&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''};
作者 [[火車風]]
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第一話 人間からポケモンに!? 探検隊アドバンズ誕生! 前編
ある日の夕暮れ、とある建物の前で悩んでいる緑と水色のポケモン。
中に入りたいのだが、建物の雰囲気に気おされ、中に入る踏ん切りがつかないようだ。
「いや・・・。迷っててもしょうがない! こうなったら、覚悟を決めて・・・」
二人は自分を奮い立たせ、中に入ろうと格子の上を通過した。
すると・・・。
「ポケモン発見!! ポケモン発見!! だれのあしがた? だれのあしがた? あしがたはキモリとミズゴロウ! あしがたはキモリとミズゴロウ!」
突然声が響き渡り、二人は驚いて後ずさりした。
「うう・・・。やっぱりだめだ・・・。今日こそは大丈夫だと思ったのに・・・」
ミズゴロウはすっかりしょげ返っている。
「この宝物も一緒に持ってきたのにな・・・」
キモリは手に握られた何かのかけらを見つめてつぶやいた。
見たことのない不思議な模様が描かれており、どことなく神秘的である。
キモリはミズゴロウを促し、今日のところは引き上げることに。
二人は肩を落とし、とぼとぼと階段を降り始めた。
すぐ近くの木で、誰かがじっと観察していたとも知らずに・・・。
二人はすぐ家には帰ろうとせず、海岸によることにした。
ちょうどこの時間は、クラブが泡を吹いているころだからだ。
そして今日も、夕方の海岸には美しい光景が映し出されていた。
「うわ~! きれいだな~・・・」
空に浮かぶ透明の球が、夕日の赤に染まった海に重なり、実にきれいな色合いをかもし出している。
二人はしばらくその光景を眺め、沈んだ心を癒していた。
「ん? なんだろう、あれ・・・」
ミズゴロウは遠くのほうで何かを見つけた。
キモリに声をかけ、二人はその何かに近づいてみることに。
そして、それが気を失ったポケモンであることが分かった。
「た、大変だ! ねえ、起きて! 起きてよ!」
「しっかり! しっかりして!」
二人はあわててそのポケモンを起こしににかかる。
程なくして、その二人は気がついた。
ところが・・・。
「おわあああ!!」
「ぽ、ポケモンがしゃべってる!!」
倒れていた二人は飛び上がった。
キモリとミズゴロウは不思議そうな顔をしているが、人間の言葉など話せないはずのポケモンが、今こうしてしゃべっているのだ。驚かないはずがない。
二人がそのことを伝えると、キモリとミズゴロウは顔を見合わせ笑い出した。
「な、何がおかしいんだよ!」
左側のポケモンは二人をにらみつけた。
まじめな話をしているのに笑われたのが我慢ならなかったのだ。
「何言ってるのさ! 君達だってポケモンじゃない」
彼らはまだおかしそうに笑っている。。
何をばかげたことをと思いお互い顔を見合わせた瞬間、そんな考えはいとも簡単に吹き飛んでしまった。
なんと、左側のポケモンはヒノアラシ、右側のポケモンはピカチュウだったのだ。
「ええええええ!? ぽ、ポケモンになってる~!?」
どうしてそこまで驚くのだろうか。
理由は明白、二人とも目が覚める前までは人間だったからだ。
ところが、目を覚ます前の記憶が一切ない。きれいさっぱり抜け落ちているのだ。
二人は頭を抱えたが、そんなことはお構いないしに、ミズゴロウは話しかけた。
「ねえ、そういえば君達の名前、まだ聞いてなかったよね。なんて言うの?」
正直自己紹介などしている場合ではないのだが、名乗らないのも失礼だ。
二人はしぶしぶながら、自分達の名前を教えることに。
