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【14】マスクド・ピカチュウのデスマッチ の変更点


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RIGHT:[[たつおか>たつおか]]





LEFT: この作品には以下の要素が含まれます。



LEFT:''【登場ポケモン】''  
CENTER:ピカチュウ(♀)
LEFT:''【ジャンル】''    
CENTER:グロ・リョナ・ポケ殺
LEFT:''【カップリング】''  
CENTER:各種ポケモン(♂) × ピカチュウ(♀)
LEFT:''【話のノリ】''    
CENTER:重い・残虐表現



CENTER:&color(red){''&size(22){※注意!};''};
この作品にはポケモンに対する、
流血を伴った暴力や凌辱、レイプ、肉体の欠損、虐殺行為
流血を伴った暴力や凌辱、レイプ、
肉体の欠損、虐殺行為
等の残虐的な描写が含まれます。

LEFT:





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#contents




*第1話・違法試合 [#w1cfdf8d]


 P・レスリング──ポケモン同士のプロレスリングによるこの興行は、全世界にファンや愛好家達を持つ人気エンターテイメントだ。
 故にそれらレスラーを抱える団体は星の数ほどあり、世界中にその名を轟かせる団体もあれば、ファンの間ですら一部の人間しか知らないようなものまで多種多様である。

 そしてそのピカチュウの所属した団体『ザ・ハイリスク』もまた、そんな数ある団体の中に埋もれた最底辺の一団であった。

 所属レスラーはピカチュウを筆頭に7匹ではあるが、そのうちの1匹・ハリマロンは先日来の試合において負傷し故障者入りを余儀なくされている。
 さらに残された5匹も3匹がまだ試合には出られないような練習生であり、更に2匹は団体の成立を維持する為、名目上のみのレスラー登録がされた者達であったことから、今現在この団体で試合ができる者はハリマロンとピカチュウのみに限られた。

 すなわちそれは稼ぎ頭が2匹しかいないという意味でもあり、そんな団体は常に資金難による貧困と倒産の瀬戸際にあった。
 拠点である道場を構えているとはいえ、それは高架下にほぼ無許可でバラックを建てただけという一般住宅よりも粗末なもので、事実そこで寝起きをして訓練をするポケモン達とトレーナーの生活は、ホームレスと大差のないものですらあった。
  
 当然のことながら満足に食べるにも事欠く生活の中において……その時の事態はさらに深刻の度合いを増していた。

 こともあろうか、負傷して床に伏していたハリマロンの容態が悪化した。
 先日の試合において、トップコーナーからのニードロップを受けたハリマロンは胃を損傷していたのだ。
 負傷の場所が胃であるだけに満足に食事をとることもできなければ、自然治癒させるにも重症に過ぎるその傷にハリマロンは日に日に衰弱していった。
 そんな彼を医者にかけようにも、知っての通り先立つものがこの団体には無い。なにせ日の食事にも欠くような有り様であるのだから。

 一プロレス団体であると同時にこの場所は、ポケモン達にとって孤児院のような役割もまた果たしてきた場所である。
 その中においてハリマロンの惨状は、他のポケモン達にとっては血を分けた兄弟が死に逝かんとしている状況と同じであるといえた。

 もはや意識すら保てず日々苦しみに唸り続けるばかりのその傍らで、ただ絶望の涙に暮れるピカチュウに対し──彼女達のトレーナーでもあり、そしてこの団体の代表も務めるユンストはある提案をピカチュウにする。

「非合法ではあるが……臨時収入の得られる試合がひとつだけある」

 ユンストの言葉にピカチュウは一も二もなく、その試合のマッチングを願い出る。
 しかし……

「完全非合法の賭け試合だ……何でも有りに加えて体重制限も無い」

 そもそもが「興行」の言葉からも分かる通り、P・レスリングとはエンターテイメントショーの一環である。
 ゆえに表舞台では『何でも有り』を唱いつつも、そこには暗黙の了解として同重量同士の選手がカードとして組まれたり、あるいは体格差のある対戦では一対多とするなどの調整が行われるものである。

 しかしながら今ピカチュウが望もうとしているそれは、そんなルールの縛りと保証とが外された完全デスマッチに等しかった。
 とはいえピカチュウの決意を確定せしめた理由にはもうひとつ……通常の試合ではあり得ない破格のファイトマネーにもあった。

 その額たるや、実にこの一試合でピカチュウの一年分に匹敵するかという額だ。さらにあわよくも勝とうものなら、そこへさらに賞金までもが上乗せされる。
 プロレス業になど従事している以上、危険は覚悟の上である。
 ピカチュウは改めて試合のマッチングをユンストへと頼み込み──かくして地下デスマッチへのピカチュウの参戦が決定した。


 ピカチュウの参加表明を受理するや、わずか翌日には彼女の試合がマッチングされた。
 当日某所の地下リングへと降りたピカチュウに対し、そこの控え室においてユンストはあるものを手渡す。それこそは、一着のコスチュームであった。
 黒を基調にオレンジのアクセントでまとめられたそれは、覆面とセットになった全身タイツ型の物である。

 覆面の額部には電気を連想させるイナズマ線が白くくりぬかれており、さらにはメスであるところのピカチュウを象徴するかのよう、その端がハートに象られていた。

 そんなコスチュームにピカチュウは一目で魅了されては嬉々として袖を通す。
 ユンストの思惑としては正体を隠す意味合いと、さらには皮膚表面の擦過を軽減できればという点からの配慮ではあったのだろうが、一レスラーとしてのピカチュウにとって斯様なリングコスチュームは純粋に嬉しい贈り物であった。

 いざそれに身を包んでは控室にある姿見の前に立つ。
 伸縮に富んだナイロン繊維によるコスチュームは、締めつけるようピカチュウの身に張り付いては、今まで毛並みで曖昧になっていた彼女のボディラインをくっきりと浮かび上がらせた。

 隆起した胸元と僅かにくびれを浮き上がらせた腰元のラインは、ピカチュウとはいえどこか艶めかしくも映る。
 一方でピカチュウもまた一体感に富んだ着心地と、さらにはその色合いを気に入っては何度も姿見の前で回っては腰元のシッポや、はたまた身をひねっては背後から振り返る自分を確認して悦に入るのだった。

 思えば……この瞬間こそが、ピカチュウのレスラー人生において絶頂の瞬間であったのかもしれない。

 やがては控室に開始10分前のアナウンスが響くと改めてピカチュウは試合への決意を新たにする。
 この一試合を乗り越えればハリマロンの治療費を捻出できる……それだけではない、ジムの妹弟達にも満足な食事を提供してやれるのだ。

