#include(第五回短編小説大会情報窓,notitle) 作:からとり 作:[[からとり]] ---- 辺りは既に漆黒の闇に覆われていた。 人里から離れた、ポケモンたちが暮らしている集落。 多くのポケモンたちはすでに活動を終え、各々の住処にて休息の時を満喫しているだろう。 しかし、今の俺にはそんな余裕も、時間もない。 俺は静まった薄暗い森林を抜け、岩で覆われた洞穴へと足を踏み入れた。 「そろそろ、見つかんねえかな……」 そう呟き、汗水を垂らしながら俺は目的の代物を探していた。 「そろそろ、見つかんねえかな……」 そう呟き、汗水を垂らしながら俺は目的の代物を探していた。 すでに洞穴に足を踏み入れてから、1時間以上が経過している。 この洞穴は初めて潜ったのだが、他のものより自然の力で生み出された激しい段差などが多く見られた。 そのため、岩盤のような硬い殻で覆われている、重量感のある俺が奥に進むのは、さすがに骨が折れる。 だが、俺も長年に渡り、多くの洞穴に足を踏み入れているのだ。 熟練した攻略テクニックは、すでに身体全体に身についている。 その攻略テクニックをフルに活かしながら、俺は洞穴の深奥へと歩みを続けた。 目的の代物を見つけるために。 そして、歩みを続けて―― 「おっ、ようやく見つけたぞ!」 ついに目的の代物――条件に合う原石を見つけることができた。 「おっ、ようやく見つけたぞ!」 ついに目的の代物――条件に合う原石を見つけることができた。 その大きさや形状、そして石の素質も申し分ない。 これなら依頼された品を完成させることができるだろう。 俺はひとまず安心し、ほっと吐息をもらした。 だが、次に行うべき仕事はまだ残っている。 すぐに気持ちを切り替えた俺は、自分の殻の間に原石を傷つけないよう慎重に入れた後、洞穴から脱出するべく再び歩みを始めた。 頭上に広がる空は、まだ闇に覆われている。 洞穴から脱出した俺は、森林のある場所に足を踏み入れた。 この場所で、あるポケモンと待ち合わせをしていたのだが…… そのポケモン――キュウコンは、俺の目の前で心地よい寝息を立てていた。 薄暗い森林の中でも、金色で覆われているその体毛は煌めきを放っており、見るもの全てを惹きつける。 まあ……確かにいつもより原石を見つけだすのに時間がかかったのは事実だが、寝てしまうほどなのか。 俺は無意識のうちに苦笑していた。 艶やかに見えるその寝顔は、時を忘れてじっと覗き込んでみたいものだが、あいにく今の俺にはそんな暇はなかった。 さっさと起こして、こいつに仕事を手伝ってもらわなくては。 「おい、フランメ。起きろ。俺だ」 「……ふぁー?」 俺が耳元で声をかけると、そのキュウコン――フランメは目を覚ました。 「おい、フランメ。起きろ。俺だ」 「……ふぁー?」 俺が耳元で声をかけると、そのキュウコン――フランメは目を覚ました。 ……声を聞く限り、まだ寝ぼけている感じもしたが。 「フランメ、しっかりしろ。早く仕事に取り掛からないと、陽が昇っちまう」 「……誰かと思ったら、ヴィレかぁ。一瞬おぞましい岩の感覚がしたから、得体の知らないやつが私を襲いに来たかと思ったよ」 「お前、長年の付き合いである俺にその言い草はひどいぞ」 確かに俺はフランメの弱点である岩の殻で覆われているポケモン――ゴローニャではあるが。 「フランメ、しっかりしろ。早く仕事に取り掛からないと、陽が昇っちまう」 「……誰かと思ったら、ヴィレかぁ。一瞬おぞましい岩の感覚がしたから、得体の知らないやつが私を襲いに来たかと思ったよ」 「お前、長年の付き合いである俺にその言い草はひどいぞ」 確かに俺はフランメの弱点である岩の殻で覆われているポケモン――ゴローニャではあるが。 こいつとは、長きにわたって一緒に仕事をやってきたのだ。 いくら寝起きだったとはいえ、そんな言い草をされるとは思わなかった。 「ヴィレが来るのが遅いもんだからね。つい、眠っちまったよ」 「それは悪かった。