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Vortice Rovente 04 の履歴(No.1)


全体的にグロ描写多めです、苦手な方ご注意ください



物語を振り返る ?

Vortice Rovente


written by 慧斗




TURN10.20 ファントムエンカウント


 感情が抜け落ちたような冷たく行き交う視線に気づかれない様に走り抜けた。
 逃げ込む様に入り込んだ路地裏でスティックパンを齧る。
 なけなしの所持金で買った貴重な食糧だ、腹の虫は不満を訴えてるけどこれであと3日は持たせないといけない。


 グレースと別れてリングマが焼け死んでからはちょうど3週間経ったぐらいか…
 駅前の電光掲示板や電気屋のテレビで事件のことは何度か放送されてはいたものの、世間では寝たばこが原因による火災事故とみなされて、俺のことは誰も何も触れない辺り始めから“存在しないもの”として扱われているらしい。
 死んだと認定される分には問題ない、下手に俺のことを捜されて万一捕まったら何をされるか分かったもんじゃない。
 何より俺は“リングマの束縛から離れて一秒でも長く自力で生き延びてやる”って決意した矢先。一ヶ月も持たずにギブアップは流石に情けない。

 すっかり昼夜は逆転して、昼過ぎまで廃墟同然になったテナントビルの一室で眠り、目が覚めたら食糧や金を探しに奔走する。
 特に夜は危険も多いが稼ぎ時だ。
 上手く行けばスティックパンに100円の自販機でジュースぐらいは付けられるかもしれない。いや、ここは外の水道を使って節約するか…
 妙に眩しい夕日が沈んで、町の光源は賑やかな照明に変わった。行くか…!


 21時も過ぎると酒に酔わされた奴らがちらほら現れる。
 見る限り歩くのも精一杯な様子で、バッグへの意識なんて存在しないも同然だ。
 早速いい感じに酒に溺れたバクフーンを発見、周囲に警察や防犯カメラの姿もない。
 おまけにバッグのジッパーは半分以上開いて長財布が落ちかけている。

 雑踏に溶け込む様に路地裏から出てバクフーンに接近、長財布を開くと一万円札が5枚入っている。俺が使うには千円札より少々使い勝手が悪い。
 幸い五千円札と千円札も何枚か入っている、紙幣だけ全部抜き取ってバクフーンのバッグに戻した。
 何も知らずに駅へと千鳥足で向かっていくバクフーンを見ると気の毒に感じたけど、どこか滑稽にも見えた。

 それにしても予想以上の大金を手に入れた。これなら一日どころか二週間は生き延びることができる。
 明日はコンビニでお腹いっぱい食べるのも悪くないかもしれない、とりあえずこの空腹を満たすために置いてきたスティックパンを食べきるかな…!


 鼻歌でも歌いたいような気分を抑えて表通りから見えない所まで来た所で、寝床代わりのテナントビルの反対側で騒ぎ声がする。
 声からして雌が一匹と雄が数匹って感じだろう。
「…」
 やめとけやめとけ、関わったらろくなことにならないぞと心の中では思っても、足は自然と騒ぎの方に向かっていた。

「何なんだアンタ達は、それ以上近づくと容赦しないよ!」
「お前が重役なのは知ってる、ここで倒せば形勢も逆転するって訳だ!」 
 物陰に隠れて様子を伺うと、雌のゾロアークがグランブル二匹に襲われそうになっている状況らしい。詳しい事情は知らないけど何か因縁でもある相手同士なのか?

「どっちにせよアンタ達は好みのタイプじゃないね」
 冷たく言い放ったゾロアークを狙う様に二匹のグランブルが同時に攻撃を仕掛ける。
 ゾロアークの方は戦いに慣れているらしく、無駄のない動きで同時攻撃を防いでいるがやや防戦に回りつつある。
 やがて一匹が距離を取ると、何かをバッグから取り出した。
「あれは、拳銃…⁉」
 どうやら只者じゃないらしいけど、このままじゃあのゾロアークは殺されてしまう。
 足音を極力小さくして近くのビルの外付け階段を駆け上がり、一気に飛び降りた。

「これで終わりだな…!」
「させるかっ!」
 グランブルの後頭部を素早く爪で引っ搔く。

「何だこのガキ⁉どこから湧いてきやがった⁉」
 首から血を流しながら俺を引きはがそうとするけど既に後頭部に俺はいない。首から流れた血をさっきのお札に塗り付けて、それを目に貼り付ける。
「何だコレ⁉」
 即席の目潰しを受けたグランブルも交戦中だったゾロアークとグランブルも俺の強襲に驚いているらしい。とはいってもこのままじゃ終わらせない。
 地面に着地、お札を剝がそうと両手が向かった今がチャンスだ…!
 軽く助走を付けてニトロチャージを発動、そのまま下からグランブルの股間を突き上げる。
「…………ッ!」
 声になってない悲鳴を上げてグランブルは股間を押さえたまま悶絶している、あと一匹…!
「このクソガキが!」
 声に反応する暇もなく腹部を硬い物で殴り飛ばされた。
 股間を強襲したグランブルにゴルフのスイングみたいに腹部を殴られたまま近くの壁に叩きつけられたらしい。口から血が垂れている、頭も痛くて視界もぼんやりしている。
「散々コケにしてくれやがって…悪ガキは帰って死んでな!」
 鉄パイプの猛攻を紙一重か紙二重で躱し続け、タイミングを合わせて鉄パイプを殴ってへし折る。

「このガキァ!」
 手にはさっきゾロアークを狙った拳銃、当たれば今の俺は即死だろう。
 けれど俺は、こんなところでくたばってられるかよ…!
 痛む身体を無理やり動かして拳銃や腕の構えを見る。仮に弾を避けられるとしたらあそこしかない…!

 俺は一か八かで突進した。
 遠ざかる動きを想定していたグランブルにとって、逆に俺が接近してくるケースは想定外だったらしく、弾は俺に当たるどころか発砲すら追いつかなかった。
「何でこんなことするんだよ、危ないだろ!」
 鼻面に鉄パイプをへし折れる力のパンチを叩き込み、トドメに左目を爪で瞼ごと切り裂き、右目に爪を突き刺した。

「ぎゃあああああ!」
 グランブルは完全に視力を失った。これで機能停止したはずだ…
「殺してやる、殺してやるぞクソガキ!!」
 両目を失って逆上したグランブルは闇雲に拳銃を発砲し始めた。
 正直肉体の限界を超えた戦闘で、ダメージも負った身体は満足に動けそうにない。弾切れまで逃げ切れば助かるってのに、俺もここまでなのか…?

「さっさとくたばりな!」
 既にもう一匹のグランブルを倒したらしいゾロアークの飛び蹴りがグランブルの首の骨を確実に破砕した。


「坊や、危ないじゃないか!」
 ゾロアークに抱き起こされて強く責められる。坊や呼びは少し癪だけどこの年齢じゃ仕方ないか…
「近くで誰かが襲われてるって思って来たんだ…あのグランブル、拳銃で狙ってたんだよ?」

「あれぐらいなら両方拳銃持ちでも素手で倒せたけど、結果的に坊やに助けられたって事か…」
 飛び蹴りを見て確信したけど、やっぱりこのゾロアークは相当強いらしい。
「でもこれ以上ここにいちゃ危ない、坊やの家はどこ?」
「…家は焼けちゃってないよ」
 嘘は言ってない。
「じゃあ家族は?心配してるよ」
「心配してくれる家族なんていない。心配しなきゃいけない家族は死んじゃったし心配の元は家ごと焼いた」
 これだって、噓じゃない…
「それじゃこの路地裏に住んでるとでも言うのかい?嘘ついてるなら早く本当のことを言いな!」
「つける嘘もない、でも心配しないで、ちょっと休んだら寝床に行けるから…」
 負ったダメージは想像以上に深刻だった。今から歩いてテナントビルに戻れる気がしない…

「ゾロアークさんは無事でよかった、怖いポケモンに狙われたら警察呼んだ方がいいよ?多分助けに来てくれないけど…」
「坊や、しっかり!」

 一匹だけで生き延びる計画、一ヶ月どころか3週間も持たなかったらしい。
 それでも誰かを助けて終わりなら、悪くないよな…?



 普段通り眠っているような感覚。
 でもこれは固くて冷たい床の上じゃない。むしろふわふわで温かいものの中で眠っているのか…?
 というか俺、生きてるのか…?

 目を開けると小さな部屋に寝かされていた。
 ドラマで見かけるホテルの一室みたいにも見えるけど、グレースの部屋みたいに机やキャビネット、本棚まで用意されていた。本棚には藤色の背表紙のマンガが何故か100冊近く並んでいる。
 眠っていたのはベッドの上らしく、ジャンプしても跳ねたりしないけどふわふわで寝心地も良かった。
 そういえば鉄パイプで殴られた腹部には包帯が巻かれていて、痛みはあったけどかなり楽になっていた。

「気が付いたのかい?」
 木製のドアが開いてゆうべのゾロアークがお盆を持って入ってきた。
「ここは?というか俺はどのぐらい寝ていた?」
「気持ちは分かるけど、質問を質問で返すなって学校で習わなかったのか?」
「気が付いたから質問もできると思うんだけどな、あと学校は行ってない」
 それもそうか、みたいな表情を見せてゾロアークはトレーをキャビネットの上に置く。
「丸一日寝てたからお腹空いてるだろう、話は後でするから先に食べるといい」
 お盆の上には白身魚のソテーとクリームシチューの皿が湯気を立てて盛られている。ロールパンも柔らかくて美味しそうだ。

 思わず白身魚のソテーにかぶりつく。ふわふわであったかくて美味しい。
 クリームシチューも少し熱かったけど、いっぱい食べたくなる。
 ロールパンも今まで食べてた硬くなったスティックパンと同じパンだとは考えられない…

