第五章、始動しました。 BY[[春風]] [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 「…で、ノクターンが生きていて、なんか大がかりなストーカー集団があたしを狙ってるってこと?」 「ああ、ストーカーじゃないと思うけどな…。」 &size(20){&color(Red){Lost existence 山脈を越えて};}; &size(20){&color(Red){Lost existence 第五章 山脈を越えて};}; すやすやと眠る小さな姉弟に、毛布(もちろん盗品)をかけながら、俺はノクターンの狙いを伝えた。 俺たちは、子供を連れて町から逃げた後、山脈のふもとで野宿をすることにした。 「女の子をつけ狙うって言ったら、ストーカーしかいないじゃん、変態じゃん。」 「いや…、そうじゃなくて、お前の名字って本当は長ったらしいじゃん、たしか…。」 「ようは、あたしの家系となにかしら関係があるかもしれないって言いたいわけ?」 …鋭い、いや、わかって当然か。 「ないない、絶対ない、ただ大昔偉い立場についてた家系って言うことだから、何か特別なことがあるなんてないから、第一そんな非科学的なこと…。」 「それならエデンも非科学的な物になるじゃんか。」 「…そうだけど、最後のあがきで、行けるなら…。」 …もしかして、ミナモも本当は半信半疑なのか? 探りを入れてみるか…。 「なあ、お前って本当はエデンのこと信じていないのか?」 初めのころは彼女に気を使って言えなかったことも、今なら言える。 …彼女がどう思っているのか知らないが、俺は彼女のことを信頼できる、そんな関係だと思っている。 だから、本当はミナモにとっての旅の目的を聞いておきたい、彼女の思いが本当なのかを。 「…本当は、エデンなんてないと思う。」 「……。」 そんな気がしてたが、本当だと思うと少し虚しさが込み上げてきた。」 「だけど、あたしは旅を続ける、だって目的地を決めれば、何も目的のないのよりも、気楽になるじゃん、 それにあたしは人間追われてる身だし、いつかは捕まって殺されると思うの、だから死ぬ時に、あたしは 頑張った!!って思って死にたいの、だから途方のない旅を計画したんだ、…まきこんで悪かったね。」 …やっぱり、ミナモも本気にしてなかったのか。 だけど、彼女の言う旅、それに最後まで連れ添うことになってもいい、そう思えてきた。 …好きってわけじゃないけれど、ただ共感しただけだと思うけど、…多分。 「それより、今はこの子たちのことを考えたほうがいいんじゃない?」 「…あっ、ああ、わかった。」 「明日は山越えだから、早く寝たほうがいいよ。」 そういうと、ミナモは幼い姉弟の近くに横になり、すぐに寝息を立て始めた。 「…俺も寝るか。」 そういうと、俺はなぜか眠っているミナモを守るように、そばに寄り添って眠った。 なぜそうしたのかは、自分でもわからなかった。 ---- 「起きろ、もうチビどもも起きているぞ。」 いつものようにミナモは俺を蹴とばさ…ないで、俺の体をゆすり起こした。 「…わかったよ、で、子供たちに朝食はいいのか?」 「朝方、パンとかくすねて、食べさせた。」 …子供たちに盗品を与えるのはよくない気もしたが、今はそんなこと言ってられないだろう。 「で、子供たちは近くの河原で遊んでいるよ、そろそろ呼び戻そうか?」 「いや、いいよ、それより見守ってやりに行ってくれ、準備は俺がする。」 俺は毛布などを丸めると、ミナモが盗ってきたザックに強引に入れた。 「わかった、けど殺人鬼なんかにまかせて大丈夫?」 「大丈夫だよ、というか、そのこと気にしているのか?」 しかし、ミナモは答えず、河原に走って行ってしまった。 …やっぱり、気にしているんだな。 少し時間がたった後、俺は支度を終え、三人を呼び戻しに河原に降りて行った。 「…やっぱり荷物持ちは俺なのか。」 「女の子と子供に重いもの持たせる気ぃ?」 重いザックを背負いながら、俺は不満をもらしながら歩いていく。 「それよりほら、渓流が綺麗だよ、見てごらん!!」 …ミナモはラナたちに、草花や景色をハイキングでもしているように紹介している、重い荷物を持たされる身にもなってみろよ、まったく。 「この山の向こうに集落があるんだよね? あと二日ぐらいでそこに着くよ。」 「…うん、でもみんな大丈夫かな…。」 シオンが小さな声で、つぶやくようにミナモに答える。 …ラナは明るく、すぐに俺たちと打ち解けた、だけど、弟のシオンは少し臆病なのか、初めは俺と口もきかなかったが、ミナモにだけはなつき始めている。 