七章目に行ってもいいじゃない、ケモナーだもの、 [[春風]] 前にもまして、ヤバい表現あるかもです、注意!! [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 「それでどうするのか、ここからおとなしく出て来るか、出てこないか、はっきりさせるんだ!!」 俺たちが質問を終えたと察したのか、トトは甲高い声を上げて怒鳴った、同時に辺りの民衆が俺たちに罵声を浴びせる。 …いや、俺とミナモのことじゃない、ほとんどが仲間のはずだったラナ、そしてシオンの物だった。 彼らの罵声の中で、俺は腕に力が入っているのを感じた。 &size(20){&color(Red){Lost existnce 第七章 家族と神官};}; 「ルーク、これはまずいよ、作戦が固まるまでここを出ちゃダメだよ。」 …ミナモの言葉で、俺は我に返った。 「いい、あいつら人質を連れているでしょ、ラナたちの両親、それを逆手にとる、あいつらもう少ししたら人質に何かする、その時が狙い目よ、二人を連れて逃げよう。」 作戦としては不十分の意見を、ミナモは小声で話す、しかしその作戦にも一理ある、確かに相手の注意が分散している時が逃げやすいし、そのほかにできることが今の俺たちにはない、だが、俺はその作戦に一つ疑問を感じていた。 「…でもそれじゃ、あの二人はどうなるんだよ。」 俺は目線を縛られている二人に向け、反論する、ミナモの意見は、裏を返すと彼らを見殺しにするということでもある。 俺は、できるだけそれを避けたかった。 「…悪いけど助けられないよ、あの人たちがもしかしたらトト側の立場で、わざと人質になっている場合もあるわ。」 ミナモはしれっと、俺の意見を流そうとする。 「だけど、子供を捨てる親なんて、いるはずが…。」 「…あたしはそんな親をたくさん見てきたよ、わが子を自分の手で殺す親もたくさんいたわ。」 またしても俺の意見を遠ざけられた、確かにもっともな説得だ、現に俺の両親も俺を虐待し、痛めつけた。 …だけど俺は信じたくなかった、おそらくあの二人を自分の理想の家族像と照らし合わせていたのだろう。 「でも、俺はラナたちの家族を信じたいよ。」 自分でも驚くほど、小さいがはっきりとした声が出た、俺の本心、といっても過言はないだろう。 「何言ってんのよ、あの親、もしかしたら子供を売ったのかもしれないのよ、人質になって当然!!」 ミナモはかっとなったようで、俺に大声で言い返す、しかしミナモはそのあと、はっとしたように口をつぐむ。 「…いけない、あの子たちに聞かれちゃったかな…。」 ミナモの青色の毛並みが、こぎざみに震えた。 俺が後ろを向くと、幼い姉弟が泣きながらこちらを凝視しながら、震えて立っていた。 「…お母さんたちが、僕たちを売った…、それに人質…本当?」 ぐしょぐしょに濡れた瞳で俺たちを睨みつけるようにしながら、ラナが小声を出す。 「…え、いや、えっと…。」 俺は返答に困ってしまった、彼女たちに現実を突き付ける酷なことは、できるだけ避けたい。 「…多分、聞き違いだよ、人質なんてそんなこと、全然ない。」 後ろからミナモが、優しく呟いた、さすがに今は口から出まかせを言うしかない。 「そうそう、それに二人がお前たちを売った証拠なんてない、ただミナモがそう思ってるだけだし、それに縛られている時点で、あの二人が多分人間のやり方に反抗していたほうが可能性が高いしね…。」 「ルークッ、あんた何言ってんのよ!!」 …しまった、つい本当のことを言ってしまった!! 俺はただ助け船を出そうと、二人をなだめたつもりだったのに…。 俺は再び二人を凝視する、二人とも、さっきより大きな涙を流し、扉を睨みつけていた。 「…どうしよう、あの子たちの親のこと、ばれちゃったよね。」 ミナモが消え入るような眼で二人を見つめる、俺も彼女と同じように、ただただ二人を見ているしかなかった。 …少しの間、俺たちの間には硬直した時間が流れていた、が、とうとう姉弟は行動に出たのだった。 「…嫌だ、お母さん達に捨てられたなんて信じない、お母さん達の所に行くぅぅぅぅぅぅっ!!」 