「…味はどうだ?」
「美味しい」
「…そうか、なら良かった」
 グラスになみなみと注がれたオレンジュースも無意識に一気飲みしていた…


「食べ終わったようだし、そろそろ始めるか」
 トレーを片付けてゾロアークは話し始めた。
「私はシャイナ、訳あって今は用心棒兼始末屋をしている」
 …あまり詳しくないけど、どうやらその手の業界の住民だったのかもしれない。

「あのグランブルは私が始末する予定だったのだが、坊やを巻き込んでしまったのは完全に手違いだったね。結果的に助けられたのも事実だが」
「あの時は、普通に襲われてるように見えたから…」
「あれは奴らの隙を作るための演技だったんだが」
「演技…」
 あれ演技だったのか、それにしては上手かったな…

「それはそうと、あのグランブルを再起不能レベルまで追い詰めていたが、戦闘経験はそれなりにあったのか?」
「学校で習うのかは知らないけど、何となく攻撃したら効きそうな場所ばかり狙って攻撃しただけだよ?特に経験も何もないかな」
「そうかい…」

「昨日聞いた話だと家族も家もないらしいな」
 ベッドに腰掛けていたゾロアークは立ち上がって話題を変える。
「確かにそれは事実だけど…」
「気づいていないようだけどお前には高い戦闘のセンスとポテンシャルがある、どうだ、私の元で修行してみないか?」
「修行…?」
「今のお前は生きていくための牙を持ってないし私はお前に助けられた借りがある。なに、ちょっと生きていくための牙を教えてやるだけだ」
「牙…」
 確かにリングマを焼き殺したしグランブルに再起不能レベルのダメージを与えることはできたけど、あくまで変な力の加勢を受けてたり不意打ちだったから可能だっただけで、逆に攻撃を受けてしまえば俺はほぼ戦えなくなってしまうのが現状だろう。コバルトみたいにアシガタナを持たなくても戦えるぐらいの強さが必要なのも事実か…

「もちろん牙を身につけるためには健康な身体と高い知能も必要だ。生活の面倒も見てやるし、脳ミソだってバッチリ鍛えてやるよ」
「…お願い、します、シャイナさん」
「さん付けはこそばゆいが、まぁいいか。やっぱり三大欲求を満たしたい気持ちはよく分かるよ」
「いや、そこで選んだんじゃ…」
 俺としては戦闘能力を高めたいつもりでいたけど、食事と寝床を最優先に考えていると思われたらしい。あった方が嬉しいけど。


「とりあえず傷が治るまでは座学メインでやって行くよ、そういえばお前の名前は?」
「ルトガー…」

「!」

 前にも俺を見て驚かれた事はあったけど、名前で驚かれるのは初めてだな?
「まぁいい。後でコードネームを考えるとして、後で技構成とか好きな食べ物とか後で全部聞かせてもらうよ!」
 目に光るものを浮かべてシャイナさんは部屋を出ていった。


「…」
 情報量の多い時間が続いてようやく静かになった。
 特にすることがないうちにベッドに寝転んでゆっくりと情報を整理していく。

・昨夜、戦いの熟練者であるシャイナさんを助けたことで、俺は生きるための牙を教えられることになった

 …情報整理終わり、というかこれ以上整理する情報がない。
 とりあえず1秒でも長く生き延びるって当初の目標からすれば、かなり恵まれた展開なんだろう。
 特に何も考えずに眠れるのはいつぶりか忘れたけど、少しでも体力を確保しておくか…


 翌朝、目を覚ますとパンとスープが用意されていて、それを食べ終わると俺の身体について色々検査された。
 こういうのはコバルトの病院でされて以来だな…
 一通り検査された後、昼食の焼きそばとか言う料理を食べながら診察結果を聞いた。
「年相応で考えても発育不良というか、今まで暮らしてきた場所はあまりいい環境ではなかったらしいな」
「…安定した食事も滅多に食べられなかった」
「やはりそういうことか、いくらセンスがあるとはいえこのまま訓練を始めても身体を壊してしまうな…」
 そう言いながらシャイナさんは本を開いて確認しながら言った。
「よし、まずは本訓練の前に体が出来るまで基礎訓練から始めようか。安定した生活で強靭な身体を作ると同時に基本的な運動能力や基礎学力を付けていこう。今のお前にはそれが一番合っている」
「…分かり、ました!」
「いい返事だ、基礎を確実にすることは無駄ではないし、後々本訓練を始めた時に負担が段違いだからな」
 話しながらすっと腕が俺の方に伸びてきた。叩かれる…!?

「撫でてやろうと思ったんだがそんなに怯えなくても…」
「…ごめん、なさい」
「…よくよく考えればこういうのは苦手なんだったな、すまない」
 優しくひと撫でされたこと自体は嫌じゃなかったのに、無意識に退いてしまう俺の身体が悔しい…
「体質は仕方ないこともある、戦闘訓練では克服できるようにするが普段撫でるときは気を付けるし体罰も避けるのが妥当と早いうちに分かってよかった」
 どこか寂しそうな声に俺も辛い…
「それだけ分かれば十分だ。体調が戻るまではまずは座学から始めよう、それとまだ名前を考えてなかったな…」
「俺の、名前…?」
「この世界ではコードネームを名前同然に扱っている。お前はそうだな、ナバールなんてどうだ?」
「ナバール…?」
「………そう、かつてこの世界を邪神から救い出してくれた救世主の名前だ」


TURN10.40 勇侠・努力・焼却


 俺がナバールという名前を得てから一年、俺はシャイナさんの元で様々な訓練に挑んだ。
 怪我が治ってからは基礎体力を付けるために様々なトレーニングに挑んだり、ポケモンの身体構造について勉強した。
 訓練を始めた頃よりは50メートル走も1秒は速くなれたし、バトルの訓練は本格的にしていないにせよ、あの頃よりは上手く戦えるような気がする。
 他にもグレースがやってたようなことやそれよりも高度な内容だったり、色々勉強もした。
 学校でやるものに近い内容や市井のポケモンの生活、時にはボードゲームや音楽鑑賞もあった。
 こういうことを勉強して何の役に立つのかは分からなかったが、工作員として生きていくには上手く社会に溶け込むことが大事であり、そのためには何気ない知識もある程度知っておいて実践できた方が上手く溶け込めるのだとか。
 あまりよく分からないけど知ってて損はない感じだし、必要というなら必要なんだろう。
 シャイナさんははっきり言って厳しいしハードな訓練続きではあるけど、訓練内容以外で俺を攻撃することはないし、怪我をしたら手当もしてくれて上手くできたら認めてくれる。
 わざとこんな対応取っているのかもしれないが、ゼルネアス並みのゴミクズ野郎だったリングマに比べたら俺にとってはイベルタルだ。厳しくはあるけど優しくしてくれて何より俺を殴らない、こんなオトナはコバルトぐらいしかいないと思ってたのに…

「今日は大戦史のおさらいをするぞ、概要を書き出してみてくれ」

・AW1年:伝説のポケモンとニンゲンの間で引き起こされた十年戦争が前年末に両者絶滅で終結。この年から年表記にAW(After War)を使用して表記。
・AW180年ごろ:イベルタルの決死の一撃で力を失っていたゼルネアスはこの辺りで復活、コガネシティに潜伏していたと思われる。
・AW195年:4月7日、ゼルネアスがフェアリー以外の全タイプに宣戦布告しUB(ウルトラビースト)を用いた虐殺行動を開始、特に悪タイプやドラゴンタイプの種族は甚大な被害を受ける。
・AW200年:12月5日、月下団によるゼルネアス暗殺事件(通称「ゴールドリベリオン」)が発生、ゼルネアスの死と真相を知ったポケモン達の反乱もあり事態は平和的に終息する。
・AW202年:7月26日夜から27日朝にかけてタマムシシティがUBに襲われて壊滅。傾向から見てゼルネアスが復活を目論んでいる証拠と推測される。


「流石だな、歴史もしっかり把握できているな」
 ルーズリーフに書いたメモに花丸を付けられた。
「そういえば俺はいつ生まれたんだっけな…」
「r、ナバールはAW202年7月27日の生まれだ。外で言う必要はないが覚えておくといい」
「り、了解…」
今は211年なので俺は今9歳ということになるのか。
 202年の7月27日、なんか引っかかる気もするな…

「歴史の勉強も終わったし次は新たな金属について勉強するぞ。この星に存在する118元素に加えてアンブレオン社がロストテクノロジーを駆使して新たに三つの金属の開発を開発した…」
 …というかシャイナさんはどうやって調べたんだ?
 俺ですら知らなかったのに…
「ほら、集中集中!熱伝導性と耐熱性が高く安定性に優れたヒートメタル、軽量で加工しやすく物理的な耐久力が高いサイクロンメタル、熱を加えることで自在に姿を変える特性を持った形状記憶金属のルナメタル…」
 マテリアル工学の勉強に移行したのでその勉強に移行する。熱に関する特徴も多いし、上手く使えば色々出来そうだな…?