あいつって、子供に好かれるなにかがあるのかな? あいつ自身も子供好きみたいだし。 「ちょっと遅いよ、もっと速く歩いてよ!!」 …これでも初めてあった時よりも優しくなったが、俺にもあの二人のようにもうちょっと優しく接して欲しいよ。 重い荷物を持ってこっちは疲れているのに、少しは気遣ってほしいよ。 こういうことを頼まれても断れない俺って、Mなのかな? 「でもさ、可哀想だから少し休んでやるよ。」 俺の息が激しく上がってきたころ、ようやく休みをとることになった。 「はい、御苦労さん。」 ミナモが俺にその辺から取ってきた種類のわからない木の実を、俺に放る。 「これ、食えるのか?」 「大丈夫、毒はないよ、食べたことあるし。」 ミナモはラナとシオンの二人にも木の実を配りながら、自分も木の実をかじる。 そういえば、俺とミナモは朝から何も食べていない。 思い出したせいか、急に空腹感が込み上げくる、俺は木の実にかじりついた。 甘酸っぱい味が口中に広がる、人間の所で暮らしていた時には味わったことのない味だった。 「あまりがっついて食べるなよ、ルーク、それからちびっ子も。」 ミナモが笑いながら、シオンの頭をなでる。 …人間のもとで暮らしていた時には、土のような色をした味のないものを食べさせられていた、それにミナモといる時も、あまり新鮮といえない物を食べていた。 そのせいか、この木の実は俺が今まで食べたどんなものよりも、美味だった。 「それ食べ終わったら、その荷物の中のいらないもの捨てて、軽くしちゃいなさい。」 ゆっくりと木の実をほおばるように口に含みながら、ミナモは息を吐くように小声で言った。 俺は木の実を急いで飲み込むと、ザックを逆さにして中の物を勢いよく出した。 ミナモはその中から毛布だけを再びしまうと、後の物を全て捨てると、代わりに木の実を詰め込んだ。 「こうすれば軽くなるだろう、かっぱらってきた物は変な入れ物に入っていて重いくせに、まずいからね。」 …たしかに、ザックの中に入っていた食料はカンなどに詰められていた、重かったのはこのせいか。 「…なるほど、人間は魔法のようなものを作るけど、自然には勝てないってことか。」 「ちょっと違うけど、まあそういうことかな。」 「だってさ、人間のところは俺たちにとって地獄だけど、人間から離れていれば今みたいに幸せだろ?」 「…そうね、人間とポケモンは、一緒に暮らすことなんてできないからね。」 ミナモは笑顔を作ったが、切なげな表情を完全に隠すことはできなかった。 「エデンも、そんな思いが生んだ幻想かもしれないよね。」 …彼女は人間を殺しているが、彼女も人間に奪われたんだ。 家族も、友人も、家も、全部…。 でも、彼女は少しの間でも家族と一緒に入れた、でも俺の家族は …もともといなかった。 「おいっ、ルーク、何泣いてるのよ!!」 …何故か、俺は泣いていた。 心の中が空っぽになったような感覚がした、だけど、同時に俺はなにか暖かいもの感じていた。 「大丈夫?」 ラナが心配そうに俺の顔を覗き込む。 「…大丈夫、多分目に何か入ったんだろう、心配してくれてありがとう。」 俺は涙をカあてで拭うと、立ち上がった。 「行くぞ、ラナも早く家族に会いたいだろう?」 ---- それから俺たちは歩き続けて、頂上をこえ、切りもいいので野宿することにした。 「そういえば、ラナ達は何で捕まったんだ?」 俺は疲れて眠ってしまったシオンに毛布をかけながら、ラナに今までのいきさつを尋ねた。 「…集落の広場で遊んでいたとき、何人かの人間がやってきて、何人かの大人たちと話してたの、そしてどこかの家の中で銃の音が聞えて、怖くなってシオンを連れて逃げようとしたときに、後ろから殴られて、…そのあとは覚えてないけど、ほかにも連れ去られた何人かの子たちと一緒に、あの人間に引き渡されて…。」 「奴隷にされそうになったのか。」 ミナモが急に口を挟む。 「…おかしいな、あたしがラナを始めてみた時に、人間どもは『集落ごと襲った』て言っていたけど、 ラナの話だと、連れ去られたのは子供たちだけみたいだし…、連れ去られたのは子供だけ?」 「…うっ、うん、大人の人は連れ去られてなかったよ。」 「そうか、でも貪欲な人間のことだから、連れ去るなら大人も一緒のはずだ、なのに数人の子供だけ、…それに初めは人間と大人たちが話し合っていたって言っていたからな…、おかしい。」 「でもさ、裏で大人が人間と取引してたんじゃないのか?、銃声も聞こえたって言うし、脅されてとか…。」 ラナには悪いと思ったが、俺も少し口を出してみた。 