「よし……時間だ。行くぞピカチュウ!」

 ユンストの声に我へ返るとピカチュウも太く短く吼えては気合を入れる。
 薄暗い花道を辿り、ライトアップ眩いリングへとピカチュウは進んでいく。
 しかしながら──


 その先に待ち受けるものがリングなどではない、凌辱と残虐の供物台であることを……この時のピカチュウはまだ知る由も無かった。




*第2話・ピカ虐  (1) [#bd168d74]


 会場入りするピカチュウを迎え入れたのは──予想外の大歓声であった。

 その歓迎ぶりに当人であるところのピカチュウもが困惑してしまう。
 地下の賭けプロレスなどと謂うからさぞアングラで、なおかつ部外者の自分などはブーイングのひとつでも貰うものだと思い込んでいただけに、この存外に熱狂的な受け入れには面食らわずにはいられなかった。
 
 同時に自分の中のレスラー魂が刺激されるのを感じた。
 ここまでの数の観客に注目されるなど、表世界のリングですらも受けたことが無い。
 いつもピカチュウがショーをするそれなど場末の、しかも観客など微塵もいないような場所で孤独に戦うのだから。

 思わぬ歓声に刺激されてはピカチュウの中の闘志も一気に燃え上がる。
 セコンドであるユンストを追い抜いて花道を駆け抜けると、一躍トップコーナーまで飛び上がりその上にてピカチュウは高々と右腕を掲げた。

 そんなアピールにさらに会場は熱せられていく。
 この時のピカチュウは生涯初となる、自分が観客を魅了しては場を操る快感に酔いしれていた。
 これこそは自分の憧れていたスター選手の姿だ。
 図らずも、こんな場所においてその夢が叶ったことに、もはや非合法の危険な地下試合に身を投じていることなど忘れてピカチュウは今のリングを楽しんでいた。

 そんな折り──ふと自分へと注がれる視線に気付く。
 大衆から浴びせられるものではなくそれは、さながらに錐の如くに突き刺すような鋭くも冷たい気配──それに気付いてリング上を見下ろすピカチュウは、いつの間にやら対面の青コーナーに立ち尽くしているポケモンの存在に気付いた。
 
 そこにはキテルグマが一匹──居た。

 ピカチュウとは対照的に微動だにせず、円らな目でただ対戦相手であるピカチュウ一点を見据えてくる様子は、そのぬいぐるみ然とした見た目と相成って一切の感情が読めない不気味さがあった。

 そんなキテルグマの視線にようやくピカチュウは我に返る。
 このポケモンこそが本日の対戦相手であり、そして同時に得も言えぬ不気味さを感じては高揚していた気分も冷水を浴びせられたかのよう沈静してくのが分かった。

 かくして場内アナウンスも無いまま、ピカチュウがトップロープから降りると試合開始のゴングが打ち鳴らされる。
 
 開始直後、まずは四つん這いに姿勢を低くしてはピカチュウも相手の出方を窺う。
 どの攻撃にも対応できるようにする為の構えではあったがしかし……キテルグマに動きらしい動きは無かった。
 ゴング後、散歩よろしくに無防備にリングの中央へと歩み出て以来、キテルグマは微動だにしていない。

 ならばこちらから仕掛けるべく、ピカチュウはスピードにて翻弄しようとキテルグマの周囲を駆け巡る。
 それでもしかし何の変化も無ければピカチュウを追うべくに首一つ動かさないキテルグマに、ピカチュウの思考は「自分のスピードに追い付けないのだ」という希望的観測に偏っていった。

 思えばここへ会場入りした時の歓声からしてもう、ピカチュウは元来の慎重さを見失っていた。
 すっかり舞い上がってしまっては自身が絶対無敵のチャンピオンにでもなった気分でいたのだ。
 
 そして今もそんな気持ちのまま身勝手に状況を解釈しては、不用意にキテルグマの正面からドロップキックによる強襲などを仕掛けてしまった。

 これこそが間違いであった。

 揃えられた両爪先がキテルグマへ届くよりも遥か手前で──ピカチュウは撃墜される。
 突如として閃いたキテルグマの右掌が、蠅でも叩き落すかのよう振り落されては無惨に宙空のピカチュウを打ち据えたのであった。

 斯様にして撃墜され、さらには掌を被せたままリングへと叩き潰されるその衝撃にピカチュウは大きくひとつ咳き込む。
 そして次に呼吸を吸い込んだ瞬間──有りと在らゆる痛みがピカチュウの肉体を駆け巡った。

 巨大な掌に打ち据えられ圧し潰される全身の骨の軋み、肺が潰されることで感じる痛みを伴った呼吸障害、眼球が飛びださんばかりに後頭部に広がる頭痛……その瞬間、ピカチュウはそれら痛みと衝撃によるショックで完全に肉体のコントロールを失った。

 無数の羽虫が全身を這いあがってくるような痺れの中で全ての感覚が失調するピカチュウには、豪雨のよう会場に満ちていた観客達の声援すら消えていた。
 それなのに意識だけは妙にハッキリとしていて、次なるキテルグマの攻撃に備えなければと気持ちだけが急いた。

 しかし無情にも体は芋虫よろしくにもがくことしか出来ず、依然として肉体を包み込む激痛と苦しみの中──見上げる視線の先では再びキテルグマが右腕を高々と掲げていた。

 アレが振り落とされれば致命傷は避けられない!
 せめて両腕によるガードをと身を蠢かせるも、それすらもままならずにピカチュウは……無惨にも振り落とされる二撃目の直撃を顔面から受けてしまっていた。

 口の中でカリカリと不快な音と感触が転がった。どうやら歯が折れたようだ。……否、この衝撃と重さから察するに、『砕かれ』たといった方が正確か。
 それがトドメとなり、ピカチュウは完全にリングへ沈んだ。
 言わずもがなのノックアウトである。

 どんなに持ち上げられ気分を高揚させたところで、ピカチュウ本人の実力は変わらない。
 表世界においても場末の興行の前座ですら満足に勤められなかった弱小レスラーの現実を改めて思い知っては、ピカチュウは一連の自分の行動を恥じては消えてしまいたい気分になっていた。

 しかしながら──そうして敗北の感傷に浸れるのは表世界だけの話である。
 ピカチュウがいま身を置くこの場所は、対戦者のノックアウトで試合を終わらせてくれるような場所ではなかった。

