セックス・シャーク
目次
その時期、遺伝子工学博士ハイマン・キューンは仕事に没頭していた。
この研究所における彼の役割は遺伝子操作によって新しい特性のポケモンを生み出すことにあり、その時期のハイマンはなおさらプロジェクトに対し精力的であった。
元より妥協を良しとしない職人気質であったことも然ることながら、その頃は家庭に複雑な問題を抱えていたことも手伝い、それへの逃避行動としてなおさらハイマンは仕事に没頭していたのだった。
そのプライベートな問題とは妻や幼い息子との別居であり、離婚調停も既に結ばれたハイマンの家庭崩壊はもはや免れられないものとなっていた。
その原因は夫が家庭を省みずに仕事へと没頭することへの妻の不満であり、結婚前より蓄積されていたそれがこの段階に至って遂に実を結んでしまった結果であった。
当然のことながらそれについての話し合いも幾度となくされたが……それでもハイマンが生活を改めることは無かった。
否、彼においては『出来なかった』と言う方が正しい。
それというのもその才能と技術ゆえ、如何なるプロジェクトの時も彼はその中心において指揮を取らざるを得ず、結果ハイマンは家庭を犠牲にせざるを得なかったのだ。
とはいえそれは妻を説得させられる理由にはならず、いたずらに時は過ぎ──ついには先日書類上の離婚が成立しては、妻は息子を連れて住居を後にした。
一連の話からもハイマンは家庭を顧みない冷血漢のように取られるかもしれないがしかし、彼は彼なりに妻と息子を慈しみ、そして自身の小さな家庭もまた愛してやまなかった。
それでもしかし生来の気真面目さと責任感ゆえに、自分無くしては成立しない仕事の放棄などハイマンには出来なかった。
皮肉ながらこの傑出した才能ゆえに、ハイマンは自身の家庭崩壊を受け入れざるを得なかったのである。
そしてそんな傷心を癒してくれるのもまた仕事であった。
これに従事している間は、身に纏わりつく全ての煩わしさから解放された……そして仕事の合間に訪れる僅かな空白時間に自身の人生を哀れむ時、彼はそれすらも忘れる為に寝食をおして仕事へと没頭し続けたのである。
今現在そんな彼が抱えるプロジェクトは、とある特性を持ったポケモンの遺伝子操作とそれの人工授精にあった。
そして研究は恙無く進行してはその成果を結びつつある段階へと来ている。
今も目の前の人工子宮となる巨大なシリンダー内には、羊水の無重力下において両膝を抱えては眠るガブリアスがその頭を下にして浮遊していた。
本来であるならば三段階進化のガブリアスはフカマル・ガバイトの過程を経て進化するポケモンではあったが、いま目の前にいる個体はその進化を飛び越しては端から最終進化系のガブリアスとして生成されていた。
肉体の生育も順調で、遺伝子の不具合による欠損や過剰な細胞の増殖も見られない。
もはやここ数日で目覚めても不思議ではない状態にもかかわらずしかし……ガブリアスは一向に動き出そうとはしなかった。
強制的に覚醒を促すことは容易いが、データの揃わぬ現状ではそれがどのようにガブリアスへ影響を与えるのかも分からない。
それゆえに今ハイマンに出来ることは、ごく初歩的な『胎教』による学習を進めるより他はなかった。
少なくとも肉体的・脳波的な不具合は見受けられないのだから、あとはこのガブリアスが……彼女が目覚める瞬間を待てば良いとハイマンを始めとするスタッフは誰もがそう思っていた。
しかしながら新たな生命の誕生や進化が起こる時、そこへ何らしかのイレギュラーが発生してしまうのは創生の常でもある。
かのガブリアスの誕生と、そしてそれに伴う不幸な事故は、ハイマンにしてもまったく予想だにつかなかった展開を以て引き起こされてしまうこととなる。
その日、件の研究施設には夜勤の若い研究員が一人残されている状況だった。
従来この研究所には最低三人の研究員が待機し、有事の際には能動的に対処出来るよう控えているはずであるのだが、その体制にも唯一『空白』となる瞬間が存在する。
それは二交代であるシフトの繋ぎ目となる午前1時から3時までの二時間ばかりで、この時はガブリアスを見守る職員もワンオペレーションで勤務をこなさなければならない。
とはいえ緊急時の連絡網もシステム化されていたし、覚醒間際のガブリアスもまた安定期に入っていたこともまた、部所の緊張感を弛緩させる要因となっていたのだろう。
昨日来ずっと繰り返してきた夜勤同様に、当番の研究員もまた給湯室から戻りながら今しがた淹れたばかりのコーヒーを啜ろうとマグカップを傾けた瞬間──目の前に広がる光景に驚愕しては手にしていたそれを足元へ落とした。
途端マグカップは砕け散り、中に満たされていた熱湯が足を焼いたが、その刺激にも意を介さず研究員は眼を皿にしては目の前の光景に見入るばかりだった。
眼前の──本来ガブリアスが納められているはずのシリンダーは、その正面をくり貫いたかのよう鋭利に四方を断ち切られては其処へ空洞となった姿を晒していたからである。
気付けば足元はその破壊の際に溢れた羊水にまみれ、そこから脱したであろうガブリアスの足跡が点々とシリンダーから離れていった様を物語っている。
それらを前にして研究員の思考はすっかりパニックへと熱し上げられる。
件のガブリアスが何処へ消えてしまったのかは元より、このシリンダー自体も何かしら異常が見られた時には警報が鳴るように設定されているはずであった。
しかしながらそんな二つの問いはすぐに解明されることとなる。
ふと床に残されたガブリアスのものと思しき足跡は、シリンダーの傍らにあるPCへと向かっていたからだ。
誘われるようそこへと向かいモニターを見下ろした研究員は、そこにてシリンダー異常の通報を解除するコマンドがエンターされている痕跡を発見する。
キーボードは元よりデスク中がずぶ濡れとされたその様子は、信じがたいことながら生まれ出たガブリアスが自らこれの解除をしたことを物語っていた。
常日頃、ガブリアスを納めていたシリンダーが僅かな水圧や水温の変化により警報を鳴らすことは日常的なことであった。
その解除にはこのPC上のデスクトップに表示されている管理アプリのエラー解除をワンクリックあるいはエンターすることで納めることが出来るわけだが──信じがたいことに、かのガブリアスはそれを理解した上で自ら警報の解除を行っていたのだ。
『ならば……アイツはいったい何処に……?』
縫い付けられてしまったかのようPCの前に立ち尽くしては混乱しきりの研究員はその時──不意につむじへと覚えた冷感で我に変える。
針で刺されたよう反射的に頭へ右手を被せれば、掌にはねばつく液体の感触が広がった。
それの正体を判じかねては、目の前で水かきの様に指々の間に扇状の膜を粘着させたそれを眺めていると、やがて研究員の視線はゆっくりとそれが垂れてきたであろう天井へと向けられる。
この時研究員には予感があったのだ……。
それはホラー映画ではさんざんに使い回されたチープな演出であり、物語の序盤において無惨にも暴漢の魔の手にかかる第一被害者の存在を連想していたのである。
