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Memory  Lost existence 迫りくる破壊者 の変更点


この話も、とうとう十章に突入!!  …ただそれが言いたかった。
&color(Red){暴力表現を含む予定です、注意!!}; 

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「…ふぅ、これでいいかなぁ?」
俺は修理を終えた山小屋を見て、満足してうなずくミナモに話しかける。
「いいんじゃない、上出来よ。」
嬉しそうに言うミナモのそばで、木材で指を切ってしまったエルが包帯を指に巻き付けている。
エル自信は張り切って仕事をやってくれていたが、少々足手まといだった気もする、しかし、これも御愛嬌だろう。



&size(20){&color(Red){Lost existence 第十章 迫りくる破壊者};};
&size(30){&color(Red){Lost existence 第十章 迫りくる破壊者};};




「ありがとう、助かったわ。」
山小屋から冷水を持って出てきたパームが、後ろから声をかけた。
「…いやぁ、連れを助けてくれたんだから、当然よ。」
パームから水を受け取りながら、嬉しそうにミナモが笑う、やっぱり彼女には、殺しよりもこういう風に笑っていたほうが似合う。

「…だいぶ暗くなっちゃったし、今夜は泊っていけば? 手当だけでここまでしてくれたんだし、今夜は手料理でも御馳走するわ。」
「え? いいんですか!!」
突然の誘いに、俺は思わず声を上げてしまった。
「お言葉に甘えて、今日は止めてもらおうよ、さすがにこの時間じゃ今日中にこの山を越えられそうにないしね。」
「…ああ。そうしよう。」

俺たちは迷わず同意した、彼らは悪人には見えないし、最近荒んだことが多いので、ここで体を休めたいところだったからだ。
今日ぐらい人間や神官など、余計な物を忘れてゆっくりとしたい、それはミナモも同じだろう。
…それに、多分彼女が一番色々な事で傷ついている、少しはミナモを休ませてやりたい。

「じゃあ、よろしくお願いします。」
俺がパームに向かって頭を下げた、そして顔を上げたとたん、俺の顔に何か水のようなものがあたり、頬を伝って地面に流れ落ちた。

「…あら、雨…、大変、三人とも早く家に入って!!」
パームが小屋に駆け寄って扉を開く、そのとたん俺の横をエルが走り抜け、家の中に入って行った。
「俺たちも行くぞ、ミナモ。」
地面に転がっている木材を拾い集めているミナモに向かって声をかけた後、俺は家の中に入ろうと進んでいく。

「…ん?」
もう少しで家の中に入るかどうかというところで、俺は不可解な事に気を取られて、足を止める。
この山を下った所にある、人間の町の方角から、雨音に混じって何か轟音のような音が一瞬聞えたからだ。
「……何だろう?」
もう一度神経を使って、耳を立ててみるも、轟音はともかく、不可解な音はなにも聞こえず、ただポツリポツリと本降りになる前の雨音しか聞えなかった。

「…気のせい、かな…。」
木材を片づけ終わって、こちらに走ってくるミナモの姿を見つめながら、俺は小屋の中に入って行った。


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…それから俺たちは、パームの手料理を食べながら、二人と色々なことを話した後、もう遅かったので眠ることにした。
「よく考えたらさ、旅を始めてから初めて屋根のあるところで眠れたよね。」
小屋の奥の部屋に通されて、ミナモは嬉しそうに呟いた。

「ていうか、もしかしたらあたし、人間に襲われて以来初めての経験だよ、でもまさかその経験が、人間と一つの屋根で眠ることなんて、あの頃は思わなかったよ、未来はわからない物なんだね。」
「…そうだな。」

彼女の言葉の「人間」の部分が少し引っかかり、俺は床に寝転がった。
「…なぁミナモ、お前はエル以外の人間のこと、どう思っているんだ?」
俺は溜まっていた疑問を彼女にぶつけた、おおかた答えは推測できるが、こう面と向かって言うのは初めてだろう。