「オレはソウイチだ」
とヒノアラシが答える。
「僕はソウヤ」
とピカチュウも同じく名乗った。
その直後、二人の叫び声が響き渡る。
「お、お前ソウヤなのか!?」
「そう言うそっちこそ、本当にソウイチなの!?」
どうやら二人は知り合いらしい。
記憶はないが、お互いの存在だけは覚えているようだ。
「何でポケモンになってるの?」
ソウヤはソウイチに尋ねたが、彼はわからないとため息をつくばかり。
かくいう自分自身も、どうしてこんなことになったのかさっぱりだ。
「あの、ちょっと聞いてもいい? 君達ってどういう関係なの?」
突然、ミズゴロウが遠慮がちに口を挟む。
見るからに会話についていけなかった様子だ。
「関係? オレ達は兄弟だけど、それがどうかしたのか?」
ソウイチはめんどくさそうに答えた。
関係どうこうよりも、今はなぜ自分がポケモンになってしまったのかを考えるほうが先決。
ところが、二人はそれを聞いて飛び上がらんばかりに驚いた。
違う種類のポケモンが兄弟になるなど、あり得ないと思ったからだ。
「どうしてそんなに驚くの? 元々が人間なら、兄弟でもおかしくないでしょ?」
ソウヤは不快そうな顔でキモリとミズゴロウに言った。
どうも二人の言動がバカにしているように見えるのだ。
それを聞いて二人はさらに驚き、 不意にキモリがミズゴロウを引っ張り、ソウイチとソウヤから離れた場所に移動した。
そこでなにやらひそひそと内緒話をしている。
ソウイチとソウヤは話の内容が気になったが、ここからではそれをうかがい知ることはできない。
そして、話しを終えて戻ってきた二人の顔は、明らかに不信感と警戒心に満ちていた。
「君達さあ、もしかして僕達のことだまそうとかしてない?」
「どうも見るからに怪しいんだよな~・・・」
キモリとミズゴロウは二人に詰め寄った。
突然そんなことを言われて二人は驚いたが、直後、烈火のごとく怒った。
「な、なんだと!? 何で初対面のやつをだます必要があるんだよ!!」
「そうだよ!! 僕達は初対面の人をだますほど落ちぶれちゃいないよ!!」
今度は二人がキモリとミズゴロウに詰め寄る。
キモリとミズゴロウはその剣幕にすっかり縮み上がってしまった
「ご、ごめん・・・。そんなつもりじゃなかったんだ・・・。最近この辺物騒だから、つい警戒しちゃって・・・」
どうやら二人が善人か悪人か見極めようとしていただけで、悪意があったわけではないらしい。
その証拠に、二人は頭を下げて丁寧に謝った。
ソウイチとソウヤは若干不満そうだったが、これ以上怒ってもしょうがないので、二人を許すことに。
「そういや、お前らの名前聞いてなかったよな。なんて言うんだ?」
ソウイチはふと思い出し、二人に聞いてみる。
キモリの方はモリゾー、ミズゴロウの方はゴロスケと名乗った。
「そういえば、さっき物騒だって言ってたけど、そんなに危ないの・・・? まさか不審者とか出るんじゃ・・・」
少し不安そうなソウヤ。
あまり危険なことには関わりたくないのだ。
「んなもんぶっ飛ばせば済むことだろ?」
ソウイチは呆れた表情でソウヤを見た。
普通は不審者に関わろうなどという考えは起きないのだが、ソウイチはけんかっ早いのでそうは思わない。
「いや、そうじゃなくて、なんていうのかなあ・・・」
いい例えが思いつかないのか、モリゾーは言葉に詰まった。
すると、突然何者かがモリゾーを思いっきり突き飛ばしたのだ。
「わあああ!!」
モリゾーはソウイチのいるほうへ吹っ飛び、ソウイチはよける暇もなく衝突。
ソウイチはさらに吹っ飛び、砂の中へ頭から埋まってしまった。
口の中にはざらざらと砂が流れ込む。
(も、もごああああ!!!)
