「大人気! ルカリオ、ゾロアーク、ゼラオラ、エースバーン、4Pメガムカデポケモンセット、お値段なんと! 税込990,000円!」 「えーっ?! えっ、えっ、えーっ、えーっ?! これは……えーっ?! えーっ……もうっ……そんなっ、えーっ?!」 テレビでは、スーツ姿のメガネ男のMCが頻りに叫んでいてやかましい。その辺のディスカウント・ショップで買ってきたようなサンタ帽が雑に被られているせいで、大袈裟に身振り手振りをするたびにピサの斜塔のように傾いていくのを、無意識にか片手で整える仕草は滑稽だ。 「これは我が社が交渉に交渉を重ねて! イヤな顔をされながら、でもこの日のためにっ! 何度も頭を下げて実現した価格ですよっ! これはもう今晩を逃したらもう無理ですっ! 一晩限りっ! ありがとうございます、裏ではもう電話が鳴り止んでなくて、スタッフが悲鳴をあげてるのがねっ、ここからだと本当によく見えて」 「これはですね!……本当に、本当に、貴重なものでございますから!……私も長らく、こうね……ポケモンのメガムカデというのは見てきてるんですけれども……こんなにね!……素晴らしいポケモンを取り揃えた、ムカデ結合というのは!……これは! もうっ、本当に……もうっ、見たことがありませんから、もうっ、本当にっ……!」 隣にいるコメンテーターのご婦人は興奮気味にか、それとも単にボキャブラリーが致命的に不足しているからなのか、目の前の商品に対してロマン主義の詩人のような感嘆をあげ続けている。ちょうどその膨らんだ髪の上に被せられる、というよりは逆さまのアイスクリームみたいに置かれているといった風情のサンタ帽は、彼女の首元のネックレスや指の一本一本に嵌められたジュエリーとは貧相な対照を成していた。 今日はクリスマスだ。厳密にはクリスマスの25時を回るところだ。 スタジオにベルの音が鳴りわたる。ジングルベルのつもりらしい。 「まもなくSOLD OUTとなります!」 「いやね、これはね! 本当にねえっ……もうっ、私もルカリオ三連ですとかね、ゾロアーク、ヒスイゾロアークの二連ですとかありますけれどもね、こういうのを見ると流石にえーっ?! ってなりますわよねえ。私の父も、この種の『ムカデポケモン』にかけては……」 ご婦人は長々と父親(聞いたこともない世界的らしい協会の会長だったそうだ)の武勇伝を、まるで記憶のタンスの奥底から取り出すように話して聞かせた。スタジオのクリスマスツリーには、年季の入った電線が巻き付いてチープな光を放っている。藻屑にまとわりつかれたジュナイパーみたいだ。完売したという「4Pメガムカデポケモンセット」がくるくると台座の上で回っているのがクローズアップされる。ご婦人の話はその間も続いていた。 飲んでいたストロング缶が尽きたので、冷蔵庫にあったもう1缶を取りに行った。さっきのとは違う味の、ローストリンダーがあしらわれたグレープ風味。まだ2缶だというのに、もう欠伸が止まらなくなってきている。 「さて! それではここで超ッ! 豪華なゲストの登場ですよ皆さん! 特別な日にふさわしい、とんでもない方をねっ、これからご紹介しますので!」 「いやあんっ、これよりもっとスゴいものが来るのかしらん……」 MCの男は自分がいっぱしの芸能人であるかのように現場を盛り立てていた。ここで言う「皆さん」とは誰のことを言っているのだろうと考えながら、二人の背後にあるモニターに注目する。パワーポイントで一夜漬けでもしたようなクリスマス仕様のデザインは、なかなか切り替わらず、MCは両手を大きく広げたままの姿勢で固まる。これもいつものことなのだろう、男は動じることもなく、テンションは高めに囃し立てている。学校の文化祭にもこういうヤツが必ず一人はいた。 「いやはや、どうもお待たせいたしました」 モニターが切り替わると、そこにいたのはサンタクロースだった。厳密には恰幅のいい、豊かな髭を葡萄の蔦のように垂らしたJ.C.ライエンデッカーが描いたような由緒正しきサンタさんだ。サンタは低く、威厳のある合成ボイスで語った。 「何と! 今夜は! 我らがPSTVにっ、あのサンタクロースが素敵なプレゼントを送りにやって来てくださいましたあっ!」 「えーっ?! えっ、えーっ?!」 MCはゴリラのように手を打ち鳴らす。頭上のピサの斜塔がまた大きく横に傾くが、笑いすぎているせいか、しばらくそれに気がつかない。 「厳密にはクリスマスではありませんが」 上体をナッシーのように揺らす。