[[作者カヤツリ]] 作者[[カヤツリ]] #hr 犬は茂みで嘆き、 竜は&ruby(みなそこ){水底};に潜り、 &ruby(こうもり){蝙蝠};は海峡を渡り、 猫は星空を見上げ、 &ruby(からす){鴉};は鉄塔で待つ。 これは、あるトレーナーの、五匹のポケモンのハナシ。 #hr ◇ &ruby(ああ){嗚呼};、マスター。 貴方は何でまた、あたし達を置いて、無慈悲にも去ってしまったのでしょうか。 あたし達が&ruby(あなた){貴方};の期待に応えられなかったからでしょうか。 それとも、そもそも貴方はあたし達に関心が無かったのでしょうか。 今となっては分かりません。 貴方の去ってしまった今では……。 私はいつも貴方の先鋒でした。 特殊技を得意とするあたしは、貴方に刃向かう数多くの敵を焼き尽くす、忠実なポケモンであったと思います。 少なくとも、あたしはそのつもりで貴方にお仕えしてきました。 そして貴方は貴方で、自身の壮大な計画に全力を傾倒していましたね。 見識の浅いあたしにとって、貴方の計画はあまりに深遠で、複雑かつ理解し難い物ではありました。 ですが、何かに向かって前進しているという目的意識のもと、貴方の側で一緒に働ける事はあたしにとって心踊る経験であり、幸せな時間でした。 確かに貴方は、あたし達と遊んでくれる様なトレーナーではありませんでした。 普通のトレーナーなら手持ちのポケモンと走ったり戯れたり、ブラッシングや散歩などをするものだと思います。 貴方は一切そういった事はしてくれませんでした。 世間一般から見れば、あたし達はさしずめ道具の様に扱われているとでも言うのでしょう。 貴方は確かに厳しい人でした。 しかし、マスター。あたしは世間がどう思おうと、貴方の事を慕い、主人として愛していました。 厳しい貴方の要求に応えながら、ただ貴方の側に居る事があたしの全てであり、それだけであたしは世に生まれたどのヘルガーにも負けないぐらい幸福でした。 不幸にしてあたしは人間の言葉を話せませんが、もしも話せたなら、貴方に伝えたい事を四六時中延々としゃべっていたでしょう。 そう考えると、神があたしに言葉を与えなかった事は賢明な判断だったかもしれません。 故に、あたしが貴方に気持ちを伝えたい時には、鞭の様な尻尾を振って飛びつくしかありませんでした。 普通の主人なら、そこであたしを抱き止めて、程よくカールした角や短めの毛の生えた身体を撫でて、構ってくれるのでしょう。 でも、あたしが甘えて飛びかかる度に、貴方はひどく迷惑そうな顔をして、あたしを向こう側へ押しやりました。 貴方には毎回拒絶されましたが、それがあたしにとっての精一杯の愛情表現だったのです。 あたしの気持ちは解って頂けていたのでしょうか。 今となっては解りません。 貴方がいないのですから。 ただ、貴方がいても解らなかったかもしれません。 貴方は感情を表に出さない人でしたから。 ともかく、あたしは貴方といられる日常が楽しくて仕方ありませんでした。 あたしは一生貴方に添い遂げる気でいました。 手持ちの先鋒として、忠実な番犬として、共に目標に向かって&ruby(まいしん){邁進};するパートナーとして。 ところが、いよいよマスターの計画が実行に移される段になって、思いがけない事態になりました。 あの奇妙な世界での冒険は、今でもあたしの記憶にしっかりと焼き付いています。 天地がひっくり返り、不安定な空間の中、当てもなくさまよった事を。 生き物らしい生き物は見当たらず、そこにあったのは混沌と矛盾、逆行と無秩序の世界でした。 息をしているのは、あたし達とマスターだけ。 不気味な静寂のなか、貴方だけが強い信念に突き動かされて、奥へ奥へと進んで行きました。 今思えば、あれは恐ろしい経験でした。 あたし達がついていったのは、マスター、貴方を単に皆愛していたからです。 そして混沌の奥底に私達が着いた時、あの子がやって来ましたね。 あたし達の事を毎度邪魔立てしていた例の子です。 別にあたし自身はあの子の事を憎いとも嫌だとも思っていません。 ただ、マスターの敵だという認識でしかありませんでした。 あたしは貴方の先鋒として戦いました。 それが貴方との最後の別れになるとは露知らず。 あの子の先鋒はドダイトスでしたね。 生憎、あたしはタイプの関係上地面技には弱いのですが、焔タイプとして牽制しなければなりません。 あたしの高威力な地獄の業火を予想してか、あの子はポケモンを変えて来ました。 交代でフローゼルが自信満々で現れた時、あたしは思わず吹き出しそうになりました。 多分マスターもそうだったでしょう。 あたしが苦手な水に対策を施していないとでも思うなら、それは見当違いと言うものです。 あたしは雷の牙をフローゼルに突き立て、彼はそのまま瀕死となりました。 