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カレーが食べたくなって の変更点


 作 [[呂蒙]]

 カレーが食べたくなって

 せっかくの夏休みだというのに、食料その他の生活に必要なものの買い出し以外には外出するのも憚られるようになってしまった。
「なあ、ナイル」
「どうしたの?」
「今日の夕飯、カレーでいいか?」
「いいけど?」
 天気が良くない日が続いていたこともあって、結城はテレビで天気予報を見ていた。その天気予報の次のコーナーがグルメ特集で、カレーが取り上げられていて、それを見ていて何となくカレーが食べたくなってしまった。と、いうのが理由であった。
 テレビを消すと、家にある食材を確認し始めた。
(カレーに必要なものは……)
 すると「グリーンカレーの素」というのが出てきた。ペースト状のグリーンカレーが袋の中に入っているもので、レトルト食品ということもあり、日持ちもする。煮込んだ具材に中身を入れてかき混ぜるだけで、エスニック料理が味わえる便利なものだ。
(だいぶ前に、見切り品で安く売られていたのを買った気がするが、賞味期限は大丈夫かな?)
 結城が賞味期限を見てみると、まだ1ケ月ほど余裕があった。だが、家にあったのは「グリーンカレーの素」だけで、他の材料は何もなかった。結城はナイルを連れて買い物に行くことにした。
 天候不順のためか、8月であるにもかかわらず、外は妙に涼しかった。湿気が多いのは気になるが、気温が低いのでそこまで不快というわけではなかった。
 運動と節約を兼ねて、家から一番近いところにあるスーパーマーケットではなく、家から少し離れたところにあるディスカウントストアに向かう。店まではお互い、口数は少なかった。いろいろと我慢せざるを得ない日々が続き、ちょっとしたはずみで愚痴や不満のデパート状態になってしまう。そして、余計に気分が鬱々とするという負のスパイラルに陥ってしまう。
 店の中は、エアコンが効いていて、湿気も少なく快適な空間が提供されていた。平日ではあったが、夕飯時ということもあってか、店内はそれなりに混雑していた。
「で、ご主人? カレーって言っても色々あるよね? 何カレーにするの?」
「ああ、ちょっと変わり種でグリーンカレーにしようと思ってな。ルーはあるから、買うのはカレーの具材、と、あ、そういえばさっきの天気予報で、明日天気が悪いとか言っていたかな。だから、明日の分の食材も買っておくか」
 グリーンカレーに通常入れるものは、鶏肉にナスである。ただそれだけでは、色合いが地味になるため、パプリカを加えて、見た目を鮮やかにする。また、グリーンカレーは、本場のタイではスープ料理という扱いのためか、日本のとろみのあるカレーに比べると、かなり水分が多い。本場では、日本と同じように白米にかけて食したり、ロティというお好み焼きの親戚のようなパンにつけて食されている。
(まずは、鶏肉だな)
 一口に鶏肉といっても、いろいろある。精肉コーナーでは、むね肉やモモ肉、ささみや手羽、鶏皮などが売られていた。結城は少し迷ったが、むね肉を選んだ。安かったからというのもあるが、あっさりしたものが食べたいからというのが一番の理由だった。
 次に野菜売り場に行く。最低限必要なものはナスである。5本入りのものが売られている。5本もいらないのだが、余ったものは翌日以降、使えるだろう。
(薄く切って、油を引いたフライパンで焼くとうまいんだよな……。お酒や御飯にも合うし)
 問題はパプリカである。黄色や赤の物が売られているが……。
「ご主人、どうすんの、パプリカ」
「無くても、平気だから入れない」
「あ、やっぱり?」
 結城はパプリカが苦手であった。食べられないわけではないが、食感と味が苦手とのこと。ピーマンは何の問題もなく、食べられるのだが、どういうわけかパプリカはダメなのである。
 ついでに言うと、夏野菜の1つ、ゴーヤも苦手であった。結城が言うには「あれは人間の食い物じゃない」「『うちなーんちゅ』が激怒しても無理なものは無理」とのこと。ちなみに、同じウリ科の冬瓜やキュウリは何の問題もなく食べられる。
 とはいえ、鶏肉とナスだけだと、色合いがなんだか寂しい。どうしようかと考えていると、カボチャが売られているのが見えた。
「よし、カボチャを入れてみよう!」
 カボチャの黄色で見た目が鮮やかになる、というのと、グリーンカレーの辛さをマイルドにしてくれるというのが理由だった。丸ごと1個だと、切り分ける際の苦戦は必至なので、小さくカットされているものを選んだ。
 今日の夕飯と明日必要な食材を購入して、店を後にした。
 