「…憎いよ、全員ってわけじゃないけれど、ほとんどの奴が自分勝手で、色々な物を壊す、でもエルのようにいい奴がいるって、信じてた。」
「…そうか。」
俺は答えを聞いて、少し安心したような気がした。
それが何故かはわからなかったが、多分、彼女がそう思っているうちは完全に復讐の鬼にはらないという保障のような気がしたからだ。

「ならいいんだ、ありがとう。」
「…ちょっと、結局あんたは何が言いたかったの!!」
「別に、ただ聞いただけだ、お前もよくあるだろう?」

俺は枕元に座ったミナモを少し見た後、目をゆっくりと閉じてみた、すると、視界が閉ざされたせいか、周囲の音が鮮明と聞えてきた。
となりの部屋から聞こえるエルが寝がえりを打つ音、ミナモが後ろ足で頬を器用に書く音、さまざまな音が優しく耳に届き、俺はそのまま寝入りそうになった。

しかし、優しい「音」の中に、ここには不自然な音が耳に届き、徐々に大きくなっていった。
それは夕方聞えた、轟音、そのときは少ししか聞こえなかったが、今は詳しくわかる、何か機械のようなものが、思い身体を引きずって動いているような、不自然で、不気味な音だった、もう少し詳しく言うと、車が何台も徒党を組んで、小枝を踏んでいるような、気味の悪い感じの音だ。
そんな音がはっきりと聞えてしまったせいか、俺は先ほどまでの睡魔が吹き飛び、勢いよく体を起こす。
「…ミナモ、妙な音が聞えるか!!」

俺は自然と大声になって、ミナモの肩を掴む。
「やっぱりルークも聞えるの? 耳鳴りかと思っていたけれど、これって何なの?」
…ミナモにも聞えていたのか、それならばこれは多分、何か危険が迫っている気がした。

「何か嫌な予感がする…、とりあえず、音の主を探ろう、多分原因は外だ!!」
俺は小屋の壁に備え付けられている窓をあけ、身を乗り出して外の様子をうかがった。
「……これは!?」
俺は自分の目を疑った、窓の外に沢山の光の玉が見えたからだ。
驚いてよく目を凝らして見てみると、徐々に光の玉の周りにぼんやりと輪郭が浮かんできて、危険な正体を現した。

それは、沢山の車だった、しかも工事用の巨大な機械を取り付けた物で、大きな歪んだ板を物を取り付けたような物や、鎌首を持ち上げているように見える機械が付いている物など様々な種類があった、しかもその中の一台の部品には、ぼんやりとしか見えていなかったため種類はわからなかったが、逃げ遅れたと思われる動物型のポケモンが突き刺さり、機械の振動に合わせて不気味に動いていた。
「…人間だ、しかも沢山の機械を持っている、多分ここを壊す気だ!!」
「なんだって!?」
ミナモは起き上がると、窓に駆け寄って、俺を押しのけ、数秒間外に顔を出した、そして状況を飲み込んだのか、険しい顔をして叫んだ。
「…ルーク、あの親子を起こして、できるだけ遠くに逃げるのよ!! あんなのと戦っても勝ち目なんてないから、できるだけ逃げるのよ!!」

俺は顔をこわばらせながら、黙ってうなずいた。
「そうと決まれば、早く二人を起こして、…ううん、あたしが起こしてくるから、出口の確保を!!」
ミナモの叫び声に押されて、俺は部屋の扉を勢いよく開け、エルら二人が寝ているリビング部分に半ば転がりこむように入り、そのまま外につながる扉を開いた。

「起きて、外が大変なことになっているの!!」
後ろでミナモが眠っているパームをゆすり起こしている、俺は引き返すと、眠そうに目をこすっているエルの腕を掴み、外のほうに引き寄せた。

「いいか、多分ここはもう持たない、辛いと思うが、家を捨てて逃げるぞ!!」
「……え?」
エルは全く訳を理解していないようで、頑なに首を振る。
「…だから、いま危険が迫っているんだ、外を見ろ!!」
強引にエルを扉の方に向け、外の光景を彼に見せる。
扉の向こうに見える無数の光球の周りにぼんやりと見える巨大な車の群れは、今はだいぶ近づいてきたのか、はっきりと姿を見てとれる。