すこしばかりやり過ぎた感はありましたが。 だけど、そこから先、あたしは踏ん張れませんでした。 再び現れたドダイトスに火炎放射を浴びせて大打撃を食らわせたものの、やはりレベル差と言うものでしょうか、耐えられて地震で押しきられてしまいました。 意識が薄れていくあたしの視界に、マスター、貴方が一瞬だけ映って、あたしは気を失いました。 それから……貴方はあたしを置いて……いなくなってしまったのですね……。 あたしが気がついた時、あたしを含めた貴方の手持ち全員は、トバリの貴方の部屋にいました。 そして他の幹部の方から貴方が去った事を聞かされた時、あたしは自分の中で何かが崩壊するのを感じました。 あんなに慕っていた貴方は、あたしを残していなくなってしまった。 あたしは一方的に別れを押し付けられたのです。 悲嘆にくれたあたしは、衝動的に人々の制止を振り切って、トバリを後にしました。 泣きながら駆ける214番道路は暗く、冷たく、あたしは惨めでした。 生まれ故郷にたどり着いたあたしは一晩中、泣き疲れて眠りに引きずり込まれるまで、一人むせび泣いていました。 その時のあたしの咆哮は付近の住民を震え上がらせたでしょう。 地獄の使いの咆哮は、喪失の苦しみと深い悲しみに縁取られていましたが、それに気付いた人はほとんどいなかったでしょう。 ただ、あたしは死ぬほど悲しかったのです。 それから一年が経ちました。 あたしは今、小さくつましい家庭を持っています。 伴侶はグラエナです。 彼は1ヶ月近く周りを撥ねつけ続けたあたしの理解者で、あたしと同じく主人を失った身でした。 同じ悪タイプということもあったのでしょう。 互いの存在に大きな慰めを得た二人は結ばれ、その間には子供が一人生まれました。 214番道路で三人は、そこそこ幸せでそこそこ充足した生活を送っています。 それでも誰かが側の道路を通る度にあたしは、マスター、貴方ではないかと確かめに行きます。 そして貴方でないとわかる度に、とぼとぼと木立の中に戻って行くのです。 彼は過去とは決別すべきだと言いますが、あたしには貴方がいつか、ひょっこり現れるのを諦めきれないのです。 そして月に一度、貴方と過ごしたトバリの町を見にフラりと出かけます。 そこに行っても、あたしの傷は一向に癒えないのですが。 マスター、貴方は知らないかもしれません。 あたしの悲しみがいかに深いか、あたしの記憶に貴方がどれほど焼き付いているか、知らずに世界の何処かをさ迷っているのかもしれません。 しかしマスター、あたしは貴方を永久に慕い続けます。 例え拒まれようとも、共に過ごした年月は、あたしにとって無益ではありませんでした。 あたしの主人として、貴方は心の中で永久に特別な位置を占めるでしょう。 あたしは貴方が何をしようとしたのか、詳しくは知りません。 壮大な善行か、はたまたとんでもない悪行だったのか、それすらも解りません。 確かに確実な事はただ一つ、貴方はあたしの愛した主人でした。 それがあたしにとって何より大切な真実であり、それで十分でした。 ですから今、このあたしが望むのは、日の下で貴方と再びあいまみえる事です。 214番道路の住処に&ruby(おうが){横臥};するあたしが切に望むのは、たったこれだけなのです。 ですから、この願いだけでも叶えてはくれないでしょうか。 嗚呼、貴方は何であたし達を置いていってしまったのでしょうか。 #hr ◇ 俺は弱かった。 世に&ruby(あまた){数多};いるポケモンの中でも、常に最弱のレッテルを張られる存在だった。 釣り人は俺を見て舌打ちし、図鑑にさえ不名誉な解説がつきまとった。 川の流れに逆らえない、跳ねるだけ、俺はまさしく物笑いの種でしかなかった。 ポカンと開いた口、焦点の定まらないどこか抜けた目つき、何より楽天的な配色。 王族の名を冠しながらそれに不相応、不幸な種族に生まれた事を何度となく呪った。 すなわち、俺はそんなコイキングの一匹だったのだ。 そんな俺に手を差しのべたのが、&ruby(あるじ){主};、貴方だった。 不思議な&ruby(えにし){縁};があったのか、世にいるコイキングの中から主は俺を選んだ。 主、貴方が俺をボロの釣竿で釣り上げたその瞬間から、俺の運命は大きく変わったのだ。 主が俺に求めたのは強さだ。 全てを畏怖せしめるような力、貴方が俺に課した試練はその力を手に入れるという、コイキングの最終目標だった。 主、貴方は俺に強くなる機会を与えてくれた。 目の前のチャンスを逃がすものかと、俺は必死に努力した。 それこそ、ヒレが擦りきれ、鱗が剥がれ落ちるまで。 しかし俺の歩みは非常に遅かった。 ろくな攻撃手段を持たず、自分で経験値を稼げない俺は、貴方の手持ちの中で明らかな足手まといだった。 