今回は初めての洞穴で原石を見つけるまでに時間がかかっちまった」 まあ、俺が遅れちまったのがそもそもの原因だし、フランメに悪気はないみたいだし。 「ヴィレが来るのが遅いもんだからね。つい、眠っちまったよ」 「それは悪かった。今回は初めての洞穴で原石を見つけるまでに時間がかかっちまった」 まあ、俺が遅れちまったのがそもそもの原因だし、フランメに悪気はないみたいだし。 この件については特に深掘りすることはないだろう。 「ま、とりあえずいつものやつ。頼むよフランメ」 「まあ時間もなさそうだしねぇ。さっさと始めようか」 そして俺は、先ほど入手した原石を取り出し、目の前の土の上に置いた。 「ま、とりあえずいつものやつ。頼むよフランメ」 「まあ時間もなさそうだしねぇ。さっさと始めようか」 そして俺は、先ほど入手した原石を取り出し、目の前の土の上に置いた。 フランメは原石を確認すると、手を口に当て、息を整えていた。 おそらく、原石に“かえんほうしゃ”を放つ準備だろう。 「よし、“かえんほうしゃ”、やるよ!」 「おう、頼むぜ!」 そして、フランメは原石に向かって、その炎を吐いた。 「よし、“かえんほうしゃ”、やるよ!」 「おう、頼むぜ!」 そして、フランメは原石に向かって、その炎を吐いた。 炎を吐いたことによって原石は輝かしい、橙色を纏わった。 この状態でも、思わず見とれてしまいそうな美しさを放つが、まだ終わりじゃねぇ。 ここからもう一仕事。これは俺の仕事だ。 俺は全身に力を込め、技を繰り出した。 その技とは“ロックカット”。 これを使うことで、俺の身体はツヤツヤする。まるで、ルビーやサファイアを思わせるくらいにな。 そして、空気抵抗を減らし、極限までスピードをあげた俺は、手足を存分に活用して原石を加工し始める。 まだまだ原石は熱い。 普通のポケモンなら、少し触れるだけでも火傷してしまうくらいだが、俺の熟練した技術と技を駆使することで、加工を行うことができる。 ……それでも、けっこう熱いんだがな! 熱さを耐えながら、手を、足を使って俺は原石の形を司っていく。 そして、最後に想いを込めて、両手で石を包み込む。 ……これで、完成だ。 “ほのおのいし”の……! ――いしのいし―― 1日の始まりを告げるであろう太陽が、この空に姿を現した。 これから、多くのポケモンたちが目覚め、1日をスタートさせるだろう。 もっとも、俺は太陽が昇るはるか前から、1日をスタートしているのだが。 “ほのおのいし”を完成させたあと、フランメと別れた俺は自分の住処へと戻った。 そして、ゆっくり安らぐ暇もなく、仕事である店を開く準備をしていた。 太陽が昇ったということは、もうすぐ“ほのおのいし”を頼んだ依頼主が姿を見せるだろう。 そう考え、俺は準備するスピードを上げていった。 しばらくすると、目の前から歩いてくる影が見えてきた。 徐々に近づいてくるその影は、俺より一回りほど大きく見える。 凛々しい顔つきに、橙色をベースに所どころに交わっている黒の斑点。 首元から顔、足元や尻尾にはふさふさと薄橙色の体毛が特徴的なそのポケモンはウインディであった。 「ヴィレさん! 例のもの、できましたか?」 「ああ! できたよ」 「本当に! 見せて見せて!」 「待て待て、そんなに慌てるな!」 明らかに待ちきれない様子で話しかけてくるウインディを、俺はたしなませる。 「ヴィレさん! 例のもの、できましたか?」 「ああ! できたよ」 「本当に! 見せて見せて!」 「待て待て、そんなに慌てるな!」 明らかに待ちきれない様子で話しかけてくるウインディを、俺はたしなませる。 それでも興奮が抑えられず、爛々とした眼差しを俺に向けてくるウインディ。 俺は肩をすくめながら、作り上げた“ほのおのいし”を取り出した。 「おぉ! なんと素晴らしい! さすがヴィレさん」 「そこまで大したもんじゃねえけどな」 「いえいえ、私からすれば、とっても素晴らしい! ルビーやサファイアより美しいと思いますよ!」 「それは言い過ぎだろ!」 高揚して褒め称えてくるウインディの言葉。 