何とか脱出を試みるも、足が浮いているのでちっとも抜け出ることができない。
一方モリゾーは、何とか体勢を立て直し無事着地。
「ちょっと、いきなり何するのさ! 危ないじゃないか!!」
モリゾーは突き飛ばしたやつらを思いっきりにらみつける。
すると、突き飛ばした張本人、ドガースはニヤニヤしながら言った。
このドガースと横にいるズバットこそが、さっき二人を観察していたやつらなのだ。
「ケッ、わからねえのか? お前に絡みたくてちょっかい出してんだよ」
「ええっ!?」
モリゾーは全くわけが分からない。
絡まれる覚えもないのにこんなことを言われるのだ、動揺するのも無理はない。
すると、ズバットは何かを見つけて拾った。
「あ! そ、それは・・・!」
モリゾーの目線の先には、さっき持っていたかけらが映っていた。
どうやらぶつかってこられたときに手放してしまったようだ。
しかし、モリゾーはすっかりすくみ上がって動けない。
「ありゃ? 取り返さないのか?」
ドガースは意地悪な目つきでモリゾーを見る。
モリゾーは悔しそうににらみ返すものの、一歩も前へ進むことができない。
「じゃあこれはもらっていくぜ。あばよ! 弱虫君!」
ズバットはモリゾーに暴言を吐き、二人はそのまま去って行った。
二人の姿が見えなくなると、モリゾーは力なくその場に座り込んだ。
「オイラの、オイラの宝物が・・・。あれがないとオイラは、オイラは・・・」
モリゾーの目が徐々に潤み始める。
臆病な自分自身に対するいらだちと、宝物を持って行かれた悲しさからだ。
「モリゾー・・・」
ゴロスケはなんと声をかければいいのか分からず、ただただモリゾーの後姿を見つめている。
すると、モリゾーは急に立ち上がりソウヤの手をとった。
「お願い! オイラと一緒に、宝物を取り返すの手伝って!」
モリゾーは必死な様子でソウヤに頼む。
それほどまでに、あのかけらは大切なものなのだろう。
「僕からもお願い! 手伝ってあげて!」
ゴロスケも真剣なまなざしでソウヤを見つめた。
だが、二人に見つめられてソウヤは困惑するばかり。
ただでさえ自分に起こったことが理解できないのに、他人の手助けをする余裕などない。
どうしようか彼が迷っていると・・・。
「うがああああ!!」
突然猛獣のような唸り声が響き渡る。
三人がその方を見ると、ソウイチが地面から抜け出したところだった。
かわいそうに、すっかり存在を忘れられていたのだ。
「ちょっとソウイチ! 一体何やってんのさ!」
「何やってんのじゃねえよ!! いつまでもほったらかしにしやがって!!」
ソウイチはソウヤに怒りをぶちまける。
放置されていた分、その勢いはすさまじいものだった。
「ってそんなことはどうでもいい!! あいつら、絶対許さねえ! よくも人をぶっ飛ばして謝らずに行きやがったな!!」
ソウイチは全速力でドガース達の去っていった方へ駆け出す。
突き飛ばされたのはモリゾーで、自分は巻き沿いを食っただけなのだが、この際そんなことはどうでもいいらしい。
最初は唖然としていた三人だったが、はっと我に返りソウイチの後を追いかけ始める。
全力で走っても、向こうのスピードはすさまじくなかなか追いつけない。
「くっそお、あいつらどこ行きやがった!?」
海岸の端まで来て、血眼になってあの二人を探すソウイチ。
しかし、空中に浮かんでいるせいで足跡がつかないため、どこへ行ったかを特定するのは難しかった。
残っているものといえば、ドガース特有のにおいぐらいだ。
すると、そこへようやくソウヤ達が追いついてきた。
全力で走ったためか、すでに息が荒くなっている。
「もう、勝手に一人で行かないでよ!」
「そっちが遅いだけだろ! もっと速く走れねえのかよ!?」
ソウヤはソウイチに文句を言ったが、ソウイチはカチンと来て言い返す。
さっきのことで気が立っている分、冷静さは欠けていた。
「なにを! 元はといえばソウイチが自分勝手なことするから悪いんじゃないか!」
