ポケモン小説wiki
Shotgun Kiss の変更点


*Shotgun Kiss at the Frozen Wound [#f67b7ef8]
Writer:[[Vanilla]]
※銃撃シーン・官能表現が含まれます。
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壹.砂塵の中の、熱烈な歓迎
「ねえ一層遠く知らない街に隠居して沈黙しませぬこと?
こんな日々には厭きたのさ ねえだうぞ攫(さら)つて行つて」
                      ――――迷彩

世界から秩序は奪われ、混沌が生まれた。
経済による支配はなお残っているが、最も権力を得るに必要な要素は何よりも力であった。
大自然の条理、弱肉強食――その中で人間はロストテクノロジーであるモンスターボールによりポケモンを使役し、肉にならぬ様足掻く。
かつてはポケモンを戦わせるという行為はスポーツの概念で行われていたが、今の世にその余裕を求められる筈も無い。
人と人は奪い合い、その力比べとしてポケモンを戦わせ、勝利を得んとする――今私が置かれている状況もまさにそれであった。


砂褐色の空、硝煙の舞う大地、一つと無い緑。
泥だらけの道も夢も感動も無き砂漠に一本の線を引く自動二輪車は、砂塵の先にある都市を目指していた。

“ニューヤマブキ”
今は無きカントー地区の中心街であった、現代の数少ない生活可能都市の一つ。
地上は、地下シェルターに建設された膨大な植物を格納する施設より自動的に地上へと酸素が送られており、世界有数の生活環境が整った地区である。
その施設には強固なセキュリティが設けられており、現代のいかなる技術を以ってしても中へ入る事は叶わない。
だが、それは同時に自動的で安定した生活環境の維持を可能とする為、人間やポケモンは必然的に集まり、中心街は活気に溢れている。

私は自動二輪車の荷台にくくられた檻へ閉じ込められ、次行く街の情報を載せた本を読みふけっている。
揺れ動き、飛び跳ねる荷台の上は読書に適さない事この上ない。
だが、命が惜しければジャックの仕事を成功させねばならないので、文句を溢さず読まねばならないのだ。
なぜなら……ある日、私は「こめかみに銃を突きつける」という世界共通の意味を持つ動作で動きを制され、首輪をつけられてジャックとの絆を誓わされる事となったから。
「俺とお前は運命共同体――俺が死ぬとその首輪が爆発する。お前が逃げたら爆発させる。反抗も許さない。お前は俺を殺して逃げる事も出来ない。でもお前が死んだからと言って俺が死ぬ訳じゃないけどな。一方的共同体。ケケッ。」
圧倒的不利の条約を結んだ私はニューヤマブキにて龍使いの権力者邸宅襲撃の仕事を手伝う事になった。
ドラゴンタイプの弱点である氷による攻撃でそこを守る翼竜、ボーマンダを倒せという。
私のレベルはそんなに高くはないのだけれど――などと言い修行をしている暇は無く、明日の食料も厳しい近況では、到着次第即日実行する他無いのだ。

そして、間もなく砂の舞う風景から街が姿を現すだろうか、という頃合になって――
ズゥンッッ!!
突如爆音が耳を劈(つんざ)き、二輪車が宙を舞い、荷台の荷物をくくる紐は解け、私を縛る檻も舞った。
地雷か――となると数分内に襲撃をされる可能性が高い。
この地域は戦前に地雷原ではなかったため、近年のうちに仕掛けられたはずである。
となると、ニューヤマブキへ向う旅人を狙う窃盗犯が仕掛けたという可能性は低くない。
上下の感覚が失われ、自由落下する檻の中、着地の衝撃に備えつつ辺りを見渡す。
「おいッ!出ろッ!!」
「(……出ろと言われても鍵をかけたのはあなたでしょう。)」
檻にはポケモンの技ポイントを一時的に0にする仕掛けが施されているので、自力で脱出する事は叶わないのだ。
ボスッ、と鈍い音を立てて檻が地に落ちた衝撃は、砂で和らげられたため怪我を避けられた。
ジャックも着地し、こちらに駆け寄り懐から鍵を探している――が見付からず、埒が明かないので鈍器で格子を叩き壊し、私は解放される。
檻から飛び出し、即座に背を会わせ、伏せた。

両者180度を警戒し見渡す――が、未だに爆風の起こした砂嵐は止まず、視覚より得れる情報は無い。
視界の悪さに苛立っていると再び爆音が緊張を貫いた。
ボスンッッ!!
どこか間の抜けた、それでありながらその音の意味知る者には生命の危険を伝える音――銃声!
「ショットガンかッ!!」
ジャックは嘆いた。
こちらには一丁のハンドガンしか無い――それも婦人用の殺傷能力よりも扱い易さを重視したものである。
この視覚不明瞭な状況では遠距離からの狙い撃ちが不可能であるのが唯一の幸いで、銃弾はあらぬ方向へと向い砂に隠れた。
「グレイシア、見えたか?冷凍ビーム打ち込めッ!」
「……こっちから見える筈が無いわ、銃弾は貴方の方向から撃たれている。で、方向は見えなかったのね?」
「あーもううるせーッ!!てめー方向わーったなら突撃して殺ってこい!!」
ジャックは平常心を完全に乱していた――これはまずい。
気の迷いこそ戦いに於いて最も勝利を退かせる原因だ。
「お願い!落ち着いて――」
「るせッッ!ととっとといかねーとおぐずるぼでごぉぉぉおぁッッ!!」
ジャックの台詞の後半はもう言語ですらなく、そしてその罵声はこちらの位置を相手に教える役目をなしてしまった。
最早彼の銃は役目を成さない、私が戦わねば!
銃弾は尚もこちらに降り注ぎ、精度を上げているが、応戦するジャックの銃弾は数撃つ方向を間違えており当たる気配がない。
時間の問題で体に穴を開けられてしまうので、まずは二輪車の残骸を盾にせんと飛び込み隠れた。
銃声は次第に音量を上げている――距離を詰められている。
冷凍ビームを一発打てば正確な位置を教える事になる。
一撃が勝負。
銃声から位置を探る――でも地雷の爆音で耳が出鱈目な情報しか伝えない……何てこと!
「ばぁぁろぉぉぉ!!おめーだけ隠れてんじゃねぇぇええぇえぇぇ!!!!」
……馬鹿はどっちよ!
銃声にも勝らずとも劣らない声を張り上げてこちらへ駆け込むジャック。
だが声で位置を伝えてしまった彼の末路は想像に難くない。
ボスンッッ!
ジャックは案の定駆ける途中で撃たれ――なかった。
銃弾は彼の足元の砂を吹き飛ばす。
「動くな、喋るな。次は足だ。」
良く通るテノールが弾丸の代わりに放たれた。
「ひひぃぃぃい!!」
勝負はついたので命を無為に取らない、という魂胆らしい。
「喋るな。武器を置け。ゆっくりだ。」
ジャックは震える手を腰にかけ、拳銃を手に取り――そして構えずに地に捨てた。
そうして男は手際よくジャックを無力化させ、縄で体の自由を奪う。
縄で縛られる際にジャックと目が合い、「男の手の塞がる隙に攻撃しろ」と訴えられた。
ええい、こうなったら駄目元で――と思ったのだが、冷気を放つ為の予備動作を思い立った瞬間から男の鋭い眼光は私の方向を見据えており、何時でも腰の拳銃を向ける気でいるので私は何も出来なかった。
歯がゆい思いをしていると、男はジャックを拘束し終えてこちらに目を向けた。