叫びながら、二人は俺たちのわきを通り抜け、扉のほうに駆け寄る。 「…やばいっ、ミナモ、どうしよう!!」 俺は半分パニックになりそうになりながら、ミナモに助けを求める。 「大丈夫、鍵は凍ってあるはずよ。」 …そうだった…。 ミナモに言われ、俺は少しほっとして後ろを振り向く。 だが、振り向いた途端俺の安堵はすぐに焦りに変わった。 凍りついていたはずの鍵が、いつの間にか融けて水になっていたのだった。 「しまった!! 長い時間たっていたから、氷が融けちゃったんだ…。」 ミナモが驚きの声を上げ、鍵を開けようとする二人に駆け寄った。 …しかし、時すでに遅く、二人は重い扉を力いっぱい開け、外に飛びだしてしまったのだ。 ---- 「やばい、あの二人を止めろっ!!」 俺は扉に手をかけ、ミナモとともに飛び出そうとした、が。 「だめっ、ルーク、止まって。」 ミナモに呼び止められ、俺は足を止める、何事かと辺りを見回した時だった。 パンッ、パンッ!! 鈍い銃声が、辺りに響き渡る、それと同時に、前を走っていた姉弟が、地面に倒れこむ。 …まさか、あいつら銃を使ったのか? それほど人間のような文化が根付いているなんて…。 そう思っているうちに、人垣の中から銃口が現れ、こちらに向けられる。 「やばいっ!!」 俺は倉庫の中に引き返し、書類の山に飛び込んだ、その間にミナモが扉を少し閉め、銃弾から身を守る。 「…人間の持ち物を完全に使いこなしている、これは本当に危険よ!!」 外からは絶え間ない銃声が聞える、扉は完全に閉まり見っていなかったが、うまい具合に俺たちをカバーする形で閉まったので、銃弾は一発も入ってこなかった。 「…おい、銃なんて聞いてなかったぞ、それにあいつらは大丈夫なのか!?」 俺は横目で、倒れている幼い姉弟を見た、二人はまったく動かず、まるで死んでいるようだった。 「銃で撃たれれば、当たり所が悪いと死ぬ、だけど、必ず死ぬってわけじゃないわ、…もっとも、早い治療と運によって左右されるけどね。」 俺は少し扉から顔を出し、周囲をうかがう、銃口は変わらずこちらに向けられており、姉弟は死んだように地面に突っ伏していた。 …多分、彼女達を助けるのは絶望的だろう、圧倒的な物量の差がそれを物語っている。 「やべっ。」 銃口が俺の顔の位置に向き、俺は扉の陰に隠れた。 俺の中で三回目の死の恐怖が起こる、一回目はミナモと始めって出会ったとき、そして二回目はノクターンとの一件の時だ。 しかし、今回は今までと違う、ミナモの時は逃げられる可能性があり、ノクターンの時もそうだった、しかし今は圧倒的な力の差を見せつけられており、逃げることも不可能な状況だ、おそらくミナモでも、銃にはかなわないだろう。 当のミナモは、恐怖に屈していないような、抗うような表情をしている、しかし、俺たちがどんなに抵抗しても、ここから逃れられる可能性は低い、それにラナ達を含めると、確率はゼロだろう。 俺は息を荒くして、その場にへたり込んでしまった。 …しかし、俺の中に諦めの文字がくっきりと浮かんだ時に、信じられないことが起こった。 銃声が、止まったのだ。 俺は驚いて扉から顔を出す、人垣の中では銃声ではなく、別のざわめきが起こっていた。 トトがよろめいて、地面に倒れている、その横では先ほどから縛られていた、二人の父親がトトを助け起こそうとした側近に体当たりをしている。 そして、さらに母親のブラッキーが、先ほどまで銃を向けていた男に顔面から体当たりする。 悲鳴のような声がいくつも聞こえ、武器のようなものが散乱し、人垣は総崩れになった。 やがて二人の母親が顔を上げて叫ぶ、顔面から突っ込んだせいか、猿轡は外れていた。 「逃げてくださいっ、子供たちを連れて、逃げてくださいっっっ!!」 しかし、彼女は横から来た男に組み伏せられ、彼女の言葉は悲鳴へと変わる。 「ルーク、悪かった、あの人たちは子供を裏切らなかった。」 ミナモは何か決心したように、顔をこちらに向ける。 暫くの間、俺たちは見つめ合っていたが、沈黙をミナモ自信が破る。 