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俺とあなたのイケナイ出逢い の履歴(No.4)


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俺とあなたのイケナイ出逢い




 ――あら、いらっしゃい。このお話は大会の内容上、成人向けよ。言うまでもないわね。
 それとあんまり詳しくは言えないけど、話の内容に生々しい捕食描写同性愛要素が一部出てくるから、注意してちょうだい。
 加えて、とある力で普通じゃあり得ないことが起きちゃうんだけど、ファンタジーだからって笑って許してあげてね。

 それじゃあ肝心の本編に、レッツゴー!


プロローグ ~悩めるひとり遊び~



(ぐっ……イくっ!!!)
 口を噛み締め、声を殺して身を震わせ、そそり立つチンポから快楽のエキスをビュルビュル解き放つ。俺の視線の先には只の岩壁。その辺の奴らにはそうとしか見えないだろう。だが俺の目は違う。ギラリと光れば隔てられているその先を見通す事など訳ない。目に映っているのは、ひっそりと事に及ぶカップル。俺が果てるのと同じタイミングで、彼らも絶頂を迎えていた。いや、厳密には俺が向こうに合わせているのだが、細かい事は置いとこう。
 出す物を出して、急速に奪われる熱量。激烈な快楽の余韻を妨害する憎らしい雄の性だが、手早く後始末をするに当たっては好都合。前足に付着した物は舐め取り、地面にやや広がりながら直線状に迸った物は周りの土を被せる。そして肝心の出所となったチンポも例に漏れず汚れ、そこは背を丸めて舐めたり咥え込んだりしてぬめりを取り去る。スペルマの鼻に突く臭いや絶妙な甘じょっぱさを孕んだ苦味もすっかり慣れてしまった。
 痕跡を隠し終えて、再び壁の中を見る。営んでいた二匹は、先程まで熱情のままに絡み合っていた性器からそれぞれ汚れを滴らせながら、可惜夜(あたらよ)が明けんばかりの哀愁を纏わせていた。どんな事情か知らないが、結ばれない運命でも抱えているのだろう。そんな切ない境遇の中での秘め事。彼らには不謹慎だろうが、実にいいものを見せてもらった。


 俺の棲み処に程近いこの場所は、周りが壁に囲われている事もあって、愛の営みや肉欲の解放の場として使われている。壁の向こうまで見通せる俺は、付近の茂みに身を隠しつつその現場を覗き見ては独り楽しんでいるって訳だ。その日によって異なる種族、関係、行為諸々は見る目を飽きさせず、なおかつ俺の欲望の捌け口にもなるため、日々の生活に欠かせない時間となっていたのだ。



 そんな俺にも訪れる、肉欲を直接満たせる機会。相手と顔を合わせるや、ご無沙汰だった行為に胸が躍る。
「よろしくお願いします……」
 控え目がちに挨拶する相手。よろしくと言葉を返すと、早速スキンシップを図った。相手はちゃんと乗ってくれて、口付け、そしてフェラまでやってくれる。
「いいぞ、上手いじゃないか……!」
 口腔の心地よい温かさと粘膜の柔らかな感触で、チンポは忽ち硬く膨れ上がる。先端に密集する突起を目にして、相手はちょっと驚いているようだ。
「大丈夫、優しくするからな」
 と低くトーンを抑えた声で囁くと、相手はその気になって臀部を突き出した。晒される穴が物欲しそうにひくひく動いている。
「じゃ、いくぞ」
 ゆっくり相手の背中に体重を掛け、チンポを強欲な穴に優しく突き立てると、そのまま力を込めて肉を抉じ開けながら侵入する。途端に包み込む程よい体温と弾力、この感覚が懐かしい。体内の表面の凹凸と俺の先端の突起が触れ合う事で生じる刺激的な摩擦は、ゾクゾクと俺の身を震わせる。相手も俺のチンポの形が癖になるのか、甘い声を漏らして息を乱し始める。根元まで収めてから、俺は腰を前後した。その動きに合わせて、ニュルニュルと敏感な凸と凹が擦れながら噛み合う、交尾でしか味わえない快感を享受する俺達。目を光らせると、チンポが相手の体内を掻き回す様が見られてこれまた堪らない。上気する中で俺に犯されてよがる相手をぺろりと一舐めして、心地よい瞬間目掛け腰を振り続けた……



 …………



 ……あれ?
 自分の身に起きている事に、当惑を禁じ得ない。あれ程気持ちいい筈なのに、それに反するかの如くチンポは体内で勢いを失い掛けているのだ。今までも交尾の機会はあったが、いずれもちゃんと最後までイけていただけに、こんな事態は初めてだった。必死に誤魔化そうと抽送を速めるも、びっくりする程効果がないみたいだ……。俺の腰は、いつの間にかぴたりと止まってしまう。
「……大丈夫?」
 振り向いた相手の顔に滲み出る心配の色。
「……悪い、なんか調子がよくないみたいだ。そんな感じはしないんだけどな」
 溜息混じりに苦笑い。そしてチンポは完全に中で萎む。所謂中折れってやつだ。
「……無理しなくて、いいから」
「ごめんな……」
 無駄に相手に気を遣わせた事実と中折れした不甲斐なさに打ちのめされ、幾度も詫びながら結合を解いた。ねっとりと引かれた糸に、白い汚れは見当たらない。結局相手とはこれ以上の事はせずに別れ、帰路に就く。その足取りは、(おもり)でも巻かれているかのようだった。嫌な思いさせちまったな。口を開けば零れるは溜息ばかり。一体どうしてこんな事になっちゃったのやら。
 その通り道に、日々の楽しみの場があった。とぼとぼ歩きながらその場所に目を光らすと、中で(サカ)る二匹の姿。騎乗位で攻め立てていて、両者とも快楽にのめり込んでいるようだ。チッ、派手に楽しみやがって。そう思いながらも結局吸い寄せられていつものポジションに。そして騎乗位は好みの体位としては上位なのもあってか、あんなに気落ちしていたのが嘘みたいにチンポは鞘から飛び出てムクムク膨らみ始める。こうなったらここで発散するしかあるまい。結局いつものオナニータイムが始まった。
 俺の目は壁越しに止まらず、交尾中の体内まで見る事が出来る。今まさに乱れ狂う二匹。仰向けになっている雄のチンポは、彼の上で艶やかに舞う者の体内で貪欲な肉壺に主導権を握られ、激しく擦れながら気持ちよさそうに膨らんで我慢汁をじわじわ搾り出されているのがはっきり映る。主導権を握りがちなチンポが弄ばれる、これまたいい快楽のスパイス。それを俺は、前足から放つ電撃で自らのチンポをビリビリ刺激しながらグニグニ揉んで性感のままに漲らせていく。出せなかった不満も手伝ってか、今日はいつも以上に早いペースで高まっていくような感じがする。電気タイプながらこのビリビリとした刺激は我ながら病み付きになっていた。
 壁の向こうで乱れていた奴らも、いよいよ快楽の炸裂が目前に迫るのが分かる。ヒダヒダな肉壁の圧が強まり、上下に踊る肉体が雌の快楽に仰け反りながら強張りを交える。弄ばれる雄のチンポの根元、金玉から前立腺にスペルマが流れ込んで中が満たされていく。それに合わせて体内でパンパンに張り詰めて肉壁を押し拡げる。いいぜ、いいぜえ。気持ちいいよな、イく寸前のその変化。俺もすっかり触発され、ビリビリ刺激し続けるトゲトゲチンポもそれに追従して狂おしい快楽を伴う変化を遂げていく。ドクドク漏れる先走りで更に電気の通りがよくなった。
 壁の向こうで肉壺が限界ギリギリのチンポをキュゥと締め付けてお強請(ねだ)りする。雄はそれに負けて屹立の中で濃厚な流れが駆け上がって行った。
「ぐるっ……!!!」
 壁の向こうのチンポとシンクロして、心地よい衝撃が体中を通って脳天を突き抜ける。思わず呻きを漏らしつつ、白い弧が描かれた。あの時の反動で、やっぱり量は普段以上。鼻を突く臭いも一層強く感じられる。今は唯、何もかも忘れて解放に陶酔する。チンポがドクンドクンと力強く脈動するのが、とても心地よい。


 ……だけどやっぱり、熱を奪い去るあの時間がやって来た。世の野郎どもは「賢者タイム」とか呼ぶが、この時ばかりはあんな高貴な言葉で片付けられる代物じゃない。無駄に冷静な脳は、壁に隔てられた両雄の明暗を、視覚から残酷なまでに情報を嵩増しして、「現実」という形で突き付けてきやがった。独り俺のチンポから放たれたスペルマは、受け止める物なく地面に墜落するばかり。一方で壁の向こうじゃ……あークソッ! 考えれば考える程惨めになるだけだ! 致した痕跡を普段以上に速いペースで消して、そそくさと棲み処に戻って行った。戻った所で溜息ばかり。寝るまでそれは途切れる事がなかった。

美しい鳥との出逢い


 どうにも納得出来ない。俺は再び、昨日交尾した相手に会いに行った。昼下がりの突然の訪問に驚きつつ、困惑が滲み出ているのが窺えた。それでも俺は頭を下げた。
「頼む! もう一度、俺と交尾してください!」
 沈黙の時が流れる。目を合わせるのが怖かった。
「……ごめん」
 やっと返ってきた答えは震えていた。
「ちょっと忙しくなって、時間、作れないから……」
「そうか……ごめんな」
「たぶん、しばらく会えないと思う……」
 俺は何も言わずに、その場を後にした。無性に湧き上がる苛立ちに、口元から牙を覗かせる。何だよ、気なんか遣って嘘つきやがって。中折れするような奴とヤりたくないって素直に言ってくれた方が、傷付くけどまだいいぞ! くそったれ!
 地面に爪を立て、三本平行に深い溝を掘る。それを特に思案するでもなく凝視していると、鼻面に何かが当たって痛みに飛び上がる。その正体は木の実で、すぐ側に転んだと思われるホシガリスがいた。慌てて起き上がり、鼻に当たった木の実を回収して俺をじっと見つめる。取るなよと言われたような気がした刹那、俺の苛立ちは最高潮に達した。


 ――前足で押さえ付けられ、喉元を噛まれたホシガリスは事切れていた。
「くっ……」
 口元を(あけ)に染め、苦虫を噛み締めた。木の実では足りない栄養素を補うために、狩りをして肉という形で命を(いただ)いているが、咄嗟の感情に任せた今のは無益にも程があった。とは言いつつ仕留めた獲物には違いない。許してくれ、と一言詫びて亡骸を我が血肉にした。モヤッとした思いを抱えつつも食べる肉は、木の実を沢山食べているお陰か脂が乗っていて旨かった。せめて生まれ変わってもたらふく食ってくれと願いを込め、残骸は実が沢山()る木の側を流れる川に流した。俺の先祖が棲んでいたヒスイ地方の習わしを、今も俺は実行しているのだ。それは同時に、肉を食う俺なりの、礼儀であると自負していた。
 ついでに川で血糊を洗い流してから再び棲み処へと足を進める。日が落ちる森の中、騒がしさを耳で捉えて目を光らせると物陰でカップルが仔作りに勤しんでいたり、一方でゲイカップルが掘って掘られて共に快楽を謳歌したり。永久の契りを交わしたかワンナイトラブかは(わか)りかねるが、そんな様子を目にして腹は図らずも膨れたのにてんで気分は満たされない。あの時中折れさえしなきゃ……再度俺自身への苛立ちが蘇った。でもまたさっきみたいに感情に任せた無駄な事はしたくない。必死にそれを抑えつつ重い足取りで進んだ。


 棲み処に程近い開けた場所。普段から誰かしらの姿を目撃する場ではあるが、目に飛び込んで来たその姿は、今まで見た事がなかった。そこに佇む一羽の鳥。その容姿は只々美しく、俺は視線を奪われてしまう。動き出してもその所作の一つ一つが滑らかかつ綺麗で、見れば見る程茫然とその鳥に惹き込まれていく。するとその鳥がこちらに気付いたか、綺麗な瞳で俺を見つめ、舞うが如く艶やかに翼を靡かせてきた。風に乗って心地よい香りがしてくる。はっと我に返り、咄嗟にその場を後にした。
 棲み処に戻ってようやく腰を落ち着ける。中折れした相手の事やホシガリスの命を奪った事も頭にちらつくが、あの美しい一羽の鳥が、圧倒的に脳内を支配していた。日が落ちて寝床で横になるが、未だあの美麗な姿が焼き付いて離れない。深呼吸しても、あの姿に胸は高鳴り続けてばかり。何だろう、こんな気分になったのは、生まれて初めてかもしれない。また現れるだろうか、そんな事まで思い始めていた。



 ふひぃー……
 翌日、いつもの場所で壁越しの営みを覗きながら、ビリビリ刺激的なオナニーで欲望を白くぶちまけた。今日の奴らは熟し過ぎて腐り掛けた木の実みたいに甘ったるい交尾だったが、そういうのも実にいい。前方に散った白は量が多いように見える。そういや昨日はするどころじゃなかったっけな。
 そそくさと後始末をして、場を後にした。棲み処への通り道のすぐ脇に、あの開けた場所がある。目を向けてみると、昨日に続いてあの美しい鳥が佇んでいた。遠くからじっと眺めていると、しばらくして向こうも視線を俺に向けてきた。昨日は咄嗟に逃げたが、今日は逃げずに留まる。潤んだような輝きの瞳は、俺を引き込んでくるかのようだ。昨日みたいに翼を靡かせ、風に乗ってまたあの心地よい香りが鼻に飛び込む。鳥は動きを止め、俺を見ながら手招きするかの如く(おもむろ)に翼を動かした。俺の足は勝手に動き出す。徐々にその鳥との距離が縮まる。俺達は初めてまともに対峙した。美麗な鳥は、思いの外大きかった。
「ふふっ、初めまして」
 嘴から発した声も、見た目に違わぬ艶っぽさを含んでいた。
「は、初めまして……」
 何故か俺は緊張気味に言葉を発していた。固くならなくていいのよ、と彼女は笑みを零した。
「お兄さん、ここの住民かしら?」
「あ、はい。生まれはここじゃないですけど、ここに移り棲んで五年程経ちます」
「ならこの辺のことはわかりそうね。あたし、ここに来たばかりで何もわからなくて。あなたさえよければ、ここのこと色々と教えてもらえると助かるわ」
 秀麗な顔立ちに滲む不安。独りで知らない土地に棲むのは心細かろう。五年前ここに来たばかりの俺と重なった。
「わかりました。こんな俺でよければ、この場所の案内とかはお任せください」
「ありがとう! 本当助かるわぁ」
 鳥が見せた満面の笑みに、ドキッと胸が高鳴った。過去に同じ気持ちを味わった身として、役立てるならば何よりだ。


 手始めに、この周辺についてふたりで回って、川や池の位置、木の実の場所や、縄張りを持つ住民とその範囲について彼女に教える。自然を壊して作り替える人間の影響の少ない恵まれたこの地を、彼女は気に入ってくれそうな感じだ。
 そしてここに棲むならと、俺は彼女をある場所へ案内した。見えてきたのは大き目の棲み処。俺が声を掛けると、中から声が返ってくる。出て来たのはニドクインさん、そしてガルーラさん。
「あらレントラー君こんにちは! そこにいるのは誰?」
「ここに来たばかりだと言うので、案内して回ってました。名前は……そういやまだ聞いてなかったな」
「初めまして、あたしはプルメリアと申します。よろしくお願いしますね」
 華麗な所作でニドクインさん達に挨拶する、プルメリアと名乗った鳥。
「俺もここに来た頃は、このおふたりにお世話になったんです。ですから、何かあったら色々聞いてみてください。ニドクインさんたちも、彼女が困ってるようなら助けてあげてください」
「お安い御用よ!」
「わからないことがあったら、なんでも私達に聞いてね!」
 彼女らはプルメリアを歓迎し、和やかな雰囲気に包まれた。棲む場所もすぐに確保してくれ、ガルーラさんがプルメリアを連れてその場所へと案内する。これで一先ず安心だな、と胸を撫で下ろしていると、ニドクインさんが手招きした。何かと思って近づくと、神妙な面持ちで耳打ちした。
「あんた、あの子とどこで知り合ったの?」
「ああ、あの森のちょっと開けたところにいたんですよ。ここに来たばかりだからって言うんで、案内を買って出たんです」
「そう……」
 ニドクインさんは周囲を見回してから、再び耳打ち。
「ああいうタイプのメスって絶対何か裏があったりするから、気を付けなさいよ。今まであんたの浮いた話を聞いたことがないから、余計に心配でさ」
「大丈夫ですよ。特にそういうのはないですから」
 ニドクインさんなりのお節介に苦笑を返す。ましてや初めて出逢った昨日の今日、そういう事すら全然意識してもいなかった。
「ならいいけど……」
 ぽつりと返す彼女の表情には、未だ不安が残っているように窺えた。



 それ以来、俺は彼女と話す機会が増えた。ミステリアスな雰囲気が漂い、余り過去を多く語る事はないものの、得意とする踊りや歌は見事なもので、披露するや、途端に俺は目と耳を奪われてしまった。俺より年上なのは明らかで、彼女の事を「姐さん」と呼ぶようになっていた。いつの間にか、姐さんと一緒にいる時間を楽しいと思えるようになっていたのだ。
 そして時折、俺に対して艶やかな仕草を見せ、その度に俺の心臓は音が聞こえるかの如く高鳴るのだった。独特の香りはこの体から発せられているようで、いつしかそれを嗅ぐだけでも体が温かくなるような感じがしていた。

悩めるオスに、立ち上がれ


「レントラー君、あなたの棲んでるところに行ってみたいわ」
 出逢ってから数日、姐さんの突然の言葉にドキッと毛が逆立つ。誰かを招くような所じゃないとやんわり断っても、彼女は気になると繰り返すばかり。仕方ない、と折れて結局姐さんを棲み処に案内する事にした。
「あら、意外とシンプルなのね」
 目を丸くしながらぐるりと見回す姐さん。雨風凌げる場所だが、寝床と雨水を溜めた水場、採った木の実を貯めるスペースがあるだけ。しかも寝床に敷いた藁は三日程替えていない。
「野郎臭いところですけど、こういうの大丈夫ですか……?」
 苦々しく訊いてみると、彼女は笑顔を返した。
「大丈夫よ。全然気にならないわ」
「そうですか……」
「そうよ。逆にあなたのこと、もっと知りたいもの」
 そう言うと、彼女は俺に身を寄せてきた。むさ苦しい空気を打ち消す芳しさが、より強く鼻に感じられる。体は熱くなり、心臓はバクバク鳴っている。
「ねえ、レントラー君っておちんちんがトゲトゲしてるんでしょ?」
「へっ!?」
 言葉の不意打ちに素っ頓狂な声が上がってしまった。翼が伸びて俺の股間に触れる。羽毛の柔らかさにゾクゾクッと毛が逆立った。
「あなたのこともっと感じたいから、あたしと『交尾』、しましょ?」
 姐さんは耳元で囁き、色仕掛けを繰り出す。突然の展開に戸惑い、躊躇していた筈なのに、耳に吹きかかる吐息と股間の柔らかな刺激に、俺はいとも簡単にその気にさせられていく。
「ずるいですよ、姐さん……俺たち、まだ知り合ったばかりですよ……?」
「あら、あたしがその気なんだから、ここで応えなきゃ雄が廃るわよ?」
 朝露のように煌めく目を細め、空いた翼で嘴元を隠し、笑いながら急所をやんわり責める。煽情的な仕草も相まって、俺のチンポはムクムク膨れて鞘から飛び出し始める。執拗に責め立てられて、あっという間に勃起してしまう。
「ほんとにトゲトゲしてるのね。絶対気持ちよさそう」
 姐さんは俺のチンポを見て褒めそやす。俺自身この大きさと形状を誇らしく思っているので、艶やかな彼女に褒められて自ずと上機嫌になってしまった。
 そして彼女は俺の前に佇んで背中を見せる。尾羽を上げると、しっとり濡れた羽毛から覗く深紅の穴が目に入った。ごくり、と生唾を呑む。だが同時に、あの出来事が頭を過った。本当に大丈夫なんだろうか、緊張もあって俺はここから先へ進むのに尻込みしていた。
「早くしなさい。あたしがこうして待ってるのよ?」
 振り向いた秀麗な顔立ちは、熱を帯びているようだった。わかりました、とやおら姐さんに覆い被さる。チンポの先を物欲しそうな穴に押し当てるとスルスルと呑み込み、彼女の熱が突出した部分に強く感じ始める。そして包み込む肉に圧迫される。突起の並ぶ先端が、肉の凹凸をより強く捉えると同時に、俺に心地よい刺激をもたらす。鳥の匂いに混ざってあの香りを一層強く感じる。今までの交尾とはどこか一味違う物だった。
「姐さんの胎内(なか)……すごくいいです……!」
 根元まで挿入して、感触を味わう。彼女が圧を強めると、その刺激は快感に変換されて俺の体を駆け巡る。ゆっくり腰を動かして抽送を始める。
「あぁっ、レントラー君のおちんちん、いい刺激だわぁ……!」
 嘴から零れる吐息に、艶やかな声が混ざる。そんな姐さんを見下ろすと、更にドキドキしてきた。俺にとっても、こんな気分になる交尾は初めてだった。姐さんを喜ばせられるなら。俺は腰振りでそれに応えようとした。胎内の凹凸とうねり具合で、侵入した雄をとことん虐める名器である事は容易に想像が付く。目を光らせて透視すると、これまで見た物とは違う感じの構造だった。これは確かに気持ちいい。