「足掻くな、何もしなければ殺さん。」
男は冷徹に、厳かに言い、そして私にショットガンを向けてこちらへ歩を進める。
180cmはあろう筋肉質の健康的な体躯は肉弾戦の無謀さを示唆した。
私の使える特殊攻撃はどれもまだ技として研ぎ澄ます余地が多くあり、予備動作に時間を取ってしまうため奇襲には向かない。
手も足も出ない、という事になる。
「お前も死にたくなかったら大人しく”おすわり”だ。」
そう言い、男は手際良く自動二輪車と荷物を再び結合させる。
すると、私は不意に脇から片手でひょいと持ち上げられた。
「ん、ついでだ、お前も来い、ちょっと氷が――」
男が喋る間に尚もジャックは醜悪な形相でこちらを見て――人間は時に理解不能な力を出すものだ――拘束しているロープを自力で解いてしまった。
「やれやれ、こっちは利口じゃないな。」
男はショットガンを彼に向ける。
ってあ……まずい!彼が死ねば私の首輪が――
……でももしこのまま私が連れて行かれたとしても彼は爆破のスイッチを押すのだろう、あわよくば男が私を抱えていれば大火傷だ。
どっちにせよ私は死んでしまうのだろうか?
――そう思っていると体は自然と男の胸を蹴り、銃口と彼を結ぶ線の上に私の額は移動していた。
ボスンッ!
乾いた音が耳鳴りのする耳に届いた。
その音が私の生命を終わらせるのか――そう考えると随分と安っぽい。
額に鋭い痛みが走る。
体は宙を舞い、砂にまみれ――
そして、そのままもう動かないのだろう。
あーあ、残念、まだ私処女なのに。
「あ。」
男が間の抜けた声をあげ、一瞬の隙を作った。
流れ弾もジャックの方向には向っていない。
男は私に驚いて標準をずらしてしまったのだ。
どうやら私の命が役に立ったらしい。
えっへん凄いでしょ?一度くらい褒められたいなあ。
ねぇ、ジャック。
「でかした!」
やったね、褒めてくれたよ。
しかも幸運な事に、ショットガンの弾は切れたらしい。
男に大きな隙が出来た。
ジャックは走り、男に殴りかかる為に距離を詰めてゆく。
が、ジャックの拳が火を噴くその前に――男はジャックから奪った拳銃を構え終えてしまった。
パン、と彼の体を貫く凶弾。
残念、やっぱ駄目だったね。
おぉ、それでもまだ倒れないで向ってゆく。
あぁ、でも全然駄目みたい。
男の方から向かってきて、一発殴られただけでジャックの体も砂まみれになった。
貴方の性格も人生も全然褒められるものじゃないし、私も大嫌いだけど……。
最期だし。
その死を悔やんであげる。

「あー、もう……後味悪いなぁ……。」
男も後悔している様子だが、表情は全く崩れていない。
「でも……急所は外したし止血しとけば何とか死なないかな。街もすぐそこだし。」
……ジャックは最後じゃなかったんだ……同情して損した。
街はもうあと一歩だったらしい、気がつけば砂の景色は風に流れ、横目に廃墟が見えた。
夜に星と競争して光っていたその街の建造物の森は今や汚い色をした瓦礫で埋め尽くされている。
果たしてこんな殺風景の場所が栄えているのだろうか?
疑念が頭を過ぎると風向きが変わり、廃墟から流るる風が耳から垂れるヒラヒラをヒラヒラと遊ばせた。
澄んだ空気が鼻に入り、森林を連想させる。
最期の時に丁度良い最高の空気かな、と慰めたりみたりして。
「なーおい、おーい?グレイシアー?」
「な、何よ。もう助からないんだから放っておいてよ、最期くらい静かに逝……」
「ハハハハ、ご冗談でしょう?」
嫌味たっぷりに男は嘲笑する。
額に風穴が開いて助かるものか。
「これ、はい銃弾。血の一滴も滴りません残念。額のその硬い氷みたいなやつに浅い穴開けちゃったけど、脳どころか皮膚にも達してないから。はい生きる生きる!」
「え――。」
そう言われてみれば言葉もすらすらと出るし呼吸も落ち着いてきた。
とても瀕死とは遠い事を体は告げている。
「んじゃ、お前は俺の家まで来い。丁度大戦前のワインを開けようと思ってて。氷作ってくれんかね。」
ひょいと私は持ち上げられ、彼の肩に乗せられる。
「忠義なのは良いけど、長生きしたいならついて来た方がいいぞ?ソイツはこの世界で勝てない。」
ジャックを指差し弱肉強食を語る男。
「いや、問題はこの首輪なのよ。」