「…うん、もうあなたの顔をたくさん見た、今のあたしには何も思い残すことはない。」 ミナモは顔を俺の目と鼻の先に近づけ、ほほ笑む。 「いい、あたしはあいつらの所に突っ込んで、トトを殺す、そうすればあいつらの注意はこっちに向くから、その間に、あの家族を連れて逃げられるはずよ。」 ミナモは俺から顔をそむけ、人垣を睨みつける。 「…多分、あたしは蜂の巣になって、死ぬ、だけど、あの家族を助けられれば、それでいい。」 …俺は少しの間、ミナモが行っていることが理解できなかった。 だけど、俺はすぐに意味を理解し、事の重大さに気付く。 「まてよ、お前死ぬ気か? でもお前が死んだら、エデン探しも…。」 「あなたに託した。」 「…でも…ミナモ。」 …ミナモの決心は決まっていた、俺が何を言おうとおそらく彼女を止められないだろう。 でも、俺はミナモを死なせたくなかった。 「…ダメだ、ミナモ、俺が行く、お前が死ぬ筋合いなんてないだろう。」 俺はミナモに掴みかかろうとする、しかしミナモは俺の手をすり抜け、走り去ってしまう。 「…ミナモ…、ミナモーーーーー!!」 俺は倉庫から飛び出て、彼女の名前を叫び、後を追う。 …しかし、走っているうちに足がもつれ、俺は転倒してしまった。 「ミナモッ、やめろ!!」 ミナモは俺の言葉など、まるで聞いていないかのように、トトめがけて走っていく。 …そして俺の悲痛な叫びは、大きなざわめきにかき消されてしまった。 ---- 俺はミナモが死ぬと思っていた。 彼女が敵陣に突っ込んで、銃で体中を打ち抜かれ、血みどろで倒れる姿が、見えていないのに、瞳に映った。 もう少しでそれが現実になる、俺は悲鳴を上げ、瞼を閉じた。 俺の耳に、悲鳴、銃声、そして何かを引き裂くような音が、貫くように聞え、やがて静かになった。 …ああ、ミナモは死んだんだ…。 俺は、自分の中で何かが切れそうになるのを感じた。 だけど、その時…。 「…ルーク、ルーク!!」 俺の名前を呼ぶ、聞きなれた声が聞えた、ミナモの声だった。 彼女は生きていたのだ。 俺は驚きで、思わず瞼を開ける。 目の前には立ち尽くすミナモの姿があった、俺は起き上がると、彼女に向かって走り寄った。 「…ミナモ、無事だったのか!!」 俺は歓喜の声を上げ、彼女に近づいた、が、俺の目に周りの風景が映ったとたん、思わず足を止めてしまった。 …周りには、酷い惨劇が起こっていたのだ。 辺りには、血痕や肉片のようなもの、そして血の付いた武器が転がっていた、しかし、今までいたはずの「人垣」が、まるで幻だったかのように、消えてしまっていた。 「…ミナモ、お前がやったのか?」 ミナモは振り返り、首を横に振る。 「ちがう、あたしはやっていない、あいつが…。」 ミナモが指をさす、俺はその方向に体を向ける、俺の目に、縛られたまま座り込むラナ達の両親と、その後ろに平然と立っている青年の姿が映った。 無数の棘に覆われた背中と、大きな鉤爪、…その鉤爪は地でべっとりと濡れていた、確か、サンドパンという種族の者だ。 「お前は、敵か!!…それとも…。」 俺は戦闘態勢をとり、男に叫ぶ。 男は平然とした態度で、焦点を俺に合わせた。 「…俺は血染めの楽団のメンバー、ロンド、ただ姫を迎えにきただけだ。」 ロンドという青年は俺を見下すように言い放つと、血の付いた鉤爪を舐め、ミナモに近づいていく。 「お迎えにあがりました、姫。」 彼はミナモの前まで来ると、突然跪き、鉤爪で彼女の右前脚を持ち上げ、口づけをする。 「…なっ!!」 突然の口づけで、ほとんど放心状態だったミナモもさすがに正気に戻り、驚いたように後ろに飛び退く。 「…ちょ、ちょっとあんた何してんのよ、それに姫って、血染めの楽団って何のことよ!!」 あたふたしながら、ミナモは俺の後ろに隠れる、まぁ気持ちは分からなくはないが…。 「…え? ご存知ないのですか。」 ロンドはきょとんとしたような表情をする。 「王や姫君は、神官の中から選ばれるのですよ、…無理もありませんね、今の世の中は人間の世ですし、なにせ昔の話ですからね。」 「…おい、何言っているんだ、もう一度聞かせてくれ。」 俺はロンドに聞き返す。 