スタジオのけばけばしい喧騒をものともせずに、自分のペースで言葉を継いだ。 「少々気取って言わせてもらえれば、本当のサンタというのは少々遅れてやって来るものなのです」 「いやあ、クールですねえ! でも今晩は聖夜にご覧の皆様のために! とんでもない! プレゼントを持って来てくださっているんですよね?!」 やたらとはしゃぐMCに対して、サンタは鷹揚に「おっほっほ」と笑って見せた。 「まあ、ご覧になればおわかりになるで——」 いきなり、画面がテンプレートの映像に切り替わった。 説明しよう! 「しょう。私としても、今夜は気合を入れてきましたのでね」 「サンタさんのプレゼントですよ、皆さん!」 「えーっ?! どんなものになるのかしらあ」 SUPER BUYERとは! 「特別なプレゼントになるはずです。ある種の目利きの方にとりましてはね」 「本当にどんなものが来るのか?!」 「私も子供の頃にはね、父上にクリスマスプレゼントなんてね、良くおねだりしていたもの」 PSTVの買付総責任者! 「サンタであるからには、単なるポルノを提供するわけにはいきま」 「そうですよねえ! 特別なものなんです! 今夜は! 本当に!」 「ですけれど、やっぱりねえ。サンタさん直々のプレゼントなんてなるとねえ」 世界中の育て屋を直接訪れ! 「せんから、一生ものの商品をお送りしたい」 「私も、本当に、見たことがないプレゼントなんですからっ!」 「私、童心に還ったようで、本当にゾクゾクしちゃうわあっ!」 ダイレクト価格を実現する伝説のバイヤーが! 「……」 「私もちょっと緊張してます! 本当にっ!」 「もうっ! 本当にっ! やあだっ、もうっ……!」 驚きの商品をお届けする! 画面が再びスタジオに切り替わると、まるで高級な料理を運んで来たかのように、台の上に銀色のクローシュが載せられていた。中に入っているものが震えているためか、カタ、カタとクローシュが震えている。 「この中にねっ、本日のサンタさんからの特別な! プレゼントが入っているんです!」 MCはとても手慣れた手つきでクローシュの取っ手を掴むが、すぐには開かずにカメラ目線で視聴者をまじまじと見つめている。歌舞伎役者のように、必要以上に凄んでみせる。 「さあ! さあ!」 その合図からワンテンポを置いて、ドラムロールが鳴り始める。音量調整を誤ったのか、一瞬、耳をつんざくくらいの音量がした。 「へえっ?!」 音に驚いて、ご婦人は叫んだ。まるで観衆か何かのように惚けた反応だった。サンタクロースは両手を組んで顎に置きながら、悠然とした態度を保って、スタジオの様子を眺めている。サンタというよりは歴戦の司令官とでも言うような振る舞いに思えた。 「いきますようっ! これがサンタさんからの! プレゼントだあっ!」 ドラムロールはまだ続いている。MCはチラチラとカメラの方を見やる。もう一度、取っ手を見つめて、また顔を上げた。口元が何かを言いたげに動きかけている。ドラムロールはまだ続く。ジリジリとした表情で、彼はタイミングを見極めていた。 「こちらですっ!」 勢いよく蓋を開けた。ドラムロールが止まり、続いて盛大なファンファーレが流れ出した。 スタジオは一瞬、沈黙した。 「……おおっ!」 「いやあんっ! やあだあっ……もうっ……うふふっ……えーっ……」 蓋の中から出てきたのは、ありふれたオナホールそのものだった。人間の男であれば誰もが一度は使ったことのある、馴染みある、こじんまりとしたマトリョーシカのようなフォルムだった。 「こ、これはっ……何でしょう?!」 「やあだっ……私、もうっ……唐突すぎて、笑いが止まらなくなってしまったわあ……ああっはっはっは……」 「大丈夫ですか! いやあ、流石に驚きですよねえ! さて、これは……どういうことでしょうサンタさん?!」 二人は背後のモニターへと振り返る。サンタクロースは不敵にも微笑んでいる。丸い老眼鏡をくいと持ち上げる動作をしながら、狼狽えているかのようなスタジオの面々を見渡していた。 「まあ、ご覧になればおわかりになるでしょう」 組んでいた手を解いて、いきなりパン、と打ち鳴らした。突然、皿の上のオナホールが空中浮揚した。 「おおっ!」 「えーっ?!……えっ、ええーっ?!……」 オナホールは緩やかにくるくると宙を回転していた。宇宙を漂っているみたいだ。『美しく青きドナウ』が頭の中で流れた。 「えーっ? やだっ……どういうことかしら! えーっ?! えーっ……」 浮遊するオナホールがご婦人の目の前でピタリと静止した。