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碧の面が見つからない の履歴(No.2)


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 夏である。
 誰が何と言おうと、今は真夏である。
 その割に涼しいのは、ここが山奥の高原だからだ。
 フジの池に住むハスボーたちに誘われて遙々やってきた、ルンパッパたちの里、パッパ・ヴィレッジ。豊かに茂る緑が眩しく空気も美味い、キタカミに負けず劣らずのいい所である。
 まぁ、誘われてっつうか頼まれて来てるんだが。このパッパ・ヴィレッジで育てられているのは花火の色づけに使われる実を生らす木で、特に今年は最上級の実が採集される年だとか。で、その時期に合わせて盛大なお祭りが催されるってことで、オイラたちも祭りの準備に呼び寄せられたってわけだ。
 5年に1度というこのお祭りに主様は毎回参加されているそうで、特に3回前の大祭が賑やかだったと懐かしそうに語っていたが、知らねーよ。15年前だろうが5年前だろうが、オイラずっと死んでたし。つうか主様一体何歳なんよ。
 って事で、仲間たち皆ルンパッパたちに混ざって祭りの準備に奔走してて、オイラも器用さと危機感知能力を買われて、花火作りの手伝いに回されていた……んだが、折角こんな風光明媚な場所までやってきておいて、かったるい作業に逐われるとかやなこった。幸い花火小屋には今のとこおかしな気配は感じない事もあり、ルンパッパたちの隙を予知で探り取って作業を抜け出し、ブラブラサボり出してそろそろ小一時間ほど経つ。日々組み上がっていく祭りの景観を、予知も絡めながら眺め回るのも乙なもんだぜ。
 ちょうどすぐ近くの川でも、ブイゼルやフローゼルたちが潜っては、川底の石を拾ったり杭を打ったりして整備を進めている所だった。
 予知してみると成る程、川から仕切った水場にハスボーたちが並んで、その葉の上にポケモンたちが乗って対戦形式のダンスをする会場なわけな。〝フレ! フレ! ポケライン〟っていうのか。ルールはよく分からんが。
 現在に視線を戻して見渡すと、すぐ近くの浅瀬でリハーサルもやっていた。ハスボーたちの上でフラフラと一生懸命バランスをとって立っているのは、エレズンやカプサイジのようなチビッ子たち。何とも可愛らしいあどけなさだ。
 ……おや。
 チビ共に混じって、なんと我らがモモワロウ坊やも練習に勤しんでるじゃねぇか。
 おいおいまさか、また鎖餅ばら撒いて何か騒動を起こす事になるんじゃねぇだろうな!? ちょいと未来の様子を伺うか……。
 ……ふむ、危うく葉から滑り落ちそうになっても踏み留まって楽しそうに笑ってやがる。他の子供たちとも普通に仲良さそうだ。これなら心配は無用みたいだな。小心者で神経質だったアイツも随分と成長したもんだなぁ。
 このまま何事もなく、本番を迎えられたらいい…………

『仮面さどごだああああああっ!?』

 ……って何だぁっ!?
 平穏な空気が、木々を薙ぎ倒す炎の棍棒に突然ぶち破られる。
 紅葉色の半纏を羽織り、朱々と燃える炎のような面面で顔を覆った、紛れもなくお馴染みのオーガポン嬢だ。
『わわわ、ちょっとタンマタンマ!?』
 川の整備をしていたブイゼルの内、背筋の真ん中に白い斑をひとつ背負った一匹が、慌ててオーガポンを止めに入る。
『お怒りはごもっともなんだけど、こればっかりはお約束の恒例行事なんだし、大体毎回毎回どんな仮面を被ろうがスケスケなんだから……ってそこが余計に問題なんだけど、だからってあんまり露骨な指摘をするのは控えた方が……』
『何わけの分がらね事言ってらんだ! ぽにの碧の面が見づがねんだよぉっ!!』
 唇を堅く結んだ面の下で悲痛な声を上げるオーガポン。
 仮面が見つからないって、着けてるじゃねぇか……って、無くしたのはいつも着けてる草葉を模した碧の面か。言われてみれば、あの朱い竈の面は普段は人前ではあまり着けたがっていなかったな。
『え……?』
 一瞬、ポカンとした表情で固まっていたブイゼルだったが、ハッと我に返った様子で深刻な声を上げる。
『……あ、えぇっ!? それは大変! 一大事じゃないですかぁっ!?』
『……本当に、一体何の話だったのニャ?』
 棍棒で切り開かれた道を辿って現れたのはこれもオイラたちの仲間、すらりとしたしなやかな肢体に草色の仮面を付けたマスカーニャだ。祭りだからだろう、いつもより仮面の装飾が派手になっている。
『そんな事より、とにかくオーガポンさんの仮面を探さないとでしょう! そんな事よりですよ!! まずは詳しい話を伺わせてください! そんな事よりもです!!』
 何故か鬼より凄まじい形相になったブイゼルが全力で話題を修正する。先程コイツが口走りかけた事についてはこれ以上触れない方が、いや寧ろ聞かなかった事にした方が賢明だな。
『ほんの30分ほど前の事ニャ。カーニバルに備えて手入れを施し干しておいたオーガポンちゃんの碧の面が、ちょっと目を離した隙に突然消えてなくなってしまったのニャ。ミャアも一緒にいたのに不覚だったニャ。きっと誰かに盗まれたに違いないニャ!』
 と語るのはマスカーニャ。オーガポンはただでさえ口下手な上に訛りが強く、その上激昂中とあって聞き取る方も大変なので、代わりに解説してくれて大助かりだ。マスカーニャも多少訛りが強いが、オーガポンよりは遙かにマシだろう。
『成る程……そういう事であれば、お祭りを仕切っているルンパッパさんたちに事情を説明して捜索をお願いするべきですね。こんな所で闇雲に棍棒を振り回してないで……』
『ンニャ、犯人の目星はついてるニャ』
『何ですって!?』
 驚くブイゼルの前で、マスカーニャはにやついた笑みを仮面に浮かべる。
『置いてあったお面を突然消してしまうニャんて、そんニャ真似が可能ニャのはエスパーかゴーストタイプに違いニャいニャ。そしてゴーストタイプニャら……』
 放たれたマスカーニャの花が、風を切って一直線に飛び、
『モゲッ!?』
『そこに前科者がいるニャ』
 モモワロウの頭上に炸裂して、小さな桃色の身体を竦ませた。
『!? モモワロウちゃんが……!?』
『ソイツは大昔、家来共に命令して、オーガポンちゃんが大切にしているお面を盗ませた事があったのニャ。けど、その時碧の面だけは盗り損ニャってるのニャ。和解してからも密かにずっと狙っていたその悲願を、お祭りのどさくさに紛れて達成しようとしたに違いニャいニャ』
『モゲ……モゲ……』
 マスカーニャの一方的な決めつけに、モモワロウは閉じ篭もった殻の中でブルブルと震えながら、必死に身体を横に振って否定する。
『待ってください、以前そういう事をしたってだけでは何の証拠にもなりませんよ。まずは落ち着いて、冷静に話を訊くべきでは!?』
 体を張ってマスカーニャたちを止めにかかるブイゼル。苦手であろう草ポケ2体相手に大した度胸だが、怒れる鬼の前では焼け石に水でしかない。
『がおうぅっ! ぽにの仮面返せぇぇっ!!』
 制止を振り切り、オーガポンは棍棒を振りかぶってモモワロウに襲いかかる。
『モモゲェッ!?』
 殻を閉じたまま転がって攻撃を躱すモモワロウ。鎖餅を投げたところで、仮面で口元まで覆っているは食わせられない。炎を上げる蔦棍棒の猛攻から逃れるため、桃の身体は全力で跳ね飛んだ。
 描いた放物線が向かった先は、ポケラインの会場となる水場。
『うわっ!? 何だ何だ!?』
 仰天して飛び退いたフローゼルたちの間にどんぶりこと落ちたモモワロウは、そこで殻を開くと、
『モモワアァァ~ッ!!』
 禍々しい毒素を水中へとぶちまける。ヘドロウェーブだ。
『わーっ、何て事しやがる!?』
『川から上がれ上がれぇっ!? 毒にやられるぞ!?』
 整備していたポケモンたちが一斉に退避した水場の真ん中で邪毒の鎖を垂らすモモワロウ。これであの水場に進入したポケモンは、毒にかかるのみならず精神まで蝕まれる。毒が効果抜群な草ポケたち相手には特に有効な結界だ。
『卑怯者~っ!? 抵抗するって事は罪どご認めた証拠だべ!!』
 水辺でたたらを踏みながら、憤怒に逆巻く眉を吊り上げた竈の面そのままにオーガポンは怒号を轟かせる。
 しかしその言い分は、
『メチャクチャだよそんなの!』
『そうだよ! 怒鳴って追いかけ回したりしたから怯えてるだけじゃないか!!』
 ごもっともな指摘を受けることになった。
 モモワロウと一緒にポケラインの練習をしていた、仔ポケたちから。
『んだども、アイツはぽにの仮面を……』
『違うよ! 絶対違う!!』
 特にモモワロウと仲の良い様子だったエレズンが、きっぱりと否定の声を上げる。
『お面が無くなったの、30分ぐらい前なんでしょ!? その頃だったらあの仔、ずっと僕らと一緒に練習してたもん! だからあの仔は絶対、お面を盗んだ犯人なんかじゃないんだよ!!』
 今にもオムツを濡らしそうに膝を震わせながら、怒れる鬼と毅然と退治するエレズン。周りの仔たちもそうだそうだと声を揃えて援護に回り、さしものオーガポンも唸って黙り込む。
『ふむ、アリバイがあるんなら仕方ニャアね。他を探しに行こミャアよ、ポンちゃん』
 軽やかに身を翻し、マスカーニャは走り去る。悔しそうにオーガポンも後を追う。
『いやちょっと待ちなさいよ!? この惨状をどうしてくれるんですか!?』
 呼び止めるブイゼルの声も虚しく、ふたりの姿はあっという間に彼方へと消える。
 後に残されたのは、ヘドロウェーブ漬けになった水場に浮かぶモモワロウと、途方に暮れるポケモンたち。
『どうすんのこれ……こんな毒まみれじゃハスボーたちを入れられないぞ』
『一度柵を壊して、水を全部入れ替えるしか……』
『バカ言うな!? 汚染の被害を広められるか!?』
『浄化ができるスイクンを呼んでくるしかないな。例年ならヒュドルエリアの花火の木が生えている辺りに来てくれるはずだけど、今いるといいが……』
『とにかく、まずはモモワロウ君を引き上げてあげないと』
『……いえ、その必要はないようですよ』
 ブイゼルが指さすその先では、先程のエレズンが水辺に駆け寄って、モモワロウに手を振っていた。
 毒耐性のあるエレズンなら平気……いや、あれ程にロックな仔なら耐性など関係なく躊躇わず歩み寄ることだろう。
 泣きじゃくりながら、モモワロウは一直線に泳ぐ。鬼から庇ってくれた友達の元へ。
 暗く淀んだ空気の中、その光景は紛れもない癒しだった。

