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とある美乳の微妙な悩み の変更点


Writer:[[Lem>Lem]]
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*とある美乳の微妙な悩み [#p9a9bf04]

 薄く油を敷き、全体になじませたフライパンを強火で加熱。数秒程して白煙が立った所で一旦フライパンを火から離し、濡れ布巾の上に乗せて冷ましておく。ほとぼりが冷めた所で台の上に戻し、弱火のパネルを軽くワンタッチ。これでここの作業は終り。
 次は卵を割る作業。初めの頃はこれがなかなかできず、力加減を間違えて押し潰してしまったりもしたけれど。今ではそれも過去の思い出。蹄で卵の腹をコツコツと叩いていく中にヒビが入る。
 卵をそっと掴んでフライパンの上に持っていき、黄身が崩れない様に優しく殻を開いていく。重力に引かれて落ちていく世界は黒い大地へ降り立つと透明な色を忽ちに白く染めていく。数秒もしない内に色づき始めた世界へ見切りをつけると再びパネルをタッチする。強火になったのを確認し、予め用意しておいた軽量カップを手に持ち、入れるタイミングを見計らいながらカップの水をちゃぷちゃぷと弄ぶ。そろそろいいかな。
 ぐるり、と弧を描く様に外周を満たしていく。水遣りを終えると共に素早く蓋を閉める。湯気で硝子の蓋が曇っていく所を見てるとその不思議さに夢中になる。虜になる前にパネルを操作して中火に。水分の弾ける音がコミカルなリズムを刻んでいく。やがてリズムが崩れだしてきたのでフライパンを濡れ布巾の上へ戻し蓋を開ける。
 ……うん、いい焼き具合だ。お空に浮かぶ太陽さんと遜色ない色合い。これは会心の出来といってもいいね。
 窓から射す陽光に温められた皿の上へ、大胆にフライパンから太陽を乗せる。クッキングヒーターはフライパンが離れた時点でスイッチがOFFになっているけれど心配なので確認。異常なし。フライパンは流しの上に。
 時計を見ると起床には丁度良い時間になっているが、御主人のことだからまだ眠っているのだろう。そもそも一人で起きる姿を見た例がない。だからこうしてアタシが起こしにいく。それがアタシの、日常で日課。
 調理台から降り、フローリングの床に蹄がかつんかつんと音を立てても、御主人は絶対に目を覚まさない。泥棒に入られたら間違いなく金目の物は全て無くなっているだろう。もうちょっと危機感を持って欲しいものだけど。仕方ない、御主人だもの。そうやって諦めるのもいつもの事。そうして嘆息して寝室のドアに手を掛けるのもお馴染みの事。きぃ、と蝶番の音を隔てた先には惰眠を貪る御主人の姿。
 ……まーたお腹出したまま寝てる。本当に大人なのかなぁこの人。
「御主人様。朝ですよ、ほら起きて下さい」
「うーん、ん……待って、後五分だけ寝かせて……」
「そんな事言って結局十分三十分と寝るつもりでしょう。早く起きて下さい」
 ゆさゆさ。ゆさゆさゆさ。ゆさゆさゆさゆさ。
「うーんうーん……分かった、起きる。起きるから揺らさないでぇ……」
「そういう事は目を開けてから仰って下さい」
 一向に起きる気配の無い御主人を覚醒すべく首へ手を回して強引に起こしてやると、焦点の合ってない寝ぼけ眼でアタシを見つめ、倒れ込む様に抱きついてきた。
「ああ……みるくのお腹はなんて柔らかいんだろう……この手触りもまるで絹糸の様に……絹糸?」
「それ以上やる様でしたらセクハラで訴えますよ御主人様」
「みるく……何でエプロンなんてつけてるんだい……。君の美しい美乳が隠れてしまって君という世界が見えないよ……」
「御主人様が毎朝毎朝そんな調子ですからこうして防衛しているんでしょうが。そもそも今に始まった事じゃないでしょう?」
 ベッドの上へ倒れる御主人。そして枕を抱き抱えると実にわざとらしい、しくしくという泣き言葉。……女々しい!
