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レモン哀歌 の変更点


#include(第三回短編小説大会情報窓,notitle) 
作者は[[私>チェック]]でした。


 緑の木々を縫うように駆け抜ける、二つの影。
 とっくに夜の帳は落ちていたが、それでも二人はまるで風のように笑いながら踊っていた。
 しかし、よくよく見ると片方の息が少し荒く乱れている。
 
「ほらほら~、速くしないと置いてくぞぉ」
「まってよぉ~…あなたに追いつける訳無いじゃん…」

 あはは、と再び二つの楽しそうな声が響く。
 このやり取りも、先ほどから数えて何度目だろうか。

「おっ、やっと頂上に着いたみたいだね。この山は意外と高かったからな」
「はぁ…はぁ…ホントに…うわぁ…綺麗な景色…」

 荒い息使いと共に、やっと彼の隣へと追いついた彼女。
 そんな彼女の思考を一目にして奪い去ったのは、一面に広がる夜景だった。
 夜空の星を地上へとふりまいた様な近代的なそれは、二人の故郷では決して見る事のできない美しさを有していた。
 
「この街でいっぱい稼いで、おまえには楽させてやるからな」
「ふふっ、ありがと。頼りにしてるわね」

 交差する視線。
 そこには確かな決意が煌いていた。

「…私さ、久しぶりにレモンが食べたくなっちゃった。あなたを見てるとさ、思い出すの。だってあの色も、口の中で弾ける味もあなたそっくりでしょ?だから、私レモンが大好きなんだ」
「じゃあ、僕は久しぶりに桜が見たくなってきたな。あのピンク色も、可愛らしいところもお前そっくりだろ?だから俺は桜の花が大好きだな」

 まるで、お互いの愛を確かめ合うかのようなコトバ。
 それをにっこりと微笑む事で受け止めあった。

「あなたといると、いつもこの身体に生まれてよかったと思うんだ。昔は、色がおかしいってよく言われたけどさ。あなたにそう言われると、自分が大好きになってくるの」
「ははっ、そう思ってもらえてこちらこそ嬉しいよ」

 と、もう一度だけ視線を交わした後、ゆっくりと顔を近付けあう。
 
 まるで、世界の全てが二人を祝福しているようだった。

#hr

 あれからしばらくの月日が経った。
 だいぶ都会の生活にも慣れ、すっかり生活も裕福になったのだが――

「けほっ、けほっ…ねぇ、そろそろ故郷に帰らない?大分お金も溜まったしさ…やっぱりこっちの空気は私の身体 には合わないみたい…」
「ごめん…あと、あと少しだけでさらに大きな収入があるんだ…だから、もうしばらく頑張ってくれ」
「そう、だったら――

 どさり、と音を立て、いきなり彼女の体が沈みこんだ。
 
「…っ!おいっ、おい、しっかりしろっ!おい――

#hr

 哀しみが二人を包み込む。

 とめどなく、視界を揺るがすそれを止める術は、僕には困難すぎた。
 ゆっくりと、それでも刻々と近づく彼女の最期。

 しかし、窓から降り注ぐ幾重もの光筋はそんな僕を嘲笑うかのように、この部屋を白い聖気で満たしていく。

 あぁ、どうして君は――

 うつろに淀む彼女の瞳は、先ほどから一定の間を持って揺れていた。
 ふと、そんな彼女と瞳が遭った。
 ひどく、ひどく苦しそうな瞳が、何かを僕に伝えようとしている。

「どうした?苦しいのかい?」

 弱々しく彼女はかぶりを振る。
 では、何を…?

 視線が逸れる。
 見つめるのは、僕の隣にある机――いや、その上にある果物籠か。
 あぁ、そうか。
 僕は全てを察する。
 ただ一言「はい」とだけ放つと――
 その前肢にレモンを差し出した。

 黄金に輝く、まるで宝石のようなその果実。
 天の恵みをいっぱいに取り込んだ君の好物。

   さぁ、お食べ。
 
 がりりと、力強く君は果汁を弾かせた。
 その一滴一滴は、一瞬君を正常へと導く。
 こんな君を見たのはいつ以来だろうか。

 再び青く澄んだその瞳は、優しく僕に微笑みかける。
 再び力を込めたその前肢は、僕の前肢を握り返してきた。
 なんて健康的なのだろうか。
 いまだ、その喉元に嵐は潜んではいるが。

 規則的に動いていたその胸も、次第にリズムを落としてゆく。
 そして、最期を迎えるその前、ゆっくりと瞳を閉じた。
 まるで、昔二人で登ったあの山頂での時のように大きく息を吸い込む君。

 結局、あの時の約束は果たせなかったけれど。
 それでも君は口を動かした。

      ありがとう――

 君の頬を伝う一筋の涙。
 それはまるで。

「うぁぁっ…うあぁぁぁぁぁっっっ…!!」

 あぁ、どうして君はそんなに美しいのか。
 あぁ、どうして君は僕を置いて逝ってしまうのか。
 あぁ、どうして僕は――君の頼みを聞いてやれなかったのか。
 あぁ、あの時、君が言った通りにもといた故郷へと帰っていれば。
 僕は君に負担をかけすぎたのだ。
 自責の念だけが、僕の心を支配する。
 
 心、こころ。

 一体それはなんなのだろう。
 痛くて、いたくて。
 そこには哀しみが頓挫している場合が多い。
 怒りや喜び、楽しみなどの感情なんて、ほんの一瞬でしかない。
 僕たち生き物は、常に哀しみの感情と隣り合わせで生きている。
 目標の不達成。
 自らの劣等感。
 孤独の認識。

 そして、死――

 しかし、心と言うものは異常なまでにその感情を嫌う。
 もう二度と傷つかぬようにと、そのために努力し、笑い、喜び、怒り、様々な物に隠れようとするのだ。
 逃げようとするのだ。
 だからこそ、僕たちを僕たちたらしめる、鎖のようなものなのだろう。
 しかし、やっぱり僕なんかにはその全てが分かるはずもなく――

 ぽっかりと開いた穴は、傷のようには治ってはくれない。
 考えても、考えても、かんがえてもかんがえてもかんがえても。

 やっぱり僕には分からないのだった。

#hr

 今日も僕は花瓶に挿した桜の陰に、レモンを飾ろう。
 だって、いつも君に笑ってて欲しいから。

 今日はまるで、あの日のように暖かな陽溜りだった。

 いつもと変わらぬその部屋には、写真に微笑むサンダースと――

                  ――常に微笑み返すシャワーズが居た。


~あとがき~

先日、16年連れ添ったかけがえのない相棒が旅立ちました。
あの子、犬のくせに何故かレモンが好きだったんですよ。
まぁ、果汁30%のジュースですけどね(笑
そんなこともあってか、私は高村光太郎さんの『レモン哀歌』が大好きでして・・・
だからこそ、何か形を残そうとこの作品を書かせていただきました。
まぁ、どうせパロですが。
ですので、テーマである『心』との関連はほぼ無理矢理です・・・
いやぁ、なので1票貰った時にはビックリしましたね。
なんか見に覚えのない修正で1割削れてますが・・・誰です?いじったの。
まぁなんにせよ、1票くださった方、並びに読んでくださった皆さんーー
   ーー本当にありがとうございました!

これからも、どんどん頑張って行きたいと思います!


#pcomment
IP:113.20.237.98 TIME:"2013-03-21 (木) 13:33:11" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Nintendo 3DS; U; ; ja) Version/1.7498.JP"

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