「今日からは中級戦闘訓練に移行しよう。基礎的なバトルならもうプロ相手でも十分倒せる実力になってきたが、想定敵や暗殺を行うにはまだまだ力不足だ」
 AW214年、俺は12歳になり一番最後に始めた基礎戦闘訓練が終わって基礎訓練が全て完了した。
 実力としては同年代のポケモンバトル部と戦ったとしたら、全国大会の優勝者相手でも一方的に攻撃して完全勝利できる程度らしい。
 とは言ってもこの世界で生きていくには足りないならもっと強くなるしかない。
「中級では技の練度や火力制御技術、確実に急所を攻撃できるスキルといったテクニック部分を磨いて行く。これらの訓練を行う理由は分かるか?」
「…一撃で、敵を倒すため?」
「正解だ、よく頑張って勉強している成果だな。これらの訓練はいずれも一撃で敵を倒す、暗殺としての要素もあり、不要なダメージを避けるためでもある。残念ながらここに来てから改善してきたとはいえ発育不良が否めない程度にお前の耐久力は同族と比較しても低さが目立つからな…」
「ごめん、なさい…」
「…暗めなトーンで言って悪かったね、要は先に一撃叩き込んで敵を殺せば問題はないし、そこばかりはゆっくり治して行けばいいさ」
 そう言ってやけに太い金属製のストローみたいなものを手渡して来た。

「これからそれを使って火力制御の訓練を始めよう」
「これは…?」
「熱源直結型拳銃ヒートトリガー、簡単に言えばお前の炎を弾薬代わりのエネルギーにして弾丸を発射する拳銃だ。本来は指や爪で引き金を引いて射撃するのだが、四足歩行のお前が練習に使いやすいよう口で咥えて撃てるような単発式で銃身のみで発射できるようにカスタムしてある」
「素材は、ヒートメタル製?」
「いい質問だし正解だ。炎の伝導が重要になるため銃身はヒートメタル、弾丸は三種の金属を組み合わせて作成している」
 いつか学んだ新金属、こんなところで使われてたとはな…
「火力調整の練習において、弾丸は敵を殺すためには必ずしも最大火力で撃てばいいというものでもなく、適切な勢いで着弾させることや同じ距離でもその瞬間瞬間に応じて調整することが大事になる」
 シャイナさんも重心が同じ形状の拳銃を取り出し斜めに並んだ缶に向かって3発発射すると、3つとも小気味いい音を立てて落ちた。
「ナバール、三つの缶の弾痕はどうなっているか見比べてみて?」
「穴の大きさが、同じ…?」
「正解だ、この銃は威力を調整できるが故に距離に差のある対象でも同じ威力で命中させることができる。火力制御や命中調整など細かい技術が必要になるが、今から鍛えて行けばいずれは貴重な飛び道具になる、やってみろ」
 ヒートトリガーを咥えて的先の缶に狙いを定める。火力を口から送り込んで、これで…!
「うわっ!」
 発射した直後の爆音に驚いてバランスを崩したが、勢いよく銃口から放たれた弾丸は空き缶を吹き飛ばして奥の壁に当たって止まった。

「びっくりした…」
「ふふ、慣れないうちは火力制御も難しいからな。とは言っても初めてにしては的に命中させただけ合格点だよ」
 いいか?と聞かれたのでヒートトリガーを戻して頷くと、そっと頭を撫でられた。

「…よし、火力制御コントロールやエイム調整には少しずつ慣れていくとして今日は10メートル先の的に100発、私が開けた程度の穴を開けられるように挑戦するぞ!」
「はい!」




 あれから3年後の217年、中級訓練が一通り終わったらしく、実力測定の試験をされることになった。
 習得度チェックらしいが、シャイナさんも喜んでくれるしいい成績出さなきゃな…!

・次の単語の意味を答えよ
 
 KCN…シアン化カリウム
 CQC…近接格闘術
 XYZ…もう後がない
 RPM…発射速度
 MIA…戦闘中行方不明
 AXIA…大切なもの
 発火炎…マズルフラッシュ
 閃光魔術…シャイニングウィザード
 神聖衣…ゴッドクロス
 波紋疾走…オーバードライブ
 転生炎獣…サラマングレイト
 自在戦闘走行機…アルプトラオムフランメ

 なんか部屋の漫画に書いてあった文字列もいくつかあるんだが、サービス問題のつもりなのか、それとも色々見識を深めているかのテストなのか…

・通常攻撃や技でも十分戦えるポケモンが何故武器を使用するのか、その理由を3つ以上答えよ
 技のPP節約、直接接触が危険な敵との戦闘を想定、技や通常攻撃ではカバーしきれない技や距離を補うため、フェアリータイプに金属武器の攻撃が有効打となるケースが多いため

・ジョーカー抜きのトランプとタロットカードの小アルカナ、どちらが何枚多いか答えよ
 小アルカナが4枚多い

・ゼルネアスを一箇所攻撃してパワーダウンを狙う場合、どこを狙うのが一番効果的か答えよ
 頭部の角

・ヒートトリガーは通常の銃火器と比較して弾丸に火薬を使用しないことが大きな特徴ですが、それによって得られるメリットを三つ答えよ
 火薬反応が出ないため証拠が残らない、威力をその都度調整できる、敵に奪われてもいきなり発砲されて被弾するリスクが少ない

・3匹がそれぞれ見た目が同じものを同じ場所に入れていたとする。3匹同時に取り出した時、3匹中2匹が自分のものを手にすることができる確率は何%か答えよ
 0%、3匹中2匹が自分のものを手にしたなら残り1匹も自分のものを手にしている

・あなたは100円玉と50円玉2枚を持って買い物に行きました、120円の商品を買った時、お釣りは何円か答えよ
 30円、50円玉は1枚で支払いが可能

・あなたが夕飯に食べたいメニューを答えよ
(回答必須、私も毎晩の献立作りに悩んでいるのでたまにはあなたのリクエストを聞くことにします。応えられない場合もありますがその場合は悪しからず)
 辛い麺類、プレーンクッキー

 一部不安だけどこれで行くか…

「学術試験は全問正解の合格だ、よく頑張ったね!」
「ありがとう、ございます。でもれんりつほーてーしき、とかってやつは解かないまんまで大丈夫?」
「…世の中であんなの使わないから大丈夫!というか私も全然解けない!」
 滅茶苦茶得意げに言われたけど大丈夫なのか…?

「学術試験は終わったから次は射撃試験だ。多数の動く的の中から指示通りに適切な火力で打ち抜け、ランダムに飛んでくる射撃に当たるんじゃないよ!」
「了解!」
「まずは黄の1!」
 真横から飛んできた弾丸を躱しながら黄の的に狙いを絞り火力を調整しながら発射する。
 至近距離的も初めての時とは違って正確かつ一番効果的な威力の時の弾痕ができている。
 敵弾に警戒しながら弾を再装填して次の指示に注意する。
 構造上一発ごとに再装填必須なのは考えものだが、これも練習だと思えば贅沢は言えない。
「次青の2、赤の3!」
 訓練以上の事態を試験で来るってことか…!
 弾丸をかわしつつ、少し遠くにある青の2を狙い撃ち、ゆっくりと動き回る赤の3の動きを確認しながら再装填。適切な間合いを調整して撃ち抜いた。
「紫の4、橙の5、緑の6!」
 今度は三つ一気かよ、だが面白くなってきやがった…!
 状況を把握しながら紫の4に命中させつつ、やけに激しくなってきた攻撃を防ぎながらヒートトリガーに再装填していく。
 残弾は今装填したのを含めて2発、だがここに来て5と6が近いのが気になる。ここは敵弾を活かして節約するか…!
 敵弾の位置を調整、規則的な弾丸のテンポを音楽のイメージで読みながらタイミングを合わせて俺もヒートトリガーを発砲する。
 俺の弾丸が敵の弾丸と空中で衝突して軌道が変化、俺の弾が5、敵の弾が6に命中した。
「いいぞ、ラストは茶の7、黒の8、黄帯に白の9だ、一気に狙い撃て!」

 …流石に指示が変だ、渡された弾を一発節約しても残り三発なのは滅茶苦茶すぎる。しかもゆっくりと不規則な動きを至近距離で繰り返す7に、高速で旋回する8、挙句に9なんて色も数字も存在しない。
 ここに来て変な試験かよ…
 焦る気持ちを落ち着けるように小刻みな深呼吸をしつつ最後の弾丸を再装填する。
 狙撃において大事なのは冷静な精神力と集中力だったな。待てよ、狙撃…?
 そういえば周囲の風が強くなっているのに対して敵弾が止まっている。
 そうか、だったら可能性は見えた…!
 不規則な7と素早い8の重なる瞬間、きっとその先に9だってあるはずだ…
 火力を最大までチャージするように集中しながら構えていると8が裏返えるような機動を見せて、その反対側に黄と白の地に9が見えた、そういうことか…!
「ナバール、目標を狙い撃つ!」
 生物のような機動の7が8と重なる瞬間、7さえ狙えば8と9は連鎖的に撃ち抜ける!
 7の動きが8のタイミングと重なる瞬間に最大火力で発射、7の中心を貫き、8と9を同時に撃ち抜いた。

 思わず勝鬨の咆哮を上げたくなった時、空を裂くような殺気を感じて電撃から飛びのいた。
 サンダース、バリヤード、それにウーラオスか…?
 一体どこから来たかは知らないが、全員俺を敵視してるらしい。
「コレクションにしてあげるよ!」
「お命頂戴致す!」
 バリアを切断攻撃として飛ばして来たのを躱しつつ、水流の連撃にはバリアを逆に利用して防ぐ。
「あたたたたたたたた」
「めるのは俺の役割なんだよ!」
 連撃を躱しつつ、捻りながらジャンプして首筋の急所を斬り付ける。
「しめさばぁっ!」
 変な断末魔と共に連撃が一撃で倒れた。あと二匹。

「君などアチャモの首を捻るように一瞬さ」
「君の戦力は数値化してもスマイル同然だね!」
 白いスーツを着た黒縁メガネのサンダースと赤いアフロにハンバーガー4個分はありそうな靴のバリヤードに同時に襲われる。
 因縁のライバルにすら見える仲の悪そうな二匹だが、どちらかの隙を狙ってもお互いの隙を補い合うような絶妙のコンビネーションで逆に俺の隙を突かれる。
 なかなかの強敵だが、サンダースのカバー速度に若干の隙があった…!
 バリヤードのバリアを横向きに発生させるように誘導をかけて駆け上がって空中でムーンサルト、サンダースの背中の急所に爪を突き刺した。
「くりすぴぃっ!」
 こいつも変な断末魔を上げたがあと一匹…!
 サンダースから飛び上がって空中戦をすると見せかけて斜め上に作ったバリアを嘲笑いながら股下を滑りぬけ、背中の急所めがけて炎の誓いを放った。
「ぐりどるっ…!」
 これで、全部倒した…


「お疲れ様、戦闘試験も射撃試験も合格だ、おめでとう!」
 いつの間にかシャイナさんに抱きしめられていた。
「戦闘試験?じゃあさっきの敵って…」
「射撃試験の的含めて全部私のイリュージョン、ちょっとはリアルだったでしょ?」
「確かに本気で焦ったから…」
「まぁ、戦闘において大事なのは程よい緊張感だからな。いい経験だと思うよ」
 なんか俺以上にテンション高くなったシャイナさんに撫でられながら、俺自身の実力が付いたことを静かに認識した。
 グレース、俺もちょっとは成長できたんだよ…!

