前回は[[こちら>You/I 15]] 「You/I 16」 作者[[かまぼこ]] #contents **息抜きのライコウたち。 [#fb382509] コガネシティ。 ジョウト地方の中心都市でもあるここは、深夜になっても明かりが消えることはない。 それは、人々が常に活動しているという証でもあるのだが、その裏で、闇というものを 恐れる生物としての本能の表れにも見える。 この時間、町のメインストリートを行く人やポケモンはかなり少ないが、 それでもポケモンセンターをはじめ、コンビニエンスストアやファーストフード店など、 24時間営業の店は、煌々と明かりをともし、いつでも人を迎え入れられるようにしている。 しかしそんな中、コガネデパートの傍にある一軒のバーガーショップでは、 店内が異様な雰囲気に包まれていた。 「はーあぁ。&ruby(なぁん){何};にも掴めねーなぁ」 テーブルに顎を載せながら、厳つい顔に、黄色と黒のポケモンが呟いた。 その背中には小さな黒雲が渦巻いている、伝説のポケモン『ライコウ』だ。 「ぼやくなよライコウ。組織的に動いている敵なら、そう簡単に尻尾を見せたりは すまい。もう少し調査を続ける必要は……うむ、美味い」 言いながら、前足の爪で器用に合成ハンバーガーの包み紙を開け、その大きな口に 放り込んで租借したのは、同じく厳つい顔をした、赤茶色の毛並みに包まれた ポケモン、『エンテイ』である。 彼らはルギアの頼みで、ニニギ達を襲った謎の組織の調査を行っていた。 しかし、現時点にいたるも、彼らの詳細は全く掴めていなかった。 知り合いや野生のポケモン達に尋ねまわったりもしてみたが、一向にその存在が つかめずにいた。 「しかし……気になるといえば、最近あちこちで起きているという、 悪質トレーナーが懲らしめられる事件だな……」 人間達の間で話題になっているこの事件。ポケモンを大量に捨てる悪質な トレーナーを、どこかの誰かが懲らしめ、晒し者にしているという出来事が、 ジョウト地方の各地で相次いで起きていた。 しかも、それをやった人間やポケモンの姿は、誰も見たことが無いという。 保護されたトレーナー達の証言もまちまちであるため、警察側も人物が絞り込めずに 捜査が難航しているという。 「何か関係がある……のか?」 租借しながら、エンテイは呟いたとき、話の流れを切るように別の声がかかる。 「だが、こんな所で一服しててもいいのか? 人間達の目が、痛いのだが……」 そういったのは、青い体に、額のクリスタルが特徴のポケモン、『スイクン』。 彼はそのリボン状の尻尾を使って、器用にポテトをつまんでいたりなどする。 そんな彼らを、店の従業員や客たちは、唖然とした表情で見つめていた。 それはそうだろう。伝説のポケモン3匹が、こんなハンバーガーチェーン店で、 愚痴をこぼしながら食事をしているのだから。 一番驚いたのは、レジのお姉さんだった。 いつものように、注文の品を客に渡したときに、イキナリこの3匹が入店してきたのだ。 普通に自動ドアが開いたので、いつも通り「いらっしゃいませ」と声をかけたが、 その珍客たちに思わず言葉が「いらっしゃいま……」と、途切れてしまった。 3匹のうち、ライコウがのしのしとレジまで歩み寄ると、カウンターに前足でドンと 5千円札を置き、メニューボードを爪で指しながら注文までしてきたから、彼女は軽い パニックに陥った、 「ほっとけほっとけ。ちゃんと金は払ってんだ。誰も文句なんざ言わねーよ」 「さっきからボールを投げつけられているんだが……」 そういって、スイクンは足元に目線を落とす。 彼らの足元には、無数のモンスターボールが散らばっていた。店に居合わせた トレーナーが、彼らを捕獲しようと投げまくっているせいである。 「大丈夫だって。そこらのボールに入れられるほど、俺たちゃ弱かねーだろ?」 「それはそうだが……っと」 そう答えている間にも、また誰かがボールを投げつけてきたので、スイクンは リボン尻尾を使ってボールを見事に弾いて見せた。 「散らかると店に迷惑だろう……それに見ろ、あそこの人間なんか、 とうとうポケモンを繰り出してるぞ? ここで戦う気満々だろうが」 こんなところでバトルなどされたら、間違いなく店に損害が出る。 迷惑というレベルではない。 「ちっ、しゃーねぇなぁ。出るか」 ライコウがそういうと、3匹はそれぞれ食べかけのバーガーやらアップルパイを 口に放り込んで完食してから、店を出て行こうとした。 そのときだ。 ――全く何をやっとるんだ。お前たちは!? 『!!』 彼らの脳裏に、知った声が響き渡った。 「ホウオウ様!?」 3匹が答える。 彼らの上位の存在である伝説のポケモン、ホウオウからの呼びかけであった。 「一体どうしたのですかな?」 「テレパシー通信なんざ、珍しいじゃねーか」 ――お前たちはジョウトの平和を守らねばならん存在だろうが。 それに、お前達を狙っている悪い輩も多いのだぞ!? だから人の目に触れないように 町を避けて行動しろといつも言ってるだろうが! それをお前っ……人目を気にせず 人間達の町に入り、しかも堂々と店に入って買い食いまでしおって! お前達は伝説の ポケモンだという自覚があるのか!? 「いっつも遊びまわってたアンタに言われたかねーよ」 ライコウの返答に、スイクンとエンテイはうんうんと頷いた。 ――ぐっ……。 それを聞いたホウオウは、二の句が告げなくなった。事実なだけに、反論できない。 ホウオウも、昔はよくジョウト守護の任務を放り出して、あちこちの地方を飛び回っていた。 人に見られたことも一度や二度ではない。そのせいで人間に狙われたこともかなりあるが、 そんなものは実力で追い払っていて、ホウオウにとってはさしたる脅威でもなかったのだが。 ――と、兎に角、一度鈴の塔へ戻って来い! ルギアから「今すぐ来てほしい」と 連絡があったのだ。 「ルギア様から?」 「あちらで、何か情報が掴めたのでしょうか?」 ――わからん。詳しくは我々が合流したら説明するといっていた。 それを聞いた3匹は頷き合うと、店の出口へと向かう。 その間にも、複数の人間がボールを投げつけてきたが、華麗に弾き落して 足早に店を後にし、深夜で人の少なくなったメインストリートを駆け抜けた。 ――それにしてもだライコウよ。お前、買い食いに使ったその金、どこで手に入れた? 「ぎくっ」 ライコウは体をビクンとさせた。何か後ろめたい事があるようだ。 「ひ、拾ったんだよ。アレ」 ――ほほぅ? 最近寺の僧侶達から、よく「賽銭箱が開けられている」という話を耳にするのだが……? ライコウは脂汗を流した。 「お、俺じゃねーよ! そ、そうだ。どっか外国に、鍵の形をしたポケモンいただろ? きっとそいつの仕業だ! そーだよ間違いないよ!」 ――賽銭箱の錠前は、いずれも電撃によって破壊されていたらしい。 おまけに、大型ポケモンが爪でこじ開けようとした痕跡まであるとも聞いているんだが。 「ぎくぎくっ! じ、じゃあ多分レントラーとかじゃねぇ? 透視能力もあるっていうじゃん! だから……」 ――更に現場周辺には、お前そっくりの足跡が残されていたらしいが。