 もはやすっかり戦意を喪失しているピカチュウの右腕を摘まみ上げると、まるで雑巾でも掲げるかのようキテルグマは眼前にそれを吊り下げた。
 夥しい量の鼻血と、そして口中からの出血でコスチュームの胸元を赤く染め上げたピカチュウを前に、キテルグマは小首をかしげては何か考え込むようなそぶりを見せる。

 その一切の感情がこもっていない視線にピカチュウは改めて恐怖を覚える。
 意図の知れない感情はけっしてピカチュウを介抱しようという優し気なものではない。
 それこそはむしろ逆で……これよりどう彼女を嬲ろうかの思索にふける表情であった。

 いかに苦しい生活の中で世間から虐げられてきたとはいえ、肉体的な拷問それへの経験など無いピカチュウは、ただその恐怖から逃れようと身をよじらせた。
 相変わらずの凄惨な状況ではあるが、幾ばくか休めたことで大分肉体の自由も取り戻しつつある。

 万力の如き力で自分の右手を握り締めているキテルグマの拳を解こうとそこへよじ登り、弱々しく牙を立てるもしかし──むしろピカチュウが歯茎に激痛を感じて悲鳴を上げた。
 口中はピカチュウが捉えていた以上に悲惨な状態であるらしかった。

 それでもしかしその手から逃れようともがいていると、不意にもう片方となるピカチュウの左手をキテルグマは掴み取った。
 両腕を水平にされ、さながら十字架へ貼り付けられたかのような姿勢にされては、しばし目の前のキテルグマのと視線を交わす。

 そうして円らな瞳を宿したその顔が、伺うかのようかしげられた次の瞬間──突如として両腕は左右へと引かれ、ピカチュウは体内から鳴り響く繊維の引きちぎれる音を聴いた。

 その衝撃も始め、痛みとしては伝わらない。
 しかし左右へと目を配らせ、そこに不自然なほどに長く伸びた自身の両腕を確認し、改めてキテルグマが左右から力の限りに自分の両腕を引き伸ばしたのだと理解した時──初めてピカチュウは、その身を裂かれた痛みに絶叫した。

 リングに響き渡る絹を裂くようなその絶叫を前に、変わらず無表情のキテルグマはしかし、どこか恍惚とそれに耳を傾けているかのようにも思えた。

 やがては宙吊りから足元へと落とされると、両腕が利かないことからもピカチュウは顔面からマットへと叩きつけられる。
 脱臼もやむなく、両腕の支えを失ったピカチュウは上体を起こすことすら叶わずに鼻先を地へ擦り付けたまま──芋虫のよう尻を上げては身を伸ばすなどしてマット上を逃げるその姿に、会場からは大爆笑の渦がうねり上がる。

 歯が砕かれるほどに顔面を潰され、脱臼し両肩の筋や腱を切断されて地に這いつくばる自分は、もはやポケモンなどではない憐れな虫のように思えた。
 そして幼子がするかのよう、さしたる理由も無しに弄ばれる虫の末路を思い描いた時、どんなに惨めであろうともピカチュウの本能はこの場からの逃避を選択せずにはいられなかったのだ。

 この遊びの最後に待ち受けているものは、残虐無惨な死以外のなにものでもないのだから。

 そんなピカチュウの生殺与奪の権利を持つキテルグマは、曲げた膝を掲げては悠々と右足を持ち上げると……のたうつピカチュウの背へと狙いを定める。
 そして無慈悲にも打ち下ろしたキテルグマの右足は、己の全体重と膂力を込めてピカチュウを踏みしめた。

 その衝撃と圧に瞬間、頭を振り上げたピカチュウの顔がライトに晒される。
 驚いたような表情にもしかし見る間にその目頭はどす黒くうっ血しては、閉じた口元の電気袋を限界まで膨らませた。
 完全に肉体はその制御を失い、電気袋から意図せぬ放電が漏れた次の瞬間──ピカチュウは口中に混み上がって来ていた吐瀉物と血反吐とを、背を踏みしめられる圧に任せては吐き散らかした。

 同時に肛門や尿道にもすさまじい勢いで排泄物が流動する摩擦が身を震わせる。
 小さなピカチュウの体からは信じられぬ大量のそれらを、頭と尻の双方から放射状にマットへと広げ……もはやピカチュウは微動だにもしなくなった。

 機能を停止した消化器から逆流した糞汁の匂いが鼻腔に満ち、そんなか細い呼吸までもがうつ伏せた体の下に溜まる自身の排泄物によってふさがれる。


 斯様にして己の排泄物の海の中で溺れながら、遠くピカチュウは打ち鳴らされるゴングの残響を聞いたような気がした。




*第3話・ピカ虐  ( 2 ) - 公衆面前レイプ [#m4e71ac3]


 あの凄惨を極めたキテルグマ戦の5日後──ピカチュウは再び、マスクド・コスチュームで地下リングに立っていた。

 前回の試合はピカチュウが踏みつけられた時点で時間いっぱいとなり、結果は言うまでもなく彼女の敗北で幕を閉じた。
 左右両腕の肩腱板断裂と脱臼、顔面に至っては鼻骨骨折と上下左右の前歯が第一から第四歯まで破折という惨憺たる結果となった。
 試合の二日後に目が覚めた時も、全身を巡るその激痛によって覚醒したほどだ。

 この地下プロレスの専用医療室で目を覚ましたピカチュウもしかし医療行為自体のレベルは高く、傷の深さに比例して、翌日には自身の手で食事がとれるほどの回復を見せた。
 それでもしかし問題であったのは、肉体よりもピカチュウのメンタルにこそあった。

 あの一戦以降、ピカチュウは眠れぬ日が続いた。
 静寂の中で目を閉じると、キテルグマとの試合の一部始終が鮮明に脳裏へ甦ってはピカチュウを恐怖させた。
 もはやこの時、ピカチュウは自分のレスラー人生がここに終わったことを悟る。……おそらくはもう、表の舞台であってもリングに上がることは叶わないだろう、と。

 しかしながら周囲の状況はそんな彼女に休むことを許さない。 

 枕元にて看病を続けてくれたユンストは、ハリマロンや道場の仲間達の様子を教えてくれた。
 まずハリマロンについては、最初のファイトマネーにより専門の病院への入院が叶ったと聞き、そのことにピカチュウは心から安堵した。 

