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クラーク卿殺人事件 下 の変更点


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*7 吟味 [#n6fd089e]
 クラーク邸に戻ってきた1人と2体は、お決まりのように玄関でタカナシに迎えられた。人数分の飲み物を頼んだ後、再びアシルの部屋へ行った。その途中、クラーク卿の書斎を調査していた警官が、ファイト警視に現場検証の記録を渡した。その中に、クラーク卿の書斎とその他の部屋の間取りが書かれた図面が入っていた。
#ref(クラーク邸見取り図.png,left,nowrap,クラーク邸見取り図)
 他には、遺体や書斎のあらゆる角度からの写真、凶器となった鋏の写真、クラーク邸内の人々の指紋などが入っていた。
 部屋に入ると、ファイト警視は目を通し始めた。聴取記録と照らし合わせ、何か手掛かりはないかと、写真1つ1つをじっくり見ていた。その途中ノックがしたので、アシルが応じる。
「タカナシさん、ありがとうございます。あ、ついでにお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
 アシルは言うと、タカナシを部屋に引き入れた。持っているお盆には、コップが2つと、大きめの深皿が1つ乗っていた。それぞれを、アシル、ファイト警視、レジェンに配る。その後、若干迷惑そうな顔をしているタカナシに、アシルは写真の中から1枚引き抜いて見せた。
「これに、見覚えはありませんか?」
 タカナシは目を近づけた。それは、クラーク卿の殺害に使われた鋏の写真だった。数秒も経たずしてタカナシは目を離し、口を開く。
「これは、フランクリン様の鋏です」
「フランクリンさんといえば、クラーク卿の三男の方ですね。その方のもので間違いないのでしょうか?」
 アシルの問いに、タカナシは、写真の一点を指差す。血にまみれて見えにくいが、若干の傷のようなものがあった。
「これは、フランクリン様のお名前です。クラーク様に鋏を買ってもらった際、フランクリン様は刃にご自分の名前を刻みこまれました。それを、嬉しそうに私に見せてくださったのです。どこかで見た鋏だとは思っていましたが、これだったのですね」
 タカナシは淡々と言う。しかし、その顔は、ほんの少しだけ青ざめているようだった。
「これは、クラーク卿の部屋にあるものなのでしょうか?」
「いいえ。フランクリン様のお部屋にあるものです。昨日、夕方頃に清掃に行った時には、フランクリン様の机の引き出しにありました」
 タカナシの答えに、アシルは頷く。ファイト警視に目配せし、タカナシに目を向けた。
「タカナシさん。これからフランクリンさんの部屋へ行くのですが、一緒に来てらえませんか?」
 アシルの頼みに、タカナシは黙って頷いた。本当は嫌そうだったが、仕方がないと思ったようだった。
 タカナシが戸に手をかけると、ファイト警視もアシルの後ろについた。深皿の飲み物を舐めていたレジェンも、はっとして一行に目を向けた。
「おっと、レジェンさん。あなたは残ってもらえますか?」
 アシルが引き止めた。レジェンは驚いて、深皿をひっくり返しそうになった。
「え、なんでですか?」
「あなたには、聴取記録等、ここにある記録を見て、考えてもらいたいのです。データは充実しているとはいえませんが、あなたの脳みそで、1つの考えを出して頂きたいのです。よろしいですね?」
 アシルの提案に、レジェンは曖昧に頷いた。その結果、タカナシ、アシル、ファイト警視が、部屋から出て行くことになった。
 タカナシにつれられて、一行はクラーク邸から出る。すぐ右に向かって歩くが、ここには重さに非常に敏感な砂利が敷き詰められていて、ちょっと踏むだけで、大勢がいるような大きな音が響いた。
「なるほど。ここにはあまり来たことはありませんでしたが、これ程までに大きな音が鳴りますか」
 アシルは、足をそっと踏み出してみる。しかし、どれだけゆっくり下ろしても、地面に付くだけで大きな音が響いた。
 まるで、重機でも通っているかのような音量を響かせながらしばらく歩くと、音に気付いたのか、大きな窓の1つが開いた。
「あれ? アシルにタカナシか。どうしたんだい?」
 出てきたのはマシューだった。少し驚いたように、きょとんとした目で一行を見ていた。アシルは足を止める。
「おや、マシューさん。部屋に帰られていたのですか?」
「ああ。大広間にいても、暗くなるだけだし、なにより、ルクシアも元気がないからさ。アルフレッドとアイリーンも、部屋にいるよ」
「そうでしたか」
 アシルは周囲を見渡した。辺り一面、ムラ無く砂利が敷かれている。大きな音を響かせながら、アシルはマシューに近づいた。
「マシューさん。これ程大きな音が鳴ると、当然気付きますよね?」
「え? ああ。今だって、こうやって気付いているし」
「そうでしょうとも」
 アシルは頷き、窓から部屋を覗き込んだ。机やタンス、ベッドなどが置かれていて、質素な内装だった。しかし、エアコン以外の家電は一切無かった。部屋の隅に置かれた椅子に、ルクシアが元気無く座っていた。
 アシルはカーテンを見た。今は巻かれているそれは、それなりに厚手のものだった。
「このカーテンですが。仮に閉まっていたとして、誰かが通った際、やはり気付きますか?」
「いや、気付かないと思う……。というか、カーテンが閉まってても音で気付くよ」
「そうですか。ところで、本日はわたし達以外、誰か通りましたか? 例えば、クラーク卿が殺害される前とか?」
「え……? えと、その……。と、通らなかった。うん、通らなかった」
 マシューは歯に物が挟まったように言いよどむ。頬を薬指で掻きつつも、アシルと目が合わない。ルクシアを見ると、心なしか、更に元気がないように見えたのだった。
「そうですか。分かりました」
 アシルは頷き、窓から離れる。待っていたタカナシとファイト警視に目配せし、先に進んだ。
 フランクリンの部屋になっている離れは、他の3人の部屋より少し大きかった。まるで突き放され、ぽつんと建っているようなそれは、敷き詰められた石の中で異質に際立っていた。
 タカナシが部屋の前へ行くが、アシルは通り過ぎる。大きな砂利音をを鳴らしながら、アシルは裏を覗き込んだ。裏には砂利は無く、草1つ生えていない硬そうな地面があるのだった。アシルは小さく頷き、踵を返した。
 タカナシは、特に前振りもなく開けた。鍵穴は無く、誰でも自由に出入りできるようだった。
 中は、きれいと言うか、物が少ないという印象だった。アシルの部屋と同じくらいの家具しかなく、学生の頃に使っていたであろう、大きな学習机が1つ、奥に居座っていた。
 タカナシは進み出、机の1番上の引き出しを開けた。そこには、使用形跡のある多種多様な文房具が整然と並んでいた。その中に、何かが入っていたような、大きなスペースがあった。
「昨日、この部屋を片付けた際、引き出しの中も整理いたしました。その際、あの鋏も、確かにありました」
「そうですか。掃除の際、他に触った箇所はありますか?」
「この部屋はあらかた触りました」
「ふむ」
 アシルは頷き、ファイト警視に目を向けた。ファイト警視は努めて無表情にしていたが、苦々しさがにじみ出ていた。
「ありがとうございます、タカナシさん。お邪魔しましたね。お仕事に戻ってください」
  ◇
 アシルの部屋では、レジェンが調査記録等とにらめっこしていた。時折首を後ろ足で掻きながら、穴が空くほど見ていた。
 戸が開き、アシルとファイト警視が戻ってくる。レジェンは、助けを請うような目で両者を見た。
「どうでしたか?」
 アシルが聞く。レジェンは大げさに首を振る。
「だめですよ。そもそも、何をどう考えていいのかも……」
 アシルは頷いた。前に進み出、レジェンの前に座り込んだ。
「では、わたし達が先程見てきたことをお教えしましょう」
 アシルは言うと、その一部始終を語り始めた。ファイト警視も続いて座り、最早冷たくなった飲み物を飲むのだった。
「こういったところです」
アシルが話す間も、レジェンは考え込んでいた。しかし、苦い顔で首を傾げるばかりだった。
 アシルが話す間も、レジェンは考え込んでいた。しかし、苦い顔で首を傾げるばかりだった。
「今回得られた情報で、2つの事実があります。1つは、殺人犯が、フランクリンさんの部屋へ鋏を取りに行ったということ。もう1つは、砂利道を誰かが通る音を、マシューさんが聞いていないということです。この2つの事実は、完全に矛盾しています」
 アシルは目を閉じた。額の黒真珠が、緑に輝き始めた。
「矛盾って……ここを通ったんじゃないですか?」
 レジェンは前足を図に置いた。クラーク邸の裏、ちょうどスペースが空いている場所だった。
「なぜですか?」
 アシルは目を閉じたまま聞く。
「なぜって……表を通ったら、砂利が音を出してしまうじゃないですか」
 レジェンは当然と言うように答えるが、アシルは小さく首を振った。
「それは違いますよ。レジェンさん、殺人者がフランクリンさんの部屋へ行くなら、裏道を通るはずはないのです。そもそも、なぜフランクリンさんの部屋に鋏を取りに行ったのか? 別にこんな場所へ凶器を調達にいかなくても、他にいくらでも場所はあります。この邸内でも、そして敷地外でも、用意できる時間と余裕は、いくらでもありました。にもかかわらず、わざわざ裏道を通ってまで、フランクリンさんの部屋へ行くと言うのですか? それは不自然です。フランクリンさんの部屋へ行くならば、裏道を通る理由はありません。裏道を通るくらいならば、幾らでも他の手段はあります。つまり、フランクリンさんの部屋へ行く必要性があったならば、表道を通るはずなのですよ」
 アシルは語る。しかし、レジェンは納得しがたいようだった。
「ええと……フランクリンさんに罪を被せようとした、とか」
「あなた達警察は、凶器に人名が彫ってあったら、その人物が殺人者であると断定するのですか?」
「うう……」
 レジェンはうなだれた。アシルに打ちのめされ、大きな尻尾も元気なく垂れ下がっていた。
「フランクリンさんの部屋へ行き、フランクリンさんの鋏を使った。それには必ず、理由があります。使わなければならなかった理由。使わざるを得なかった理由。使うことしかありえなかった理由。その必然性とは?」
 アシルは誰ともなく問う。冷たくなった飲み物を口に含み、少し顔が震える。額の黒真珠は、色濃い緑に輝いていた。
「まあ、これらの空論も、マシューさんの問題をどうにかしなければ何にもならないのですが、これには既に解答が得られています」
「え!?」
 思わずレジェンは顔を上げる。ファイト警視も空になったコップを置き、顔を向けた。
「解答……どのようなものですかな?」