「なんだと!? そもそも、そっちがさっさと掘り起こしてりゃあの場であいつらをやっつけてやったんだよ!!」
「よけられなかったのがいけないんでしょ!! こののろま!!」
「てめえ!!」
売り言葉に買い言葉で、二人のけんかはどんどんエスカレートして行く。
このままではいつ殴り合いにならないとも限らない。
「けんかしてる場合じゃないでしょ!? 早くしないと取り返せなくなっちゃうよ!」
とうとうモリゾーはしびれを切らして二人に怒鳴る。
二人はそれでもにらみ合っていたが、やがてお互いに顔を背けて歩き出した。
最初からこれほどまで険悪なムードで大丈夫なのだろうか。
そして、海岸の端のほうまで来ると、大きな洞窟のようなものを見つけた。
ドガースの匂いも残っており、間違いなく二人はこの中に入って行ったようだ。
「ここみたいだな。さっさと追いかけて、ぐうの音もでねえようにしてやる!」
「今度は勝手に一人で行かないでよ? 何があるか分からないんだから」
一人息巻くソウイチにソウヤは忠告した。
知らない場所での度がすぎる行動は危険なのだ。
ソウイチは分かってるとぶっきらぼうに答え、また歩き始める。
「さっきは悪かったよ・・・。ごめん・・・」
突然、ソウイチはぼそっとソウヤに謝った。
虚を突かれたソウヤだったが、すぐに元の表情に戻る。
「もういいよ。こっちも気にしてないからさ」
それを聞いて、ソウイチは恥ずかしそうに頭をかいた。
ちょっとだけソウヤの方が大人の対応を身につけている。
モリゾーとゴロスケも、二人のやり取りを見て安心したようだ。
「よっしゃあ! 絶対あいつらぶっ飛ばすぞ!」
「おお~!!」
ソウイチが腕を高く突き上げたのにあわせ、ソウヤ達もソウイチの腕に重なるように自分の腕を突き上げる。
気合を入れ、彼らはいよいよ、最初の冒険へと足を踏み入れた。
洞窟の中は暗く、岩の壁に付着しているヒカリゴケらしきものが、わずかに光を放っているだけだった。
数メートル先までしか見えず、視界は至って悪い。
「いったいあいつらどこまで行ったんだよ・・・。もう結構歩いたぞ?」
「まだまだだよ。とにかく急がなくっちゃ」
不満を言うソウイチを軽く受け流し、ひたすら先へと歩みを進めるモリゾー。
ため息をつきソウイチが歩き出した途端、突然横から何かがぶつかってきた。
「うおっ! いってえなあ・・・」
どうやら敵のお出ましのようだ。
ぶつけられたところをさすりながらソウイチが見ると、なんだか全体的にうねうねとしているポケモンだった。
「な、なんだあれ・・・?」
「何かの軟体動物みたいだけど・・・」
ソウイチとソウヤは、こんなポケモンは見たことがなかった。
どことなくアメフラシを思い起こさせる姿だ。
「あれはカラナクシ。みずタイプのポケモンだよ」
ゴロスケは二人に説明するが、二人はますます気味が悪いと思うばかり。
あまりああいう軟体動物は好みではないのだ。
「なんかすっげえうねうねしてるな~・・・。ここは見なかったことにしてスルーしようぜ・・・」
なんだか面倒なことになりそうなので、ソウイチはそのまま素通りしようとする。
しかしそうは問屋がおろすはずもなく、カラナクシはまたたいあたりを仕掛けてきた。
「やるしかねえみてえだな・・・。 でも今度はあたらねえぜ!!」
ソウイチはさっと攻撃をかわし、今度は自分のたいあたりでカラナクシを吹っ飛ばす。
カラナクシはそのまま岩壁に激突し、ずるずると地面に座り込んだ。
「へへ~ん! どんなもんだい!」
ソウイチは調子に乗っていたが、カラナクシはその隙を逃さずどろばくだんをお見舞い。
もちろんよけられるはずもなく、ソウイチの顔面にクリーンヒットした。
「うへえ! なんだよこれ!?」
ソウイチは顔面の泥をぬぐおうとしたが、突然足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
ほのおタイプにじめん技は効果抜群、かなり体力を削られてしまったのだ。
カラナクシはソウイチが動けないことを確認すると、すぐさまモリゾー達に攻撃の的を絞る。
