文章:[[朱烏]] 挿絵:[[ウロ]] この作品は[[VS.電気蜘蛛!!]]の番外編です。本編を読まないと理解が進まない部分もあるので、読まれていない方はまず本編をご覧ください。 &color(Red){警告! この物語には、&color(red,red){拘束・産卵シーン};が含まれています。穢れを知らない方は精神が害される恐れがありますのでご注意ください。また、このページの文章及び挿絵があなたにいかなる損害を与えても当方一切関知致しませんのでご了承願います。}; ---- 「あー暑い……。クーラーつけてよお」 猛暑日。気温が三十五度を超えるという灼熱地獄のことを指す。かつては酷暑日と言われていたらしいけど、そっちのほうがしっくりくると思うのは僕だけじゃないはずだ。湿度も七〇パーセント超、反則以外の何ものでもない。 僕のような炎タイプのポケモンでさえ&ruby(う){茹};だるような暑さなのだから、バチュルたちにとってはさぞ辛かろう。 「あああああぁぁぁぁ……」 事実、たった今暑さのせいで体力が底をつきたバチュルが弱々しい悲鳴を上げながら天井から剥がれ落ち、受け身もままならないまま僕の目の前に墜落した。 「ぐえっ」 カーペットが敷いてあったのは不幸中の幸いだろう。 「バチュルー、大丈夫?」 「……」 うん、大丈夫じゃないみたい。暑さで目を回しているバチュルを背にして、六本の尻尾を扇のように動かし風を送る。これで少しは涼んでくれたらいいんだけど。 「ああ、極楽……オレこのまま死ねる」 バチュルがそのまま天国への直行便に乗ってしまいそうな声を出したので、慌てて尻尾を動かすスピードを速めた。暑さで頭が体より先にやられてしまったらしい。 僕のような恒温動物ならともかく、変温動物で気温の影響を受けやすい虫ポケモンにとって先週から続く真夏日は堪えるものがある。異常気象が叫ばれて久しいけど、ここまで蒸し暑い天気はなかなか経験できない。昨日降り注いだ雨を恨む。 そもそもなぜアサトママはクーラーの電源を切るという暴挙に出たのだろうか。電気代の節約とか言いながら自分は涼しい喫茶店でお茶会を堪能する。ずるい。ずるすぎる。せめてリモコンがあればいいのだけれど、なぜか見つからず。隠されたのかもしれない。 アサトの部屋の直射日光を避けにリビングに来たのはいいものの、これじゃあ何の意味もない。何もすることのない蒸し暑い平日の留守番というのは、釜茹で風呂に長時間浸かるかの如く苦痛だ。 「あー気持ちいー……」 いつのまにか僕の尻尾の周りにはバチュルたちがわらわらと集まってきていた。みんな重なり合って黄色い山を作る。……僕は扇風機じゃないんだが。 「やれやれ……」 このままじゃ埒が明かない。もっと涼める場所を探さなければ。アサトは学校に行っているから頼れないし、僕たち自身で停滞した状況を切り開いていかなければいけない。 湿気の籠りやすい家よりは、外のほうが幾分かは過ごしやすいだろう。できれば涼しげな日陰もほしいところだ。となれば行くあては一つしかないわけで。 「よし」 僕がすくっと立ち上がると、同時に後ろから喚き声が上がる。 「あおぐのやめないでえええ」 「ぎゃあぎゃあ五月蠅い。リーダー、森行くよ。みんなに準備させて」 黄色い山の一番天辺を陣取っている紫眼のバチュルは、涼風をベストポジションで受けていただけにやたらと&ruby(うなだ){項垂};れていた。 「……宝探しはとっくの昔に終わったじゃん」 「違う違う、ここじゃ暑いから涼みに行くの。つまりなんというか……避暑地っていうのかな? お金持ちの人が山とか海の別荘に泊まるあれのこと」 「例えが意味わからないしめんどくさいしただでさえ死にそうなのにとりあえず全力で拒否する」 「燃やすよ?」 「わかったわかった。行けばいいんでしょ行けば。みんなー、アサトの部屋から出発するから窓の開錠よろしくー。それからアスファルトはかなり熱いから歩くときは爪を焦がさないようにー」 物わかりがいいリーダーだ。黄色のもふもふした山は一気に崩れて、ぞろぞろとアサトの部屋に向かい始めた。なんだかんだ言いながら、やっぱりリーダーはリーダーなんだな。僕だったらこんな大群うまくまとめられる気がしない。 何はともあれこれでじめじめした暑さから逃れることが出来るわけだ。しかし、前回に引き続いて鍵を開けたまま出かけるというのは何だか気が引ける。 「アトラス早くー」 まあしょうがないよね、不可抗力だ。そもそもクーラーが使えていれば万事解決していたわけだしね。責められるべきは僕じゃないはずなんだ。 ☆ 「確かに外のほうが湿気も少ないし涼しいかもしれないけれど……」 リーダーはぼそッと呟いたのを皮切りに、 「アスファルト熱うううう!!」 「爪が!! 爪がああああ!!」 案の定バチュルたちが喚き始めた。五月蠅いことこの上ない。 道路に降り立ったまではよかったが、灼熱の太陽が焼いたアスファルトは気温が示す以上に酷い環境だった。僕は炎タイプだからよかったものの、バチュルたちはまともに歩くことすらできない。公園横の森へと続く道は、家の前を一直線に横切るこの道路を右方向にまっすぐ歩き続けるしかないのだけれど……。 「……我慢できない?」 「無理!」 「無理!!」 「無理!!!」 慌てて軒先の日陰に避難したバチュルたちは一斉に「無理!」の大合唱をする。 「行きたいのはやまやまなんだけどさあ、無理なものは無理だよ……」 紫色の瞳をてらてらと光らせるリーダーは常に集団の意見を代弁する。無理なものは無理。そのみんなの意見の下、僕一匹だけの意見は否定される。 少しだけ悲しかった。バチュルたちに同調されなかったことではない。 避暑に行くなんてただの大義名分、本当の目的は別にあった。あの事件からだいぶ経つが、未だに真剣に考えてしまうことがある。僕がバチュルたちと真に仲良くする資格はあるのか。僕は完全に受け入れられているのか。不意に淋しさがこみあげてくるとき、心の隙間に自分を疑う気持ちが生まれる。バチュルたちの背中が妙に遠くに感じるとき、過ちを犯したかつての自分が姿を現すのではないかと怖くなる。 バチュルたちとしっかり向き合う時間がもっと欲しい。近くに感じられるきっかけがもっと欲しい。……今までのもやもやした心をすっぱりと捨て去る。思い出がいっぱい詰まったあの森でなら、それが出来そうな気がした。……目頭が熱くなってくる。 「あ、俺いいこと思いついた」 「え?」 リーダーが一瞬見せた不敵な笑みを、僕は見逃してしまった。 ☆ 「最初からこれでよかったじゃん!」 「アトラスもっと体温下げてよ、暑い」 「いやもふもふだからそれで許す」 ……どうしてこうなった。