルのせいで考えがうまく纏まらない。 何でだろうな? こいつと一緒にいると調子が狂っちゃう。えっと……話題話題……そうだ。 「なぁ、リリル……これから俺達群れに追いついたらさ……俺達ギャロップの群れとは移動の速さが違うから……お別れになっちゃうな」 って、より気まずくなる話をしてどうするんだ。俺は後悔して口をつぐんだ。 いや、なんにせよ沈黙に戻しちゃいけない……そうだ。 「そうしたらさ……俺達、今回の出来事をどういう風に話したらいいと思う? こう、ものすごい冒険談になるのかなぁ?」 でも、そうか……この雨がやんだらもう一度群れを追いかけて、今度こそお別れなんだよな……そうなるとちょっとさびしいよな。 「人気者になるのか、それとも誰も信じないのか……本当にどうなるだろうな。ちょっと楽しみじゃないか?」 「ああ、言われてみれば……うん、ちょっと楽しみかも」 本当はこんな事なんてどうでもいい……俺はどうにか、このモヤモヤを解決したかった。けれど、リリルは違うようだ。まったく先の事を考えていないのか、実は俺の事はどうでもいいのか。 前者だった場合は呆れると言えばそうだが、そっちの方がリリルらしいし、何より俺の気は楽になる。 「…信じてもらえるといいね」 よかった。なんとか雰囲気を持ち直せたかも。そう思うと、それだけで俺は笑顔になる。 でも、にやけてばかりじゃいられない……話はまだ終わっていないから。 「一人じゃ……一人で言っても……信憑性はないよな……だったら二人で一緒に語ったら」 それが出来ればリリルと一緒に……いられるかもしれない。 「……て、俺は何馬鹿なことを言っているんだ。それじゃお前を群れから離して連れまわしちゃうってことじゃないか」 そうだよ。危うく変なことを口走る所だった。そう思いながら俺は自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。でも、リリルは俺を呆れさせたんだ……もしかしたら俺の呆れるような考えだって受け入れてもらえるかもしれない。 そんな風に思ったからこそ、俺は聞いた。 「……リリルは嫌だろ。群れから離れるなんて?」 「…そりゃあ群れから離れるのはやっぱり、ね……でもさ…えっと…」 でも……? 知らず知らずのうちに、その一瞬で多くの期待をしていた。 「……そ、それもいいかもしれないなぁ」 いいのかよ。 「それってどういう……一緒に……居たいのかな……俺達?」 声がまともに出せない……こんなんじゃ聞こえないかもしれない。そうだとわかっていながら、俺は続けた。 「出会ってから。今までみたいに二人で……さ」 聞こえていたのだろうか。ほんのわずかだったけれど、リリルが頷いていた気がする。それに、これだけ俺の事をじっと見るっていう事は……きっと同じ気持ち……か。 「そう……なのかな、この気持ち。……うん、きっとそうだよ」 肯定しやがったよこいつ……なんで、こうまでこいつは純粋なのかな……俺は呆れていた。 「…よければずっと一緒にいてくれないかな、トーチ」 それでも、真剣で純粋で嘘を付いていないその表情を見ていると、俺も自分の気持ちが素直に言えるような気がするのだ。 「……今までのお前の考えには何回か呆れたことがあるけれどさ」 こんな切り出し方したからリリルは『またかぁ……』って顔をしたけれど、俺はこうでもしないと恥ずかしくてたまらない気がした。 「嬉しく思ったのは……始めてだな」 とはいえ、どんな切り出し方や結び方をしても、恥ずかしいことに変わりはなかった。こんな状態じゃ……リリルの顔が見れない。 そして、俺は今度こそ話題がなくなって何も話せずに、ずっと沈黙の打開に思案を巡らせていた。 不意に太ももあたりにぞわっとする感覚が走ったのはそんな時だった。 「ひゃわぁっ!!」 なんだ今のは!! そう思う間もなく感覚がした方向を見てみれば、そこにあったのはリリルの尻尾。リリルの尻尾が口をもごもごとさせていることでリリルが原因だとかろうじて分かった。 「な、なんだよ……何か美味しい草を食べる想像でもしていたのか?」 あ~ビックリした。全く……本当にそんなんだったらあきれるじゃ済まなそうだな。 「え、えっと、ごめん…その……こんな雰囲気だからさ。…キスするとこ、想像してたんだ」 正直者め……今までで一番呆れたかもしれない。 「最低だよね。――ごめん」 けれど、それ以上に――さっき以上に俺は嬉しかった。俺の方を見つめるその上目使いも……俺には酷なほど魅力的だった 「いや……」 言え……今なら言えるだろ、俺? 