 しかしながらその症状は予断を許さない状態にあり、以降の回復の為には早急な手術が必要という診断が為されたという。
 当然のことながら手術には別途の治療費が発生し、今後の入院やリハビリまで考えた場合その額は──この地下プロレスあと2回戦分のファイトマネーが必要ということであった。

 再度またあの地獄に身を投じなければならいことにピカチュウは震えた。
 親愛なるハリマロンの為とはいえそれでもすぐに返事をすることは能わず、それどころか再度思い返される試合の凄惨さにピカチュウは失心寸前の体で恐怖しては嘔吐をした。

 それでもしかし……最後には、道場に残された仲間達が、今回ピカチュウの稼いだファイトマネーで心行くまで暖かい食事にあやかれたことと、そして彼女に感謝と応援をしていたことを聞かされ──ピカチュウは今後の戦いへ身を投じることを決める。
 
 むしろ、あとたった二回の試合でハリマロンの治療費と仲間達への食事代が捻出できるのは幸運であると思い直した。……そう思い込むことで自分を納得させようとしたのだ。

 かくして一応の治療を終えると今日──ピカチュウは再びあのコスチュームに身を包んでは、このリングへと戻ってきた。

 リングの赤コーナーに身を寄せては試合開始を戦々恐々と待つピカチュウに、初戦の時のようなパフォーマンスを行う余裕などは無い。
 ただひたすらに深呼吸を繰り返しては恐怖に飲み込まれてしまわないように精神統一を図るばかりだ。
 もし万が一の時に身が縮こまってしまうようなことにもなれば、それこそは命を落としかねない。

 試合前に打たれた痛み止めか、はたまた精神安定剤の効果か肉体からは直前まで続いていた傷の痛みが嘘のように引いている。
 目下に手の平を見下ろして握ったり開いたりを繰り返しては体の調子を確認するピカチュウの目にはしかし、今日のファイトに臨もうという意気込みや気概の光というものは微塵も無い。

 我ながらこのコンディションは最悪だと思う。
 こうした気持ちでいる時の試合や練習は、勝つことはおろか最悪の場合にはケガにもつながることをピカチュウは知っていた。
 それが分かりつつもしかし気持ちが入ってこないのには、もはや自分が勝てないことを前提に考えている事、そしてその敗北からもたらされる痛みや凌辱に対する恐怖心が根底にあるからということまで、この時のピカチュウは現実逃避の傍らに分析していた。

 ともあれ試合時間は前回同様の45分──今日は出来る限りに相手を回避しては、どうにか時間いっぱいを逃げ切ろうとピカチュウは最低限の作戦を心に決める。
 そうして本日数度目のため息を深く湿らせたその時──会場に歓声が上がると同時、明らかなポケモンの咆哮がピカチュウの鼓膜を振動させた。

 そのあまりの大きさに青コーナーを振り返れば……そこには場外から跳躍してきたと思われるポケモンがちょうど降り立っては、声の限りの叫びを天へと吼え猛ていた。

 人型のシルエットと赤い体毛のそれ──対面に居た者は、恐ろしく巨躯のガオガエンそれであった。
 試合が始まる……またあの恐怖と痛みの記憶が脳裏に甦る。
 そうして揺れる心に覚悟も定まらないまま──ゴングは鳴らされてしまった。
 
 開幕直後、ガオガエンは咆哮しながらの突進を敢行してきた。
 我に返り、反射的に左へ避けて交わすと、空を切った体当たりはコーナーに直撃してそこをガオガエンの形に歪ませる。

 その様に血の気が引くと、むしろそれによりピカチュウは冷静さを取り戻す。
 素早く飛びすさって距離をおくピカチュウは改めてガオガエンの観察もした。

 終始吠え続けているガオガエンは目の焦点が定まっていない。
 前傾姿勢に身を屈め、座らない首を落ち着きなく左右へ傾げては正面に戻すを繰り返すその動きからは、おおよそ理性的な印象は微塵も見られない。

 その事にピカチュウは違和感を覚えた。
 ガオガエンは豪放磊落に相手をパワーで圧倒するファイトスタイルには違いないが、いま目の前にいるこれは明らかに正気を失っている。
 もはやその様たるや、ポケモンというよりは野性動物といっても良かった。
 そうしてガオガエンを観察するピカチュウは──とある一点に気付いては、その身を総毛立たせることとなる。

 見つめるガオガエンの股間一点が大きく膨らんでいることに気づいた。
 しかもそれは全体がなだらかに盛り上がる程度のものではなく、明らかにそこへ一点──棒状の陰影を屹立させている。

 腰回りの体毛とは違う体色のそれは、その先端に照り付けるライトを反射させてさえいた。
 その段にいたり、ピカチュウはその股間の一物の正体を悟る。

 それこそは勃起して屹立したぺニスが、その先端から腺液を漏らして、そこを濡れさせているに他ならなかった。

 それを確認した瞬間に身を走った悪寒は、一時ピカチュウの中から全ての恐怖を払拭してしまうほどの嫌悪を覚えさせた。
 体育会系の業種に加え、自分以外は全てがオスという環境に身を置いているピカチュウが異性の裸やペニスを目撃してしまうなどは日常茶飯事であった。
 そうであってもそれに対してこうまで嫌悪を抱くことは無かったし、むしろ同年代で気心の知れているハリマロンに対してなど、半ばセクハラまがいのイタズラを仕掛けることなどもしょっちゅうであった。

 しかしながら今ピカチュウを悪寒たらしめている理由こそは、このガオガエンに明確な『性欲』が現れているからに他ならない。
 もはやそこには本来の目的である生殖では無く、ただペニスに快感を与えたいという自己の欲望の発散のみが反映されていることこそが、何よりも雌のピカチュウを嫌悪たらしめる原因であった。

 しかしながらふと、これがハリマロンであったならば──などとピカチュウは考えてしまう。
 彼と二人きりで同じように求められる自分を想像した時、場違いにもピカチュウはその頬を緩ませてしまうのだった。

 そんな本当に瞬き程の妄想が──瞬間のピカチュウの反応を鈍らせた。
 気が付けば、目の前には一躍して飛び掛かっていたきたガオガエンの、牙をむいて口中を開け放った顔面が迫っていた。
 それでも辛うじて身をスライドさせると、寸でのところでピカチュウはその突進を回避する──……したはずであった。

 思わぬ衝撃に身を引き留められ、その反動にピカチュウは大きく首を仰け反らせる。
 感覚的には右腕を強く引かれた感触があった。
 さてはコスチュームの袖口が捕らわれてしまったかとそこへ視線を運び……ピカチュウは固まる。
 
