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【注意!】 最後の方は、食事中の方や、そういうシーンが嫌な方は読まないほうがいいかも……
誰が言いだしたのかチーム「MBA」という集まりがある。経営学修士(Master of Business Administration)ではない。
マグマラシ、ベイリーフ、アリゲイツの仲良し三人組をまとめてそう言う。好奇心の赴くまま、東へ西へ。依頼があるなら受け付けます。断る場合もあるけど。
「MBA」なんて言うと、なんか頭のよさそうな知性派の集まりのような感じもするが、実際に頭がいいのはベイリーフだけで、他のお二方はまあ……。考えるよりもまず行動というタイプだった。はっきり言って、ベイリーフという止め役がいるから、このチームが無茶苦茶なことをしないでいるも同然だった。
ある時、アリゲイツが「せっかくだから、チームの掟みたいなものを作ろうぜ」などと言い出して、掟なるものが作られたが、結局のところ、守られているのかいないのか、作っただけで、満足してしまい、ほとんど有名無実化している。
それも「考えるよりもまず行動」「先手必勝。突撃あるのみ」「やられたらやり返せ!」「右の頬をぶたれたら、左の頬をブチ返せ!」「ラフプレーにはラフファイトで応戦!」というもので、最初の一つ目はまともだが、全体としては要は「やられたらやり返せ」ということになってしまった。
「だって、やられてもやり返さないなんて、男が廃るだろ」
「まあ、そりゃそうかもしれないけど、ま、いっか」
ベイリーフは難色を示したものの、反対はしなかった。どうせ作っただけで満足して「それはそれ、これはこれ」と言い出して、すぐに有名無実化することが予測できたからだ、実際そうなった。
ある日のこと、以来のお礼として約束されていた報酬に加えて、木箱をもらったことがあった。
「何それ?」
「何か知らないけど、もらった。木の箱」
「あー、これは寄木細工だね。良いものもらったね」
ベイリーフがいなかったら、模様が描かれた小綺麗な木製の小箱ということで終わってしまったかもしれない。
「箱に線が入っているでしょ? ここ、スライドするようになっているんだ。特定の箇所をスライドさせると、箱が開くようになっているわけでね」
「もしかして、中にお宝が?」
「そりゃ、開けてみないと分からないけど……」
ベイリーフがこう言ったのが良くなかったのか、アリゲイツが挑戦してみたものの、寄木細工を開けることはできなかった。しまいには
「くっそー、こんなもの寄越しやがって! イヤガラセのつもりかよ、チクショー!」
と、箱を床に叩きつけてキレ出す有様。
「失礼だよ、そんなこと言っちゃ。寄木細工って高いんだから!」
「え、そうなのか?」
高級品だと知って、その点は気に入ったのか、箱に当たり散らしはしなくなった。そのやり取りを見ていたマグマラシは
「よし、すぐに開けるいーい方法を思いついたぞ。ちょっと待っててくれ」
といって、どこかへ行ってしまった。
(え……? なんかヤな予感)
マグマラシとしては「グッドアイディア」のつもりなのかもしれないが、ベイリーフからすると「ロクでもないアイディア」であることがほとんどだった。どうせまたロクでもないことを思いついたに違いない、そう思っていると、マグマラシが帰ってきた。
「おまたせ!」
どこからか、のこぎりを持ってきたマグマラシ。そしてこんなことを言い出す。
「面倒だから、これで切っちゃお?」
「おおー、ナイスアイディア!」
「ダメだっつうの! 何、考えてるの! もういいよ、ボクが開けるから」
ベイリーフは寄木細工を取り上げ、ツルを使って、器用に試行錯誤を繰り返す。別名「秘密箱」といわれているだけあって、そう簡単に開くものではないが、根気よくチャンレンジしたところ、何とか開けることには成功した。
翌朝のこと。
「ベイリーフ、あの箱、どうなった?」
「どうって開けたよ、ちゃんと」
アリゲイツとマグマラシは中に何が入っていたかを聞いてきたが、ベイリーフが「何も入っていなかったよ」と答えると
「なんだ~、空っぽかよ」
「えー、何だよ、しみったれてるなー」
などと言い出す。高級品で箱そのものに価値があるのだが、どうやらお二方はそんなことはどうでもいい様子だった。
(はぁ~、本当に疲れるな……)