なぜ僕がこんな目に? 「お、押すなって! 落ちる!」 「しょうがないでしょ、二十二匹もいるんだから」 「誰か降りろ! 犠牲になれ!」 「だあああーーーーーーー!! 五月蠅い黙れ!! 僕の上で騒ぐな!! 次騒いだら全員振り落としてステーキにするぞ!!」 僕の体重は10kg弱。対してバチュル一匹の重さは0.6kgと言われていて、総勢二十二匹分を掛け合わせると約13kg.。定員オーバーというか、僕の体重を超えている。 そりゃあ、森へ向かうにはこの道しか通れないし、高温のアスファルトはきついと思うよ。でもさ、僕の上に乗って移動するなんて、いくらなんでもあんまりだ。 「お、重すぎ……これじゃまるで奴隷だよ……」 「違うよ。俺たちは友達でしょ? 困ったときにはお互い様でしょ?」 もっともらしいこと言っているのが余計に腹立たしい。絶対に目が笑っていない。 「足つりそう……一旦降りて……お願いします後生だか――」 「断る!」 「断る!!」 「断る!!!」 辺り一面を焦土にしたい衝動に駆られる。僕がマグマラシやバクフーンだったら、間違いなく体中から炎を噴きだしているところだ。バクーダだったら背中から噴火している。 「アトラス、スピードが遅くなってるよ!」 「しっかり足をあげて!」 「はいどう! はいどう!((乗馬するときの掛け声))」 こいつら……本当に僕を怒らせたいらしいね。こうなったらやけくそだ! 有らん限りの力を振り絞って、四肢の筋肉を懸命に動かす。全力疾走という名の嫌がらせを敢行した。 「ぎゃああああごめんアトラス悪乗りしすぎましたあああごめんなさいいいい!!」 構うものか! 「速い速いいいああああ!! 落ちるうううう!!」 ひとの好意を清々しいくらいに踏みにじって! どういう神経してるんだよ! ……でもまあ、これが結構心地よかったりするんだよね。互いにちょっぴりずつ不満を持ちながら、うまく支えあっていく。大げさだけれど、相違ないはずだ。 「申し訳ありませんでしたああああアトラス様ああああ!!」 それでも僕は全力疾走をやめない。定期的に懲らしめることは必要だ。そうでもしないと僕の立場がなくなってしまう。 ☆ 蝉の鳴き声の乱反射がいつまでも耳を貫き続ける。木々の隙間から零れる緑の光はそれとは対照的に柔らかで、来てよかったと心から思えた。 僕は倒れているけれど。 足が全く動かない。限界突破なんてそう簡単にできるものでもないし、するものでもない。ましてや野生ポケモンが敵から逃げるわけでもなく、単にバチュルたちを乗せて運ぶだけのはずだったのに。 バチュルたちがからかってくるから悪いんだ。僕の性格を知っておきながら意地悪いやつらだ。 「風が気持ちいいねー」 「……うん」 いつも通りの元気な切り返しが出来ない。横になっているために、そよ風が懐に入り込んで熱を奪い去ってゆく。少しだけ熱っぽかった頭も、徐々に冷えてきた。 意固地になって熱くなるのは僕の悪い癖だな。 「木登りしようぜ! 誰が一番早くてっぺんまでたどり着けるか競争だー!」 「えー、ボクあんなに高く登れないよう」 「じゃあ登れるやつだけ位置について! ほかのみんなは応援していてくれ!」 リーダーではないバチュルが場を仕切りはじめ、見上げるほど高い一本の木の周りに集団が出来あがる。どうやら木登り競争をするらしく、選手組と応援組に分かれて盛り上がり始めた。 しかしリーダーはその輪に加わるつもりはないらしく、僕のそばで佇むばかり。ときどき欠伸をしながら、柔らかな土におなかを押し付けていた。 「リーダーは行かないの?」 「……いや、俺はいいや」 「なんで?」 「リーダーはみんなをまとめるのが役目だから……。俺不器用だからさ、集団に入っちゃうとうまくまとめられないんだよね。だからちょっと距離を置いてるほうがちょうどいいんだ」 「ふうん……リーダー務めるのも大変なんだね」 いつもは明るく振る舞っているリーダーも、それなりに気苦労はあるみたいだ。紫色の瞳には一匹一匹に対する気遣いと優しさが込められていて、その先でバチュルたちは安心して生活できる。しっかりとした絆があるんだと僕は思う。 「なんかいいなあ……きっとリーダーがいるからみんなあんなふうに楽しそうなんだね」 「それと、アトラスもね」 「え?」 「なんだかんだでみんなアトラスには感謝してるからね……。口悪いし、ひねくれてるやつもいるけど、面と向かって気持ちを伝えるのが下手なだけなんだよ」 なんだか体内の熱がぶり返してきたみたいだ。 「そ、そうなんだ……」 面と向かって気持ちを伝える。下手なのはバチュルたちだけじゃないのかもしれない。いつかのように勢いに任せるのではなく、取り立てて特別でもない、日常の一片としての気持ちの伝え合い。頭では分かっているつもりでも行動に起こすのは難しい。 「でも僕、何か感謝されることしたかな……?」 「……僕たちいろんな家と転々と棲家にしてきたけど、すぐに追い出されちゃうんだよね」 「人間の言葉で言えば不法侵入だからね……」 唐突に何の話をしだすのだろう。 「そりゃあ当時は電気泥棒だって罵られて辛かったけど、そうしないと体がもたないから仕方なかったんだ」 いかにも淋しそうな顔をするリーダー。体が持たないのは本当だろうけど、仕方がなかったというのは十中八九嘘だろう。バチュルたちのことだ、嬉々として不法侵入を繰り返したに決まっている。コンセント&ruby(うめ){美味};え、とかなんとか言いながら。 「で、そんなあてもない旅を続けているうちに出会ったのがアトラスだった」 いきなりリーダーが真面目ぶった口調になった。まるでドキュメンタリー番組のナレーションを聞いているようだ。 「覚えてる? あの時のこと」 「あの時のこと?」 「アトラスの家に侵入したはいいんだけれど、三日ともたずにアサトとか親たちに見つかっちゃってさ、結局追い出されそうになったんだ」 へえ、そんなことがあったんだ。 「でも突然アトラスが現れてね、『バチュルたちを追い出さないで!』って言ったんだ」 え? 「泣きながら何度も何度も『ここに居させてあげて!』って。俺たちとは初対面のはずなのに、そうしてそこまで親身になってくれるの全然わからなかったけれども、嬉しかったよ。家の人たちも結局折れて許してくれたし……恩人だよ、アトラスは」 「僕そんなことしたっけ……全然覚えてないや」 いつの間にか忘れてしまったんだ。バチュルたちにとっては大切な思い出に違いないけど、僕にとってはそうでなかったってこと? 凹んじゃうなあ……やっぱり僕にはバチュルな地と仲良くする資格なんか―― 「あるよ」 「……え!?」 何も言ってないのに。