――黒陰覚醒―― Written by[[水無月六丸]]
・性的描写が含まれます。ご注意ください。
・キャラ紹介等の補足はこちらです。 [[――黒陰覚醒 解体ノ書――]]
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**いつもの朝 [#kb82a9c6]
昨日の夕方、友人伝いにある人物から呼び出しを受けていた私は、朝早くに住み家を発って森の中を駆けていた。正直、眠いと言えば眠い。普段の私であれば、もう少し惰眠を貪っているような時間帯である。
しかし仕事に関わる話であろうから、起きないわけにはいかなかった。自分で言うのも難だが、若輩としてはそれなりの高給取りであるから、きっちりと仕事はこなしておきたい。
その仕事というのは、用心棒とか保安官といった言葉で表される類のものだ。基本的には「お尋ね者」として指名手配されている輩や、森に侵入した不審者等を取り締まるのが通常の業務。時々許可を貰って探検隊のギルドへと赴き、掲示板の依頼をこなすこともあるが、そちらは個人的な副業扱いだ。
踏み出す足に合わせて、私の首元で揺れるものがある。変わらずの石がはめ込まれた、銀のペンダントだ。
この乳白色の石には、私達ポケモンの進化を抑制する不思議な力がある。これを身に着けていれば、望まない進化(俗に進化事故と呼ばれている)を防ぐ事が出来る。そんなわけで、進化するに十分な経験が積まれている筈の私の身体は未だにジュプトルのままなのだった。森の中を動き回るのには、小柄な身体の方が何かと都合がいい。この森で私が受け持っている役割から考えれば、尚更その方が好都合な面もあった。
身体を流れていく風を感じながら、快足を飛ばして目的地――長老の住み家へと向かっている。森の中には獣道を均したような細道が幾つか通っており、特に理由が無い限りは皆普段からこれを利用している。おおよそ森全体で見ると、川沿いの道を中心として下流から葉脈状に広がっている筈だ。
私の住み家は長老のそれより川下にあるので、上流へ向かっている事になる。今走っているのは本道と呼ばれる川沿いの砂利道で、対岸も含めたこの二本の道路が、森の交通網を繋ぐバイパスだ。
――さて、少し近道をしようか。
それまで進んできた道を外れ、私は勢いよく木立の中へ飛び込んだ。着地しようとする私の正面に木の幹が迫ってくるが、どうということはない。腕と足で木の幹を捕まえ、屈伸で蓄えられた力をもって樹皮を蹴り、別の木へと飛び移る。同様の動きを繰り返し、木から木へと次々に飛び移り森の奥へと。
別に下の茂みを歩いてもいいのだけれど、朝露で身体が濡れてしまうかもしれないし、それにこの移動方法が森を動くのには一番早い。道を外れても大体の方角さえ分かっていれば、余程の事が無い限りは迷わず何処へでも行ける。自分の庭だと言ってもいい位に、私はこの森を熟知していた。
暫く進むと木立は途切れ、行き止まりの崖に突き当たった。高さとしては10メートル程度で、ごつごつした岩肌だ。ここを登れば長老の住み家はすぐ近くにある。ただ裏から入る形になるので、行儀が悪いと言えば悪いが。私は崖上へ登る為に、手頃な岩壁の凹凸を探した。少しの間崖下をうろついた後、どうやらここならいけそうだと思えるポイントを見つけた。
だが岩に右手を掛けようとしたその時だった。真後ろの木立に、微かだが誰かが潜んでいる気配がある。私はその気配を敵と判断し、咄嗟に回避行動を取った。振り向かずに、気配を背にしたまま左に飛び退く。直後、何かが岩壁に衝突して砕ける音がした。
飛散する透明な破片と共に、拡散する微かな冷気。『こおりのつぶて』と呼ばれる技だった。使い手の腕前にも左右されるが、この技で打ち出される氷弾は非常に弾速が速く、打たれてからの回避は困難である。しかも草タイプの私には弱点となる、氷タイプの技。気配で気付けたのは幸いだった。
襲撃者が躍り出た事を知らせる、茂みを揺らす音。同時に私は素早く壁を駆け上がり、適当な高さで勢い良く岩を蹴った。空中で技を繰り出す準備を整えて、眼下の敵を見定める。身体を覆う黒い毛に、鋭い前足の鍵爪。頭にある扇状の赤い飾り羽が目を引いた……マニューラと呼ばれるポケモンだ。
私に頭上を飛び越えられた形となったマニューラは振り向き、こちらの着地に合わせて攻撃を仕掛ける体制に入っている。左の前足に収束している冷気のエネルギーから推測するに、『れいとうパンチ』を繰り出す積もりのようだ。私は着地する寸前で身体を捻り自分の尾を、相手を払う様に力一杯振り抜いた。
