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ガブリアスとジュナイパーで暖房いらずのクリスマスを本気出して書いてみた の変更点


 本作は♂同士の恋愛・性的描写を含みます。お楽しみください。
 



 目標:質問者はより少ない質問回数で問題に対する答えを求める

 問題:私がいちばん好きなポケモンは誰でしょう?

  ルール1――質問者は問題を出す者に対して原作的にどのような質問でもすることができるが、ルール2およびルール3に反することはできない。

  ルール2――質問者は複数の質問を一つにまとめることはできない。
  (例:「あなたの好きなポケモンの翼の有無とタイプを教えてください」という質問は二つの質問としてカウントされる)

  ルール3――「あなたが好きなポケモンは誰ですか」という質問はできない。

  ルール4――問題を出す者は嘘をつけない。

  ルール5――問題を出す者は質問者の質問に対して必ず答える。

  ルール6――質問に対する答えがわからない場合は「わからない」と答える。

  ルール7――酒は飲んでも飲まれるな。





 ガブリアスは溜め息をついた。
 たいして重くもない体重を重く感じてしまうのは、幼馴染のジュナイパーが酔い潰れたからだ。
 年の暮れである。年中行事に敏感なエオス島のこと、年の瀬は宴会が多くなる。トレーナーといっしょにパーティーに参加して、ポケモンまで酔い潰れること自体はたいしたことではなかった。ガブリアスにしても、酔っぱらって気づいたらモンスターボールのなかにいて、自分の家にいつのまにか戻っていたことはあるのだ。ガブリアスとジュナイパーはトレーナー同士の家が近いから、そういった場合に世話を焼きあうのは合理的な相互扶助という面もあった。
 それはよかった。
 それはよいのだが、ガブリアスが気になるのは、パーティーの最中、ジュナイパーが妙にそわそわしていたことだ。ずいぶん忙しなく目をきょろきょろさせ、用足しにでも行きたいのかと思っていたのだがそういうわけではなく、ガブリアスになにかを言いかけては深い緑色のくちばしを閉ざし、人間の飲むカクテルのせいかわからないが惚けたような顔をしていた。
 クリスマスに年越しと、ハロウィン以来の大イベントである。今夜の野外パーティーでユナイトバトルのトレーナーたちは入れ替わり立ち代わり訪れていたから、ガブリアスにとってもこれまででいちばん他者と接した日だったかもしれない。あるいは、ガブリアスにとっては既知のトレーナーやポケモンであっても、ユナイトライセンスを取得して日の浅いジュナイパーにとってははじめての相手もいた。それで緊張していたのだろうか。
 いや――そうじゃない。
 ガブリアスは直感としてわかってしまったのだ。
 ジュナイパーは&ruby(丶){誰};&ruby(丶){か};を気にかけていたのではなかった。ポケモントレーナー風にいえば、メロメロ状態。なぜって、ガブリアスがそうであった。ルカリオに恋をして、エオス島を全力で周回していたころの自分こそが。それは過去の経験に由来するガブリアスのきわめて正解率の高い直感ではあったが、その「誰か」が誰なのかまではわからない。
 ――ま、ジュナイパーが誰にメロメロになっていようが関係ねえんだけどな。
 とはいうものの。
 だったらそいつに連れ帰ってもらえばいい話で、さらにいえばモンスターボールに戻してもらえばいい。こうして肩を貸して家までいっしょに帰る自分がバカみたいに感じる。世界でいちばん、くだらないことをしているように思われた。
 だから、溜め息が漏れるのもしかたない。
 足で玄関ドアをドンドン叩く。ガブリアスの翼は不器用だ。中からジュナイパーのトレーナーの母親が出てきて、扉を開けてくれた。勝手知ったる幼馴染の家、やれやれと思いつつトレーナーの部屋まで運ぶ。
「んむうぅ~」 
 ジュナイパーはいまだ起きる気配がない。
 ガブリアスだって酔っぱらってないわけではない。このまま床で寝てやろうかと思った。そのほとんどは意地悪な気分だった。なんとなく、ほのかな悔しさみたいなものを感じたのだ。そこには微妙な寂しさもブレンドされている。
 部屋に入って灯りを点ける。夜のジーブルシティを歩いてきた目に、人間の家の照明が思ったよりも眩しかった。
「おい」ガブリアスはジュナイパーを揺すって声をかける。「水でも飲むか」
「ん……おねーがい」
「しゃきっとしろよ」
 いつもクールなジュナイパーが、こうやってメタモンみたいに溶け崩れて気合いが抜けたようすだと、どう扱ったものやら調子が掴めない。
 すると、とくに頼みらしい頼みもなく、冷たいおしぼりをふたつ、両脚に掴んだモクローが飛んできた。なんて気が利く弟分なんだろうと思い、ガブリアスは不器用な翼で受けとった。モクローはトレーナーのベッドに伸びているジュナイパーのほうには、同じく冷たいおしぼりを、ばちゃっと顔に投下していた。
 ――窒息するぞ、それ。
 しかしジュナイパーはうんうん唸りながらも、おしぼりを額のあたりにずりあげる。弟分のミスをミスにさせない気概だろうか。酔いつぶれていても、ジュナイパーはジュナイパー。クールである。
 ガブリアスはモクローが持ってきてくれたおしぼりで顔を拭く。寒い季節だし、外を歩いてきたばかりだからできれば暖かいほうがよかったが、酔っぱらってカッカしている顔に冷たいおしぼりも気持ちがよかった。
 ガブリアスがお袋さんに身振り手振りでなんとか水をねだり、トレイに乗せてコップをふたつもらってくる。ストローで水を飲めば、だいぶ頭もすっきりしてきた。しかし気分だけが晴れてくれない。ジュナイパーがいったい誰を好きなのかわからないという、その一点がどうにも気がかりなのだ。
 でも、そんなことで……
 ジュナイパーが誰を好きとか嫌いとか、そんなことで泰然自若の自分が揺らぐはずがない、とガブリアスは思っている。なのにどうしても落ち着かないこの気分は、いったいなにに起因しているのだろう。
 わからない。
 ポケモンは本能的な生き物だが、人間と暮らすポケモンは頭で考えたりもする。腕組みみたいに翼を組んで首を傾げるのも、元をただせば人間の真似であり、野生にはない仕草だった。
 そんなことをしてみたって、わかんねえモンはわかんねえけどよ。
 ああ、でも……そうか。そうかもしれない。
 なにがというと、わからないからこそわかりたいと思っているに違いないのだ。
 ガブリアスはジュナイパーが誰を好きなのは知らない。この知らないという事情――たとえば人間にとってはすこぶる気持ちの悪い状態のようであった。人間とは知を求道する生き物である。不知という白地図を踏破したいと考えるのが人間。そういう人間をトレーナーに持ち、日々を生きているポケモンだって、知らないことを知りたいという欲求が生まれてきたっておかしなことはなさそうだ。
 ガブリアスは納得し、うんうんうなずく。これは腑に落ちた。
 そうかそうか、そういうことか。俺は別に、この幼馴染のジュナイパーのことなんかどうでもいいのだが、ジュナイパーが誰かにメロメロらしいという未知のことがらに&ruby(丶){好};&ruby(丶){奇};&ruby(丶){心};(そう、好奇心というところがミソなんだよ)を抱いたのであって、その好奇心を満足させるための帰結として、現状、すなわちジュナイパーが誰を好きなのかわからないということに対して不満を感じているのだ。
 ガブリアスは鼻から長く息を吐き、ジュナイパーの足元に丸まっている毛布をツメに引っかけて伸ばし、腹のあたりにかけてやった。今から帰るのも面倒くさいし、このまま床で寝てしまおうと思う。
 ガブリアスはモヤモヤしていたことに一応の理由がついて安心した。しかし不満が解消されたわけではないから、隙あらば解消してやろうと思っている。
 ジュナイパーが好きなポケモンって、いったい誰だろう。
 その疑問もガブリアスが思っているだけで、事実としてジュナイパーがやっていたことといえば、パーティーでやたらソワソワしていたくらいではあった。たとえば早く帰りたかっただけなのかもしれない。恋と断定するのはガブリアスの早計かもしれない。
 しかし、恋にきわめて近い成分がジュナイパーの瞳の奥にあったのを、ガブリアスは感じた気がした。長い付き合いだ、それくらいはわかるとガブリアスは思う。正しくは、わかると思いたがっている。
 いずれにせよ、ジュナイパーが起きないことにはわからないのだが。
 と思っていたら、ジュナイパーが起きだした。伏し目がちなのはいつものことだが、少し据わった目のジュナイパーがそこにはいた。いつもの理知的な顔つきとは程遠く、精神的な不安定さが見てとれた。
「さっさと寝たほうがいいんじゃないか」と、ガブリアスは言った。「今日はたらふく飲んでただろ、珍しく」
「朝からパーティーだったからね……きみや、みんなが楽しんでるのにしらふを貫くほど不愛想じゃないつもりだよ」
「俺はいいんだよ。ああいう騒ぎ方には慣れてるから」
 エオス島におけるガブリアスは、一般には軽んじられる存在である。そのような肩身の狭さに対して、ガブリアスはドラゴンタイプ持ち前の無根拠かつ絶対的な自信によって無頓着の態度を見せていた。ユナイトバトルではともかく、一匹のポケモンとして交遊する適正は高い。イベントごとで煙たがられることはないポケモンであった。
「あっそ」
 ジュナイパーはそれだけを言い、いつものしゃらっとした態度とは正反対の、粗野な動きで水を飲み干す。差していたストローも捨て、飲みづらそうなくちばしで、喉を鳴らしながらごくごく飲むのだ。今のジュナイパーには自分を装うだけの余裕のようなものが欠けていた。
 そういう姿を見るのが、ガブリアスもいやではなかった。この家にも何度も来ているし、そこでのジュナイパーはよそ行きのいつもの顔とは少し違っている。その延長と考えれば、ふだん見れない顔が見れたようなお得感だってあるように思う。
「で?」
 出し抜けにジュナイパーが言った。
「で、ってなんだよ?」
「なにをうんうん悩んでるのかな」
「あー、別にたいしたことじゃねえけどな」
「たいしたことじゃないなら、いま訊いたっていいだろ? なんなの」
 酔っ払いの絡み方であった。
 ジュナイパーの酔い方は別に絡み酒というわけではなく、やはりポケモンも未知が生じるとそのわからないエリアを埋めたくなるものらしい。今、その未知の原因がほかならぬガブリアスであり、自分が感じたものと同じものをジュナイパーに与えているという一抹の責任めいたものを、ガブリアスも感じなくはなかった。
「おまえさ、パーティーで妙にきょろきょろしてただろ」
 ガブリアスは正直に言うことにした。
「え? そ、そうかな」
 言ったら言ったで、ジュナイパーは妙に動揺する。弓の名手らしからぬ反応であった。酒で酔っていつもの調子でないことをガブリアスが加味しても、それはジュナイパーのフォーマットからはそうとうの逸脱を見せていた。
 ――やっぱ、恋か?
 ガブリアスは、頭のなかがグツグツと煮立ってくるのを感じる。別に憎悪や怒りが湧いたわけでもない。しかし軽いパニックではあった。予期していたはずの事態が実際に到来しただけのことなのに。
 視線を落とし、床のシミを数えてみる。
 一個もねーし。
 というわけで、ガブリアスはジュナイパーに再び視線をあわせた。
「で、名探偵ガブリアス様は気づいたわけだ。これはジュナイパーさんは誰かに恋をしてるな、ってよ」
「こっ、こっ、こっ、恋なんて! そんなこと」
「誤魔化しても無駄だぜ。おまえのことはずっと見てる……からな」
 ガブリアスは勢いで言ってしまい、最後は消音モードになってしまう。
 言ってて悲しい。
 なぜって、ジュナイパーはガブリアスを見ていなかったのだ。きょろきょろする視線は絶えず誰かを探しているかのようであり――隣にいる幼馴染のガブリアスのことは一顧だにしなかった。少なくとも、ジュナイパーの恋の対象はガブリアスではない。
 しかしそれは当たり前なのだ。俺はオスが好きなオスだが、ジュナイパーはそうではない。そうではないだろう、とガブリアスは思っている。
「誰なんだよ?」
 なぜかズキズキと胸が痛むのを気にしながら、ガブリアスはジュナイパーを問いつめる。
「恋なんかしてないよ」と、ジュナイパーは言った。
「それにしてはやたらと周りを気にしてたよな。誰を探してたんだ? あるいは……どっかのエロおやじみたいにそいつを視界に入れたいけど、気にしているのを悟られるのが嫌で、ちらちら見ては視線を外してたとか、そんな感じなのか」
「勝手に言ってろ」
「なんだよ。怒ることねえだろ」
「別に怒ってない。頭がぼうっとしてるのにきみの声が煩わしかっただけ」
 なんだよ。
 ガブリアスは呟く。「そんなに迷惑だったかよ」
 おろおろしているのはモクローだ。
 二匹のあいだをふらふらと行き交い、冷え切った空気をどうにかしようとしている。やがてジュナイパーの膝に落ち着いた。ジュナイパーは大きく溜め息をつき、モクローにもう一杯、水を頼んだ。
「じゃあ俺は帰るからな」
 ガブリアスは耐えられなかった。
 これ以上、ジュナイパーと顔をあわせていると余計なことを言ってしまいそうで、ガブリアスは逃げようとしたのだ。
「待ってよ」
「なんだ?」
「外はもう暗いし、今日は泊まっていきなよ」
 モクローが持ってきた水を受けとり、ジュナイパーは今度はそれなりに優雅にちびちびと飲み干した。それでようやく落ち着いたか、いまだ酒で目が潤んでいるものの、気ははっきりしてきていた。
「別に家まで近いし、たいしたことじゃねえだろ。おまえは片想いの相手のことを考えるのに忙しいだろうしな」
「だから別に恋じゃないって言ってるだろ」
「どうだかな、おまえが誰かに想いを馳せてたのは確かなんだ。今さら俺に隠そうとしなくてもいいだろ!」
 その程度の仲だったのか、とガブリアスは言いたかった。
 ガブリアスはジュナイパーのことを少なくとも友達だと思っていた。ほかの有象無象のポケモンにも面白がられて構われることの多いガブリアスだが、ジュナイパーとの関係はほかの誰とも違う特別なものだったのだ。それは亀裂だった。ガブリアスは自分のハートに亀裂が入ったように感じる。
 ジュナイパーはかぶりを振った。
「言ってもわかってはもらえなさそうだね」
 ベッドから立ちあがり、ジュナイパーは主人のデスクから紙とペンを持ちだしてきた。そこにさらさらとなにやら書いている。翼の動きを見るに絵ではなさそうだが、ガブリアスは目を剥いて驚いた。ジュナイパーは文字が書けたのか。人間と住んでいるとはいえ驚愕だった。
「なんだよ、それ」
「黙って。少しは考えること。ユナイトバトルだってトレーナーの指示に頼りきりじゃ勝てないんだから」
 ちぇ、だ。
 さっきまで酔い潰れて前後不覚に陥っていたくせに、もう回復している。ポケモンという生き物は実にそうであった。その頑丈さに不公平さは唱えられない。




