ポケモン小説wiki
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簡易キャラ紹介①:フィリア(フーディン♀)
 元は捨てポケ。卒業までにパートナーポケモンを一匹ゲットしなければならない制度のレンジャースクールに在籍していたアサが、高一の時に仲間にしたポケモン。当初は育て屋で余った卵を引き取ろうと考えていたのだが、保健所にてガス室で殺される際にミラクルアイで結界を破り辛くも脱出したケーシィの情報を聞き、その底力に惚れて引き取った者。
 無邪気な性格のために手が速く打たれ弱い。また、甘いものが大好きでソフトクリームやクレープを買ってあげると喜ぶが、反面ピーマンなどは苦手。前述の通り、元来は無邪気な正確だが、再び捨てられることを恐れるあまり飼い主に対して異常なほど媚びていて、性行為で相手を繋ぎとめようとするなど行うなど心の傷は結構深い。
 名前の由来は愛の女神フィリアから。ペガラに憧れを抱いたフィリアのためにアサがつけた名前である。

 十八番であるサイコキネシスは以外と使用されておらず(強力だが射程距離が短いため)どちらかというと三色玉の方が良く使われる。これは、向かい合った状態から始まるポケモンバトルと違い不意打ち主体で敵と戦うことが原因である。
 重力やミラクルアイも使うが、戦闘中に使える水準ではない。

簡易キャラ紹介②:スタン(レントラー♂)
 GTSの普及によりほかの地方のポケモンもこの地方で見かけるようになったが、その弊害たる例の代表。繁殖してしまった移入種であるレントラーを駆除するミッションを与えられた際、その実力を見込まれて仲間にされたポケモン。
 元野生である影響か、口調や行動は乱暴で粗野ではある。とはいえ本来群れで生きるポケモンであるためか、群れを守ろうとする一面もあるので、一概にその野生ぶりがマイナスとは言い切れない。そんな群れを守ろうとする気質ゆえか、正体を偽ったペガラに対しては敵意をむき出しにしていたりもする。

 性格は能天気で、すっぱいものは好き。そのため腐りかけ発酵して酸味を帯びた肉でも平気で食べる。ただし、柑橘類は香りが苦手だったりする。また、ベジタリアンの人間の匂いが好きで異常なほどの執念でキスをしたり顔を舐めようとしてくる。
 名前の由来は『&ruby(stun){気絶};』から。
 技は、牙技の他スパークがメインウェポンだが十万ボルトや充電も使用する。フィリアと比べると器用さが足りない。
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 二人、空の旅の最中も雑談には事欠かず、風切る音に負けないように大声で話し合いながらの帰り道。
「ところで、さっきのラティアス……ペガラに対してお前何の反応も示さなかったな」
「私、細長いポケモン以外には興味ないので……まぁ、かわいいとは思いましたけれど。レックウザなら狂喜乱舞したのでしょうけれどねぇ……」
「また変わった趣向を……お前は細長いポケモンというよりは細長いもの全般が好きなんだろうに。だからお前、鞭が好きなんだろう」
 アサに言われて、オロチは苦笑した。
「まぁ、そうかもしれませんね」
「それに……あの女がかわいいって言うけれど、あいつが可愛らしいのは見た目だけだぞ?」
「伝説のポケモンだから強いってのはわかりますけれど……実は戦いでは凶暴だとか?」
「『戦場カメラマン グァルディア』で検索してみるといい。あいつだ。
 ポケモンには国境なんて関係ないし、優れた擬態能力の前には歩兵が肉眼でやつを見つけることは不可能に近い。その能力を生かしたカメラワークは……命知らずの狂戦士と呼ばれているほどさ」
「え~……そんなに大物なんですか、あの人」
 早速検索しようとでも言うのか、オロチはカイリにつかまる手を片手にして携帯電話をいじり始める。オロチ自身も携帯電話も落ちなければいいのだけれど。
「ま、公には人間のカメラマンってことになっているけれどね。読者の中でグァルディアの正体を知っているやつは……俺を含めて数人さ。両手で足りる。兎に角、監視員の名前は伊達じゃないってことさね。かわいいと思っていると知らないうちに盗撮されているかもしれないぜ」
「それは、かわいいかわいくないの次元じゃないですってば」
 携帯をいじりながら話すオロチは大笑いした。