 目の前には、ピカチュウの右手を強(こわ)く噛みしめたガオガエンの顔面があった。

 その鼻頭に幾重にも皺をよせ、吊り上げた口角が耳に触れん遭わんばかりに噛みしめた牙の狭間──ピカチュウの右手はその人差し指から小指にまで至る、拳骨の部分が丸々と挟み込まれてしまって居る。

 さらにガオガエンが咬筋に力を込めて嚙みしめると、右手に骨を噛み砕く野太い音と感触が伝わると同時、ガオガエンの歯間から鮮血が溢れるとピカチュウの脳内にも激しい痛みが爆発した。

 その痛みと、さらには利き腕を囚われてしまったことの混乱から、ただ子供のようにガオガエンの鼻先を左手で打ち叩きながら支離滅裂な罵倒を繰り返すしかないピカチュウは──この時、最悪の事態を予想してはその恐怖に飲み込まれていた。

 そしてそんなピカチュウの心中を見透かしたかのようガオガエンは一層に牙を噛みしめると、さらに激しく首を左右に振り払っては幾度となくピカチュウを眼前に振り回す。
 体格差もありなされるがままに翻弄されるピカチュウの頭には、右手から伝わる何かの引き千切れる音が暴風のように反響していた。

 そして幾度目かにガオガエンはその首を振り切った瞬間──ピカチュウはあっけなく解放されてはリング上に転がされる。
 二転三転して落ち着き、両手を突いて上体を起こそうとしたピカチュウは、そこにある己の肉体の変化を見つけては言葉を失った。

 リングに着けたその右手は──親指だけを残して残りの指が全て消え失せていた。
 荒々しく噛み破られたことで、断面の荒い傷口からは解された筋繊維とそして腱や骨といった部位が白く剥きだされてはピカチュウの視線に晒されるばかりだった。

 そして一動作を置いて激しく出血を始める己の右手を、ピカチュウは反射的に腹部へと抱き込み、それにて止血を行おうと試みる。

 己の指が……その手が失われてしまった事実に困惑してはもう、ピカチュウにはその現実の非情さに泣きじゃくるしか出来ない。
 そんな混乱しきりのピカチュウであっても、このリングの上では彼女を思い遣ってくれる者などはいないのだ。
 身を丸めて蹲るばかりのピカチュウの前に影がさし、そしてそれに彼女が顔を上げた瞬間──その顔面に凄まじい衝撃が走った。

 それを受け、半ば失心の体で仰向けに倒れ込むピカチュウの前からは、右前足を突き出した姿勢のガオガエンが現れる。
 うずくまるピカチュウの鼻先へと、渾身の前蹴りを放ったのだった。

 既に前の試合で鼻骨を骨折していたピカチュウの顔面からはその衝撃で再び夥しい量の出血が起こり、さらには右手からも溢れ続けているそれと併さっては、たちどころに彼女を地の海へと沈めた。

 もはや言葉にならぬ呻きを力なく上げ続けるばかりの、文字通り指一本動かせなくなってしまったピカチュウを……その顔面をワシ掴んではガオガエンも眼前に吊り上げる。

 巨体な掌の中、指々の隙間から辛うじて見下ろすそこには……反りも鋭く屹立したガオガエンのペニスが見えていた。
 嗚咽まじりにこれからこの獣が行おうとしている事への制止を懇願するも、もはや己の欲望を満たす瞬間を目前としたガオガエンにはどんな声も遠い。

 筒でも抱えるかのよう、ピカチュウの小さな体の脇に両手を通して握りしめると、ガオガエンは自身のペニスの切っ先へとピカチュウの股間を近づけていく。
 いよいよその瞬間が迫ったことを悟り、それでも最後の抵抗をするピカチュウであったがそんな抵抗も空しく、ガオガエンのペニスは一息に根元まで──ピカチュウの膣内へと挿入されてしまうのだった。

 その瞬間、ピカチュウは自身でも驚くほどに高い悲鳴をあげた。
 しかしながらそれは痛みに由来するものではない。
 今日まで守り続けていた操を、暴力の果てに奪われることへの本能的な悲しみがそんな声をピカチュウに上げさせていた。

 そして悲しいかな、斯様なピカチュウの声と反応はより一層にそれを蹂躙しようとするガオガエンを悦ばせた。
 もはや体格差の遠慮も無く、力の限りに……快感の赴くままに腰を突き上げてはピカチュウの膣内をかき乱していく。

 一切の前戯も無しにぶち込まれたことと、さらには猫科ポケモン特有の無数の針を宿したペニスは膣壁を存分に傷つけては、遂にそこを出血へと至らしめる。
 しかしながらこの時のピカチュウにはもう──それら様々な痛みに対する抵抗はその一切が消え失せていた。

 首の座りも無く頭を背後に垂らしては、櫓をこぐようにピストンされるガオガエンの動きに合わせて力なくそれを揺らした。
 斯様な暴力の果てに行われるレイプの最中、ピカチュウの乱れる視線は客席や、はたまた照り付けるライトなど実に様々な方向へと飛ばされる。

 そんな千変万化する視界の中に……ピカチュウはハリマロンの姿を探した。

 彼の顔が無性に見たくなった。
 その優しい声を聴きたかった。
 こんな場所にいるはずもないハリマロンを探すピカチュウの思索は、もはや壊れつつある精神を保つ為の最後の防衛機能であったのかもしれない。

 やがては狂ったように腰を動かし続けていたガオガエンが一変して背を反らし身を直立させるや──夥しい量の精液が自身の胎内に吐き出されるのを感じてピカチュウは我に返った。
 胎内のぺニスが射精ごとに蠢くたびに子宮を圧迫してくるその感触に吐き気を覚えながら、ピカチュウの意識もまた遠くなりつつあった。

 
 そうして全ての感覚が消える瞬間、ピカチュウが胸に抱いた想いは恐怖でも後悔でも、そのどちらでもなかった──……


 ただ己の操を守れなかったことを、ハリマロンに対して申し訳なく思っていた。




*第4話・ヒーロー [#a8f04705]


 二戦目を生き延びた時に──ピカチュウはこの地下試合での役割を知ったような気がした。
 ここにおける自分とはオッズの対象などではなく、本戦の合間に観客達を楽しませるショーの一部なのだ、と。
 そしてそのショーはピカチュウの血肉によって彩られることも……。