「バカな事やってないで早く起きて下さい。何分経過してると思ってるんですか」
「しくしく」
「御主人様」
「しくしく」
 ……はぁ、仕方ない。こうなってしまっては梃子でも動いてくれないので、しぶしぶエプロンの裾を掴んではたくし上げる。
「これで宜しゅう御座いますか御主人様」
「おお……美しい。何でこんなにも君は美しいんだい。真珠の様な腹部に然りげ無さを装わせる乳房。桜色の頬を紅く染め上げながらも気高く振舞う君の表情……! 僕の胸は焦がれて焦がれてはちきれんばかりに」
「それ以上その口から赤裸々な言葉が出るようでしたらアタシはこのエプロンを下ろしても宜しいと判断しますが如何でしょうか」
 そのまま摘んだ裾を離すとエプロンは風に揺れながら舞い降り、腹部に張り付いた御主人の頭の上に落ちる。
 こういう時の御主人の行動力は実に呆れ果ててしまう。どうしてそれを他に活かせないのだろうと何度も思うが無理もない。
 だって御主人は変態なのだから。恐らくアタシが知る世界の中で、一番、一番、変な人。だけど。
 アタシは特に抵抗するでもなく、そっと御主人の頭を抱きしめる。仕方のない人と思う分、そんな彼が愛おしい。
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 他愛のない日課。それを語るにはたったの一文で説明がつき、曰く――アタシ達から採れる牛乳は栄養満点で、老若男女を問わず美味しく飲める。
 それを聞いて普段アタシ達がどういった事をされているかは想像に難くないだろう。けれどそのイメージは当たらずも遠からずで、単にアタシだけがそうだったのかもしれない話だ。
 毎日美味しい牛乳を搾る為には幾つかの条件があり、①標準を満たした健康体(孕む事が可能)である事。②種子の維持が可能である事。
 それらの他にも厳選される条件はあるが大雑把に言えばその二つだ。これを満たして初めてアタシ達からそういった副産物が生まれる。
 けれどアタシはそうではなかった。子を宿せなかった訳でもなく、維持が不可だった訳でもない。つまる所標準以下であるが故にアタシは選ばれなかった。これだけでは分からないだろうから、思い切って告白する。アタシが周りと違う事。それは極端な話でシンプルな理由。
 アタシの身体は発育不全。アタシ達の種族の中でもシンボルに相応しい一部分であるそれがアタシにはなかった。
 白い腹部は子を宿した影響で丸く膨れ、乳房が大きく張り出す様になる。それが本来のアタシ達の姿であるはずだった。それに比べてアタシの痩せ細った身体、大豆ほどの大きさしかない乳房。もしもアタシが人間だったなら違う呼ばれ方をされるのだろう。幼児体型、と。
 選ばれなかった者は選ばれなかった者なりに別の日課がある。畑や水田を引く手助け等、別の形から食生活をサポートする者もいればポケモントレーナーのバトルポケモンとして活躍する猛者もいる。皆それぞれに役割があり、幾つもの日課が存在していた。
 ただ、アタシだけはそうじゃなかった。生半可ながらも子を宿せるその身が災いし、毎日を雄牛の性の捌け口に弄ばれる。幾つもの雄牛の子種を注がれ、孕み、産み、再び注がれる……それがアタシの日課だった。他愛のない日課。そう呼べるようになるまでに。
 子を宿すという行為は自らの命を削る。そんなことが分からない程アタシはバカでもないし、身を以ってそれを学んでいる。
 磨り減る心。無茶ともいえるその日課は徐々に、されど急速に、アタシの命を短くしていき、痩せた身は尚更にやつれ、己の声すらも出せない程に衰弱していく。それがアタシの運命だとするならそれも仕方ないと受け入れよう。けれど命尽きるまでに、一度だけ願いが叶うなら。
 生まれた子にアタシの血を分けてやりたい。その望みが本能から来るものだとしても。たった一度、アタシができなかった事をさせてほしい。