周りはドンカラスやマニューラといった猛者揃いの中で、俺は常に萎縮し、いつ用済みと見なされて足蹴にされるか怖くて仕方なかった。 学習マシンやタウリン等のアイテムを駆使し、戦闘の度に顔を出すよう取り計らってもらってはいても、俺の成長には莫大な時間と手間、労力と費用がかかった。 野生で俺よりレベルの高いコイキングや、既に進化してギャラドスになった奴等が現れる度に、俺はそいつ等にとって変わられるのではないかと何度も怯えた。 何故なら、そいつ等を捕まえた方がよほど手っ取り早かったろう。 だが主よ、貴方は俺を見捨てなかった。 俺が何度となく失敗し、挫折しても。 貴方は罰することもしなかった。 俺を見て、ただ嘆息するだけだった。 もっとも、それはそれで俺の罪悪感を更に煽ったのだが。 そうした日々の末、遂に俺は進化した。 主、貴方が望んだように、俺は町を焼き尽くす巨大な怪物となった。 敵を威圧する厳つい顔、一振りで津波を引き起こす強力な尾、長くそして圧倒的な質量感を持った蒼い巨躯。 主、俺は初めて主に褒めてもらえると思った。 しかしそれでも、主が俺に向ける眼差しは変わらなかったし、俺への要求も前と同じだった。 ただただ、強くあること。 正直に言えば、俺は落胆した。 ギャラドスになれば、必ずや主の寵愛を受ける身になれると信じて&ruby(かんなんしんく){艱難辛苦};に耐えて来たのだ。 今思えば、我ながら浅はかな考えだ。 周囲をよく見れば、主は誰にも恩寵など与える人間では無い事などすぐに解るのだから。 貴方は孤独の中を生きていた。 そこにはこの俺など入る余地は最初から無かったのだ。 にもかかわらず、俺は主から離れはしなかった。 別に貴方が私を手放そうとしなかったという話じゃない。 俺の心は貴方と共にあったという話だ。 何より貴方は、俺に成長の機会を与えてくれた。 物理的な意味でも、精神的な意味でも。 貴方の手持ちとして揺るぎない位置を占めた時、俺の心も揺るが無い強さを得るに至った。 主、貴方の為に俺は働いた。 貴方の前に真っ向から立ち塞がる存在を&ruby(じゅうりん){蹂躙};し、貴方の座を狙う身内の不遜の輩を威嚇し、恐怖と圧力の代行、また力の象徴として貴方を守った。 俺は主の振るう鉄槌であり、道具であった。 特段それを悲しいとも、貴方にもっと近づきたいとも思わなかった。 その段階はとうに過ぎ去った過去の幻影。 俺は自分が道具として扱われる事に何の不満も持たなかった。 あの時の俺には、力を発揮する場と目的が用意されていた。 ところがどうだ。 あの悪日がやって来て、一人の子がやって来た。 主の一切の術策と恐怖、謀略と罠をかいくぐって。 世界の裏側の力が俺達を奈落へ引きずり込み、貴方の元へあの子が来て、二人が対峙した瞬間、全てが破錠した。 あれが主と貴方の最後の戦いだった。 まずヘルガーが倒れた。 フローゼル一匹を仕留め、ドダイトスに重症を負わせて。 次に出てきた俺にとっては、火傷の奴を粉砕するなど容易い事だった。 しかし、主、貴方は敢えて地震を指示した。 読みは的中、交代で俺を狩りに来たサンダースを沈め、既に満身創痍のドダイトスを始末し、俺の勢いは止まる所を知らないかに見えた。 だが。 俺がドダイトスの相手をしている間、あの子はサンダースを回復していたのだ。 再びあの黄色い閃光が現れた時、俺の命運は決まったも同然だった。 四倍弱点の俺には、奴の雷は&ruby(いささか){些};か酷であった。 光が閃き、俺の記憶はそこで終わっている……。 そして主、貴方は俺達との契りを自ら破り、何処か遠くへ行方を眩ました……。 以来、俺は力を行使する場所を失った。 戦いの日々を送って来た俺には、牧歌的日常はあまりに馴染めない環境だったのだ。 喪失の深い傷と、貴方に裏切られたという憤りが俺を&ruby(さいな){苛};んだ。 俺には結社に残る理由は無かった。 俺は去った。 但し、闇雲にという訳ではない。 主よ、貴方は俺に最後の贈り物を残していったのだ。 勿論貴方はそんな事は全く意図してはいなかったし、俺がそれに気づいたのもずっと後だったが、結局それが俺を救った。 俺はシンジ湖に向かった。 そう、主が話していた感情の神であるエムリットの住処。 その何処までも透明な蒼い水に入った刹那、俺は変化を感じた。 自分の内に潜む攻撃性が鳴りを潜め、哀しみと怒りが昇華されて行くのを。 渦巻いていた負の感情は、静かな沈黙を湛えた思慕の情へと変わった。 俺から感情が無くなったのではないが、それは遥かに穏やかな、落ち着きを持ったうねりとなった。 一、二度、エムリットに会った事がある。 そいつの側にいると、俺は不思議と癒された。 怒りや悦びといった起伏、心の&ruby(さざなみ){漣};はフラットな一本の線に集束するのだ。 