突拍子もないアイディアが時に役立つことも無いわけではないが、実際には、使えないことの方が圧倒的に多い。「考えるよりもまず行動」ということ自体はベイリーフも否定しないものの、やったらどうなるかくらいは少しは考えてほしいよな、と思わずにはいられなかった。
それからしばらく経ってからのこと、町の広場でオークションをやるという内容のチラシがチームのメンバーが生活している家のポストに入れられていた。
オークションに出品される商品は、安物から高値が付くと予想されたものまでさまざまである。リサイクル品だったり、質屋から流れた品物などなど。中には、お宝? と思われる曰くのありそうなものまである。
「おい、見てくれよ。一番の目玉商品は『千年前の長編小説の原稿』だってよ」
「え、アリゲイツ。普段、本なんか読まないでしょ?」
「だからー、うまいこと落札して博物館に高値で売りつけるわけ」
「やめときなって、どうせ偽物だよ。それにもし本物だったとして、そんなお宝なら、天文学的な値段が付くから、落札できないでしょ」
「大丈夫大丈夫。この家売ればいいじゃん」
「あのねぇ、この家、賃貸物件なんだよ。賃貸物件が売れるわけないでしょ?」
「え、そ、そうだったのか?」
もっとも、もし仮に本物だとすれば、家を売って得られる程度の金額ではとても落札できるような代物ではないだろう。ただ、オークション会場への出入りは自由とのことなので、行ってみるのだけはアリかもしれないな、とベイリーフは思った。目玉商品に関しては、この上もなく胡散臭く感じたが。
そしてオークション当日。例の目玉商品がオークションにかけられた。いかにも「それっぽい」見た目をしていたが、やはり胡散臭かった。
「さあさあ、お立合い。今からオークションにかけられるのは千年前の長編小説の原稿。それも幻といわれている第41章!」
「よく分かんないけど、なんかスゴそうなのがでてきたな」
「あ、うん」
と、ベイリーフは生返事をした。この千年前の長編小説というのは現代語訳されて普通に読めるのだが、全54章の内、第41章だけはタイトルのみが現代に伝わっており、本文は伝わっていない。
なぜ本文が伝わっていないのか理由は分かっていない。散逸してしまって現代に伝わっていないとも、何らかの理由があり、本文は考えていたものの結局は書かれなかったとも言われているが、実際のところどうだったのかは推測の域を出ない。
(絶対、胡散臭い……)
ベイリーフは「ああ、やっぱりな」と思ったのだが、後になってあの目玉商品は偽物だったことが判明した。オークションなんて玉石混淆、出品者と落札者の騙し合いようなところもあるが、今回もそうなってしまった。
また別の日のこと。またもポストにチラシが入っていた。見ると、また「お宝」だの何だのと、胡散臭そうな文言が並んでいる。
「どれどれ……」
ベイリーフが見ると「宝が眠る島・蓬莱島へのいざない」とあった。「宝」とあるが、金銀財宝が隠されているわけではなく、その島が誇る観光資源のことを「宝」と表現しているのだろう。要は観光のPRの常套句であるとベイリーフは考えた。ちなみに蓬莱島は、立地が非常に不便で観光資源はあるものの、観光客は多いとはいえない。観光地としての開発はまだまだ発展途上で、だからこそ観光資源が荒らされずに残っている、すなわち眠っているとも考えられる。
世の中には、明らかな虚偽広告なんていうのもあるが、この場合は「宝」とは書いてあっても「金銀財宝」とは書かれていないから、嘘を書いたことにはならない。
けれども、そのチラシが小説に出てくる「宝の地図」のようないかにも、といった感じの見てくれで、しかも書いてあることを「言葉通り」に受け取ってしまったのか、マグマラシとアリゲイツは「せっかくだから行ってみよーぜ」などと言い出す。ここのところ依頼は多かったから、資金面で余裕はあるが……。
「まあ、たまにはリフレッシュも悪くないけどさ、蓬莱島までどうやって行くか知っているわけ?」
「決まってんだろ『ラプラス水上タクシー』」
(もう、誰か助けて……)
水上を楽に移動する手段の一つである。ラプラスの背中に乗せてもらうわけだが……。蓬莱島はその名の通り、東の遥か果てに位置する島。そこまで行ってくれるかどうか? しかも、その島の周りは潮の流れが速くなっているところがあり、この方法で行くことは危険が伴った。まあ、それ以前に距離が遠すぎて断られるだろうが。
「んじゃ、ベイリーフ。早速交渉しに行こうぜ」
「うん……」
ベイリーフはしぶしぶついていった。見ていないとアリゲイツが何をするか分からないからだ。