 ファイト警視が聞く。
「ここでは、答えられません。そもそも、事件には関係ないことですし、何より彼らの名誉に関わる事だからです。簡単に言うならば、マシューさんは、通ったことに気付かなかったのです」
 アシルの答えに、ファイト警視は大いに首を傾げた。一方で、レジェンは反論した。
「気付かなかったって……大きな音が鳴る砂利が敷いてあるんですよね? なんで気付か	なかったんですか?」
「答えられません。先程も言ったとおり、事件には無関係です。本来、気付くべきもの、気付いて当然のことに気付かなかった。だから、マシューさんは、通らなかったと言ったのです。気付かなかったといえば、気付かなかった理由を言わなければならない。わたしが突然聞きましたからね。眠っていたとも言えなかったのでしょう」
 アシルは言葉を濁して言う。アシルのはっきりしない物言いに、レジェンはやきもきしているようだった。ファイト警視もまた、諦めたように首を振る。
「この言い方……昔を思い出しますな。思わせぶりで、はっきりと言わない、嫌らしい物言い。あなたの師匠と同じです」
 ファイト警視は無表情だった。しかし、いまいましさがにじみ出ているようだった。ファイト警視はレジェンに目を向け、次にアシルを見た。
「さて、アシルさん。そろそろ捜査会議の時間です。調査したことを報告しにいかなくてはなりません。失礼します」
 ファイト警視は頭を下げた。レジェンも慌てて頭を下げ、出て行こうとするファイト警視についていくのだった。
 部屋にはアシルだけが残った。彼は安楽椅子に移動し、ゆっくり揺られながら思考する。額の黒真珠は、やはり妖しく緑に輝いているのだった。
*8 会話 [#t3faa1de]
 アシルは、アルフレッドの部屋の前にいた。部屋に戻っていると聞いたので、出向いてきたのだった。アシルは小さく咳払いをし、ノックした。
 時間をおかず、アルフレッドが出てきた。アルフレッドは軽く驚いたようだった。
「軽くお話をと思いまして」
「あの刑事から調査を依頼されたのか?」
「いいえ、滅相もありません。こちらからお願いしたのです。と言いましても、今回はそういったお話はしません。わたしはブーピッグ、心を操る者、心を知る者として、皆さんの心のケアに回っているのです。なので、軽く雑談をと思いまして」
「ケア、か。なんか、胡散臭いセールスマンみたいな口上だな」
 アルフレッドは、アシルに入るように促した。アシルは一礼し、ステッキを突きながら静々と入っていった。
 アルフレッドの部屋は、散らかってはいないが、マシューやフランクリンの部屋より遥かに物が多かった。テーブルは、1人で使うには非常に大きく、非実用的にさえ見える。その周囲には、大きなソファーが4つ置かれている。壁には所狭しと、色々な会社の業績を示したグラフが貼られている。本棚がないため、床には無数の本が積まれていた。テレビは、50インチ程ありそうな大きなもので、その両端に、これまた巨大なスピーカーが設置されていた。パソコンもまた、32インチ程の大きなもので、本体には、付けたしのメモリが搭載されている。
 アルフレッドは、窓際にある紐を引いた。ベルの音が鳴り響き、数秒程して、ノックと共にタカナシが入ってきた。
「お茶を頼めるか。アシルはお茶苦手だっけな。2つのうち1つは……コーヒーだぞ」
「かしこまりました」
 タカナシは一礼し、部屋を出て行く。両者は、互いに向かい合う形で座った。
「事件の話はしない……ということだが、実を言うと気になってるんだよな。ちょっとだけでも教えてくれないか?」
 アルフレッドは切り出す。アシルは微笑み、口を開く。
「良いでしょう。1つだけ、お教えしましょう。凶器は、フランクリンさんの物でした」
 アシルの言葉に、アルフレッドは俯く。何か、考え込んでいるようだった。アシルは部屋を見渡し、色々と見ているようだった。
「とても物が多いようですが、これは、ご自分で買われたのですか?」
 突然聞かれたからか、アルフレッドは怯んでしまう。頬を薬指で掻きながら、口を開く。
「いや。学校に行ってた時、父さんが買ってくれたんだ。別に頼んでもないのに、次から次と買うもんだから、逆に参ったよ。あ、この壁のは、おれが自分で貼ったものだ。経済学を専攻していたから、参考にと思ってな」
「なるほど。しかし、持て余してはいないようで」
「まあな。いらないなんて言えなかったし、なんとかして使ったな。フランクリンに買ってあげたら良かったんだが、父さん全然買わなかったな」
「買わなかった? なぜでしょうか?」
「ほら、4番目だろ? 嫌いじゃなかったみたいなんだが、しょっちゅう忘れてたみたいなんだ。存在が薄い、とでもいうのか。あまりにひどかったから、1度母さんが怒ったことがあったんだ。それで誕生会を開くことにしたんだが、その日フランクリンは部活の遠征だったんだ。その後も、父さんの仕事やらなんやらで、結局お流れになったんだ」
「ほう」
 話の切れ目に、タカナシがノックと共に入ってくる。一礼しながら、2つのコップを置いて去っていった。
「一体、フランクリンさんは、どのようなお気持ちだったのでしょうか」
「さあな。部屋が遠いからまともにいけないし、あいつ自身、家族と全然話さない。朝飯食って、学校行って、帰ってきて、夜飯食って、部屋に帰る。いつもそうだったな。ただ、なんとも思ってなかったことはないと思う。誕生会を開くって言った時のあいつの顔、本当に嬉しそうだったからな。お流れになった時は、本当に悲惨だったな。学校休まなかったあいつが、1ヶ月無断欠席だ。部屋から一歩も出なかったな。タカナシが毎日、部屋まで飯を届けてたな。トイレの時なんか、わざわざ公衆トイレまで行ってたみたいだ。結局、おれが学校を出る前に、あいつはここを出て行ったよ」
「クラーク卿にもっと構って欲しかった。愛して欲しかったのでしょうか」
「だろうな。いや、父さんはフランクリンを愛してた。でも、それが表に出てなかったんだ。おれやアイリーン、マシューにはちゃんと出てたのに。まあ、マシューでもぎりぎりだったけどな」
 アルフレッドは溜め息をつく。アシルは目を閉じ、考えているようだった。コーヒーを口に含み、目を開く。そして、立ち上がる。
「それでは、失礼します」
「え?」
 あまりに早い会話の終わりに、アルフレッドの声は裏返る。
「まだ回らなければならないところがありますので」
「そ、そうか。別に、心のケアにはなってないが……気晴らしにはなった。ありがとう」
 アシルは頭を下げ、足早に出て行った。
 次にアシルは、数歩先のアイリーンの部屋の前に行った。同じようにノックし、返事を待つ。
 少し時間が空き、アイリーンが出てくる。消沈していて、今にも倒れそうだった。
「アシル? どうしたの?」
「いえ。ただ、気晴らし程度にちょっとお話をと思いまして」
「あら、そう。入って」
 アシルは頭を下げ、中に入った。
 アルフレッドの部屋と比べると、物は多めだが片付けられた部屋だった。箪笥がいくつも壁際にあり、角の箪笥など、多すぎるほどの引き出しがあるのだった。鏡台にコート掛け、テレビはアルフレッドの物よりは小さかった。テーブルはなく、大きなソファーが1つあった。
「あら、アシルさん」
 ふわふわ浮いていたサリサは、嬉しそうにアシルを迎える。アイリーンに促され、アシルはソファーに座る。少し離れて、アイリーンも座った。
「まだ、実感が湧かないの。父さんがいなくなったなんて。あまりに突然だったから……」
「家族というものは、当たり前のように接し、当然のように存在するもの。突然いなくなったといわれて、はいそうですかと納得するほうが難しいですよ」
 アイリーンの話に、アシルは答えていく。
「そうね。あたくしも、母さまが亡くなったとき、一週間はふさぎこんじゃったもの」
 サリサも話に入ってくる。
「サリサの母さんって……ムウマージ?」
 アイリーンが聞く。
「ええ。まだ、あなたと会ってない頃よ。その頃、父さまも既にいなくてね――母さまは逃げたって言ってたけど――あたくしと弟だけになってしまったの。あたくし、ずっと泣いててね。ずっと、弟が木の実を持って来てくれてたわ。あの子ったら、母さまがいた頃は泣き虫の甘えん坊だったのに、急にしっかりものになっちゃって。いつも励まされてたわ。それに惹かれて、一線を越えてしまったのかしら。……あら、今のは聞かなかったことにしてくださる? ふふふ」
 サリサは笑ってごまかす。アシルは微笑んでいるが、アイリーンは微妙な表情だった。
「弟さんは今どうされているのですか?」
 アシルが聞く。サリサは笑ったまま答える。
「元いた場所で野生として暮らしてるわ。可愛いランクルスをお嫁さんにもらっちゃって、円満な家庭を築いてるわ。あたくしも、年も年だし、早く番いたいんだけど……。アシルさん、いいご縁はないかしら?」
「申し訳ありませんが、紹介できる男性はいませんね」
「あら、そう。アシルさんみたいな可愛い子どもを、早くもうけたいんだけど」
「あなたの子どもさんなら、さぞかし可愛らしいことでしょう。頑張ってくださいな」
「ふふふ、ええ」
 2体が話す中、ポケモン同士の会話を、アイリーンは曖昧な表情で聞いていた。置いてきぼりになっていたことに気づいたアシルは、軽く頭を下げた。
「アイリーンさん、申し訳ありません。会話が弾むもので……」
「いえ、いいのよアシル。ポケモン同士だもの、当然じゃない。あたしも、楽しく聞くことができたわ」
 薬指で頬を掻きつつ、アイリーンは答えた。
 アシルは壁に掛かっている時計を見た。既に日は暮れかけ、調理室からは忙しそうな音が微かに聞こえてくる、そんな時間だった。
「そろそろ夕食時ですね。少し早いですが、失礼します」
 アシルは頭を下げ、足早に去っていく。アイリーンとサリサは、ぽかんとしてそれを見ているのだった。
 廊下に出ると、見慣れた後ろ姿が見えた。白いスカーフのようなきれいな体毛が、きらきら輝きながら、ちょこちょこ歩いている。アルフレッドの部屋から出たばかりであろうその小さな背中は、お盆を持って一歩一歩進んでいた。
「テリィ」
 アシルは呼びかけた。テリィが停止して後ろを向く前に、アシルは自分から前に行った。
「お父様、なんでしょうか?」
「もうすぐ夕食だと思うのですが、わたしとキースさんは少し遅れます。その事を、タカナシさんにも伝えておいてください。それと、キースさんとお話をするので、あなた達の部屋に入ります。よろしいですね?」
「はい、いいですわ。でも、キースさんには気を使ってくださいね? キースさん、相当心が乱れておいでですから」
「分かりました」
 アシルは一礼し、先に歩いていった。
 調理室、自分の部屋を通り過ぎ、アシルの部屋の隣に来る。アシルは軽くノックした。
 数秒後、かなり重く戸は開けられる。その向こうには、沈んだキースがいた。
「アシル君?」
