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abfalleimer の変更点


**Abfalleimer [#k2af5835]
[[a sacrifice]]の続きかな? [[青浪]]
この前失敗したので今度はサードパーソンズビューです。
前のオチは微妙でしたねぇ・・・
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ばちん!閃光とともに熱が大きな部屋にある暖炉の木々を貫く。身も凍る、植物にはつらい冬はもう来ていた。
その閃光を放った者は温かくなったのを確認すると振りかえって文字の羅列に挑む。
淡々とチームの数と依頼数の書き込んである黒板に黄色い身体に紅い球の付いた尻尾を持つポケモンが次々と数字を記入していく。種族はデンリュウだ。名をポーシャという。
「ちょっと。ヘレネ?さぼらないでよ?」
ポーシャはサボっているだろう若草色の生き物に注意をした。
「はいはい。」
「はい、は一回。」
さらにたしなめる。
「すみません。」
若草色に花の首飾りを持つ体をゆっくりと暖炉から離してポーシャ、親方の作業の補助をしている。その名はヘレネ。種族はメガニウム。
この陸地・・・大陸にはいろいろなギルドや互助組合がある。ポーシャは日ごろからそう言い聞かせている。しかしヘレネは世界なんて知らない。
今、ヘレネはポーシャのギルドで、チームに依頼の配分をする仕事をしている。何もしていないチームにレオンが整理した依頼の伝票を割り振る、という仕事だ。
ポーシャの満足がないと、延々やりなおしが続く。この仕事に就いた当初に比べるとヘレネのミスは減った。もうこの仕事を振られて5年にヘレネはなる。
以前、ヘレネはずっとチームを組んで依頼をこなしていた。

・・・結構人気あったんだけどね。あのグラエナ・・・こう言ったら可哀想だな。ディオネがいなくなっちゃって・・・ヘレネはふと考えた。
風の噂によるとディオネは最近ではちゃっかり大学の図書館司書してるようだ。ヘレネはレオンみたいに手紙がやりとり出来たらいいのになぁ・・・と思う。ヘレネは手紙を書くのが下手だ。

その上、ディオネには”ヤツ”がいるから・・・ばれたら何されるのか・・・あの忌まわしい”スポンサー”さん・・・と、身体を必死に動かしながらヘレネは思っていた。
そう言えば・・・私が最初にスポンサーに会ったのってどどめ色チームを組んで正式にギルドのチームとして認められる少し前だったかな・・・まだ私はベイリーフだったんだな・・・ヘレネは回想する。

#hr

朝日の柔らかい日差しが天窓のガラスを通り抜けて床に陽だまりを作り出した。
「ふぃぃ~・・・」
グレーの体に特徴のある黒い毛の配置・・・グラエナのディオネだ。なにやら興味深そうに本読んでいる。何の本読んでるのかな、と遠巻きにヘレネは思った。
「よっこいしょ・・・」
ヘレネは草の首飾りに若草の身体をゆっくり起こすと何がうれしいのか、尻尾振っているディオネのほうに近づく。
ゆっくりとヘレネが近づくにつれて、ディオネは警戒しているのか、耳をぴくぴくと動かしてる。
「ディオネ?」
「はい?」
警戒している割にディオネは二つ返事で答えた。少しいらっときたヘレネは聞きたいことを直接ぶつけることにした。
「何の本読んでるの?」
「これはねー、情報処理の本だよ。」
ヘレネが聞いたことのない言葉をディオネは発した。
「情報処理?」
「そう。」
「何それ?」
「情報をわかりやすく見せたりする技術と、その安全を確保する手法とか。」
「???」
?マークを頭に浮かべるようにヘレネは首をかしげる。本にはAbfalleimerとアルファベットで書いてあるが、ヘレネはその意味が何かということを気にも留めていない。
ディオネとヘレネは今のチームを組む前には、もう1匹と違うチームを組んでいた。ヘレネによるとそのチームは人気があった。
しかし、ヘレネのミスによって、チームは解散せざるを得なくなった。ディオネとヘレネは左遷を余儀なくされ、もう1匹もどこにいったのやら・・・ヘレネには分からない。
ディオネは私が黙ると再び本を食い入るように見ている。親方はディオネを高く評価しているようで、事実、ヘレネやチームのピンチを何度となく救った。
当時のチームはピチューのレオン、ディオネ、ヘレネの3匹だ。チームは組織されたばかりで、まだギルドには正規のチームとして認定はされていない。
次の依頼次第でギルドの正規の戦力として認められるかも・・・というところだ。さらにレオンはまだギルドに入って日が浅い。
ヘレネは本の世界にいるディオネに尋ねる。
「レオンどこ行ったか知ってる?」
「朝から親方に呼ばれてたよ。」
ディオネは質問にあっさり答えた。
「親方に?」
「うん。」
一抹の不安をヘレネは感じた。

親方の部屋・・・質素な内装ながら、機能としては上等だ。
レオンの隣には同じ日にギルドに入ってきたポケモン3匹がいる。その前を親方は説教するようにゆっくりと行ったり来たりしてる。
「さて・・・あなたたち青チームは・・・前回の依頼ですっかり全滅してしまいました・・・レオンは関係ないよね。ごめん。そうそう、ヘレネとディオネ呼んできて?」
親方はレオンに席を外すように言う。こそこそとレオンも親方の部屋を出た。レオンは朝起きてから2時間・・・説教されてたから足が痛くて・・・上手く歩けない。
なぜかレオンだけ最初に呼ばれると・・・最初の依頼の報告書が汚いとか、もっとディオネさんとヘレネさんにフレンドリーに接しろとか・・・レオンには無理な注文だ。
その残された3匹はデルビル、ポチエナ、ガーディで、普通に考えると盤石で、賢い、ということを考えるかもしれない。でも全滅した。
そう思いながらレオンは黄色い足を引きずって廊下を進んでいく。

