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ウサギヘンゲノ・巻ノ弐 の変更点


#include(第十三回仮面小説大会情報窓・官能部門,notitle)

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 寮に帰り着いたユニエフとアウカード。ことが一通り終わり、夕食も済ませて個室に戻るところであった。

『あっさり片付くとは思わなかったな?』

 ユニエフは両手を頭の後ろで組み、がに股でのんびりと歩く。屋内では飛ぶことのできないアウカードに合わせての歩きであるが、まだ進化して時間が経ってないとあって、急に長くなった歩幅でアウカードに合わせるのは少々慣れない。

『あ、ああ……。そうだな』

 一方のアウカードは未だ当惑気味である。ユニエフが唐突に「兄さん」となってしまった上、帰り際に言われた「何とかする」の内容も未だに教えて貰えていないからだ。夕食は気にしても仕方ないとばかりに掻き込んだが、味どころか何だったかも思い出せない。

『今日は色々あったけど、俺としちゃ満足だぜ』

 大きく胸を開く格好となっているユニエフ。変わらずの石を加工した飾りは下がっているが、既に効能は意味をなさなくなっている。それを用意してまで隠そうとした胸の膨らみの無さは、今は食後で心なしか腹が膨らんでいることもあり余計に強調されているのだが。しかし自分の体を「貧相」だと思っていたことによる枷が外れ、随分と大胆な格好である。

『まあ……大体のところは上手く纏まってくれて何よりだな』

 帰った時には既にルカリオたちの主人に対して令状が出ていたことにも驚かされた。元々その主人には虐待の疑惑で目が付けられていたのだが、あと一歩明確な証拠が掴めなかったのだ。流石に惨殺までは予想されていなかったらしいが。リオルたちに「もしかしたら兄さんの記憶が戻るかも」と頼み込んで連れ込み、隠し扉を見つけ出された段階でその主人も観念した。

『あとはあいつか……。俺にとってはクソ迷惑でしかねえけど、あいつらにとっては何だかんだで強い母親だったわけだな』

 リオルたちの母であるルカリオについても、ユニエフは複雑な気持ちを混ぜた息を漏らす。とんでもない色情魔の上自身をからかい続けた態度は到底許すことはできないが、あの怒り狂った姿は母親としての強さを感じた。その時のダメージがとどめではあるが、疲労と飢餓で既にじり貧となっていたらしく、送られていた集中治療室の前で「もう目を覚まさないかもしれない」と言われた時は流石に愕然とした。残りのリオルたちは転送しなかった者も含めて一旦ポケモンセンターでの預かりとなっている。無事の再会とひとまずの安堵に、泣いて喜び合った姿が目に焼き付いている。

『そうだな。けど、死んだ兄を名乗るってことは、あいつのことも母親として……?』
『反吐が出るようなことを抜かすんじゃねえ!』

 いくら認める部分があったとしても、これだけは地雷だったらしい。ユニエフは体を半回転、アウカードのふくらはぎに蹴りを入れる。廊下の向こうまで響く快音が、受けた表情を見るまでもなく威力を感じさせる。満腹で重くなった体であるにもかかわらずよく動けるものである。

『ってえっ!』
『全く、本当にバトル以外ではろくでもねえよな。まあそれはともかく……兄ぃ?』

 両手を突いて倒れ込むのは寸でのところで堪えたアウカード。進化によって動きも威力も予想しないものとなっていた。聞こえてきた舌打ちに先行きへの不安が芽生えさせられた、その瞬間。続いて出てきたユニエフの「兄ぃ」の呼びが妙に上ずっていることを感じた。

『なん……』

 振り返った瞬間、目を疑った。ユニエフは流し目で首筋に手を当て、まるで誘惑するかのようなポーズでいたからだ。だが今までずっとこういう「女の子らしい」ポーズをとったことなど無かったため、明らかにぎこちない。表情も手つきも取ってつけたようで、どこまでも無理を感じさせられる。

『お兄さん、また溜まってる? お……私が、出させてあ・げ・る!』
『おま、お前……! ぶっふ!』

 最早一度「俺」と言いかけたことなど気にする価値が無いくらい、無茶苦茶で滑稽であった。無理に声を上ずらせ……恐らくユニエフにとってはできる限りの「異性を誘惑する女の子」の態度なのだろうが、アウカードの答えは一瞬堪えた後の失笑。

『何だよ兄ぃ! 折角俺が雌として誘惑してやっているってのにそれかよ!』
『い、や……。色々器用にこなすお前がこういうことにはここまで不器用だったなんてな』

 バトルだけでなくアクセサリー作りや電子端末の操作。アウカードから言わせれば「ポケモンだとは思えないくらいの信じがたい器用さ」を持つユニエフ。だがここまで言ったところで限界を迎え、次の瞬間にはけたたましく笑い始めていた。こんなところにとんでもない不器用さがあるなんて信じられなかった。尤もここで器用にこなしてもそれはそれで当惑させられるであろうが。

『うるせぇよ! 他の雌だったらこんな感じでほいほい釣られていただろうが!』
『そりゃ、他の雌だったら気持ちが動いたかも知れないけどな』

 バトル場での姿に色めき立った雌ポケモンに言い寄られるたびに、アウカードはいつも簡単に鼻の下を伸ばしていた。その時の雌ポケモンたちの姿を真似れば、自分でも簡単に落とせると思っていたのだが。珍しく全く靡かなかったアウカードに、ユニエフはやり場のない不満ばかりを重ねる。

『ったく! 俺なりに兄ぃの気持ちに届くように苦心したってのによ!』
『悪いが、俺のユニエフはそんなことはしない。いつものままでいてくれた方が、その……』
『その、何だ?』
『いつものままのユニエフが、好きだ』

 不満のままにユニエフが顔を背けた直後。その後ろで、アウカードの顔が瞬く間に紅潮していき。しかし顔を背けていたユニエフにそんな姿は見えず、言い淀んだ声だけが届く。アウカードが吐露した本音に何のことも無く振り返ると、そこでようやく紅潮しきっていることに気付き。掛けられた言葉とその表情、合わさってようやくユニエフの脈が上がり始める。

『ば、馬鹿野郎!』
『ぐはっ!』

 顔中の毛並みが逆立ち、奥の紅潮した皮膚がうっすらと見えるほどに。次の瞬間にはユニエフは「とびはね」て、バトルの場よりもずっと低い天井に手を突いてそれをバネにアウカードの腹に両足を叩き込む。天井が高い中での技の「とびはねる」をこのように応用するとは。バトルでは起こりえない早さで叩き込まれた衝撃とともに、アウカードはうっすらと感心してもいる。

『畜生が! 調子狂うんだよ!』

 恥ずかしさのままに吐き捨てたユニエフに対し、先に調子を狂わせたのはそちらだというアウカードの本音は痛みに縛られて出られない。よろけて掴んだドアノブは、偶然にもアウカード自身の個室のものであった。今は開けるために回すよりも、痛みが抜けるまでの間しがみつく相手となっている。

『くぅぅ……。進化したお陰で完全に威力持ちやがったな……』

 引いてくる中で残っていた最後の痛みを情けない息とともに吐き出す。それを見たユニエフの気持ちは、やり過ぎた申し訳なさと進化してみて出せるようになった威力への驚きと。試し撃ちを受けさせることになったアウカードにはすまないが、あれだけ嫌がっていた進化もしてみると悪くないと思えて。とはいえ今まで通り、どうにも素直に謝るには二の足を踏んでしまっているユニエフは。

『まったく……雄ってもっとこう「やりたい」のが全面に出るんじゃねえのかよ? こっ恥ずかしい惚気吐いて……どっちが雌かわからねえっての』
『あれだけやっちまった後だから返す言葉もないが、酷くないか?』
『まあ……詫びも兼ねてだが、この後やりたいならやらせてやるよ』

 薄らと目に浮かんだ涙を払うと、そこにいるユニエフは特に気張る様子も無く。まだ若干毛が逆立ち気持ちを治められてない様子も見られるが、冗談や無理を言っている様子は無い。

『お前……どういう風の吹き回しだ?』
『さっきさんざんやった後だけど、時間が経ったらまたやりたくなるんだろ? 兄ぃが他の雌を前にしてザマ無え姿を晒すくらいなら、そんな欲を持つようになる前に抜いてやろうと思ってな』

 身も蓋も無い。帰り際にユニエフは「何とかする」と言ったが、どうやら行きついた答えがこれらしい。他の雌に少しでも気を引かれる様は見たくないという動機は女の子らしいようで、至った手段が全くもって女の子らしくなかった。唖然、アウカードは自らの顎の付け根がかすかに震えているのを感じる。

『取り敢えず……身が持たないんじゃないのか?』
『ん? 兄ぃ、別に中じゃなくても出せればいいんだろ? 手とか足とかで何とか工夫してやるよ』

 若干恨めしげである。二度は中に出したが、三度目で腹の毛並みに擦り付けて撒き散らしたのは根に持っているようだ。だがそれは逆に「孕ませるために中に出す」ことが絶対ではないという理解にも繋がってしまったようであり。或いは時間が経ってようやっと思いついた提案なのかもしれないが、言っていた「何とかする」の中身が分かったら分かったでげんなりしてしまうアウカードであった。

『いや……さっきさんざん出した後だから、それは別にいい。ただ……』
『ただ?』
『良いんであれば、添い寝だけ頼む』

 アウカードは首を伸ばしてユニエフの背中に顎を回し込む。続いて両手と翼で包み込むように。乱暴さは全く無く、だが誰にも渡したくないという意思を伝えさせるには十二分であった。態度は色々と身も蓋も無いし、時には暴力的で先程も結構な痛みを喰わせてくれた。今もこの動きに呆れたため息を漏らしているが、そんなユニエフを愛してしまった。

『ったく、仕方ねえやつだな』

 ユニエフはそんな愛する腕の中からにべもなくすり抜けると、アウカードの自室の扉に手を掛ける。一応鍵はあるのだが、ユニエフ以外は扱えない形だけのものとなっている。自分にもあっさり入れてしまった部屋の扉が、持ち主の心も何一つ施錠されていないかのような暗喩にも感じられ。それを考えそうになったところで自身にブレーキを掛けるユニエフ。

『まあ、頼む』

 アウカードはユニエフの肩に手を回し部屋に入っていく。中は小物が置ける机と寝るのに十分なベッドがあるだけの、徹底的に簡素な作りである。食事や入浴等は共用の場所があるため、持ち物の何もないアウカードにとってはこれでも気になることは無いらしい。ユニエフの方はと言うと小物作り等で机の上が手狭になっているのが目下の悩みではあるが。

『ったく、俺はぬいぐるみか何かかよ?』

 ユニエフはなすがままに、流れるような動きでベッドまで引きずり込まれる。ラビフットになって以降は一緒に寝るなど無かったため、進化で背が近くなっている分の新鮮さはあるが。ユニエフをベッドに寝かせて顔をしばし覗き込むと、次は嬉々として鼻先を頬の毛並みに捻じ込み。本当にぬいぐるみに抱き着く子供か何かかとも感じた。放さないとばかりに抱きしめてそのままベッドに身を横たわらせると。