 ☆

 ……ふと、我に返った。
 今見ていたのは、少し先の未来に起こる出来事だ。台詞が『』閉じだったのがその証拠。現在まだモモワロウは、ごく平穏にエレズンたちと練習に励んでいる。
 既に碧の面は無くなっている時間だろうが、今なら予知があったと皆に伝えれば、オーガポンが凶行を起こす前にモモワロウを安全な場所に避難させ、アリバイの存在を伝えてオーガポンを落ち着かせる事ができる。モモワロウが防衛のために水場を毒まみれにする必要もなくなり、無事にポケラインの準備も進められるはずだ。ついでに予知があったことを言い訳にすれば、サボってた口実にもなるしな。ウケケ。
 善は急げだ。一歩踏み出したその瞬間、

『出でぎだな、マシマシラぁっ!!』
『念力が使えるおミャアが一番怪しいと、ミャアには初めからお見通しだったニャ!』
 また、別の予知が来た。
 ブイゼルや仔ポケたちが並ぶ前で、オイラはオーガポンとマスカーニャに迫られていた。このクソ猫め、あれだけモモワロウを犯人扱いしておいてよくもまぁいけしゃあしゃあと。
『待ってください、決め付けはいけませんよ。30分程前、貴方がどこで何をしていたか証明できますか? マシマシラさん』
 相変わらず、怒り狂うオーガポンを宥めながらブイゼルがオイラに訊ねる。
 もちろん、そんな事、

 ……できるわけねーじゃん。

 この小一時間ぐらいの間ずっと、人目を避けてサボってたのよオイラ。どこで何をしていたのかなんて誰にも証明できっこねぇと、自信を持って断言できるわ。
『マシマシラさんには花火作りを手伝っていただいておりましたが、調べましたところここ一時間だけ随分と滞っておりますなぁ。これはどういうことなのか、ご説明いただきますかな?』
 ルンパッパが調査結果を読み上げると、険しい視線がオイラに集中砲火を浴びせかけてくる。
 ヤバいヤバいヤバい。誰がどう見てもオイラが一番怪しいじゃねぇか。サボってただけなのに。それ以上の悪い事なんて誓ってしてねーのに!?
『ま、待ってくれ、予知があったから見回ってたんだ。30分前に誰がどこで何をしていたか、オイラちゃんと言えるから……』
『でモ、予知で分かるンだから、その時間にそこにいた証明にはならないよネ?』
 と、辿々しい言葉で俺の言い訳を切り捨てるのは、他ならぬモモワロウ侍だった。てめぇ一体どっちの味方だぁっ!?
 一層空気が険悪になる。仔ポケたちも含め誰ひとりオイラを庇おうとするものはいやしねぇ。オイラ知ってる。こういうの四面ソ歌とか言うんだろ。ソが何の事かは知らねぇが。
『決まりだニャ。碧の面をどこに隠したかさっさと白状するニャ。正直に吐くまでミャアが切り刻んでやるニャ!!』
 口元を哄笑させた草色の仮面が近付いてくる。
 憤怒の咆哮を上げる炎色の仮面を連れて。
『がお゛ぼう゛ぅっ!!』

 ンゲゲェーーッ!?
 すっ飛び退いて逃れた瞬間、予知が途絶えた。
 ……つ、つまりオイラが予知の内容を伝えようと皆の前に出れば、潔白の証明が不可能な冤罪をかけれられる運命が確実に待ってるって事だ。思い過ごしなんて楽観は予知で否定されちまってる。
 冗談じゃねぇ。こちとらマジで碧の面なんぞ盗んだ覚えはねぇんだ。隠し場所なんて言いたくても話しようがねぇ。白状して許される道が最初からオイラにはねぇんだぞ!?
 それをどれだけ訴えようが、オーガポンとマスカーニャが聞く耳を持ってくれるかなんて予知するまでもねぇ。ガチで死ぬまで拷問を受ける羽目になりかねん。
 オーガポンには大昔ぶち殺されてるし、マスカーニャにも仲間になる前に散々ぶった斬られてる。仲間に迎えられてからはそれなりに仲良くやってきたけれど、ヤられた記憶はオイラにとっちゃトラウマだ。またあんな目に遭わされるなんざ絶対に御免だ!
 皆が頑張ってる祭りの準備を災難から守りたいのは山々だが、だからって代わりに犠牲になるような英雄になどオイラにゃなれん。碧の面が見つかるか何かして、オイラが冤罪で拷問される予知が完全に見えなくなるまで逃げ続けるしか道はねぇ。
 すまん、皆。起こると分かってる災厄を、オイラは見過ごす。
 せめてモモワロウとエレズンの友情で、少しでも癒されていてくれ。