彼の話の内容はつかめなかったが、ミナモが神官の末裔であることを知っていることはわかった、おそらくこいつは何か、この村について知っているだろう、それを聞きだしたかった。 「…お前に話しているわけじゃない、カスめ。」 ロンドはいきなり口調を変え、続ける。 「お前が知る必要はない、あくまでもこれは俺達と姫だけの問題だ、部外者は口を出すな。」 「…じゃあ、あたしの質問は受け付けるわけだな。」 俺の後ろに隠れていたミナモが、少し顔を出し、ロンドを睨みつける。 「あたしのことを、なんで姫呼ばわりするのかは知らないけど、あんたの正体と、どうやってあんな大人数を倒したのかと、なんで一人でお姫様プレイをしているのかを、全部話してもらう。」 「プレイじゃありませんよ、姫。」 ロンドは怪しくほほ笑み、さらに一歩こちらに近づく、ミナモはひゃっという声を上げ、俺の後ろに顔を隠す、大かた、ミナモには彼が変態に見えるのだろう。 「…そうですね、姫は自分の血筋のことをまだ完全に把握していないようですので、少し説明をさせていただきます。」 ロンドは息を大きく吸うと、話を続ける。 「…まずは、歴史から説明していかないといけませんね、…ご存知ですか、この大陸には大昔、人間の者ではなく、我々の祖先たちの王国があったことを。」 「…それって、ポケモンだけの国ってことなのか!?」 俺は我慢できず、ロンドに聞く。 「…部外者は黙っていろと言ったはずだ。」 彼はまた態度を変える、俺は少しむっとしたが、我慢することにした。 「どうです、ご存知ですか?」 ロンドは再び話す相手をミナモにかえる、なぜ彼がミナモを姫と呼び、礼儀正しく接するのかは知らないが、ここは彼とミナモの二人だけで話をさせ、俺はミナモの壁になっていたほうがいいようだ。 「知らないわよ、そんなこと。」 ミナモは相変わらず、俺の後ろに隠れながら話をしている。 「…そうですか、では話をもう少し掘り下げますね、…その王国ができるまでは、世界中で色々な種族が、本能の赴くままにままに暮らしていました、…まだ誰もほとんど知性を持たず、秩序のない、混沌の世界、食うか食われるかの品のない世界のようでした、彼が現れるまでは…。」 ロンドは一歩後ずさると、ミナモの顔をよく見ようと思ったのか、体を彼女のほうに傾ける。 「…初代皇帝、ノア。」 俺には、聞き覚えのない名前だった。 「彼はこの世界で、初めて知性と品格を持った男です、彼は神とポケモンとの間に生まれた子供らしく、色々な種族を統一し、王国を建国しました、そして彼には何らかの力があったようで、彼に接触した者は、次々と知性を得ていったと伝えられています、…もっともここまで来ると、創作の域になってしまいますが、彼が実在しており、そして王国を作ったということは事実です。」 「…それであんた、結局何が言いたいのよ。」 ミナモは完全に俺の後ろから出てこない、何か危険を感じたのだろうか。 「まだ途中ですよ、姫。」 ロンドは笑みを浮かべ、また一歩こちらに近づく。 「おそらく、ノア皇帝が初めて知性を持っていたというのは、今でいうと突然変異でしょう、このころの生命の遺伝子に、何らかの進化があったことが逸話になっているようですね。」 ロンドは異常なほど、言葉の中の、「逸話」を強調して発音している。 「その頃の時代、皇帝以外にも何名かの人物は、魔力のようなものを持ち、神との間につながりがあり、自由に神の力をふるうことができるようでした、…そう、彼らが神官の祖なのです。」 「…神官の、祖?」 「そうです、姫、それからは世界に秩序が訪れ、先ほど述べましたとおり、王が死ぬと神官の中から、新しい王が選ばれ、民衆を支配して、よい政治をしていた、…人間が、王国を滅ぼすまで…。」 ロンドは少し表情を曇らせたが、すぐに元の不気味な笑みを浮かべた表情に戻る。 「…人間は国を滅ぼした後、我々の祖先を奴隷のように扱い、この大陸中を支配していったのです、それからの世の中は、今のように混沌に満ちています、これは痛ましいことですね。」 