「さてと、今日は美味しい辛い麺類たっぷり食べよっか!クッキーも一応買って来るから…」
 俺も辛いのは好きなんだけど、シャイナさんはかなりの麺類好きらしい。
 今夜は俺もしっかり食べよっと…!


TURN10.60 助けてニャヒート!


「ヤバいな…」
 路地裏に一旦隠れてやり過ごすことはできたがまだ撒くにはきつそうだ。
 今回シャイナさんに指定されたターゲットだから逃げるわけにはいかないし、真正面から戦いに行くには取り巻きの数が多い。一体どう戦うか…
 それとヤバい不安材料がもう一つ、滅茶苦茶おしっこしたい…
 ターゲットを見つけて慌てて追いかけようとして、半分以上残ってたスポドリを一気に飲んだのがまずかったかもしれない。
 このまま我慢し続けて追跡するのは無理だし今更コンビニへ戻ってると見失うし、その辺はオレンの実の段ボール箱転がってるぐらいだしこの辺でしちゃうか…


 グレーチングに水音が響く。
 それこそ訓練を始める前なんかはたまに外でもしてたけど、我慢に我慢を重ねた解放感と、外のこの辺りが俺の縄張りになったかのような征服感がたまらない。
 しばらく出てるけど、気持ちいい…

 すっきりした解放感に浸りつつも、周囲の音に耳を澄ませる。ターゲットのたまり場はそう遠くない位置にあるらしい…
「あのぉ…」
「⁉」
 突然誰かに話しかけられた?周囲にポケモンいないのにいったい誰が?
「ここです、ここに…」
 足元の段ボールから声がした。しかもちょっと動いてる…?
「ミミッキュのリージョンフォルム?」
「違いますよぉ、一応フクスローって種族名あります…」
 ちょっと縁の濡れたオレンの実の段ボールを被っていたフクスローがぬるりと段ボール箱から出てきた…

「あなたにお願いしたいことがあって…」
「先に俺の質問に答えろ、いつからそこにいた?」
「僕ですか?えっと、あなたがここに来る10分前から…」
「…じゃあ、見たのか?」
「…うん、気持ちよさそうにしてましたね」
「ガン見してんじゃねーか⁉」
 こいつ、オレンの実の段ボール被ってるのってそういう理由で…
「推定名称オレン君、お前を殺す」
「殺さないで⁉後ろ向いたり離れようとして変に動いたら、君が怖くなって我慢してるのにおしっこできなかったら可哀想だから…」
 なるほど、俺に気を使ったのか…
「それなら情状酌量の余地はあるか、だが記憶すれば殺す」
「はい、墓まで持っていきます…」
「…それで、俺に頼みたいことって何だ?聞くだけ聞いてやるよ」

「…単刀直入に言います。僕を助けてください、ニャヒートさん!」


「…まどろっこしいよりいいけどあまりに単刀直入すぎる。もうちょい情報をくれ、オレン君」
「…そうですね、じゃあ三行で話します」
・この辺で幅を利かせているシャンエル(種族はフレフワン)に高額カードを奪われた
・取り返そうとしたけどナードな僕では真正面から戦っても勝てなかった
・さっきオトナに絡まれても余裕で返り討ちにして身ぐるみ剝いでた君に助けてほしい

「どう、ですか…?」
「…大体わかった、要は俺にそいつを倒してカードを取り返してくれと」
「それで合ってます…!」
 シャンエルとかいう奴はシャイナさんの指示にあった奴で間違いない。
 そもそも今回町に出てきた理由もシャイナさんからの特別訓練で、「リストに載っているポケモンを殺せ」という実践的な内容になっていた。
 今更誰かを殺すことに抵抗もないし、シャイナさん曰く所属組織に敵対する危険分子の御曹司とのことで殺す価値は十分にあるが、まさか倒すことを依頼される羽目になるなんて考えもしなかった。
 真正面からタイマンなら楽だが取り巻きが多いのも考えものだし、あまりこういうのを頼まれてボランティアでするってのも如何せん気乗りしないし…
 そうだ、ボランティア回避と敵戦力への対抗策も一手で解決する方法が目の前にあるな…!

「…そいつを倒してカードを取り返すのは構わないが、タダで引き受けるほど楽な作業じゃない。ちょっとささやかな報酬を二つもらおうか」
「二つって、お金とそのカードを…?」
「カードはお前の宝物なんだし大事にしろ、金はいらないし一つはシャンエルでいい。そいつは俺の獲物としてどう倒すかは全て俺に委ねて一切干渉しない、それでいいな?」
「それは全然構わないけど、もう一つは…?」
 不安そうなオレン君の顔を覗き込み、わざとらしくにっこりと微笑んで言った。
「ちょっと戦力が欲しくてな、カードを取り返すまでお前も俺と一緒に戦ってくれ」


「アイエエエ⁉」
 目が文字通り丸くなってる。そこまで驚くことじゃないだろ…
「お前も攻撃技ぐらいはあるだろ、だったら戦力になるだろ」
「そんな、僕が真正面から挑んでも勝てなかった相手に立ち向かったところで戦力にもなれませんって!」
「…そこなんだよな、参考までにお前の技構成どうなってる?」
「えっと、はっぱカッター、エアカッター、なきごえ、草の誓いで…」
「やっぱり、種族のイメージから想像はしてたけどお前真正面から戦うと弱いだろ?」
「確かにそうだけど、それをどうして…?」
「技構成に接触技がないどころか少し距離を取って戦うのに向いてる中遠距離攻撃ばかりだ。そりゃ真正面から挑めば懐に潜られて負けるのは目に見える」
 だからこそシャイナさんは遠距離攻撃の手段が少ない俺にヒートトリガーの射撃訓練をしたんだろう。説明してみると理論がよく分かってきたな…
「じゃあ僕はどうやって戦えば…」
「簡単な話だ。要は後方から援護射撃して敵を牽制したり削ってくれればそれでいい。射撃技なら3つもあるから行けるだろ?あと鳴き声の代わりに近距離技入れとけよ…」
「うん、それならできそうだけど、学校のバトルの授業じゃ真正面から戦わないのは卑怯だって…」
 学校のシステムはよく分からないけど、シャイナさんの戦術に比べたら絶対弱くされるポケモンが少なくないことぐらいは想像できる。
「今から俺たちが挑むのは学校の授業じゃなくて殺し合いだ、そこに卑怯なんて存在しない。得意な戦法が使えるならそれを迷わず使え、正々堂々なんて綺麗事に囚われて敵に殺されるぐらいなら卑怯の限りを尽くして勝利する奴の方が正しいに決まっている、何故ならば勝利という結果こそが全てにおいて優先されるからだ!」

 なんか丸くなったままの目が輝いている。
「すごいよ、君の考え方は学校の思想統制よりも正しいよ…!」
 …学校って洗脳所だったのか、今度グレース助けに行くのも手だな。
「…そうか、というか勝手に推定名称オレン君で呼んでたけど本名何なんだ?」
「えっと、僕の名前はシャルフって言います。まぁオレンは本当にナード扱いの蔑称ですけど…」
「…いい名前だな、名前二つ持ってるのもかっこいいと思うけどな」
 なんとなく呟いて、周辺の音に耳を澄ませる。大丈夫、敵はまだ動いていない。
「そう、かな。なんか二つとも褒めてくれたのは君が初めてだから分かんないや…」
 泣きながら君の名前なんだっけとか聞いてきた、そんなに泣くほどのことか…?
「…ルトガー、それが俺の名前だ」
「そっか、君も格好いい名前してるね。騎獣クルセイダーの主役できそうなぐらい…」
「…そうか、それより狙撃手の名を冠するならできるよな?」
「……できるって、何を?」
「お前の苦手な前衛は俺が引き受ける、シャルフは得意の射撃で俺を後方支援しろ。できるな?」
「……イエス、ユア・マジェスティ!」
 泣き濡れた目は鋭い光を取り戻していた。


「ぬわあああああん疲れたもおおおおおん」
「そりゃナードなオレンからカツアゲした帰りにサツに嗅ぎつけられて撒くの大変だったからな…」
「シャンエルさん夜中腹減んないすか?」
「確かに腹減ったなぁ」
「ですよねぇ」
「うーん」
「この辺にうまいホウエンラーメン屋の屋台来てるらしいっすよ、行きませんか?」
「ホウエンラーメン、固め濃いめ多めで食いたいな…」
「じゃあ今夜行きましょう!」


「敵はシャンエル含めて4匹、取り巻き全部グランブルとかあいつボンボンの癖に友達付き合い下手なのか…?」
「うわぁ、香りで誤魔化せない程薄汚れた野獣共と汚い突き合いしてるのが目に見えるよ…」
「?」
「…いや、今流行りのネットミーム並みに汚いなって」
「心配しなくても5分以内に汚物は消毒してやるよ」