歩けど歩けど痛みでなかなか進まないレオンは自分たちの部屋に戻る前にどこかで休憩しようか、と考えたが、親方から言いつけられた用を思い出し、足を引きずって行くうちに部屋の前にたどり着いた。
「レオン!大丈夫か?」
レオンの様子に気付いたのかディオネがすぐに駆け寄ってくる。
「大丈夫です。座りすぎです。」
「そっか・・・」
少し安堵したようなディオネだがその紅い瞳はずっとレオンを捉えてる。レオンは照れて顔を下に向ける・・・向けたところで用事を思い出した。
「ヘレネさん、ディオネさん、親方が呼んでますよ。」
レオンは痛みを我慢して言った。
「え?」
ヘレネがすごく嫌そうな顔をしたのとは対照的にディオネは無反応だった。
「レオン、乗れよ。」
ディオネはレオンに乗るように背中を向けてくれている。
「え?いいんですか?」
謙遜もあるが、恥ずかしそうにレオンは言う。少し微笑んだディオネはレオンに促す。
「うん。さ、早く。」
「はい。」
笑顔でレオンはディオネさんの背中に乗ると、すっとディオネは起き上がって遅れて部屋から出てきたヘレネと一緒に親方の部屋に向かう。
笑顔でレオンはディオネの背中に乗ると、すっとディオネは起き上がって遅れて部屋から出てきたヘレネと一緒に親方の部屋に向かう。
「すっかりディオネはレオンの足じゃん。私も・・・」
ヘレネは冗談めかして自分も乗せるようディオネに言う。
「重いわ。殺す気か?」
そのディオネは本気で受け止めた。ヘレネは♀にとって禁句のセリフを言われてカッとなる。
「重いって何よ!私だって♀なんだから!」
レオンの顔がディオネの背中のもふもふに身体をうずめてると、ディオネとヘレネが体重のことでなにやらもめてることに気付いた。何か重いとか、♀だとか。
やいやい言い合ううちに親方の部屋の前に着く3匹。レオンはさっとディオネの背中から降りる。
「あいたた。」
案の定足が痛くてうまく着地出来なかったレオン。レオンを心配そうに見たディオネはぼそっと呟く。
「親方の用事って何なんだろうな?」
こんこん、とディオネが親方の部屋のドアをノックした。
「どうぞ。」
親方の声がドアの向こうから響く。レオンがドアをぎぃっと開けるといつもの通りの定位置で親方が椅子に座っている。
「どどめ色チーム・・・出頭しました。」
冗談めかした声でディオネは言った。
「こら!ディオネ!冗談でもそう言うことは言わないの!」
ディオネの冗談にヘレネは激しく反応した。親方はクスッと笑うと真剣なまなざしで3匹を見ると両手を机の上に置き、口を開いた。
「さて、先日はお疲れ様。今日はちょっとしたお仕事をしてもらいます。」
「依頼ですか?」
ディオネは親方に聞いた。少しして親方はコクリ、とうなずいた。
「これは・・・”スポンサー”の直々の依頼です。」
どうにも依頼主がどどめ色チームを指名してきた、そんな含みのある言葉だった。
「え?いけにえってことですか?」
いけにえ?ディオネはあからさまなほどおかしな言葉を使った。
「まぁディオネにとってはスポンサーって言うより強烈なストーカーみたいなもんだからね。」
ディオネの言葉を受けるようにヘレネは可笑しそうな様子で言った。
ヘレネにつられるように親方もくすくす笑っている。レオンは意味がわからず首をかしげた。
そしてディオネを見ると照れくさそうにうつむいている。
「さ、さ!」
親方は手を数回叩いて冗談で緩んだ空気を一気に締めた。
「で、依頼内容は喫茶のアールグレイのお茶の葉を100g持っていくこと。それで、報酬をちゃんともらって帰ってくること。」
「5分で済みそうな内容ですね。」
親方の言ったことは確かに簡単そうで、ヘレネが言うことにもうなずける。こんなのが依頼なのかな?レオンは不思議に思った。
ふとディオネを見るとグレーの顔はすっかりうつむいて意気消沈してる。何か悪いことでも起きるのかな・・・レオンはそう予感せざるを得ない。
「ほい、じゃあ解散。さっさと行ってきな。」
そういうとパンパンと手をたたき、親方はどどめ色チームをを部屋から追っ払うように出ていかせた。