「…確かに今の世の中は目に当てられないな、しかし、それの話を聞いたところで、あんたとあたしがどんな関係があるって言うのよ。」 ミナモはとうとう俺の後ろから飛び出し、ロンドに近づいていく。 「なんとか言いなさいよ、ねぇ!!」 ロンドはやれやれと言うばかりに、首を左右に振って、息を吐く。 「…こんな世の中ですので、楽団が結成されたのですよ。」 「結成されたって、どういう意味?」 ミナモはイライラしたのか、かなり喧嘩腰に聞く。 「あんたの目的って、何なの? 答えなさいよ!!」 ロンドは息を再び吐くと、ミナモに近づき、彼女の前足を取り、優しく鉤爪で包む。 「…我々の目的は、王制の復活、そしてそれに伴う人間社会の転覆、その計画のためには、女王となり我々の上に立つ、あなた様の存在が必要なのですよ、姫。」 「なっ、お前、だからって何故ミナモを!!」 俺は沈黙を破り、叫んだ。 彼の言っていることは人間に反乱を起こすことのようだが、無理な試みだということは薄明だ、それにミナモをまきこませたくはない。 「悪いけど、手を引いてもらえないかな、今はラナ達の手当てもあるし、あたしはそんな下らないことしたくないよ。」 ミナモも俺と同じことを思っているらしく、威嚇の姿勢を取りながらロンドに詰め寄ろうとしている。 「…ラナというと、あの倒れている子供のどちらかですね。」 ロンドは二人のほうを向く姿勢をとる。 「お言葉ですが、助けるのは無理でしょう、あのような至近距離で撃たれ、しかもかなり時間が経っている…。」 「あたしなんか、撃たれてからずっと放っといているけど、大丈夫だったけどね。」 ミナモは立ち上がり、腹部の傷をロンドに見せる。 「なんと、姫は一度銃弾を受けたことがおありなんですね。」 ロンドは不意に後ろを向く。 「いいでしょう、今回は失敗の報告をしておきましょう、銃弾を受ける気持ちは、姫にとってはよく痛感できるものでしょうし、それに…。」 彼は倒れているラナたちのほうに向き直し、続ける。 「我々の仕事は、人間への革命です、あくまでも私が殺すのは人間と彼らに魂を売ったポケモンです、無実の子供を殺すことではありませんしね。」 「待て、まだ一つ質問が残っているわ。」 ミナモが行こうとするロンドを呼び止める。 「あのたくさんの人たちは、どこに行ったの? あたしはあんたがトトに切りかかるところしか見ていない、目を瞑っちゃっていたからね。」 ロンドは足を止める。 「あなたの足の下ですよ、姫。」 ロンドは笑っているのか、肩を震わせながら話している。 「簡単に言うと、埋めました、ここの地面の底の地盤を事前に柔らかくし、一定時間後に地盤沈下を起こすように仕向けたのです、姫が出てきてしまうのは予想外でしたが、私がここの族長に切りかかり、姫の注意を引いて、地盤沈下に姫が巻き込まれるのを防ごうとしました、そして予想通り、姫は反射的に目を瞑り、その間にここの者を、あの二人以外全員殺せたというわけです。」 ロンドは鉤爪で、ずっとうずくまっているラナ達の両親を指す。 「この集落で、珍しく彼らは人間に屈しず、子供の拉致のことで族長に反抗し、それがもとで捕まっていたのです、彼らの子供に対する思いに免じて、生かしておいたわけですよ。」 「ふうん、あんた意外と物分かりいいのね。」 ミナモが皮肉たっぷりに、言う。 「…そうそう、姫に対して謝罪しなくてはいけませんね。」 ロンドは思いだしたようにつぶやく。 「前にあなた方を襲ったノクターンという男のことですが、彼は我々のメンバーです、彼には事情を話していたつもりのようですが、行き違いがあったようで、彼はただの勧誘だと思い、断られたためあなた方を攻撃したようなのです、このことについて、謝罪を申し上げますね。」 …ノクターンも、あいつの仲間だったのか!? 「じゃあ、前にあたし達の命を狙ったグループのメンバーなら、なおかし信じられないわね。」 ミナモはまたしても、皮肉のような口調で呟く。 「…では姫、また次に会うときは、強引にも連れて帰りますからね。」 そう言うとロンドは、体を大きく震わせる、すると、辺りに砂煙が起き、俺は反射的に目を閉じてしまった。 