モリゾーとゴロスケは攻撃に備えたが、見た目以上のすばやさに対応できず、その場にひざをついた。
勢いを増したカラナクシはソウヤに狙いを定め、どろばくだんをチャージしながら突っ込んでいく。
「ソウヤ、逃げて!!」
「バカ! 何じっとしてんだ!! 早く逃げろ!!」
ゴロスケとソウイチが叫ぶも、ソウヤはカラナクシをじっと見据えて動かない。
すると、ソウヤのほっぺから電気がバチバチと流れ始めた。
カラナクシをぎりぎりまで引き付け、衝突まで後数メートルというところで、ソウヤは大量の電気を放出。
それはでんきショックの上を行く十万ボルト。
真正面から電撃を浴び、カラナクシはあっという間に戦闘不能となった。
(すげえ・・・。いきなり十万ボルトが使えるなんて・・・)
ソウイチは内心舌を巻いていたが、それと同時にうらやましかった。
何せ、未だたいあたりしか使えていないのだから。
「二人とも大丈夫?」
モリゾーとゴロスケは二人の元に駆け寄り、安否を確認する。
ソウイチは強がって大丈夫と答えたものの、実際はまだ足に力が入らなかった。
ソウヤのほうは傷一つなく、至って元気そのものだ。
「でもすごいよ。いきなり十万ボルトが使えるなんて」
「いやあ・・・。たまたまだよ・・・」
十万ボルトはある程度までレベルが上がらないと覚えないはずだが、ソウヤは最初からそれが使える。
ポケモンにとって、低いレベルで威力の高い技が使えるというのは尊敬に値するのだ。
やはり人間だったから、普通のポケモンとは違う部分があるのだろうか。
ソウヤは赤くなって照れたが、弟に先を越されたような気がして、ソウイチは面白くなかった。
「大丈夫。ソウイチにも、他に使える技がきっとあるよ」
その気持ちを察してか、モリゾーはソウイチの肩を叩いて慰める。
根拠があるものではないが、ソウイチにとっては嬉しいものだった。
そして、彼らは再び洞窟の奥を目指して出発。
一刻も早く、あの宝物を取り戻さねばならない。
次々出てくる敵を倒しながら進んでいると、不意に空洞に出た。
「だいぶ奥まで来たみたいだね。でも、あいつらはいったいどこに・・・、ん?」
ソウヤは辺りを見回し、水たまりの近くでドガースたちが立ち往生しているのを見つけた。
何度も行ったり来たりしている様子から、この先は行き止まりのようだ。
「今がチャンスだ。気付かれないうちに早く・・・」
ところがソウイチの言葉を聞く前に、モリゾーは単身で飛び出し、ドガース達のところへ向かった。
ソウイチは呼び戻そうとしたが、モリゾーはすでにあの二人に声をかけてしまっていたのだ。
「おや?誰かと思えばさっきの弱虫君じゃないか」
これまた意地悪そうな口調で返事をするドガース。
モリゾーの目元は怒りでぴくぴく震えている。
「ぬ、盗んだ物を返してよ!! あれはオイラにとって、大切な宝物なんだ!!」
怒りで震えているとはいえ、恐怖心が抜け切ったわけではない。
モリゾーは勇気をふりしぼってドガース達に言う。
「何だ、やっぱりあれはお宝なんだな? じゃあますます返すわけにはいかなくなったな。ヘヘッ」
向こうは最初から盗んだものを返すつもりなどなかったのだ。
そのやり取りを見ていて、とうとうソウイチも我慢の限界が来た。
「おいお前ら! 人の物とるのは犯罪だろうが! やっていいことと悪いことの区別もつかねえのか!?」
モリゾーを押しのけ前に出ると、ソウイチは大声で怒鳴った。
しかし、向こうは涼しい顔で切り返してくる。
「ん? 今度は砂の中に埋まってたやつじゃねえか」
「あれは傑作だったなあ。あんな不恰好でダサイやつ見たことが無かったぜ」
ドガースとズバットはわざと大笑いした。
挑発であることは目に見えていたが、とうとうソウイチの額に青筋が浮かぶ。
もう自制を効かせることは不可能。
「んだとお!? もうあったまきた!! 立ち直れねえぐらいにボコボコにしてやる!!」
ソウイチは猛然と二人に殴りかかった。
素手でのけんかはソウイチの得意とするところであり、めったに負けたことがない。