くっきりと。 「……へ、へへ」 言い逃れできなくなり、ライコウは苦笑する。 ――やっぱりお前かッ!! このウスバカめ!! その声と共に、漆黒の夜空から突然「大」の字の炎が、こちらに向かって飛来した。 それは狙いあやまたず、ライコウに命中。爆発を起こすと、爆炎が「天誅」の文字を形作った。 「ぎゃああああ!!」 煙の尾を引いて、ライコウは吹き飛ばされた。 “大文字”による長長距離からの攻撃。並のポケモンに出来る芸当ではない。 3匹にはあまり尊敬されてはいないが、やはりホウオウも伝説のポケモンである。 計り知れない強大な力を秘めているのだ。 「ライコウ……愚かな」 「賽銭ドロなんぞするから……」 エンテイとスイクンは呆れ目でライコウを見送る。が…… ――黙れ!! 一緒に食ってたお前らも同罪だ!!! 言葉と同時に飛来した攻撃が、同じように2匹を吹き飛ばした。 **情けない自分。 [#ma6e71b1] 深夜2時。 夜が更け、闇につつまれたタンバシティは、昼間の賑わいがウソのように静まり返っていた。 その町の中心にある高級ホテルのスイートルームで、アズサは、寝付けずにいた。 ホテルに着いた際、少しの時間睡眠をとってしまったため、眠気があまり無いせいだ。 だが、理由はそれだけではない。 「……」 ふと右側に目をやると、そこには、手持ちであるガブリアスのマトリが、すやすやと寝息をたてていた。 その反対側にはリエラとルーミが、それぞれ上半身と左脚に組み付くようにして、 彼女たちはビッタリと体を密着させて眠っていた。おまけに、仰向けのアズサの上には、 ウィゼががっしりと抱きつくようにしているから、寝返りも打てず、寝苦しい。 それに―― (うう……なんだろうこの気持ちは) 先程の風呂場でのちょっとした騒ぎで、思い切って自分の思いを告げたことと、 そこで彼女たちの艶姿(?)を見てからというもの、何だか彼女たちのことが非常に気になるのだ。 (いつもの姿のはずなのに……) ちらと、横目でマトリの寝顔を見てみる。すると何故だろうか。急にどくんと胸が高鳴り、 恥ずかしくて、彼女を直視できなくなる。 思わず左側に顔を向けるが、そこにはどことなく美しささえ感じるリエラの寝顔。 またしても、恥ずかしくなって目線を下に下げれば、そこにはルーミの顔。とても可愛らしい。 が、やはり見ていられない。 「ぐ……」 目線を元に戻しても、顎のすぐ下には、どことなく色気があるウィゼの寝顔がある。 どこに目を向けても、間近に彼女たちの姿があって、それを目にするたび、アズサはドキドキする。 そしてその理由は、容易に察することが出来る。 (こ、これは……異性として意識し始めているって事か……?) マズイ。いや、マズくはない……のだが、人としてはマズい。 だが待て……僕はこの子達のことは好きなわけだから、別になんら問題はないのでは? それに何回も、先輩やその手持ち達から、アドバイスを貰ったわけだ。 しかし、自分の心には未だ彼女たちに対する抵抗感が残っている。 人とポケモンという、決定的な違いによる抵抗感だ。 (好きだと言ったのになぁ……) 情けない……と感じた。 自分から好きだと告白しておきながらも、自分は未だに迷っているのだ。 それに彼女たちは、トレーナーである自分を尊重してくれて、 他に雌がいることを認めてもくれたのに、男らしくも無いことだ。と思う。 だが――。 (その抵抗が……薄らいでるってことなのか?) 彼女たちを意識し始めたということは、そういうことなのだろう。 種族の違いなど問題にならない、本能的な好意を抱き始めているのだ。 日々の暮らしや、バトルを共に行っていく中で、心を重ねていくこと……。 それは、人間同士の信頼関係や恋愛関係を築くことと同じである。 心を重ねていけば当然、心惹かれることもありえると、思えた。 タクヤの手落ちであるララとミリィも、そうしていくうちに、主人に恋をしたのだろう。 (心を重ねるか……そういえば、メガシンカには絆が必要らしいけど) 夕方に福引で当てたキーストーンのことを思い出し、アズサは胸中で呟く。 現状では、メガシンカさせるためのメガストーンが手元に無く、まだまだ先になりそうだが、 こんな情けない今の自分に可能なのか、少し不安になった。 (この子達を完全に愛せていない僕に……やれるのかな) そんな不安を抱きながらも、彼女たちの心地よいぬくもりに包まれて、アズサの意識は 沈んでいった。 **ジム戦へ。 [#r45e2381] 翌朝。 心地よい日差しが差し込む中、アズサは目覚めた。毛布の柔らかさと、寝不足気味なおかげで ベッドから出るのが非常に億劫だったが、8時半を回っていたため、急いで起床し、 朝食をとるためホテルの食堂へと向かった。 朝食はバイキング形式で、様々なのもが選べるようになっている。分量も調節できるし、 こういうのは非常にありがたい。 心配していたマトリとウィゼだったが、昨晩注意したことを気をつけてくれて、 われを忘れて大食いするようなことはなかったので、アズサは安堵した。 「さてと……今日はどうしようか?」 モーモーミルクを飲み干してから、アズサは尋ねる。 一昨日、急に宿泊券を渡されたため、この日の予定は特に決めていなかった。 するとジムスが口を開いた。 「祭りを見てまわるのもいいけど……ジム戦はやらないの?」 すると、アズサは少しだけ渋面をつくった。 「ジム戦か……」 昨日のアサギジムでは辛くも勝利を収めたが、今回はうまくいくか わからない。それに頭の中では、まだバトルに対する抵抗が抜けきっていない。 「せっかく遠くまできたんだし、今やっとかないと勿体無いと思うんだけど」 すると、今度はリエラが言った。 「あのねぇ。ご主人はバトルをしたい気分じゃないのよ。それに今日ここにきたのは、 ご主人に休んでもらうためなのよ? 辛い思いをする必要は無いわ」 「……」 ま、もっともだ。とジムスは納得した様子で、口をつぐんだ。 しかし抵抗感はあるが、高級ホテルに泊まれたし、おいしい物も食べられた。 それに昨日のジム戦や、手持ちと触れ合いのおかげで、ポケモンとの仲も深まったし、 メガシンカポケモンに勝利を収めたことで、少しではあるが自信も付いた気もする。 挑戦してみる価値はあると思えた。 「でもまぁ……僕も元気が出たよ。お前達がよければ、挑戦してみようと思うんだけど」 「まぁ、ご主人がそういうなら」 「アズサさんがいいなら、私は喜んでバトルします」 「いいわよ? やってあげる」 「うん、あたし頑張るわ」 他の手持ち達も口々に言う。嫌がっている者は誰もいない。 「ありがとう皆……じゃ、やってみよう。それが終わったら、町を見て回ろうか」 その言葉に、雌4匹は賛成の言葉を言い、ジムスも「異論なし」といってくれたので、 ジムに挑戦することが決まった。 ---- 身支度を済ませ、チェックアウト手続きをしてから、アズサは外に出た。 今日の天気は晴れ。快晴といってもいいくらい、空には雲ひとつ無い。 肌にピリピリくるほどの日差しが、白い建物ばかりの街を明るく照らしていた。 