この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。 尚、この小説には官能的表現、流血表現が含まれます。 以上の事に注意してください。 「どういう事だ?」 「だから……『わからない』んだよ」 時間がかかると思っていたアブソルの検査は五分と経たないうちに終わってしまった。診察室から出てきたドクターの顔は驚きと困惑に満ちていた。 「検査しようと様々な機材を使うんだけど……全部、エラーが出たり機能停止したりするんだ。いままでこんなことは無かったのに……」 「そうか……世話になった……」 「いや、我々も力になれなくて申し訳ない」 受付カウンターで二つのモンスターボールが返される。ジルもついでに健康検査してもらったのだ。すぐにジルをボールから出してやる。 「…………」 「どうした」 「いや……いやらしい考えは無いんだろうけど……診察の時にやたらと体を触ってくるから……」 そこにあるかどうか分からないくらいに透明なガラスのドアが自動で左右に開かれる。いつの間にか、壁のように並ぶビルとビルの合間から見える空が曇り始めていた。そういえば、今日は午後から天気が崩れるんだったか……。 ここから家まで徒歩で帰るには三十分はかかる。その間に雨に降られても困る。タクシーを使えばいいが、帰っても特にやることもない。最近ギルドに顔を出していない。流石にギルド長が空席続きというのもまずい……。 「ジル、俺はこれからギルドに行く。好きに行動していいぞ」 「分かった」 「面倒事には巻き込まれるなよ」 「何言ってるの、面倒事に巻き込まれない方がおかしいぐらいなのに……」 「仕事以外の事だ」 「気をつけておくわ」 「そうしろ。どうしても自分ひとりで解決できないときは連絡しろ」 そう言って、俺はジルと分かれてギルドに向かった。家よりは近い。頬に雨粒を感じ始めた頃、ギルドに到着した。行き交う職員と傭兵達に挨拶をしながらギルド長室に入り、大きな部屋の中央に置かれた机に向かうと、早速若い秘書が分厚い書類の束を手に駆け寄ってきた。 「ギルド長」 「あぁ……分かってる、全部やっておこう……」 「いえ、コレは私の仕事ですので。用件は別の事です」 「なんだ?」 「……一人、傭兵になりたいとしつこい娘がいまして……」 「テストは受けさせたか?」 「それが……一般常識以外が絶望的なまでに悲惨な結果なのです。なのに、何度も何度も試験を受けにくるので……判断を頂きたく思います……」 「結果表と射撃試験の評価を見せろ」 「データベースに入力されています。テストデータ・コード『G309H2』です」 「分かった。後でお前の端末に指示を出す。それまでは自分の仕事を続行しててくれ」 「はい」 「あぁ、あと…」 背中を向けて部屋を出ていこうとした秘書をまた引き止めた。 「長いこと席を空けていたが……俺の仕事はどうなってる?」 「それでしたら、私や部下で処理できる書類はすべて処理させていただきましたので、今の所はありませんね。まだゆっくり休んでいただいても大丈夫かと……」 「そうか、下がっていいぞ」 秘書が部屋を出て行く。座っている椅子をクルリと回転させると、そこには大きな窓が。いつのまにか外はバケツをひっくり返したような大雨だ。ジルは大丈夫だろうか……。 また椅子を回転させて机に向かう。テーブルの端末を起動させて先ほど教えてもらったコードを入力する。すると、目の前の空間にいくつものウィンドウが表示された。一瞬、コンピュータウィルスが入り込んだかと思った程だ。 「な……これ、全部テストの結果表か!?」 受験者の名前はすべて同じ。『アーリア』と入力されている。急に痛くなった目をこすり、その内容に目を通していく。それはあの秘書が言うとおり、その字の如く悲惨な結果が表示されていた。 一般常識 ――――― 100点。合格。問題なし 武器知識 ――――― 全問無回答。皆無。 身体能力 ――――― 平均女子以下。 格闘試験 ――――― パッドを殴ると殴った拳を痛がる。 射撃試験 ――――― 指が痛いと言って連射ができない。 「…………」 表示されている彼女の写真を見る。明らかにどこかのもやし娘といった感じだ。