 ☆

 快音を虚空に響かせ、七色の軌跡が弧を描いて飛ぶ。
「おぉ、ナイスショット!」
 遙か彼方の草むらへと落着した虹の欠片への賞賛が、抹茶の大きな掌が打ち鳴らす拍手と共に上がる。腐れ縁な仲間のひとり、イイネイヌだ。
「いい感じですね。このコースなら、本番も大きな記録が期待できそうです」
 たった今虹の欠片を打ち放った、細長く骨ばった顎先を照れ混じりの炎で染めながら応えたのは雌のラウドボーン。額の上では小さな炎の小鳥が得意げに踊っていた。
 彼らが携わっているのも、祭りで行われる競技会場の整備。既に粗方整え終えて、テストプレイしながら巡っている最中のようだ。
 競技名は〝レインボーショット〟。虹の欠片と呼ばれる鉱石をポケモンの力で遠くまで打ち飛ばし飛距離を競う。ゴルフにおけるホールのような目標地点はなく、規定の打数を合計した飛距離で勝負が決まるルールだ。虹の欠片は強い力で中心を捉えて打つと、先程のように鮮やかな光を放ちながら飛ぶ性質がある。この現象が競技名の由来であるレインボーショットで、花火同様に祭りを華やかに彩る要素となっている。
「じゃ、次行きますね~」
 厳つい顔立ちには似合わぬ柔和な声を響かせてラウドボーンは歩き出す。その後ろをイイネイヌがついて行く。彼女が歩いたり虹の欠片を打ったりする度にクネクネと艶めかしく蠢く朱い腰つきを、舐めるように眺め回しながら、だ。目つきが露骨なんだよ。鼻の下伸びてんぞスケベイヌが。パッパ・ヴィレッジに来てから仲良くなった娘らしいが、上手いことヤりやがってリア獣め。
 付き合ってられるか。少し先の未来まで予知で先送りにしてやる。
『次は儂の番っスね。行きますよ~』
 巨腕をブン回し、イイネイヌは虹の欠片に強烈な打撃を叩き込む。
 閃光の輪が広がって散り、七色の光条が一直線に空を切り裂いた。
『わあ、凄いレインボーショットですね!』
 感嘆の声を弾ませるラウドボーン。ふたりが仲良く見つめる先で、虹の欠片は力強い尾を引いて豪快に飛び、その行く手で、

『がおーうっ!!』

 突然現れた燃える蔦棍棒に、打ち返される。
『うおっと!?』
『きゃっ!?』
 まっすぐ跳ね返ってきた虹の欠片を、咄嗟にラウドボーンを庇いつつ躱すイイネイヌ。てめぇどさくさに紛れてあちこち触ってやがったろ。
『あぁ驚いた……どうした鬼のお嬢?』
『オーガポンさん? 貴女も練習にご参加ですか?』
 折角打ったレインボーショットを妨害されたというのに、ふたりとも驚きはしても腹を立てた様子はない。それもそのはず、実はこのレインボーショット、一定ルールに則り闖入者による打球への干渉が認められているのだ。それすらも乗り越え、時には利用さえしてでも長打を目指す、非常にワイルドな種目なのである。
 そのため、オーガポンによる打ち返しも競技の一環だと思い込むのは自然な発想だと言える。……勘違いではあるにせよ。
『仮面さ、どごだ』
『え、何だって?』
『仮面さどごだああああ~っ!?』
 怒号を轟かせ、オーガポンは多数の虹の欠片を乱れ打つ。
 レインボーショットを通り越して豪炎を吹き上げる流星群と化した虹の欠片は、コースのあちこちに突き刺さっては、草を燃やし、木々を叩き折り、丘を粉砕する。
 ……今現在、オイラが隠れている丘を、だ。めっちゃ勘がいいなオーガポン。
『わーっ!? 待て待てお嬢、練習にしてはいくら何でもやり過ぎだぞ!?』
『あぁ、折角本番に備えて整備したコースが……』
 抗議の声を上げるリア獣カップルに、オーガポンは蔦棍棒を突きつける。
『碧の面、返すべぇっ!』
『いきなり何なんだよ藪から棒に!? 何を言っているのかさっぱり分からんのだが!?』
『あー、それについてはミャアから説明するニャ』
 困惑するイイネイヌに、現れたマスカーニャが斯く斯く然々と状況を伝える。
『というわけで、碧の面をポンちゃんから盗んで隠したマシマシラを探してるニャ。匿っているなら潔く差し出すニャ!』
 既にオイラの仕業と断定してやがる!?
『はぁ!? 誰が匿うか。ったくろくでもねぇなぁあのエテ公。見つけ次第ふん捕まえて突き出してやるよ!!』
 イヌッコロぉぉっ!? 疑いのうの字もせずにうのミサイルブッパしてんじゃねぇ!? 何て友達がいのない奴だ!? オイラそんなに信用ねぇの!?
『頼んだニャ。ミャアたちは他を探すニャ』
(バシ)こいでだら承知しねぞ!!』
 またしても、荒らしたコースを放置して、鬼と猫はさっさと退散する。
『あ~あ、また整備のやり直しですね』
『そうっスね。ハハ、頑張りましょう!』
 鬼のお嬢サンクス! おかげでこの別嬪さんともっと一緒にいられるぜ! と、奴視点ならそんなモノローグを地の文に描いてそうなイイネイヌであった。ケッつまんね。
 匿ってもらおうとこっちに来てみたが、念のために予知してみて良かった。いや、予知するんじゃなかったと思わんでもないが。
 あんな薄情者に頼れるか。もし匿ってもらえたとしても、リア獣を見せびらかされるなんざ真っ平だぜ。
 こうなると頼れるのはあの雉野郎しかいないわけだが、正直奴の信用度なんぞイヌッコロ以下だ。匿ってやると言われたとしても、ついて行ったら縛り上げられて突き出されるとかヤられかねん。オイラと奴が逆の立場なら喜んでそうするし。
 とはいえ他に当てもない。十二分に警戒を怠らないよう注意しつつ、様子を見に行ってみるか。

