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Vortice Rovente 09 の変更点


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※&color(#dc143c,#dc143c){全体的にグロ描写多めです、苦手な方ご注意ください};
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※&color(#dc143c){全体的にグロ描写多めです、苦手な方ご注意ください};



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#hr

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*Vortice Rovente [#i289effe]

written by [[慧斗]]

#contents




**TURN23 復活のルトガー [#jf7c58eb]

 ネメオスは最後の一着を着たうえでその上に着られるファイの予備セットを用意していた。
 実際あの衣装で走ることでプロパガンダ的な演出をできる意味合いもあったが、もしあれが「俺がファイであることを捨てて素顔で戦う」ことを示すための演出だとしたら、そこまでの予測力には脱帽しかない。
 ファイの時には地味にコンプレックスだった着瘦せと毛膨れによるCLAMP体型もコートとズボンスタイルになっていたことで緩和されていて、ブーツとスパイクグローブで格闘戦にも対応、ヒートジョーカーとヒートトリガー用のホルスターも共通規格でセットされてて放熱機構やベルト部分に簡易型熱線焼却機構搭載とかいう、最終決戦専用みたいな至れり尽くせりの一着になっていた。
「ルトくん、どうしてここに…⁉」
「こんな状況で助けに行かない理由があるか?」
「いや、来てくれたのは嬉しいけど、ルトくんは今ファイになって生放送…」
「あれ?生放送のファイもリアルタイムで動いてるけど、こっちはルトガーだし一体…?」
 シャルフの見せて来たスマホの画面を見ると、ちょうどファイの生放送が終了してアンブレオン社直々のニュース放送に切り替わった。
 その直後、俺の携帯電話にビデオ通話の着信が来た。そろそろ種明かしするか…

「これ、母さんです…」
「「ゑ?」」
 通話をオンにして二匹にも画面を見えるようにすると、ファイの仮面を外したように空間の映像が揺らぎ、たてがみを整えているゾロアークの姿に変わる。
「上手くできてた?」
「十分なぐらいだ、目的も達成済だし助かった」
「この方が、ルトくんのお母さんなの…?」
「普通に姉と言われても信じられるぐらい綺麗だ…」
 シャルフのコメントをまんざらでもなく思いつつ、軽く種明かしの流れを考える。
「生放送が始まる前から既にイリュージョンで声は録音。マジックショーでよくある手法だが、UBとの戦闘で信頼のあるファイからの情報提供と現場への急行を同時進行するにはうってつけだな」
 しれっと携帯越しに彼女がどうとかロマンティクスとか交尾とか言い出したので、協力ありがとうとだけ言って一方的に電話を切っておく。
「二匹が混乱してくれたように敵の目を攪乱することも想定していたが、そもそも馬鹿過ぎてお前らの弱点は全世界に公開されてることに気付かなったらしいな」
 突然の罵倒に困惑するザシアンを鼻で笑いながらヒートトリガーを構えて狙いを絞る。
「ルトくん、あのザシアンはやどりぎのタネを植え付けられてゼルネアスに操られてるんだって…」
「肉の芽のパクりか、三下の癖にプライドだけ高そうなヌケサクが思いつきそうなことだぜ」
 俺たちの会話中だけ律儀に待ってる辺りマジのド低能らしいが今はその方が都合がいい。


「全くどいつもこいつも今すぐ滅ぼして欲しいようですね、行きなさいUBと絶滅した再生ポケモン部隊!」
 怒髪冠を衝くとでも言わんばかりに全身で怒りを表現しているザシアンwith肉の芽ゼルネアスもといザシネアスはウルトラホールをさらに展開して大量のUBや絶滅したはずのフェアリータイプを次々に降下させてきた。

「いくら何でも数が多すぎるよ…」
「ざっと500、いや1000はいる、どうしよう…」
 戦い慣れてないグレースは怯え、そこそこ慣れてるシャルフでも焦りを隠せていない。俺も内心冷や汗だが、どうにかして切り抜けなければここで全て終わりだ。
「もっと怯えて命乞いしなさい、やはり数の暴力、数の暴力こそ全てを解決する…!」
 剣を咥えたまま器用に高笑いを決めているが正直ウザい。とは言っても紅蓮可焼式をフル稼働させても半分殲滅するのが精いっぱいで…
 だが俺が弱気になってちゃ負けちまう、ハッタリかましてでも先に進む…!
「数の暴力か、戦術としては悪くないが、戦略の前にはゴミクズ同然だと教えてやるよ…!」
 わざとゆっくりと挑発しながら頭の中で作戦を考えていく。
 ハドロンシステムの奥の手はチャージに問題があるし、スプレッド・ユア・ウイングスで殲滅するには数が多すぎて暴走リスクがデカい、そう考えると俺だけで一手のうちに殲滅は不可能。
 ナタクさんの指導を踏まえるならフィールド効果で盤面を有利に引っくり返せるのが理想だが、生憎ここに爆弾や落とし穴は仕掛けていないから足場崩しをしかけることは不可能。
 せめて一気に焼き払えたら効果的だが、一撃で火の海…
 待てよ、火の海といえば一昨日…
「シャルフ、グレース」
「ん?」
「どうしたの?」
 現状唯一の可能性、俺だけでは無理でも一つだけ策はあった…
「二匹とも、【誓い技】ってまだ覚えてるよな?」

「覚えてるよ、ルトくんと一緒に練習した思い出の技だから…!」
「一昨日披露したっけ、というよりまさかアレをここでするのかい?」
 それぞれ違う歓喜に染まっているが、静かに頷いて炎の誓いをまだ覚えていることを明かした。
「この状況を打開するためにも一緒に誓い技を撃って欲しい、頼めるか?」
 流石にカプの方はそこまで馬鹿じゃなかったらしく、攻撃を開始してきた。
 ヒートトリガーで牽制しながら二匹に提案すると、黙って頷きグレースを中心とした逆三角形の陣形が出来上がっている。
「なんか、アテナエクスクラメーションみたいな構えだね」
「これから神殺しするんだし、あのイベルタルなら笑って許してくれるだろ」
「それもそうだね、ってルトガーはいつイベルタルに会ったことが…?」
 シャルフの質問には何も言わずに少しだけ笑って返しておく。
「まずはシャルフ、次に俺、仕上げはグレースで行く。指示通りの方向に向けたこの三撃によって一撃で決める…!」
「任せて…!」
「了解、まずは僕が…!」
 作戦通り、シャルフが敵に向けて草の誓いを放つ。
「草技でも所詮は低威力、その程度の技を重ねてどうにかなるとでも?」
「…っ!」
 なんか悔しそうな演技をしてる、シャルフの奴案外この戦いをエンジョイしてるな…
「だったら次は俺が…!」
 渾身の特攻を込めた炎の誓いはまっすぐ頭上に打ち上げられて炎が周囲に飛び散った。
「力の入れすぎで空回りですか?滑稽ですね…!」
 安っぽい挑発に黙って睨み返し、スタンバイしているグレースにそっと指示を出す。
「最後は私が…!」
 一番火力出そうなグレースの水の誓いも、グレースが敵の攻撃に体勢を崩してしまい俺たちの背後、つまりは真後ろに飛んで行ってしまった。

「もうダメだぁ、おしまいだぁ…」
 グレースが棒読みで絶望しているのを見て本気で勝ち誇って嘲笑っているザシネアスだったが、さらにそれを嘲笑うかのように周囲に火の手が上がり、たちどころに火の海と化した。
「なんだこの炎は…⁉」
「やっぱり誓い技を知らないらしいな、誓い技は二種類の誓いを組み合わせるとちょっと面白い効果が出せるんだぜ?」
 例えば草の誓いと炎の誓いを組み合わせれば、敵の足元を一瞬にして火の海に変えてしまう効果がある。
 そして炎の誓いと水の誓いを組み合わせると…
「やった、夜なのに空に大きな虹がかかったよ!」
 無邪気に喜ぶグレースの声を聞いて静かにほくそ笑んだ。
「まさか、一撃でバーンダメージと自分たちへのバフ効果をかけるなんて…!」
「だから方向指定したんだよ、これで地上の敵は大分倒しやすくなったはずだぜ…!」
 いくらUBやフェアリータイプの数が多かったとしても、削れてさえいれば攻撃は当てるだけで倒してしまえる。これが数の暴力への対抗戦略なんだよ…!

「ルトくん、空にいる敵はどうするの…?」
「あっちは任せろ!グレースとシャルフは伝説辺りや炎タイプへの牽制だけ頼む!」
 分かったという声だけ聞いて、紅蓮可焼式のハドロンブースターをヒートトリガーと連結させて大型ライフルを二挺用意する。
「飛行戦力を全て落とす、さっきの翼を頼む!」
「ベルゥ!」
 いつの間にか飛んできたベルを背中に装着して高推力のまま大ジャンプ、空中でツインハドロンライフルを片手ずつ水平に構え、トリガーを引いた。
 高威力のビーム兵装によって射線に入っていた敵を一瞬のうちに消し飛ばし、推力を維持したままDDラリアットのイメージで回転すると、射線上の敵は光の壁やオーロラベールの抵抗も関係なく全てを薙ぎ払った。

「これで雑魚敵は片付いた、俺が前衛を張るからグレースは敵の牽制とアシスト、シャルフは後方支援を頼む!」
 連結を解除して紅蓮に再セットし、通常のヒートトリガーで残存する敵を撃ちながらザシネアス状態のターゲットを狙う。

「という訳だ、邪神ゼルネアス、ガワもろともお前を殺す」
「まさかお前は、ナバール…⁉」
「その忘れ形見、ルトガーだ。覚えておいた方があの世で色々役立つだろうぜ」
 剣の切っ先と銃口が互いを狙い合う瞬間、これが最後の戦いだ…!