 そう願いながら。空しさと哀しみに目尻を濡らしながら。アタシの意識は大地に吸われる様に薄れていく。
 願いは叶う事もなく、空しく空を駆け回り、ぐるりと外周を一周して。

 次に目覚めた時にはアタシの知っている場所はなかった。質素な天井、壁、窓、カーテン、ベッド……何処までも質素な雰囲気に、彼は椅子に座って手に持つカルテとベッドの上のアタシを見ていた。
「おはよう。僕の言葉が分かるかい。君の名前はNo.10369で合ってるかな?」
 ぼんやりとする頭で彼の言葉を反復する。ここは何処、貴方は誰、アタシは生きているの等。様々な疑問が脳裏を過ぎるが、それは後にして彼の言葉に頷くようにして答える。
「君は従来の規格から大きく外れたものの、子孫を残す事に関しては問題がなかった為にその身を繁殖だけに費やした……覚えているね?」
 覚えている。それがアタシの日常で、他愛のない日課。
「オーバーワーク……というのもおかしな話ではあるけどね。君は用途がなくなった故、君の所有者は所有権を放棄。つまり君は廃棄処分されたという事になる」
 彼が何を言っているのか分からない。それは難しい言葉を並べられているからではなく、自分の身の回りに起きた出来事を淡々と述べるその説明に思考がついていけず、理解するまで数分を要した。
「本来ならば君は予定通り処分される手筈だった。しかし君はそれを望まず、生きる為に抗った。生きたいと願うその想いが今の君をここに留まらせている」
 生きる。生きてる。アタシはまだ、生きている。生きられる?
「だが君の所有権は放棄されている。故に君が元居た場所へ戻る必要もない。そこでものは相談だ。君はここに留まり、僕の伴侶として行動を供にして欲しい」
 置いてけぼりを食らっていた思考がとうとう停止した。伴侶? この人は何を言っているのだろう。
「勿論、君が望むなら野生に帰っても構わないよ。但し当分の間はここで養生して貰うがね。目覚めたとはいえ君の身体はまだ万全ではないのだから。どうだね? その気があるなら僕の手を取るといい」
 そう呟いて彼はアタシの目前に手を差し出す。どうして彼がアタシを必要とするのか、アタシを助けたのか、そういった様々な疑問があるはずなのに、気がつけば彼の手に自分の手を乗せている。理由なんて分からない。ただ感覚がそうさせた。彼がアタシを救ってくれたという恩がアタシを突き動かした。
「そうか、僕の伴侶として働いてくれるのか。ありがとう、No.103……ええと……ああ、こんな名前もなしにしよう」
 胸ポケットに挟んだペンを取り出し、それをアタシの蹄に挟ませると彼はそれを包むように持ち上げ、カルテの左上にあるアタシの番号にペン先を宛がわせる。そのまま真横に一線を引き、線の上に歪んだ字体で大きくゆっくりと文字を三つ書き連ねる。
 そして彼はその名前でアタシを呼び、屈託の無い笑顔を向ける折で、アタシは未だその名前の意味と不可思議な感情に踊らされていた。
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「御主人様は本当におっぱいが好きですね」
「失礼だな。その言い草はまるで僕が君をいやらしい目で見ている様じゃないか」
 うわ、白々しい。それが本音ならどうしてアタシをベッドに引き寄せては押し倒す必要があるのだろうか。
「でしたら何故アタシの乳房を吸い続けているのですか」
「ミルクが飲みたいなぁと思って」
 嘘だ。絶対嘘だ。そもそも現状のアタシからミルクは出ない事も知ってるはずだろうに、あえてそんな事を言うという事は目的は一つしかないわけで。
「孕んでもないのに出るわけないでしょう。バカな事やってないで早く起きて支度して下さい」
「でもここのミルクは出ているよ」
「止して下さい。こんな事なさられますと業務に支障を来しま……っ」