「おぉ! なんと素晴らしい! さすがヴィレさん」 「そこまで大したもんじゃねえけどな」 「いえいえ、私からすれば、とっても素晴らしい! ルビーやサファイアより美しいと思いますよ!」 「それは言い過ぎだろ!」 高揚して褒め称えてくるウインディの言葉。 口では冷たくあしらった俺だが、内心悪い気はしなかった。 俺自身、この仕事には高い誇りを持って、少しでも依頼主に喜んでもらえるようにしたいと考えているからだ。 それに、このウインディがこれほどまで“ほのおのいし”を欲している理由も知っている。 「それで、確かこの石はあんたの子供に渡すんだよな?」 「はい、そうです! あいつも努力を重ねて、成年の試練を乗り越えましたからねー。石をプレゼントして、心身共に立派になった姿を早く見たいです」 何でも、このウインディの子供は幼少時代、体つきが弱く非常に臆病で、無事成年を迎えるかどうかも怪しかったらしい。 「それで、確かこの石はあんたの子供に渡すんだよな?」 「はい、そうです! あいつも努力を重ねて、成年の試練を乗り越えましたからねー。石をプレゼントして、心身共に立派になった姿を早く見たいです」 何でも、このウインディの子供は幼少時代、体つきが弱く非常に臆病で、無事成年を迎えるかどうかも怪しかったらしい。 だが、ウインディ夫妻の努力に加え、子供が自分自身に逃げずに立ち向かった結果、こうして試練を乗り越えて無事に成年したらしい。 婚約や子供などに無縁である俺からしても、依頼された際にこの話をされて、心に響くものがあった。 そして、親子共に感慨深い場において、俺の作った石を使ってくれるのは、とても嬉しいことでもあった。 「まあ、おめでとさん。子供が進化したら、ぜひ顔を見せてくれよ」 言葉を添え、俺は“ほのおのいし”をウインディに渡した。 「まあ、おめでとさん。子供が進化したら、ぜひ顔を見せてくれよ」 言葉を添え、俺は“ほのおのいし”をウインディに渡した。 ウインディはふさふさとした深い体毛に、その石を潜り込ませ、 「もちろんですよ。あいつと一緒に、改めてお礼をさせていただきますね」 幸せそうな表情を見せ、一礼して帰路についた。 「もちろんですよ。あいつと一緒に、改めてお礼をさせていただきますね」 幸せそうな表情を見せ、一礼して帰路についた。 この世界には、大きく分けて2つの石が存在している。 1つは天然物の石。これは、何でもこの世界を創り出したポケモンが、秩序を保つように世界各地に散りばめたらしい。 そして、今でも石を散りばめているらしいが、存在場所が不明確であり、また数も非常に少ないため、非常に貴重な品となっている。 そのため、ポケモンたちが天然物の石で進化をすることは非常に希である。ほとんどのポケモンは、もう1つの人工的な石を使用している。 人工的な石は文字通り、様々な手段で作り上げているものだ。人里の近くであれば、人間が特殊な機械を使用して、大量の石を作り上げているらしい。 だが俺が暮らしているような、人里が離れている場所においてはポケモン自身が石を作らなくてはならない。 そこで俺たちのような“いしや”の存在が必要となる。 俺たち“いしや”は、依頼主に頼まれた石を作り上げるべく、石の元となる原石を洞穴などに探しに行く。 そして、“ほのおのいし”であればキュウコン。“かみなりのいし”であればライチュウといった具合に、それぞれの種族のポケモンの力を借りつつ、加工を行うことで石を作り上げている。 だから俺は先ほど、キュウコンであるフランメに力を借りた。 もちろん、他タイプの石を作り上げる際には、そのタイプのポケモンに力を借りることになる。 そのため“いしや”は、単に力と技術があればできるものじゃねえ。 仲間との連携も重要となるのだ。 ……まあ、俺は元々親父も“いしや”だったこともあって、既に手伝ってくれる仲間はいた。 連携は上手くいくまで時間はかかったし、技術を磨くのも大変な労力を費やしたが、そういう意味では恵まれていたといえるだろう。 