「……何よ、あれ…。」
後ろから怯えたようなパームの声が聞えた、どうやら彼女は自分の身がどのような状況に置かれているのかわかったようだ。

「あれはここを潰そうとしている、いや、ここだけじゃない、ここら辺一帯を全て切り崩して、何か建てようとしているのよ、人間は基本そういう生き物よ、例外はいたけれど!!」
少し皮肉を交えながら、ミナモが叫ぶ。
「ここを出るぞ、準備なんていい、あいつらは大体数十メートル先までに迫っている、うかうかしていたら死ぬぞ。」

俺がぞの台詞を言い終えるかどうかの内に、パームは呆然と立ちつくすエルを抱え、外へ飛び出して言った。
「あたしたちも行くよ!!」
ミナモが一声上げると同時に、俺は彼女と共に小屋を飛び出し、今まで歩いてきた方向、つまり山の奥のほうの方角へ向き直った。
「…いい、とにかく山のほうに逃げるよ。」
パームにそう言い捨てると、ミナモはわき目も振らず山の方に走り出す。
「二人とも、今はあいつに付いて行くんだ、今は何も考えるな。」
俺も後ろの二人に合図した後、彼女の後を追いかける。


後ろで轟音と共に、崩壊する何かの音を聞いたのは、それから少し走っただけの、短い時間の間だった。


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「…何だ?」
背後の破壊音に気を取られ、俺は走りながら後ろを振り返った、するとそこには一台の巨大な車両に取り付けられた「部品」によって見るも無残に取り壊された、エルの家だった。

「あいつら、せっかく手入れをしてやった家を!!」
「今は我慢よ、ルーク、家なんかよりあんた達の命が一番大事って事、わかってるでしょ。」
そう言うとミナモは、体の向きを少し右に傾け、そのままの勢いで脇道の茂みに飛び込んだ。

「…逃げなくていいのか?」
「もう逃げるのはいいと思う、こういうタイプの奴は隠れたほうがいい、…ほら、あんた達もぼーっとしてないで隠れなさい!!」
「…分かった。」

俺は後ろを振り返り、後から付いてくる親子の姿を確認すると、ミナモが息をひそめている茂みのすぐ隣に入り込み、伏せた状態で茂みの下から外の様子をうかがった。
「なぁ、隠れたほうがいいってどういう意味だ?」
隣の茂みにパームとエルが隠れた物音を聞き取りながら、少し顔をミナモに向けて傾け、彼女に問う。

「あれは、別にあたしたちを狙って動いているわけじゃない、知っていると思うけれど、あいつらはここに何か建てるつもり、だから別にあたしたちを殺そうなんて眼中にもないのよ、あそこにぶら下がっている死体だって、ただ巻き込まれただけで、人間が直接殺したわけではない、だから、こうして隠れていれば…。」
そこまで言いかけたとたん、ミナモは何かを察知したように体を震わせると、茂みから後ろに飛び退いた。
「…ミナモ……?」
次の瞬間、先ほどまで彼女が潜んでいた茂みに、数発の銃弾が、音を立てて着弾した。


「いけない、すぐに茂みから出て!!」
彼女が叫ぶと同時に、またしても銃声が聞え、彼女の近くに生えていた一本の木にあたり、銃痕を残す。
「……えっ、何で攻撃してくるんだよ!!」
いきなりの攻撃に戸惑いながらも、何とか茂みからはい出し、ミナモの傍に近づいた。
「…おい、直接は攻撃してこないんじゃなかったのかよ!!」
「わからない、でも、あそこにいる車の上に銃を構えた人間が見えた、…ていうか、今は逃げないと!!」

俺たち二人が話している間に、茂みの中からエルがはい出してきた、彼女はそのことを確認したように首を縦に傾けると、後ろを向いて走り出した、が。

「…待って!!」
突如後ろからパームの叫び声が聞え、彼女は動きを止める。
「何?」
振り返ってみると、パームはまだ茂みから出ておらず、顔をわずかに茂みから出していただけだった、その表情は俺が見ている方向からは全く見えなかったが、かなり緊迫した口調だった。

