収容所の少女(エムリット)
目次
後世に『世界大戦』などと鹿爪ぶって呼ばれたそれは、なるほど侵攻国にとっては意義や意地のある戦いであったのだろう。
そもそもこの戦いは、とある某国が侵略戦争を仕掛けたことに端を発する。
国際的に強く非難されつつもしかし侵攻を続けるその国に対し、近隣諸国は『国際連合』を結成し制裁に乗り出したというのが一連の大戦の枕であった。
しかしながら連合国側の軍隊──特に末端の兵士達においては、個人には与り知らぬ理由での殺し合いを強制されたに過ぎない。
自国の領土拡大の為でもなければ領地防衛でもないこの戦争は、どこまでも一般兵にとっては当事者意識を欠く戦いと為らざるを得なかったのである。
故に理念に欠く戦争行為におおよそ人道的な配慮など見られるはずもなく、そのような戦場に身を置き続ける彼らはいつしか、自覚症状のない病に蝕まれるようその人間性を失っていくのだった。
それは平素の殺し合いは元より、捕虜の扱いにおいても現れた。
戦いも佳境に突入していくと更に倫理観は摩耗し、屠殺さながらに捕虜を処刑することは元より、それに対して娯楽然とした無意味な拷問を加えることにも、さして疑問や良心の呵責を感じることも無くなっていった。
そして物語はそんな某国に捕虜として捉えられた、とある少年兵の話となる。
その房に押し込められた彼ら三人はいつ果てるともない過酷な労働を日々強いられた。
この時某国の収容所には彼ら以外の捕虜もまた多く収容されており、『連合』を組んでの参加もあってか、そこにいる人間達は実に雑多な民族達によって形成されていた。
明日も知れぬ環境の中で心は荒み、捕虜同士でのトラブルは元より、更にはそんな自分達を管理する看守へとおもねる為に同胞を密告する者も現れるなど、凡そそこには地獄にふさわしい環境が醸成されていった。
『こんな事じゃいけない! せめて俺達は「人間」であろう』
そう主張したのは航空隊を率いていたセルフェであった。
房において最年長の彼は中尉として一個小隊を預かる身であったが、先の侵攻戦で隊を壊滅させられては一人生き残る羽目となった。
「それに何の意味があるの? どうせ俺達は死ぬんだよ」
一方でそれに応えたユーリは房の最年少であり、その歳もまだ10代である。人生経験の浅さも相成ってか、とかく物事に対し悲観的であり忍耐力に欠いた。
『とはいえ具体的になにをするってんです? 同性愛にでも目覚めて乱交でも始めますかい?』
皮肉屋で知られるアゼルフはそうジョークを返して自分で笑った。
20代の彼はそれなりに軍人生活も長かったせいか凡そ現状を正確に把握しており、それゆえにユーリとはまた別の次元で今の状況に対し悲観的な態度を取ることが多かった。
そんな口々に何故を問いてくる一同に対し、セルフェはその『人間でいる為』の方法として思わぬ提案をする。
それこそは……
『想像してほしい……今この房には俺達以外にもう一匹、無力で儚いポケモンがいる。俺達はこの地獄のような環境の中で彼女を守り、そして世話をしていくんだ』
この房において架空のポケモンを想定する事であった。
「ついに頭が狂ったかジジイ」
その提案に対し、にべもない返答をユーリなどは返してみせる。
この房においてユーリの階級は最も低くあったが、残る二人が他国の上官であり、ましてやとうに捨て鉢にもなっている彼はそんな同居人に対して敬意を払うことも無かった。
もっともそれはセルフェとアゼルフも同様であり、気の置けない房の雰囲気はこの地獄の収容所にあっては唯一の救いであったかもしれない。
そんな中で交わされた無駄話のひとつが、先のセルフェの話であった。
彼は『架空のポケモンの世話』を提案するや、壁際に置かれた椅子の一脚を指差し……
『今日からあそこが彼女の席だ。彼女はいつだってあそこに座って俺達のことを見ているぞ』
もはや乗り気ではないユーリなど無視してはどんどんと妄想を脹らませていってしまう。
元より4人部屋であったこの房には三名で使うことの必然として、一人分のベッドと椅子が余っていた。
その一つにセルフェは新たな同居人を設定し、割り当てたのである。
『で、そいつは何のポケモンなんですかい? 俺は故郷にワンパチがいたから、そいつだと嬉しですがね』
話半分に聞いていたアゼルフが思いもよらずに身を乗り出してきた。