「こんな身体で仕事ができるの? 凄いなみるくは。僕はとてもできそうにもないよ……ほら」
 肘を使って重心を横へずらす御主人。そしてそこから見える彼の雄がアタシに何を求めているかを訴える。本当に仕方のない人、と諦めの嘆息。
「我慢する事は立派だが、し過ぎればそれは毒にしかならない……僕が常に言ってる事だよね」
「確かにそうですが、それとこれとは状況が違います……と仰っても引くつもりもないんでしょうね。はぁ……エプロン、脱がして貰えます?」
「みるくのそういう所、僕は好きだよ」
「アタシは御主人様のそういう所、大嫌いです」
 ぷい、とそっぽを向いた視線の先にある掛け時計がアナログな音を刻む。残り時間はこれからの事を考えるとかなりギリギリかもしれない。仮に早く終わったとしても朝食を食べる余裕は先ず無いだろう。折角の自信作だったのに……御主人のバカ。
「怒ってるのかい、みるく? そんな表情もいいね。ほら、こっち向いて」
 言われるが儘に視線を戻した途端、鼻腔が先とは違う空気を感知する。香りと呼ぶには程遠い強烈な雄の匂い。それもそのはずで目と鼻の先にそれがあるのだから、当然視界も限定されたものだけが見える。目を逸らそうがしまいが同じ事でただ釘付けになるばかり。
 鼻先が雄の頭に触れる。突然の刺激に吃驚してか逃げる様に大きく跳ね、快感に耐え忍ぼうとひくつく彼。上目で御主人を見るとその表情も変化を見せていた。
 近い方の手で彼に触れる。再び跳ねるも絡まれた手からは逃げ切れず、それでも直逃げようとする彼をアタシは一気に食んだ。甘い苦鳴と次第に荒くなる呼吸音。咥内に響く淫靡な音と波打つ彼の脈動。彼を弄る度、御主人がアタシの耳の裏側に手を差し込んでは愛撫する。互いに敏感で弱い場所をつつかれ、下降する事の無い営みに溺れていく。白濁とした意識に理性の欠片すら薄れていく。アタシの日常が融けていく。
「ふふ……みるくがミルクを飲もうと一生懸命頑張ってるその表情、とてもいやらしくて、可愛らしくて、愛らしいね」
 耳の裏、頭、頬と愛でる様に撫で続ける御主人の手は、そのまま顎、首筋、胸、乳首へ次々と移動し、閉じたアタシの太股を強引に潜り抜けて蜜壺に到達する。快楽が劇毒に変質していき、耐え切れずに洩れた声が咥内で暴れ出す。掻き回される感覚に襲われる度、期待感も恐怖感も綯い交ぜにされていく。うねる思考は最早唯々諾々とし、時間だけが流れている。御主人の雄を吸い、アタシの雌を吸われる、そんな時間だけが。けれどそれもやがて終止符が打たれ、御主人がアタシの名を叫ぶ。
 途端、咥内で彼が弾けた。突然の事で衝撃に備えて準備していなかった為、彼の雄から吐き出された欲望に咽返りそうになるが、それでも彼を放すことはしない。口許から彼の子種が零れようとも、咽る苦しさに涙が零れようとも、アタシは彼の愛を離したくはなかった。
 全てを吐き出したのか、沈静化した彼は舌の上で自ら撒き散らした子種に塗れながらひくついている。それも治まると御主人は身を起こして再びアタシの頬を撫でると共に、ずるり、と彼を引き抜いた。
「白濁に塗れたみるくも可愛いけど、たまにはそういうみるくもいいね。ふふ、可愛いよ。みるく」
「期待に添えれれば何より……です。早く、御仕度なさって……」
 意識が朦朧とするからか言葉までもうまく紡げない。時刻を確認しようとするものの、首すら回らない程に疲れきっている。それでも何とか身体を反転させ、仰ぎ見た視線の先は開院までもう間もない頃合だった。
「みるくはそれでいいの? 満足し切ってるようにはとても見えないけど」
「この期に及んで、まだ、そんな事を仰います、か……アタシの事はいいです、から……」