 気持ちいい、のだが…………。



「あら、どうしたの?」
 どうやら姐さんに感付かれたらしい。畜生、気持ちいいのにチンポはまだ不満だと言うのか!? より激しく腰を振ってみるも体はこれ以上気が乗らないのか、姐さんの胎内で徐々に力を失っていくのが嫌でも分かってしまう。
「あらー、あたしも久々にイけそうな感じだったのに……」
 火照りを残しながら残念そうな顔をする姐さんを見て、委縮に拍車が掛かった。いつしか腰も止まり、はぁ、と溜息を零す。
「大丈夫? 緊張してる?」
 心配そうに尋ねる姐さん。確かに緊張していたのは間違いじゃないが、それ以上に大きく寄与していたであろう、あの懸念。
「……すみません姐さん、最近になって、気持ちいいのに中でイけなくなったんです……」
 小さく震える声で、正直に告白した。そして姐さんを解放する。糸を引きつつ抜かれたチンポはすっかり縮み、その汚れには案の定白が混ざっていない。
「もう、そんな顔しないで」
 力が抜けて座り込む俺に翼を伸ばし、そっと頭を撫でた。泣きそうなのを堪えて情けない表情になってただろうな。それを姐さんに晒してしまった羞恥が途端に湧き上がってきた。
「あなた、どうやら膣内射精障害みたいだけど、ふだんどんなオナニーしてるのかしら? よかったらあたしに教えてくれる?」
 そう訊かれ、一瞬躊躇する。自分のオナニー事情なんてやたらめったら話す事などない上に、嗜好を曝け出す羽目になるから恥辱の極みだ。
「そうそう。ちなみにあたし、治し方を知ってるし、実際にその悩みを解決した実績があるの。まだ若いし、こんな立派で素晴らしいおちんちんなのに、イけないのはもったいないわよ?」
 ぴくり、と耳が動いた。姐さんはニコッと笑う。彼女の(おだ)てに背中を押されたような気がした。
「みんなには黙っていてほしいんですけど、お、俺、実は……」
 姐さんに普段のオナニーについて包み隠さず打ち明けた。透視で交尾を覗き見ては致している事、電撃でチンポを刺激して射精に至っている事、その他諸々……。
「へえ、あなた一見まじめそうなのに悪趣味なのね」
 分かっちゃいたが、ぐうの音も言えない。かーっと頬が熱くなった。
「それはおいといて、やっぱりオナニーに問題があるわね。ただでさえ電気って早漏を治すのに使われるし、それで結構強めにバリバリやったら、感じにくくなるのも当然よ?」
「そ、そうなんですか……でも俺電気タイプですよ? イくときに普通に放電するんですけど……」
「そうじゃなくて、タイプに関係なく日常的に強い電気でおちんちんを刺激するのがよくないと思うの」
 強まる姐さんの語気に、俺は唯タジタジするばかり。加えて、透視で窃視という特殊なシチュエーションで致している事も駄目だと、昨日までやっていた嗜みをバッサリ切られてしまう。
「とにかく、今のやり方よりも弱い刺激でイけるようにならなきゃ、いつまで経っても治らないどころか悪化する一方よ?」
「うぅ、そんなの嫌です、姐さん……」
 鼻の奥がつんとして、綺麗な姿がぼやける。彼女は俺の頭をそっと柔らかな翼で包み込んだ。温かくて、ふかふかして、遠い故郷に棲む母親みたいな安心感に涙が零れた。
「ふふっ。もう、泣かれちゃったらなおさらほっとけるわけないじゃない。大丈夫、あたしに任せて。過去に春を(ひさ)いでた経験と知識は伊達じゃないわよ」
 さり気なく衝撃的な過去を暴露したが、真剣に悩む俺には些細な事だった。よろしくお願いします、と俺は彼女に深く頭を下げた。知り合って日が浅かったが、藁にも縋る思いだった。


「そうと決まれば、あたしもここで寝泊まりした方がいいわね」
「え、えっ? ここでですか!?」
 目を丸くして困惑してしまう。ちょっとの間招き入れるだけのつもりだったのに、まさかこれから夜を一緒に過ごす事になるのか?
「当たり前じゃない。昼間より夜の方がいいでしょ? あなたに付きっきりで治すんだから」
「え、ガルーラさんが用意してくれたところがあるじゃないですか」
「あそこはあそこでちゃんと使うわ。とにかく、早速今夜から始めるから、あたしの寝床も用意しなきゃね。レントラー君」
 少しあざと目のウィンク。下手に逆らえない雰囲気になり、渋々折れて新たな寝床を作り始める。藁にも縋るどころか、いつの間にか藁を敷き詰める展開になってしまっていた。

第一段階


 寝床を整えてすぐに、姐さんは出かける所があるからと飛び立って行く。始まった突然のふたり暮らし。惹かれた美鳥が間近の存在になった一方で、俺達は上手くやれるのか、中折れを治してくれると言うが本当に治るのか、綯交ぜになった不安に胸が押し潰されそうになっていた。それでも、彼女が戻った途端に広がるあの匂いを嗅ぐと不安が薄らぐのが、ちょっとは救いだった。


 日が暮れて、近くで採った木の実を食べる俺達。こうして誰かと同じ棲み処で一緒に食べるなんて何年ぶりだろうか。姐さんとの食卓は新鮮であり、どこか懐かしささえ覚えた。
 一休みして腹の中がこなれてきた所で、姐さんはすっくと立った。
「それじゃあ早速、始めるわよ。ほら立って」
 唆されるままに立ち上がる。すると彼女は俺の懐に潜り込む。毛皮に触れる柔らかな羽毛が、少し(くすぐ)ったい。些か戸惑っている俺を前足の隙間から見上げる麗しい顔立ちが、点す灯りに揺れる。
「こういうのはどうかしら?」
 姐さんは足を伸ばし、背中を俺の腹に強く押し当てた。羽毛越しに伝わる体温と肉感、そして強く立ち上るあの芳しさ。腹周りで最も突出したチンポに、圧迫感が集中する。彼女はそのまま前後に動き、擦り付け始めた。
「あっ、やば……すごいですっ……!」
 電気とはまた違う、羽毛と肉による強い摩擦がチンポを反応させる。鞘が剥けて膨らむにつれ、強まる刺激は快感に変換される。途端に硬さを得て、刺激に反応して心地よく脈打ち始めた。
「ふふっ、あなたの立派なモノがあたしの背中で喜んでるわね」
 俺の勃起したチンポの存在を感じられて、姐さんは嬉しそう。褒め上手な彼女のお陰で、もたらされる雄の快感が一層引き立てられる。
「めっちゃ、いいですっ! 姐さん……!」
 顔を歪め、ぞくりと戦慄きながら息を乱し、脈打つチンポと共に熱くなっていく逞しい体。擦れる部分の感触がふんわりからぬるりと変わり、気持ちいい証が漏れて汚している事を実感出来る。動く事で姐さんがより一層香る。それに混じって、彼女に似つかわしくない嗅ぎ慣れた臭いが徐々に強まってきた。
「うぅっ、姐さんに、俺のにおいが……!」
「気にしないで。喜んであなたのにおいを付けるわ……」
「ね、姐さ、うあぁっ!」
 性感に身震いして、滲む汗を散らす。背中で奉仕を続ける姐さんも、身が火照っているのが伝わる。チンポは脈打ちながら徐々に痛い程に張り詰めていき、押し付けられる背中や俺の引き締まった腹と共に、一層ぬめりを纏ってスムーズな摩擦をもたらす。先端の突起が羽毛に絡み付いて性感を容赦なく増幅している。ここ最近オナニーでしか得られなかった、こみ上げるような下半身の内圧を感じ始め、チンポと金玉が心地よく疼いてくる。
「あっ、あぁ! キちゃいそう、ですっ!」
 一切の腰振りを伴わない雄の昂りが、その頂点目掛けて加速するのに合わせ、内圧も高まる。歯を食いしばり、肉食いならではの鋭い牙を口から覗かせた。
「かはっ! 背中、汚しちゃいます! 姐さんっ!!」
 限界が迫る喜びにチンポはより大きく膨らもうとして筋張り、耐え難くなっていく性感に甘く吼える。
「遠慮しないで、派手にイっちゃいなさい」
 姐さんは気持ちいい粗相を歓迎した。ぞくりと強烈な電流が走り、下半身の圧がチンポに向かって解放される。
「あっあぁぁぁぁぁっ!!!」
 濃厚な流れが突端に達した瞬間、股間から脳天を突き抜ける猛烈な快楽の電撃に、汗に濡れて強く臭う体をわなわな震わせた。そして姐さんの背中にびゅくびゅくと濃厚な精を漏らす。密着する俺達の隙間にどんどん浸透していくのが分かる。
「うふふ、いっぱい出ちゃってるわね」
 汚れる感覚は確実に姐さんにも伝わっているだろう。艶やかに潤む目を細める。心地よい鳥の体臭と俺が発する雄獣臭に混じり、鼻を突く独特の臭いがしてきた。次第に弱まる律動を覚える中で、しばらく絶頂の余韻に浸っていた。


「よくできました」
 茫然とし続けている中、懐から抜け出した姐さん。その背中にはべっとりと雄の絶頂の証が白く塗られている。
「す、すみません俺のせいで……!」
 はっと我に返り、率先して俺の粗相を舐り取る。鼻に突く臭いや絶妙な甘じょっぱさを孕んだ苦味は普段と大差ない筈なのに、一味違うのはそれが姐さんの体を汚しているからだろう。ざらつく猫舌に絡んで羽毛が抜けたのに気付き、より優しく、ゆっくり舐め取った。その間にも、ぼーっとするような不思議な気分になる。
「あら、ありがとう。あなたのお腹も汚れてるから、あたしがお返しするわ」
 俺の腹に首を伸ばし、細長い舌で青臭く雄臭い粘り気を絡め取るようにきれいにしていく。異性に対しても迷いのない舌使いに、俺の知らない姐さんの過去の経験が滲み出ているような気がした。
 皮膚の薄い腹部、ましてや萎み切らずに鞘から露出し続けるチンポにも容赦なく舌が触れ、その擽ったさに余熱が燻る身を震わせてしまった。チンポは少しだけ大きくなったものの、猥褻な営みの直後でそれ以上の進展はなかった。
 ふとした拍子に目に入った姐さんの穴は、少し濡れていた。


 灯りを消して、寝床で丸くなる。作ったばかりの新しい寝床で、既に寝息を立てている姐さん。途切れる事のないあの芳香が、暗闇でも彼女の存在を主張していた。つい意識してしまい、強まる胸の鼓動。疲れている筈なのに、中々眠気が来ないまま夜は更けていった。



 目を覚ますと外はかなり明るく、普段より遅い起床だと即座に分かる。
「おはよう、ねぼすけさんなのね」
 既に起きていた姐さんに揶揄(からか)われる。寝つきが遅かっただけで普段はもっと早いと弁解したが、伝わってないだろうな。そもそも誰のせいで……と言いたい衝動をぐっと抑えた。
 俺が朝食の木の実を食べ終えるのを見届けるなり、姐さんは飛び立とうとする。どこへ行くのか訊いてみたら、単なるお散歩との事。空を飛ぶのに散「歩」とはこれいかに、ってのはおいといて、一緒に棲んでいる事を知られないようにしてほしいと彼女に頼むと、すんなり承諾した。とりあえず彼女を見送る。俺も一っ走りしよう。
 棲み処を出て、馴染みの道を走り回る。いつもの景色が通り過ぎ、馴染みの顔ぶれが目に入ると挨拶を交わす。その一匹に突如呼び止められた。
「あれ、お前なんかいいにおいしない?」
「そうか? だとしたらさっき花が多いところを走ったからかもな」
「ふーん」
 咄嗟に誤魔化してやり過ごしたが、もしかして俺の体に姐さんのあの香りが染み付いてるって事だよな。体を洗った方が、と近くを流れる川へ足を運んだものの、何故かそれ以上は気が進まずに足が止まった。何でだろ。ぼんやり考えていると水中に何かの影が動く。透視するとそれはサシカマスと呼ばれる魚だった。丁度よく腹が鳴る。そろそろ体が肉を欲し始めていたから好都合。俺と奴以外は誰もいない。俺は息を潜めて徐に前足を伸ばす。伸ばした爪を水面に付けた刹那、短く強烈な電撃を放った。
 ぷかりと浮いてくるサシカマス。それを咥えて、再び周りに誰もいないのを確認してから静かに、かつ一気に貪った。仕留めてからさっさと食べないと死臭が立ち込めてしまう。魚の死臭はどうも苦手だ。それに只でさえ俺は余所者な上に生態系の頂に立つ肉食いの種族。派手な狩りをして周囲に怖がられるのも嫌だから、こうして密かに狩りを行って肉欲(、、)を満たす。我がままを言うなら、魚だと淡白でちょっと物足りないが。


 小腹を満たした所で残骸を川に流し、俺はそのまま棲み処へ向かう。途中、いつもの楽しみの場が目に入り、立ち止まる。今日も誰かがせっせと営んでいるのが耳に届く。茂みに入って透視すると、壁越しにその仔細が見えてきた。いつもの癖で俺は事に及ぼうとした。
「だーめ」
 突如脳内で姐さんがそれを止めた。……そうだ。こんな事をしているから俺は中でイけなくなったんだ。そして次々脳裏に浮かぶ、雄として屈辱的な場面。はぁ、と溜息を零して足取り重く茂みを後にする。せっかく姐さんが治してあげると言ってるんだ。治るまでは近寄らない方がいいな。名残惜しいが、その場に背を向けて棲み処へと戻った。
 ……そういえば、体、洗ってなかったな。まあいいや。


 その日の夜も、姐さんは俺の懐に潜り込んで、背中でチンポに圧を掛けて刺激する。だがそれは、昨日よりも確実に弱いのが分かる。こんなのじゃ満足出来ない。俺は腰を落として押し付ける。
「だーめ、押し付けないであたしに委ねて。あと透視もしちゃだめよ」
 ウィンクを交えてそう言われては、我慢してされるがままになるしかない。結局それでチンポが満足する筈もなく、絶頂に至れないまま行為は終了してしまった。当然ながら先走りしか漏れなかったので、汚れも大した事なくすぐに掃除も終わる。
 イけなかった虚しさに項垂れていると、姐さんが翼で頭を撫でて慰める。
「そんながっかりしなくていいのよ? 溜めてる日数とかその日の体調、気分によってイきやすさなんか大きく変わるんだから」
「俺……これでいいんですか?」
 漠然と湧き上がる不安をぶつけると、姐さんは艶やかな笑みで答えた。
「いいのよ。これはあくまで、弱い刺激に慣れるためにやってるんだから、イけなくたって構わないわ。ほら、日を空けて溜めた方が刺激に敏感になって、かえってイきやすくなるものでしょ?」
「た、確かにそうですけど……」
「漲る雄になるには時間が必要なこともあるのよ。だからめげずにがんばって」
 俺の赤い鼻面に、嘴を軽く触れる。何だろう。姐さんの励ましを受けて前向きに思える自分がいた。


 寝る準備を整えると、姐さんはすぐに眠ってしまう。姐さんを意識してドキドキしてしまうも、先日眠れなかった分の疲れも押し寄せて、案外すんなりと眠ってしまった。

第二段階


 目を覚ますと、やはり姐さんは先に起きていた。外はまだ日が昇ったばかり。
「おはよう。今日は早いのね」
「おはようございます。これがいつもの時間ですから」
 寝坊助(ねぼすけ)のイメージを付けられたくないがために少しばかり強調する。姐さんの足元には普段俺が採らない木の実がちらほら。訊くと、美貌を保つために食べる木の実にもこだわりがあるとか。体を動かすために食べる物という認識の俺からすれば、少し理解が及ばない部分もあった。姐さんと向かい合って木の実を食べる。大きな口と牙で噛み砕いて飲み込む俺に対し、姐さんは少しずつ嘴で(ついば)んで、飲み込むと喉元に出来た膨らみが徐々に下へと移動するのが見える。その仕草すら艶やかで、俺はつい見入ってしまった。気付いた姐さんが微笑む。照れ隠しにガツガツ食った。


 食べ終わると、姐さんは早速散歩とばかりに飛び立った。その姿に目を奪われた後、俺も周囲を走り始める。走る事で体を鍛え、いざ狩りとなった時に体が(なま)るのを防ぐ。熱を持った体から噴き出た汗が風に吹かれて蒸発する、あのひんやりした感じが実に気持ちいい。決して足が速いという訳ではないが、走る事は大好きだ。
 棲み処に程近い森の中を駆け回っていると、視界にある物が目に入る。足を止めて近づくと、比較的大きな種族が一匹倒れていた。すぐ横の木に刻まれた、真新しく派手な衝突痕。確認すると息はなく、触れた表面はまだ温かかった。
 しめしめ。俺はすっかり心躍っていた。狩りをするまでもなく、こんな大きな食糧を手に入れられたのだ。嬉しくない訳がない。これで二、三日は食えるだろうか。だが棲み処へ運ぶには大き過ぎた。ぐう、と示し合わせたかの如く鳴る俺の腹。牙を光らせ、涎を垂らしながら舌なめずり。
「いただきまーす」
 薄い腹の皮膚を食い破り、先ずはそこに収まる(はらわた)を一心不乱に貪った。牙が食い込み、噛み千切ったり引き千切ったりする時の感触。旨味が一気に口内に広がり、溢れ出すまだ温かな血を啜って喉を潤し、肉が喉を拡げつつ腹の中へ通って行く。一連の行為に覚える快感にこそ、本能的に体が肉を欲する肉食いの種族である事を実感する。部位毎に異なる食感や味わいもまた、食べる楽しみに華を添える。木の実とは異なり、食べた物がそのまま血肉となって俺の体を形作る。生きるために必要な物だからこそ、旨い。ましてやそれが狩りに伴う罪悪感を伴わなければ、尚更旨い。
 ……おっと、これ以上食うと明日以降の分がなくなる。程よく腹も膨れ、食べるのを中断してから獲物を引き摺って棲み処へと戻った。


 到着すると、既に姐さんの姿はそこにあった。
「あら、おかえりなさ……!?」
 姐さんの美麗な目が途端に丸くなった。俺が口を赤く染めて食い掛けの死体を持ってきたら、誰だってそんな反応するだろう。普段からやっている行動だが、今は俺だけが棲んでいる訳じゃないから、配慮が足りなかったな。
「す、すみません姐さん、肉食いの俺にとっては大事な食糧なので……」
「いいのよ、気にしないで。あたしだってそういう場面は何度も見てきてるから」
 姐さんは臆する事なく笑顔を浮かべた。彼女は余り過去を多く語らない。引け目を感じている事が多いのだろう。俺もその心中を(おもんばか)ってあえて聞かないようにしている。とは言え、姐さんの食性を見るに、恐らくは草食いであろう。
「姐さん、肉は食べなさそうなのにこういうの平気なんですね……」
「あら、あたしだって肉ではないけど虫くらい食べるわよ」
「あ、虫……」
 草食いじゃなくて雑食だったか。その事自体はさして大きな問題ではない。俺が気になるのは……。
「同じ空間でこんなところを目の当たりにして、あなたは自分が食われるとか思ったりしないのですか? 見せてしまった以上、それが気になって……」
「全然」
 けろっとした表情で答えられ、かえって俺が拍子抜け。
「な、なんでそう言い切れるんですか……俺がこんな感じだからですか……?」
「それもないわけじゃないけど、実はね……」
 姐さんはやおら歩み寄り、耳元で囁いた。……なるほど、それじゃあ俺が姐さんを食えない訳だ。
 だが話はこれで終わらない。いつもやっている事なのにお伺いを立てなきゃいけないのは面倒だが、これも姐さんとの暮らし、ひいては俺の雄としての沽券に係わるから仕方ない。
「姐さんは、死臭が苦手ですか?」
 俺は食べ掛けの肉へ目配せした。
「別に苦手ってわけじゃないけど、いい気分はしないわね……」
「わかりました。じゃあこれ、外に置きます」
 出口脇に置いたそれを引き摺り、入口傍の外に置いた。地面に付いた血を舐め取り、可能な限り死臭が湧かないようにする。気を遣わなくていいのよ、と彼女が詫びるが、気にしない。一通り処理を終えてから、肉に跨って腰を落とす。仄かな快感を伴って放たれ、股下から立つ水音。
「何してるの!?」
 中からこちらを覗き込む姐さんが仰天した。
「せっかくの獲物を取られないように、こうして俺のものだってアピールするんですよ」
 正直、俺のオシッコは滅茶苦茶臭い。それを利用して獲物に臭いオシッコをかけてマーキングするのも俺達種族の習性の一つ。とは言っても、この辺りじゃ滅多に獲物を横取りする奴などいないのだが、念のため。
「そういえば、あなたの棲み処の辺りってなんかにおうって思ってたけど、あなたのオシッコだったのね」
 その通り。俺は毎日この棲み処が自分の物だと主張するために、周囲の決められた範囲にオシッコをぶっかけてマーキングしているのだ。
「ふふっ、あなたといるといろんなことが知られて面白いわ。でもあたしにまだオシッコかけちゃだめよ」
「し、しませんよ!!」
 姐さんの思わぬ方向からの不意打ちに頬が熱くなり、狼狽した。意識すらした事もなかったが、いざ想像すると……。やっぱり彼女、只者じゃないな。目を細め、翼で嘴元を隠しながら笑う仕草が、一層艶やかに見えた。