「キースさん。少し、お話をしませんか?」
 キースは答えなかった。黙って部屋の中に引っ込み、戸を閉めることもない。アシルは了承と解釈し、入っていくのだった。
 部屋には、タンスが1つに、いくつかの椅子、小さな勉強机、ベッド、ミシンなどがあった。割と物は少ないが、勉強机の上にある本は、おびただしい量だった。全てに読まれた形跡があり、無数のしおりが挟まっている。参考書や問題集などがほとんどだった。
「この机はテリィですね。仕事の合間を縫って、これほどまでに勉強しているとは……。国語、数学、歴史、地理、公民、物理、ポケモン、諸外国語……。それから、家政婦学、心理学、倫理、戦闘論理まで……。勉強していることは知っていましたが、これほどまでとは……」
「うん。テリィちゃんはしっかりしてるよ。これ、全部自分で買ったんだよ?」
 アシルが感嘆している横に、キースが来る。ゴミ箱の中には、シャーペンの芯の空が、数え切れない量入っていた。
「これ、週に1回は捨ててるんだよ。それでも、こんなに溜まってくるんだ。もらった給料のほとんどは、勉強に使ってる。健気な子だよ」
 アシルは椅子の1つに座った。キースはアシルの前に浮き、沈んだ顔のままだった。
「落ち着きましたか?」
 アシルが聞く。キースは顔をしかめながらも、ゆっくり頷く。
「本当は、ボクが一番しっかりして、みんなを引っ張らなくちゃいけないのに。カーマイクルが見つかった時も、警察の前でも、取り乱しちゃってさ。なんだか、年長者失格だなって思うよ」
「そんなことはありません。年長者だからといって、変に気を張るほうが、体に毒ですよ。たとえ鋼タイプでも、精神に毒は発生するのです。それならば、一時でも、感情を爆発させたほうがいいのですよ」
「そうかな。他のみんなは、ボクみたいに取り乱さなかった。強い心を持ってるなって思ったよ。まあ、ルクシアちゃんは仕方ないとして」
「ルクシアさんには刺激が強すぎました。ああなることが予想できたからこそ、わたしはテリィに見ないよう言ったのです。まだ、それほどの精神を持っているとは思えませんでしたから。精神という面に関しては、キースさんも同様です。あまり強くはない。しかし、それが悪いということではありませんので、勘違いなさらぬようお願いします」
 アシルは励ますが、キースは顔を上げない。よく見ると、キースの鍵輪に鍵が通っていなかった。アシルが部屋を見渡すと、キースが寝床にしている鍵箱に掛かっていたのだった。
「ああ、鍵かい? もう使うこともないと思ってさ。あそこに掛けてあるんだ。うっかりカーマイクルの部屋に落としちゃったから、捜査員の目をかいくぐって持ってくるの、大変だったよ。連中、証拠だのなんだのかんだのあれこれ口実つけて持っていこうとするからさ。ボクの思い出を持っていかせるわけにはいかなかったからね」
 キースは溜め息をつく。
「キースさんは……殺人者を知りたいと思いますか?」
 唐突にアシルは聞いた。キースは驚いてアシルに目を向ける。しかし、その目には、悲しさが混じっていた。
「正直、分からない。分かったって、カーマイクルが戻ってくるわけじゃないし。それに……なんだか、怖いんだ」
「怖い、とは?」
「いや。もし、なんだけどさ。カーマイクルの子供達がやったんだとしたら……。それを考えると、知りたくないって思うこともあるんだ。……いや、ひょっとすると、ボクはもう分かってるのかもしれない。分かってるのに、分かってないふりをして、自分に暗示をかけてるのかもしれない。本当のことを知るのが、怖くて、恐ろしくて……」
 キースは震えていた。その肌の質感でも分かるほど、大きく震えていた。
 アシルは目を閉じていた。額の黒真珠は、輝かんばかりの緑にきらめいていた。
「キースさん。わたしは過去に、いくつもの事件に立ち会いました。その度に得られる真相は、望んだものもあれば、決して望んでいないものもありました。そして、それらに共通していたのは、望む望まないに関わらず、きちんとした道理、合理があったことです。殺人が行われるのには、理由があります。それらを、わたし達は重く受け止めなくてはなりません。キースさん、逃げてはなりません。きちんと、その寛大な心で、受け止めるのです」
 アシルは語った。キースは浮かないながらも、その目をアシルに向けた。アシルの目は大きく見開かれ、キースを凝視していた。
「そうだね……。うん、そうだね。ごめん。アシル君の言うとおりだ。望んでても望んでなくても、受け止めなきゃね。……それにしても、ボクは何を知ってるんだろ。何か分かってる気がするんだけど……」
「キースさん。無理に思い出さなくても良いのですよ。キースさんの心の準備ができたとき、それは自然と思い出すでしょう。未だ準備ができていないため、無意識の内に記憶が閉ざされているのです。ゆっくりと、時間をかけて、心をほぐしていくのですよ」
「……うん。分かったよ」
 キースの顔に笑みが浮かぶ。アシルは大きく頷き、立ち上がった。
「さて、キースさん。そろそろ夕ご飯の時間です。わたし達だけが時間に遅れているでしょうから、早く行きましょう」
「え? あ、そうだね。うん、行こうか」
 アシルとキースは、そろって進んだ。やはり、彼の黒真珠は、緑に輝いているのだった。
*9 集合 [#n42cb8bb]
 翌日。朝早く呼び鈴が鳴り、重いノックがアシルの部屋に響いた。
 朝食を食べ終わったばかりでくつろいでいたアシルは、安楽椅子から降りて戸を開けに行く。
「どうも」
「おや。おはようございます」
 立っていたのはレジェンだった。眠そうな顔で目がとろけていて、少し不機嫌そうだった。
「調査の続きですかな? ところで、ファイト警視は?」
「ファイト警視は捜査から外されました。どこかの誰かさんに情報漏らしたことがばれたらしいですよ。大丈夫だって言ってたのに」
「おやおや、そうですか」
 アシルは白々しく答えながら、レジェンを部屋へ入れる。昨日いたこの部屋に慣れたのか、レジェンはすぐに体を床に下ろした。
「んで、捜査ついでに、こっちの情報流してこいって言われました」
「そうでしたか。ごくろうさまです」
 やさぐれた様子のレジェンは溜め息をつくと、鞄を口で器用に開き、中のファイルを投げつけるように置いた。
「密室だったということで、こっちでは自殺の線も考えました。そこで、指紋を調べてみたのですが、付いていたのは1人の人物のものだけでした。照合した結果、フランクリンさんの部屋にあったものでした。手袋痕も見られず、限りなく最近素手で触られたようです。こっちでも何かのトリックかと疑われたので、窓枠や内鍵などを調べたんですが、糸の跡などは見つかりませんでした。というか、窓の方は周囲に埃が堆積してて、しばらく開けた様子はありませんでした。また、被害者の爪などには抵抗の後が一切なく、かなり近しい者の犯行と思われます。そこで、フランクリン・クラークを現在重要参考人として追っているのですが、所在が掴めません。住民票で表記している住所にもここ最近帰っていないようです。あと数日で、情報公開に踏み切ります」
 レジェンは話し終わり、大きく溜め息をつく。アシルはファイルをめくり、頷いていた。
「ご苦労様です、レジェンさん。これからどうしますか?」
「どうするって……。帰っても気まずいし、調査しようにも、どうすればいいのか分からないし……」
 レジェンは頭をべったり床に付けて言う。アシルはファイルを閉じ、レジェンに差し出した。
「では、わたしと共に行動しませんか? わたしはあなたに、真実を見せられると思いますが」
「え?」
 レジェンは素っ頓狂な声を出した。思わず体を起こし、アシルを凝視していた。
「わたしも確信があるわけではないのですが、そう遠くない未来に、あなたに真相を届けられる気がするのです。これはあくまでも予感なのですが、ね。それに、事件初心者であるあなたにとって、よい刺激になると思うのです。いかがでしょう?」
 アシルは意味ありげに笑っていた。レジェンは眉をしかめながらも、小さく頷いた。
「……ファイト警視も言ってました。アシルさんに付いて、事件のことを学ぶようにって。俺からはちょっと言い出しづらかったんですけどね。なんで、他の警官じゃいけないんだろうって思ったんですけど。でも、昨日のこととかも考えて、分かった気がします。こちらこそ、よろしくお願いします」
 レジェンは頭を重く下げた。嫌そうではなかったが、不安を感じているようだった。
 その時。邸内に、呼び鈴が鳴り響いた。ぱたぱたという音が廊下を過ぎていく。
「いらっしゃったようですね」
「誰がですか?」
 アシルは答えない。まだ手にあったファイルをレジェンの鞄に押し込み、部屋の出口へ向かう。レジェンは慌てて付いていった。
 玄関ホールまで歩いていくと、クーパーがタカナシに案内されていた。
「クーパー先生。やはりいらっしゃると思っていました」
「アシルさん?」
 アシルは、クーパーの行き先である大広間へとついていった。
 大広間につくと、タカナシは一礼して去っていった。
「遺言書の内容を読み上げにきたのですね?」
 アシルが聞く。
「はい。皆さんの前で、読み上げなければならないので。そちらのウインディは……?」
「こちらはレジェンさん。警察の方です。今回、聞き込みや調査は一切しませんので、ご安心ください」
 アシルの言葉に、クーパーは少しほっとしたようだった。頬を薬指で掻きつつ、小さく息を吐いていた。一方レジェンは、暗黙に聞き込みや調査を制限されたことに少しいらいらしていた。
「あの家政婦の方に、他の方々を呼んでくるよう頼みました。皆さんが集まってから、話を始めたいと思います」
 クーパーは言うと、手に提げた黒鞄をテーブルに置き、中から書類を出し始めた。アシルは、椅子の内の1つに座る。レジェンは座れる場所が無いため、アシルのそばの床に体を下ろした。
 最初に大広間に来たのはアルフレッドだった。クーパー、アシル、レジェンを見て、訳が分からないと言いたげに首を傾げていた。続いて、アイリーンとサリサが入ってくる。彼女達もまた、アシルはともかくレジェンに対して大きく目を開いていた。その際、レジェンはサリサから目を逸らしてしまった。少し時間が建って、マシュー、ルクシア、キース、タカナシが入ってきた。
「皆さん。座ってもらえますか」
 クーパーは呼びかけた。それに応じ、一同はクーパーがいる側とは反対側に、横一列に座っていく。サリサはアイリーンの後ろで浮かび、ルクシアはマシューの隣に座る。キースは、アルフレッドのそばで浮かんでいた。
 タカナシは一礼し、部屋から去った。
「クラーク卿より、遺言書を預かっていました、アンダーウッド弁護士事務所のジェームズ・クーパーです。大変、ご愁傷様でした。つきましては、クラーク卿が残された遺言書を読み上げるため、こちらに参りました」