まずは、ジムに向かうために昨日手に入れたマップをバッグからとり出そうとした時だった。 左手のポケギアが振動した。電話がかかってきたのだ。 見ると、またもタクヤからであった。通話ボタンを押し、電話に出る。 「もしもし」 『おうアズサ君。どーだった、楽しかったか?』 相変わらずの陽気な声が、電話の向こうから響いてくる。 「おかげさまで。おいしいものも食べられましたし、少しは気分も晴れましたから」 『そうかそうか……で、手持ちとのほうは、どうだい?』 「……」 正直、話しづらい。リエラ達に本気の恋を抱きつつあるなどと 打ち明けるのは、非常に恥ずかしい。胸中で(聞かないで下さいよ、それは……)と呟く。 「先輩のおかげで、なんとか仲も縮まりました。あの子たちに本音を打ち明けたら、 受け入れてくれました。『トレーナーは手持ちのポケモンと仲良くないといけないから』って、 トレーナーである僕のことも、考えてくれてたみたいです」 『な? ポケモンは、ちゃんと主人のことを考えてくれてるんだ』 「心配かけてすいませんでした」 アズサは、礼を言った。 『いやいや。アズサ君の問題が解決してよかったよ……そういや今日はジムに挑戦するんだろ?』 「ええ。そのつもりです」 『そうか……でも、気をつけてな。タンバジムは君にとって、大きな山場になりそうだぜ』 なにやら意味深な言葉にアズサは頭に疑問符を浮かべた。 山場? 何のことだろう? 『とにかく、キツいかもしれなけど頑張ってくれ。それじゃ』 その言葉を最後に、ぷつりと電話は切れた。 (何のことなんだろう) 随分と重めなタクヤの言葉が、アズサは気になった。 タンバジムが自分にどう影響するというのだろう。 こういわれると、何だか不安になってくる。 とりあえず、気を引きしめてバトルに望まなければ。 そう思ってから、アズサはジムへと脚を進めた。 **タンバジム。 [#xb0c6dec] タンバシティのジムは、双竜閣から数軒離れた所にあるホテルの中にあった。 一階部分がスボーツジムになっていて、その奥に体育館くらいある バトル用のフィールドが広がっていた。 再開発される前は、ちゃんとジムの建物があったそうなのだが、 観光地化される際に用地確保のためホテルの建物と一体化されたようだ。 「お……」 ジムに入るなり、アズサは思わず声を出した。 バトルフィールドへと向かう廊下に、タンバジム歴代のジムリーダー達の 顔写真が並べられているのだ。 タンバジムは格闘タイプを専門とするジムである。当然ジムリーダーは格闘家や、 ボクサーといったスポーツを主とした肉体派な人間が多く、歴代ジムリーダー達はどれも 屈強そうな見た目の者達ばかりで、生身なら何の訓練もしていないアズサなど、 簡単にたたきのめされてしまいそうだった。 そしてふと、ある写真に目が留まった。現在のジムリーダーから5番目……すなわち 5代前のジムリーダーだ。巨体に纏った道着が特徴的な男で、名前は『シジマ』とある。 在籍期間を見ると……今から40年ほど前だ。かなり強そうな人だ、と思えた。 「その写真……気になるかい?」 そんな声が、廊下に響く。声のした方向に目をやると、そこにはボクシンググローブを肩に かけた、アズサよりも年上のボクサーの男がいた。その男はたった今知ったばかりの人物だった。 「今のジムリーダーの……」 「そ。よろしくな挑戦者さん」 そういうとジムリーダーの男は、ぴっと親指と人差し指・中指を同時に立てた。 その仕草はなんとなくキザッたらしい。 「その写真は40年前のジムリーダー、シジマさんだ。今は隠居して、どこか遠い地方に 住んでるらしいけど、相当な実力者だったらしい。就任してから半年もの間、 ジムを突破できたトレーナーが誰もいなかったんだって……だから、リトライのトレーナーで、 昔のジムの前には長い列が出来てたらしいぜ? この町で宿泊施設が多くなったのも、 それが理由の一つらしい」 なるほど、再開発の理由に、そんな事情もあったのか――アズサは納得する。 しかし半年もの間、挑戦者は誰も突破できなかったとなると、後に控えるポケモンリーグにも かなりの影響が出たことだろう。そのジムだけが突破できず、リーグへの出場条件を満たすことが、 出来ないのだから。 「それよりバトルするんだろ? 早く来な。相手してやるよ」 不敵に微笑むと、ジムリーダーはアズサをフィールドのトレーナースタンドへと 案内してくれた。 スタンドに立つと、ジムのバトルシステムを受信したポケギアの画面が、 ポケモンの体力や、状態を示したステータス画面へと切り替わり、このジムのルールが 表示された。 それを期に、アズサも気を引き締める。 格闘タイプのジムだから、当然格闘タイプを使ってくる。格闘タイプは 高威力の技も様々だ。なので、油断は出来ない。 ここは昨日同様、マトリを主力として戦っていくしかない。ジムスも強力なのだが、 ノーマルタイプで相性は圧倒的に悪い。 (“マッハパンチ”とか“真空波”とか、先制攻撃技も結構多いしな……) それらを覚えた足の速いポケモンに出られたら、攻撃に日と一手間かかるジムスでは 太刀打ちできない。だから今回、ジムスは出さないことにする。 そう考えながら、アズサは参戦予定の手持ちをボールから開放すると、 ルーミが声をかけてきた。 「あの、アズサさん。昨日拾ったあのジュエル、使わせてくれませんか?」 「え? 石に入ったままの、あのジュエルをか?」 ルーミはこくんと頷く。 「何もあのジュエルじゃくても……」 電気のジュエルなら、島で拾ったものがまだ幾つか残っているし、わざわざ石に入ったままの ものを使うことは無いだろう。それにルーミは、“コットンガード”で防御を上げて 行くのが基本の戦い方だ。ジュエルよりも、ここは体力を回復する『オボンの実』を持たせたほうが、 戦局は有利になるだろうと思った。 「昨日拾ったあれを使いたいんです……何か、少し気になってて」 「わかったよ。ほら」 アズサは、バッグから昨日拾った石を取り出して、ルーミに手渡した。 なぜ彼女がここまでこの石にこだわるのかはよくわからないが、ルーミなら、うまく 使いこなせるだろうと思った。 **格闘タイプ。 [#b43e04a6] 『使用」ポケモンは4対4』 判定マシンが、ルールを告げると、アズサはポケモンを繰り出す。 「頼むぞ、マトリ!」 まずはガブリアスのマトリ。高威力な攻撃技も充実しているし、主力にするには十分だ。 「んじゃ……俺はこいつ!」 放られたボールから繰り出されたのは、青い体に、道着のようなものを身に纏った 格闘タイプポケモン、『ダゲキ』である。 「気をつけろ。そいつは一撃じゃ倒し切れないから!」 アズサは、マトリに注意を促す。ダゲキの特性は『頑丈』。 一撃必殺技が効かないことに加え、必ず体力を僅かに残して堪える特性だ。 そのために、強烈な反撃も予想される。 『バトルスタート』 判定マシンが、合成音で試合開始を告げる。まずは、大ダメージを与えなければ。 「マトリ、まずは“地震”攻撃!」 「まかせて!」 マリトが右腕を振り上げて、地面に爪を突き立てる。そこから発生した衝撃波が蛇のように 地面を走り、ダゲキの足元で炸裂する。 