 ☆

 大きく開け放たれた倉庫の扉から、轍を刻んで引き出された一台の車。
 ホエルオーを模したのであろう、水色に彩られた曲線基調の車体。上部は白波と飛沫の柵に仕切られたステージとなっており、その後部には扇状に立てられたオーロラ色のパネルが飾られている。
 そのステージで、一羽の鳥ポケモンが踊っていた。
 長い両足で軽やかなステップを踏み、砂時計のように細く括れた腰を捻っては、豊満な尻を艶めかしく突き出して、背後の扇に負けぬとばかりに広げた青く華やかな尾羽を揺らす美しい鳥が。
「素敵ねぇ。さすがウェーニバル、カーニバルの舞が完璧にハマってるわぁ!」
 車の傍らで、もう一羽の鳥ポケモンが、柿色の羽を打ち鳴らして喝采を上げた。
 鶏冠と飾り羽で厚化粧ばりに顔を彩ったキチキギス。腐れ縁の悪友のもうひとりだ。なお、オネェ言葉を吐いているが正真正銘の野郎である。
 花火やレインボーショットと並ぶ、祭りのもうひとつの彩り。それが参加ポケモンたち総員で行列を作って高原を練り歩くパレードだ。様々な楽器を打ち鳴らし、紙吹雪や風船を飛ばしまくる、それはそれはド派手なドンチャン騒ぎなのだそうだ。この車は、パレードの先陣を切る〝フロート〟といういわゆる山車で、〝アクア・フロート〟と呼ばれている一台だった。
「キチキギスさんも踊ってみる?」
「あら、いいのかしら? アクア・フロートは水ポケモン専用じゃないのかい?」
「私と一緒なら大丈夫だよ。さぁ、こちらへ」
 誘われるままに、キチキギスは羽ばたいてステージに登った。差し伸べられた青い羽が、その痩身に回される。
「あらぁ、積極的なこと」
「貴方のような華麗な雄を逃したりはしないよ。私のステップ、教えてあげる」
「うふふ、ならあちきもあちきなりの踊りの流儀を教えてあげるわ。ウェーニバルのお嬢さん」
 ……雌かよ。
 あぁ雌かよ。
 鳥ポケモンでああいう派手なのは、キチキギスが例であるように雄が多いと思ってたのに、しっかり雌じゃねぇかよ!
 はいはいはいはい知ってたよ分かってたよ。イイネイヌさえあのリア獣ぶりだったからには、フェロモン撒き撒きの色事師であるキチキギスに限って、こんな祭りでいい雌を引っかけていないはずなどないことぐらい分かりきってたよ!!
 ったく、モモワロウ坊やもエレズンたちと友達になってたし、ボッチなのはオイラだけか。ハッ、羨ましくなんてないもんね! 今やこちとら可愛い雌ポケふたりに目の色変えて追っかけ回されている身分だぜざまぁ見ろ!! ……ハァ虚しい。
「あぁ、素晴らしい腰裁きだ。では、こんなステップはいかが?」
「いいわねぇ。じゃあそろそろ、あちきもとっておきを決めてあげちゃおうかしら……」
 やめーや! 部門弁えろ!!
 ええい早送りだ早送り! どうせ来るんだろ!? ヤるんだろ!? だったらさっさとオイラを探しに来た巻き添えにリア獣をぶっ飛ばしやがれ!!
 と予知した先で、
『仮面さどごだああああ~っ!?』
 案の定爽快な炸裂音が奏でられた。
『きゃああああ!?』
『いやぁぁっ!? 私の羽が!? アクア・フロートが!? スティールパンやコンガがぁぁっ!?』
 見るとアクア・フロートは真っ二つに粉砕されて見る影もなく、パレードに使う楽器にまで壮絶な被害が及んでいる。とはいえ2羽共にケバい羽を埃まみれにされた姿を見ると、今度ばかりはオーガポンGJ! と思わざるを得なかった。
『ニャー、すミャニャいニャア。フロートや楽器の中に、碧の面を盗んだマシマシラが隠れているかと思ってニャ』
『はぁ!? 勝手なことをお言いでないよ!?』
 マスカーニャに斯く斯く然々と説明を受けるも、逢瀬を邪魔されたキチキギスは憤慨して食い下がる。
『大体さぁ、少しおかしな話じゃないかい?』
『何がニャ?』
『昔あちきらが鬼のお嬢から仮面を盗んだのは、モモワロウ坊やを育てた爺さん婆さんが鎖餅の効果で欲望に染まっちまった結果、珍しい宝物を欲しがりだしたことにモモワロウが応えようとして、家来だったあちきたちに命じたって経緯があったからだよ? その爺さん婆さんがとっくに亡くなり、皆で今の主様に従って仲良く暮らしてる今、奪ったところで自分で使えるわけでもない仮面を盗む理由なんて、マシマシラのどこにあるっていうのさ?』
 とっ……
 友よぉぉぉぉぉぉ~っ!!
 オイラはお前だけは味方になってくれるって最初から信じていたぞ!!
 言ってやれ! もっとズバズバ指摘して、オイラの無実を証明してくれ! お前ならきっとできるぞキチキギス!!
『そんニャの、昔ポンちゃんにブチ殺された逆恨みの仕返しで嫌がらせしてるだけに決まってるニャ』
『……あー、ヤるわ。アイツなら間違いなく』
 電光石火の速度であっさりと論破されてんじゃねぇぇっ!?
 お前が庇ってくれなかったら、誰がオイラを擁護してくれるっていうんだよ!? オイラにすらオイラを庇いようがねぇってのに!?
『だからって、こんな乱暴はやめておくれよ。皆楽しみにしてるお祭りなんだよ?』
『マシマシラを捕まえて碧の面を取り返しさえすればすべて収まる話ニャ。無事に祭りを迎えたかったら、おミャアも協力するニャ!』
『そうねぇ。マシマシラを捕まえたら、報酬としてふたりともあちきとひと晩遊んでくれるっていうなら考えなくもないわね』
『ニャハハ、その時はミャアがおミャアを玩具にして弄んでやるのニャ。それじゃあお願いするニャ』
 マスカーニャがオーガポン共々立ち去ると、キチキギスは力なく跪いていたウェーニバルに駆け寄る。
『大丈夫? まずは壊れたフロートと楽器をどうにかしないと』
『……ごめん。羽がこんなになったら力なんて出てこないよ…………』
『そうだねぇ。キュワワーさんの所にいって治療してもらっておいで。こっちはあちきがやっとくから』
『そうする……』
 トボトボと歩み去るウェーニバルを見送った後、キチキギスは憎悪に滾った声を吐き捨てる。
『あんのクソ猿……っ!見つけたらフリーフォールでオーガポンの頭上に叩き落としてやるわ!!』
 お前使えたっけ? そんな技。*1
 ともあれこれでもう、仲間は誰も頼れんことが明白になった。元より期待しちゃいなかったが。リア獣が無事粉砕されるので溜飲が下がりそうだってことで良しとしておくとして、だ。
 取りあえず、オーガポンたちの暴走だけでも止めんと、このままじゃ二進も三進も行きようがねぇ。
 何か手段を、考えねぇと。

 ☆

『やっぱり、何度来ても留守ニャアね』
 とマスカーニャがオーガポンに話しかけるのは、オイラが作業を抜け出していた花火小屋の前。
 花火小屋の前、である。
 燃える蔦棍棒を携えたオーガポンが、何度も。
 ヒィィ、戻らなくて良かった。つーかよくこれまで無事に済んでるよな。
『きっとこさぽにの面は隠されでらに違いねよ。ぼっ()して家捜しするべ』
『ニャ、待つニャ。さすがに花火小屋で竈の面の蔦棍棒はヤバすぎニャアよ』
 マスカーニャが止めていてくれたのか。余所でもその配慮はしていて欲しかったと誰もが言いたかろうが、火災ばかりは草ポケの本能で警戒してたってところか。
『いや、もう我慢でぎね! ぽには今すぐ面さ取り返す!!』
 苛ついた叫びを上げてマスカーニャを振り切り、燃え盛る蔦棍棒を松明の如く掲げるオーガポン。うぎゃーやめてくれ!? さすがに洒落にならん!?
 火災自体の被害も恐ろしいが、それ以上に何といっても花火はこの祭りのメインコンテンツだ。そこで爆発事件なんて事態に陥ったら、祭りそのものの存続にまで関わりかねんぞ!?
『待つニャ待つニャ、落ち着くニャァァッ!?』
 もうマスカーニャでも抑えられん様子だ。誰か早く来てくれ、早く……!?