ウインディを見送ってから、しばらくすると再び目の前に歩いてくる影が見えた。 近づいて来るにつれ、その姿が明らかになっていく。 俺はその影に目を見張った。 だが、どうも見覚えのない姿だった。 大きさは俺の身体の半分にも満たない。 頭上と小さい手足、それに尻尾は黒く、あとは主に黄色い皮膚で構成されている。 ぱっちりしたような大きい目に、頭の両脇でゆらゆらする、ひだが特徴的だった。 「いしやさんとやらは……ここでいいのかのう」 「そうだが……あんたは? ここいらじゃ見かけないポケモンだが?」 見知らぬポケモンに声を掛けられた俺は、若干の警戒をしつつも疑問を口にした。 「いしやさんとやらは……ここでいいのかのう」 「そうだが……あんたは? ここいらじゃ見かけないポケモンだが?」 見知らぬポケモンに声を掛けられた俺は、若干の警戒をしつつも疑問を口にした。 声を聞く限りは、俺より年齢を重ねており、年長者のような貫禄を感じられる。 「そうか、この付近のポケモンはわしのことを知らんか。わしはエレキテルというポケモンじゃ」 エレキテル――そういえば、そんなポケモンがいることはどこかで聞いた覚えがある。 「そうか、この付近のポケモンはわしのことを知らんか。わしはエレキテルというポケモンじゃ」 エレキテル――そういえば、そんなポケモンがいることはどこかで聞いた覚えがある。 でも、待てよ。エレキテルは確か、俺たちの住んでいる森林地帯ではなく、砂漠地帯を中心に生息しているって聞いたのだが…… 「エレキテルのわしがここにいて、おかしいって顔をしているな?」 そんな風に考えていると、目の前のエレキテルは俺の疑問を読み取ったらしい。 「エレキテルのわしがここにいて、おかしいって顔をしているな?」 そんな風に考えていると、目の前のエレキテルは俺の疑問を読み取ったらしい。 一瞬にして考えを読み取るこのエレキテル、どうやらただ者ではなさそうだ。 「まあ、そう思うのも自然の道理じゃのう……わしは進化したくて、ここを訪れたんじゃ!」 「まあ、そう思うのも自然の道理じゃのう……わしは進化したくて、ここを訪れたんじゃ!」 どうやらこのエレキテルは、以前は砂漠地帯で暮らしており、特に恋をすることもなく、大きな夢を描くわけでもなく――1匹でずっと、代わり映えのしない日常を送っていたらしい。 だが、歳を重ねて、何もしてこなかった自分が嫌になってきたらしく、今回死ぬまでに、進化してみたいと思うようになったという。 その話を聞き、俺は素直に感心した。 高齢になって、自分と向き合って新しいことに挑戦するなど、なかなかできることではないからだ。 「じいちゃん、すげえな。でも、どうしてここまで来たんだい?」 わざわざここまで来なくとも、砂漠地帯の“いしや”を使えばいいのに。 「実は砂漠地帯の“いしや”は、数年前になくなってしまってのぉ……だから、ここまで歩いてきたんじゃ」 なるほど、そういう事情か…… 「じいちゃん、すげえな。でも、どうしてここまで来たんだい?」 わざわざここまで来なくとも、砂漠地帯の“いしや”を使えばいいのに。 「実は砂漠地帯の“いしや”は、数年前になくなってしまってのぉ……だから、ここまで歩いてきたんじゃ」 なるほど、そういう事情か…… 確かに“いしや”はとても高度な技術、そして協力する仲間が必要となる。技術を身に付けるには、かなりの年月を要するだろうし、都合よく気の合う仲間が見つかるとも限らないのだ。 また、基本的に暇な時間などは存在せず、睡眠すら満足して取ることができない。 そんな過酷な条件であるにも関わらず、依頼主から受け取る報酬は“きのみ”数個程度なのだ。とても割には合わない仕事なのである。 そんなこともあり、“いしや”は現在減少傾向にあるらしい。 実際俺も、睡眠時間は3時間も取れれば良い方だし、しょっちゅう危険な目にあっているし…… まあ、“いしや”がなくなっちゃうのも仕方ないのかな……とは思う。 