 それに気付いた時、おのずと自分の命運というものもまた悟った気がした。

 おそらくはもう、生きて地上に出ることは叶うまい。
 あのガオガエン戦より三日後──再びリングへと立たされたピカチュウは、満身創痍の肉体に比例するよう疲れ切った精神でそんなことを考えていた。

 対面のコーナーには既にキョジオーンが待機している。 
 そのあまりの巨大さに最初、ピカチュウはこれを対戦相手だとは認識出来なかった。
 演出用の舞台装置だと思っていたそれが本日の対戦相手なのだと聞かされて、ピカチュウは先の真実を悟るに至ったのである。

 セコンドではユンストが何かアドバイスもしてくれていたが、もはやピカチュウにはそんな声も一切耳に入ってこない。
 前試合のレイプにより今の彼女の心は半ば死にかけているに等しかった。

 この時のピカチュウの心境としては、もはや死んでしまいたいという捨て鉢の気持ちにあった。
 連日の恐怖と暴力とに晒され続けたピカチュウには、もはや数分先の未来ですらそれを望む気持ちにはなれなかったのだ。
 ただ……

──ハリマロンに会いたい……

 不思議とその想いだけは、絶望が度合いを深めるたびに輝きを増し、今やピカチュウの両足を支える唯一の動力であった。
 
 そして、斯様に半ば酩酊しているような状態で試合開始のゴングは鳴らされてしまう。
 傷による身体の不具合もあって、ノロノロとリング中央へと歩み出るピカチュウを捉えるや──突如キョジオーンが動いた。
 
 大股に、一歩で互いの距離を縮めてくる動きはその巨体に似つかわしくないほどに俊敏であった。
 そうして右腕を振り上げるや、そこから打ち落とされた一撃がマットを粉砕する。
 寸でのところでそれを躱すピカチュウもしかし、同時に砕け散ったマットの様子に足元がコンクリートで固められた特設リングであることもまた悟る。

 いよいよ以てダメかと自嘲しながら、繰り出されるキョジオーンの攻撃を避け続けるピカチュウの脳裏には、なぜこんなことになってしまったのかを問う思いが走馬灯のように巡っていた。

 思えばこれはハリマロンが負傷した時から仕組まれていたことだったのではないかという疑念が立ち上がると、次には自分が『ザ・ハイリスク』へと入団した時からもうこの運命が決まっていたのではないかという疑惑にも囚われる。
 ……否、そもそもがこの『ザ・ハイリスク』そのものが、この場所へ生贄をささげる為の装置なのだとしたら?

 才能など微塵も無い情熱だけのポケモンを集め、そのなかで最低限のショーが行えるように基礎と知識を仕込んでは、次に仲間や団体の結束をダシに逃げられない状況へと追い込んでこのリングに立たせる……──

 しかしピカチュウは頭を振り払ってはそんな自分の考えを追いやった。
 この日、唯一まともに意識が明瞭となった瞬間だった。

『ザ・ハイリスク』は──あの場所とそしてトレーナーであるユンストも含めた仲間達は、ピカチュウにとって掛け替えのない存在であった。
 それを一瞬でも疑ってしまったことを己に恥じた。

 そしてそれを思い直す時、なおさらにハリマロンへの慕情が胸に募る。
 その思いが再びピカチュウに生への渇望もまた呼び起こしていた。

──こんなところで死にたくない……あの、みんなのいる家に帰ってもう一度ハリマロンに会うんだ……!

 脳裏には道場で過ごす仲間達との日々や、そしてハリマロンの姿がいっぱいに広がった。
 しかしそんな僅かな希望も──非情の運命は無惨にも摘み取ってしまう。
 打ち落とされたキョジオーンの左拳が、ピカチュウの尻尾を捉えては彼女の動きを完全に制した。

 逃げ回るピカチュウに戦闘の意思が無く、なおかつ制限時間いっぱいを逃げ切ろうという魂胆を読んだ時、キョジオーンもまた戦法を変えた。
 わざとピカチュウに逃げ道を見出させるような攻撃を繰り返しては彼女を誘いこんでいき、そして完全にピカチュウがそのルートを辿り始めた瞬間に──この鉄槌にて退路を遮断したのだった。

 一方で、依然としてコンクリのリングとキョジオーンの拳にて挟み潰されている己の尻尾をピカチュウは尻もちに見下ろしていた。
 もはや逃げること叶わないその状況を頭よりも先に肉体の方が察知しては、意識せずに失禁して尻の下に尿溜まりを作る。

 そんな一動作を置いて我に返ったピカチュウは、己の尻尾を両手で握りしめると下敷きにされているキョジオーンの拳から引き出せないかと躍起になって引き出しに掛かった。
 尾骶とあってその痛みは生半なものではなく、己で引き出そうとするそれすらもが激しい痛みを生じさせてしまい悲鳴も上げたが、それでもピカチュウはそこから脱しようとする。
 いかに痛かろうが、このまま座していては逃れようのない死が待ち受けているだけだ。

 しかしながらそんな一連の行為も無駄な足掻きと終る……。
 目の前に再び重い衝撃が打ち落とされた。
 それこそはキョジオーンの残された右拳であり、そしてその下には──ピカチュウの左足があった。
 
 その拳がゆっくりと持ち上げられると、マットと拳骨に潰された血肉が付着しては粘着質にそこへと糸を引く。
 そうしてピカチュウの目の前に晒されたのは、立体的な厚みを一切無くした自身の左足であった。
 焼かれたソーセージのように表皮の裂け目から圧壊された筋繊維と、そしてそれらを突き破った骨が突出しては、かつて左足であった物体の名残をそこに見せていた。

 もはや脳からの一切の命令も受け付けなくなってしまった左足を驚愕の内に見下ろせば、続く衝撃が再び目の前に打ち落とされる。……今度は右足だ。

 瞬く間に両足をミンチさながらに破壊されて混乱の極みに達したピカチュウは、それでも背後についた両手で後ずさってはその場から逃げようとする。
 一度に数ミリずつを後退しては血だまりの中から脱し、マットにナメクジが這いずるかのような血の筋を残して逃げようとするピカチュウをキョジオーンは直立不動に見下ろす。
 そして再び、血肉に濡れた右こぶしを振り上げると──今度はそれをピカチュウの腰へと打ち落とした。

 再び衝撃がピカチュウを打ち据え、そしてそれが離れるとマット状には再び砕けては潰されたピカチュウの肉体が赤い花を咲かせた。
 骨盤は元より膣や肛門──そして子宮さえもが肉塊となされては、ピカチュウの目下に骨と肉片の残骸をぶちまけていた。