だからこそこの時の研究員はまるで自分がその役を演じるかのよう、そんなセオリーに従っては視線を天井へと向けたのだった。
そしてその予想は──裏切られることなく執行されることとなる。
見上げるそこには、這うかの様に天井へと貼り付いたガブリアスが……首だけを振り返らせては目下に捉えた研究員へと口角から垂れる涎を浴びせていたからである。
その発見に叫ぶ暇も無かった。
次の瞬間には天井から剥がれたガブリアスに覆い被されては組み敷かれる。
そしてその二時間後──
憐れなる最初の犠牲者は、交代に現れた職員によってその変わり果てた姿を発見されることとなる。
全身の衣類を剥がれ、体の至る箇所へキスマークと歯形を刻み込まれた研究員が……自身の精液とガブリアスの愛液の液溜まりの中において、仰向けに放置されては息絶えていたのだった。
離婚以降、研究所内に寝起きの為の部屋を借りていたことが功を奏し……あるいは皮肉か、ハイマンは呼び出しから10分後には現場へ駆けつけていた。
通行用パスで各種のゲートを開錠して進むとやがて、一際開けたラボの中央において人だかりの背中達を発見してはハイマンもそこへと駆け寄った。
「どういう状況なんだ? ガブリアスは見つかったのか?」
皆がそれを取り囲む現場へと辿り着き、ハイマンは傍らの一人へと尋ねながらその視線が集中しているであろうそこを見遣る。
そして目の前に展開された研究員の死体を前に──ハイマンは口元を抑えては息を飲んだ。
仰向けに地へ転がされた研究員は一糸まとわぬ姿であった。
同じチームの一員として彼のことはよく知っていたが、それでも第一印象でその死体を彼だと判断できなかった理由は──異常なほどに彼が窶れてはその頬をこけさせていたからである。
ありきたりな表現を用いるならば、体中の体液を吸われては干からびているという、カートゥーンアニメにおける表現そのままに、同僚研究員は骨と皮ばかりに瘦せ衰えて死亡していたのであった。
そしてその光景を見慣れてくると同時に不快な……しかし嗅ぎ慣れた『ある匂い』を感じ取ってはハイマンも眉をひそめた。
特定の植物による花の香りを思わせるような、あるいは塩素系の漂白剤も僅かに感じさせるその匂いは、人間の精液によるものである。
そして同時にその匂いの発生源もまた目の前の死体からであり、彼が自身の精液の液溜まりに背を浴している事にもハイマンは気付いた。
成人男性の一度の射精が平均で2~4mlということを考えれば、言わずもがなその量は異常といえた。
そして同時、最後に交代した時から今に至る2~3時間でこの量を搾り取られたというのであれば、この死体の異常な状態も納得が出来るように思えた。
すなわち彼は、暴漢の手により致死量の精液を抜き取られ殺害された訳である。
その結論に辿り着くと、自然に次なる思考は『その犯人』へと傾いた。
もちろん現場の状況から察するにそれは例の『ガブリアス』でしかない訳ではあるが、どうにもポケモンであることの先入観が邪魔をして彼女を犯人と結び付けられない。
そもそもが、ガブリアスが人間の精液を求める理由がハイマンには皆目見当もつかないし、ひいてはポケモンが人間を対象としてセックスを求めた理由も然りである。
とりとめもなく仮定と仮想を頭の中で繰り返していると、研究員の一人が今後の方針をハイマンへと尋ねた。
現時点でその死亡原因や犯人の特定が未確定とはいえ、事は殺人事件であるのだ。
とりあえずは警察に通報をと場の研究員達も互いの顔を見合わせながら囁き合う中、
「警察への通報は逃げ出したガブリアスを捕まえてからだ」
ハイマンはぴしゃりと一同を押さえつけた。
その申し付けに思わず反論を口に出そうと息を吸い込む研究員に先んじ、
「俺達が何をやっているのか理解しているのか?」
再びハイマンは言葉短くそれを制した。
それを受け、場の一同も一時は困惑した様子ではあったが──やがては誰一人異議を申し出ることなく沈黙した。
ハイマンに限らずこのラボに集められた研究員達は皆、聡明な人物達であった。
それゆえに自分達が『違法の遺伝子改良』の研究に手を染めていることは重々承知していたのである。
もしこのことが公となればラボの解体は元より、自身のキャリアにおいても計り知れない傷を負うこととなる。
ゆえにそのチームリーダーであるハイマンの出した答えはまず、『逃げ出したガブリアスを捕獲する』ことであった。
そうして研究の成果を隠匿してしまえば、後は警察に対し如何様にも取り繕える。
「どのみち、通行パスも持たないガブリアスはこのラボから出ることは出来ない。生きて捕まえられればこの上ないが……最悪の場合には殺してでも死体だけは回収する様に」
緊急事態を受け、各員はラボ内に備え付けられたガンロッカーからショットガンや生け捕りの為のテーザー銃等をそれぞれに持ち、この研究エリア内の各部屋をしらみつぶしに捜索していくことを決めた。
今ハイマン達が集合している研究室は、球場を思わせる広大な室内の中央にガブリアスのビーカーを置いては、その周囲を小分けされた研究員達の小部屋(オフィス)で取り囲むという配置であった。
現在、捜索の為の研究員はハイマンを含めて4人──新たに招集を掛けた2人があと二時間ほどで到着することを考えると、今はこの少人数でガブリアスに対処せねばならなかった。
捜索方法としては、四人一塊となっての団体行動を心掛けた。
個人同士ではいかに重火器を手に持とうともガブリアスに対応しきれるものではないことから、集団を以て制圧しようと作戦方針を定めたのである。
そんな折、メンバーの一人がトイレを申し出た。
当初はこのラボ内に備え付けられたそこにおいて済ませるように言いつけたが、それでも研究員はそれを頑なに拒んだ。
とはいえハイマン自身、この状況下では出るものも出まいと理解を示したことと、さらには外部へと出る通路も近かったことから、ラボ外のトイレの使用を許可した。
その退出の際にも総員で出入り口まで移動し、その研究員・ジョンが外へと出て再びラボの強化ガラス製ドアを施錠するのを見届けては、彼が戻るまで一同もその場に待機することとした。
一方ジョンは駆け込んだトイレにおいて小用をたしながら深くため息も付く。
大変なことになってしまったと思った。
事ここに至っては、たとえガブリアスを生け捕れたとしても事態は好転しないだろうと思う。
警察の手が入り、何らかしらの捜査が行われれば、その事実はクライアントの耳にも入ることだろう……斯様にしてあやのついてしまった研究成果とあれば、そこから足が付くことを恐れ今後はこの研究所自体、封鎖の可能性さえも考えられた。
そこまでを放尿の間に考えてはやがて、股間を揺すって尿道の残滓を振り払ったその時──背後の個室において便器の水流が流れる音がした。
場所がトイレであることから最初はそれに疑問も持たなかったジョンではあったが一動作後、その異変に気づいてはぺニスもしまわずに振り反る。
──今の水流は……いったい誰が流たって言うんだ?