 ジュナイパーはガブリアスに紙を見せた。両端を持って掲げる。
「私がいちばん好きなポケモンは誰でしょう?」
 当然、ガブリアスにはそこに書かれている文字などは読めない。ジュナイパーが読みあげた、その通りのことが書かれているのだと思うしかない。まあ文字を書けるとはいえ、どうみても達者とはいいがたかった。しかし意味を認識し、ガブリアスは軽い戦慄を覚える。
 いったいどこからそういう悪魔めいた思考がでてくるんだろう。
「ゲームでもしようってのか?」
「そう。ポケモンもたまには思考をフル回転させて、知的なゲームを楽しむんだ。くだらない罵詈雑言より、よっぽど建設的だろ?」
「そんな程度のことなのかよ」
「ぼくが恋をしてる、かな。違うって言っても、どうせきみは聞く気がないだろ? だったら最初からルールを提案したほうがいい。このゲームのマスターはぼく」
「いいぜ。やってやろうじゃねえか」
 ガブリアスは腰を浮かし、ジュナイパーと対になるよう向きあって座りなおした。紙は二匹のちょうど真ん中の距離に置かれた。
「一応、ルールを説明させてもらうね」
 ジュナイパーはどことなく楽しそうにしていた。その余裕が、ガブリアスはなぜか憎らしい。こっちにはほとんど余裕なんかないってのに。
「このゲームには、ふたつの立場が存在する。まず、問いを出す者。その名の通り、問いを出す。この場合の問いは『私がいちばん好きなポケモンは誰でしょう』というもの。疑義を挟む余地のない、唯一の問いと捉えてもいい。世界にはあらゆる問いがたゆたうけど、このゲームにおける問いは、これただひとつのもの」
 ガブリアスはゆっくりとうなずく。涼しい顔のジュナイパーの考えを探ろうとする。
 訝しいのは、自明のことをわざわざゆったりした口調で名言することだが、ジュナイパーらしい完璧主義があらわれただけとも、ガブリアスには思えた。そもそも思考のゲームはゲーム自体に重大な矛盾を孕んでいることが多く、もしかするとガブリアスを混乱させようとしているかもしれない。
 ジュナイパーの説明は続いた。
「ぼくときみは、それぞれ先に述べたふたつの立場を選択する。覚えてるよね。問題を出す者か、質問する者かを選ぶわけ。今回、きみは質問をする者だね」
「ああ、そうだな。それで?」
「このゲームはターン制だ。より少ないターンで問いに対する答えを得られれば勝ち。きみの、ぼくに対する勝利条件は、ぼくの想定する答え以上のものを提出できるかどうかってことだね」
「それで、勝ったらなにをくれるんだ?」
「きみが知りたがっていたことの答え」
 ガブリアスは鼻を鳴らした。「嘘はつかないんだな。このルールではゲーム的には嘘はつかないが、勝利条件達成後についてまでは書いてないだろ」
「そこまで野暮じゃないよ。きみが勝ったら正直に答えるさ」
 ジュナイパーはかぎ爪でコツンと床を叩き、心外だと非難した。
 ジュナイパーは嘘をつかない性格ではない。そして冗談を言わないというわけでもない。が、基本的に信頼関係にかかわることは丁寧に処理したいタイプであった。たとえ気の置けない間柄であろうと、相手がガブリアスであろうと、そういうところは変わらない。
 ガブリアスが恋をしたルカリオと通じるところがある。関係の対処の仕方が共通規格によっているというか、誰だから接し方が変わるということがあまりない。そしてルカリオとの違いは、ルカリオは原則的には懐っこいのだが、ジュナイパーの場合は一線を引いて基本的にすべてが真面目だ。嘘をつかないと宣言した以上、それは信頼できるとガブリアスは思う。
 この点に関して、ガブリアスは納得した。問題はゲームのほうだ。
 複雑なゲームではない。このゲームは思考力というよりは発想力が求められていた。ガブリアスの発想力がジュナイパーのそれを上回れるかどうかで勝敗が決まる。
 勝負百般、負けず嫌いのガブリアスは勝ちを目指す。
「質問、いいか?」
「どうぞ」
「このゲームで問いの答えになるヤツは、当然おまえが知ってるヤツってことでいいんだろうが、そうなると俺が知らないでおまえだけが知ってるってパターンもあるわけだよな」
「それはない。だいたい、あちこち首を突っこみまくりなきみ以上の知りあいがぼくにいるわけない」
「つまりおまえ、引きこもりなんだな」
「うっさい。とにかく、今回の答えについて言えば、あのパーティーに来てた連中でいいよ。チームを組んだこともないポケモンもいたけど、それも含めて」
 ユナイトライセンスを取得するポケモンが増える一方のエオス島である。同じ種類のポケモンもいくらでもいるし、そこにいたトレーナーだけでもガブリアスは把握しきれていない。入れ替わり立ち代わり顔を出していたのもあるが、モンスターボールから出していないポケモンもいただろう。
「たとえば、ショップのエレキッドとかも答えになりうるわけか」
「そうだね。たまたま目に入ったポケモンを気に入るってこともありうるからね」
「同じ種類のポケモンの場合はどうなんだ」
「ほかと区別できれば答えになりうるってことにしようか」
「こりゃあ、ずいぶん多いじゃねえか」
「それくらい多くないと、きみの発想力を試せないだろう?」
 得意げな笑み。ジュナイパーは、あのわずかな時間でガブリアスを越える発想をなしえたということでもあった。
 ともかく、ガブリアスは心構えを新たにし、もう一度ゲームのルールを考えることにした。