『とりあえず楽しむ』は彼の座右の銘ではあるが、思いのほかこういった創作には興味があるらしい。
『いや、どうせならそれも新しく作ってしまおう。オリジナルのポケモンだよ。名前は、そうだな……うん、「エムリット」なんてどうだ?』
「………タイプと分類は?」
遂にはユーリもまたその会話に参加をする。
如何せんまったくと言って良いほどに娯楽の無いこの場所においては、こんな無駄話であっても最終的にはそれに興味を引かれざるを得ない。
どうせ黙っていてもセルフェは話し続けるのだろうから、ならばそれに乗った方がユーリも一時の暇つぶしになるだろうと考えたのである。
『お、ノッてきたな? いいぞ♪ ──タイプと分類はそうだな……『エスパー』タイプの『感情』ポケモンってところか?』
誰もいない椅子をしげしげと眺めながら、セルフェはその口元に笑みすら浮かべながら設定する。
曰く彼女は垂れ耳とも頭巾とも取れない頭部を持ち、目の色は琥珀。その尾は二股に分かれていて、短い手足に寸胴の体躯がチャームポイントだと、セルフェの長広舌はその滑りをなめらかにする。
そんな彼女の居るとされる空白の椅子をセルフェの説明を聞き流しながら眺めるユーリではあったが……その目にはおおよそ、耳で聞いただけとは思えぬほどに具体的な彼女・エムリットの姿をそこへ想像することが出来た。
『──……そういう訳で、今日から彼女は俺達の仲間だ。ほれユーリ、挨拶せんか』
「あ、挨拶って……そこまでするのかよ?」
『当然だろ。初対面の相手には、人間だってポケモンにだって挨拶が基本だ。それにこういうのは乗った方が楽しいぞ』
得意げともはたまた揶揄うようにも見えるセルフェのそんな表情に、なかば一レベル高く馬鹿にされていることを理解しつつしかし、改めて彼女のいる椅子に向き直っては咳払いをした。
そうして、
『ゆ……ユーリ・エンバースだ。その……よろしく』
ぎこちなくユーリが挨拶をすると、囃し立てる様に背後からはセルフェとアゼルフの笑い声が上がった。
その声に晒されながら自身の馬鹿さ加減にげんなりとするユーリではあったが……
不思議と、目の前の椅子に座るエムリットが微笑んでくれたような気がした。
朝と夕に空席のエムリットへと挨拶する時、ユーリは不思議な幸福感を自覚していた。
セルフェの考案したこの遊びは、当初の『思い付き』程度の域を出ては存外の効果をユーリへともたらせてくれた。
目に見えないポケモンであるエムリットをこの房の一員として想定するユーリの一日はまず、彼女の食事の準備から始まる。
それぞれ少量ずつ自身の食事を分け合って集めると、それを彼女がいるテーブルの前に置いた。
夕時などはそうしてエムリットと食事をともにしながら一日の出来事を報告し合う訳ではあるが、表立っては『ごっこ』の体を標榜しつつもその実、ユーリは誰よりも感情的にエムリットへと語り掛けていた。
こうした日常の変化は、平素日頃のユーリにも僅かながらの変化をもたらせる。
日中の強制労働の際、ユーリは困窮する者には進んで手を差し伸べたし、また他者を嘲ったり陥れるような真似は絶対にしなかった。
それこそは自分の房に居るエムリットの存在に他ならず、常日頃『人として恥ずかしいマネをしたらエムリットに顔向けできない』と考える時、自然とユーリの倫理観や人間性は、この荒んだ収容所生活においても保たれることとなった。
そしてそんなユーリの変化はそうした精神的な面に限らず、実生活の中においても現れる。
このエムリットを房の中に迎えてから数か月が経った頃──ユーリの目には、あの空席にちょこんと腰掛ける彼女が見えるようになってきたのである。
最初は何とも曖昧模糊として、時折り目の端に確認できる程度であったから自身の見間違えと決めつけていたユーリではあったが……ここ一月ほどでそれは徐々に輪郭を明瞭としていき、今に至ってはその目鼻立ちに至るまでハッキリと視認出来るほどとなった。
やや釣り目で光彩の煌めいた琥珀の瞳の面相は、多少小生意気な印象は抱かせつつも、むしろそれが得も言えぬ愛らしさをユーリに覚えさせた。
この収容所の極限的な環境と鑑みた時、遂にユーリは自分が発狂したものかとも思ったが、むしろ彼女が見えることに何のデメリットも無いことにもまた気付くと、ならば見えるに任せようと当初は楽観的な気持ちでいた。