部屋から追っ払われた3匹。ヘレネはふとディオネを見る。
「ディオネ?」
すっかりグレーの顔をブルーにしたディオネにヘレネ声をかける。普段の冷静な感じからはかけ離れた様子のディオネ。
「ねぇ・・・ディオネ?」
ヘレネはもう一度声をかける。
「ん・・・ああ・・・はぁぁ・・・」
ヘレネはこんなにディオネのモチベーションが下がってるところを久しぶりに見る。すっかりグラエナっぽい威厳は消えている。ため息までついて、耳もだらっと垂らしている。
「どうしたんですか?」
不思議そうな顔をしてレオンがヘレネたちに聞く。
「え?・・・ああ・・・いいの。」
ヘレネが答える前に答えたディオネはがっくりうなだれたままとことこ廊下を歩いていく。木の廊下を部屋と違うほうにディオネが進んでいくので、ヘレネは引き留めようとする。
「あ、ヘレネ?ちょっとお茶の葉を調達してくるから・・・準備しててね・・・はぁぁ・・・」
ディオネはそう言い残すと喫茶のほうにトボトボ進んでいった。ヘレネはディオネが”スポンサー”に会うのが相当嫌なんだな、そう感じている。
「あの~・・・ヘレネさん。」
「ん?」
レオンが声を掛けてきたのでそれに気づいたヘレネはくるっと振り返った。
「スポンサーって何なんですか?」
「えっとね・・・」
レオンの質問にヘレネ少し面食らう。調子よく親方の前ではあんなこと言ってたけど、あんまりヘレネはそれについて知らない。
「レオン・・・えっと、スポンサーってのは、このギルドにお金を出してくれる方のことなんだけど、会おうとするとディオネが嫌がるんだよね。それがしつこいからストーカーって。」
「?ふーん・・・」
ヘレネは知ってる限りのことをレオンに教えたが、いまいち理解できてないようだ。
レオンとヘレネは一緒に部屋に戻り、お互いどどめ色のスカーフを巻くと、ディオネが帰ってくるのを待っていた。
「おそいなぁ・・・ディオネさん・・・」
少し時間がかかってるのだろう、レオンは上を向いて呟いた。
「何してるんだろうね・・・ディオネは。」
遅い、と思ったヘレネは耐えきれず、レオンが止めるのも聞かず部屋を飛び出す。
「ディオネ!!」
部屋を飛び出た瞬間、ディオネが部屋の入り口の横でがっくりしてたのにヘレネは気付いた。部屋の入り口の横で何してんの?、そう思ったヘレネ。
「さっさと行って早く帰ってきたらいいじゃん。」
「・・・」
ヘレネは強くディオネに言ったが、ディオネは沈黙する。ヘレネは早く帰ってきたらいい、という点を強調してディオネに依頼を済まよう、と、説得するとディオネもしぶしぶ応じた。
「さ、さ、スカーフ巻いてさ。行こうよ。」
レオンがディオネにどどめ色のスカーフを渡した。
「・・・うん・・・」
ディオネがスカーフを巻いている間に、ヘレネはディオネが調達してきたお茶の葉100gの入った茶色の子袋をヘレネのポーチに入れて部屋を玄関に向かって進む。相変わらずディオネはため息ついてる。
「はぁぁ・・・」
「るさい!」
ヘレネは少しいらっとして反応したが、効果は薄い。
「はぁぁ・・・」
「・・・」
ギルドを出てからディオネのため息は多くなる。本当に何がそんなに嫌なのか・・・ディオネほどの洞察力が私にもあればスパッと解決できるのに、そうヘレネは思っていた。
3匹は少し歩くとギルドのすぐ近くに特徴のない小さな白い家があることに気付いた。小さい割にかなり頑丈そうに感じた。
「あれだ・・・」
ぽろっとディオネが呟く。ヘレネはディオネの不安よりも、その”スポンサー”とディオネの間に何があったか、そっちのほうが気になってくる。ヘレネはにこっとして呟く。
「さ、いくよ。」
好奇心からくる高揚で可笑しくなってたヘレネはレオンとディオネを無理やり引っ張る。2匹ともかなり嫌そうだったけど、ヘレネの馬鹿力が勝ったようで、あっさりとその家の前に引きずられていった。
「この家ね・・・」
長方形の上に半円をくっつけた形の、おそらく木製であろうドアの前でヘレネたちは構えてる。何が出るかな・・・鬼か・・・蛇か・・・恐る恐るヘレネはドアに近づいてく。
ヘレネは開いたドアがもっとも見える位置に立った。
緊張を抑えられないヘレネはディオネにドアをノックするように急かす。いやいやながらディオネは前肢を振り上げてこんこん、と2,3回ノックした。
・・・反応がないな・・・ヘレネは少し警戒を緩める。
「留守かな?」
「そんなわけないと思うけどな・・・」
ディオネがそう呟いた。しばらく様子を見ていると、ドアの向こうから何か気配がする。
ガチャ・・・
ドアは開いた。その少しだけ開いた隙間からヘレネが見たのは・・・白い毛・・・ゆっくりとドアは開いていく。
「ど、どうも・・・ポーシャコマースギルドからやってまいりました・・・」
そうヘレネが挨拶をするとドアは一匹が何とか出入りできる幅まで開いた。そのドアの端っこから白い体毛、端正な蒼い顔・・・そして何よりも恐ろしい紅い瞳。蒼い顔からは半月上の蒼いつのが出ている。
「アブソル?」
思いあたりのある顔にヘレネはそいつの種族の名を言った。
「・・・ディオネ?ディオネだ!」
「せっ・・・セドナ・・・」
そのアブソルはディオネの名を叫ぶとドアのすぐ前にいたディオネを引っ張って家の中に連れ込んだ。ディオネは抵抗しなかったし、とっさの出来事でヘレネたちは何もできなかった。
「ディオネ~・・・」
がちゃんと勝手にドアが閉まる。かすかにドアの向こうからそのアブソルの声が聞こえた。♀のようだ。
「開けて入ります?」
レオンはヘレネに確認を求めた。
「そうだね。」
ヘレネはレオンと確認をすると閉まったドアを再び開ける。
ギィ・・・とドアを開けると2匹の目の前には少々驚くべき光景が広がっていた。白い体毛を持つアブソルがグレーの体毛のディオネを仰向けに倒していた。
「もう!ディオネ!もう4年も会ってないんだよ?何してたのぉ!」
アブソルは仰向けにされたディオネを下敷きにして何やら問い詰めてる。
「ごめん。セドナ・・・」
セドナと呼ばれたアブソルは目を潤ませてディオネをじっと見てる。この2匹って一体どういう関係何だろう?ちょっとやそっとの関係じゃないよね・・・ヘレネは直感でそう思った。
ギュっとセドナはディオネを抱いた。セドナの瞳からは涙が出てる。ディオネは最初から諦めていたみたいに、何もしない。
空気読めてないかな~とヘレネは思ったけど、このまま放置されるのも何か癪に障るので声をかけることにした。
「あの~・・・何か感動の対面みたいなところすみません・・・」
ヘレネが声をかけると、セドナはディオネから離れて涙目のままヘレネたちのほうにやってきた。ディオネはやる気なく絨毯の床の上に寝かされたままだ。
「あ・・・すみません。すっかり感傷に浸っちゃって・・・依頼品、持ってきてくれました?」
「はい・・・これ。」
最初は涙声だったセドナは次第にはっきりと喋り始めた。まさかこの娘がスポンサーの正体?まさかね・・・そう思いながらヘレネはポーチからお茶を取りだした。
「ディオネ。起きなさいよ。」
「ああ・・・」
仰向けのまま寝転がってるディオネに起きるようにヘレネが促すと、ディオネはさっさと起きた。
「ありがとうございます。お茶を入れるので少し待ってください。」
セドナはお茶を淹れに行ったみたいだ。ディオネのためにも早く立ち去りたかったヘレネは一応断る。
「あ・・・お気遣いなく。」
「すこしお話をお聞きしたくて。」
仕方ない、と3匹は家を入ったところすぐにある円い木のテーブルを囲むようにして座った。まだ日が低いのか窓の東からの陽光が3匹の体を優しく撫でる、
セドナはヘレネより幼く見えるのに、言動からはそれを感じない。まあディオネには悪いけど、話がしたいって相手が言うなら、ちゃんと応じないとね、ヘレネは内心そう思った。
さっきのセドナの行動が気になったヘレネはディオネに聞く。
「ねぇ。ディオネとセドナの関係ってどうなの?」
「・・・」
またディオネは沈黙した。何度かせっつくけどディオネはぷいぷいと首を横に振る。
「お茶入りましたよ~。」
セドナがお盆にお茶を入れてやってくると、来客である3匹の前にそれぞれお茶のコップを置いた。
「さ、遠慮なくどうぞ。」
「麦茶?」
「おっ・・・さすがはディオネだね~。当たり。」
セドナはお茶を当てられて蒼い顔を赤らめて、ディオネと喋っている。
なんか恋人みたいな会話してるなぁディオネたち・・・ディオネの癖に・・・って私が彼氏いないだけか。ギルドでは出会いないもんなぁ・・・ヘレネは少し妬いていた。
「で、今日の依頼の内容は、お茶と報酬だったよね?」
セドナはヘレネの目の前の位置に座ると唐突に依頼の話を切り出した。少しセドナの顔つきが鋭くなった。
「そうです。」
ヘレネが返事をするとお茶をすすってたセドナは顔をあげた。
「報酬は帰るときに渡します。ちゃんと用意してますよ。今日はちょっと例外です。」
その言動から何か企んでるのをヘレネは経験から感じていた。セドナのペースに負けないようにヘレネは話をする。
「例外・・・とは?」
「少しお時間をいただきたいなと。」
「お時間?」
「はい。」
ニヤッと笑うセドナ。ヘレネは確信した。間違いない・・・何か企んでる・・・レオン?とレオンのほうを見るとテーブルに突っ伏して寝てる。
「何か仕込んだでしょ?ディオネ!」
のんびりお茶を飲んでるディオネをヘレネは警戒するように叫ぶが、すでにディオネの顔にハンカチを持ったセドナの白い手が迫っていた。
「ん?・・・んぐっ・・・んーんー・・・」
セドナは強くディオネの顔にピンクのハンカチを押し付ける。一応、ディオネは身体をぶるぶる動かして抵抗を見せたけど、無駄だった。ディオネは伸びた。
床に顔の先から尻尾まで情けなくびよーんと伸ばしている。何をされるのかわからないヘレネは恐怖で身体が震える。
「何でもないですよ?ただの香水です。ディオネは昔からこの香水を嗅ぐとすぐ寝ちゃうんですよ。」
そう言って無邪気な顔でハンカチをヘレネに見せるセドナ。そのハンカチを嗅いだヘレネ。そのハンカチからは確かに一般によく普及してる香水の匂いがした。
ヘレネも受付をしていた時によく使っていたものだ。
「な・・・何するの?」
恐怖で慄いたヘレネはセドナに聞いた。身体の震えは大きくなる。
「私は・・・あなたと話がしたかったんですよ。ディオネと長いことチームを組んでたって聞いたもので。」
無邪気なセドナの顔がヘレネには悪魔に見えて仕方がなかった。
「だからって手荒なまねは許されないよ。」
戦闘の構えを取るヘレネ。震えを止めてセドナをキッと睨む。
しかしセドナはそんなヘレネをあざ笑うかのように余裕の笑顔でお茶をすする。
「手荒ですか?もっと手荒な手もあったんですよ?1匹で出来るもっとも効率のよい手、それを選んだまでです。」
この娘・・・何なんだろう・・・恐怖よりも奇怪さを感じるヘレネ。怒っても仕方ないとヘレネは戦う構えをやめた。
「あなたが”スポンサー”なの?」
落ち着いたヘレネは目の前のセドナ・・・依頼者に”スポンサー”であるかの確認を取った。
「はい、私がおそらくあなたたち言う”スポンサー”ですが。スポンサーって呼ぶのはギルドだけみたいですけどね。」
この娘がスポンサー?ヘレネはにわかに信じられない。だって目の前にはただ1匹のアブソルがいるだけ。しかも幼い。
「ディオネとの関係は?」
そうヘレネが聞くと、セドナの顔は少し曇る。
「そこ聞きます?私とディオネの関係は・・・幼馴染ですよ。といっても過酷な運命を強いられた・・・ね。」
「過酷な運命?」
「そうですよ。あなたは私がスポンサーだと知ったとき、どう思いました?若いとか思いませんでしたか?」
セドナはヘレネが不可解に思っていた点にスパスパ突っ込んでくる。ごまかしが効かないな・・・ヘレネはお茶の少なくなったコップに目を移した。
「思った。」
「でしょ?正確には3年前までは私の父が”スポンサー”でした。」
「父?」
ヘレネはこの家にはセドナしか住んでいないのをさっき知らされた。
「もう亡くなりましたけどね。」
一瞬だけ虚ろな目をセドナはヘレネに見せた。ヘレネはごめんなさいと謝ったけど、セドナはいえいえ、と断る。
「スポンサーの仕事は、ギルドの支援。今はそう名目上はなっています。」
「名目上?」
そう言うとセドナは私にあるエンブレムを見せた。蒼いトライアングルに黄色の三日月の入ったモチーフ・・・
「これって・・・」
「そう。ネレウス財団。このマークは目にしたことくらいはあるよね?」
ネレウス財団って言うのは、この世界で最も金を稼ぐ、と言われてる組織。高い利益を上げ続ける裏側には何かある、といわれてる。ネレウスとは海の老人と呼ばれている海神だ。
「ええ・・・」
あいまいな記憶をたどって思い出したヘレネは返事をする。
「そこで英才教育を受けた、いや受けさせられたのがディオネです。」
「え!?」
ディオネは確かに過去のことをほとんどヘレネに語ったことはなかった・・・世界一金を稼ぐと言われている組織とディオネにそんな関係があったなんて・・・とヘレネは思った。
「そしてその財団の一人娘であり、現総帥が私です。」
「え・・・あなたが?」
さっきよりヘレネには驚きはなかった。ディオネの過去のほうが気になるからだ。
「こっちはあんまり驚かないんですね?まあいいでしょう。ディオネの過去を聞きたいですか?普段の大人びたイメージを持ったままだと少しショックを受けるかと。」
セドナは冷酷に判断をヘレネに迫る。ヘレネはもう引き返せない場所まで引きずられていた。この幼いセドナに・・・。
「はい。お願いします。」
ふぅっと、一息ついてセドナは語り始めた。でもセドナの顔はうつむいている。
「ディオネはご両親が夭折され、いわば孤児でした。そのとき、ディオネのご両親と親しい関係にあった父が幼いディオネを引き取ったんです。」
ヘレネは、ディオネが普段両親のことを聞いたりしたことを後悔していた。セドナはうつむいたヘレネを横目に話を続ける。
「周りにいるのは大人ばかり。そんな状況で父はディオネに財団の権化にしようと、あらゆる教育を施した。ただでさえ幼いのにまさしくスパルタ。逃げないほうがどうかしてます。」
「あなたは?」
「私?私は幸い、♀でしたから。せいぜい叩かれる程度で済みましたよ?ディオネは何度も逃亡を図っては捕まり、無間地獄のような毎日だった。」
セドナは目に涙を浮かべながら、それでも淡々と話す。ヘレネは親に叩かれたりしたことはなかった。だからセドナの語る事実が、やわな心に突き刺さる。
「おかしいですよね?当のディオネには何の罪もないのにね・・・」
「どんなことがあったんですか・・・」
少しの・・・絶対に普段は見せてはならない狂気がヘレネの心を覆う。好奇心・・・こういえば聞こえはいいかもしれない。セドナの声がふるふると震えている。
「聞きます?それ。まあいいでしょう。私とディオネががまだ4つの時、私の目の前で突然気を失った。今でもはっきり覚えてる。身体を体液でびしょびしょに濡らせて・・・震えてた。」
ヘレネにとっては不自然さを感じざるを得ない話だった。気絶?4つの仔が?
「理由は簡単。逃亡を図った罰としてそれまで5時間、ディオネは身体に電流を流されてた。5時間ずっとだよ・・・泣きながらディオネはずっと耐えてた。」
セドナは声を低くして涙をこらえてる・・・ヘレネは自分の狂気を引っ込めることがなかなかできない。
「身体の小さな仔のポチエナに電気を流すなんて正気の沙汰じゃない。断末魔のような悲鳴を出すディオネはそれでも死ななかった。父がそれを許さなかったから。」
「ディオネ・・・」
ヘレネの好奇心から来る狂気は、セドナから語られる残酷な事実によって次第に消え失せて行った。
「これ、わかります?」
セドナはテーブルの下から白いであろう錠剤の入った小さな茶色い瓶を取りだしてヘレネに見せる。ヘレネはその瓶を食い入るように見つめている。
「わからない・・・」
少しうつむいたセドナははぁ、と小さなため息をついて顔をあげた。
「これはね・・・強心剤です。ディオネはそうした罰を受けつづけて、もう心臓の機能はすっかり弱くなってた。進化するまでこれを手放せなかった。」
信じられない、というような顔をしてヘレネは強心剤の入った瓶を見続ける。怒りとそれ以上の哀しみがヘレネの心を張り裂けそうにする。
「そんなディオネは私の地獄の中でたったひとつの明るい星になってた。3つくらいの時からずっと一緒にいて、私を庇ってくれたり、たまに私が庇ったり・・・」
「恋人みたいな関係?」
「今はそうかもしれないけど、昔はそうじゃなかった。無人島に置き去りにされたたった2匹の仔。命を支えあう、その軽い言葉の意味が重く私たちの心にはのしかかってる。」
少し表情はゆるんだけど涙声になったままのセドナはお茶を少し口に含んで、また語りだした。
「ディオネはそのあと次第に自分の裁量でいろいろなことが出来るようになっていった。彼が特に興味を示したのは本だった。私と遊びながら本読んでたりね・・・」
ヘレネは横になって伸びてるディオネをちらっと見た。セドナから語られる悲惨な過去とは無縁なような穏やかな寝顔をしてる。それが余計にヘレネには辛かった。
「そして、立派なグラエナになって、父は相当喜んでた。その頃には父も丸くなって、権化とか、特に気にしてなかった。ただ仔の成長を願う親・・・父もようやく過ちに気付いた。」
「そうなんだ・・・そしたらあなたたちは幸せになれたの?」
明るい話題になってようやく自分の意見ををはさむことのできたヘレネの質問にセドナは微笑んで答える。
「少しだけね。グラエナになってすぐ、ギルドに入るって言い出した。8つになったばかりの時かな?父は喜んで受け入れてくれた。」
「そこから今まで会ってなかったわけ?」
なかなかディオネも冷たいなぁ・・・ヘレネはそう思った。
「まあね。ディオネは最後に私に賢くなって財団を盛り立てろ、そう言って家を出て行った。そこから今日まで会ってなかった。」
「お父さんの葬儀の時は?」
「その時は・・・依頼だったらしくて、ポーシャが変わりに弔問に来てくれた。でも墓にはちゃんと年に2回くらい来てる。来るとちゃんと跡が残ってるから。」
「そうなんだ・・・」
話の内容がハードすぎて相槌を打つしかないヘレネ。ふと壁の可愛いデザインの時計を見ると来たときから1時間は過ぎていた。ヘレネは一息ついてコップを見ると飲み干したらしく底が見えていた。
「私は必死に勉強した。いつかディオネをびっくりさせるんだって。」
セドナのうれしそうな話で、さっきよりはすごく和やかなムードになったのでヘレネはお茶のお代わりをお願いした。
「ふふ・・・喋りすぎたみたいね。でもまだ話は終わらないんだけどね。」
セドナはそう言うとテーブルから離れてお茶の入ったボトルをキッチンだろうか・・・それをキッチンから持ってくる。その間ヘレネはディオネの頭を何度も撫でていた。
「好きなだけ入れてね。」
そう優しく言うと、ボトルをテーブルの上に置き、セドナは再びヘレネの目の前に座った。
「ありがとう。」
軽くお礼をいうとセドナはにこっと笑う。
「財団の当時の収益は1500億カレンシ。だいたいがみかじめ料。私はそこからまず脱却しようとした。まぁ詳しくは言えないけど・・・今の収益は1兆3500億カレンシ。」
聞きなれない単位。まさしく金の亡者だ。ヘレネはどうやるとお金が稼げるのか、不思議でしかならなかった。
「何したの?」
「ふふっ・・・投資・・・かな?」
「はぁ?」
投資?何に投資したのか・・・ヘレネは疑問に思っていた。
「それより、財団が生き血を啜ってるなんて、噂聞いたことない?」
ヘレネにはそれに心当たりがあった。昔から結構有名な噂だ。
「知ってる・・・」
「それは事実です。っていうより、この財団はギルドを衝突させて、消滅させた後、残った旨い汁をすする。それで莫大な財を成してきました。」
「恨まれるでしょ・・・」
事実を聞いてヘレネは素直に思ったことを言う。それを聞いたセドナは口元を少し緩ませて再びお茶を口に含んだ。セドナの唇が艶めく。
「多分父は殺されたんだと思いますけどね。一応波風が立たないように、病死、としたんですけど。誰の入れ知恵か知りませんけどね。」
はぁ、とため息をついたセドナはそう言うとコップを持つ手をテーブルに置いた。
「そこでなんですけど・・・父の死の真相、調べてくれないですか?実はこの依頼10回くらい出したんですよ。ここ2年でも。でも何も分からなかった。」
「財団にデータが残ってるでしょう?遺体の記録とか・・・」
ヘレネが思ったことをそのまま話すとセドナは顔を暗くした。少し面倒だな、とも思っていたけど。
「それが・・・残ってないんですよ。警護は誰かが間違えて棄てた、って言ったんですけど・・・だからギルドに残ってるだけが全てです。」
明らかに怪しい・・・犯罪の匂いがプンプンする・・・ヘレネはそう思った。
「ふぅん・・・」
「この依頼、またポーシャに出しときますね。」
明るい笑顔でセドナは言う。おそらくこれがキラースマイルというものだろう。
「私たちのチームに調べさせるの?」
その笑顔をすこしうっとうしいな、と思っていて適当に聞き流していたヘレネは少し驚く。
「当たり前でしょ?財団の誇る頭脳がありながら・・・ね?成功報酬弾みますよ~。」
嫌な笑みをセドナは浮かべる。ヘレネは少し気分が落ち込んだ。乗り気がしないからだ。
「ディオネに悪いわよ。それに親方も怪しむでしょ?」
「ポーシャは父が生きてたら、今頃死んでます。父はギルドを次々潰していって地域に1つ、財団の拠点を置いてましたから。そしてその本部がここ。」
自分たちも危なかったんじゃないか・・・その悪寒でヘレネは嫌な汗をかいてる。でもそんなヘレネを見てセドナはうれしそうに喋った。
「で、でもディオネは?ディオネがいるのに潰すかな・・・」
「ディオネくらい、どうとでもなったと思いますよ。引き抜くとか。死んだ今ではどうしたかはわからないけど。私は潰すより利用する道を選びました。」
「ディオネと競いたいから?」
すこし茶化してヘレネは言う。それはやきもちでもあった。
「それも・・・まあ閑職にいたことはポーシャから聞いてましたから。」
「チームを組んだことは?」
「だから最初の依頼を頼んだんですよ。」
「へ?」
ヘレネは最初の依頼のことを思い出していた。死ぬ危険性もかなりあった帰らずの洞。ヘレネの怒りがこみ上げる。バン!と机を叩く。
「ディオネも死ぬかもしれなかったってことは!?」
「知ってます。」
「じゃあなんで?」
少し感情的になったヘレネはセドナに問い詰める。でもセドナはお茶を飲む余裕のあるくらい、いたって冷静だ。ふぅ、と息をつくとセドナは再び喋り始める。
「賭けたんですよ。ディオネが謎を解明するほうに。そしてそれは成功しました。」
「え?解けたの?」
あの依頼・・・ヘレネはディオネからも親方からも何も聞かされていなかったことを思い出した。
「はい。ギルドからの報告書には全て書いてありましたよ。ひょっとして知らされてないんですか?」
「恥ずかしながら・・・ね。」
「ポーシャらしいですね。優位に立てそうな情報は秘匿する。コマースギルドらしいじゃないですか。」
時計を見るとさっきからさらに1時間たっていた。ヘレネはちらっと見たけど一向に寝てるレオンたちは起きない。
「薬・・・どれだけ盛ったの?」
「3時間。」
「そんなに話するとでも?」
あきれたヘレネはセドナを軽く非難した。
「もちろん。」
でもセドナは軽く笑った。
「セドナは・・・ごめんなさいセドナさんはディオネのことが好きなんですか?」
ヘレネは最後にセドナがディオネを今も好きか聞いた。セドナはうれしそうに感情をこめてにっこり笑う。
「もちろん。だから四六時中一緒にいるあなたに結構嫉妬してますよ。」
「・・・」
殺される?ヘレネはそう感じた。
「でも、ディオネは私のこと思ってくれてるのかな・・・」
笑顔から急に憂鬱そうな顔をしたセドナをヘレネは励まそうと思った。
「ディオネはあなたのことをちゃんと考えてると思うけど。」
「そうですか?」
「だって・・・ちゃんとお茶の葉をね・・・」
セドナは途端に顔を真っ赤にした。憎たらしいと思ってたけど案外可愛いところあるなぁ・・・ヘレネは顔を真っ赤にするセドナに話を続ける。
「依頼品はアールグレイだったでしょ?でもディオネが買ってきたのは・・・バイカル・・・」
「こここ、これは・・・そうだよね・・・ディオネ・・・」
照れてじたばたしたセドナをヘレネはにこっと微笑んで見ていた。
「あなたたちほど長く付き合ってれば・・・どれだけ時間が空いても絆は切れることはないわね・・・うらやましいな。」
この言葉はヘレネにとって素直な感情だった。セドナもうれしそうに答える。
「当たり前です!ラブラブだもん。いつか財団が安定してきたら、一緒に住みたいな・・・」
「住めるわよ・・・きっと。」
照れながらもにこっと微笑むセドナの顔はどこか誇らしいものがあった。少し嫉妬するな・・・あー彼氏ほしい・・・ヘレネは急に心が寂しくなるのを感じた。