そして、再び俺が目を開けたときには、もう彼の姿はなく、代わりに人一人通れるくらいの穴が開いていた。 「…あいつの言っている、王制の復活って、一体…。」 俺は少しの間、放心状態で突っ立っていた、ミナモが抱えている運命のようなものの大きさを、体中で痛感したような感じがしていたのだ。 「ちょっと、あんたぼーっとしてないで、ラナ達の親を見てきてよ、あたしは子供たちの傷の具合を見るから!!」 後ろからミナモにつつかれ、俺は正気に戻り、すぐに二人のもとに向かった。 「あの…、もう大丈夫だと…。」 俺はいまだにうずくまっている二人に近づき、話しかけたが、返事はなかった。 なぜなら二人は、うずくまっている姿勢で、気絶していたのだ。 「…無理もないか、あれだけ凄いことを経験したんだものな。」 俺は独り言をつぶやいて、空を見上げる、そうしていたら、不意に後ろからミナモの足音が耳に入った。 「ルーク、あの子達のことだけど…。」 ミナモが俺の背中を押す、彼女の口調と行動から、どうやら悪いことではないらしい。 「…あの子達が撃たれたのは、実は麻酔銃だったの、だから、命には別条はないよ。」 ミナモはとても喜んでいる様子で、俺に飛びついてきた。 「うわっ!!」 地面に倒れた俺たちは、お互いの顔を見ると、素直に笑いあった。 よく考えたら、今まで俺は人間に飼われていたためか、誰かを助けたことが一度もなかった …俺は、一生の中で、初めて人助けというものができたのかな…。 ---- 「このたびは、お世話になりました、なんとお礼を言っていいのか、私達にはわかりません!!」 すやすやと眠る二人の子供を抱きながら、子供たちの両親は頭を下げる。 「…いや、お礼なんかいいって、それよりこの子たちが起きる前に、安全なところに連れてってあげてよ。」 ミナモが照れくさそうに笑う、少し面倒な問題があったが、結果的に子供たちを家族のもとに連れて行ってあげられて、本当に良かった。 「…でも、これからどこに行くの? この子たちのためにも、新しく住む場所とか早く決めたほうがいいんじゃないかな。」 「親戚の住む集落に、行ってみます、あそこならこの子たちも落ち着いて暮らすことが出来ると思いますので。」 「…そうか、それにしても、あそこで土砂崩れがあってよかったな。」 ロンドが集落の住民達を殺したことは、土砂崩れがあったということにしておいた、そちらのほうが、ミナモにとって好都合だろう。 「じゃあ、そろそろあたしたちは行くよ、そっちも気をつけてな。」 ミナモは立ち上がると、俺の背中を引っ張って、出発を示す。 俺も立ち上がり、ミナモと肩を並べ、集落の入り口から、来た道を逆に進む。 途中で振りかえると、俺たちに何度も頭を下げている、二人の姿が見えた。 「…なあ、ルーク。」 だいぶ離れたところで、ミナモが俺に話しかけてきた。 「あの子達を見ていたら、なんだか、…本当に楽園ってあると思ってきたよ。」 「…何で?」 「なんとなくだよ。」 ミナモはそう言って笑うと、急に走り出した。 「待てよ、ミナモ!!」 俺もミナモの後を、全速力で追いかける。 ミナモの後姿を見ているうちに、なぜだか自然に笑いがこみあげてきた。 俺の幸せは、いつからかミナモといられることに、完全に変わっていたのだった。 …この幸せが、ずっと続く物だと、このころは思っていたんだ…。 終わり、[[Memory Lost existence 記憶と紅黒]]に続く 七章終わり、[[Memory Lost existence 記憶と紅黒]]に続く ---- はい、こんなに最近暑いのに、呑気にウィキ内を徘徊している季節外れの春風です。 さて、長かった姉弟編も、これでラストです!! まさか思いつきでやった姉弟編がこんなに続くとは…。 一応、今まで予定していた話とマッチさせているんですがね…。 …そして、次は当初の予定より早く、スペードさんとのコラボ作品の章をやってみます!! 紅黒、今のうちに読んでおこうっと。 それでは、誤字脱字ばっかりの春風に感想や誤字などありましたらお知らせください。 #pcomment(家族と神官、コメント,10,);