早速港に行き、交渉をするも、ことごとく「撃沈」してしまった。
「くっそー、何が『遠すぎるから無理』だ。どいつもこいつも根性なしだな。てか、なんでベイリーフは黙ってたんだよ」
「だって、無理だって言われるのが目に見えていたからだよ」
「じゃあ、どうやって行くんだよ?」
「船に決まっているでしょ。ほらほら、今から予約しに行くよ」
蓬莱島には、船に一度乗って、中継地点となる島で、今度は貨客船に乗り換えないといけない。
「随分、時間かかるんだな……」
「さっきから文句ばっかり……。ああ、後、船は雑魚寝でいいよね」
「よく分かんないから、任せる」
「ああ、そう。後は宿の手配だね。これは観光協会に行かないと……」
結局、ベイリーフが全部旅の手配をすることになった。もっとも、そうしないと、旅先で野宿ということになりかねなかった。付き合いが長いので「宿? 予約面倒だし、野宿でいいじゃん」とか本気でやりかねない。
(まったく、今はキャンプ場ですら予約がいるって知らないのかなぁ……。本当に手がかかるよ)
ベイリーフも宝探しではなく、息抜きとして蓬莱島に行くことは楽しみであったが、あのお二方が一緒だと思うと、少々気が重たかった。現地では、温泉と海鮮料理を楽しみ、ゆっくりしていたいが目を離したすきにあのお二方が突拍子もないことをしないように見張っていないといけない。
(ああ、気が休まらないな)
そして旅当日。時間に余裕をもって、港へ行き、乗船手続きを済ませる。港の周辺は季節のせいもあって、生温い空気が充満し、磯の香りが漂っていた。
「えーっと『2等船室』だから、ここだね」
そこは大広間のような場所で、床から1段高くなった場所がいくつかあり、上には茣蓙が敷かれていた。この茣蓙の上で寝てくださいね、ということだ。
「ところで、ベイリーフ」
「ん?」
「飯はどうするんだ?」
「お弁当を持ってくるっていう手もあったけど、たまにはいいでしょ。船の食堂で食べるっていうのも」
「ええ? メシ付きなのか、やったぜ!」
「なわけないでしょ、食道に行って、食券を買うの」
それを聞くと、お二方は
「チッ、しけてんなまったく」
「何だよ、しみったれてるなー」
と、文句を垂れる。
(ああ、頭が痛い。もう、コイツら海に捨ててきちゃおうかな……)
時間通りに船は港を離れ、東に向けて、大海原を進み始めた。船が出た時間は昼間だったが、乗り換えの島につくのは明日の朝になる。そこで、蓬莱島行きの貨客船に乗り換える。蓬莱島に着くのは、明日の昼過ぎということになるだろうか。だから、順調に行ったとしても丸一日かかってしまうのだ。
当然、悪天候で船が着岸できないとなれば、途中で折り返すもしくは欠航ということになってしまう。天気予報では今のところは大丈夫だったが、海の天気は変わりやすく予断を許さない。もっとも、そのことは文句を垂れるのが目に見えているので、あのお二方には言っていない。
外洋のため、多少の揺れはあったものの、特に問題なく中継地点の島に着いた。ここで終わりではなく、今度は別の船に乗り換えないといけない。
(えーっと『貨客船・蓬莱』っと。あ、これか)
船をいったん降りて、別の船に乗り換える。先ほどの船と比べると、小型の船が別の乗り場で、出航の時を待っていた。今度はこの船に乗り換えるというわけだ。蓬莱周辺は天気が変わりやすく、悪天候や晴れていても強風で、着岸できないという理由で、折り返すということも珍しくはないのだが、今日は無事に着岸できた。
丸一日の船旅がようやく終わった。船を降りるわけだが……。
「あれ? どうしたの、マグマラシ?」
マグマラシの顔色が悪い。予想は何となくついたが……。
「う……。ごめん……。気持ち悪い……」
(やっぱ船酔いか)
港近くの宿をとっておいたので、そこでチェックインを済ませる。予約をした「宿屋・イエッサン」で宿の台帳に必要事項を記入する。
「あら、お連れ様は大丈夫?」
「あ、船酔いしたみたいで……」
「洗面器、要ります?」
「あ、じゃあ、一応」
チェックインが済むと、部屋のカギと洗面器が渡された。宿は港近くの高台にあるため、眺めは良かった。晴れていて、まだ太陽も高い位置にあったためか、海面に太陽光が反射してまぶしい。畳敷きの部屋で、窓を開けておくと、海風が入ってくる。
(海風にあたって、しばらく休んでいれば大丈夫でしょ……)
しばらく休むと、マグマラシは回復し、洗面器の出番はなかった。
「ベイリーフ、何日かこの島にいるんだろ?」
「そうだけど?」