直撃を受けたダゲキだが、腕をクロスさせて防御体制をとって、攻撃を耐え切った。 やはり、頑持ちは突破しづらい。 「よし“ローキック”!」 ジムリーダーの命令に、ダゲキは素早くマトリへ接近すると、“ローキック”を マトリの脚に打ち込んできた。 ゴッと重たい音が響いて、マトリの顔が苦痛に歪む。 「ぐっ」 同時に、マトリの体がぐらりと揺れ、片膝をついた。 この“ローキック”は相手の素早さを低下させるという効果もある。 脚にダメージを負ったらしく、これでは素早く動くことはできない。 「そこだ!“インファイト”!」 素早く動けないマトリに、ダゲキのインファイトによる連打が炸裂する。 「うぐ……」 マトリが苦しげに呻く。レベル差もあるのか、マトリには大きなダメージとなった。 だが、まだだ。この距離なら――。 「マトリ、“アイアンヘッド”!」 「……!」 アズサの声に、マトリはとがった頭の先端を硬質化させて、至近距離から ダゲキの頭に攻撃を見舞った。衝撃でダゲキの体は2メートルほど宙を舞った。 最初の“地震”を受けて体力がギリギリになっていたダゲキは、今度こそ力尽きる。 『ダゲキ戦闘不能。次のポケモンをお願いします』 「やるね……確かにガブリアスじゃマズイわな。じゃ次はコイツだ」 判定マシンが勝敗を告げると、ジムリーダーは次なるポケモンを繰り出してきた。 放られたモンスターボールの中から現れたのは、小柄な二足歩行の鳥ポケモン。 腕に翼があり、何より特徴的なのはレスラーマスクを被ったようなその顔。 飛行・格闘タイプのポケモン、『ルチャブル』だ。 意外にもその素早さは高く、ガブリアスであるマトリよりも早い。厄介な相手だ。 「マトリ、まだいけるか?」 「ええ」 「よし……やるぞ! “逆鱗”だ!」 アズサが叫ぶやいなや、マトリの目が赤く発光し、力一杯咆哮をすると、 フルパワーで相手のルチャブルに飛び掛る。ドラゴンタイプ最強クラスの技。 高威力の攻撃なら、一発でも食らわせればかなりのダメージを負わせられるはずだ。 だが、やはり速さはあちらが上だった。マトリよりも早く上空に舞い上がり、 「“フライングプレス”!」 ジムリーダーの命に、マトリに向かって急降下突撃。それをまともに受けたマトリ。 素早さで負けていれば、いずれはこちらが不利になる。 「グオオオッ!!」 咆哮と共に、マトリはルチャブルの体を受け止めると、右腕のヒレを思い切り叩き付けた。 もはや“切り裂く”といってもいい攻撃に、ルチャブルは大ダメージを負い、吹き飛ばされる。 その時だ。ルチャブルの体が光り輝き始める。 (何だ?) まさか進化か……? と思ったがそんなハズはない。ルチャブルは進化しないポケモンだ。 あの発光は、おそらく別の理由によるものだ。 鳥ポケモン……光り輝くもの……。 (もしかしてあれは……) その間にも、マトリは攻撃を加えるべく突進する。が、次の瞬間――アズサの予想は的中した。 「“ゴットバード”!!!」 光り輝いたルチャブルが、マトリの体に突き刺さった。爆発が起き爆煙に包まれる。 「マトリ!!」 叫んだが、ポケギアのアラートがマトリの体力が0になったことを告げた。 煙が晴れると、フィールドにぐったりと倒れ伏しているマトリが目に入った。 **ゴロンダ。 [#vf37e368] 「よく頑張ったな……」 マトリをボールに回収しつつ、アズサはねぎらいの言葉をかける。 しかし“ゴッドバード”は“ソーラービーム”等と同じく、チャージに 時間がかかる技で、すぐに放てるわけではない。 おそらく、一回だけノーチャージで撃てるアイテム『パワフルハーブ』を持って いたのだ。 向こうも、高威力技の多いマトリを脅威に感じ、早いうちに倒しておきたかったから、 あのルチャブルをぶつけてきたのだろう。 フィールドの壁に映し出されている相手ポケモンの体力ゲージに目をやると、 ルチャブルは、さっきの逆鱗の一撃を受けて、体力はもうギリギリのようだった。 ここでルチャブルを倒せば、のこりはあと2匹。 「頼むぞウィゼ!」 アズサは次のポケモン、フローゼルのウィゼを繰り出した。 普通に攻撃を繰り出せばレベル差もあって、先手をとられるのは間違いない。 だが、ウィゼには、この技がある。 「“アクアジェット”!」 ひゅばっ! と、ウィゼの体が水に包まれ、目にも留まらぬ速さでルチャブルに突撃、命中。 アクアジェットは先制攻撃技。威力が低いかわりに確実に先手を取れる。 他にもこうした『先制技』はタイプの異なる技も含めると数多くある。 攻撃を受けたルチャブルは、体力が尽きて倒れこむ。これで残るは2匹。 「よし……行ってこい!」 ルチャブルを回収し、ジムリーダーは3匹目を繰り出す。ボールから現れたのは、白と黒の毛並みを持つ 巨体に、太い両腕。そして、口にくわえた若葉。 「あれは『ゴロンダ』か……」 ゴロンダ――カロス地方のポケモンで、ヤンチャムが悪タイプと共にいることで進化する、 悪・格闘タイプのポケモンだ。素早さはそれほど高くはないが、『鉄の拳』という、 パンチ技が強くなるという特性がある。バトルで使われる個体も、この特性である場合が多い。 おそらく、あのゴロンダもそうだろう。とすれば、その技はほぼパンチ技で占められているはずだ。 種類も色々ある。使うたびに攻撃があがる“グロウパンチ”や、氷、炎、雷の各種のパンチ、 そして、高威力だが使うたびに素早さが落ちていく“アームハンマー”。 おそらく、氷・炎・雷のうちどれかは、確実に覚えていると考えていい。 それにフローゼルは防御面はあまり高くない。注意して戦わなければならない。 アズサは、緊張した。 ともかく、まずは攻撃だ。少しでも体力を削り落としていかなければ。 「ウィゼ、“アクアテール”!」 言葉通りに、ウィゼは尻尾に水を纏わせる。それをゴロンダに叩きつけようと素早く 正面から接近し、尻尾を振りかぶって――。 がばんっ! 顔に直撃をくらい、ゴロンダはよろめく。 相手の攻撃を受けないよう、ウィゼは急いでその場から離れようとする。が―― 「え!?」 にやり。とゴロンダは笑みを浮かべると、空いていた左手でウィゼの頭を掴んで持ち上げる。 ウィゼは逃れようともがいたが、がっしりと掴まれているのか、なかなか離脱できない。 そして、握り締めた右の拳に、電気のエネルギーを纏わせ、ウィゼの腹に一撃を打ち込んだ。 ゴバリィィィィイ!! 「グバ……!!」 特性によって強化された“雷パンチ”。やはり覚えていた――。 ウィゼの体は吐瀉物を撒き散らしながら吹き飛んだ。効果は抜群。ダメージは甚大だ。 「ウィゼ!」 戦闘不能は避けられたが、痙攣しながらも体を起こそうとするウィぜに思わず叫んだ。 「だい……じょ……うぇぇえ゛……」 &ruby(えず){嘔吐};きながらも、ウィゼはヨロヨロと立ち上がる。しかし、体力は限界だ。 対するゴロンダは、タイプ一致のアクアテールを食らわせたとはいえ、まだ結構体力が残っている。 マトリがまだ生き残っていれば、有利に戦えたかもしれないのに―― 早々にマトリを失ったことを悔やみつつ、アズサは立ち上がったウィゼを見やった。 