私は首輪のいきさつを話し、助けを乞うた。
「……それでいきなり弾丸遮ったのか。そこそこ利口な目を向けているお前が感情的な事すると思ったら。」
男は首輪をいじくり、「ふむ」などと頷きながら、爆発に脅える私を他所に乱暴にも鋏をポケットから探し出す。
「切る、って!これには火薬が詰められれてて更に電子制御の――」
「只のオモチャだぜこりゃ。ガキなら騙せそうだけどなっ。」
そんな馬鹿な――一瞬自らの浅はかを嘆き、直後歓喜した。
これでジャックとの絶対服従関係が断ち切れるしボーマンダとも戦わなくて済むしこの人についてったら生活水準上がりそうだし。
「でもガキ言うなっ!私はねーこれでも知性派なのよ?さっきだって的確に二輪車の陰に隠れて、ジャックが叫ばなければ今やアンタを氷付けにしてた所なんだからっ!」
私は男の一言に冷静さを失って言った。
だがそれは言うべきじゃなかった、もっと機嫌とらないと捨てられる、おちつけ私。
「ほーぅ。その前に二輪車の燃料缶に鉛玉食わせてたらどうなるでしょう?
1.知性派のツンデレは突然良いアイディアを思いつく
2.鉛玉は燃料缶を貫けずに留まる
3.爆発してつるぺたのツンデレは溶ける。現実は非情である」
「うぐ……あの……冗談、です!ごめんなさい…!」
おちつけ、決してデレじゃないのよこれは。
貧乳はステータスって、希少価値って、えらいひとが言っていたし私は気にしないのよ。
仮面、そう偽りの笑顔を顔につける――引き攣ってるかしら。
「お利口さん。さー酒だ酒。」
男は私を一撫でして二輪車にまたがる。
エンジンは先の爆発をものともせずに快活な走行で一人と一匹を連れ、廃墟の外れへと向う。
「良く地雷受けて壊れなかったわね。」
「あ、あれか?ジャンプ台を踏むと周りの砂に仕掛けた花火が爆発する仕組みだ。
盗っ人が盗むモノ壊してたら意味無いだろよ、だから不意打ちと動揺を狙った。
ガキにゃあ結構驚いただろ?もしかしてチビった?」
「からかうなぁッ!……いでください。別に驚いてないわ、即座に着地に備えて体制を整え――」
「仰向けでおしっこシャーッ、と。」
「凍らすわよ!」
「落とすよ?」
「望むトコよ!」
「ほれほれ!……なーんてな。そうだ、お前ニックネームは?」
彼の肩にがっちりと肉球に力を込め、振り落とされまいと捕まる私の顔は、気がつけば怒りで溶けんばかりに熱を帯びていた。
「無いわ。あなたは?」
とにかく冷静になれ私、と三度唱えて聞く。
「俺はイナズマ。かの国の言葉で雷を指す名だ。」
イナズマ……確か本で”稲妻”という語を見た事があったような。
「んーじゃーお前のニックネームはチビスケだ!」
「スケってあたしゃ雌だたわけっ!」
「じゃあーユキオンナ」
「……グレイシアでお願い」
そんな漫才をしながら、一人と一匹は砂地に台地に線を引き走る。

貮.自給自足の、ささやかな日々
そして燃ゆる頬今宵は果實色に 無言(しじま)の意圖(いと)か熟れゆく鎖骨のお皿
注いで 銘酒の内の取つて置きなら
                      ――――おこのみで

「……疲れた。」
小一時間肩の上にしがみ付いて爆走されたせいで、思い切り筋肉が痛い。
檻の中の方がまだ砂も目に入らず疲れずで、天国に思えてくる。
ジャックめ檻壊さないで欲しかった。
でも人の肩に乗るってのは初めてで、少し温かみを感じられる事が出来た、かな。

「へへー、どーだ?スゲーだろぅ?」
仰々しく両手を広げておどけるイナズマの先には2階から上の無い、それでも土台のしっかりとしたビルであったらしきもの、そして傍らに小さな畑、井戸が備わっていた。
大戦を生き延びてから見てきた世界の中では、最もに生活に適していると思われる。
特に捕らわれの身となってからは食の不安定な毎日を送らされてきたので、木の実が彩る畑に私の目は輝いた。
「おいしそ…いや、これ……一人で?」
「つまむなよー。いや、昔のポケモンと一緒にな。今はちょっと遠くへ行ってるけど。」
――この言葉には大戦の矛が一枚噛んでいるのだろうか、私はそこで口を噤む。
「地下水脈を発見して井戸を作り、畑も作った。不健康な野菜と木の実だが食料の安定は大助かりだ。――さーっ飲むぞ!」

あちこちにヒビと割れの跡が生々しいビル――どうやらここはホテルであったようだ――に入る。
だが、重機一つ動かすのに骨の折れる現代で雨風を防げる場所を占有できるというのは珍しく、とても在り難い事である。
かつてはホテルのフロントの機能を果たすべく、見栄の張った調度品が彩られていたのだろうが、今や粉っぽくなって部屋の端に山を作っている。
芸術は今や価値など無く、実用に向いた物品、薬、食料に高価な値段がつけられる時勢だ。
これらの物は売れる事は無く、飾る趣味も無いので放ってあるらしい。

イナズマはてきぱきと酒の準備をし、埃っぽい円卓にグラスと大戦前のブリー酒を、私はアイスボックスに一口大の氷を生産し満載にして乗せた。
「トクトクトク」ブリー酒とグラスが出会う。
「カランコロン」グラスと氷が歌った。
「チン」グラスとグラスが口付ける。
「乾杯!」と景気をつけると
「コクッ」ブリー酒は舌と喉に豊かな香りを齎す。
「……ふぁ、何年振りだろ……美味しッ。」
「はっは、今じゃ値打ちモンだぜ?当時は2000円ちょっとの安モンだったのになぁ。」
例え安物であれ、大戦前、と聞くと余計に風味が増す気がする。
あの頃は良かった――誰しもが豊かであった時代を懐古し、過ぎし日を思えば泪を流せよう。
自らの生き様の不運を呪い、悲劇のヒロインを重ねて私は言う――嗚呼、過ぎ去りしあの日をもう一度!
勢いに任せて私は何度も何度もブリー酒をグラスに出合わせては、喉へと連れ去る。
「ツックウゥーッ!美味い美味い美味いうまぁぁーい!決めた、私ココに住むー!」
「うわー、本気か?んー、じゃぁ最初は良いけど自分で畑耕せよ。って酒弱いんか?もう泥酔してるなぁ。」
「まっだまらぁ余裕だっぜぇーっ!」
「いやー、でも顔真っ赤だぜ?」
「きゅーッ!」
ノリノリで意味不明になる私。
体と心はやはり密接な関係であるらしく、喉を潤し気持ちを昂ぶらせた私は意気揚々となって机に突っ伏し、そしてそのまま眠ってしまった。