しかしながら自分の妄想であるはずの彼女は徐々にその感情も露に、能動的に動き始めるようになる。
一番最初の気付きは朝の挨拶だった。
いつも通り彼女の腰かける椅子の前に跪いて挨拶をするユーリに対し、明らかにエムリットは微笑んだ。
その後の夕食時の報告の際には、興味津々といった様子で目を輝かせながらユーリを見つめてきたし、時折り笑う時にはその鈴のような笑い声まで聞こえるようであった。
さらに彼女の幻影はより具体的な行動を取るようになり、最近ではあの椅子から降りては自身からユーリへと近づいてきてすらいた。
斯様なエムリットの反応に対し当初こそはそれに強い戸惑いを覚えたユーリもしかし、それを受けいれては徐々に彼女が生活に浸透してくると──もはや同居人の前であっても、ユーリはエムリットと親し気に会話する事を隠すことはなくなった
また彼女もそうした分け隔てないユーリの対応は嬉しいらしく、最近ではキスの挨拶を始め就寝に際してもベッドを共にするなど、エムリットからのアプローチもまた、もはや歳の離れた妹然としてよりユーリに対して依存する態度を見せるようになっていた。
『なんだ、ユーリ? 一番否定的だったお前が、今じゃ一番のお気に入りじゃないか?』
「どうであろうと、見えるし聞こえるんならもう何でもいいよ。今はこの子が何よりも大切なんだ」
異常性は自覚しているユーリの受け答えに対し、アゼルフも別段嫌悪や差別的な態度を見せることもない。
事実アゼルフとセルフィもまた、ユーリほどではないにせよ時折り彼女と会話をしている様子が見受けられたからだ。
そうして彼女を内包した一同は、クリスマスには共に讃美歌を歌い、そしてエムリットに誕生日もまた設定しては、それぞれに手作りのプレゼントまで用意しては祝福した。
平素課せられる労働は過酷でありそして生活は極限にまで制約を押し付けられる過酷なものであったが、皮肉にもユーリはこの皆と過ごせるここでの生活を幸福にさえ感じていたのだった。
斯様にしてこの疑似家族の生活を満喫するユーリではあったが……事件はまさに、その幸せの絶頂において訪れた。
ある夜、就寝中のユーリは何者かによって密かに起こされる。
頬を意識的に摩られるその感触に緩やかに覚醒すると……寝ぼけまなこにみあげるそこには自分を見下ろすエムリットの顔があった。
「ん……なんだい? こんな夜中に……?」
どこか真剣な面持ちで見つめてくる彼女に対し、依然として睡魔の幽世と現世とを行ったり来たりのユーリに対し、その両頬へそっとエムリットは掌を添えた。
そしてふいに鼻先を近づけるや──彼女は半ば不意打ちにユーリの唇を奪ってしまうのだった。
日頃交わすような挨拶然としたものではなく、ユーリの下唇を食みこんでは舌先を侵入させてくるそのキスは、明らかに家族としての友愛を越えたものであった。
同時にその口中にも彼女の甘い唾液の香りが広がると──ようやくにユーリもまた覚醒をしては、事の重大性に気付くのであった。
「んッ……んんッ!? っぷは! え、エムリット! いったい何を……──」
その唇を振り切り思わず声を高くしそうになるユーリの唇に、エムリットはその砂糖菓子のように繊細な指先を添わせては後に続く言葉を制してしまう。
思わぬ展開にただ混乱し続けるばかりのユーリに対し、エムリットはあまり騒ぐと皆が起き出してしまうことを注意してその指先を離す。
ただ流されるがまま制止を余儀なくされては困惑の視線を送るばかりのユーリを前にエムリットは再び微笑んでいた。
それはいつもの幼児然とした天真爛漫なものではなく、下瞼をわずかに上ずらせてはどこまでも思惑めいた素振りを見せる妖艶な女のそれである。
やがて再びその鼻先を近づけてくるとエムリットはユーリの耳元で何かを囁く。
そしてユーリを驚愕させるそれこそは……──彼のことを家族などではなく一匹のオスと認め、肉体的な繋がりを求める雌の告白であった。
再び見上げるそこには、房の狭い格子窓から月光を背に纏ったエムリットの──期待に頬を紅潮させながら、何とも楽し気に微笑んでは小さく上唇を舐める姿が確認できていた。
深夜──突然に行われた接触はエムリットからの『夜這い』といっても過言ではなかった。
その状況にただ戸惑い続けるばかりのユーリもしかし、彼を困惑させる理由はもっと別なところにあった。
それこそは……
──『エムリット』って、俺の妄想じゃなかったのか!?