「きのみはこれしかないんじゃが……どうか、“たいようのいし”を作ってくれんか? 頼む!」 そういって、年長者のエレキテルは両手に1個ずつ持っていた“オレンのみ”を差し出し、目に雫を纏わせながら哀願してきた。 「きのみはこれしかないんじゃが……どうか、“たいようのいし”を作ってくれんか? 頼む!」 そういって、年長者のエレキテルは両手に1個ずつ持っていた“オレンのみ”を差し出し、目に雫を纏わせながら哀願してきた。 本来だったら、作るのが難しい“たいようのいし”の依頼は、もっと大きな報酬を要求しても構わないのだが…… 「じいちゃん泣くなよ……安心しな、俺が作ってやるから!」 俺は迷うことなく、この依頼を引き受けることにした。 「じいちゃん泣くなよ……安心しな、俺が作ってやるから!」 俺は迷うことなく、この依頼を引き受けることにした。 俺の生活的には、もっときのみが欲しかったのも事実だが…… こんなに頑張って生きているじいちゃんを見捨てることはできないし、俺の作った石が助けになるのなら嬉しいってもんだ。 「本当かい?」 「ああ、ちょっと時間はかかるけど、それまで待っててくれるかい?」 「もちろんじゃ! わしもそれまで頑張って生きるぞ!」 「そういや、ここいらの森林地帯で生活はできるのか?」 「大丈夫じゃ。この森林でも御天道様は届くから、発電して生活ができるからの」 そういえば、エレキテルは頭の両脇の、ひだを使うことで充電され、きのみがなくても生活ができるんだっけ。 「本当かい?」 「ああ、ちょっと時間はかかるけど、それまで待っててくれるかい?」 「もちろんじゃ! わしもそれまで頑張って生きるぞ!」 「そういや、ここいらの森林地帯で生活はできるのか?」 「大丈夫じゃ。この森林でも御天道様は届くから、発電して生活ができるからの」 そういえば、エレキテルは頭の両脇の、ひだを使うことで充電され、きのみがなくても生活ができるんだっけ。 それなら、おそらく問題ないだろう。 「それなら安心だ。なるべく早く作るようにするから、しばらくはこの辺で生活しな」 俺はしばらくの間、森林地帯の生活や注意点をエレキテルに説明した。 「それなら安心だ。なるべく早く作るようにするから、しばらくはこの辺で生活しな」 俺はしばらくの間、森林地帯の生活や注意点をエレキテルに説明した。 エレキテルはとても無邪気な、まるで幼い子供のような笑顔で話を聞いていた。 空は暖かな夕暮れに染まり、太陽は沈み始めていた。 これで依頼の仕事は一段落だ。 俺は店を閉め始めた。 太陽が沈んでから、少しの間だけ俺は眠ることができる。 だがその安らぎの時間も微々たるものだ。3時間ほど寝たら、俺はすぐに原石を探すための下準備をはじめなければならない。 少しでも安らぎの時間を長くしたい――本能的に俺はテキパキと、素早く店の片付けを行っていた。 「ねぇー。ヴィレのおじちゃんー!」 しかし、その無邪気そうな声に、俺の行動は中断を余儀なくされる。 「ねぇー。ヴィレのおじちゃんー!」 しかし、その無邪気そうな声に、俺の行動は中断を余儀なくされる。 声の元に振り返ると、そこには誰もいない――いや、足元を覗き込むと、とあるポケモンの姿があった。 体全体は茶色の、豊かな体毛で覆われている。 首下には、さらに壮大な体毛が重なり合い、もふもふと気持ちよく感触を味わうこともできる。 そして、煌めき、愛おしい瞳を覗きこむと、無限の可能性を感じることができる。 そんなポケモン――イーブイはさらに話を続けてきた。 「いし作ってよー! おねがいー!」 「おいおい、おちびちゃん。今日はもう店じまいだよ」 「おちびちゃんじゃないもん!」 そういう風に反論している時点で、こいつはチビだな。間違いない。 「いし作ってよー! おねがいー!」 「おいおい、おちびちゃん。今日はもう店じまいだよ」 「おちびちゃんじゃないもん!」 そういう風に反論している時点で、こいつはチビだな。間違いない。 俺は確信し、言葉を続けた。 