今このトイレには自分しかいないはずであった。そもそもがこの広大な施設に今現在、人間は四人しか居ないはすである。
それにも関わらず背後から響いてきたその音──ドアの開け放たれたままの個室に鎮座する便器を睨み続けていたジョンは次の瞬間、思わぬ展開に叫びすら上げられずに呼吸を止めた。
洋式便座のその中から、ガブリアスの頭が覗いたからである。
おおよそ50cmがせいぜいだろうその便座から顔を出してはこちらを見遣るガブリアスと目が合っては呼吸を止める。
瞬間この思わぬ遭遇に混乱を来たしたジョンもしかし、何故に彼女がこんな場所にいるのかのをすぐ察する。
──そうか……コイツは、トイレの排水溝を移動してラボと外部とを往復しているんだ……!
ラボ内から外へ出るにはセキュリティロックされたゲートを通らねばならない──しかしそんなものは所詮、人間の事情でありポケモンの都合ではない。
現にガブリアスは排水溝そこを通ることで一切のセンサーにも感知されることなくジョンの元まで辿り着いたのだから。
依然として上目遣いにジョンを見据えたまま、ガブリアスは徐々に便座から這いずり出(い)でた。
そして前傾姿勢に身を低めながら近づき、ようやくに我へ返りったジョンが悲鳴や救助の叫(こえ)を上げるよりも先に──ガブリアスは己の口唇にて、ジョンの唇を塞いでしまうのだった。
この研究所には至る場所にカメラが設置されている。
それは個人の私室は元よりトイレに至るまで、まさしく全ての空間がこの研究所内においては監視可能であった。
一概にこれは研究員の人権を軽視しているのではなく、研究成果を外部へと持ち出されないための防衛措置であるのだ。
現にこれらカメラの存在もここに勤める人間には折り込み済みであったし、また記録映像の閲覧が出来るのは上層一部の人間にのみ限られては、平素日頃のプライバシーが侵害されることも無かった。
そして今──ハイマン達は斯様な想定とはまったく異なる事態によって、件のカメラ映像を確認していた。
そこに写されていたのは先の外部トイレにおいてガブリアスに襲われるジョンの映像であった。
当初は消えたガブリアスが何処へ去ったものかを確認する為の確認ではあったが、結果そこにて一同が知り得たものはガブリアスの異常性の再認識であった。
個室の便座内から這い出たガブリアスは、その巨躯からは想像もつかない素早さで地を這いジョンへと突進した。
それに対して叫びを上げようとするジョンの口をキスで塞ぐと同時に押し倒しては、排尿直後のまま外に出されていたペニスへとガブリアスは鎌状の爪を這わせる。
爪の先や背に存在する僅かな湾曲を利用しては、実に起用にジョンのペニスを刺激し瞬く間に勃起へと導いてしまうガブリアス……その上半身では依然として舌先を口中に侵入させては猿ぐつわとし、ジョンに助けを呼ぶ暇も与えなかった。
そうして完全にペニスが屹立するやガブリアスはジョンを跨ぎ、一切の躊躇もなく騎乗位にその挿入を膣へと果たしてしまう。
それからは激しいレイプの始まりであった。
イルカの表皮の如くに光沢を持った臀部を存分にしならせては、そのたわわな肉付きがひしゃげるほどに互いの局部を打ち付けた。
録音はされないタイプのカメラ映像ではあるがしかし、その能動的なガブリアスの動きからはそんな肉同士が打ちつけ合う破裂音や、はたまたジョンの悲痛な呻きとガブリアスの嬌声とが聞こえてくるかのようである。
しばしそうして動き続けていると、ある時ガブリアスの動きがピタリと静止する。それに合わせて組み敷かれているジョンの両足が直伸に矯正されては小刻みに震える様子から、彼が射精に至ったことは明らかであった。
しばし胎内へと送精される射精の感触を堪能している様子のガブリアスであったが、数瞬後には再び──彼女はあの暴力的なピストンを開始してはジョンを扱き始めるのであった。
以降はそれの繰り返しが映像には続いた。
けっして鮮明とは言い難い解像度の映像であっても、覆い被さるガブリアスの体の下から見え隠れするジョンの足や体の痙攣する様を見れば、いかに彼が苦しんだかが手に取るように知れた。
やがては最初の射精の時同様にガブリアスの動きが止まったかと思うと、彼女はしきりに体位を気にしながら、下に敷いたジョンの様子を窺ったりその匂いを嗅いだりの仕草を繰り返す。
そうしてガブリアスがそこから身を退かしようやくにカメラが部屋の全体を見渡すと──そこには微動だにしなくなったジョンだけが写されているばかりだった。
結局彼は抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、ガブリアスによってヤり殺されたのだ。