しかし、人間だったら素手でも勝てるかもしれないが、相手はポケモン。
案の定二人はすっとかわし、ソウイチの攻撃は空振りに終わり地面に激突した。
「ぬがああああああ!!!」
ソウイチは思いっきり鼻を打ちつけ、その場をのた打ち回った。
ゴロスケ達と比べても長いのは一目瞭然で、その分衝撃が大きいのだ。
三人は頭に手を当ててあきれ返っている。
「オレ達に勝つなんて百年早いんだよ!」
余裕たっぷりの表情でソウイチにどくガスを吐きかけるドガース。
やられる! そう思った瞬間、ソウイチは何かに突き飛ばされていた。
なんと、モリゾーが身代わりとなり、自らどくガスの餌食となったのだ。
「も、モリゾー!!」
ソウイチは慌ててモリゾーに駆け寄ったが、どくガスの勢いがすさまじかったのか完全に気を失っていた。
「ヘッ。たいしたことねえ野郎だ。あれぐらいで倒れるなんてよ」
「ホント。やっぱりどうしようもないぐらい弱いよな」
ドガースとズバットは鼻でモリゾーを笑う。
その言葉を聞き、ソウイチの両手はぶるぶると震えた。
「取り消せ・・・」
「なんだと?」
「今言ったことを取り消せって言ってんだよ!!」
ソウイチの怒りは極限に達した。
先ほどのように単純な感情ではなく、体を張って、見ず知らずの自分をかばってくれたモリゾーをけなされたことに対する怒りだ。
「何だ、やる気か?」
「返り討ちにしてやるぜ!」
二人はすぐさまソウイチに襲い掛かってきた。
「上等だコラアアア!!!」
ソウイチは雄叫びを上げながらドガースに突進し、目にもとまらぬ速さでたいあたりを食らわせた。
それが戦闘開始の合図となり、ソウヤとゴロスケもあわてて加わる。
まずはゴロスケとソウイチでドガースに集中攻撃。
モリゾーに危害を加えた張本人なので、どうしても先に倒しておきたかったのだ。
ドガースのたいあたりやどくガスに気をつけながら、二人は交互にたいあたりでダメージを与える。
それでもどくガスを全てかわせるわけではなく、徐々にだがダメージは蓄積していく。
一方ソウヤは、すばやさの高いズバットを相手に苦戦していた。
いくら技の威力が高くても、向こうがいとも簡単にかわすのでなかなか倒せないでいる。
一方ズバットの方は余裕を見せており、挑発的な言葉でソウヤをからかっていた。
「遊びはこれで終わりだ!!」
ドガースは最大パワーでどくガスをあたり一面に撒き散らす。
直撃は免れたものの、ゴロスケは少し吸ってしまい地面に倒れてしまった。
「威勢だけじゃ勝てねえんだよ!」
ドガースは倒れたゴロスケを見てフンと鼻を鳴らしたが、肝心なことを忘れていた。
そう、相手は一人だけではないということを。
「てめえの相手は一人じゃねえ!!」
ソウイチは近くにあった岩を使ってジャンプし、どくガスを全て回避していたのだ。
そしてドガースに狙いを定め一気に落下、強烈なたいあたりをお見舞いする。
ドガースはそのまま地面に減り込み、目を回してしまった。
この上ない鋭い目つきで見下ろすと、残るズバットを倒すためソウイチはソウヤに合流。
だが、ソウヤはすでにPPをかなり消費しており、体力の残りも少ない。
案の定、ズバットのつばさでうつを受けて壁に叩きつけられてしまい、これ以上戦うのは無理だった。
「ヘヘッ。さあどうするんだ? たいあたりだけじゃオレは倒せねえぜ」
ズバットは相変わらずへらへらと余裕の表情を浮かべている。
ソウイチ自身の体力も残りわずか、何か手を打たなければ勝てる見込みはない。
(くそお・・・、オレも何か強力な技が使えれば・・・)
ソウイチは悔しそうに歯軋りした。
そうはいうものの、今の自分のレベルでは、せいぜいたいあたりやひのこが使える程度。
いずれも威力は低く、一撃で倒せる可能性は限りなくゼロだ。
「お前もあのザコどもと同じようにくたばれ!!」
ズバットはでんこうせっかを組み合わせ、つばさでうつでソウイチに迫る。
ソウイチはぎりぎりまでどうするか考えたが、もう迷っている暇はない。
(ええい! こうなったら一か八か・・・!)
