※注意! この作品には官能的な描写が含まれます。
※前編からの続きものとなっています。まだお読みでない方はそちらからどうぞ。
おれの背負う岩宿の屋根に陣取ったアイアントが、地層の崖に浅く突き刺さったステルスロックを大顎で挟み、位置を微調整してくれていた。もうちょい下、と目だけで合図をよこせば、彼女は身を乗り出して的確に顎を操り、おれが石杭を叩きやすいよう、その一端をぐッと押し下げてくれる。
アイアントの顎にアッパーカットをかまさないよう慎重に、それでいて勢いをつけ、おれはステルスロックの釘頭を鋏で殴りつけた。
カぃ――ぃんッ!
握った鋏の空洞に手応えが乱反射する、マントルまで鳴り渡る岩石の快哉。これは、うまくいった。いや、いきすぎたくらいだ。新居を切り出すのに必要な深度を超え、地層に余分な亀裂を走らせちまったかもしれない。
脱皮したばかりで、力加減がうまく掴めないでいた。こないだ収穫したきのみを握り潰したばかりだってのに、またやった。次はもっとこう、軽くノックするくらいにしておくか。
隣のステルスロックに取っ組みかかったアイアントが、居心地悪そうに顎を離していた。
「……何か、聞こえない?」おれの鋏に乗り移り、アイアントは断層に前肢を押しつけた。虫の中にはこうして、地中を伝わる微細な振動を感じ取れる種族もいるという。「岩の中、何かが動いてる」
「また適当な嘘をつくんじゃあない。怠け者のアイアント2匹とシェアハウスするのは勘弁だぞ」
「そうじゃない。これは――」
アイアントは言いきる前に、おれの鋏から飛び降りた。振り返り、どことなく含みのある様子で触覚を萎れさせている。「どうした、疲れたか。休憩するか?」と気遣うおれの眉間めがけ、ステルスロックで穿たれた亀裂から、ごぱ! と水流が
「ちべてっ!?」びしょ濡れになった顔の前で鋏をクロスさせる。「ンちきしょう、湧き水を掘り当てちまった!」
「おじさん、面白」
「お前っ分かってたんなら教えろっての……!」
帯水層を横断するように貫いた亀裂が、雪解け水を引きこんじまったらしい。ぢゃばぢゃばと吹きこぼれる透徹した清水が、散らされたタマンチュラどものように芝草を転がり落ちていく。
「こんなこともあるの」
「力加減を誤っちまった。腕っぷしも強けりゃいいってモンじゃねえな」
「別にいいじゃん」小さな滝からたまらず退避したおれの鋏を、アイアントの顎がぐいぐい引っ張ってきた。「たまには水浴び、しよ」
「お前がしたけりゃ洗ってやる。おれは……、タイプ的にどうしても、なあ」
「……ちょっと前から思ってたんだけど」彼女がふと目を逸らしたかと思えば、戻ってきた灼眼はじっとりと強膜を狭めていた。「おじさん、におうかも」
「おれも、そろそろ体を洗うべきだと思ってたところだ」
「また嘘……」
嘘じゃねえ。気にしたことなどなかったが、抱いた雌に体臭を指摘されたのが、割とショックだったんだわ。それをはぐらかしただけだ。ンなこと、アイアントに教えちゃやらねえが。
クソガキだった頃を思い出したらしく水遊びに余念のないアイアントは、雪解けの落水地点を浅く掘り、掘り出した土で堤防を作り、あっという間に小さな
放浪するおれたちが手放しても、ここへ訪れるポケモンどもに知れ渡れば活用してくれるだろう。崖とは反対側、低木を数本隔てて眼下に広がる原野を見渡した。今はまだ下草が生い茂るばかりだが、ここらの丘陵地帯は夏になれば、満開のひまわりで埋め尽くされる。またとない絶景をひと目見ようと、もしくは蜜をひと口啜ろうと、遠方からわざわざ翅を伸ばしてくる虫どもで賑わうのだ。
いつ出会ったかも定かでないヘラクロスを探しに、ようやくこのひまわり畑まで戻ってきた。あやふやなおれの記憶を頼りにしたせいか道中、うだるような熱波吹き
荒野での滞在が長かったせいか季節の印象も希薄だが、彼女を拾ったのは確か、春の中頃だったはずだ。シェアハウスを始めてから、季節がひとつ巡ろうとしていた。
あの113号室を
水のミドリ
⬛︎⬛︎⬛︎
⬜︎⬜︎⬜︎
⬛︎⬛︎⬛︎
おれは崖際に岩宿を脱ぎ、ようやく強度を復元した外殻で浅瀬へ伏せていた。土手から両の鋏を投げ出し、体節ひとつひとつを開くように全身を寛げる。掲げた尾節を
「ここ、汚れが溜まってる。もっとこまめに水浴びして」
「ふぃ〜。極楽だわこりゃあ……」
「……おじさん、おじさんすぎ」
これまで面倒くささから沐浴は毛嫌いしてきたが、体節にこびりついた汚れだか老廃物だかをごっそりと削ぎ落とされる感覚は、声が漏れちまうくらい心地いい。失われていた肢の可動域もグッと広がったようだった。右の肢で左の脇腹に触れられたのはいつぶりか、生き別れたアゲハントとドクケイルが再会するくらいの感動モンだ。
数ヶ月ぶりの大掃除に辟易したのか、おれの尻尾へぶら下がるアイアントが顎を尖らせた。
「気づいてる? おじさんの歩いた後ろ側、いつも垢が落ちてる」
「そりゃあ生きてりゃ垢くらい貯まるだろ。飯を食えばうんこが出るってのと同じ理屈だ」
「……汚じさん」
「何言いたいか知らんがそんな目で見るんじゃあない。仕方ないだろ……まさかこの歳になって脱皮するなんてよ」
イワパレスに進化してから4回の脱皮を経、すっかり成長は打ち止めになったもんだと思いこんでいた。アイアントどもの蟻塚から切り出した戸建てを
シェアハウスを始める以前と同様ひとりで済ませるはずだったが、ブランクが空いていたせいかこれがなかなかうまくいかねえ。古皮が眼柄に引っかかり、あわや失明するところだった。見かねたアイアントの大顎が
「おあぁ〜……。そこそこ…………」
「またおじさん」
「おれの鋏じゃ、細かいとこまでは届かねえからな。アイアントがいてくれて助かるわ」
「…………っ」見えちゃいねえが、アイアントは触覚をぴこぴこさせているに違いない。「わたし知ってる。〝ヘイガニメイド〟ってやつ」
「……〝適材適所〟? ってそれ使い方間違ってないか」
耳あたりのよいおべんちゃらに機嫌を直したらしい、アイアントは大顎を器用に振るっておれの隙間から脱皮クズを摘出していく。マイホームのインテリアを精緻に彫りこむだけはある、細かい作業はお手のモンだった。おれに限らず甲殻を纏ったやつなら、アイアントのメンテナンスをありがたがること請け合いだろう。
背中側にこびりついた汚れをあらかた掻き出し終えたのか、彼女はおれの脇腹をしきりにせっついて、寝返りを促してくる。今度は腹側もやってくれるってのか。こりゃ、後で何をねだられるかわからねえな。