『お待ちくだされ、おふた方!』

 間に合ったか!
 駆けつけたのはこの地の主であるルンパッパの群。顔役らしい老ルンパッパがオーガポンに制止をかける。
『邪魔するでね! ぽには仮面を……』
『お聞きなさい。マシマシラさんから、貴女たちに言付けを預かっています』
『見つかったのニャ!?』
『連れでごい! がっちめがす!!』
 今のオーガポンの台詞は〝ぶん殴ってやる〟という意味である。何もしてねぇのに殴られてたまるか。
『いえ、手紙が投函されておりました。本人の消息はいまだ不明のままです』
 根回しを進めてたんだよ~ん。主様に人間の字を習っておいてよかった。ルンパッパも識字できたようで何よりだ。
『読み上げます。〝碧の面泥棒の疑いをかけられると予知で知ったので逃亡する。ずっとひとりで作業していたので証明は出来ないが、誓ってオイラは盗んでなんかいない〟』
『ハッ、犯人は決まってトボケるものニャ! そんニャ言い訳誰が聞く耳持つニャアか!?』
『早まりめさるな。まだ続きがございまする』
 ぎょろりと眼を光らせて、老ルンパッパは嘴を開く。
『〝作業を中断せざるを得なくなったので、残りの花火作り、お前らでやっといてくれ〟……との事です』
『……ニャ? ええと、その〝お前ら〟って、誰に向かって言ってるのニャ?』
『ですから、これは貴女たち宛の言付けですので、もちろん貴女たちですよ。マスカーニャさんにオーガポンさん?』
『ニャアッ!? ニャ、ニャんでミャアたちがマシマシラの放り出した仕事を押し付けられニャいといけニャいのニャ!?』
 いや何でじゃねーよ!?
『貴女たちが暴れ回った事が原因で、祭りの準備が滞っているからでしょうな』
『ニャ……ッ!? そ、それはマシマシラが碧の面を盗んだから……』
『その分も含めて、貴女たちに負ってもらいたいというお願いでしょうなぁ』
『ふざけてるのかニャ!? ニャンニャンニャその理不尽!?』
 ふざけてるのはお前で、理不尽な目に遭ってんのはこっちだよ!
『花火の件だけではありませんぞ。破壊されたパレードの楽器とフロートの修理、荒らされたレインボーショットコースの整備。これらは直接貴女たちが手を下したものですな』
『ウニャ……』
 レインボーショットはイイネイヌがラウドボーンと一緒に頑張ってるからそっちを優先して手伝ってやってくれ。パレードの方はキチキギス一羽に任せときゃ問題ないぞー。
『あと、毒に汚染されたフレ! フレ! ポケラインの水場の浄化もですな。オーガポンさんが持つ井戸の面の力を使えば、水の流れを操ることで汚染水を下流へ流出させる事なく入れ替えができましょう』
『あ、あれはモモワロウが……』
『罪のない仔を追い詰めて毒を撒かざるを得なくさせたのは貴女たちでしょう!?』
 ざまぁ見ろ。あれだけ好き放題暴れておいて盗難の被害者面が通るとでも思ってたのかよ。いずれ運営が動くことを期待して、お前らのさせるがままにさせておいたんだからな。ついでにリア獣どもをぶっ飛ばさせたかったのも本音だが。
 まぁ『ヤったのはポンちゃんでミャアじゃニャいニャ!』と主張せんのは立派なもんだ。オイラなら迷わずそうするがな。
 狼狽えたマスカーニャとオーガポンの足下に、蔦が絡みつく。
『ウニャアッ!?』
 いつの間にか茂みに潜んでいたモンジャラの仕業だった。
 主様に聞いている。レインボーショットの草むらに潜み、虹の欠片を止めてくる厄介者だと。それが今、頼もしい捕縛者としてテロリストたちを拘束している。
『ぽ、ぽにの、ぽにの仮面……』
『碧の面とマシマシラさんの捜索は我々にお任せください。貴女たちは祭りの作業をお願いします。……連行を』
 モンジャラが蔦を手繰り、ふたりを引き倒して任地へ連れて行く。っていうか刑務所に、だな。
『ぽにの仮面~~っ!?』
 悲痛な絶叫を上げながら、オーガポンは虚しく引きずられて行った。
 ……やれやれ、これでひとまず、あいつらにブチのめされるという最悪の予知は感じなくなった。
 とはいえまだオイラにかけられた面泥棒の冤罪が晴れたわけじゃねぇ。まだ当分は余地を駆使して身を潜めなければ。
 願わくば祭りが終わる前に、碧の面に見つかって欲しいもんだ。このままじゃ最悪、主様のところに帰れんぞ。

 ☆

 クラッカーが高らかに弾ぜ、金、銀、虹色の紙吹雪が飛び散り、風船の群やシャボン玉と共に宙に舞う。
 楽隊を組んだポケモンたちが、一斉に楽器を打ち鳴らす。
 マラカッチはマラカスを軽やかに振るい、カイリキーは4本の腕を踊らせてコンガとかいう細長い太鼓を叩き、ドードリオは三首それぞれの嘴にホイッスルを咥えて華やかに吹き鳴らす。イイネイヌも楽隊に混ざり、タンバリンを派手に振るっていた。それらが織りなすリズムにのって旋律が奏でられる。ラウドボーン嬢らの喉笛によって。
 のみならず、楽器によるものらしい涼しげに澄んだ旋律も奏でられていた。それっぽい鍵盤楽器が見えないので不思議だったが、ゴリランダーが叩いているドラム缶をへこませたようなのが音源だったらしい。太鼓っぽい見た目に反して音階を刻める楽器なんだな。スティールパンとか言われてたのはこいつか。
 オーガポンに壊された楽器、どうなったかと心配してたが無事に修復されたんだなぁ。
 そして修復されたのは、楽器だけじゃない。
 ルンパッパたちに先導されて、3台の山車(フロート)がやってくる。
 朱く角張ったフレア・フロートの上ではアローラガラガラが。
 碧の笹舟型をしたリーフ・フロートの上ではドレディアが。
 そして無事に修理を終えたアクア・フロートの蒼く丸みを帯びた車体の上ではもちろんウェーニバルが、それぞれに華麗な舞を披露していた。
 雁行を組んだ空飛ぶポケモンの一群が、アクア・フロートのすぐ側を並んで飛行する。先頭で風を切っているのはキチキギスだ。微笑みとウインクがウェーニバルから投げつけられ、関係もしっかり修復していることが察せられた。チッ。
 フロートたちの後に続くパレードでは、ポケモンたちがそれぞれ並んで列を組み、様々な図形を成して歩みくる。
 ハート型。クローバー型。手紙を入れる封筒型。
 その更に後方からくる一群は、メッセージの形に並んで行進していた。
〝だいすき〟。
〝わすれないよ〟。
 モモワロウもこの一群の中にいた。
 エレズンやカブサイジたちの手と、鎖で繋ぎあって。
 皆で大地に描き、空に捧げたその言葉は……〝ずっとともだち〟。
 たくさんの想いを、山々と青空に謳い上げる。これがパッパ・ヴィレッジ5年に一度の大祭〝ルンパ・カーニバル〟。
 キタカミの祭りとはまた趣が異なる、大らかな賑わいが高原の風にこだましていた。

 ☆

 やがて深まってきた夕暮れがパレードを茜に染める頃。
「最後のパレードも、もう終わりだなぁ」
「そうですね。後は残った花火を打ち上げ終われば、今回のルンパ・カーニバルはすべて終了です」
 通り過ぎるパレードの列を眺めながら、ルンパッパがふたり語り合っていた。
 そう。あれから月日は流れ、もう祭りの最終日終盤なのだ。
「準備期間に色々トラブったが、始まってからは順調に盛り上がってくれて何よりだぜ」
「いい祭りでしたね……家内を連れてきたかったですよ。彼女の仕事と重ならなければねぇ」
「アンタもかい。こっちも同じ事情でかかぁを置いて来ちまっててよ。もう随分長いこと顔見てねぇわ」
「お互い辛かったですねぇ……祭りが終わったら早く片付けを済ませて、お土産をたくさん持って帰りましょう」
「そうだな。あぁ、かかぁの温もりが恋しいぜ……」
 感慨深げに溜息を吐き合うルンパッパたちの背後へと忍び寄り、耳元に爆弾を放り込む。