『って、兄ぃ! もう寝てやがる……!』

 ヒバニーの頃は自分が寝付くまで見ていてくれたものであるが、立場逆転である。実際今日は色々なことがあり、疲れているというのもわからなくはないが、アウカードの方は交わった後一度寝入っていたのではないかという気持ちもある。もう少し何かあるかと期待する気持ちもあったが、こうなっては仕方ない。
 ユニエフ自身ももう疲れていた上、アウカードの手はユニエフの動きに合わせて反射的に抱き込んでくる。体が押し込まれる鱗肌が、改めてなめらかで柔らかいと感じる。誰かと体を寄せあうなど、もう随分久しくしていなかった。アウカードと交わったお陰でどこか恥ずかしがる気持ちは完全に抜け落ちていて、かと言ってもう離れたくないと思えるような感動的なものでもなく。こういう日常もあるのかもしれないと思いながら、ユニエフもゆっくりと眠りに落ちていった。



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 差し込んだ日差しが朝を告げている。アウカードは体を伸ばそうとベッドに手をつくと、不意に腕の中に柔らかい感触が。昨日は色々とあって、ユニエフと一緒に寝るに至った記憶が戻ってくる。まだ寝ているようであるから、起こさないように気を付けながら体を伸ばす。

『ふぅ』

 どんな夢を見たかも思い出せないほどの深い眠りだった。息を吐いて現実に体を戻す。まだ眠っているユニエフの寝顔は何処か満足気で、ラビフットの時のどこか意地を張った態度が遠く感じられる。こんなに無防備な姿を見せるなんてヒバニーの時以来だと、感慨深く眺めていると。

『ひゃっ!』
『朝から何だこれは?』

 柔らかく撫でるような感触は、しかし腹の奥底まで響く強烈な刺激を叩き込む。朝の寝起きでいきり立っていたアウカードの性器の裏側に、足先をねじ込んで突き詰める声。今しがたまで微睡んでいたところにそれの存在に気付き急に目を覚ましたらしく、ユニエフの目つきはまだ若干朧気であるのが見て取れる。

『朝の雄はこんなものひぁっ!』
『さんざん出したとか抜かして、寝て起きたらこれか?』

 もう一度。昨日の行為の後精液を焼き払うために炎を操った足は、癖の強い火炎ボールを制御するための器用さを要求される場所でもある。普段は毛並みや肉付きの柔らかいその足の技は、雄の性器を感じ入らせるには過分なものであった。

『溜まっているとかじゃなくても、勃つのが雄ってものぅう……っ』

 ユニエフが足を引っ込めた、その瞬間にも刷り込まれる刺激。起き上がらせた体を再びベッドに沈めるのは寸でのところで堪えたが、為すすべも無い稚児のように身を震わせるばかり。完全に手玉に取られてしまった。

『じゃあ、抜かなくていいのか?』
『……お願いします』

 最早哀願であった。昨日さんざんに出した後はしばらく落ち着いてくれると思っていたのだが、少し刺激されただけでこうも簡単に煮え上がってしまうなんて。欲望がたまり切る早さとそれに対する正直さ。自らの体が恨めしい。

『よし。それじゃあ、仰向けになれ』

 言い終わる頃には、ユニエフは枕から外したカバーを肩に掛けていた。これから起こることへの処理に使うのだろう。行為をしても誰も咎めず飛び散らせていい場所など近くには思いつかないし、ここは室内であるから昨日のように焼き払うわけにもいかない。防火処理で簡単に炎上を防げるシグナル程度の尻尾の炎とはわけが違うのだ。

『はい……』
『じゃあ、いくぞ?』

 アウカードは仰向けになる。妙な愛嬌のある丸く膨らんだ腹から、流れるように股下の位置を強調するような白い部分が前面に出る。その形だけでも既に扇情的なものがあるのに、今はその真ん中でそれがもう一つ対比色となって存在を強調している。ユニエフはアウカードと向かい合う位置に立つと、それの先端から枕カバーを包み被らせる。

『ひんっ!』
『一々情けねえな?』

 その上から覆い被さるような姿勢となり、ユニエフは枕カバーの両端を手で押さえる。これで精液が悲惨なまでに撒き散らされる事態は防げるであろう。哀れコンドーム代わりとされることとなった枕カバー。布地の隙間から多少漏れるかもは知れないので、本当であれば鈴口が当たる奥にティッシュでも詰め込んでおきたいのだが、生憎何の所持物も無いアウカードの部屋にそんな気の利いた物など。

『うぁあぅ……!』
『まだ始めてもねえのに、本っ当情けねえの漏らすよな?』

 先端から少し浮かせる格好になるようにすれば、押し付けるよりも布地の隙間からの噴出はましになるだろうと考え位置を整えるユニエフ。アウカードの性器は根元から半分ほどが露出する形となっているが、布地との接触面は既に先走りで異臭に染まっていた。布地が擦れる僅かな感触だけでも、アウカードは口からも性器からも無様に漏らしてしまい。

『ユニエフ……っ! 早く……っ!』

 ユニエフにとっては不思議とその臭気も嫌ではなく。何ならこのままもうしばらく性器を苛めてやりたい気持ちもあるが。しかし下腹部の奥で煮え滾る業に耐えかねたアウカードは、哀願の色を増した声で喘ぎ。ユニエフは舌打ちを一つ入れると。

『まあ、準備はここまでだが……耐えられなくなるの早ぇよな?』

 目の前にはアウカードの性器の裏側。そこに右手を添え、左腕は布地を押さえつけるように性器の表側に向けて回し込み。細く小さい腕ではあるが、しっかりと押さえ込まれた形となり。

『はぁあああんっ!』

 両足先の爪を握り込ませ、荒い息とともに感じ入っていることを示すアウカード。性器も激しく痙攣しているが、感触からまだ達していないことは分かる。先走りは既にユニエフの腕に染み込んでいるが、これはもう割り切ることにした。

『おら! さっさと……終わらせるぞ!』

 ユニエフは右手をアウカードの性器の表面に滑らせ、布地に当たるというところで引き返させる。それに合わせてアウカードはのけ反り身じろぎして感じ入っていることを示すが、自らの大きな腹が重石となり派手な暴れ方ができない。体型的に仕方ないとはいえ、昨日とは完全に立場逆転である。布地越しではあるが着実に性器の先端の痙攣が激しくなっているのが見て取れ、その手が何往復もしたかと思った瞬間。

『うごぉぉぉおおおっ!』

 全身の痙攣がひとしきり激しく。押さえ込まれやすい体勢であっても、この激しい震えにはユニエフも弾き飛ばされそうになる。布地の先端が内側から突き上げられるのが見て取れ、隙間から粘液が漏れ出ているのが見て取れる。これは事前に予想した通りであった。悲鳴が途切れてからもなお数秒。一しきり暴れ狂ったアウカードの性器は、尽き果てたように萎んでいく。

『ったく、やかましいっての』
『ぅぁ……。ぅ……』

 恍惚。鼻先を頭上に向けて投げ出すと、布団に押されて目が閉ざされる。脳髄には波の如く衝撃が走り続け、現実との接触を一切遮断し。出した精液を拭いながら布地を剥がすユニエフの手の感触にも、若干反応が遠くなっていた。立ち上がり際に表情を覗き込もうとしたユニエフの前でも、荒く息を漏らす顎しか見えない状態であり。

『この……。こっちまでおかしくなっちまいそうだぜ』

 徐々に縮んでいくアウカードの性器、先走りとはまた異なる精液の臭気。今になってユニエフの下腹は疼き始める。朝からあんな大きいものを挿入れては後も先も無いと一度は思ったが、やってみてこちらまで中て(あて)られるとは思わなかった。一度歯軋りはしたが、我慢していてももう仕方ない。満足げなアウカードには悪いがもうひと働きしてもらおう、そう思いスリットに収まろうとしていた性器に手を伸ばそうとした瞬間。

「アウカード、何かあったの?」

 朝食の準備か何かでポケモンたちを呼んで廻っていたのだろうが、折悪く上がった悲鳴を聞きつけたトレーナーの少女が扉を開ける。驚き振り返ったユニエフは、今まさにアウカードの性器に手を伸ばそうとしていたところであった。仰向けに身を投げ出して息を荒げるアウカードの姿で、既に一度達してしまっているのは見て取れ。アウカードの呼吸がこだまする中、ユニエフとトレーナーはその場で硬直して顔を合わせるだけの時間を過ごすことになる。



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 ルカリオは薄目を開ける。誰からも言われる豊満な胸の向こうには、呆れ見下ろすもう一匹のルカリオが。

『本っ当に、母親失格だな。クソ膨れが』
『ふ、ふ……。すっかりイケメンになっちゃって』

 その胸の膨らみを踏みつけて罵倒するその顔を見て、しかし彼女の方は非常に満足気である。この前までリオルだと思っていたのに、すっかり立派なルカリオになっていた息子。リオルの頃からの、これでもう何度目かという交わり。兄弟の中でも一番上とあってしっかりした体格で、弟たちの面倒もよく見る。彼に対しては自分が母親であることも忘れ、もう幾度となくまぐわっていた。

『何だ? まだやりてえってのか?』
『んふっ。お願い』

 母ルカリオは息子の性器に手を伸ばす。息子ルカリオはこの母親の仕方なさを感触に重ね顔を歪める。それでも母親とあって嫌気は差すのだが、弄られては拒否する物も膨らんでしまう。

『ったく……。俺の好みでもねえ癖によ』

 不快さはあるが、体は反射的なものである。慣れた手つきでよくわかっているものを弄られたとあって、瞬く間に膨らんでいく。出来上がったものを見て、改めて立派になってくれたと感じ入らせてくれる。

『ごめんね。でも、お願いね?』

 母ルカリオが股を開くと、息子は諦めたようにため息を一つ。仕方なしにそこへ先端を宛がうと、迷うことなく捻じ込む。

『ぅっく!』
『はぁあああんっ!』

 リオルであった頃から幾度となく挿入しており、お互い慣れたものであった。すっかりわかり切っていた母の膣内は、息子ルカリオの性器をしっかりと抱き込む。こちらが慣れてもそれ以上に向こうが絡みついてきて。流石の息子も声を漏らす。母ルカリオなど既に身を委ねきっており、挿入の瞬間に性器が僅かに震えたのも快楽と感じ入る。

『この! 駄目母親!』

 息子ルカリオは性器を引くと、すぐに乱暴に叩き込む。さながら強姦のように暴力的な交尾で、早く終わらせたいという本音を叩き込む息子。しかし母ルカリオにとってはそれすらも激しさと感じ入らせ。

『駄目にっ! もっとっ! 駄目にっ! してっ!』

 肉が叩き込まれ毛先が激しく擦れ、その音に合わせるかのように懇願する。意識しなくとも息子の性器を締める力が強くなるのを感じる。交尾というにも本能から逸脱した狂気が散り、暴力というにも享楽に堕ちており。倒錯した交わりは瞬く間に突き進み。

『うっ……くっ!』
『んあぁあああっ!』

 母ルカリオの最奥で、息子の性器がひとしきり震える。次の瞬間には熱が爆ぜ散る。それは瞬く間に全身に響き渡り、満たしてゆく。

『ぁあ……。ぁ……』
『ったく。本っ当、お前を母親とは認められねえな?』

 何度となく聞かされた罵倒。いつも通り一緒に注がれる蔑んだ目線。至福の時間。この子さえいればどんな苦しい中でも乗り越えられる、そう感じさせる優しい熱が――

『弟たち、守れなかったろ?』

 熱が一気に引いた。なおも冷たく見下す目線に手を伸ばそうとするも、何故か体が動かなくなっていた。全てを忘れて閉じ込められていたかった夢は、自ら仮面を叩き捨てる。忘れ去りたい、戻らないといけない現実。戻れるかもわからない現世。刹那の、瓦解。