ソウイチは思いっきり息を吸い込み、ひのこを吐き出した。
すると、それはだんだんと炎の塊になり、ズバットを包み込んで燃やした。
「ぎゃあああああ!! あぢぢぢぢぢ!!!」
ズバットは身もだえしながら火を消そうとしたが、そうそう簡単に消えるはずもない。
やがて炎が体力を奪い尽くし、ズバットは黒焦げになって力なく横たわった。
「はあ・・・、はあ・・・。どっちが雑魚か思い知ったか・・・!」
ソウイチは息も絶え絶えにズバットに吐き捨てると、すぐさまソウヤとゴロスケの元へ駆け寄る。
二人ともかなり傷を負っていたが、普通に会話できる程度にはなっていた。
それが分かり、ソウイチもほっと一安心。
「あれ・・・? ソウイチ、いつの間にあいつらをやっつけたの?」
倒れている二人を見て、ゴロスケは不思議そうに尋ねた。
ソウイチは、ひのこを出したら予想以上に火力が強かったことを話す。
「それって・・・、ひょっとしたらかえんほうしゃじゃないの?」
ひのこから威力が高くなるとすれば、かえんぐるまかかえんほうしゃ。
ただ、ソウイチが回転している様子はなかったので、かえんほうしゃの確率が高い。
「あれがそうなのか?」
自分でも、ひのこからかえんほうしゃにグレードアップするとは思ってもみなかった。
でも、そのおかげで敵を倒せたのは事実。
奇跡とはいえ、ソウイチはどこか鼻が高かった。
ゴロスケにほめられればなおさらだ。
「そりゃあ、自分をかばってくれたモリゾーをあそこまで言われ・・・、ああっ!!」
自慢げに話し始めるソウイチだったが、突然大声を出して話を止める。
あまりにも突然だったので、ソウヤもゴロスケも何事かと目を見張った。
その理由とは・・・。
「モリゾーのことすっかり忘れてた~!!」
「だああああ!!」
あまりにひどい内容に二人ともずっこけ、ソウイチは急いでモリゾーの所へ駆け寄る。
しばらくの介抱の後、モリゾーはようやく息を吹き返した。
「モリゾー、大丈夫か?」
「うん・・・。まだちょっとくらくらするけど・・・」
モリゾーは半分だけ目を開けて言った。
まだ完全には回復しきっていないようだ。
「なあ、何でオレをかばったんだよ?」
ソウイチは気になってモリゾーに尋ねた。
見ず知らずの他人をいきなり助けるというのは、どうにも合点がいかないのだ。
「わからない・・・。ソウイチが危ないって思ったら、いつの間にか体が動いて・・・」
モリゾー自身にも、そのわけは分からない。
だが、この短い間一緒にいただけにもかかわらず、ソウイチとモリゾーの間には、強い何かが芽生えていたのだ。
もちろん、それはソウヤとゴロスケにも当てはまることだった。
「いてて・・・。くそお、こんなはずじゃ・・・」
目を覚ました二人は悔しそうにうめいた。
すっかり全身真っ黒になっている。
「まだやるか? とことん相手になってやるぜ」
ソウイチは二人を真っ向からにらみつけた。
多少は効果があったのか、二人とも戦う意思はもうないようだ。
「くそっ、こんなモン返してやるよ!」
ドガースは宝物を放り出すと、ズバットとともにそそくさと退散していった。
ソウイチはそれを手に取り、直接モリゾーに手渡す。
モリゾーは欠けたり壊れたりした部分がないことを確認し、安堵した。
「じゃあ、あいつらもやっつけたし、そろそろ帰ろうぜ」
ソウイチはソウヤ達を促し、彼らもそうしようとうなずいた。
そして四人は、意気揚々とその洞窟を後にする。
特にうれしそうだったのは他でもない、宝物を取り戻したモリゾーだった。
「ソウイチ、ソウヤ、本当にありがとう。おかげで宝物を取り返すことができたよ」