 あれから十数分、なかなか減らない敵を片っ端から斬りつけながら、ついにザシアンの剣とヒートジョーカーがぶつかり合った。
「どこまでも小賢しい…!」
「こっちの台詞だ!」
 拮抗して互いの体を弾き合い、斬撃の嵐と悪の波導の乱射がぶつかり合う。
 黄色いカプの放電にヒートジョーカーを一本空に投げて電撃を誘導して防ぎつつ、シャルフの狙撃が射抜いて倒す。
 雑魚の進撃をグレースのバルーンが阻んでいるうちに残ったヒートジョーカーに熱を送り込んで刃を伸ばし、左で逆手に構えて高推力のまま突進、ザシアンの振りかぶった剣とぶつかると同時に衝撃を活かして右に飛翔、落ちていたヒートジョーカーを掴みながら長剣の方を投げつけて急接近、咥えた剣で捌こうとした隙に、胴の急所へヒートジョーカーを突き立てた。
「馬鹿な、ガオガエン程度であんな超高速移動が…⁉」
「…これがイベルタル因子の身体強化、そして既に懐に入った時点で俺の勝ちは決まった!」
 ザシアンの体で驚くゼルネアスを他所に、救援に来ようとしたピンクのカプを射殺してヒートジョーカーの柄に熱を込めると、ザシアンの体が沸騰した気泡のようにあちこちが膨張していく。
 改良されたヒートジョーカーは敵に突き刺して熱を送り込むと熱線焼却機構を簡易的に使用できるようになったが、早速金星だな…!
「ぽぺ…」
 全身が沸騰に耐え切れずに爆散、返り血の付いたヒートジョーカーを拾い上げるとかつてないほどの達成感が込み上げてきたが、一連の流れに少しだけ違和感を感じる。
 そういえばさっき雑魚は一通り片付けたはずだし、ピンクのカプだって突入前に熱線焼却機構で焼き払ったはず…
「ルトくん、後ろ…」
「なんか、これはヤバいかも…」
 グレースとシャルフの反応に内心警戒しながら振り返ると、さっき倒したはずのUBやフェアリータイプの再生ポケモン達が生き返っていた…



「ねぇ、これ何が起こっているのさ…?」
「俺も分からねぇけどこれから分析する、多分ゼルネアスが何らかの細工してやがるな…」
 普通ならありえない事態だが奴が絡んでるならわりと想像できなくもない。
「一つ確認してみる、二匹は防御に回って体力を温存してくれ」
 幸い大体の敵には俺の方が早いし、少しならグレースとシャルフを休ませることもできる。
 持って来たらしい回復アイテムで回復し合う二匹を見るとあまりいい気はしないが、今はそこのデカヌチャン辺りで実験してみるか

「よぉ、金属泥棒」
「誰が金属泥棒じゃ殺したろかワレコラァ!」
「お前が死ね!」
 ハンマーを振りかぶる動作よりも早く能力で殺した。これでどうなるか…
 周囲を警戒しつつ心の中でカウントしていくと、ちょうど10カウントで起き上がってきた。
「ワレコラァ!」
「今すぐ焼け死ね!」
 炎のイベルタルが全身を貫き熔解するレベルで焼き殺した。
 10カウントでも再生しない、体の状態、関係ありか…
 もっと殺さなきゃ…
「⁉」
「どうしたの⁉」
「悪い、どっちでもいいから暴走する前に早くメンタルケア頼む…!」
 殺気に思考を飲まれそうになりながらも二匹に声をかけると、羽が俺の頭を撫でて優しい言葉と鰭が背中から翼ごと包み込んでくる。

「大丈夫かい?」
「悪ぃ、やっぱ殺す能力は制御きついな…」
「でも自分でサポート必要って分かるようになったの、きっとルトくんの成長だよ」
 ありがとな、と軽く返しつつ数えていたカウントは30を超えたがまだ再生していないらしい。
 さっき爆発四散したザシアンの再生もまだな辺り、ただ殺すより体を破壊される方が効くらしい。

「とりあえず今の実験で分かったことを伝える」
・ゼルネアスの能力でこの辺りの敵は倒しても再生する
・通常の死亡は体感10カウント、死体の損傷度に応じて再生時間は伸ばせる
・俺の能力で範囲内の敵を種族単位で殺すことは可能だが、再生を考えると暴走リスクが大きいためあくまで保険として基本使わずに戦う方が合理的

「なるほど、敵の再生能力を考えるとしっかりめに倒した方がいいってことか…」
「分かったよ、ルトくんも無理しないでね…!」
「了解だ、メンタルケアさえあれば制御できるから少しでもヤバくなったら無理せず…」
 ヒートトリガーの弾丸をリロードして二挺構えてターゲットを選定していると、遠くからエンジンの駆動音とハドロンシステム特有の駆動音が聞こえて来た。
「待たせたな、増援の登場だぜ!」
「遅くなってすまない、中腹は片付いたからこっちの応援に来たよ」
 コバルトとシャウトの増援が来て俺たちだけで切り抜ける想定が少し楽になった。
 こういう時に警察と医者の援軍は少し心強い。
「こいつらはゼルネアスの影響で殺しても再生します、体に重度の破壊があれば少しは遅らせることができるので把握願います!」
 あんまり上手くない敬語で状況だけ伝えておいて、5匹に増えたメンバーの配置を考える。
「シャルフは後方からの狙撃と遊撃手としての削り担当、グレースとシャウトは牽制及び防御要因としてシャルフと連携、俺とコバルトは前線と火力ソース役で行く!」
 配列指示を出しながらスプレッド・ユア・ウイングスの効果を整理して最適な使用方法を考える。
 前線張りながらでも、イベルタルの翼でみんなを守ってみせる…!


「各イベルタルはこちらの戦闘要員の防御サポートに回れ、何としても敵から守り抜け!」
 俺以外の4匹を防御するためのイベルタルを出現させつつ、同時に2匹をシャルフの背後に迫っていたフラージェスを焼き殺すのに飛ばす。
 一瞬で同時に出せるイベルタルの命令は6種類、総数ではないにせよ効率よく重ねていかなきゃ持久戦ではこっちが不利になる。
 さらに敵情報把握用のイベルタルを連続で出現させながら自動砲撃用にデスウイングで攻撃するイベルタルを俺の周りに旋回させ始めたタイミングで強烈な殺気に襲われる。
「ルトくん、大丈夫だよ、リラックスして…!」
 殺気を制御できずにふらついたところをグレースに支えられ、さらにシャウトやコバルトにも負担をかけてしまった。
「おいおい、あんまり飛ばし過ぎるなよ?」
「ルトガー君も一匹で無茶しすぎるな、君のサポートは優秀だが君が無茶しては元も子もないよ」
「…はい、気を付けます」
 シャウトに手渡されたプレーンクッキーを噛み砕くと、グレースのケアも相まって大分楽になってきた。
 青いカプに悪の波導やデスウイングの一斉掃射とヒートトリガーの弾丸を的確に撃ち込みながら、軽くジャンプしてゆっくり降下しつつ仲間の情報を分析する。
 グレースはシャウトと組めたことで牽制も無理なくできているが、リーフブレードでカミツルギと斬り合うシャウトを見るとやっぱ一匹ではきつそうだ。
「シャウトが攻撃に集中できるようにを解析や防御、回避のアシストをしろ!」
 オレンジのイベルタルがシャルフの方に飛んでいき、爆風でエアスラッシュを相殺してシャルフを守っている。
「シャルフ、ハイゴニトゲキッス!ハイゴニトゲキッス!」
「了解…!」
 シャルフの狙撃精度が大幅に向上して背後のトゲキッスに振り向き撃ちを成功させているのを見て内心安堵した。
 こういうサポートなら、俺にも負担なくできるんだな…!

 背中のイベルタルと自動砲撃用のイベルタルの攻撃ひるんだ隙に緑のカプを滅多切りにして、コバルトのフレースヴェルグとタイミングを合わせてラブトロスをぶつ切りにして倒す。
「敵は減ってきた、さっきのザシアンは爆散して再生に時間がかかってる今、一気に倒せばいける…!」
 紅蓮可焼式を操作して熱線焼却機構を作動させると同時に特殊なイベルタルを周囲に散開、熱線焼却機構の光をイベルタルたちが反射させて残っていた敵に一斉に浴びせて倒す。

「やったな、これで一件落着だぜ!」
「いや、あくまで再生するならまだ油断はできない…」
 今倒し切っても再生するなら、実質的な終わりはどこにあるんだろう?
 正直俺だけじゃなくて他のみんなだってきついだろうし、早く再生を止める方法を考えて…
 なんとなくウルトラホールを見上げた時、奇妙な光の存在に強い殺気を感じて咄嗟に叫ぶのが精いっぱいで…
 ウルトラホールからものすごい威力のビームが俺たちに降り注いだ。


「あれ、何ともない…?」
 咄嗟に防御用のイベルタルを周囲に出せるだけ展開して防いでも防ぎきれないと思っていたが、案外余裕だった。
 黒いアーマーになっているコバルトとシャウトも平気そうだが、シャルフは少ししんどそうで、グレースはそこそこダメージを受けてしまっているらしい。
 そこから大体今のビームの技は分析できたが、あれはエスパー技ってことか…?
「あの火力はテッカグヤ以上でただのポケモンとは思えないけど、エスパータイプのUBなんていたかな…?」
「いや、僕も知らないが、あの火力はまさか…」
 グレースの応急処置をしながら少し焦った様子で答えるコバルトに尋常じゃない気配を感じた時、ウルトラホールから全身を白く光らせたドラゴンタイプみたいなポケモンが現れた。


「ごきげんよう愚か者たちよ、この光で消え失せなさい!」
 肉の芽モドキがどこにあるのか分からないが、こいつはゼルネアスが乗っ取るに相応しいスペックはあるらしい。
 あのビームを連射されると俺は平気でもグレースやシャルフが危険だ、何とかしなきゃ…!
「喰らえ、プリズムレーザー!」
 この位置じゃツインハドロンライフルも連結とチャージが間に合わない、だったら奥の手見せてやるよ…!
 口からの角度を合わせつつベルトから炎を滾らせて熱線焼却機構を媒介させることで増幅させながら放射、真正面からぶつかり合って激しい炎と熱を撒き散らしながら相殺した。

「ルトガー君!」
 受け身を取れずにいたところをアロンダイトのワイヤークローでキャッチされる。
「どうも、とりあえず反動技みたいなんでちょっと立て直す時間できますよ」
 手短に状況を伝えると鮮血の入った輸血パックを渡されて、回復を促された。
 実用的だし吸血できる俺には合理的だが、これ医者として大丈夫なのか?
 おっ、これ新鮮でなかなか美味いな…
 血の味をこっそり堪能しながらベルを飛ばして戦局をざっと確認する。
 二匹の言う通り再生されるのはこの辺りだけ、肝心のゼルネアスもあのポケモンの操作にかかりっきりで再生する余裕はないらしい。
 つまりあのポケモンをどう倒すかが鍵ってことか…
 分析を終えてベルを背中に戻した時、携帯電話で何かを確認していたコバルトが叫んだ。
「みんな、あいつの正体は20年前にタマムシシティを襲った黒いUBのフォルムチェンジと見て間違いないらしい!」
「20年前のタマムシシティって、まさか崩壊レベルの…⁉」
 シャルフの反応を見て思い出したが、あいつにとっても無関係じゃないんだよな…
「そうだろう。かつてナバールが撮ってくれたデータとあいつのデータを照合したら、スペックはこちらの方が上だが個体データはおおよそ一致したので、当時名付けたネクロズマの強化版でありUBの一種であることも考えられるため、【ウルトラネクロズマ】とでも呼んでおこう」
 スペックが低い頃でも月下団メンバーのエース二匹がかりで撃退がやっとだったのに、それがさらに強化されてるなんて、こんなやつ倒し損ねたら本気でアローラどころか世界すら本気で滅んじまう気がする…
「とにかくこんな奴、動けないうちに早く倒してしまわなきゃ…!」
「気持ちは分かるが落ち着けシャルフ!」
 完全に冷静さを失ったシャルフが影縫いを放ちながらリーフブレードで斬りつけにかかったが、動き出したウルトラネクロズマのパワージェムによる迎撃をモロに受けて落ちてしまう。
 ワイヤークローをクッション代わりに用意しつつダッシュして地面に落ちる前にシャルフのキャッチには成功したが、かなりのダメージを負ってしまっている。
「大丈夫か…?」
「なんとかね…」
「…何というか、俺のこと気遣ってくれる側の気持ちが少しだけ分かった気がする」
「奇遇だね、僕も君の気持が少し分かった気がするよ」
 シャルフをゆっくりと起こしている時、一瞬だが俺の視界がブラックアウトした。
 頬についた返り血を舐めて意識を鮮明に保ったが流石に消耗が激しい。
 俺もあんまり持久戦は得意じゃないが2時間をゆうに超えて流石に全員疲れの色が出始めている。
 早いとこ再生への対抗策を立てねばこのままじゃ全滅しちまう…