僕の心が見透かされてる? 「アトラスは……俺たちのこと好き?」 「な、何、突然」 「好き?」 何かおかしい。得体のしれない雰囲気を漂わせながらリーダーが詰め寄ってくる。まるで尋問されているかのような恐怖を感じる。 「す、好きだよ」 「本当に?」 「本当だよ」 「そう……」 怖い。後ずさりしたい。でもできない。足が痛くて、立つことすらままならない。でもとにかく逃げたかった。 「その言葉、二言はないね?」 恨めしいぐらいに晴れていた空が、どんよりとした曇り空に変わっていた。辺りは薄暗くなって、蝉の合唱は潰えた。鴉が木に構えた巣から、羽音をたてながら飛び立った。 まるでファンタジーの世界に飛び込んだかのような錯覚。木のぼりで遊んでいたはずのバチュルたちの青い目が、そこかしこで光る。 「準備して」 「じゅ、準備? 何の?」 「決まってるでしょ。ここには俺たちとアトラス以外、誰もいないんだよ?」 僕はいつも、リーダーだけが持つ紫色の瞳を綺麗だと思って見ていた。&ruby(アメジスト){紫水晶};のような瞳が高級な宝石に見える、そう話したこともあった。 でも今は、魂を吸い取ってしまうかのような妖気を湛えるそれに、空恐ろしい気持ちしか湧かなかった。それ以上に、言葉の意味が分からない。僕とバチュルたち以外に誰もいない。それが何か特別なものを意味するとは思えないのに、嫌な予感しかしないのはなぜだろう。 「みんないいよー」 例えるなら、僕は今まさに狩られようとしている獲物で、バチュルたちは捕食者。地上から、はたまた木の枝の上から。バチュルたちは四方八方から僕を取り囲む。 倒れたまま動けない理由が足の疲労のせいなのか、それとも不安や恐怖のせいなのか、いよいよわからなくなってきた。 「好きなんでしょー、俺たちのこと。……だったら、受け止めてよ」 灰色の空に不釣り合いな黄色い糸が宙を舞う。直感的に僕のほうへ向かってくるんだろうなとは思ったけど、やっぱり逃げられないそうにない。 前足も後ろ足も絡みつくように巻き取られ、ほとんど自由を失った。粘着質な糸は触れるだけでも不快な気分にさせられるのに、どうしてこんなことするんだ。 「何てことするんだよ……」 染みつくような恐怖を必死にこらえて絞り出した声は情けないものだった。でもそれこそが素直な気持ちで、バチュルたちに自由を奪われる謂われはなかった。 「アトラスを愛すればこそ、だよ」 「そうそう、ボクたちはアトラスが好きだから縛って動けないようにするんだよ」 言っていることが矛盾しすぎて頭が混乱してきた。僕とリーダーを中央に添え、バチュルたちは円陣を敷いた。まるで神聖な儀式の生贄にされてしまうのを拒むかのように、僕は喚いた。 「やめてよ! ほどいてよ! 友達ならこんなことしないで!」 「友達? ……今の俺たちはそんな生温いものじゃないでしょ?」 リーダーは僕の言葉に本気で疑問を抱いているような素振りを見せた。ほかのバチュルたちも同様だった。 「意味わからないよ! いいからほどいて!」 「まあまあ、そんなに興奮しないで。暴れられる体じゃないんだからさあ」 ……もしかして、ここに来るまでに僕を疲労させることを計算してたのか? 「じゃ、始めるよ」 バチュルたちが、僕の体にわらわらとよじ登ってくる。徐々に侵されていく体に、青い爪が食い込むのが痛くてたまらなかった。 「い、痛い! やめて!」 「ちょっとぐらい我慢してよ。……すぐに気持ちよくなるんだから」 き、気持ちよくなる!? 本当に何をするつもりなんだ!? 「力抜いたほうがいいよー、楽しめないからね」 「何が楽しむだよ!? いいからはな、ひぅ!?」 い、今の……何? 「感度いいんじゃない? 初めてにしてはね」 股ぐらに魔の手が忍び寄っていたことにまったく気付かなかった。リーダーを含めた三匹のバチュルが、僕の股ぐらに群がっていたのだ。 「何してんだよ! 汚いだろ!」 思わず口調が荒くなる。汚い云々関係なく、離れてほしい、やめてほしい、それだけだった。そして混乱しきっている僕は、自分の体への決定的な違和感にまだ気づいていなかった。 「冗談、アトラスのが汚いわけないでしょー」 「そうそう、むしろこれから汚くなるんだから」 バチュルたちは全く悪びれる様子もなく、けたけたと笑いながら僕の言葉を受け流す。じわりと侵食してくる恐怖は、あの時の悪夢を呼び起こした。あの時の続きを、僕はまだ見ていない。きっと僕はいいように玩ばれ、痛めつけられ、そして気持ちの悪い笑い声の中で殺されるんだ。やっぱり僕はまだ許されていなかった―― 「離せええ!!」 ありったけの力を振り絞り、僕は暴れる。粘りつく糸を振り切らんと必死の抵抗を試みる。でも二十二匹相手には僕の力は無力に等しく、どこからか飛び出したエレキネットが僕の反抗を許さない。 痺れた体ではもうどうすることもできず、なすがままにされるしかなかった。 「じゃ、遠慮なくいただきまーす」 僕の&ruby(・){中};に、何かが&ruby(・・・){入った};。 「ひゃあう!?」 僕にこんな可笑しな声が出せるなんて驚いた。体が一瞬だけ痙攣するような感覚に、頭が真っ白になった。何をされたかわからないが、とにかく自分の体に起こった異変を確認しようとする。痺れは全身に広がっていたが、仰向けになって、首を持ち上げた。そして唖然とする。 僕はれっきとした雄であり、雄にしかないものもしっかりとついている。もちろん生まれた時からそれはずっと変わっていない。はずだった。 なのに、僕の目に映ったのは、バチュルが群がっている、そのなだらかな面になっている股ぐら。割れ目のようなものも見えた。ほのかに色づいた、薄い桃色のそれが、僕の目には信じられなくて。バチュルの爪がわずかに入り込んでいる。 「うそ……だ」 うわずった声さえも夢である気がして。僕は頭がどうかしてしまったのか。 「いいや、アトラスはどこもおかしくないよ。何もおかしくない。混乱してるみたいだけど、君は男の子じゃない」 男の子じゃない。リーダーがはっきりと告げる。その紫色の瞳は、僕の心を覗き見ているようで。 「アトラスは女の子だよ」 「はは……ははっ……何言ってるんだよ……こんなの嘘だ……」 目頭に雫が伝う。僕はそれで、いまにも壊れてしまいそうな理性を保とうとしていたのかもしれない。 「嘘じゃないよ、ほらっ」 「きゃぅ……」 体がびくりと震え、僕は現実を目の前に叩きつけられた。微妙に湿り気を帯びてしまっている割れ目に、爪を入れられる。困惑と経験したことのない感覚に、僕は息を荒くしていた。 「うぅ……僕は……僕は……」 涙が止まらない。ぽろぽろと溢れる涙が、柔らかい土に吸い込まれていく。 