「人間は取引なんてしないよ、さらうときはさらう、殺すときは殺す、今まで何度も見てきたからわかるよ。」 …確かに説得力がある、人間がポケモンと取引なんて聞いたことがない。 「…なにか悪い予感がするな、…もしかしたらラナも、もう二度と故郷に帰れないかもしれない…。」 「そんなっ!!」 「酷いことを言うようだけど、もしかしたらその集落全体で、お前たちを売ったのかもしれない、 …シオンにはまだ言うなよ、あの子には刺激が強すぎると思うよ。」 ラナの目から涙が落ちる、ミナモは慌てて彼女の背中をさすり、優しく声をかけた。。 「大丈夫、きっと帰れるよ、…さっきは酷いこと言って悪かった。」 「…うん、ありがとう。」 ラナは涙をふき、ミナモの手を握り締める。 「そろそろ寝なさい、もう子供が寝るには遅い時間だよ。」 ミナモはラナを抱き上げると、シオンのとなりに横にして下ろし、再び毛布をかけた。 「また家族に、会えるといいね。」 俺は、じっとミナモの目を凝視していた、俺にその目は、エデンの存在を否定しているようにも見えた。 …そんな目をしているのに、彼女はなぜ楽園を目指せるんだろう? いつの間にか、ラナは静かな寝息を立てて眠ってしまった。 「…もしもこの子たちを、集落に返すことができなかったら、どうするんだ?」 「そこが問題なのよね、あたしたちと一緒にいることも難しいし、…引き取ってくれる所を探すしかないね。」 …それでも、彼女たちが満足して暮らすことはできないだろう、親に捨てられた子供になるんだもんな。 「いっそエデンをあきらめて、四人で隠れ住むか、どうせそんなとこあるはずもないしね。」 自分で目指しといてるくせに、あきらめるとか軽く言うなよ。 「とりあえず、今は寝たほうがいいんじゃないのか? そんなこと考えていると辛いだけだろう。」 「…そうね、今は寝ようか。」 俺とミナモは仰向きになって、草の上に寝そべった。 すると、満点の星空が、目に飛び込んできた。 星たちは、明るく、でも切なげに光り、下界を冷たく見降ろしている気がした。 「あっ、流れ星。」 空に一陣の光が流れ、星がまるで嘆いているかのように、落ちて行った。 「ねえルーク、流れ星ってこんなに切なかったっけ。」 小さく消え入るような声で、ミナモが俺にささやいた。 …ミナモも多分、俺と同じことを感じているんだろうな。 …楽園なんて、本当はどこにもないってことを…。 ---- 「娘の拘束役、追われちまって残念だな。」 「うっせえんだよ、ロンド、お前だってじきに泣きながら帰ってくるのがオチだぜ。」 淡く暗い色合いで統一された古城、…強盗団は、ここを根城にしている。 そのなかで二つの影が、ほとんど喧嘩しているような口調で話し合っていた。 一人は弦楽器を背負ったライチュウ、そしてもう一人は、大きな鉤爪を持ち、背中には無数の棘が生えている種族、…サンドパンという種族の男だった。 「娘の拘束って言っても、そいつ発狂してるって本当か? 本当なら計画も変わってくるが…。」 「発狂しているわけじゃねえけどよ、精神的に不安定なようだ、今のままじゃあ使い物にならねえ。」 「…捕縛する分には問題ない、でもそのあとが面倒ってわけだな?」 「ああ、まああいつと一緒にいるマグマラシ、…ルークって言ったけな、あいつがいれば事が済むそうだが、一つ忠告しとくぜ。」 「…そんなに強いのか?」 「いや、そうじゃねえ、ただお前の嫌いな、元人間の支配下ってとこだ。」 …しかし、その忠告を聞く前に、青年は行ってしまった。 「…ふもとまで、あとどれくらいだ?」 「今日中には着くと思うよ。」 昨日よりも元気のないラナを横目で見ながら、ミナモが俺にザックを放る。 「…ひどいこと、言っちゃたかな、もう帰れないかもしれないって、辛すぎるもんね…。」 ミナモは悲しそうにラナの頭をなでる。 「でも、可能性はあるじゃないか、この子が捨てられたっていう証拠もまだないし…。」 …口ではそう言えるが、ラナが捨てられたという可能性は高い、でも俺は捨てられてなんかないと信じたい。 この世には子供を捨てる親なんて、ほとんどいないはずだ。 …でも、もしラナの両親が「ほとんど」のほうの親だという可能性も否めない。 そうでなくとも、人間の恐怖から逃れたくて、泣く泣くわが子を手放してしまうケースもあるだろう。 そのときは、どうすればいいのだろう、でも今はこの山を越えるのが先だ、そのときは勝手に体が決めてしまうだろう。 「ねえ、早く行こうよ!!」 シオンの無邪気な声が遠くから聞えた。 …もう二度と帰れないかもしれない故郷に、早く帰りたいんだ…。 