「何してるのよ、早くして!!」
ミナモは苛立ったような口調でパームの潜む茂みに近づき、強引に彼女の体を引き出そうとした、しかし、ミナモは何かに気がつき、思わず出した前足を後ろに引っ込める。

「…えっ…まさか、撃たれたの!!」
ミナモはパームの体を慎重に引き出すと、そのまま仰向けの体制に直す、すると、無残にもわき腹に大きな穴が開いていた。

「…ごめんなさい…私は……行けないわ……。」
途絶え途絶えに息を荒げながら、苦痛の表情を浮かべるパーム、なぜ今まで俺は彼女が撃たれたことに全く気がつかなかったのだろうか。

「お母さん!!」
エルは苦しそうに息をするパームの傍らに飛ぶように近づくと、涙目になりながら彼女の体を揺さぶる、パームは半ばパニックになっているエルの顔を両手で撫でると、静かに呟くように、エルに告げた。


「……逃げて…私のことはいいから…。」
「嫌だ!!」
息も絶え絶えのパームの声を聞くなり、エルは彼女の腕を振りほどき、思い切りその腕に取りついた、そこを格好の的にされたのか、銃弾がどこからか降り注ぎ、パームの腕に命中し、彼女に取りつくエルの腕は鮮血で真っ赤に染まった。
「エル、お母さんはもうダメだよ、あたしたちと一緒に逃げよう。」
ミナモがエルをパームから強引に引き離そうとするが、彼は悲鳴のような声を上げると、さらに強く彼女の腕を握る。
「お願いっ、エル、言うことを聞いて!!」
パームは悲痛な叫び声を上げるも、逆に彼は力を込めて彼女に取りつき、決して離れようとしない。

後ろの方で銃声が聞えて、俺はとっさに固まっている三人を庇おうと前に出る、そして鈍い音とともに銃弾は俺の右腕の爪に当たり、体中に鈍い痛みが走った。
「あぁぁぁっっ!!」
痛みを堪え、恐る恐る腕を覗き込むと、俺の爪は大きく欠けていて、血が流れ落ちていた。
「…ルーク、悪い…。」
ミナモは血みどろの爪を少し凝視した後、何かを決意したかのように目を瞑り、前足を振り上げるとエルの背中に思い切り振りおろし、とたんに彼は失神したのか、うつ伏せになってパームの体に倒れこんだ。
「…ごめんなさい、パーム、エルに手荒なことして…、でも、これからエルを安全な場所に連れていくから…。」
ミナモの言葉に対し、パームは何も言わなかった、その代わりに、ただ息を辛そうに荒げているだけだった。
その様子を見届けると、ミナモは気絶しているエルを抱き上げようとする、しかし、彼女の力ではどう頑張っても彼を持ち上げることは不可能な様子だったので、俺は彼女に歩み寄り、銃弾を受けていない左腕だけを使ってエルを抱きあげた。

「…エル君を避難させた後、必ず迎えに来ます、だからその時まで…、生きていてください。」
俺は虫の息のパームに声をかけた後、急いでその場を離れた。
後から銃声が何発か聞こえたが、一度も振り返らず、山の奥目指して、ただ、走り続けた…。


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だいぶ走ったところで、山頂近くの崖のような場所にたどり着くと、ミナモは足を止めた。
「うずくまってから、崖下、見てよ。」
「……ああ。」
俺はエルをその場で下ろして伏せた後、ゆっくりと崖から顔を出して、今まで通ってきた道を覗き見ると、下には沢山の工事用の車が作業を始めていた。
「…ほら、後ろの方だよ、見える?」
「後ろ?」
よく目を凝らして見ると、ぼんやりとしていたが、そこには作業用とは思えない、いかつい戦車が沢山配置されていた。
「…あれって、戦車だよな、戦争の時とかに使われるやつ。」
「そう、でも何でこんなところにあるんだろう? まさか、どこか攻めに行くわけじゃないよね…。」
「確かに、ここ最近戦争が起こる予感は無かった…、って、おい、ミナモ見ろ!!」