『そんな……! だってあなた……!』

 夢から醒めた時、この子は消える。現実でどうなっていたかなど、二度と思い出したくなかった。せめて残された弟たちを守る中で忙殺されて忘れたかったというのに。

『死ぬ直前に約束したよな? 何があっても弟たちを守るって』

 それだけは忘れなかった。せめて一刻も早く死なせてあげて欲しいと思うほどの加虐の中で、まだリオルだった彼が叫んだ最期の頼み。笑みすら浮かべて惨殺に加わった人間にはただの悲鳴としか理解されなかったのは不幸中の幸いだっただろうか。

『嫌……! 嫌……!』

 その後は今度こそ子供を惨殺されることが無いようにと必死に奉仕し続け、しかし子供たちが瘦せていっているのを見て決起した。その後は不眠不休で子供たちを守ることに全力を尽くしてきたが、無理が祟って弱りつつあったところにやって来たリザードンとラビフットによって……。思い出したくなかった現実が怒涛の如く流れ込んでくる。

『約束、守れなかった罰だな?』

 ここが本当に夢なのか、既に黄泉路を辿った先なのかもわからない。ここでどんな罰を与えてくるのかもわからないし、現実を叩きつけることで既に十二分な罰を受けているという気持ちもあるが。しかし息子ルカリオの目線は容赦ないまま、自らの性器陰嚢を掴むと。

『いやぁあああっ!』

 自らのそれを痛む様子も無く引きちぎった。母ルカリオ自身の悲鳴の向こうで、リオルだった息子の断末魔の叫びもどこからか響いてくる。吹き上がる鮮血が母ルカリオの体を濡らしきり、しかし何故か視界は遮断されず。

『お前の一番思い出したくなかったやつ、もう一度見ろよ』

 引きちぎった自らの性器の部分を握り、陰嚢の部分で母親の頬を軽く引っ叩く。威力とは違う重みがあったのを思い出させられる。なおも鮮血が滴る切断面は、手で引きちぎったとは思えない、刃物で切られたあの時と同じく整っているのが異様である。

『やめて! やめて!』

 母親の哀願を鼻先で飛ばすと、手の中のそれを眉間に叩きつける。転げ落ちるのをいつの間にか拘束されていた手足で受け止めてあげることもできず。

『これも始まりでしかなかったよな?』

 語り掛けられるがままに振り替えると、次の瞬間息子ルカリオは自らの右耳を引きちぎる。そしてまた顔面に叩きつける。その次は尻尾、房、左耳と続く。息子ルカリオは自分の体がどんどん無惨になっていくのに、僅かな痛痒も感じる様子も無くただ母親を見下している。

『許して……。もう、許して……』

 とうに涸れ果てた悲鳴。自身の左右に積み重なる、イケメンに育ったはずの息子の肉片。残った子供たちを守る中で必死に振り払おうとしていた過去がここに再現されている。最後とばかりに自らの胸の棘を握りしめると。

『これで終わりにしてやる……うおぉぉぉっ!』

 それを砕いた瞬間、息子ルカリオの体が閃光に包まれる。徐々に膨張し、ところどころ破裂しながら、進化のようで進化ではない変化が進んでいき。

『坊……嬢ちゃん?』

 それは紛れも無く、自分たちを捕まえに来たラビフットが、直後に進化したエースバーンであった。種族こそ違うが、物腰や態度、感じ取れる波動まで似てないところを探す方が難しい存在。だからと言ってわざわざその姿にならなくてもいいのにと思う母ルカリオ。一方のルカリオであったエースバーンも、彼も彼でその挑発的な呼び方に対しまた鼻先を鳴らし。

『言っておくが、弟たちはこいつに助けられたし、俺の死体も回収してくれた。お前はこいつに頭が上がらないんだからな?』
『それって、どういう意味?』

 よくわからない機械も扱いこなす器用なあのエースバーンのことだから、それを使えばあとは残っていたリオルたちに事情を訊けば助けて貰えるかもは知れない。だが、波動で居場所を辿れる自分たちでも見つけられなかった息子の亡骸までどうやって回収したというのか。

『まあ、本人に聞いてみるんだな? 今度は守りやすい約束にしてやる。あのエースバーンに対して、頭を下げて感謝して生き続けると』
『えー……えー?』

 母ルカリオは、顔から声色から全てで露骨に不満を示す。弟たちを守るという約束は、どんな艱難辛苦があろうと自らの望みでもあった。対してあの生意気な兎に頭を下げるなど、簡単ではあっても断じてやりたくない。

『「えー」じゃねえ。あの俺の好みをぴったりと形作ってくれた女だ。あいつにふざけた態度など、許す気は無え』
『そうなんだ……。男って、わからない……』

 息子の実父や奴隷の時に迎えた客たちは、母ルカリオのやたら豊満な胸を大いに悦んでいた。難しい話は抜きにすれば、自分としてもこの胸は自慢であり何となく理解できそうな部分はあった。だが目の前の息子やあの強いリザードンは「坊やなお嬢ちゃん」に入れ込んでいる。これには母ルカリオも当惑するばかりである。

『お前が理解する必要はねえんだよ、クソ膨れ。いいから早く戻ってあいつに……』
『ちょっと待って。これだけ確認……』

 いつの間にか拘束は解かれており、母ルカリオは起き上がると息子の前に膝をつく。ルカリオからエースバーンに種族は変わったが、そのエースバーンの姿の素体は……。呆れ慄く息子に構う様子も無く母ルカリオは股の赤い毛並みを掻き分け、雌の割れ目を確認し。

『お前……』
『あーあ。折角イケメンに育ったのに』

 完全に「坊嬢ちゃん」になってしまった息子に、ため息を吐き肩を落とす。もしまた夢などで逢えたとしても、交尾の相手となって貰えない無念。いくらイケメンと讃えられたとしても、母親としてよりも色情魔としての性格を優先するこの狂気。歯軋りを鳴らした「息子」は。

『早く帰れ!』
『をっ!』

 母親の豊満な胸を、エースバーンらしい足捌きで蹴り込む。大きさとしてはまさに扱う火球であるが、二つ並んでいる点は違いであろう。エースバーンの今の体を練習していたのだろうか、動きは馴染んでいる。母親が受けたのは夢とは思えない重苦しい衝撃。そのまま叩きつけられる向こうの床――は無く、宙を落ちていく感覚となる。しかしそれは崖から落ちたような恐怖とも絶望とも違う、あるべきものの一つ程度の感覚であった。



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 白。白を基調とした天井。夢から覚めて感覚が戻ってくるのを理解すると、徐々に周りの声も聞こえてくる。上体を起こそうとするとどうにも重い。まさか何日も寝てしまったのだろうか。やっとやっと首を上げると、息子のうちの一匹と目が合う。その後ろで、あのエースバーンが他のリオルたちから「兄さん」と呼ばれながら遊び相手になっていた。

『……兄さんが姉さんになってしまいました』

 ユニエフは目を剥き吹き出すが、時既に遅し。周りのリオルたちも一斉に「兄さんが姉さんに」とまねっこをする。怒髪天。ユニエフは顔中の毛を逆立てる。

『お前! 十日ぶりに目を覚まして第一声がそれかよ!』

 個室ではあるが、隣にも入院患者がいるかもしれない病棟である。しかしそんな場の弁えも忘れて、ユニエフはルカリオに怒鳴りつける。それに対しても悦に浸って含み笑いするルカリオとのやり取りを見て、リオルたちは「いつもの母さんと兄さん」と目を輝かせる。

『私、十日も寝てたの?』
『ああ。こいつらの話をまとめたが、脱出の後は不眠不休で食うもんも碌に食わずにこいつらの世話をしていたらしいな』

 ユニエフはため息を一つ。とは言え母親が限界を超える苦労をしていてもリオルたちにとってはギリギリだったらしく、ユニエフが兄弟全員の話を纏めるまで気付いてなかったらしい。これに関しては「母は強し」の具現化でありぐうの音も出なかった。最終的にはアウカードに怒りをぶつけたのが引き金にはなったが、こうなるのも時間の問題だったのである。

『ふふっ。尊敬していいのよ?』
『俺の前世である自身の息子に手を出してなきゃ少しくらいはしても良かったんだがな!』

 リオルたちを前にしているのもあり、あくまでもユニエフは死んだ息子を「自身の前世」と語る。リオルたちの父親でもある前の主人を惨殺された後は、奴隷としての日々の屈辱を立派になりつつあった一番の息子に抱かれることで凌いでいた。そんな話を遺された中では上の方の兄弟から聞かされた時は、流石に生まれ変わりを騙るのをやめたくなった。

『だって、イケメンには抱かれたいから』

 聞けば「母は強し」を具現化した存在であるのは確かだった。いくら死んだ息子に頼まれたと言っても、そこまでできるのかと感じさせられる力は今でも信じがたい。だが「母は強し」の態度も「色情魔」の性質が出た瞬間にはその陰に隠れてしまう。

『クソ膨れが。どう考えても虐待だからな?』
『ふふっ。あの子にも全く同じことを言われたわ』

 そしてこの悦びようである。リオルたちから死んだ兄も母のことを「クソ膨れ」呼ばわりしており、その偶然の一致を聞かされげんなりとしたユニエフ。今の呼ばわりも無意識に零れ出たものであるが、リオルたちの反応を見れば以前の母と兄のやり取りそのままであることが嫌でも理解させられる。

『ったく。俺はこいつらの兄ではあっても、お前の息子だなんて思ってねえんだからな?』
『えー? いいじゃない。小さい時みたいにママって抱き付いてさ』

 悪寒。卒倒せんばかりの悪寒がユニエフの全身を駆け巡る。本人であれば小さい時の母親とのやり取りというのはあっただろうが、生憎自分にはそんなもの塵ほども無い。首を振ってもなお悪寒が纏わりついており。

『うるせえんだよ! 俺は何があってもお前を母親とは認めねえ!』

 またしても怒鳴りつけてしまった。その瞬間。ルカリオの目元に涙が。辛うじて上がっていた頭もゆっくり下がっていき。これは流石に言い過ぎたかと後悔が芽生え始めた瞬間。

『本当に……本当に戻ってきてくれて……』
『嬉し泣きかよ! 気持ち悪りい……』

 実のところ後悔が芽生え始めた一瞬まで含めて「らしさ」だったのだが、呆れたユニエフにはそこまで気が回らない。何よりも口では「気持ち悪い」と言いながらも、嬉し泣きするだけの現実に納得できることにもげんなりしていた。

『でもまあ、そういうわけならこれからも「坊嬢ちゃん」ね?』

 このルカリオに関しては、息子呼ばわりされるよりはマシなのがなおのこと腹立たしかった。

『畜生めが……。まあ、あともう一つ……』

 ユニエフはあることを思い出すと、周りのリオルたちを見回す。これはリオルたちがいる前では話せないことだ。どうにかリオルたちを外に出せないかと悩み始めたその瞬間。

『おぉい、お前たち、夕食の時間うおお!』

 見計らったように現れたアウカードに対し、一斉にリオルたちからの蹴りが飛ぶ。この十日間で完全に、アウカードはリオルたちからこの扱いを受けるようになってしまった。それはユニエフから「兄ぃ」と呼ばれているのに納得いかないというのが理由らしいが。