リーダーは僕のおなかに登って、そのまま首筋までやってくる。リーダーの息づかいも少し荒かった。 「アトラス、怖がらないで。俺たちはアトラスを虐めたいとか、嫌がらせしたいとか、そんなことは全然思っていないんだ。やり方が少し強引だったのは謝る……。けれど、俺たち全員、アトラスのことが好きだから」 バチュルたちが一斉に頷いて賛同した。それでもやっぱり怖くて、僕はただ固まっていることしかできない。 「アトラスはこんなこと望んでいなかった……?」 わからないよ。今の僕には、肯定も否定もできない。 「……すごく苦しんでるよね、アトラス。未だにあの時のことを引きずっている。たまによそよそしくなって……俺たちに気づかせないようにしてるけど、それもただの枷にしかなっていない。そうでしょ? だからそれらしい理由つけて、わざわざこんなところまで来たんじゃないの? 」 ……なんだ、気づいてたんだ。僕っていつまであっても浅はかだな……。 「だから、そんなものは俺たちが取り外してあげる。アトラスと俺たちの心が二度と離れないように。俺たちがアトラスのこと大好きだって、証明してあげる!」 わかったよ、なんて素直に言えるはずもない。けれど、バチュルたちの思い、僕は正面から受け止めてあげようと思う。僕だって、バチュルたちのことは大好きだ。 「……あんまり雑に扱わないでね?」 慣れないけど、ちょっとだけ色っぽさも取り繕ってみる。今の自分を鏡に映したら、恥ずかしさで爆発するだろう。 「任せて!」 なぜそこまでリーダーはテンションが高いのだろうかと疑問に思う間もなく、じわじわとした波が襲ってきた。 「ふぁ……んぅ……」 秘部にバチュルたちが群がるだけでもこそばゆいのに、そのふわふわとした体毛を擦りつけてくる。突き抜けるとはいかないまでも、快感の波は十分に伝わってくる。 「んはぁ……少し……気持ちいいかも……」 「なんかアトラス色っぽい……」 お前らがそうさせたんだよ。ああなんかもう本当に恥ずかしい。野生ポケモンじゃないのに野外プレイなんてありえないよ……。 「こっちも相手してよアトラス」 「え……んぐう!?」 リーダーが顔ごと僕の口の中に突っ込んできた。なにこれディープキス? 「舐めて! アトラスの唾液で俺をぐちゃぐちゃにして! 俺をいっぱい穢してよおアトラスうぅ……」 口の中でリーダーの声が反響する。早くもリーダーの理性が崩壊した。……別に舌のない虫ポケモンとのディープキスの方法なんて知る必要もないけれど、リーダーの望むようにしてあげよう。 「れろ……んぷ……」 「ふああぁぁ……」 べちゃべちゃと淫猥な音をたてながら、僕はリーダーの顔を、首を、体を、余すところなく湿らせていく。リーダーは気持ちよさそうに体をぷるぷると震わせた。……なんだか嬉しそう。 「ああ……アトラスので……べとべと」 僕の口から這い出たリーダーは、全身に水を被ったみたいに濡れていた。とろんとした目つきで、紫水晶は半月を描いて、不覚にもそれに僕の心は揺れ動いた。なぜこんなにも胸がときめくんだ……可愛いよ。 「リーダーばっかり、ずるいよ!」 「いいもん、こっちだって!」 「あぁ、そ、そんなに思いきり擦り付けたらひやぁぅん!!」 まるで秘部に毛の柔らかな&ruby(たわし){束子};を宛がわれ、強く擦られているみたいだ。たくさんのバチュルが、体をごしごしと擦りつけた。 「女の子ってここにある豆みたいなやつが弱いんでしょ? ほらほら、気持ちいい?」 「ひぅ、き、きもち、いいよおお!」 &ref(VS.電気蜘蛛!! another story 挿絵1.jpg); 迫ってくる快感に身をよじらせながら喘ぐ。クリトリスをピンポイントで刺激されて意識が飛びそうになるけど、バチュルたちの愛を全身で受け止めるために耐えた。サディスティックな言葉にも心が反応しているのが悔しい。 「なかなか我慢強いね! そろそろボクも気持ちよくさせて!」 一匹のバチュルが、自分のモノをクリトリスに強く宛がい、腰を前後させる。 「あああ、そんなに強くこすったら、らめええぇぇ!」 僕の秘所からプシャッと透明な液体が飛び散る。周囲にいたバチュルたちは、それを全身で浴びようと再び群がった。 「ぼ、ボクも、い、イっちゃ……あぅ!」 続いてモノを擦り続けていたバチュルも果てる。白く濁った液体が、僕の秘部の周りを汚した。 「なんでお前が先に出すんだよ! オレが先にイくって言ったじゃないか!」 「そんなこと言ってないよ! アトラスはみんなのものだ!」 「うるさいどけ!」 「お前なんか&ruby(ひとり){一匹};で妄想して自慰でもしてろ!」 バチュルたちが僕の所有権をめぐって争いを始めた。僕は誰のものでもないんだけど。ていうか僕のおなかの上で喧嘩しないでよ。 「あいつらはほっといて……アトラス……こっちも舐めて……」 リーダーは恍惚とした表情で、自らのモノを僕の口へ差し出した。 「は、はやくぅ……」 ちょっと気恥ずかしそうにして、僕の顔の上に乗る。少し緊張しているのか、ふるふると揺れる体。それに愛おしさは増すばかりで、僕はゆっくりと舌を伸ばした。 「あっ……!」 舌先がリーダーのモノの先端に触れる。 「ん……ちょっと触っただけなのに……リーダーって意外と敏感なんだね」 「う、うるさいなあ……」 可愛い。足が不自由じゃなければ襲ってたかもしれない。でもそれはできないから、舌で精一杯の愛撫をする。 「う……」 根元から丁寧に舐め上げて、先端に舌を絡める。小さいから少し難しいけど、リーダーが少しでも気持ち良くなるように僕なりに工夫した。モノはヒクヒクと震えはじめ、僕は舐め上げるスピードをより一層速くする。 「あ……そんなにはやくしちゃ……!」 舌をモノに巻きつけて絞り上げると、リーダーは雄とは思えない嬌声をあげた。僕はそのまま舌でこすり続け、ついに、 「やぁ、出ちゃう!」 リーダーが体をびくりと震わせたかと思うと、モノの先端からぴゅる、っと白濁液を放った。少し粘ついていて、苦みが口の中に広がる。それでも嫌な気持ちはしなかった。 「ご、ごめん、出しちゃった……」 「いいよ、リーダーのだから……」 リーダーは申し訳なさそうな様子ながら、満足そうな顔をしていた。そしてそのまま横に転げ落ちる。 「ああもう、我慢できない! ボクさきにやるよ!?」 なんだか下半身付近が騒がしい。 「アトラス、もう挿れるよ!」 「え、いや待っ……」 ズブ……と僕の秘所にすんなりとバチュルのモノが入る。前戯は十分にしていたから、僕の秘所は溢れでる蜜で湿りきっていた。 「あぁ……」 爪とはまた違う硬さの物が、ぐいぐいと押し込まれていく。