「さて、最後に、報酬・・・でしたね。」
「あ?そうだった・・・」
話に集中しててすっかり忘れてた。ヘレネはコップをもう一回見ると、やっぱり空だった。そのコップにヘレネはお茶をついで、少し喉を潤した。
ゴト・・・とテーブルの上に大きなカバンが置かれた。
「これが・・・今回のお茶の報酬3000カレンシと・・・前回の成功報酬です。」
???なんじゃそれ?ヘレネは首をかしげた。
「成功報酬?」
「はい。この前の依頼の成功報酬400万カレンシなんですけど・・・契約では、歩合制って言ってましたよね?」
「知りません。」
ヘレネはきっぱりと言ってやった。知らないものは知りません、そう思うとなぜか誇らしいヘレネ。
「ふふっ・・・ええと。一応ポーシャには75%って提示したんですけど、満額支払います。」
「いいの?」
「はい。お話の相手代と、ここで眠ってもらってるディオネ達への迷惑料ですね。名目上満額、ということで。」
「ありがとうございます・・・。」
一応ヘレネはお礼を言った。今まで直接報酬とか貰ったことなかったからね・・・
「いえいえ・・・で、さっき言った依頼ですけど・・・」
「あなたのお父さんの?」
「そうです。特に時間の期限は決めませんので・・・でも一応報告はしてください。」
「わかってるって。早速帰って親方に言うから。」
「お願いします。」
ヘレネは笑顔でセドナを見た。セドナも笑顔でヘレネを見てる。