技のエネルギー同士がかち合い、激しい衝突音と共に相殺反応が引き起こされる。私の狙い通り、『アイアンテール』はマニューラの左前足を捉えていた。技同士のタイプ相性を考えれば、反動は相手の方が大きい筈だ。
マニューラの舌打ちが小さく聞こえる。相殺し損ねたエネルギーによって発生したベクトルでよろけてしまい、僅かだが隙を生んでしまったのだ。無論間髪を入れずに次の一手を繰り出す。 私は心の中で、地面の芝生に自分の意識とエネルギーが伝わっていくイメージを描いた。
「なっ……!?」
不意を突かれたマニューラが驚きの声を上げる。突然地面の芝生がまるで意思を持ったかのように動き出し、伸びて引き足の踵を引っかけたからだ。折角立て直したバランスを再度失い、マニューラはその場に尻餅をついた。
脱出するべく巻きついた草に爪をあてがうが、もう遅い。既に私は追撃の体勢に入っている。右腕の『いわくだき』で鼻面を思い切り殴りつけようとして――途中でやめた。
「…………」
暫しの静寂。私の右腕はマニューラの鼻先1センチで止まっていた。そのマニューラはというと、顔が歪むほど目を固く閉じて、いつ来るやも知れない衝撃に備えていた。しかし一秒、二秒と経って尚、顔面に何も叩きこまれないのを訝ってうっすらと細目を開ける。そんなマニューラの鼻に、私はデコピンを軽く一発。
「にゃっ」
反射的に鼻を押さえるマニューラに、私は半ば圧し掛かる形になっていた身体をどけてやる。足を絡め捕った『くさむすび』はとっくに解けていて、芝生は何事も無かったかのように元に戻っていた。
マニューラはゆっくりと立ち上がるが、攻撃の意思はもう感じられなかった。攻撃する気が無いのは私も同じだ。そして今から私は、突然襲いかかってきたこの相手に、気さくに声を掛けるのだ。
「おはようレイス。お陰でばっちり目が覚めたわ」
いや、気さくというのは語弊があったか。多分に嫌味な響きを含んだ積もりだったが、彼女が意に介する事は無いだろう。何故なら私は、これまでにも度々レイスの襲撃を受けているのだ。今更考えを改めてくれるとは思えない。
案の定彼女はゆっくりと立ち上がって、小憎らしい笑みを浮かべた。全く、もう少し上品に表情を作れば美人に見えるだろうに。私はレイスの顔を傷つけないようにと、優しさに負けて寸止めで終わらせた事を後悔し始めていた。
「ふふっ、やっぱり強いねぇあんたは。足引っかけられたのにびびって慌てちまったよ」
私をストーカーばりのしつこさで追い回してくる、この雌のマニューラ。これでもまだ、私以外のポケモンに迷惑を掛けないだけ大分更生した方だろう。
私に出会い叩きのめされるまで、彼女はかなりの乱暴狼藉を働いていたらしいのだ。元々この近辺に住んでいたわけでは無く、本人曰く北の方角から幾つか山を越えて遥々やって来たのだという。わざわざこんな辺境に移り棲もうとした理由は定かではないが、恐らく前の土地で行った悪事の果てに、逃避行せざるを得なくなったのだと私は考えている。実際、初めて相対した時のレイスは非常に醜悪で下劣な不埒者だった。反省したとは言え、長老もよくこの森に住む事を許したものである。
「まさかこんな時間に出くわすなんて。貴方、私をつけてたの?」
いつもだったら襲撃されるのは大体昼間なので、こんな朝早くに彼女と会うのは珍しい。
ちなみに闇討ちを受けたり、寝込みを襲われた事は無い。私との戦いを楽しんでいるレイスとしては、姑息な手段で勝つのはつまらないと考えているようだ。あくまで白昼堂々と襲いかかってくる。
それでも大変迷惑である事に変わりは無いし、今や私とレイスの戦いは、この森では日常茶飯事として皆の間に定着してしまっていた。酷い時には、外野から声援や歓声が飛んでくる始末。
一つだけいい事があるとすれば、レイスを応援してくれたりするポケモンも増えてきている事だ。最初こそ彼女と皆の関係は険悪だったが、今ではもうこの森の一員として認められつつある。意外と面倒見のいい一面もあり、時々子供達の遊び相手にもなってやっているそうだ。
「いやいや、今朝はたまたまさね。何度も言うけどあんたを見ると、血が騒がずにはいられない性質なのさ、あたしは……ふふっ、勝てた試しもないのにねぇ」
「そうね、貴方弱いもの。どうせ無駄なんだから、やめてくれないかしら」
この通り、私は何故か気に入られてしまっているのだ。理由は皆目分からない。ただ私に完敗したあの時、レイスの心中で何かが変わったのは事実である。