因みに……このブリー酒は非常にアルコール度数が低いらしい……私はどうやら酒に弱い。

參.夜の闇の、艶やかな光
毎晩寝具で遊戯するだけ
  ――――丸ノ内サディスティック

目が覚めたのは夜の帳の下りた、月光差し込む二階のベッドの上であった。
「むにゃー。寝たーっ!」
酔いの抜け切らない私は未だに言語不自由である。
「あ、あれ。もう寝てるの――いや夜だし普通寝るわね。」
イナズマは隣に豪華絢爛にも宝石が散りばめられ、金色に縁取られた低反発ベッドの上で規則正しい寝息を立てている。
対する私は至って普通の鉄パイプで構成された、安っぽいけれども寝心地は悪くないベッドを与えられたようだ。
ちょっと羨むが、今までの粗野で危険と隣り合わせであった野宿を思い出し、深い感謝と幸せを噛締めた。
「でもちょーっとだけ……イナズマの布団のふっかふかーを体験……」
酔った勢いは安っぽい勇気を生み、枕元に拳銃を置く程に用心深い彼のベッドへ近付く。
規則正しい寝息は崩れず、月明りに無精髭が煌いた。
30代前半と見えるがっしりとした体躯と日系の顔、黄色の少し焼けた肌、そして先ほどは帽子で隠れていたオールバックの黒髪。
昼間の砂塵に塗れた上下の着衣はジーンズ生地の擦れたインディゴブルー。
そして長く伸びたもみあげ。
ポケモンの私から見ても外見中身共になかなかの男である。
さて、そのふかふか布団に飛び込もうと思うのだが……身に迫る私の気配を敵襲と間違えられ、
逆襲の憂き目に遭って風穴の数を増やしかねないとも思い、迷う。
だが、その迷いは刹那的なものであり、酔った勢いに屈服した。
「もうどうにでもなーれーっ」
四肢に力を込めて、跳んだ――のだが、酔いのせいで力加減を思い切り誤った。
これではイナズマの体に突撃してしまう。
必死に空を掻くが、水の無い所で犬掻きはできない。
「うわ、あ、だーめー!」
叫ぶとイナズマは飛び起き、銃口をこちらに向け――そしてそのまま私の鼻は銃口にダイレクトアタック。
「ぁたっ」
神経の集中した鼻先への打撃はとても痛かった。
酔いが一挙に醒める。
そのまま体勢を崩した私はふかふかの布団に尻餅をついた後、後方に重心が傾く。
落ちる!と落下に備えて構えようとした時、前足の肉球を人間の手の感触が包み、そこで重心は前に引っ張られた。
「わっ」
「何しよーとしてたんだ?まさかアイツの敵討ちとか?」
イナズマは銃口を向けたまま尋ねる。
「ち、ちがうわよ……ただ……ちょっと……」
私は俯く事しか出来なかった。
だが、私の頬が赤らめられているのを知ってか知らずか、イナズマは全てを見通したかの様な笑みを浮かべる。
「ふん――なるほどな。悪いが俺にはそっちの気は無いぞ、襲うなよ。まぁしかし――捌け口に困るだろうな。
だが、こっそりとする分には俺は何も咎めないぜ。」
「ち、違うわよ……!ばっ……馬鹿ね、あ、後でどうなっても知らないんだからっ!!」
もう自分にも意味不明の捨て台詞を考えも無しに悪意いっぱいに吐くと、私はそっぽを向いて自分の寝床へ着いた。
「ははは、怒るなって。夜這いなんてす……」
「夜這い言うな!」
「いや、鼻に銃口ぶつけたのは謝る!あそこは痛点が集中してるから痛いんだよな……悪かった!」
「……」
どう見ても彼の方に非は無く、私が感情的に逆切れをしているのは明らかだ。
それだというのに彼は私の気をなだめようと謝っている。
私は自己嫌悪に陥りそうな思考をなだめながら、この険悪な雰囲気を一掃する科白を考える。

「……ねぇ、ここに住みたいってさ、さっきは酔った勢いだったけど……あれ、本気よ。
ここを出て行っても行くアテは無いし。敵討ちなんて全然考えてないわ。
さっきの行動は……私が酔った勢いでちょっとふざけただけなの。ごめんなさい。」
私は結局、意地を張るのを止めて謝る事にした。
「まぁ、良いさ――疲れただろう。この事はもう良い、寝ろ。」
イナズマは寛大に、優しく笑みながら言う。
「ポケモンはどうして人間に使役される事を必ずしも厭わないか、知ってる?」
矛先をずらして私は尋ねた。
「モンスターボールの特性の一つに卵を模した環境の再現があり、ポケモンはその中で安心を得ることが出来るので。」
対して抑揚の無い声で優等生を演じてみるイナズマ。
「模範解答の一つね。花丸。……でもね、私は思うの。心が通って居るからついて行きたい、と。」
「ふうん……じゃ、俺は今何を考えている?心が通ってるなら分かるだろ?」
悪戯っぽく笑って言われ、瞳を見詰めあう。
そして私は左を向いて、真っ暗の闇にかつて地上と争って輝いていた星空の、今や誇らしげに降り注ぐ光を確認する。
彼もつられてヒビの入った窓の外を見る。
「私は貴方の心の様な空を見ている。貴方は私の心の様な空を見ている。」
そして一人と一匹は再び目を閉じ、今度は両者の合意の上、静かに顔と顔を寄せ、唇を重ねた。
だが舌の交わる事無くそれは終わり、少し物足りない私の瞳を見て、イナズマはこう言った。
「はなまる。」
笑い合い、じゃれ合い、そして一緒の布団で私達は寝息をたてた。