 日が暮れて、例の時間がやって来た。今日はどんな事をされるのか、自ずと高鳴る胸。
「仰向けになってちょうだい」
 俺は言われるがままに仰向けになった。普段走り込んだりして鍛えている体であっても脆弱性の高い腹部。俺達含め多くの種族が急所とする箇所を他の者に曝け出すのは、少々勇気が要るのだが、何故か彼女に対しては大きな躊躇いもなく出来た。とは言え僅かながら恐怖と不安はあり、美しい鳥に見下ろされるこの背徳的な状況に対するスパイスとなって、胸の鼓動をより強めた。無論、急所は腹部だけ(、、)ではない。
 姐さんは首を伸ばして俺の脆弱な突出を嘴と細長い舌で弄ぶ。それ自体の刺激は大した事ないものの、次第に涎に塗れる様や、弄ぶ彼女の表情に情欲を掻き立てられてムクムク膨れ上がる。透明な糸を引かせながら頭を上げた姐さん。今度はその長いおみ足で、チンポを優しく踏み付ける。止まり木を掴むように足指を丸め、巧みに扱き始めた。
「うあっ! ね、姐さんっ……!」
 仰向けのまま身をくねらせて悶える。鱗状の硬い足指の刺激は、塗りたくられた涎の粘度で幾分和らげられて丁度いい塩梅。
「ふふ、あたしに踏まれてよがっちゃうレントラー君、とってもエッチよ」
 満ち溢れる色気を纏いながら行為を楽しむ姐さん。鳥足に責められ続けるチンポは徐々に力強く膨れていき、先端に開いた穴から粘り気が先走る。それは俺の薄い腹毛に染み渡ってから、吸い切れずに小さな池を作り始める。
「先っぽのイボイボトゲトゲがいいマッサージになるわぁ」
「俺も、姐さんの足のおかげで……めっちゃ気持ちいいですっ……ぐぅ!」
 俺が気持ちいいだけじゃなく、姐さんも俺のチンポのお陰でいい思いをしていると分かって、嬉しさに更に昂る。力加減としては昨日より少し弱めではあったが絶妙で、俺に快楽をもたらすには十分だった。時折ぴんと首を伸ばしてぐっと噛み締め、快楽に耐えながらよがる。
 攻める足は一旦雄を解放し、腹部に出来た粘つく池に浸した。そして足指は幾多の糸を引きつつ、物欲しそうに脈打って粘りを滲ませる雄を再び掴む。増したぬめりで更に絶妙な足コキの刺激が生まれる。再び襲われる甘美でスパイシーな刺激に野太く甘い嬌声を漏らし、汗で身を蒸らしながら次第に上り詰める快感を身に覚える。
「ほんと面白いわよね。普段ここからオシッコが出るのに、今は全然違うのが出ようとしてるんだもの」
 彼女の発したオシッコという単語でフラッシュバックされるあの場面。あの高い威力の後遺症は、俺の性感までも容赦なく強めてきた。
「姐さん……俺、もうだめです……っ!!」
 彼女にも曝け出す縮み上がった睾丸から生まれる生命の流れ。先日射出していない分、生み出される快楽がチンポを一層力強く変貌させ、俺を苛めた。
「あら、あたしにオシッコかけちゃう妄想でもしちゃったかしら? あたしの足にいじめられて力強い雄になる瞬間、存分に見せつけちゃってね」
 と俺にウィンクしつつ、止めとばかり責め立てる。煽り立てられた劣情に任せて喜びに膨らんだ雄々しい突出に歪な隆起が生まれる。それは俺が求めていた最高の瞬間へのカウントダウン。
「イ、イきますっ!! 姐さん!! グオォォォンッ!!!」
 情けない事になっているであろうイき顔を晒して強張り、勢いよく精を放つ。それは腹部や胸部に止まらず首や顔面、鬣、その先の床面にも飛散する。脈打つ快感の中、へばり付く生温かさと嗅ぎ慣れた青臭さが次第に強まる。
「よくできました。とっても見応えがあったわよ」
 上気する鳥は満足そうに笑みを浮かべ、白く汚れた足を舌できれいにする。そして今度は俺を汚す体液も直々に舐めていった。青臭さに置き換わる生臭さも、彼女の物となるとそれだけでゾクゾクする。
「あ、す、すみません姐さん……」
「いいのよ。好きでやってるんだから」
 汚れた嘴と口内に残る白が、彼女の笑顔を更に煽情的に仕立て上げる。俺は夢中になって頬を染めていた。これといった確証がある訳ではないが、魅力的で責め方も上手い姐さんならば間違いないと思えるようになっていたのだった――



 翌朝、雨の降る中で俺は、棲み処のすぐ脇で先日手に入れた獲物の残りにあり付いていた。季節は夏、一日経つと鮮度が落ちて腐り始めるのだが、この頃合いが実は最も旨味が出るため、更に食べる楽しみも増える。じっくり味わうつもりだったのに、案外早く肉を食らい尽くしてしまった。残った骨は捨てずに置いておく。汚れた口元をきれいにして、体の水気を切ってから中へ入った。
「別にここで遠慮しないで食べてもいいのよ?」
 姐さんは中で木の実を啄んでいた。でももう死臭が漂い始めていたそれを中に入れるなんて出来なかった。そう話すと彼女は苦笑い。
「そうは言っても、あなたの息から存分に臭うからどのみち一緒よ」
「おえっ!?」
 咄嗟に顔を背け、前足で鼻と口を覆った。自分で判らない分、吐息は盲点だった。
「昨日もちょっと言ったけど、あたしの前でも気を遣わないでありのままでいていいんだからね? リラックスしてる方が、中折れしにくいものよ」
「いいんですか、姐さん」
「当然よ」
 慈愛を感じる微笑みに、胸の(つか)えが取れるような感じがした。彼女の言葉に甘え、普段通りに骨を棲み処の中に運び込んだ。
「その骨でいったい何するのかしら?」
「明日食べます」
「はいっ!?」
 骨と俺を見比べながら、姐さんは言葉を失っていた。骨を食べるなんて多くの種族では想像が付かないだろうな、と心の中で苦笑いした。



 この雨降りでは流石の姐さんも外には出ず、俺と一緒に籠る。奇妙な共同生活を始めて四日目、日中にずっと一緒の時間は初めてだった。いざ何か話そうにも話題に困る。同種であれば狩り自慢とか旨い部位についていくらでも語れそうな気はするが、異種族かつ異性となると、途端に思い付かない。
「そういえば……」
 姐さんが口を開く。何を言ってくるのか、勝手に胸がドキドキする。
「あなた、生まれはここじゃないって言ってたけど、どこの生まれなのかしら?」
 姐さんの方から無難な話題を繰り出した。ちょっとラッキー。
「俺はここから遠く西の方で生まれました」
 生まれ育った故郷を頭に浮かべた。ここと比べると冬は雪が降って寒い所ではあるが、季節は明瞭で木の実は美味しく、生まれ育った所とあって懐かしさがこみ上げてきた。だが、帰りたくとも余りに遠くて二の足を踏むばかりだし、もう独り立ちして群れを出た身ともあって、群れ暮らしの親は俺を快く迎えてはくれないだろう。それを覚悟で外の世界見たさに、比較的安定していた群れでの生活を捨てて飛び出し、ここに辿り着いて早五年。そんな事を姐さんについ語ってしまった。
「あなたもいろいろとあったのね」
 隣で耳を傾けていた姐さんがぽつりと零す。
「でもそうやってまだ見ぬ世界に希望を持って故郷を飛び出したってのは、やっぱり若いからこそできることよね……」
「若いからっていうか、青臭かったからっていうか、今考えたらバカなことしたなって思いますけどね」
 苦笑いしながら、後ろ足で頭をぽりぽり掻いた。
「……ところで、姐さんの生まれ育った故郷ってどんなところですか?」
「あたし? ここだとどっちの方にあるかわからないけど、山間の小さな里でね、木の実がとてもおいしかったところだけど、冬になると辺り一面雪で埋まっちゃってねえ」
 ゆ、雪で埋まる? 確かに俺の故郷も雪こそ降るが、多い年でも精々俺の腹の辺りくらいまでしか積もった記憶がない。そもそも海に近いために強風で飛ばされて大して積もらない事の方が多かった。
「埋まるって、どのくらい積もるんですか?」
「そうねえ……ざっとあたしの背丈の三倍くらいは積もってたわね。多い年は四倍以上だったかしら」
「おえー、お、おっとろ、ごほん」
 想像を絶する環境に、開いた口が塞がらずにいた。
「冬はずっと辛抱してたけど、嫌じゃなかったわ。この日々のおかげで雪が解けて春が来たら、みんな喜んでお祭り騒ぎで楽しかったものね。本当に懐かしいわ、あの日々が」
 雨風凌げる棲み処の天井を見上げた姐さんは、哀愁が漂っているように感じられた。
「あの里、あたしは好きだったけど、いろいろあってもう帰るどころか足を踏み入れることすらできなくなっちゃった……」
 一体何があったのか気にはなったが、これ以上踏み込んではいけないような気がして、その仔細を尋ねるなんて以ての外だった。
「やーね、雨降りだってのにこんな空気にしちゃって。雨でも浴びて頭冷やすわ」
 姐さんは外に出て全身を雨に濡らす。その様子を茫然と眺めていた。濡れた姿も筆舌に尽くし難い美麗さを放ち、俺の胸は高鳴り始める。顔周りを流れる雨粒は、彼女が泣いているのではないかと錯覚させる煌めきを発した。
 段々雨が止み、雲間から射した光が彼女を照らす。先程とは一転、天から降臨したかの如き神々しさを放っていた。もしかすると俺は、とんでもない奴と一緒に暮らしてるのかもしれない。濡れた鬣から滴る水音を拾いつつ、ごくりと固唾を呑んだ。とは言え、姐さんの過去の一端を知る事が出来て、確実に距離が縮まったように思えた。



 夜になって、例の時間がやって来た。昨日と同様に俺を仰向けに寝かせてから、口で性器を濡らしつつ勃起させる。そして足で掴むようにして刺激するが、違うのは、彼女の向きだった。昨日は正面を向いていたが、この日は背を向けていた。握り方の違いで刺激も異なるが、それでも昨日より弱いのは知覚していた。無論この程度の刺激では絶頂に至るのは恐らく困難だろう。それでもいいと以前彼女は言っていたから問題はないだろうが。
「ふふっ」
 振り向いて色っぽく笑む。尾羽をぴんと立てて見せ付けたのは、初めて性行為に及んだ時に挿入した穴。深紅のぷっくりした肉感。そこから一筋零れる透明な粘り。
「あなたの本気(、、)が欲しいって、あたしのココが待ちわびてるわよ」
 その穴を動かし、少しくぱっと開いた。こんなのを見せ付けられては、俺も中でイきたいと強く望んでしまう。とは言え、種族こそ違えど異性である。中で果てたらもしかして……! 頭の中に思い描く神秘的で危ない展開に、刺激され続けるチンポがシンクロして固く締まった金玉と共に疼き、内から外へ向かう快楽のうねりが迫って来た。
「うっ、でますっ……!!」
 今までさほど意識しなかったが故のゾクゾク感が、弱い刺激にも関わらず二日連続の絶頂へと駆り立てていった。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
 バキバキに張り詰めたチンポが脈打ち、昨日と同様に俺の上半身、果てはそれを越えた先の地面にかけて白くぶちまける。
「あら、二日連続ね。何想像しちゃったのかしら?」
 見下ろされ、翼で嘴元を隠しつつ笑われる。その艶やかな妖しさに、減衰しつつあったチンポの躍動が少し持ち直したのを感じた。
「あなたのためにここまでやってるんだから、その本気(、、)、あたしの中で見せ付けてくれなきゃ承知しないわよ」
「はい、絶対中で本気出します、姐さん……」
 劣情の余韻の中で、彼女に答えた。今舐め取られている青臭い雄の遺伝子が、俺のために身を捧げる美鳥の中で炸裂する瞬間に思いを馳せ、何としてでも遂げてみせると強く決心した。

第三段階


 ガリッ! ゴリッ! ガリッ!


 棲み処の中で立つ大きな音の正体に、姐さんは嘴が開きっ放し。自慢の鋭い牙と顎の力で、一昨日手に入れた獲物の骨を噛み砕いていた。そしてその中身を味わう。
「端から見たらすごい光景ね……」
「せっかくの食糧だから、無駄にしないように骨の髄までしゃぶり尽くすんですよ」
 これに関しては文字通り。肉とはまた異なる風味と旨味を味わえ、食べる俺を飽きさせない。
「姐さんが食べる木の実にこだわるように、俺にも肉食いとしてこだわる部分はありますから」
 次々骨を傷付けてはその髄をしゃぶって少しずつ腹を満たしていく。
「普段のいい子そうな雰囲気に覗かせるワイルドな一面が、見ててすごくゾクゾクしちゃうのよね」
「ほ、本当ですか?」
 俺からすればいつもと変わらない事で、多くの異種族からは畏れられる光景だが、姐さんにそう言われると嬉しいような擽ったいような、言葉に出来ない気分になる。姐さんはそんな俺を見つめては、ニコニコ笑っていた。


 三日間掛けて味わった獲物の残骸は、付近の川へ流す。姐さんは隣でその様子を観察している。特に意味のある行為ではないのかもしれないが、先祖代々続けている習わしである事やその意味を、彼女に説明した。特に笑うでもなく、真剣に耳を傾けてくれていた。


 この日は特にこれと言って変わった出来事もなく、日が落ちて夜が訪れる。だが、姐さんとの心地よい時間はこれまでとは一味違っていた。
 この所やっているように、彼女は俺のチンポを刺激して勃起させる。常々思うが、翼や嘴、舌、足と、感触が異なりながらもそのどれもが絶妙な刺激の強さで、俺は呆気なくチンポを膨らませてしまうのだ。これは最早才能と言うべきではなかろうか。そんなことを彼女に言ったら、あらうれしい、と笑みを零した。
 今日は一体どんな事をするのかと思いきや、姐さんはいきなり尻を向けて尾羽を立てた。目に飛び込むのは、深紅のぷっくりした魅惑の穴。ほんのり潤っているのが見て取れる。ごくりと生唾を呑んでしまう。
「一回だけ根元まで挿れてね」
 振り向いてウィンク。一気に体重が掛からないようゆっくり圧し掛かってギンギンのチンポを穴に突き立て、徐に埋め込む。四日ぶりの包み込まれる感触だったが、不思議とあの時よりも快感が強く感じられた。根元まで埋め込むと、締め付けと温かさがとても心地よかった。
「はいおしまーい」
 姐さんは容赦なく抜け出し、俺は鳥膣から解放されてしまった。姐さんのと混ざり合ったであろう透明な粘液が、突起の目立つチンポの先から垂れる。
「もっと長く感じてたかったです……」
 素直にそう零すと、姐さんは笑いながら俺の後ろへと回った。そして翼を股間に伸ばして、不満気な勃起を包み込む。ぞくりと獣毛が逆立った。四方から満遍なく覆う羽毛の感触が程よく気持ちいい。そういえば、翼でこうやって刺激されるのは初めてだ。
「好きに腰を動かしていいわよ。さっきのあたしの中を想像しながらやってみてちょうだいね」
「わ、わかりました……」
 後ろ足を開いて腰を低くしてから、前後に動き出す。濡れそぼったチンポが弱い圧で包み込む翼の羽毛と擦れ、その刺激が俺に快楽をもたらす。刺激としてはそこまで強い方ではないが、先程の胎内の感触と頭に思い描く妄想が、快楽の増幅に一役買って、それに呼応するかのように、動きに合わせて揺れていた陰嚢が、徐々に硬くなって揺れなくなっていく。
「はぁ、はぁっ……俺、気持ちよく、イけそうですっ……!」
「そのようね。お尻と金玉を見てたらわかるわよ」
 雄の些細な変化も熟知していてお見通しな姐さん。その言葉を聞くと、つくづく掌、いや翼の上で転がされているなと痛感してしまう。それでも気持ちよければそんなのは些事に過ぎなくなってしまうのだが。
「ううっ、溜まってきました……!」
 会陰に感じる圧が強まり、確実に迫るその時。脳内で描かれる、膣内を犯しながら快楽に悦び、徐々に力を溜めて姐さんの中を汚していく俺のチンポ。尻尾も反射的に真っすぐ伸び、鋭い牙が並ぶ口を開いて零れる喘ぎも、次第に激しさを増す。
「あっ、あ! なかに、出しますっ!!」
「いいわよ、遠慮なく出しちゃって」
 実際は翼に包まれながら、俺はすっかり彼女に中出しする気分になって徐々に大きく張り詰め、雄の欲望が破裂しそうな快楽に任せて力強い刹那を迎えようとしていた。
「グオォォォォンッ!!!」
 欲望が破裂して、俺は喜びに吼えた。白い命の弾がチンポを突き抜けて前方に放たれ、やや放射状に広がりながら一直線に地面を汚す。初日の背中を押し付けられる刺激に比べれば格段に弱い物ではあったが、それでも射精に至れたのは、俺自身放出の愉悦に浸りながらも驚きを禁じ得なかった。
「ふふっ、ちゃんとイけたわね。その調子よ」
「あ、ありがとうございます……」
 姐さんに褒められ、素直に嬉しかった。
 足元から立ち上る青臭さ。きれいにしようと舐め始めたら、姐さんも細い舌で舐め取っていく。苦くて微かに甘じょっぱい、決して美味しいとは言えない味なのに、それでも舐める姐さん。
「姐さん、自分からよくそんなの舐めますね……」
「あら、精液は美容にいいって言われてるらしいわよ。そんなの摂らないわけにはいかないじゃないの。ほんとは別の口で(、、、、)いただきたいけどね」
「わかりました、姐さんの願い、絶対叶えてあげます」
 あら頼もしいわね、と笑う姐さん。その笑顔が見たいがために、俺は頑張るようになっていた。初めて事に及んだ時は戸惑いと躊躇いが渦巻きつつも流される形だったが、いつの間にかここまで彼女に夢中になっている事に気付かされる。出逢って以来ずっと、こんなのは生まれて初めての経験だったが、姐さんとの日々は思った以上に活力が湧いてきて、こういうのもいいものだな、と素直に受け止められていた。



 翌日、朝食の木の実を食べてから川で姐さんとの痕跡を洗い流し、森や草原を駆け回る。ここ三日間肉等を沢山食べたが、何気にこれだと過剰摂取になって体にはよくない。程よく肉を食べない時間を設け、運動する事こそ肉食いたるレントラー族の健康の秘訣と親から教わり、肉食いの矜持(プライド)とそれに相応しい力強くがっしりした体型を保つため、忠実に実行する。走りがてら近所に棲む馴染みの住民にも挨拶を交わす。
「ちょっと待ったレントラー!」
 挨拶を交わした住民の一匹から突如呼び止められた。何だろうと怪訝を抱く。
「ニドクインさんとガルーラさんがお前のこと呼んでたぞ」
 彼女達が? 一体何だろう。心当たりがあるとすれば……とそれは一先ず置いといて、感謝の言葉を返して真っすぐ彼女達の住む場所へと駆けて行った。


 ニドクインさん達の棲み処に着くと、既に二匹一緒で俺が来るのを待っていた。
「俺に何か用ですか?」
 二匹はこくりと頷いた。話を繰り出したのはニドクインさん。
「プルメリアちゃんのことなんだけど……」
 ああ、やっぱり。俺は精一杯隠しているつもりだったんだが。徐に一呼吸置く。
「アンタのところに寝泊まりしてるって噂を耳にしたんだけど、それってほんと?」
「寝泊まりだなんて迷惑な噂、どこから出たんですか? そんなことはしないですけど、時々遊びには来ますよ。向こうからすれば初めてこの地で知り合った(よしみ)ですし」
 彼女とは何もないと言わんばかりの煩わしさを表出する振りをして答える。
「ほら、怪しいくらい綺麗な子だからさ、色仕掛けに引っ掛かって変なことされてないか、クインちゃんとふたり心配してるんだよ。私ですら見とれるくらい綺麗なんだもん」
「ちょっとガルちゃん!? アタシがいながら何見とれてんのさ!」
「ほらヘソ曲げた。だからあんまり君の前で言いたくなかったんだよ」
 むくれるニドクインさんを溜息混じりに宥めるガルーラさん。実はこの二匹はレズカップル。二匹の愛し合い振りは、周りの住民も一目置く程だが、そんなガルーラさんですらも魅了する姐さんの美しさ。冷静に考えると中々に恐ろしい物だが、残念ながら俺はもう自ら魅了されに行った身だ。
「なんでこんなこと訊くかっていうとね、一昨日私があの子に紹介した棲み処を夜に見に行ったら、いなかったの。あの噂もあったし、だからもしかしてと思って」
 つまり姐さんは鳥だから、ホーホーとかの夜行性じゃない限り鳥目で夜は活動出来ないって事で疑っているんだな。実際寝泊まりしているのは事実だけど、やっぱり知られるのはよろしくなさそうだ。
「確かに来てましたけど、その日は夕方に帰ったはずですけどね……」
 とまた訝し気な顔で嘘を吐く。自慢じゃないが、こういうのを隠すのは得意な方だ。
「まあ、あの子と何もなさそうなのはわかったけど、なんかちょっと胡散臭い感じがするから、絶対深く関わっちゃダメだよ!」
 ニドクインの語気を強めた忠告に、素直にはいと頷いた。とりあえずその場は上手く収まり、彼女らの元を後にした。俺の棲み処はマーキングのお陰で寄り付く者は数少ないが、それでもこれ以上姐さんが俺の所にいられるのはまずい。棲み処に戻ると、彼女はまだいなかった。
 しばらくして彼女が戻って来た。俺は先程ニドクインさん達から言われた事を伝えた。
「あら、やっぱり目を付けられてるのね」
 彼女は至って冷静だった。ならば話は早い。
「姐さん、これ以上俺と寝泊まりするのはよくないです。申し訳ないですけど、今夜からガルーラさんが用意したあそこで寝泊まりしてもらえますか?」
「……わかった、そうするわ。もうちょっと一緒に過ごしたかったけど残念ね」
 予想に反して、姐さんは素直にお願いを聞いてくれた。でもちゃんと例のあれはやってくれるとの事。
「だったらちょっと早いけど、やらせてもらうわよ」
「あ、今ですか」
「あたし夜目が利かないのよ?」
 潤んだような輝きの瞳から感じる圧に、俺は従う他なかった。外はまだ明るい時分。流石にこれでは変に喘いだり声を出したりは厳しそう。透視能力を使って周りを確認する。誰もいないのは間違いない。であれば今やるしかないか……。
 姐さんが距離を縮め、強まるあの香り。嗅ぐ度にクラクラするような心地よさに見舞われる。そんな状態で彼女の翼が俺の逞しい体に触れると、ゾクゾクと電流が走る。頭を股間に潜り込ませ、オシッコ臭いのも厭わずに俺の突出した鞘に長細い舌を挿入して直接チンポを舐め出した。
「っ……!」
 極力声を漏らさないように努め、ぐっと口を噛み締める。絶妙な舌使いにチンポは喜んで鞘から飛び出した。そのまま舌に弄ばれ、翼で脇腹を撫でられる刺激も相まって脈打ちながら勃起してしまう。そして彼女の涎塗れになったチンポを、昨日と同じように翼で包み込むが、昨日と違うのは翼で扱かれている事だ。腰を振ろうとしたが、彼女に制止された。羽毛に擦れて気持ちいいのだが、この刺激だけでは弱過ぎて到底イけないのは分かっている。他にもニドクインさん達に言われたあの事がぐるぐる頭の中を巡ってそれどころではなかった。
「姐さん……」
 俺はゆっくり首を横に振った。それを見た彼女は行為を止める。汚れた翼を舐める仕草に滲む色気。やおら歩み寄り、ふかふかな羽毛に身を寄せた。伝わる彼女の体温が快い。
「なんか今日は、こうしていたい気分です……」
「まあ、そんな日もあるわね。変な噂が立ってもあたしは大丈夫。あたしこう見えて図太さには自信があるの。上手くやるわよ」
 唾液の生臭さを纏う翼が、俺の長く立派な鬣を撫でる。ちらりと横目で見ると、彼女は笑みを浮かべた。なんて心地いいんだ。出来る事ならずっと……。
 差し込む日が徐々に黄みを帯びてくる。そろそろ出ないと帰れなくなるから、と姐さんは俺から離れた。
「じゃあ、また明日」
 笑顔で翼を振ってから棲み処を出て行く。さり気ない仕草にもうっとり見とれて挨拶を返すのを忘れてしまった。