「二人とも強いんだね。最初からあんな強力な技が使えるなんてすごいよ」
海岸に戻ると、モリゾーとゴロスケはソウイチとソウヤに丁寧に礼を述べた。
心からソウイチとソウヤに尊敬の念を抱いていたのだ。
「んなことねえよ。お前らの技だって結構威力あったぜ?」
「そうそう。僕らと同じくらい強かったよ。」
二人は謙遜して、逆にもりぞーとゴロスケをほめた。
ほめられるとは思っていなかった二人は、すっかり赤くなって照れくさそうにうつむく。
「そういや、さっきのかけらみたいな物は何なんだ? 宝物とか言ってたけど」
「ああ、これのこと?」
ソウイチに聞かれて、モリゾーはかけらを取り出し地面に置いた。
どこか神秘的で、不思議な感覚を覚える模様が描かれている。
「これは、オイラが父さんからもらったものなんだ。オイラ、昔からいろいろな場所を探検するのが好きで、いつかは立派な探険家になりたいってずっと思ってたんだ」
「僕もそうなんだ。だってそう思わない? いつも新しい発見が待っている、そう考える度にワクワクするんだ」
モリゾーとゴロスケは目をきらきらと輝かせて自分の思いを語る。
ソウイチとソウヤにはいまいちぴんと来ないようだったが、その熱い思いは十分理解できた。
「それでお願いがあるんだ。ソウイチ、ソウヤ。オイラ達と一緒に探検隊をやってくれない?」
「二人と一緒ならできそうな気がするんだ。だからお願い。僕たちのパートナーになって!」
モリゾーとゴロスケは急に真剣な表情になり、頭を下げて二人に懇願した。
洞窟での出来事で、二人はソウイチ達に対し深い信頼を覚えたのだ。
しかし、当の本人達は大慌て。
右も左も分からない状態で、そんなものになってくれといわれても困る。
「どうする・・・? ソウイチ」
ソウヤは困惑しきった顔でソウイチに助けを求めた。
ソウイチ自身もどうするか迷っていたが、断ったところで行く当てもないし、ここの社会の仕組みも分からない。
今はこの二人と一緒にいる方が良いだろう、そう判断した。
「わかったよ。どうしてもっていうなら別にいいぜ」
ソウイチがそう言うと、二人は天にも昇りそうな気持ちになった。
あまりにも嬉しかったので、手を取り合ってはしゃいでいる。
「ちょっとソウイチ! 勝手に決めちゃ・・・」
「いいじゃねえか。行く当てだってねえんだから、別にいいだろ?」
ソウヤの言葉を途中で遮りソウイチは言った。
いまさら言ったことを取り消せるはずもないし、助けを求めてきたのはソウヤ。
どことなく調子のいい感じがしたので、ソウイチは即断したのだ。
最初は呆れていたソウヤだったが、最後には快く承諾した。
「決まりだね! これからもよろしく!」
「ああ、がんばろうぜ!」
ソウイチとモリゾーは、しっかりとお互いの手を握り合った。
「ソウヤ、がんばろうね!」
「うん・・・、よろしく!」
ちょっと戸惑うソウヤであったが、すぐに笑顔でゴロスケと握手を交わす。
この瞬間から、ソウイチ達の冒険の歯車は動き始めた。
だが、この先どんな冒険が待っているのかは、まだ誰も知らない・・・。
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[[アドバンズ物語第二話」]]
[[アドバンズ物語第二話]]
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ここまで読んでくださってありがとうございました。
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