・官能描写はありませんが暴力的なシーンやグロテスクなシーンが数多く含まれます、苦手なら遠慮なくブラウザバックしましょう。
・この物語はフィクションです、実際の事柄、及び他のwiki作品とは関係ありません。
「おやっさーん!」
奪還目的の潜入中、おやっさんは凶弾から二匹をかばって倒れ、愛用の白い帽子を弟子のゲッコウガに託して力尽きた。
それでも止まない弾丸と増援で飛来したアーゴヨンの攻撃から階段の陰に逃げ込んでやり過ごすも、スピアーの巣になるのは時間の問題だった。
階段の陰でルチャブルがアタッシュケースを開けると6枚の円盤が入っていた。
「悪魔と相乗りする勇気、あるかな?」
「ほえ?」
困惑しながらもゲッコウガが一枚の円盤を手に取ると、ルチャブルも微笑んで一枚の円盤を取る。
「うおおおおおっ!!」
二匹が円盤を起動させた時、ディスプレイ全体が光に包まれた。
C F J
X X 7
F 7 X
ビギンズナイトジャックポットチャレンジ ―失敗―
「ホント最ッ悪、ビギンズナイトリーチってJP突入率9割越えじゃなかったの…⁉」
久々のゲームコーナーで最新機種のポケモンライダーWに挑戦したら見事に5万溶かして大敗。
クリスマス時期にも関わらずコガネシティゲームコーナーの店頭で空っぽのケースを前に膝をつき撃沈しているジュナイパーがいるとすれば、それは間違いなく僕だ。
ワカバタウンで開店休業の雑貨店を営んでるけど実質ニート同然。
この前占ってもらった時に「未来を変えるレベルのラッキーイベント発生、欲しいものが手に入る」なんて言われて有頂天になった僕がバカだった。
一生遊んで暮らせるだけの大金も、世界レベルの敵を倒して大活躍する未来も、自分の運命を好転させるような何かを持った不思議な友達も、そんなものはなかったんだ。
なんかもう、今日がクリスマスだってのに悲しくなってきた。
「もういいや、今日はさっさと帰って泣き寝入りしよう…」
帰るといってもタクシーに乗るだけの金もないし、飛んで帰るにもネオン輝くビルが高くて飛び上がるのも楽じゃないし、ここからなら地下道を通った方が速い。
壁にもたれながら地下道の階段をゆっくりと重い足取りで降りきろうとした時、足先はとろりとした何かで濡れていくのを感じた。足の裏を見ると赤い。
「この鉄の匂い、血が付いたのかな…?」
垂れて来た血の出所を探して左斜め後ろを見ると、鮮血の中にポケモンが倒れていた。
だが倒れていた、というには少し変な体勢だった。
両足を壁にもたれかけ、昼寝で腕枕をするような形に両腕を頭上で曲げながらも右手には赤く濡れたアタッシュケースを掴んでいて、さながらジョッキーのジョニィのような、そんな死体にしては奇妙すぎる体勢だった…
「うわああああああああっ!」
初めて死体を見たショックとその奇妙過ぎる現場に無意識に階段から飛びのいてバランスを崩し尻餅をつく。
血だまりの中で倒れているのは既に死んでいる証拠だと思って救急より警察かと悩んでいた時、血だまりの中で何かが少し動いた。
恐る恐る近づくと、左手の指先がほんのり動いた。痙攣や死後硬直でもなさそうだ。
「あれ、まだ生きてる?」
左手を掴むと普通に高いぐらい体温があるし、ぎゅっと握りしめると脈を感じる。
「…どう、いう、つもり?」
弱々しく、けれども透き通るような声が問いかけてきた。
「君大丈夫⁉こんなにいっぱい血が出てるし、救急通報してあげるからちょっと待ってて…」
「ひとりで、も、大丈夫…」
「そんなこと言ったって、こんなに血が出てるんだから、君の体にはきっと傷があるんだろうし…」
「ここには、何も、ない…」
倒れているポケモンは大丈夫だと言ってくるが、全身緋色に濡れて大丈夫と言われて信じる方が無理がある。本当に目立った傷はなさそうだけど…
「地下道じゃ電波通じないな、とりあえず引きずってでも治療受けさせてあげるから…!」
左腕を掴んだままどっちの出口から出ようか悩んでいると、痛いぐらいのパワーで握り返される。
「だから、その手を、離して…!」
「んっ、あっごめん、痛かったね…」
左腕を掴んだままで動き回ったら流石に痛かったらしく、手を離してあげると向こうも離してくれたが、それきり左腕は階段に投げ出されてしまった。
「ねぇ大丈夫⁉ とりあえず電波通じる外で救急通報するからちょっと待ってて!」
右手にアタッシュケースを掴んだままうつ伏せに倒れるポケモンに一言かけてから急いで通話アプリを起動しながら出口に向かって飛び出した。