直接の原因は行為中、口中に挿入され続けていたガブリアスの舌による窒息であろう。
しかしながらあのハードピストン下において、推定体重100kgの体躯を打ち続けられたジョンの死体は、各種内臓器の圧壊また引き起こしては、肉体のあらゆる穴から出血を果たして死んでいた。
しばし画面の中のガブリアスはジョンの体や、はたまた床に溜まった彼の精液などを舐めたりもしていたが、やがては登場の時同様に便器の中へと戻っていくとその去り際には器用に尻尾の先で洗浄コックをひねり、その水流に任せては下水の中へと逃げていった。
それら一連の動画をラボ中央・巨大シリンダー前のPCで確認したハイマン一行に、誰一人として言葉を発せられる者はいなかった。
斯様なガブリアスの移動手段やそして運動性にはハイマンも舌を巻くばかりだ。
あの2メートル近い体躯を驚異的な身体操作によって変形させては下水の狭所を通り抜けるにあたり、もはやこの研究所内で彼女を一ヶ所に留めておくことは不可能のように思えた。
あの身のこなしであれば、下水に留まらず排気口や床下・天井を始めとする構造上の隙間等は全て彼女の通り道として成立してしまう。
むしろ平坦な床の上しか移動出来ない自分達こそ、この研究所においてはアウェーに置かれているとさえ思えた。
ならばこの建物において自分達が優位を得る為にはどのように行動すべきか、そしてどの場所に彼女を誘導すべきかに思いを馳せていたハイマンであったが……その思考は突如として響き渡った研究員の叫びによって中断された。
突然のそれに驚いて顔を上げれば、そこには表情を恐怖に引き攣らせては無心に頭髪を掻きむしる研究員の一人が見えた。
「お、終わりだぁ! 逃げられる訳がない‼ 俺達はここで、あのガブリアスにヤリ殺されるんだッッ‼」
今現在この場に残されているのはハイマンと、そして残るは二人の研究員のみ──その一人が半ば発狂したかのよう振舞うと、それが伝染したもう一人もまたヒステリックに声を上げてはその場で右往左往を始めた。
当然ながらそんな二人へ落ち着くように声を掛けるハイマンであったが、むしろ斯様な声掛けは一層に二人の興奮を煽るばかりの結果となった。
今後をどうするのかを絶叫まじりに尋ねられハイマンも口ごもる。それを話し合いたいと返事を返すハイマンにもしかし、一度火のついた二人の狂騒はあらゆる刺激に過敏となってはもはや、手の付けられない状態にまで昂られていた。
やがて火がついたかのよう一人が走り出すと、もう一人も逃げ遅れまいとその後を追って続く。
そんな二人を不毛とは思いつつハイマンもまた追わざるを得ない。どんな状況であっても今は集団を保つことこそがこのサバイバル下での鉄則であったからだ。
しかしながらこの絶望的な状況でありながらも、研究員の混乱が功を奏したこともあった。
それは先頭を走っていた一人がただやみくもな行動を取っていたことに他ならない。
今も走り続ける彼は従来の出入り口とはまったく正反対の方向へと駆け出してはやがて、区画の隅にあったガラス張りの喫煙室を発見しその中へと駆け込んだのだった。
後に続いていた一人も倣うようそこへ入ると内から施錠して籠城を決め込む。
この展開はむしろ、ハイマンには願ったり叶ったりの状況と言えた。
この場所に立て籠ってしまえばもはや彼らは何処へにも行けない。むしろ事の始まりにハイマンが懸念していたのは、研究所外へ出られたり、はたまた外部との連絡を取られてしまうことにあった。
しかしながらこの状況ならば、時の経過と共に彼が落ち着くのを見計らって話し合いをすることが出来る。
後はどのように彼らを説得し、今後の手綱を握るかに思案したその時であった。
彼らが立て籠る天井の換気扇が軋んだ。
その変化を最初、ハイマンは見間違いの類であると思った。否……そう思い込みたかった。
しかしながら次の瞬間、もはや思い違いではない衝撃を以て換気扇が振動するや、そこに対角線同士を結び合うよう鋭利な亀裂が走り──枠組は三角形のパーツに切り分けられては換気扇本体の残骸もろとも喫煙室へと崩れ落ちてきてはけたたましい音を立てた。
突然のそれに驚いては振り返る内部の二人とそして外部のハイマンの目は、混乱の極みのうちにそこから降りてくるものを見上げる。
天井に穿たれた50㎝四方の開口そこから、頭を垂れては上半身を晒したのは──
何者でもない、あのガブリアスであった。
両腕を掲げ、身を反らせるようにして天井からぶら下がるガブリアスをハイマン達は息を飲んで見つめた。
しかしながら至近距離での遭遇に対し、恐怖に硬直してしまっている研究員達とハイマンの反応はまた違う。
この時ハイマンは、
──肉体の形状が……従来のガブリアスとは全く違う!