そうしておれは手際よく丸洗いされ、最後にアイアントの大顎が尾節の付け根へと伸びてきた。
「ここも、洗ってあげる」
「……おい」
ちんぽがしまわれている虫孔を暴こうと、小さな顎が
くすくす。おれの尻尾へじゃれつくようにしがみつき、半身浴するアイアントが大顎をゆるく開閉させる。
「皮を被ったままじゃ、みっともない」
「おまっ……。そんな下品な冗談、どこで覚えてきた」
「どういうこと」怪訝そうな灼眼がおれを半睨みにする。「おじさんいま、またおじさんぽいこと言ったの」
「……。いや、なんでもねえ。ともかくちんぽを洗われるなんざ、おれの柄じゃねえンだわ」
「脱皮のときは、わたしに任せきりだった」
「それとこれとは別モンだ」
「〝持ちつ持たれつ〟ってやつだと、思うんだけど」
「……。今度は、間違っちゃねえけど」
おれがひっくり返っているのをいいことに、
振るった鋏を
「悪ィが呑気に
「……まだ2日分はあった」交尾のお誘いを先んじて牽制され不服なんだろう、だがそれを己から切り出すこともできないとみた。言われのない当てつけが飛んでくる。「おじさん、勝手につまみ食い、したの」
脱皮してすぐに食いすぎると胃が膨れ、それで外骨格が固定されちまいそうで、ほとんど飲まず食わずだった。今朝確かめたときにはロフトに乾燥チーゴが3粒ほど残されていたはずだ。アイアントもおれも食ってねえとしたら……、まさか施錠してあるはずの玄関をすり抜け、性悪なエルフーンがコソ泥しに来たってのか。
責任をなすりつけるのは、よくねえな?
「体節を掃除してくれたとこありがてえが、アイアントお前、己の顔は洗ったか? 頬にチーゴのへたが付いてるぞ」
「えっうそ!?」
「嘘だよ」
「………………」あっけなくボロを出したアイアントがおれを睨む。「おじさんさ、やっぱり嘘つき」
「カマをかけたんだ。もっともおれが食ってねえんだから、お前しかいねえだろ」
アイアントは観念したのか、はたまた破綻を織りこみ済みでおれをおちょくっていたのか。つまみ食いの罪状を棚に上げておれの鋏から飛び出すと、尻をふりふり自由を満喫するように闊歩していった。はしたない仕草はやめなさい、乾かさないと風邪ひくぞ、危ない場所には近寄るな――などと父親ヅラして忠告しそうになって、おれは口を引き結んだ。
「……それじゃあ、楽しんでこいよ」
「おじさんに言われなくても、そうする」
顎を軽く掲げただけで、アイアントは振り返りもしなかった。湿った芝草を6本肢ではしゃらはしゃらと掻き分け、小さな背中が低木の合間に見えなくなっていった。岩宿を落ち着けたキャンプ地へ、日暮れまでには戻ってくる。おれたちが別行動を取るとき、いつしかこれが暗黙のルールになっていた。今のところアイアントはきっかりと門限を守り、悪い虫ともつるまずおれと夕飯を共にしている。それがいつまで続くとも限らないが。
「……さて、どうしたもんか」
濡れたままマイホームを着こんじまうと、アイアントに蒸れてにおうだなんだと言われかねん。用事を済ませるのは乾かしてからにするか。
岩宿の屋根へよじ登ると、低木の向こうに青葉のひまわり畑が茫洋と広がっていた。その終端から飛び出した小さな
鋏を噛み合わせ、そこへ顎を乗せる。遅れを取り戻そうと前日は歩き通しだったせいか、水
おれのものよりも融通の利きそうな鋏が、ウブとノメルをその中へとしまいこんだ。手入れが行き届いているのだろう、微かな摩擦音もなく握り締められれば、刃の隙間からにじみ出た搾り汁がもう片方の鋏へと注がれる。そこへツボツボの醸造酒を適量。しっかりと刃が噛み合わせられた鋏は、激しく揺すられようとも果汁の1滴さえ逃さない。そうしてできたカクテルとやらが、カゴのみをくり抜いて作られたカップへと注がれていく。輪切りのラムを1片添え、グライオンはおれの前へ滑るように差し出してきた。
「どうぞ。塩を舐めながらお楽しみください」
おれの目線の高さしかない切り株へ置かれたカップの縁には、奥側半分にだけ砂利ほどの大きさの半透明な結晶が付着していた。硬いきのみを圧搾して果汁をいただくってのは誰しも思いつく知恵だろうが、グライオンはそれを洗練させ、ここいらのポケモン相手にふるまっている。こだわりの強いヤツってのはいるもんだ。塩を加えるなんて余計に喉が渇くだろうに、おれには想像だにできない技巧が尽くされているのだろう。
両の鋏でカップを傾け、カクテルとやらをまずはひと口。鼻孔を抜けるような酸味に、ほのかな渋みと甘味が同居する芳醇さだった。ふた口目を含み、すかさず塩を舐めてみる。身構えたよりもしょっぱくはない。荒削りにされた塩の粒はべろの上でゆっくりと解け、ノメルの酸味を抑えつつウブの甘味をほんのりと引き立たせてくれる。まあ、空きっ腹に流しこめばなんだって一級品になるが。
「さっぱりしているな。そのままでも美味いが、塩を舐めることでその、なんだ……、深み? が増した。組み合わせの妙ってヤツだ」
「ああ、よかった」
おれの拙い食レポにも満足したらしい、不安げに注視していたグライオンの頬がほころび牙が覗いた。4分咲きの桜から散ったひとひらが偶然、置いたカップへと吸いこまれ水面に波紋をひとつ作った。こんな小洒落たモンはおれの趣味じゃねえ。飲んだ感想を伝えるのも、取引の一環としてだった。
カップについた結晶に目を細めていると、前の冬を思い出す。朧げなおれの記憶を頼りにひまわり畑へ戻ろうとしたことが災いし、おれたちは雪降りしきる塩湖へ迷い至った。そこで出会ったキョジオーンに世話になったんだが、別れ際彼女から塩の塊を分けてもらったのだ。
モノを運び、また別のモノと交換する。イワパレスってのはつくづく旅をするのに適した種族だと思うのだが、あいにく同族は縄張り争いにご執心ときた。物腰柔らかなグライオンはわずかな風に乗って長距離を流れ、以前はおれのように放蕩の旅をしていたという。鋭い鋏と体を支える二股のしっぽ。どことなく親近感が湧いちまったのか、はたまた同業者の先輩へ尊敬の意を示してか、けっこうな量の塩を割の渋い交換条件で譲っちまった。
「このカクテルは私が砂漠に滞在していた頃、初めて口にした酒なんです。あそこは岩塩がよく採れる土地でした。ここは海からも山からも遠いでしょう。もう再現できないものかと諦めていたのですけれど、まさか本当にイワパレスさんが運んできてくださるとは……。おかげで思い出すことができました。なんとお礼をしたらいいか」