不思議な言動のポケモンと、地下道の階段で会ったのは偶然だった。
written by 慧斗
「確かに血だまりに倒れてはいたけど、別に命に別条はないね。というより体に出血箇所が見当たらないレベルだよ」
ポケモンセンターに連れて行こうとしたら迅速なたらい回しの後警察病院に。
担当医師のヤレユータンに告げられた一言に驚きと安堵が混じる。
「体に出血箇所がないって、それって怪我してないってこと…?」
「そういう感じだな。でもちょっと別の問題があってね、君も来てくれないか?」
言われるままに何重にも仕切られたドアを通り病室へと足を踏み入れた。
「…」
病室の可動式ベッドでもたれていたのは若いガオガエンだった。その目線だけで弱いポケモンなら回れ右しそうなぐらいの威圧感だ…
「シャワーで体洗うのも一苦労だったよ、という訳で本題なんだが、彼は自分のことを含めて何も覚えていないらしい」
「記憶喪失ってことですか?」
「ああ、何なら自分の種族すら混乱してたほどだ。最も知能テストの方は簡易なもので調べても150はゆうに超えていてね」
雑に渡されたファイルの資料には好成績を出した知能テストの結果が挟んであった。
「実際に証拠を見せよう、イッシュ地方で中華風のBGMが流れるのは?」
「…ホドモエシティ」
「16×55は?」
「…880、あるいは28」
「塩化水素と水酸化ナトリウムを同量混ぜ合わせると?」
「…食塩水ができる」
「タロットカードの大アルカナでTHEが付かないのは何枚?」
「……6枚」
「流派東方不敗は?」
「王者の風よ!」
「全新!系列!」
「天破侠乱!」
「「見よ、東方は、赤く燃えている!!」」
突然拳を交えながら問答した二匹に若干引きつつも、ノールックで思考整理できるのは確かにすごいかもしれない、なんて感じる僕がいる…
「ほら、知能検査の結果は良好だろう?」
「はは、はい…」
多分この先生知能テストはしてるけど、これじゃ記憶は分からないよね…
僕からも何か聞いてみようかな?
「今まで食べたパンの枚数って覚えてる?」
「………ゼロ、そもそも何も食べてない」
機嫌悪そうな返答に混じって小さくお腹の音がした。
「お腹空いてるんだね、何か買ってこようか?」
そっぽを向きながらも小さく頷いた。
「じゃあ軽く買ってくるよ、ちょうど近くにサンドイッチ屋さんあるんだ…!」
「私は書類を警察に届けるからこれで、何か思い出せるかもしれないし君は彼ともう少しいてあげてくれ」
ちょっとフリーダム過ぎる先生が退室したのを横目に、病室の窓を開けてサンドイッチ屋の方向へ飛翔した。
「お待たせ、ローストビーフサンド買ってきたよ!オーブンポテトとジンジャーエールも一応あるよ」
「…あぁ」
持ってきた袋を渡すと少しいぶかる様子を見せた後、包みを開いてサンドイッチにかぶりついた。
「…美味い、けど酸っぱい匂いのするやつ入ってる、取れ」
「酸っぱい匂いって、ピクルスのこと?」
「食べる前から傷んでる匂いする、俺に腹を壊せと言いたいのか?」
「そうじゃなくて、お酢に漬けてるだけだよ。騙されたと思って一緒に食べてみて?」
「…分かった」
一匹っ子だけど弟を持った気分というか、保育師に転職した気分というか…
小さいポケモンではないし、僕の話も聴いてくれるのは助かるけどね…
「! 美味い…?」
「でしょ、いっぱいあるからゆっくり食べてね」
言動は風変わりなところあるけど、僕が見る感じ悪タイプでも悪いポケモンには見えない。記憶を亡くしちゃったのも、何か怖いことに巻き込まれちゃったとか…
「そうだ、一緒にテレビ観よう!何か思い出すかもしれないよ?」
なんとなくの思いつきでテレビの電源を入れる。連続殺害事件のニュースからチャンネルを変えて、適当にCMの流れてるチャンネルに変える。
「…お前のこと、まだ何も聞いてなかった」
「僕のこと、そうだね…」
突然僕のことについて聞かれて内心焦る。ほぼニート同然のジュナイパーなんてあのガオガエンにインプットされるのはちょっとポケモンとして恥ずかしい気もしてきた。
「それでは推理クイズです、以下の文章を聞いて回答を考えてください」
20階建てのマンションに住むルカリオ君は、家に帰る時エレベーターに乗りますが、一度6階で降り、そこから階段を使って10階にある自宅に帰ります。
10階から降りる時は、エレベーターで1階まで降りるのですが、何故帰る時は一度にエレベーターで家へ帰らないのでしょう?