全てを受容するこの湖に俺は居を構えた。 そして、長きに渡って失っていた目的という物を取り戻した。 俺はこの湖とそこに棲む神の守護者となったからだ。 それは、今までの刺々しい人間的な目的ではなく、悠久の湖の如く和やかな使命感だ。 主、貴方は俺の変貌ぶりに驚くだろう。 なにしろ俺は、主の嫌った心の護衛となったのだから。 しかしそんな俺だからこそ、貴方に自分の発見を伝えたいのだ。 主よ、貴方が軽蔑してきた心の真髄はここにある。 心は不完全な物なのは間違いない。 ただ、その不完全さ故に、あらゆる事象を受け止める器に成りうるのだ。 貴方の求めたのは硬質な世界。 一見完璧に見えて、傷がつけば癒えないし、強い衝撃で砕け散る。 ここにある心は液体だ。 波立ちはしても本質は変わらず、外界の変化を受容して同化させる。 この発見を貴方と分かち合いたい。 分かち合いたいが故に、主よ、俺は貴方に会いたいのだ。 貴方は俺を強くした。 それについて、俺はこの上ない感謝の念を抱いている。 そして今度は、俺が主に返す番だ。 俺はシンジ湖の&ruby(みなそこ){水底};でずっと待ち続けている。 貴方の帰還を。 #hr ◇ 歳月が流れるのは早い。 あっしの自慢の四枚羽をもってしても、時間の経過にはあっという間に抜き去られてしまう。 光陰矢のごとしとはよく言ったものだ。 ご主人様、貴方がいなくなってからもう1年が経った。 あっしは今、228番道路にいる貴方の祖父に当たる人の元にいる。 あっしが見つけられた貴方の痕跡は、この砂嵐吹きすさぶ地にポツンと立った一軒家以外には見つからなかった。 貴方がいない今、石の町の本拠地も、古き町の支部も、あっしには何の意味も為さないから。 毒タイプというのは、古くから概して嫌悪の対象だった。 草以外には二倍が取れないという、不遇以外の何物でもないこのタイプはいつも皆の嫌われ役だった。 一般の人間からは可愛くないと敬遠され、使う人と言えば大抵ギャングや悪の組織の下っ端しかいない。 そいつらに使われるにしても、あっし等は道具の様に非情な扱いを受けるだけの種族だった。 あっし等はいつでも捨てる事の出来る、捨て駒のような存在だった。 もちろん、絆や信頼といったヒトとポケモンの間に生まれる友情とは無縁。 だがご主人様、貴方だけは他の人間とは違った。 その証拠は、あっしが今クロバットであるという単純な事実に裏打ちされている。 あっし等クロバットはゴルバットの懐き進化系だ。 この事は貴方の性格からすると、一見矛盾しているように見える。 何故なら貴方は非常に厳しい主人であったからだ。 世間の人は、貴方の作った秘密結社におけるポケモンの扱いをまるで道具のようだ、と非難する。 貴方自身も、私達の事は利用する力の一部、目的を達成する為の手段でしかないとはっきり言った。 それでも、あっしはクロバットに進化した。これが意味するのは単純なある一つの事実。 そう、あっしは貴方によく懐いていた。 むろん、貴方はあっしにポフィンをくれたり、木の実をくれたりするような人種では決してない。 大概のポケモンからなら、寧ろ嫌われるタイプの人間だと思う。 あっしがここまで成長したのは単に、貴方と一緒に過ごした時間が長かっただけのことだ。 そして、それだけであっしには十分だった。 初めてテンガン山の地下の洞窟で出会って以来、貴方とあっしはかなり長い時間を共に過ごしてきた。 最初、あっしは貴方の事があまり好きではなかった。 それでも長の年月日夜を共にするうちに、あっしは徐々に貴方に心を開いた。 貴方はあっしに心を開かなかったが。 押し付けがましい、あっしの一方的な好意だったかもしれない。 それでも結果的に言えば、あっしはクロバットに姿を変えた。 貴方はあっしが進化した際にも何も言わなかった。 貴方の関心はただ、あっしが強くなった事だけだったから。 貴方は知っていたのだろうか。 あっしが進化したのは、懐きに依るものだという事を。 きっと博識な貴方は知っていたに違いないとは思う。 私には貴方への想いを直接伝える方法は無かったのだが。 ただ、たった一度だけ、あっしの想いが貴方に限りなく近づいた事がある。 貴方と一緒にリッシ湖の近くまで感情を司るポケモンの伝説を調べに行った帰り、ノモセシティの西側を走る213番道路を通りかかった時のことだった。 砂浜を歩いていた貴方に、一人の男が声をかけたのだ。 男が言うには、彼は足跡博士というものらしい。 なんでも、足跡を見るだけでポケモンの気持ちが分かると言う。 言うまでもなく、貴方は彼の申し出を一蹴した。 気持ちなど、不完全な心の生み出す最も不安定な産物だと。 だが足跡博士はなかなかしつこかった。 遂には貴方は根負けし、彼を黙らせる為にもあっしを仕方なく呼び出した。 