「おいワレラー!お前さっき俺が体拭いてた時チラチラ見てただろ」
「いや、見てないですよ」
「嘘つけ絶対見てたぞ、なぁガチー、ホモダー?」
「シャンエルさんが言うなら見てたんだろ!」
「そうだよ」
「いや、本当に見てないから…」
「見たか見てないかで揉めるぐらいなら今後見れない状態になれば揉める必要もない」
「おっ、それいいな!って誰だお前?」
「…この状況なら裁判官兼執行官ってとこかな!」
 ワレラーとか言われたグランブルの困惑する両目に右の爪を突き刺しながら支点にして体を回転、シャンエルの方に飛翔しながら横をすり抜けて近くのドラム缶に置いてあったカードをそっと咥える。
「アッー、目が、目がああぁ!」
「シャルフ、受け取れ!」
 数種の間にパニックになった敵戦力を横目にカードをシャルフにパス、回転しながら羽根にしっかりと受け取られる。
「ありがとう!」
「おぉオレンか、あのガキを倒せ!今ならまた雑用係に戻してやる…!」
 両目を潰されパニックになっている面々がいる中でもシャンエルはシャルフに指示を出した。まさかこいつらグルか…?
「…嫌だよ、僕はもうお前らにこびへつらうだけのナードでいるのはごめんだ!」
「何だと?僕のパパが誰か知ってての台詞かオレン?」
「僕はオレンじゃない、シャルフだ!それに僕は僕に出来ることとそれを信じてくれる救世主を見つけたんだ、お前らみたいなガチホモに振るぼんじりなんてない!」
 事情はよく知らないがシャンエルの驚き様からして、相当覚悟ある言動なんだろう。
「シャルフ、そこまでできたらナード卒業だな!仕上げに散々可愛がってくれたカマホモピンク野郎共に餞別ぶち込んでやれ!」
「分かった、くらえ!」
 目を潰してない方のグランブルが一匹正気に戻って俺を狙って来たがこれどっちだ…?
 名前聞いても同種族じゃあ見分け付かねぇ…

 渾身の草の誓いが放たれる音がしたが音からして手応えはなかったらしい!
「所詮ナードではその程度か、きっちり再教育してやれ!ガチー!ホモダー!」
 俺との交戦中だった方も失明してもがいてる方を看病してた方も両方シャルフの方に向かった。
 結局どっちがどっちだ…?
「…僕は負けない!お前らに殺されても心だけは…!」
 1対3の劣勢で必死に叫ぶ声に俺の心も冷静さを取り戻す。草の誓いは外れたが、待てよ…?
「シャルフ、お前の見せたその勇気、無駄じゃなかったぜ!」
 ふり絞ったひとかけらの勇気に応えるように、そっと炎の誓いを足元に放った。



「何だ⁉周囲が突然火の海に⁉」
「誓い技ってのは二種類を組み合わせた時にを真価を発揮する技。草と炎で組み合わせると、フィールドは火の海と化す!」
 エアカッターと挟み撃ちの形になるようにニトロチャージを合わせて目の潰れていないグランブルを一匹倒す。
「クソっ、あのニャヒートを殺せ!シャルフを殺してでもいい!」
「おっと、下手に動けばそこのグランブル同様に焼け死ぬだけだぜ!」
 炎の中でダメージを受けずに自由に動けるのは俺だけ、そしてシャルフは炎や敵の射程外から一方的に攻撃可能。
 火の海のフィールドが完成した時点でほぼ勝負は決まっているが気は抜かない。
 火の海から出ようとした最後のグランブルははっぱカッターで首筋を切られて背後から鉄骨をへし折る一撃でで骨ごと砕き折る。
 目を潰したのも潰されてないのも火の海の中で踊るように悶えながら焼け死んでいるのを確認、あとはシャンエルだけ…!
「シャルフ、約束通りこいつは俺がもらう!」
 炎の中で螺旋を描くように接近しながらサイコキネシスを躱す。
「よくも、この放火魔め…!」
「多少腕は立つようだが、焼け死ぬ前に殺してやるよ」
「こうなったら、パパに買ってもらったテラスタルオーブで…!」
 同時に切り札を空に放り投げた、勝負は一瞬…!
「こちらシャルフ、目標を狙い撃つ!」
 背後からのはっぱカッターがテラスタルオーブを発動前に弾き飛ばした、ナイス…!
 ヒートトリガーを咥えてオーブを追いかけようとしたシャンエルの眉間に銃口を突きつけ、最適火力で発射した。

「シャイナさんの指令、達成完了…」



「ありがとう、これ良かったら一緒に食べよ?」
「カツサンドって言うのか、結構美味いな…」
 シャイナさんに指令達成と後始末の依頼をして諸々片づけた後、近くのコンビニで一息つく。
 お礼にカツサンドとかいう美味しいのを半分分けてもらってコーラを流し込む。
「悪いが俺はそろそろ行く」
「そうなの?もし良かったら連絡先とか交換しない?」
「…ごめん、気持ちだけ貰っとく。俺は風来坊みたいな身だから…」
 住所は俺もよく知らないし、少なくとも知ってても教えられない。
「そっか、君の強さを見たら訳ありでもおかしくないからね。深くは追及しないよ」
 納得してくれて助かったと内心安堵していると、シャルフは羽根の中に隠していたカードを取り出す。
「これ、良かったらお礼に受け取って…」
「イベルタルGX、これさっき言ってた高額カードなのにいいのか?」
「家にもう1枚あるから、折角なら友達の証にでも…」
「…ありがたく受け取っとく、頑張れよ、未来の狙撃手!」

 振り返ることなく走り出し、一周して尾行の確認をした後シャイナさんと合流した。


「よく頑張ったな。少し派手にやったみたいだがあれなら合格だよ、次はなるべく証拠を残さないようにやってみろ」
「はい!」
 今日はもう休めの声で部屋には俺だけの時間が来た。
 さっきまでの瞬間はグレースといた時とはまた違った煌めきを感じさせる。
「…」
 貰ったイベルタルGXはグレースとの写真と一緒に漫画の単行本に挟んでおいた。
 またいつか、会えるといいな…


TURN10.80 わが愛おしき悪の翼


「ナバール、そろそろ上級訓練に移行しよう」
 暗殺訓練を無事に終わらせてから一週間後、夕食の具沢山豆乳スープを飲んでいたシャイナさんがふと呟いた。
「上級訓練、ですか?」
「あぁ。この前の暗殺訓練も全く問題はなかったし、そろそろ私の仕事に関する知識を教えてやるには十分だろう。今のお前のレベルはどうなっている?」
「確か33でそろそろ34…」
「ちゃんと毎日鍛えてる証拠だな、開始は明日になるが今夜は準備の都合もあるので部屋で待っていてくれ」

 そう言われて現在ベッドの上で待機中。
 準備の都合、って一体何なんだろう…?


 静かにドアが開いてふわりといい香りがする。
「ナバール、これから特別な訓練をしようか…」
「シャイナ、さん…?」
「そう怖がらないで、大丈夫、しっかりリードしてあげるから…」
 ベッドの上に座り込んだシャイナさんからは普段感じる厳しさのようなものが消えてしまっていた。
「これから男の子の身体について、それと雌の身体の気持ち良さについて教えてあげるから…」
 優しく甘い吐息が俺の口ゼロ距離で吹き込まれていく…



 この一晩の特別訓練を経て、俺はガオガエンへの進化を遂げた。
 特別訓練は2回、進化前後で跨ぐ形にはなったけど思い出すだけでもちょっと照れくさいので、詳細については想像に任せる。
 もし入賞でもしようものならその時は俺も雄だ、覚悟決めて話すけど…



 起き上がると見慣れた天井が近くなっているのを見て昨夜の事実を再認識する。
 二足になっても案外動けるもので、ニャヒートの頃から疑似二足できてた恩恵はこんなところであったのかもしれない。
 ベッドから起き上がって体の状態を改めて確認する。
 視界が一晩で1メートル上がったことによる違和感はそこそこあるけど、それ以外は思いのほか影響なし。
 ポージングだって思いのままにできる。天破の構えもアテナエクスクラメーションも、ギャングスターに憧れるポージングも、初代騎獣クルセイダーの変身ポーズだって…
「進化した体にはそろそろ慣れたか?」
 心なしか毛並みが綺麗になってるシャイナさんに言われて慌てて体勢を戻す。
「思いのほかしっくり来たよ、なんか不思議なぐらい…」
「なら良かった、朝食を食べて体の動かし方だけ確認したら少しでかけるぞ」
「了解!」
 普段なら颯爽と行ってしまうシャイナさんが今日はまだ俺の部屋にいる。何かあったのか…?
「それと昨日は少々強引ですまなかった、もし気にするならあれは訓練と捉えて純潔はお前を愛してくれる雌のために置いても構わないからな…」
「…いえ、特別訓練ありがとうございました………」
 なんか頬を染めている。さらにシャイナさんの言動が分からなくなる…
「そうだ、立っておしっこできるか練習してみるといい、失敗しても掃除はするし何だったら特別訓練だって…」
「…そこはわざわざ触れなくていいから!」
 気恥ずかしくて叫んだが直後に不安になって、必要なら俺から頼みますとは付け足しておいた。

 …朝食前に試してみたけど特に問題はなかった。



「近くにあったビルにこんな地下施設があったなんて…」
「そりゃ表向きに見える必要がないからな…」
 近くの高級テナントビルに連れられて、防火扉の奥に合った隠し階段から下に降りていく。
「これから会う方は私の師も同然の方だ。上級訓練では色々お世話になることも多いだろうから粗相のないようにな」
「り、了解!」
 シャイナさんの師匠、いったいどんなポケモンなんだろう…?