『ああ、兄ぃ。俺はこいつともう少し話があるから、先に弟たちを連れて行ってやってくれ』
『え? ちょ……うぉおっ!』

 蹴られ叩かれながらで、アウカードは寧ろ連れていかれる側にすら見える光景。徐々に遠くなっていくアウカードの悲鳴を見送ると、ユニエフはルカリオの脇に寄り。

『その……な?』
『今会ってみてわかったけど、坊嬢ちゃん、もう何度もお兄さんとよろしくやってあげたのね?』

 それはもう嬉々として。ユニエフが話の切り出しに迷った一瞬で、ルカリオは会話の主導権を掻っ攫う。

『てめ……! 話も聞かずにそれかよ!』
『ふふ。イケメンのことは気になるからね。まあでも、あんな騙しをしたお兄さんはもういいけどね』

 嘘こそ言ってないが、ユニエフを倒せばあとはよろしくやって見逃してくれるかのように仄めかした。異性としての心も母としての心も弄ぶことで逃げ場を奪う、結構に酷い騙しに使われたのは今でも腹立たしい。そしてその後のルカリオの怒りようも正直トラウマになっている。今思い出してもこの能天気な母親の姿があのような怒り方をするなど想像できない。故に恐怖も感じないのだが。

『お前な……。大体、そんな風に読めるんなら、何であの戦いのときにやらなかったんだよ!』
『ある程度は読もうとしたんだけどね。坊嬢ちゃんの波動が滅茶苦茶で読み切れなかった』
『……まさか兄ぃ、それを狙っていたんじゃねえだろうな?』
『それに気付いたから、余計にキレちゃったの』

 いけしゃあしゃあ。得意げに白状するルカリオがいっそ清々しい。敵を欺くにはまず味方からとは言うが、弾き飛ばされた自身を受け止めてくれた腕の中で一瞬でも頼もしく思ってしまった自分にどこまでも腹が立つユニエフ。一方のルカリオからしても、二人の足並みを乱すはずの挑発が逆に命取りになったとは思わなかった。今までは波動をリオルたちへの指揮を主体に使っていたが、こうして生きている今改善を考えようと思えるようになり。

『クソが! どうしてやるか……!』
『何ならあの子たちに二人でやっていることを教えちゃったら? あんなことやってるなんて知らないからあの程度で許してあげてるみたいね』

 そしてまた嬉々として。リオルたちのアウカードへの態度は今でも十二分に暴力的ではあるのだが、確かにそれこそ「いのちがけ」ではない。一番上だと思っていた兄から「兄ぃ」と呼ばれる存在がいきなり現れたことに対しリオルたちの不平が沸き上がった時、ユニエフが「記憶が戻らない間世話になったから」と言ってある程度抑えるように頼んだ。勿論アウカードも本気で反撃すれば何とかできなくはないが、それをしたら更に拗れると言われて我慢するしかない日々なのである。

『お前もお前だな……』

 まだ起き上がれてもいない状態とあって波動でどこまで読めているかはわからないが、これを本当に嬉々として語るルカリオには呆れるばかりであった。やはり母親失格だ。ユニエフの口の中まで詰る言葉は出てきていたが、それよりも早くルカリオのテンションが高騰していた。

『みんなそれぞれに良い反応しそうなのよね。格好良くて憧れの兄さんが女の子に生まれ変わった上に、いきなり出てきたお兄さんとそういう関係になっちゃったなんて知ったら……ふふっ! これから楽しみで……』
『お前の息子な!』

 一方的に喋りに突入して引き返せなくなりそうだったルカリオの手に、小さな宝石を握らせる。またしても怒鳴りつけながら強引に握らされたそれ。あらゆる光を反射しているとも思わせる強さを感じさせるような美しさでいて、その奥からは如何とも形容し得ない重厚さを感じさせる。それをいきなり「お前の息子」と言われても納得できないであろうが、手に触れれば嫌でも波動が伝わってくる。

『どう……して……』
『どうやらパルデアとかいう地方で遺骨を加工されたらしい』

 それでもやはり信じがたいというルカリオに対し、ユニエフも顔を合わせられない。

 どこまでも無残な殺され方をした息子リオルだが、最終的に焼却して残った遺骨の処分でその時の主人を悩ませた。そこで思いついたのは、遺骨を宝石に加工するというものであった。本来であれば生の終わりの一つの在り方とされるはずのものであったのだが、その主人は敢えて宝石にした上でルカリオたちの前に出し、その加工もどこまでも残酷な工程であるかのように誇張して延々と語るつもりでいたのだ。遺骨を発送した後戻ってくる前にルカリオたちが決起したので、あの牢獄のどこにも見当たらなかったのである。

 戻ってくる前に逮捕まで至った主人は、最後の抵抗とばかりに語ろうと思っていた内容をそれはもう狂ったように語り続けていたという。その内容はある程度ユニエフたちのトレーナーにも伝えられていたが、ユニエフはルカリオが波動で読める可能性もあって敢えてその話を遮断するように頼んだ。ルカリオに伝えることこそがその主人の最後の抵抗である以上、それを失敗させないといけない。悪意の具体的な内容まで読めていたわけではないが、ユニエフが直感したことである。

 同様の話は、加工に当たったパルデアの職人にも伝えられた。遺骨に関して大半が嘘で塗り固められた話を伝えられていたため、職人は自らの仕事を冒涜された怒りと衝撃のあまり三日三晩寝込んだという。それでも昨日ようやく仕事に戻ったという話も伝わっていた。

『そう……』

 ルカリオはただ純粋に、綺麗になったと受け止めた。点滴の管こそ刺さっているが動かすことのできる両手で抱きしめ、自分らしくないと思っているのに涙を流し。信じられない姿にはなったが、こうして抱きしめられる姿で戻ってきてくれたことが純粋に嬉しかった。まるで今も生きているかのように波動を感じられ――

『そうなんだ……』

 先程あのような夢を見たのは、紛れもなくこの子の意思であると気付く。他の種族であればこうはいかなかったであろうが、波動を読む力を持つルカリオであればこの中での生を感じ取れることができるのである。

 息子リオルは惨殺される時、どこまでも強い思いを残していた。未練、心配、無念……。それは一度火葬されてもなお遺骨にしがみついていた。それでも時間とともに徐々に潮解していく筈だったのだが、その前にパルデアの大穴から噴き出したテラスタルエネルギーを強く浴びた。波動という精神の深いところと繋がりやすいものと関わる種族だったため、結果加工された宝石の中に思念を残すことに成功したのである。

『坊嬢ちゃん』
『なんだ?』
『ありがとね』
『あ、ああ』

 全く予想していなかった言葉に、ユニエフは若干驚く。ユニエフにとっては最初に会った時も挑発のためとはいえどこか高慢で、とてもではないが好きにはなれない相手であるルカリオ。そんな相手がしおらしく礼を言ってくるとは思わなかった。ルカリオの方は夢の中で息子に言われたことは頭になく、ただ余計なことは言わず、敢えて余計なことを知らないままで息子を届けてくれた坊嬢ちゃんへの言葉であった。



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『というわけで来ちゃったごふっ!』

 喜び駆け寄るルカリオの胸元に、即座に頭ほどある火炎ボールが叩き込まれる。熱と衝撃に打ち据えられ、地面に投げ出され悶えるルカリオ。それを眺めるエースバーンは慈悲など一片たりとて薬にもしたくないとばかりの目で。

『意味も無く来るんじゃねえ!』
『だからって、顔見るなり火炎ボール飛ばすことないじゃない!』
『口で言っただけで理解する奴かよお前は!』

 目の前のエースバーンと瓜二つの彼女から渡された「遺体」。それに触れた時、先の「夢」はこの彼が意図をもって見せたものなのだと気付いた。まだ本調子ではないが、波動に身を委ねて意識を投げ出すと、果たして予想通り愛した彼がいた。いつもであればリオルたちが「またやっている」という目線を向けるのだが、この場に来ていない以上それはない。

『あー。でも、男の子に戻ったのね?』
『お前の為じゃねえ! 興味本位でなってみたけど、これに関してはこっちの方がしっくりくるってだけだ!』
『まあ、戻った理由は別にいいんだけどね?』

 母親の求めを察し、エースバーンは飛び退きながら火球を飛ばす。まずは威嚇。それでもなお迫ろうとする母親に対して、更に強大な火炎ボールを作って見せる。意識だけの世界であるが故に傷となることは無いが、だからこそ痛みや熱さはより一層のものだと先程見せ付けられたばかりである。

『言っておくが、二度とやらねえからな』
『いいじゃない。折角なんだから』
『断る。この姿で、しかもお前とやっちまうなんて取り返しのつかねえ冒涜になる』

 言いながら、エースバーンは腕を掲げて引き絞る。それに続いて得心の笑み。

『……今のポーズ、何?』
『ああ。ユニエフがやってたやつだ。二つ名の「紅炎破天の魔彗星」もきまってるぜ!』
『坊嬢ちゃん、そんなの考えてたんだ』

 火炎ボールを躱して迫るべく身構えていたルカリオは、息子の突然のポーズに当惑し。今はエースバーンとなっている息子は、どうやら外の様子をある程度伺うことができるらしい。ポーズや二つ名は恐らくユニエフがリオルたちの前ということでやって見せたものなのだろう。

『死して後、真の炎となり燃え上がる! それを見るのがお前だけってのがつまらねえ話だがな』
『本当に「好みをぴったりと形作ってくれた」のね』

 男って、わからない。今の口上は恐らく自身で考えたものなのだろう。雰囲気が似通っているとは思ったが、ここまで影響されるとは考えもしなかったルカリオ。あのリザードンにしてもそうだが、ユニエフはどうして魅力ある男だけを選んだように掻っ攫っていくのか。

『まあいい。折角だから、俺にも似合う二つ名を考えるのを手伝っていけ』
『あーあ。仕方ないわね』

 ルカリオはため息一つ。彼も自分に添い遂げてくれる男ではないと、今度こそ諦めがついた瞬間である。その後は、ルカリオにはよくわからない単語や口上が延々と並べ立てられて。自分ではついていけない部分を感じながらも、一方で「また来よう」とも思った。結局エースバーンが納得できるものが無かったため、次はユニエフと相談してくるとも約束し。この時には母親の顔になっていた自覚は無かったらしい。



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『ユニエフ君、復帰待ってたよ!』
『おう! まあ、抜けてた理由は故障とかじゃねえからな。前以上に魅せてやるぜ!』

 試合前のウォームアップを始めようとストレッチをしていたユニエフとルカリオのところに、この前のテールナーがやって来た。ルカリオはあの後ファニェールという名前を付けられ、試合に臨むユニエフのアシスタントからスタートしていくこととなった。ちなみに名付けの際、ユニエフは端末を操りルカリオの名前を「命名:クソ膨れ」と書いて示して怒られた。関係性は結局変わらなかったのである。

『あらあら。随分可愛らしいお嬢ちゃんね?』
『あなたが新しく加わったアシスタントのファニェールさんですね! ユニエフ君のファン第一号のコルマです!』

 コルマはウインクして自慢げに、ナンバーワンの数字が入ったユニエフのファンクラブ会員証であるワッペンを掲げる。バトルに立つポケモンたちの中で気に入った者がいると、こうしてファンクラブに入りワッペンを貰えるのである。それをたくさん集める者も珍しくはないのだが、活躍するポケモンのファンナンバーワンを取るのは非常に難しい。コルマの持っているアウカードのファンナンバーなど4桁の数字である。先見を求められるのだ。