「まあ、これも何かの縁、ってやつだ」
以前ヘラクロスとつるんでいた折にも、グライオンに1杯奢ってもらっていた。かつては彼もこの森に住み着いたばかりで、飲み物作りの腕もまだまだ青二才だったのを思い出す。そのときしきりに塩についての憧憬を聞かされていたのだが、手土産に運んでみて正解だった。こうも喜んでもらえると運び屋冥利に尽きるってモンだ。
当時は流れ者だったグライオンもすっかり馴染み、ツボツボのつがいを迎えこの大桜に棲みつき、常連のポケモンどもからは親しみをこめられ『すなあらし』と呼ばれているそうだ。特別な名前があれば住処にも愛着を持てるというもの。これは天井裏に隠蔽した枢密だが、イシズマイだったおれも初めて切り出したワンルームに愛称をつけていた。初脱皮で彼女を手放す羽目になった際、あまりの喪失感から三日三晩しょげこんだきり名前はつけていない。
塩の塊がえらく気に入ったのだろう、懐から取り出したそれを鋏でつまんでうっとりと眺めつつ、グライオンは空になったカップを下げにきた。
「よければもう1杯、お作りしますよ」
「悪ィな。酒はほどほどにしているんだ」
「アルコール抜きにもできますが」
「そりゃどうも。気持ちだけありがたく受け取っておく」
ヘラクロスの住処について有力な情報が得られなければ、夏まで付近に逗留することになる。どれ、アイアントと合流したら『すなあらし』のことを教えてやるか。甘い味のきのみは食わず嫌いしてばかりだが、グライオンの手腕にかかればペロリもといゴクリかもしれない。酒を混ぜるのはまだ早いが。
塩の塊と交換した、砂漠で採掘されたという水晶混じりの岩(ひんやりしていた)を背中へしまいこみ、おれはグライオンを呼び止めた。
「おかわりの代わりといっちゃなんだが、ひとつ訊きたいことがある。この辺りで、ヘラクロスは見かけなかったか? カラサリスか、もしくはアゲハントをつがいにしているはずだ」
「ヘラクロスのお客様、ですか。そうですね……」浮遊するグライオンの尻尾が所在なげに揺れ、地面にでたらめな模様を描く。「前の晩春に1度、お見えになったはずです。桜が満開の繁忙期で、なにぶん詳しいことは覚えていないのですが……、確か、アゲハントのお連れ様がいらっしゃったような」
「そうか。……どこから来たか、とか、何か喋ってはいなかったか」
「いえ、そこまでは……。イワパレスさんのお力になれず、心苦しい限りです」
「いや、前の春には見かけた、ってだけでも大儲けだ。ありがとな」
おれは『すなあらし』を後にし、帰りしな森ですれ違うポケモンどもにヘラクロスについて尋ねてみたものの、これといった収穫はなかった。やはり遠くの住処から観光しに来ていただけ、なんだろうか。だとしたら望み薄だ。おれにもグライオンのような翼があれば捜索範囲を広げることもできたろうが、あいにくナックラーばりの機動力なら待っていた方が得策だろう。
なんだかんだと思案しているうち、できたばかりの湧水地まで戻っちまっていた。ロフトの2割ほどを占領していた塩の塊があっけなく
ついでに雌を引っかけていこうかとも思ったのだが、どうにも食指が動かなかった。川べりでおとなしそうなオニシズクモを見かけたのだが、どう声をかけたもんかと鋏をこまねいているうち、知り合いらしきデンチュラが彼女を連れ出していっちまった。
シェアハウスを始めてから他の雌を抱いたのは3度、いずれもアイアントと別行動をとっているときに限った。そんくらいのデリカシーは捨てちゃいねえ。岩山から滑落したセキタンザンを助け、コンサートの会場設営を手伝っていたナットレイからは誘われ、塩を譲られるに至ったキョジオーンは地層の美しさを口説きまくった。どの娘との交尾もとびきり刺激的だったが……思えば偶然にも虫グループを避けているのは、無意識にアイアントを意識してのことだったか?
――ぶるぉおおんッ!
白日の彼方から不意に低音が鳴り渡り、一直線におれ目がけて急接近していた。仰げば迷いなくこちらへ墜落してくる細長い影。ワナイダーが丁寧に仕掛けたトラップでさえ吹き飛ばしかねない衝撃波を伴って飛来するそいつに、おれは左の鋏で照準を合わせていた。
「おおーい、懐かしい顔がいるね!」いつか見たメガヤンマがにやついたまま、禿げかけた低木を気にもせず急停止してみせる。おれが岩を撃ち出すとは微塵も危惧していない、空を統べる者の傲岸さがあった。「黄色いのが咲くまでまだ随分あるってのに、いやにせっかちなやつがいたもんだ」
「お前は……」
鋏を下ろす。思い出してきた。あれはちょうどヘラクロスと別れてすぐだったか、このメガヤンマに道を尋ねられたのだった。異邦者のおれは目的地の洞窟までどうにか案内してやったのだが、迷っていたってのは建前で、その洞窟に連れこまれメガヤンマの相手をする羽目になったのだ。見知らぬポケモンには付いていくなと、こればかりはアイアントへ口酸っぱく言い含めている。
積極的な雌は嫌いじゃねえが、相手の良心につけ込むような
「今度はどこへ道案内してやればいい。灼熱の岩山か、雪降りの塩湖か? どこにだって連れてってやるが、途中で帰してくれなんて泣き言漏らすんじゃあないぞ」
「けッ、なあンだよ。前のことまだ根に持ってるのかい? ……でもよお、今回は騙すような真似しないでも、
「おい待て、なんで出会って2秒で合体、みたいな話になってるンだ」
「……なんだ、知らないのかよ」
「くどいぞ」
「黄色いのを見にくる呑気な奴らは、わざわざこんな端っこまで来ないもんでなあ」前肢でひまわり畑の終端を指し示しながら、メガヤンマはおれへ耳打ちしてくる。「ここいらは、ヤリモクのヤツらが集まるナンパスポットとして有名なんだよ。ちょいと時期が早いもんだけど、アンタもそのつもり……、なんだろう?」
「……なるほどな」
おれが湧水池に戻った際、喉を潤している先客がいた。ガーメイルだった。ヘラクロスについて訊ねたかったのだが、「おい」とおれが声をかけただけで、そいつは蜜をくすねているところをビークインに見つかったか、というほどの慌てぶりで飛び去っちまった。何も敵意を向けたわけでもあるまいし、と
しっかしおれの嗅覚も鈍ったか。多くのポケモンが棲みつくコミュニティには大概こうした出会いの場が設けられている。染みついたフェロモンが嫌でも雄をその気にさせてくるもんだが、メガヤンマから教えられるまで一向に察せなかった。……おれもそろそろ枯れるってか?