 小さなイベルタルが複数匹飛んで戻ってきたと同時に、グレースが小さな悲鳴をあげた方を見ると、さっき熱線焼却機構で爆散させたザシアンの体がほぼ再生されかかっている。
 だが別動隊として一回に出せる命令の余りを全て調査に回しておいた甲斐があった。
 イベルタルの反応を見ると、再生のからくりも対策も大体読めた。
「どうやら我が同志ザシアンもほぼ完治、これで心置きなくお前たちを殺すことができるというもの」
 とうとう揃い踏みしたらしい敵の勢力はウルトラネクロズマとザシアンに随時再生されるであろうUBとフェアリータイプ不特定多数。準伝説あたりを先に片付けられただけマシだが、それでもみんな連戦続きで疲弊している。
 だが突破口は見えた、あとは条件を揃えるための一手に賭ける…!
「今から最初で最後の攻勢に出る、全員俺の作戦通りに動いてほしい」
 静かに頷いてくれることに内心感謝しつつ、携帯電話の画面に作戦を入力してそっと見せた。

「俺がネクロズマを倒す、みんなはどうにかしてそれ以外の敵を頼む…」
「これってほぼ策もあってないようなものだね」
 コバルトとシャルフの読み上げにそっと頷いて紅蓮可焼式に跨る。
「これより作戦をファイナルに移行、みんな、死ぬなよ…!」
「「「「了解!」」」」
 騎獣クルセイダーの最終回でもギリギリ言わなさそうな台詞をわざと言って、スロットルを回してウルトラネクロズマに突進した。



 パワージェムを展開したイベルタルに相殺させつつウルトラネクロズマの周囲を旋回。
 周囲を動き回ることで大技で俺を狙いにくくしながらヒートトリガーでやどりぎを狙い撃ち、左のワイヤークローで脚部を固定して飛翔しながら飛び回ることで足と右翼をワイヤーに巻き込んで自由を奪う。
 飛翔しながら戦局を確認すると、やどりぎから解放されて生き生きと剣を咥えたザシアンと、勇者パースの体勢で構えたコバルトのフレースヴェルグがぶつかり合い、アロンダイトと四足の高速戦闘を繰り広げていた。
「あのダイケンキといいナバールといいお前といい、何故イベルタルの血脈は私の邪魔ばかり…!」
 ウルトラネクロズマ越しにまたゼルネアスがブチギレている、そろそろネクロズマの血管切れるんじゃないかと思いながらイベルタルに出す命令を組み立てていると、左のワイヤークローがプリズムレーザーの熱に耐え切れずに千切れた。ハドロンキャノンの直撃でも受けなきゃ切れないレベルの破壊力とはやるな…

「こうなれば全てのポケモンをこの場で再生させてやる、全員とっととくたばりやがれ…!」
 一気に急速度で倒したはずのポケモンが再生されていく。
 それと同時にウルトラホール周辺でスタンバイさせていた調査用のイベルタルに反応があった、やっぱ俺の推理通りだったな…!
 だがその代償がデカすぎる、いくら伝説だからって好き放題しやがって…!
「お前なぁ、ちょっと態度がデカすぎるぜ!」
 ワイヤークローを射出すると同時に防御用のイベルタルを俺たちの周囲に展開させながら熱線焼却機構を最大出力に切り替えてトリガーを引く。
 熱線焼却機構を高出力で撒き散らしながら再生されたばかりの敵ポケモンを一気に焼き払っていく。軌道がワイヤークロー次第で制御不能だが、事前に防御用のイベルタルを展開したことでフレンドリーファイアの心配はない。
「馬鹿な、再生したはずが一瞬で…」
 熱線焼却機構用のエナジーは尽きたが、それと同時にゼルネアスの力も弱まったらしい。
 コバルトの方を見ると、ザシアンに向けて投げつけたホタチがブーメランのような軌道を描いて背後からザシアンの足を斬り落とし、ひるんだ隙にフレースヴェルグで胴を剣ごと袈裟斬りにした。
 他のみんなもダメージを負いながらも無事にらしい、このまま一気に…!
「!」
 突然ウルトラネクロズマが俺目がけてフォトンゲイザーを放った。
 直撃のダメージはないとはいえ可焼式には機体前半分にそこそダメージは入って飛翔は不可能、熱線焼却機構は外れてしまった。
 必要なパーツは残ったとはいえあの戦力は干渉を受けてない素の実力らしい、多少厄介だな…!
 ハドロンブースターを取り外してフルオート走行に切り替えて最高速度でネクロズマに突進させ、拘束したワイヤークローも紅蓮可焼式も全て破壊されたがそこそこのダメージを与えた。

「ルトくん…!」
「待ってろ、こいつは俺が倒す!」
 ベルの推力でイベルタルの目線までジャンプ、ヒートトリガーを向けつつ見栄を切る体勢で威嚇した。


 フォトンゲイザーを躱すような軌道ですり抜け、いつの間にか少しは飛行できるようになっていたことに驚きつつヒートトリガーで射撃しながらパワージェムをスライスターンで躱して悪の波導を浴びせる。
「ちょこまかと動き回って小癪な…!」
 ウルトラネクロズマのやどりぎは外れたはずだが、まだゼルネアス自体はこっちに干渉する気満々らしい。さらにウルトラホールからアクジキングとアーゴヨンを繰り出してグレース達と交戦している。
 弾切れになったヒートトリガーを狙った位置に投げ捨ててヒートジョーカーを赤熱化、流れ弾のベノムショックを躱しながら脇をすり抜け、すれ違いざまに刀身を伸ばして斬りつける。
 そのままもう一本のヒートジョーカーに熱を込めながら炎でイベルタルを形成して投擲、ウルトラネクロズマの胸に突き刺すと同時に熱を送り込ませてダメージを与える。
 ひるんだ隙に頭部を斬り落とせば…!
「……!!」
 ゼロ距離に俺を誘い込んでプリズムレーザーを浴びせる罠だった。
 直撃ダメージこそしれているが、ヒートジョーカーは破損してレーザーで破壊された瓦礫が散弾同然のダメージを与えて吹き飛ばされる。
「大丈夫か⁉」
「ルトくん、しっかり…!」
 駆け寄ってきたシャウトとグレースに大丈夫と言って起き上がったが、瓦礫も俺には思いの外深刻なダメージになったらしく、ネメオスの服がなければ致命傷だった。
「そんな、急いで治療しなきゃ…」
「…けどな、これで前提条件は、全てクリアした!」
 武器は全て尽きたが俺の作戦に必要なアイテムはまだ残してある。
 それを使えば、ウルトラネクロズマはもちろん、完全にこの世界を守り抜くこともできるはずだ…!
「シャルフ!」
「イエス、ユア・マジェスティ!」
 アーゴヨンをリーフブレードで斬りつけていたシャルフが機動を変えてワイヤークローを破壊、内部に残っていた部品を影縫いで俺に渡してくる。
 熱線焼却機構、ちゃんと無事そうだな…
 ヒートジョーカー用のホルスタージョイントを右足の脛に装着して、そこに熱線焼却機構をセット。
 ベルトに付けた熱線焼却機構と右足の熱線焼却機構を連動させればより高火力になる想定、こいつを直に叩き込もうなんて我ながら滅茶苦茶なアイデアだが、それぐらいの滅茶苦茶やってみてワンチャンあるかどうかだからな…!

 プリズムレーザーの反動の隙を突いてセッティングまでは終わった。
 あとはシャイナさんもとい母さん直伝のあの技なら、確実に叩き込んでやる!
 パワージェムで狙われたと同時に脚力と推力を活かした大ジャンプ、だが俺の飛翔を狙った角度…⁉
 パワージェムを広角で狙っていたことに焦った瞬間、強力なハイドロポンプがジェム自体を吹き飛ばした。
「行け、ルトガー!」
 コバルトの援護射撃に心の中で礼を言って、理想的な高度に到達した。
 ベルトの炎を熱線焼却機構で最適化、さらに右足の熱線焼却機構に通して高火力させる。
 そしてこの位置が一番、ウルトラネクロズマに跳び蹴りを叩き込みやすい角度ッ…!

「やれ、ネクロズマ!」
 いつの間にかウルトラネクロズマの頭部にやどりぎは移動してフォトンゲイザーを放たれたが今はその方がいい。
 フォトンゲイザーの白い光と熱線焼却機構の赤い光がぶつかり合って拮抗する。
 放出され続ける熱線焼却機構のエネルギーは正面への行き場を失って周囲に拡散、扇状に拡散されながら回転を始め、再生されつつあったUBやフェアリータイプを光に触れただけで灰に変えていく。
「馬鹿な、スペックはネクロズマの方が上のはずなのに…⁉」
「お前が指示出すとダウングレードすることにまだ気付かないとは脳内お花畑通り越して記念物級の天然だなこの死に損ないのクソババア!」
 熱線焼却機構が拡散するとこまでは想定外だったけど、ここまで来たら勢いで押し切ってやるよ…!
 フォトンゲイザーが少しずつ砕け散るように弱まっていくのに比例して熱線焼却機構の光も円錐状に展開されてさらに突き破り、そのままとどめの一撃を突き刺すような勢いで蹴り飛ばした。




「ルトくん、ルトくん、しっかりして…!」
 グレースにゆすり起されて初めて俺が意識を失っていたことに気づいた。
「俺は、ってネクロズマは…?」
「大丈夫、君の蹴りで灰になったし、アクジキングとかアーゴヨン含めて敵は全部熱線焼却機構の余波で灰になったよ…」
 シャルフの差し出した羽根を掴んで起き上がると周辺一帯は灰の山があちこちに出来上がっている状態だった。
 敵の残存勢力はゼロ、だが日付も変わりそうな時刻なのに空が明るい…?
 違和感に気付いた時、ウルトラホールがさっきよりも巨大化してきていることと、最後に俺がやるべきことを思い出した。

「急いでウルトラホールを破壊するんだ!ゼルネアスの再生のトリックもウルトラホールから生命を供給するのが鍵だった以上、早く壊さないと大変なことに!」
「なんだって、それは本当かい⁉」
 ふらつく足に力を入れて立ち上がっていく中で、ハドロンキャノンが、ハイドロポンプが、斬撃と矢がウルトラホールを攻撃しているが、少しもダメージの入る感じがない。
 ベルトに付けた方の熱線焼却機構で火炎放射を増幅させて撃っても、悪の波導を乱射してもまるで効いていない。
「ウルトラホールを破壊しろ!」
 イベルタルを精製して撃ち込んでもウルトラホール自体を破壊する効果が薄い。生命じゃない相手では命令も通りづらいってのはあるか…
 だが一刻も早く破壊しなきゃいけないのに、あのウルトラホールをすうに破壊できるとしたら…
 やっぱ俺が突っ込んで自爆するか…