自嘲的に笑う彼女に、私は冷たい言葉を浴びせる。勿論冗談だが、やめてほしいのは本当の事だ。私との戦績こそ惨憺たるものだが、実際の所レイスはなかなかの実力を持っていると思う。
「冗談言わないでおくれよ。あんたと手合わせするのが、人生の楽しみの内七割位を占めてるんだからさ」
私と戦うのが人生の楽しみ。お互い真っ当なライバル同士であるなら、文句無しに光栄な言葉なのだが。生憎私は、特別彼女をライバル視している訳ではない。自分としてはいつも適当にあしらっているつもりである。こっちまでその気になってしまったら終わりだからだ。しかしこういう言い方は難だが、レイスに私と戦う事以外の日々の楽しみがあったとは初耳だ。
「残りの三割位は何なのか是非聞かせて貰いたいわね」
「ふふっ、そいつは出来ないね。こんな朝っぱらから下の話を聞きたいっていうなら別だけどさ!」
「ええ、遠慮するわ」
そういう話を一番したがっているのは自分のくせに、どこの口がそれを言うのだ。
想像は付いていたがやはり不潔だった。大方手頃な若い&ruby(おとこ){雄};を誑かして……といった所なのだろう。もう少し真っ当な趣味を持つ気は無いのか。それこそ私を倒す為に、誰かに稽古をつけてもらうとかすればいいと思う。私自身はレイスを教える気は無いし、彼女も自分がライバルと定めている者に教わる事は良しとしないだろう。しかし彼女に強くなられても追い払うのが大変になるだけなので、結局今のままがいいのだと私は思った。
立ち話はそろそろ終いにして、用事を済ませて帰ろう。レイスに断りを入れようとした時、私達に向けた挨拶の声が聞こえた。振り向いてみると、若いデンリュウの娘が朗らかな笑顔でこちらに向かって来ている。
「おはようございます! ルピナさん、レイスさん!」
ライバルや友達にするなら、これくらい爽やかな人物の方がいい。レイスのように無駄に好戦的で粘着質で変態なのは御免だ。
と、ここで私は気が付いた。レイスの「残りの三割」には彼女、「デンリュウのキアラをからかう事」も含まれているのだ。この後の流れは予想が付いたので、私はいつでも『アイアンテール』を繰り出せるよう準備した。朝から&ruby(おんな){雌};三人で寄りかたまって下ネタで盛り上がるなんて、何が悲しくてそうなるというのか。正直な所では、未経験の私は彼女らの話題についていけないという面もあるのだが。
「おおっ、キアラじゃないか。昨日の晩は何をされたんだい?」
嗚呼、やはり。私は少しげんなりして、溜息を吐いた。
これがレイスの、キアラに対する挨拶代わりの決まり文句だ。もう完全に、昨日の晩に情事があったと決めつけてかかっている。そしてキアラの反応もいつも通り決まっている。
「き、昨日は何もありませんからっ! 面白い事なんて何もっ!」
おや、今日はキアラの様子が違った。恥ずかしさで顔を赤らめているのは同じだが、はっきりと何も無いと否定するのは初めて見た気がする。この様子だと、珍しく昨晩は休ませて貰えたらしい。
珍しく昨晩は、というのは要するにそういう事である。もはや彼――キアラの恋人は絶倫というより、無尽蔵と評すべきかもしれない。
「確かに今日は早起きなようだから、そうかもしれないねぇ」
言われてみれば、朝にキアラと出会わなくなってから久しい。恋人と同居を始めてからというもの、彼女は昼頃まで寝ている事が多くなったからだ。その理由は言わずもがな……しかし、キアラもキアラでよく身体がもつものだ。尤も耐えられるようでなければ、到底彼とは仲良くやっていけないだろう。何だかんだで満更でも無さそうな彼女の様子を見る限り、ひょっとして彼女は淫乱の気があるのでは、という疑念が私の頭を一瞬だけよぎった。
「……なんて、実は寝起きに一発やられてきて、身体を洗いに行く途中じゃないのかい?」
「うぐぅ……」
レイスがもう何度目か分からない余計な茶々を入れる。キアラは紅潮した顔を伏せ、言葉を詰まらせて恥ずかしさを忍んだ。どうやらこれは図星だったらしい。
ここからはレイスのねちっこい追及が始まり、誤魔化し切れなくなったキアラが折れて、耳から火が出るような自身の経験を洗いざらい白状してしまう、というのがいつもの流れだ。何故彼女が人の夜の事情を根掘り葉掘り聞きたがるのか、私の中では未だに謎であった。
もしかして私も夜伽の相手がいれば、少しは興味を惹かれるのかもしれない。どういうわけか私は二人に対して、妬ましさが込み上げてくるのを感じた。技を繰り出す構えを取っている体に、心なしか力が入っている気がする。幸い標的は獲物をいびるのに夢中で、私がやろうとしている事に気づいていない。