 クーパーは説明する。説明の間に、アシルは元の席へ戻っていた。
「父さんが、遺言書を?」
 アルフレッドが驚いて聞く。アイリーンとマシューも驚いているようだった。彼らの顔を見て、キースが溜め息をつきながら口を開く。
「つい一昨日なんだけどね。カーマイクルがこちらの弁護士事務所に電話したんだ。前々から。書くって言ってて、弁護士を探しててね。それで、アシル君に紹介してもらったみたいなんだ。ボクも色々と意見を言ったんだけど、聞かなくて。結局、昨日来てもらったんだ。そしたら、あんな騒ぎになっちゃったから……」
 キースの説明に、アルフレッドもアイリーンもマシューも納得していないようだった。そんな様子の彼らを見ながら、クーパーは書類を広げる。
「読み上げます。私、カーマイクル・ベオグランド・クラークは、以下に、死後の財産分与、配分を、ここに示すものとする。1、長男、アルフレッド。我が会社の代表取締役に任命するものとし、その総資産全てを与える。2、長女、アイリーン。我が会社の発行する株を90%与え、筆頭大株主とする。これにより、長男に対しもっとも意見できる立場とし、互いの切磋琢磨を望む。3、次男、マシュー。我が住居内における永遠の自由を与え、住む者たちと共に暮らしていくことを望む。これらを言い遺し、死に至るものとする。筆者、カーマイクル・ベオグランド・クラーク」
 クーパーが読み上げた後、3人の顔は更に驚愕に満ちたものになっていた。
「代表取締役って……社長ってことか!? ちょっと待ってくれよ。おれは今、会社で大事なプロジェクトを任されてるんだ。今は、家族が不幸にあったって事で休ませてはもらってるけど……。どれだけかかるか分からないってのに、社長っだって? 資産全部だなんて、どうすればいいんだよ? 社員をまとめあげられる自信なんてないぞ……」
「筆頭大株主なんて……。あたし、会社の経営とかさっぱりよ。ただ下で働いてるだけだし、90%なんてもらったって、逆に困るわよ。売ろうにも、そうそう売れる量じゃないし、そもそもあたしにも会社があるのに……」
「永遠の自由って……。家に住まわせてもらうのは嬉しいけど、会社員とかにしてくれたほうがよかったよ。父さんのいない家なんて、父さんがいる時以上に罪悪感が増すよ」
 3人はそれぞれ不満を垂らしていた。他者のものを羨ましがるのではなく、自分がもらったものに対して疑問を持っているようだった。予想もしなかった反応に、クーパーは頬を薬指で掻きながら困り果てていた。
「遺言書は、どのように保管しましょうか?」
 クーパーが聞くが、3人はまともに聞いていないようで、答えなかった。
「ボクがのけておくよ」
 そう言ってキースが進み出た。鍵輪を開いて書類を挟み込み、ぶらさげるような形で受け取った。
 話が終わったと思ったのか、アルフレッド、アイリーン、マシューはそれぞれ大広間から出て行った。それぞれのポケモン達も続き、残ったのはアシル、レジェン、クーパー、キースだけになってしまった。本当は引き止めて詳しい説明をしなければならないのだが、クーパーは経験不足からか、中々切り出せずに、退室を許す形になってしまった。
「初仕事、ご苦労さまでした」
 アシルが労う。クーパーは頬を薬指で掻きつつ溜め息をついた。
「まだ話さなければいけないことはいっぱいあったんですが……。全然話せませんでした」 
 落ち込んでいるクーパーの元に、キースが近づいてくる。
「まあまあ。初めてなんだって? 頑張りなよ。仕事は経験だから」
 キースが元気付ける。クーパーは薄く笑った。
「ありがとうございます」
 会話がなされる中、アシルはゆっくり立ち上がった。少し落ち込み、眉間に皺が寄っているようだった。そのまま、ベルの元へ行き、鳴らす。
 やや時間を置いて、タカナシが入ってくる。アシルは歩み寄り、タカナシのそばで何かひそひそと言う。それを聞いたタカナシは、一礼して部屋を出て行くのだった。
 次に、アシルは後ろを向く。テーブルの横へ沿って歩き、もう1つの戸へと向かう。途中、レジェンに目配せした。レジェンは立ち上がり、アシルに続く。
「キースさん、クーパー先生。少し、ここで待っていてもらえませんか?」
 アシルが声をかけた。キースとクーパーは、軽く驚いてアシルに顔を向けた。
「少し、野暮用がありまして。それが終わったら、すぐに帰ってきます。その時、真相を語ることができるでしょう」
 アシルは言い切った。その発言に、キースやクーパーはもちろん、レジェンも驚いていた。
「真相って、アシル君……!?」
「殺人者、犯罪手段、状況、動機。これらのことです」
 本気で驚くキースを尻目に、アシルはお茶を濁して歩いていった。先に行くアシルに、レジェンは地響きをさせながらついていくのだった。
「どこへ行くんですか?」
「マシューさん、ルクシアさんに話を聞きにいきます。取るに足らない小さな壁がありますので。しかし、小さくとも、壁は壁。崩しておかなくてはなりません」
 そう言うアシルの額の黒真珠は、今までにないほど輝かしく、眩しいほど光っていた。
*10 壁崩し [#w0c89340]
「事件に関係ないから話せないって言ってた気がしますけど」
「それは、あの時点での話です。今は、真相を繋げるために、小さな途切れをも修復していかなければなりません。それに、あなたは現在学ぶ身。隠し事をする理由や、その心理を見るいい機会になるでしょう」
 アシルとレジェンは、マシューの部屋の前にいた。アシルが小さくノックすると、時間を置いてマシューが出てきた。
「アシル?」
「マシューさん。アルフレッドさんやアイリーンさんとは昨日お話したので、今回はあなたの元へ参りました。確信ができてから来たかったもので」
「よく分からないけど、入りなよ」
 アシルは頭を下げ、静かに入った。続いてレジェンも、ゆっくりと入った。
 部屋の中は、窓側から見たときと変わらず質素な内装だった。マシューはアシルを椅子へ促した。アシルは椅子に座り、レジェンは床に体を落ち着けた。
 アシルの少し離れた前方には、ルクシアが座っていた。未だ元気ではないようで、尻尾の明かりは鈍かった。それでも少しは元気を取り戻したようで、アシルの会釈にも軽く応じた。
 マシューはルクシアの隣に座り、話を聞く体勢になる。
「話ってなんだい?」
 アシルはしばらく答えなかった。やや上目使い気味にマシューを見ていた。
「昨日。あなた方は朝食に来られず、タカナシさんに呼ばれるまでの間、ずっと部屋にいました。わたしが昨日聞いたときには、その時、表を誰も通らなかったと言われましたね? その言葉は、正しいのでしょうか?」
 アシルが問いかけるや否や、マシューの表情は見る見る変わった。ルクシアも真っ青になり、俯いているのだった。
「何を言ってるんだよ……。通らなかったって言ってるじゃないか……」
 マシューは頬を薬指で掻きながら力なく言う。しかし、アシルはゆっくり首を振った。
「1つ、言っておきますが。わたしは、あなた方が殺人者であると言うつもりはありません。ただ、あなた方が言うことが、決して正しくないと言いたいのです。良いですか? クラーク卿が殺害される際、フランクリンさんの鋏が凶器として使われました。しかし、その鋏は、前日までフランクリンさんの部屋にあったことが、タカナシさんによって確認されています。つまり、それ以降からクラーク卿が発見されるまでの間に、殺人者がここを通ったはずなのです。当然、一昨日タカナシさんが通られる音は聞きましたね?」
「あ、ああ……」
「ならば、当然、タカナシさんではないもう1人、殺人者の足音も、聞いていなければならないのです」
 アシルが語っていると、椅子が少し揺れる。振り返ると、レジェンが前足で揺らしていたのだった。
「えっと、タカナシさんが本当の事を言ってたっていう保証はありますかね? それか、タカナシさんが鋏を持っていったとか」
 レジェンが意見するが、アシルは首を振った。
「それは、タカナシさんが殺人者だと仮定しての話ですね? タカナシさんが、殺人者ないしその協力者だったとしても、タカナシさんがフランクリンさんの鋏を使う理由はありません。確かに、表を通って一番怪しまれないのはタカナシさんです。だからと言って、タカナシさんであると断定できるわけではありません。そもそも、タカナシさんならば、調理場の包丁を使うなり、外から刃物を買ってくるなりすることができます。にもかかわらず、そういったことをせず鋏を使ったとなると、説明がつきません。タカナシさんは鋏を使うことができましたが、逆に使う必要はありませんでした。今回の殺人者もまた、使う必要があったわけではありませんがね。言うなれば……、これを使うことでしか、殺人を行うことを想像できなかった、といいましょうか。……おっと」
 訳が分からない様子のレジェンから目を離し、アシルは青ざめたマシューとルクシアに目を向けた。
「話が少しそれましたね。あなた方は、聞いていなければならない音を聞いていない。そのことについて聞かれたため、マシューさんは、誰も通っていないと言ったのです。しかし表には、ご存知の通り、ちょっと足を乗せるだけで大きな音を出す砂利が敷かれています。これを聞いていないなどということはほぼ不可能ですし、そもそも聞かないことのほうが難しいでしょう。そして、マシューさんが昨日言ってくださったように、何かの間違いで音を聞いていなくても、あの窓の前を通れば、必ず人影が見えます。では、なぜ気付かなかったのでしょうか? まず、1つの要素として、人影があります。人影に気付かなかったということは、その時カーテンが閉まっていたのでしょう。では、2つ目の要素となる音は? 音に気付かなかったとなると、それこそ、そういった大きな音量にも気付かないほど、何かに集中していた、夢中になっていたと考えられます。さて。テレビもパソコンもないこの部屋で、朝方からカーテンを閉め、そういった薄暗い空間で、ルクシアさんと一緒にいる時にしていた、うるさいほどの音も聞こえないほど夢中になる行為。それは一体、なんなのでしょうか……?」
 アシルは言葉を切る。マシューは歯を食いしばり、ルクシアは懇願するような目でアシルを見ていた。レジェンは思わず立ち上がり、息を呑んでマシューとルクシアを見ていた。
 アシルはルクシアに目を合わせ、頷いた。
「マシューさん。後日、殺人者の裁判にあなたも呼ばれるでしょう。その時、ここの砂利道を誰かが通ったことが言及されると思います。その際は、眠っていたから分からないと言うのです。既にあなたの発言を聞いているファイト警視には、わたしから話を通しておきます。よろしいですね?」
 マシューは重々しく頷いた。アシルは満足げに微笑み、振り返った。
「レジェンさん。今、ここで知ったことは、他言無用でお願いします。それと、ファイト警視の件もよろしくお願いしますよ」
「あ、はい……。分かりました……」