あっし自身も、そいつの事は信用していなかった。 どうせありきたりな、無難な事しか言わないのだろうと。 それ以前に、クロバットには足は無いのだ。 だから、そいつがしばらく考え込んだ後に発した言葉には度肝を抜かれた。 あっしはあの瞬間を絶対に忘れないだろう。 彼は言ったのだ。 「人間を嫌いなポケモンなんていない……ポケモンを嫌う人間がいるだけだ……特にクロバットは嫌われる。でもご主人様は仲良くしてくれた……」と。 これこそがあっしの想いだった。 自分の想いと寸分違わぬその言葉を聞いて、あっしは舞い上がった。 あっしの想いが今、ご主人様、貴方に通じる言葉で届いたのだから。 案の定貴方は何の反応も見せずに、いつもの三白眼で彼を睨むとそのまま立ち去ってしまった。 立ち去り際に彼は足跡リボンをやるとも言ったけど、それさえ貴方の耳には届いていなかった。 だけどあっしはそれで満足だった。 さっきの言葉を貴方に聞いてもらえただけで、それだけで天にも昇る思いだったから。 例え受け止めてもらえずとも、あっしには今の出来事は足跡リボン百個以上の価値があった。 これが、あっしと貴方が最も接近した瞬間だった。 この日の記憶はいつまでも色褪せる事のない、あっしの宝物。 今までも、そしてこれからも……。 あっしの意識は再び砂塵舞い上がる228番道路にとんぼ返りする。 不毛なこの地で貴方の祖父に巡り会えた事は奇跡と言い換えてもいい、運命の悪戯でしかない。 貴方を見失ってから、あっしは貴方を探してシンオウ中を飛び回った。 ポケモン界でも稀な速さを誇るあっしは、最初貴方を見出だすことは容易い事だと信じて止まなかった。 ハクタイの地下に広がる天然の大迷宮、迷いの洞窟も、アンノーン蔓延るズイの遺跡の最奥部も、貴方との最後の旅路であったテンガン山の頂に至る道と、そこに太古よりそびえる人智の結晶、槍の柱も。 あっしは持てる力と知識を総動員して貴方を探した。 そして遂に、貴方をこのシンオウの地で見出だすことは出来ないと悟った。 少なくとも、あっしの方から貴方を見つける事は不可能だと。 貴方の方から現れようとしない限り、別れは永遠のものだと。 あまりに悲しいその発見は、あっしの全てを打ち砕いた。 哀切に身を任せ、あっしは海を越えた。 悲しみを癒す土地など、もうどこにも無いのだと知りながら。 しかしそれが新たな局面を切り開いた。 あっしと貴方の繋がりは、切れそうなところで切れなかったのだ。 そう、疲労困憊しながらたどり着いた新たな地で、あっしは貴方の祖父に出会った。 彼が祖父だというのは、その家に飾られた写真から解る。 そこには青年の貴方が、額縁からこちらを頑なに見つめていたのだ。 貴方の祖父は私を追い払いはしなかった。 そこで私と彼との奇妙な生活が始まった。 彼は話し相手を欲していたようだ。 彼はしょっちゅう呟く。 「あの時引き取っていれば。」と。 それが何を意味するのか、あっしには分からない。 ただただ、貴方の名残の残るこの場所で時が過ぎて行くのを傍観しているだけ。 そしていつかは、貴方がこの家の扉をくぐって帰って来るのをひたすらに待ちわびている。 その時は、真っ先にあっしに貴方のことを迎えさせて欲しい。 人、ポケモン関わらず他者との交流を嫌う貴方のことだ、多分嫌がるだろう。 それは十分承知の上だ。 だがご主人様、あっしを待たせた代わりにそれぐらいの事はさせてもらおう。 もし貴方が帰って来るならば。 いや、貴方は帰って来る。 そう信じて、今日もあっしは&ruby(ゆ){逝};いて&ruby(とど){止};まらぬ時の流れと戯れる。 #hr ◇ 単刀直入に言うと、ご主人、アンタはウチにとって憧れだったし、今もその思いは変わらない。 圧倒的なカリスマと統率力を誇るアンタの姿、そして、自らの理想を追求する揺るぎ無い信念は私にとってこの上なく魅力的だった。 ウチはアンタの手持ちの中でも割と古参の類だった。 小さい頃から大分アンタの世話になったし、ウチはウチで優秀な手持ちとして日々尽くして来たつもり。 だからウチは、アンタの活動のほぼ全てを見てきた。 そしていつしか、アンタの物の考え方もすっかり飲み込んじまった。 アンタはしょっちゅう、この世界の不完全さを口にしてた。 この世が醜い争いの絶えない世の中であるのは、心という不完全な物があるせいだと。 ご主人、アンタは誰にもその心を見せなかった。 言うまでもなく、私達もその例外じゃない。 それでも、アンタの一面を垣間見ることは出来た。 アンタが最初に望んだのは、世界の安定だった。 アンタの安定の定義は不変だ。 物事は恒久的でなくちゃならない。 無秩序という無秩序は駆逐され、シミのない完璧な世界がアンタの理想だった。 争いや&ruby(いさか){諍};いは人の心の生み出す醜い汚点だった訳だ。 