 二日後……ペガラが誘ったとおり、火曜のこの日にアサは再び掘り川育てや本舗を訪れていた。今日の受付業務は休みであるが、そこは顔見知りということでいろいろ都合も利くため、この店の主である一樹から直接スタンを引き取る予定だ。
 受付は通らず、厩舎にて世間話から始まり、話が盛り上がるにつれてスタンの顛末を話す段階になると、一樹はいかにも上機嫌といった様子で息子自慢を始め出した。
「へぇ、交尾したあとの惨状は子供にはきついと思いますが……それを手伝わせるとは……」
「あぁ、ツトムにとっちゃそんなのまったく問題ないみたいだ。君のスタンとハーブちゃんのアフターケアはツトムがほとんど一人でバッチリやってくれたんだ。このままじゃ児童労働をさせているって疑われるんじゃないかってくらいにね。あいつは仕事を覚えるのが早くて助かるよ……」

「おやまぁ……それは貴方には相応しい息子ってことじゃないですか?」
「育て屋が自分の子供育てられないと箔も付きませんしね。まぁ、ポケモンに言葉を教えられるんだ。よく出来た息子を育てるくらいなら、もう楽勝でしょ」
 フィリアの言葉に追従するようにアサが褒めちぎり、一樹は照れながらも純分にうれしい差を感じている様子。
「相応しい息子かぁ。嬉しい事言ってくれるねぇ。だが、ここに預けられたポケモンもそうだが、トレーナーや俺だけが育てるわけじゃない。一緒に生活するポケモンや、自然現象が育ててくれることだってある。お前だって、俺の息子を育ててくれているんだって確信しているから、感謝しているよ」
「それは、俺も十分十二分に貴方へ感謝しているから貸し借り無しってことで」
「世の中、ギブアンドテイクってことかい」
 さて、と一樹は話題を変える。

「お前のレントラー……スタン君だが、一日中精を搾り取られ続けたらしく、交尾が終わった時は抜け殻のようだったな。やっぱり、数秒と一日中の差はどうしても埋めにくいみたいだ」
「あぁ、うん。やっぱり。スタンの奴、『雌をよこせ、交尾させろ』ってやたら五月蝿かったから良い薬になってくれれば楽なんだが……」
「御主人ってば中々に鬼畜ですね」
 物騒なセリフも無邪気に笑い飛ばすよう、明るい声色でフィリアがツッコミを入れると、ほどなくして受付には笑いが漏れた。
「それなんだが、どうやらいい薬になったみたいだぞ。お前のポケモンだから、サービスで俺が直々に躾をしておいたが……『ハブネークと交尾させるぞ』って耳元で囁けば色んな命令に従ってくれるようになったぞ。良かったな、これでお行儀もよくなるぞ」
 ……ウールがどれだけ暴力を振るってもどうにもならなかったスタンをそこまで調教するとは、恐ろしいのはハーブちゃんか若しくは一樹さんか? どちらにせよ、スタンが調教できたというのはとてもいいことだ。一人と一匹に感謝しておこう。
「それで、ハーブちゃんの様子はどんな感じでしょうか?」
「どんなも何も、凄く元気だよ。きちんと受精されたようだし、日がたてば産卵も始まるだろうさ。顔も女の顔になっていて……うん、美人だって言えるんじゃないかな。来る時よりもいい顔しているよ……俺の嫁も処女を捨ててからからすっごい美人になったからなぁ、やっぱりそういうもんなのかねぇ」
「普通は恋した時に綺麗になるって言いますけれどね」
 言って、アサは笑う。

「あぁ、だが本能に根ざした思考回路を持ったポケモンほど恋の段階をすっ飛ばしやすいものだからな。恋愛なんてあって無いようなモノだったりすることも多いし。そういうポケモンは恋をすっ飛ばす代わりに初体験を通して美人になるんだよ」
「その言い方だと、奥さんとは恋愛もろくにせずにセックスしたと言う事になりません?」
 フィリアがズバリなツッコミを入れ、口元を押さえて小さく笑う。
「あぁぁぁぁぁぁ、違う違う。今のは無し!! 俺達はちゃんと愛し合って結婚して、結婚してからしたんだってば」
「はいはい、聞かなかったことにします」
 大慌てで否定する一樹さんを二人で笑って、アサはスタンのボールを受け取る。