 レジェンは顔をしかめ、首を後ろ足で掻きながら答えた。アシルは一礼し、その場から去っていく。うなだれているマシューを置いて、アシルとレジェンは静かに部屋を出た。
 廊下へ出て、アシルは戸を閉めようとする。しかし、それは中から伸びた黄色い腕に止められた。
「待ってください……アシルさん」
 中からルクシアが出てきたのだった。アシルが驚いている間に、ルクシアは廊下に出てきた。
「あの……。私、本当にご主人さんのことが好きなんです。ご主人さんも、私を好きでいてくれてるんです。だから、その……」
 ルクシアは言葉に詰まっていた。どう話せばいいか模索しているルクシアを、アシルは微笑みながら待つのだった。
「初めては、ご主人さんが高校を卒業した時でした。受験も就職も失敗して、ご主人さん落ち込んでて……。私もご主人さんを励ましました。それで、お互いに支え合ってるうちに、愛が深まっていって、どんどん好きになっていって……。我慢できなくなったのは、ご主人さんのほうが早かったです。私も、受け入れることに抵抗はなかったです。それで……。やっぱり、私も、ご主人さんが大好きなんです。これって、その……、間違ってるんでしょうか?」
 ルクシアは聞く。レジェンは難しそうな顔で考え込んでいた。しかし、アシルは微笑んだまま、首を横に振るのだった。
「1つ、物語を聞かせてあげましょうか」
 唐突にアシルが言った。ルクシアはぽかんとして、曖昧にはいとだけ答えた。
「昔の話です。あるところに1体のポケモンがいました。彼は周囲とコミュニケーションをとることが苦手で、いつも周囲から離れていました。また、恋愛に関しても奥手であり、女性に対してまともに話すことができない、いわゆるヘタレだったのです。ところが。何の間違いか、1体の女性だけは、彼に積極的に接していました。彼女は、巷でも有名な可愛い子で、彼にはつり合うようには見えませんでした。当然彼も、自分と彼女がつり合うなどとは全く思っていませんでした。ところが、そういった彼の考えを吹き飛ばす勢いで、彼女はどんどんアタックしてきていました。周囲の、遥かにイケメンの男性が交際を申し出ても、彼女は全て断っていました。文句は決まって、彼がいるから、と。一方、彼のほうは、彼女がつり合うものと思っていなかったため、彼女の幸せを思って、あえて突き放す言葉を並べていました。しかし、彼が突き放すほど、そして彼が奥手になるほど、彼女はどんどん彼へのアタックを強めていくのです。強引にデートを申し込むことさえありました。奥手ながらも彼は断ることができず、彼女と付き合い続けました。彼の方も、決して彼女が嫌いではなく、むしろ好きでした。しかし、気の遠くなるほど奥手でヘタレだった彼は、好きとも、愛してるとも、言うことができませんでした。彼女はやきもきして、毎日、常にそれを求めていました。そういった奇妙な彼氏彼女の関係がしばらく続いた頃。痺れをきらした彼女は、強硬手段にでました。好きであると、愛してると言わせる為に、彼女は非常に強引な形で、彼と一夜を共にしました。それでも、彼はついに言うことができず、互いに経験だけを済ませてしまったのです。翌日、彼女はそばにいませんでした。彼は、1度でも言えばよかったと後悔しつつ、当時通っていた学校へと向かいました。ところが。学校へ着く前に、彼女の家族から連絡が入りました。彼女が暴走したトラックに轢かれ、危篤だというのです。意識を失う前、彼の名前を呼んでいたということで、彼に連絡が入ったということでした。彼は急いで病院に向かいました。彼女は生死の境を彷徨っていて、危険な状態でした。彼は、そこで初めて、言いました。好きであると。愛していると。涙ながらに訴えました。何度も、何度も。これまで言えなかった分まで、言い続けました。しかし、彼女が目を覚ますことは、二度とありませんでした。彼女が亡くなった後、彼は衝撃の事実を知ります。彼女が住処に帰った後、なんと、タマゴを産み落としたというのです。その父親が誰なのか、考えるまでもありませんでした」
 アシルは話を切った。溜め息をつき、顔をしかめて下を向いていた。ルクシアは思わず手で口を覆い、レジェンは目をまん丸にしていた。
「彼は、今も後悔しています。好きだと、愛していると、1度でも彼女に聞かせたかったと。彼自身の本当の気持ちを、心のそこからぶつけたかったと。後悔しながらも現在、彼は、彼女との間に生まれた可愛い子供と暮らしています」
 アシルは、ルクシアの腕を軽く握った。
「精一杯愛してあげなさい。あなたの心からの愛を、マシューさんに向けてあげるのです。もっと好きだといえばよかった、愛してあげればよかったと後悔しないように。縁起でもないことですが、いついなくなっても後悔しないように。好きでいてあげてください。愛してあげてください。好きであること、愛すること、それが間違いであるはずなどありません」
 アシルは言った。微笑みながら大きく頷き、握る力を強くする。ルクシアの顔が上がり、満面の笑顔が広がった。
「はい! ありがとうございます!」
 ルクシアは頭を下げた。そして、その笑顔のまま、ルクシアは部屋に戻っていった。
「アシルさん。今のって、もしかして……」
 レジェンが何かを言いかける。しかし言葉につまり、言い出せない。アシルは聞こうとしておらず、大広間のドアノブをサイコパワーで回していた。
「レジェンさん、無粋ですよ? こういう時は、何も聞かない。それが正解です」
 アシルは言うと、ドアを開けた。レジェンは何も言えず、沈んだ表情でついていく。レジェンは気付かなかったが、その時、アシルの目には、小さな涙が浮かんでいたのだった。
*11 推理 [#q2ed768f]
 アシルとレジェンが大広間に戻ると、キースとクーパーは軽く話していた。2体に気付き、慌ててキースは近寄った。
「アシル君! もう、話せるんだよね!?」
「ええ。ちょっと座らせてもらえますか」
 アシルは進み、クーパーが立つ前まで行って椅子に座った。レジェンは床に体を下ろさず、立ったままだった。
「みんなを呼んできましょうか?」
「いいえ、レジェンさん。それには及びません。わたしは、今から推理ショーをするわけではありませんからね。知り得た真実を話す、それだけです。別に、座ってもよいのですが?」
 アシルは言うが、レジェンとクーパーは座らない。キースが待ちわびている様子だったので、アシルは咳払いをし、口を開いた。
「以前、わたしは、シュヴァルツェンベルク卿という方に師事し、世界を巡っていました。様々な事件が目の前で解決されていき、わたしはそれを何度も見てきました。あの方と離れたとき、いつか自分にも、そういった時が来るのではないか? そういった予感はしていました。それが、まさか親しい人物の事件になるなど、思ってもみませんでしたが。ここにいる方は、皆さん全員が事件の経緯を知っているというわけではありません。一部分ないし、警察内部のこと、わたし独自のこと、色々な要素があります。まずは、最初から事件をたどってみましょう」
アシルは、確認を取るように一同を見る。誰も異議を唱えず、アシルは話を続ける。
「昨日、クラーク卿を最後に見たのはクーパー先生でした。クラーク卿に呼ばれたクーパー先生は、遺言書のことで、クラーク卿と話しました。話し終わった後部屋を出て、キースさんと会いました。その時、キースさんは鍵をかけ、以降誰も入ることはできませんでした。キースさん、クーパー先生、間違いありませんね?」
「うん、間違いないよ」
「はい。その通りです」
 彼らの答えに、アシルは満足げに頷く。
「その後、アルフレッドさん、アイリーンさん、サリサさんを迎え、一緒にクラーク卿の部屋に行きました。その際、まだ来ていなかったマシューさんとルクシアさんを呼ぶため、タカナシさんが離れます。そしてキースさんが鍵を開け、発見に至ったわけです。その時は、最後に出たのがクーパー先生だったため、初めにクーパー先生が疑われました。しかし、クラーク卿が、クーパー先生が出た後に残したと思われるメッセージを残していたため、クーパー先生の疑いは晴れました。そして、キースさんが鍵をかけている間でなければ殺人はできない、すなわち密室で殺人が行われた。そういう結果になってしまったのです。ここまで、お分かりいただけましたか?」
 アシルの問いに、一同は一斉に頷いた。
「レジェンさんにも分かりやすくするため、密室の方面から事件を紐解いてみましょう。この密室は、当然どうやってできたなどは分かりませんでしたが、なにより、作る意義が分かりませんでした。正直なところ、今回の犯罪は密室でなくても成立します。警察の鑑定によれば、凶器にはクラーク卿の指紋が付いていなかったそうです。密室を作る理由の1つとして、自殺に見せかけたかったというものがあります。しかし、今回はクラーク卿の指紋が付いているどころか、凶器に手が添えられてすらいませんでした。自殺に見せかける気がなかったことなど、明らかです。では、なぜ、密室などにしたのでしょうか。あるいは、しなければならなかったのでしょうか? なってしまったのでしょうか? これに関しては、今日になるまで、検討も付きませんでした。しかし、今日になって、小さな1つの行動が、大きな光明になったのです」
 アシルはレジェンに顔を向けた。
「レジェンさん。密室を出る時、あるいはそれに鍵を閉めるとき、それをする者は、誰が考えられますか?」
 急に声を掛けられ、レジェンは思わず小さく飛び上がった。
「え!? えーと……自分でどうにか閉めるか、他の誰かに閉めさせるか……」
 レジェンの答えに、アシルは大きく頷いた。
「そうですね。そこで、よく考えてみてください。クラーク卿の部屋には、鍵があります。しかし、それは1つしかありません。よって、開け閉めできるのは。それを持っている者、あるいは内側の者です。しかし、内鍵には、傷跡等はなかったそうです。そもそも、内鍵にそういった仕掛けをして細工をしていると、その間に戸の音を聞きつけたキースさんが来てしまいます。実際、キースさんは何度か戸の音を聞き、その度に戸まで行かれたと言っておられましたが、クーパー先生と会うまでは誰とも会わなかったそうです。窓の方は、開けた形跡がなかったそうです。では、鍵を持っているのは誰ですか?」
「ちょっと待ってよ!!」
 キースが声をあげた。今にも血管が千切れそうに、その顔は怒りに満ちていた。
「もしかして、ボクって言うつもりじゃないだろうね!?」
「いいえ。キースさんは殺人者ではありません。しかし、鍵を閉めることができたのはキースさんですし、更に言えば、実際に閉めたのもキースさんです」
 キースとレジェンは訳が分からないといった様子だった。クーパーは考え込んでいた。