「これお前の武器だろ?」
 手段と覚悟を脳内で考えてると、灰で黒い毛並みが白っぽくなったシャウトがハドロンブースターとヒートトリガーを俺に投げ渡して来た。
「使えなかったら悪いが、多分お前の最大火力出せる武器なんだろ?」
 ヒートトリガーも2挺とも問題なし、ハドロンライフルへの移行も無事にできそうだ。
「助かります、あとは俺が…!」
「よろしく頼むぜ、みんな離れろ!」
 シャウトの声にみんなが離れる中、グレースだけは俺に抱き着いて来た。
「ルトくん、絶対死なないでね…」
「…大丈夫だ、どのみちウルトラホールを破壊しなきゃいずれ死ぬなら、俺はやる」
 グレースは静かに頷いて俺の頬に唇で触れてそれからそっと離れていく。

 ベルトと右足の熱線焼却機構を取り外してハドロンライフルにセット、さらにそれを並列に連結させたツイン形態に切り替えて構える。
「ベル、俺を導いてくれ…」
「ベルゥ!」
 シリアスな状況でも鳥ポケモンみたいな高い声で返事されるとちょっと笑ってしまいそうになるが、ゆっくりと飛び上がって自由落下を開始する。
 自由落下の角度でウルトラホールと一直線になったタイミングで最大火力をぶつける、俺が考えておいて滅茶苦茶な作戦だが方法は今までもそれしかなかった。
 上昇する推力をかけながら自由落下を軽減して狙いをつけるが視界が失血で霞んで上手く付けられない。
 全身の傷口からも血が噴き出し始めてライフルを構えること自体このままじゃ…
 意識すら薄れかかっていく中で、確かに俺を呼ぶ声が聞こえる。
 グレースか、そうだ、俺はまだ、俺はまだ…!

「俺は死なない!!」

 咆哮と共に一瞬安定した視界に狙いを定めてトリガーを引く。
 ハドロンライフルの光と熱線焼却機構の光が合わさった一本の光の束はウルトラホールの直径を超えて真正面から撃ち抜き、周囲が昼になったかのような光を撒き散らして完全に破壊した。



 視界がほぼはっきりしないが、みんなの声はぼんやりと聞こえてくる。
 グレースの泣き声に大丈夫だと言いながら鰭を掴んでいるはずだが感覚も分からない。
 それでも聞こえる限りはウルトラホールは無事に破壊できたらしい。
「かならず、もどるから…」
 うまく言えたか分からないけど、それでも言えた。
 応援してるからな、素敵な歌手に、なれよ…



**TURN24 特異点と秘密の皇帝 [#zff7d542]

 長い夜から目覚めたような感覚。
 五感の機能は戻りつつあるが、どう見ても世界の色合いが普通じゃない。
 明るいのはいいがカフェオレといちごオレを不完全に混ぜたボトルを下からライトで照らしてるというか何というか…
 ジョジョのアニメでもこんな色背景色にしないだろうとか思いながら俺の手を見ても普通の色でちょっと安心した。
 武器も服も全部なくなっちまってベルもいなくなってるから完全に生身にはなってるけどな…

 だがよく考えたらこんな所に来た覚えがない。確かウルトラホールを破壊してからほぼ動けなくなってそれから…
 そういえば傷だらけで大量出血していたはずなのに傷口も塞がっているし、五感も戻ってるな…?
 違和感に気付いて原因を考えていると、突然殺気を感じて背後に飛びのいた。
「⁉」
 普段ならバックハンドスプリングで回避できたはずなのに、異様に体が重くて背後に倒れるだけになってしまう。
 それでもかろうじて攻撃は避けられたが、今のムーンフォースはいったい誰が…?

「何故自由に身動きも取れないはずのお前に攻撃が避けられた⁉」
「うーわ、またゼルネアスかよ…」
 主犯がヤツだと分かった時点で大体ここが死後の世界なのは推測できた。
 それと、多分俺が死んだことも…


「ふん、いい気味ですね私に歯向かうから罰が当たって死んだというもの…」
「いやお前喚き散らしてただけな夜泣きのどの辺に主義主張が?」
「夜泣き⁉神の天啓を赤子の夜泣き同然とは無礼な…⁉」
「悪いが俺にはただのノイズだった、というか生命司っといて生まれることに関わる夜泣き否定とか随分高等な自虐ネタだな?」
 とりあえずこういう相手には徹底的に煽って論破して精神的な冷静さを奪うのがセオリー、死後の世界なら動き慣れてないのも無理はないが、ユニークなポージングでヤツを煽りついでに体を慣らしておくか…
「ほほう、ということはさっきの言論は私を褒めていたと?」
「心底恐ろしい自己肯定感だな、いいさ、お前の負けだ」
 二代目波紋戦士のジャンプするポージングを再現しながら罠をセットしておく、これでヤツがどう動くか…
「そうでしょうそうでしょう!そこで貴方に提案ですが、私と共に【イローソ・マスク計画】を進めてみませんか?もちろん尖兵として私の力で生き返らせてあげますから…」
 どうやらマヌケは目の前にいたらしいな…!
「いらねーよ、というか【お前の負け】を喜んで肯定した格下が俺に上から目線とは随分偉そうだな?ヌケサク敗北者さん」
 悪タイプらしくとびっきりイヤミな笑みで一字一句丁寧に発音してやると、目に見えて怒りが顔に出始めた。

「…あ、悪タイプ風情が神を煽っていい気になりやがってこのケモホモビチグソがぁーっ⁉」
「……うわぁ、とうとう本性見せやがったこのキチガイババア」
 もしグレース辺りにこいつを見せたら一体どんな直球で罵倒するのかはちょっと興味あるが、そんな現実逃避したくなるぐらいには顔も台詞も思想も三下すぎてドン引きした。
 神名乗って立ちはだかるならもうちょい言動とか思想とか格好良くしようぜ…?
 まぁ、どのみち殺してしまうならこのぐらいのド低能野郎の方が気兼ねなくて助かる。
「…とにかく私の計画に賛同できないというなら、ここで再び死んでもらいましょうかね!」
「喋り方気楽にしろよ、どうせ戦闘中に汚くなるのは予想できるし俺は気にしないからご自由に」
「……神に向かって許可を出すとは頭が高いんだよこのクソ野郎!」
「そういう時は笑顔でお礼言えなきゃ、綺麗な遺影は撮れないぜ?」
 怒りに任せた直線的な攻撃、動きが重くなって本来の力が出せなくても、この位置ならスプレッド・ユア・ウイングスの効果を直に叩き込む…!
「あいつを殺せ!」
 叫ぶと同時に精製されていたイベルタルが高速で飛翔してゼルネアスを貫通、電池の切れたおもちゃのように倒れて動かなくなった。


「勝った…?」
 あまりにもあっけない、けれどもたった一つの揺るぎない真実。
 ついにゼルネアスを殺した、俺の命とは引き換えだったがあまりにもあっさりと殺せている事実に困惑しかない。
「勝った、勝ったんだ…」
 それでも目的は果たせたんだ、俺はこの空間で一匹だけだがまぁそれもまた一興か…

「流石にイベルタル因子は少々厄介ですね…」
 死体になったはずのゼルネアスから声がすると思った瞬間、ゆっくりと起き上がってきた。
「驚いた顔してますが、生命を司る神が永遠の命を持ってることまでは想定できなかったようですね?」
「…ようやくラスボスらしいとこ見せて来たって訳かよ!」
 能力を使って殺しても一瞬のスタン程度、俺の運動能力は異常なまでに低下、使えるのはイベルタルを精製しての射撃と障壁だけ、一気に劣勢にはなったがあがいてみせる…!


「ほらほらどうしました?大分息が上がってるようですがさっきの自身はどこですか?」
「今ジャンプの立ち読みにでも行ってるんだろ、じきに戻ってくるだろうからゆっくり待ってろよな」
 とりあえず軽口を叩いてはおいたが正直ジリ貧の一途をたどっている。
 ただでさえ射程距離の差で防戦一方なうえに再生ポケモンも次々に出現して、一度に6種類の命令では追い付かず運動性能も落ちているせいで捌けなければ全弾直撃という現状。
 ダメージが正直大きくなってふらついて来たタイミングでゼルネアスを一旦死亡させ、再生ポケモンがひるんだ隙に手頃なポケモンを捕まえて首筋を噛み殺し、その血を吸血することでどうにか耐えしのぐ。
 グランブルの血は臭くてまずいが今は贅沢も言えない、とにかくこの劣勢ループを繰り返してでも突破口を見つけなきゃ先に倒れるのは俺の方だ…

「そろそろループにも飽きて来たのでさっさと串刺しになって死にさらせボケが!」
 突然のウッドホーン、しかも再生ポケモン6種類を同時に殺す命令を出すタイミング。
 この位置じゃ背後の敵に集中してるせいで防御も相殺も間に合わない…!

 左胸を突き刺すような痛みが走り、牙の隙間から血が垂れ始めた。
「まさかここまでとはな…」
 再び五感が失われていくような感覚を覚えた時、刺さっていたウッドホーンが突然へし折られて誰かに抱きかかえられた。
 しかも再生ポケモンも次々に倒されていく、これは一体…?