「ん・・・んぁ・・・」
ディオネが何やら起きそう気配を見せた。
「じゃあ起こすかな・・・起きろっ!」
セドナはゆっくりとディオネに近づいていく。
ぐぃっ・・・
「ちょっ・・・セドナ!」
セドナはディオネの体を抱き起こすとギュッと強く抱きしめた。ヘレネはびっくりして呆然とした。結構強い力で抱いてるのかディオネのグレーの体は白い毛がいくつか付いている。
「ん?んん?・・・くぅくぅ・・・」
「しつこいなぁ・・・おりゃっ!」
そのままセドナとディオネは最初みたいに再び床にごろんと寝ころんだ。白いセドナがディオネをすっかり呑み込んでるみたいに見える。
「ん・・・あぁ・・・セドナ・・・おはよう・・・相変わらず・・・きつい・・・」
「起きてね~。帰らないんだったらいいけどね~。」
セドナはなかなかディオネを離さない。2匹とも顔を真っ赤にしてずっとお互いを見てる。
「こらこら。やめなさい。」
「うーん・・・ヘレネか・・・おはよう。」
止めるヘレネの声に反応したのかディオネはゆっくりと起き上がる。
「おはよう、ディオネ。いいお目覚めね。」
「うん・・・ふぁぁ・・・ってか俺はセドナに無理やり眠らされたんだよな・・・いい目覚めも何もないだろ。」
だるそうにディオネは言う。ディオネにセドナもヘレネも笑った。
「もう・・・っていま何時なんだ?・・・3時間たってる・・・」
がっくりとディオネがうなだれると、ヘレネが報酬の入ったカバンをディオネに見せた。
「ほれ。」
「何これ?」
「セドナさんからのありがたい報酬だよ。」
「報酬か・・・」
かみしめるようにディオネは言う。ヘレネはセドナに目をやると、セドナはディオネをじっと見ていた。
「ディオネ、レオン起こして帰ろうか。」
「そうだな・・・セドナ・・・ありがと。」
ディオネはセドナに礼を言うとレオンを背中に乗せて、ドアから外へ出ていく。ヘレネはディオネにつられるように外に出た。