老いの兆候を暴露して盛り上がるなんざいよいよだ。おれは右の鋏を掲げあげ、邪険に振ってみせた。
「そうか、邪魔をした。それじゃあな」
「おいおい、感動の再会だろう? 何をそんなに急いでる」メガヤンマが意味ありげに前肢をすり合わせる。「せっかくだ、これも何かの縁だろ。アタシと1発
「1度抱いた雌にはこだわらない主義だ」アイアントとはもう数えるのも億劫なほど体を重ねていた。「雄漁りなら別でやってくれ」
「なあンだよ、シたばっかかぁ? つれねェな〜。まさかつがいを持った、なんて冷めたこと言わないでくれよ〜?」
「つがいがいるように見えるのか?」
ちら、と低木の間からひまわり畑を透かし見る。アイアントが帰ってくる気配はまだない。それどころか草原は不自然なまでに静まり返っていた。我が物顔で羽音を轟かせるメガヤンマに因縁、もとい色目をつけられないよう、虫どもが息を潜めているようにも思える。
築浅の一軒家をしげしげと眺め回しながら、メガヤンマは前肢で牙をすりすりやっていた。初めて邂逅したバタフリーとコンパンが、お互いの体つきが似ていることを確かめるような興味深さだった。
「なんだい、これがアンタのつがいだって? シマシマにぶっかけるのがいいのかい」
「背負ってやるやつと、つがいにするべきやつは違う。今んとこは、どんなスケベな雌だろうが、ひとつ屋根の下で暮らすつもりもねぇよ」
「ひひッ、相変わらずで安心したよ。……じゃ、アッチの方も、まだまだ現役なんだろう?」
「あいにく分けてやれる食料もないときた。こういうとき、雄は雌に恵んでやるものだからな。ああ実に残念だ」
「そんなん要らねえよ〜。アタシとアンタの仲じゃないか。ぶっ濃いザーメン恵んでくれたら、さ〜……♡」
「……」
メガヤンマが口を開き、揃った牙の隙間から舌先をちろちろ見せびらかしてきた。あまりの露骨な仕草に、相変わらずなのはお前の方だろう、とさえ返せなかった。やたらとグイグイ来る彼女の複眼はあからさまな焦燥の色を宿していて、これはおれの予想だが、ここんとこ逆ナンは失敗続きで雄日照りなのだろう。
欲求不満を見透かされたことにバツの悪さを感じたのか、振り払うようにぱしん! とメガヤンマが翅を強かに打つ。
「なに、アタシが気に入ったヤツに限って、さっさとつがいを作っちまうもんだからなあ。ここらで言や、グライオンもビブラーバもイ〜イ雄だったってのによぉ。……そういう雄に限って、ずっと昔のことだってのに未だに思い出しちまう。ちょうどアンタとヤった前の日のことだったな。可愛らしい顔つきだったってのに、つがいがいるからって律儀にフりやがって……。ッたくあのヘラクロスは」
「――おいちょっと待て、ヘラクロスに会ったのか!?」
「なんだいその食いつきっぷりは。まさかアンタ、そっちもいけるクチだったのかい!?」
「そうじゃあない。おれ
「……ああ?」
メガヤンマは訝しげに小首を傾げていたが、おれの言い違いは気取られずに済んだようだ。アイアントとシェアハウスしている、と知られりゃネチネチと突っかかってくるに違いない。「誤魔化さなくていい。雄どうしでもイけるったって、アタシは別に気にしねえからな〜」すっかり交尾するつもりでいるメガヤンマの勘違いを正すのも億劫で「まあいいだろ」とおれは話を戻した。
「で、ヘラクロスにちょっかいかけたのは、どのあたりだ」
「別れたのはあの、桜の樹の下。見えるか〜? 『すなあらし』って呼ばれてる名所、みたいなとこなんだがなあ。お、ちょうどいまグライオンがきのみを搾ってる」おれの目線じゃ茂みに遮られて確かめられないが、図らずもその名前には聞き覚えがあった。「あのヘラクロス、道に迷ったってすり寄ったら、おひとよしにもあそこまで道案内してくれてねぇ」
「……同じ手口でも、おれならカモれると思ったわけか」
「ひっひひ、過ぎたことはイ〜じゃんか。実際そうだったし」メガヤンマは悪びれもしなかった。「んで、アタシの誘いを断ったヘラクロスは『僕、つがいがいるんです』『大事なんです。……ごめんなさい』だとかほざいてたっけ。ッひひ、もうほとんど泣き顔になっててよ、あのあと住処にとんぼ返りして、大好きな雌に慰めてもらったんじゃねえか」
「どの方角へ帰っていったか覚えているか」
「もちろん覚えてるぞ〜。……ま、こっからは、タダじゃあ教えらんねえけどなァ〜♡」
「………………」
長い舌で牙をちろちろ舐めまわしながら、メガヤンマはどうする? と口端を吊り上げて訴えてくる。思わず長いため息をこぼすと、ブロロロームがエンストしたみたいな喉鳴りがした。ここはヤリモクの虫どもが跋扈する即ヤりナンパスポット。ならば、ヤることはひとつだろう。
彼女は場所を移す手間さえ惜しむはずだ。おれはひまわり畑を再度顧みた。アリアドスどもがカサつき始める時間帯にはほど遠いが、アイアントが戻ってくるまではいくばくもない。その前に、ヘラクロスの居場所を吐かせてやるしかないだろう。――それも、メガヤンマの嬌声と一緒にだ。
「わーッたよ。おれも暇じゃねえんでな。手早く済ませるぞ」
「――ッへひひ、そうこなくっちゃあ」
逞しい牙をニッとむき出しながら、メガヤンマは翅をひとつ豪快に打ち震わせた。
「その岩を早く脱げ。ちんぽ見せろ。上がれ」
「いやにがっついてンのな」
崖際に茂った
メガヤンマはおれの眼柄を掴んで引きずり出しかねん剣幕だった。屋根瓦へ仰向けに寝そべったおれの周囲を忙しく飛び移り、これから同衾する相手を複眼に焼きつけているらしい。
「最近はハズレの雄ばっか引いちまってなあ。
「……阿婆擦れも大変なのな」
勝手知ったるように前肢で
癒着した肉を剥がされる鮮烈な痛みが走り抜けたのも、一瞬。肉厚なべろは
「これこれ、これだよこれ……。いやぁこのちんぽ、イ〜イ形してンだよな〜! ガチガチになったらアタシの顔くらい長さあるんじゃねーか? 中ほどでぶっとく膨らんでて、ここがまんこんナカを押し拡げてよ……。 美味そうな血管がバキバキに走ってるし、それに何よりこの色がそそられるよなあ。使いこまれた感じの赤紫色して、こんなん見せられたら雌は1発でまんこ濡れちまうって……。アタシの催眠術よりどぎついんじゃないかい? アンタこれまで一体どんだけの雌をヨガらせてきたんだよォ」