 ニドクインさん達に目を付けられた以上、この先姐さんに俺の中折れをちゃんと治してもらえるのか不安になっていた。
 五日ぶりの独りの夜。五年間これが日常だった筈なのに、たった六日間経ただけで喪失感に苛まれ、寂しさが募った。俺の寝床の横にこんもり盛られた藁が、心の穴を一層拡げるばかりだった。

第四段階


 姐さんと初めて性行為に及んでから七日目、吹き込む爽やかな空気を吸い込みながら目覚め、独りの朝を迎えた。棲み処の隅に貯めた木の実を持って来て朝食にする。聞こえるのは俺の咀嚼音と風で(そよ)ぐ木々、時折遠くで発する誰かの鳴き声だけ。親元を離れ、故郷を出たばかりの頃に感じて以来に痛感する寂しさ。いつの間にか姐さんが、ここまで欠かせない存在になっていたなんてな。喉元を膨らませてこみ上げるげっぷついでに、木の実の香りと風味で飽和した長い溜息を零した。


「おはよう、さすがにもう起きてたわね」
 朝日に輝く美しさを纏いながら現れた姐さん。未だあの時の寝坊を擦ってくるが、そんなの今はどうでもよかった。
「おはようございます……」
 俺は寸分の迷いなく姐さんに身を寄せた。ドキドキする筈のあの香りが、この時ばかりは嗅ぐと妙に心安らぐ。
「あらあら、寂しかった? もう、あなたって甘えたさんなのね。たまらないわ」
 柔和な眼差しを向けて翼で優しく俺の頭を愛撫した。
「あなたがいないと、寂しいです……」
 憚りなく胸の内を曝け出していた。
「あたしもよ。ひとりだと落ち着かなくて眠れなかったもの」
「あなたも、そうだったんですね」
「でもこればっかりは仕方ないわよ。変に騒がれたらよろしくないんだから」
 耳が拾う柔和な声が心地よい。俺よりも少し小さ目な体ながら全身を包み込まれるような、懐かしいような、この感覚をずっと味わっていたかった。だが彼女の方から一旦離れる。そして向かい合って佇んだ。
「ねえ、レントラー君」
 いつになく真剣な眼差しが向けられた。
「今やってること、とりあえず始めてから十日目で一区切りつけようと思うの」
「十日目、ですか!?」
 俺の目は丸く開いた。十日目って事はつまり、三日後だ。
「え、そんな、早すぎやしませんか?」
「そんなことないわよ。だってあなた、ここまで順調にきてるのよ。それに元々あたしが過去に調べて実践したこのやり方も十日間だったからね」
「そんな……」
 彼女からすれば順調であるらしい事を、喜ぶべきだったのかもしれない。だがそれ以上に、そうでない自分がいる事に気付いてしまった。
「……嫌です。俺、十日目なんか来てほしくないです……」
「あら、どうして? だんだん中でイけるような感じになってきてるのよ?」
「そうじゃないんです姐さん!」
 つい語調が強くなり、彼女の羽毛が一瞬ぶわっと逆立った。驚かせてしまったようで、一言詫びた。
「……俺は、姐さんと一緒に暮らしたいんです。そばにいてほしいんです。こんな情けないやつ、これまで色々な雄を味わったあなたにはお高く留まらないだろうとは思いますが、それでもあなたにこの思いを伝えなきゃ、気が済まないんです!」
 とうとう、言ってしまった。今言うしかないと思っていた。何のムードもへったくれもないけど、偽りのない素直な想いを……。
 彼女は笑った。だがそれに底抜けの明るさは感じられなかった。
「ありがとう。気持ちはとてもうれしいけど、あたし、ずっとここに長居するつもりはないの。ここにいるのも、あなたの悩みを解決するつもりだから、それだけなのよ」
「あなたがそうだとしても、俺はあなたとずっと一緒にいたいです!」
 笑顔が一転、今度は真剣な眼差しになった。
「あなた、ここを離れることになるのよ、いいの?」
「構いません、あなたと一緒なら」
「それだけじゃないわ」
 姐さんは目を瞑り、深呼吸。そして再び麗しい瞳が瞼から覗かせた。
「あたし、見た目はこんなだけど、中身は汚れの塊みたいなものよ。生きるために悪いこともたくさんしてきたわ。口じゃ言えないことだって。もし見た目だけで判断してるなら、諦めた方が身のためね」
「そんなことじゃ俺は動じませんよ。俺だって生きるためにこの爪と牙で、時には意地汚いやり方で数多くの命を奪ってきましたからね」
 俺の方から距離を詰め、黄色い瞳で彼女を捉えた。
「俺、誰かを想うために自分の一生を賭けるのは初めてなんです。たとえつらいことがあろうと危ない橋を渡ろうと、あなたと一緒ならそのスリルすら楽しめるような気がするんです」
 張り詰めた空気の中、真剣な眼差しを送り合い、無言の時がしばし流れる。沈黙を破ったのは、姐さんだった。
「――わかったわ。そこまで一緒にいたいって言うなら、ここの住民にあたしたちのことがバレても構わないのよね?」
 俺は無言で、大きく頷いた。
「今まで築いてきた信頼とか一気に失うことになりかねないけど、それでもいいかしら?」
 構いません、俺ははっきりと告げた。目を瞑ってふふりと笑う彼女。俺の向こう見ずっ振りに呆れているのか、この黄色い瞳でも流石に心の内は見通せない。
「じゃあこうしましょ。十日目の夜、あたしここに来るわ。そしてあたしと交尾しましょう。もしそのときに中でイけたら、あたしと一緒になってもいいわ。でもそれができなかったら、おとなしく諦めなさい。そもそもの目的がそれなんだから、いいわよね?」
 十日目の夜が運命の時。彼女からそう突き付けられた。彼女の言葉通り受け止めれば、成功すれば天国であるが、もし失敗したら姐さんと添い遂げられないどころか周囲の信頼すら失って、どのみちここにいられなくなるかもしれない地獄を味わう事になり兼ねない状況。固唾を呑みつつも、俺は徐に頷いた。
「わかりました。俺のため、そして姐さんのために、絶対中でイってみせます!」
 この瞬間、俺にとっての十日目は、来てほしくない日から一転、俺の一生を賭けたゾクゾクする大一番に変貌した。姐さんはクスクス笑い出す。
「ふふ、驚いちゃったわ。さっきまで甘えたさんだったあなたが、あんな精悍な顔立ちで雄らしく覚悟を決めちゃうんだもの。面白くなってきたわね、こうまでされたらあたしもやりがいが出てきちゃう」
「俺、絶対あなたをがっかりさせませんから」
「それはレントラー君が体で(、、)示してね」
 俺の体を翼で愛撫し始める。交互に訪れるくすぐったさと心地よさに身震いし、毛が逆立った。妖艶な顔立ちが、徐々に近づく。
「口付け、してみる?」
 突然出て来た口付けという言葉にドキンと心臓が鳴る。そういえば交尾は何度かあれど、口付けなんてやった記憶がない。
「下手くそだと思いますけど、いいですか……?」
「大丈夫、気にしないわ。これが最初で最後かもしれないし」
 そんな事ないと言おうとするも、それは嘴で妨げられた。細い舌が、肉食いたる俺の口内に入り込む。舐めると痛がられる程にざらざらした俺の舌に絡み付き、その感触を堪能しているよう。下手に動かせば彼女を傷付けるかもしれない。故に完全に身を委ねる。
 彼女は巧みな舌使いで俺の口腔をまさぐり、ずらりと並ぶ鋭い牙や粘膜の感触、そして恐らく唾液の味も堪能している。木の実を食べた直後で、かつ最後に肉類を食べたのが二日前。口内に肉や血の味と臭みが残っていなかったのが幸いだろうか。
 文字通り目と鼻の先に感じる彼女の息遣いは、そのペースを少し早めている。俺の口周りに当たる彼女の吐息の温かさ、生臭さに混じって今朝食べたと思われる木の実の香りを存分に感じられ、次第に興奮が抑えられなくなっていく。
 彼女が一旦離れると、ねっとりと透明な糸が俺達の口元を結んだ。
「もっと積極的にいってもいいのよ?」
「いえ、俺肉食いだし、こんな舌だから傷付けるのが怖くて……」
 姐さんにざらざらした肉厚の舌を躊躇(ためら)わずに曝け出す。
「あら、あたしも触ってわかったけど、こうして見るとおちんちんよりも鋭くて凶悪なのね」
「ね、姐さん……」
 途端に頬が熱くなる。そして翼が肝心の所をむぎゅっと掴む。
「凶悪さで舌なんかに負けちゃだめよ」
「あっ、は、はいっ……!」
 鞘越しの刺激ながら心地よくてどんどん膨らみ、露出する。ふわふわした翼に引き続き弄ばれて、力強い雄の姿を晒した。さわりさわりと撫で続けながら、柔和な微笑みを俺に向ける。体は熱く、呼吸が早まってすっかり上気してしまった俺。だが愛撫は止まり、翼は引っ込められた。
「あらやだ、オシッコ臭くなっちゃったわ」
 チンポを弄った翼を嗅いでから苦笑い。それを俺の赤い鼻面に突き付けられると、嗅ぎ慣れた強い臭いに混じって姐さんの心地よい香りも感じられ、チンポが一回力強く跳ねて、見ずとも先走ったのが分かった。何て事をしてくれるんだ姐さん……!


「今日はここまでね」
「もっと気持ちいいことしたかったです……」
 ここから昂ってやろうと思った矢先の無情な終了宣言につい溜息を漏らし、火照りは衰えつつも俺の体内に燻り続ける。
「ふふ、それはあの日にとっておきましょ」
 ウィンク混じりに言われ、はいと答えざるを得なかった。
「それでもあなた、最初よりは確実に弱い刺激でイけるようになってきてるわよ。だからこのままいけば大丈夫だと思うの」
 言われてみれば確かに、普段のオナニーや初日の背中押し付けプレイに比べて、最後にイった翼コキは格段に弱い刺激ではあった。
「なぜあなたが弱い刺激でもイけるようになったのか、考えてごらんなさい。それがわかれば、きっと乗り越えられるし、性生活も楽しくなるはずよ」
 と、俺の短い鼻面(マズル)嘴付け(バードキス)した。


 つと彼女は、敷かれた藁に目をやる。
「せっかくあたしのために用意した寝床だけど、残念ながらもう使わないから処分しましょう」
「え、そんな……」
「いいから処分しなさい!」
 尻込みする俺に厳しい語調で姐さんが命令する。優しさに隠れた彼女の怖い一面に冷や汗をかきつつ、釈然としないまま姐さんの寝床を処分して真っ(さら)にした。
「ごめんね。でもこうするのが一番だとあたしは思うの。あなたのことを考えたらね」
 そんな優しさなんていらない、そう口にしたかったが、またさっきみたいに一喝されてややこしい事態になりそうだから思い留まる。
「それとね」
 神妙な面持ちのまま俺を凝視する。
「知り合いのところに行く用事ができちゃったから、明日から明後日まで留守にするわね♪」
 突然の笑顔で構えていた俺は拍子抜け。だがその内容は耳を疑った。
「え、明日明後日いないんですか!?」
「そうよ。だからニドクインさんたちに訊かれたら、そう答えてちょうだいね」
「わ、わかりました……」
 途端に弱まる語気。一晩だけでもあんなに寂しかったのに、それが二日少々、あるいは三日近く続くなんて、何とも気が滅入る話だ。
「それじゃあ、そういうことだからよろしく頼むわね。まだ三日あるからその間にいろいろ準備しといた方がいいわよ。溜めといた方が気持ちいいからね。三日後の夜が楽しみだわ~♪」
 姐さんは妙にハイテンションで棲み処を出て行った。途端に訪れる静寂。事態を飲み込み切れないまま、俺は茫然と座り込んでいた。



 参ったな。運命の時は三日後なのに、明日と明後日は姐さんがいないなんて。昨晩だけでも羽毛の触り心地と程よい体温、柔らかな声色といい香りが恋しくて堪らなかった。でも逆に、スペルマ溜めといた方が刺激に敏感になってイきやすいのは間違いないから、その寂しさを募らせた末にぶつけるのも悪くはないだろうか。
 ――なんて事を棲み処に籠って考え続けても気が晴れない。とりあえず外に出て燦々と照らす日を浴び、運動がてら走り回った。


 昼下がりの一時、姐さんの棲み処の付近を走っていると、空を飛んでいる彼女を発見した。声を掛けると俺の側に降り立つ。明日会う知り合いに振る舞う木の実を集めている最中で、大きな葉っぱで作った袋に木の実が入っているのが見える。いつ出発するのか訊いたら、明日の日の出と同時にと答えが返ってくる。


 ――よければ見送りたいです
 ――いいわよそんなことしなくて


 彼女は笑顔でやんわり見送りを断る。どうせまた俺が寝坊したあの日の事もあって気を遣っているのだろうが。それなら心配ないと見送りしたい意志を更に伝えると、彼女は翼で俺の口を覆った。
「時には相手の様子や気持ちを考えて、引き際を見極めなさい。目に見えるものがすべてじゃないのよ、肉食い君」
 姐さんはウィンクしてその場を飛び立つ。口に残る羽毛の感触が中々消えないまま、その場を動けなかった。


 その日の夜、俺は案の定寂しさに寝付けずにいた。それだけでなく、見送りを断ったあの場面で何故か悶々としていた。見送られるのは俺からすれば嬉しいが、姐さんにとっては嫌な何かがあるのだろうか。いくら考えても納得出来る理由が思い当たらずにいた。それでもいつの間にか俺は眠りに落ちていた。


 翌朝、目を覚ますと丁度日の出を迎えていた。姐さんが出かける時間帯ではあるが、寝ぼけ眼で見送るのも格好が付かないので諦めた。よく解らないけど、これでいいのだろう。大欠伸(あくび)をしてからゆっくり体を伸ばし、朝飯の木の実に齧り付いた。



 あの日から八日目。俺は日課として棲み処を中心とした縄張りの領域沿いに、噴霧するかの如く放尿してマーキングを済ませる。日常生活の一幕であるためこれまで取り上げる事でもなかったが、この日ばかりは少し違った。あの日以来オシッコ臭に掻き消されつつも感じたあの香りが、既にほぼ消え失せていた。これが本来当たり前のにおいの風景なのだが、姐さんが近くにいないという事実が、かえって徒に強調される。だが不思議と特段寂しさは感じていなかった。


 散策がてら小腹満たしに川でサシカマスを仕留め、傷まない内に貪る。魚だとやはり物足りないが、肉は精を付けるために明後日食べると決めていた。
 残骸を川に流してから散策を楽しむ。自然や流れる時間はいつもと変わりない。草木を戦がせて吹き抜ける風を感じ、時々刻々変化する空を草原で眺め、川で冷たい水を飲み、森の中では青々と湿っぽい空気を吸い込みつつ落ちている木の実をちゃっかり戴いてもみたり。馴染みの住民と出会えば与太話に花が咲く。
「なあ、あのベッピンな鳥ちゃんとはどうなんだよ?」
「は? 別に何もないぞ」
 既に姐さんとの噂が立っているのは知っていたため、只の友達である事を装う。
「そういや今日は見かけてないな。お前何か知ってる?」
「今日から明日まで留守だって言ってたぞ」
「なんだー。お前と何もないってならナンパでも仕掛けようと思ってたのによ。ちぇー」
 振られるのがオチだと茶化すとムキになる住民を見つつ、ぼんやり考えていた。
「……おーい急にどうした?」
「ハッ! 悪い、ちょっと用事があったような気がして思い出そうとしてた」
「お気楽でいいよな、ここらじゃ敵なしの余裕っての? お前といると肉食いだってことつい忘れちゃってよ」
「そうやって気を抜いてる隙に首筋をガブリと……」
「ヒエッ!!」
 奴は跳び上がって身震いする。目の前で牙を輝かせてニヤッとしたら、大抵の種族は恐れ戦く事くらい分かっている。
「ハハハ、心配するな。冗談に決まってる」
「冗談キツイぜー!」
「約束しただろ、世話になってる奴は一切手に掛けないって」
「だよな。それにお前のおかげでおいらも襲われる不安なく暮らせてるしな。ありがたいぜ!」
 奴に感謝され、改めて自覚する。余所者とはいえ、生態系の頂に立つ種族故に、他の肉食い等の天敵に対する抑止力となって、この一帯の平和に貢献する身だという事に。


 ……もしかして俺、とんでもない事をしようとしてる?


 ふと頭に(よぎ)り、考え込もうとするも、奴の声で我に返った。ちょっと用事を済ませると適当な事を言って、奴と別れた。
 道中、木の実を集めているガルーラさんに会った。姐さんが今日明日留守にする件は聞いていなかったようで、ニドクインさんにも伝えるよう言っておいた。目に入るのは、木の実でパンパンなお腹の袋。
「便利ですよね、俺は一個ずつ持って行くしかないから羨ましいです」
「でしょ? 私はクインちゃん一筋で操も彼女に捧げて、一生子供を産まないって決めてるから、せめてこういう場面で役立たせないとね」
 怪獣らしさを滲ませた茶目っ気のある笑顔を見せた。子供とセットで語られがちな種族ではあるが、それに囚われない生き方をする彼女は純粋にかっこよく思う。折角の機会なので、前々から思っていた事を訊いてみる。
「ガルーラさんは、ニドクインさんと番うときに、周りに反対されたり色々言われたりしたんですか?」
「そうね」
 彼女は一息吐いてから、語り始めた。
「そりゃ勿論、周りから反対されたし心ない言葉も浴びせられたよ。子供を産み育ててこそ存在意義があるんだって嫌と言う程聞かされたけど、それって違うんじゃないかって前々から思ってたし、子供が欲しいとも全く思わなかった。私は純粋にクインちゃんを愛していたから」
「やっぱり、犠牲にしたものは多かったんですか?」
「そりゃあね。離れてった友達は多かったし、絶縁食らって故郷には死んでも一生帰れないから」
 上を向き、長い溜息を吐いたガルーラさん。俺に向けられたのは、笑顔だった。
「でも、そんな犠牲を払ってまでクインちゃんと添い遂げる価値があると思ったから、喜んでバッサリ切り捨てられたの。愛の力ってすごいなって、今でも思う」
 ガルーラさんの一言一言が、俺の心に染みる。楽しそうに暮らす彼女も、過去の多大な犠牲の元で現在の日々を手に入れた事を痛感した。それに比べて俺はどうか。これから想像以上に重大な決断をしようとする事実を突き付けられ、胸が騒いだ。


 夜が更けて、寝床で体を丸めるも、中々眠れずにいた。昨日と違うのは、それが寂しさではなく葛藤である事。姐さんの香りがしない今、頭は妙に冷静だった。元々その場の流れで交尾して失敗し、それを治すためにふたり暮らしを始めただけに過ぎない。悪く言えばその程度の相手に、これからの自分の一生を捧げるに値するのだろうか。
 一方で、姐さんにはこれまで意識した事もなかった視点での捉え方も学べたし、何より、一緒にいて他の誰とも違う楽しさや安心感を覚えていたのもまた事実だった。姐さんといると、更に雄々しく変われそうな気もしていて、そう考えると、姐さんと今までの生活を失うリスクを覚悟で添い遂げるのも悪くないとさえ思えてしまう。だが決断の際には、中でイけなければ最悪の展開が待っている。
 これから先、俺はどちらを取るべきなのか。脳内で思考がループしたまま、一向に眠気が訪れなかった。



 結局まともに眠れないまま、九日目の朝を迎えてしまった。運命の時まで、あと一日半。
 大きく欠伸をして体を伸ばし、寝ぼけ眼のまま木の実を食べる。マーキングした後にふらりと向かったのは、あの茂みだった。身を隠し、眼前の岩壁を透視すると、この時はまだ誰もいなかった。だが地面には誰かが営んだ痕跡が生々しく残されている。
 すると岩壁の向こうにやって来る姿が見える。朝っぱらからお盛んな事だ。二匹は早速前戯を嗜み、興奮を高め合って雰囲気を作っていく。双方いい感じに仕上がった所で、本番に突入した。見ている俺は八日ぶりの高まりを体に覚える。侵入する凸とそれを受け止める凹の擦れ合う快楽が、岩壁の向こうの二匹を夢中にさせている。互いの名を呼びながら喘ぎ悶え、凸はより力強く膨らみ、凹はそれを強く締め付ける。営みはヒートアップするばかりだが、俺の前足は既に勃起していたチンポへ向かなかった。
「あっ、あっ! 卵、できちゃうっ!!」
「へへっ! オレの仔、産んで、くれよなぁ! ぐうっ!!」
 彼らのやり取りに、一層高鳴った胸。そして二匹は激烈なピークに達してより強く密着し、結合を最も強固にして種付けを迎える。スペルマがどんどん注ぎ込まれていくのが見える。俺のチンポは先走ってビクンビクンと脈動していたが、絶頂に至らないように抑えていた。


 事を終え、甘い言葉を掛け合ってスキンシップする二匹に、興奮とは別のムズムズするような物を抱えている事に気付いた。そそくさと茂みを後にして、川の水を浴びて火照りを冷やすついでに濡れたチンポもきれいにする。そして水を飲んで一旦頭を冷やした。
 棲み処に戻り、考えた。只管考えた。毛並みが突如ピリピリする。夕立が訪れると即座に分かった。外に出て、黒雲立ち込める空の中、草原に佇んだ。そして大空に向けて全力で咆哮した。


 ピシャーーーーーン!!!