『あー……。コルマちゃん、よろしくね?』
『よろしくお願いします! ファニェールさん、大変だったって話も聞きました』

 ユニエフはしばらくバトルから離れていた。ファニェールの……というよりもその息子のリオルたちの面倒を見るためであった。彼女たちを奴隷としていた主人の一件は大事件として知れ渡っており、それが故にユニエフがリオルたちの面倒を見るとしてバトルを離れたことも美談として広まっていたのである。結果としてここまでの成績以上の人気を得るようになり、コルマをはじめ手伝いに来るファンが散見されるようになった。ファニェールとコルマが会うのは今が初めてなのだが、ファニェールの方は「あること」に気付き……。

『えーと……ユニエフ君、随分素敵なファンを付けたのね?』
『おま……! お前……。呼ばれてみると、お前に「坊嬢ちゃん」じゃなくて名前で呼ばれるとぞっとするな』

 ばきっと、ファニェールの腰が鳴る。

『お前、今凄え音したぞ?』
『痛た……。ちょっと……!』

 今はいつものように「坊嬢ちゃん」と呼ばず、敢えて「ユニエフ君」と名前で呼んだ。ユニエフには当惑させられることであったのだが、それが何のためか考えて欲しかった。時すでに遅く、コルマは愕然とした表情と、それでいて認めたくないという拒絶で震え始めていた。

『えっと……「坊嬢ちゃん」?』
『ああ。俺のことを「坊やなお嬢ちゃん」呼ばわりした上に、この略し方だ。酷えよな?』
『……ユニエフ君、女の子だったの?』
『ん? 知らなかったのか?』

 そしてことここに及んでも、ユニエフはまだ一瞬気付かずにいた。見る見るうちに窄んでいくコルマの頬の毛並み、うっすらと浮かび始める涙。ワッペンをぼとりと手から落としても気付かない有様を見て、ようやく疑問符が出始めたところであった。

『あ、あはは……。女の子でも、格好いいのは変わらない……。でも、恥ずかしい……』

 無理矢理絞り出した乾いた笑い、それをうるおそうとばかりに増えていく涙。コルマも炎属性で違わない(たがわない)らしく瞬く間に体温が上昇し、それは焼け石に水とも。

『どうした! 大丈夫か?』
『ご、ごめんね!』

 ワッペンを拾うことも無く、コルマは踵を返して走り去る。先のファニェールの反応からも、自分が何か悪いものを踏み抜いてしまったという事だけは理解したが、性別が違っていたことがそこまで恥ずかしがることなのだろうかと困惑するのがせいぜいであった。

『坊嬢ちゃん、結構なしでかしよ?』
『えーっと……性別の間違いって、そんなにやばかったか?』

 若干不満げなユニエフ。少なくとも「坊嬢ちゃん」や「兄さん」の扱いを受け入れられるくらいには男と見られかねない要素が多かったのは自覚しているが。だからこそコルマが勘違いするのもそこまで恥ずかしいことではない筈なのだが……。

『あの子、坊嬢ちゃんに……もういいや。惚れちゃってたのよね』

 コルマの恋心をその相手に暴露することを、一瞬は躊躇うファニェール。そのあたりの良識はあるらしい。だがユニエフはそれでも目を剥き首を振る。波動を読むことで相手の心理を読むことに長じているルカリオの言葉だというのに。

『は? いや待てよ! そこはせめて兄ぃじゃねえのかよ!』

 コルマが最初に声を掛けてきた時を思い出す。確かアウカードに声を掛けて、一緒にいたユニエフにも声を掛けた形だった筈だと。アウカードに対しても恋心という様子ではなかったし、まして自分はそのついでくらいの位置付けだった筈。その辺のやり取りを正確に辿れたわけではないが、恋焦がれてしまった相手に直接向き合うのが簡単ではない心理くらいは想定して欲しかった。ファニェールはため息をつき。

『坊嬢ちゃんもお兄さんも、これだから男は……』
『俺は女だ』
『取り敢えずあの子放っとけないからね。私が何とかするから、坊嬢ちゃんは試合に向けて切り替えて』
『へ? お、おい!』

 せめてファンナンバーワンを取っていた段階で確信して欲しかったが、もうそれを言っても仕方ない。ファニェールは落とされたままのワッペンを拾うと、コルマが走り去った後を追う。試合前のウォームアップ相手役は投げ出すが、ファンへの対応もアシスタントとしての仕事であろうと考えてのことでもある。もう一つ魂胆もあるが、それはたまたま当たった時くらいのものにしてある。



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 波動を辿っての追跡とあってファニェールも全力疾走とは程遠いが、コルマは鍛えている方ではないため然程足は速くない。波動は着実に近付いている。階段を下り踊り場を抜け、次の階段を下ろうとしたとき。

『嘘……』

 あまりにもとんでもない光景故に、逆に笑えなかった。ペットボトルのごみ籠の口から、倒立状態となったテールナーの尻が生えていたのだ。恐らくこの階段を下る際に足を踏み外し、綺麗にごみ籠にゴールイン。中にあったペットボトルをいくらか弾き飛ばしながら、残った勢いで足先が向こうに向くように半回転したのであろう。通りすがりの人やポケモンは、二度見する者もいればその場で固まる者もいて。

『うぅ……』
『コルマちゃん、だったわね? 大丈夫?』

 ファニェールはコルマをごみ籠から引き抜くと、ひとまず脇に座らせる。その際にコルマに引っかかっていたペットボトルが数本追加で落ちる。周囲からの目線や波動が痛いので、落ちたペットボトルを拾いながらコルマの様子を見る。コルマはしばらくの間さめざめと涙を流し続け。

『初恋……だったんです』

 お礼よりも謝罪よりも先に出た言葉である。だがファニェールは不満など微塵も浮かべる様子も無く、頷いて頭を撫でる。多くの子供を抱える母親らしさは持ち合わせているらしい。

『まったく……ファンには気を遣ってあげないといけない筈なんだけどね』
『良いんです。確認もせずに好きになった私が悪いんですから……。うぅ……』
『文句の一つも言っていいのに……大人ね』
『いえ……えっ?』

 ファニェールはもう一度頭を撫でると、コルマの肩と腰に腕を回し込み、そのまま抱き上げる。細身ではあるが腕力はある種族であるルカリオにとっては、テールナーのコルマをお姫様のように抱きかかえるくらいわけはない。ファニェールも見た目で雌なのはわかるが。突然の行動にコルマは目を丸めるも。

『今はゆっくり……控室を借りるから、眠っているといいわ。こういう時は泣いて眠るのが一番よ』
『えっ……? でも……』
『坊……じゃなくて、ユニエフ君は機械を使えるからね。自分のしちゃったことだし、その辺伝えるくらいのことはしてもらうわ』

 言いながら、既にファニェールは元来た道を引き返し始めていた。先程ストレッチをしていた部屋の奥は控室になっているので、端とはいえこの往来の中よりは流石にましである。コルマは抱えられた腕や胸の柔らかさに、衝撃で竦み上がった心が解されていくような感覚になり。いつの間にか力が抜けて、意識が溶け出していくのであった。



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 何となくだが、コルマは夢を見ているように感じていた。どこか浮ついているようで、だが何となくここまでのいきさつも頭に浮かぶ。ユニエフの性別を知ってショックを受けて、その後はファニェールの腕の中で……。夢の中だというのに、どこか気恥ずかしさが芽生え。

『ふふ、いらっしゃごほおっ!』

 一瞬で消し飛ばされた。一瞬だけ見えたファニェールの笑みは、しかし先程の優しげな母親のものではなく何かの欲を含んだ雌のものであり。そんな怪しげな笑みも次の瞬間には強烈な炎に打ちのめされていた。

『はー。飛んだ飛んだ。まったく』
『えっと……』

 この強烈な火炎ボールを放ったエースバーンは、舌打ち交じりでファニェールが飛んで行った方を眺める。

『なんで毎回焼くの!』
『それで性懲りも無く来るお前もお前だがな』

 エースバーンが呆然とするコルマに話しかけようとしたその時、ファニェールが神速で戻ってくる。この意識だけとなった世界ももう慣れたものらしい。呆れ顔のエースバーンの横顔に、コルマは「その面影」を感じ取る。

『ユニエフ君……ちょっと違う?』
『話には聞いているみたいだけど、この子がその殺された息子なの』
『ファニェールさんの? ルカリオとかリオルじゃなくて?』
『あっちの坊嬢ちゃんに入れ込んでこの姿にぐふっ!』

 火炎ボールが飛ぶ。

『もう少し言い方を考えろ!』
『えっと……お母さん、だよね? そんな風にしていいの?』
『奴隷にされてた時にね、救いになってくれるイケメンを求めて交尾させたことを未だに根にぎゃはあっ!』
『まだ言うか!』

 次は飛び膝蹴りだ。床に叩きつけられたファニェールは、上から押さえつけるエースバーンの勢いのまま、潰され床を引き摺らされる。

『何て言うか……違う感じはあるけど、随分そっくりだね』
『俺もユニエフを見て驚いたぜ。波動までそっくりだからって試してみたら、マジでなれた』

 一応、ユニエフがここまで一方的な暴力を振るった姿は見たことは無いが。ファニェールの口から転げ出たとんでもない過去が、このあまりにも厳しい行動にも納得を与えてしまう。

『ユニエフ君も一度ここに来たんだ?』
『いや。俺の体は今は小さい宝石なんだけど、その状態からでもある程度外は見て感じ取ることができてな』
『波動で宝石状態のこの子に近付けるから、いけると思って試してみたら本当にお嬢ちゃんも連れて来れたの』
『そうなんだ? ユニエフ君には頼まないんですか?』
『頼んではみたけどね、私と添い寝状態になるのが信用できないって断られたの』
『……その反応が妥当だと感じる辺りが余計腹立たしい』

 本当のところ、彼もユニエフと直接言葉を交わしたい気持ちがある。流石にあわよくばなどと思う気持ちなどは無く、純粋に趣味の話で盛り上がりたいのだ。

『うーん……。でも、ユニエフ君と一緒にいると話が行き過ぎて収集つかなくなりそう』
『何だと!』
『まあ、坊嬢ちゃんにはお相手もいるんだし、諦めなさい』

 エースバーンのため息。実のところ、彼自身も分かってはいたのだ。彼の遺体がユニエフの手元にあった時、ユニエフの自室に何度となく訪れてくるリザードンがいた。その時は流石に自室に置いて行かれたが、それで何となくあのリザードンとはそういう関係であるというのが察せられていた。

『ったくよ。だからって……何があったのかは見てたけどな、だからって連れてくることはねえだろ!』
『そう? 少なくとも私よりは好みに近いと思うけど?』
『好みとかじゃねえ! 誰かの代わりを俺がやるなんて……』
『そう……だよね』

 言おうとした瞬間、脇からのコルマの目線がエースバーンに重くのしかかる。暫し逡巡するも、諦めきれないのに諦められないまま涙を溜めつつあるコルマの目線に耐えきれなくなり。