 もはやこの段に至っては、ピカチュウもまた一切の痛みを感じてはいない。
 己の体の惨状を目の当たりにしながらも、そのあまりに現実離れした光景から逃避しようと、脳は全ての痛覚をそこにて遮断したのであった。故に実感の沸かぬ目の前の惨状に、ピカチュウは自分の死を確信しつつもしかし、どこまでもそれが他人事のように思えてしまうのだった。

 そうした一切の感情が状況に追い付くよりも先に──再度打ち落とされたキョジオーンの拳は、ピカチュウの腹部を激しく打ち潰す。

 一瞬でその圧に腹腔内の内臓器は破損され、胃袋に関しては食道を競り上がり、その薄紅色の内部をピカチュウの口中から吐き出させた。
 同時に血流もまた圧迫されては顔面に集まるや、眼球や耳鼻口腔を問わぬ在らゆる孔から吹き出してはその顔を瞬く間に血に染める。

 もはやピカチュウは五感のことごとくもまた失い、闇の只中へと落ちていった。

 何も見えず聞こえずのその世界の中、ただ血液が体から流れ落ちていく寒気だけがピカチュウを包み込む世界の全てだった。
 ようやくにピカチュウも死を悟り、遥か遠くのことだと思っていたそれの到来をあっけなく感じたその時──彼女はなんとも不思議なものを見る。

 見えるはずの無い目には、今このリングのコーナーポストの上に立つハリマロンが見えていた。
 そして聞こえるはずの無い耳には、こんな自分のピンチに駆けつけてくれたハリマロンの力強く優しい声が届いていた。

 その光景に涙が溢れた。
 熱い感触が頬を伝うのが確かに感じられる。
 そしてピカチュウはその方へと精一杯に手を伸ばす──

──夢でも幻でもいい……ハリマロンが、来てくれた……!


 嬉しく思った。
 そんな彼の勇姿を目に焼き付けたまま……いつしかピカチュウの意識は、その全てが此処より消え失せるのだった。
 



*エピローグ [#ed6d5d56]


 ハリマロンが意識を取り戻し、うっすらと瞼を開くや──様々な声や感情が彼を迎えてはそして押し寄せた。

 訳も分からずに抱き着かれ、そして聞き覚えのある声に包まれながらハリマロンは自分が数日ぶりの覚醒を果たしたのだとも気付く。
 場所は病院と思しき一室──そこのベッド上にて、道場の仲間達がハリマロンの回復を心から喜び、そして祝福をしてくれていた。

 久方ぶりに見る面々と笑顔を、そして時に軽口など叩き合いながら応えるハリマロンではあったが、その意識は自然と『あるポケモン』をその中に探していた。
 今ハリマロンが最もその声を聴いて、そして顔を見たいと思っているポケモン──ピカチュウの姿をそこに探したのだ。

 今回の一件で彼女は自分のことを心配してくれていただろうか?
 それともさんざんに迷惑を掛けてしまったことに対して皮肉のひとつでも言われるかと思うと、それが面倒くさく思うのと同時にしかしひどく楽しみで、ハリマロンは浮き立つ心を押さえながら視線を巡らせる。

 が、しかし──何度視線を往復させようとも、集まった面子の中にピカチュウの姿を見つけることは出来なかった。
 その視線はさらに遠くへと飛び、病室の隅まで見渡したが、やはりこの空間の中に彼女を見つけ出すことは叶わない。
 ついにはピカチュウが何処にいるものかを尋ねるハリマロンにもしかし、道場の皆は互いの顔を合わせるばかりで、一向に彼女の行方は知れなかった。
 
 そんな折り、病室のドアが開いてトレーナーであるユンストが入室をしてきた。
 痩せぎすの、普段から雰囲気の暗い表情をいっそうに鬱屈とさせながら入ってきた彼は、ベッド上にて身を起こすハリマロンに気付いても別段に驚きや感動を表に現すことは無かった。

 同時にそんなユンストの入室にハリマロンは言いようのない不安と胸騒ぎを覚えた。
 ユンストが入室するや、場にピカチュウの匂いもまた漂ったからである。
 しかしながらユンストの肩や足元といったその周囲には、どこを探してもピカチュウの姿などは見受けられない……在るのは、彼が胸元に抱えた小さな段ボール製の白い箱のみである。

 無言のままユンストが部屋の中を進み、やがてベッド上のハリマロンと対峙すると、二人はその視線を結び合ったまま動かなくなった。
 光の消えたユンストの濁った瞳にハリマロンはただならぬ事態が発生したことを言葉無くとも察した。

 そしてその視線の位置と表情を一切変えぬまま、ユンストは胸に抱かえていた件の箱をハリマロンへと差し出す。
 それを青褪めた表情のまま震える手で受け取るハリマロンと、そしてそんな二人の心情など知らずに、それを快気祝いのプレゼントだと勘違いしては沸き立つ周囲の仲間達──。

 そうして開かれた箱の中身を覗いた一同は、固まった。

 しばしして覗き込んでいた一人がベッドから転がり落ちるようにして床に這い蹲ると、そのまま激しく嘔吐する。
 それを皮切りに場には悲鳴と、そして互いに抱き合っては慄く者や更には失心してしまう者など、場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと様変わりした。

 その中においてもしかし、一人ハリマロンだけは依然としてその箱の中を眺めたまま微動だにしなかった。

 その眉元は困惑から強くしかめられ、同時にその箱の中身が示す事実を必死に受け入れまいと強くそれを拒絶していた。
 そんなハリマロンを目の前にしながらユンストは事の顛末を独り言ちるかのよう語っていく。
 この数日間にあった地下試合でのピカチュウの有り様を……そしてその話の締めくくりに、

「……原型もないくらいに潰されて、頭すら残らなかったよ。唯一集められた『ピカチュウ』はそれだけだ」

 ユンストはピカチュウの死という揺ぎ無い事実をハリマロンへと告げた。

 依然として箱の中に眼を落したままのハリマロンはやがて、震える両手を差し入れてはその中にある一つをすくい出す。
 比較的原型を留めていた肉片(それ)はピカチュウの耳であった。
 すがる様にそれへ鼻先を埋めると、途端にピカチュウの優しい匂いが鼻腔に広がり──この時初めてハリマロンは感情を発露させた。