「まあ、どちらにせよ今日はもうおしまい! また明日、出直して――」 俺が話している最中に、イーブイは首下の体毛から、とあるきのみを取り出した。 「まあ、どちらにせよ今日はもうおしまい! また明日、出直して――」 俺が話している最中に、イーブイは首下の体毛から、とあるきのみを取り出した。 そして、それを俺に見せつけてきた。 「これは……“シュカのみ”!?」 俺は無意識のうちに、その言葉を口ずさんでいた。 「これは……“シュカのみ”!?」 俺は無意識のうちに、その言葉を口ずさんでいた。 “甘みたっぷりの果肉の中に、固くて香ばしい風味がかすかに感じられる” そんな“シュカのみ”は、俺がもっとも好きなきのみなのである。 だが、このきのみは非常に貴重であり、数十年この仕事を続けている俺でも食べたのはわずか1回きりであった。 そんな憧れたきのみが今、俺の目の前にあるのだ。 ああ――食べたい。食べたい。食べたい。食べたい。食べたい! 「おじちゃん、口からよだれ出てるよー!」 その言葉で、俺ははっと意識を取り戻した。 「これは……よだれじゃねぇよ!」 外面は必死に取り繕うと必死に反論したが、チビのイーブイにこんな姿をさらけ出してしまった俺は、今にも“だいばくはつ”しそうなほどの恥を身体全体に感じていた。 「おじちゃん、口からよだれ出てるよー!」 その言葉で、俺ははっと意識を取り戻した。 「これは……よだれじゃねぇよ!」 外面は必死に取り繕うと必死に反論したが、チビのイーブイにこんな姿をさらけ出してしまった俺は、今にも“だいばくはつ”しそうなほどの恥を身体全体に感じていた。 ああ、穴があったら入りたい…… 「このきのみをくれるんだったら、仕方ねぇ。特別に仕事を引き受けてやろう」 「やったぁ!」 俺はイーブイから、“シュカのみ”を受け取った。 チビの思惑通りの展開。これでいいのか……俺。 「このきのみをくれるんだったら、仕方ねぇ。特別に仕事を引き受けてやろう」 「やったぁ!」 俺はイーブイから、“シュカのみ”を受け取った。 チビの思惑通りの展開。これでいいのか……俺。 そんな考えも頭によぎったが、“シュカのみ”の誘惑には勝てず、俺は結局仕事を引き受けることにした。 「で、どのいしが欲しいんだ? イーブイなら色々な進化があるだろ?」 これまでにも様々なイーブイが俺の元を訪ねてきた。 「で、どのいしが欲しいんだ? イーブイなら色々な進化があるだろ?」 これまでにも様々なイーブイが俺の元を訪ねてきた。 あるイーブイは“ポケモン消防団に入りたい”と言って、“みずのいし”を依頼し、シャワーズになった。 また、“寒いのがどうしても苦手で、克服したい”と言って、“ほのおのいし”を頼んだイーブイもおり、こちらも無事にブースターになった。 さて、このチビはどの石を選ぶのか。 興味深くイーブイを見ていると、思わぬ言葉が返ってきた。 「ううん、何でもいいよー! おじちゃんの好きないしでー!」 その言葉に、俺は呆気に取られてしまった。 「ううん、何でもいいよー! おじちゃんの好きないしでー!」 その言葉に、俺は呆気に取られてしまった。 何でもいい? どういうことだ……? 「うん? どういうことだ、おちびちゃん?」 「ぼくはただ、友達に進化を自慢したいだけだからね! 進化先はなんでもいいんだ!」 その理由を聞き、俺はわなわなと身体を震わせた。 「うん? どういうことだ、おちびちゃん?」 「ぼくはただ、友達に進化を自慢したいだけだからね! 進化先はなんでもいいんだ!」 その理由を聞き、俺はわなわなと身体を震わせた。 そして、一つの決断をした。 「そんな理由じゃ、仕事は受けれねぇ……このシュカのみは返す」 「えー! どうしてー! 別にぼくの進化なんておじちゃんには関係ないじゃん――」 「いい加減にしろ! 大いに関係あるわ!!」 思わず俺は、チビに向かって怒声をあげてしまった。 「そんな理由じゃ、仕事は受けれねぇ……このシュカのみは返す」 「えー! どうしてー! 別にぼくの進化なんておじちゃんには関係ないじゃん――」 「いい加減にしろ! 