肆.夢の果ての、儚げな瓦礫
覚醒を要する今日と云う厳しい矛盾に感うのです
…つい先も
                     ――――依存症

頬を朝日が刺し、額がズキリと痛んで新しい朝が来た。
一つ大きくあくびをし、二日酔いの朝ではない事を確認しひとまず安堵する。
イナズマは既に起床しているらしい、独りでは広い部屋に朝食の香りが運ばれてきた。
額がちょっと痛み、辺りのガラスに映して確認すると、言われた通り小さな銃創がある。
丁度額の中心部に存在を主張するそれは何だか洒落ており、恥ずかしいというよりは寧ろ誇らしかった。
が、怪我に変わりは無いので、恐らくここの損傷は冷気を扱う攻撃に支障をきたすだろう。
イーブイの進化系は額に特徴を持つ種が多く、その特徴を損なう打撃はそのまま攻撃力を損なう事に繋がる。
私とて恐らく例外では無かろう、今後はそれを補うべく精進しないと。

廊下を抜け階段を駆け下りると、途中沢山の部屋があり、その一つ一つの扉、合間の壁に絵画や装飾が施されていた。
なるほど、ここは昔ホテルとして機能していたのであろう。
イナズマの部屋に置かれた、やたらと豪華な寝具の数々はスイートルームとして用意されていたからか。
考えつつ居間を見ると、昨日ワインの並べられていた円卓には一口大に切られた木の実の盛り合わせ――パイルにオレンにモモンにマトマの盛られたサラダ――を認めた。
「おはよう、イナズマ。」
「おはよ、グレイシア。」
彼はもう食事を始めており、口をもごもごさせながら挨拶した。
「ありがと、私の分も用意してくれたのね。」
「んーあ、そそ。で、代わりにアレだ――」
彼は窓の外を見て、「畑の水撒き」と繋げた。
「えー、んー分かったわ。」
少し不満を漏らそうかと思うも、居候の身では断りようもない。
私は円卓の食事を頬張りつつ言った。
口に入れた木の実は、大戦以前であれば粗悪品と謳われてしまいそうな質素なものではあるが、今の世に評価させれば一級品である。
毎日雑草やら掘り出し物缶詰やらで食いつないで来た私の舌は賞賛の声を上げた。
「美味しい……酸味が甘味を引き立ててる。良い組み合わせね、コレ。」
「ロクなモノ食べてかったろ?お前昨日持ち上げたら結構軽かったからさ、沢山食っとけよ。」
「うん……。ありがとう。」
彼の気遣いは素直に嬉しかった。

朝食を済ませ、畑に氷雨を降らせす事で水撒きを完了させると、更に害虫駆除、雑草駆除、井戸の掃除――散々たる重労働をさせられた。
大戦後は空を暗雲が覆う事が多くなり、僅かな日の光を浴びようと背伸びをする雑草達に対して、こまめな手入れが欠かせないようだ。
やがて朝食の消化が終わる頃、イナズマが声を上げた――昼食の用意が出来たらしい。
例によって円卓にて食事をし――昼食はクラボゼリーであった――腹を満たすと午後の予定を訊いた。
「街に出て自動二輪車を売る。確かにコレは遠出に便利だが……街へは歩いて行ける距離だからな。」
予定を淡々と説明されてゆく――どうやら街で一泊する予定らしい、故に今日は念入りに農作業をしたそうだ。
「でも、この家に空き巣とか入らないの?」
「そこは抜かりない。」
「何で?」
「秘密。」
「えー?」
何故隠すのか分からないが、聞いても仕方無いのでそこで会話を終え、街を目指すべく二輪車に乗り込んだ。
今日は肩ではなく、彼の服の中に収まる事にした――冷たいと抗議されたが押し切った。
暫く同じ殺風景の後、西へ西へと走り続けると、瓦礫の山に辿り着いた。

ニューヤマブキ――人の夢のあと。
今尚厳かに構える大門をくぐると、かつては歩行者、自動車、自転車の三階層に別れて構成された道路の成れの果てが挨拶した。
瓦礫の山は威張るようにその丈を天高く伸ばしている。
「ね、ねぇ、まさか……この山を越えてくの?」
その傾斜は恐ろしく、一つ気を緩めれば簡単に転げ落ちてしまう事を示唆していた。
「心配要らんって、余裕余裕。」
何を根拠に、と辺りを見渡すと――瓦礫の一部を削って作ったらしい、荒っぽい階段が見えた。
「これが近代の最先端技術ねぇ……。哀れだわ。」
やるせない気持ちで階段を上りきると、自動酸素供給気により作られた気持ちの良い風が頬を撫でる。
「んー、やっぱこの風はいーねぇ!」
イナズマが歓喜の声を上げる。
機械排出の、地下の膨大な木々草花の作り出した空気は、中心街へと向う私達の足取りを軽くした。

露天と人とポケモンで活気付く中心街へと辿り着くと、皆が一斉に注視した――イナズマの二輪車を狙っているようだ。
物取りは日常茶飯事であり、護ってくれる法など何処にもない。
商店を開く者は必ず傍らにポケモンを置いている。
それは、必ずしも客寄せではなく用心棒としてででもあった。
瓦礫を除けムシロを敷き商売をする者、辛うじて残る建物の残骸に店を構える者、そして性的魅力を露にして身を売る者。
原料の不確かな格安の着色料理、イナズマの宅で馳走になった木の実を凌駕する小さな小さな木の実、どれも法外な値段がついている。
入れば生命を賭すのではないかと心配になる風貌の賭博施設も見えた。
東西南北の、かつて住み分けられていた生息地などまるで出鱈目なごった煮のポケモン達。
電気タイプのポケモンが特に多いのは、かつての電気製品が稼動させられるからだろう。
怒号、喧騒、爆笑、悲鳴、歓喜、爆音。
おおよそここに居る者は未来ではなく、紛れもない現在のみを見ている――明日の事を思案しても当てになる答が見えないから。