『俺が……俺は俺だ! 確かに名前はユニエフだ! 俺は「天命狭間の光遊星」の方のユニエフだ!』

 ユニエフが普段見せている、腕を掲げて引き絞る決めポーズ。それを鏡映しで反対にしたものをユニエフ君はやって見せる。奴隷のまま最期を迎えた彼の知識では、今一つ納得できる二つ名が浮かばなかったのだ。そのためファニェールから事情を伝えると、ユニエフは「なら自分と対になる感じが良いだろう」と二つ名と合わせるポーズを考えたのである。

『ユニエフ君……!』
『まあ、やっぱりそうなるよね』

 向こうにいるユニエフも、リオルたちを前に兄の代わりとして名乗りを上げた。何もかもが似通っているのだから、同じことをやるのは想像通りである。既に色々と聞かせてしまっているため完全に同一人物とは名乗れないが、それでもここに来るのであればコルマの思いは受け入れようと決めた。名乗る二つ名こそ違うが、コルマはユニエフ君の胸に飛び込む。

『お前なぁ……』
『まあ、あとはお邪魔なのは出ていくわね?』
『おい待て!』

 ファニェールの体が半透明となり、徐々に色薄くなっていく。現世との接続となるファニェールがいなくなって、果たしてコルマは戻れなくならないだろうか。しかし止めようにもコルマを抱きしめていては手が届かないし、手が届いたところで止めることもできないだろう。

『多分普通に目が覚めれば、戻って来れると思うわよ?』
『多分じゃ駄目だろ!』

 ユニエフ君の叫びが終わる頃には、母親の姿は完全に消えていた。もしこのまま戻れなくなったら、コルマもまた遺体となりかねない。その時どれだけのものを背負わされるかと思うと、感覚だけであるのに胃が痛くなるような気になる。

『ユニエフ君……! ユニエフ君……!』

 だがコルマは呑気なもので、この温かく頼もしい胸に顔を埋めて喜ぶばかりである。こうなってしまってはもう仕方ない。ユニエフ君は今はただ余計なことなど考えず、この儚げな少女を愛することにしよう。

『まあ、いいけどな。だからって向こうのユニエフに悪くするなよ?』
『わかってるよ。向こうのユニエフ君は女の子だけど、コートの上ではやっぱり素敵だから』
『俺自身もあんな風になりたかったぜ。ここでできるのは見様見真似程度だからな』

 ユニエフ君はコルマの背後に目線をやる。振り向くと、そこにはいつの間にかガケガニの姿が。休みに入る前の最後の対戦相手である。録画したものを弟たちに見せる中で、彼もまたそのバトルを見たのである。そしてここは彼が支配する世界であるため、彼が思ったものを形にするくらいのことは可能なのである。
 コルマが一歩退くと、ガケガニはあの試合と同様に硬さを武器に猛然と迫りくる。それに動じることなくその場で構えて、十分に引き付けたその瞬間相手の腹の下に仰向けになるように滑り込む。一歩間違えれば急所を晒すその動きに、しかし相手のガケガニは対応できないまま。滑り込んだユニエフ君は背中と足をバネに、一気に相手を宙に弾き上げた。
 この試合のときはまだラビフットだったため、エースバーンになっているという違いはあるが。それ以上にバトルコート内から出ることなくギリギリの距離で試合を覗き込める。ユニエフ君が用意した特等席での観戦に、コルマも大興奮で声を上げるのであった。



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『う、ん……』

 体はどうにも重かったが、それ以上に満たされた気分である。目を開けると打って変わって整理された小部屋であった。妙に焦げ臭いのは気になるが。

『起きたか』
『あっ。あっ……』
『まあ、困るか。話はあいつから聞いているけどな……』

 言いながら、ユニエフは部屋の隅に目線を向ける。そこには黒焦げにされたファニェールが、目を回して転がっていた。一応コルマの傷心に手を打ってくれたことの感謝はあるが、それでもやり方がユニエフにとってはあまりにも納得がいかなかったが故のこの処置である。とは言えファニェールもタフなもので、この酷いやられようでもどこかにやけた表情である。頭の中ではまた次の悪だくみを性懲りも無く始めているのだろうと理解させられ、流石のコルマも心配する気になれなかった。

『でも……でもやっぱり、私にとってコートの上でバトルする姿は憧れなんだなって思った』
『そうか。そう言ってくれるなら幸い……』
『これからもよろしくね、ユニエフ「様」!』

 コルマに目線を合わせようとしゃがんでいたユニエフは、突然の「様」付けの呼ばれ方に驚きよろける。

『お前……! なんでよりによって「様」なんだよ!』
『愛する人と憧れの人、やっぱり違うなって』

 並べて比べることができた今だからこそ、その何とも説明し得ない違いを感じることができる。バトルコートの上のユニエフは、手に入らないからこそ良いものだと。だから呼び方は分けたいと思い、少し考えた末に。どうにも遠く、それでも大きい……目の前のユニエフはコルマにとって「様」を付ける相手なのである。当のユニエフは当惑するばかりであるが。

『だからって「様」はねえだろ!』
『もう決めちゃったから。でも、ありがとう。これからも試合、楽しみにしてる』

 テーブルの隅に置かれた、ファンナンバーワンのワッペンを見つける。コルマは起き上がりそれを手に取ると、先程と同じくウインクして掲げて見せる。自分も向こうにいる「ユニエフ君」も、目の前のユニエフのファンということを同じくしている。ユニエフ自身は流石に誰かから「様」をつけて呼ばれるようなところまではまだ届いていないと思っていた。だがコルマにとっては自分がナンバーワンであるからこその自分にとってのナンバーワンであり、それだけの相手として呼びたいと決めたのであった。



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 それからまた暫くが過ぎた。コルマはユニエフやファニェールの元に通うようになった一方、アウカードも更にユニエフにのめり込むようになっていた。

『それじゃあ、頼む』

 ユニエフが部屋に入ると、話もそこそこにアウカードは仰向けになる。当然とばかりにいきり立っている逸物は、このところ行為が増えたせいか心成し大きくなっているようにも感じられて。

『明日の試合に障るんじゃねーぞ?』
『いやまあ、明日が試合だからこそ頼む』

 五体投地――尻尾と両翼もだが――の中、逸物だけが一転して上を向いている。アウカードの愉しみの総てを集めている場所であるのが見せつけられる格好だ。ユニエフは呆れ顔ながら、トレーナーから貰ったポケモン用のコンドームをそこに被せていく。最初に行なったのが見られた時に、その都度枕カバーを犠牲にされては困ると用意してくれるようになったのだ。一日でも何枚も使うほどの消費の激しさはあるが、アウカードもユニエフも勝たせてくれる実力である分それに対して文句は言われない。

『ああああっ!』

 被せられたコンドームが下へ下へと滑っていく、その感触だけでもアウカードは嬌声を漏らす。性器も根元からびくびくと震え、まるで今すぐにでも射精しそうな様相である。とはいえアウカードもここでだけは抑える。以前装着が中途半端なままに噴き出させてしまい、お互いが体中で思いっきり浴びてしまったことがある。窓から外に出て、精液を焼いた後はさんざんに怒られ。流石に申し訳なかったのでその事態は避けることに努めている。

『いいぞ?』

 性器の根元までを覆っても、まだコンドームの先端には余裕が見られる。既に先走りが透明なコンドームの中に溜まっているのは見えるが、何度射精しても破れないばかりか受け入れて膨らむ光景はユニエフも見ていて圧巻だった。ポケモン用に合わせて作られたという謳い文句は流石だ。

『ぅう……あぎゃっ!』

 ユニエフは性器を踏みつける。乱雑なようで力加減はしており、コンドームの先端で先走りが増えるのが見て取れる。ここから足を前後させると、それに合わせて性器が痙攣する。瞬く間に息が長く深くなっていき。その長さに合わせて足を前後させるすべも、もうすっかり慣れてしまっていた。

『あー……がぁあああっ!』

 決壊。その瞬間、ユニエフは足裏に力を込める。押さえつけられてもなお激しい性器の痙攣で弾き飛ばされそうにも感じたが、その下でコンドームを膨らませる吐出を見て悦に浸るユニエフ。

『いつもいつも、情けねえな?』
『ぁ……。ぁー……』

 言い捨てるユニエフの言葉もまた、既にいつものものであった。バトルコートでは堂々としているアウカードが、哀願するままに踏んで貰っている姿は見ていて楽しいものがある。

『今日は……一発だけか?』

 一転して徐々に萎んでいく性器。コンドームになってからは見ていて楽しいので、いつも何発もやらせているユニエフ。今日の求めは性欲が明日に響かないようにするための準備程度のもので、実はそこまで溜まっていなかったのかもしれないが。折角だからともう一発を求めて踏んでしごくユニエフに対し、アウカードの性器は今日はもう無理とスリットに戻っていく。

『ぁー……。ぁー……』

 アウカードは頭も力無く投げ出し、息だけ荒げて完全に気を失っていた。見ていて楽しいのは間違いないが、こちらの気持ちも知らないでという思いも芽生えてくるユニエフ。下腹の奥が熱くなるのを感じており。今日もいつものように……。

『クソが……』

 股引のような様相の毛並み……毛並みの筈だったそれを下ろす。進化した直後は確かに毛並みであり、赤い毛並みから直接出ていた割れ目。その赤い毛並みがどういうわけか脱げてしまい、いつの間にか生え揃っていた白い毛並みが上半身から続く形となっていたのだ。

『こんな姿に……!』

 進化する前に抱いていたエースバーンの姿への感情も、どこか体を晒すようで見ていて気恥ずかしさがあった。相変わらず胸は育たないままだが、それに関してはアウカードが受け入れてくれたことで自分でも気持ちが下がった。だが。

『あの日も、だったよな……』

 その日もアウカードは一発のみで気を失い、踏んで致させる中で本番という気持ちになっていたユニエフは物足りなさを抱いていた。とは言えスリットに戻ってしまったものは仕方ないので、そこから先は自分の手でどうにかしようと撫で始めた瞬間。唐突に赤い毛並みが脱げてしまったのである。

『何でこうなっちまったんだ……!』

 この突然のことに愕然としたユニエフは、慌てて部屋に戻った。そして確認しながら丁寧に全部の毛並みを脱がすと、仕方がないのでゴムを通してズボンとソックスに作り替えたのであった。この辺りの器用さがあったのは不幸中の幸いで、すぐにこのような姿の変化がバレることは無かった。だがこの姿は、進化前に抱いていた以上に体を晒すような恥ずかしさで耐えられなかった。だから隠さなければならない。波動でバレるファニェールにはこちらから伝えると、口止めまで拍子抜けするほど素直に呑んでくれたが。だがアウカードをはじめ他の誰にもばれてはいけないと必死であった。

『畜生が……!』

 一度火が点いた情欲は、どんなにぼやいてももう止められない。ユニエフは新たに生え揃っていた白い毛並みの間から顔を出す割れ目を、柔らかい掌で必死に撫で始める。アウカードの性器を虐げる中で、自分もやりたくなる時はたまにある。だがこの毛並みが見せられなくなってしまってからは、アウカードのそれに頼ることもできなくなっているのである。

『あぅ……。畜生……!』

 撫でれば撫でるほど、腹の奥に熱が沸き上がってくる。アウカードは完全に気絶しているし、扉の鍵も閉めているので邪魔が入る心配も無い。今はただこの満たされない感覚に届かせることに徹しよう、そう思っていたのだが。