むしろガブリアスの肉体に覚える違和感に科学的疑問と興味をそそられていた。
いま目の前に晒されているガブリアスの胸元には人間の女性に見られるような二房の乳房がたわわに宿っていた。
加えて腰元においても華奢にくびれては尻のメリハリを印象付けてと、全体で眺める件のガブリアスの肉体は、さながら『人間の女体』を強く反映させたフォルムとなっていたのである。
それゆえにハイマンは強く困惑した。
今日に至るまで、彼女の発育は逐一観察しては記録してきた彼である。つい数時間前までそのシリンダーの子宮内に在った頃とはもはや、似ても似つかぬ姿へと変貌してしまったガブリアスに、ハイマンは科学的好奇心をそそられずにはいられなかった。
しかしながらそんなハイマンの思考も悲痛な研究員達の声によって現実へと引き戻される。
見ればガブリアスは既に床へと降り立ち、身を四つん這いに低く保っては陸のワニさながらに研究員達へにじり寄り始めていた。
その状況に対し、ハイマンもまたとりあえずは喫煙室から出てくるようガラスのドア越しに指示をするも──混乱の極みに達した研究員はそのドアを開けることすらもままならない状態となっていた。
内開きにドアを引かなければならないにも拘らず、この時の研究員はドアを押して開こうと必死になっていた。
当然ハイマンも引くように再三喚起するも、もはや研究員はその理屈すら理解できずにヒステリックな金切り声を上げては、ただ恐怖を発散させようと躍起になるばかりだった。
そしてそんな研究員隊達の元へ、遂にガブリアスは辿り着いてしまう。
男達二人を前に後ろ足で立ち上がると、2mを越える彼女は照明を遮っては側頭部から突起の生じた歪な影を男達へと落とす。
この段に至るともはや、研究員達は至近距離でライオンに遭遇した草食獣さながらに表情をこわばらせては、ただ直立に身を強張らせるばかりだった。
依然としてそんな研究員達と視線を交わしたまま、ガブリアスは手先の鎌の先端を二人のベルトの淵へと掛けるや──それを手前に引くと同時、鋭利な切っ先は一切の抵抗もなくベルトごとスラックスのウェストとさらには下着の淵の切り裂いてしまう。
そこからまるで輪でもくぐるかの様、スラックスは下着もろとも地に落ちては研究員達の恐怖で委縮したペニスがガブリアスの前に晒された。
それを発見するや明らかにガブリアスの表情が明るくなる。
目を剥いてそれを見下ろすとやがて、彼女は両膝を折って身を屈ませるや、眼前に垂れる研究員達のペニスをしゃぶり始めた。
排水溝が水を飲みこむかの如く唾液をすすり上げては吸い付いてくるガブリアスの口唇に、たちどころに二人のペニスは勃起をへと導かれては、以降交互に繰り返されるガブリアスのフェラチオに身を委ねてしまう。
先に同僚二人が彼女によってヤリ殺されている経緯を知る研究員達は、この状況に己もまた同じ未来を辿ることを察しては、もはや一成人である尊厳もかなぐり捨てては子供のように泣いた。
一方で斯様な研究員達のペニスをしゃぶりながらも、手先の鎌を自身の膣口へと這わせてはそこを撹拌してほぐすガブリアスはやがて、存分に二人のペニスが充血したのを見届けると、再び立ち上がっては獲物達を見下ろした。
そうして恐怖に硬直するばかりの研究員達を、互いに肩を組ませるかの様に密着させて身を寄せ合わせると斯様にして隣合わさったペニス二本を──ガブリアスは直立した姿勢のまま股間を寄せ、自身の膣へと同時に挿入してしまうのだった。
以降はまるで男性が後背位から立ちバックで犯すようさながらに、ガブリアスは幾度となく腰を引いては突き出すのピストンを敢行する。
彼女の膣の中、すり合うペニス同士とそれを内包する燃えるような熱を帯びた膣壁の粘膜に、
『あああァァァァッッ、チンチンがァァァァ! 俺のッッ、チンチンッッがぁぁあああああァァァァァッッ‼』
『ママぁぁ~ッッ‼ あああァァァ、ママぁぁぁぁぁ~ッッ‼』
研究員達も断末魔さながらの絶叫を発した。
もはや理性などはかなぐり捨てた研究員達にかのエリートであった面影などは微塵もない。
そしてそんな叫びも射精と同時に途切れてはその一時嗚咽に詰まらせるも──再びにガブリアスのピストンが開始されると、まるでそういう構造のオモチャの様に研究員達は無慈悲なレイプに対して悲痛の声を上げ続けた。
ガブリアスの膣からもたらされる圧に促進されては、おおよそ人間の運動機能には許容し難いの血流がペニスを介して研究員隊の肉体を駆け巡っていた。
その尋常ならざる速度に晒されてもはや、二人の心臓は数百㎞の時速で数百㎞の距離を走らされているかの如き状態にまで加速を余儀なくされる。
その中で遂には耐久を越えた血管は末梢からの破裂を引き起こし、それによって皮下での内出血がいたる箇所で起こっては、体中の穴と言う穴からの出血が始まった。
さらには血流が高速で巡るがあまり血液は沸騰を始めると、研究員隊の眼窩や耳孔からは湯気が立ち上がり始めてはその身をガクガクと激しく震わせる。
それでもガブリアスのピストンは止まず、遂には数度目の射精を果たさせた次の瞬間──行き場を失くした血流によって赤ん坊の顔のように膨張していた研究員の顔面が破裂した。
皮膚を破り肉片を飛び散らせると、ガラス張りの喫煙室にこびり付いたそれら血糊は外部にて見守っていたハイマンの視界を完全に遮断する。
それでもその光景に見入り続けていると、やがて鮮血にまみれたガラスの遮蔽板にはXを描く様に鋭い切り込みが走る。
そして次の瞬間それらガラスの箱を破砕してはその中より……ガブリアスは悠然と歩み出してくるのだった。
先の二人の返り血を存分に浴びたことで、従来は青みがかったはずの体色はすっかりとどす黒い深紅へと染まり上がっている。
斯様な死神の如きガブリアスはハイマンを見下ろすと……顔面に滴る鮮血を舐めるようにして粘着質に舌なめずりをした。
その光景を前に瞬間、ハイマンは自身もまた先の研究員達と同じ末路を辿ることを想像しては絶望に陥る。
全身に冷や汗が吹き上がると、手足は関節を失くしてしまったかの様に硬直してはハイマンを強張らせた。
先刻、あの喫煙室の中で彼女と対峙していた研究員達もこの感覚によって肉体を支配されたのだろう。
必ずしもこれは恐怖だけに由来するものではなく、このガブリアス特有の『技』や『特性』に由来するものなのかもしれなかった。
徐々に近づきつつあるそんな彼女を前に、既に脳内にはハイマンの短い人生を集約した最後の映画が始まりつつある。
いわゆるは走馬灯とも呼ばれるそれを無感動に眺め続けるハイマンではあったがしかし、そんな中ある一点において一際眩しい光彩を放つ思い出が彼を正気の淵に戻した。
それこそは誰でもない、妻と幼い息子の面影であった。
そして同時にそれは、
──死ねない……! こいつを生み出してしまった責任を取るまでは何があっても死ねないんだ!
目の前のガブリアスへと立ち向かうべき勇気もまたハイマンに燃焼させる。
今これを放置して無責任に殺されてしまえば、このガブリアスは次なる獲物を求めて研究所の外へと繰り出すことだろう。
そうして無差別に食い漁られる男達の中に年端のいかぬ息子の姿を想像した時──ハイマンの心は史上感じたこともない熱量を帯びては、ガブリアスへの闘志を掻き立ててくれるのだった。
肝が座り恐怖が払拭されるや、途端にハイマンは肉体の自由を取り戻す。
次いで右手に携えていたテーザー銃の照準をガブリアスへ据えるや、淀みなくトリガーを引いてはガブリアスの胸元へと撃ち込む。
貫通でも部位の破壊でもなく、ただ銅線帯びた電極が表皮に突き立つばかりのそれを、射られたガブリアス自身も不思議そうに見下ろした次の瞬間──彼女は背を仰け反らせては硬直し、激しく身を痙攣させた。
ハイマンが撃ち放ったテーザー銃とは、言わば射出型のスタンガンだ。
ガブリアスに刺さった電極から銅線を伝い、およそ10万ボルトの電流が流れ込んでは今一時彼女を行動不能へと至らしめていた。
斯様にして一時、ガブリアスを麻痺の状態へと至らしめたハイマンはそれに背を向けては一目散に賭けだした。
──このままじゃ勝てない……今のうちに、あいつにダメージを与える為の準備を済ませるんだ!