 爆発するかのよう上げられるその声は悲哀とも、はたまた怒りとも受け取れた。
 そのあまりの声に、混乱の極みに達していた仲間達でさえもがその一時自身の困惑を忘れてはハリマロンを見つめたほどである。
 そしてその情動の中でハリマロンの中に新たな何かが進化するのを──否、生まれるのをユンストは確かに感じた。

 おそらくこれは、場所を変え時を変え連綿と行われ続けて来たことなのだろう。
 そしてその連鎖の中に新たに身を投じたであろうハリマロンを目の前に──ユンストはその運命を哀れまずにはいられなかった。



CENTER:■     ■     ■
LEFT:


 
 地下プロレスに最強最悪のチャンピオンが誕生した──

 それは一匹のブリガロンであったが、その強さと残忍性は歴代のリングにおけるどのポケモンよりも苛烈でそして圧倒的であった。
 
 そのブリガロンは自分を遥かに上回る巨漢に対しても元より、実力差の歴然とした遥かに矮小な相手に対してさえそのファイトスタイルを変えることは無い。
 彼はことさらに対戦相手をミンチ状に磨り潰すことへ固執し、その戦いが終わったリングはいつの時も対戦相手の鮮血に彩られた。

 またブリガロンは一切の感情を表に現すことなく淡々と作業然めいた様子で対戦相手の解体を行った。
 その姿は機械さながらの冷徹さであり、そうした嗜好を多く持ち合わせた観客達でさえもがブリガロンの執拗なファイトには眉をしかめる者も多かった。

 そんなブリガロンではあったが、他のポケモン達とは違う点がただ一つあった。
 
 それこそは試合の開始前と決着後に行われるルーチンではあるのだが、ブリガロンはその前後で首から下げたとあるアクセサリに鼻先を埋めては精神統一をする行為が必ず見受けられた。

 それは古く干からびたピカチュウの耳介ではあるのだが、そのアイテムの由来を知る者は誰もいない。
 皆口々に、あれは過去に仕留めた相手の肉体を戦利品として身に着けていると囁き合ったが、結局のところそれの確かな出自を知る者は誰もいなかった。
 
 ただそれに鼻を埋めている時のブリガロンは、通常のファイトスタイルからは想像も出来ぬほどに穏やかな顔をした。
 まるでその耳の持ち主へ語りかけているかのような、あるいはそこからもたらされる声に耳を傾けているかのよう──……


 ブリガロンは孤独なリングの上でそれと語らっているかのようであった。








''&size(18){【 マスクド・ピカチュウのデスマッチ・完 】};''



























 地上490メートルを誇る高層タワーホテルの展望室ラウンジ──全凹面パノラマ窓の傍らとなる一席からは、東へと果てなく広がる夜空と海洋が、そしてその足元には宝石のごとくに煌めく離島群の夜景が広がっていた。

 その一席に着く二つの人影の一人はテーブルランプの灯火を眺めやり、もう一人はそんな目下の夜景を見下ろしていた。

「もう食わんのか? ほとんど手をつけてないじゃないか」

 しばししてランプを眺めていた男が声をかける。
 ボリューム感の無くなった銀の頭髪をオールバックに撫で付けた老人だった。
 その声に反応して窓外に投げていた視線を老人へと戻すと、

「いえ……肉なんてもう食い飽きましたよ」

 体の向きを老人へと向けて居住まいを正し、もう一人の男はその視線をテーブル上のステーキへと落とした。
 脂の差しも申し分ない肉厚のそれは、端から二番目の一切れが食べられただけで、後はカラトリーとナプキンがそこには置かれていた。

 歳の頃は見た目では判断しにくい容姿である。
 眼窩の堀が陰影を作るほどに痩せぎすの面からは、若いとも歳を経ているとも判断しがたい印象があった。
 それでもしかしその身なりは豪奢で、この薄暗がりの中でも、仄かな光量を反射しては煌めくグレーのスーツに重厚な時計を身に付けた容姿は、この男がいかにエリートであるのかを物語るようであった。

「それにしても最近はなおさらに食が細くなったんじゃないか? 儂よりも食っとらんじゃないか」

 言いながら老人がワインを注いでやると、こちらは手に取るなり一息に飲み干した。
 
「もっぱら、最近はこっちの方が進むようでして」

 そう返す痩せぎすのグラスへと再び老人はワインを注いでやる。

「仕事の方は上手くいってるか?」

 尋ねてくる老人の声をよそに再び痩せぎすはグラスを空けた。

「順調ですよ。賭けプロレスの方も軌道に乗ってきました。間幕の『ショー』も好評ですし」
「たしかお前も手持ちのチームを参加させてたんじゃなかったか?」
「あぁ……アレですか? はは」
 
 老人の質問が意外だったのか、痩せぎすは表情も変えずに乾いた笑いを漏らした。

「オッズに出せるような選手じゃありませんよ。ショーの方に提供するエサの連中です」

 痩せぎすはそう言い添えては自身が直接に管轄する団体である『ザ・ハイリスク』について語り始めた。

「殺されるだけしか能のないグズ共です。そもそも『ザ・ハイリスク』って名前からして『サクリファイス(生け贄)』の変則アナグラムですからねぇ」

 おどけた様子で得意気に話す痩せぎすのしかし、どこか演技めいた気配もまた老人は見逃さなかった。
 それでもしかし、ならばそれにも理由があるのだろうとあえてそれには触れずに話の続きを促す。

「でもね……本当に一人、有力そうな奴も出できたんですよ」

 本人は気付いていないのか、その段に話が至ると痩せぎすは僅かに身を乗り出した。

「同じ道場の奴の死に触発されて最近頭角を現してきたんですが、コイツがメチャクチャで面白い」
「ただ戦うだけじゃないのか?」
「そう言っちゃ身も蓋もありませんがね? コイツは自分の手足がへし折れる勢いで相手を打ち据えるんです」

 そうして勝つには勝つものの、試合終わりには倒した相手以上に負傷していることもざらなのだと……いつしかそれを話す痩せぎすの言葉は我がことのような熱を帯始めていた。
 話始めの商売の話題の時より、よっぽども生き生きとしている。

 やがては、

「じきに最終進化系に到達したら本選にも出してみようと思っています。その際にはバァルさんもぜひご覧に来てくださいよ」

 そう話を締め括りながら痩せぎすは老人──ケンジントン・バァルのグラスへとワインを注いだ。
 それを受け、

「分かった……楽しみにしているよユンスト」

 バァルもまた手にしたグラスを目線に掲げると──目の前のユンスト・コッジスへと、乾杯の会釈で応えてみせるのだった。







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