「殺人者が密室に入り、脱出できたのはいつだったのか? まず、クーパー先生がいた時は無理です。クーパー先生は確かにクラーク卿と話し、殺害もすることなく部屋を出ています。では、その後ということになります。更に。クーパー先生が出た後、キースさんは鍵を閉めました。そして、わたし達を引き連れてクラーク卿の部屋へ行ったとき、クラーク卿は既に絶命していました。当然、キースさんが鍵を閉めた後、部屋に入ることはできません。殺人者がクラーク卿の部屋へ入る手段、すなわちクラーク卿の部屋の鍵を持っていなかった以上、殺人者が部屋に入ることができるのは、部屋が開いている時だけです。では、どういうことになるのか? 殺人が行われたのは、キースさんが鍵を閉める前なのです!」
 アシルは言い切った。しかし、周囲は話について来れていなかった。
「アシルさん……。言ってることおかしくないですか」
 レジェンが顔を大きくゆがめて聞く。しかし、アシルは全くひるまない。
「何もおかしなことなど言っておりません。殺人が行われたのは、クーパー先生が部屋を出た後であり、キースさんが鍵を閉める前であると言っているのです」
「言ってることが全然意味分かりません」
 レジェンはいらいらしてアシルを見ていた。しかし、アシルは動じていなかった。
「それは、あなたが1つの先入観に縛られ、その上に成り立った前提でものを考えているからですよ」
「どういうことですか?」
 レジェンはたまらず聞く。アシルは穏やかに座っていたが、額の黒真珠は、もはや黒だとは思えないほど、色付けされたかのような緑に輝いていた。
「あなたの中に居座った前提を払拭し、頭を柔らかくして考えてみてください。そうすれば、分かるはずなのです。一見、わたしが言っている意味不明の状況下で、殺人が可能であった、たった1人の人物が!」
 アシルは一同を見渡す。その目は、一点に来たところで停止した。
「説明いたしましょう。クーパー先生が部屋を出た後、殺人者はフランクリン・クラークの部屋へ向かいます。そこで凶器となる鋏を取り出し、クラーク卿の書斎へ向かいました。その間、クラーク卿はアンダーウッドへの電話を済ませていました。書斎に入った殺人者はクラーク卿を殺害した後、何食わぬ顔で部屋を出、戸の前で待ち、キースさんと落ち合いました。そしてキースさんに鍵をかけてもらった後、殺人者は何事もなかったかのように去っていったのです。……つまり、クーパー先生! あなたです!」
*12 追究 [#qfd90603]
 沈黙が場を支配した。レジェンは目をこれ異常ないほど丸くし、キースの顔は引きつっていた。クーパーは何も言うことなく、無表情だった。
「あの……あえて聞きますけど、なんでそんな方法を?」
 レジェンが聞く。アシルはレジェンに目を向けた。
「それを語るには、クーパー先生の身の上、それまでの経緯を話さなければなりません。まず、最初に言っておかなければならないことが1つ。彼の名は、ジェームズ・クーパーではなく、フランクリン・クラークです」
 アシルは言い切った。キースの引きつりは増し、思わずクーパーの顔を見た。
「いなくなっていた間に、整形でもしたのでしょうか。誰も、あなたであると気付きませんでした。暗くて周囲とあまり関わらない人物が、どうしてここまで違いましょうか? 誰も、あなたをフランクリン・クラークだとは思いませんでした。そして、あなたも。ジェームズ・クーパーを創りあげ、それを演じきっていました。ところが。あなたはやはり、クラーク卿のご子息であり、アルフレッドさん、アイリーンさん、マシューさんの弟でした」
 アシルはゆっくり頷く。
「クラーク卿、アルフレッドさん、アイリーンさん、マシューさん。彼らには、頬を薬指で掻くクセがあります。普通、頬を掻くときは人差し指で掻きますが、彼らだけは違いました。これは大変珍しいクセです。そして、クーパー先生。あなたにも、そのクセが見受けられました。クセとは無意識なもの。他者を演じても、クセを意識し、治すことは非常に難しいことです。この珍しいクセを見て、クラーク卿の近親者ではないか、ひいてはフランクリン・クラークではないかと考えることは、そう難しいことではありません。では、そのフランクリン・クラークがクラーク卿と会った時、何が起こったのか? それは、わたしが皆さんから聞いた、フランクリン・クラークの過去を元に、導き出すことができます」
 クーパーはなおも無表情だった。レジェンは難しい顔ながらもアシルの推理に聞き入り、キースはクーパーをまじまじと見ていた。
「フランクリン・クラークは、昔から不幸の連続の人物でした。兄や姉は自分以上に可愛がられ、自分はほぼ何もしてもらえない。そのフラストレーションは、当然生まれた時から、ここを出るまで、ずっと溜まっていたでしょう。それ故、ここにいる事が苦痛になり、去っていったのです。ここを出ていくらか経った時、自分にとんでもない仕事が舞い込んできました。クラーク卿のもとへ行けと言うのです。名前も顔も変え、新たな自分として過ごしていたにもかかわらず、またあの場所へ戻れと言われたのです! しかし、その時はまだ、あなたに殺意はありませんでした。仕事をするだけして、また出て行く。それだけのつもりだったはずです。ところが、クラーク卿の遺言書の内容を聞いたとき、そういう訳にはいかなくなりました。クラーク卿が読み上げる文面に、自分の名前が入っていなかったのですから! その時です。過去に溜まっていた数々のできごとからなるフラストレーション。何より、自分の父親が死ぬ時さえ、自分のことを考えるつもりなどないという事実。膨らみに膨らんだ、報われない劣等感が爆発し、殺意に変わったのです!」
 クーパーの目がやや細められ、口元が引き締まった。
「とめどない、突発的で猛烈な殺意。今すぐ実行しなければ気がすまない。クラーク卿へのフラストレーションは、そこまで凄まじいものでした。あなたは瞬時に、現在自分が知っている刃物の在り処を脳内で探りました。当然、あなたはその時、アルフレッドさんやアイリーンさんの部屋には誰もいないということを知りません。故に、自分の頭の中で思いついた唯一の刃物、すなわち、あなたの部屋の鋏を使うことを決めたのです。そういった感情の中だったこと、付け加えて、昔から日常的に通っていた場所だったことから、砂利の音など気になりませんでした。そして、クラーク卿を、感情のままに殺害します。キースさんは、戸が開閉する音を何度か聞いたと言っておりましたが、それはこの時の音だったのです。そして部屋を出、キースさんと出会い、鍵が閉まったのです」
「ということは、フランクリン・クラークは、キースさんがいちいち鍵を閉めることを利用して、密室を作ったということですか?」
 話の途中にレジェンが割り込んで聞く。アシルは首を横に振った。
「いいえ、違います。そもそも、わたし達が密室だと思った要因は、クーパー先生が1回目に部屋を出た後、クラーク卿がアンダーウッドへ電話したからです。これがなければ、密室などとは思わなかったでしょう。しかし、クラーク卿が電話をすることなど、予想できるはずはありません。クーパー先生は、密室など作るつもりはなかったのです。しかし、その周囲で発生した様々な要因が重なり合い、密室だと錯覚する状況が出来上がってしまったのです」
 アシルは溜め息をつく。
「偶然だったのです。クラーク卿が遺言書を書くと言い出したことも、それをわたしに相談したことも、わたしが紹介した事務所にあなたがいたことも。そして、キースさんがいちいち鍵を閉める性格だったことも、キースさんが途中で部屋を覗かなかったことも。なにより、あなたの部屋とクラーク卿の部屋を往復する間、誰にも目撃されなかったことも! 犯罪とは、どれほど綿密に計画を立てたとしても、運が良くなければできないものです。そして、運が良ければ、意図していなくともこのような犯罪が成り立ってしまうのです」
 アシルは立ち上がった。クーパーの正面に立ち、まっすぐ見つめる。クーパーはやはり無表情だった。
「真相に辿り着いた時、わたしは大いに後悔しました。なぜ、弁護士事務所など紹介してしまったのかと。紹介しなければ、あなたもここに来ることはありませんでしたし、クラーク卿が殺害されることもありませんでした。償っても償いきれない重罪です。あなたには、償う気持ちはありますか?」
 アシルは聞く。しかし。クーパーは何も答えない。
「どうやらあなたは、捕まることに関してそれほど深く考えていないようですね。危険性の高かった殺害方法にせよ、自分の名が彫られた物を凶器にしたことにせよ、わたし達が事務所に訪れた際に、弁解らしい弁解をしなかったことにせよです。クラーク卿を殺害するならば、捕まってもいいというような印象を受けます」
「そうですね」
 クーパーがようやく口を開いた。その口調は、氷水よりも冷たかった。
「ですが。アシルさんの言うことは何1つ証拠がありません。いわゆる状況証拠ばかり。それでは、僕を告発するのには弱すぎますよ」
 クーパーが言うと、アシルは苦々しい顔で頷く。
「はい。わたしが今言ったことに関しては、物的証拠は一切ありません。あなたの指紋をフランクリン・クラークと照合することはできましょうが、それが、殺人の証拠ということにもなりません。しかしですね、クーパー先生。状況と動機が存在し、それらが殺人へと繋がる、その過程を推理した者は、殺人者の見えない場所まで鳥瞰することができるのですよ」
 アシルは言うと、再びベルを鳴らしに行く。そして、時間を待たずしてタカナシが現れた。アシルはタカナシへと近づく。
「タカナシさん、来られていますか? そうですか。こちらへお通ししてください」
 タカナシは一礼して去っていく。時間をあまりおかずして、タカナシは戻ってきた。その後ろには、スーツを着た中年の男性が立っていた。
「どうぞ、こちらへ」
アシルが言うと、男性は一礼して入ってきた。
「弁護士のサミュエル・ヒルです。本日は、遺言書を読み上げに来たのですが……」
「フランクリン・クラークさんへの遺言ですね?」
「え? あ、はい」
 ヒルと名乗った弁護士は、アシルの言葉に驚いたようだった。そして、ヒル氏の返事で、クーパーの顔も驚きに満ちていった。
「こちらがフランクリン・クラークさんです。ヒルさん、読み上げてもらってもいいですか?」
「はい、分かりました」
 ヒル氏は鞄を開き、書類を出した。丁寧に開き、読み上げる。
「遺言書。私、カーマイクル・ベオグランド・クラークは、ここに、我が末息子、フランクリン・クラークへ与えるものを示す。1つ、我が邸宅の権利を渡すものとする。1つ、フランクリン・クラークの子供を、アルフレッド・クラークが社長職を退いた後の第一後継者としてここに示す。最後に。直接伝えようとすると、また不幸が起こるから、このような形でしか伝えられない。本当に、すまなかった。フランクリンへの謝罪の意味を込め、フランクリン個人への文章という意味合いを込め、他の3人とは別の遺言書として、ここに遺すものとする」