俺は思わず驚きの声を上げてしまった、なぜなら、戦車の列の脇に位置する茂みの中を、一匹のアブソルが走り抜けていったのだ。
「アブソルだっ、災いの前兆に現れるっていうポケモン、まさか本当に戦争が!?」
「…あんたねぇ、そんな迷信、今では信じている奴なんていないよ、…でもなんでアブソルのような希少種が、こんな所にいるんだろう?」

もはや茂みの中に消えて行ってしまった後を見ながら、ミナモは少し悲しそうに呟く、アブソルは先ほどの言い伝えに加え、その鎌のような角が逆に災いを跳ね返すと言われて、乱獲が進んでしまい数が激減し、今ではとある雪山に少数が住んでいるだけとなってしまった、そしてミナモには、人間の都合で殺されてしまった彼らの苦しみが、痛いほどわかるのだろう。
「…脱走した奴かな? まさかこんなところにアブソルが密かに集落を作っていた、ってわけじゃないようだし…。」
ミナモはそのアブソルについて、勝手に詮索していた、だがすぐに顔を上げると、俺たちが伏せている崖のやや斜め上空に、氷の光線のようなものを吐き出した。
「……ミナモ、一体何したんだ?」
俺が彼女に訪ねたと同時に、目の前に大きなヘリが、轟音を上げて崖下に落ちて行った、ヘリのプロペラ部分には氷が張りついて、完全に制御できる機能を失っている。
「…あれ、ずっとあたしたちの上から見ていたみたい、何するのかわからなかったかったから、やったの。」
地表に墜落して炎上するヘリを見つめながら、彼女は冷たく言い放って、立ち上がった。

「行くよ、このままここにいるのは駄目だ、さっきアブソルがいたせいか、何か、嫌な予感がする…。」
「嫌な予感って…何だよ?」
俺は急いでエルを担ぐ、かなり時間が経っているが、彼は全く目を覚ます気配はない、一応心臓の鼓動は聞えるので生きていることはわかるが、大丈夫なのだろうか。

「なぁ、そんなにこの状況が悪いのか? …確かに厳しい状況ってことはわかるけれど…。」
「…さっき飛んでた機械撃ち落としたでしょ、あれやったのばれたら、それこそ人間はあたしたちに本気で襲ってくる。」
ミナモは俺と目を合わせず、少し身を低くして、忍び足で歩きだした、俺はエルを担いでいるので伏せることはできないため、できるだけ身をかがめた恰好で、その後を追いかけた。

出来るだけ身をかがめて歩いていくと、後ろの方で鳴り響く銃声が、さらに大きく聞えた気がして、思わず俺は身を震わせる。
「ミナモ、何だか銃声、近くないか?」
自分の割れた爪も痛みや、パームの傷の具合などで、俺はすっかり銃に対する恐怖心を抱いてしまっていた。
「…確かに近いけれど、それより何のために銃や戦車をこんなに配備したのかが知りたいわね…。」
彼女は足を止めると、こちらに振り返って、自分の疑問について話しだした。
「確かにそれは俺も知りたいけれど、俺たちはここから逃げられそうなのか?」
「そんな泣き言みたいなこと言うより、逃げようと頑張ったほうが賢明よ…。」

そうミナモが言い終わった少し後、今までずっと鳴り響いていた銃声が、全く聞えなくなった。
「…何よ、逆に不気味だわね…。」
ミナモは不安そうに呟き、その場で左右を見まわした、彼女の行動に触発され、俺も彼女と同じく周りを少し見渡してみた。
辺りは全く何もないと言えるほど、殺風景で草むらが転々と茂っているような場所で、隠れるには不利な地形だ、仮に今人間に見つかったとなると、絶対に生き残れないだろう。
「…終わったのかな?」
一言つぶやくと、ミナモは安心したのか、伏せているような体制から体を起こし、その場で座り込み、前足で前髪にあたる部分の汗をぬぐいだす。