目を見開いた彼女のオーバーリアクションとそれがオーバーラップして、シュールレアリスティックな映像が意図せずして出来上がっていた。 オナホールの底から、何かがにゅるにゅるとはみ出してくる。窮屈そうにしながら、紫色をした物体が、ぷはあ、と苦しげな声を出すように口を開けた。紋様のようにぐるぐると描かれた目がスタジオの光に反射して白く見えた。 「ポットデス PENGAフォルムになります」 その様子をモニターから見下ろすようにしながらサンタクロースは淡々と言った。両手はまた顎の下で組まれていた。 「な、なるほど……!」 何もわかっていなさそうにMCは何度も頷いた。唖然としているご婦人とカメラの向こうにいる誰かを交互にキョロキョロと、迷子のように見渡している。 ご婦人の呆気に取られた顔が数秒間、静止画のように映し出された。まるで『戦艦ポキョムキン』の老婆のようだった。 「あるいは、レディメイドとでも言いましょうか」 サンタクロースは両手で顎髭をかき上げて、頬杖をついていた。まるで口の中にガムを含めているみたいに話した。あるいは、本当に何かを口に入れているのかもしれなかった。 「マルセル・デュシャンがただの便器に『泉』と署名した日から芸術のあり方は大きく転換いたしました。まあ、それとは比肩すべくもありませんが、私といたしましても、新たなパースペクティブをポケモン愛好家の皆様にご提供したいと考えた次第なのです、はい」 「あっ! はいっ!……」 MCの手元にはいつの間にか、数種類のディルドが用意されていた。いずれも愛好家の間で人気の高いブランドだ。オーソドックスなリザードン型、ヘミペニスのガブリアス型、亀頭球の雄々しいルカリオ型。棘が剥き出しになったガオガエン型、といった具合だ。 「まあ、実際に試して見ればわかることです」 サンタクロースは、ディルドをポットデスに仕向けるように指示した。MCはリザードン型ディルドを手に取って、宙に浮かぶポットデスへと近づけると、こうちゃポケモンは頬を赤らめ、顔を覆った。 「デュシャンが教えてくれたことは、視点を変えることによって、ヒトとモノとの間のありふれた関係が変化しうるということでした。あらゆる現代アートの出発点ですな。ところで私が試みたのは、単なる性の捌け口に過ぎないオナホールというものの様相を根底から覆すということでした。普通、オナホールとは徹頭徹尾、受動的です。そこには何らの抵抗もない。オナニーをする者は、ただ己の欲望のままにそこに性器を突っ込んで腰を振るなり、シュッシュッ(サンタクロースは到底相応しく無いジェスチャーを織り交ぜたので、突然画面がMCの緊張の面持ちのアップに切り替わった)、とすればよろしい。無論、それで十分快楽にはなる。しかし、虚しさも大きい。所謂当世流行の『人新世』においては、性の格差は如何ともしがたいものがあります。まあ、私どもの生業はそこに立脚しておりますから、微妙な問題ではありますがね。しかしながらそうした虚無感を少しでも埋め合わせるにはどうすればいいのか? 性生活を少しでも豊かで文化的なものにするには? そこで私は『泉』に想を得たのでした」 MCは固唾を飲んで、ディルドをポットデスの潜むオナホールへと挿入した。ポットデスは激しく抵抗した。ご婦人の方は口をあんぐりさせたままだ。 「どうです? オナホールの反抗とは、なかなか倒錯的とは思いませんか?」 サンタクロースは慈愛を含む笑みを浮かべた。 「すなわち、モノのあり方をほんの少しズラすことが肝要なのです。ポットの中に住み着くポットデスを、オナホールに住まわせてみるようにです。たったそれだけのことで、オナホールも、ポットデスも全く別の様相を呈し始めます。この子を調教するのはなかなかの手間でした。無論、適切な個体の選考から入念に行いました。私がイメージしたのはディストピア小説でした。たとえばオーウェルの『1984年』の主人公のように、体制に叛逆しながらも、最後は順応せざるを得なくなる、そういったものです。このポットデスもまた、己の運命を甘受することにしたのです。そして今やオナホールに住み着くことも悪くないとさえ考え始めている」 「へえっ……!」 MCの男は声が上ずっているのを取り繕おうともしなかった。ディルドをオナホールの入り口で何度も押し合いへし合いしている内に、ポットデスは抵抗を弱めた。長尺のリザードン型ディルドがゆっくりと、着実にPENGAの中へと収まっていった。 「調教の過程で何度も液体を顔面に浴びて、私も何度かお腹を下してしまいました。