「ペガラとツトム君は今どうしていますかね? 今日は遊びに来いって言われたのでお呼ばれしたわけなんですけれ土ど……」
「あぁ、あいつらなら今家に居るんじゃないかな? wiiで遊んでいるんだが、何処で覚えたんだかしらねぇがペガラの奴強くってなぁ。ポケモンのくせにテレビゲームが上手いってありなのかよ? 一緒になって遊ぶと全く勝てないんだわ」
「はは、テレビゲームの強いラティアス……なんだか想像できます。ペガラが強いのは……人間らしく育てちゃったのが間違いなんじゃないかと。分かりました、家にお邪魔します」
「おう、これからも御贔屓に」
 育て屋の施設自体には隣接している家だが、受付や厩舎は離れた位置にある。まず最初に厩舎を出ると、監視していたスカイアイが次はどうする? とばかりにアサの足元に降り立った。アサは口笛を吹き鳴らし『もう帰ってもいいよ』と指示をしてポフィンを渡す。帰りは、ラティアスというムクホークよりも遥かに豪華なポケモンに送ってもらう算段だから、スカイアイをいつまでもここに留まらせておく意味はないだろう。

 嬉々としてポフィンをついばんだスカイアイは一度アサに頬を寄せ、甲高く鳴いて感謝の意を示すと、言われたとおりさっさと住処へ戻っていった。ずいぶんとまぁゲンキンな奴である。
 しばらく歩いて家の門をくぐり、呼び鈴を鳴らすとツトムが出迎える。クーラーの一つでも付けたいところであろうが、子供部屋にはクーラーが付いていないがために、胸の部分が絞ればしずくが落ちそうなほどに濡れたシャツでのお出迎えだ。
「アサミさんこんにちは。元気でしたか?」
「はい、こんにちはツトムさん。そりゃもう、体が基本だから元気じゃなければ職業になりませんからね。もちろん、元気ですよ……私もご主人も」
「こんにちは……にしても、その見た目如何にも暑そうだって感じだなぁ、お前。クーラー無いなら氷タイプのポケモンでも家に呼んだらどうだ? 氷タイプは預けられていないのかい?」
「いえ、氷タイプは居ませんけれど、ペガラの凍える風で部屋を冷やす事は出来るんですがね……」
「五本勝負で勝たないやってあげませんわ。コレなら、こんなテレビゲームの勝負でも文字通り暑くなれるでしょう?」
 口に手を当て、ペガラはスクスと笑う。

「って言われていて……現在負け越し中なんです。ドラゴンタイプだからか知らないですけれど、ペガラは暑さにむちゃくちゃ強いから涼しい顔しているのがムカつく所で……」
 言葉を次いだツトムは、ハァと溜め息をついて苦笑する。
「じゃ、俺も加わって負かせてやりたいところだけれど……パーティーゲームとかはあるのかい?」
「ありますよ~。っていうか、今二人でパーティーゲームの勝負をしていた所なので、フィリアさんも加えて一緒に遊びましょう」
「おぉ、そりゃあいい。是非やってやろうじゃないか」
 そうやって、俺らはテレビゲームに興じることになった。ペガラのみ突出した実力を持っているが、三人の壮絶な袋だたきによりなんとか、順位が安定するなどして場も盛り上がった頃、不意にツトムが雰囲気を壊すような一言を発した。

「あの、アサミさん……夏休み前の話なんですけれど、アサミさんが俺の学校で講演を行って……その時、レイン団の事について質問されたじゃないですか。その時、アサミさんはレイン団の活動のことを『目的には共感するけれど手段には共感できない』って言っていたんですが……詳しい事は僕達が大人になってからって言って詳しい事は言ってくれなかったじゃないですか」
 ツトム以外の三人が、何かまずい物でも見たかのように息を呑む。盛り上がった場が一気に静かになってしまった。

「う~ん……育て屋のお前ならばもう大丈夫かもなぁ。ポケモンの交尾を覗くのなんて日常茶飯事だろう」
「ま、まぁ……。将来仕事を継ぐかもしれないからって、仕事を覚えさせようとしてくるから」
 自分の辞書にオブラートに包むと言う言葉が無いかのような包み隠さないアサの質問に、こもりがちな口調でツトムは答える。
「レイン団って一体どういう集団なんでしょうか? なんだか、ポケモンの体格や毛並みの美しさを競うショーを襲ったりしているって聞いたけれど……それが、交尾とかとどう関わって来るんでしょうか?」
「おや……てっきり知っているものかと思っていたが。ロケット団やらヤミヤミ団はともかくとして、レイン団くらいはちゃんと勉強しなきゃだめだぜ? 自分の地方の組織なんだから」
「……ニュースとか新聞を見るのはかったるいっていうのもあるけれど」
 溜め息を挟み、ツトムは続ける。
「ニュースが始めると、父さん番組を変えちゃうんだ。レイン団について、嫌な思い出でもあるみたいに……」
「あ~、そうね。一樹さんはレイン団の話題だけは避けますから。なんか触れたくない過去でもあるのでしょうあ?」
 ツトムの愚痴にペガラも相槌を打っていることから、まぁ本当の事なのだろう。息子に追わせたい道もあるけれど追わせたくない道もあると言う事か。しかし、ペガラの奴もこうしてみると白々しい。