「大丈夫かルトガー?」
 この抱きかかえられる感覚、知らないはずなのにどこかで感じたような…?
「まさかここまでとはな、俺の息子ながら単騎でゼルネアスにここまで戦えるなんてな…」
 何らかの回復アイテムを使われたらしく、視界がだんだんクリアに戻ってくると、俺を支えて安堵の表情を浮かべるガオガエンがいた。
 まるで鏡に写った俺みたいだけど、俺より筋肉質で無骨ながら洗練されたソードメイス、そして月下団メンバーの写真や騎獣クルセイダーで見たその姿は間違いない…!
「あなたは、ナバール、さん…?」
「そうだがナバールでいい、それと…」
「それと…?」
 ナバールは目線をそらしながら少し照れくさそうに一言告げた。
「親らしいこと一つしかできずに死んじまったけど、お前の父親でもある」


「ちちおや」
「そうだ、生まれた日に死んだせいで覚えてなくても仕方ないし、悪いとしたら俺のせいなんだけどな」
「…」
 シャイナさんの時といい実感沸かねぇ…
「とりあえず簡単に必要な情報だけ伝える、幸い俺の仲間か足止めしてくれてるからしばらくは大丈夫だ」
 よく見ると、マニューラやアブソル、サザンドラと言ったポケモン達が戦って防戦してくれているらしい。
「キル!!キル!!斬ル!!斬ル!!kill!!kill!!」
 しかも四災とか言われるポケモン達が嬉々として再生ポケモンを乱切りにしている。あれは…?
「月下団ってあんな四災ポケモンも仲間にしてたのか?」
「いや、彼らは俺というか騎獣クルセイダーのファンなだけだ。パオジアンに頼んだら快諾どころかファン仲間連れて駆けつけてくれたらしい…」
 ちょっとした開戦で集められるぐらいにはかなり信頼されてたってことか…
「これから伝えることは三つ。一つ、お前の状況、二つ、そうなった原因、そして三つ、これからお前が取るべき行動の三本だ」
「想像以上にロジカルだ…」
「分かりやすさ優先したけど面白さ欲しいならじゃんけんもするか?」
 お任せしますと答えながらもスナップを効かせた握り拳に慌てて手を出し返す。
「グーのあいこか、初手グーの癖が一緒ならお前とは上手くやってけそうだよ」
 軽くグータッチをして笑ってみせたに少しだけ緊張がほぐれていくのを感じた。

「そろそろ本題行くか、一つ、お前はまだ死んではいない」
「死んでない、のか…?」
「おうよ!確かにここは冥界の入り口だしあいつも俺も死んではいるが、お前はまだ死んでないけどイベルタル因子の効果で意識だけここに来て戦いに来たってところだな」
「だから俺はここで上手く動けないのか…」
「そういうこと、死んでないからこの世界においてはちょっとした特異点ってところだな」
 違和感を解消されて少しほっとしたが、同時に別の疑問も浮かんでくる。
「…いや、死んでないといっても俺はさっき出血多量で死んだはず」
「それが二つ目なんだが、お前は俺の能力で蘇生されてるからな、ゼルネアスの意思が関わる死因では絶対死なないぜ?」
「…huh?」
 流石に言ってることの意味が分からなかった…

「やっぱそうなるか、事実だけじゃ理解されないことは予想してたとはいえ、俺にも上手く説明できるか怪しいな…」
 ナバールも頭を掻いて悩んでるあたり、事実だとすれば相当難解らしい。
「とりあえず順を追って説明すると、お前はの干渉を受けてコアフレイムのない状態で生まれてきたらしい」
「コアフレイムって、炎タイプにとっては第二の心臓と言われる発熱機関…?」
「そうだ。それが体内にないまま生まれてしまった影響で、お前はタマゴから孵ってすぐに死んでしまった」
 俺、知らないうちに一度死んでたのか…
「そしてそれと同じ頃にシティでUBによる襲撃事件が発生、俺とコバルトは撃退に走ったが対策が遅れて致命傷を負った…」
「まさか、その能力は蘇生と戦闘に使える能力…?」
「ザッツライト!スティル・アライブ、簡単に言えばバイツァ・ダストに近い能力でお前が死ぬ前に時間を巻き戻して生まれた瞬間に俺のコアフレイムを託す。完璧な作戦だろ?」
「けどそれじゃあ、俺のせいで死んでしまったんじゃ…」
 俺がいなければ生きられたんじゃないかと言いたくなった俺の頭を、俺より少し大きな手が撫でた。
「あの時致命傷だったしそもそも病気で老い先短かったから気にすんな。それに一つぐらいは俺にも父親らしいことさせてくれよ、俺にとっては唯一血の繋がった家族なんだぜ?」
「家族…」
 今更考えて傷だらけの日々を消し去ることはできないが、それでもこうして思ってくれてる存在が俺にもいたなんてな…

「そして三つ、あいつを倒せば完全に世界は救われるハズだ、俺たちの仲間も雑魚狩りで協力はするからあいつを倒せ!」
 了解とだけ叫んで走り出そうとして、まだ動きは重いままだったことを思い出す。
「これどうにかする方法とかってあるか…?」
「…それについては俺も何とも、伏せろ!」
 俺めがけて飛んできていたムーンフォースをソードメイスで防ぎ、さらに振り回して叩き切ってみせた。
「俺もそろそろ足止めに回らなきゃヤバいらしい、もう少し時間は稼ぐからなんとか考えてみてくれ!」
 ソードメイスを投擲して身軽になったナバールは、何かを思い出したように手を叩いた。
「この技を餞別に教える、名前はないがコバルトみたいに格好いい名前付けろよ!」
 俺に見せるようにゆっくりと腕を羽ばたき上げるように動かし、頂点からベルトの炎と共に突き出した瞬間、爆風と爆炎が再生ポケモン達を次々になぎ倒し、ジオコントロールをしようとしていたゼルネアスの体勢を崩してキャンセルさせた。
「す、すごい…」
「シンプルな破壊技だしやろうと思えばここからアレンジも効く。確か殺す能力に悩んでると聞いたが、純粋な破壊技も知っておくと案外乗りこなすヒントになるかもな」
 俺のコメントも聴かずにどこかで見たサザンドラの拾い上げたソードメイスを担いで再生ポケモンを蹴散らしに向かっていった。
 彼なりにできることを俺のために頑張ってくれた現状、ここからはやっぱ俺の力で何とかするしか…!
 全てのイベルタルを射撃と防御に回して昨日から考えっぱなしな気がする頭脳をさらにフル回転させていく。
 単純に推力があればどうにか動ける気がするが、推力を確保しようにもベルもいないし、よく考えたら推力も全身になければ移動できても戦闘は不可能。
 全身にイベルタルを配置するか?いや、細かい指示や命令の変更とキャンセルできないから制御不能になって最悪空中ゲッダンしかねない…
 脳内で試行錯誤を繰り返していた俺の隙を狙うように飛んできたウッドホーンを防御用に出現させたイベルタルを重ねて防御する。
 理論上防御自体は鉄壁でも適切な位置を予測して展開するのは考え事しながらは正直きついな…!
 受け止めるよりも受け流した方がいい、そう考えて逸らす咆哮を探していた時、再生ポケモンと戦うポケモンたちの中に俺のよく知るポケモンの姿があった。
「ネメオス!」
「ルトガー…!」
 鈍い速度で必死に近づこうとすると、交戦中だったグランブルの心臓に電撃を流し込んで首の骨を踏み折って俺の方に駆け寄ってきた。
「来てくれてたんだな、俺が不甲斐ないばかりに死なせてしまったのに…」
「ううん、君の能力も受けたけど、何より僕が君のために戦いたかった、それだけだよ」
 変わらない純真な瞳でそう言われると、性善説だって信じられそうなぐらいに本当なんだと思えてしまう。
「そうか、こんな時まで優しくしてくれてありがとうな…」
「むしろ僕は君のおかげで夢を叶えられた、まだ君はこれからなんだから…」
 微笑みの背景が突然カラフルな光を放つ。
 この技って、まさかマジカルシャインか…⁉
「しまった、この位置からじゃ防御も相殺も間に合わない…⁉」
「ルトガー下がって!」
 ネメオスが俺を庇うような位置に割り込んだ。
 このままじゃネメオスはまた死んじまう、だがこの状況で俺にできることは何もないのかよ⁉
「クソッ、あいつを死なせた分こんな時ぐらい俺たちのこと守ってみせろ、イベルタル!」
 込み上げる感情に任せて叫び能力を発動させる。
 もはやビジョンすら見えないが、それでも奇跡の一つや二つぐらい起こしてやるよ…!

 咄嗟につぶっていた目を開いたが俺も、俺を庇おうとしたネメオスも無事だった。
 一体、誰がマジカルシャインから俺たちを…?
「ベルゥ!」
 半日前から聴き慣れた高い声にネメオスの前を見ると、本来のイベルタル並みのサイズになったベルが俺たちを庇うように翼を広げていた。

「これ、君の能力が僕たちを守ってくれたんだ…」
「らしいな…」
 金属質な翼に触れると、これまでにこいつが何度もサイズを変えて俺や大切な存在を守ってくれたことを思い出した。
「そうか、お前はフレースヴェルグみたいに俺にとっての能力を具現化した存在…」
「ベルゥ‼」
 よく気づいたねとでも言わんばかりの嬉し気な声にその顔を見ると、イベルタルの姿ながらとても優しい目をしていることに気づいた。
 幼い頃にグレースと遊ぶ度欲しくても手に入らないと思っていたおもちゃのような金属製に見えるメタリックの体に優しく見守ってくれる存在を求めていたような無意識の願いに応えるような見守るような優しい目、今思えば俺が無意識に欲しかったものの姿になっていたのか…

 その結論に至った時、一つの可能性を感じてその背にそっと触れる。
「⁉」
 金属製の体がパーツに分解されたと思った瞬間、マジカルシャインの比にならないほどの閃光に包まれて、能力を使った時のようなイベルタルのビジョンが俺の全身を突き抜ける。
 その直後に飛翔するパーツが俺の全身にアーマーとして装着されていく。
 閉じていた翼を開いてゆっくりと降下した時には、背中にブースターとしていた時とは段違いな程の一体感を感じる。
 これが本来の姿だったのか、それとも俺の願いに呼応して変化した形態の一つなのかは分からないが、空中でインファイトを今まで以上に素早く打ち込める程には運動性能も回復していた。

「すごいよ、聖衣は本当にあったんだ…!」
「…多分違うと思うけど、俺のイメージに引っ張られたのか?」
 服作りの好きなネメオスにはテンション爆上がりする形態らしいし、俺の方もこれならゼルネアスを倒せる気がする…!
「自分なりの戦い方を見つけたのか、流石だな!」
 遠くから見守ってくれていたナバールはサムズアップしてくれていた。
 行ってくる、とだけ呟いてナバールとネメオスにそっと頷いて炎の翼を背中に生やし、近くの再生ポケモンの塊に急接近して蹴散らしてからゼルネアスに狙いをつけて飛翔した。


「馬鹿な、イベルタルを聖衣化した挙句高速戦闘を仕掛けてくるとは…⁉」
「本当にこれ聖衣だったのかよ⁉」
 槍襖同然のカウンター罠として展開していたウッドホーンを躱してすり抜け様に焼き切りつつ懐に飛び込んで顔面を蹴り飛ばすと、予想以上にあっけなく180度方向転換して逃げ出し始めた。
「攻撃通じないと分かれば即刻逃げ出すとは案外情けないヤツだな!ディアルガより貧相な下半身してる辺りにも情けなさが顕著に出てるぜ!」
 あからさまに挑発しながらディアルガよりも貧相な下半身を鼻で笑って追跡を開始する。
 いくら距離があって奴が速かろうとも速度は俺の方が上、絶対逃がすかよ…!