逸る自分を自制と鼓舞を以てして励ますハイマンはしばしラボ内を駆け抜けてはついに、目的の場所へと辿り着いて足を止めた。
呼吸も不規則に見上げるそこは──全ての元凶となった、ガブリアスの子宮(ビーカー)が鎮座するラボの中央であった。
ラボの中央に存在する巨大なシリンダー──かつてガブリアスはこの中で生成され、そして生まれ出でた。
ふとそのことに感慨深くなるハイマンであったが、すぐそれを頭から振り払う。もはや今は一分一秒とて無駄には出来ない。
件のテーザー銃による麻痺状態は、人間ならば45分から1時間といったところだ。しかしながらポケモンでありあの巨躯を誇るガブリアスであるのならば、ヒトよりもずっと早く回復してくることだろう。
とりあえずその復活までの時間を15分と見積もると、ハイマンは最後の戦いに備えるべくにその準備を始める。
しかしながら作業を始めるにあたりハイマンは取り出したスマホでなにやら操作すると、後はそれをすくめた左肩口と横顔で挟み込んでは、その姿勢で作業を開始した。
この時ハイマンはある人物へと電話を掛けていたのだ。そしてその人物は数度の呼び出し音の後──声に怪訝な響きを持たせながら電話口に出た。
『…………はい』
「あ、あぁクリスかい? 僕だ……」
この時ハイマンが電話をかけた相手とは、誰でもない元妻・クリスチーナの元であった。
ハイマンの声を聴いて改めてため息の度合いを深くする理由は相手が離婚したばかりの元・夫だからというだけでもないだろう。今現在、深夜2時半とあってはおそらく彼女も就寝中であったはずだ。
『こんな時間に掛けてきてどういうつもり? ウィリアムの親権を譲るつもりは無いわよ』
「えっと、違うんだ。今は、そういうつもりで電話したんじゃないんだよ……」
クリスに応えながらハイマン自身、己の行動の真意を図りかねていた。
カブリアスとの対決を控え、もしかしたら自分もまたここで死んでしまうかもと考えた時──ハイマンは無性に元妻の声を聞きたくなったのだ。
「ごめんよ。ただ君の声が聴きたかったんだ……こんな時間に非常識なのは分かってたんだけど」
存外にしおらしく告白してくるハイマンに、電話口におけるクリスの空気にも弛緩する様子が窺えた。
『……そうね、私も話したいことはたくさんあるわ。今後の養育費の件でもね。だから一度会いましょ』
「あぁ……あぁ! そうだね。約束するよ。必ず会いに行く……」
『分かったわ。じゃあその時には一緒に食事でもしながら話しましょう』
「うん、君とウィリアムに会えるのを楽しみにしているよ」
恙無く会話を終えると電話はクリス側から切られた。
通話が遮断され、後には乾いたビジートーンだけが響いて来るばかりのスマホをそれでもハイマンは遮断することなく、いつまでも肩と顔に挟み込んだまま作業を続けた。
やがてはそれも終了し、ようやくに立ち上がるとスマホを手に取り、画面に表示される元妻の名をもう一度だけ確認する。
そしてその顔を上げるハイマンの視界には──あのガブリアスが、悠然とこちらへと歩み進んでくる様子が見て取れた。
「………時間通りだ」
スマホを白衣のポケットへ放るようにしまい込むとハイマンもまた彼女と対峙する。
一歩一歩を踏みしめながら歩んでくるガブリアスは、女体然としてメリハリの利いた肉体から、さながらファッションショーにおけるモデルの闊歩を思わせた。
胸元には乳首を突き上げて形良い椀型を形成した乳房と、そして歩くたびに弾んでは性的存在感をアピールしてくる臀部……人とポケモンとが中和したこのガブリアスは、まさにノイマンと神が作りたもうた最高傑作にして最悪の雌豚──もとい、雌鮫(セックス・シャーク)であるのだった。
斯様にして悠然と歩んでくるガブリアスは、生後1時間半にして4人の男達をヤリ殺したことにより、もはや人間の持つ身体能力の分析を完全に見極めていた。
慌てて駆け寄らずとも、もはやこの同じ空間においてハイマンを見失うことは無いという自信が彼女を慇懃無礼にたらしめている理由でもあった。
そんなガブリアスの接近を間近にし、ハイマンもまた行動に出る。
羽織っていた白衣を捨て去るや、次いでシャツとスラックスもまた脱ぎ去り──カブリアスを前にハイマンは、革靴に靴下だけを残した全裸の状態で対峙を果たしたのだった。
それを前にして目を剥くガブリアス。彼女にしてみればそんなハイマンの行動は意外なものに思えた。
今まで彼女が狩ってきた人間達は、皆が泣きわめいては混乱するばかりであったからだ。そんな中で正面から自分と向き合い、ましてや臆することも無くペニスを晒してきたハイマンに、ガブリアスは好意に近い感情すら覚える。
そして彼が服を脱いだ理由もまた彼女は察する……それこそは、
「ガブリアス……セックスで決着をつけるぞ! 僕と勝負だ!」
ハイマンからの宣戦布告に、遂にはガブリアスの顔に満面の笑みが浮かんだ。
見ればハイマンのペニスもまた十分に充血しては屹立し、そこに勃起を果たしている。
後に分かることではあるが、このガブリアスからは他のオスを刺激し強制的に肉体を子作りの形態へと移行させる能力(フェロモン)が備わっていた。
過去に彼女の餌食となった男達があの極限状態の中においても勃起を果たしていた理由こそはそこにある。
やがてはハイマンと胸元は触れ合わんばかりまで接近すると、両者はしばし見つめ合い互いの視線を絡める。
やがてはそれもガブリアスから振り切ると、彼女は四つん這いに体位を取っては、突き上げた尻と局部とをハイマンへ見せつけては挑発をした。
彼へと先手を譲ったのである。
「いつまでも、調子に乗っていられると思うな……」
それを受けハイマンもまた両膝をついて彼女の背後に陣取ると、まずはあいさつ代わりにその巨大な臀部へと張り手を見舞った。
乾いた破裂音を響かせ、脂肪質の臀部が掌の形にひしゃげて波立つや──ハイマンはそれを両手でワシ掴んで引き寄せ、遂に挿入を果たした。
その瞬間、まるで巣穴へと飛び込んできた獲物に食らいつくかの様、粘膜を狭めてはペニス全体を締め上げてくる膣圧にハイマンは眩暈を覚える。
その蠕動運動によってペニスへ血液が集中することにより、瞬間的に脳へとめぐる血流に変化が生じたが故だ。
──想像以上の膣圧だ……早く勝負を決めないと、先のみんなと同じ轍を踏むことになる!