「あたしゃ鼻が利くんだ、拭きとった位じゃ精の匂いを誤魔化せやしないよ。で、今朝はどんな&ruby(・・・){プレイ};を――」
ほら来た。冷やかしはごくあっさりで許してやるべきだと思うのだが、レイスはどこまでも貪欲に一歩踏み込もうとするのがいけない。あまりにしつこいものだから、キアラが泣き出してしまった事もあるというのに。この雌猫は、本当に反省しているのだろうか。頭をかち割って調べてやりたい。
キアラが口走ってレイスを調子に乗らせる前に、レイスの退場をもって話をお流れにするしかない。私は彼女の後頭部を目がけ、八割程度の力で『アイアンテール』を振り抜いた。
「いい加減にしなさい」
「にゃんっ」
良い当たりだった。軽い衝撃音と共にレイスは3メートル程吹っ飛び、芝生に突っ伏したまま動かなくなった。すぐ背後の殺気にも気付かない、こんな隙だらけな相手にライバル視されているのは、全くもって不本意である。
「あわわわ、大丈夫ですかレイスさん!」
「大丈夫よ、ちょっと灸を据えただけ。そこへ寝かせておけばいいわ」
キアラは私の行動については特に触れず、気絶しているレイスの方を振り返って声を掛ける。そんな彼女に私は放っておくよう言った。キアラはレイスに駆け寄ろうとしたが、すぐに反転してこっちへ向き直った。
私に言われて素直に放っておくあたり、これがキアラの精一杯の意趣返しなのだろうか。まあ普段からレイスには散々いいようにいじられているのだから、これ位は許されるだろう。勿論殴った私も含めてだ。
「貴方も私達に構わなくて良かったのに。レイスにからかわれるのは分かってたでしょう?」
よく考えたら、態々私達に声を掛ける事もなかったのではないか。行為に及んだ後でレイスに近付くなど、私には自爆特攻志願者のやることにしか思えない。非常にプライベートな事項をしつこく聞かれて、泣きべそをかくような思いまでする位なら、別に無視しても一向に構わない筈だ。
「でも、見かけたから挨拶しないとって思って」
未だ羞恥で顔を赤らめているキアラが、俯いて小さな声で言った。彼女の律儀さを素直に褒めたいが、その結果生じる不都合の事を考えると、私としてはやはり止めて欲しい。
しかもどうやら、彼女はレイスを友人と見なしているらしい。あれだけの嫌がらせを受けているにも関わらずである。確かに二人はそれさえなければ中々気の合う感じに思えなくもないし、事実仲良く談笑しているのを見かけた事もあった。要するにキアラの人当たりの良さと寛大さを、レイスの悪癖が全て台無しにしている(少なくとも私にはそう思える)のだ。
「いいから事後の始末を優先しなさいって。今更だけど、貴方も大変な殿方を恋人に持ったわね」
「はい。嬉しいことは嬉しいんですけど、毎晩のように求められるのはちょっと……でも私、すぐその気にさせられちゃうんです」
「仲がいいのは結構だけど、ほどほどにね。貴方に言っても仕方ない気はするけれど」
溜息交じりの言葉をかけると、困った様な笑顔で返事が返ってくる。問題はキアラの恋人、サーナイトのヴェクターにもあった。
二人が交際を始めたのはおよそ二カ月程前だ。キアラの話す所によると、市場に出かけた時偶然出会ったのだとか。その時彼は雑貨店でアルバイトをしていたらしく、買い物に悩んでいたキアラに声を掛けたのが馴れ初めだったようだ。
それからはお互いに、相手を見かけたら二言三言他愛の無い会話をする位だったようだが、段々とヴェクターの方から積極的になっていったらしい。そして気が付いたら同棲生活が始まっていて、今の状況に至る訳だ。
だが蓋を開けてみて仰天、彼は尋常ではない精力の持ち主だったようで、ほぼ毎晩のようにキアラは昇天させられているのだと言う。彼女が甘いからなのか、もしくは快楽の虜になりかけているからなのか、今晩は休ませてと断る事が出来た試しがないそうだ。
まあ、多少困ってはいるようだが嫌がっている様子は見られないし、時折惚気話をする位仲はいいようなので、私もあまり問題視はしていない。一応釘は刺しておいたが。
寧ろ少し羨ましいかもしれない。優しくて、ハンサムで、夜はとりわけ情熱的で――話を聞いて想像するだけの自分が惨めじゃないか。考えていたら余計に羨ましくなって、目の前の幸せ者が段々と妬ましくなってきた。
だから無意識の内に意地悪をしたくなったのだろう。自分の口からぼそりと漏れ出た言葉に、私自身が虚を突かれた。
「で、今朝は何をされたの? ……あっ」
しまったッ! これでは何の為に、あの雌猫を排除したのか分からないじゃないかッ!