「どこまでもしつこい、ザシアン!あいつを殺しなさい…!」
 いつの間にかザシアンを蘇生して俺を倒すように持って来たらしい。
「青き清浄な妖精の世界のために、覚悟!」
 剣戟をとんぼ返りの感覚で躱し、肩口から悪の波導をマシンキャノンの要領でバラ撃ちして牽制。
 牽制をものともせず接近してくる切っ先を認識した瞬間、背中の尾羽が2枚ヒートジョーカーに似た片刃剣へと変化して、交差させて受け止める。
「お前さえ、イベルタル因子さえなければ世界はもって平和になるはずなのに…!」
「そんな平和の押し付けで散々殺しといて今更命乞いかよ!所詮は脳内お花畑のやりそうなおままごとだな!」
 激しく切り結びしばらく戦っていたが、やがてどちらともなく距離を取る。
「覚悟!」
「これで決める!」
 正面からの一撃、互いにフルスピードで一撃を放って決着なら…!
 剣を逆手に構えて交差させながら切り上げ、返す刀を順手に持ち替えて同じ太刀筋を逆向きに斬り下ろした。
「コバルトストライクならぬクリムゾンストライクってとこかな」
「そんな、速すぎ、る…
 クロスするような太刀筋を残して4つにカットされて崩れ落ちたのを確認して、再び追跡を再開した。

「あのザシアンが、やられた…⁉」
「ちょっとは時間稼ぎになったがそれが限界だったみたいだな!」
「…ええぃ、残ってるカプとかロス系も総出であいつを倒しなさい!」
 カプ4匹とラブトロスも追加か、今度は撃ち落とすか…
 さらに尾羽が重なったまま姿を変えてライフル状に変化、ツインハドロンライフルに引っ張られたらしいデザインだが性能は上らしい。
 追跡中でローリングする余裕はないので分割して片手ずつみ持ち替えて射線を避けながら反撃に撃ち落とし、相殺し、振り向き様に撃ち抜く。
「ルトガーとか言ったな、お前も世界に傷つけられたはずの身なのに、なぜそんな世界を守ろうとする⁉」
「傷つけられたことは数えきれないけどな、その分俺を大事にしてくれた存在にだって会えたんだよ、嫌われ者のお前と一緒にすんじゃねぇ!」
「だがそんな戦いを続けてればいつかお前は大切なものを失ってさらに傷つくことになる!それでもいいのか⁉」
「失う原因作ってる奴が偉そうに言うな!どんだけ雄弁並べても全部醜い命乞いにしか聞こえねぇんだよ!」
 もはや話すだけ無駄と分かって一方的に無価値と叩きつけ、事務処理のようにカプを全部射殺してからライフルを並列に合体、ゼルネアスとラブトロスを一直線に並ぶ射線を作ってフルパワーで射撃した。
 少し手が痛くなるほどの反動さえありながらラブトロスは存在不明レベルで消し飛ばす火力だったのに、バランスを崩して転倒して少し顔をしかめる程度で済んでるのは流石に伝説やるだけのことはあるというか…

「うわあああ、くるな、くるなぁっ…!」
「情けなく角を振り回して命乞いか、どのみち殺してやるんだからせめて痛くない方法を頼んだ方がまだ同情の余地もあったものを…」
 確実に殺す方法を考え、ゼロ距離から射撃して消し飛ばす方法を選んで着地した時、足元に違和感を覚える。
「ヒャハハハ、かかったなアホが!」
 わりと悪タイプに転職した方が似合いなレベルの下衆笑いを決めたゼルネアスはジオコントロールを発動、足元に散らしてあったやどりぎのタネを急激に成長させて檻を作り出した。
「さっき角振り回した命乞いもそのためかよ…!」
「そうだよ、さっさと大事なものをぶちまけて死にさらせ害獣!」
 完全に身動きも取れないしライフルもこの角度じゃ撃っても檻を壊せない、このままじゃ…!
「最大火力で骨のカケラも残さずここで死にさらせダボが!!」
 ムーンフォースにウッドホーンにその他諸々の攻撃が突き刺さる…




 爆煙が消えてやどりぎの破片とさっきのライフルだけが残っていた。
 憎きガオガエンの姿はどこにもない。
「…やったか⁉」

「…そのセリフ、言ってくれると信じてたぜ!」
 頭上空高くに、倒したはずのガオガエンは炎の翼を広げて私を嘲笑っていた…



「よく考えたらあんな檻は炎の翼で一発なんだよな、俺も使い慣れてないせいで余計な期待抱かせちまってたらごめんな」
 謝る気はこれっぽっちもないが、冷静さを奪うためにあえて言っておく。
「折角ならシャルフに聞いた【やったか⁉】ってフラグを言わせてみたかったのもあるし、そもそもお前が一度俺を殺した時点で今の俺にはお前の意思が入った攻撃では二度と俺を殺せないんだけどな」
「じゃあ、さっき殺されたように見せかけたのは…」
「ただの嫌がらせ、あの程度でイベルタルの翼が奪えるとでも思ったか?」
 炎の翼でゆっくりと飛翔しながら、ナバールに教えられた技の動きをゆっくりと再現していく。

「さっきお前は俺がここで死ぬとか言ってたっけな?それはお前だ!」
 両腕を突き出すと共にベルトから炎を螺旋状に放出、爆風と爆炎でゼルネアスの動きを封じて捕捉する。
 奴が永遠の命を持つというなら、殺しても蘇るというなら、方法はこれしかない…!

「紅翼天焼!」

 心に浮かんだ叫びとともに渾身の力で作り出した炎のイベルタルを飛ばし、因縁の邪神ゼルネアスを汚い悲鳴ごと焼き尽くした。



「ばぁかぁめ!」
 灰になるまで焼き尽くした死体の灰が瞬時に集まり、再びゼルネアスの形を構築していく。
「私はまだ永遠の命があることを忘r」
 その台詞は途中で喉を掻き切られたことによって止まり、やがてイベルタルに全員を切り刻まれて崩れ落ちていく。
「rえたかこのマヌk」
 再び再構成された体は一瞬にしてイベルタルに凍結させられて粉砕される。
 また復活しようとした時には、待ち構えていたイベルタルによって絞殺された。

「変だ、何度蘇ろうとしても瞬時に殺される…?」
 蘇ろうとしては殺されてを何度も繰り返していくうちに、流石の馬鹿もようやく気付いたらしい。
「そうだろうよ、なんたってお前には【何度でも殺し続ける】イベルタルの呪いをかけておいたからな」
「何度でも、殺し続ける?」

「死という状態は永遠でも死ぬことや殺すことといったイベントは一度きり、だがお前は永遠の命を持つというならそれ相応の殺し方があるはず…」
 推理を説明している間にも既に何回か死んでるが、あまり気にせず話し続ける。
「永遠の命が生き続けることなら、永遠に殺すことは無限に殺し続けるってことだよな?」
 悪タイプらしい笑みを浮かべて言ってやった傍らで、透明な閉鎖空間に閉じ込められたゼルネアスはイベルタルの作り出すコンクリート的な何かで固められて窒息死していた。
「そんな、ことが…」
「できるんだよな、お前のせいで能力の練度だけは高いからな…」
 挙句にイベルタルのような模様のタンスの角で足先を潰されて死んでいる様を見るとちょっとレパートリーが気になったが、イベルタルの羽根でくすぐられ始めたの見ると多分何言っても聴く余裕もないまま笑い死ぬだろうと推測して背を向けた。

「死という通過点は救済とも罰ともなるが死そのものは救済、けれどもあんたは自分の力が邪魔して救済を得ることはできない。これが永遠の翼スプレッド・ユア・ウイングス、永遠に俺の翼で殺され続けるといいぜ」





「再生ポケモンも消えたしあっちの世界のUBも消えたらしい、これでゼルネアスの技の効果も封殺されて今度こそ世界は救われたみたいだぜ」
 ナバールは俺の持ってる機種に似た携帯電話を閉じて、誰かからの連絡を話してくれた。
「そうか、これで全部終わったんだな…」
 実感はあんまり湧かないし死んでしまったけども、俺のやるべきことは全部できただけまだラッキーか…
「俺のわがままみたいな戦いに巻き込んでしまってすまなかったが、ここまで戦ってくれてありがとう」
「こちらこそありがとう、助けに来てくれなかったら正直やばかったから…」
 どちらからでもなく差し出していた手を握り合う。これが、俺の…
「ちゃんと雄姿は見届けたが、本当に立派な息子だよ、ルトガー」
「助けに来てくれた時とか、命懸けで助けてくれた行動、格好良かったよ、父さん…」
 あまり大きな声で言えないけど、俺の実の家族が、優しい存在で本当に良かったよ…


「ルトガー、もう一度君に会えて良かった」
「ネメオスも、色々巻き込んじまったけど、服を作ってくれて、俺のこと信じてくれてたおかげで勝てた、ありがとう…」
 イベルタルを身に纏うアイデアだって、ネメオスの作った服を着ていなかったらきっと思いつけないままだっただろうからな…
 そっとネメオスの前足と握手して戻した手が、少しずつ粒子を出すようなエフェクトがかかっている。
「そろそろ、お別れの時間みたいだね…」
「…そういや、俺特異点状態なんだったな」
 ついつい自分がまだ生きていることを忘れそうになるが、それでもこの戦いの中で色んなものを取り戻したり、失ったなりに納得のいく答えは出せた気がする。

「多分もう大丈夫だろうが、そっちの世界をよろしく頼むぜ!」
「分かった、俺なりにやってみる…!」
「雄の顔になったな、俺も何かあればサポートするから一匹じゃないって忘れるなよ!」
 そっとグータッチを交わして何かを耳打ちされた後、互いに背を向ける。
 お前はそっちに行ってやれ、という声が聞こえてネメオスが見送りに来てくれた。
「多分、この先に向かえば戻れるはずだから」
「…ありがとうな」
 頬を舐めてくれる感覚に応えてそっと顎を撫でて首の後ろに左手を添える。



「君が守った世界はきっと、今までよりもいい世界になってるよ」
「あぁ、かもな…!」
 そうであるようにと願うように、そっと左手に能力を発動した…



**TURN25 Restart [#m18cf154]

7月25日
ついにグレースに正体がバレた。
これ以上俺の呪いで傷つける訳にもいかないし、今日俺の命を終わらせることで呪いを止める。
この呪いはきっと死ななきゃ治らないし、概ね最期を楽しめたっちゃ楽しめた。
せめてそのコーヒーで静かな眠りを過ごしてくれ…

7月26日
イレギュラーが連発して生きている。
呪いは未だに止められないが、もう少しだけ手段は選ばないとグレースも悲しむらしいからな…
いつ死んでもおかしくない身だけど、どうにか生き延びてみたい気がしてきた。
(あと口でされるの滅茶苦茶気持ち良かった…)

7月27日
世界救って臨死体験して生還した。
まだ正午でもないけどとりあえずここまでメモとして書いておくか…



「…私を二回も心配させたんだから、その日記恥ずかしかったとしても消さないでよ?」
「そもそも勝手に日記読むなよな…」
 7月27日9時30分現在、バース社長別荘のゲストルームのベッド上、グレースに泣き付かれながら1時間経過したものの生還を確認…

「本当にお父さんの治療が間に合わなかったら死んじゃってたんだって、昨日はあんなに死なないって言ってたのにどうしてこんな危ない真似…」
「危ない真似してやっとだったからな、それはそれとして俺ももう会えないと思ってた…」
「そんなこと言ってくるなんて卑怯だよ、私だってルトくんが目を覚ますまで本当に怖くて心配だったんだから…」
 バックハグの状態でこのやりとりを続けていたが、色々思うところもあって向かい合う体勢に戻る。
「心配してくれてありがとう、俺も会いたかった、ただいまグレース…」
「んもぅ、そんなこと言ったって、おかえりルトくん…」
 こうして無事に抱きしめ合えるなんて、一昨日の俺はもちろん、多分目覚める前の俺に言っても信じられない気がする…