小さいから痛くないし苦しくもない。 「僕が気持ちよくしてあげる」 顔を赤く染めながら意気込むバチュル。しかしサイズがサイズなだけに、どう期待していいのかわからない。 ゆっくりと腰を振り始めるバチュル。その様子をじっと見守る他のバチュルたち。今更だけど、視姦されているみたいで恥ずかしい。早く終わらせてしまわないと、羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。 「もっと……速く動いて」 「うん!」 バチュル、よしきたと言わんばかりに勢いよく腰を振り始めた。……勢いがよすぎる。 「ひゃ、やぁん! は、速すぎあン!」 虫特有の素早さがこんなところにまで顔を出してくる。快感の段差についていけず喘ぎ声が漏れた。 「ご、ごめんなさい、そんなに速くしないでぇえ!」 「もう止まらないよお!」 期待していいかわからないなんて思ったのは完全に間違っていた。まるで“高速移動”でも使っているかのように、強く速く抜き挿しを繰りかえしてくる。限界は近かった。 「あ、アトラスう! ぼ、ボクもう!」 「ひぐぅ!」 両者同時に体が一瞬硬直する。バチュルのモノから、精が吐き出されて、僕の膣をいっぱいに穢した。 「ああ……バチュルぅ……」 まさかバチュル一匹相手に果てる羽目になるなんて……情けないやら悔しいやらで上の空になった。 「俺も相手して!」 「こっちが先だよ!」 まだビクビクと痙攣している体に、視姦していたバチュルたちがよじ登ってきた。これ全部相手にしなきゃいけないんだよな。僕死んじゃうんじゃないかな。 「も、もう少し休ませ――」 「もらった!」 言ってるそばから間髪入れずに挿入される。さっきのバチュルよりもサイズは一回り大きかった。 「だから速いってばあぁん! あん、らめぇ! 」 「まだまだ、こんなもんじゃないんだから!」 バチュルの腰振りがさらに加速する。やばい、動きが速すぎる。 「あ、痛い! バチュルやめて! ひゃん! あぐぅ!」 「で、でる!」 バチュルのモノが僕の中でどくどくと脈打つ。動きも速ければ射精も早い。普通なら雌に嫌われる早漏も、今の僕にはありがたかった。 「……お願い、ちょっと休ませて――」 「一匹ずつやってたら埒が明かないよ! 二匹ずつやろう」 「オレは口でいいや。お前らも口で一気に終わらせようぜ!」 「俺は肉球! 柔らくて気持ちよさそう!」 「……お尻の穴」 聞いてないし。僕の意見は華麗にスルーですか。一体どこまで僕の体を穢すつもりなんだ。しかも最後が聞き捨てならない。お尻の穴? 「いや、そんなに一度にやったら僕死んじゃうごぼ!?」 視界がなくなった。バチュルたちが僕の顔に一気に覆いかぶさってきたせいだ。しかも何のためらいもなく自分たちのモノを僕の口に突っ込んできた。合計三本、すなわち三匹。 「アトラスの舌ざらざらして気持ちいい!」 「犬歯がいい感じでひっかいてくるよ!」 「もっと唾液絡ませて!」 無茶言うな。舌先で刺激したり、犬歯を突き立てないようにしたりで大変なのに、これ以上注文つけるなんてどこの鬼畜だ。 顔面が大変なことになっている最中にも他のバチュルたちは気にせず快感を貪っていく。何匹かのバチュルは僕の前足や後ろ足にくっついた。 「肉球万歳!」 高らかな叫び声とともに、僕の持つ四つの肉球すべてに、バチュルたちがモノを擦りつけ始めた。 「なにこれ新感覚!」 「ぷにぷにしてる!」 もういいよわかったから。僕の体は頭から尻尾の先まで捧げるから少し黙ってくれ。 「あああでちゃうよおお!」 どこに意識を集中すればいいかわからない。足が忙しくなったと思ったら、また口の中に白濁液が放たれた。当然三匹同時に。わざわざシンクロするな。 「にが……」 「舐めとって」 「早くぅ」 リーダーのだけでおなかいっぱいだよ……。でもほかのバチュルたちの分を蔑ろにするわけにはいかないから、三匹のモノを根元から舐め上げてきれいにしてあげた。リーダーのものとは微妙に味が違う気がする。いや、気のせいだ。精液の味の違いなんて分かってたまるか。そんなものが判別できてしまったら末期症状だ。 「次はこっちだ!」 股ぐら付近で不穏な空気が流れる。もしかして本当に二匹同時でやるつもり? 僕は頭を振って、顔に居座るバチュルを振り落としながら顔を持ち上げると、二匹のバチュルが僕の秘所の上で、お尻を合わせて待機していた。僕から見て手前側のバチュルはこちらを向き、奥のもう一匹は反対側を向いている。 「いくよ! これぞ夢の!」 「二本同時挿入!」 二匹が一気に腰を沈めた。 「はうぅ!?」 ズブ、ズブ、と微妙にタイミングをずらした挿入が、僕の思考を停止させた。……挿れられた数の分だけ、僕もバチュルたちも快楽を貪る。 「あ、アトラス、し、締めつけ強いよお!」 「い、いっぱい気持ちよくしてあげるからね!」 例によって二匹とも抜き挿しスピードが段違いだ。ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音色が僕の脳を真っ白に染め上げた。気持ちいい。すごくいいよ。もっと。もっと欲しい。 「ぁあぁあん、もっと速く動いてぇええ!」 まともなことが何一つ考えられない。変なことを口走っている気がする。 「お尻も使うよー」 はるか遠くから声が聞こえた気がするが、もう何が何だかわからない。肛門に何か入ったような感じがしたけど、たぶん勘違いだろう。 「ばちゅ、ばちゅ、ばちゅ!」 至る所でバチュル本来の鳴き声が聞こえる。 「この淫乱狐め!」 僕を罵る声も聞こえる。 「アトラス大好きー!!」 僕を愛おしむ声も聞こえる。 「肉球ぅうう!」 「お尻の穴気持ちいいぃいぃい!」 「中にいっぱい出してあげる!」 「俺らの子供産んで!」 ――え? 「アトラスううううう!」 「バチュルううううう!」 ――止まらないよ。 ☆ 生温い風が頬にあたる。前頭部の飾り毛がふわふわと&ruby(さら){浚};われそうになる。ゆっくりと目を開けると、朱い木漏れ日が差し込んできた。 どうやら気を失っていたみたいだ。頑強な黄色い糸は切られていて、四肢は自由に動く。……ただ、体中がべとついていて、あまりいい気分ではなかった。近くに川が流れていて、かつ自分が炎タイプでなければ、即ダイブしているところ。それでもバチュルのものだから仕方ないと自分を無理やり納得させた。そう考えれば、不思議と悪い気持ちはしない。 「起きた?」 リーダーは僕のそばでまどろんでいた。僕同様に意識を失っていたらしい。他のバチュルたちは飽きずに木登り競争に興じていて、僕とリーダーはふたりぼっちだ。 