 沈黙。静寂。アナログ音が均一に響く中、御主人の手がアタシの頬に触れる。何かを言いたそうな含みの手つきと、何かを言いたげなアタシの硬直。けれど何もできない儘、起こらない儘、やがて御主人の手が離れ、ベッドが空しい音を立てる。そう、これでいい。いいはずなのに。不満と納得いかない結果にアタシの胸がきしきしと痛む。
「……やっぱり満足してないじゃないか、みるく。言葉はそうでも、みるくの尻尾は正直だね」
「あ……う……」
 違う。これはそうじゃなくて。尻尾が勝手に御主人の手に絡まっただけで。決してアタシの意思じゃなくて。あ、ダメ。やめて、来ないで。
「も……我慢……でき、ない、です……」
 再びアタシの意識が染められていく。白く、白く、御主人の色に。
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 軋む音。それがベッドなのかアタシなのか、区別できない程に激しく世界が揺れる。四つん這いになったアタシは彼に貫かれる度、シーツを噛んで洩れる声を殺している。時々我慢できなくて嬌声が洩れてしまう時もあり、己のそれを羞じんで次は出すものかと躍起にシーツに食いつくの繰り返し。
「頑張るね、みるく。我慢しないで声をあげてもいいのに。でもそんなみるくも新鮮で……とても可愛いよ」
「んっ、ふっ……何時、来客が、んあっ……あ、あるか、ひぅ、わからっ……ない、からっ……ふあっ!」
「まだそんな心配をしていたの? 大丈夫だよ。ほら、僕にその可愛い声を聞かせておくれ」
「ひっ、あああっ! し、尻尾、んああっ!」
 快楽に打ち据えられ、それに耐え忍ぼうとすると御主人はアタシの尻尾をぐい、と引っ張る。本来なら凄く痛いはずなのに、何かが麻痺していて体中が更なる悦楽を欲している。貪る様に彼を欲するアタシは快楽の淵へ堕ちていきそうで恐ろしくもなる。
「やっ、やぁっ! 尻尾、やぁっ!」
「どうしたの、いつもの口調がなくなってるよ。ああでもその口調もいいね。子供みたいで可愛い」
 無邪気な笑みを零す御主人は何だかとても怖くて、何度も嫌々と途切れ途切れの抗議をあげる。けれどそれが本心かはアタシにも分からない。唯言えることがあるとするなら、アタシは壊れてしまう事を恐れているのだと思う。
 ぐるぐると回る世界。呼吸すら満足にできず、吸ってるのか吐いてるのかも分からない。爆発するような心音。どちらが上でどちらが下かも分からなくなる中、御主人がアタシの名を呼んだ気がした。意識が回復し出すとはっきりとアタシを呼ぶ声が聞こえる。いつのまにか四つん這いの姿勢から仰向けに寝かされていて、御主人が心配そうにアタシを見つめている。
「……大丈夫? そんなに、尻尾が嫌だった?」
「……怖かった……アタシがアタシじゃなくなりそうで、凄く、凄く……」
「そっか。ごめんね。少しやり過ぎた。みるくがあんまりにも可愛すぎて、僕もちょっと歯止めが利かなかった」
「こんな所……御客様に見られでもしたら、どうするんですか。信用どころか職業も失ってしまいます」
 アタシを愛してくれるのは嬉しい。でも行き過ぎた愛が御主人を破滅に導いてしまうなら、何処かでアタシが一歩を退かなくちゃいけない。アタシも御主人も、方向転換できる程器用じゃないから。
 アタシが逃げて、御主人が追って。
 アタシは捕まって、御主人に食べられる。
「まだ、心配してるんだね。そんなに心配してくれるなんて、みるくはとても良い子だなぁ」
「僕の伴侶として働けと仰ったのは貴方ですよ」
「ふふ、素晴らしい伴侶を持って僕も嬉しいよ」
「御主人様は一人じゃ何もできない人ですもの。どれだけアタシが苦労してると思ってるんですか」
 ぷぅ、とむくれるアタシに、耳が痛いなぁ等と笑って誤魔化す御主人。でもそれでいいと思う。御主人が必要としてくれるから、アタシはここにいられるのだから。
「覚えてるかい、みるく」
「何をですか」