気を引き閉めると同時、この圧とあっては10分以内かつ一度の射精が限界であることを見極めるや、ハイマンもまた能動的に腰を前後させる動きを開始した。
そんなハイマンのピストンに対し、始まりこそは身体的優位も手伝い彼を甘くみていたガブリアスもしかし、膣内をペニスが数往復するうち、その余裕を湛えていた表情は徐々に突き崩され、しまいには吼え猛るよう嬌声を上げてはハイマンから施されるピストンに過剰な反応を見せるに至っていた。
そのカラクリはハイマンのテクニックにこそある。
しかしながら長らく研究一筋で生きてきたハイマンはけっしてプレイボーイの類ではない。
そんな彼が唯一女性を悦ばせる技量を持ち得るとすればそれは──元妻・クリスによって教授されたものであった。
そもそもがガブリアスの変節を目の当たりにした時、ハイマンの心へときめきにも似た感情が湧き上がったのは、このガブリアスの姿形がクリスに似ていたことに由来する。
そして今、過去に彼女へと施していた愛撫の悉くがガブリアスを悦ばせるに至っては──このガブリアスは、もはやクリスの模倣といっても過言ではなかった。
それゆえにハイマンは今、改めてクリスの存在を実感する。
さながら忘れて久しかった彼女とのセックスに思いを馳せながら腰を打ち付けるや、たちどころにガブリアスは激しい快感の波に拐われ、床へと額を押し付けては身悶える。
そんなガブリアスの感覚を反映した肉体もまたいっそうに強いうねりを帯びてハイマンのペニスを苛むと、もはや心臓を上回る血流の基点となったペニスは強力なポンプと化して半ば強制的にハイマンの体内における血流を促進させた。
本来巡るべき脳や心臓といった箇所の血流不足に晒され強い譫妄感を覚えると同時、ハイマンの鼻腔からは鮮血が溢れだしては、目下に置くガブリアスの尻に落ちてそこを赤く点描する。
ここまでにおける一連の性交により、もはや二人はいつ果てておかしくない状態にまでその身を熱せられていた。
そしてついにその決着の瞬間は訪れる。
一足先に絶頂を迎え、四つん這いのその背を弓形に仰け反らせては──ガブリアスが爆発するかのようなオルガスムスを受け入れた。
地球上のどんな動物からも発せられたことも無いような、それでいて聞く者の発情を煽らずにはいられない扇情的な声をガブリアスは謳い上げる。
そしてそれとタイミングを同じくしてはハイマンもまた同じくして絶頂に声を上げるもしかし──
「うぐぁぁぁッッ! あぁッッ……ッがああああァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
悦びと解放を全面に出していたガブリアスとは対照的に、こちらはこの世における苦しみの総てを一身に背負うがごとき慟哭をラボに響かせた。
それと同時、胎内の奥底において射精による灼熱の飛沫を感じ取っては、ガブリアスもまた更なる快感の追い打ちに晒される。
先に組敷いた研究員達のもの同様に子宮へと打ち付けられる生命の躍動に繁殖の本能を刺激され、ただ恍惚とその余韻に浸るガブリアスであったがしかし──ある時を境に、その心地良いはずであったハイマンの射精はその性質をガラリと変えた。
生命の脈動は、突如として鉛の如き質量と感触を以ては腹腔へと落ち込む。
その後も重く息苦しい感触に臓器を圧迫され続けるガブリアスは、いつしか膣より下の下半身にコントロールが利かなくなっていることへも気付いた。
言わずもがなの緊急事態に一変してオルガスムスの余韻は掻き消され、その原因を確かめるべく背後を顧みたガブリアスは、そこにて想像を絶する光景を目撃する。
それこそは依然として自分へと挿入を敢行しているハイマンの睾丸が、数十倍にも肥大化しては床にその身を付けている姿であった。
あまりのその異常さに目を見張るガブリアスは同時に、そんなハイマンの睾丸に突きさされた一本のチューブの存在にも気付く。
これこそが全てのカラクリの正体にして、ハイマンの最終手段……それこそは、
「ぐぅぅうううう……ど、どうだッ……マイナス196度の、ザーメンの味は……ッッ!?」
培養シリンダーの傍らに設置された、温度管理用・液体窒素のタンクより連結されたチューブであった。
今、この研究所内にある物質そして環境を利用してガブリアスを撃破することを考えた時、もはやハイマンにはこの液体窒素による『氷結後の破砕』以外に方法が思いつかなかった。
しかしながらそれを実行するにしても、そう易々とガブリアスがこれを受けるはずもない。
故に、計画実行においてガブリアスの性格や特質もまた加味し、最終的にハイマンが実行した作戦こそ──『セックス中、直にガブリアスの胎内へと液体窒素を流し込む』というものであった。
しかしながらこれを成立させるにも数多くのハードルが存在する。
まず第一に彼女を交尾に集中させ、願わくば絶頂にまで導くことだ。
性交中とはいえ、異変を察知すればカブリアスはすぐにハイマンから離れることだろう……故に、正常な思考を保てなくなるほどに彼女を悦ばせる必要があった。
第二には、ハイマンによる射精のタイミングだ。
ペニスを経由して液体窒素を打ち込む以上、その瞬間には尿道は最大径にまで肥大していなくてはならない。
そのタイミングこそが射精の瞬間であり、しかもこれはガブリアスの絶頂より早くても、はたまた遅くともいけないのだ。
作戦成功の達成条件は、カブリアスと共に同時の絶頂へと至ること──そしてハイマンは今、それを成し遂げたのであった。
第一波の射精後も弛まなく液体窒素はペニス経由で注がれ続け、遂にそれはガブリアスの全身を侵食するにまで至っていた。
そうして刻一刻と凍りゆくガブリアスはその最後の動きにおいて振り返らせた視軸をハイマンへと結んだ。
透明感のある黄金の水晶体がその中に一瞬ハイマンを移し込むも、それもすぐに氷結しては白く皮膜を覆わせ冷気の白煙を周囲に漂わせ始める。
