この小説はこの私、闇魔竜の独自の世界で物語が作られています。 尚、この小説には&color(violet){[官能的表現]}; 、&color(red){[流血表現]};が含まれます。 以上の事に注意してください。 月明かりで影が出来た。ふと夜空を見上げると、雲から蒼い月が顔を出していた。今夜は何故こんなにも月が蒼いんだ? 桜の花びらを纏った風が俺のコートを揺らす。何千本もの桜が咲き乱れる夜の丘。そこに、俺はジルと共に立っていた。 「なんて美しいのかしら・・・この桜・・・桃色じゃなくて、薄い紫色をしてるわ・・・」 「・・・」 この桜は度々血で赤く染まる。そう、ここでは何人もの人間と何匹ものポケモンが死んでいる。その命を吸って桜は花を咲かせる。そして、その美しさに誘われて迷い込んだ者は死に誘われる。 「こんなところで本当に人が死ぬの?」 「・・・あぁ・・・」 足元の土を少し踵で掘ってみる。するとどうだろう。白い棒状の石が出てくる。これは明らかに何かの骨だ。大きさからして、人間のものではない。ポケモンのものだ。 「この丘から生きて帰ってきた奴は殆ど居ないらしい。その帰ってきた奴は全員発狂していて保護されたその日のうちに自殺した。そしてその全員が死に際に『蒼い月の下、白い桜が一本、血に染まる』と言ったと報告書に残っている」 「白い・・・桜?」 「恐らくその犯人の事を言っているのだろうが意味不明だ。犯人が何者なのかも分からない」 「・・・気を引き締めておかないと・・・やられるわね」 「今までに何人もの警察隊が調査に来たが、同じような結果になった。だが・・・」 「私たちは」 「やらなくちゃいけない・・・」 ジルはその腕の鎌を構え、ゆっくりと桜の中を突き進んでいった。俺もマテバを抜くと後を付いていった。 どれだけ歩いてもその景色は変わらない。GPSのおかげでなんとか迷わずにいるが・・・何か変だ。さっきまでと何かが違う。 「・・・風が・・・無くなった?」 「そういえば・・・」 先ほどまで絶えず風が吹いて花びらが舞っていたのに、今は風が無い。嫌な予感がする。 「いるな・・・何か・・・」 すると、目の前に一本の大きな桜が現れた。いや、これは少し語弊があるな。気が付かなかっただけかもしれないが、目の前には大きな桜がいきなり出現したように見えた。本当にそうなのかもしれないが・・・。 「白い・・・桜・・・?」 他の桜の三倍はあるような大きさのその桜は、穢れ無き純白の花を咲かせていた。それは一枚も花びらを落としていない。足元は紫の花びらだけ。 視線を戻すと、その白い桜の木の陰から桜と同じ純白のポケモンが姿を現した。音も無く、俺の警戒をかいくぐってここまで接近してくるとは・・・。 「・・・原因は奴か・・・」 そのポケモンというのは、あの災いを呼ぶと言われるアブソル。本来真っ赤な目をしているはずなのだが、どういうわけか紫と青のオッドアイだった。その瞳に光は無く、虚ろな視線をこちらに向けている。 「・・・」 「この丘から帰還した全ての人間とポケモンが『蒼い月の下、白い桜が一本、血に染まる』と口にした。今まさにその状態だ。で、その『血に染まる』というのを調査しにきた。どういうわけだ?」 「・・・」 アブソルは俺の質問に答えない。額の横にある鎌が光り始める。そして大きく頭を振る。 「かまいたちか!」 咄嗟にジルと俺は素早くかがむ。すると、二十メートル後ろの地面の土が跳ね上がった。そこにあった桜の根は何故か切れない。顔の前を俺の髪の毛が数本落ちていく。 「戦闘は免れないか・・・」 ジルが俺の前に出る。野性ポケモンとのバトルが始まる。本来、ポケモンバトルというのはお互いに力を加減して気絶させるまでしかダメージを与えないようにしている。だが、このような場合はその限りではない。トレーナー側は気絶させてゲットしようとしているのに対し、野生ポケモン側はその字の如く死ぬ気で戦う為、最悪の場合負けると死亡する。 「ジル、アイアンテール!」 指示を出すとジルはアブソルに向かって飛び掛り、アイアンテールを振りかざした。