 このゲームの目標は、&ruby(丶){よ};&ruby(丶){り};&ruby(丶){少};&ruby(丶){な};&ruby(丶){い};&ruby(丶){質};&ruby(丶){問};&ruby(丶){回};&ruby(丶){数};を達成することだ。ガブリアスがジュナイパーの恋の相手を知ることではない。そしてガブリアスとジュナイパーはお互いの発想力を競うわけで、思考力や論理力はあまり関係がない。
 おそらく答えは「ゼロ」か「1」。そうでなければジュナイパーが問いを提示することはない。
 たとえば三回や四回の質問で決定できるとしても、それはあまりにも普通すぎてゲームにならない。故に、「ゼロ」か「1」。
 しかし「ゼロ」はありうるのか。
 ガブリアスはジュナイパーの好きなポケモンが誰なのか知らない。もしも事前に知っているなら、その答えは「ゼロ」でもよかった。しかし知らないものは知らないのだ。だからこそガブリアスはこのゲームに乗った。
 だから、答えは「1」だ。道理として、答えは「1」しかありえない。この結論から逆流するように、質問を導けばよい。
 しかし、一回の質問で答えを知りうるにはどうすればいいか。
 ガブリアスは翼で頭まで抱えて考える。ジュナイパーはなにか羽を広げて手入れでもしれいるようだった。
 ああ、こいつにとっては俺の懊悩なんてどうでもいいんだな。
 などと思えばいい気はしないが、しかし深夜だというのにさっさと寝てしまわないのは、ひとえにガブリアスの答えを待っているからだ。怒ることもできず、ガブリアスはただ悶々とするしかない。苛立ちに尻尾を床に叩きつけたくなるのは、よその家だからとさすがに我慢。 
 ガブリアスは考える。質問回数が「1」というのは間違いないはずだった。しかし、どうやって一回ですべての答えを網羅できる?
 たとえば、トレーナーの住んでいる街を尋ねても、街の誰のポケモンかはわからない。ポケモンのタイプなど区別する要素にもならない。体の色なども被っているヤツはいる。
 決め打ちするのは、どうか。
 たとえばジュナイパーの好きなポケモンといえば、だいたいモクローやフクスローと言って嘘にはならない。だったらモクローやフクスローにまつわる質問をすれば、前提とあわせて一回で答えが出るっていうのはどうなんだ?
 好きなポケモンの名前の頭文字はときいて、「モ」と答えればモクローだし、「フ」といえばフカマルやフシギダネたちも本当はありうるところだが、ジュナイパーが好きなポケモンといえば弟分のモクローやフクスローしかないのだろうから――
 だめだ。それだとわざわざ答えをあれだけ多様にした意味がわからない。ジュナイパーは、パーティーに来ていたポケモンをすべて答えに含めるとまで言った。それを、おまえが好きなのは進化系列に決まってると決めてかかるのは間違いだ。思考狭窄、思いこみ、ただの先入観だ。
 では、ほかにどういう方法があるのか。
 個体識別に有用なのは名前だが、名前を訊いてはならない。ルール3に反するからだ。つまり、名前に代わるものが必要だということにならないか?
 そこまで考えて、ガブリアスはピンときた。
 そういえば、ポケモンを識別する情報が名前やタイプ以外にもある。&ruby(丶){能};&ruby(丶){力};だ。
 能力はポケモンのアイデンティティだ。たとえば、同じ電気を操るでんきタイプでも、ピカチュウは体内で発電するのに対し、ゼラオラは自力での発電ができない。タマゴを生み出すポケモンといえばラッキーやハピナスのことだなんて、そこらの人間の子どもでも知っている。
 でも、そんな簡単でいいのか?
 ジュナイパーの横顔を見つめる。たった数秒かそこらで作られた問題だ。その程度の問題だったとも考えられるが――
 いや、待てよ。
 よく考えれば、バリヤードとかって、どういう能力なんだ? リフレクターやひかりのかべなんて、サーナイトでも出せる。パントマイムにしても、ガブリアスがボディーランゲージでお袋さんから水をもらったみたいに、訓練すればできる特技ともいえる。マンムーなどは能力といった能力もガブリアスは思いつかなかった。
 ポケモン図鑑を持つ人間と違い、ポケモンは必ずしもほかのポケモンについての詳細なデータを持っているわけではない。
 そういう能力がわからないヤツらは、「能力がわからない」ことでカテゴリーが一致しているわけだ。ガブリアスが「あなたが好きなポケモンの能力はなんですか」と訊いても、ルールにしたがってジュナイパーは「わからない」と答える。そうすると、そいつらのうちの誰なのか決定できない。
 あぶねえ……
 これは巧妙な罠だ。わかりやすい、見える地雷ってヤツだぜ。
 そういえば、いつの間にか部屋のなかは暖房が利いていて暖かい。眠くなってくるような暖かさだ。
「なあ」
「ん、そろそろ答える?」
「じゃなくて、この暖房、もっと下げていいんじゃないか」
「風邪を引くだろ。寝る前には消すさ」
 ガブリアスがとっとと帰っていれば、ジュナイパーも今ごろは寝ていたのだ。この暖房のほとんどの意味は、ジュナイパーがガブリアスに気を利かせた結果なのだった。
 ガブリアスはまた翼で頭を包む。まったく、どうしてこんなことになってんだか……
 ジュナイパーは酔っぱらっていたときを除けばあっという間に自分を取り戻して、平然としている。揺らぎがなく泰然としているのは、本当はジュナイパーだった。こいつは余裕の部分がみんなよりも多いのだ。
「なんか飲みてえ」
 不機嫌めいた声でガブリアスは言った。ジュナイパーに思いきり迷惑をかけてやりたい気分なのだ。
 しかたないねとつぶやいて、ジュナイパーは言った。「なにが飲みたい?」
「酒だ。酒もってきやがれ」
「ルール7に反するからダメ。今日は体にやさしいのにしてきなよ」
「じゃあ、あったかいミルクでいい」
 はいはいと言って立ちあがる。それくらいのことなら、お袋さんにねだらずとも自分でできるというわけだった。鍋にミルクを注いでコンロで火にかけ、温めてカップに移す――それだけのことなのかもしれないが、ガブリアスの翼にはできないことだ。
 目の前にカップが置かれた。湯気のたちのぼるカップを、両の翼で包み持つことができるまで、冷めるのを待つ。
「さあて、そろそろ答えを考えっかあ」
 気安い声をあげながら、ガブリアスは猛烈に思考していた。