「アウカード? ユニエフちゃん来てるの?」

 部屋の鍵が開き、トレーナーが入ってきた。ユニエフの位置は扉から真正面で、隠そうにも真っ先に見られてしまうその姿。折の悪さを呪う間もなく、ユニエフの脱げた毛並みが見られてしまう。

「えっ? ユニエフちゃん、その毛並み……?」

 考えてみたら、いつかはこうなることだったのかもしれない。トレーナーは合鍵を使って平然と入ってきており、もう交わっていることには反応しない程度には慣れているのであった。毛並みを隠すためにアウカードとの交わりを諦め自慰をするというのももう何回もやっており、これも回数を重ねる中でいずれ見られるものだったのだろう。

『こいつは……クソがっ!』

 いつもであれば端末を使って文字で説明するであろう場面。しかしユニエフは端末に手を伸ばすこともできないまま、ただ涙を流し始める。その様子にただならぬ事態を感じたトレーナーは、ユニエフの頭を撫でると。

「すぐにポケモンセンターに行こうね」

 モンスターボールを取り出し、ユニエフをしまう。閃光に包まれてボールの中に納まったユニエフに対し、外から「悪い病気じゃないかだけは確認しないといけない」ということを語り掛ける。突然の変化に対するショックで失念していたが、真っ先に相談すべき相手がいたのである。トレーナーの少女はその見落としを責めることなく、ポケモンセンターへの道を急いだ。



----



 ユニエフの毛並みは病気といった心配するものではなく、ただの換毛であった。通常であれば腿の赤い毛並みは扱う火炎の色と重なり、相手を幻惑させる効果が存在する。一方で子を産み育てる際に巣作りに使った場合、巣の中の子供との色の対比でその状態を確認しやすくなるという効果もある。勿論外敵の目に触れたら見つかる確率も上がるが、そもそも弱い状態の子供がいる巣を外敵の目に触れるような位置に作る時点で既に問題があるという事らしい。巣作りに使うのが前提のため剥がれる際に崩れづらいように上手くできているのだが、こうも綺麗に元通り穿けるほど崩れていないのは奇跡的であるという。人間の飼育下でも稀に見られるものらしい。
 別段心配するようなことでもなかったため、トレーナーの少女はユニエフをボールに入れた状態で帰宅する。翌日はアウカードの大事な試合だったので、まずはそちらに備えて休むことにする。
 翌日試合が終わった後。少女はユニエフたちを伴い実家に戻っていた。少女ではあるが、ポケモンたちに小さいながらも個室を与えられるほどの邸宅を構えられるほどの収入を得るに至ったため離れた実家。彼女がもう少し幼かった頃に着ていた服でユニエフにサイズが合う物が無いか探しに来たのである。折角なのだから新しい姿を色々と楽しんでみればいいということなのだが。

『来ちゃったうわぁっ!』
『躱しやがったか! 何で来やがったんだ!』

 リオルたちの面倒を見ているはずだと思っていたファニェールが、何を嗅ぎつけたのか波動を辿って合流してきた。この状況で一番現れて欲しくなかった存在のため、即座に放った火炎ボール。寸でのところで直撃は避けたものの、尻餅をつくファニェール。

「ユニエフちゃん! ファニェールも心配して来てくれてるんでしょ? そんな邪険にするんじゃないの!」

 少女に言われ、ユニエフは舌打ち一つ。にやけるファニェールの表情は間違いなくそんな純粋なものではないのだが。それを訴えようと端末を操って伝えたところで、もう一度「邪険にするんじゃない」と重ねられて終わるのが目に見えている。

『大体、弟たちはどうしたんだよ!』
『コルマお嬢ちゃんが来たから、見てくれるように頼んで来てみたの。ふふっ!』

 ファニェールの含み笑いに、ユニエフの全身の毛並みがぞくりと逆立つ。少女に一度目線を向けて訴えかけるが、この態度でも特に気にした様子は無く。

「アウカードが好きになれるかも参考になるかもしれないけど、女の子同士で見てみるのも良いかもね」
『お前は阿呆かよ!』

 端末を使わず声だけの言葉だと人間には伝わらないが。勿論声の様子である程度の察しはつくが。バトル中は的確に指示を出す頼もしい存在であるのに、いざバトルコートを離れるととんでもないポンコツだと感じさせられる。アウカードと言いバトル以外だと情けない主従には先が思いやられる。

「まあでも、多分ファニェールが着れる服は無いかな? ごめんね」

 言いながら少女はファニェールの体を一通り眺める。ルカリオは直立二足歩行で人間の子供のような形態であるが、種族柄胸には大きな棘があり人間の服はそのままだと入らない。加えてファニェールの場合、ルカリオと言うには逸脱しているかのような巨大な乳房がある。今の少女ですら比にならないほどに大きな胸のため、今より幼かった頃の少女が着ていた服は確実にはち切れるであろう。だがそんな胸の大きさに嫉妬する様子など微塵も無く。

『あらあら。坊嬢ちゃんのように嫉妬しないのね? 大人だわ』
『単にポンコツなだけだろ!』

 ユニエフにとっては心の底からの言葉ではある。ただ、最初に出会ったときは裏目に出る結果となったが、通常であればこういった気持ちを掻き乱すものに反応することは一つ一つが危険因子である。ポンコツも悪い面ばかりではないのだと、ユニエフは心の中で落胆のため息を吐く。



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「うん、やっぱりこの頃のがぴったりだ」

 少女はかつて過ごしていた子供部屋に戻ると、タンスからブラウスとスカートを出してユニエフに着せてみる。家を出てから数年で、少女は背丈の方も伸びた。今のユニエフとは頭一つ違う身長差なので、当時の服が丁度いい大きさだったのは予想通りであった。

『これは……こうなるか』
『見てるんじゃねえよ!』

 人間は着衣が変わるのももう見慣れていたが、ポケモンであるユニエフがいつもと違う姿になったことにはアウカードも目を丸める。ファニェールも「これだとしっかり女の子だ」とうなずく。対してそれらの目線が妙に恥ずかしく感じられ突っ慳貪な表情のユニエフ。

「最近こっちの地方にもホロウェアってのの装置が導入されるようになってきたから、バトルコートで同じ格好できるって考えていいよ?」

 言いながら少女は道中で購入してきた「ジェム」を鞄から出して見せる。とある地方では、バトルコートでもホログラムの衣装を身に纏わせてバトルするという話である。流石に実物を着てしまうと動きに違いが出てしまうほか、バトルの中で簡単に破損してしまうのでホログラムという代替のものが開発されたのだが。ちなみにバトルコート外であれば実物を着ているポケモンも多いという話である。

「おーい!」
「あ、お父さん! すぐ行くね! それじゃあ、色々見てみてね」

 何かついでの用があるのだろう、部屋の外からの声に呼ばれるままに少女は部屋から出ていき、残されたポケモン三匹。慣れない存在に対する妙ないたたまれなさに、ユニエフはいそいそとブラウスを脱ぐが、その時にはファニェールが他の服も次々と出し始めていた。

『他の段にもあるでしょうからね。取り敢えず全部出してみちゃいましょう』
『わかった』

 次々とタンスを開けてはベッドの上に積まれる服。ユニエフはその光景を呆然としながら眺めていた。自分はこれからどうされてしまうのか。何変わるでもなく気楽な立場の二匹が平然と手を進めているのに対して疎外感を抱く。次にファニェールが試したのは、どちらも単色のパーカーとジーンズ。

『上はともかく……下は厳しいかな?』
『尻尾がきつい……』
『まあ、あいつももう着ない服だから、尻尾に関しては穴を開ければいけるんじゃねえか?』
『尻尾はそうでも、足の方がね……』

 ファニェールもアウカードも「裾」という単語は知らない。エースバーンは脚が長めのため、脛が半分ほど出ている格好だ。アウカードは特段気にしていなかったが、人間が穿いている物の格好をある程度把握しているファニェールは首を傾げる。

『これとかどうだろう? 上と下が一緒になってる感じね』
『……ワンピースな』

 ユニエフが服の種類を言うと、ファニェールは嬉しそうに口元を緩める。端末を操り色々知識を集める中で、ユニエフの方はある程度のものは把握していたらしい。まさか自分が着ることになるとは思わなかったが、それはもう諦めている。既にパーカーとジーンズは脱いでおり、もうどうにでもなれという感じだった。

『うん、ひらひらしてるのがついてて可愛らしいわ。ワン……なんだっけ?』
『もういいっての……』

 波のように何列にも入れ込まれたフリルを撫で、ファニェールはご満悦だ。折角なのだから楽しめば顔も似合ってより可愛らしくなるのにと思いつつ。ちなみにユニエフが楽しめない原因のほぼ100%が自身にあるというのも理解しているから救えない。そんな風に楽しんでいると、横からアウカードが入ってきて。

『ユニエフ、ちょっとこれを着てみてくれないか?』

 アウカードが下げて広げたそれは、学校で水泳の時に着られるスク水であった。これも物自体は知っていたため、自分は水中に入るような種族ではないのにと思いつつも仕方なしに着ていく。アウカードの鼻腔が拡がり息が上がっているのには気付いたが、既にさんざん体を重ねた相手であるため気にしないようにはしていた。

『これで、いいか?』
『ああ、そしてこう……』

 アウカードに言われるままに両腕を上げ、股を開き気味に。尻尾が水着の下に入って膨らみになっているが、それは後で考えようと思いながらアウカードはユニエフの正面に回る。重々しく喉を鳴らしたその瞬間、軽く吹き出したファニェールを睨みつけるユニエフ。

「いい感じなのあった?」

 更に時を同じくして、少女が部屋に戻ってきた。少女は入り口で固まること数秒、つかつかとアウカードの方に歩み寄る。ただならぬ気配を感じ取ったユニエフが退くと、少女は入れ替わりでその位置で跳び上がりながら足先で空中目掛け弧を描く。

「この、クソ変態トカゲ!」
『ぐぎゃっ!』

 弧を描いた足先は、綺麗にアウカードの頬に刺さる。動線が止められた次の瞬間には背中から床に落ちる少女。ファニェールの笑い声が響く中、少女は体を半回転させて起き上がる。

『なんで俺が蹴り入れられなきゃならないんだよ!』
「ユニエフちゃんに何を着せて喜んでるの!」

 部屋が滅茶苦茶に散らかっているのは最初から想定の範囲内であったが、流石にアウカードがユニエフにスク水を着せて喜んでいるとは思わなかった。鼻腔を広げ息を荒げて、スリットも開き先端が顔を覗かせていた。少女にとってはそちらの方が「惨状」だったのである。アウカードの言葉は少女にこそ届かない筈なのだが、その後の怒鳴り合いでは脇で聞いている二匹には本当に言葉が通じてないのか疑問が出るほどの正確な応酬となっていた。

『ふふっ。素敵な関係ね』
『お前にとってはこれが素敵なのかよ……』
『当り前じゃない。言いたいことを全力で言い合えるなんて、これほど素敵な関係は無いでしょ?』

 呆れ顔のユニエフに対し、ファニェールは今日一番の笑顔を見せる。ユニエフの服を選んでいる間もずっと楽しげであったのに、それ以上にこのやかましい喧嘩を眺めるのを楽しんでいる。ユニエフや息子に「クソ膨れ」呼ばわりされているが、そういう態度を見て楽しんでいるのには呆れるほかない。