「組長、新星をお連れしました」
 畳敷の座敷に連れられてみると、両側には悪タイプのポケモンがずらりと並び、上座には簾で隠されたポケモンが座っている。
「さぁ、組長に挨拶するんだ」
 シャイナさんは後ろで止まってそっと俺の背中を押す、どうやら俺一匹で会えということらしい。
 懐疑の目線でできた見えないバリケードを通り抜けて簾の前に正座する。
「初めまして組長様、ナバールと申します」
 座敷の空気が突然凍り付いた。
「ナバールだと⁉」
 俺のコードネームに驚く周囲の中でゆっくりと簾が上がり、初老に見えるサザンドラが姿を現した。
「ナバールとか言ったな、お主に問おう。お主にとっての悪とは何だ?」
「誇りの肩書き。それぞれの正義が交錯する時代に敢えて悪の名を冠して目の前の敵を打ち倒し守るべきものを守り抜く、それが俺の憧れであり目指すべき誇りの肩書きである悪です」
「………お主、歳はいくつだ?」
「今年で、十五になります」
「そうか、十五年前の種も再び実を結びこの世界に戻ってきたのか…」
 静寂の中でどこかサザンドラの声が明るくなったのを感じた。

「ナバールよ、我が名は新生月下団玉桂組が組長、名をサントロンと言う。お前は気軽にナタクと呼んで構わない」
「ありがとうございます、ナタクさん」
「皆の者よく聞け!この少年は偽りなき未来の英雄、ナバールの名をコードネームにしている理由も得心がいった。彼を玉桂組の若頭として迎え入れる!素性と実力は保証しよう」
 驚愕の静寂の後、座敷は拍手に包まれた。
 全体像は掴めていないが月下団に関わりがあるだけのことはあって、相当大きな組織らしい。
「シャイナよ、ナバールの上級訓練は入念に頼むぞ。戦闘訓練については直々に戦いというものを教えてやろう」
「はい、ありがとうございます!」
 シャイナさんの師匠ということもあって、敬語で答えてるな…
「ナバールよ、身の上の話は理解している。ナバールを育てた身として全てを教えてやるつもりだが、怖がらせることはないようにするから安心せぃ」
「は、はい、ありがとうございます…」
「よし、いい目だ…」
 少しだけ俺に微笑んでみせたナタクさんは簾を降ろして戻って行った。

 玉桂組若頭に組長直々の戦闘指導、先は読めなくなる一方だけど俺は強くなって見せる…!



 あれから三年近く経ち、上級訓練も昨日ついにすべてが終わった。
 特殊ナイフヒートジョーカーを用いた戦闘訓練やアルプトラオムフランメの紅蓮錦を用いた機動戦訓練、ナタクさん直伝の戦略や戦術を理解した上での個人戦や指揮戦訓練、その他指を使えるようになったことによる潜入用技術の訓練…
「いいか、戦略において最も最強とされるのが足場崩しだ。フィールド効果を最も有効活用するのがフィールド全体への攻撃であり、地面の敵を一掃した後は航空戦力を薙ぎ払うだけで倒せるからな」
「ナタクさん、フィールド効果の火の海とかは…?」
「…それも足場崩しの一種と言えるな。フィールド効果で自分側を有利に進めることのできる戦略は全て足場崩しと考えて良いだろう。炎の誓いを基準に考えるなら草の誓いで火の海、水の誓いと合わせれば追加効果発動率倍化の虹だからな…」
 こんな話をしながらも確かに実力は付いてきていた。
 俺が覚えている技も4つから2乗の16になり、単純計算で4匹分の手数を持つことができるようになった。
 肉弾戦用の技を「近接格闘術」で総称することで技のスペースを削減できたのが大きかったのだが、俺的には思い出のある炎の誓いを忘れずに済んだのが大きい…
 伸び悩んでいた耐久力も平均個体程度には成長して、長期戦は苦手なまでもちょっとした被弾でも影響を受けない継戦能力は確保できるようになった。
 そして少し高い物理火力に加えて、速度が同族と比較して倍速というシャイナさんも首をかしげる突然変異に近い速さを獲得した。
 これについては体力維持の観点や、単純な火力や速さだけで押し切るには心許ないため、普段は60程度に抑えつつ攻撃の瞬間的な加速や緊急回避などの切り札として120の本来の速さを開放するスタイルを調整済み。
 押し切れなくても遅れを取らないことが戦闘においては大事であり、多彩な技や急所率を活かすスタイルにはこれが丁度いいらしい…

 そんな感じの講義的な側面を持った上級訓練も終わり、今日は俺自身で日課のトレーニングメニューをこなしていく。
 今までトレーニングも付きっきりだっただけに俺だけでも問題ないにせよなんか新鮮…
 トレーニングを終えて自室に戻った後、密かな楽しみだった本棚の漫画を読み進める。
 終わりのないのが『終わり』、なんか深いな…
 鎮魂歌の余韻に浸りながら単行本を本棚に戻そうとした時、背表紙とカバーの間から写真が一枚床に滑り落ちた。
 若いガオガエンとゾロアークのツーショット写真、シャイナさんは間違いないとして、鏡に写った俺にもどこか似てる気はするけどこんな写真撮った覚えがない。
「裏になんか書いてる、【AW201.12/24.ナバールと自室で マリン】…」
 マリン、シャイナさんの本名か何かだろうか?
 ナバールといい月下団といい点と点が繋がりそうな感覚はある、写真を渡すついでにシャイナさんに聞いてみるか…


「そうか、写真は漫画に挟んで…」
 写真を渡すとシャイナさんは懐かしそうな表情でそっと裏面を撫でていた。
「ナバール、これからの動きを説明する中でお前に写真のことを話しておく。」
 写真を写真立てに飾った後で、シャイナさんは俺に大きめの携帯電話を渡した。
 画面を開くと、7月26日12時34分の表記と共にユーザーズガイドを兼ねた壁紙が開かれる。
「アンブレオン社製の携帯電話?スマホよりは機能性高いみたいだけど…」
「UBサーチャーやジャミングモードに紅蓮錦の遠隔操作機能、その他諸々付いてるからな」
「まるで騎獣クルセイダーのツールだな。ってことはもしかしてニッチな…⁉」
「残念ながら変身機能はない、返信機能はあるから元気出して…」

「もとい、明日からナバールにはこの世界を守るためにUBと戦って奴らを倒してもらう」
「…了解」
「…いきなり言われても困惑するのも無理はない。経緯を簡単に話すと、大体予想は付いてるだろうが私の本名はマリンであり、かつてナバール率いる月下団でUBから世界を守り抜くために戦った…」
 色々興味深いエピソードを話してくれたが、ラストに要点だけ再度話してくれたので書いてみると、
・黒幕であるゼルネアスの死後、月下団は解散したが202年のタマムシシティの件でUBがこの世界に再度出現を確認
・ナバールが命と引き換えに撃退するも、未知のUBやさらなる危険の予兆を感じ、かつての月下団メンバーが再集結して情報収集や戦力の拡充を行う
・その中で偶然育成プログラムに適合する資質を持っていた俺を発見、対UBの戦闘要員として育成する

「なるほど、それで俺を育ててくれたのか…」
「それもあるが、何より私がかつて我が子と生き別れになってしまった後悔からお前を見捨てられなかったのかもしれない、もし生きていればお前と同じぐらいの年だっただろうという思いで決めてしまったが、10年間私の我儘に付き合わせてしまったことを許してくれ、ナバール…」
 今まででも一番悲しそうな声で謝られた、家族ってそんなにいいものなのか…?
「少なくとも俺はあの時シャイナさんに拾ってもらえたからこうして生きてられるんだ、むしろ見ず知らずの俺をここまで育ててくれてありがとう…」
「ナバール…」
「それに、シャイナさんの子ならきっと強いゾロアークになってるだろうからもしかしたらどこかで出会えるかもしれないって…!」
 タマゴからは基本雌の種族が孵るって聞いたし、この場合はぞロアかゾロアークのはずだ…!

「…今夜は例の座敷でお前の門出を祝う宴の席が開かれる予定だ、よく楽しむといい」
 シャイナさんはよく分からないテンションで出ていった、一体何があったんだろう…?



「これより我が玉桂組の若頭、ナバールの門出を祝って、乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」」」」
 一番下座でありながら若頭待遇というのも少しくすぐったさは感じるが、三年前とは違ってみんなが俺を拒まないどころか暖かく迎え入れてくれる。
 今までこんな場所はどこにもなかった。そうか、ここが俺の居場所なんだ…!
 丁度俺の盃にも酒を注がれた。これを飲めば俺も正式に…!
「アアアアアアアアゴミカスゥー!!シネェェェェェッー!!」
「⁉」
 咄嗟に畳を返して壁を作ったが、突然の爆音で座敷の扉が吹き飛んだ⁉
「コマクブチヤブレロォーーーーッ!!」
 乱入して来た罵声の主は、ニンフィアだと…⁉
 状況が呑み込めないが、攻撃仕掛けて来たってことは、少なくとも俺の敵だ…!
「お前なぁ、ちょっと下品なんだよ!」
 手に持っていた盃をフリスビーの要領で投擲、高速回転しながら喚き散らす音源の首を斬り飛ばして床に転がった。

 盃とニンフィアの頭を拾い上げてみたが、まだ外から敵の気配というか殺気がする。遠距離範囲攻撃が飛んでくる気配は今のところないが…
「気を付けろ、こいつ以外にも敵がいるぞ…!」
 今の襲撃で犠牲者も数名出ている。一体どこのどいつだ…?
「若頭として命じる、総員直ちに退避!戦闘態勢に入りつつ傷病者やナタクさんの護衛に回れ!」
 俺の背後に組員を回すような陣形を取りつつ敵の情報収集を開始する。
 敵の情報は死体になったニンフィアのみ、普通に考えればこれは陽動用の自爆特攻だろうが、自爆じゃなくてスキンハイボだったあたり前衛で殲滅させるのが目的だったか…?
 頭が混乱する。掴んでいた頭部から流れている血を盃に注いで一気に飲み干してようやく冷静さが戻った気がする。こういう時吸血ってドレイン技は乱戦向きで扱いやすい。

 殺気に集中して気を配っていると、蹴破られた扉からパステルカラーなポケモンがぞろぞろと入ってきた。何だこいつら…
「よく聞け劣等種よ!」
 街中で幸せか聞いて来そうなサーナイトが偉そうなこと言い出したな…
「我らは秘密組織テスティモーネ・ファータの副長スタント、カイナシティに本拠地を構える救済組織である!」
 名前聞いたこともないが、フェアリー統一の武装集団ってとこか…?
「ゼルネアス様を信じない月下団のなれの果てを今日は洗礼しに来てやったはずだが、宣教師はどこに行った…?」
 要はこいつらが強襲かけてきやがったってことかよ…!