そう、ご主人、アンタは人間が嫌いな人間だった。 どうしてアンタが人間嫌いになったのかウチは知らない。 ただアンタはひたすらに、既存の世界に苛立っていた。 アンタに言わせりゃ、この世界はあまりに流動的で不安定で、その世界に自分が存在している事が我慢ならなかったんだろう。 そうさ、ご主人は遥かな高みから今の世界を見ていた。 ご主人はよく言ったもんだ。 「誰かがこの世界を変えなくてはならない。」と。 こうも言った。 「それが私でなくて何がいけないのか。」と。 そして最後には決まって、 「だが私にはその力が無い。」と呟いたものだ。 アンタは自分が生み出した考え方に縛られて、悶々と世界に失望しながら旅した。 ウチはそんなアンタを見て育った。 その時は単にアンタが自己憐憫に浸っているだけだと思いながら。 だけど、ある日転機が訪れた。 ウチはあの運命の夜を覚えている。 アンタが目標を得た時を。 アンタはその夜、ずっとパソコンに向かって様々な指示を打ち込んでいた。 そう、アンタはとうとう計算で宇宙を弾き出した。 新たな宇宙。 新たな世界。 それこそアンタの望んでいた、理想の世界の実現への第一の布石だった。 ご主人は珍しく興奮気味に、自分自身に言い聞かせるかのように語った。 「新世界が作られる。私はその世界の創造者になる。この私が安定、秩序、平和をもたらす。」と。 私は俄然乗り気になった。 新たな世界。 もしそれが実現されるならば、アタシはその世界の誕生に居合わせたいし、ご主人と共にその世界に行きたいと思った。 ウチはアンタの右腕の如く在りたかったんだ。 時代を切り開く先駆者と、その有能な右腕。 影の如く働き、影の如く一心同体。 類い稀なカリスマを誇るアンタは、ウチにとって強烈な魅力だった。 もう一度言おう、アンタはウチの憧れだった。 ウチはずっと側で見ていた。 アンタの計画が形を為し、同志が集まり、遂に実行に移されるのを。 ウチは興奮した。いよいよこのシンオウの地で全ての歯車が動き出すと思うと、まるでウチ自身が采配を振るっているかの様な幻覚を覚えた。 アンタと表裏一体のマニューラになりたかった。 だがご主人、ウチはアンタにはなれなかった。 いや、アンタの影にすらなれなかった。 近づいてすらいなかったのかもしれない。 ウチはそこまで非情な存在になれなかったのだ。 ウチは以前から薄々アンタの鋼の様な鋭い冷酷さに感づいてはいた。 それをウチは必要悪として無意識的に無視してきたのだけど、計画が実行されるにあたってその陰影はますます濃さを増し、アンタの姿を浮き彫りにした。 その違いはウチとアンタの間に境界線を彫った。 ご主人、アンタがウチを手放したあの日以前から、ウチとアンタの繋がりは&ruby(ほころ){綻};び始めていたんだ。 最初の亀裂が走ったのは、湖の三神を捕らえた時。 ウチはてっきりそいつ等も手持ちにするのだと思った。 だけど、アンタはそいつ等を奇妙な機械に閉じ込めた。 いやはや、あの光景は衝撃ものだった。 赤い鎖の抽出の為とはいえ、あの三神が浮かべていた苦悶の表情はおぞましいものだ。 悪タイプのウチは何の影響も受けなかったが、研究員の中にはそいつ等の発する強い念動に耐えられない連中もいた。 とにかく、ウチはアンタがあそこまでポケモンを苦しめる事に抵抗の無い人間だという事に、途端に恐怖を覚えたんだ。 そして、槍の柱。 アンタは時間と空間の化身二体を拘束した。 アンタのやり方は同じだった。 捕らえ、制御するだけ。 赤い鎖は二匹の喉輪を締め付け、禍々しい光を放って絡み付いた。 何が善か。 何が悪か。 ウチは今まで、アンタの計画に疑念を抱いた事は無かった。 それが正義だと信じて疑わなかった。 その確固たる自信を、その時ウチは無くしてしまった。 ウチは悩み、混乱した。 答えを見つけ出せないまま破れた世界に飲み込まれ、整理もつかないまま旅し、混迷の内に戦い、そして敗れた。 後に残ったのはウチ、残らなかったのはご主人、アンタだ。 アンタはウチに答えを教えてくれないまま、その足取りを隠してしまった……。 ウチはこの頃、&ruby(ゆきひら){雪片};舞い落ちる216番道路で夜空を見上げるのが習慣になっている。 そして一人、アンタが残した宿題について想いを巡らすのだ。 出来るだけ頭の中を整理しようとはしてみる。 アンタの理想は高かった。 争いの無い世界を求める、それは誰しも望む事。 アンタはそれを実現しようと動いただけ。 じゃあ、アンタはどこで間違ったか。 求める方法や過程が間違っていたのか、心の存在を否定したのがいけなかったのか、それとも新たな宇宙を造り出す事自体がこの宇宙の禁忌だったのか。 ウチの思考はここでいつも堂々巡りを始めてしまう。 