 俺の体から空に向けて駆けた青白い稲妻。電気を司る俺には刺激的で心地よい衝撃。そして怒涛の如く降り注ぐ雨。夕立を浴びるのは昔から好きだった。大自然を全身に感じられ、一方で自分の小ささを自覚出来、大自然と言う母親に抱かれる赤子のような気分になるのだ。雨を浴びて冷えていくのを感じつつ、立派な鬣がへたって貼り付くのも厭わず、目を瞑ったまま佇んでいた。


 激しく降り注いだ雨が止み、静寂が訪れた。くわっと刮目する。飛び込んだのは、オレンジに染まり掛けた大空と、山や大地に沿って生える草木だった。


 夜が訪れ、多くの者が眠りに就く筈だが、今日は何故か騒がしい。外に出ると、住民が夜更かしして夜空を見上げている。星々が輝く空に、一筋の光が流れた。すっかり忘れていたが、今日は夏の盛りを前に訪れる、特別な夜だ。皆、流れ星を見つける度に願いを唱えている。それを横目に、俺は広い草原へと出た。
 周囲に誰もおらず、地面から濡れた草の青臭さが立つ。見上げると、雨上がりで澄み切った雲一つない満天の星が視界一面に広がった。時折走る光の筋。それを見ても俺の口は噤んだまま。まだその時ではない。何故かそう感じていた。
 更に夜が深まり、星々は一層煌めく。吸い込まれそうな夜空に、突如眩い物が現れた。(ちりば)められた輝きを覆い隠す程のそれは、空を一閃する。遠くで歓声が上がる中、俺は迷わず口を動かした。閃光はやがて勢いを失って完全に消滅し、夜空に星々の煌めきが蘇る。見上げたまま、俺は大きく頷いた。

運命の時


 いよいよ訪れた運命の十日目。木の実を食べて目を覚まし、棲み処から外へ出た。森の中の、普段余り行かない場所へと赴く。透視を駆使しつつ見回していると、一匹のホルビーを見つける。周りに家族らしき存在も見受けられない。気配を殺し、徐々に近づく。何か注意を逸らす物はないかと観察すると、すぐ近くに木の実が生っていた。それに向けて、パルス状に電撃を放つ。その音にピクッと耳を立たせたホルビー。だがそれは、落ちた木の実の音へと即座に関心が向いた。そして耳で拾い上げてから齧歯(げっし)類特有の大きな前歯で齧り出す。ここぞのタイミングで、茂みから飛び出した!


 首への一撃で刹那に亡き者となったホルビーを咥え、大きな茂みの中へ身を隠す。
「いただきまーす」
 俺は上機嫌で獲物に喰らい付いた。仕留め立てで硬くなる前の肉の食感は、自ら狩りで仕留めた時しか味わえない。殆ど奪われずに残る生きていた証の熱は、殊更に血や肉、腸の旨味を引き立ててくれた。
 ここで狩りをする事に対する罪悪感は常に付き纏う。しかしそれでもやはり、自らの爪や牙で直接仕留めた獲物は愛着が湧き、だからこそ何物にも代えがたく最高に旨いのだ! 至高の食を経て、俺の体に漲る物を感じた。
 残骸を川に流し、狩りによる汚れもついでに洗い落とす。泣こうが笑おうが運命の時は迫る。時の移り変わりが、妙に長く感じられた。



 山へ身を隠しつつある夕日が赤く大地を照らす。俺は緊張の中、棲み処で運命の訪れを待ち続ける。こんなに緊張したの、群れを出ると決断した時以来だな。当時を回顧していると、入口に現れた姿。
「こんばんは、待たせたわね」
 丸三日ぶりに見せた美麗な姿。途端に心臓がバクバク高鳴る。
「お待ちしてました、姐さん……」
 やおら歩み寄り、対峙してふと気付く違和感。
「あの香り、しませんね」
「そうよ。どうしてなのか、あなたならわかってるでしょう」
 麗しい目が細くなった。俺は迷わず頷いた。
「あたしがいない間に考えが変わってるかもしれないから、まずはあなたが今後どうしたいか、聞かせてもらうわよ。今ならまだ引き返せるからね」
「はい」
 途端に緊張が走り、口元が震える。心音が直接耳に届いている。
 ……覚悟を決めろ、俺!!


「俺は……俺は、これからずっと、姐さんと添い遂げます!」
 はっきりと、自分の口で、葛藤の末の決断を告げた。それを聞いていた姐さんは、動じる様子もない。
「わかったわ。でも、十日間の成果を試しつつここに残るって選択肢もあるのよ。本当にそれでいいの?」
 静寂が訪れる。姐さんが一つ溜息。
「…………考えました」
 彼女の目が、少しばかり丸くなる。その目を捉えて、続けた。
「それも考えました。確かにここは、肉食いの俺がいることで、平和が保たれている側面があります。それに周りの住民も優しくて俺によくしてくれて、棲むには快適です。ですが……」
 俺は更に、一歩前に詰める。
「あなたと出逢って、今まで意識しなかった視点を教えてくれて、スリルもあって楽しくて、もっとあなたのことを知りたくてたまらなくなりました」
「でもそれは、あたしの香りに惑わされてるだけじゃないかしら?」
「違います!!」
 姐さんはビクッとして一歩引いた。突然大声を出してびっくりしただろうか。だがそんな事など構わず、俺は続けた。今は「引き際」どころか、「押すべき」時だ!
「確かにあの香りがしなくなって、頭が冷静になって俺は迷いました。確かに俺は惑わされてました。それでもあなたが俺を抱き締めてくれたときのあの感触と温かさ、香りも無関係じゃないけれど、その二つが俺には母のような優しさに溢れていました。夕立に打たれて、あの温かさが一層身に染みました!」
「レントラー君……」
 姐さんの嘴は、ぽかんと開いたままになっていた。俺は更に、押しを強めた。
「姐さん、あなたの美しさは見た目だけ、そう言っていたけど、俺はそうは思いません。あのとき包み込んだ偽りのない優しさは、何よりあなたの美しさに磨きをかけました。ここでの満ち足りた生活を捨てる覚悟で、そんなあなたの心に惚れたしがない肉食いの俺を、どうか、何卒、添い遂げさせてください!!!」
 声を張り上げて、少し裏返ったかもしれない、初めての求婚(プロポーズ)。同時に、夕日が山に沈んで赤い光が消え失せた。
 姐さんの潤んだような輝きの目が、いや、正真正銘の潤んだ目から、一滴(ひとしずく)零れ落ちた。高鳴る胸に、何かが芽生えた。
「あっ……。やーね、情が移っちゃうなんてあたし……」
「今だけでも素直に俺を受け入れてください」
 感情の揺らぎに戸惑っているであろう姐さんに近づき、嘴に口を触れた。そしてざらつく舌でそっと嘴を開いて中へ侵入する。三日前とはまるで正反対な口付け。
 奥へと伸ばすと、嘴の硬さとは対照的な粘膜の柔らかさと弾力のある細長い舌とのコントラストが俺を楽しませてくれる。彼女の生臭さを孕む唾液の味は、不快どころか存分に俺を魅了した。俺達の息遣いをより鮮明に感じ取れる、魅惑の一時。


 離れた口から、ねっとり糸を引く。俺も彼女も、口付けの微かな息苦しさも相まって上気していた。
「もう~、あなたのせいで何もしてないのにこんなになっちゃったじゃない」
 突如後ろを向き、見せ付けた深紅の運命の穴は、既にしとどに潤っていた。ごくり、と生唾を呑み、触らずともチンポがムクムク成長するのが分かった。
「とっくに日は沈んじゃったし、もう後戻りはできないわよ? いいわね?」
「今の俺に『引き際』って言葉はありませんよ、姐さん」
 臀部を突き出してお膳を据える姐さんを目で嗜みつつ、舌なめずり。
 既にギンギンなチンポは、先端だけじわりと先走って濡れているだけだが、零れて真下に滴る程に濡れそぼった穴なら大丈夫だろうと判断した。
「こんな俺でも、一匹の雄です。俺の本気(、、)、最後まで存分に味わってください、姐さん」
「いいわよ、来て……」
 振り向きつつ目を細め、誘惑を仕掛けた。喜んでそれに乗り、ゆっくり体重を掛けて姐さんに乗る。いよいよ訪れる、運命の時。先端が、分厚い肉に囲まれた入口に触れる。
「いきます……!」
 ぐっと腰を押し付けると、突起だらけの先端が入り口を抉じ開けて中へと挿入っていく。途端に感じる彼女のぬくもりと包み込む肉感。それをこうやって感じられる事を、俺は大いに喜んでいた。奥へと侵入するにつれ強まる、ぬるぬるびしょびしょの膣の締め付けと摩擦にチンポは心地よく刺激される。
「あなたを、より強く感じますっ……!」
「あたしもよ。胎内であなたの力強さ、伝わってくる……!」
 俺達は、九日ぶりの本格的な交尾でひとつになれた喜びを享受する。チンポの脈動とマンコの締め付けの噛み合わないリズムが、元々独立した肉体である事を一層強調させ、心地よくも感慨深い。
「動きます……」
「いいわよ」
 前後運動に合わせて抜き挿しされるチンポは、先端の突起や浮き立つ血管、太い筋に形作られる凹凸が、包み込む襞状の凹凸と触れ合い、時に引っ掛かって複雑な性感を惜しげもなく俺にもたらす。ゆっくりした動きでもぐちゅんと立つ水音が、秘めたる卑猥な雰囲気を作り出していた。
「大きくて、攻撃的で、癖になりそうなおちんちん、ずっと楽しみにしてたのよ……?」
 犯されながら見上げる姐さんは、呼吸を荒げて目を細め、艶やかな顔立ちで俺の劣情を煽り立てる。
「なら存分に、気持ちよくなって、くださっうぅっ!」
 マンコの刺激と相まって、チンポが気持ちよく膨らんだ。中で先走った感覚もする。これまでの俺ならすぐ目を光らせて中を透視していたが、今の俺はあの香りがしないにも関わらず、脳内で想像を巡らせて姐さんのマンコを味わいながら雄の快楽に心地よく悶えていた。
「あんっ! 先っぽの、トゲトゲ、すっごくグリグリするわぁ!」
 彼女のいい所を刺激しているようで、甘い喘ぎ声を零し始める。
「ぐっ、やばっ!」
 物欲しそうな名器の締め付けで襲い掛かる強い性感に、牙を剥いて耐える。胎内でチンポがより大きく硬くなっているのが、見なくても伝わってくる。そしてそれを受け止める姐さんが、愛おしくて堪らない。
「俺っ、姐さんに、出逢えて、よかった、ですっ!」
「あたしもっ! こんな、ヨがれる、雄っ、そうは、いないわぁ!」
 次第に激しくなる抽送の中、快楽に嬌声を入り混じらせる俺達。肉欲のみならず、心も一つになれたような感じの交尾など、最後にしたのはいつだったか、いや、生まれて初めてか。今までのままでは味わい得なかったであろう営みをこうして味わえるきっかけを作った姐さんには、感謝しかない。気持ちいい中で、俺はその思いを伝える。姐さんは喜び、マンコの締まりも強まって強烈な快感とチンポの力強い躍動を唆した。俺が漏らした我慢汁で一層マンコが濡れそぼる。すっかり硬くなった金玉は、溢れた俺達の淫水に濡れているのが分かり、姐さんの尻に触れてはねっとり糸を引くような感じがした。


 姐さんと交わる内に、俺の体に変化を覚える。それは双方待ち望んでいた、喜ばしい物だった。
「ねえ、さ……! あなたの、おかげで、俺……ううっ!」
 ムズムズする。金玉と会陰が、めっちゃムズムズする。
「あっ、あんっ! どうやら、成功、みたいね……っあぁ!」
 姐さんも嘴を開いてハアハア息をしている。気持ちよく火照っているサインを見て、俺も確実性を帯びた未来に悦び、素直に雄の快楽に酔い痴れる事が出来る。先端の突起に解されてトロトロになったマンコが、彼女の名器ぶりに箔を付ける。俺のチンポあっての極上のマンコ。その責めを余す事なく受け続け、わだかまる物を感じながら更に膨らみ、脈打ち、徐々に高まる危険性を漏らすチンポが狂おしい程に気持ちよくて堪らない。そして先端が奥の何かに触れ始める。
「あんっ! そこは、あっ、あ、あぁぁん!!」
 姐さんが甲高く鳴き始める。どうやらそこがいい所らしい。だが呼応して強まる締まりに、チンポはもう耐えられそうもない。金玉からチンポの根元に、五日溜まった分のスペルマが濃厚な流れを作り始めていた。
「俺の仔っ、産んで、くださいっ! 姐さんっ!!」
「あ、や、やああぁぁぁぁぁぁん!!!」
 先に果てたのは姐さんだった。ぎゅぅと締め付け、逆に奥は広がって、確実に雄から漏れる物を吸い取ろうと胎内が変化する。淫靡で艶やかな雌の責めに次第に耐えられなくなり、詰まりに詰まって快感を生み出す前立腺が決壊によって一際猛烈な快感を発した。チンポは表面の凹凸をくっきりさせて刹那のじゅうでんで硬く雄々しく張り詰める。歯を食いしばって戦慄く俺の毛皮から火花が飛び出す。
「で、射精()まっ! グオォォォォォォォッ!!!」
 濃厚な流れが尿道を駆け抜け、不本意な不発続きだった自慢のでんじほうが、彼女の胎内で存分に炸裂する。同時に体から放電された。
「あぁっ! すっ、すごいわあぁ!!」
 俺の下で姐さんが仰け反り、射精される快楽にのめり込んでいるように見えた。ドクン、ドクンと減衰しながらも続く律動。ビチャビチャと真下から粘液の滴る音が立ち、遅れてつんと鳥臭さを孕んだ馴染みのスペルマ臭が漂う。俺、やっと中でイけた。中折れしなかった! しかも愛しの姐さんの中でイけた!! 一入(ひとしお)の喜びに、再び咆哮を上げた。



 種付けの衝動が鎮まり、俺達は結合したまま互いの肉体を感じていた。やおら見上げた姐さんがニコッと笑う。
「おめでとう、レントラー君。この十日間よくがんばったわね」
「ありがとうございます、姐さん。あなたのおかげです……!」
 走馬灯の如く駆け巡る、姐さんと出逢ってからここまでの十数日間。初めは綺麗な鳥だなとしか思っていなかった存在が、今や本気で番いたいと思える存在にまでなっていたなんて。生きていると何が起こるか分からない物だとひしひし感じていた。
「正直、最初はあなたのことちょっと頼りないかなって思ってたけど、そんなことなかった。見直したわ」
「そう言っていただけて、俺、すごくうれしいです」
 愛しの顔に頬擦りする。体から分泌されたであろうあの心地よい香りを、ほんのり鼻が拾った。


「あなたが中でイけた証、自慢の能力で見ちゃったら?」
 ふふっと姐さんが笑う。言葉に甘えて俺は目を光らせる。既に萎えながらも体内に収まったままの偉業を遂げたチンポ。初めての交尾で見て即座に名器と分かった膣内は、俺のスペルマで白く染められていた。この中に、俺の仔となる奴がいるんだなと思うと、神秘的で感慨深い。姐さんの胎内を隈なく眺めて…………



 あ れ ?



 彼女の体内の、ある部分に目が行った。目を凝らし、焦点が合った途端、身が固まってしまう。
「あら~?」
 徐に目を細める姐さん。
「あ、あの……」
 口がパクパクするばかりで上手く言葉が出ない。
「……気付いちゃったかしら?」
 姐さんの言葉に、無言でこくりと頷いた。まさか、そんな……!
「ほんと、ごめんなさいねえ。こんな見た目(なり)してるけど、あたし……」
 首を伸ばし、俺の耳元で息を吹きつつ囁いた。



 オ ス な の ♥



 電気タイプでも予測不能な暗天の霹靂が俺を襲う。夢でも見ているのか? そんな錯覚すら禁じ得ない事実が、目の前に立ちはだかった。
「どうして、言わなかったんですか、そんな重大なこと……?」
 恐る恐る、声を震わせながら、麗しき雄鳥に問うた。
「それはね、端っからあなたを騙すつもりだったからよ」
「お、俺をですか!?」
 そうよ、と狡猾な美鳥はほくそ笑んだ。騙して何をするつもりか聞いたら、特に、と返された。
「一見頼りなくて初心(うぶ)そうなオスを惑わせて、褒めて褒めて上げるところまで上げてあたしに夢中にさせてから、あたしがオスだってことを打ち明けてどん底に突き落とすの。そしたら、すっかりメスだと思い込んでたバカなオスは真っ青になって、魂が抜けたようになっちゃうの。そんな情けない姿を見ると胸がすくのよ。そしてついでに縄張りとかお宝とかしれっと奪い取っちゃったりもするわけ。アッハハ! 愉快愉快♪」
 俺はあの時聞いた、「中身は汚れの塊」の本当の意味を思い知る事となった。そしてニドクインさんの忠告は正しかった事も……。
「ふふふ、まだまだ『引き際』の見極めが甘かったわね。せっかくチャンスをくれたのに、ほんと、オスってバカよにゃはぁっ!!?」
 嘲りを紡ぐ嘴から突如漏れた甲高い声。痺れるパルスは、内から発せられていた。
「残念なお知らせが一つあるんですけど……」
 毛羽立った耳毛に息を吹きかけると、ぶわっと羽毛が逆立った。俺も耳元で、囁いた。
「実は俺、隠してたんですけど、生まれてこの方……」