「その……少し嬉しかったし……俺もちょっとだけ似たようなこと考えてた。それがさ、無意識に出ちゃったんだろ……尻尾が動くってことはさ? 火力が……また……リリルも流石に暑いだろうな。目を逸らしたら失礼だし……焦点を合わせないでぼやかしてみれば大丈夫……だよな? 「だったら、その……それだけ俺の事を思ってくれてるって証拠じゃないのかな? いや、俺はいいと思うよ……リリルとならさ。なんだか、両想いみたいだし」 「えっと、えっと…と、トーチも私のこと、そこまで思っててくれたんだね……す、すっごい嬉しいよ」 暑いはず……なのにリリルは気にしていない。きっと、あいつもギャロップだったら今頃火柱が上がっているのだろう。 「こんな私で、本当にいいの…?」 何をいまさら……なんて、俺もついさっきまでは同じことを聞かれたら、そう聞き返したくなったかもしれない。だけど今は、そう…… 「今まで……二人で一緒に乗り越えてきてくれた……リリルだから。そう、リリルだから」 俺はそう思う。リリル以外は考えられない。 「だからそんなに不安そうにしないでくれ。もしリリルでダメだったら、今頃グラエナかオーダイルの胃袋の中さ。ここまで生きてこれたのはリリルのおかげだろ? 俺達は一人じゃ生きていられなかった。二人で一つなら……少しの間くらい本当に一つになったっていいんじゃないかな?」 そうだよ、キスくらいなんて事無い……俺は少なくともそう思う。まだちょっと焦りすぎかもしれないけれど、俺は顔を近づけてそれを受け入れる意思表示をした。 「いい、のかな…?……いいんだよね。…うん、一つになろう?」 リリルと目があって――正面を見るには適していない目だから、少しわかりづらいけれどそう思っただけでどきりと心臓が高鳴ってしまう。 唇同士が重なると、リリルの唾液が口の中にわずかだが流れこんできて、食べ物の消化方法の違いもあるのだろう、全然違う匂いと違う味がした。そして、タイプの差なのか少しだけ冷たい。 口同士を合わせただけなのに、なんだか別世界へいったような気分で、それを言葉にするには自分の中ではちょっと難しい……なんだか、良かったなぁとしか言えない。 しかし、俺はこれがリリルと交わす最後の交流なのかな……と思うと無性に寂しく感じてしまう。 「これで終わりなのかな……」 俺の心の中身は、自然と口に出てしまった。リリルが首を傾げるまで、俺は口に出してしまったことを気が付けないでいた。 あ~あ、俺は何を言っているんだか。馬鹿だ俺は。わざわざ説明しなきゃならないじゃないか 「いや、その……キスだけがってわけじゃないけれどさ、これだけしかいい思い出って感じな物がないような気がしてさ……さっきは『これからも一緒に居たい』みたいなこと言っていたけれどさ……それでも、な?」 そんなことは無理だし……な。 「だから、これが最後の思い出になるのかと思うと少し寂しくって……」 だから記念に一発やら……ってどうしてこういう結論に達しちゃうんだよ。ああ、ダメダメ……相手はキリンリキだぞ? 「それだけ。ああ、気にしないでくれよ……これ以上望むことなんて、贅沢だし」 「…これが本当に最後に思い出になるんなら、やっぱり最高の思い出を作りたいよ。…でも、その……ごめん、よくわかんないや…」 よくわからない……か。まぁ、ある程度は予想していたが、本当に鈍い奴だ。 「ああ、もう……」 どう言えばいいのかなぁ……確かキリンリキは行為の前に…… 「ほら、あれだ……キリンリキの場合、男同士で首をぶつけあったりとかするだろ? ああやってその……強さを見せつけて異性を勝ち取ったりするわけだけれど……あの後にする……その……要するに……」 これじゃリリルは絶対に分からない……断言できる。 「ああ、もう!! 男の悲しい&ruby(さが){性};だよ。女の子を見ちゃうと、そう言う風にしか考えられないんだ……」 あぁ……本当に言っていて悲しい。なんだってんだよ……罰草100万本だぞ…… 「これで分かったろう……?」 これで分からなかったら……少し恨みたい。 「え?…えっと、つまり、その……」 わからない……みたいね。 「だから――だから、さっきキスしたじゃ……それで終わりなんじゃないの…?…そういう風に考えちゃうって、他に何か色々あるの…?」 お前はどれだけ鈍感なんだよぉっ、くそっ。俺だってこんな事は言いたくないっていうのに…… 「ああ、もう!! せっく」 セックス……じゃストレートすぎるし 「……せいこ」 性交……と言うのもなんだかなぁ 「……こ、こ、こ……交尾だよぉ」 ああ、結局どんな言い方をしたって恥ずかしいものは恥ずかしい。