アブソルは避ける姿勢をとったが、何かに気が付いたのかそのままアイアンテールをそのまま受けた。 「なっ・・・!?」 「避けなかった?」 アブソルはかなりの痛手を喰らったようでフラフラと揺れている。脳震盪を起こしているようだ。だが、すぐに回復して此方を睨んできた。 「うっ・・・か・・・体が・・・!?」 動けなかった。何かに体を固定されたかのように、指でさえも動かせない。呼吸と視線の移動は出来る。ジルも同じように固まってしまっている。 「な・・・何のワザだ・・・!?」 「分からない!あんなの・・・見たこと無い!!」 アブソルの体から、得体の知れないオーラのようなものが出ている。あれは・・・? 「・・・ダークポケモン・・・」 昔、無理に心を奪われ兵器として生み出されたポケモンがいたという記録が残っている。名をダークポケモンというらしい。心が無い為支配者の命令を全て聞き入れ、実行する。自我が無いに等しい。その上、ダークワザと呼ばれる特殊なワザを使える。それは全てのものに害を成すことが出来る脅威の力を持つ。また、他のものを侵食して支配することもできる。 もし奴がダークポケモンなら、何者かが背後でこの事件を操っている可能性が高い。 そういえば、ダークポケモンは・・・通常の人間には目視できない特殊なオーラを纏っているらしい。だが、俺にはあのオーラが見えている。ジルは見えていないようだ。・・・どういうことだ? 「ユウキ!指示を!攻撃してくるわ!!」 ジルの言葉で我に返った。アブソルがまたかまいたちを放とうと首を振り上げている。 「ジル!竜の息吹だ!」 ジルは偶然にもアブソルのいる方向に顔が向いていた。その口から青白い煙のような炎が吐き出され、アブソルに襲い掛かる。 「・・・!」 アブソルはそれを大きくかわして・・・また何かに気が付いて走り出す。ジルが吐いた竜の息吹が、後ろにあった桜に向かっていく。それはあの大きな白い桜。アブソルが竜の息吹を追い越す。すると・・・ 「・・・・・・・・・・!!!!」 アブソルは自ら竜の息吹に当たりに行き、そして気絶した。後ろのあの桜は無傷・・・。 「桜を・・・守った・・・?」 「あ、もう動けるわ!」 動けるようになったのを確認すると、ホルスターに装着されたモンスターボールを取る。それは今ピンポン玉ほどの大きさになっている。赤と白にペイントされた境界線にあるボタンを押すと、ソフトボールほどの大きさに変化する。 「捕まえるの?」 「ああ。殺す訳にもいかないだろう」 モンスターボールをアブソルに投げる。倒れたアブソルの鎌に当たるとモンスターボールから赤いレーザーが出る。そのレーザーが当たるとアブソルは白い光になってモンスターボールに吸い込まれる。 「このアブソルに後で話を聞く必要がある」 モンスターボールが地面で小さく揺れている。と、その揺れがすぐに止まる。捕まえたのだ。俺はそのモンスターボールを拾うと、ボタンを押して収縮させ、またホルスターの側面のラックに取り付ける。 「・・・なんで・・・桜を守ったのかしら・・・」 「・・・さぁな・・・」 その白い桜は、その花びらを散らし始めていた。 「・・・・・・」 「あそこで何をしていた?」 「・・・・・・」 「この言葉がわかるか?」 「・・・・・・」 アブソルは全く喋ろうとしない。声が出ないだけかもしれない。 「ジル、コイツを見張っててくれ。食事の準備をする」 「わかった」 アブソルは今ソファーに座らせてある。あの妙なオーラは見えない。昨晩のオーラは一体なんだったんだろう・・・?俺の気のせいだったか? 「・・・」 冷蔵庫から食材を取り出して料理を始める。すると、アブソルが急に俺のところへ歩いてきた。ジルはアブソルが妙な動きをしたらすぐに攻撃できるように鎌を構える。 「・・・」 「どうした?」 「・・・」 アブソルは鼻先で俺の手元を指した。どうやら、何をしているのか気になるらしい。 「飯を作ってるだけだ。お前も食うよな?」 その言葉を聞いて、アブソルの目に僅かに光が生まれた。だがそれも一瞬の事ですぐに消えうせる。アブソルは首を傾げると、小さく頷いた。 