「考えてみれば、不思議だね」
 どれくらい経ったか、ジュナイパーは急に言った。
「なにがだ」と、ガブリアスは言った。
「問いというもの、それ自体が」と、ジュナイパーは言った。「問いというものは、それ自体に矛盾を孕んでいるんだ。問題は、解き方がまったくわからなければ問題として成立しない。逆に解き方がわかるのなら、それも問題として成立しない」
「たしかにな」
「問題っていうのは、微妙なラインに立っているからこそ成り立つものなんだ。わかるか、わからないか。そんな曖昧な関係のときだけ成立する」
「俺はそうは思わねえがな。なにかについて解答ができたら、その解答から次の疑問が生まれたりするだろ、人間って。問題は無数に生まれてゆくから、曖昧だからこそ成立するなんてもんじゃない。混ざる前のミックスオレみたいに、時間の経過で変わってゆく……その運動そのものが問題ってやつなんだろ」
「きみにしてはよく考えてるね」
 わざわざ余計なことを言わなければいいものを。
「その調子で、このゲームの答えも早く出してくれよ。そろそろ眠たくなってきた」
「心配しなくても、すぐにぐっすりさせてやるぜ」
 ジュナイパーは本当に眠たそうにしていた。人間と暮らしていれば、たいていのポケモンは夜に寝る習慣が身につくものだ。ジュナイパーはあまり無防備なところを見せない性格だが、ガブリアスの前ではこんなにも無防備だ。なんてやつだとガブリアスは思う。俺がこんなに苦労してるってのに。
「さすがにタイムオーバーにしようかと思ってた」
 答えはまだわからない。こうなったら破れかぶれだ。
「ああ、わかったよ。答えはこれだ!」
 ガブリアスはジュナイパーの顔の前にツメを立ててみせる。
 つまりは、「1」という数字のことだった。
 ジュナイパーは不敵に微笑んだ。続きを促してくる。
「どういう意味か、教えてもらえるかな」
「簡単なことだ。おまえが提示したルールでは――そう、とくにルール3では――あなたが好きなポケモンは誰ですかって質問はできないってなってたよな」
「そうだよ。もしかして、あなたの片想いの相手は誰ですかとか、微妙にアレンジする気かな? それはダメだよ」
「ンなこたあ言わねえ。俺が言いたいのは、誰かを直接おまえに訊くのはダメだってことだ。だったら間接的に訊くのはどうだ」
「なるほど」と、ジュナイパーは言った。「だいたい言いたいことはわかった」
「ああ。俺は書けばいいんだよ。紙にみんなの名前を書いて――まあ、俺は文字なんか書けねえけど――表を作る。『このなかで答えにあたる者はだれか』って訊けばいいんだ。これなら、俺はおまえに直接質問してるわけじゃねえ。名前はそこにすでに書かれてあるんだからな」
 ジュナイパーはしばらく目を瞑って考えた。ガブリアスはハラハラしながら、ジュナイパーの出方を待った。
「答えは『1』か。目標に対する答えが『1』……理由はまあ、ぼくが納得したかっただけだから、別にどうでもいい。なるほど、そういう考え方もあったんだね」
「どうだ。参ったか」
 しかしガブリアスは内心では焦っている。どうやらジュナイパーが想定していた答えとは違うらしい。つまり、ここでジュナイパーが納得しなければガブリアスの負けになるのかもしれない。厳密には、ジュナイパーの想定した答えを聞いて、それがガブリアスがショックを受けるようなものであれば負けなのだ。
 数秒の沈黙があり、ジュナイパーはガブリアスの真正面に戻って視線をあわせた。
 そして言った。
「きみの負けだよ、ガブリアス」




「なにが負けなんだよ」と、ガブリアスは言った。「答えは……つまり、より少ない質問回数ってのは一回に決まってる。それより少ない回数は不可能じゃねえか」
 ジュナイパーは目を細めて微笑んだ。
 進化しても、どこか幼い雛のような顔立ちのジュナイパーは、なのにこういう微笑みをとても上手に浮かべてみせる。体つきもガブリアスのほうがずいぶんと大きい。ユナイトバトルでいえば、ガブリアスは間違いなくジュナイパーの盾となるべきポケモンだ。それでもジュナイパーの成熟した微笑みに、ガブリアスは自分がよちよち歩きのフカマルから少しも成長できていないような……そういう大人らしさ、頼もしさを感じないではいられない。
 ジュナイパーの微笑みは、自分の知性が他者を上回ったことに対する勝利の権利のようだった。
「答えはゼロ回だよ」
「なんだと?」
 ありえない。それは原理的にありえないことだからだ。
 なぜって、俺は知らない。ジュナイパーが誰を好きなのかなんて、知らない。
「納得できねえ」と、ガブリアスは言った。「説明しやがれ」
「もちろん」と、ジュナイパーは言った。「説明させてもらうよ」
 ジュナイパー曰く。
「この問題の答えは、ぼくが誰を好きなのかという解答自体じゃないことは、さすがに気づいてるね。そう、目標を達成する方法論がこの問題の答え。『より少ない質問回数』を達成すること。きみはその答えとして、『1』を提示した。なら、ぼくはそれより少ない『ゼロ』を提示することで、きみに勝てる。ここまでは、わかるね?」
「ああ……」
「問いを見て。なんて書いてある?」
「私がいちばん好きなポケモンは誰でしょう」
「きみはここですでに間違いを犯してる。書かれてある文字は『私』なのに、『私』、イコール、ジュナイパーと結論した。前提から間違ってるんだよ」
「意味がわからねえ」
「ここでいう『私』は、別に誰でもよかったんだよ。ぼくでもいいし、きみでもいい。そういう不確定要素として、『私』はあった」
「それで?」
 なにがなんだかわからないが、ともかくぜんぶ聞こうとガブリアスは思った。
「ぼくときみの立場も、流動的に決まる。ぼくは言ったはずだよ。『ぼくときみは、それぞれ先に述べたふたつの立場を選択する』って。この言葉の意味に従えば、ぼくは問いを出す者と質問する者を選択し、きみも同じように選択する。普通なら、ぼくが問いを出す者、きみは質問する者となりそうだけど、本当にそれだけかな」
「え……そ、それはズルいだろ!」
 ガブリアスも、ようやくジュナイパーの言いたいことがわかった。
 ガブリアスはこう思っていた。
 
 ジュナイパー → 問題を出す者
 ガブリアス → 質問する者

 しかしジュナイパーの言葉の意味は、実際にはこうだった。

 ジュナイパー →(問題を出す者・質問する者)
 ガブリアス →(問題を出す者。質問する者)

「なんのことはない。ありきたりな言い方をすれば、自問自答だよ。ぼくは自分に問題を問いかける。『ぼくがいちばん好きなポケモンは誰?』。質問するまでもないね。なぜって、答えはぼくの心のなかにすでにあるんだから。よって質問回数はゼロ回。これが答えだよ」