「……なんか疲れたね」 リーダーがぽつりと呟く。 「それはこっちのセリフだよまったく。何匹相手したと思ってるの?」 「……いや、アトラスがあんなに乱れるなんて思わなかったし……みんなそのノリで楽しんだんじゃないの?」 うまく言い返せないのが悔しい。……例えるなら、見たくもないような新たな自分の一面を発掘してしまったというところだろう。 鴉がせわしく鳴き始める。見上げた西の空は赤く染まっていた。 「……帰ろうか。アサトが待ってる」 だらしなく仰向けになっている体を起こして、立ち上がろうとした。……しかし、なんだか体が重い。さっきまで激しい行為をしていたせいではない。物理的な意味で、おなかが重く苦しい。 「ふらふらしてるね、アトラス」 「な、なんかおなかが重いんだ」 「ああ……妊娠してるんじゃない?」 に、妊娠!? 「あれだけいっぱい中に出されたからねー。アトラスが気を失ったあとも続いてたし」 「い、いや、僕とバチュルじゃ卵グループが違うし、どうやっても卵なんか……ぅおぇ」 体中に悪寒が走る。今まで経験したことのないような、独特の悪寒だった。 「つわりだね」 気持ちが悪い。吐きたいよ。なんで妊娠するんだ。理論的にもあり得ないし、あり得たとしても早すぎる。一日でおなかが大きくなるなんて聞いたこともない。 「虫の力をなめるな! 一日で妊娠させるなど俺らには朝飯前!」 また勝手に僕の心を読みやがった。胸張って言うことじゃないし。 「とにかく、楽な姿勢とったほうがいいよ。もう秒読み段階に入ってるからね」 「秒読み? 何が――っ!?」 突如、下腹部に締めつけられるような鈍痛が走る。これって……陣痛!? まさか本当に僕はタマゴを産むの!? 「痛い?」 「痛いよ!!」 当たり前のこと訊くな! 男にこの痛みがわかるか! ……僕も男だったはずなんだったけどな。本当に生まれてから今までずっと勘違いしていたんだろうか。嗚呼、痛みのせいでうまく頭が働かないよ。 「全員集合! これからアトラスが僕たちの子供を産むよー!」 「ホントに!?」 「ボクたちの子供!?」 木登りへの熱はどこへやら、バチュルたちは木の枝から糸を引いて、颯爽と湿った地面に降り立った。実に行動が早い。 「ううぅ……痛いよう……」 痛くて苦しくて頭がおかしくなりそうだった。まだこれが本番の痛みじゃないというのが恐ろしい。 「大丈夫、俺たちがちゃんとついてるよ」 「そばにいるから安心してね」 バチュルたちが体を僕に寄せる。二十二匹がぴたりとくっついてくるなんて暑苦しいけれども。 「……ありがと」 藁にもすがりたい気持ちでいる僕にはありがたいことだった。みんながそばにいることで痛みの度合いが変わるわけではないけれど、気分はだいぶ楽になる。……痛みを共有できないのがもどかしい。 「ううぅぅぅぅ……」 時が近い。大きな波が襲来してくることを本能的に察する。後戻りはできない。 「うああ!!」 おなかの中から蹴られるような痛みが、呻き声として漏れた。死にたくなるような程の痛みってこのことを言うんだろうと、揺らぐ意識の中でおぼろげに考えた。 僕は霞む意識の中、リーダーのいう楽な姿勢をとった。といっても四足歩行のポケモンがただ座っているような姿勢になっただけだ。生憎、どんな体勢が産卵しやすいかなんて知識は持ち合わせていなかった。 「しっかりと意識を持って!」 「ちゃんといきんで!」 バチュルの言葉に従って下腹部に力を込めた。死ぬ気でいきんでみるけど、なかなか出ない。 「ぐあぁ……あああああ!!」 「頑張って!」 「頑張れアトラス!」 「ひいひいふうってやればいいらしいよ!」 ひいひいふうがなんのことか分からないので、ありがたいアドバイスが全く役に立たない。僕は一心不乱にいきみ続ける。 「うぐうぅ……いだいよお……」 涙が滲み出てくる。いっそ死んでしまいたい。痛い。苦しい。産みの苦しみって、こんなにも辛いんだね。 「アトラス、もうちょっとだよ!」 「半分出てるよ!」 半分! あと少しだ。踏んばらなきゃ! 「うううぅ……ぁぁあぁああ!!」 無理やり押し広げられた産道が、極限まで広がった。そして…… 「でたー!」 ついにタマゴが、僕から産まれた。 「あぐうぅぁあああ!!」 &ref(VS.電気蜘蛛!! another story 挿絵2.jpg); 立て続けに二個、堰を切ったかのように飛び出した。失神しそうなほどに痛みで苦しんだ僕は、そのまま地面に倒れこんだ。気力をすべて使い果たし、肩で息をしている僕に、バチュルたちが駆け寄ってくる。 「二個も産まれたよっ!」 「おめでとう!」 「ボクだちの愛の結晶だね!」 愛の結晶。恥ずかしげもなくいえる言葉じゃないけれど、確かに僕とバチュルたちの間で作り上げたものだ。愛がなければ存在しえないものだ。……そう考えると、自然とタマゴにも愛着がわく。僕とバチュルの間にタマゴが出来るなんて不可解な話だけれど、もう細かいことは気にしない。 「見て、アトラス」 「え、もう!?」 なんと、早くもタマゴが孵る兆しを見せていた。さっきから常軌を逸脱したスピードでめまぐるしく変わる状況に、ただ驚くばかりだ。 「こんなにはやく生まれるものなの!?」 「虫の力をなめるな!」 リーダー、さっきも聞いたよその言葉。何回言ったら気が済むんだ。 「ほら、もう少しだよ……」 二つのタマゴが強く光りはじめ、コトコトと大きく揺れ動き始める。そして、ゆっくりと亀裂が入った。その亀裂からは何条もの光の筋が現れ、亀裂が増えるのに比例して光量も大きくなっていく。 「わああ……」 思わずため息が漏れた。殻が砕け散って、光の中からたくさんのバチュルたちが生まれた。生命の神秘を間近で見られたことに感激した。 ぴー、ぴー、と幼い鳴き声がそこらじゅうに満たされて、幸せな気分になる。一匹一匹の愛らしい仕草は、僕の心を刺激した。 そのときだった。蜘蛛の糸が四方八方から飛び出してきて、僕の四肢を縛った。僕が子供たちに見とれている間の、一瞬の出来事だった。 「え……!?」 突然のことに状況を全く把握できない。 「なにしてるの!? 離してよ!」 僕が暴れようとすると、そばからせせら笑う声が聞こえる。リーダーだった。 「離す? するわけないじゃん。寝ぼけてんの?」 リーダーの目は、冷徹そのものだった。僕を見下す冷たい目。あまりの豹変ぶりに僕は言葉を失った。 「こんなにもうまく騙されるなんてね! みんな演技うまくなったよ!」 騙す? 演技? いったい何を……!? 「あー、そういう、意味が分からない、って顔しないでよ。わかるでしょ? アトラスのこと想ってー、とか、愛の結晶とか、反吐が出るよ。嘘に決まってんじゃん、そんなの。