かくして、私達は酒屋のような風貌の宿に着いた。

~黒猫屋~、と書かれた看板をくぐり店内へ入る。
店内は木材を基とした円卓と椅子が広がり、暖色系の灯りが各所を照らしている。
酒場を模した店内は無愛想なポケモンの酒豪達で満ちており、ツンと酒と煙草の臭いが鼻を刺す。
カウンターへ歩を進めると挨拶が飛んだ。
「らっしゃい!王様にお姫様ご案内ッ!」
迎えたのは海賊の風貌を模し、髑髏のプリントされたバンダナをその頭に巻いたニューラであった。
「ミスター、運が良いねぇ。今日は最上のカップルのための特別室~とわのあい~半額だよ。何と最上階まるまる使ったスウィートルームで35万円ッ!!」
「一人部屋を頼みたい。あと、二輪車を売りたい。倉庫に入れて置いたから明日までに査定を頼む。」
「つれないネぇ~。」
演出のかかった歓迎を一通り済まされ、一番安い二人部屋を取った――どうやら小型のポケモンでも”ひとり”扱いらしい。
「さァー、ココだよッ!ごゆっくりー!」
三階へと案内され、ニューラはまた一階へと戻った。
安いとはいえ最低限の衛生は保たれており、シャワーまで備えられていた――歓喜して蛇口を捻ると泥水が出てきて失望した。
敷かれた絨毯は紅に彩られ、窓から望める町並みは斜陽に彩られ、染み無き寝具は純白を謳歌している。
「きゅーッ!ふっかふかーッ!」
ボスン、と音を立てて綿の海へと船出。
やはり弾力のある寝具へ顔を埋めるのは気持ちが良い、街へ来るまでの道のりで疲弊し、悲鳴を上げていた四肢は歓喜の声を上げた。
イナズマは木製のゆったりとした椅子に座り荷物を整理する。
街中では襲われる危険があるので武装せねばならないのだが、
流石に酒を飲む傍らでものものしい武器を見せるわけにも行かない。
「なーグレイシア、今からこの部屋出る気はあるか?」
「むりー、只今布団の大海原で遭難中―ッ!」
「そうなんですか、残念。じゃあ一人で飲んでくるかなー?」
私は途端に目の色を変え、ガタ、と荷物整理を終えて立つイナズマを捕らえた。
「いくーッ!飲む飲むッ!」
「ははは。飲んだくれめ。」
既に酔っ払ったかのように私はイナズマに抱き、イナズマの肩に乗って階段を下りた。

どれだけ世界が荒廃しようと、どれだけ懐が寒かろうと、命ある所の傍らには必ず酒瓶があるのだろう。きっと。
ポケモンも人間も絶えず飲み、絶えず語るその光景は、私にそんな思想を植えつけた。
「いらっしゃいませ。」
カウンター席に座るとエーフィが出迎えた。
先のニューラとは違って装飾品はつけていない。
「ソルティーガーディを頼む。」
「私はアクアマリン・ラプラスで。」
「かしこまりました。イナズマ、後で演奏するから聞いてくれる?」
「おぅ、神速のマレット捌きに期待してるぜ。」
常連客ならではの会話に置いていかれそうになると、エーフィがこちらを見て笑んだ。
「はじめまして、グレイシアさん。イナズマとは最近会ったのかしら?よろしくネ。」
「ええ、よろしく。私が捕らわれてたのをイナズマが助けてくれたのよ。」
「へぇ、やっぱ優しいのねイナズマ。後でゆっくり詳しく聞かせて貰えるかしら?」
そう言うとエーフィは小走りでカウンターの奥へと引っ込む。
やがて、少しカクテルを口で遊ばせていると、不意に照明が落とされた。
「レディース・エーンドゥッ・ジィェントルメェンッ!ショウの始まりだよ、盛り上がって行こぉ!」
スポットライトがステージを照らすと、先程の海賊ニューラがマイクを握っていた。
ステージには楽器が所狭しと並べられている、これから演奏が行われるのだろう。
「あ、あのー…ニューラさん、静かな曲やるんだから自重してくだ…」
ニューラの後ろからサーナイトが囁く。
「んぁん?いいのよいいのよ、パァーっとやるのがショウの醍醐――」
「まったく、貴方には自制心が足りないわね。これ以上調和を乱すのならステージから降りなさい。」
先のエーフィがサーナイトを援護する。
「あ、あのさ!喧嘩はやめよーよ、ね。演奏はじめよ?」
端でオロオロするリーフィアが皆をなだめ、そしてステージの各々は楽器を手にした。
今のは演出なのだろうか、聴衆は楽しげに見ている。
あれが日常の光景であったとしたら、はたして皆の息が合って初めて成立する合奏など出来るのだろうか?
私の心配を他所に、サーナイトの細い腕がピアノを奏で始めた。
静かな前奏ののち、ニューラのドラムがスウィングを刻み、リーフィアのコントラバスがその上に乗っかりベースが生まれ。
そしてエーフィはマリンバでピアノとメロディーラインを交代しながら演奏が進んでゆく。
リーフィアは体中よりつるを伸ばして弦を押さえ、ドラムと的確にテンポを合わせてコントラバスを弾く。
ニューラはその長い爪をスティックの代わりとし、アドリブもたっぷりにドラムを叩く。
サーナイトは人とよく似たその体躯を生かし、ペダルも駆使してピアノを奏でる。
エーフィはマレットを念力で動かし、トレモロを多用したソロも難なくこなしてみせた。
聴衆が各々の技巧をたっぷりと味わった後、静かな前奏とは対照的に、楽曲はテンポアップを挟みながら大いに盛り上がって幕を閉じた。
「ブラボーッッ!!」
「エクセレンッッ!!」
ベースの余韻も冷めぬ間に、歓声と拍手が巻き起こる。
私も感動の対価に拍手を惜しまずに送った。

「凄い演奏だったわ……」
「だろ?俺も始めて見た時はびっくりしたもんだ。」
「ポケモンの楽器演奏なんて初めて見た……。ほんとすごい……。」
「ありがと。」
突如エーフィのか細い声が隣から聞こえた。
「わわ、びっくりした……あなたは片付けないの?」
「今日はアタシの当番じゃないからね。ね、私の部屋に来てもらえる?」
「え――あぁ……」
私は失礼ながらも、酒瓶に目が行ってしまった。
正直なところ……そう、呑み足りないのだ。
「あー、飲ませたげるからさ、行こ行こ!」
エーフィは私の心を読み、半ば強引に私を押してゆく。
「お、ご馳走してくれるの?いいねぇ。」
「イナズマはダメよ。女同士の語り合いなんだからー。」
「……つれないねぇ。」
残念がるイナズマを余所に、私はエーフィに連れられて階段を上っていった。