「なるほど……レイン団についてはな。そうだな……レイン団って言うのはね、さっき言ったロケット団やらヤミヤミ団とは一線を画する存在だ。それらの組織は自分達のためにポケモンを利用する組織だったんだけれど、レイン団はポケモンのために戦う組織でね。一言にポケモンを愛する……と言ってもね、愛の形が色々あるっていう事を実感させられるよ」
「ごめん、アサミさん……全く分からない」
 すみません、とツトムは笑ってごまかす。
「ふむ……こういうのを説明するのは苦手だ。フィリア頼むよ」
「了解しました。では、順を追って説明しますね。まずですね、ポケモンショーというのはポケモンの見た目の美しさを競うものでして、ポケモンバトルともコンテストとも違うものなんです。元々ポケモンは愛玩用……つまりペットではなく、ミルタンクやメリープのように肉、乳、毛皮などを目的に飼育されるものや、畑や工場、建設などで作業に使うもの。
 狩りや戦争、用心棒や闘技場など戦闘に使用するものが主流というかそれしかなかったのです……まぁ、神として崇めるために村全体でポケモンを飼っていたっていう時代もあるにはあったそうですが、個人的なペットとしての用途は皆無でした。
 時代がすすみ貧富の差が表れ始めるにつれ、裕福な貴族や資産家など経済的な余裕が出てくると、エネコロロのようにあまり役に立たないポケモンを飼うようになりました……ペットとしての利用の始まりですね。すると、アクセサリーや彫刻品、絵画や家具などにどれだけお金を使っているかがステータスとなる貴族たちの間では、誰のポケモンが一番美しいかを比べ合うようになるのは、必然的な事ですね。
 その遥か前から、バトルやコンテストの原型になるものはあったから成立としては一番遅いモノなのです……ポケモンショーは」

「あの~……ポケモンショーの歴史はどうでもいいんですけれど」
「ふむ……じゃあ、ちょっと飛ばして重要な所からいきますね。重要なのはですね、現在のポケモンショーは種別ごとの美しさの基準となる『スタンダード』というものにとらわれ過ぎてしまっていることなのです。毛並みや模様なんかはまだいいのだけれど……骨格。例えば、頭の形や脚の形ね……そう言うモノの美しさを競うと言うのはいいことだと思います……人間でもやっている事ですし。
 けれど……う~ん、そうですねぇ」
 フィリアは、ツトムの勉強机から自由帳と鉛筆を取り出して、ハイヒールを履いた人間の絵を描く。
「例えば、人間の女性について考えてみてください。ウエストは引き締まりくびれていて、胸は大きく腰は美しい曲線を描く。俗に言うボンキュッボンという体型なのですが、なんとなく理想的な女性って感じがしませんか? 」
「ん……まぁ……なんとなく」
 フィリアは書き終えた絵を差し出す。お世辞にもうまいとは言えない絵だが、言いたいことはなんとなく伝わってくる程度の均整は取れている。
「さて、今度書いた絵もウエストは引き締まりくびれていて、胸は大きく腰は美しい曲線を描いています……が、これを美しいと思えるでしょうか?」
 フィリアが再び描いた絵は、確かに言うとおり胸も大きく腰はくびれているが……
「胸は大きすぎてなんというか邪魔そうというか重そうな感じ。腹のあたりは内臓入っているの? って感じだし、腰は……その、エルレイドみたいだし……脚も手も細すぎでサーナイトやフーディンみたいに念力でもないと支えられないんじゃない?
 少なくとも……こんな人間見たら引いちゃうなあ……あ、さっきの絵のような人を見ても興奮するわけじゃないけれどね」
 子供らしい率直な意見がおかしくて、フィリアは微笑んだ。