「片付けなんぞ他の奴に任せて早く帰ってやらんと、今頃奥さん浮気してっぞ?」

 たちまち、ふたりのルンパッパは跳ね上がった。 
「んだとてめぇっ! かかぁはそんな尻の軽い雌じゃねぇぞ!?」
「家内への侮辱は許しませんよ!? ……て、貴方まさか、指名手配中のマシマシラ!?」
「うわ、マジじゃねぇか!? この泥棒野郎、どれだけ準備が大変だったと思ってやがる!?」
「まぁまぁ、そんな事より奥さんのことが気にならないかい? オイラがちょいと占ってやんよ」
「いるかそんな占い!?」
「僕は家内を信じてます!」
 と口では拒否しつつも、それっぽく振り回しているだけの腕を追尾する視線でふたりが相当に動揺しているのがバレバレだ。不安なんだろうに、痩せ我慢しやがって。
「むむ~、見えたっ!」
「何がっ!?」
 もうオイラの指名手配より占いの結果の方が気になって仕方がないルンパッパたちに、オイラは物々しい調子で言った。
「見えたぜぇ。やたらド派手な鶏冠で顔を覆った、長い尾羽を持つケバケバしい鳥ポケ野郎が、アンタらの奥さんたちとしっぽり……」
 言い終えない内に、
「見つけたよこのクソ猿!? アンタこれまで一体どこに……!?」
 パレードからこちらを見つけたのだろう、聞き慣れた声と羽ばたきが、たった今口にした通りの容姿と共に飛来した。
 結果、
「てめえがかかぁに悪さした野郎かああっ!?」
「アンタうちの家内に何をしたあああ~っ!?」
 一瞬で蓮の皿を沸騰させたルンパッパたちが、激昂してキチキギスに襲いかかる。
「は!? え、何!?」
「ずらかんぞ」
 そっちに気を取られたキチキギスの隙をついて、尾羽をひっ掴んで走り出した。
「ちょ、待、きゃああああっ!?」
「待てーい!!」
「逃がすかぁー!!」
「もう、何がどうなってんのよぉーーっ!!」
 抗議の声を完全無視して、オイラは翳りが深まる道を走り抜けた。

 ☆

 ここまですべて事前に予知した通り。
 ルンパッパたちを撒く道程も想定済みだったので、難なく安全な場所まで逃げ延びる。
「よっ、おひさ。いきなり襲われて大変だったな」
 無実の罪で追われる気分をお前も共有しやがれ、という心の声が聞こえたわけでもあるまいが、キチキギスは激怒の嘴をオイラに向けた。
「トボケたことお言いでないよ!? 追いかけてきた奴らの叫びを総合したら、あちきがあいつらの奥方を寝取ったとか、あることないことアンタが吹き込んだって話じゃないか!?」
「つまり半分はあることなんだな」
「根も葉もあるもんかいあちきは草ポケじゃないんだよ!? ルンパッパの奥方と火遊びなんてしてるもんかい!?」
「いや、草ポケとは限らんだろう? ルンパッパは水辺タマゴグループでもあるんだから、女房が鳥ポケだったとしてもおかしくねぇぞ。お前を見て一発で信じたぐらいだしなぁ。ペリッパーとかウッウのひと妻に粉かけた心当たりぐらいあるんじゃね?」
「え、まさかウェーニバルちゃんがアイツらの……!?」
「結局彼女とはどこまで行ったんだよ?」
「……って、それはないだろう? アイツらの話じゃ、奥方はパッパに連れてこなかったそうじゃないか。からかうのもいい加減におし! 一体どういうつもりなのよ!?」
「いやぁ、単なる時間と場所の調整でな」
「調整? 何のことだい?」
 キチキギスが長い首を傾げたその時。
「おおいマシマシラ! やっぱりお前か!?」
 声を張り上げてイイネイヌがやってきた。腕にはモモワロウを抱いている。これで全員集合だな。
「ようお前ら。ポケラインとレインボーショットご苦労さん。予知でだけど見たぞ。ふたりとも良い記録出せたじゃねぇか」
「モモワーイ! 頑張ったヨー!!」
「じゃなくてだ! 誤魔化そうとしてんじゃねぇ。お前、何だってオーガポンの仮面を盗んだりしたんだよ!?」
「あぁっ! そうだよくそっ、煙に巻こうとしやがって。説明を聞かせてくれるんだろうね!?」
 詰め寄る仲間たちに背を向けて、オイラは高い岩の上によじ登る。
「お前ら、少しは仲間を信用してくれよな。碧の面を盗んだのはオイラじゃねぇよ。っていうか……お、来た来た」
 空を見上げると、既に夜の帳は下り、ちらほらと星が瞬き始め出した時刻。
 不意に、その星空を塗り替えるように、目映い光が天へと昇る。
 轟音を立てて飛び散ったのは黄色く輝く星の粒。角のように立った細長い耳と、黒い目玉に真紅のほっぺ。ピカチュウの顔として夜空に描き出された、それは花火だった。
 そのピカチュウ花火を背に振り返り、オイラは仲間たちに言った。

「丁度今頃、碧の面は見つかってる頃合いだぜ」

「……!? 何だとっ!?」
「予知があったのかい? 仮面が見つかるっていう……!?」
 キチキギスの問いに、オイラは頷きを返す。
「あぁ! だからオイラは堂々と出てきたのさ。オイラへの指名手配もじきに解除されるはずだ」
「それで結局、仮面はどこにあったノ?」
 無邪気に訊ねてきモモワロウに、オイラは、
「いや、どこにっていうかよぉ……」
 深く苦悩を滲まして、溜息と共に応える。
「聞いて呆れろよ」

 ☆

『ニャア、元気出すミャアよ』
 喧噪を離れた丘の隅で、マスカーニャは膝を抱えるオーガポンに語りかける。
 オーガポンの顔を覆うのは、蒼いハート型の涙顔をした井戸の面。半纏の色も蒼く染まっている。心の中もまた、ブルーなのだろう。
『頑張って壊したもの全部直したし、毒の浄化もちゃんと出来たんニャし、皆許してくれたニャよ? 最終日ぐらい一緒にお祭りを楽しミャニャい?』
『碧の面さ、どごさ行ったべ……』
 悲しみに暮れて鬱ぎ込むオーガポンに、マスカーニャは装飾多めな草色の仮面で覆った顔を寄せる。
『どうしても、あのお面じゃないとダメニャのニャ?』
 オイラに言わせりゃ、タイプ的にルンパッパと同じになる井戸の面なら丁度この祭りには合ってるだろうって思うんだがな。オーガポンにとっては、そこはどうしても譲れなかったらしい。
『あの碧の面は、昔の主様が使ってた形見だべ。他の面を全部ともっこめに盗られても、主様がいなくなっても、あの面だげはずっとぽにの側にいでぐれだ、ぽにの半身だべ。あれが無ぇなら、ぽには祭りどご楽しむなんて出来ねよ……』
『ニャ……』
 言葉に詰まりながらも、仮面に笑顔を浮かべてマスカーニャは囁く。
『ニャら、きっと碧の面は、ポンちゃんのすぐ側にずっと隠れてて、ポンちゃんが笑うのを待ってるニャ。ポンちゃんの大切な人も、ポンちゃんの笑顔を待ってるに違いニャアよ』
『…………』
『笑お、ポンちゃん。笑ってお祭りで遊ぼ。そうしたら、碧の面はきっと帰って来てくれるのニャ!』
 何の根拠もねぇ、その場凌ぎの気休めだったんだろうな。
 それでも、オーガポンにも伝わるもんはあったみたいだ。
 おもむろに仮面を着け換える。頑強な結晶で澄まし顔を作った、礎の面に。折れた心を支えて再び立ち上がるために。半纏の色もまた、蒼から鈍色に塗り替えられる。
 荒れていた心を静かに収めて、オーガポンはマスカーニャに向き直った。
 そしてじっと彼女を見つめると、そっと顔を近づけていく。口づけでも求めるかのように。
 誘われるままに差し出したマスカーニャの顔に、半纏の袖が伸びて、そして――