伍.新都の同種間の遊愛のための二重奏
あたしの頬が赤く染まりゆく中で
高らかな高らかな貴方の声を聞き   ――モルヒネ

エーフィの部屋は私達の泊まる部屋の向いだった。
「どーぞ。」
案内されて扉が開く。
紫色の灯りが点くと、宗教色を感じさせる怪しい小物が散乱する部屋が見えた。
お世辞にもその様子は綺麗とは言い難いので、第一印象は述べずに中へ入る。
「おじゃまします……と。」
「椅子に座ってて、今ビール開けるから。」
部屋は洋風の造りで、小さな4つの椅子、円状のテーブルが部屋の中心に並べられ、奥には大きめのベッド。
椅子に座って部屋を見渡すと、部屋の隅には魔方陣が描かれており、蝋燭、水晶玉……そして鞭が置かれていた。
鞭と蝋燭……一つの攻防の光景が浮かんだがそこで考えるのをやめた。
「あー、別にそれ変な意味で置いてるわけじゃないのよ。うん。ただ、あのサーナがぶってぶってとせがむから……。」
「それを変な意味って言うのよ!」
「あ、そっか。ま、気にしない気にしない。よかったらあなたも」
「断る!」
「アハハ、冗談よ!」
エーフィは軽口を叩きながら、ビールとジョッキを並べてゆく。
「で、えーと……イナズマとはどこでどーやって?」
「んと、ここの北の辺りで彼と遇ったのよね。」
私は今までの経緯を説明した。

「へぇ……じゃあ、昨日会ったばっかなんだ。結構仲良さそうだから長いのかと思った。」
「ええ。彼には感謝してるわ。……ボーマンダとなんてとても闘いたくないし。」
「ボーマンダかぁー……。そりゃーきっついでしょうねぇ。でっかいし。」
「私もまだレベル低いし……絶望的ね。」
良く見るとエーフィは私より少し大きい――恐らく年上なのだろう。
胸も私より豊かだ……だからどうという事もないが。
「でしょう……ね……あれ、変ね……突然部屋が暑くなった気が……?」
気のせいではなさそうだ。
明らかに先ほどと比べて室温が高い気がする。
暖房でも効いているのではないだろうか?
「へへへ……それはね、アタシの魔術にかかったからだよ。」
「ほぇ……?また冗談を……う、うわっ!」
体が突然浮いた――否、これはエーフィが浮かせているのだ。
自由を奪われたまま、私はベッドへと体を投げられた。
「今度は本気よ。痛いコトはしないから……ふふ。」
「ななっ、何をするの!?」
突然の出来事に戸惑いながらも、身の危険を感じた私は攻撃の構えをとろうとして――そして、とれなかった。
「そうか……ビールに……睡眠薬……?体が言う事を聞かない……熱い……ハァハァ……」
「惜しい!ビールに媚薬でした。」
「びや……く……?」
「そう。あなたはもう我慢出来ないはず。性的な意味で。」

確かに言われると……認めたくないのだが、股の辺りが疼く。
「ゴメンね、私可愛いコを見ると襲わずには居られないの。おまけに今回はイーブイの進化系だし……フフフ。」
接客の顔とは大きく異なる、妖艶な笑みを浮かべるエーフィ。
「ぐっ……」
私はかろうじて彼女の反対方向に下半身を向けるだけで精一杯だった。
「逃がさないわ……ふふ。」
だが、健闘虚しく私はエーフィの念力によって仰向けの体勢をとらされてしまった。
両脚を閉じさせる事も許さないようだ。
ズプッ!
疼く秘所にエーフィの尻尾が先端だけ入れられる。
「ヒャぁ!」
悲鳴をあげてはみたものの、正直な所……それは少し気持ち良かった。
「やっぱりびしょびしょね……。」
エーフィの顔が膣に近づき、まじまじと覗かれた。
処女膜を有するそれを見られるのはとても恥ずかしい。
「そんなに恥ずかしがる事無いわよ?食欲が沸くと唾液が出るように、性欲を持て余すと膣が濡れるの。健康な証よ。」
「は、恥ずかしいものは恥ずかしいわよ……ここはおしっこをする所でしょう?念力解いてよぉ……。」
「おしっこ……ね。でも、他にも用途はあるわよ?例えば……」
チロッ……ジュルッ……
「ヒッ……あ、あぁ……!」
淫靡な音をたてながら、エーフィの舌が私の膣を舐めまわす。
ペロペロ……チュルッ……
「んぅ……ッ……。」
「……ネ、気持ち良いでしょう?どう?」
7割の羞恥心と3割の好奇心がせめぎ合った。
「は、恥ずかしいわ……もうやめ……。」
乱れてはならないという一心で、言葉を搾り出す。
「まだだーめ。もっと弄るわよー。」
エーフィは相変わらず――いや、先ほどよりも更に――艶やかな笑みを浮かべながら、今度は二又の尻尾を秘所にあてがう。
ぐりぐり、と軽く挿入したり、恥丘を撫で回したりと、好き放題に弄ぶ。
「や……厭……あっ、あっ……!ひゃんっ!!」
「あぁ~良い声ね……アタシも濡れてきた。」
私は普段の声よりも数段高く、弱弱しい声を上げている。
「あうぅ……いい加減にしてっ……念力を……解いてよ……!」
最後の良識で言葉を紡ぐ――が、その返答は衝撃的なものであった。
「念力ねぇ……。実は、私が舐めてる間に解いてたのよ?そっからはアナタの意志で股を開いてたの。」
「え……嘘……」
試しに足を動かすと――簡単に動いた。
私には7割の羞恥心など無かったのだ。
「抵抗したいなら、どうぞ?」
脱力した私に馬乗りをして、意地の悪い笑みと声をかけるエーフィ――私よりも少し膨らみのある胸が私の小さな胸に触れた。
「……もう……いいわ。好きにすればいいじゃない……。」
私はもう抵抗する気も無く、投げやりに言う。
「ええ。アタシも楽しませて貰うわ。」
言うとエーフィは、自身の恥丘と私の恥丘を触れさせて――そのまま上下運動を始めた。
「あ、あっ、ふあ、あぁ……」
こすり合う度に声と愛液を漏らしてしまう。
「んん……イイ感じ。」
容赦なく秘所はぶつかり合い、分泌液と快感は止めどなく溢れ続ける。
だが、ふとした拍子に大きな変化があった。
ドピュルルルルルル!
「キャァぁ……ぁ……あぁっ……!」
体を一直線に貫かれるような、快感を伴う衝撃が私を襲う。
「あーらら、潮噴いちゃった。あっ……温かいなぁ……」
私の秘所から勢い良く噴出した液はエーフィの下半身を濡らしてゆく。
彼女から仕掛けた事とはいえ、かけ続けるのは悪いような気がしたので、体の軸を右に回転させた。
「あら、疲れた?」
心配そうな表情でエーフィは覗きこむ。
「いや……汚いかな、って。」
「お気遣いありがと。でもね。」
エーフィは私が右を向いた時に零れた液体の溜まる所に――鼻をくっつけて臭いを嗅ぎ、ほお擦りをした。
「このニオイ……この感触……これが……これがイイのよっ……!」
そして、およそ意味不明の変態の言葉を聞くと、突如現れた疲れと眠気に誘われて私の意識は遠のいて行く。
「あら……寝てしまうの?じゃあ、一つ。あなたは……自分の恋心に気付いて、そしてそれを告白なさい。
約束してね。そして、おやすみ。」
「(恋心……私が……?)」
それについて考える暇(いとま)を、その時の眠気は与えてくれなかった。