「実は誰もここに来ないようにしてもらってるんだ、もしルトくんの具合悪くないなら、その、ロマンティクスしてくれない…?」
「ロマンティクスって本当何なんだ?意味は察するけど流行ってんのか?」
「…なんか綺麗な表現だから、かな?」
 確かにあからさまに交尾と言うよりは気が楽だろうけど、あんまりみんな言い過ぎたらかえって露骨になりかねない気もするけどな…
 そんな違和感を覚えていると、グレースは俺の手をそっと掴んで下半身に触らせてきた。
「ちょっと、濡れてる…?」
「うん、一昨日から生殺しにされちゃってるから…」
「あー、そういや一昨日は俺ばっかりだっけな…」
「それはいいんだけど、こんなにいっぱい我慢して濡れちゃってるから、ルトくんにグルーミング、してほしいな…」
 囁くようにねだる声に心の中でスイッチの入るような感覚がして、鰭を優しく揉みながら頬に軽くキスをした後で唇を重ねる。
 たっぷり焦らされたっていうなら、口でしてもらったお礼も兼ねて丁寧に楽しませるのが俺なりのお礼ってとこだ。
 拒まないまでも少し受け気味な様子を見てグレースの口に舌を優しく入れ込んでグレースの舌先に触れて口裏を撫でる。
 グレースの鰭から少し力が抜けるまで鰭と口の中を優しくも敏感なところを逃がさず撫で上げ、息苦しくなるまで続けた結果お互い慌てて深呼吸していた。
「なんか、ルトくんも私も結構エッチだよね…」
「お互い様っていうなら、否定はしないな…」
 互いの息切れを笑い合った後、力が抜けてもいいようにベッドの上でお姫様抱っこの体勢にグレースを変えてから、優しく全身を丁寧にグルーミングするように撫でていく。
 グレースは喜んでくれているから構わないが、何気に俺もグレースの反応や声が可愛くて敏感な場所を重点的に狙っている。
 首筋にそっと息を吹きかけたり、胸元を膨らみに気付かないかのように全体を撫でるようにしながら少しずつ近づけて、小さな突起を優しく吸った時には結構可愛い声が出た…
「ルトくぅん、そろそろ、こっちも、おねがぁい…」
「はいはい、ちょっと待っててくださいな」
 少し蕩けた声でねだられて、青い下半身でしっとりと濡れる場所を見ると色々本能が搔き立てられるが今はグレースを最優先だからな…
 敢えてメインの場所を焦らすように周りを丁寧に撫でているが、もしグレースからねだられなかったらこのままか…?
「ここ、なめてよ、おねがい…」
 そんな俺の脳内会議を他所にグレースの方からリクエストが来たのでそろそろお答えするか…!
 濡れる割れ目をそっと肉球で円を描くように撫でながら口の中で下を唾液に濡らしておく。
 ざらついた舌でいきなり舐められたら痛いだろうし、ここはなるべく丁寧に…
「ルトくん……」
「焦らしプレイ楽しんでもらったところで残念なお知らせだ、準備が整った」
 悪タイプらしく笑ってみせて、濡れる割れ目に舌を添わせて撫でるように優しく舐めていく。
「んっ、ゃぁ…っ……!」
 鰭で止めに来ようとはしてるが止めるのは嫌というジレンマを感じるらしく、グレースの鰭は最終的にシーツを掴むことにしたらしい。
「痛かったら言ってくれればいいし、俺のことは気にせず楽しめよ」
 言い忘れた一言を伝えて割れ目全体を舐めながら、グレースが特に気持ちよさそうな声を出した場所を探していく。
 普通なら上の方にある出っ張りが好きな雌が多いらしいけど、グレースもその例に当てはまるらしい。
 焦らすように、舌が痛くないように丁寧に優しく舐めあげていくと、グレースの息が荒くなり、体が小刻みに震え始める。
「ルトくん、私、もう…!」
 眼前にサムズアップして見せ、舌先で出っ張りを転がした後にそっと吸い上げた。
「っ、ゃぁぁぁぁんっ…!」
 声を殺そうとしても隠し切れない快感を伝える嬌声と共に、俺の口に甘い潮のしぶきが入ってきた。


「お疲れさん、焦らしちまった分は満足できたか?」
「うん、ちょっと恥ずかしいとこ見せちゃったけど、肉食なルトくんに優しく食べられちゃうの、良かったよ…」
「なんか照れるからわざわざ言うなよな…」
 お互い赤面すう羽目にはなったが、これも一興だと今なら思える…

 しばらく横になって休んでいたが、急にグレースは起き上がって何か気づいたように呟いた。
「これで私は満足できたけど、ルトくんは物足りなさそうだね?」
「ん、そういや気づかないうちに物足りなさ主張してたな…」
 グレースに指摘されてから咄嗟に背を向けてはみたが、既に仰向けだった時に臨戦態勢になっていた肉棒はしっかり見られていると見て間違いない。
「不用心なことしちまってごめん、しばらく反応しなかった弊害だな…」
「そんなの気にしないよ。それに、私だって折角なら初めて貰ってほしいから…」

 衝撃の一言に一瞬思考がフリーズしたらしい。
「そういうのはもうちょっと冷静に考えて、って目が予想以上に真剣過ぎるな⁉」
「だって私ルトくん以外の雄しかいないとしたらもう結婚しないで処女のままでいるって決めてたから…」
「スタンドバトルなら勝てそうな程の覚悟、しかと受け取ったぜ…」
 勢いに押されて快諾したし、そういうことはグレースとならしてみたかったけど、攻めの流れが雲散霧消しそうな程に流れがグレースの方に行ってる。
 だが俺だってグレースの想いに応える覚悟を見せなきゃな…!

「喜んで頂いちまいたいけど、避妊とかどうする?」
 生憎この部屋にはそんな気の利いたものないし、今から買いに行ったり買いに行かせるのも気が引ける。
 流石に俺の能力でもコンビニへお使い頼めるほど万能じゃないからな…
「お父さんもルトくんとの子なら快諾してくれると思うよ?種族的な絶滅回避のためにもルトくんはいっぱい子作りした方がいいだろうし」
 しれっと世界に交尾推奨されてる現実を突きつけられて内心焦る俺を横目に、グレースは何かを思い出したように鰭を叩いた。
「ねぇルトくん、ちょっとおちんちん触らせて?」
「…随分いきなりだな、乱暴なことするなよ」
 念押しで言ってみたけど、自然にあぐらをかくことができる程度にグレースを信頼してる俺がいるのが我ながら少し微笑ましかった。
「これ、アシレーヌ系統の雌に伝わる秘技2種のうちの一つだからよく見ててね…」
 どこか純真にみえて俺の股に顔を近づけるとかいう大胆なギャップを見せつつ、グレースはバルーンを作り出して俺の肉棒に纏わせ、少しずつ空気を抜いて密着させた。
「どう?好きな雄と交尾を楽しみたい時に使う裏技、これ頑丈だけど温もりとかはそのままらしいし、雌側の意思でしか割れないから安全性もバッチリだよ」
「…それなら、安心だな」
「ちなみにもう一つは好きな男の子に口でしてあげた後、ごっくんしてあげてから【喉を君のために捧げるから、私のこと一生守ってね】って上目遣いで言うって技。あの時はルトくんの心が弱ってたから使わなかったけど…」
「心配しなくても俺が絶対守ってみせる、だから…!」
「ありがとう、でもルトくんの本音は口でして欲しいって感じかな?」
「……どっちもだ」
 思わずムキになって守護宣言しちまったが、それでも悪い気はしなかった。
 愛情深いって考えたら、それはそれで俺には嬉しすぎるからな…


「口ではまた今度してあげるから、そろそろ来て欲しいな…?」
 その一言と共に仰向けに寝転がってスタンバイしているグレースにアイコンタクトを交わす。
「言質は取ったし痛くはしないが遠慮もしないからな?」
「いいよ、ほら…」
 グレース自ら濡れる割れ目を開いてスタンバイしている。肉棒の先端でそっと触れると水タイプながら温かくしっとりとしていて、グレースの言う通り俺を待っていたと言われてもギリギリ信じられそうな気さえする。
 挿れるだけでもヤバそうな気もしたが、俺に快感的な焦らしはないから大丈夫と言い聞かせてゆっくりと進んでいく。
「なんか、慣れないけど、結構いい感じだよ…!」
「俺も、慣れないけど、グレースを直に感じられて嬉しい…!」
 お互い少しずつ快感で思考は溶け始めているらしいが一番深いところにたどり着いた。
「すごい、ルトくんと体でも繋がれたね…」
「先に心か、こんな時に言うのも変だけど、俺もグレースと会えて本当に良かったよ…」
「ルトくん私にデレてくれるの始めてじゃないかな⁉嬉しいから抱き付いちゃう…!」
「そんなこと、ないけどな…!」
 グレースが俺の腰に鰭を回して横になりながらゼロ距離まで近づき、さらに密着する感覚が肉棒から快感として全身を突き抜けた。
「えへへ、この距離ならキスもできちゃうね…!」
「結構欲張りさんだな?いいぜ」
 チョロいというより快感に繋がる欲望に正直とでも言うか、求め続けた互いをしっかりと離れないように結び留めようとしているのか、唇を重ねると共に舌を絡め合わせ、上でも下でも口はしっかりと繋がった。
 動きづらさはあるが、舌で舐め合う感覚と触れ合う温もりに、潤って温かく包まれる快感は確実に俺とグレースを絶頂へと進めている。

「ルトくん、私、そろそろかも…」
「分かった、先でいいからなんかリクエストとかあれば…」
「…じゃあ、ルトくんと一緒にいきたいし、ルトくんとのタマゴも欲しい」
「タマゴしかりタイミングしかり流石にキツいかも、あんま動けてないからな…」
 気持ちは嬉しいので申し訳なく伝えると、少し首を傾げて見せた後、肉棒の周りの熱が一気に密着した感覚に変わる。
「バルーン割っちゃった、もう遮るものもないし今から動けばちょうどいいはずだから…」
 グレースの言葉で、今俺たちを遮るものはなくなって、願望も叶いそうになってることに気づいた。
「本気なんだな」
「うん、だから、一緒にいこう…?」
 ギリギリまで抑えていた本能をその一言の前に解放、快楽を求めるために腰を動かし、愛情を求めるためにグレースと唇を重ねる。
「ルトくん、すごいょぉっ……!」
 グレースも快感に嬌声を隠すことなく俺の名前を呼んでいる。
 その声はさらなる興奮を搔き立てて激しさを増していくのが俺にも分かった…

「ルトくん、本当に私、もう…!」
「良かった、俺も、そろそろ…!」
 完全に蕩けた瞳で頷き合い、肉棒を一気に奥まで進めて鰭が俺の体を抱きしめて密着させる。
 とどめの快感と欲望を解き放つまでの数瞬のタイムラグを前に俺もグレースをしっかりと抱きしめた。
「お願い、私の中に来て…!」
「グレース、行くからな…!」