 ――生粋の「ゲイ」なんです



「あ、あ、あいえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!?」
 俺からも仕掛けた暴露に、長鳴のバシャーモの如き愕然の叫びを発した。
「ナ、ナンデ!? ゲイナンデ!!? 全然そんな雰囲気出してなかったじゃない!!」
「そりゃそうですよ。せっかくその気で寄って来たメスにゲイだなんてバカ正直に言ったら、距離を置かれるでしょう? それに俺、昔から隠す事に関しては上手いと皆に言われ続けてますので」
「そ、そんな、あたし、見抜けなかった……!」
 俺の下で絶望に打ちひしがれている魔性の鳥。
「それに俺、昔からメスが相手だと上手く調子が出なくて、恋愛感情はおろか性欲すら一切持てなかったんです。でもあなたにだけはなぜか惹かれてって、それが香りのまやかしだったとしても、あなたをきっかけにノンケ堕ちも悪くないかなと思って、わざとゲイを隠していました。初日の交尾も、俺にとっては初めてのメスとの交尾で緊張して、それでなおさら……でも」
 俺が腰を押し付けると、嘴から上ずった声が零れた。
「あなたの真実を知って、俺も腑に落ちました。頭ではわからずとも、体は既に理解(わか)ってたんだなって。端から()とは番えないそんな体と性分は早々変わるもんじゃないって……」
 いつの間にか自嘲を零していた。一方で、漲る変化も同時に感じる。密着する下腹部と黒いぼんじりを擦り合わせ、心地よい刺激に見舞われた。
「あなたがオスとわかった今、俺、めちゃくちゃムラムラしてるんです。ここまで燃え上がってるのは久々、いや、初めてかもしれません。たまらない、あなたともっと、こんなことしたい……」
「レ、レントラー君……こ、怖いわ……!」
 彼女、いや、彼は顔面蒼白。今の俺は、鋭い目をギラギラ輝かせ、鋭い牙の並ぶ口から生臭い涎をだらだら糸を引きつつ垂らして、圧し掛かって捕らえた「獲物」を凝視しているのだから。首筋をれろんと舐めると、羽毛や地肌から独特の苦味と鳥臭さ、そしてあの芳香が口から鼻腔へ抜ける。
「俺みたいな肉食いが、狩りで仕留めた獲物を食べるとき、どんな気持ちになるか、ご存じですか?」
「い、いや、わ、わからないわ……」
「なら教えてあげましょう」
 麗しい頬と、瞼から長く伸びる飾り羽を、徐に舐め上げた。彼はぶるぶる震えていた。
「かわいいとか愛おしいとか、なぜかそう思ってしまうんですよ。だから肉が旨くなるんです」
「い、嫌……あたしを、食べないで……!」
「大丈夫です。あなたは毒を持ってるから、文字通り食べることはできません。ですが……」
 すっかり胎内で勃起を取り戻したチンポを、奥に突き付ける。端整な肉体がぴくりと戦慄き、鳥は嬌声を発した。
「こういう意味で食べる(、、、)ときも、全く同じ感情になるって、俺、初めて知りました。ですから俺、このチンポで、愛おしいあなたを存分に『いただきます』」
「ひゃあん!!」
 発した声が裏返る。チンポの先は、最初の中出しを遂げた時に感じた奥の何かに触れていた。改めて透視すると、当たっている分厚い肉の障壁の奥に、未踏の空間が存在しているのが分かる。そこへ辿り着けば、今犯している愛おしい存在を物に出来ると確信した。
「俺のチンポで存分に気持ちよくなったら、俺の仔、産んでくださいね、姐さん(、、、)
 真っ青だった顔を途端に赤くして上気する姐さんを凝視し、舌なめずりをする俺は、疑いようもない肉食いの雄だった。
 抜き挿しを再開すると奥の肉の扉に当たり、スペルマをぶちまける前の大きさにまで既に膨らんでいる事を実感する。一部界隈の人間が好んで使うと、人間と関わりの深い知り合いから聞いた「つよくてニューゲーム」って言葉が正にこの状態だろう。果てた後とあって少し刺激に鈍感にはなっているが、それでも名器の反射的な責めはチンポをゾクゾク疼かせて、残渣混じりの先走りを心地よく胎内に搾り出されてしまう。
「あはぁ! いやっ! そこ、 やめてぇっ!!」
 俺に突き上げられる度に途切れ途切れの艶声を発し続けて乱れる姐さん。口こそ嫌がっていても、俺に味付けされた極上の名器は物欲しそうにチンポに吸い付いてるじゃないか。姐さんを食らい、チンポがマンコに食らい付かれる快楽に俺も表情を歪め、唸り混じりの嬌声が漏れる。
「あっ、ああぁぁぁん!!!」
 程なくして彼がイった。俺が貫く深紅の花からブシュッと白濁混じりの蜜が噴き出し、チンポの根元や金玉、下腹部が濡れるのを感じる。
「ぐうぉっ!」
 刹那に強まる吸い付きで汗だくの体に電流が走り、気持ちいい躍動を伴って胎内にじわっと漏らす。確実に強まる奥の衝突。それに伴い受ける性感も比例して強まる。それでも俺は未踏の空間へ突き抜けてやる。もっと膨らめ、そしてぶち抜け。それまで耐えろ自慢のチンポ! 生まれてから一分一秒たりとも欠かさず共に時を過ごした分身に、全幅の信頼を寄せていた。
「もうっ! やめてっ! ケダモノぉ! あ、やああぁ!!」
 美麗な顔立ちをくしゃくしゃにして泣き喚く姐さん。極上の美しさを誇るからこそ、淫らに狂う醜悪な一面が、只でさえ全振りの劣情を容赦なく掻き立てに掛かる。ケダモノは俺達にとっては蔑称に近い意味合いを持つが、別にそう罵られても構わない。だって今の俺は文字通り「ケダモノ」だからな!
 熱を持った極上の鳥肉(かしわ)からむんと立ち上る鳥臭さと芳しいフェロモン。牙と歯茎を剥き出して、それをより鮮明に感じ取った。汗に濡れた俺の体からも、むんと湿気を孕んだ、普段走る時よりも格段に強い雄臭さを発している。交尾でこれだけ臭くなったのも久々だ。それだけ俺は、姐さんとの営みを全身全霊で(たの)しめていると分かって喜びに昂った。そして俺にその喜びをもたらすきっかけを身を以て与えてくれた姐さんに、感謝の念が湧き上がり、それは彼への抽送(ワイルドボルト)という形で還元する。
「やんっ! 頭っ! まっしろに、なっちゃうぅぅ!!!」
 戦慄いてまたも絶頂を迎える姐さん。俺が分かるだけでも何度迎えたか知れない。寧ろ途切れる事なく一続きにすらなり掛けているのではないかと思える程に、マンコの責め立てが激烈になりつつある。
「グオォッ! やばっ!」
 汗を流して歯を食いしばりながら、脈動して胎内に漏らす汁の濃度が高まるのを感じる。俺の下半身に光らせた目を向けると、金玉の中には思った以上に沢山のスペルマ。奴らがいるべきは硬くしわしわに変貌した俺の臭い金玉の中でも、白く掻き回す空間でもない。貪欲なマンコに耐えながら突き抜けようとするその先だ!
 分厚い肉の扉も、突起だらけの先端で叩き続けたお陰か徐々に柔らかくなり、透視すると徐々に奥へ向かって押し退けられようとするのが見えた。
「あ、や! や! やらあぁ!!!」
 姐さんは最早イき狂いの境地に達しているようだ。涙と鼻水、涎をだらだら流し、時に汚くけたたましい声も交ざり始める。
「ぐうっ! きてる、きてるぞぉ!」
 すっかりふわふわとろとろぬるぬるに仕上がった胎内を犯し続ける快感に、金玉からチンポの根元にかけて徐々にムズムズさせながら、表面の凹凸をバキバキに浮き立たせた惚れ惚れする程の雄々しい猛りが、分厚い肉の扉に食い込み始める。気持ちよく漏れる透明なジェル状の物が、先端に押し付けられる肉の存在でその質感をよりはっきり感じ取れる。
「いやっ!! こっ、これ以上はぁぁ!!!」
 身を捩らせて暴れようとする姐さんを自慢の力で押さえ付けながら、佳境の迫る交尾を続ける。打ち付ける毎に先端が食い込んで抉じ開けようとするのが分かる。その代わり俺も涙が零れる程狂おしい快楽に苛まれ、容赦なくスペルマが前立腺に送り込まれている。耐えろ、耐えろ! もう少しだ! 透視で見える、目的を遂げようとするチンポは、我ながら大きく立派で、雄々しく姐さんを貫けている事が極上の快楽と愉悦に繋がった。急激に漏れそうになる中、とうとう分厚い扉を抉じ開けて未踏の空間へと侵入する。
「ああっ!! やあっ!! ちょんちょんっ! ぼっこれっ……!!!」
 姐さんがガクガク戦慄き出す。これでもかと強まる膣圧に、覚醒を遂げたでんじほうは止めのじゅうでんを伴う膨張を始める。
「ぐおおっ! い、いくでえっ!!」
 貫いた事で先端を猛烈に締め付ける存在となった肉の扉に、耐え難い刺激的な電流が前立腺から生じた。尿道を歪に押し広げる怒涛と化した生命、その出口は確実に最奥の空間へ向けられていた。姐さんの胎内をこれでもかと蹂躙した末に、より奥へと雄々しく突出した俺の体内から飛び出そうとする刹那、頭の中で白い火花が散る。
「孕めっ!!! ガオォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」
「ギャアァァーーーーーーーーーンス♥♥♥」
 俺達の快楽はだいばくはつを遂げ、姐さんはしぼりとる、俺はでんじほうとほうでんをそれぞれ最大火力で繰り出した。姐さんの最奥で勢いよく噴き出す白。それを光る目で見て、エクスタシーに合わせて極上の達成感に溺れた。
 突如ガクンと重力を感じる。姐さんはイき狂い続けた余り、気絶してしまったようだ。彼を地面に座らせ、覆い被さるようにして種付けを続ける。ぐしゃぐしゃに汚れた姐さんを、じっくり舐める。口と鼻に広がる味とにおいに、射精の治まらない中で再び絶頂する。
「姐さん……これで正真正銘、俺の物ですね……!」
 力なく垂れる長い首に、頬擦りした。



「――ちょっと、遅かったじゃないの!」
「あんなに夢中になってるのを見てたら入れるわけないだろ」
「どこをどう見たらそんな風に見えるわけ? おかげでもう、あたしはこの子に狂わされちゃったわ。だってゲイだなんて全然わからなかったもの!」
「オスばらしで絶望してる隙にって作戦だったが、今はこうしてぐうぐう眠ってるから、どのみちこれでよかったんだな。それに調教する手間も省ける。いいことずくめだ」
「あたしは最悪よ……」
「まあまあ……ってうわ、なんだ!? くっさ!」
「やめて、オーバーすぎるわ……。気絶してる間にこの子にオシッコかけられちゃったのよ。もう最低……」
「完全にマーキングされたな。おめでとう、末永く幸せにな!」
「……ふん、ありがたく受け取っておくわ」
「しかしお前も、なかなか危険な駆け引きしたな。あれであいつがお前から離れる選択をしたらどうしようかと思ったぞ」
「どのみちあらゆる手を使ってでもモノにするつもりだったんでしょ? だったらあたしにも少し遊ばせてくれたっていいじゃない?」
「お前の遊びは少々過激だからな。まあ、終わりよければってことで、あとはこいつで――」


新たな日々の始まり、過去との別れ


 ――開いた目に、見た事のない景色が飛び込む。草木や土など一切ない、不思議な質感に囲まれた空間。漂う空気も、嗅ぎ慣れた青臭さは一切感じない。それなのに、何故かとても居心地がいい。
 すると、眩い光に包まれ、景色は一変した。そこもまた、初めて目にする所だった。地面は硬い木のような物が敷き詰められ、その上にふわっとした何かが敷かれている。見回すとカクカクとしたやや無機質な空間。見た事のない物がそこかしこに置かれ、天井には光を発する何かがあった。
 そして、同じ空間にいる何かの気配を感じ、振り返る。途端に目を丸くした。
「驚いたかい?」
 声を掛けてきた奴に対して即座に身構え、牙を剥き出して唸った。
「安心して。危害を加えたりはしないわ」
 耳馴染みの声が聞こえ、警戒を解く。ひょこっと現れたのは姐さん。その隣に佇む、人間のオス。
「姐さん、その人間……」
「そう。黙っててごめんなさいね。実はあたし、野生じゃなかったの。彼はあたしのご主人。あの地で見かけたあなたを気に入って、ゲットするためにあたしをよこしたの。申し訳ないことをしたわね……」
 ばつが悪そうに、彼は頭を下げて詫びた。
「でもこれからは、ずっとあたしと一緒にいられるわよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。だってあなたも、ご主人の手持ちになったからね」
 姐さんから、ご主人と呼ぶ人間に目を向ける。毛が少ない手足は筋肉が浮き立ち、身を纏う物越しにも筋骨隆々振りが窺える。漂う雄々しさに、ごくりと唾を飲んだ。
「初めまして。俺のキギスが迷惑かけたね。でも悪いようにはしない。お前の魅力を高めるように努めるから、これからよろしく頼むよ」
 野生ではなくなった俺の新しいご主人は、笑顔で俺に手を伸ばした。
「よろしく、お願いします」
 そう言葉にしたが、恐らく彼には通じず、小さくガオと鳴いただけにしか聞こえなかっただろう。彼の手の臭いを嗅ぎつつ、ざらつく舌で一舐めした。
「あたしとはテレパシーってやつでご主人と会話できるから、何かあったらあたしに言ってちょうだい。ご主人に話を通しとくから」
「ありがとうございます、姐さん」
 慣れない環境の中、気品を漂わせて佇む姐さんが頼もしく見えた。
「それと、ご主人もあなたと同じゲイだし、他の仲間もゲイばっかりだから居心地はいいと思うわよ」
「助かります、色んな意味で」
 俺は早速姐さんに歩み寄り、身を寄せた。ほんのりと、俺を惑わせた香りがする。初めて逢った時はわざと強く香らせていて、普段はこの程度だと言うが、寧ろこれくらいで丁度いい。
 ああ、姐さん、俺の姐さん。ずっと一緒にいられる、この事実だけでも俺は最高に幸せだ!



 こうして始まった、ご主人や姐さんとの新たな日々。自然に囲まれた野生生活とは打って変わった、人間の生み出した物に囲まれた生活に戸惑いこそ覚え続けるものの、ご主人や他の仲間とも少しずつ打ち解け、一部の者とは気持ちいい事を一緒に嗜むまでになった。姐さんとの十日間があったお陰で新生活でも存分に快楽を味わえ、彼には改めて感謝するばかりだった。


 あれから数日経った折、姐さんからある事を聞かされる。
「……え、ここを旅立つんですか!?」
 彼はやおら頷いた。今住んでいるこの場所は、もともと俺が棲んでいた所に程近い。何も音沙汰のないままここに来てしまい、機会があれば挨拶しようと考えていた矢先の事だった。
 俺は姐さんに、かつて世話になった者達に別れの挨拶をしたいと訴えた。姐さんはそれをご主人に話し、彼は快くそれを許した。姐さんから俺の暮らし振りを聞いていたお陰でもあり、そういう点でもありがたかった。



 そして旅立ちの前日、ご主人はわざわざ俺のために時間を割いてくれて、かつての棲み処の付近まで連れて来てくれた。
「挨拶が済んだら戻って来いよ」
 ガオ、と鳴いて頷き、懐かしい木々の間を走り始めた。鼻に飛び込む草木や土の匂い。やっぱり安心する。もう嗅げなくなるのが名残惜しいが、仕方ない。


 あの日以来行き辛かったその場所に、俺は真っすぐ向かっていた。声を掛けると、中からあいつが出て来た。
「……何? 忙しいから会えないって言ったじゃない」
 俺を見るなり冷たい態度を取る。俺はここで引き下がらなかった。
「忙しいなんて見え透いた嘘つくなよ」
「とにかく僕は君の顔を見たくはないんだ。がっかりした上に、友達との約束を断ってまで作った時間が無駄になったんだよ、君のせいでね」
 冷めた調子の彼に、更に詰め寄った。棲み処の中へと入る。奴はあからさまに煩わし気な顔を見せる。そんな事では、俺は動じない。
「お前が持ってるその印象、今ここで上塗りしてやる!」
 その場で奴を仰向けに押し倒した。曝け出される腹と通常時のチンポ。体形の滑らかさにそそられる。尻の穴は相当使い込まれているのが一目で判る。
「まさか君、あのときのことを……!?」
「そうだ。今の俺はあの日とは違う。それをここで証明してやる!」
「や、やめて! 僕はそんな気分じゃ……」
 俺は奴の首筋に、そっと牙を立てる。無論怪我しない程度に抑えるが、それでも彼はぞくりと身震いして動けなくなる。その様子を見て、途端に昂る。
「見ろよ、俺の自慢のチンポをよ」
 見せ付けたチンポはムクムクと鞘から露出して硬くなっていく。前進してから腰を落とし、彼の鼻面を突起だらけの先端でそっと叩く。
「しゃぶれ」
「嫌だ」
「おとなしくしゃぶれ!」
「噛み千切られてもいいならね」
 チッ、反抗的な奴。だったらと、俺は体から電気を発した。奴の体にも流れ、途端に痺れる。奴の上に座り込み、俺の胸で彼の顔を塞ぎ、チンポを彼の胸に押し付けて組み敷く。そのまま腰を前後に動かし、毛皮とチンポを擦り付けた。しゃぶってくれないなら、俺が自ら気持ちよくなって濡らすしかない。
「ふご、ふごっ!」
 俺の胸毛に埋もれた顔から荒い呼吸音が立ち、途端に熱を持つのが分かる。奴の胸から俺の腹へもぬくもりが伝わり、受ける刺激が増幅される感じがしてきた。脈打つチンポに搾り出すような快楽を覚え始める。乾いた摩擦音に、次第にぬちぬちと纏わり付く音が交ざる。濡れてきた。全く、我ながらエロい音立てやがって。
「ぐふ、ぐふっ!」
 俺の下で藻掻いている。麻痺状態とは言え下手に力を緩めたら噛まれそうだから、もう少しだけ我慢してくれ。その間に彼の胸共々チンポ汁でぬらぬらさせる。腰を上げると、ぬちゃりと卑猥な音が立つ。振り向いても体で隠れるから透視すると、いい感じにぬめって糸を引いていた。


 徐に立ち上がる。ぷっはと音を立て、露になった奴の顔。俺の水色の毛が、涎に濡れた口元にこびり付いていた。胸元から生臭さが立ち上る。
何しとんにゃー(何してるんだよ)こんドアホ!!」
 涙目で睨み付け、喚いた。ピクッと耳が反応する。奴の顔を、じっと凝視する。
「……おめーもしや、ミケツの(もん)け?」
「……へ?」
 ぽかんと口を開け、奴が固まった。この反応、間違いない。
千度ぶり(久しぶり)に聞いたわそん言葉。子供ん頃が懐かしいわのー」
「え、あ、あんたまさか……!」
 わなわな震える奴を見下ろし、牙を見せてにんまり。
「ほーや。実はわしもミケツの者やさかい。まーさかこんなとこにわし以外にもおるなんて思わなんだでー(思わなかったぞ)
「わ、わし……」
「なんやー。若い者がわしとか使てもええやろ? のー」
「ひっ……!」
 ギロリと睨んだら奴は固まる。その隙にひっくり返してうつ伏せにし、その上に圧し掛かった。語り口こそ「俺」だが、生まれ育ったミケツでは自分を「わし」と呼んでいた。今でも正直「わし」を使いたくなるくらいには、体に馴染んていた一人称である。それはさておき、奴の耳元で唾液音を交えつつ囁いた。
「おんなじ里の誼やさかい、遠慮なしにいかしてもらうでー」
 チンポの先を、肉々しい穴に宛がう。濡らした物がちゅぷっと音を立てた。ぐっと腰を押し付け、穴をこじ開けて彼の体内に侵入する。あの日と違い、事前に準備してない分締まりが強く感じられる。
「あっ、痛っ! やめーやー!」
 自慢の先端の突起は、準備不足の体内には刺激が強いか。だったらじっくり解してやろう。肉襞と突起を絡ませながら、ゆっくりした腰つきで徐々に奥へ奥へと埋め込んでいく。ぐにゅぐにゅと当たって引っ掛かる、微妙な摩擦の強弱のコントラストが、突出して奴を犯す部分に活力を与える。何も考えずに貪るよりも断然気持ちいい。これも姐さんとの日々で得た気付きの一つ。昔の俺とは違うって事、こいつにチンポで教えてやる。
「ひっ! あ、あっ!」
 漏れる声に苦痛が薄れてきたように聞こえる。思いの外早く馴染みそうだ。包み込む肉の温かさと締め付けが堪らず、ぶるっと震えて表情を歪め、ドクッと膨らんでじわり漏れてしまう。より気分を高めるために、奴の首筋をれろんと舐める。ゾクゾクッと奴の体が反射的に強張り、それは中の締まりにも反映された。
「あっ! や、やぁっ……!」
「ううっ! ごっつええ……!」
 奴に続き、俺も喜びの声を漏らした。あの時の営みよりも、奴が感じているような気がする。
だんないけ(大丈夫か)?」
 喘ぎ混じりに奴に訊くと、険しい涙目で振り向いた。
だんないわきゃあらへんがな(大丈夫なわけないだろ)!」
「ふーん、ほーかい」
 ズプッと一押しすると、上ずった甘声が押し出された。
「なんや。口じゃーそねな(そんな)こと言うても、体は素直やんかー」
「ち、ちゃうっ! そりゃぁ、ひゃうっ!」
 中でグリグリすると、面白い程に身悶えてくれる。そんな反応されたら、俺のチンポもより漲るに決まってるだろ。
「あかん、もう辛抱たまらん……掘るでー!」
 俺の腰はヘコヘコ前後に動き出していた。腰に合わせて体内で暴れる突出に肉襞が擦れたり引っ掛かったりしてパルス的な快楽が生じ、その度に身震いしたりぐっと噛み締めたり、心地よい唸りを発したりして全身で味わう。
「いっ、いやっ! 待ってぇ!」
 奴も掘られながら喘ぎ散らす。俺のチンポでよがってくれるのは、やはり気分がいい。もっと鳴かせたくなって、雄臭いフェロモンたっぷりの汗を散らしながらピストン運動に精が出る。無論精を出す(、、、、)ためにやっているのだが。
「わっ、わえ()っ! 狂うて、まうぅっ!」
「狂うて、もうてもっ! だんないでえっ!」
 狂いそうだなんて、嬉しい事言ってくれる。組み敷かれた身を火照らせ、蒸れた雄獣の臭いを立ち上らせ、奴の興奮の証は掘り続ける身にも強く伝わってくる。肝心の体内では、雄を囲む熟れた肉がきゅうきゅう締め付けてくるのだ。それを太く長い一身に受けて中で気持ちよくなりながら、金玉がきゅっとなって擽ったさを覚える。ここで挿入してから初めて透視能力を使う。くっきり筋張って大きく雄々しい風貌のチンポが、中の肉を押し退けて蹂躙し、その根元に、金玉から何かが移動するのが微かに見えた。その更に下に焦点を当てると、腹と地面に挟まれた奴のチンポは俺に犯されてガチガチに勃起しながら、搾り出された我慢汁を僅かな空間に浸透させている。腰振りの衝撃で僅かに擦れているのがいい塩梅なのか、奴のチンポも力強く脈打っているのが見えた。
「うぐ、あかんっ……!」
 もっともっと狂わせたいのは山々だが、ウズウズと力強い種付けが迫りつつあるのを自覚した。ならばとチンポで、肉襞の中にある硬めの感触を突き始める。
「あぁ! いや、いややっ! そこはぁ!」
 痺れる体をより震わせ、反応が大きくなっているのが伝わる。同じ雄だからこそ分かる、内に秘めた急所。それを突起だらけのブツで突いちゃ、どうかしちまいそうにもなるだろう。俺はされた事がないので想像に留まるが、もし俺がされても正気を保てる自信はない。その代わりに俺は、奴の中でこれでもかとチンポを膨らませてでんじほうへと変え、過充電になるのを耐えて、耐えて、耐え切れなくなって生まれる快楽で正気を吹っ飛ばしてやる!
どねやあ(どうだあ)っ! わしのっ、チンポはぁっ!」
「むり、むりぃっ! わやん(ダメに)、なって、まっ、まうわぁ!!」
 痺れとは異なる戦慄きを生じた奴の身は、うつ伏せのまま仰け反ろうとし出す。ガン責めされる前立腺に急速に金玉から遺伝子が供給され、急速に雌の悦びへと上り詰めるのが見て取れた。
いてもう、たれぇっ(イっちまい、なぁ)!」
 奴の首筋に噛み付きたいのを抑え、首に生える長めの毛を噛んだ。
「やっやっやあああぁぁぁぁぁぁ!!!」
 俺に掘られて硬く筋張った奴のチンポが、白い爆発の刹那を迎えて思い切り身を仰け反らせた。それに呼応した雄マンコが、激烈な圧の変化で俺を虐める。
「わしもっ! イきよるでえっ!!」
 蹂躙しまくり、ねっとり汚しまくり、奴を雌に仕立てたチンポは、前立腺の限界に悦び、止めの膨張を遂げる。そして弾ける猛烈な快楽を以て、あの時示せなかった本当の俺を突き付ける瞬間が訪れる!
「グオォォォォォォォォン!!!」
 火花を散らす咆哮に乗せ、俺の立派なでんじほうは奴の中にも派手にスペルマをぶちまけた。俺の下から、声にならない声が聞こえてくる。これで目的の一つは達成された。思い知ったか、姐さんのお陰で変われた俺を! 解放の恍惚に酔いながら、奴を見下ろしてしたり顔を浮かべた。