だが、これは自分の判断ミスが招いた結果だ。仕方が無い。 これ以上、ウィゼに辛い思いをさせるのは気が引けるが、ゴロンダを倒さぬ限り先へはいけない。 (そういえば……) そこでふと、アズサは大学の講義で少し触れた、ゴロンダの生態を思い出した。 「……たしか口にくわえてる葉っぱが、“気”を感じるレーダーだって……」 きっと、ウィゼが攻撃後に離脱しようとしていたことも、読まれていたのではないか――? そうであれば何か別の手段を考えないと――そう思いながら、アズサは焦りつつも思考をめぐらす。 「そうか……」 すると、一つひらめいた。あの葉っぱがセンサーなら――。 「もう一度顔に“アクアテール”だ!」 頷いてから、もう一度ウィゼはゴロンダに接近を試みる。素早さではこちらが勝っている。 ウィゼは、今度はゴロンダの右側面に回り込もうとする。さっきのように、捕まって身動きできない 状態で反撃されるのを避けるためだ。彼女だって、何度も同じ失態を犯すほど馬鹿ではない。 「迎え撃つ! “アームハンマー”!!」 ジムリーダーも、迎撃するため指示を出す。この技は使うと素早さが下がってしまうが、 もとより素早さが高くないゴロンダには、些末な問題だ。 元から素早くないポケモンを素早く育てるより、他の高い能力を重点的に鍛えるほうが、 ポケモンの特長を生かした効率的な戦い方ができるのだ。 ウィゼが跳躍し、水を纏わせた尻尾を振るった。 その瞬間。 「口元を狙え!」 そう一言を付け加えると、ウィゼはその通りに攻撃をやってくれた。 「えーいッ!!」 命中。ゴロンダの体が横に揺らいだ。同時に、口に加えていたセンサーの葉が、体から離れ、 地面に落ちた。これで、動きを読まれることはないはずだ。 しかし、まだゴロンダは健在だ。 エネルギーを集中させた太い右腕が、今まさに振り下ろされようとしていた。 「!!」 「ごぁぁああああッ!」 雄たけびと共にゴロンダの“アームハンマー”が命中し、土煙が上がる。 それによって、両者の姿は見えなくなる。 「どうなった……!?」 アズサは、焦燥に駆られながらも、ポケギアを確認しようとしたとき、 ウィゼが土煙の尾を引いて、姿を現した。 すたりと地面に着地すると、ウィゼは右手でVサインをつくってこちらに微笑んでみせる。 アズサは、ほっと胸をなでおろした。どうやら、寸でのところでアームハンマーを回避したようだ。 煙が晴れると、ゴロンダの姿が目に入った。のそりと、次の攻撃に移るべく体を立ち上がらせている。 その表情は、とても忌々しげだ。攻撃が空振りに終わったのが、悔しいのだろう。 と、その時だった。 「ガァッ! アヂヂヂヂッ……!!」 ゴロンダが、急にもがき始めた。よく見ると、ゴロンダの手から僅かに煙が上がっている。 ゴロンダは慌ててそれを地面に落した。それは、真っ赤に赤熱した球体。 ウィゼに持たせていた『火炎球』だ。 「“すり替え”……お前、いつの間に?」 「うふふ……攻撃をよけたら、丁度良く煙に包まれたから、その時にね」 笑みを浮かべながら、ウィゼはゴロンダから交換した道具を見せ付けた。 ウィゼが持っていた火炎球とは対照的な、青味がかった色合いの球体。 これは『命の球』。体力が少しずつ減るかわりに、技の威力を上げるものだ。 昨日のアサギジムで披露した『すり替え戦法』を、ウィゼはここでもやってみせた。 「ぢ……ぢぐじょう……」 ゴロンダは弱弱しく声を上げる。体力はギリギリの上、火炎球によって火傷状態。 もはや限界だったようで。その声を発した直後、ゴロンダは倒れこんだ。 『戦闘不能。ジムリーダーは最後の一体を出してください』 判定マシンが、次のポケモンを出すように促す。 「いやいや……キミは強いなぁ。だが、最後のコイツは、難しいぜ!?」 そういって、ジムリーダーは最後のポケモンを繰り出した。 すると、そのポケモンはボールから開放されるなり、目にも留まらぬ速さで 動き回る。 「な、何!?」 その素早さに圧倒され、ウィゼは狼狽する。 次の瞬間、何かの攻撃を受けウィゼの体が宙を舞った。 「が……!!」 体力ギリギリの所に仕掛けられた攻撃に、ウィゼは倒れ戦闘不能となる。 さっきのルチャブルの時とは、まったく逆の展開だ。 一体何のポケモンが? そう思いつつ、フィールドに目をやる。 「はっ……!!」 そしてアズサは思わず言葉を失った。 そのポケモンは2本足で、茶色い毛並みを持つ体。何より特徴的なのは、 頭の左右から垂れている大きな耳――。 「ミミロップ……?」 ミミロップは片膝を前方に突き出した姿勢でフィールド上に立っていた。 おそらくウィゼに止めを刺したのは“跳び膝蹴り”であろう。 アズサの鼓動が、早くなった。同時に体が意に反して震え始める。 頭から血の気が引いて冷や汗が流れ出し、視界がぐらついてアズサはよろめいた。 **メガミミロップ。 [#r2c02518] 「あ、アズサさん!?」 「ご主人!? 大丈夫ですか!?」 そのただならぬ様子を見て、そばにいたリエラとルーミが血相を変えたが、 「だ、大丈夫! やれるよ」 「だって、顔色も……」 「心配かけてごめん。問題ないよ……」 そういうと彼女たちはそれ以上何も言わなかったが、やはり心配げな表情は消えなかった。 こんなときでも自分の心配をしてくれる彼女らに、アズサは嬉しくなったが、 やはり心配はかけられない。 アズサは震える手でウィゼをボールに回収しつつ、ミミロップを見た。 あのときの光景が、浮かび上がってくる。腹を破壊光線で貫かれ、笑みを浮かべて絶命したあのときを。 救えるかもしれなかった命を。幸せに出来るかもしれなかった、あの子を。 もちろんアズサも、目の前にいるミミロップが全く別の個体であることは理解している。 が、頭では理解しているのだが、体が勝手に反応し、震えて冷や汗が止まらない。 (くそ……とまれよ! こんなときに!) 胸中で、言うことを聞かない己の体を罵りつつも、あの出来事が心の傷になっていることを 痛感していた (やっぱり……トラウマになっているんだ……!!) あれは別のミミロップだ。ミィカではないんだ! なぜそれが解らない――!? (……そういえば) ついさっきタクヤが電話でいっていた言葉が頭をよぎった。 君にとって、大きな山場になりそうだ――。 (なるほど。辛い過去を乗り越えられるかどうかってことか……) アズサは、言葉の意味を理解した。 だが、いまここで動揺して何も出来ないでいたら、情けなさ過ぎるし、手持ち達にも申し訳ない。 (わかってるさ……あのミミロップはミィカじゃない) 体は震えているが、頭はちゃんと理解できている。やれるはずだ。ちゃんと戦える。 アズサは震える拳を握り締める。汗がぬるりとして、気持ちが悪かった。 「リエラ……行ってくれるか?」 「は、はい……」 まだ不安そうな顔をしつつも、言われたとおりにリエラはフィールド上に立った。 (やっぱり、ミミロップを見て動揺しているんだわ……) リエラとルーミは、アズサの様子がおかしい原因が、相手のミミロップであることにすぐに気付いていた。 先日の騒動で知り合い仲良くなったポケモン――ミミロップのミィカ。 