真に受けてたの?」 わからない。わからないよ、どういうことなの。こんなの茶番に決まってる。だってそうじゃなきゃ……。 「アトラス、オマエハタダノセイショリドウグダヨ。マダキヅカナイノカ?」 リーダーの口調も完全に変質していた。……性処理道具? 冗談きついよ。そんなの嘘だ。 「ホラミンナ、アトラスニアソンデモライナヨ」 リーダーが、子供たちを僕の元へ行くよう促した。そのとき、僕はバチュルたちが何を企んでいたのかを悟った。 「オモシロイデショ? オレタチノコドモヲウンデ、ソノコドモタチニオカサレテ、マタコドモヲウム。ソシテソノコドモタチニフタタビオカサレテ、マタコドモヲウム。エイエンニツヅクンダヨ、マルデエイキュウキカンミタイニネ! クキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!!!」 そんな……そんなことって……酷いよ……うぅ……。 「ピー」 ……来るな。 「ピー、ピー」 来るな。 「アトラスー、ボクタチノコドモウンデー」 願い虚しく、僕の体は子供たちに群がられる。これって……この世の地獄? 「グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」 ☆ 「うわあああああああ!!」 断末魔の悲鳴が、薄紫色に染まった空を揺らした。僕自身、何が起こったのかわからなかったし、自分の喉からこんな金切り声が上がるのかと驚いた。そして、飛び上がったのは僕だけではない。 「……アトラス?」 リーダーが体をひっくり返して、目を丸くしていた。 「変な夢でも見た?」 「ぼ、僕……縛られて……タマゴが出来て……子供が襲ってきて……」 うまく呂律が回らない。そのせいかリーダーに伝えたいことがちゃんと伝わっていない。 「タマゴ? ……子供? 何それ?」 「みんなと一緒に作ったタマゴだよ! 産まれた子供が襲ってきたんだ!」 リーダーはきょとんとした顔で、数秒固まった。僕は何か意味の分からないことを言ってるんだろうか。 「……とりあえず落ち着こう、アトラス。寝ぼけてるんだね。その辺を散歩してくれば目が覚め――」 「寝ぼけてなんかないよ! みんな僕を妊娠させたじゃないか! 好きだとか言ったのは嘘なの!? 性処理道具ってどういうこと!?」 「ちょっ……落ち着いてよ! 妊娠!? 性処理道具!? アトラスは雄でしょ!?」 「はあ!? 僕は雌だよ! ほら」 僕は尻餅をついて、下腹部をあらわにする。……寝ぼけて頭がおかしくなっているなんて自分では微塵も思っていなくて、今思い出しても恥ずかしさがこみ上げてくる。 「あ、あ、アトラス! そそそ、そんなもの見せつけないでよ! べ、別に俺、そんな趣味ないから! ほほ、本当に、頭おかしくなったの!?」 ようやく異変を察知した僕は、頭を下げ下腹部を確認する。 「え? あ、あれ!?」 僕はちゃんと雄に&ruby(・・・・・){戻っていた};。あられもない姿になっていた僕は、産卵とは違う別の痛みで死にそうになった。まるで体が沸騰しているようだ。 結局目が覚めてからすべてが夢だったと悟るまでに五分を要した。なるほど、思い返せばやけに現実離れした情景ばかりが目に浮かぶ。性行為してから数時間と経たぬうちに子供が生まれるわけないじゃないか。そもそも、虫ポケモンと子供が作れる時点で夢だと気づけよ僕。ただ、快感も痛みも全部嘘だったとは信じられない。なぜ僕はあんな夢を見てしまったのだろうか。まさか同性のバチュル相手に欲情していたとは思えない。そんな趣味はない、断じて。 みんなはまだ木登り競争に興じていて、僕とリーダーは依然ふたりぼっち状態。変な夢を見て、たとえ幻だったとしてもバチュルたちを穢してしまったことへの懺悔として、リーダーに夢の一部始終を洗いざらい話してみた。リーダーは顔を真っ赤にしたり、頭から湯気が立ち上ったりと忙しかった。健気すぎるよ。 「僕、どこから夢だったのかわからないんだ」 いったいどのあたりから横道に逸れたんだろう。 「あ、ああ……それなら……アトラスと昔話をして……そのあと、いつの間にかアトラスは寝てたよ」 リーダーは尻餅をついて、前足の爪を研ぎながら答える。僕も後ろ足を曲げて座った。 「それと……夢の内容だけど……意外と的を射ているんじゃないかな」 「的を射ている?」 「いや、その……俺たちがアトラスに変なことしたとかそんなことじゃなくてね……夢の中の俺は『未だにあの時のことを引きずっている。たまによそよそしくなって……俺たちに気づかせないようにしてるけど、それもただの枷にしかなっていない』って言ってたんでしょ? 夢の本質は多分そこだと思うな……」 夢の中で、一番鮮明に印象付けられていた言葉だった。 「きっとアトラスの不安が、歪んだ形で夢に現れたんだよ。愛されたいとか、理解されたい、とか」 リーダーの分析は冷静で、なるほどそうかと納得できるだけの力があった。 「そっかあ……夢にまでそんなこと出てくるのか……」 夢の内容を事細かに伝えたことが、本心をそっくりそのままリーダーに知られたようで恥ずかしい。 「アトラスさあ……」 「……何?」 少しだけ、リーダーの語気が強くなった。 「いつまで引きずるつもり?」 「いつまでって……」 「あのねえ、アトラスが凹んでるとこっちまで鬱になりそうで迷惑なんだよ!」 思い切り叱られた。まるで頬に張り手を喰らったかのように痛い。 「もうひきずるのはやめ! 俺たちにだって、無神経にアトラスを刺激し続けてきたし、どっちにも非はあったんだよ。それでおあいこでしょ? あんな過去は俺たちにはもう必要じゃない。今はもう、友達なんだよ。今はさ……。だから――」 リーダーが胸に飛び込んできた。僕はその勢いに負けて、後ろに倒れこんだ。僕はリーダーの突然の行動に目を白黒させるが、ちゃんと受け止めなければいけない気がした。そうしなければ、僕はアトラスとしてバチュルたちに顔向けできないんだ。 「俺たちを……俺たちを正面から見てよ」 紫水晶から零れでた涙が、僕の胸に吸い込まれていく。それが、僕の心のしがらみをゆっくりと溶かしてくれるような気がした。僕は両前足でそっとリーダーを抱きしめた。バチュルの体温は僕より低いはずなのに、心なしか温かい。 「うん……ごめんね」 やっぱり僕は涙もろい。もらい泣きなのに、涙が止まらない。心の&ruby(おり){澱};が流れ出て止まらなかった。 「アトラス、やっぱり泣き虫だ」 「リーダーだって泣いてるじゃん」 僕もリーダーも泣き虫。もしかしたら似た者同士なのかもしれない。 「あー! リーダー泣いてるー」 「アトラスもだよ。