 クリスマスの夜、ガブリアスは孤独だった。
 エオス島におけるガブリアスの地位は軽い。スタジアムの外で友達にはなれても、ユナイトバトルで足を引っ張る印象が拭えない。普段のガブリアスは蔑視や中傷など気にしない。自分のいないところでなにを言われようと、いちいち構っていられない。しかしクリスマス、この日ばかりは傍若無人のドラゴンタイプでも、いつも頭を悩ませなかった世間と呼ばれる観念が、より神経を突っついていた 
 ジーブルシティのどこもかしこも、番に溢れている。人間だけでなくポケモンまでが睦まじく相方と寄り添っていた。ルカリオとゼラオラのように。
 他者からなにを言われようと、ガブリアスは平気であった。しかし自分で思ってしまうことにはどうしようもない。俺だってルカリオと結ばれていれば、こんなふうに一匹だけで寂しい気持ちなど味わわなかった。
 ゼラオラが羨ましい、とはあまり思ったことはなかった。あいつらが幸せそうにしていたら、自分も幸せであるような気持ちがした。悔しがらず、素直に祝福できる自分の器をガブリアスは自分の美点であるとも思っていた。実際にそういう態度が益をもたらす場合が多かったから、ガブリアスはそうあれかしと思って生きている。それでもまわりがみんな番を連れて幸せそうに過ごしているクリスマスの夜、自分には構ってくれる相手がいないことが容赦のない自覚として襲ってきた。劣等感。自分で自分を閉じこめるその牢獄の苦しみは激しかった。
 それでも、こんな思いをしているのは自分だけではない。クリスマスイブの夜、ガブリアスはトレーナーとパーティーには行かず、街の盛り場のいくつかをうろついていた。ガブリアスと同じような境遇のポケモンがたむろしている。実際に来てはみたものの、ガブリアスはそいつらに親近感以上のものは覚えなかった。それは「俺もこいつらと同じか」という同族嫌悪でもあった。どいつもこいつも辛気くさそうに顔色を伺って、面白おかしく憂さを晴らしてやろうという気概に欠けていて、愛おしいとは思えそうにない。
 そんな孤独者のなかに、ジュナイパーがいた。公園のベンチのそばの街灯に照らされながら、「スターマントスタイル」のホロウェアで着飾って突っ立っているジュナイパーは、その色合いもあってクリスマスツリーみたいに見えた。
 向こうがガブリアスに気づいた。気づかれてしまったのもは、無視するのも感じが悪い。ガブリアスは寄っていって声をかけた。
「よう。おまえもこういうとこ、来るんだな」
 ジュナイパーは照れくさそうにおどおどする。
「わ、悪いか。ぼくだって溜まるものは溜まる……」 
 トレーナーがいると、野生とは違って好きに番を作れないから、こういう場所も必要になるわけだった。
 ガブリアスはなんとも言わない。それがジュナイパーの自尊心にいくらかの打撃を与えるだろうことも含めて。
「この前のゲーム」
 ガブリアスはベンチに腰を下ろした。座りたかったわけではないが、なんとなく顔を突きあわせたままでは言いにくい。
「あの答えに、俺は意義ありなんだよ」
「ふうん」
 ジュナイパーも隣に座った。椅子に座るということ自体が、ポケモンにとってあまり馴染みがない。幼馴染と隣あって、イブの夜に盛り場のベンチに座っていることが、ガブリアスにはとてつもない非日常のように感じられた。
「あのルールに気づかなかったのは、きみの過失だろう。どうあがいてもきみの負けだよ」
「そんなことが言いたいんじゃねえ。おまえの話は、それはそれで納得だ」
 ジュナイパーは、落ち着いたように話しながらも目がぎらぎらしているガブリアスを、少し恐れた。ガブリアスは好戦的だし、性格には凶暴なところもある。そういうところを見たことがないわけではなかったが、その矛先がジュナイパーに向けられた経験はあまりなかった。
 それでも、あのゲームの勝者はジュナイパーなのだから、なにもうろたえることはない。毅然としていればいいはずだ。
「あのとき俺が言った理由、あれは嘘だ」
「ん?」
「一覧表を見せて云々ってのは、おまえの答えを聞きだすためのブラフだったんだよ」
「それでも、答えが『1』なら――」
「違う。それも違うんだよ。俺が示したのはこれだ」
 ガブリアスは、あの日と同じようにジュナイパーの顔の前にツメを立てる。
「これは『1』じゃない。『マイナス1』なんだよ」
「マイナス? なんだ、それ」
「いいか。今から言うことをよく聞けよ」
 ガブリアスの声は引き絞るように力強い。引き絞られた弓――そんな気迫を、ジュナイパーはガブリアスから感じた。
「最初から質問なんかする必要なかった。おまえが言いたいことは、誰かを好きってことは自分の内面の問題だから、誰かがどう想ってるかじゃないってことだろ。たしかに俺もそう思うよ。だから、言うぜ」
「う、うん……なに?」
「俺はな……お、お、おまえのことが、好きなんだ」
「は?」
「好き、だぜ。ジュナイパー」
「ど……どういう意味かな」
 きた。
 ガブリアスはカッカする顔のことなんか無視して、ジュナイパーにツメを突きつける。
「それだ!」
「なっ、なんだよ? どういうことなんだ!」
 ジュナイパーは混乱を隠さなかった。想定外のことがあるとすぐにパニックになる……この幼馴染はそういうヤツなのだと、ガブリアスは少し安心できた。そこまで計算していたわけではなかったが、慌てるジュナイパーは、ガブリアスのよく知るジュナイパーの姿だった。
 それは別に、俺が目の前にいるからってわけじゃない――
 とにかく、ガブリアスは指摘した。自信たっぷりに。と、見えるように努めたのだった。
「質問者である俺は、質問したわけじゃない。ただ、おまえに向けて宣言しただけだ。それに対して、問題を出したおまえは質問者に対して、&ruby(丶){逆};&ruby(丶){に};&ruby(丶){質};&ruby(丶){問};&ruby(丶){し};&ruby(丶){ち};&ruby(丶){ま};&ruby(丶){っ};&ruby(丶){た};。これは『マイナス1』といえるよな?」
 聡いジュナイパーは、ガブリアスの言葉の意味をちゃんと理解できた。
「そんなの……思考でも論理でも、なんだもない。ただのゴリ押しじゃないか」
「パワーで押しまくる。それが俺だ」
 目を白黒させるジュナイパーは視線を落とす。
「好きっていうのも?」
 ジュナイパーは小声だった。ガブリアスはうなずくだけだった。力技で押し切ったものの、冷静になると恥ずかしい。
「とにかく、俺の勝ちだ! いいな?」
「しかたないな……」ため息をつくジュナイパーの顔は、本当に「しかたないな」の微笑みをしていた。「今回だけだからね」
「おう」
 雪が降るみたいに寒いものを、ガブリアスは心に感じた。
 ガブリアスは覚悟していたつもりだ。
 ジュナイパーを好きといったことは、嘘ではない。それが恋心か、仲のいい友達としての言葉かはともかくとして、真実の言葉だった。その言葉が引きだされたのは、ジュナイパーの論理が構造として、誰かを気にするより自分の心を気にしないと言っているようだったからだ。そのせいで、ガブリアスは素直になれた。
 でも、だったらおまえの心はどこにある?
 おまえの恋の相手は?
 俺じゃないのはわかってる。
 心が定まっても、寂しいことには変わりない。
 クリスマスの夜、ガブリアスは孤独だった。
 でも――孤独は、ジュナイパーも同じだ。誰に恋をしていようと、少なくとも今は、まだ。
「まあそれより、俺もおまえも、せっかくこんなとこに来てるんだ」
 ガブリアスは自棄だった。翼を開き、ジュナイパーの肩へ回す。
「ヤるか?」
 抱き寄せた。
 ジュナイパーの目が、雪だるまのように真ん丸になる。おろおろとさまよう視線を、ガブリアスはじっと見つめたまま、待っていた。多分、パニックのジュナイパーを押しきるのは容易い。このままひょいと担ぎあげてお持ち帰りしてしまうくらいのことは。ただガブリアスはジュナイパーの自由を抑圧したいとは思っていない。強引にことに及ぶのは、そこに一種の相対的な自由を感じとれなくもないが、それ以上に自分の立場だったらどうだろうという共感を考えてしまう。それもこの幼馴染が相手だからかもしれない。明日に処刑される姫君が、飼っている小鳥を逃がすのは、小鳥に自分を重ねあわせるからだ。意のままに誰かを操っても罪悪感が生じないほど、ガブリアスは身勝手ではなかった。
 ガブリアスが本質的に求めていたのは、自由な意思で、無条件に、構ってくれるジュナイパーだった。
 迫られたジュナイパーが、自分の体を求められているという感覚を受け止め――それが了解の域まで達し――首元のツルを引っ張って、緑色のフードみたいな部分を絞り、顔を隠して――それでもこっくりと、無言ながらもうなずくまで、ガブリアスはちゃんと待ってやった。それでとても満足だった。
 両腕にジュナイパーを抱きあげたガブリアスの足どりは、マッハポケモンの名が表すように軽かった。クリスマスソングの鳴るにぎやかな夜の街を、ガブリアスは高速で駆け抜けた。こういうときは、逆にぶっ飛ばすのが賢明だ。なぜって、俺もこいつも、本当は寒いのなんて苦手なんだから。走る時間を減らしてしまえば、それだけ風を浴びることもないのだ。
 ジュナイパーがしがみついているのは、寒さに堪えるためだ。そうだとしても、この幼馴染が今は自分を頼ってくっついてくれていることが、ガブリアスは嬉しかった。