「もう私、ここで生きていく自信を無くしました……さようならルピナさん……」
生気の無い、淀んだ表情でふらふらと歩き出すキアラ。何かこのまま死んでしまうのではないかと思わせる、酷い落ち込み具合だった。
何時の間にかレイスに毒されていたようだ。私の馬鹿、間抜け――いや自分を責めるのは後だ、冷静になれ。今はキアラを止めなくては。
「待ってごめんなさいっ!? 今のはわざとじゃないっ!」
「嫌ぁっ、止めないで探さないでぇ! 私は遠い所へ行くのぉっ!」
必死になって引き留めようとする私を、キアラは振り払おうと悲痛な声で泣き叫びながら暴れた。しかし彼女にこんなに力があっただろうか。無闇に暴れているからこそ、何とか『くさむすび』で絡めて足止め出来ているが。
そうして気が付いた時には、私まで一緒になって意味不明な事を喚いていた。レイスの件といい、私は周りに影響されやすい性質なのかも知れない。
「焼き土下座((熱く焼けた鉄板の上で土下座する事。誠意を証明する方法の一つ))するから! 早まるのだけはやめてっ!?」
きっと私は、焼いても美味しくないだろう。誰も……食べてはくれないと思う……。
**早とちり [#e1ad55b9]
あの後、いじけてしまったキアラの機嫌を元通りにするのに躍起になった私は、危うく本来の目的を忘れそうになった。
ひたすら平謝りした後、明後日一緒に市場へ遊びに行く予定を取りつけ、その時に食事を全て私が奢る、という条件を提示してやっと許してもらったのだった。
と言っても、遊びに行く奢る云々は殆ど私の勢い任せに近い形であり、彼女は首を縦に振りこそしたものの、ただ私の剣幕に気押されていただけな気がしたが。まあ取りあえずは許して貰えた、という事でいいだろう。
しかし正直な所では、キアラを傷つけた後悔よりも、一瞬でもレイスと同列に成り下がった自分を否定したいが為に謝っていた気がする。その事まで含めて、今後はより一層の自戒が求められそうだ。
キアラを近くの温泉まで送った後、私は再びあの岩壁の下へと戻ってきていた。例の雌猫はというと、今だに気絶しているらしく芝生に突っ伏したままだった。大の字で倒れているそいつを鼻で笑ってやりつつ、私は丁度いい岩の窪みに右手を掛けた。
屈伸で勢いをつけて、一気に壁を駆け上がる。登り切った私の目の前には樹木が並び、その向こうにログハウスの屋根が見えた。屋根だけが見えているのは、ログハウスが建っている広場が窪地の様に、私のいる所から一段下がった地形になっているからだ。
この広場と長老のログハウスは、この森に住むポケモン達にとって宴会場のようなものだった。お祭りや宴会ともなれば、ここが本部になったり会場になったりと慌ただしい賑わいを見せるのだ。
あくまで個人の庭であるので、イベントの時は長老に頼んで使わせて貰う、という体裁を取っている。とは言っても長老自身がお祭り宴会を取り仕切る役なので、誰かがどうこうしたいと頼み込むのは結婚式とか、葬式等といった催事の場合だけだろう。
樹木の合間を抜け、段差を飛び降り広場へと出る。段差はログハウスの裏手から円を描くように続き、ちょうど反対側で途切れて下り坂に向かう。その下り坂が本来の入り口というわけなのだが、私は大抵の場合崖を上って裏からお邪魔しているので、広場から出ていく時以外はあまり通った試しがない。
中央の浅く地面が削られている所は、焚き火をする為に掘ってある。その他に目に留まる何かと言えば、長老が『きのみ』を育てている小さな菜園と井戸がある位で、それこそ広場と呼ばれるべきただ単純に広いだけの場所だった。
彼は既に起きて外へ出ていた。おはようございます、と挨拶をすると、聞きなれた低いしわがれ声で返事が返ってくる。
私を呼び出した人物――フシギバナの長老、フォレストは広場の片隅にある菜園の手入れをしていた。彼は私がやって来た事に気付くと、土いじりをやめてこちらを向いた。作業に使っていたらしい『つるのムチ』をそばにあったバケツの水で洗っている。
「おぉ、おはようルピナ。朝早くにすまぬ……夜中に呼び出すよりは、この方がよかろうと思ったのでな」
夜中に呼び出すのが難だったら、昼間でも良かったのに。多分朝の内に用を済ませてもらって、帰ったらゆっくり寝て貰うつもりだったのだろう。
私は昼寝こそすれ、決して朝が弱い訳ではない。早起きが必要なら、若干の名残惜しさはあるが惰眠を貪るのを諦めればいいだけなのだから。ここで割り切って起床できるか否かが、大きな差なのだと私は一人で勝手に思っている。即ち私は勝ち組だ、うん。
いけない、余計な事を考えてしまった。今は仕事の話をするのだろうから、しっかり切り替えなくては。私は気を引き締めて、長老の顔を見つめ先を促した。
「お気づかい有難うございます。早速ですが、私に話とは」
しかし、長老の表情がどことなくいつもと違う気がする。例えて言うなら、これから気まずい話を切り出さなければならないとか、申し訳ない報告をしなければならないとか。察する限りでは、そんな心中が窺い知れた。
これまで特にそういう様子で話をされた事はなかったので、恐らくかなり厄介な仕事になるのだろう。歯切れの悪い長老の言葉を待ちながら、私は新たな事態に直面した事を何となく予感した。きっと私に任せるのが躊躇われる程の案件なのだ。それを話すというのだから、どうしても緊張してしまう。生唾を飲み込む音が、彼の耳にも届いたかもしれない。