相変わらずだね」 「めそめそする男なんて……ワタシ嫌い」 「お前女じゃねーだろ」 いい加減に木登りに飽きたのか、バチュルたちのほとんどは地上に降り立っていて、僕たちを茶化し始めた。流石バチュル、期待を裏切らない弄りっぷりだ。 「こ、これってもしかして、&ruby(ふたり){二匹};だけのノウミツな時間ってやつ……?」 「ええ!? リーダーとアトラスってそんな関係だったの!?」 「アッー!」 言わせておけば好き放題言いやがって……。 「そんなわけないだろ! お前ら全員犯すぞ!」 「俺はそんな趣味ないぞ! ちゃんと可愛い女の子と結婚するんだ!」 夢から完全に冷め切ってないゆえの暴言も、リーダーの望み薄き野心も、すべてが笑いに帰す。 これで全部……全部が元通りになるんだろう。くよくよ悩むのも終わり。家路につく前に、新しい自分へのスタートを切ろう。 「うわああ変態だー!」 「逃げろお!」 意味のない茶々入れとともに、黄色い斑点は帰りの道をなぞりゆく。僕はリーダーを掴んで、頭の上に放り投げて乗せると、湿った地面に刻まれた無数の足跡を辿った。 「ここに来てよかったでしょ?」 リーダーがへらへらと笑いながら、僕の問いかける。 「最初は嫌がってたくせに。だいたい、提案したのは僕だろ」 「まあまあ、細かいことは気にしないの」 まったく、本当に調子がいいんだから。 「振り落とすよ?」 意味のない、からかいの脅し。返答は何もなかった。しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。みんなをまとめあげるのに疲れたからなのか、僕の頭が居心地いいのかは分からないけど、聞こえないのを承知で話しかけてみる。 「……お疲れさま。これからもよろしくね」 End ---- 感想等ありましたらどうぞ↓ #pcomment あとがき(朱烏)↓ &color(White){ウロ「アトラスのエロが見たい。ていうか見せろ」}; &color(White){アカ「えー;;」}; &color(White){ウロ「見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい」}; &color(White){アカ「ちょwww 落ち着けwwww」}; &color(White){ウロ「挿絵描くから」}; &color(White){アカ「くぁzwsぇdcrfvtgbyhぬjみkおlpふじこ」}; &color(White){ウロ「ちょwww 落ち着けwwww」}; &color(White){こんな感じの流れで合作が決定しました。半分嘘ですが。}; &color(White){冗談はさておき、はじめに謝っておきます。非常にカオスな内容になってしまいどうもすみませんでした。いろいろと酷いですが、皆様の寛大な心で赦してやってください。そもそもエロ初心者に期待しないでください。で、本題ですが……書こうかどうかは本当に悩みました。本編ではハッピーエンド。これ以上書くことなどない。番外編として成立させることが出来るかも怪しい。自信は全くと言っていいほどありませんでした。……しかし結局書くことに。せっかくのウロ様からのリクエストだし、チャレンジしない手はないだろうと。いざ書くとなると、なかなか難しい。エロメインでもストーリーは練らなきゃいけないし、シチュは指定されてるし、これじゃまるで縛りプレイみたいだと手が止まることもしばしば。これはもう完成しないんじゃないかと泣きたくなりました。夢落ちにすることは初めから決まっていました。でないと取り返しのつかないことになってしまうので。人類の浪漫である二本挿しと夢の三本同時フ○ラはやけくそです。とことんエロくしてやろうと暴走した結果です。ごめんなさい。だが反省はしない。しかし本当にこれ誰が得するんだろう。産卵や、とくに陣痛の描写に関しては現実と乖離している部分がいっぱいあります。出産経験のある女性に聞いたりググったりすれば一発でわかりますが……夢の中だから何でもありということでご容赦ください。しょうがないじゃない、未知の領域なんだもの。さて、初めての合作作品ということでいろいろと試行錯誤し、躓くことは幾度となくありましたが、完成まで辿り着くことが出来て安堵しています。合作という形で挿絵を提供してくださったウロ様には心より感謝申し上げます。}; あとがき(ウロ)↓ &color(White){どうもこんにちは。もょもとです。嘘です。ウロです。今回のお話はアカガラスさんと一緒に作った、というよりも私が絵を描いてアカガラスさんが文章を担当した、という感じですが、これも多分コラボレーションに入るだろうと思い、コラボという形になりました。さて、今回のお話はいかがだったでしょうか?妙に突っ込みどころ満載の絵が入っているせいで興奮するシーンがやけに萎えてしまったらそれはアカガラスさんのせいではありません、どう考えても私の絵のせいです本当にありがとうございました。これ以上ないというくらい妄想を詰め込んだ作品です、夢です。ドリームです、そんな夢みたいな話です。実を言ってしまうと最初は凌辱とかそういうものにしようかとか何とか考えてたようななかったような、というのも、私が異種姦で蟲姦で和姦にしましょう、愛です愛とかわけのわからない猟奇的なことをほざいたせいで、文章担当のアカガラスさんに多大な迷惑と精神の摩耗をかけてしまいました。ごめんなさいアカガラスさんorz次こそはもうちょっとまともな絵を載せます、わがまま言ったわりにはちゃんとした絵を載せれずに、変なポンチ絵みたいな感じになっちゃいましたが、アトラスもバチュルも本編とはまた違った可愛らしい一面が垣間見えて、ちょっと本編の陰鬱な感じが変わったかもしれません、本編そこまでえぐい話じゃないんですけどねwアカガラスさんの文章能力に私の絵があまり追いついてない気がして、正直やらない方が良かったかなぁと思いもしましたが、やるといった手前しっかりとやり切りたいという気持ちがあり、やりきった後は気分がすごく高まりました。これぞコラボって感じのコラボではありませんが、とっても楽しい作品に仕上がったと私は思います。コラボを企画していただいたアカガラスさん、そしてこの作品を読んでいただいた読者のみなさんに、深くお礼を申し上げます。そして最後にもう一度。文章担当をしていただいたアカガラスさん、ゲストの私にこんな慈悲深いあとがきのスペースを下さったことを深く感謝いたします、本当にありがとうございました。 ウロ}; 私オススメのサイトです! ero-video.net/movie/...