金髪を腰まで伸ばし、何処の姫だよと言いたくなるような豪華なドレスを着ている。 「……こんなやつを受験させるなんて……採用担当は何を考えてるんだ?」 机の端に設置されている小型の通信機のボタンを押す。すると、クリアディスプレイがニュッと下からせり出し、ギルドの制服を着た男が映し出された。 「テストデータ・コード『G309H2』の受験生の事だが、今時間を貰ってもいいか?」 「あの少女ですか……いいですけれども、どうしました?」 「ここまでしつこいと俺も無視するわけにもいかない。直接会って話をする」 「はい?」 男の顔が信じられないというような表情になった。 「なぜそこまでこのギルドにこだわるのかが気になる。いままでに例のない事だが、面接を行う。彼女の連絡先は分かるだろう?明日の昼13時に彼女を呼べ」 「は、はい、わかりました……」 通信を切ると、俺は椅子に深く座り込んだ。外は相変わらず酷い雨だった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 翌日、私はユウキと一緒にギルド長室の椅子に座っていた。こうしてギルド長の制服を着たユウキを見ていると、なんだか私には手の届かない遠い存在になってしまったような感じがする。その目はいつものように冷たい光を持っているけど、いつのまにか威厳のような強さを持ち始めていた。まるで別人のようだ。最近、私にも冷たくなってきたような気がする。もしかしたら、私のいる生活に慣れてしまって過去のユウキに戻りつつあるのかもしれない…… 「……ユウキ」 「なんだ?」 いつもなら『なんだ?』の後に『どうした』をつけるのに…… 「いや……なんでもない……」 これから、このギルドは初めての面接をするらしい。でも、なんで私をここに連れ込んだのかしら…… すると、ドアを二度ノックする音が聞こえた。 「入れ」 「失礼いたします」 入ってきたのは、明らかに傭兵とはかけ離れた格好の女だった。赤と黒のフワフワした布地に金の大きなリボンで飾り付けられたお嬢様ドレス。こんな箱入り娘が傭兵になるなんて馬鹿げてるわ。 でも、礼儀だけはしっかりしているようで、目の前に用意された椅子の左で立ち止まった。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「傭兵ギルド長のユウキだ。話を聞こう。座れ」 「はい」 「なぜこのギルドに入ろうと思った?失礼ながら、適正があるとは到底思えない」 「それは承知の上です」 こういった場所での会話や礼儀作法は完璧だ。これは面接前にその場で覚えたものではなさそうだ。 「私は両親の敵をとるために傭兵になることを決心したのです」 「傭兵は命を奪う仕事でもある。その両親の敵以外の命も奪う覚悟はあるか?」 「……はい」 僅かに間があったものの、彼女の決心に揺るぎはないようだ。彼女の目を見る。珍しい紫の瞳だ。そこには、復讐に燃える怒りと、強くなりたいという意思が見え隠れしていた。 「今までに運動……スポーツをしていた経験は?」 「ありません」 「……どうしても……傭兵になりたいのか?」 「はい」 「……………」 困ったな……この様子だと、彼女は絶対にあきらめないだろうな……しかし、彼女を急に仕事に出して失敗ばかりされても我々ギルドの信用にも関わる…… 「ユウキ……」 「なんだ?」 ジルが横から口を挟んできた。なにか提案でもあるんだろうか? 「正直、私は彼女は傭兵としてのスキルは無いと思うの」 「それは俺も同じだ」 「でも、彼女の記憶力と知識に関してはどう?」 「……たしかに、一般常識に関しては完璧だった……」 「あまり身体能力がいらないスナイパーとしてなら、活躍してもらえると思うの。どう?」 そこまで言うと、ジルは言葉を切った。 「アーリア…………趣味はなんだ?」 この答え次第で俺はこの娘を採用とするか不採用とするかを決定する。もしかしたら、ただの石に包まれてしまって本質が見えないだけのダイヤの原石のような人材かもしれない。 「読書と刺繍です」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ その答えを聞いて、私はため息をついた。流石にスナイパーにするには体力が無さ過ぎる。