とりあえず、前向きに考えて、早くこの子たちを故郷に届けてやらなければ。 「行くぞ。」 俺はザックを背負うと立ち上がり、速足で山道を下った。 「あっ、ちょっと、待ちなさいよ!!」 いつもとは反対に、ミナモが急いで子供を連れ、俺の後を追いかけてきた。 「…そんなに急いで、どうしたのよ?」 いつもなら自分が急ぐことをよそに、ミナモは急に速足になった俺を疑問視している。 確かに俺は急かすようなタイプじゃない、ゆっくり考えてから行動していると自分では思う。 …だけど、最近では頭より体が先に動くようになっている、野生に返ったため、というわけでもなさそうだが、環境が大きく変わったためという事実も否めない、多分、人間の命令で動いていた時と違い、今は自由に物事を決められて、それに伴い大切なことを得てしまったためだと思う。 「ねえ、無視しないでよ、ねぇ!!」 俺が考えごとをして、黙り込んでしまったのに業を煮やしたミナモが、きつい口調で叫ぶ。 「…ん、ああ、悪かった。」 「悪かったじゃなくて、あんたがあんまし急ぐんだから、驚いたじゃない…、というか、何急いでんのよ!」 「いや、結果がどうなるだろうか、気になってさ、…早く知っておいたほうが、これからのこと対処しやすいだろ?」 …これはあながち間違っていない、俺は現状を知らずにただ未来を予測していることにいら立ちを覚えたのだ。 「そうはいっても、子供たちに可哀想な事実を早く見せるのは反対よ。」 「その事実が、間違いかもしれないだろう。」 俺は、ラナとシオンの親の、わが子への愛情を信じたかった。 ラナのほうに目をやると、昨日みたいに楽しげな表情ではなく、ただこれからの出来事に怯えているような仕草をしている。 対するシオンは俺たちに慣れたのか、リラックスしたようについてくる。 この子たちは、もし事実が辛いものだったとしたら、どうそれを受け止めるのだろう、そんなことを考えていた時だった。 「見て!! タイヤの跡!!」 ミナモが地面に付いた、タイヤ…というかキャタピラ?の跡が、地面にくっきりと刻みこまれていた。 「これを逆にたどって行った先に、集落があるのか?」 「…多分、でしょ、ラナ。」 ミナモがラナに聞く。 「わからない、それにタイヤって何?」 「…まあとにかく、辿ってみれば着くはずだから。」 ラナが知らないのも無理もないな、彼女は俺と違って、今まで人間と全く接触していない。 「どうするの? 行ってみるの?」 再びラナが、不安そうに口を開く。 「行ってみる、そのあとのことは、その時決めよう。」 俺はラナに、少し強く答えを返した。 ---- 跡をたどってしばらく行くと、山のふもと付近にある、小さな森に続いていた。 「ここ、私たちの森だ。」 ラナが大きな声で、半分驚くように叫んだ。 「…この中に集落があるんだな?」 「うん、でも、行くのが怖い。」 「行っていなければわからないだろ?」 「でも…。」 俺はラナを半ばひっぱるように、森に入っていった。 森に入ったとたん、集落が見えた。 俺は子供を抱き上げて、走り出そうとしたが、ミナモに後ろ髪を掴まれ、そのままよろけた。 「急になんだよ!!」 「何かおかしい。」 「おかしいって?」 疑問を持った俺は、ミナモの目線先をたどる。 彼女は集落入口の、農家とみられるブイズ達を見ていたが、彼らには何もおかしいところはなかった。 「誰も変なところないけど?」 「その人たちじゃない、持っている「鍬」が変なの。」 「…ん、鍬?」 「あれは木製だけど、一部は金属でできている、その金属部分がどの鍬も均一なの、ポケモンが作ったなら形は微妙に違うはず、でもそれが全部均一だから、ポケモンが作ったわけじゃない、 …あれは工場でできた物よ!!」 「…まさか…。」 「なぜかはわからないけど、あの集落は人間の支援を受けているようね…、まさかとは思ったけど、最悪の事態よ!!」 「嘘だろ…。」 その時、住人達の目線がこちらに向き、それからラナとシオンに向いた。 …ぞっとするような、冷たい目で…。 五章終わり、[[Memory Lost existence 連鎖する陰謀]]に続く ---- …最近グダグダな毎日を送っている、春風です。 五章を書いてみました、時間をかけたのに、アイディアが出てこなくて、ノープランで執筆してました。 …えっと、気のせいかいつもより短いような気がしますが、完結させました。 もしかしたら、これから途中に何かしら附け足すかもしれません。(もう上げませんので、まとめページで知らせます。) #pcomment(山脈を越えて、コメント,10,);