「君がここにやってきた事。僕が初めて担当した患畜が君だった事。君が僕の手を取った事。それからの君は言葉を覚えようと勉強をしたり、家事一般等僕には手が届かない所をサポートしてくれた事」
「……忘れるわけがないじゃないですか。でもどうして突然そんな話を?」
「ほら、やっぱり忘れてる」
 御主人の手がアタシの頬を撫ぜ、アタシの唇に唇を重ねる。簡素な口付けに加えてアタシの耳元に言葉を乗せた。
「今日はみるくが来て一周年の記念日なんだよ」
「――あ」
「思い出した? だからこの月日だけは誰も来ない。みるくと僕だけの大切な時間であり、数少ない日常なんだよ」
「あう、う、うう」
 分からない。何かとても凄く大事な事を言われたはずなのに感情がついてこない。嬉しいのと恥ずかしいのと、哀しいわけでもないのに涙が出てくる。それが嬉し涙だって事に気付くのはもっと後の話で、アタシは本当に何だかよく分からない声を出して、ぼろぼろと泣いていた。そして止めとばかりに御主人はアタシの頭をなでなでとして。ずるいとは思うものの悔しいとは思わなかった。唯、充実感だけがアタシの胸にあって、満ち足りる気持が一杯になって。
「みるく、何かして欲しい事はある?」
「……今日は誰も来ないんですよね。だったら……その……もっと、して下さい」
「いいよ。それがみるくの望みなら僕は何だって叶えてあげよう」
「でも、さっきみたいなのじゃなくて……繋がった儘、アタシを抱き締めて欲しいです」
「お安い御用だよ。みるくはそういうのが好きなの?」
「はい。その方が安心するんです。こんなアタシでも必要としてくれる人が居てくれるんだって。それに何より――」



 貴方との、温もりを一番感じられるから。
 貴方との、距離が一番近しいから。
 貴方との、愛が確かなものだと解るから。

 アタシは貴方に焼かれていき、透明な世界を白く染め上げる。
 そうしたらアタシはもう、過去に染まらないから。



――みるく。もし子供ができたとしたら、欲しい?
――子供、ですか?

――そう、君と僕の愛の結晶。
――それは欲しくないと言ったら嘘になりますけど……今はいいです。

――どうして?
――だってこんな大きい子供が居るのに、二人目なんて大変で面倒見切れません。


 皿の上の太陽はまだ温みを帯びて、白い陽光を浴び続けていた。
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あとがき。
 ミルタンクって♀しか居ないんですよね。それで公式絵を見ればちちうしポケモンというだけあってその名に恥じないエロい矮躯ときた。
 ならばその存在を否定してやろう!という思いつきから生まれたのがこの作品です。決して自分が貧乳好きだからとかそんな理由ではないです。ないです。……ごめんなさい。嘘です。本当は大好きです。
 ミルタンクって言うだけでもマイノリティーなのに、敢えて貧乳というオプションを取り付ける自分の言い訳としましては
「マイノリティーが何だこの野郎! 貧乳だってエロスの象徴だ!」
 と声を大にして物申す。物申す。
 現在執筆中の陽炎Lがやや停滞気味なのでこれは如何なものか。という事で急遽短編小説のひとつをあげさせて頂きました。
 長編と違って思いつきだけでさくっと終れるのは短編ならではの特権ですね。
 唯、1日2日で書き上げただけの小説は荒い表現も現れてしまうものなので、より見直しが必要になるジャンルでもあります。
 貧乳ミルタンク×変態ドクター 書いててすっごい楽しかった…! たまに短編やるのもいいですね。いい勉強になった。
 最後に読者の皆様へ。ゆっくりペースの更新ながらもいらして頂きまして感謝の念を込めて。ありがとうございます。
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