 奴からすっかり萎えたチンポを抜く。閉じ切らない穴から漏れ出す俺のスペルマ。この光景を見てスッキリした。
「おめーん中、ごっつよかったでー。おおきに。どねやった?」
 奴はまだぐったりしていて、返事は来ない。
「まーこれでわしのこと、よう忘れん(忘れられない)ようになったやろーかのー」
 麻痺した体に再び電気を流す。これで痺れは取れた筈だ。顔を覗き込むと、整い切らない息をしつつ、涙を流し続けていた。
「ほんならわし、これから行かんなん(行かなきゃならない)とこがあるさかい、もういぬるわのー(帰るぞ)
 奴に背を向け、棲み処を出ようとした。すると彼の声がする。
「……なれや」
「なんやー?」
 振り向くと、鬼のような形相で睨んでいた。
「えげつねえわこんドロクタ(クズ野郎)! 顔も見とうないわ! 頼むさかい早よいなれや(帰りなさいよ)!」
 結局最後まで反抗的だった。言う通りにさっさと棲み処を出る。外に出てからしばらくして、目を光らせて様子を窺う。麻痺は治した筈なのに、腰砕けになったのかうつ伏せのまま。そして奴の尻尾は、先程俺が汚した穴に突っ込まれ、それをズポズポと動かしながら息を乱していた。それを目にして、胸が()いた。



 付近を流れる川で、リベンジを果たした体を洗い流すついでに火照りを冷やし、開けた草原で降り注ぐ日の光を浴びて毛皮を乾かした。その足で次の目的地へ向かった。
 目の前に広がる見慣れた光景。俺が外から声を掛けると、中から出て来たのはここで世話になったニドクインさんとガルーラさん。
「まあ、レントラー君!?」
 ニドクインの目が丸くなる。遅れて現れたガルーラさんも驚きを隠せない様子。
「なんにも言わずにどこに行ってたのさ!? 心配したんだよ!」
 本気で叱ってくれるニドクインさんに面目ないと思いつつも、ここまで心配される事にありがたみを感じていた。
「す、すみません。近いうちにちゃんと話をしようと思ってましたが……」
「……あの子とのことかい?」
 流石はニドクインさん。察しが早い。恐らくガルーラさんに色々訊いたあの日について、彼女から聞いたんだろうな。
 俺はこれまでに起きた事を包み隠さず話した。はあ、と彼女は呆れて溜息を零す。
「だから言ったじゃない、深く関わるなって。それで人間に捕まっちゃったら元も子もないよ」
「いえ、おかげで俺は姐さんとずっと添い遂げられるので、この道を選んだことに後悔はしてません」
 胸を張って堂々と、そう言える自分がいた。もし姐さんと巡り合わないままだったら、俺は今頃どうなっていただろう。そんな事をふと思案した。
「アンタがそう思うなら、これ以上アタシらが言うこともないけどさ……まあ、番になった以上は、あの子のことを泣かせる真似したら承知しないよ!」
「はい、気を付けます!」
 鬣を正された気分になって、ぴんと背筋が伸びた。
「たまには顔見せるんだよ?」
 ガルーラさんの言葉に、チクリと痛む胸。この事を言わなきゃいけないのが、辛かった。重い口を開いて告げると、案の定ふたりは仰天した。
「そんな、今日で君が見納めになるかもしれないなんて……」
「俺だって、離れたくないです。でも今までの生活を捨てて姐さんと添い遂げると覚悟した以上、受け入れるしかないんです」
「そうか……」
 俯いて零れる嘆息。ここに棲んでから五年間の感謝を、彼女らに伝えた。怪獣らしくも柔和なふたりの手が、俺の頭をそっと撫でた。
「達者でやるんだよ。体には気を付けな!」
「君のことは一生忘れないし、ここで幸せを祈り続けるよ!」
「ニドクインさん、ガルーラさん……五年間お世話になりました!」
 鼻の奥がつんとするのを感じながら、ふたりの元を去った。直接見ずとも、俺の姿が見えなくなるまで見送っているのが分かった。
 それから馴染みの住民を次々訪れ、旅立ちとこれまでの感謝を伝えた。別れを惜しむ者、泣きながら縋り付く者、笑顔で送り出す者、反応は様々だったが、つくづく彼らに愛されていたんだなと、この時になって改めて痛感させられるばかりだった。


 一通り挨拶を済ませ、最後にこの地を目に焼き付けようとあちこち駆け回る。毎日のように見ていた光景の数々。これも見納めと考えてしまうと、どうしても憂鬱になる。
 ふと遠くに見える馴染みの岩壁。吸い寄せられるが如くそこに足が向いていた。お決まりの位置にある茂み。そこに身を隠した。毎日のように世話になった、この近辺では貴重な発展場。日々異なる種族が異なる雰囲気、体位で快楽のままにまぐわうのは見飽きる事なく、オカズにも困らない貴重な場であった一方で、異常なオナニーに傾倒し過ぎて交尾に支障を来す原因にもなった、忌々しい場でもあった。
 目を光らせて(つぶさ)に観察する。丁度事を終えたばかりのゲイカップルが、後始末をしながら愛の言葉を紡いでいた。場の性質上、ここに来る者達は関係を大っぴらにしたがらないことが多い。そしてここを去る手前、俺にはすっかり用済みの場所となってしまった。今俺がいるこの茂みも、どうやら毎日俺が放ったスペルマの残渣を栄養にして周囲より大きく育ったようだ。その内栄養不足で弱っていくだろう。一足先に幸せを掴み取った身としてここに通い詰める者達の幸せを祈りつつ、過去の定位置を去った。


 最後に向かった、最も愛着のある空間。当たり前のように入口から中へ入ると、鼻を突いた不快臭。朝飯に貯めた木の実が、夏の高温多湿ですっかり腐っていた。ここで流れる時間が、今の俺にはもう「日常」ではない、何よりの証。無論それだけではない。かつては毎日マーキングして染み付いた筈の俺の臭いが、新たな日々が始まってからの僅かな期間で殆どその痕跡を失っていた。
 これまでの日常を捨てるという決断の重さが、突然俺に圧し掛かる。今残る臭いが完全に消えたら、俺はこの地で「余所者」になる。ここもその内、周囲に棲む者、あるいは見知らぬ誰かが棲むようになるだろう。あの茂みを含め、俺がいた証が、消えていく……。


 俺は泣いた。声を上げて泣いた。覚悟を決めた筈なのに、未練がましくて、かっこ悪くて、情けない、生態系の頂に立つ者らしからぬ一匹の肉食いが、自ら居場所を断ったこの地で、咽び泣いた――



「もういいのか?」
 ご主人の問い掛けに、小さく鳴いて頷く。元々赤い目の色で、泣き腫らしても気付かれないのが幸いだった。
「それじゃ行こうか。キギスもお前のことを待ってるだろうしな」
 彼は笑顔で、俺をゴージャスボールとか言う物に収めた。直接外は見えないが、あの地が遠ざかっているのは漂う空気でひしひし感じられた。


 家に戻るなり、人目に付かない所へ姐さんを呼ぶ。彼の姿を見た途端、視界が急激に霞んだ。姐さんの胸に顔を埋め、情けない泣き姿を晒した。姐さんは何も言わず、そっと俺の頭や鬣、背中を撫で回す。俺が惚れ込むきっかけになった、彼の羽毛の感触やぬくもりに感じる母親のような優しさが、望郷に咽ぶ俺の心に深く染み渡り、徐々に安らぎをもたらしていく……。


 翌日、引っ越し業者の大きなトラックとか言う車とそれに家具や荷物を積み入れるゴーリキー達、そして今日を限りに離れる俺達の住まいを眺める俺の目は、快晴に燦々とする太陽の如く輝いていた。俺の横に佇んで眺める愛しの姐さん、そして彼の幼馴染。それだけじゃない。ご主人や共に暮らす頼もしい仲間達が、俺の傍に付いている。独りじゃない。彼らが俺にそう教えてくれた。だから俺は、これから始まる新たな日々に胸を躍らせられる。
「次に住むのは、どんなところかしらね」
 そう話しかけた姐さんに、燦々たる笑顔で答えた。


 ――姐さん、いや、みんなと一緒なら、たとえどこだろうと最高の場所です!

エピローグ ~新たな幸せ~


 引っ越しはとりあえず無事に済み、運んだ荷物の整理等で慌ただしい事がありながらも、気候や環境の異なる新天地での暮らしに少しずつ体を慣らす日々。勿論お得意の透視で引っ越しの際に纏めた荷物の中から目的の物を探し出したりと、きちんとご主人に貢献している。
 そんな日々の中で気掛かりな事が生じる。この所、姐さんが具合悪そうにしている。急に色々変わって体が付いていかないのかもしれない。俺だって、来てすぐに珍しく下痢をしたくらいだ。兎に角無理せずゆっくり休めと、ご主人が気を利かせてこれまでより寝心地のいい寝床を彼に用意してくれた。俺も暇さえあれば、姐さんの傍に寄り添い、退屈な時間潰しに付き合った。
 その甲斐あってか、姐さんは徐々に調子を取り戻す。見守っていた俺は胸を撫で下ろしたが、細かった食を取り戻すかの勢いで食欲が増し、すぐお腹が空いて困ると苦々しく零した。それでも姐さんが元気なら何より。俺は満面の笑みを浮かべた。


「あーあ、ちょっとリバウンドしちゃったかも」
 更に数日が経ち、溜息混じりに愚痴を零す姐さん。聞き慣れない言葉に首を傾げた。要は何らかの原因で痩せた後に体重が戻ったり、それ以上に増えたりするのをリバウンドって言うらしい。って言っても、見た目的にはさほど大きな変化はない。気にし過ぎではと言うと、そうかしらねえ、と麗しい仕草で首を傾げた。今の所特に生活に支障はないようだから、別に大丈夫では、との結論に至った。


 それから色々と事が落ち着いたある日。俺と一緒に寛いでいた姐さんが、突如お腹を壊したかも、とトイレに駆け込む。慣れない日々のストレスか分からないが、腹を壊すのは俺達含め度々あった事だから、皆は特に気に留める様子もなかった。それでも俺は立ち上がり、姐さんが入るトイレの付近に行く。トイレにしては、少し長いような。


「え、やだ! ちょっと! そこにいるんでしょ? レントラー君!」
 トイレの中から姐さんの取り乱す声が聞こえた。そこにいるとは一切言っていないのに、俺に助けを求めるのは流石姐さん、って言ってる場合じゃない!
「どうしました!?」
「あたしの寝床、今すぐトイレの前に持って来て!」
 わかりました、と俺は即座に部屋から姐さんのちょっといい寝床を咥えて引き摺り出し、言われた通りに扉の前に置いた。鋭い牙で表面が(ほつ)れたり穴が開いたりしたが、そんな些事に構ってられない状況だろうと予想が付いた。


 嘴を使って自力で扉を開けた姐さん。血相を変えて寝床に乗り、姿勢を低くする。何事かとご主人や他の面々も集まり出した。目にした光景に、一斉に息を呑んだ。
「お、お前、それ……!」
 苦痛に歪む麗しい顔立ち。そうせしめていたのは、黒いぼんじりから顔を出す物だった。
「た、卵!?」
「どう見ても卵だよな?」
「でもギースオスだろ? なんで卵なんか!?」
 周囲の困惑の中、姐さんは産卵に臨んでいる。空前絶後の状況下でも、俺は彼と番う者として寄り添い、励ました。彼の幼馴染の面々も、腹を摩るなりして彼を支えた。
「あと、少しっ……!」
 徐々にその姿を露にする卵。今正に、ぼんじりを最も大きく広げる瞬間に差し掛かっていた。ここさえ乗り切れば。寄り添う俺も自然と身に力が入る。幼馴染達もどうやら一緒のようだ。
「受け止めて、ワン公!」
 ワン公と呼ばれた幼馴染が、咄嗟に大きな手を伸ばした。直後、卵がするりと落ち、大量の粘液と共に両手で受け止められた。無事に事を遂げ、場が鎮まる。誰かが始める拍手。それはひとり、ふたりと増えていき、やがて歓声混じりに場を大きく賑わした。
「あーびっくりしたわ……」
 力が抜けたか、寝床に蹲る姐さん。咄嗟に優しく労わったが、その表情には安堵が滲み出ているように見えた。



 卵は一先ず、ご主人が持っていた孵化装置とか言ういかにも人間が作りそうな代物の中に入れられた。不安気に凝視する俺に対し、性能は確かだと胸を張るご主人。一応姐さんが産んだ卵だからと、俺と一緒の部屋の一角に、それは置かれた。


 皆が寝静まる頃合い、仄かに光を放つ孵化装置を、姐さんと共に見守る。
「今考えたら、調子が悪くなったのも、急に食欲が出てリバウンドしたのも、卵ができたのなら納得がいくわ」
 そして徐に俺に目をやる。
「そもそもありえない話だけど、心当たりがあるの、あなたしかいないのよね。最近あたしの胎内に出したの、他にいないから……」
「ですよね……」
 俺は小さく息を吐いた。彼は俺の顔を覗き込み、訝し気にする。
「これ結構大事よ? 図太さが売りのあたしでさえ胸騒ぎがしてるのに、どうしてそんなに冷静でいられるの?」
「……冷静に見えますか?」
 逆に俺から問う。姐さんはゆっくり頷いた。
「……違いますよ」
「え?」
 嘴をぽかんと開いたままの姐さん、その頬を一舐め。
「冷静なんかじゃない、嬉しいんです。俺の願いが、叶ったんですから!」
「え、ええっ!!?」
 仄かな光を受けて煌めく瞳が、真ん丸に開いた。そこに薄ら映り込む、なり立てほやほやな親の満面の笑み。
「どういうことよ!? 説明してちょうだい!」
「わかりました、姐さん――」



 それは、姐さんに俺の中折れを治してもらっているあの日々に遡る。運命の時は九日目の流れ星が煌めくあの夜だった。満天の星を劈く輝きに、俺は渾身の願いを乗せた。



 ~姐さんと結ばれて、彼女との間に子供ができますように~



 端から聞いたら笑われるかもしれない。それでも俺は真剣だった。


 そして俺は、夢を見た。ぼんやりと優しい光に包まれた空間に、独り佇んでいた。そんな俺の前で、輝く何か。それはカラサリスみたいな物から顔を出しているようにも見える。それがやがて、表面を覆う何かが剥がれるようにして体が姿を現し、目を覚ました。
 見た事のない小さな存在。背中から大きく伸びる黄色い翼のような物と、黄色い頭の大きな三つの角の先に小さくはためく物に目が行く。白い顔に目立つ円らな目が俺を捉え、そしてにっこり笑う。
「はじめまして。キミだよね、よぞらにかがやいたボクにおねがいごとをしたのは」
 夜空に輝いた……もしやあの閃光の事かもしれない。ゆっくりと頷いて応えた。
「みんなボクのまぶしさにおおさわぎして、おねがいごとをしてくれないんだよね。でもキミはちがった。ホンキでかなえたいおねがいごとなんだなって、すぐにかんじたよ」
「あなたはいったい、誰なんですか?」
 肝心な事を、小さきものに尋ねた。
「ああ、ボク? みんなボクのことをジラーチってよぶんだ。せんねんのうち、なのかかんしかめがさめないって、いうみたいだけど、ボク、けっこうチョコチョコおめざめしてるよ」
「ジラーチ、ですか。それで、俺の願いごとは叶えてくれるんですか?」
 随分なマイペース振りで話が脱線しそうな気がして、俺自ら核心に迫った。
「あ、そうだね、ゴメンゴメン。で、キミのおねがいごとって、『姐さんと結ばれて、彼女との間に子供ができますように』だよね?」
「はい、そうです……ちゃんと伝わってますか?」
「うん、だいじょうぶ。かんじはちゃんとよめるから、あんしんしてね♪」
 雰囲気的に、本当に大丈夫なのだろうかと不安が過るが、ここはとりあえず任せてみようと深呼吸する。
「それでね、ボクはとってもゆうしゅうだから、おねがいごとについて、さっそくリサーチ(、、、、)させてもらったよ。ジラーチ(、、、、)だけに、ね!」
 ずっこけそうになるのをどうにか踏み止まった。どうやら不思議な力を使って、俺達の事はすぐに分かるらしい。
「で、ユメのないこといっちゃってわるいけど、キミと『姐さん』とよんでるトリさんとは、ツガイにはなれるけど、こどもはできないんだよね。なんでかってね、それ」
「そんなこと百も承知です! 俺と姐さんとはそもそも種族が違います! それでもどうしても、どうしても姐さんとの子供が欲しいから、あなたにお願いしたんです!!!」
「わわっ! おっきなこえださないでいいよ! みみがキーンってなっちゃった!」
 つい熱くなってしまい、ジラーチの言葉を遮って声を張り上げてしまった。ジラーチに詫びると、いいよ、と笑顔になる。
「キミのしんけんなカオとおっきなこえで、おねがいごとがホンキだってこと、よくわかったよ。わかった、このジラーチが、キミのホンキのおねがいごと、かなえてあげる!」
「あ、ありがとうございます!!!」
「うわあっ! こえおっきいってばー!」
 今度は歓喜の余り声を張り上げてしまった。ジラーチが深呼吸する。俺も心を鎮めるために真似して深呼吸。
「でね、このおねがいごとをかなえるには、すっごいパワーをつかうんだ。そのときのボクは、とってもおそろしいみためになるみたい。それでもめをそらさないで、ボクをじっとみつめつづけてほしいんだ」
「あなたをずっと、見つめ続ければいいんですね?」
「うん。キミのつよいおもいがないと、かなえるのはムリだとおもう。だから、ボクをみつめてキミのおもいをパワーにかえたいんだ。かくごはできてる?」
 俺は迷わず、大きく頷いた。
「わかった。じゃあ、はじめるよ。ボクからめをそらさないでね」
 ジラーチの体が光り始める。すると腹の部分に変化が訪れる。そこにあったのは、三つ目の「目」だった。その(おぞ)ましい輝きに目を逸らしたくなったが、必死に耐えた。そして心からその願いを唱えた。それはその目に吸い込まれて行くような、不思議な感覚に陥る。怪しい輝きを放ち始める。ここで折れたら雄が廃る。我慢して第三の目を凝視し続けた。
 目の輝きは、途端に息を呑むほど美しい物となる。そして目から眩い光が放たれた。それは心安らぐ温かさを孕んでいた。
「ありがとう! キミのみらいは、とってもあかるいよ!」
 視界が真っ白になる中で、どこからかジラーチの声が耳に入った――