 仮面を掴むと、顔から剥ぎ取った。

『ニャ!?』
 仮面の下で、マスカーニャは眼を瞬かせる。
 剥ぎ取られたことで現れた、普段彼女が着けている眼を覆う仮面の下で。
 手にした仮面……草色の装飾で縁取られた、哄笑を上げているような顔立ちの仮面を眺め回すと、オーガポンは半纏を戦慄かせ、唸り声を絞り出す。
『やっぱす……これ、ぽにの仮面でねが…………!?』
『え……あ、あぁっ!? そー言えば、見ていたらついつい被りたくなって、そのまま着けちゃってたのすっかり忘れてたニャ!』
 絶叫を上げたマスカーニャの背後で、夜空にピカチュウの顔が眩しく描かれた。

 ☆

「……………………モゲェ!?」
「なんじゃ、そりゃ…………!?」
「どうして誰も気付かなかったのかしら……?」
 アホらしいにも程がある真相を聞かされて、三者共に脱力して突っ伏した。この予知を直に脳裏に見せつけられたオイラの脱力はそんなもんじゃなかったけどな。
「マスカーニャに草の仮面というのがあまりにも自然過ぎてなぁ……いつもの仮面と多少違ってる事に気付けても祭りの装飾で説明が付いちまうし。当のオーガポンにすら、頭に血が上ってたり涙で目が曇らされてたりしてるうちは見抜けなかったぐらいだったんだからな」
「〝木の葉を隠すには森の中〟とはまさにこの事だなぁ」
「礎の面に被り換えて冷静さを取り戻せたから、やっと見つけることが出来たんだねぇ。マスカーニャの励ましも、見事に紛れ当たりしたわけだ」
「ねぇねぇ、それデ? マスカーニャはどうなったノ?」
 肩を竦めて、オイラは苦笑しつつ、続々と花火が上がる空を見上げた。
「なるようになったよ」

 ☆

『ニャー、お面はずっとミャアが被ってたのに、マシマシラには濡れ衣かけるわ皆には迷惑かけるわ、大失敗しちゃったニャアね、ポンちゃん。ミャアも一緒について行ってあげるから、皆に謝って回るのニャ!』
『が……』
『ニャ?』

『がお゛ぼしゃあ゛あああああああああぁぁ~~っ!!』

『ニャニャッ!? ニャンでまた竈の面に着け換えるニャ!? あぁ、落ち着くニャ。面影宿しはいくら何でもヤバ過ぎニャ。そんな棍棒で焼き潰されたらミャアはひと溜まりもニャいニャ。やめるのニャ、やめるのニャああああ~~っ!?』

 ☆

「仮面被ってるからって面の皮ブ厚過ぎだろ、あの泥棒猫……」
「散々振り回されたあちきらこそいい面の皮だよ!?」
「それデそれデ、その後ハ?」
「死に物狂いで逃げ回ったようだがな、遂にとっ捕まったのが丁度今頃になる。見てろよ、あの辺りだ」
 夜空の一角を、オイラは指差す。
 その虚空に、一条の閃光が打ち上げられた。

「フギャアアアアアアアア~~ッ!?」

 悲鳴の尾を引いて空高く飛んだ星は、鮮やかに散って濃緑と黄緑に薄桃の花弁をつけたマスカーニャ花火となって咲き誇った。
「ざまヤ~~っ!」
「スカッとしたぜ!」
「いい気味だわぁ!」
 この景色を仲間たちと楽しむために、この時間この見晴らしへと誘導したのだ。無実が明かされたとはいえ、出頭したら取り調べは避けられず、花火を眺めるどころじゃなかったからな。
 悪は滅びた。一件落着。終わりよければ全て良し。
 最終日しかまともに参加できなかった祭りだったが、最高の気分を味わえた。
 願わくば5年後もまたこのパッパ・ヴィレッジを訪れて、今度こそルンパ・カーニバルを目一杯楽しみたいもんだ。

 完。










『……いかにもモノローグで勝手に完結させてそうな面してるがなぁ、全部予知してやがったくせに自分だけ助かろうと逃げ回って被害を拡大させておいて、まさかただで済むとは思ってねぇよな?』
『おまけにあちきにまで不倫の濡れ衣を着せやがって! アンタも精々ド派手に打ち上げてやるから、マスカーニャの後を追って空の景色を楽しんできな!!』
『モモワーイ! 僕もマシマシラの花火見た~イ!!』
 ……という、ろくでもない予知が突然見えて。
 逃げようとした瞬間、掌と鉤爪と鎖とで予知通りに拘束された。
 いっつもそうだ。オーガポンに殺された時も、マスカーニャに斬られた時も、ヤバい予知に限って回避不可能なタイミングで訪れやがる。
 脳裏に流れくる情景の中、花火の星々に包まれながら、遙か上空から見下ろす夜祭りの明かりは、ただただ果てしなく美しかった。

「ンゲゲェェェェェェェェェェ~ッ!?」

  ☆
 ☆完☆
  ☆

15年目のポケライン覇者第十四回仮面小説大会非官能部門参加作品☆



投票で頂いたコメントへの返信

>>2024/12/16(月) 21:00さん
>>コメディとして最初から最後まで漏れなく、楽しく読めました。
 ありがとうございます。
 執筆期間こそ一週間程度ですが、構想はかなり前から練っていた作品。無事に形に出来て嬉しいです。

>>2024/12/20(金) 15:33さん
>>こういうの好きですわぁ~~~! マシマシラ視点の軽妙な語り口が、読んでいてもストレスにならないです。
 一人称主人公としては、お調子者度では僕の作品ナンバーワンかもしれませんw 描いていてもとても楽しいキャラでした。


>>祭りの準備をサボってたことで着せられた濡れ衣を脱がそうとみらいよちを駆使してあれこれする展開が実に滑稽で面白い。そして自分以外の仲間に心通わす存在ができているという残酷な現実を突き付けられる様も……!
 そうそう、マシマシラの行動は要するにみらいよちなんですよね。(投稿後に気付いたというw)どこかに技名として入れておくべきだったかとも思いましたが、技にすると悪タイプのマスカーニャに防がれてしまうのが困り者です。

>>ぽにおとカーニャがお面捜しに躍起になって破壊の限りを尽くしてお灸を据えられ、挙句の果てにはあんなオチ……。ろくでもねえカーニャと物臭マシマシラも含めて因果応報でしたね。汚い花火は二発で充分です!
 実は十年前にも既に一発上がっていたりします。打ち上げられたの僕でしたがw 投票ありがとうございました!