斯様にして完全にガブリアスが凍り付いたのを確認するや──ハイマンは一際大きく腰を引く。
そして存分にそこに力を漲らせ、最後にもう一度、氷の彫像と化したカブリアスの尻へ標準を合わせるや、
「………おやすみ、ガブリアス」
渾身の力を込めて──ハイマンは最後の一撃となるピストンを打ち付けた。
その瞬間、凍結膨張を引き起こしていたガブリアスの肉体は爆散するが如くに破裂し、その結晶をラボに舞い上がらせては幻想の如き光景をそこへ作り上げた。
それらガブリアスの最後を見届けるとハイマンもまた背から倒れ込む。
もはや彼にしてももう、一握りの体力すら残されてはいなかった。
それでもしかし自身の責任を果たせたことと、そして愛すべき家族の未来を守れたことに満足しては、ダイヤモンドダストの降り注ぐ宙空をどこまでも満ち足りた想いで見上げ続けた。
この段に至っては、もはや走馬灯すらも見ることは無い。
それでもしかし意識が薄れるその直前には……──
「……ごめんよ、クリス……僕は、最後まで……嘘つきだったね………」
クリスとの約束を違えることに、一抹の罪悪感を覚えるのだった。
次に目覚めた時──ハイマンは目の前の光景を現実だとは捉えられなかった。
自分はあの時に死んでしまい、そしておそらくは天国へ召されたのだと確信したほどである。
しかしながらそこは天国でも妄想でもない、歴とした現実世界での出来事であったのだ──依然として仰向けに横となるハイマンを左右から抱きしめてくれたのは、紛う方も無い別れた筈の元・妻クリスと、幼き息子ウィリアムであったからだ。
かねてよりハイマンがクリスに抱いていたものは、『強い女性(ひと)』というイメージそれであった。
しかしながら今の彼女は表情の確認もできないほどに強く横顔を押し付けてきてはハイマンを抱き、小刻みに身を震わせながら嗚咽を押し殺していたのである。
それを前にハイマンもまた何も言わなかった。
そもそもがハイマン自身もまだ、今しがた意識が戻ったばかりということもあってかクリスの抱擁へ応えようにも満足に声を出すことすら出来ない。
とりあえずは辛うじて二人の背に両手を伸ばし、そこを労わるよう力なく叩くのが今のハイマンには精一杯の返事だった。
それから日を重ねながら、徐々にハイマンは回復していった。
その中であのガブリアスとの対決の事後もまた知ることとなる。
ハイマンが意識を失ったその直後、2交代の職員が出勤をしてハイマンとそして周囲の惨状を発見に至る。
すぐさま彼は救急とそして警察へと通報をし、ハイマンは即座にここ州立中央病院へと搬送されては事なきを得た。
膣圧の強制ポンプにより、対象の血流を促進させては血管及び心臓の破壊をするガブリアスの攻撃ではあったが、あの時ハイマンが液体窒素を己へと打ち込んで対処したことが不幸中の幸いとして作用した。
その冷却を経ることで血流が安定し、生命維持に関わる血管や臓器、そして脳の損傷は免れたのである。
しかしながら、その作戦ゆえに液体窒素を介させたペニスと睾丸に至っては凍結破砕されたガブリアス同様に破壊されて、治療の施しようが無かったのだという。
それでもハイマンはこの成果を十分なものだと感じた。
ガブリアスの撃退に成功したことは確かであるし、そして何よりも今──ハイマンは生きて見(まみ)えることは叶わじと思っていた最愛の二人に会うことが出来たのだから。
今は、それで十分だった。
その成果を両腕に収めたハイマンは、今日までの人生において感じたことも無かった達成感と満足の中で、再び眠りへと落ちていくのだった
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かつての研究所は──閉鎖後すぐにその上へ新たな建物が建造されたことにより、もはや何人もそこへ立ち入ることは叶わなくなっていた。
当時この事件を調査しようとしていた地元警察も、その日のうちに上層部からの命令によってそれらが打ち切られて箝口令が敷かれたことにより、もはやこの事件の真相を知る者はハイマン以外には存在していない状況となっていた。
当然ながら現場検証も行われることのなかった研究所には、当時の被害者であった研究員達の死体もそのまま放置された。
件の職員達もまた、その天才性ゆえに世間からは爪弾きとされた者達ばかりであったから、そんな彼らが行方不明のままであったとしてもそれを気に掛ける人物などはいない……もはや一連の事件はその真相を知る者も無く、そして完全に忘れ去られては永劫にこの地下へと封じ込められる形となった。
しかしながらこの事件には、ハイマンを始めとした研究員達や生み出されたガブリエル以外にも、もう一人の当事者が居たのだ。……否、その最中に『誕生した』というべきか。
現場のひとつとなった喫煙所に転がる研究員達の遺骸のその傍らに──卵が一つ鎮座していた。
これは元よりこの研究室にあったものではない。
それこそはあの日、例のガブリアスが出産を果たしたものであった。
元より3段階進化の状態から作り出されたガブリアスには、その時すでに繁殖の為の機能と、そして肉体の発育もまた完了していた。
僅か1時間半ばかりであったあの期間に置いて彼女は懐妊をし、そして出産もまた果たしてたのだ。
しかもその卵は従来のオスの遺伝子と結合して受精卵が作られる部類のそれではなく、たとえガブリアス一体だけであろうとも産卵が可能な、言わば単体生殖における彼女のコピーそれに他ならなかった。
そんな卵が一つ──忘れ去られた地下施設の死骸の傍らで蠢動した。
小刻みにその身を震わせる動きは能動的なものであり、それこそは今この卵が孵化の瞬間を迎えようとしているに他ならない。
これより生まれ出(い)ずるものが何者であるのかは誰にもわからない。
それが神の愛に恵まれることなく、不世出にこの地下で朽ち果てる弱き命であるのか……あるいは悪魔の意を得てはこの世に報復を果たす復讐者となり得るのか……──