「ずいぶんと口が回るな。お前の口はちんぽを品評するためについているのか?」
「ッひひ、そう
メガヤンマは文句を垂れつつも前肢でがっちりとちんぽを握りこみ、おれの劣情を焚きつけるよう肉厚なベロをのたうち回らせていた。やたら長ったらしい舌が、半勃起ちんぽの裏側をねっとりと
交尾にありつけたことがよほど嬉しかったのか、メガヤンマは唾液でてらついた肉杭へ釘づけになっていた。何千とある複眼のどれもに、勃起しきったちんぽが大映しになっていることだろう。
「ああッ
「品評するなとは言ったが、まして酷評なんかするんじゃあない……」
「ばァか、褒めてンだよ! ッひひひ……」
アイアントのみならず、よもやメガヤンマからも
げんなりするおれの心うちに気づくはずもなく、メガヤンマはにッと口角を持ち上げると、満を持してちんぽを口腔へ含ませた。狭められた牙がちんぽの両サイドを
器用なもんだ、彼女はこれを中空で浮揚したままやってのけていた。それも窮屈そうに腹を折り曲げながら、だ。両の前肢でちんぽの膨らんだ中ほどをしっかりと支え、中肢はちんぽの完全な勃起を促すよう虫孔を揉みほぐしてくる。岩宿の外壁へくっつきそうなほど尻先を丸めこんでいるのは、後肢でこっそりと己の虫孔を弄っているからだろう。
「あ〜
「美味い方が上手くしゃぶれる、ってか?」
「ッひひ、惚れたちんぽはベロだけで気持ちよくなれッからよぉ〜。滲み出てきた先走りとか、特に美味え。なんか……なんだ、岩を舐めてるみたいなしょっぱさしてよぉ」
「味覚まで阿婆擦れてンのかよ……」
その塩味は以前抱いたキョジオーンの残り滓だろうが、おれは黙っておいた。冬に彼女と寝てからしばらくは真水で沐浴できる機会がなく、その間ちんぽがひりついてしょうがなかったのを思い出す。鉱物グループのヤツらってのは珍しい交尾形態を取るヤツも多くて楽しいのだが、絶頂の余韻よりも後を引く掻痒感には手こずった。
塩漬けちんぽを心ゆくまで堪能したらしい、メガヤンマの口内で練りあげられていた唾液が裏筋へと垂らされる。すかさず上下から襲いくる顎肉の抱擁。ぢゅばッ、ぢゅずず……じゅるるる……ッ! 下品極まる水音は、彼女が吐きつけたばかりの唾を吸引したためだった。艶やかな牙の峰を押しつけ、粘着質なフェラの感触にアクセントを加えてくる。こうして雄を骨抜きにしてきたのか。あまりに耽美な光景をまざまざと突きつけられ、おれの喉も期待にぐぐぐッ、と鳴った。
「ンむッ、っぷ、んっぅンッ……。ひょっぱくへ、くっシェえ。ィひひっ、こりゃ、めしゅをダメにしゅる極悪ひんぽだねぇ〜!」
「フェラするか貶すかどっちかにしろ……」
まだまだおしゃぶりを止めるつもりはないらしい、メガヤンマはちんぽを頬張ったままキツめに口を閉じた。先端から3割ほどの位置に上顎と下顎が柔らかく食いこみ、左右は滑らかな牙で挟まれる。内部では蜜をたっぷり纏った舌が暴れ、ウツボットの唾液袋へ落っこちてしまった哀れなビードルをしつこく撫でまわしてくる。顎と牙で採寸されたおれ専用の肉穴に閉じこめられ、先っちょがじぃんと痺れるような甘い快感に満たされていく。
ちんぽを支える必要のなくなったメガヤンマの前肢と中肢が、いつの間にかおれの背中へと回されていた。それらを引きつけるようにして、にゅとんっ、不意にメガヤンマの頭が滑り落ちてくる。振り下ろされる頭頂部のフィン。ちんぽの6割ほどを柔肉に包まれ目を白黒させるおれの前で、ずろろ、ろ……ッ、とすぐさまメガヤンマは頭を上げた。どうよ? と己の性技をひけらかすように、複眼がいやらしく歪んでいた。
ちゅぽっ、ぢゅぼ、ぷぼ、ッぶぽ、ンぼッ! およそ雌の口から出てはいけないような水音を響かせ、メガヤンマは顎と牙でちんぽを扱いていた。窄められた口器の頬肉が隙間なく密着し、もう塩辛さが抜けた生肉からエキスを扱き出そうとする。それでいて舌捌きも抜かりない。裏筋へ沿わすように丸めたべろで軌道を確保しつつ、咥えこむときはざらついた表面で擦りあげるように尖らせ、戻す際にはべったりと貼りつけることで1発ごとの余韻を長引かせてきやがる。できるンなら耐えてみな、と挑発するかのような容赦のなさに、おれは下腹に力をこめっぱなしだった。
ひびが入りかねんほど握りこんでいた鋏で、忙しく上下する黒色のフィンをとっ捕まえる。いきなり頭を引き剥がされたメガヤンマは「オ゛っ」とえずいたが、はしたなく長いべろを伸ばして先走りのひと雫を掻っ攫っていくのだけは忘れなかった。
「……っ、どんだけしゃぶれば気が済むんだ」
「ひひっ、アンタならうっかり漏らしちまうようなことはねえだろうから、ついサービスしちまった。アンタも、感度バツグンで最高に気持ッちイイ交尾、したいだろ〜?」
「勝手に同族扱いするんじゃあない。あくまでおれは、お前から情報を引き出すためにヤってるワケであって」
「ひひひッ、そーいうことにしておいてやるよ〜ッ。ならなおさら、アンタには頑張ってもらわないといけないね。準備はこっちで済ませておいたから、アタシがつい口を滑らせちまうくらい、思いっきりまんこをほじくってくれよ〜? ……ッと、その前に」
メガヤンマは浮遊高度を少し上げ、唾液で磨きあげたちんぽへ3対の肢を揃えてしがみついていた。その長い腹部を反らし持ち上げることで前屈みになり、肢場が横倒しになるのを防ぎつつ、高嶺への登頂を成功させたヤジロンみたく器用にバランスを取っている。
「このちんぽ長くて安定してて、止まり木にするとちょうどイイんじゃねえかって思ってたんだよな〜!」
「ちょちょちょ、お前、重い……! 折れるだろ……」
フェラの最中ホバリングに勤しんでいた翅は振動をやめ、がしっと掴んだちんぽで休憩しているようだった。薄翅に走る