「じゃあ、依頼の件、お願いしますね。」
セドナがヘレネに言う。ディオネは依頼って?という顔でセドナを見た。
「父の死の真相・・・それをお願いしたんですよ。」
「そうか・・・」
何か考えているような返事をディオネがすると、ヘレネはディオネの顔を覗いた。
「ディオネ?」
「ん・・・なんでもない。帰ろうか。ありがとな、セドナ。」
ディオネはセドナの頭を何度も撫でていた。セドナは終始嬉しそうに身体を震わせていた。西に傾いた太陽が、2匹によく似合っている。
ギルドへの道を寝ているレオンを背負って進んでいくディオネ。ヘレネは報酬の入った重たいカバンを抱えてよろよろと進む。

「はい。お疲れ様。」
玄関で親方がお迎えに出ていた。ヘレネは嬉しそうにカバンを親方に押し付けた。親方もうれしそうにカバンを抱えている。
「じゃ、ヘレネ。俺はレオンを部屋に連れていくから。」
そう言うとディオネはギルドの建物の奥へと進んでいった。ヘレネはセドナから受けた依頼を親方に伝えると、報告書のあるキャビネットの閲覧許可を得た。
親方は手下に手早く報酬の入ったカバンを運ばせて、自室へと戻っていく。ヘレネは親方の部屋のすぐ近くにある資料室へ向かった。
木の廊下を進むたび、ヘレネは自分が依頼を受けたんだ、と不安と興奮の入り混じった気持ちを抑えられなくなっていく。
そうこうするうちに資料室の扉が目に入った。ヘレネは資料室に来たことが無く、好奇心でわくわくしている。

ギィ・・・と少し古いのか音のなる木製のドアを開けると資料室内の大量のキャビネットが目に入った。すこし部屋はほこり臭い。
「どこだろう・・・」
少し考えるていると、ヘレネはキャビネットが依頼者の五十音順に並んでいることに気付いた。
「セドナ・・・だから・・・サ行だよね・・・」
そう呟くとヘレネはさ行のキャビネットをガラガラと開けた。
「セドナ、セドナ・・・えっとセ・・・セ・・・ああ。あった。」
キャビネットからセドナと書いてある札のついたファイルの束を引き抜いた。その中からさらに自分の求めている書類を探す。
「えっと・・・これかな・・・」
ヘレネの取ったクリアファイルには確かにセドナの父の死の真相に関する調査・・・そう書かれていた。
「これか・・・」
クリアファイルの中から報告書を1枚・・・取りだした。そしてゆっくりとめくる。
「な!なにこれ!」
ヘレネが手に取った報告書の記入面は全て墨で黒く塗りつぶされ、その上に白字でアルファベットの羅列が無造作に、記入されていた。
その白地のアルファベットはヘレネを震え上がらせるのには十分過ぎた。
「なにこれ・・・」
ヘレネはようやく自分がしていることは禁忌に触れていることなんじゃないか・・・そう思うのには当然だった。
その白字は普通に文のようなものを成していたが、配置も出たらめで、読めるようなものではなかった。ぽんぽん・・・誰かが身体叩いた。
「・・・・・・・!」
恐怖でヘレネは声が出せない。びくっと身体を大きく震わせた。
「ヘレネ!ヘレネ!」
聞き覚えのある声がした。
「ディオネ?」
「ここ、閲覧許可取った?」
「あっ・・・あたりまえでしょぉ・・・」
ディオネもヘレネの異常を感じ取った。
「どうしたの?」
「これ・・・」
ヘレネは必死に手に持った墨塗りの報告書らしきものを見せる・・・ディオネもびっくりしたように身体を震わせた。
「何これ?誰かが改ざんしたってことかな・・・」
「たぶん・・・」
「この字の羅列・・・何だろう・・・」
「わかるの?」
「全然。暗号ってことはないかな・・・」
ディオネはめったに聞かない言葉を出した。ヘレネは余計に怖くなる。
「暗号?解読してよ・・・」
無理なお願いだとは思ったが、今のパニックを落ち着けるためには何でも言いたかった。
「・・・無理。」
「へ?」
「情報が少ないんだよ。ただアルファベットの羅列だけだったらそれはひらがなを表してるのか古語として意味を持ってるのか、本当に暗号なのか・・・」
ディオネはやけにあっさりヘレネに諦めるように、言った。
「親方に報告しとくね?」
涙声でヘレネはディオネに言う。ディオネもわかった、という風な返事をした。

ヘレネは親方に一切の説明をして、依頼を受けることは出来ない、と言った。墨塗りの報告書を見せるタイミングをうかがっている。
「わかりました・・・スポンサーにはそう伝えておきます。」
いまだ、と思ったヘレネは話を切り出す。
「親方・・・これ見てください。」
ヘレネは親方に墨塗りで白地の羅列のある報告書を見せた。
「何これ?落書きした?」
「ちちち、違います!」
「あ・・・そう。キャビネットの閲覧許可を最後に取った奴は・・・と」
ペラペラと書類をめくる親方。
「最後に許可取った奴が入ってからよりも、ずっと後だね・・・この報告書が作成されたのは。」
え?ヘレネは寒気がする。
「私もちゃんと元のやつ見たし・・・改ざんされたってことかな・・・信じられないんだけど・・・にしても・・・これ・・・」
親方も興味津津、といった具合に見ている。
「暗号じゃないかな?」
「ディオネもそう言ったんですけど・・・わからないって・・・」
親方はヘレネの反論があまりにも早くて、驚いた様子だ。
「暗号ってのは・・・ある程度情報処理に精通した奴でないと使えないからね。簡単な関数でならすぐ解読出来ると思うけど。」
「そうですか・・・」
残念そうにヘレネは親方に言う。親方は少し考えていた。
「古語じゃないかな・・・」
ヘレネは聞きなれない言葉を耳にした。・・・古語、大昔に使われていて、今でも一部で使われている言語だ。
今では新語、つまりいま使われている言葉に追われて意図して勉強しなければ習得することは難しい。
「あ・・・一番下・・・これは読めるんじゃないかな?」
親方が墨塗りの報告書の一番下の数文字の羅列を指差した。
「d、a、s、 M、e、s、s、e、r・・・?」
アルファベットを声に出して読むヘレネだが、意味はわからない。
「私の知ってる古語と違う・・・」
親方も諦め加減にそう言う。
「ディオネって古語知らないの?」
「知らないと思いますよ・・・いくら彼でも。」
「そっか・・・das Messer・・・何の言葉なんだろう・・・私が知ってるのと文法が違うんだよね。Messerってのが固有名詞ならわかるんだけど・・・dasって・・・」
相当悩んでいた親方だったけど、諦めたようで、ヘレネに報告書を渡した。