「じゃあ、その間に宝探しができるな」
お二方は乗り気で、この島には温泉と海鮮料理以外にも観光の目玉があった。かつてこの島を支配していた有力者のお墓で、発掘された資料のレプリカが島の資料館に展示されている。
普通なら「本物は研究施設で厳重に管理されているんだろう」と思うのだろうが、お二方は違った。きっと、本物は埋め戻したに違いないと突拍子もないことを考え出した。
お墓は共同墓地のような粗末なものではなく、封建制が崩壊した今もその威光を現代に残すかの如く、下々が埋葬されるようなお墓とは大きさも桁違いであった。
「きっとまだ、お宝は眠っているはず!」
(ないって、そんなもの)
ベイリーフは呆れて言葉もなかった。だが、あえて力ずくで止めることはしなかった。探したところで宝物が見つからなければ、どうせあきらめるに決まっている、そう思ったからだ。
マグマラシが「どうせだから、お墓暴いて副葬品をいただいちゃおうよ」といった時は、さすがに止めたが。
「危険なことを言うな!」
「やっぱ、ダメかな?」
「立派な犯罪行為だよ!」
天然も行き過ぎると何しでかすか分からないから、困ったものだ。
翌日、島を散策することにした。例のお墓も行くことにしたが「最近、お墓や墓地の敷地にイタズラする観光客がいて取り締まりをしているから気を付けてね」とのことだった。
(バチ当たりなことをするやつがいるもんだな……)
(もしかして、同じこと考えているやつがいるのか?)
一日中、散策をし、疲れて宿に戻ると、島の名物である海鮮料理と温泉が待っていた。これで、一日中歩いた疲れを癒す。ベイリーフはおいしい料理と温泉に満足していたが、お二方は宝物が見つからなかったことが不満な様子。
(な・いって言っているのに、しょうがないなあ。まあいくら言ってもしょうがないか……)
ベイリーフは一日中歩いて疲れたのか、食事と温泉を済ませると、割と早めの時間に寝てしまった。そして、お二方は、その時を待ってましたと言わんばかりに夜間外出。
夜道をしばらく歩いて、例のお墓に到着。そして、お墓の周りを色々と物色。この時点で色々と罰当たりな気もするが、止め役がいないとこうなってしまう。
物色していると、誰かがいる気配がした。何をしているのかと声がかかり……
「まずい、見つかったか?」
「ここは逃げよう!」
だが、逃げようとしたのが良くなかった。逃げようとしたときに、何かが伸びてきて、脚や胴体に絡みつき、暗闇に放り込まれた。
「うわ、何だここ。真っ暗だし、ぬるぬるしてやがる!」
一方その頃、外では……。
「まったく、困るよね。マナーの悪い観光客にも」
たまたま、当番制でこの日、見回りに来たヌメルゴン。見回りに来たら不審者が逃げたため、伸びるツノで捕縛したというわけだ。
「やましいことがなきゃ、逃げないよね? ここはおしおきが必要かな」
一方その頃、中では……。
「そういえば、ここに放り込まれる前にヌメルゴンが見えた気が……。もしかして飲み込まれたんじゃ……」
「なんだって!? じゃあこのまま、消化されちまうじゃねえか」
「あ、いやでも、こんなの飲みこんだら、お腹壊すだろうから、消化される前に、ウ〇チと一緒に出られるんじゃ……?」
「いや、消化されちまうよりはマシかもしれないけど、クソまみれってのも……」
一方のその頃、外ではヌメルゴンがおしおきと称して、飛び跳ねたり、お腹からダイブするなど激しい動きをするものだから、その動きがほぼダイレクトに体内に伝わってくる。
あまりの動きの激しさに
「うぅ、気持ち悪い……。酔った……」
「えっ、やめろ! ここで……」
「うぅ……。ご、ごめん……。もうダメ、うぅ……」
「ちょっ、ちょっと待て! ああっ!!」
逃げ場のないところで……。ここで書くのも憚られるような阿鼻叫喚の地獄絵図が現出した。
その後、解放されはしたが……。ウ〇チまみれにはならなかったものの、その代わりに……。ここでは書くのも憚られるような状況になってしまった。
どうにかこうにか宿まで帰ることには成功し、温泉で体を念入りに洗って、付着してしまった臭いを落とす。
「どうだ、臭わなくなったか?」
「うーん、まあ、大分マシにはなったかも?」
当然のことながら、今回の騒動にベイリーフは無関係で、最初から最後まで温泉や料理を楽しんだ。
帰りの船の上では
「いやぁ~、温泉も良かったし、料理もおいしかった! よかったね、蓬莱島」
「ふん……」
「もう、蓬莱島はコリゴリだよ。何が、宝島だよ……」