 置いてゆかれる気がした、というのがガブリアスの心境として近い表現だった。
 エオス島において、ガブリアスの地位は軽い。しかしそれはジュナイパーとて同じであった。同時期にユナイトバトルに参戦したニンフィアや新参のアマージョに比べ、ジュナイパーはさほど好成績を残せていない。そういったところでの仲間意識のようなものを、ガブリアスは抱いていた。それが、ジュナイパーが本当に恋をしてしまっているのなら、ガブリアスはなんとなく負けている気になってしまう。俺はルカリオを手に入れられなかったのに……
 だけど、それを言ったら先に抜け駆けしようとしたのは俺のほうってことになるよな。俺が本当にジュナイパーの意思を尊重したいなら、こいつの恋を祝福してやるのが正しい態度だ。でも、みっともなくてもなんでも、こうしてジュナイパーに愛着みたいなものを感じているってことは、事実なのだ。
 幼馴染の性に直接かかわったことはなかったが、少なくともこの夜は、俺がこいつの番だ。&ruby(丶){溜};&ruby(丶){ま};&ruby(丶){る};&ruby(丶){も};&ruby(丶){の};を吐きだすためのワンナイトラブだとしても、俺はこいつをそういうつもりで抱こう、とガブリアスは思った。
 主人が出かけて無人になっている家に入るなり、ガブリアスはジュナイパーを壁に抑えつけ、体で体を圧迫しながらくちばしへ吸いついた。体格差のせいで、ジュナイパーの頭はほとんど真上を向かざるをえない。急いたガブリアスの強引な口づけを嫌がっていないことは、分厚い舌を、上下に開いて受け入れるくちばしが詭弁に語っている。ガブリアスもジュナイパーも、相手が自分と同じオスであることは、あまり意識していなかった。それは人間とは違うポケモンの奔放さであった。交尾したいと思った相手が、交尾の相手なのだ。人間だけが、あれこれと理屈をつけて同性間の性交を忌避しようとする。ガブリアスは、気位をいつも崩さないジュナイパーが盛り場で交尾相手を探していたことに意外な興奮を覚えていたし、ジュナイパーの側も、逞しい体のドラゴンに抱かれることを好奇心とともに受け入れていた。これまでは恋や交尾といったことは少しも考えたことのないポケモン同士のことであるから、その異様さこそクリスマスの魔力だった。
「あふっ、ふうっ、ふんんん……」
 くちばしを丸ごと咥えこむくらいの勢いで、ガブリアスは熱心にジュナイパーを愛した。唾液を啜り、舌を吸いあげ、くちばしを舐めしゃぶる。いつまでそうしているつもりなのかと、自分でも呆れるくらい、ずうっとジュナイパーにキッスをし続けていられた。そのうちジュナイパーは息が荒くなってしまって、ぴ、ぴ、と小鳥のように愛らしい声が喉の奥で鳴っているのが聞こえた。
 ジュナイパーの腰は揺れていた。ガブリアスは全身でジュナイパーを壁に拘束していたから、それがよくわかった。ジュナイパーは気持ちよくなってしまっていた。ガブリアスがあんまりにもくちばしを愛撫するせいで、くちばしが性感帯であるジュナイパーは、ガブリアスにバレてしまうことがわかっていても、体が波打ってしまうのを堪えようもなかった。淫乱と罵られていじめられないことを祈りながら、ガブリアスの背中を抱き締めているしかなかった。
 平静を隠しきれなくなっている幼馴染のことを、ガブリアスは忖度なく愛おしいと思った。もっとかわいがってやりたいと思うガブリアスは、ジュナイパーに真心からの愛情を感じている。そのときにはもう、自分たちの事情とかいろんな理屈とか、諸々がガブリアスの頭にはなかった。純粋な性欲で、ガブリアスは翼をジュナイパーの足のあいだへ割りこませ、股をまさぐって、淡いクリーム色の毛並みに隠れる総排泄腔をツメでくちくちといじくった。ジュナイパーのアソコは濡れはじめていた。
「はじゅ、かひっ……」
 舌を奪われたままで、たまらずにジュナイパーが訴えた。ガブリアスは少しのあいだだけ口を離した。
「だいじょうぶだ、いじめたりしねえよ。我慢しねえで、いっぱい気持ちよくなろうな」
 ガブリアスの考えは、ジュナイパーにやさしくしてやろうという気持ちで溢れていた。くちばしを愛されることが気持ちいいのなら、ガブリアスはそれを恥じることなどないと思う。傷つけてしまわないように慎重に、尖ったツメの尖端を総排泄腔に埋め、くるりとかき回す。ぐるぐると、何度も何度も、拡げるようにかき回す。
「んふっ、くふんっ、きゅんんん!」
 再びガブリアスにくちばしを塞がれ、ぬるぬると唾液まみれの舌をもつれさせながら、引き潰れた声でジュナイパーが啼く。体のなかのいちばん恥ずかしいところを、ほじくられる。きつく閉じる排泄の場所がほぐされて、性交のための準備をさせられてしまう。それはもっと太いものが欲しくなってしまうように促されているようで、ガブリアスとの本番のことをどうしても思わされて、ジュナイパーはたまらなかった。ガブリアスは、倒錯的な興奮が肥大化してゆくのを感じていた。俺はオスを抱いているはずなのに、今やっていることは行為としてはメスを相手にする前戯に似ていて、ジュナイパーのほうもメスじみた快感を得ているとしか思えない。そのことが、ガブリアスのなかのオスの部分をたまさか刺激し、煽りたてた。ジュナイパーを愛撫しながら、ガブリアスの情欲もまた昂ぶっていた。もじもじと、ガブリアスの体と壁に挟まれたジュナイパーが身じろぎするのが頻繁になってゆく。ぴい、ぴい、と切ない声が増える。ガブリアスのツメのくるくるをいやがるような抵抗が強くなってくる。その抵抗を押し退けるように、キツくなり続ける総排泄腔をガブリアスは繰り返し慰めた。繊細な中身を引っ掻いてしまうとだめだから、抜き差しをできないぶん、ガブリアスはそのようにしてジュナイパーをよくしてやるしかなかった。
「で、ちゃ……」
 ジュナイパーが身をぶるぶる震わせ、泣き顔のような弱りきった表情でガブリアスを見あげる。少しでも口を離すのが惜しいガブリアスは、ジュナイパーの舌を吸いあげて、もぐもぐと甘噛みしながら、ん、とだけ声を返し、うなずいた。動きすぎてツメが刺さらないよう、片腕にジュナイパーの腰をきつく抱いた。細い腰だった。ふわふわの羽毛で、非常に抱き心地のよいジュナイパーだった。
「で、う……でひゃ……へーひ、よご、え……」
 なにごとかを心配しているジュナイパーに構わず、ガブリアスは腕ごと前後にゆさぶって感じやすい穴をぐちゅぐちゅかき回す。主人がスクランブルエッグを作るときの溶き卵のことを思った。ガブリアスの不器用な前戯でも、ジュナイパーはちゃんと気持ちよかった。
 きゅううう、とひときわ甘い声でジュナイパーが痙攣し、びちゃ、と立派な音をたてて精液が玄関の床へ叩きつけられた。ジュナイパーの両足が震えて内股になるが、あまり関係ない。ガブリアスはジュナイパーを最後までイかせた。熱のこもったたくさんの空気が、くちばしと繋がったままのガブリアスの口のなかへ吐きだされ、ジュナイパーのまぶたがとろりと弛緩して心地よさそうな余韻の顔になるまで、熱く熟れた総排泄腔をずっと責め続けた。ジュナイパーのザーメンは穴から何度か飛びだして、その飛沫がガブリアスの腿のあたりにも熱く飛び散った。そこでようやく口を離した。脱力したジュナイパーの舌が、ガブリアスに吸われすぎて伸びてしまったように、くちばしからちろりとはみ出たまま置き去りになった。
「かわいいぜ」
 湯だったように表情の蕩けたまま、ジュナイパーがガブリアスを見る。数泊があってから、やんわりとはにかんだ。ジュナイパーはガブリアスの称賛を受け入れた。そのことが、ガブリアスを喜ばせる。なし崩しみたいに事をはじめてしまったが、ガブリアスは遠慮などしなくてよいのだと理解した。
 下腹部の、横に線のはいったスリットが、内側からぷっくりと盛りあがる。そこからカウパーにまみれてぬるついたヘミペニスが、左右の端にずるりと突き出る。ジュナイパーをよがらせながら、ガブリアスもじゅうぶんに焦れていた。ガブリアスの両手では自分で自分を慰めることもできず、溜まっているといえば、むしろジュナイパーよりもよほど溜まっていた。
 少し屈んで、ジュナイパーの片足を担ぐ。それからヘミペニスを片方、総排泄腔に添えた。
「片っぽ、だけ?」
 股間を見つめていたジュナイパーが顔をあげる。純粋な疑問の顔だった。
「まあ、いつもどっちかしか使わねえなあ」
「ふうん」
 ジュナイパーはまじまじと、また股間を見る。それから言った。
「でも、両方、入れていいよ」
「いいのか?」
「うん」
 ジュナイパーがそう言うので、ガブリアスはそのようにしようと思った。もう片足も担ぎあげ、ジュナイパーの背中を壁に預けて支える。左右に分かれているヘミペニスを、ジュナイパーの翼が包んでひとまとめにした。
「ふ、ふうっ……あ、あ……!」
 尖端から、少しずつ挿入してゆく。本来、ペニスを受け入れるようにはできていない部分だ。ガブリアスは慎重だった。根元へ向けて太くなってゆくガブリアスのヘミペニスを、二本とも挿入するのはジュナイパーに激しい苦痛を強いると思われた。ゆっくりと総排泄腔に尖端を入れ、抜いて、その動作だけでも焦れたガブリアスにはじゅうぶんな快感だった。
「すげえな。ホカホカだ。熱くて気持ちいい……」
「んっ、んんっ……はあ、きみのせいだ。ちゃんと最後まで、面倒……見てよね」
「そうだな」
 抱えたジュナイパーの体を上下させて、ガブリアスは時間をかけて性交を楽しんだ。狭くて熱い肉の筒でペニスを扱くのは、根元まで届かずとも、自慰の難しいガブリアスにとって焦がれるような快感である。ジュナイパーの体は軽く、ガブリアスは苦もなく持ちあげて揺さぶることができた。そのことでガブリアスはかえって注意深くなれた。力任せに扱うと壊れてしまいそうだから、脆いアンティークを愛でるように、ジュナイパーを慈しむことができる。ジュナイパーもたいした痛みは感じていないらしかった。背中側に膝が曲がる足のかぎ爪が、ゆるくガブリアスの肩を掴んでいる。ガブリアスが顔を寄せると、ジュナイパーはくちばしを開き、今度は舌だけでキッスした。とろとろと溢れる唾液が触れあう舌の先で合流し、雫になって膨らみ、糸を引きながらジュナイパーの胸のあたりをぽたりと落ちる。
「んあ……は、は……う……ん、んん……」
「また、よくなってきたか?」
「ん、ん、だって……ソコ……ずっと擦れて……」
 奥に進むにつれて、ジュナイパーの感じやすい部分に触れることが多くなってきたらしい。ガブリアスのペニスがマッサージのようにぴったりと押し当てられて、少しずつストロークが長くなってゆくと、ジュナイパーの体は確実にそれを快感として認識しはじめる。
「ココ、好きか?」
 ペニスの裏側くらいの位置だ。ただでさえ狭い総排泄腔が、物欲しげにきゅうきゅうと締まるから、ガブリアスは正味、抜き差しするくらいのコントロールしかできないが、浅く小刻みに出し入れしてやると、ジュナイパーは身悶えてガブリアスの顔を翼で包んだ。
「あっ、や……あっ! いいっ、気持ちいい……!」
「そうか。じゃあたくさんしてやる」
 腕に腰を抱えて、上下に軽く揺さぶる。ねっとりとした濃い我慢汁が溢れた総排泄腔は、ヘミペニスが出たり入ったりすると嬉しそうにチュクチュク鳴る。