『もしかしてお前、こっちの方を狙ってやって来たのか?』
『まあ、面白い反応はお兄さんの方が期待できてたわ』
『本当にどうしようもないやつだな、お前は』

 流石に折よく少女が戻ってきて喧嘩になるところまでは、狙うことまではできないが期待程度はしていただろうか。或いは流れが上手くいかなければこうなるように何かを仕向けていたのかもしれない。

『でも……ふふっ。お楽しみはまだ続くみたいね』
『これ以上何があるんだよ……』

 不穏な言葉にげんなりとするユニエフに、ファニェールはただ含み笑いで誤魔化しを重ねるのみであった。今の流れから見て、ファニェールの次の狙いもユニエフではないのかもしれないが。いずれにしてもこいつに何かの天誅が下ればいいのにと思わずにはいられなかった。



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『そんなわけで来てみたけど』
『ファニェールさん、どうしてそんなに離れているんですか?』

 見たいものを見た後は、喧嘩に疲れて座り込んだ二人と呆然とするユニエフを置いて帰宅したファニェール。コルマとの遊び疲れでリオルたちが上手い具合に寝入っていたのもあり、二人はユニエフ君の元へと来るのだが。

『俺が今日という今日は許せねえからだ』

 そのユニエフ君は火炎ボールをチャージして、息を上がらせファニェールを処断する気満々であった。このただならぬ様子には、コルマなど恐怖するばかりである。

『坊嬢ちゃんの艶姿に中てられちゃったからね』
『言うんじゃねえぇぇぇっ!』

 ユニエフ君は悲鳴とともに、ファニェールに火炎ボールを飛ばす。威力も直径も今までにないそれであったのだが、距離の遠さゆえに難なく躱されてしまう。後に残ったのはコルマの冷たい目線。

『ユニエフ君、そんな酷い……』
『仕方ねえだろ! 男ってのはそういう体の作りで避けられない宿命で……いや、お前には悪いと思ったけどな!』

 ユニエフ君が今の姿になったのは、ユニエフに入れ込んだからに他ならない。それはコルマも知っているのだが、それでも浮気をされたような悔しさが浮かんでしまう。涙を浮かべるコルマとは対照的に、ファニェールは楽しげに笑みを浮かべる。

『ふふ。楽しそうで何よりね』
『これが楽しそうなんですか!』
『一番楽しんでいるのはあいつ自身だ。こういうやつでな』

 ユニエフ君が言いながら舌打ちした瞬間、あることにはっと気付いた。同じことに気付いたらしく、次の瞬間にはコルマと顔を見合わせていた。腹を抱えて笑うファニェールは、その二人の様子に気付いてはおらず。

『一番悪いのは、ユニエフ君じゃないね』
『お前には本当に悪いと思っている。だからこそ、な』

 二人で頷くと真っ直ぐにファニェールの前に寄り。その時になってようやく気付いて顔を上げたファニェール。それを確認すると、二人は拳と枝を交差させる。

『ちょぉっ!』

 最初に動いたのはコルマであった。放った炎は薄手ながらも、渦となりファニェールの動きを拘束する。その時にはユニエフ君の火球が見る見る膨らんでいっており。

『咎人には罰を!』
『害獣は駆除を!』

 ユニエフ君とコルマは高らかに声を揃える。ユニエフの新しい服を用意するために、態々息子が化した宝石を持って出かけたファニェール。それはユニエフの艶姿がどこかで発生することで、息子が発情することにも期待があったからなのだ。その期待でもって動いたファニェールの内心が見透かされた瞬間には、ユニエフ君とコルマには彼女が裁くべき存在に映っており。

『誰のせいだと思ってるの!』
『『お前のせいだ!』』

 ユニエフ君の最大の火球が、ファニェールに炸裂した。



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『本っ当に、すまねえ!』

 ファニェールは塵も残さずに消えた。とはいえここは冥界との狭間のような場所であり、現世に戻っただけであるとも言えるが。消える直前まで灰は残っていたので、十分な天誅を痛みとして下せたとは思っている。

『別に……ユニエフ君が悪いわけじゃないから』

 土下座をしたユニエフ君を立たせると、その胸に頬を突っ込み抱き付くコルマ。敢えて声色に不満を込めてみたが、二人で息を合わせて技を放てたことが嬉しくもある。

『お前はそうかも知れねえけど、俺の気が済まねえんだ。色々と』

 そんなコルマの内心はユニエフ君にはわかるわけではなく、声色で不満を強がっているのだと思い込んでしまう。他にもユニエフの姿に情欲を抱いたこと、ユニエフの姿「で」情欲を抱いたこと。それらもユニエフ君にとっては冒涜じみたようで自責の念となる。

『それなら……してくれない?』
『へ?』
『さっきのでファニェールさんが怒って、これで最後になっちゃうかもしれないし』
『あいつはそんな奴じゃねえが……マジで言ってるのかよ?』

 しおらしくなるコルマに対し、ユニエフ君は首を振る。実際、コルマの目から見ても性懲りも無く、寧ろ向こうから「また一緒に行こうね」と誘ってきそうな性質のような気はするが。言いながら、コルマはユニエフ君の腰に腕を回し込んで抱き寄せる。

『うん。本当はユニエフ君の子供まで欲しいんだけど、無理だろうからさ』
『あー……。それだが……』
『できるの?』
『ここにある俺の体のエネルギーを使えば、できるかもしれねえ』
『でも、そんなことしたら……』

 ユニエフ君の顔を見上げ、コルマは首を振る。一瞬言い淀んだのも納得できる。ここにあるエネルギーを使うということがどういうことであるか、想像できない筈も無く。

『流石に何十回何百回とやったら消えちまうかもしれねえ。けど、何回かくらいならいけると思うぜ?』

 しかしそれは思ったよりも軽かった。それを聞いて安心し、コルマは再びユニエフの胸に顔をねじ込む。

『じゃあ……お願い』
『けどな……お前、お前は父親がいない状態で、独りで育てることになるんだぞ?』

 寧ろユニエフ君にとってはこちらの方が懸念材料であった。自分や弟たちを守り育てることに必死になっていたからこそ、母は奴隷の身の上を歯を食いしばって受け入れていたのを認めてはいる。子供を守り育てることの大変さと逃げられなさを身をもって知っているのだ。だが、コルマは顔を上げて頷く。

『大丈夫。私にも家族はいるし、ユニエフ様やアウカードさんもいるから』
『そうか。なら……遠慮しないぞ?』

 その瞬間、ユニエフ君の表情が変わる。ユニエフであったらコルマに対しては向けることのない、本能奥深くにまで根差した欲望。一度は断ち切られたはずだった。

『もう。なんだかんだでやりたいのはあるのね』

 ここにいるのは「ユニエフ」ではなく「ユニエフ君」である。改めて認識することになったコルマ。そんなユニエフ君の欲望を、自分が向けられるような存在であるともわかりどこか安心感も得られ。

『んっ……』

 ユニエフ君は屈み、コルマは背伸びし、お互いの唇を合わせる。次の瞬間には口元で舌を交り合わせていた。幽冥境を異にしているはずなのに、それを感じさせない交わり。

『ユニエフ君の……』

 いつの間にか火炎のごとき赤い毛並みの間から、血肉のような赤さのそれが顔を出していた。向こうのユニエフには無いそれは、死してもなおしがみついてきた生への強い憧憬そのものであり。

『挿入れるぞ?』

 コルマのそこは、ユニエフ君にとっては生への最後の玄関口でもある。直立したまま二人で手を重ねてなぞると、ユニエフ君は腰を落として憧憬の先端を宛がい。

『うぅ……』
『あ、が!』

 沈めていけばいくほどに、ユニエフ君もコルマも激しく震えてく。コルマにとっては初めての営みであるわけだが、ユニエフ君にとっても母親に無理矢理にやらされたものではない、自分の意思で行なうのは初めてであった。それが故に感覚は今までにない物であり。

『ユニエフ君っ!』
『いくぞ?』

 根元まで入ったのを確認すると、声でもお互いがそこに在ることを確認し合い。ユニエフ君は腰を引き、生への扉を叩く。何度も何度も激しいのは、生きている間に満たされなかったが故であろう。

『ユニエフ君っっっ!』
『コルマぁっ!』

 お互いを呼び合い、同時に果てる。視界が、世界が、明転。生の熱の中に、より熱い憧憬の熱が注がれていく。抱きしめ合いお互いの震えを感じ合う、生死を超えた永遠とも瞬間とも言える時間。やがてどちらからともなく膝をつき、ゆっくり意識を溶け出させるのであった。



『ユニエフ、様……』
『コルマ?』

 意識が戻った瞬間に目の前にいたエースバーンは、よく似ていながら向こうにいた彼ではなかった。それが分かるくらい深いところまで交わった、交わってしまった。それを理解した瞬間。

『ユニエフ、様。大丈夫です』
『何かあったのか?』

 コルマとユニエフ君が何をしていたか、ユニエフ自身は逐一把握しているわけではない。コルマから「大丈夫」と言われても、ユニエフにとっては心配するようなことが何かあったかと疑問符が浮かぶばかりである。

『何でも、ない』

 コルマは頷く。下腹の奥に帯びた熱は、間違いなく生きた感覚であった。ユニエフ君は、ユニエフ君の血は、ここから生き続けることを間違いなく感じさせてくれ、コルマはこの上ない安らぎを感じるのであった。



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 コルマが生んだのは、ヒバニーとリオルの双子であった。コルマの家族は新しい命を喜んで迎え入れたが、ポケモンの繁殖の法則をこれでもかと言うほどに逸脱した誕生は世間を騒がせることとなった。幸い善良な研究者と出会うことができたため、コルマとファニェールはその研究に積極的に協力している。

 一方……。

『兄ぃ! こんな格好してやっているんだから、今度こそ孕ませろよ!』
『できないって言ったのはお前の方だってのに。まあ、頑張ってみるか』

 ユニエフとアウカードは種族的なグループが違うため、未だに子供が出来ずにいる。一度ユニエフの毛並みが復活し、再び脱げるほどに時間が経過したというのにである。ユニエフがワンピースをたくし上げると、出てきた陰部は更にスク水に覆われた状態であった。青と白のコントラスト、絶妙な丸さ。次の瞬間にはアウカードの性器は爆発的に立ち上がっていた。

『それじゃあ、しっかりやれよ?』

 ユニエフはベッドに仰向けになる。そしてスク水のクロッチに手を掛け、少しずつずらし。辛抱たまらず、アウカードは自らのものの先端をねじ込んでいた。そして。

『あぅっ! はぅっ!』
『仕方ないやつだっ!』

 アウカードは交尾の快楽に慣れることなく、寧ろより感じ入るようになり壊れたように腰を振るう。一方のユニエフは感じ入りながらも慣れたもので、子供を宥めるようにアウカードの両腕に手を添える。

『あぎゃぁあああっ!』

 この日の一発目である。相変わらず猛烈な量が噴き出し、スク水やワンピースをも白く染みを作る。バトルではすっかり格を上げ、マスターランクに記録及ばずながらもとうに名乗りを上げていた。しかしその実力は、最早ユニエフ無しでは全く発揮できない体となってしまったのである。

『はは! 終わりか?』
『も、もう一発ぅ……』

 伝説に名を挙げるようなバトルぶりを見せるアウカードが、ベッドでは幼児のような様を見せる。その光景を、今日もユニエフは愉しんでいたのであった。



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