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マーキング の変更点


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 キスの日だよ。
 キスする部位にはちゃんと意味があるので興味を持ったなら調べてみてね。

* マーキング[#E5000B]


『衝動的になってはいけない』

 それは僕の一族、または種族における古い記憶にして戒めでもある一つの教え。
 個体によっては信仰にも近く呪いにも似たしがらみとも言える。
 それを種族特性だと人間の学者達は決めつけるが、そんな簡単に分類されてしかるべき問題なのだろうかともつくづく疑問に思う。
 エージェントポケモン──それが僕等一族に冠された名前。
 だが果たして僕はその名に相応しい存在なのだろうか。
 衝動的になってしまわない様厳しい教育を経てきたからこそ今の僕があるとはいえ、それでもやはり欲望に負ける時は負けるし、溺れる時は溺れてしまうものだ。
 膝元で背中を預ける人兎を抱え、重ねた掌を包みつつ指先で押し出された彼女の爪の具合を見る。
 猫の爪の様に尖った切っ先を固定して尾先をあてがう。軽く軋む音を経て爪先が切り飛び、古い殻は何処へともなく飛散していく。
 その行為を後数回、彼女の爪の分繰り返す。
 行為の最中に彼女は僕へ語り掛けたりはせず、借りた猫の如く大人しく行く末を見守っている。
 僕としても彼女を深爪させてしまわないよう最新の注意を払うべく集中したい場面ではあるので、そうした細やかな協力はありがたいところである。
 通常人兎の爪はここまで鋭利にはならず、精々土を掘るのに適した太さを有する。
 彼女の爪がそうでないのは彼女の中に流れる血の記憶がそう作り替えてしまったからだと人間の学者が言っていた。
 殆どは母親の遺伝を強く受け継ぐ一方で稀にそうはならない個体がいる。
 彼女は父親の血を色濃く受け継いだ。曰く雷の如く厳しい猫だったそうで、雷が天敵の僕としてはなるべく出会したくない畏怖の存在だ。
 彼女が物心のつく年頃に急にふらりと何処かへ消え、そのまま帰ってこないまま成獣して今に至る。
 父親の事は嫌いではないし今も父親から学んだ生き方を彼女なりに模倣して生きてきたらしいが、僕に出会うまでは無用な流血沙汰が少なくはなかったらしい。
 触れるもの全てを傷つける爪はジレンマを孕みながら彼女の悩みを吸って肥大化していく。
 やがて古い脱け殻は痒みを伴い、彼女は時期が訪れる度に爪を齧る。
 その様子が堪らなく美しく、所作の一から十までを飽きる事なく眺める僕は宛ら変態とも言える存在だったかもしれない。
 実際姿を隠して真正面から彼女を眺めているのだ。
 興奮で荒くなる呼気を抑えるべく両手で口許を塞ぐ僕へ、ある時彼女が独り言を漏らした。
 語り掛ける様に流れる旋律は挑発の様に僕を惑わせ、僕の心音を彼女の鋭い聴覚器官へと詳らかにさせていく。
 邂逅。閉口。
 心音。深淵。
 陽が傾く時が過ぎても尚、僕を見据える双眸の陽は闇を凝らして煌々と輝き、瞳に映る双月が引力を伴って牽かれていく。
 重なり合うのは時間の問題だった。
 彼女の爪先が僕の首元を優しく抱き抱える。触れた爪先を鱗ごと貫いて。
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 濃密な夜の邂逅が記憶の片隅でちらつく。
 彼女の爪の処理をする度にそれは劣情を伴って僕を僕でなくさせていく。
 彼女の爪を切る事は僕が彼女を抱く上で不都合の展開を潰す儀式でもあり、とどのつまり僕と言う武器を喪わせる儀式でもあるのだ。
 衝動的になってはいけない。
 いったい誰がそんな教えを決めつけたのか。
 自己の存在を否定し合う一匹と一羽が儀式を終えて直ぐ様に抱き合うその姿を父祖は嘆くかもしれない。
 一族の恥さらしと罵るかもしれない。
 だが自分の心には嘘をつけない。彼女を自分のものにしたいと願ったその時から、僕と言う存在は死に、古い殻を脱ぎ捨て新たな僕が生まれる。
 欲望の限りを尽くし、自身を偽らない剥き出しの刃物が彼女を、血を求める。
 対面の瞳は陽よりも濃く染まり、血塗れた情欲を僕へと流し込む。
 既に下腹部は焼けた太陽の坩堝に呑まれ、沸騰した血液が全身を駆け巡り、滑る呼気を人兎に吹き掛ける。
 首元に宛がわれた爪先が食い込む。鋭利さを失った爪先にも拘わらず鈍い痛みが古傷を通して脳を焼く。
 痛みに喘ぐのか、快楽に鬩ぐのか、綯交ぜの濁流が目から零れる。
 ぬるり、と彼女の舌が雫をこそげ取る。
 それだけで僕の自尊心が果てた。始まってからまだ数分とも経たず、彼女に血を奪われていく。
 襲い来る衝動に抗えず彼女の胸に鼻先を押し付ける。
 柔らかな陽の匂いに隠避な雌の匂いが鼻腔に絡み付く。
 知らず知らずの内に付着する猫の抜毛の如く、鼻腔が彼女で充たされ萎えを忘れさせる。
 耳元で彼女が囀ずった。甘く、堕落する旋律に絆され、肯定の意を含めた傅きを彼女の胸毛の更なる奥に埋める。
 刹那、古傷が抉られた。
 脳髄に走る電流は彼女の血に備わった能力か。古傷を噛む彼女の反芻に連動して下腹部の感度も狂っていく。
 餓えた猛獣に補食される。
 猛獣は果たしてどちらだったのか。
 血を貪り合う自堕落に僕は、僕等は。
 ただただ溺れていく。
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 後書

 インエス……インエス?
 インエスだと思う。多分ね?
 夕方お風呂入ってたら突然神様がこれ書いてってネタ置いていったので早速私は筆を執った。

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