が、それはそれとして重い。彼女の全体重を垂直にかけられ、ちんぽが虫孔へ引っこんじまうかと思った。そのうえ肢に揃ったトゲが刺さって普通に痛い。のしかかられてなお勃起を保てるよう、尾節が丸まっちまうまで腹筋をグッと引き締めていた。いくら力自慢のヘラクロスでさえ、ちんぽの先にアゲハントを留らせるような下卑た曲芸はしねえはずだ。
まあこれも、翅を見せつける行為がメガヤンマ特有のセックスアピールってのならば納得できる。ここはいっちょ翅脈のきめ細かさでも褒めてやろうか……などと言葉を選ぶおれへ、牙を緩めどこか得意げにメガヤンマが胸部を張った。肢伝いにちんぽの先を揺さぶり、おれから
「へひひ……、こりゃ便利な止まり木だなァ。こうやるとうンめえ水も飲める」
「お前は阿呆なのか」
そうだった、コイツはこういうヤツだった。綺麗だな、なんてありきたりな
いつも左の鋏へ装填することにしている、予備用の
びしッ! と軽くない衝撃にメガヤンマはバランスを損ない、とっさに羽ばたこうにも翅の基部が軽く麻痺したらしい、体勢を立て直せず頭からつんのめった。
「イ――ってえなァ! 何しやがる!」
倒れこんでくる頭部を受け止めた勢いのまま、全身を捻って体位を入れ替える。不意を突かれ混乱する彼女を引き落とし、滑らかに
もがいて逃れようとする彼女の腹部の付け根へ、おれは右の鋏を投げ落とした。「ぐえ」なんて情けない悲鳴。左の鋏は、右のもののすぐ下へと滑らせ、こちらはメガヤンマの薄い脇腹をそっと挟む。末端に備わった黒いフィンを横倒しにしながら、おれは縦長な背中を組み敷いた。この体勢ならメガヤンマは無闇に暴れられねえだろうし、やおら離陸されたってしがみついていけるだろう。そうされないだけの信頼あってこその背面位だが。
フィンの側面へちんぽを柔く押しつけながら、おれは囁いた。
「つまらん冗談ばかりを垂れるその口から、エロい声をしこたま出してやるってンだ、ガタガタ言うんじゃあない」
「ひ――……ィ」
魅力的なおれの脅し文句に暴力的な交尾を期待してか、メガヤンマは息を飲んでしおらしくなった。地べたを這いずるイワパレスにとって、メガヤンマを上から眺めるのは新鮮だ。石切の際おれがステルスロックの目打ちをするような、旭日の斑点が1列になって並んでいる。背中側はこんな感じなのか……。おれじゃ顔を拝むことも難儀するマドンナを撃ち落とした達成感、のようなものがあって、思わず舌なめずりをひとつ。もっともコイツに関しちゃ、おれ目がけて墜落してきたようなものだが。
フェラしている間じゅう、手持ち無沙汰だった後肢はやはり前準備を終わらせていたらしい。メガヤンマの尻先には交尾相手を把持するための棘のような付属器が左右に1対備わっていて、そこを尾節で押し除ければ、付属器の付け根に秘匿されていた虫孔から愛蜜が粘りついてくる。腰を浮かせつつ数歩下がり、掲げられた尻先へちんぽの先をグッと押しつけた。待ち侘びていたかのように付属器はすんなりと失陥し、これから迎え入れる統治者の頼りがいを確かめるよう、にゅくにゅくと甘噛みしてきやがる。
アイアントは当然としてどの雌を相手するときも、おれを楽しませてくれる虫孔は口でじっくり舐めほぐしてやるのだが、ことメガヤンマに限ってはそんなまだるっこしい前戯なんざ求めちゃいねえだろう。そこをあえて焦らしてクンニに立ち戻り、さんざ
彼女の腹の付け根を押さえていた右の鋏を転がし、側面でじっとりと圧をかけた。強い雄に背中からのしかかられ、これから一方的な蹂躙を受けるに違いないと、メガヤンマの本能を早とちりさせてやる。目論み通り、暖機運転を終えた主翼をピンと伸ばしたまま、機体はやにわに熱を帯び始めていた。
「お……、お゛ッ。そうそッ、これこれ、このちんぽ……。ひひッ、帰ってきやがった……」
「バカ言え。いろんな雄を食い漁ってきたンだろ、記憶に残ってるはずがねえ」
「くひひひ……。アタシが覚えてなくとも、まんこが忘れちゃいねえってさあ」
眉唾だが、メガヤンマの言い分もあながち間違いではないのかもしれなかった。遠征から凱旋したビークインをもてなすミツハニーどもが勝鬨をあげるように、虫壺をたっぷりと満たした白蜜がおれを迎え入れてくる。腰を落としていくにつれ、大通りを進む女王蜂が沿道の臣民からハイタッチを求められるよう、無数の柔ひだが次々ちんぽを揉みくちゃにしながら絡みついてくる。
体節の隙間から髄が蕩け出るような心地よさだった。見てくれ通り幅広な肉筒はちんぽを上下からゆったりと挟みこみ、どこまでも続きそうな
しゃにむに稼働しそうになる肢の関節をグッと抑え、付属器のアシストに沿ってずぷずぷとちんぽを埋没させていく。手持ち無沙汰な左の鋏を滑らせ、いまどこまで到達しているのか意識させるよう、メガヤンマの脇腹をじんわり按摩してやる。
慎重に体重をかけ続けてしばらく、かッ開かれた付属器がおれの櫛状板とじゃれ合うようにして、虫孔どうしがしっとりと密着した。
「お゛ぉ……!? くひッ、ン〜……?」予定外に深くまで届いたちんぽに動揺したのか、甘く濁った感嘆が細長い腹底から湧き出ていく。「ッなんだ……? アタシが思ってたよりなんか……、長くて、ぶっとい?」
「怖気づいちまったか? ずいぶんとしおらしくなったじゃねえか」
彼女の違和感はもっともだった。
おれに撃ち落とされたってのに、メガヤンマは強気な態度を崩さない。
「ふ〜……ふッ、そういうアンタはどうなのさ。久しぶりに味わうアタシのナカはよぉ」
「ンだなァ」
食レポを求められたのは本日2度目だ。最奥まで侵攻したちんぽを軽く揺すれば、先端が肉粒の密集地を捲りあげた。「ンお゛ッ」と弾けた雌声とともに、甘ったるい蜜がじゅわりと滲み出してくる。ざらついた膣奥が潤沢なソースに満ち、生温かなとろふわの食感に様変わりしていた。極上の触れ心地に思わず吐息をこぼしちまう反面、ずっとここを貪っていたら糖尿になっちまいそうだった。祝杯を上げるビークインの御膳には、どの食料にも容赦なくローヤルゼリーがまぶされるってのか?