そこで答えを求めて広大な星空、即ち宇宙に目をやってみる。 数億年の時間を飛び越えて届いた、星の煌めきを眺めるのだ。 歪みも、無秩序も、宇宙では全てが許される。 いや、そもそも秩序など存在しない。 ウチ達が生まれたこの宇宙は、不完全な様に出来ているんだ。 アンタは言った、宇宙は膨張し続けていると。 不完全だから膨張出来る。 不完全だからのびしろがある。 完璧なら、成長も可能性も無い。 全てが完結した世界に、未来は無い。 不完全だからこそ、明日に向かって前進できる。 ウチが星空を見上げて得たのは、これぐらいだ。 思想の探求に終わりは無く、考えるだけ無駄かもしれない。 だけど、アンタに一つお願いしたい。 この星空を、宇宙を、一度で良いから一緒に共有したい。 アンタがどう感じるか、こりゃ見ものだ。 それまでウチは夜空を見上げていよう。 ご主人、アンタが望んだ宇宙は、あの星屑の間に見つかる? #hr ◇ マスター、貴方と私との関係は単なるポケモンとトレーナーのそれではなく、相棒でも主従関係でもありませんでした。 &ruby(かたく){頑};なな貴方という人は、私がこれから言うことを決して認めようとはしないでしょう。 なにしろ、心という存在を憎んだ人でしたから、貴方は。 しかし貴方は私にとって、ただ一人の親でした。 この広大な地球という星の中で、唯一私の親であると名乗れる人間がいるとすれば、それはマスター、貴方をおいて他にはいません。 もう20年以上昔のことです。 私が固い殻のゆりかごを破って、初めて外の世界を見たとき、真っ先に目に入って来たのは興味津々でこちらを覗く少年の貴方でした。 この世に生を授かったばかりの私と、まだ幼かった貴方の視線が交差したその瞬間から、貴方は私の親になりました。 貴方は私の事をこれ以上無いぐらい、甲斐甲斐しく世話してくれました。 日頃両親の過度な期待と重圧の中で黙々と勉強してきた貴方にしたら、道端に放棄されていたヤミカラスの卵を拾って家に持ち帰り、両親に隠れてこっそり育てるというのは、きっと胸踊る経験だったのでしょう。 貴方は科学の申し子、機械いじりが得意な孤独を好む少年ではありましたが、こうした点ではやはり貴方も、ポケモンに興味のある一介の子供でもあったのです。 私は貴方の庇護の下で大きく育ち、そして貴方を変えました。 いや、これは私の想像でしかありませんが、貴方の無機質な子供時代に一点の彩りを添えられたと思います。 何より変わったのは貴方の性格ではないでしょうか。 幼くして該博な知識を有する貴方は、暇さえあれば私に向かって色々な事を話しかけてくれました。 貴方はもう、一人では無かったのです。 もちろん、私の存在はほどなくして貴方の両親の知る所となりました。 貴方の両親は怒りました。 勉強に打ち込むべき時期に、ポケモンにうつつを抜かすとは何事かと。 彼らは私を捨ててくる様に言いました。 その時に見せた、貴方の表情は今でも忘れません。 普通の子供なら駄々をこねたり、泣いて抗議するのでしょう。 しかし貴方はあまり感情を表に出さない人間でした。 その貴方の賢い顔がぐっと締まり、ほとんど怖いほど決然とした表情になるのを私は見ました。 心までもが石か鋼の生き物に変わっていくかの様に。 それはマスター、貴方が両親に心を決定的に閉ざした瞬間でした。 私と貴方は別れざるを得なくなりました。 ナギサの浜辺で夕暮れの中、貴方は私を手放しました。 別れ際に、北西にあるハクタイの森を目指せ、そこにはヤミカラスの仲間がいるはずだと言い残して。 私は飛翔しました。 涙を見せまいと、一直線に貴方の指した方向へ。 貴方は、私が雲の分厚い天蓋に隠れ、&ruby(いりひ){没日};の風景のくすんだ小さなシミになるまでの間、一人手も振らずに佇んでいました。 数年後になり、成長した私は再びナギサの地を訪ねました。 貴方から多くを学び、ハクタイの森で多くを学び、以前より遥かに強くなって。 私は南東へ飛びました。 マスター、貴方が以前と同じ様に、喜んで迎えてくれる事を期待して。 だが私の予想は少し外れました。 いや、マスター、貴方が変わってしまったのか。 ともかく、窓際に降り立った私を見ても、最初貴方は固い表情を浮かべているだけでした。 何が貴方を変えたのか、私には分かりません。 長年の過酷な親の圧力に疲弊したのか、私との別れの際に何かが芽生えたのか、後年貴方が言っていたようにこの醜い世界に嫌気が差したのか。 ともかく私が片翼を上げ、しゃがれた声で挨拶すると、疲れたように「ああ、お前か。」とだけ言いました。 それでも私は嬉しかった。 育ての親と再び会えたのですから。 それ以来、私はナギサの町で野良として暮らしていました。 貴方が心配だったからです。 