 家に帰ると、買ってきた食材をとりあえずは冷蔵庫に入れ、まずは御飯を炊かなければならない。本場ではグリーンカレーのお供となる御飯は、粘り気の少ないタイ米を使うのが普通だ。しかし、日本国内だと手に入らないわけではないが、流通量が少なくまた割高なことが多い。
(まあ、別にジャポニカ米でも問題ないだろ)
 御飯が炊けるまで1時間ほどかかる。御飯が炊けるまでは特にすることも無いので、除湿器が働いている部屋の中でのんびり過ごす。御飯は腹持ちがいいが、食べようと思ってもすぐに食べられないのが欠点だ。温めるだけのパック入りの御飯というのもあるが、食が細い方の結城でも何だか少なく感じてしまうという理由で買うことはほとんどなかった。
 1時間ほど経ち、御飯が炊ける。
「じゃあ、作り始めるか。30分もあればできると思うから」
 ナイルが「お腹空いた」だの「まだ?」と催促が飛んでこないうちに調理に取り掛かる。買ってきた具材を食べやすい大きさに切り、鶏のむね肉とナスを炒め、熱が通ったところで、水を入れて煮込む。煮立ってきたら、そこに切ったカボチャを入れる。
 普段食べているカレーと違って、ニンジンやジャガイモ、玉ねぎのように皮をむく作業がないこともあってか、普段のカレーよりも時間がかからずに済んでいる。
 先ほど入れたカボチャが柔らかくなってきたので「グリーンカレーの素」を入れる。固形のルーではなく、ペースト状になっている。鍋に入れてかき混ぜるだけでいい。
 カレーの素を入れて、かき混ぜていると、鍋に異変が起きた。焦がしてしまったというわけではないが、色がおかしい。
 グリーンカレーはその名の通り、入っている香辛料やハーブで緑っぽい色をしているのだが、鍋の中を見てみると、なんだか黄色っぽくなっている。
「どう? できた?」
 ハーブの匂いに引き寄せられたのか、ナイルが台所にやってきた。
「まあ、一応……」
「あれ? なんか黄色っぽくない?」
「うん、そうだな……」
 考えられる原因は、これしかなかった。かき混ぜている内に、カボチャが解けてしまったのだ。だが、煮込む時間が足りないと、カボチャは固いままなので、結果としてどうしても煮込む時間が長くなってしまう。そうなると、柔らかくはなるが、今度は煮崩れという問題が出てきてしまう。
「なんか、カボチャ入りスープみたい」
「別にいいだろ、タイではカレーはスープ料理なんだから」
 グリーンカレーなのだが、入れたカボチャのせいでイエローカレーになってしまった。結果はどうあれ、とりあえず完成はした。
 炊きあがった御飯に、カレーをかける。
「というわけで『黄色くなってしまったグリーンカレー』の完成」
 色は黄色になってしまったが、匂いはグリーンカレーである。グリーンカレーの中に含まれているハーブの主張が強い。
「ナイル、腹減ったか?」
「うん、まあね」
「じゃあ、毒見な。箱に書いてあるレシピ通りに作ったから、クソまずいってことはないと思うけど」
「『思う』!?『思う』って……。何か不安……」
「じゃあ、訂正する。お腹壊すことはないと思う」
「それも不安だなぁ……」
 ナイルが恐る恐る一口食べてみると
「あ、味は普通のグリーンカレーだね。良かった」
 分量を守り、普通の材料を入れて、鍋を焦がさなければ、少なくともまずくなりはしない。カレー料理とはそういうものだ。カボチャを入れたのは少し冒険だったが。
「なあ、ナイル。カボチャありかもな」
「そうだね、辛さがマイルドになるし、何かこう、ジャガイモ的な感じで」
「そうそう、それそれ」
 辛いカレーを食べ終えると、なんだか今度は甘いものが食べたくなってしまった。
「ご主人、なんか甘いものが欲しい」
「そうだな、冷蔵庫の中にフルーツの缶詰があったな」
 必要以上に外に出られないのは、それはそれで大変である。誰に文句を言ってもどうにかなるものでもないから、個々で何とかするしかないが。果たして、いつまでこの状態が続くのだろうか。


 おわり


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