ヘレネは諦めて、部屋に戻ろうとする。親方は一応古語の本なら貸すけどね、と笑顔でヘレネに言った。
気分転換に喫茶に立ち寄ったヘレネは、ピカチューのウェイターにコーヒーを注文した。
「ん?あのゴミ箱なんだろ・・・」
ふとゴミ箱にアルファベットの羅列を見つけたヘレネ。
「e i n A b f a l l e i m e r ?何だろう・・・すいませーん・・・」 
「はい?」
ウェイターのピカチュウがコーヒーを持ってきたので、ゴミ箱のことを聞いた。
「ああ、これですか?前にディオネさんとレオンさんが来たときにレオンさんがいたずらで書いたんですよ。」
「レオンが?」
「はい。意味わからないけど好きな文字だって言ってましたよ。」
ウェイターのピカチュウが屈託のない笑顔で答える。ヘレネはまぁ、いっか・・・そう思ってコーヒーを口にした。
「苦っ・・・砂糖とミルク入れるの忘れた~・・・」
そうヘレネが呟くと砂糖とミルクの入った小瓶を手繰り寄せると、調節してコーヒーに入れていく。
ヘレネは今の幸せを感じながら、それでも目線は意味不明なゴミ箱に書かれた文字の羅列をじっと捉えていた。

とんとん・・・誰かがヘレネの身体を軽く叩いた。ヘレネはディオネかな?と思って振り返った。
「やぁ。」
やっぱりディオネだった。レオンも一緒だ。ディオネの背中には何か紙パックの入れ物が乗っかっている。
「何それ?」
「さっきね、玄関にセドナのお使いってブラッキーが、ある地方からいいお土産が届いたって、これくれたんだ。」
ディオネが背中からおろした紙パックにはDer Orangensaftと、でかでかと書かれていた。ヘレネは首をかしげる。
「何これ?」
「なんだろうね?もらっておきながらこんな言い方するのは申し訳ないけどね。開ける?」
にこっと笑ってディオネはヘレネに迫るけど、ヘレネは後ずさりする。
「ちょちょちょ・・・怖いって。」
「紙パックに入ってるんだよ?臭かったら匂いもれてるでしょ?ってことは・・・」
「爆弾?」
「いやいやいや待って・・・」
パニックに陥った面々。レオンはすっかりテーブルの下でうつ伏せになってるし、ヘレネは首を後ろにそらせて距離を取る。ディオネもゆっくり後ずさりしていく。
「あれ?どうしたんですか?」
異常を察知したのか、ウェイターのピカチュウがやってきた。
「これ・・・オレンジジュースじゃないですか?」
「え?」
ヘレネとディオネはゆっくりと紙パックに近づいていく。
「なんでわかったんですか?」
「え?オランジェンザフトってこれ古語でしょ?・・・あ・・・いや少し・・・学校で古語をね・・・」
「ふ~ん・・・」
ウェイターは何か申し訳なさそうに去って行った。ヘレネはディオネをど突く。
「びっくりさせ・・・あれ?」
「いててって・・・ん?どした?」
ディオネは叩かれた後、ヘレネの様子がおかしいことに気付いた。
「ふっふっふ・・・ディオネ・・・洞察力ナンバー1の座はいただいた!ちょっとウェイターさん?」
ヘレネがウェイターを呼びつけた。何かひらめいたようだ。ヘレネはかっこつけて構える。
「はい・・・何か呼びました?」
「あなたですよね?報告書を改ざんした・・・Das messerは・・・」
ヘレネの一言でウェイターのピカチュウの頬はぴくっと震えた。
「な、何のことですか?報告書?改ざん?」
「ふっふっふ・・・ディオネ・・・私の頭はフルスロットルで回転しとる・・・」
ほくそ笑んだヘレネはあきれるディオネを横目に自信たっぷりに口を開く。
「ウェイターさん?あなたは古語を学校で習ったって言いましたよね?」
「は・・・はい・・・」
「そんなわけないんです。この古語は一般に使われているアルファベットで書かれていた・・・けれど読みを考えると疑問が残る。」
「な何がですか?」
ウェイターはヘレネの推理の前になぜかたじたじだ。まさかね・・・とディオネは思っていた。
「orange・・・親方が教えてくれた一般に知られてる古語のオレンジの綴り・・・まあそこはいいや。問題はsaft。これ何て読んだか憶えてる?」
「い・・・いや・・・」
ヘレネはますます自信をつけていく。口調も次第にきつくなる。
「ザフト・・・って読みました。普通・・・これも親方から教えてもらったんだけど古語のザっていうのはthかzで読みます。なんでsでザって呼んだんですか?」
「が・・・学校で習ったって・・・」
「はい貰った!」
完全に動揺するピカチュウにむかってヘレネは叫ぶ。ピカチューの身体がびくっと大きく震えた。
「これも親方が教えてくれたんだけど学校で習う古語は全て親方の知ってるほうの古語だそうで。あなたの知ってる古語を学校で習うことはまずない。」
「え?・・・」
「ふっふっふ・・・どうよディオネ?」
自慢げなヘレネを信じられない、といった感じの表情でディオネはヘレネを見ていた。
「・・・しまったなぁ・・・怒られちゃうな。・・・ザインに。」
さらにディオネはびっくりした。ウェイターのピカチュウが罪を認めたから。
「そうです。私がキャビネットに忍び込んで、書類を改ざんしました。」
「さて、しかるべき処置を受けてもらいましょうかね?」
ヘレネはにこっとそのピカチュウを見た。どたばたと辺りはにわかに騒がしくなった。ピカチュウは罪を認める一言のあと、ずっと黙ってる。
「何か喋ったらどうなのよ?」
「・・・」
顔にしわを作って威嚇するヘレネだが、大して効果はなさそうだ。ヘレネはピカチュウを椅子に座らせるとずっと尋問している。
「じゃああのゴミ箱には何て書いてあるの?」
話題を変えるために、謎の文字の羅列のあるゴミ箱に目を向けさせた。
「・・・ゴミ箱。」
「え?」
「ゴミ箱だからゴミ箱って書いてあるんです。ったく・・・だれだよ・・・」
そう言うと再びピカチュウは黙った。その態度にヘレネは少しイライラしている。
ざわざわとざわつく喫茶。
「ちょっと?ヘレネ?」
親方があわててやってきた。
「どうしたんですか?親方。」
「スポンサーに連絡とって、迎えに来てもらったから。」
「え?尋問しないんですか?」
「スポンサーの意向で・・・ごめんね?そもそもスポンサーの依頼だったからさ。」
ヘレネはがっくりと身体を落とした。ディオネがそばにやってきて、慰める。
「自慢できるネタが増えたと思ったのに・・・最悪だぁ・・・」
「そんなことないって。」
「ディオネみたいに実績がほしいなぁ・・・」
「それを続けてるうちに実績くらいなんとでもなるよ。」
「はぁ・・・」
ため息をついてずっとがっかりしてるヘレネをディオネはスポンサーの手下に送られていくピカチュウに会わせた。
「・・・はぁ・・・今度はおいしいコーヒー淹れるためだけに来てね?」
「・・・わかった。」
「何か言いたげね?」
「ん?いやね・・・俺たちのボスはお前らのすぐ近くにいるってことが分かったよ。」
ピカチュウはそう恨めしそうに言う。ヘレネとディオネはお互いの顔を見る。
「もしかして・・・まだ下っ端しょっぴいただけってことかな・・・」
「ヘレネ・・・多分そうだろうね。」
ピカチュウはそれでも笑顔でディオネとヘレネに別れを告げ、連れられて行った。


#hr

あれから何年経つんだろうな・・・メガニウムのヘレネはじっと見つめていた。
「ちょっと~・・・ヘレネ?さぼらないでよ?」
「そだそだ!」
親方と、その姪っ子のメリープのエリスちゃんがヘレネを注意していた。といっても可愛いものだ。
ヘレネはと蔓でエリスを撫でるとエリスは身体をぶるぶるふるわせて逃げて行った。
「はぁ・・・さて・・・これで今日の仕事は終わりかな?」
親方は満足そうにヘレネに言う。ヘレネもやっと終わったか、という具合に安堵の表情を浮かべた。
ヘレネは自分の部屋に戻って行った。