 欲望と愛情の入り混じった白濁は遮られることなく、俺を離さないとばかりに締め付ける器の中に快楽の中で全てを解き放った……




「ありがとルトくん、やっと一つになれたね…」
「俺こそありがとなグレース、長いこと待たせちまったけど念願叶ったな」
 ゆっくりと抜いて白くなった肉棒をグレースがそっと舐めて綺麗にしてくれる感覚に少しだけ切なさを感じる中で、ここ数日の流れに少しだけ笑えてきた。
「どうしたの?何か面白いことあった?」
「いや、死を前にした後に死と正反対の位置にあること経験するってのがまるで、グレースが俺をこの世界に引きとどめてくれたみたいでさ…」
「…ルトくんが生きられる理由になったなら嬉しいけど、そう簡単に死んじゃったら怒るからね?」
 怒るからねと言いながらもグレースの顔は心の底から嬉しそうだった。
「…もう少しだけ、抱き合ったままでいてくれないか?」
「いいよ、このまま少し休もうよ…」
 ゼロ距離で抱き合ったまま、頬に触れる唇の感覚を認識すると共に快感の後の睡魔に意識を手放した…




 グレースはまだ眠る昼下がりに、俺の携帯に知らないアプリから通知が来た。
「やぁ、アプリの構築に手間取ったけどどうにか完成したよ」
「ネメオス、こっちの世界にいないと思ったら携帯の中に…!」
「多分、僕の体がもうこの世にないからかな。でもこの体はインターネットも自由に検索できるし、携帯をコンピューターミシンに繋げば服作れそうだから、案外不自由ないかも」
 こっちの世界に戻る時に父さんの教えてくれたこと、それは【ネメオスの魂をこっちの世界に連れて行けるかもしれない】ということだった。
 ダメもとでやってみたが、その結果5部ナレフ状態で復活するとはな…
「そんな訳で君の生活を携帯電話からアシストできるようになったし、護身用の放電モードのアップグレードとカメラにX線カメラモードを追加に電子戦方面の機能は全部強化してあるから、これからもよろしくね」
「よろしくな…」
 こんなアップグレードが入って一体俺は何と戦えと言われてるのかは知らないが、こうしてネメオスと会話できるようになっただけでも良かった。
「それと、オトナたちが諸々の件で君と話したいらしくて1階で待ってるみたいだよ」
「なるほどな、俺も言いたいことも聞きたいことも山ほどあるし、この際きっちり時間取った方がいいやつだな…」
「君の言う通り、しっかり話し合った方がお互いのためになりそうだね」
 了解とだけ呟いて携帯を閉じてから部屋を出ようとしたが、まだ寝ているグレースのことを思い出して、テーブルに置いてあったメモに軽く【オトナと話し合う、1階にいます】とだけ書いて枕元に置いてから部屋を出た…


 その後の話し合いというか実質的な俺に対する謝罪会見は、一方的に謝られる俺がちょっと居心地の悪さに気まずくなるぐらいだった。
 「助けられなくてごめん」的なことを全員に謝られても俺の方としては、今までが普通だっただけだからと言ってもなかなか信じて貰えなくて、それだけ大事に思ってくれてたのが嬉しいと返したら逆にしんみりしてしまって、何か間違えたのかもしれないが何を間違えたのかさえも分からない…

 こんな謝罪会見というよりお通夜ムードがしばらく続いたけど、一応意味のあることもいくつかあって、
・俺の過去に関する諸々を話したけど、全部証拠不十分&とりあえずUBとかゼルネアスのせいで処理しておくことになった
・コバルトから「うちの娘をよろしく」メッセージを貰って実質親公認になる(ついさっき交尾したことは話してないけど、大丈夫だよな…?)
・シャイナさんもといマリンさんから「お父さんになった時子供に父親の欄書いてあげて欲しいから」ということで戸籍を登録された…
「両親欄もちゃんと記入されてるし、俺にクリムゾンなんて苗字あったのか…」
「普段使わないけどね、そしてこれで世界から絶滅回避した種族が一つってことかな…!」
 多少荷が重いとは思いつつも、きちんと本名で登録されてるのが少し嬉しかった。
「ありがとう、母、さん…」
「ルトガー…!」
「ちょ、露骨に抱き着くなってマリンさん…!」
 純粋な慣れの問題でまだ上手く呼べないけど、いつかちゃんと家族を家族らしく呼べる日が、俺にも来るといいな…


「さてと、しんみりタイムはこの辺にして今夜は楽しく行こうか!」
 そんなバースの一言でお開きになったけど、まさか本当に楽しく行くつもりとは思ってなかった。
 大破したと思ってたらなんだかんだ直りそうな紅蓮可焼式の修理をプライベートガレージで手伝っていると携帯電話の着信で庭園に呼び出されて、急いで向かうとグレースとシャルフにさっきのオトナ組が俺を待って座っていた。
「それでは、これからルトガー君の誕生日パーティーを始めようか…!」
「俺の、誕生日パーティー…?」
「そうそう、偶然にも当たり日引けたし今までちゃんとしたお祝いもできなかったから…」
 そういえば今日は7月27日だったっけ、色々戦い続きで完全に失念していたし誕生日パーティーなんてフィクションの話だと思っていた。
 それがこうして、大量のカツサンドと辛い麺類が数種類大皿で並ぶ一つ覚えみたいなテーブルを見ると色々納得も行くけど…
「個人的な趣味で誕生日を祝うのが大好きでね、今までの分も含めてちょっと本気出してみたよ」
 そんな一言と共にプレーンクッキーを散りばめた3段のホールケーキがお出しされた…
「すごいなこれ…」
「うん、ウェディングケーキみたい…」
 なんか約一匹違う方向の期待に胸を膨らませているが、みんなから渡されてたロウソクを1本ずつ突き立てていく。
「プレゼントは改めて用意するけど、まずは一発パフォーマンス決めて貰おうかな…!」
 みんなが煽るように拍手する中で何をすればいいかは分からないが、うろ覚えの知識でやることは大体想像できる。
 息を大きく吸い込み、ケーキの最上段に刺した20本のロウソク目がけて一気に吐き出す…!

「やった、一発で全部点火だ…!」
「「「「「「「……」」」」」」」
「…あれ、なんか間違えたか?」
「…ううん、炎タイプなら火は消すより点けるものだよね!」
 苦し紛れとしか思えないグレースのフォローは案外リカバリーになったらしく、少し遅れてみんなも拍手してくれている。
「本当に全て上手くいって良かったよ、改めて誕生日おめでとう」
「一時はどうなることかと思ったけど、こうしてルトくんのお祝いできて良かった…」
「「「ハッピーバースデー、ルトガー…!」」」

 色んなものを奪われ続けて傷だらけの20年だったけど、これからはもう奪われることもない、むしろ20年分を取り返さなきゃな…!
「みんな、ありがとうな……!」
 今はこの瞬間を楽しむことだけ考えることにして、一息で点けたロウソクの火を一息で吹き消した。




 開けたこと自体が奇跡みたいな初めての誕生日パーティーから数日、ゼルネアスの完全封印で直近の世界の危機は去り、222年の7月はほとんどのポケモンにとってはいつも通りに終わり、明日から始まる8月を迎えようとしていた。


 完全に修理も終わった紅蓮可焼式の走行テストも兼ねたツーリング、27日には会えなかったけどアウラムとはこうして時間を取って会うこともできた。
 彼のことはアンブレオン財団が責任を取って育ててくれることになったし、もしあのリングマみたいなのが来たところで今のアウラムなら心で負けることはないと信じてる。
 そうなる前に俺が駆け付けて助けに行くつもりではあるけどな…

「きょうはたのしかったよ…!」
「そっか、そう言ってくれて良かったよ」
 財団前に紅蓮を停めてちょっとしたツーリングは完了、アウラムとはこれでしばらくお別れだ。

「あのね、ルトにいちゃん」
「どうかした?」
「…ぼくも、ルトにいちゃんみたいなヒーローになりたいんだけど、どうしたらなれるかな?」
「俺が、ヒーロー…」
 正直予想外の認定に少々面食らったけど、ずっと怯えていたアウラムに夢が見つかったのならなによりだ…
「そうだな、まずはアウラムの優しさをずっと持ち続けるんだ。それが絶対に必要なことで、あとは今からしっかりお勉強して体を鍛えておくこと、かな?」
「そうなの…?」
「今できることを頑張るってのも、結構大事なんだぜ?俺もそんな形でずっとがむしゃらにやってたし、アウラムの優しさがあれば基本は大丈夫だよ」
「…分かった、ぼく、がんばる…!」
「よし、待ってるからな!」
 そっと前足と握手してから手を振り、ヘルメットのバイザーを下げて発進した。



「ルトガー、あと5分で港での待ち合わせ時間だ」
「了解、ちょっと突っ切るか!」
 紅蓮を一気にフライトモードに移行させて港まで直線距離で飛行、どうにか待ち合わせ1分前に到着した。
「おっ、来た来た」
「待ってたよ…!」
 港で待っててくれていたシャルフとグレースに軽く手を振ってヘルメットを脱ぐ。

「そういえば、二匹はこれからどうするんだ?」
「私はお父さんに怒られたから一旦実家かな、バースさんのはからいで養成学校行けることにもなったけど、まずは帰って来なさいって」
「なるほど、僕はちょっとジョウトへの聖地巡礼に、月下団のことを小説化するのもひそかな憧れだったし、まずはエンジュへ聖地巡礼とね…」
「みんなバラバラか、俺は静養も兼ねてシンオウの温泉地へ行くんだが、何でも両親の住んでた家がシンオウにあるらしくてな…」
「そっか、バラバラになっちゃうけど、君には家族との時間も大事だからね…」
 折角心は繋がれたのにまた離れるのは少し名残惜しいが、グレースは案外平気そうだった。
「実は養成学校、シンオウにあるらしいからすぐ会えるよ…!」
「なるほど、それなら近いな」
「…なんか僕も今から行き先シンオウにしようかな?」

 そんな何気ない話をしていると乗船時間が近づいてきた。
「そうだ、みんなで写真撮っとこうよ!」
「それいいね、ほらルトガーもカメラ係じゃなくてスリーショットで!」
「分かった分かった、自撮り慣れてないけどやってみるか…!」
 誘われるままに俺を中央にしたスリーショット写真のシャッターを切る。

「今から送るけど、これでどうだ?」
「うんうん、いい感じだね」
「みんな笑顔になれてるのが、やっぱりいいよね…!」
 笑顔か、いつの間にか、奪われたものを早速一つ取り戻せてたんだな…


「それじゃ元気でね、名優の息子と未来の歌姫!」
「また今度ね、良かったらこっちに遊びに来て!」
 友達の後ろ姿は搭乗口に遠ざかっていき、後発のシンオウ行きを待つ俺はロビーで一匹搭乗開始を待っていた。



「なぁルトガー、一つ聞いてもいいか?」
「質問によるな」
 携帯を開くとどこかで聞いたような質問をネメオスからされて、どこかで聞いたような返答をしておく。

「君の夢って、何かな?」
 その質問を聞いて少し微笑んでからボストンバッグを持って搭乗口へと歩き出した。
「みんなの夢を守る、とりあえずそれが今の俺の夢かな!」




  Vortice Rovente Fine.

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