「やっ、あっ! だめ、だめえ……!」
「なにがだめなんだ?」
「そんな、されちゃ……す、すきに、なっちゃう……」
 くつくつと、ガブリアスは笑った。「なんだよ。おまんこされたら誰でも好きになっちまうのか? おまえって」
「ち、ちがうよ……きみが、やっ、やさしくて……ねえ、ねえ、ガブリアス……もっと、激しくしていいんだよ……ひどくして、乱暴に犯してもいい……」
「犯すわけねえだろ。[[rb:抱 > 丶]][[rb:く > 丶]]んだよ」
「犯すわけねえだろ。&ruby(丶丶){抱く};んだよ」
 恋の相手から、おまえを奪っちまうくらい……特別な気持ちをめちゃくちゃに詰めこんで。ガブリアスがジュナイパーに、本物の愛が介在する交尾に限りなく近いものを求めていた。
「そんな……だめだよ、だめ、やさしく、しないで……」
「それとも、なんだ。好き放題されるのがイイのか? こんなふうに――?」
 ジュナイパーの腰を固定し、ガブリアスが体を寄せるようにして深く挿入する。それから腰を引き、また深くまでヘミペニスを突き刺した。
「やあっ、ああッ……!」
「ほら、交尾してんぞ? チンポが出たり入ったり、ホモ子作りだぜ。オス同士のエッチのほうが気持ちいいよなあ、ん?」
「ずる、いっ……ぼくばっかり……! ぼくばっかり気持ちよくて、やだあっ」
「俺も気持ちいいぞ。先走り出まくってヌルヌルだろ?」
「だったら!」
 ジュナイパーの目つきが鋭くなる。潤んだ瞳では迫力もなにもあったものではないが。
「ちゃんとっ、交尾しろよ! 手加減するな……!」
「つまり?」
 うっ、と声を詰まらせるが、ジュナイパーは怯まなかった。
「きみのおちんちん、ぜんぶぼくにちょうだい! マンコぐちゃぐちゃにして、中出し満タンにしろ!」
 そこまで言わせるつもりのなかったガブリアスは、声をあげて笑ってしまった。笑いながら、ジュナイパーの言うとおりにした。
「かッ、は――!」
 ジュナイパーの体を引き落とし、抑えこんで貫く。ヘミペニスが丸ごと、きつい総排泄腔に吸いこまれるような快感に、ガブリアスは息を吐く。股間同士がぴったりと密着している部分を、ジュナイパーも息を詰まらせながら見つめていた。
「だいじょうぶか? まったく、痛くねえようにしてやりたかったのに」
「こっ、これくらい……バトルしてたら、もっと痛いことはある……」
「たしかに」
 痩せ我慢であることくらいはわかる。しかし、そうはいってもガブリアスももう我慢の限界だった。
「つーか、わりい。もうやさしくできねえ」
「いいよ。思いきりやって……」
 ジュナイパーを強く抱き締め、全身を持ちあげて、引き落とす。カジリガメ並に硬くなったヘミペニスがまとめてジュナイパーの体の奥まったところをゴリゴリと割り開く。
「ひッあ――! ふか、いぃ……!」
 抱きあげ、落とす。ジュナイパーの内臓を引きずり出し、押しこんでぐちゃりと潰す。ガブリアスの動きはそれほど激しくはなかった。しかしその力強さは本物のドラゴンタイプの膂力だった。
「こんなちっせえ体で、チンポ二本でガン堀りされて、おまえもうガバマン確定だな?」
「かひッ……ひっ、ひッ――」
「言わんこっちゃねえ。どうなっても知らねえからな」
 ゴリ、とナカでなにかが擦れるのをガブリアスはペニスの先に感じていた。内臓筋肉かなにかだろうか。興味はない。ガブリアスが献身したいと思うように、ジュナイパーも献身によって無理な性交の苦痛を克服しようとしている。それは意地でもあった。ジュナイパーの言葉どおり、ガブリアスはジュナイパーの体を使って気持ちよくなることを最優先にすることに決めた。
「ひゃっ、あっ、あッ、あッ――!」
 ぐちゅん、ぐちゅん、濡れそぼった総排泄腔が引っかきまわされて派手に鳴る。ガブリアスの腰に絡みついたジュナイパーの両足はガクガクと震えていた。ジュナイパーの体を揺さぶるだけでなく、ガブリアスも腰を振り、ばちゅ、ばちゅ、と濡れた衝突音を響かせた。突きあげると、跳ねあがる体の反動で、より深くに突き刺さる。倍々ゲームというわけだ。この極上のオナホールと化した鳥マンをファックして射精しなければ、いつこの幼馴染が報われるというのだろうか? ガブリアスの内には無数の感情がせめぎあい、こんなにひどくしていることを、謝らせようとした。しかし口を開く前にジュナイパーがキッスをした。ギザギザの鋭いキバにくちばしがカツンと当たるほど、なりふり構わぬ激しいキッスだった。
 ガブリアスは、やはりジュナイパーを気持ちよくさせてやりたかった。だから無理のない太さのところで、浅く抜き差ししてジュナイパーの好きなところをコンコン小突いてやった。ジュナイパーの声の反応はそっちのほうがよかったが、ジュナイパーがそれをいやがった。
「やだ、やだあ、抜かないで……抜いちゃ、やだ……」
 ぼろぼろと涙を溢れさせる。ガブリアスは、なにがジュナイパーを落涙させたのかわからない。それでも自分との深い結合をねだるジュナイパーに対して思うのは、あまりに単純な愛情で、もはや歯止めがかからない。
「あ゛ッ、あ゛ッ! 奥っ、おぐ、しゅきっ……!」
 みっちりと拡げられている総排泄腔は、なのに内側はキツく狭まる。そこにヘミペニスを両方とも捩じこむ快感に、ガブリアスは、はあ、と熱い息をこぼした。
「イきてえ」
 射精したい、という意味ではなかった。もちろん射精をすぐそこに感じられるほど、ガブリアスは昇りつめていた。しかしこの快感のなかでジュナイパーとの交尾を最後までやり遂げたいという欲求が、とても純粋なものだった。それをいったいなんというのだろうか。それは少なくとも、本質的だった。そして同じものをジュナイパーも求めていた。幼馴染の総排泄腔は雄弁だった。
「早くっ、はやくぅ! もぉ、ぼく、だめっ!」
「待てよ、ジュナイパー、待て、いっしょにイこう」
「やああッ! イくッ! イくよおッ! ガブリアス――!」
 奥の奥を突き回し、ガブリアスが必死に絶頂を求めるなか、ジュナイパーの頑強なくちばしは開ききり、泣きじゃくりながら体じゅうのあまねくを痙攣させた。多分、これまででもっとも饒舌なジュナイパーだった。内臓をまるごと揺さぶられるほど激しく性感帯を扱かれて、泣いてしまうほどのオーガズムに包まれながら、ジュナイパーは達した。達した総排泄腔にドロリと精液が溢れ出し、とてつもない至極を全身で味わいながら、熱い中出しをびゅうびゅうと受け止めていた。ガブリアスは射精していた。射精しながら、パン、パン、と腰を打ちつけていた。ゆっくりとジュナイパーを持ちあげ、落とす。その動きが四度目を数えるとき、互いのザーメンでぐちゅぐちゅになっている総排泄腔から、ぷしゅ、と体液が吹きだした。イッても終わらないガブリアスのガン堀り、ジュナイパーは潮吹きさせられていた。漏らすほどの気持ちよさに、ピィィ、ピィィ、と甲高い鳴き声があがる。それでもガブリアスは止まれる気がしなかった。とても気持ちのいい射精をして、尿道から精子を一滴残らず絞ってもなお、ヘミペニスは萎えず、興奮が醒めない。ガブリアスはジュナイパーを床に転がし、そのまま第二ラウンドが始まった。ジュナイパーはイきながらイかされるという処刑じみたオーガズムを味わわされ続け、本当に泣き喚いていた。
「漏れちゃった、おしっこっ、漏れちゃってるからあッ!」
「あ゛ーッ、ションベンまみれのきっついマンコたまんね!」
「や゛あ゛あ゛ッ! ぎもぢッ、いッ! ぎもぢいよぉ――!」
 泣き顔で極楽にいるジュナイパーの表情に、ガブリアスはたちまち目を奪われた。朝焼けの色をしたジュナイパーの瞳が涙に濡れているのが、とくに美しかった。陰気なはずの深い緑色の毛並みが、むしろ瞳の美しさを助けていた。
「きれいだ、ジュナイパー」
 ガブリアスは知らず知らずに呟いていた。こんなに美しいと思えることは一生に何度も見られないだろう。そうだ、大切なことを忘れていた。ジュナイパーは美しいのだ。俺にとって、ジュナイパーがこの世でもっとも美しいことだった。ガブリアスにも弱さくらいはある。クリスマスに孤独でいるのは過酷なことだ。その孤独を紛らわす相手として、自分を受け入れてくれたジュナイパーが嬉しかった。いかに幼馴染が誘ったとはいえ、いかに発情を発散させたいとはいえ、普通は交尾なんて受け入れない。友達のためにこれほど必死になるなど……ガブリアスは考えついたこともなかった。
 おまえは……本当に……
 この友情の只中で、不感症でいるより恐ろしいことはなかった。性欲が続く限りをジュナイパーを愛して過ごしたかった。つらかった。自分が選んだことなのに、ジュナイパーの恋が自分でない誰かに向けられていることを思うと、ガブリアスは、クリスマスの夜が……寒くて……寒くて……死にそうになる。
 でも、そんな話はダサすぎる。
 こいつの恋が実ってしまったら、俺とは二度と、こんなこともできないのだから――こいつの今日のこの姿、すべてが永久凍土の秘密になる。
 ガブリアスは、全力だった。美しいことを求めるために、それを繋ぎ止められるなにかのために、ジュナイパーとの交尾に力を注いだ。少しでも長くジュナイパーを愛していたいのに、そんなふうになるのはいやなのに、具合のいい総排泄腔はガブリアスを容易に二度目の絶頂へ追いたてる。
 終わりたくない。でも手加減もしたくない。それはジュナイパーの美しさを損ねてしまう。ガブリアスは、自分と幼馴染が全力で交わっているこの光景を壊したくなかったのだ。でもガブリアスは、本当に幼馴染が報われてほしかった。恋を祝福して、やりたかった。この交尾が終わったとき、ガブリアスに残るのは、「俺はジュナイパーに恋をされていない」という、あまりに単純な真実だけでしかない。
 ガブリアスは恐れながらも、勇猛にジュナイパーを犯し続けた。
「はあッ、イく、イく、ジュナイパー!」
「お゛ッ――! あ゛ッ~――!」
 ジュナイパーはもはや意味ある言葉を吐かなくなっていた。瞳がぐるりと上向きになり、何十回と同時に押し寄せる完璧なメスイキに、息を詰まらせて悲鳴さえままならない。
 今日は素晴らしいことがあった。おまえと出会わなかったら、俺は今ごろいったいどうしていたんだろう? しかし幼馴染の青春を掠めとるなど、ガブリアスにできるはずがないから、この交尾はきっとこれきりになる。
「イくぞ! もういっぺん、種づけやるからな……ちゃんと覚えやがれ!」
 ぞっとするほどの快感が尿道を迸る射精を、ガブリアスは味わった。半ば気を失っているような状態のジュナイパーは許容できるはずのない量のオーガズムに失禁し続け、玄関先の床を洪水させていて、ガブリアスの大量の中出しをどぷどぷ喰らいながら、潮とザーメンの化合物をヘミペニスの栓では抑えきれず、溢れさせていた。
 放心しているジュナイパーを抱き締めて、労りながらキッスしていると、ガブリアスの興奮は熱を失いはじめた。どうやら第二ラウンドでおしまいだ。ジュナイパーの側も、これ以上は限界であった。ガブリアスはそれがとても寂しかったけれど、しかし幼馴染のためならよい。冷え切った床に、燃えあがるようだった体温が奪われるまで、ガブリアスはジュナイパーをぎゅっとして、ぎゅっとしたままでいた。