「ポケモンショーに出場するポケモンに、これと同じような事が起きているんです。ポケモンの種類にもよりますが、例えばグラエナ……グラエナは背中に黒い毛を背負っているけれど、その黒い毛は背骨を中心に二股に分かれ、灰色の毛が覗いている。その部分を美しく見せるために背骨の形の美しさというのがあるのだけれど……その、背骨の美しさの基準となる文章を要約すると、『変形していれば変形しているほど美しい』ってことになるんです。
 ある程度……本当に緩やかな曲線を描くくらいならば曲がっていた方が美しいのですし、その方が狩りの時に理にかなった体型となるのですが……けれど、ショーに出演するグラエナは明らかに異常なんです。
 背骨って言うのはですね、体のあちこちに命令を下す神経の束が集まる脊髄がある場所なんです。ですから、背骨がおかしいってことはつまり脊髄もおかしくなりやすい。脊髄がおかしいってことは即ち全身に異常が現れる……
 可哀想だと思いませんか? そんなポケモン達を助けようっていうのがレイン団の目的なんです」
「それで、ショーを妨害する?」
「えぇ……それだけでなく、闇討ちやら放火やら色々やっておりますが、そんな所です。納得いただけたでしょうか?」
「うん、けれどロケット団はポケモンを改造しているっていうことで物凄い批判の的に晒されているけれど……どうしてポケモンショーに参加する人はそう言う風に言われないの? 背骨を曲げたりとかしているんでしょう」
「う~ん……改造とはまたちょっと違うのですよ……これが、皆がもうちょっと大人になってから……っていう理由なんですが……つまり、何をどうすれば子供が出来るか分かっていることが条件ですねぇ。例えば、背の高い男と背の高い女の子が結婚して……まぁ、子供生むだけなら結婚しなくても良いんだけれど、子供を産んだらその子はどんな子供になりますか?」
「背が高くなる?」
「例外はありますが、そうです……では、その生まれた子供同士、または子供と親が子供を作ったらその子供はどうなるでしょう?」
「ちょっと待ってよ……兄妹で子供とか親と子供であり得ないでしょ?」
 驚くツトムの顔を見てフィリアは微笑む。

「あり得るのですよ。自然界ではほとんどない事ですけれど……ちなみに答えはですね、例外もあるけれどやっぱり背の高い子供が生まれるのです。それを繰り返せば、背が極めて高い子供の出来上がりです」
「う、うん……それで?」
 ツトムは賢い子とは思っていたが、きちんと話しについてきているあたり賢い子なのだろう。話が常識の外に飛んでしまっているおかげで戸惑ってはいるようだが、話を続けても問題なさそうだ。フィリアもそう判断したようで、続けた。

「でも、それは問題があります……何か分かりますか?」
「え~と……さっき言った、骨格の変形そのものが問題なのはもちろんのこと、そうですね……背が高い以外の変な所も受け継いじゃうとか? ほら、遺伝する病気とか、そういうの」
「あたりです、ツトムさん。ペットショップで取引されるウインディなんかが、血管の病気を患ってしまっているのはよく聞く事ね。元々大型なポケモンゆえに、高い血圧を維持しなければいけないウインディは心臓に負担をかけやすいですから、野性だろうと飼われていようと、死因が心臓病となるウインディは少なくないのですが……。
 けれど、野性の場合は、幼いうちに心臓病を起こすような奴は子供を残せない……だから、遺伝しない。ですが、人間に育てられたポケモンは心臓病が起きる状況でも、生き残ることは存外に多い。そもそも飼われていれば狩り……ひいては運動をする必要もないから、心臓病が発症し易い状況も訪れにくいのです。それどころか、心臓が弱い個体は、比較的無茶な動きをしないことが多いから、心臓が弱い子の方がお行儀がよく見えます。
 つまり、ショーに出しやすいし飼いやすいのですよね……という事は野性とは逆に心臓病に弱いウインディほど生き残れることになってしまう。
 ……ですから、野性のウインディや戦闘用のウインディと愛玩用に特化されたウインディとでは心臓の強さに大きな隔たりがある……戦うために育てられたウインディは、野性と同じく若いうちは心臓病にはかかりにくいですけれどね。ショーや販売のために育てられたウインディは……ガーディの頃からすでに……心臓病で薬漬けとか、手術とか、仏さんになる((要するに死ぬという事))ことも少なくないのです。
 だから、バトルに出すポケモンは、購入せずにゲットするのを推奨されているのですよ」
 ふぅ、と息をついてフィリアは訪ねる。