そのことに尽きた。
日々の予定調和の中で彼女と交流するユーリではあっても、所詮それは収容所生活という極限状態下で脳が錯覚させる『幻影』という認識でいた。
それが今、感じ取れるほどの質感と息遣いとを以て自分へと迫っているのである。
エムリットはユーリのベッドへ完全に乗り上がってしまうと、枕を背もたれにして横たわり自身の前面を晒した。
一見したならば幼児体型にも取れるその体も、射し込む月光の下においてなだらかな胸元と、そしてへそと思しき隆起の陰影をそこに浮き上がらせる。
ポケモンとはいえど、そこに人と通じるエロチシズムを覚えた瞬間──たちどころにユーリは熱し上げられては、沸き立つような欲情に身をかられた。
まだ十代でもあるユーリは常日頃から斯様に溢れんばかりの性欲をもて余していた。
盛んな年頃であることはもとより、加えて共同生活を余儀なくされている環境とあってはそれを慰めることすら難しい。
今だって既に数日間の禁欲を経ては破裂せんばかりであった。
そんな時にこの挑発的な振る舞いである……それに完全に中てられてしまったユーリにはもはや、その相手がポケモンや幻想かなどは些細なことであった。
そして何よりも大切なこととしてユーリは──
「エムリット……愛してるからな」
熱に浮かされた中にあっても辛うじて理性を振り絞ると、どうにかしてそれだけはエムリットに伝えた。
その気持ちだけはどんな時であっても真実なのだ。
一方でそれを受け、エムリットもまた目を輝かせた。
胸の前で掌を組み合わせ、一見困惑のように眉を強(こわ)めてしまう表情もしかし、全ては胸の内に生ずるユーリへの強い想いに胸焦がすがゆえである。
そうしてもはや辛抱たまらじと両腕を伸ばすや、エムリットはユーリの頭を抱き込んでは、自身の胸の中へと強く掻い繰ってしまうのだった。
エムリットの肌に敏感な鼻先と上唇が着地すると、遠巻きに感じるばかりであった彼女の体温と匂いはより一層にその濃厚さを増した。
その柔らかな感触に食欲すらも刺激されると、ユーリは本能の赴くままに彼女の胸元や腹部といったそこへ唇を吸い付けさせる。
本能の赴くままに胸元へ唇を吸い付けさえると、その絹のような質感の皮膚の下に、僅かに筋肉とは違う乳房のしこりを感じっては、より一層にそこへ吸い付けさせる力を強めた。
二人の体格差とあってはもはや貪られるかのような光景の中においてもしかし、エムリットはまるで我が子を授乳するかのような仕草でユーリの頭を抱き込み、そしてその後ろ頭へ幾度となく手を這わせ優しく撫ぜつけた。
そうして抱き込むユーリの頭を徐々にエムリットは別の場所へと導いていく。
それに促されるままやがてユーリの鼻先は──彼女の股間部へと誘われていた。
うっすらとスリットとして望める彼女の局部そこは、明らかに芳香の香しさが深みを増しては、他の部位とは異なる雰囲気を醸していた。
それでもしかし、本能に訴えてくるその蠱惑的な気配に引き寄せられては……まるで花に群がる蝶になった気持ちで、ユーリは伸ばした舌先をそこへ着地させた。
瞬間、舌先には痺れるような感覚によって表皮が縮むのが感じられた。
次いで粘度の高い液体のそれも感じながら徐々に舌先を潜らせていくと、ユーリの舌上には今までに吟味したことも無いような味わいが広がった。
瞬間的に連想したのは柑橘類に見られるような酸味であり、そしてその奥底に存在する強い塩気であった。
しかしながら舌先全体にそれを絡めて嚥下する際には僅かな甘みもまた舌の根に残り、その味わいの変化をユーリは唇で吸い上げるようにして味わった。
それらエムリットの膣の味わいは、収容所生活においてはどれも忘れて等しい味覚の復活であった。
塩味すら薄いクズ野菜のスープと、いつ焼き上げたかも分からない硬く乾いたパンの食事をもう2年以上続けていたユーリにとっては、斯様なエムリットの膣壺から沸き滲む愛液は、まさしく蜜の如くに感じられた。
我を忘れてそれを貪るユーリの舌先は幾度となくその厚い身を翻しながらエムリットの粘膜の中を掘り進んでいく。
膣壁をざらついた下の表皮で擦り上げ、そして深部に鎮座する子宮口の唇もまた幾度となくその舌先でかすめると、エムリットもまたそれに伴われる快感に幾度となく背を震わせた。
弓なりに仰向けの身を反らせては快楽に溺れるばかりのエムリットは、その股間に食いつくが如くのユーリと相成ってはもはや、腹から捕食される憐れな獲物の断末魔すら思わせる光景だった。
その中においてエムリットは遂に絶頂を予期しては身を固くする。
あと僅かばかりの快感が蓄積すればその開放も叶うとばかり、全神経を膣部に集中させるエムリットではあったが──その瞬間は彼女が思うよりも早く、そして強制的に訪れてしまうのだった。
より深く味わいを求めて貪っていたユーリの上顎が、パンでも食むかの如くエムリットの熱に蒸された恥丘へと前歯を立て、そしてスリットの上端に鎮座するクリトリスの背を荒々しく前歯の裏でこそいだ瞬間──
エムリットは悲鳴さながらの声を上げては、絶頂した。