大いに関係あるわ!!」 思わず俺は、チビに向かって怒声をあげてしまった。 終始お気楽口調で話していたイーブイも、さすがに驚いたのか、ビクッと身体全体を震わせた。 「……頼むから、そんないい加減な気持ちで進化しないでくれ。進化は……俺の作る石はそんな軽いものじゃないんだ」 俺の視界は、いつの間にか潤んでいた。 「……頼むから、そんないい加減な気持ちで進化しないでくれ。進化は……俺の作る石はそんな軽いものじゃないんだ」 俺の視界は、いつの間にか潤んでいた。 おそらく、“いしや”として働き始めたばかりに起こった、あの出来事を思い出してしまったからだろう。 「おじちゃん……?」 イーブイは、いきなり涙を見せた俺に戸惑いながら、寄り添ってくれた。 「おじちゃん……?」 イーブイは、いきなり涙を見せた俺に戸惑いながら、寄り添ってくれた。 俺はそんなイーブイに、その、後悔してもしきれない出来事を話し始めた…… あの時の俺は親父からようやく一人前の“いしや”と認められ、自分の店を持つことができて、とても嬉しかったのだろう。 最初は、石を作ることやきのみをもらえることが嬉しくて、とにかく仕事の量をこなせば良いと考えていた。 だから、依頼主の事情を詳しく聞くこともなく、きのみも数多く要求してきた。 その時の俺は、それでも満足だったし、依頼主も喜んでくれていた。だから、これで良いのだろうと考えていた。 でもそれは、その時だけが上手くいっただけだったんだ。 俺は“石の責任”“進化の責任”を考えることは全くなかったんだ…… いつものように、仕事をこなしていたある日。 俺の元に、1匹の依頼主が来た。そのポケモンは目が凛々しく、とても可愛らしいニョロゾの雌だった。 俺はそんな彼女に一目惚れして、また彼女も俺のことを気に入ってくれたらしく、色々なお話をした。 “おたまポケモン”である彼女は、“かえるポケモン”であるニョロトノになることが夢だと言っていた…… そして俺に“みずのいし”を頼んできたんだ…… ……今の俺ならわかる、“みずのいし”を使っては取り返しのつかないことになることくらい。 だけど、あの時の俺は……その知識もなかったし、詳しく調べようとも思わなかった。 ただ、一目惚れしたあの子と仲良くなりたくて、その日のうちに“みずのいし”を作り上げ、彼女に渡したんだ…… そして、その場で彼女は“みずのいし”を使い……ニョロゾからニョロボンになってしまった…… 彼女は何がどうなったか分からず……ただ、瞳に大きな雫を垂らしながら……俺の元から逃げていった…… 俺はその場では何が起きたか分からなかった…… しばらくして、俺は取り返しのつかないことをしてしまったと気がついた…… 1匹のポケモンの、希望にあふれた生活や夢をぶち壊してしまった……と 気がつくと、俺が流していた雫が拭き取られていた。 ふと見ると、チビ……イーブイが俺の涙を手で拭き取ってくれたらしい。 「おじちゃん……ごめんなさい。石を作ること、進化をすることって楽しいことだけじゃない……責任が伴うものなんだね」 そう言って、小さい頭を目一杯下げてくるイーブイ。 「いや分かればいいんだよ、俺も怒鳴ったりして悪かったな……」 目の雫を拭い取り、俺はイーブイの頭を優しく撫でた。 「おじちゃん……ごめんなさい。石を作ること、進化をすることって楽しいことだけじゃない……責任が伴うものなんだね」 そう言って、小さい頭を目一杯下げてくるイーブイ。 「いや分かればいいんだよ、俺も怒鳴ったりして悪かったな……」 目の雫を拭い取り、俺はイーブイの頭を優しく撫でた。 このチビはちゃんと理解して、俺の涙を拭き取ってくれた…… 本当はとっても良い奴なんだな…… おれは感謝の気持ちで心が一杯になった。 「ちゃんと進化というものを考えて、またおじちゃんのとこにくるよ! もしかしたら石進化じゃないかもしれないけど……その時も会いに行くからね! シュカのみを持って!」 無邪気に俺に笑いかけてくれるイーブイ。 