スナイパーは凄まじい集中力と忍耐力が必要だとユウキから教えてもらった。その点では彼女は合格だと思う。でも、スナイパーはたとえ雨が降ろうと直射日光で照らされようと、じっと同じ場所で同じ体勢でそのときが来るまで耐えないといけない。精神はよくても体力が無いんじゃ無理に決まっている。 「…………採用だ」 「……え?」 私は自分の耳を疑った。ユウキが彼女を採用した? 「傭兵というのはその仕事上、常に何者かに命を狙われる立場にある。仲間を逮捕された強盗犯、我々の存在そのものを良く思わない反政府組織、いくらでもいる。そのため、滞在する場所を現住所から変わってもらう事になる。いいな?」 「はい」 「それと、傭兵としての心構えと必要最低限の体力を作るために、しばらくは俺達の行動を共にし、幾つかの条件の中で行動してもらう」 私が呆然としている中、どんどん話は進んでいく。そして、彼女が部屋を出て行った……。 「で?なんでアーリアがうちに住むのよ?」 「アブソルというお荷物があるからな。しばらく俺はアブソルと行動する。このまえの事件も、まだ終わったわけじゃない。背後を洗わないといけない」 「それは分かってるけど……」 「ジル、お前はアーリアと留守番をしててくれ。洗濯・掃除・料理、家事は全部アーリアにやらせろ。ある程度それで体力を作らせる。三日間それで体を慣らしてから、本格的に強化プログラムを実行する」 そう言って、ユウキはアブソルを連れて出かけてしまった。部屋には私と、大きなバッグを持ったアーリアだけになった。今、彼女はギルドから支給された真っ黒のライダースーツのような戦闘服を着ている。 「………アーリア、荷物は私の部屋においてちょうだい。後で貴女の寝床も用意するからね」 「ありがとうございます」 「…………」 どうもこの娘は好きになれない。敬語を使ってはいるものの、敬意や遠慮というものを全く感じない。一体今までどんな生活をして来たのこの娘は! 「今日は特にやるべき家事は無いから、休んでて頂戴」 「では失礼して……」 彼女はバッグを私の部屋に運び、中から小さな本を取り出した。何かの小説だろうと思う。そして……あろうことか、私のベッドに座って本を読み始めた。 「ちょっと、それは私のベッドなんだけど!」 「あら、てっきり私の為のベッドかと思いました。申し訳ありませんでした」 やっぱり、申し訳ないという反省の気持ちは一切見えない。今度は床に敷いた絨毯に座り込んで本を読み始めた。でも、部屋のど真ん中で邪魔。 「…………」 私はもうそれ以上彼女に訓練と頼みごと以外は何も言うまいと思った。正直、なんでユウキが彼女をここに置こうと思ったのか、不思議で仕方ない。 そして戦士は災いを呼ぶ Ⅱ END -------------------------------------------------------------------------------------- あとがきのようなもの あとがきはこの作品が初めてだったりするけど気にしないw 以前頂いたアドバイスを元にいくらか物語の方向修正しました。 ま……多分読んでくださった殆どの方が考えたと思いますが、この後ジルとアーリアが様々なトラブルを起こしていきます(ぇ どんなトラブルなのかはネタバレになっちゃうんで……次回のお楽しみということでw あと、色々とグダグダな小説にも関わらず、予想以上に読んでくださった方が多くてとても嬉しいです。 ちなみに、今ここで告白しちゃいますけど、実は最近のBWのポケモンの大半をよく知らないのです; DPまでなら大体分かるんですけど(初代は完璧だったりw) これからもよろしくお願いします。 #pcomment IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 13:58:30" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%AF%E7%81%BD%E3%81%84%E3%82%92%E5%91%BC%E3%81%B6%20%E2%85%A1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"