同時に今までの硬直が緩み、押しとどめていた力が一気に解放されると……エムリットは無自覚のまま、依然として局部全体を包み込んでいるユーリの口中へと潮の飛沫を噴き漏らした。
舌上に感じる尿とは違うそれは、今しがたまで味わっていた愛液よりも更に濃厚な味わいをユーリに覚えさせた。
その美味なる味わいに我を忘れるあまり、絶頂食後の敏感なエムリットにもお構いなしに、ユーリは膣壁同士が窄んで張り付くほどに彼女の膣を吸い上げた。
激しすぎるほどの愛撫の繰り返しに再びエムリットもまた強制的な絶頂へと引き上げられてしまうと再び彼の口(なか)に潮を上げる。
以降はユーリが堪能を覚えるまで幾度となく……エムリットは為されるがまま貪られ続けるのだった。
絶頂を経て、脱力に体を投げ出したエムリットを見下ろしながらユーリも囚人服の腰紐を解く。
それを下ろして下半身を露にするや、勃起したペニスはバネ仕掛けのように跳ね上がっては屹立を果たした。
まだ女性経験の無いユーリにとってセックスは未経験ではあったが、その方法と本質はおおよそ理解している。
そそり立つペニスの根元を抑え、今しがたまで吟味していたエムリットの膣の前まで誘導してしかし……そこでユーリは動きを止めた。
ふと標準を合わせるべくにペニスを彼女の下腹の上へかざしたユーリは、その長さがエムリットの控めな膣を大幅に越えて胸元に近い場所まで達することに気付いたからだ。
もし彼女が妄想の産物ではない一生物(ポケモン)であった場合、このペニスを彼女の矮躯に収めてしまうことには若干の抵抗があった。
本能・肉体共に限界へ達しているというのに、土壇場に来てユーリは彼女の身を案ずるがあまり足踏んでしまうのだった。
そんなユーリの苦悩を感じ取ったかのよう──不意に左右から伸びだしてきたエムリットの二股の尻尾がそのペニスを絡め取った。
突然のことに驚いて顔を上げたユーリは、その先においてエムリットと視線を交わしては息を飲む。
依然として絶頂後の余韻と疲労を宿した彼女の顔はしかし、優しく微笑んでいた。
そうしてその唇が僅かに動くと、心配など無用であることを伝えてくれる。
さらには戸惑い続ける彼の答えを待つまでもなく──巻き付いた尻尾はペニスの先端を膣のスリットの前へと誘導してしまうのだった。
僅かにはみ出した陰唇の隙間に鈴口を埋めると、そこからすぐに挿入には向かわずペニスを上下させてはユーリからにじみ出る腺液を膣口に馴染ませるような動きを見せた。
その浅い刺激はエムリットにしても感じ入るものがあるらしく、再び膣壁からは愛液が滲み出してきては膣口を濡らす。
そうして互いの肉体が馴染むのを確認するや──ペニスは尻尾に引き導かれるまま、その亀頭をエムリットの膣(なか)へと挿入させた。
「あ、あぁッ……なにこれッ……すごいよ、こんなの……ッ!」
初めて亀頭に感じる粘膜とその熱にユーリは上ずった声を上げる。
そしてなおも導かれるままに挿入を進めていくと、いつしかユーリは覆い被さるようエムリットの両脇に手をついては、自ずから腰を沈めていった。
比喩などではなく、染み入る愛液と膣壁の締め付けに、ユーリはペニスが溶かされるかのような錯覚を覚えた。
あまりのその快感に当初の彼女への気遣いなどすっかり忘れては、すぐに果ててしまわぬよう注意深く挿入を続けていく。
やがて亀頭の先端は子宮口へと到達して強い弾力に押し戻されると、ようやくに侵入を止めた。
見れば当のエムリットはこれ以上にないほど目と口とを見開いては、息すらも止めて身を震わせている。
子宮口への刺激に対する痛みか、はたまた絶頂か……完全にエムリットは肉体の機能を停止させ、時おり痙攣を交えては身悶えるばかりであった。
そしてそんなエムリットをユーリは堪らなく愛しく思った。
その感情に完全に心が囚われてしまうともはや自制も能わざるに、
「エムリット!」
ユーリは体全体で覆うようにエムリットを抱き込むと、そこから思いの限りのピストンを敢行する。
膣壁に連なる肉ひだは体格差も相成っては吸い付くようにまとわりついてユーリの茎全体を刺激した。
その未知の快感に我を忘れるあまりユーリの前後する腰付きはいよいよもって激しさを増していく。
一方で、その暴力的とも取れるピストンに晒されることにエムリットの肉体にもまた変化が現れていた。
ユーリの脈動をペニス越しに感じると、次第に膣道もその茎に馴染んでは拡張を促され、いつしか互いの粘膜の摩擦に対しエムリットもまた強い快感を感じ始めていた。
斯様にして肉体が馴染んでくると、膣内はさらに深くユーリを迎え入れては幾度となく奥底の子宮口と亀頭の鈴口とを打ち付け合う。
押し付けるペニスの陰影がエムリットの下腹の表皮の上に浮き上がっては従来在るべき彼女のシルエットをなんとも歪なものとしていた。
そのような姿にされてまで肉体に掛かる負荷は生半なものではない。
事実、本能に赴くままに打ち付けられるユーリのピストンが体内の奥底を突き上げるたび、ひしゃげた子宮越しに肺や胃といった臓腑は圧迫され、幾度となくエムリットは呼吸を詰まらせた。