「……それが、あの夜にあったことのすべてです」
 包み隠さず、事の顛末を話した。姐さんから言葉が返ってこない。何事かと凝視すると、はらはらと大粒の涙を流していた。
「あなた……こんなあたしを、そこまで……!」
 麗しい声は、震えていた。流れ落ちる涙が孵化装置の光を拾って、玉のように美しかった。
「あの日言葉にしたように、どんなに中身が汚れていようと俺を包み込んだあの優しさは本物だと直感しました。ですが、本当に俺の一生を捧げるべきか、葛藤してました。なのであの日の夜、思い切って賭けに出たんです」
「それが、あの……」
 ゆっくり、無言で大きく頷いた。あの夢があったからこそ、想いを強く持てて、手練れの姐さんに対しても強気で臨めた。俺はジラーチのお陰で、叶う訳ないような願いを叶えてもらえたのだと、姐さんに告げた。
「いいえ、それは違うわ」
 彼はきっぱりと、それを否定した。
「紛れもなくあなたの力よ。心の底から、バカ正直なまでにまっすぐ、あたしに対する強い想いを抱き続けたから、運命を動かして、本来起きるはずのないことまで起こしちゃったのよ」
「姐さん……!」
 口付けしようとするが、彼自ら距離を置いた。
「ごめんなさい、今のあなたはあたしには眩しすぎるわ。あたしたちなんてまやかしの力を持ったばかりに、近道ばかり考えて、悪事にも手を染めて、その結果後ろめたいことばっかり積み重なって、ろくな半生を送れなかったもの……」
 さめざめ涙する姐さんを見て、酷く心が痛んだ。俺は姐さんのお陰で、失い掛けていた自信を取り戻せた。どこまで出来るか分からないが、今の姐さんを救えるのは、俺しかいないんじゃないか。生まれて初めて本気で愛した相手だからこそ、俺がやるべきじゃないかと!
「姐さん! 今からでも遅くはないです。いや、むしろ今だからこそです。俺のため、いや、生まれてくるこの仔のために、俺と一緒にまっすぐな道を歩きましょう! 胸を張れる日々を、ともに作っていきましょう!!」
 真剣な眼差しに映った姐さんは、嗚咽を漏らしていた。あの時と一緒だ。そう、今は「引き際」どころか、「押すべき」時だ! 前足で姐さんの濡れた頬に触れ、真っすぐ俺の顔に向けさせた。
「心配しないでください。もしあなたが道を踏み外そうとしても、俺が全力で、元の道に戻しますから! あなたのためなら自分の一生を喜んで犠牲にする、その覚悟であなたを愛したんですから!!!」
 頭に浮かんだ、あの日のガルーラさんの言葉。全く同じ事を、自ら口走っていたとは。当時は揺れ動く胸中で聞いて掴み切れなかったが、今になって、愛の力という物の凄さを、俺は完全に理解出来たのだ!
「あ、あなたぁ~……!!!」
 俺の胸に飛び込み、火が点いたように号泣する。姐さんにとってまだまだ頼りないかもしれない。それでもやれる限りを尽くして姐さんの心を救い、ジラーチの言っていた明るい未来へ導いて行く。これこそ新たな日々での俺の務めであり、新たな幸せへの第一歩なんだ。姐さんを見つめる目から、一筋の光が流れた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 突如耳に飛び込む声に、ビクッと体が跳ねる。その主は姐さんの幼馴染、姐さんはワン公と呼ぶイイネイヌ、同じくマシと呼ぶマシマシラだった。
「情けねえ旦那だなって思ってたけどよお! まっすぐで熱い心を持ってて、オレ感動しちまった! 見直したぜぇぇぇ!!」
「おらたちも、悪いことばかりで表舞台に出れない日々を抜け出したいって今のご主人の元で感じてた。おめえさんが一緒なら、ギースは絶対前を向いて歩けるし、おらたちもそれに続いていけるって確信した!!」
「ワン公、マシ……!」
 姐さんは彼らと抱き合い、そして俺も巻き込んで大いに涙した。ワン公さんとマシさんは俺の中で苦手意識が残っていたが、それも今は吹っ飛んで、彼らとも本気で打ち解けられると確信した。孵化装置の中の卵が、そんな俺達を見守っているように見えた。



 あれから半月余り。俺と姐さん達は四匹朝からそわそわしていた。折角の飯も喉を通らない。そこまでして気掛かりだったのは、そう、あの卵。中で動き出し、それが段々激しさを増してもうすぐ生まれるかもしれないのだ。今か今かとその時を待ち侘びる一方で、初めて本格的に仔を持つ親になる不安も付き纏う。四匹抱き合って泣いたあの日以来、姐さん達三匹は真っ当に生きたいと、ポケジョブと呼ばれる仕事に積極的に挑戦し始めていた。無論失敗や苦労も多いと苦笑いするが、少し前まで野生だった俺だって同じ。慣れない仕事で苦労しながらも、野生時代に感じた誰かに頼られ、感謝される喜びをここでも味わえる事が嬉しいし、彼らにもその喜びを今後沢山堪能してほしいと感じていた。その原動力となるべき存在が、今見守っている新たな命なのだ。
「おい見ろ!」
 殻の表面に小さなひびが入る。途端に表情が明るくなる俺達。いよいよか、とご主人や他の仲間もぞろぞろ集まる。皆に見守られる中、蠢きを激しく、ひびを大きくしていよいよ目前のその刹那。生命の輝きが、中から発せられた。


 元気な仔が、卵から飛び出した。


「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 ワン公さんとマシさんが、歓喜に踊り出す。遠いキタカミの里のオモテ祭りだか言うので覚えたらしい。釣られて皆もめいめいお祭り騒ぎ。この状況でも、我が仔は一切動じない。そんな所は恐らく姐さん譲りであろう。
「とうとう生まれちゃったわね」
「はい。今めちゃくちゃ震えてます……」
 もう、落ち着いて、と苦笑する姐さん。その図太さ、俺にも分けてもらいたいくらいだ。
「ともかく、これからは親として恥ずかしくない道を一緒に歩いて行かないとね」
「姐さんなら大丈夫ですよ!」
「ふふっ、ありがとう」
 俺の頬に、そっと触れた嘴。俺達をちゃんと親として認識してくれた愛し仔が甘えたそうにしている。俺は恐る恐る首元の皮を咥え、姐さんの傍へと移動させた。初めてやった親らしい行為、一先ず成功のようだ。周りも大盛り上がり。
「これからはあなたをパパと呼ばなきゃいけないようね」
「だったら姐さんはママですね、オスですけど」
「まあ、産んだのはあたしだから」
 曇りのない姐さん、いや、ママの笑顔が俺に向けられている事。それは子供が出来た事に並んで、俺にとっての新たな幸せとして、心に刻まれたのだった――



 ポケジョブや親としての務めに少しずつ慣れ、新天地、ガラル地方での暮らしも軌道に乗って来たある日の事。
 俺はいつも通り家の庭で我が仔とボール遊びをしていた。キャッキャキャッキャとご機嫌で遊んでいる所を眺めては、その可愛さに周囲も呆れる程メロメロになる親馬鹿振りを存分に発揮する。ボールと戯れていた我が仔が、突然庭先に目を向ける。何事かと立ち上がり、いつでも守れるように身構える。こちらへ向かって歩いて来る誰か。初めその姿は小さかったが、その正体を知るなり俺は吃驚を禁じ得なかった。
「やーっと()っけましたでー」
「お、おめーなんでここに……!?」
 そう、そいつは今、出会ってはいけない存在だった。
「わえ、あれからあんたが欲しいなって、ぎょうさんあんたの行き先聞いて回りましたんや。ガラルまで来るんは、えれー難儀しましたうぇーやあ(とてもきつかったですよ)……」
 独特の間延びしたミケツの訛りが、妙にねっとり聞こえてぞわっと全身の毛が逆立つ。
「レントラーさん、わえにあんたを刻みよった責任、ちゃーんと取りなれや(取りなさいよ)
 奴はニタニタ笑うばかり。肉食いである俺の最大限の威圧を以て威嚇しても、彼は動じない。
「パパー、だあれ?」
 我が仔に訊かれ、途端に狼狽する。さて何て説明しようか。
「何かと思ったら。パパ、あの子誰よ?」
 追い打ちを掛けるかのようにママまで現れて俺に訊ねる始末。俺は必死に頭を回してそれっぽい弁解を考えるしかなかった。



 ――ちょっとした事でも運命ってのは大きく変わってしまう物だ。やれやれ、俺の新たな日々は順風満帆って訳にはいかなそうだな。













おまけ ~癖の強い幼馴染~



 ――長々と付き合ってくれてありがとうね。あたしもまさかこんなことになるなんて思ってなかったのよ。ほんと、思う力って強いのね……!
 さて、ここからはちょっとしたおまけとして、キタカミでは「ともっこさま」と呼ばれてたあたしたちに焦点を当てた小話を紹介するわね。時系列としては、レントラー君がご主人にゲットされた直後だから、彼がしばらくの間ちょっと苦手意識を持ってる理由がここでわかっちゃうかしら。

 ちなみにだけど、レントラー君の尊厳が決壊しちゃうわよ。ちゃんと済ませるものは済ませましょうね♪






 俺がご主人の所謂「手持ち」となって初めての夜を迎える。慣れない環境でいきなりぐっすり眠れというのも酷な話で、新たに用意された寝床では中々寝付けずにいた。
 その内段々催して(、、、)きて、仕方なく用を足す場である「トイレ」って所へと、慣れない廊下を歩き出した。ここではもうマーキングの必要がないから、全て出し切って流すしかない。しばらく歩くと、どこからか声がする。それは丁度歩いている所の壁向こうらしかった。何となく気になり、歩みを止める。
 目を光らせてみると、そこには姐さんの姿。いや、彼だけじゃない。二足歩行で緑色の犬みたいな奴と、小柄で真っ青な猿みたいな奴も一緒だ。一体彼らは何を話しているのか。こっそり聞き耳を立ててみる事にした。


おここおもっしぇてー(いやー面白ぇー)! あのギースが弱そげなアンニャに(あのギースが弱そうな兄ちゃんに)チンポでもんじゃくられてションベンたらされたてやー(チンポでぐっちゃぐちゃにされてションベンかけられたってよー)!」
笑い事じゃねーてば(笑い事じゃないよ)! 食われそげでほんーねおっかねかったし(食べられそうで本当に怖かったし)ちょんちょんぼっこれるかって思ったんらてば(おまんこ壊れるかって思ったんだよ)! ションベンも何べんも洗うてやっと臭っせがんが取れたんて(何回も洗ってやっと臭いのが取れたんだ)。ワン公、おめさんも相手してみれね(あんたも相手してみろよ)!」
「は? 嫌らてば(嫌だぜ)! オメェのガンだすけオメェが責任取れや(お前のものだからお前が責任取れよ)!」
「マ、これでご主人もレントラーことゲットできたったんすけ(レントラーをゲットできたんだから)これでいかったねっか(これでよかったじゃないか)、なー」
「よくねーてマシ。あと俺、レントラーがゲイらったてわかんねかったんてー(ゲイだったってわからなかったんだ)たらかされてしもーたわや!(騙されてしまったよ!) それにご主人、俺がたらかされてもんじゃくられたったてわかってらったがんに(わかってたのに)、早よ来てくんねかったんてば」
「やいや、レントラーもご主人も隅に置けねぇショらてばや(奴だな)
だろも、静かげであんげ事するショに見えねぇんろもね(だけど、静かそうであんなことする奴に見えないんだけどね)、レントラー」
見た目によらねんだて(見た目によらないんだって)ばかいちがいこきらったわ(すごい押しが強かったよ)*1。俺も油断したすけあんげな目に遭うたんて(からあんな目に遭ったんだ)。気いつけれ」
「そんげ事言うてギース、オメェレントラーにでれすけに(メロメロに)なってんろー? 隠さねたっていいわや!」
「やいーや、否定できねんがせつね(否定できないのがつらい)あんげ雄げな(あんな雄らしい)とこ見せて惚れねぇショはいねーてば。しかもいっぺこと(かなりたくさん)出されたったし、卵ができねばいいろも(卵ができなきゃいいけど)……」
「ガッハハ! 何言うてんて! オメェ雄だねっかや!」
「ちんちんねぇ俺が長ーげこと(長期間)体こと(体を)売ってると、たまに俺が雌でねんかって思っちまうんて。ワン公やマシにはわかんねぇろな、この気持ち」
「あー、そいやんな(そうだよな)オレった(オレたち)(ちご)てチンポねぇすけやー。かんべな(ごめんな)
「いいて。馴染みだろも種族が違うすけ、わかんねこともあるろーし」
「マ、ギースとレントラーはお似合いらって事で。おめさん、いいげな雄がいねぇっちゅーてらったし(いないって言ってたし)
そいやんだて(そうなんだよ)俺って(俺たち)の時代はもちっとばか(もうちょっと)雄らしげなショがいたったんろもな。まーだ慣れねてばね……」




 な、何言ってるんだ? 俺には全然解らない。しかもよく聞いたら、姐さん普通に「俺」って言ってるし、普通に声低いし、それに何より……



 爺 臭 え ! ! !



 いや、正直「俺」より「わし」の方が馴染んでいる俺が姐さんの事を偉そうに言える立場じゃないのは百も承知だが、普段接している艶やかで高い声色しか知らない俺には、余りに衝撃的過ぎる! それに姐さんとつるんでる二匹も、なんか柄が悪そうで、正直余り関わらない方がいいような気もする。さて、そろそろトイレに向かうか。再び廊下をとぼとぼと歩き出した。


 ガチャッ!


 俺の真横の壁が、急になくなる。音のした方を向くと、姐さんとつるんでいた二匹がニヤニヤしつつ佇んでいた。
「あきゃ、ちょうどいいとこにいたったな!」
ちーとばかし(ちょっとだけ)付き合えや」
 俺は緑の犬に半ば強引に部屋に連れ込まれた。
「へー、このあんにゃがギースことでれすけにしたったレントラーかね」
「思ったよりいいげな体してんねっかや! これでギースことギャンギャン泣かせたったんかー」
 柄の悪い二匹に勝手に品定めされ、委縮してしまう。それは思わぬ事態を招いてしまった。
「……あ、あぁっ!!!」
 体が強張ったせいで溜まりに溜まった膀胱が圧迫され、制御の利かない快楽を伴って決壊してしまう。


 ブショボボボボボボボボボ……


 足元から無情な水音が立つ。急激に床に広がり、踏み締める足先を生温かく濡らす。強烈な臭気が周りに漂い始める。
「あ、あ…………」
 絶望的な状況と正反対の解放感が、俺の身をわなわな震わせ始めた。只でさえ誰かの見ている前でマーキングに使う程に臭いオシッコを盛大に漏らすのすら屈辱的なのに、よりにもよって、姐さんの目の前でやってしまったのだ!
「う、うぅぅ……」
 俺の頭がこの状況を段々理解してしまい、屈辱と恥辱に溢れる涙。
「レントラー君、何も言わずにこっち来て」
 姐さんの言葉に甘えて、泣きながら胸目掛けて歩き出す。あのぬくもりと感触を覚えた途端、醜悪な姿を曝け出して号泣した。翼で頭や背中を優しく撫でられ、守られているような感覚がして一層止まらなくなる涙。
ぽんつく(バカ野郎)!!! 来たばっかのショに何やってんだて!? 見てみれ! しかもおっかねがってんねっかや(相当怯えてるじゃないか)! していい事と悪ーり事の区別も付かねんかやおめっては(お前たちは)!!」
 ドスの利いた雄声で喚き散らす姐さん。対象こそ俺に向いてはいないが、それでも十分恐怖を煽られた。
「か、かんべ……」
べろべろすんな(もたもたするな)! 早よきれいにせーや!!!」
「は、はいっ!」
 姐さんの雄々しい怒号に、無礼を働いた二匹が途端にバタバタして俺の粗相を処理し始める。
「臭っせがんもちゃんと取れ!」
 そして俺に対して、驚く程正反対の声色で優しく慰めた。
「ごめんなさいね、怖かったでしょう? それにあたしも見苦しいところ見せちゃって。あっちの部屋に行きましょ」
 俺は言葉を発せないまま、姐さんに連れられて奥の部屋に入った。



 ようやく気持ちが落ち着いてきて、少し話せるようになった。姐さんは、俺に深く頭を下げた。
「あたしから謝るわ。ごめんなさい。許してなんて、とてもじゃないけど言えないわ……」
「姐さん……」
 申し訳ないが、確かに許せるような事じゃない。現に俺は、姐さんの前でプライドを打ち砕かれたのだから。しかしそれでも、俺を労わるあの感触とぬくもり、仄かな香りが心の傷を少しずつながら癒してくれているのを感じた。
「あなたにも話さなきゃいけないわね、あたしたちのこと……」
 ばつが悪そうにしながら、彼は自身やあの二匹の過去を語り始めた。



 ――とてもとても長い話だったが、要約すると、三匹はミノリ地方の山間の里で生まれ育った落ち零れで、ある日、毒の鎖の力で望んだ能力を手に入れたが、毒のせいで木の実が育たず里を追われ、手に入れた力を以て生きるために悪事を働いた末にキタカミの里で一度息絶え、長い間亡骸として眠っていた。だがある事をきっかけに現代に蘇り、キタカミの里で一悶着あって逃げ出し、環境や文化の違いに戸惑いながらも生きるために悪い事を重ね、追われた末に今のご主人に罪を清算してもらう代わりにゲットされ、今に至るのだと言う。
「あたしたち、本来なら表に出るのが憚られるようなことしかしてないの。それで性格が歪んだり荒んだりして、あなたにも危害が及んじゃった」
 はあ、と姐さんは大息を吐く。そんな彼だってノンケのオスを誑かして絶望のどん底に突き落とす悪行をしていたから、同じ穴のマッスグマって所だろうか。話を聞いたからって今すぐ許せる訳じゃないけれど、姐さん達の過去をより深く知られたって意味では、ちょっとは有意義だったかもしれない。
「ちなみにさっきあたしたちが話してたのが、ミノリ地方の言葉なの。一緒にいるときは専らあの言葉で話すのよ。今あのレベルで話せる住民はほとんどいないけど」
 なるほど、通りで解らなかった訳だ。生きていた時代が違うなら仕方ないかもしれない。俺もミケツの言葉のネイティブだが、道が整備されているエンジュ方面の影響を受けて、今は相当ジョウト風に均されていると聞いた事があった。だから彼らのミノリ言葉はある意味では貴重な遺産……かもしれない。ぼんやりそんな事を考えてみる。
「それと、あたしミノリ言葉だと普通にオスの喋り方だけど、今のままがいい? それともオスっぽい方がいい?」
「今のままでいいです」
 即答だった。俺にとっての姐さんの魅力は、あの溢れる母性なのだから。
「そうそう、話に出た毒の鎖って、これのことよ」
 胴に巻かれ、胸の辺りで結ばれているピンクの飾りを指した。
「え? ま、待ってください普通に触ったりしてたんですけど!?」
 仰天する俺を見て、翼で嘴元を隠しつつ艶やかに笑う。
「今は触っても平気よ。だって特性を変えているもの」
 それを聞き、胸を撫で下ろした。もし特性そのままであれば、これまで何度毒牙に掛かって死んでいたか。
「体を売って体を重ねるあたしがそんな特性だったらとんだシリアルキラーよ。その特性を捨てた代わりに、オスを欲に溺れさせるテクには自信があるの。あなたも夢中になったでしょ」
 と、あざといウィンク。悔しいが、全く以てその通りだ。同じように特性を変えたのはワン公ことイイネイヌで、マシことマシマシラは特性そのままだから触るな危険との事だ。そんな話を聞いていると、彼らもまた生きるために様々な苦労を重ねてきた事を痛感する。とてもじゃないがぽっと出の俺には到底敵わない部分があるな。



 部屋を隔てる、扉と呼ばれる物が開く。掃除が終わったらしく、姐さんが睨みを利かせると、二匹は気まずそうに頭を下げた。
「申し訳ございません……!」
 まだ傷が塞がった訳ではないが、彼らの謝罪の態度に免じて、今回は許す事にした。もう夜も遅い。自分の寝床に戻ろうとするが、姐さんに声を掛けられた。
「あたしと一緒に寝る?」
 二つ返事だった。二匹で身を寄せ合って眠るには少し狭い寝床だったが、一緒に寝られるならそれで構わなかった。
 おやすみ、と挨拶を交わす。あんな事がありながらも、比較的穏やかに眠りに就く事が出来た。姐さんがいてくれる事のありがたみを、ひしひしと感じる一時だった。



 ――俺の新たな日々は、まだ始まったばかりだ。


「新たな日々の始まり、過去との別れ」に続く




戯言、コメント返信

結果的に票が大きくばらけた中、4票頂けて3位でした! 念願の初入賞です!! ありがとうございます!!!
これまで悔しい思いをしたり色々試したり頭を捻ったりしてきたことが無駄じゃなかったんだと、実感できました。
優勝こそあと一歩で逃したものの、得られた喜びは一入で、最高のクリスマスプレゼントでした。これもひとえに、大会あっての喜びです。お忙しい中主催として諸々の段取りをしてくださったrootさんには、一参加者としてこの場で大いに感謝申し上げます!!!


とは言え、10月初旬から準備したにも関わらず、一月近く経ってから路線変更したため時間が足りず、書けなかった部分もありました。
それは近日、おまけ2として掲載いたしますので、気長にお待ちいただければ幸いです。変態性が薄かったので、これを載せればより大会の趣旨に沿っただろうに……
……って、冷静に考えれば性別詐称雄鳥総排泄孔とか雌堕ち雄妊娠、雄産卵お漏らしって時点で十分アブノーマルでニッチなんじゃ……? これで通常運行ってどんだけ感覚が麻痺……(



さて、戯言はそこまでにしておいて、投票で頂いたコメント返信に移らせていただきます。


*1 「いちがいこき」は「頑固者」を意味する
*2 ネガティブなイメージを持たれそうなので補足しますが、そういった作品に対するヘイト等では一切ございません。何卒誤解なきよう

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