「…それにしても、人間は工事をするわけでもなければ、戦争でもない、あいつら、何がしたかったのだろう?」
俺も緊張を解き、ゆっくりと空を見ようと、上を向いた。
「後でパームさんを探しに行かなきゃな、生きていてくれればいいけれど…。」
そう口に出して、俺はパームと別れた場所の方角に、ゆっくりと顔を動かした。

その方角は東側で、今まさに朝日が昇ろうとしていた、そして朝焼けを少し眺めていた時、俺の視界の端に何か不可解な影のようなものが映った。
「……え?」
慌ててそちらに視線を向けると、そこには一人の人間が銃を構えて、立っていた、しかも、兵士が戦場に赴くときに着るような服を着て。
「…しまった、逃げろ!!」
俺は声を張り上げ、エルを担ぎ直すと、きょとんとしているミナモの方に走り出そうとした、しかす、その時にはもう遅かった。

「………きゃうんっっ!!」
人間の銃が火を吹き、数発の弾丸を打ち出した、そのうち何発かがミナモに命中し、彼女は高い悲鳴を上げて倒れ、痙攣したのち動かなくなった。
「ミナモッ、大丈夫かっ!!」
俺は急いでエルを担いだままミナモに駆け寄った、うつ伏せで倒れている彼女の左肩には、数発の弾痕が痛々しく気ざまれており、血が流れていた。
「返事してくれっ、ミナモ!!」
彼女の体を揺さぶっていたとき、またしても銃声が鳴り響いた。
「…ぐあぁぁ!!」
今度は俺の足に弾丸が当たり、激しい痛みで俺はその場に倒れこみ、エルを手放してしまった。

「…やばい、このままだと…。」
俺は持てる気力を振り絞り、痛みに耐えながら立ち上がろうとするも、すぐに激痛に負けて、その場にしゃがみこんでしまった。
必死になって辺りを見回すと、何人もの人間が俺たちを取り囲み、こちらに銃を構えていた。
「……軍用地の開発に居合わせてしまったのが、運のつきだな。」
集団の後ろに、おそらく狭い山道を無理して登ってきたらしいジープが、数台止まっているのが見えた、そのうちの一台から、体の大きな、太った男が下りてきて、近づいてきた。
「…抵抗の可能性は無いのだな?」
男はすぐ近くまで来ると、オレたちを取り囲んでいた人間の一人に訪ねた、ここまで来ると彼の姿がよくわかる、彼は典型的な軍服を着ていて、肉で覆われたような醜い顔つきをしていた。
「はい、ありません、ノーム少佐。」
「そうか、なら話は早くすむ。」

ノームと呼ばれた男は俺の前に立つと、靴で思い切り俺の膝を踏みつけた。
「ぐあっ!!」
ノームは痛がる俺の反応を楽しんだかのように舌舐めずりをすると、さらに靴に力を入れた。
「…君は、68人もの人を殺した、殺人グレイシアの連れだよな。」
「ぐぅ…、そんなにミナモは殺しをしていたのか…。」
痛みで呻いている俺に追い打ちをかけるように、ノームはそのまま俺のあごに蹴りあげを決めた。
「君たちは殺しをしすぎた、軍からもマークされている、それなのに基地建設予定地に入るとは、そんなにも死にたかったのか?」
先ほどの蹴りで地面に倒れた俺に向かってノームは、胸ポケットからピストルを取り出して、俺の頭に突き付けた。
「覚悟はできているな、人間に逆らった奴がどうなるかぐらい、知っているな?」
ノームはせせら笑いながら、ピストルの引き金を引こうとした。
(……終わりだ、せめてエルだけは、逃がしてやりたかったな…。)
俺は観念してノームを睨みつけるのをやめ、目をゆっくりとじた。




……その時、一陣の風が吹き抜けて行ったのを、俺は知らなかった。


十章終わり、[[Memory  Lost existence 災厄の白獣]]に続く

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まさかのアブソル登場、一応ミナモ達は八章でアブソルと出会っているのですが、いいんです、コラボだったんで。
今までで一番更新期間が長い章になりました(笑)


そして、春風の生命を維持しているコメントはこちらに。

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