陸.間奏~運命の因果はかく語りき~
"One bright monday morning I overslept, the world ended without harbinger
One bright monday morning the world ended fleeting too easily" ――neu
(ある明るい月曜日 僕が寝過ごしたら 世界は唐突に終わっていた
 ある明るい月曜日 世界はいとも簡単に終わっていた ――ノイ)

1.エーフィの話
アタシのそれまで悩ませていた頭痛が突然治ったのもあの日だった。
その日までエスパータイプを中心とした、多くのポケモンが私と同じ様に頭痛で悩んでいたんだけど、その日をもって頭痛は停止したの。
痛みを感じるのは何故か――それは身に危険が及んでいるという事を体感させる為。
世界が危険を感じた時――世界はまるで生きているかのように、世界に生きている者に危険を知らせるため、痛みを与えたよ。
そして今、痛みは消えた。
きっと、もう痛む必要が無くなったから痛むのを止めた。
それは世界にとっての脅威が去ったからか――それとももう世界は手遅れなのか――。

2.リーフィアの話
何かがおかしかった……皆がそう言う様に、やはり僕も違和感を感じていた。
朝の陽射しを浴びてもそれまでの清々しさを感じられないし……。
陽が沈むのを見ても、一日が終わるという事を感じられないんだ。
一日が始まって終わる事に、ただ満足しているだけでは駄目だ……今思えば、そういう意味だったのかもしれない。
でも、あれだけ特異な状況になっていたのに、誰もあの日が来るのを止める事は出来なかったんだ……。

3.サーナイトの話
私は苦しくて仕方が無かった。
どうしようもない、圧倒的な絶望感が体を支配して、しかも私は何故絶望しているのかも分からないのだ。
次第に私は絶望する事に、自分が傷ついて行く事に慣れ、しまいには――
自分が傷つくという事に悦びすら感じていたのだ。
そうせねば、勝手にやってくる悲観的な思想を処理出来ずに、やがては生きることを辞めてしまおうと思ったからかもしれない。
しかし、今――あの日を境にして、もう自分の気持ちが勝手に揺らぐという事は無くなった。
でも私は自分が傷ついたり汚されたりという事に、未だに快楽を覚えてしまう。

4.ニューラの話
皆おかしいおかしい、って言うけど……私は何もおかしいとは思わなかった。
エーフィの言い分からすると、私は世界にとってはどうでも良かったのかしら。
リーフィアの言い分からすると、私は過ぎてゆく毎日にただ満足していた、楽天家なのかしら。
サーナイトの言い分からすると……うーん、サーナがMだからか……アタシに彼女の言い分は分からないわ。
まぁでも、そんな事は私にはどうだって良かったわ。
今こうして、黒猫屋の店主として、皆で暮らして、演奏して生きてゆける。
ただ過ぎてゆくこのささやかな毎日が私は好きだもの。

5.グレイシアの話
あの日に近付くにつれて、私の周りは異常としか言い様の無い状況になっていった。
理由も無く焦燥感にかられて、「このままではダメだ」と漠然と意識して、でも具体的に何をすれば良いのかは分からなくて。
あれは人間が起こしたものだけれど……でも、ポケモンとて伝説級の存在が脅威になる事もある。
今力のない人間を責めたところで、やっぱり力のない私には大きな流れを変える事なんてできやしないのよね。
私はきっと、ずっと長い物に巻かれて行くのでしょう。

6.イナズマの話
俺がいずれそうなる事に気が付いた時……それを阻止する為には、それは余りにも遅すぎた。
世界は思ったよりもずっと不安定だった。
人は力を持つと使わずにはいられないものなのだ。
全てが終わってしまった今、何を嘆いたって、何を反省したって、何も戻ってはこない。
そして、今がどんなに悲惨な世界であれど――死ぬまでは生きていられるのだ。こうして。

7.ジャックの話
ニュースなんて見ても訳が分からねぇ――そう言っていた俺がニュースにかじりついた一つのテロップはこれだ。
「合衆国、核ミサイルを発射」
町中が狂っていた。喚いていた。祈っていた。
俺はモチロンそんな無様な連中のように――なったさ。
まず武器を持った。そして、ひたすら自然の多い方へと逃げた。
俺は天才さ、人間は人間を殺したがるものだ、俺はそれに気付いたんだ。
人間の居ない山奥に爆撃は来なかった。
俺は生き延びた。
そして、あのグレイシアに会って、ニューヤマブキの存在を知り、そこへ向う途中……第二の災厄がやってきた。
俺は死ぬだろう……と、一度覚悟を決めた。
だが、俺は運がいい。
運良く生き延びたばかりか、襲おうと思っていた屋敷に行ったらこうだ。
「グレイシアが欲しい。誰か心当たりは無いか。」
どうやらあのグレイシアとはまだ縁を切れないみたいだ。


「いったん崩れ始めた状況は、新しく一からつくりなおす以外決して元に戻すことはできない」
                                                                                       ――VSイマジネーター

----
- >バニラさん&br;締めが謎なんですが・・・これ、良作過ぎます。。貴方の本気を垣間見た気が致しました。&br;・・・絶対伸びますよ、コレw -- [[Zekt信仰者(w]] &new{2009-02-26 (木) 15:55:46};

#comment

IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-17 (火) 18:11:14" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=Shotgun%20Kiss" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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