「…あぁ、なるほど。目覚まし時計が鳴りやまなくて困ることってよくあるよな」
 怒りを必死に抑えながらニンフィアの頭部を蹴り飛ばして奴らの足元に転がす。
「やかましさにお困りだったようなので回路切って止めといたぜ。でもこういうのは今度から時計屋にでも持って行くんだな」
「馬鹿な、組織一の宣教師をここまで残虐に殺すなんて…」
 今更驚かれても、声しない時点で普通気づくだろ…

「もはや手段は選ばない、皆の者、どんな手を使っても断罪してやれ!」
「その一言が聞きたかったぜ、【殺してください】の一言をよ!」
 組員に退避指示を出した以上俺にできることは一つだけ、玉桂組のみんなを守るための最善手、敵を殺して殺して殺しまくって全部死体に変えてやる…!


 先陣を切って飛んできたフラージェスを燃える手で掴んで燃やしながら振り回し、数匹まとめて焼き払いながらムーンフォースをとんぼ返りで回避。
 手の中で消し炭になっていたので、雷パンチの要領で炭に帯電させて槍の様に投げつけてトゲキッスを撃ち落とす。
 難易度の違いはあれど、この程度シャイナさんの初級訓練に比べたら訓練にすらならない。
「次死にたい奴前に出ろ!」
 敵は20かそこら、組員と交戦してるのもいるが幸か不幸か互角程度らしい。
「そう遠慮するなっての、早い方があんま苦しまずに楽に逝けるぜ?」
 戦意が薄れつつある敵に挑発しながらホルスターからヒートジョーカーを抜き放つ。
 俺のいる場所を狙ったドレインキッスを瞬間的な加速で躱しつつ、殴りつけたりラリアットをするような感覚で打撃と斬撃を同時に放ってまとめて攻撃していく。
 クチートは背後の口の接合点をヒートジョーカーで溶断してから頭部を兜割りに裂き、マシェードも傘を蹴り上げてバランスを崩した瞬間に顔を突き刺して抉り取る。
「しかし、俺たちのことはどうやってバレた…?」
 どこかで見たようなフレフワンを十字に切り捨てながらそれを蹴ってとんぼ返りで宙を舞い戦局を確認する。
 まさかとは思うが玉桂組の中に裏切り者が…?

「その金目のナイフだけ遺して死んでけやコラァ!」
 なまっちょろいハンマーを目視で躱しつつ、推理を組み立てていく。
 フェアリー統一の組織に内通できる奴がいるとすれば、そいつは間違いなく奴しかいない…!
「金属渡して死にさらせボケがァ!」
 さっさと裏切り者を始末したいが、この金属泥棒サンドイッチのきゅうり並に邪魔くさいな…

「流石に金属には目がないらしいな、レア金属は欲しいかい金属泥棒くん?」
「ほんならさっさと寄越さんかいボケ!」
「まぁ落ち着けって。デカヌチャンなんてゼルネアスに次いで第2位なんだし、同素材のもっと加工しやすいのやるよ?」
「だったらそれも含めて全部寄越して死ねやクソカス!」
「はいはい、今すぐプレゼントするから…」
 フェアリータイプが似合わない言動のアホ面にゆっくりと穴が開き、ねじれるように醜い顔が潰れていく。
「…ただし、【見るだけで殺したくなるフェアリータイプランキング】の第2位って俺言わなかったっけ?」
 ヒートトリガーもガオガエンに進化してからは装弾数も6発のリボルバーに強化されている。
 それも一番痛みに苦しむ火力で撃ち込んでやった、ざまぁないぜ…!


 ハンマーの柄を切り取って射殺したばかりの死体を突き刺して即席の棍棒に作り変える。
「そういや棍棒型の武器もハンマーって言うけどお前何か違いとか知ってるか?」
 折角ハンマーにしてあげたのに返事もない。やっぱこいつら最低な種族だ。
 押されている組員と戦闘中のエルフーンを背後から身代わりを気にせず薙ぐように殴り飛ばし、上空をややパニック状態で飛び回るクレッフィはジャンプして叩き落す。
 いつの間にか棍棒の棘部分が抜け落ちていた。死体すら使えない事実に呆れつつ、柄を投げつけて死体に墓標代わりに突き刺しておく。
「そんな、なんで記録にないようなガオガエン一匹相手に我がテスティモーネ・ファータは手も足も出ないまま…」
 あのスタントってサーナイトはどさくさに紛れて俺を狙ってはきたが正直相手にもならない。
 このまま仕留めてやr…⁉

 突然背後から全身を縛り上げられた。これは、髪か…?
「油断したな若頭、俺のトゥトゥヘァーからは誰も逃れられない!」
「おぉ、参謀長のザスランか…!」
 締め上げられていく首を動かして敵を補足すると、上座近くに座っていたオーロンゲだった。
「裏切り者はいると思ったが、お前が内通者か…」
「当たり前だ、この、馬鹿野郎!」
 髪を束ねて腹部を殴られる。続けてムーンフォースも被弾した。
 ヒートジョーカーもヒートトリガーも手足を縛られて現状使用不可、今は致命傷を裂けてるけどこのままじゃ殺される…!
 ブラフォードもラブデラックスも、対処法はあったけどこの状況じゃ活かせない。
 待てよ、逆に考える方法で行けば…
「そうか、俺の体質そのまま使えば行けるじゃねぇか!」
 フレアドライブの要領で全身に炎を纏い、拘束していた髪を焼き切り、ついでに髪が導火線の役割を果たしてオーロンゲも火だるまに変わった。
「俺もかつては毛玉を火種にした種族、髪を燃やすなんて造作もなかったんだよなぁ!」
「毛焼けるんだッ⁉」
 火種になっているオーロンゲにローリングソバットを決めつつ、サーナイトの胸にヒートトリガーを撃ち込む。
「お前らみたいなのがいるから、イベルタルは今も地獄で泣いているんだ!」
 道連れを狙うような炎の髪をヒートジョーカーで切り裂き、裁断し、オーロンゲをダルマに変えていく。
「あんたみたいな奴は俺が殺してやるんだ、今日ここで!」
 巻きつこうとする髪より早くヒートジョーカーを急所に突き刺した。
 燃える髪は地面に落ちてそのまま焼け焦げていった。

「よもやこれまでか…」
 副長のサーナイトが構えた石をヒートトリガーで手ごと撃ち砕き、ついでに頭部に残弾を全て撃ち込む。
 薬莢をシリンダーから排出して頬の毛に隠した弾薬を再装填して構えた数秒の隙に、メガシンカを阻止されたサーナイトは顔面にシミュラクラ現象が発生するちぐはぐな死体に変わっていった。
「あと数匹、一気に倒しきる…!」
「総員よく聞け!」
 いつの間にかラスターカノンでバリヤードをバリアごと貫いていたナタクさんが叫んだ。
「これが最後の組長命令だ、総員、何としてもナバールをここから生きて逃がせ!」


「待ってよ、こんな劣勢でもないのにいきなりそんな…」
「「「「「「「「「「「「「「「承知!!」」」」」」」」」」」」」」」
 俺の指示よりも優先される組長命令に抗うすべはない。だとしてもどうして急に…

「…敵の増援が近い。このまま全員防戦を続けるよりも、未来あるお前が生き延びてさえいれば世界はまだ戦える」
「そんな…」
 温かくも無情すぎる一言。従うしかないとしても、折角、折角見つけた居場所がなくなっちまうのかよ…!
 それも俺のせいで、みんなが犠牲に…

「行け!外でシャイナがお前の脱出準備を整えている!」
「………了解!」
 全ての思いを振り切るように叫び、ヒートジョーカーを構えながら扉に向かって走った。


 階段を駆け上がると、シャイナさんは紅蓮錦にアタッシュケースを積み込む作業をしていた。
「シャイナさん!」
「話は聞いているだろうがここから逃げろ、紅蓮錦も熱線焼却機構の応急処置は終えているしアタッシュケースにヒートトリガーとヒートジョーカー用のツールも用意してある。そして試験兵装にはなるが、ヒートトリガーと合体させて射撃する決戦兵器のバスターカートリッジも用意してある…」
「何言ってんだよ、シャイナさんも一緒に逃げよう!シャイナさんにだって子供がいるなら、生きて会ってあげなきゃその子が可哀想だろ!」
 思わず胸倉を掴んで叫んでいたが、シャイナさんの子供だって虐待しない優しい実の母親が生きているなら会いたいはずだ…
「…本当に優しい仔に育ったな、できれば戦いに巻き込みたくはなかったが餞別ぐらい渡そう…」
 今にも泣きそうな表情で俺にリストバンドを渡してくる。
 右腕の傷痕の話をしたら考えておくとは言ってたけど、まさかこんなタイミングで渡されるなんて…
「餞別に私の得意技を授ける、よく見ておけ!」
 中腰の構えから全力疾走、そのまま宙返りで体勢を調整し増援らしいグランブルに右足で強烈な跳び蹴りを叩き込んだ。

「これを原型に自分の色で染めてみろ、お前になら使いこなせるはずだ」
「はい!」
 あの跳び蹴りなら俺にも使いこなせそう、頭の中で色々試作しようと考えていると、周囲に殺気が立ち込める。
「とうとう増援襲来か、煮え切らない思いもあるだろうがせめて敵の組織構成のデータは掴んである。首領さえ落とせば…」
 渡されたデータにはフェアリータイプのポケモンの名前がずらりと並んでいた。こいつらを全部倒せば、今ならまだ間に合うかも…!