言うか言うまいか悩んでいるらしく、暫く逡巡する素振りを見せた彼だったが、意を決したようで重い口をゆっくりと開いた。私の覚悟が決まるのとほぼ同時だった。
「うむ、まっこと急な話であるのだが……お主はもう立派に大人であろう?」
「……はぁ」
何だか妙な話の切り出し方だ。思わず私は、府抜けた返事を返してしまった。この事が先の洞察とどう繋がるのかは、私にも測りかねた。ただやはり、あまり良い話ではない事だけは予感した。
さもなくば、そろそろ進化したらどうだという話か。小柄なままの方が仕事上便利な時も多いが、それでも進化前のこの身体にパワー不足を感じる事はよくある。純粋な技の威力だけならレイスはおろか、キアラにも劣っているだろう。だが進化に関しては、じっくり熟考して結論を出したいと思う。
それが何故私と長老との間で気まずい話題になるのかと言えば、私がジュプトルに進化してすぐの頃、初潮を迎えた時に色々あってお互い散々恥ずかしい思いをした事からくる後悔の為なのだろうが……今思い出すのはやめておこう。ちなみに私はもう気にしていないのだが、彼は未だに引き摺っているらしい。
その一件以来、長老が私の身体や次の進化に関して何か言う事は全くなくなったので、確かに自分の将来についてあやふやなままでやってきた感は否めない。一度改めてしっかりと話をするというのも大事だと思う。
いや、だったら態々朝に呼び出さなくてもいいだろう。確実に緊急性の高い話題の筈だ。どれだけ私の頭の中で考えた所で、彼の口が開くのを待つ他なかった。
「実はお主に頼みがあってだな。その……」
妙にまだるっこしい間を開けて、長老がゆっくりと話し出す。そこまで話すのを躊躇うほどまずい事なのだろうか。だったら尚更、私は知らねばならない。
はい、と頷いて私は次の言葉を待ち構える。いよいよもって長老の顔には躊躇いの色が浮かぶが、迷いを振り切って放たれた言葉に私は驚愕する。
「見合いをして貰いたいのだ」
思っていた方向とはまるで違った。しかし予想の遥か斜め上であった事には変わり無い。
見合いという言葉の意味をのろのろと思いだし、これから課せられる仕事に取り組む自分自身の姿を想像して、私は呆けた顔で長老を見つめた。駄目だ、似合わない。今まで異性と交際した経験が無い私には、稚拙な想像しかできなかった。
長老が不安な目で私の反応を窺っているのに気付いたが、ご察しの通り私はあまり調子が良くなかった。内心の衝撃を頭を掻いて誤魔化しつつ、私は可能な限り平静を保とうと努力した。
「……随分と急なお話ですね。少し考えさせて貰えませんか、と言いたい所なのですが……私に拒否権はあるのですか」
やっと絞り出せた声はそれだけだった。立ち眩みを抑えるのに必死だったからだ。
望みは薄かったが、一応聞いてみる事にした。一縷でも断れる可能性があるのなら、意地でも縋りつきたかった。長老は大きな溜息を吐くと、心底申し訳なさそうな様子で答える。
「ほんに勝手で済まぬが、決まってしまった事でな。何せルドラの頼みでは、無碍に断るわけにもいかぬのだ。無論見合いの相手を伴侶として迎えるかどうかは、お主の自由だが」
そうで無くては困る。只でさえ勝手に縁談を持ち込まれているというのに、加えていきなり結婚させられるなんて理不尽は御免だ。
ルドラさんというのは長老が親友と呼んで懇意にしている人で、この森を出て北東に進んだ所にある渓谷を住処にしている。そこで彼は、一族の仲間達と共に渓谷、そしてこの森を守る為の番人として戦っているのだそうだ。実際に何と戦っているのかは詳しく聞いた事がないので分からないが、とてもやっかいな連中だそうで苦労させられているらしい。
そうやって彼らが体を張っているお陰で、私達が森で平和に暮らしていけるのだと考えれば、しかも他ならぬ親友の頼みとあれば、聞いてやるのが道理だろうというわけである。それは私も正しいと思うし、私が長老の立場なら断りたくはないだろう。白羽の矢を立てられた側としては当然迷惑だし、猛烈に辞退したいのは山々だが。
逃げられない事を理解した私は、諦めて腹をくくることにした。最悪当たり障りなく、失礼の無いように振舞っていればそれで済む話なのだ。だからきっと大丈夫だろう。
その日は普段の仕事が出来ないだろうから、代行を立てなければならない。探検隊ギルドに赴いて都合の付く知りあいを探す必要がありそうだ。まあ手癖の悪いゴロツキをとっちめる位なら、レイス程度の実力があれば十分務まるだろう。
「分かりました。日時と場所の詳細は決まっていますか?」
「今日の夕方、場所はここだ」
「夕方ですね。分かりました」
今日の夕方か、そうか。ならばこれから支度をしなければならないだろう。しかし支度と言っても何をすればいいのか。
化粧なんて普段やらないし、装飾も大したものは持っていないのだが、&ruby(ポケ){貯金};((ポケダン世界における通貨とほぼ同一のもの))はあるから市場に行けば夕方までには何とか――いやちょっと待て。私は目を背けたくなるような恐るべき真実をスルーしているのではないか?