「え?どういうことだろう?」
話題作りの狙いでわざとらしく呟いてみるけど、本当にどういうことか分からない。
本当に言動が謎すぎる。運動する気なら最初から階段を使うし、途中で降りるというのも良く分からない。途中まで運動するなら1階から初めて途中で乗りたいものなのに…
「…2通り、考えられる」
結構本気で悩む僕を横目にガオガエンはぽつりと呟いた。
「2通りも?どういうことなの?」
「1つは【本来の階で降りると危険な時】、例えばそのルカリオがストーカーにつけられていて、マンションの何階に住んでいるかバレたら困る時は、途中の階で降りることでストーカーにエレベーターの停まった階に住んでいると誤認させることができる…」
「なるほど、でもそれなら降りる時まっすぐ降りたら危なくない?」
「普通マンションの出入口は何階に住んでても1階だ、わざわざそこで気を付ける必要もないだろ…」
「確かにそうだね…」
でも、エレベーターを錯乱用に使うポケモンなんているのかな…?
「そしてもう一つは【エレベーターのボタンを押せない時】、つまり身長が低くて6階のボタンまでしか押せなかったとすれば説明がつく」
「でもルカリオっておっきくない?普通に10階ぐらいならボタン押せそうだけど…」
「わざわざ“君”を付けるのが妙だ、種族名じゃなくて相性だとしたら…?」
淡々と語っていくロジックが必要最小限かつ的確すぎる。
まだ素性も好きなアーティストすら分からないけど、もしかして相当頭がいいのかも…?
「それでは正解VTRです」
そんなことを考えているとCM明けの正解発表が始まり、ちっちゃなリオルがクローズアップされた。
「リオルのルカリオ君はまだ学校に通う前の小さくて元気な男の子、仮に背が足りなくてボタンが6階までしか押せなくても途中から元気に階段を…」
「すごい、本当に当たってた…」
気の抜けた解説VTRと淡々と語った推理に若干僕一人が呆然としている時、乱暴に病室のドアが開いた。
「警察だ、お前たちは連続殺害事件の容疑者である可能性が高い、みっちり話を聞かせてもらおうか!」
「お前らなんだろう、連続殺害事件を引き起こしたのは?」
「アイエエエ!ヨウギシャ⁉ヨウギシャナンデ⁉」
「huh?」
「…ちょうどお前らがいたって方の反対側の階段でな、デンリュウが殺されていた。そして死亡推定時刻とお前らのいた時刻はちょうど合致するんだ」
「いや、僕はその時間までゲームコーナーにいましたから…」
「まぁお前はそこまで疑わしくないし、その時間に地下道を通ったポケモンはまだ何匹か防犯カメラに映ってあるからな…」
取り調べ室で色々情報を並べてくる担当警部のゼラオラの尋問に内心冷や汗だったけど、どうやら僕はあまり疑われていないらしい。良かった…
「だが問題はそっちのガオガエンだ、搬送された時に地下道から出たのは映ってたがお前が地下道に入った姿はどこにも映っていなかった。出入口はあの二か所だけなのに、だ。聞くところによれば血だらけで記憶喪失だったそうだが一体どんなマジック使ったんだ?え?」
ゼラオラは容赦なく圧迫尋問をかけているが、記憶喪失してる相手には可哀そうだ。それに僕には悪タイプでも悪いポケモンには見えない。
「昔の喧嘩仲間に似てるよしみだ、正直に話せば罪が軽くなるように取り合ってやるよ。どうする?」
「ちょっと待ってください、僕が見つけた時彼は動くのもしんどい程弱ってたんです。むしろ被害者の一匹という線を疑うべきでは?」
喧嘩仲間に似てるってのもちょっと気になるけど、冤罪になりそうな事態を放っておくのは許せなかった。
「色々事情は聴いているがそれを踏まえても状況が奇妙すぎる、アタッシュケースの中身も変な技マシンと読み込み機能付きのデバイスなんてのも不可思議だ…」
「あのアタッシュケース…」
記憶を取り戻す手がかりになるかもしれないけど、同時に奇妙な事件の凶器にも疑われてしまうアイテムかもしれない…
「…警部だっけ、一つ教えて欲しい」