しかしながら、斯様な責め苦の中に在って──エムリットは幸福を感じていた。
そしてそれは相思相愛たるべきユーリもまた然りだ。
彼女に無理を強いていることは重々承知の上でなおもこの小さな子宮を責め立てることに自制がかけられない。
その中においてやがて、来るべき瞬間が訪れる。
「ああぁ……イキそう……もう、出そう……!」
語り掛けるでもなく、射精を予期したユーリはその快感の中でうわ言のように呟く。
そんなユーリからの言葉を受け止めたエムリットもまた、二股の尻尾を幾重にもユーリへ巻き付けるとより深く密着できるように抱き寄せる。
そしてユーリの耳元において──膣内での射精を許したその瞬間、もはやユーリの肉体は脳からの指令を待つこともなく、思いの限りの射精をエムリットの膣(なか)において果たした。
「あッ、うわあぁ……出るッ……こんなに出るなんて……ッッ」
熱湯が胎内において沸き立つ間歇泉さながらの精の放流を受け止めてはエムリットもまた深い絶頂に導かれ硬直する。
あご先を天に突き上げさせては身をのけぞらせるそんなエムリットの下腹には、大きく浮き出したペニスの陰影とそして、その先端において打ち出される精液の圧によって腹部の表皮は緩やかに隆起を繰り返すのが確認できた。
やがてはその送精も緩やかとなり、完全にそれが止まっては余韻に打ち震えるばかりとなった頃……
「あ……ご、ごめんエムリット!」
ようやくに我に返ったユーリは身を起こすと、組み敷いていたエムリットを確認する。
そこにはその光彩鮮やかな瞳一杯に涙を溜めながらも、どこか悪戯っぽく微笑むがエムットがユーリの両頬へ愛おし気に手を添えて撫ぜた。
その時になり、ユーリは初めて膣内射精を許したエムリットの本心を知る。
交配(セックス)の本質とは、パートナーの子を身に宿す行為である──そしてそれを許してくれたエムリットの本意とは、これ以上に無いユーリへの愛に他ならなかった。
「俺だって……俺だって、君のことが好きだよエムリット」
ユーリもまたそれを伝えると、自然と二人の鼻先は近づき合いやがてはそこにて口づけを結ぶ。
しばし後戯を堪能すると、僅かに互いの体が離れる間隙を縫ってエムリットは身を起こす。
そうして彼女が何をするものか見守り続けるユーリの眼前において四つん這いに体位を取利直したかと思うと──その鼻先へと尻と突き出し存分に愛されていた膣を晒した。
さらには尻尾の先端を以て間口もまた広げると、空気の流入によって胎内に留まっていた精液が一度に流れ出してきては、再び充血した膣口を物欲しげにユーリの前に咲かせてみせるのだった。
その姿勢のまま流し目など肩越しに送りながら挑発的に微笑まれると──もはやユーリもたちどころに発情を促されるや、先ほど以上の怒張を以て勃起を果たす。
かくしてその後、せがまれるままに肉体を重ね合う二人は……夜が明けるまで互いの愛を確認し合うのだった。
『一晩中サカりやがって! 猿かお前らは!?』
エムリットと一線を越えてしまった翌朝、顔を合わせるなりアゼルフからユーリは揶揄われた。
言わずもがなこの狭い房の中においてセックスなどしていれば気付かれぬはずもない。
『俺としては「みんなの妹」を想定していたんだがなあ……』
そこにセルフェも加わると、話題の中心であるユーリとエムリットは揃って赤面する。
しかしながら口々に揶揄してくるアゼルフとセルフェにしてもしかし、その口調はどこかユーリとエムリットを祝福してくれている節すら感じられた。
当初は『か弱き存在』として設定されたはずのエムリットはいつしか、この房内における『ユーリの恋人』としてその存在を確立するに至ったのである。
そしてこの状況へ至るにあたり、もはや過酷な収容所生活にも拘わらずユーリは幸福の絶頂をここに迎えたと言っていい。
しかしながら……その幸福も直後には壊されてしまうこととなる。
それは永らくユーリが求めて止まなかったはずの展開によって──ある種もっとも皮肉な終焉を迎えるのであった。
斯様にして歓談していたその矢先──突如として鳴り響いた爆音によって一同は肩をすくめた。
何が起きたものか理解できず、それぞれに狭い房の中を見渡しながら壁越しに外部の様子を窺うユーリ達をよそに、見る間に状況は変化していく。
突如、明らかな銃声の甲高い音が響いたかと思うやそれは、たちどころに交互に響き渡っては銃撃戦の様相を呈していった。
更に様々な言語による命令や狼狽といった声が飛び交い、激しくブーツの靴底がコンクリの床を駆け鳴らす様子はまさに狂騒といって過言ではない。
何一つ理解の及ばない事態の急変に言葉も無く、ただ肩をすくめては成り行きを見守るしかないユーリの房へもまた、その変化は突然として訪れた。
房の鋼鉄扉の向こうで慌ただしく開錠をする気配が起きるや次の瞬間──荒々しく扉を押し開けては数人の男達がこの房へとなだれ込んだ。
メットに戦闘服といったいで立ちはユーリの知らない海外の、しかし身内たる連合軍の兵士と思われた。
それが房の中にユーリを見止めるなり怒鳴りつけるよう何かを語りかけてきたが、あいにくとユーリにはその言語が分からない。