しかし、不幸なことに彼女は死んでしまった。その喪失感は、計り知れないものだろう。 その彼女と同種族のポケモンが、今目の前に立ちはだかっている。 これでは、イヤでもあの辛い出来事を思い出させてしまうだろう。 まだ、心の傷だって癒えていないだろうに、そんなのが相手だとは。 大丈夫とは言っているが、内心は辛く悲しい思い出に、心は押しつぶされそうになっているだろう。 2匹は主の心中を察して、悲しくなった。 「最後の……一体だ。気を引き締めていこう」 「はい」 気を取り直して、アズサはリエラに向かって告げると、リエラの表情も引きしまる。 「でも……ここって、格闘タイプのジムなんですよね? どうしてミミロップが……」 すると、そばのルーミが疑問を口にした。 ミィカのことに気をとられていて気づかなかったが、言われてみれば確かにそうだ。 ミミロップはノーマルタイプ。格闘専門のジムで出てくるのはおかしい。これは一体――。 震える体で理由を探っていると、ある一つの理由が思い浮かんだ。 「いや……これでいいんだ」 そう告げると、アズサは相手のミミロップを見やった。 よく見れば、左の耳に小さな飾りがついているのが見える。 そしてその飾りの真ん中に輝く、不思議な3色の螺旋模様がある丸い物体―― 「そう。そういうこと、さ!」 アズサ達の話を聞いていたのか、ジムリーダーはばっと、左腕を前に突き出した。 その手首には、黄色い石がはめ込まれた腕輪。 ジムリーダーは、右手でその石に触れると、螺旋状の模様が浮かび上がり、 同時にミミロップの体が光り輝きだす。 「……これって!」 「ああ。メガシンカだ」 驚愕するリエラに、アズサは告げた。 光に包まれたミミロップの体は、見る見る変貌を始める。 やがて光が収まるとミミロップの体は、下半身がタイツを穿いたような黒い毛並みに包まれ、 大きかった耳は細くなって、全体的に身軽になったように見える。 「メガミミロップ……ミミロップはメガシンカすると、格闘タイプがつくんだ」 「これでいいって……そういう……!?」 アズサの言葉が理解できたルーミも、表情をこわばらせた。 昨日に続き、またもメガシンカポケモンを相手に戦わねばならぬこと。 メガミミロップがどういうポテンシャルを秘めているのかは解らないが、 当然、攻撃力や素早さは相当強化されているだろう。 それに昨日は、相性が有利なガブリアスのマトリがいてくれたから、勝つことが出来たが、 今回は既に戦闘不能となっており、リエラと自分の2匹で相手をしなければならない。 (私達だけで……やれるのかしら?) 僅かな不安が、ルーミの頭に浮かんだ。 **苦戦 [#k281d1c7] 「そっちはベイリーフかい。なら……“跳び膝蹴り”!!」 「リエラ、“リフレクター”展開!」 さっそく攻撃を仕掛けてきた。アズサはまずダメージを少しでも緩和すべく、 リフレクターを張ることを指示する。が……。 ドゴォォォ!! 「ぐぶ……」 メガミミロップの膝が、リエラの横腹に突き刺さった。 その衝撃で、リエラの体は数メートル飛んだ。 リフレクターを張る前に、攻撃を受けてしまった。 元々ベイリーフや進化系のメガニウムは素早さがそれほど高くない。 メガミミロップはメガシンカによって攻撃力も素早さも強化されていて、 リエラとは雲泥の差だった。 「リエラ!」 「げほ……げほ……!」 咳き込みながらも、リエラはリフレクターを展開する。 「こんな……ことで……やられるもんですか!」 不屈の闘志をたぎらせ、リエラは立ち上がる。 まさか、相手があのミミロップだなんて、なんという運命だろう。 だが。 あのミミロップの存在が、愛する主人の最大の障害となるなら、自分は全力を持って それを払いのける! それが、主人の心を癒し、立ち直らせる近道だから。 「リエラ! “葉っぱカッター”!」 「ああああああああ゛っ!」 全力、渾身の力を込めて、リエラは“葉っぱカッター”を放とうとした。 「ふふ……甘いですわ」 ミミロップが、初めて声を出すと、急に両の手で拍手を始める。 「しまった!?」 アズサは、思わず叫んだ。同時に、リエラが、驚きの声を上げた。 「うあっ……?」 “葉っぱカッター”を放とうとしたのに、何故か放たれたのは先ほどと同じ“リフレクター”だった。 既に展開されているために、今の行動は意味を成さない。 (何故? 私は“葉っぱカッター”を撃とうとしたはずなのに!) 困惑しおろおろするリエラ。 「それは“アンコール”だ! しばらく同じ技しか出せなくなる!」 それを聞いたリエラは驚愕する。 「“跳び膝蹴り”!」 再び、ミミロップの跳び膝蹴りがリエラの体に突き刺さる。 「ぐぅぅ!」 リフレクターを展開しているので、多少は緩和されているが、それでも、 いつまでも耐え切れるものではない。メガシンカしているため、威力も格段に上昇している。 あと一撃もつかどうか。 「くそっ!」 反撃しようにも、他の技を出せない。このままでは何も出来ずにリエラはやられる。 「交代だ、戻れリエラ! ルーミ! 頼む!」 そういって、リエラをボールに回収すると、ルーミは返事をしてからトレーナースタンドを 降りていって、フィールドに立った。 あのまま何も出来ずやられるより、交代し別の方法で突破するほうが望ましいと思えた。 ルーミはコットンガードがあるから、耐久度はリエラよりも上だし、リエラが展開した リフレクターも健在だ。 アンコールされても、効果が切れるまで耐え切ることも不可能ではないだろう。 「ルーミ! “コットンガード”!」 「させません!」 早めに倒そうという魂胆で、メガミミロップはまたも跳び膝蹴り攻撃を仕掛けてくる。 「……くっ!」 するとルーミは思わず横に駆け出していた。 「!?」 メガミミロップはそのままルーミが立っていた地点に落下し、土埃が舞い上がった。 「ぅあああああ!!」 メガミミロップは膝を押さえて呻いた。“跳び膝蹴り”は攻撃を外すと、自分にも ダメージが来る。 その隙に、ルーミは“コットンガード”を展開する。左手の先端に綿が円状に 広がり、綿の盾が出来上がる。 しかしコットンガードを無事に展開することができたものの、まだメガミミロップの 攻撃を耐えきるには足りない。 「もう一度“コットンガード”だ!」 アズサは叫ぶと、ルーミの『盾』は縦長の楕円形になる。 これで防御は最大まで上がった、容易には突破できなくなったはずだ。 「……もう一回アンコール! スピードはこっちが上だ。手出しできなくしろ!」 「はい!」 ジムリーダーの命令を聞き入れ、メガミミロップはルーミに“アンコール”をかけた。 これでルーミも、しばらくの間手出しが出来なくなる。 「……!」 だが、動けないわけではない。さっきのように回避行動をとれば、自滅も狙える。 また攻撃が来ることを予測して、ルーミは綿の盾を構えたまま横に駆け出した。が…… 「逃げまわってばかりじゃ、勝てませんわよ!?」 素早い動きで、あっという間にメガミミロップはルーミに追いついた。 デンリュウも元々素早さが高いポケモンではない。素早さの高いミミロップが、 ましてメガシンカまで遂げた個体が、足の遅いデンリュウに追いつくなど造作も無いことだ。 