「ちゃんと進化というものを考えて、またおじちゃんのとこにくるよ! もしかしたら石進化じゃないかもしれないけど……その時も会いに行くからね! シュカのみを持って!」 無邪気に俺に笑いかけてくれるイーブイ。 俺はそんなイーブイの優しさが、本当に嬉しかった。 そして、俺は両手でイーブイを持ち上げ、抱き抱えてしばらく身体を震わせていた。 イーブイも帰路につき、しばらくして落ち着いた俺はふと空を見上げた。 空は既に闇に覆われてから、数時間が経っていた。 これはもう、寝れそうにねぇな…… 俺は思わず、苦笑する。 ……だが、すぐに身体を引き締め、原石を集めるための下準備を始めた。 ――石は数多くあるものだ。だがそれぞれの石には、込められている意思がある―― ――石で不幸にさせることは絶対しない―― ――そして石で、1つでも多くの幸せを広げたい―― ――それが、”いしや”なんだ―― ――End―― ---- ノベルチェッカー 【原稿用紙(20×20行)】 32.7(枚) 【総文字数】 9149(字) 【行数】 339(行) 【台詞:地の文】 19:80(%)|1777:7372(字) 【漢字:かな:カナ:他】 30:57:5:6(%)|2802:5298:483:566(字) ---- ○あとがき 大会お疲れ様でした。からとりです。 実はこの作品がはじめての投稿……ではなく、過去に[[あれ>からげんきっ!]]や[[これ>勝利のラン]]を大会に出していました。 前回投稿以降、諸事情でwikiにアクセスすることすらままならず、実に1年半ぶりの執筆・投稿になってしまいました…… 今回もあまり執筆に時間が割けませんでしたが、それでも久しぶりに小説を書くことができ、とても楽しかったです! 誤字脱字などが目立ってしまったにも関わらず、3票いただき3位ということでとても驚き、嬉しい気持ちで一杯です。 まだまだ未熟ですが、より良い作品を執筆できるように頑張りたいと思います。 ○作品について 「石」というテーマから、最初はカロス地方関連のストーリーを思いましたが、まだXYのポケモンを完全に把握できていない状態でしたので、却下。 そこで、”石”と”意思”を掛け合わせたストーリーを思いつきました。 そこから発想を膨らませた結果、ポケモンの世界で”いしや”の1日を描こうということに。 お客さんにも様々なキャラクターを登場させ、それぞれの石(進化)への意思を表現しようと考えて、こんな作品になりました。 まだまだ文章表現や比喩などが乏しく、魅力的に表現することができなかったこと。 後半が急展開すぎたことなどが今回の反省点だと感じています。 ○コメント返信 >いしやの石に対する熱意が伝わってきました。(2014/01/13(月)10:09さん) 職人の想いや熱意っていいものですよね! そういった部分からヴィレというキャラクターが生まれたので、その部分を評価していただいてとても嬉しいです。 >石進化は石さえ手に入れば簡単に進化出来る。でも二度とやり直しは効かないし、一生そのまま。 だからこそ、強い意思を持って進路を決めて欲しい。ヴィレのいしやに掛ける信念を感じました。(2014/01/15(水)00:34さん) 進化はするけど、退化はすることは絶対にできない…… 石には進化が付き物ということで、こちらもテーマとして盛り込みました。 日常にいるポケモン1匹1匹、様々な想いや理由があって石を使って進化をしていると思います。 その中には、後悔しているポケモンもいるのでは……と感じ、そういった現場を見てきた”いしや”にはそれ相当の信念があると思います。 そういった考えで執筆していたので、そこを感じて共感していただけたのであれば幸いです。 投票、コメント、閲覧していただいた方々、そして大会主催者様。 本当にありがとうございました。 そして参加した皆さん、お疲れ様でした! ---- 感想、意見、アドバイスなどがあればお気軽にお願いします。 #pcomment(いしのいしコメントログ,10)