とりあえずユーリもまた、会話可能な自身の言語で姓名と所属を名乗ると、一団の中から一人の兵士が歩み出した。
多分に殺気立っていることもあってか、睨みつけるよう怪訝にユーリを観察した後、セルフェとアゼルフ越しに房の中もぐるりと見渡しては再びユーリに視線を戻すと、
『連合軍の者だ、助けに来たぞ! 既にこの収容所は我らが制圧した、すぐにここを出て表の広場に来い!』
それだけを伝え一団はすぐに房を後にすると、同じように隣の房へもなだれ込んでいった。
おそらくは多国籍軍である同盟国の捕虜を解放するにあたり、複数の人種でチームを組んでは言語対応しているらしい。
季節外れの台風さながらに場をかき乱しては立ち去って行った兵士達は元より、突如として自分達が自由の身となった状況を受け入れきれずに、ただユーリは呆然とするばかりである。
そんなユーリへと、
『ともあれ、助かったってんならそれに越したことはない。長居は無用だ、いくぞユーリ』
年長者らしく即座に状況判断をしたセルフェはすぐに開け放たれた入り口に向かうと、そこから周囲の様子を窺った後にはそそくさと房を後にしてしまった。
『良いことも悪いことも終わる時ってのはいつも突然だよな。──俺達も行こうぜ、ユーリ』
更にアゼルフもまたその後に続いて房を出ていくと、慌ててユーリもまた後に続こうとするが──前に出した右足を強く踏み込んでユーリは歩みを止めた。
そこから激しく背後に振り返るや、
「エムリット! お前も……──」
ユーリは顧みた房の中にエムリットを探すも……もはや他人の家と思うほどに気配の変わったその室内に彼女の姿を探し出すことは叶わなかった。
しばし立ち尽くし、ユーリはそのことを理解しようと努める。
分かってはいたことだった……彼女は、ユーリ達がこの房において作り出した『幻影』に過ぎないことを。
謂わばここでの収容生活に付属した『装置』であった彼女は、その前提が崩れ去った瞬間にこの世界からも消滅してしまったのだった。
徐々にそのことが実感として胸に込み上がると、ユーリは強く眉元をしかめてはその喪失の苦痛に耐えるかのよう歯を食いしばった。
それでもしかし、いつかはユーリもここを出ていかねばならない。
見つめる先の格子窓の下にはエムリットが座っていた椅子がある。
もはや誰の姿も確認出来なくなってしまったその椅子にしかしユーリは、
『今日まで、ありがとう。さようならエムリット……愛してるよ』
その言葉を最後に、彼もまた房を出た。
外の廊下は各所から解放された収容者達で溢れ、その人波に揉まれながらユーリは泳ぐように前進した。
それはこの収容所から脱する為であり、そして新たな未来へと歩み出していく行為ではあったがしかし──
その中において止めどもなく双眸から溢れてくる涙を、ユーリは抑えることが出来なかった。
昨日まで自分達が作業をさせられていた広場には代わりに、今は制裁対象国の兵士や所轄の将校達が並ばされていた。
その中にユーリのいた作業場の管轄をしていた中年の兵士を見つけたが、昨日までは無表情に居丈高と構えていた彼が、今は恐怖に顔面を蒼白とさせて目を剥いている様は滑稽ですらあった。
ユーリ以外の解放兵達もその脇を通りすぎて、連合軍の設営場へと移動していく訳ではあるが、その際には皆口々に今日まで自分達を苦しめてきた彼らへと口さがない罵声を浴びせていくのだった。
その後は野外に建てられた数基のテントを順に回らされる訳だが、そこにおいて簡単な健康診断や軽食の提供など受けて回っていくとその最後に──ユーリは面接然として、数名の同盟同士との面会を余儀なくされた。
そこにおいて永らく接触の叶わなかったは自国軍の少尉と対峙するや、ユーリは直立不動に姿勢を正しては敬礼を取る。
以降、声が裏返るほどの大きさで所属を述べ、少尉からの許しを得てはユーリもその前に着席をした。
『今日までよくぞ艱難辛苦に耐えてくれたユーリ二等兵。諸君らの頑張りもあって、無事に大勢は決した。もはやこのまま押し切るのも時間の問題というところまで来ている』
少尉の右隣にいる軍曹を名乗る兵士の言葉にユーリも安堵と納得を覚える。
今自分がいるこの収容所からしてがもう、制裁対象国の領地にだいぶ深いった場所である。
そこへ同盟軍が進駐していることからももはや、相手国の現状は推して知るべきといったところだ。
そうしてユーリは自身がここへ収容されるまでの経緯と共に、約4年近くに渡る収容所生活の様子を尋ねられていくわけではあるが、その中において……
『時にユーリ二等兵。「エムリット」とは何者であろうか?』
思わぬ彼女の名がふいに──今まで聴取を続けてきた軍曹ではなく、少尉自身から発せられたことにユーリも驚きを禁じ得ない。
聞けばこの収容所が管理していた日誌の中にはユーリに関する記述が散見され、その中において彼が『エムリット』と称するポケモンを擁護していたという記憶が残っていたのだという。
事実、エムリットと過ごした三年ほどの期間の中で、幾度かユーリはそのことについて尋問をされたことがあった。