思い出せ、長老は今日の夕方と言ったか? 今日の夕方とは一体いつの事だろう。今日の、夕方。今日……の。
「ええええええええぇっ!」
吃驚して思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。流石に平静を保つのは無理があった。全く、幾ら開き直ったからといって長老もしれっと恐ろしい事を言わないで欲しい。
いくら何でもあんまりだ。先方は私の都合など、最初から無視する気でいるのだろう。いや、寧ろ勝手に許嫁にでもしなかっただけ良心的と言うべきか。確かにルドラさんは少々強引でせっかちな所があった。長老が親友と呼んではばからないので、決して悪い人ではないのだが。
それとも私の伴侶探しに助力しようとしているのだろうか。だがまだ私は小娘だ。結婚を焦る歳ではないし、無論妻になる心構えなどありはしない。自分で言うのも難だが、まだまだ甘い恋を夢見ていたい年頃だ。
寝耳に水、大洪水のこの話。はっきり言ってありがた迷惑なだけである。それも、とびっきりの。
「嫌ですよぅ! 何でよりにもよって私に、しかも今日の夕方ってどういう事なんですかっ!? 大体、いつ決まった話なんですかそれは!」
疑問や不満を爆発させ黄色い声で捲し立てる私に、長老は済まぬ済まぬと苦しそうな様子で繰り返し謝るだけだった。きっと彼もルドラさんの説得を試みたに違いないのに、申し訳ないが私の文句の受け皿は彼しかいないのだ。
傍目には祖父が孫娘に苛められている図に見えたかもしれない。暫しの間一方的に声を荒げた後、ようやく冷静になった私は現実に立ち返った。
多少落ち着いた所で長老に話を聞くと、昨日の夕方ルドラさんが唐突に訪ねて来たらしい。どうしたのかと驚いた長老が聞くと「久しぶりに飲もうじゃないか、息子も連れてくるからついでに見合いでもさせたい。あの娘さんに頼んでおいてくれ」と一方的に約束を取り付けられて、なす術がなかったという。
要するに私が長老に頼まれてお見合いの席に座るというよりは、相手は最初から私を目当てにしているということらしい。これでは拒否権が無くて当たり前だ。ルドラさんに顔を知られている不運を嘆きながら、私は心の底から溜息を吐いた。
「……はぁ。しかし、本当に困りました。一体どうすれば」
「うぬぅ……」
今度は二人一緒に頭を抱えて苦悩する。しかし幾ら唸った所で、清々しい朝の貴重な時間を無駄にするだけだった。
冷静に考えるだけの気力も失われ、もうなるようにしかならないだろうと諦観しかけた時だった。後ろの方で茂みを掻きわける葉擦れの音がした。
誰かが来たのだろうと思って反射的にそちらへ目を移すと、猛々しいサザンドラの&ruby(おとこ){雄};がこちらへ近づいてきていた。まさかとは思うが、彼が私達の頭痛の原因ではないだろうか。
「いやー、別に気負わなくてもいいぞー? ちょっとした宴会をするだけだからな! がはははは!!」
「ルドラ……さん……」
彼が口を開いた瞬間、そのまさかは実を結んだ。豪放で気取らない調子のいい話し方だったのに、何だか意識が遠のいていくような錯覚を感じた。笑い声を上げているのは三つの頭の内どれなのだろう。完全に呆けてしまった私はぼんやりとそんな事を考えていた。
「いたのか……」
「うむ、市場の方で一晩過ごしてなー。お前さんを起こそうと思って今戻ってきたのだが、必要なかったようだな」
私達の弱々しい挨拶をよそに、ルドラさんは至極上機嫌だった。
一族が番人をやっているので、ましてや頭首である彼がこの森に来るのは難しいだろう。お見合いの御膳立ての為に仲間に無理を言って抜けて来たのであれば、時間がないのは仕方ないと思う。だからといって相手に準備すらさせないスピードお見合いなんてものは断じて認めたくない。
「しかしお前さんも人が悪いねー。こんな初々しい娘さんに、唐突に見合いの話をするだなんて」
「その見合いの話を唐突に持ちかけたのは、何処の馬鹿者だと思っておるのだ!」
ルドラさんの他人事のような物言いに、遂に長老は怒声で食ってかかった。これで少しは反省してほしいと私も思っていたが、ルドラさんは何故か意外なものを見るような眼差しで長老を見つめた後、小さく笑いだした。
「ああーすまん、真に受けているとは思わなんだ。息子は奥手でな、少しでも積極的になってくれればと常々思っておるのだが」