色々謎が深まる中で今まで黙っていたガオガエンがようやく口を開いた。
「質問によるが聞いてみろ」
「…さっき【連続殺害事件】と言ったが、どんな状況で何を根拠に連続殺害事件と定義したのか、その辺りを教えて欲しい」
「そうか、彼は記憶がないから何も知らないんです、僕もちゃんと把握したいのでお願いします…!」
「…分かったよ、あまり理不尽に疑うのも気が引けるし、口外しないなら教えてやる」
事情が事情だからか、ゼラオラはため息をついて封筒から資料を取り出した。
「今から二か月前、この近くでゴルダックが何者かに殺されていた。それからこの地方では不定期に殺害事件が連続で起こり、今回のデンリュウでちょうど5件目だ」
見せてくれた写真には、全身が緋色と見間違える程血に濡れたゴルダックの遺体が写っていた。しかも口から何かの肉塊を吐き出したような状態だった。
思わず目を背けたくなって写真をテーブルに置くと、ガオガエンはそれを取ってじっくりと視始めた。まるで何かを探しているかのように。
「吐き出したような肉塊、これは心臓か?」
「あぁ、そいつの心臓だ。よっぽど恨まれてたんだろうな…」
「心臓えぐり出すだけでも十分だが、わざわざ吐き出すようにした意味… ん?」
普通にスプラッター映画のポスターにできそうな構図の写真なのに、ポケカのアートレアでも鑑賞するかのようにさらっと見てるのがすごいよ…
「このゴルダック、頭のジェムがないのか?」
「鋭いな、いつからなかったのかは不明だがこのジェムは後天的に、それも鋭利な切り口で切除されてることは確かだ」
「ってことはもしジェムが容疑者によって切り取られたものだとしたら、その線で事件の共通点が…?」
「おい、お前…」
滅茶苦茶にらみつけられてるんだけど、何か僕間違えたかな…?
「実際そのジュナイパーの発言通り、被害者は全員ジェムがなくなっているのが共通点で同一犯の犯行だと思われるが、お前なんのためにこんな共通点を作ったんだ?」
「矛先戻しやがって…」
「……ご、ごめん」
そっか、事件そのものに話題を戻したら矛先が戻っちゃうんだった…
「警部!また一連の事件によると思われる被害者が!これで6件目です!」
「なんだと⁉」
「被害者はアサギシティ在住の雌のエーフィ、ジェムもなくなってます!」
「犯行推定時刻は?」
「午前5時~6時の間と思われます!」
「ジュナイパー、お前がサンドイッチを買ったのは何時だ?」
「えっと、24時間営業の店だけど、レシートには7時14分って書いてる!」
「ということはその頃は俺も病院にいたんだ、同一犯によるものなら俺が殺したって可能性は消えるよな警部さん?」
事実から正論を見つけて早くもゼラオラに交渉を始めた。ヤダこの子怖い…
「…それもそうだな、だが事件次第では色々聞かせてもらうからな!」
「はーい、こっちもまた色々聞かせてくれよな」
もうここまで来たらどっちが主導権握ってるのか…
「そうだ、確かお前記憶喪失なんだよな。ちょうど9時過ぎで窓口も開いただろうし、一度申請しておいたらどうだ?」
「69番、結構かかりそうだね…」
「今41番だな、この漫画13巻からしかないけど1~12巻どこ行った?」
「元からないのかも、13~28って3部だけしか置いてないのか…」
「まぁいいや、全27巻の漫画も読み終わったしこれ読むか」
「はやっ…」
取り調べから釈放されて今度は記憶喪失に関する諸々の手続き。だけど今日は激混みで相談窓口も順番が来るまで数時間かかりそう…
「68番の方、68番の方、いらっしゃらないようなので69番の方!」
「よし呼ばれた、行くよ!」
立ち上がろうって窓口に行こうとすると目の前で割り込まれる。
「待つナリ、当職が先ナリ!」
to be continued…
中書き
しれっと連載開始しました
赤と黒への進化?エタってはないからもうちょい待っててね
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