あまりにユーリがリアリティをもって彼女に接していたことから、自ずとその奇行は外部にも漏れていて、収容所側は連合国との内通を行っているのではないかとユーリに疑いの目を掛けたのであった。
その時はストレスによる神経衰弱と判断され、尚且つユーリの居室からも疑わしい物的証拠が出てこなかったため不問に付されたが、以降ユーリは内外から『変わり者』として在らぬ偏見を抱かれてしまうこととなる。
そのことを収容所側の日誌から発見しての質問ではあったが、しばし考えた後ユーリはありのままを離すことに決めた。
『始まりは○○国航空隊セルフェ中尉からの提案でした──……』
思わぬ他国の尉官が出たことで、面接する少尉を始めとする一同に疑惑と緊張の色が現れた。
それを前にしながらユーリはここに至るまでの経緯を話していく──。
当然ながらエムリットとの仲睦まじい交流の詳細は伏せたが、それでも架空のポケモンを想定することによって自分達があの地獄の収容所生活において人間性を保てたことや、そしてそのエムリットがどれほどの救いになったことかを報告する時、抑えようとは努めてもユーリの顔には微笑みが浮かんでしまうのだった。
やがては一連の事情を全て打ち明け終わると、期せずして場は重い沈黙に包まれた。
話を聞いていた時の姿勢のまま、腕組みに瞑目という少尉へと左右の軍曹は何やら声を潜めては話しかけていた。
それに頷きながら、時折り言葉短く相槌を打っていた少尉もしかし──やおら片目を開いてユーリを見据えるや、椅子の背凭れに預けていた背を起こし今度は前のめりにテーブルへと両肘をついた。
『……今の話、けっして嘘偽りはないのだな?』
言葉短く、どこか叱責しているようにも聞こえるその言葉の圧に対し、ただユーリは顔面蒼白に頷くことしか出来なかった。
しばしそうしてユーリの観察を続けていた少尉ではあったが……やがて一連の話に一切の虚偽が無いことを察するや深くため息をつく。
そして次の瞬間、少尉から発せられた言葉は思いもよらぬものであった。
『落ち着いて聞いてほしいユーリ二等兵……。あの収容所には、セルフェ・ユクシーなる航空中尉も、そしてアゼルフ・アグノムなる兵士も存在しない』
瞬間、ユーリは少尉が何を言っているのか理解できなかった。
それでも当初はセルフェ・アゼルフの階級や所属国を自分が思い違えていたのかとも錯覚したユーリではあったが、
『そもそもが、君がいた部屋は独房だ。三人もそこに収められるような余裕など無いのだよ』
その瞬間──ユーリは頭が白くなった。
少尉の語る言葉を受け入れたその時、ある光景がユーリの脳裏には広がったからだ。
それは連合軍が房の鍵を開錠し、そこから外へと出ようとした時に顧みた自身の房の様子であった。
記憶の中にあるその場所は、人間二人が並んで立てる程度の狭所の中にベッドを壁際へ寄せただけという質素さだった。
そしてその光景はこの4年間において自身がセルフェやアゼルフと共に過ごした房の様子とは似ても似つかぬ光景であり、ユーリは脱出の際にそんな自室をまったく違う部屋のような違和感を覚えたのである。
『……この収容所の日誌にはこう綴られている。ある時から君の独り言が多くなり、周囲の囚人達からそれに対する苦情や心配の声が上がったと』
収容されていた期間中も幾度かユーリは収容所の管轄者に呼び出されては尋問をされたことがあった。
その際に同居人であるセルフェやアゼルフのことを聞かれもしたが、てっきりそれは敵対国の情報を得ようとしたものであるのだとユーリは信じて疑わなかった。
しかしながらそれらは……他人には計り知れないユーリの房において、延いては彼の心の中において起きている変化を確認しようという収容所側からの試みであったのだった。
『──しかしながら、考えようによってはそれも功を奏したと言えるな。相手は君を精神異常者と看做し特別扱いをしてくれたようだ。おかげでガス室へ送られることもなく、今日この日を迎えられたのだから』
少尉はユーリに向けて言うというよりは、一連の事件において書記役が内容を纏めやすいように所見を述べているかのようであった。
しかしながら依然として状況が飲み込めず、救い求めるよう前方の上官達を交互に見遣るユーリに対し、
『甚だ短い期間ではあったが、これを以てユーリ二等兵の退役を許可し、国からは傷痍年金の受給が出るようにも取り計らおう。──今日までご苦労だった』
やがては打ち切るよう少尉がそれを告げると、ユーリは半ば強制的に起立を求められては一室を後にした。
部屋を退去させられてからは、当てもなく他の国の兵士達が控える収容者達のテントを回ってはそこにセルフェとアゼルフの姿を探した。
それでもしかし、そこに彼らの存在は微塵として認められずにやがて──……
その一週間後には母国帰還の為の航空艇になど乗せられては、ユーリも強制送還を余儀なくされるのだった。
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