貴方は今までにも増して無愛想で、頑なで、他の誰かと打ち解ける事を嫌うようになっていましたから。 貴方は私と別れてから、ますます科学にのめり込んでいたようでした。 複雑な計算や演算を黙々とこなし、様々な薬品を合成し、望遠鏡で宇宙の真理について克明に記録したりして過ごしていました。 また古文書を紐解き、古い文献を読みあさりました。 何かに打ち込むその姿勢は、病的とも言えたでしょう。 その一方で、貴方はどんどんポケモンから離れていきました。 私が部屋に飛んできても、以前ならオヤツの一つ二つなどを私に投げたものでしたが、そのうち意にも介さなくなりました。 私は貴方が様変わりしてしまった事がひどく悲しかった。 それでも私は辛抱強く、貴方の元へ通い続けました。 私には貴方が大事でしたから。 そしてナギサの旅立ちの日、貴方と私は新たな関係を結びました。 そう、貴方は私の主人に、私は貴方の&ruby(しもべ){僕};となりました。 貴方は自身の壮大な計画に向かって漕ぎ出し、私はひたすら貴方の手持ちとしての勤めを果たす存在となりました。 この時点で、貴方の私に対する認識は手先になったのでしょう。 しかし貴方がどう認識しようと、私にとって貴方は相変わらず親であり続けました。 そして、あの日がやって来ました。 貴方の計画が実行に移され、貴方の望みが叶う時が。 しかし歯車はそこで狂ってしまいました。 私は今でもあの不可思議な世界を夢に見ます。 そしてその世界の主を目前にして、あの子がやって来ました……。 いや、これ以上は語りますまい。 敗北よりも、計画の頓挫よりも、恐ろしい&ruby(まがこと){禍事};のあった厄日のことです。 そう、貴方は私達を置き去りにして、遠い場所に消え去ってしまったのでした……。 その運命の日から季節は巡り、ようやく一年が経とうとしています。 トバリの本部に私は残り、今でも貴方の設立した結社の動向を見守っています。 遥かに規模は縮小したものの、ここではまだ貴方の残した研究が続けられていて、現在は幹部の一人が中心となって新しいエネルギーの探索に乗り出したところです。 形は違えど、理想の世界を作るという貴方の意思が脈々と受け継がれているこの場所で、私は貴方の帰りを待ち続けています。 正直な気持ち、私の理性は貴方は二度と帰って来ないと叫ぶのです。 貴方は私達を、貴方の意思で置いていってしまったのですから。 しかし私の本能は、父であり母である貴方の事を渇望して止まないのです。 一目でも貴方に会いたい。 その気持ちは、いつまでも衰える事なく私の心を焦がすのです。 私は貴方を待っています。 風雪に耐え、嵐にもめげず、風見鶏の如くトバリのビルの高いアンテナのてっぺんにとまって、貴方の姿を探して町中を見回しているのです。 艶のあった羽はすりきれ、ドンカラス特有の帽子の様な&ruby(とさか){鶏冠};がよれよれに傷もうとも。 惨苦と憔悴に打たれ、やつれ、空虚で策漠とした気持ちを抱こうとも。 私の命が&ruby(たそがれ){黄昏};を迎え、&ruby(ろうもう){老耄};に陥っても、私は貴方を探し続けるでしょう。 願わくば、我が身が朽ち果てる前に貴方に会いたい。 延々と続く輪廻の環のうち、&ruby(こんじょう){今生};の分が切れる前に。 例え貴方が認めずとも、マスター、貴方は私のかけがえのない親なのですから。 ――&ruby(とわ){永久};に―― #hr ◇謝罪 この話を読んで、さっぱり訳がわからなかった方、誠に申し訳ございません。これは『ポケットモンスター プラチナ』を踏まえた二次創作です。プレイ経験の無い方には理解し難い点があったと思います。かといってこの駄作を理解する為だけに、小遣いを貯めたり、バイトしたり、働いたり、盗んだりして手に入れた4800円を浪費するのは馬鹿げた事ですので、その辺はご了承下さい。 ◆改めてあとがき さて、皆さんは作中の五匹をどのようにボコボコにしてきたでしょうかw。これは五匹のポケモンの話であり、一人の男の話でもあるのです。今回は敢えて『ポケモンの二次創作』の原点に帰って執筆してみました。少し新鮮だったでしょうか?ゲームの世界を下敷きにしつつ、無理の無い様に話を膨らませてみた訳です。執筆目標は『ゲーム内で敵としてしか認識されない存在に脚光を当てる』でした。果たして出来たかどうか怪しいものですが、とりあえず頑張ってみました。どんな人とポケモンであろうと、二者がある所には必ずや繋がりが有る、という事を書きたかったのです。本来大会応募予定作ではなく、普通に発表するつもりの短編でしたが、開催前に書き終えたので投下してみました。 こんな思いつきの作品を読んで下さった方、ありがとうございました。 #hr #pcomment(master lossコメログ,7);