1匹用の散らかった部屋でヘレネはうとうととしている。
こんこん・・・誰かがドアを叩いた。
「は~い。どうぞ。」
ガチャ、という音とともに、嬉しそうな声が聞こえてくる。
「ヘレネさ~ん!ディオネさんから手紙きましたよ!」
「えっ!」
ガバッとヘレネは身体を起こして、レオンのいるドアそばにあわててかけ出す。
「どれどれ・・・ふ~ん・・・ディオネ、うまくやってるなぁ・・・もうすぐ帰ってくるのか・・・」
手紙を読み終わると、ヘレネは嬉しそうに顔をあげた。
「楽しみですよね。」
「うん。」
レオンの声に一応答えるが、心ここにあらず、といった感じだ。ヘレネは心躍らせて、ディオネのことを考えていた。
ディオネが帰ってくる・・・その気持ちは混じりけのない、純粋な思慕だ。
「ディオネ・・・」
ヘレネはうれしさで顔をほころばせて、再び眠りについた。


#hr

・・・ギルドの中・・・
ディオネは自分の部屋のドアをギィっと開けた。
誰かいる・・・慎重に部屋の中を見ていると自分の本棚をがさごそと探っているアブソルの姿が見えた。
「セドナ・・・どうやって入ってきたの?」
声をかけるとセドナは身体をぴくっと震わせて、ディオネのほうを向いた。
「ん~とね・・・うちの関係者が迷惑をかけたから、そのついでに来たの。その辺の奴にディオネの部屋どこ?って聞いたらすぐ教えてくれた。」
なんだそれ・・・とディオネはがっくり頭を下げた。セドナは一冊の本を手にしてる。
「なんでこの本、表紙にゴミ箱って書いてあるの?」
「へ?・・・ああ・・・なんでだろうね。わからない。適当に書いたんだと思う。」
ディオネがモチベーション低めに答える。
「ふ~ん・・・で・・・その・・・今回はごめんね。ウチの関係者が迷惑かけちゃって。墨塗りに、乱雑な落書きなんてしちゃって・・・」
セドナは一応、という具合にディオネに謝る。
「思った以上にうまくいったようだね。」
ディオネが発した言葉に、セドナがビクン!と身体を大きく震わせた。
「何言ってんの?何が上手くいったって?」
「das messer・・・洗い出せてよかったね。しかもこっちが見つけた。」
セドナは困惑した表情を浮かべている。それは何に対する困惑なのか、ディオネはそう思った。
「何言ってるのか説明してくれる?わかんないんだけど。」
おどけた表情をして、ディオネの話から軸をずらそうとするセドナ。
「父親の死の真相を探る依頼・・・そして、財団内の身内の整理。」
「ディオネ?私の言ってることわかる?」
セドナはディオネの話を中断しようとするが、ディオネは気に留める気配すらない。
「あのウェイターは報告書を改ざんしたと、言った。」
「そうだよ。墨塗りで、白文字で落書き・・・」
「その情報、どこで仕入れたの?」
ディオネが尋ねると、セドナは身体を再び震わせる。
「それは私の発言に矛盾があるっていうことかな?この情報はポーシャに聞きました。ピカチュウが報告書を墨塗りにして・・・」
「ふふっ・・・」
ほくそ笑むディオネ。セドナはそれに気付くと嫌な汗をかき始めた。
「な!何よ!」
「ピカチュウ・・・いやdas messerは確かに改ざんした、とは言った。けど具体的に何をしたかは言ってない。」
「それは!ポーシャがそう言ったんだから!」
「嘘だ。親方は絶対にそうは言わない。改ざんしたっていう言葉の意味、わかる?」
「そ、それは・・・」
「微妙な言葉のニュアンスかもしれないけど、あのピカチュウは報告書の内容を書き換えただけだったんだろう。」
ディオネはふぅっと一息ついて、すこし顔色の悪いセドナにまた喋り始めた。
「本当は・・・セドナでしょ?報告書にたちの悪いいたずらをしたのは。」
セドナぴくっと顔を震わせると、ハンカチを取り出して汗を拭き始めた。
「・・・でもなんで?私がそうしないといけないの?」
「乱雑な文字・・・そうあの文字列を意味のないもの、と仮定すれば面白いように疑問が解消してきてね。」
ディオネの顔は普段ヘレネにも、セドナにも見せたことのない、何かの悪魔が憑いた・・・そんな冷酷な顔をした。
「聞かせてくれない?ディオネの推理。」
セドナは言葉でディオネを威圧しようとする。だが、ディオネはそんな威圧をもろともせず打ち砕く。
「文字列が意味のないものだとしたら、意味の残った文字は最後のdas messerだけ。その言葉の意味を調べさせるうちに依頼主である財団にも手がもちろん及ぶ。」
ディオネは冷酷にセドナを責めていく。
「それが意味するのは2つ。1つはdas messerの正体を掴みたいということ。そしてもう一つは迷宮入りになっている自分の父の死の真相を暴きたいということ。」
顔が次第に凍りついていくセドナ。持っていた本をどさっと下に落とした。ディオネは一瞬、本に目をやったが、再びセドナを見る。
「das messerが自分の父の死にかかわっている・・・もしくはその可能性が高い。そう判断したんだよね?」
ディオネが次第に色が失われていくセドナの顔をきっ、と、睨んだ。セドナは観念したようにどさっと体勢を崩した。
「なんで・・・神はだませてもディオネはだませないってこと・・・?」
一度床にうつ伏せになったセドナは、再び身体を起こす。
「das messer・・・短刀。その意味をずっと探ってた。こいつのせいで財団の総帥である私・・・その私は結局操り人形なんじゃないか・・・そういう思いにとらわれてきた。」
ディオネはゆっくりとセドナに近づいていく。
「前の依頼が終わったころ、財団の影響を受けていない秘書からdas messerなる者が財団の内外、ギルドにまで影響を及ぼしている、そういう報告を受けた。」
はぁっとため息をついたセドナにディオネが寄り添うように隣で腰を下ろした。
「私は正体を掴みかねていた。ひょっとしたら私より大きな力が存在するのかも・・・そう思った私は、とにかくdas messerの正体を探ることにした。」
「財団の職員を全員調べたの?」
「それはもとより、行動を把握するように努めた。でもわからないことだらけだった。そこで私は複数の罠を掛けた。」
セドナの苦労はディオネには分からない。でもディオネはただ黙って話を聞くことにした。
「そうすると、唯一かかったのが、そのdas messerだった。財団とギルドの情報をディオネから聞きだしたんじゃないかとか、そんな妄想に囚われてた。」
「俺がそんなことしたか?」
そうディオネが言うとセドナはふるふると首を横に振った。
「してない。少なくとも正体がわかった今となってはね。そこで財団内にある、連絡網に無意味な文字列を思いつく限り、使った。」
「そんなことしたら、正規の業務に異常が出るでしょ。」
「うん。すぐやめたけど、少しだけ効果はあった。それで財団内には一部、das messerのように何をしているのかわからない連中がいたってことは、よくわかった。」
すこし明るくなった顔でディオネを見るセドナ。
「これで正体はつかめたし。ディオネ達のおかげかな。ディオネも古語の勉強したら?」
セドナはにこっと笑うとディオネの頭を撫でた。
「・・・セドナもInformatikの勉強しなよ。」
ディオネに茶化されて再びセドナは顔を暗くした。
「財団を突き動かしてるのは誰なんだろう・・・私?それとも・・・」
セドナはディオネの身体にもたれかかった。
「セドナ・・・ゆっくりしてていいけど、早く帰りなよ。」
「そうする・・・もうちょっとゆっくりしとく。早くスカーフ取ったら?」
「ああ・・・そうする。」
ディオネに寄りかかりながら、セドナはディオネの首に巻いてあるスカーフを見ていた。よくみると赤黒い生地に小さく黒でアルファベットが数文字書いてある。
「sein・・・」
なんでseinなんだろう・・・そう思ったけどセドナはゆっくりとディオネのもふもふに顔をうずめていった。



#hr

一通り完成。
微妙な出来なので改訂しまくる可能性あり。
全部ドイツ語任せにしてしまったぞ・・・ジャンルを問わず本をもっと読むか・・・
SFばっかり読みすぎだな。

10/07/09

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