「……改めて聞きます。可哀想だと思いませんか? 普通に暮していれば、兄弟姉妹や親子同士で子供を作るなんてことは有り得ないのに……人間の手で無理矢理そうさせられてしまって、弱い子を産まなければなくなってしまう。
 自分の子供に奇形が発生したり学習障害があったら人間だろうとポケモンだろうと嫌なことには変わりないでしょう?」
「子供を作るのが無理矢理……なんですか?」
「ポケモンが、それを望むと思うでしょうか? 例えばスタンさんですが……レントラーはですね、雄はある程度大人になると群れを追いだされるのです……それは、今言ったように親兄弟との交配を避けるための本能的な防衛手段なんだと思います。ツトムさんには大人にならないとわからない感覚ですし、もしかしたら大人になっても分からない感覚かもしれないですが、異性と一緒にいるとそれだけで交尾を意識しちゃうものですから……特に、本能的に生きている動物であればある程、です。それは家族である無しを問わずに……ですね。
 異性が欲しい、子供を作りたい……そういう本能の前には、近親交配はタブーであると言う本能は押しつぶされてしまうもなのでして。それを続けていくと……そう、そうやって改造されたかのように異常な形をしたポケモンが生まれてしまうのです。ロケット団のやり方と違うだけで、ポケモンに負担がかかるのはどちらも同じことだというのにですね。
 しかし、ポケモンに対する近親交配を禁じる法律は今のところ無いのです……人間には、三親等以内の人とは結婚できないと法律で定められていますが、ポケモンにはそれが無い。レイン団に属していた人たちだって、元はポケモンに対する色んな法律を整備するのが目的で、署名やデモを行うくらいが関の山だったはずです。ですが、いつまでたっても行政やら国やらが動かないものだから、強硬手段に出るしかなかったのですよ。
 その手段はともかく、目的をいけないことだと思う人は少ないはずですよ……だって、ムカつくじゃないですか。『障害児を産むために兄弟と子供作れ』って言われているようなものですよ!? ふざけんじゃねぇって感じですよ。
 こんな風に、本音で話すことは子供の前ではいえませんからいいってしまいますけれど……私、レイン段の活動はむしろ『もっとやれ』って思っているくらいなんです。ねぇ、ご主人?」
「まぁね。それくらい厳しくやんないと、法律を帰ることなんて無理だろうさ」

「ポケモンの美しさを競い合う事が悪いことだとは思えませんし思いません……けれど。なまじショーを行うことにより美しさの基準が設けられる事で、ペットショップ矢ブリーダーが商品とするポケモンの形が本来あるべきものとはかなり歪められる……厳しく取り締まらなきゃいけない事です」
 フィリアは、少しばかり興奮した目で歯軋りしていたが、やがて落ち着いたのでゆっくりと息を吐き出した。喋り過ぎたフィリアが呼吸を整えるのを待つように沈黙を挟んだが、やがて何かきっかけがあるでもなくツトムは口を開いた。
「さっきの質問だけれど……やっぱり、俺はポケモンが可哀想だと思う。レイン団が、強硬手段に出たって言うのも……やり過ぎとは思うけれど納得いく」
 うん、とフィリアは頷き、ツトムの頭を撫でる。
「ですか、ツトムさん。将来ポケモンの命を預かる仕事に就くかもしれないんだから……そういう気持ちはいつまでも持ち続けてくださいね」
「はー……フィリアさんてば見事な説明するのはいいけれど、ゲームしながら喋るのは成績を下げる要因ですわよ?」
 ツトムはペガラの言葉で現実に戻されてゲーム画面を見る。なんとなく、上の空でゲームを続けていたツトムとフィリアの成績は見事に底辺争いを繰り広げるありさまになっていた。
 フィリアは少し恨めしげな視線を向けて拗ねていて、ツトムはツトムで『あちゃ~……』と、呟いて苦笑していた。

「なんにせよ、説明ありがとうございますフィリアさん……けれど、どうして父さんはレイン団の事が話題になるのをあんなに嫌がるんだろうなぁ? フィリアさんのお話し……別に変な所はなかったけれど」
「レイン団の話が話題に上るのを嫌がる理由は……詳しい事はいえないけれど、知り合いにレイン団がいるからなんです。もう壊滅したとはいえ、色々思う所があるんじゃないか? 一樹さんも顔が広いから」
 ツトムの疑問に答えたのはアサ。言っていいものかとも思ったが、ツトムにならば構わない気もした。アサの答えでツトムは一定の納得をしたようで、『大人って複雑だね。俺将来大丈夫かなぁ』と、力無く笑ってゲームへと集中した。
 全く、とても言えやしないね。ここに居る一人と二匹が元レイン団の団員だなんて。


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