 その内容に、クーパーはもちろん、レジェンとキースも驚いていた。
「アシルさん……! まさか、知っていたんですか?」
 レジェンが聞くが、アシルは首を横に振った。
「いいえ。ただわたしは、クラーク卿を信じていただけです。事件当日にクーパー先生がここに来られた際、先客がいたことを覚えておりますか? あの時の客は、弁護士だったのではないかと考えたのです。クラーク卿がフランクリンさんを愛していたなら、必ず何かを遺すはず。クラーク卿は決して、フランクリンさんを除外などしないだろうと、わたしは信じていました」
 クーパーは両膝を付き、うなだれた。体中が震え、顔が青ざめていた。
「そんな……」
 クーパーは立ち上がれない。へたりこんだ彼に、キースが近づく。
「……えーと、フランクリン?」
 キースが呼びかけるが、クーパーは返事をしない。
「その……本当にごめん。ボクが気付くべきだったんだ。整形とか、演じるとか、そんなの関係なしに、君に気付くべきだった。なのに、君の外見ばかり見て、一番苦しんでる君の事を、気付いてあげられなかった。ボク、この家に一番長くいるのに。ボクが君を止めたり、相談にのってあげられたりしてたら……」
 震えるクーパーの頬に、数滴の涙が浮かぶ。キースは、頭の鍵先でそっと拭うのだった。
 アシルはレジェンに横目を向ける。レジェンは気が進まないようで、後ろ足で首をせわしなく掻いているのだった。
「勘違いの殺人。テレビじゃよく見るパターンですけど、悲惨ですね。爆発したら殺意に変わるような劣等感、ですか」
 レジェンはクーパーの前まで行った。床にうなだれるクーパーを、レジェンは見下ろす形になった。
「とりあえず、えーと……。任意同行に応じてもらえますか? 向こうで、経緯やらなんやら色々聞くんで。ただ、俺このナリなんで、車じゃ来てません。背中に乗ってもらって、しんそくで運びます。いいですね?」
 レジェンが言い終わると共に、クーパーは立ち上がった。レジェンは横につき、共に歩く。
「ここで乗ったら危ないんで、乗るのは外にしてください」
 レジェンが言う。大広間の扉を軽く噛み、顔ごとひねって開けた。
「クーパー先生」
 アシルが声をかける。レジェンは気を使ったのか、その場で立ち止まった。
「クラーク卿がアンダーウッドへ電話したこと。あなたに殺害される際、抵抗しなかったこと。なにより、不自然な体勢。わたしは、ずっと考えておりました。クラーク卿は胸を、つまり正面から殺害されています。殺害後あなたが椅子を動かしたのか、あるいはクラーク卿があの体勢のまま、あなたが無理な姿勢になったのかは、分かりません。しかし、普通は抵抗します。元々殺意のなかったあなたが、睡眠薬など持ってきているはずはありませんし。ひょっとすると、クラーク卿は、あなただと分かった上で殺害されたのかもしれません。あなただったからこそ、アンダーウッドに電話し、好印象を伝えた。あなただったら、殺されても仕方がない。そう思っていたのかもしれません。真相は、クラーク卿にしか分かりませんが。……まあ、真相と言えば、なぜクラーク卿が、わざわざわたしに相談をし、その上で他の弁護士を呼んだのかも、分からないのですがね」
 クーパーは俯いていた。手と唇が小刻みに震えていた。
「あと、レジェンさん。後日でいいので、アンダーウッド弁護士事務所の家宅捜索をお願いします。アンダーウッドときたら、偽名の弁護士を雇っていましたからね。国家公務員だというのに、体制がひどくずさんです。もしかしたら、クーパー先生は弁護士ですらないかもしれません。頼めますか?」
 アシルの頼みに、レジェンは苦い顔で頷く。
「まあ、なんて言うか。指紋調べたときに、何で同一人物か分からなかったかって感じですよね。普通は、他人同士の指紋を調べたりしないんで、仕方ないかもしれないですけど。こっちの落ち度も、計り知れないですね」
レジェンは自虐のように言うと、クーパーと共に出て行くのだった。
「……フランクリン。きちんと、帰って来るんだよ。この家は君のものなんだ。ここは、君の家なんだ。君が帰ってくるまで、ボクやみんなで守るから……」
 キースの声は、小さいながらも、大広間によく響いていた。
 静かになったこの空間で。ただ1人ヒル氏だけは、何がなんだか分からないというように目をあちこちに動かしていた。
*13 開業 [#l83a1944]
 クラーク卿を殺害した犯人が検挙され、幾日が経った。無論葬儀も執り行われ、各地から知り合いや賓客などが訪れた。大きな教会で厳粛に行われた葬儀は生中継され、多くの人々がその死を悼んだ。一方、犯人の名前は、アルフレッドのたっての希望により公開されず、20代の男とだけ発表された。近々裁判も開かれる予定で、その折にはサミュエル・ヒル氏が被告側の弁護人として立ち会うことになっている。
 また、その間もクラーク家は騒然としていた。落ち着いたところでアルフレッドがようやく手をつけた社長業務は、山どころか山脈のごとくの仕事が溜まっていた。次々と舞い込んでくる仕事は終わりが見えず、アルフレッドは食べる間も寝る間も惜しんで仕事を続けた。さすがに多すぎたので、アイリーンとサリサも手伝い、葬式から1週間してようやく追いついたのだった。
 結局、アルフレッドは元の会社のプロジェクトを辞退し、会社を辞めて跡を継いだのだった。ここに、後に世界に名を轟かせ、世界史に名を残す偉人、アルフレッド・クラーク卿が誕生したのである。
 余談だが、被告が正式に起訴されたまさにその日。家宅捜索を受けた某弁護士事務所において数々の不正が発覚し、所長が連行されたという。
 ◇
「良い天気ですね」
 クラーク邸の門から出たアシルは、ステッキを片手に空を見上げた。雲1つない空はどこまでも染まり、少しの淀みもない。
「はい、お父様」
 その横にテリィが並ぶ。
「アシル君、行っちゃうのかい?」
 その声に、アシルとテリィは振り返った。そこには、キースとサリサとタカナシが並んで立っていた。
「ええ。もう、決めたことですので」
 アシルは、塀にそって続く道の先を見据える。
「クラーク卿の件で、わたしも少しばかり自信がつきました。未熟ではありますが、シュヴァルツェンベルク卿のように、探偵業務をしてみようと思うのです。死神体質になってしまうかもしれませんが、ね」
 アシルはキースと目を合わせる。
「いつでもいらしてください。ご相談はなんでも良いですよ。実質、探偵というものは、世間の雑用のような部分もありますからな。歓迎いたします」
「うん。ありがとう」
 キースは頷いた。
 キースの隣で浮いていたサリサは、妖しい笑みを浮かべてアシルに近づいた。アシルは、じっと見つめてくるサリサを見つめ返す。10秒程経った時、サリサはアシルの頬に口付けをした。
「あたくしは、主人の都合でしばらくここにいるつもりよ。アシルさんはいなくなってしまうのね。次お会いしたら、またキスしてあげるわ」
「楽しみにしていますよ」
 アシルは頷きながら答えた。
「お父様」
 隣から、たしなめる声が聞こえる。目を向けると、テリィが少し不機嫌そうに口を尖らせているのだった。
「心配ありませんよテリィ。わたしの心の中にいるのは、あなたのお母さんだけです。しかし、テリィ。男性というものは、口付けをされると嬉しくなるものなのですよ」
「もう」
 テリィは呆れて溜め息をついた。いつも綺麗に伸びているスカーフのような体毛は、だらりと垂れ下がっていた。
 しかし、テリィはすぐに背筋とともにピンと伸ばし、タカナシの前に進み出た。
「タカナシさん。今までお世話になりました。教えてもらったことを生かして、お父様を支えていきます」
 テリィは深々と頭を下げた。タカナシは特に何も言わなかったが、テリィが頭を上げたとき、小さく頷いたのだった。
「本当は主人達も見送りに来たらよかったんだけど、忙しいらしくて。アルフレッドがよろしくと言ってたわ」
 サリサが言う。
「仕方がありません。落ち着いたとはいえ、まだまだ仕事はたくさんあったようですから」
 アシルは気にしていないようだった。
 遠くから、戸が開く音がした。門に向かって歩いてくる2つの足音は、一同の前で止まった。
「あ、マシュー。ルクシアちゃん」
 キースが気付く。マシューとルクシアが、手を繋いで立っていた。
「アシル、今日行くんだったな」
 マシューが聞く。アシルはゆっくり頷いた。
「ええ。マシューさんも、今日は面接でしたかな」
「ああ。いつまでもこのままじゃいけないしな」
 マシューは、ルクシアと目を合わした。互いに宝石のように輝くその目は、紅潮する互いの頬をも見ていた。少し見つめあった後、彼らは口付けをした。
 ヒトとデンリュウの接吻を、温かく見守る一同。しかし、タカナシは表情を変えず、テリィに至っては見ているだけで頬を染めていた。
 熱い口付けを終え、両者は抱き合った。
「行ってくる」
「早く帰ってきてくださいね」
 互いに言葉をかけ合った後、惜しむように体を離し、マシューは進んでいく。ルクシアは、マシューをずっと見守っていた。
「あのねえ。いくら、ボクとアシル君とサリサちゃんが君達の秘密を知ってるとは言っても、おおっぴら過ぎないかい?」
 キースは苦言を呈する。
「いいえ、キースさん。これでいいのですよ。これが、彼らの愛の形です」
 アシルは満足そうに言う。彼も、ルクシアと共にマシューを見送るのだった。
「でも、本当に驚いたわ。マシューとルクシアちゃんが、そういう関係だったなんて。世間のことなんて気にせず、愛を育てていってね」
 サリサは温かくルクシアに言葉を向ける。ルクシアは頬を染めたまま俯き、恥ずかしそうにもじもじしている。
「さて」
 アシルはテリィに目を向けた。テリィは察知したようで、大きく頷いた。
「そろそろ、送った荷物が届いている頃です。わたし達も参りましょうか」
「はい」
 アシルとテリィは一同に向かい、そろって頭を下げる。キースは寂しそうに目を瞑り、サリサは笑顔を広げ、ルクシアは軽く頭を下げた。
「年末年始とか、いつでも帰ってきていいからね。頑張りなよ」
「アシルさん、お大事になさってね」
「アシルさん! 本当にありがとうございます! これからも、ご主人さんをいっぱい愛し続けます!」
 アシルとテリィは頭を上げた。テリィはやはり名残惜しそうで、アシルも少し表情がさえなかった。
「みなさん、お元気で!」
「また来させていただきますわ。皆さん、お元気でいてください」
 アシルとテリィは振り返り、前へ進んだ。道のりは遠いが、目的地は分かっていた。自らの仕事の拠点になり、住処となる場所。時間はかかるものの、1歩ずつ進んでいく。
「ゆっくり歩きましょう。急ぐことはありません。わたし達の新たなる住処に着いたその時。マローワン探偵事務所の歴史は、華々しく幕を開けるのです!」
 アシルは力強く、意気揚々と言った。