長老の一喝で冷静さを取り戻していた私は、この言葉で大体の事情と真相を察した。それでも納得する気には到底なれなかった。
どうやらお見合いと言うのは物の例えというか、ルドラさんは冗談のつもりで話したらしい。しかし生真面目な長老はそれを真に受けてしまったようだ。つまり私の役割は最初からお見合いの相手などではなく、宴の席に添える華が欲しかっただけという事か。何であるにせよ、振り回された側からすれば迷惑極まりない。
「お主、自分の息子も騙しておるのか!? 見合いだと思っておるのか!」
「いやそれは無かろう。あいつの事だ、儂のちゃらけた物言いを真剣に受け止めたりはすまい。寧ろ儂は、お前さんが見合いをしようと真剣に考えていた事に驚いておるのだが」
騙すも何も、冗談の積もりで言っていたなら流石に息子にはただの宴だと説明してあるだろう。親友なら自分の戯言など真に受けないだろう、と高をくくっていた結果がこれである。
どれだけ仲が良くても、擦れ違ってしまう時もあるのだなぁと私は二人のやり取りから勝手に学んだ気になっていた。
「がはははは、まぁよかろう! それだけお前さんがこの娘さんを大事に想っておるという事だろう? 結構な事じゃぁないか!」
豪快に笑うルドラさんの右腕が、私の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
長老が私を大切にしてくれているのは、よく分かっているつもりだ。両親のいない私はこの森の皆に支えられて育ってきたが、その中でも特に心の支えになってくれたのは他ならぬ彼だからだ。それを思えば、今回の騒動もちょっぴり嬉しい事のような気がしてくるから不思議だった。
じんわりと心に染みいる温かさと、頭を撫でるルドラさんの右腕の毛並みを感じ入っていた私はすっかり弛緩してしまい、ついさっきまでの緊張や驚愕、苦悩はどこかへ消えてしまっていた。
「……支度をしてくるのだ」
「え」
長老が不意にぼそりと呟いた。油断していてうまく聞き取れなかった私は、意図せず曖昧な反応をしてしまった。
同じくしてルドラさんも動きを止め、長老の方を私と一緒に注視する。表情からは何も読み取れないが、全身からはやけくそになった者が発する様な、支離滅裂な気配を隠すことなく曝け出していた。これは駄目だ。きっとルドラさんも同じ事を思ったに違いない。
「支度をしてくるのだっ! ほれ、時間がないぞ!」
数秒の沈黙の後、長老は突然吠えた。
時間がないから支度をしてこいというのは、まさかまだ私にお見合いをさせる気でいるのだろうか。多分騙された(しかも自滅で)のが面白くないから、今度は逆にルドラさんを困らせようと思って敢えてやっているのだろうが。
「何ムキになっとるんだお前さんは」
まるで意に介さず、平然と受け流すルドラさん。この差はどこから生まれるのだろうか。長老が冗談で彼を騙すなんて事は、未来永劫絶対に無理だろうと私ははっきり思った。
それでも諦めず、頑なに「本気のお見合い」を実行に移そうと躍起になる長老を見て、私は馬鹿馬鹿しい気分になっていった。どっちにしろ一応私は宴の席の華という役割だから、面倒臭いけれども少しくらい自分を飾っておくとしよう。
しかし、こんな調子で本当に大丈夫なのだろうか。色々と。
「五月蠅いっ! お主の息子は分捕ってやるから覚悟しておれ!」
「元気があるのは結構だが、お前さんが血眼になってハッスルしても仕方なかろうが」
「黙れ! 後で私に泣きついても聞く耳持たんぞ!」
「別に儂はこの娘さんになら、喜んで息子をくれてやるがな」
もう何も言うまい……。
激しく脱力した身体を引き摺りながら、私は市場へ向かう為にその場を後にした。
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To be continued...
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多少のハプニングやサプライズがあれど、まだまだ続く嵐の前の日常。物語はこれからです。
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