メガミミロップは、至近距離で跳び膝蹴りを見舞った。構えていた綿の盾で防御はしたが、 結構な衝撃がきて、ズザザと体が数メートル滑った。 「うう……!」 メガシンカポケモンは、こんなにも強いのか。 ルーミは、段々と不安になっていった。防御が最大まであがっているとはいえ、 これではさっきのリエラと同じだ。もし、技が急所に当たったら、大ダメージとなる。 アンコールが解けるまで、自分は持つのだろうか。 なおも、メガミミロップの攻撃は続いた。 “跳び膝蹴り”に加え、小技の“電光石火”もしかけてくる。 あのきつい跳び膝よりはマシだったが、その間にもリフレクターの効果が切れ、 体力をじわじわと削られていく。 「……」 ここで自分が敗れたら、体力が僅かしかないリエラだけだ。それに―― (今あのミミロップに負けたら、アズサさんは過去を振り切れない!) そう思えた。愛する雄が悲しみにとらわれたままなのは、自分も悲しい。 だから。 勝ちたい。 そう、強く想ったときだった。 「――!!?」 ルーミの瞳に、螺旋模様が浮かび上がると同時に、右手に握りこんでいた、 ジュエルを含んだ石が眩い光を発した。 **無限の光の中で。 [#ra28e82c] 「何だ!?」 思わず、アズサはスタンドから身を乗り出していた。 ジュエルが発動した光と思ったが、どうも様子がおかしい。 今はアンコールでコットンガード以外出せず、攻撃技は使えないハズだから 今ジュエルが発動することはありえない。 そう考えたとき、ジャケットの左胸が、暖かくなっていることに気付く。 「これは……?」 何だろうと思って胸のポケットを開くと、突如光の奔流がアズサの顔を明るく照らした。 驚きながらもアズサは、中から輝く小さな石をつまみ上げる。 昨日、福引で当てたキーストーンだ。 貴重な品なので、肌身離さず持っていたほうがいいと考え、先ほど宿を出る前に 胸ポケットに入れておいたのだ。それが、眩しいほどの光を発している! 「キーストーンが……反応している!?」 その時である。アズサの両の瞳にも、キーストーンと同じ螺旋模様が浮かび上がった。 すると。 どくん、とアズサの心臓が、急に動いた。 そして、輝くキーストーンから何か別の「存在」を感知した。 何かがそこにいるような、そんな感覚だ。 同時に、自分の意識や力が、キーストーンに引き込まれていくような、 そんな感覚もした。 ――今負けたら、アズサさんは、悲しむ。 声がした。 ――アズサさんをを喜ばせたい。あの人を悲しみから救いたい。 私の大好きな人を……助けたい。 それはルーミの声だった。 「え……?」 今、フィールドにいるルーミはそんなことは一言も口にしていない。 じゃあ……この声は何だ? ――アズサ、さん? 声が、アズサに問いかけてきた。 この声……やはりルーミが? そう思うと、またも声が返ってくる。 ――そうみたいです。でも私は、口に出していないのに? 自分も、今の疑問は口に出してはいない。 だというのに、自分とルーミは話が出来ている。 まさかこれは、心の声とでもいうのだろうか? 自分とルーミは、心で会話をしているというのか――? ――あ!! その時ルーミが、驚きの声を上げる。 バキィンッッ!!! ルーミが握っていた石が、閃光と共にバラバラに砕け散った。 そしてその中から、螺旋模様の入った丸い石が姿を現したのである。 覆っていた黒い石が失われたことで、その石は、より一層輝きを増した。 「これは……?」 明らかに、それは電気のジュエルではなかった。どう見ても、相手のミミロップが 身に着けていたものと同種のものだ。 「メガストーン……だったの?」 ルーミが、そう呟いたときだった。 ――そうよ。 別の声が、脳内に響き渡った。 「え!?」 「なっ!?」 アズサにも聞こえたようで、両者は驚いて辺りを見回した。が、声の主らしきものは、 見当たらない。ジムリーダーや、相手のメガミミロップの仕業でもなさそうだ。 しかし、その声には聞き覚えがあった。 「まさか、ミィカ……?」 呟くと、キーストーンの輝きの中に半透明のミミロップがすぅ……と姿を現した。 間違いない。ミィカだ。死んでしまったはずの、あのミィカだ。 彼女の像は、まるでここに存在するかのような、実感のあるものだった。 すると彼女は、にっこりと微笑んだ。 「ミィカ……君なのか?」 その問いかけに。ミィカは頷く。自分に『頑張って』と言っているようにも見えた。 そして彼女の姿は、現れたときと同じように、音も無く消える。 (何だったんだ……今の?) そう考えたとき、またルーミの声が聞こえた。 ――アズサさんも、見たんですね? あのミミロップが。 「あ、ああ」 本当に不思議だ。これが幻なのか、現実なのかはわからない。自分の頭がおかしく なったのではないかとも、思えた。 しかし、ルーミにまでその姿が見え、声が聞こえたということは、 本当に起きたことなのかもしれない。 「でも……そうだよな」 自然と、体の震えが止まる。 ミィカは死んでいる。だが確かにミィカは現れ、自分に声をかけ、微笑んでくれた。 そう思うと、アズサの心の引っかかっていた蟠りが、一気に晴れていくような気がした。 ミィカはもういない。悲しいことだが、これでハッキリと理解できた。 「これでよくわかったよ」 アズサは、輝くキーストーンを見た。 もしかしたらミィカは、“ここにいる”のかもしれない。そう思うと少し心が軽くなった。 目の前にいる相手のミミロップはミィカではない。それに彼女は、メガシンカなど しなかった。心の傷に怯える必要など無いのだ。 だから、遠慮することは無い。乗り越えられる。 相棒と共に全ての力をぶつけて。 自分のことを想ってくれる、大切な相棒と共に! 「よし! ルーミ!?」 「はい!」 「こんな情けない僕だけど、お前の力を……貸してくれ!!」 叫んで、アズサはキーストーンを握りこんだ左手を振り上げ、高々と掲げる。 キーストーンと、メガストーンに流れ込む。 ルーミとアズサの、互いの想いが。 それは混ざり合い、爆発的な新たな力となる。 ルーミの体が、光に包まれる。同時に、彼女の体が変化していく。。 そして、その光がはじけるように消失したとき、変貌を遂げた彼女の姿がそこにあった。 頭の放電機関である突起は、捩れたような丸みを帯び、そして一番の特徴であるのは、 頭から伸びる、流れるような美しく長い、白い鬣。 そして尻尾も、頭と同様の白い体毛に包まれ、先端にあった赤い球体は、尻尾全体に無数に増えている。 これが、デンリュウのメガシンカした姿、『メガデンリュウ』だ。 「できた……メガシンカが」 自信に満ちた表情で、アズサは呟いた。 **メガデンリュウ [#z843fdbf] 「へぇ……君もメガシンカ使いだったのかよ。面白れぇ……跳び膝蹴りだ!」 メガミミロップが、膝を突き出して突っ込んでくる。 「ルーミ! 綿の盾で受けろ!」 「はぃ!」 ばっと、左手に装着されている綿の盾を突き出し、ルーミは攻撃に備える。 ゴガン!! 「ぐっ」 綿の盾に受けて、ルーミの表情が苦痛に歪む。