>>2024/12/21(土) 22:06さん
>>キタカミの里や、パルデアのエンターテイナーな御三家はこういうドタバタがよく似合っていいですね。
 本当に、よくもまぁルンパ・カーニバル開催年に、お祭り好きな連中が揃っていてくれたものです。特にウェーニバルは、デザインを見た瞬間、アクアフロートに乗せるしかないと思いましたしw 投票ありがとうございました!

>>2024/12/21(土) 23:15さん
>>碧の仮面の二次創作として、これ以上ない完成度でした。オーガポンやともっこに加え、パルデア御三家たちを脇役として登場させ、しかもそれぞれの設定が物語にきちんと組み込まれてるの、小説がうますぎる。ルンパッパたちの村のお祭りという程よいオリジナル設定も好みでした。
 オリジナルじゃないんですよこれが♪
 かつてポケモン大好きクラブで毎年夏に開催されていたブラウザオンラインミニゲーム大会『夏休み大作戦』の2009年度版がこの『ルンパ・カーニバル』でした。公式設定で『5年に一度の祭り』なので、2024年はそれから当年含めて4度目の開催年だったわけです。

>>碧の仮面は自分も本当に大好きなので、あの子たちの物語の続きが読みたいな〜と思っていたところに現れたドンピシャリな作品、まさに干天の慈雨でした。「ゼロの秘宝」の番外編がキビキビパニックなら、「碧の仮面」の番外編はこの作品で決まり、そう言いたくなるくらい楽しませていただきました。
 碧の仮面に含まれる『祭り』と『仮面』という要素が、ルンパ・カーニバルの仮面小説大会作品としても奇跡的に嵌まっていたわけでした。楽しんで頂きありがとうございます!

>>2024/12/21(土) 23:59さん
>>オーガポンに振り回され、あらぬ予知を見せつけられるマシマシラの気苦労は絶えません。ともっこの中でも最も愛嬌あるなって思ってたので、彼をフィーチャーしてくれただけで嬉しかったです。
 ともっこではマシマシラだけ一回多く戦いますからね。マスカーニャとの因縁も相性を含めて絡ませやすく、予知能力もあって美味しいキャラでした。ゲット場所であるフジの池がハスボーの生息域だというのも都合が良かったです。

>>祭りのシーンは想像するだけで楽しく、ラストの花火は明暗の描写が美しく、思わず夜空を見上げたくなるほど。いつぞやのポケモン大好きクラブで開催されていた祭りも復活していて、古参勢は懐かしくなっちゃいました。
 僕も作品執筆に当たって15年前の資料を漁っていたら懐かしさに堪らなくなり、カーニバルの描写を描き増す原動力となりました。共感ありがとうございます!

 皆様のおかげで、今回は準優勝という好成績を上げられました。今後も頑張ります! 願わくば2029年のルンパ・カーニバルでも!?


あとがき

 ここまでのあらすじ。

 2008年夏。
 当時僕は30代半ば。ポケモン小説作家として活動を開始し始めてすぐの頃でした。
 アニポケこそ1話からのファンでしたが、ゲームは携帯ゲーム機との相性の悪さから未履修だった僕が、初めて遊んだ『ポケモンのゲーム』が『夏休み大作戦』。そこで僕は、とんでもないビギナーズラックに恵まれました。
 ゲームのひとつ、フローゼルによる渓流ジャンプ大会『キャニオン・ジャンプ』で、最高記録を叩き出して優勝してしまったのです。

 翌2009年。
 引き続き夏休み大作戦に参加。
『ルンパ・カーニバル』と銘打たれたこのお祭り大会で、僕はまたしても奇跡を達成。パズルゲーム『フレ! フレ! ポケライン』で最高記録到達。まさかの夏休み大作戦2連覇でした。
 これを記念して同年に描いたのが、優勝ゲームで活躍したポケモンたちのカップリングである『波乗りNight☆Stage』です。

 それから5年後、2014年。
 第六回短編小説大会に参加。お題が『まつり』とのことで、ふと『ルンパ・カーニバル』のことを思い出して調べたら、なんとルンパ・カーニバルは公式設定で『5年に一度』の開催となっていたことが判明。
 ポケラインの覇者として使うしかありませんでしたが、5年も前の期間限定ブラウザゲームのネタなんぞ使った日には、知っている人には確実に仮面が割れてしまいます。
 だったらもう隠すまでもなかろう、と開き直って、事もあろうに自分をモチーフにしたジグザグマと、『波乗りNight☆Stage』のヒロイン泳流ちゃんを登場させるという反則ものの暴挙に及んだのが『僕のスペシャルタネ』。勢い余って大会優勝まで頂いてしまいました。

 更に5年後、2019年。
 もちろん開催年だと覚えてはいましたが、ルンパ・カーニバルそのもののネタは特に浮かばなかったため、ルンパッパをヒロインとした第十一回仮面小説大会官能部門作品『雨の悦び』のラストで軽く触れるのみに留まっています。
 斯くして、ゲームとしてはとっくに終わっている筈の『ルンパ・カーニバル』は、僕の小説世界でのみ公式設定通りに5年に一度、恒例行事として開催され続けていたわけです。

 そして2024年。
 この作品のこと……を語る前に、実は『雨の悦び』と同程度なら、既に開催に触れていたのです。
 第二十回短編小説大会作品『Brothers Costar』冒頭で、『数年振りに開催される祭りの準備に、夫が遠くの高原へ出張中』だというスワンナさんが登場していました。この祭りこそまさしくルンパ・カーニバル2024だったのです。
 ……っていうか、おとなしめな方の『家内』が彼女です。占い的中ご愁傷様です。
「オイラはキチキギスを撹乱するために適当なホラを吐いただけだったんだがなぁ……」
 なお、べらんめえ調の方の『かかぁ』は、僕のバイオレットに実在する旅パのポケモンです。彼女の浮気行為に関しては、また別の機会に語ることになるでしょう。……おや、何か白々しいリンクがw

 この様な流れで本大会を迎えたわけですが、しかし15年前の期間限定以下略。
 いくら何でもまたジグザグマがしゃしゃり出るわけにも行かないし、一体どう取り繕ったものか……という悩みは、『碧の仮面』プレイ時に氷解しました。

 つまり。
 被る仮面が見つからないなら、仮面が見つからないという物語を描いてしまえば、すべてネタで済むと♪

 ……十年前の『僕のスペシャルタネ』に勝るとも劣らぬ開き直りだったわけですが、幸いにして駒は揃っていました。
 草の仮面と祭りのポケモンであるオーガポン。その仮面を取って、同じく草の仮面と祭りのポケモンであるマスカーニャに被せたらあら不思議。文章の上では誰にも見分けがつかなくなるという、一種の叙述トリック。
 その2体と関わりの深いともっこたち。マスカーニャ以外のパルデア御三家も祭り関連ばかり。ルンパッパも無事にキタカミで登場と、『碧の仮面』は大会でルンパ・カーニバルをネタにする環境が、下手すると15年前以上に整っていたわけです。
 モモワロウは構想時には発表すらされていなかった仔でしたが、上手いこと最愛の『フレ! フレ! ポケライン』に入ってくれて、どさくさに紛れて泳流ちゃんまで十年ぶりに出すことが出来ました。
 実はオチである『礎の面を被って落ち着いたら碧の面が見つけられた』というのも構想時点ではなくって、オーガポンとマスカーニャの心情を想像しながら描いていたら自然と出てきたものです。「礎の面はここで使う物だったのか!?」と、描いた自分が楽しんでしまいましたw


※コメント帳
・狸吉「まるで昨日の事のようじゃ……」*2

コメントはありません。 碧の面のコメント帳 ?

お名前:

*1 第八世代以降、技自体が廃止中。
*2 映画『セレビィ・時を超えた遭遇』特別編でのオーキド博士の台詞より。

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