しかし、そうした手間暇に相応しいほどの一級品であると、自負しております」 「まあっ!……えーっ?!」 ディルドがゆっくりと抽挿されるのがクローズアップされる。挿入部分が、その反り勃った形を受け入れて柔らかく拡張され、抜き出されるとキュッと窄まる。それに合わせてポットデスの霊体が打ち寄せる波のように外へはみ出しては、吸い寄せられるように引いていった。きゅっ、きゅっ、という悲鳴にも嗚咽にも歓喜にも聞こえる音が聞こえた。MCが徐々にそのスピードを上げるに従って、それはきゅーっ、という金切り声へと収斂した。まるで点線が細かくなっていって、一本の直線と見分けがつかなくなるように。 「このPENGA自体、市販のものをそのまま利用しております。これもレディメイドというものです。ですがご安心下さい。ポットデス——この場合はペンガデスとでも言うべきかもしれませんが——が全てを処理してくれます。精液も、亀頭に付着した汚れも、何もかも丁寧に掃除してくれます。アメーバのように、体内に取り込んでくれるのです。あとは簡単な水洗い程度で、何度でも使用可能です。これだけでも十分価値があるかと思われます。まさしくエコです。まあ我々の業界はエゴの塊ですがね、それでも少なからずSDG’sに貢献できるというわけです。持続可能なハッテン、というやつですか、ハハハ。それに、ふていけいタイプのポケモンの老廃物は総じて埃の塊のようなもので、不潔さはありませんし、潔癖症の向きにも抵抗感は無いかと思います。いわば、機能の優れた掃除機のように、お手軽にゴミを処分できるというわけです」 「なるほどっ! これはっ! スゴイですよ皆さん本当にっ! 何というか、新感覚と言いますか……!」 「まあっ……こんなっ! へええええっ……! ああっ!」 サンタクロースは欠伸を噛み殺す仕草をした。目はトロリと垂れて、優しさを湛えているのか、ただ単に眠気に囚われているだけなのかわからなかった。 「このオナホール自体が男性器に与える快感については無論言うことはございません。しかし、そこにポットデス特有の霊体が加わることによって、締め付け感がより向上するのみならず、そこに『犯している』という新たな手応えが付加されるのです。この子は抵抗しつつも、受け入れ、快楽に堕ちる、というある種の男性が抱く妄想のプロセスをオナホールの中において実現してくれます。巨根でも、まあそれほどのものではないにせよ、この子は分け隔て致しません。私どもはそこには抜かりありません。ダイヤモンドコーティングを施したフライパンのように、厳しい審査を乗り越えた適正のある個体を、この為にセレクトいたしましたから」 「こ、今度はこれですよおっ……!」 と上ずった口調のまま、MCはガブリアス型、ガオガエン型、並べられたあらゆるディルドを『ペンガデス』に挿入した。そのどれもがフィットし、中からきゅっ、きゅっという声がした。 「もはやオナホールは性の捌け口などではなく、これ自体が『オカズ』にもなるようになりました。この子は驚くべき性体験をもたらすでしょう。単なるオナホールが、ラブドール以上の、かけがえのない存在となるのです。もちろん、何か好みのものを鑑賞しながらの利用もオススメできます。例えば、先ほどの『メガムカデポケモン』を眺めながら、『ペンガデス』を用いる、と言ったようにですね。ええ、絶倫の方であれば、永遠に射精することができるでしょうな。性の永久機関の誕生です。『せいき』の大発明です」 スタジオの二人は数秒間、無言になり、視線を宙に泳がせた。ご婦人の表情はさっきからピクリとも動いていないようにさえ感じられる。ユキメノコにでも凍らされたかのようだった。サンタクロースはもぞもぞと白い口髭を揺らした。 まるで括約筋が働いているかのように、太いディルドがPENGAから抜けて、ぽん、と気の抜けた音を立てた。後からポットデス(ペンガデス)が顔を出して、ぜえはあと息を吐く。搾取された労働者のような苦労と諦観がそこには滲んでいた。 「無論、男性用だけというのは現代的な価値観には大いに反するものです。私どもとしても、現今の第4波フェミニズムの潮流を度外視するわけには参りません。ですから当然、女性用のirophaもご用意しております」 「それがこちらになりますね!」 「ええ。こちらのポットデス——まあイロファデスとでも呼んでおきましょう——は打って変わって無頼型な個体をセレクトしてみました。