言葉選んでも意味なんてないじゃないか。 「ああ、もう……普通気づくだろうよぉ」 なんて……童貞の俺が言うのもどうかと思うけれど。なんどか行為を目撃してはああうらやましい――いつかは俺も……と思っていたものだから、リリルもそうかと……いや、やっぱり女は違うかもしれないが。 「で、どうなの? もう、ここまで言っちゃったんだから聞くことにするよ……結局のところ、俺とそう言うことするのはいいのか? ダメなら正直に言ってくれても構わないけれどさ……」 もう、なるようにれ。 【4】 「…それじゃあ、言葉に甘えて…その……断って、おこうかな」 そう、です、か。もう、なんだかリリルを置いて群れに帰りたくなってきた。偶然見かけた美人のあの子まだ生きているかなぁ……? 「あの、その…冗談のつもりだったんだけど……ごめん、ほんとにごめん。……私、トーチとそういうこと、したい…」 なんだ……よかった。まさかこいつからそういう意地悪を受けるなんて思わなかった……けれど、兎に角、リリルはいいって言ったよな? 「いいんだな……?」 だったらもう一回キスすることぐらいなんでもないはず……だから……もう一回良いよな? そんな風に、俺はただただ目の前の行為に夢中になって、それでもリリルのことはきちんと気遣えていた。そうだったと思うしそうであってほしい。だってリリルは、あんなにも幸せそうな顔をしているから。 ただし、リリルは俺の意を汲み取ってくれたことが一度もない気がする。『つながる』という言葉で、本番へ移行することも伝わらなければ、『俺のを舐めてくれ』と言ったら角を舐めてきたり。何だか不公平な気がしたのはきっと永遠に心の中に留めておくのだろう。 「トーチの体……すごく熱かったね」 幸せな顔というのは訂正。幸せそうな顔どころか、頭が少しおめでたい。 「それは炎タイプだからだよ……きっと」 ほら、そんなこと言われると俺は照れ隠しにそんな風にしか返せない。 「炎タイプでよかった」 だからお前は空気読め。また火力が上がったじゃないか……ほんとにこいつはどうしようもない。さて、ここからはこれからのお話を……しなきゃな。 「なんにせよ……さ。さっきの言葉が嘘じゃないなら……どちらかが、違う群れの中で暮らさなきゃならないんだよな?」 「うん…そういうことになるね――私がトーチの群れに入るよ。……今まで迷惑掛けてばっかりだったからさ」 ああ、やっぱりそういう単純な考え方で来ると思ったよ。 「ありがとう……俺に付き合ってくれるって言ってくれて」 ただこんな風に行為に甘えられたら、やっぱり不満そうな顔するよな……でもさ、まだ続きがあるから。 「けれどこれだけは言っておくよ。さっきも言ったように茨の道になると思うけれどさ……たとえばリリルの群れに俺一人で入ったら、リリル一人で俺の群れに入ったら多分乗り越えられないけど…… どちらも一人では生きていけないけれど、二人なら俺が茨を焼き払っていける。リリルが茨をサイコキネシスで避けられる……だから一緒に、乗り越えような。一人じゃないんだから。 俺が何としても守るから、これからも宜しくな、リリル」 これは、誰に対して言ったんだろうな。こんなセリフを言っても火柱が上がらないだなんて珍しい。あるいは、俺は自分に言っていたのかもしれないな。 どっちでもいい……こんな幸せな気分に水を差す考え事でしかないな。 「う、うんっ!」 さっき、瞼にたまっていた涙が消えたか……これがリリル。これがリリルの笑顔か……本当に可愛い。 「約束だよ、トーチ」 そう言ってリリルは俺に唇を近づけてきた。ずいぶん軽いキスだったけれど、その余韻は長く尾を引いた。 「ああ、約束だ」 リリルを隣に感じて、俺は雨が止んでいくのを黙って見続けた。さっきまで、寄り添い合うきっかけを作ってくれた雨がありがたかった。 歩き出すきっかけをくれる雨止みが嬉しかった。はは、なんて矛盾した考えなんだか……。 案外、この世界の何もかもが、今なら嬉しいのかもしれない。 翌日。そうして俺達は群れに戻る為に太陽の元で走り続けた。 「キリンリキの群れを過ぎてから結構時間もたったし……草の喰われ方や糞の様子からそろそろギャロップの群れに追いつくはずだ」 「私……受け入れてもらえるかなぁ?」 ――大丈夫、グラエナよりかは怖くないから ――そっか、私のアイデアと、トーチの力で何とかなるよね? ふふ……そりゃ、俺たち二人ならな。さて、なんて答えようか…… よし、決めた 「そうだな――」 ---- #pcomment(一人では生きていけない**共通コメログ)