「まだ
「ここいら一帯のサカり場を巡ってきたからなあ。ひひッ、アンタも、抱いてみたいって種族がいたら言ってくれよお。紹介してやれっかもナァ」
「あいにく住処と雌は自力で手にするのがモットーなんだわ」
色情狂を自負するだけはある、膣壁は発達したひだを満遍なく備え、噛みついた肉を離すまいと生温かな粘膜を絡みつけてきた。なかんずく虫孔付近は媚肉が複雑に折り重なり、フェラでは届かなかったちんぽの根本をにゅちにゅちと食いしめてきやがる。あまたの雄虫を食ってきた肉食強者のまんこは、それこそアブリボンからペンドラーのものまでを食べ比べしているに違いない。ちんぽの長短にかかわらず入り口はひとつだけだ。アブリボンなんかを相手しているうちに、虫孔周辺ばかりを開発されてきたと窺える。
したらば、ここまで深くハメられることも稀なはず。さっき先端をなすりつけた肉粒の群生地が狙い目か。おれは再度ちんぽを左右へ揺らしてやった。「ひン゛っッ……!」白状するような掠れ声に加え、攻めどころを見事暴き出したちんぽを歓迎するよう、ぬっちょりと濡れほぐれた最奥がキャタピーの
熱波の岩山を彷徨っている折、おれたちは石を積み上げて建造された塔へ行き当たった。付近に棲まうセキタンザンの話じゃ、そこへ嵌めてある
すかさずおれは囁いた。
「お前、意外と綺麗な翅してんのな」
「お……?」
「太陽みたいな
「ひ! ッひひ……! ひゃいぃ……!」
さっき言いそびれた口説き文句。これまであまたの雄から囁かれてきたありきたりさだろうが、
尾部のフィンがある節あたりを中肢ですくい上げ、彼女の尻先が浮くようにしてやった。この姿勢を保持するよう言い含めるように、尻尾をちんぽの付け根へ回し、メガヤンマの付属器を固く握りこませる。そこへ先っちょの鉤針を引っかけた。虫孔へ突き立てた楔を打ちこむと同時にここを尾側へ引きつけてやれば、メガヤンマの頭の先にまで快感が吹き抜けるはずだ。
「そのまま濡らしておけ。でないと虫孔が擦り切れちまうからな」
「ぉ……おー、よ〜やく動く気になったかい。任せときな。それ、得意なんだよな〜♪」
「だろうな」
広域を見通せるよう側頭部まで及ぶ複眼にはすでに、媚びるよな雌の悦びが乗っている。調子づいた言い草は強気なままだが、メガヤンマはすっかりおれに体を明け渡したようだった。魅力ある雄として彼女に認められている。虫孔が擦り切れるくらい激しいぞ、なんて
後肢の体節を伸ばし尻を持ち上げ、長大な虫腹へ軌道を確保するようにゆったりちんぽを抜いていく。ず、ずッ、ずりゅりゅ……っ、やたらと発達した肉ひだはせっかく捕まえた雄の解放を頑なに認めないらしい、彼女の虫孔を裏返しかねないほどの握力でしがみつかれていた。イワパレスの両鋏はひとたび噛み合わされると、力自慢のダイオウドウだって振り解けない。メガヤンマの長い虫腹とみっちり癒着したちんぽは、まさにそんな咬合力を備えていた。
先端を残しちんぽのほとんどを取り戻すだけで、ゆうに10秒は経過しただろうか。ともすれば萎えちまいそうなほどの弛緩ぶりだったが、勝手知ったるメガヤンマは宿望を遂げたかのように快哉の喉笛を鳴らしていた。
「ひ……、ひゅっ……ッ。い、イ〜ぞ、その調子。そうそう、最初はゆっくり、なぁ……」
「わあってるっての」
これは以前にメガヤンマを抱いた際、僥倖にもおれが看破したことだったが、種族の特徴としてか、彼女は〝加速〟がお気に入りなのだ。バトルに臨むメガヤンマがまさにそんな戦法を得意とするように、交尾においても段階的に速まっていくリズム感をご所望のようだった。網罠をこさえるイトマルが同心円を描きながら中心へ進むにつれ、開始地点まで戻ってくる時間が次第に短くなっていくようなリズムを、だ。
ぬぷ、ずりゅっ――るるるッ。表面に塗りたくられた粘液が乾かぬうち、全身の体節すべてを少しずつ湾曲させ、ちんぽにわずかな初速を上乗せして押し戻す。もっとも重力と本能のままに任せちまえばメガヤンマの色眼鏡には
「ッあ〜……。ちんぽが長いとその分だけ味わえてお得だよな〜。ッそうそ、こないだヤったフライゴンなんかよぉ〜、体つきの割にちんぽが……ッひひひ、思い出しただけで笑けてきた」
「おれとの交尾に集中しろ。そんなに短小がお気に入りってなら、虫孔の付近だけで済ませてやろうか?」
「わァるかったよ。比べただけでそんなむくれるなって」
「おれはお前が満足できるようにだな……」
秘奥の肉粒密集地へとちんぽを押し当てれば、それが合図だったかのように長ったらしい腹がうねってぎゅうぎゅうと搾りあげてきやがる。虫グループの雌を相手するときおれより体格がひと回り以上も小柄なことが多いし、鉱物相手なら抽挿に硬さが伴った。ユルめの締まり具合じゃ射精まで漕ぎつけるのに苦心しそうだと危うんでいたが、これなら杞憂に終わりそうだ。
「あ……、ッあ゛〜……! 調子上がってきた……」
「まだ2段階目だろうが。気の早いヤツだな」
にゅとんッ。……ずる、ずッ、ンるるる……るっ。にゅりゅりゅりゅ――にゅとんッ! ちんぽを膣奥へ到達させる瞬間、彼女の尻先と繋がった尾節を引きつけ、虫孔どうしがディープキッスしかねないほどの衝撃を響かせた。いくら多くの雄虫を頬張ってきたとはいえ、腹部が長く臀部のか細いメガヤンマは、互いの表皮と表皮がぶつかって音を立てるような交尾経験は希薄だろう。おれとならそれも可能だということをひけらかすよう、ちんぽを咥えて盛り上がる薄い腹へと教えこんでやる。