 ガブリアスがどれほど不器用といったって、玄関を掃除しないわけにはいかなかった。ジュナイパーに熱いシャワーを浴びさせているあいだ、ガブリアスはバスタオルを使って玄関を拭き掃除した。あんまりにもオスのにおいが充満しているから、寒いのを我慢してしばらくドアを開けておいた。消臭剤なども撒いておいたほうがいいかもしれない。ガブリアスはそういうものに詳しくない。あとでジュナイパーに聞いてみよう。
 勝手知ったる幼馴染の家、ジュナイパーはドライヤーまで使って体を乾かし、ふんわりとした毛艶をとり戻した。さすがに疲れたようすでリビングのソファーに腰をおろし、背もたれに体を預ける。
 それから、ガブリアスにこんなことを言った。
 ――別にさ。本当に恋とか、そんなの関係なかったんだよ。
 思考ゲームでガブリアスの勝利を、ジュナイパーは一応は認めた。だから本当のことを話したのだ。
 ――ええと、つまりね。なんというか、きみが酔い潰れそうだと思ったんだよ。
 ――ぼくのほうが酔い潰れてた? まあそうなんだけどね。思考が暴走してるときって、なに考えてるかわからないだろ。
 ――ぼーっとした頭で、なんだか隣にいるきみが、いつもより弱ってるように見えたんだ。だからすぐ帰らせないといけないかなって思ったんだよ。
 ――最初は、ぼくの主人に、ガブリアスといっしょに帰るって伝えようとしたんだけど、ずいぶん盛りあがってて楽しそうだったし、きみの主人とか、話の通じそうな相手がほかにいないかなって思って、探してただけ。
 ――気になってるとか、恋とか、そ……そんなの、あるわけないだろ。ただの近所のよしみだよ。
 ――答えが足りない?
 ――え、自分は自分の気持ちを言ったんだから、ちゃんと聞かせろって?
 ――そんなの言えないよ。だって……その、だめだよ。だって、だって……
 ――のぼせちゃったかな。暖房、暑いな。切ってもいい?
 ――あっ……
 寒い冬は、暖房いらずの番がお勧めである。



 
  最近ガブリアスとジュナイパーが熱いので、だったらカップリングさせちまえと思いました。
  あと鳥マン流行れ。
 
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