時に蛮勇を犯しながらも、その実繊細な個体、とでも言いましょうか。故に攻める時は容赦なく、しかし事後は悔悟する。使用した方ならば、きっとディルドに対して特別な感情を抱かずにはいられなくなると思います。かの大庭葉蔵に対するようにですね。ですが、それこそ私が意図したことなのです」 「へーっ! まあっ、そんなっ……やだあっん……えーっ……」 「女性器に挿入した途端に、無論張型自体が心地よいオーガズムへと導くのはもちろんのこと、この子の霊体が子宮全体にまで及んでいきます。メタモンなどにやらせるよりもずっとお手軽で無理がない、疑似的な子宮姦をここに実現いたしました。アブノーマルな行為に抵抗を持つご婦人方でも、気軽に最高級の倒錯的な性の悦びを得ることができるでしょう」 「やーんっ……やーんっ……!」 ご婦人がヤドンのように鳴くのをMCは聞いていなかった。カメラの方へと何度も目配せして、オドオドとしている。それを見かねてか、画面は色とりどりのPENGAの並んだ商品画像へと切り替わった。『ペンガデス』たちが、ふわふわと宙に浮いている。 「ええと……えっと、そうですね! さあ、こちらの『ポットデス PENGAフォルム』! そして『ポットデス irophaフォルム』! それぞれ何とっ! 限定10本! いよいよ、お値段のっ……こちらになります!」 「やーん、こんなの見たこと無いわあ……やぁーん……えーっ!……どうなのかしらねえ……私長いことこの業界で色々なものを見て参りましたけれどね、やはりお父上が生きていた頃とは随分……えーっ……」 使い回しのファンファーレとともに、価格と電話番号が表示されると、手持ちのスマートフォンにその番号を入力し、電話をかけた。 「おっと、少し失礼しますよ」 サンタクロースがニヤリとして、困惑する二人をよそに音声を打ち切った。こちらのスマートフォンは4回目の着信音が鳴りかけたところで、反応があった。 #hr 「やはり、あなただと思っていましたよ」 サンタクロース、ではなく、少しやつれたデリバードの男の声がした。スピーカー越しにあのタバコとコーヒーの混じった刺激臭が感じられそうだった。 「あなたでしたら大いに歓迎です。サービスもいたしますし、特別なサポートもおつけいたします。きっとこのレディメイドを気に入ってくれると、私は確信しておりますからね」 デリバードはしばらく、極めて個人的な雑談を始めた。テレビではサンタクロースが無音のまま、口をもぞもぞと動かしている。MCとゲストのご婦人は不条理演劇のように交差することのない会話を交わしながら、この場をやり過ごそうとしていた。 「そちらは最近いかがです? ええ、こちらは相変わらず、兎追いしかの山ですよ。資本を持ってる連中にとっては毎日がクリスマスなんです。サンタが何人いたって足りません。この間なんて、ヒバニーに炎を浴びせられて、危うく焼き鳥になるところでした、やれやれ、ですね」 ぷふぅ、とデリバードは息を漏らした。あの太鼓腹が目に浮かぶようだった。 「あのガメノデスはいかがでしたか?……そうですか、ご愛顧いただき感謝の限りです。まさしく風来のペニスですな。あの子を生み出すことができて、私は大いに誇りに思っているのですよ、いえ、本当に」 デリバードはそれから一通り型にはまった説明をした。商品の発送について。年末年始の混雑状況と配送の遅れの可能性に関して。一字一句、ビジネスライクに話してみせた。サンタクロースは顎髭を撫で、空いた方の手で腹の辺りを弄っていた。 「『デリ・ヘル・バード』をご利用いただきありがとうございました。メリークリスマス。いや、少々時期がズレてしまいましたな。しかし、大人にクリスマスもクソもありません。そうでしょう? ねえ、まあ年の瀬ですからあなた様もお身体にはお気をつけ下さい。ああ、それから、よいお年を。来年はいい年になるといいですな、ええ、お互いにです。そうじゃないと困るでしょう? ハハハ」 デリバードはゲップのような音を漏らして、おっと、と思い出したように電話を切った。画面上のサンタクロースはご満悦そうな表情でカメラを真っ直ぐに見つめていた。 &size(30){DELI HELL BIRD 2 ~PSTV~}; #hr &size(25){これがwikiのクリスマスだ! 3日遅れだけど、ね!}; [[群々]] #hr https://www.gstv.jp/ ↑元ネタです。シュールな深夜の通販番組が僕は好きです。 #pcomment(DHB2コメントログ,10,below)