「ありがとう、だったら俺は全員殺してみんなを救ってみせる…!」
「今は無茶をするな…!」
 背中に感じる熱に呼応するように叫ぶとシャイナさんに制止されたが、この場に姿を現した「それ」を見て言葉が止まった。

「また、俺を助けに来てくれたのか…?」
「……♪」
 あの日のおもちゃの様なイベルタルが、10年ぶりに俺の前に姿を現していた。
「…そうか、ならば敵を殺して突破口を切り開け!」
「…………!」
 イベルタルが飛翔すると共に弾丸状の悪の波導を乱射、テスティモーネ・ファータの構成員を次々に射殺していく。

「背中の跡、そうか、やはりお前と出会えたのは運命だったか…」
 何かを納得した表情でシャイナさんは全身に手榴弾を巻き付けていく。
「ナバール!イベルタルを信じて戦え!その先でまた会おう!」
「シャイナさん!死なないで…!」
 必死の叫びは届かず、構成員や周囲の建物を巻き込んだ大爆発が起こった。


 無心で紅蓮錦をカイナシティに向かって走らせる。
 リストに載っているポケモンは大体目星がついた。
 敵がどれだけいようと、首長が誰でどこにいようが関係ない。
「俺のすべてを奪った連中だ、町中から炙り出してフェアリータイプ皆殺しにしてでも確実に見つけて殺してやる!」





「………助けて」
 寝言にしてはあまり穏やかじゃないのは無意識の危機感なのか、それともただの偶然か。
 そもそもカイナシティに修学旅行とかで来ていたこと自体が出来過ぎた偶然だったのか…
 いずれにせよ十年ぶりの再会は俺だけにせよ、燃え上がり荒れる俺の心に少しだけ冷静さを取り戻してくれた。
「怖いよ………」
 再びの寝言の後、苦しそうな表情が少しほころんで、青い下半身が琥珀色の水流に濡れていく。
 綺麗に進化してもこの辺は変わらないらしい。

 待ってろ、約束通り安全な場所に助け出してやるからな…




 目を開けると知らない天井が広がっていた。
 携帯電話の日付は7月28日の朝。違和感だらけのあれは夢か…?
 漫画こそ綺麗に引っ越しされているが誰もいないアパートの部屋。シャイナさんが手配してくれていた…
「7月27日、俺何してたっけ…?」
 冷蔵庫に入っていたオレンジュースのボトルを乱暴に開けて一気に半分飲み干しテレビを点ける。
 襲撃を受けて先陣を撃退した後、俺だけが脱出する羽目になって、そこから先が思い出せない。
 奇妙な夢もシーツが濡れてないあたり夢とも考えにくくて…
「⁉」

 チャンネルを変えてもどこもカイナシティが壊滅したとのニュースばかりを繰り返している。 
 何も思い出せないが少しだけ嫌な予感がしてアタッシュケースを開くと、バスターカートリッジも一発発射済みになっていて、シャイナさんがくれたリストも乱暴に種族名が爪で丸を付けてある。
 血の気が失せるような倦怠感に耐え切れず、飲んだばかりのオレンジュースを流しに吐き戻してしまったが、今は胃酸の苦しさよりも情報が欲しい。

 あんな夢みたいな出来事に不安を感じて疲れた体をフル稼働させてる俺だ、テレビなんてこの際あてにならない。携帯電話を開いて検索をかけると「フェアリータイプのポケモンが全滅」やら「この件でヌチャン系列が絶滅」とか色々出てきたがそんなのどうでもいい。
 すがるような思いでアンブレオン社直営のニュース中継を開くと、【フェアリータイプ唯一の生存者確認!】の見出しと共に、困惑した表情のアシレーヌがカフェラテを飲みながらインタビューに答えていた。

「修学旅行でカイナシティに来てたはずなんですが、何故か私だけ気付いたら公園で眠ってたみたいで、それで戦火を免れたみたいなんです…」
 きょとんとする様子と透き通った声は間違いない。グレースは何故かあの場所にいたが無事だった。
 そういえば種族名に印を付けていたリストにもアシレーヌの種族名は存在しなかった。
 抗争については両者組長の死亡により全滅、なお一部玉桂組の組員は失踪とのことらしい。


「…」
 どうすることもできなかったものばかりだが、どうにか夢を守る約束は果たせたな…
 あの助け出した感覚は夢じゃなかった、そしてあの水流だって本当にあった出来事だった…

 無気力状態の体が限界を訴えているのを感じ、ベッドで倒れるように半日眠った…
 そして、目を覚ましてからしばらくして、グレースの無事と俺の腕の中で恐怖失禁していたことを思い出し、狂いかけた理性を噛み殺した本能に任せて、抜いた……


TURN10.9503 蘇る蒼剣


「子供たちはちゃんと家の奥に避難したか?」
「うん、騎獣クルセイダーのVシネマのDVD上映会という名目でポップコーンとピーナッツ出しといたから…」
「それなら二時間は持ちそうだな」
 三匹の子持ちになってもレガータは優しいところは健在だし綺麗さも変わらない。僕の方は40が近くなって少し体力落ちてきた気もしないでもないけど…
 久々の夫婦だけの時間に少し笑い合っていると、携帯電話が奇妙な着信音を鳴らす。回転スライドで開くとUB反応がこの近くに数体。
「しかもアローラにも出たみたいだね…」
 レガータもサーチャーをパソコンで開いて確認しているが、どうやら間違いないらしい。

「せめてこの近辺の平和ぐらい守らせてほしい。いいよな、レガータ?」
「うん、私から守ってとまたお願いしなきゃね…!」
 微笑み合って首から下げていたネックレスに付けていたカギを本棚の両端に隠してあった鍵穴に同時に差し込んで回す。
 本棚が動いて隠し扉が開き、小さな格納庫へと入っていく。

「アロンダイト・エアタービュラー、本当に使う時が来るとは…」
 この前の誕生日になんだかんだ一番交流があるバースから誕生日プレゼントとしてケーキと一緒に送られてきた。
 当時は使わないだろうと思って一度試運転して以来ずっと新築で作った格納庫に隠しておいたが、再びUBと戦うことになった今、使えるものは全て使って守り抜いてみせる。
 もう誰も、失わないためにも。

 アルプトラオムフランメはマルジャーリのおかげで医療機器としても洗練された影響で脳波操作もインカムで可能になった。
 白兜の中に隠した耳に装着して発進準備を整える。
「コバルト、あんまり無茶しないでね」
「気を付ける、準備のアシストありがとうレガータ」

 高窓から覗く月明かりに照らされながら舞い落ちるUSB型の起動キーを掴んで挿入、一気にシステムが起動していく。
「システムオールグリーン、進路クリア。アロンダイト・エアタービュラー、発進!」
「発進!」


 四足状態のタイヤで加速しながら急発進、スピードがついてきた辺りで前輪を後輪に合体させてアシガタナを抜き放ち、攻撃に種族値ステータスを振りつつ高速移動するフェローチェよりも早く移動してアシガタナでぶつ斬りにした。
「この世界をお前たちUBの好きにはさせない!」
 ワイヤークローでウツロイドを撃墜しつつ、ホタチをブーメラン状に投擲してアシガタナをフェイントに振りぬきつつ、ホタチがマッシブーンの足を裂いた瞬間に返すアシガタナで一閃する。
 デンジュモクの電撃は種族値ステータスを素早さと特防に振りつつアシガタナとアーマーを黒く変え、回転しながら攻撃をすり抜けて首と胴体をまとめて切り裂いた。
「コバルト、近くのテッカグヤが市街地を狙ってる…!」
「了解、すぐ倒す!」
 レガータのアシストを聞いてフロートシステムを作動、地面を滑走するスピードで空中を浮遊しながら道中のカミツルギを斬り捨て現場に急行する。
「奴のビームを躱せば町に被害が出る、だったら…!」

 四足モードにアロンダイトを戻してトリガーを作動、腹部から砲身が露出してテッカグヤを狙う。

「コバルト君は、ミライドンというポケモンを知ってるかな?」
「確か、バイオレットの書に載ってる未来ポケモンの一匹でしたっけ?」
「よく知ってるね、そのポケモンのハドロンシステムを開発に成功したからアロンダイトの動力部に使ってみたよ」
「はぁ…」
「おかげでフロート機構と腹部にハドロンキャノンを作れたから、良かったら使ってみてね!」

 相変わらず好奇心の塊みたいなバースさんの試作武器、使ってみるか…!

「ハドロンキャノン、発射!」
 テッカグヤのソーラービームとハドロンキャノンがぶつかり合い、少し拮抗した後、テッカグヤを打ち破った。
「これで終わりだ…!」
 種族値ステータスを攻撃と素早さに移行してアシガタナを構え、アロンダイトを二足モードににしてワイヤークローとフロートを活かして一気に上昇、テッカグヤをクロスするように切り裂いた。

「コバルトストライク!」



「お疲れ様、UBは全部倒せたよ」
「了解、レガータこそアシストありがとう」
 無事にUBを殲滅、戦力にならない警察の部隊が来る前に片付いたならそれでいい。
「それと、家出娘ちゃんは歌手目指して頑張ってるみたいよ」
「…グレースか。元気ならいいんだが…」
「ほら、カラオケで自己ベスト更新だって」
 グレースが見せてくれたスマホの画面には、95点を超えたカラオケの採点結果が映っている。
 見たところ、アローラのショッピングモールに入ってる店か…
「ん?このベゼルに何か反射して…」
 画面の枠、ベゼル部分に赤いものが反射していて、それを最大まで拡大するとギリギリポケモンの姿に見えなくもなかった。
「これって、まさかナバール…?」
 かつて月下団を率いてゼルネアスを倒し、騎獣クルセイダーとして子供たちの希望になり、タマムシシティでもタマゴを守ってその命を失った英雄にして最大の友達…
 彼の死をもって種族自体が滅んだとも言われていたはずだが、見間違いじゃなければ反射しているポケモンはガオガエンであり、ナバールとしか思えない…

「…レガータ、僕はこれからアローラ地方に向かう」
「急にどうしたの?」
「この写真、絶滅したはずのガオガエンの姿があってそれもナバールによく似ている。グレースが何かに巻き込まれているとしたら急いで助けに行かなきゃ」
 拡大した写真を見て、レガータも静かに頷いた。
「分かった、シアンとアズーロは任せて」
「ありがとう、荷造りしたらすぐに出発するよ」
 レガータをそっと抱きしめて、ボストンバッグを取り出した。
 子供たちにも上手い言い訳とお土産考えとくとして、一抹、二抹の希望を抱きつつも最悪の想定をしつつ準備を進めた…



 to be continued…


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