「そうか・・・ならソファーで待ってろ」 アブソルは無表情でまたソファーに戻った。ジルもホッとしてアブソルの横に座る。妙に素直だな。 しばらくして、何枚かの大きなホットケーキが完成する。一枚の皿にそれらを盛り、リビングのテーブルに置く。 「できたぞ」 メープルシロップやジャムといった気の利いたものはないが、それでもジルは喜んで食べてくれる。だが・・・アブソルはどうだろう・・・ 「・・・」 その大きなホットケーキをずっと見つめたまま動かない。 「見たこと無いか?」 「・・・」 また小さく頷く。それをきっかけに、アブソルは小さく鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。食べられると判断したようで、バクリと一枚咥えてそのままガツガツと食べ始める。無表情なので美味しいのかそれとも何も感じていないのか分からない。 「アブソル、美味いか?」 「・・・」 アブソルは、意味が分からない。というかのように首を傾げた。また目に光が僅かに戻り、すぐに消える。 昼ごろ、アブソルを連れてポケモンセンターに向かった。なぜアブソルが喋らないのか、調べてもらいに行くのだ。 「ジル、お前はアブソルをどう思う?」 ジルは横を歩いているアブソルを見て少し考えるような仕草をすると、少し唸って言った。 「うーん・・・なんとなくなんだけど・・・感情が無いようにみえるのよね・・・心が無いと言ったほうが分かりやすいかも」 「そうか・・・」 ジルも俺と同意見のようだ。今も、ただポケモンセンターに行くという目的だけを見ているように黙々と歩いている。見ていて、なんだか機械的なイメージが湧いてくる。やはり、ダークポケモンなのか? 「・・・っ!?」 そのとき、目の前で事故が発生した。信号を無視した車が他の車と衝突しそうになって、慌てて方向を変えた。その先は飲食店。昼時で食事をしようと人が集まっている。 「ああぁっ!!」 ジルが悲痛な声を上げる。突っ込んでくる車に気が付く人は居ない。そして辺りに血が迸る。車はそのまま店の中に姿を消す。その通った痕には悲鳴、死体、血が残っている。中には生きているのもいるが、誰一人として軽傷では済んでいない。 「ジル!行くぞ!」 「でもアブソルは・・・」 「そのくらいモンスターボールに入れて・・・なっ!?どうした!アブソル!!」 アブソルが目を見開いて震えている。額から大量の汗を流し、その視線は真っ直ぐに血の海を見据えている。 「おいっ!しっかりしろ!」 「アブソル!大丈夫!?」 すると、アブソルの体からあのオーラが噴出した。昨晩のあのゆらゆらした出方じゃない。爆発するような出方だ! 「な・・・なんだ!?」 すると、周りがさらに騒がしくなった。あちこちで、事故が続出している!?あるところではガス管の破裂、また他では看板が外れてポケモンが下敷きに、その横では街路樹の手入れをしていた老人が誤って足を切断・・・見る見るうちに事故が重なっていく・・・! 「一体何が起こってるんだ!?」 慌ててアブソルにモンスターボールのビームを当てる。アブソルは光になってモンスターボールに吸い込まれる。その途端、事故の異常発生が止まった。 「まさか・・・アブソルが・・・?」 「・・・・・その可能性が高いな・・・」 手の中のアブソルが入っているモンスターボールを見下ろして言った。そのモンスターボールからチロチロとオーラが見え隠れしている・・・ そして戦士は災いを呼ぶ Ⅰ END ---- #pcomment IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 13:57:35" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%AF%E7%81%BD%E3%81%84%E3%82%92%E5%91%BC%E3%81%B6%20%E2%85%A0" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"