ガッチリと結合する感触をえらく気に入ったらしい、付属器とおれの尻が擦れて硬質な音を鳴らすほど力強く打ちこまれるたび、メガヤンマは上機嫌に喉笛を鳴らしていた。
「ンっ、あ゛ッ!? っひひ、やっぱりアンタ、筋がいいね。アタシが見込んだだけのことはある」
「褒められても、何も出してやりゃしねえぞ」
「そうかあ? クッサいザーメンくらいなら、どぴゅどぴゅ出せるんじゃないか〜♡」
「……おれはお前から、もっとエロい声を引き出さなきゃならねえってこったな」
3段階目、
「ンっ、ひィ……! はああ、はァ……。なァなァ、ぉ前もっ――あ゛ッ♡ そろそろ、イきそ、なんだろ〜っ?」
「なわけ、あるか……ッての」
「声、震えて――ひぁ゛ッ! ン゛っ、るッぞお゛ぉ♡」
おれが射精へ漕ぎつけるのにいい按配の往復速度を、じっと耐える。締めつけの緩さを案じていた十数分前の己自身を呪った。アイアントは言うに及ばず、おれのちんぽを丸々収められる鞘の持ち主はいない。全体をなぞり上げられる快感ってのは、おれにとっても魅力的だったってことだ。体の相性のみを考慮するならば、メガヤンマをつがいに迎えいれるかどうか、一考の余地があるかもしれない。もっとも彼女はそんなこと求めちゃいないだろうが。
「んん゛ッ、ふ――ぎッ! ンぉ……お゛ッ♡ っスゲっ……! まんこんナカ……ッ、全体こすれて、イ〜イとこ当たってぇッ♡ っア゛これ、風に乗って上昇する、みたいでッ、ぎもぢ、いぃイイいッ!! ちんぽっお゛ッ、もっと、もっとお゛、くれよぉ゛っ……ッ!!」
「……お前のが、食レポっ、上手、じゃねえか」
こっからが正念場だ。腹全体を擦りあげるようなストロークはもう望まれない。慌ただしく後肢を伸ばしては縮め、縮めては伸ばし、メガヤンマの勘どころを小刻みにしつこく弾き倒す。付属器を捕えていた尾節ももはや丸めていられなかった。関節が柔靱な作りになっていないおれにとっちゃそこそこの負担だが、速度の調節にはこうする他ないのだ。
ずッずッずッずちゅンっ――慣れない強刺激にちんぽが快感よりも鈍い痛みを訴え始める。先に擦り切れちまうのはおれの方かもしれなかった。が、手心は加えない。多すぎる愛液は摩擦を緩衝し、腹底への素早い殴打を可能にさせていた。
「あ゛ッあ゛っンあ゛あ゛あ゛――、ンぁああああ゛♡ ッそろそろ、イきそ、イくっ、イぐッ――、これもうすぐイく、――ッあ゛♡ ぅひゃぁ〜……!」
「早く……、イってくれ……」
いよいよ竣成に入る。メガヤンマの腹部の付け根に置いた右鋏へおれの顎を乗せ、体重を前倒しにしながらちんぽを最奥までハメ込んだまま、掲げ上げた尾節を前後に激しくぶん回すことで、ガクガクと全身を細かく揺すりあげる。ストロークなぞあったもんじゃないが、これがおれにできる最も早い腰振りだった。
「あ゛〜〜〜っイぐ!! ッこれスゲぇッ! ちんぽスゲ――っあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!! イくっイく、もういグっ♡ イぐイぐイぐ、っあ゛♡ ひゃ゛――!?」
「ずっと五月蝿いな。フっ、ふゔっ、イくときくらい静かに、できねえのかっ」
いっとう掲げ上げた鉤針を、岩宿の壁を打ち崩さん勢いで力任せに振り下ろす。死闘の末スピアーが怨敵の喉元へとどめばりを打ちこむよう、ぐぢゅんッ、これまでさんざ叩きのめしてきたメガヤンマのさらに奥へまで届かせるよう、深々とちんぽを突き刺した。
「ぉあ゛……、ひぃ゛♡ お゛ッ! ン゛っッッ……!!」
「ぐ……、ッはぅ、そんな締める、んじゃあない……!」
メガヤンマは盛大にイっていた。
両の鋏に敷かれた長腹がのたくり回り、おれを跳ね飛ばさん勢いで尻先が暴れ狂う。押し寄せるアクメの乱気流にもみくちゃにされながら、翅が熱を帯びんばかりに重低音を轟かせる。おれからは見えちゃいねえが、えげつないフェラをやってのけた長舌を惜しみなく晒し、強気な顔を無様に歪めながらも深い絶頂快楽に酔い痴れているに違いない。
法悦さなかの膣壁に上下から隙間なく挟みこまれ、おれが最も射精しやすい塩梅で搾りあげられる。動かずともうねる長腹がちんぽ全体を丹念に扱きつけ、腰を抜かしそうになるほどの快楽をじっと噛み締めていた。あれほど虐め抜いてやった最奥は、殻を奪ったカブルモへわざわざ感謝するチョボマキみたいに先端へと擦り寄って、先走りよりも食レポしがいのある濃厚極まりない白濁を恵んでもらうべく、ざらりとした感触をしつこく押し売りしてきやがる。
「おひ、ヒ……♡ はッはっ、はあぁぁ……、あ゛〜……♡ やっぱこのちんぽ、超イイじゃんか……」
「おい……、いつまで腑抜けてやがる。ふー……、ちんぽ外すぞ」
「ぉ、ッんお゛♡ ひひ、長っげ……♡」
ずる、にゅるるる……ッぽ。がくつく後肢に喝を入れ、メガヤンマを満足させるという大義を果たしたちんぽを引き抜いていく。これだけでもひと苦労だった。虫穴から先端まで、べっとりとこびりついた愛液を彼女のフィンで乱雑に拭いつつ、冗長な腹を跳ね除ける。同じように荒く息づくメガヤンマを下敷きにしちまわないよう、おれは屋根瓦へ倒れこみ6肢を
つづく
なかがき
メガヤンマとの濡れ場(前編)です。アイアント出てこないしサラッと1万字くらいで流そうとしたら1万字書いてまだ半分もいってませんでした。それもこれもトンボに備わっている付属器とかいうエチエチパーツがいけないね、これが私を狂わせた。
後半はトンボらしく空中でホバリングしながらの交尾になります。嘘です。
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