 END

*あとがき [#m29f4488]
物心ついた頃、僕の目の前には、当たり前のようにポケモンがいました。それが、小さい時から当たり前で、今になっても、ポケモンと一緒であることは変わりません。ポケモンは、僕の人生になくてはならないものです。
そんな気持ちをもって大きくなった頃。僕は、1人の探偵と出会いました。彼は慇懃無礼で潔癖症、物事に秩序を求め、某ディアストーカー探偵を全力でディスるような、目に見えて滑稽な小男でした。彼の、人の心理に入り込む探偵術は素晴らしく、ポケモンに次ぐ、人生の指標になりました。
好きなものを書いてみたくて、今回、稚拙ながらも書かせていただきました。

作品について
構想自体は、結構前からあったりします。僕の尊敬する某作者さんに相談にのってもらったこともありました。
結構な時間をかけ、見込みができたとき、僕はこの作品を書き始めました。第6回大会終了直後に。
はい。執筆自体は、1年以上もしてました。でも、今年の4月までで、1万文字しか進まなかったんです。いろいろな誘惑に負け、怠惰な生活を送ってきたせいですね。
そのせいか、投降後に穴が見つかるわ見つかるわ。全然だめだこりゃ。
ポケモンに制約を設けすぎたせいで、ポケモンらしさはほぼなくなりました。仕草とかは入れたんですが、なんのリカバーにもなってない。
それでも、得票数5、見事優勝することができました。喜んでいいんですよね? こんな形とはいえ、1位はずっと夢でしたから…   

コメント返しをさせていただきます。

>>恥ずかしながらタネ明かしまで犯人が分かりませんでした。まさかあの人が……ですよね。 

→→まさかも何も、表明文の時点で思い切りネタバラシしてるじゃないですかー(

>>なかなか無いミステリー小説、とても良かったです! 

→→僕の集大成のつもりだったのですが、問題だらけでした。それでもいいと言ってくださって、ありがとうございます。


>>犯人 あ て ら れ る わ け な い(笑
いやー、いい意味で予想の斜め上すぎたw 

→→僕の尊敬する探偵を創った方は、殺人者の犯罪シーンを映さないことを利用する手法を使っていて、僕もそれの真似事をさせてもらいました。
手がかりを示しても、やはり当てられることは避けたいんです


>>真相まで見た後に読み返して、仕込まれていた伏線の数々に感心させられました。上編の最後であれだけ注意されたのに、ついつい〝砂利道を足音を立てずに通過する方法暴き〟に固執して浮遊持ちのサリサさんを疑っちゃいましたよ。マシューさんとルクシアさんが幸せそうなことも含めて一票。アシルたちの今後にも期待します。

→→確かに、ムウマージやクレッフィも、音を立てずに通過することは可能です。でも、それは可能というだけで、それをする必要は全くないんですよね。他から凶器なんていくらでも調達できますし。
しかし、それを話に持ち出すことをすっかり忘れていました。なんというか、僕の中で自己完結してしまってたみたいです。 


>>人物の心理描写や背景、過去などが緻密に描かれており、とても楽しませていただきました。珍しい探偵ものというジャンルだったのもあり、トリックは何なのか、動機は何だったのか想像するうち、小説の世界にのめりこんでしまいました。

→→今回は僕のいろいろな都合上、話のそのものをゴリ押しするような形になってしまいました。僕はあまり書けたとは思っていなかったのですが、そう言っていただいて嬉しいです。
僕個人としては、あまりトリックにフォーカスして考えてほしくはなかったのですが、仕方ないのかもしれません。

皆さん、投票ありがとうございました!

皆さんからの感想、指摘、批判、論理の破綻、その他さまざまな意見など、なんでもお寄せください。
カナヘビは皆さんのお言葉を真摯に受け止め、より良い作品作りに向けて精進していきます。
#pcomment(クラーク邸ポスト,5);

IP:122.218.127.18 TIME:"2015-08-09 (日) 10:36:17" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%E5%8D%BF%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%80%80%E4%B8%8B&id=n6fd089e" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322)"

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