が、 「“10万ボルト”だ!!」 ルーミは、渾身の力で電撃を放った。 ヴァチィィィイ!! 「うぁああっ!」 メガミミロップの体がのけぞり、吹き飛ばされフィールドの床に打ち付けられる。 同時に、壁のモニターに表示されていた体力ゲージが一気に減った。 ルーミもメガシンカを遂げたことで、特殊攻撃力が格段に上昇したことによって、 この“10万ボルト”の威力もあがっている。 「うく……この!」 メガミミロップは立ち上がる。まだ倒すには至っていない。 「へへ……土壇場でメガシンカしたみたいだが、遅かったね」 「……」 アズサは、自分のポケギアを見た。 ルーミの体力も、あと少ししか残されていない。あと一発耐え切れるかどうか という所だ。 次の一撃で、勝負は決まる。 緊張が、一気に高まった。 「いくぜ! “ギガインパクト”!!」 「“気合球”だ!」 ルーミが、右手に気合球を溜める。 メガミミロップも、破壊のエネルギーを右手に纏わせ、駆け出した。 これで倒せなければ、こちらの負けだ。 どうか、耐えてくれ――! アズサは、キーストーンに祈る。 ――ええ! 耐えて見せます! 心で、ルーミが返事をした。 そして、両者の攻撃が、フィールド上で激突し……。 爆発。 爆風が、フィールド全体に広がり、何も見えなくなる。 アズサは思わず目を閉じた。 煙が晴れ、アズサはゆっくりと目を開ける。 フィールドでは、ルーミとメガミミロップが、ぶつかるようにして沈黙していた。 (どうなった……?) そう考えたとき、メガミミロップのからだが、ゆっくりと地に伏した。 メガシンカが解け、もとのミミロップへと姿が戻る。 『ミミロップ戦闘不能! 挑戦者の勝利です!』 マシンが勝利判定を下した。 ルーミがアズサの祈り通りに攻撃を耐え切り、見事に勝利を掴んだのだ。 「ルーミ!」 スタンドから駆け下り、洗い息をついているルーミに近寄る。 「アズサさん……私、やりまし……たよ」 かなりのダメージを負っている。立っているのも辛そうだ。 「あっ」 そして、ルーミのメガシンカも解け、ギリギリの状態だったルーミは、 アズサに倒れこむようにして気を失った。その体を受け止めると、 「ありがとう。お前の気持ち、伝わってきた。こんな僕に付き合ってくれて、 本当にありがとうな」 そういって、少しの間アズサはルーミの頭を撫で、その体を抱いた。 **戦い終えて。 [#r4805af8] 6つ目のジムバッヂを受け取り、ポケモンセンターで手持ちを回復させた後、 アズサ達は町を見て回った。 昨日は夕方遅くに来たこともあって、出店の数は少なかったが、今日は昼間とあって、 沢山の出店がやっていて、ステージでは楽団の演奏や、アイドル歌手を招いた ライブなども行われ、拍手喝采に包まれていた。 『えー、楽団フルーティアによる演奏でした。続きましては、チルタリスの「ちるり」ちゃん による「アピール☆ラブ」です!! それでは、行ってみましょう!』 司会のお姉さんのアナウンスが流れると、ステージ上に衣装で着飾ったチルタリスが 上がると、拍手が起きる。 そのステージの最後列の席で、アズサ達も拍手を送った。 ジムスだけは興味なさげに、買ってやったコイル焼きを黙々とつまんでは口に運んでいた。 「こんなときにも食べ物だなんて、行儀悪いぞジムス」 「ボカぁ別に歌なんざ興味ないし。だったら食べてるほうがいい……ん、ウマい」 口の周りをソースまみれにしながら、ジムスは言った。 まぁジムスらしいといえば、そうなのかもしれないと、アズサは苦笑しつつ思った。 ジムスはコイル焼きの空になった紙皿を横に置くと、お茶のペットボトルを口につけ、 一気に流し込んだ。ふぅ、と一息ついてから、 「まぁ、今日のバトルは相性の問題で、ボクを出さなかったのは解るし、結果的にあの子も メガシンカできたんだ。結構よく出来たと思うぜ?」 「ありがとう」 普段はあまり素直じゃない彼が、こう誉める事はあまりないため、アズサは礼を言った。 「でもまさか、拾った石がメガストーンだったなんて……」 ルーミは、手にしたメガストーンを眺めながら、言った。 あの戦いは本当に驚きの連続だった。 相手もメガシンカポケモンで、拾った石がメガストーンで、眩い光を発して ルーミの心の声が聞こえ―― 「あの光の中で、ミィカの声がして、姿が見えて……」 バトルの後、回復を終えた皆に、このことを話した。 リエラも、マトリやウィゼも目を丸くし、ジムスは最初、 「馬鹿馬鹿しい。あるわけがない」と言っていたが、ルーミまで声を聞いたことを 話すと、興味が湧いたのか冷静に聞き入った。 「でも死者の声を聞くなんて……オカルトな話だよな。何がどうなってるんだろ? キミだけでなく、ポケモンまで声を聞いて姿を見たなんて」 そのジムスの言葉に、アズサは間をおいて答えた。 「ポケモンは、みんな『&ruby(無限大){∞};エナジーっていう生態エネルギーを秘めてる。 「ポケモンは、みんな『&ruby(無限大){∞};エナジー』っていう生態エネルギーを秘めてる。 それに人の想いが加わって、メガシンカが可能になるって、言われてるんだ」 ∞エナジーはロケットや、今では珍しくなくなったワープ装置など様々な用途に使われている。 だがそれらは、ポケモンの生態エネルギーを吸い出して使わなければならない。 これらの技術はポケモンの犠牲の上に成り立っているといってもいいものだが、 文字通り無限の可能性を秘めているのなら、様々な効果があるのではないかと思えた。 ワープやロケットの推進力、そしてメガシンカ。 「もしかしたら、あの現象も∞エナジーのせいかもしれないな……」 「ふーん……絆が起こした奇跡、か……うわっ……」 そういうと、ジムスはがくっと頭を落とした。 柄にも無いキザな事を言って、自分で恥ずかしくなったのだ。 歌は、ちょうどサビの部分だった。 それを聞きながらも、リエラは複雑な気分だった。 今日のバトルでは、自分は相手に一撃も加えられないまま、交代されてしまった。 相手を倒す。 他の手持ち達には出来ていることが、自分には出来なかった。 それに良く考えたら、自分はほとんどジムバトルで活躍したことはない。 (私……本当にご主人の役に立っているのかしら……?) リエラは、俯いた。 ――続く―― ---- はい、やっと16話目です。相変わらず遅筆で申し訳ありませんorz とりあえず、主人公側もメガシンカ可能になり、戦力も段々と強化されています。 3犬も数話ぶりに登場し、そろそろ敵と戦闘状態にはいっていきます。 いやしかし、パルレシステムはバトル描写がしやすくなって助かります。 ↓指摘やご意見、ご感想などいただけると嬉しいです。 #pcomment(You/Iコメントログ,5,) IP:125.14.152.213 TIME:"2015-08-26 (水) 22:38:36" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=You%2FI%E3%80%8016" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"