四章、微グロ表現あり 注意!! [[春風]] [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 「…起きれる?」 ミナモが心配そうに、俺の目を見つめる。 昨日の行為のせいか、彼女が一段とかわいく見えてしまう。 …なぜだろう? &size(20){&color(Red){Lost existence 第四章 君の目に映るモノ};}; …多分大丈夫そうだ、一日休んだからか、かなり楽になった。 「くっ…。」 俺は力を入れ、力強く起き上がった。 力が余って、俺はミナモと頭をぶつけてしまう。 「…なにすんのよ、ばか!!」 俺が起き上がって、安心したのかミナモの口調は、いつものツンとした物に戻ってしまった。 俺はそのまま立ち上がり、少し歩いてみた。 …すんなりと歩ける、どこにも後遺症などは残っていなかった。 「よかった、エデンで介護しなくてすんで。」 …歩けない俺をどうやって連れて行こうというのか。 「…あと、昨日のは、その… キスじゃないからね!!」 ミナモが顔を赤くして、照れ隠しに俺の頬を軽くはたく。 「いやらしいこと考えてないで、早く行くわよ!!」 「いや、考えてないって…。」 昨日は自分からしてきたくせに…、これってツンデレっていうやつか? 「早くしたくするよ、急いで!!」 いつものように、ミナモは俺の尻を蹴とばす。 俺はできるだけ、ここに俺たちがいた証拠を残さないように、横たわっていた草をもぎ取り、地面に埋めた。 「…準備できたら行くよっ、ふんっ。」 ミナモは森の出口にむかって歩き出す。 いつものように、俺はそのあとを追う。 …まだ、出会って三日目なのに、俺の「いつも」は、変わっていた。 俺はそれに、気付かなかった。 それから何日かは、「いつも」通りの日々が続いた。 朝、ミナモに蹴とばされて起き、平原と森を歩き続け、手頃な場所で野宿する。 人間の下で暮らしていた時には、想像もしなかった毎日。 普段のミナモはお世辞にも、優しいとは言えなかったが、ときどき見せる可愛いい一面のせいか、俺はこの旅が 辛いとは思わなかった。 ミナモと一緒に、あるかも疑わしい楽園を探す日々。 それが、俺の新しい「いつも」になっていた。 「…おい、いつ聞こうか考えてたけど、その、道わかるのか?」 「何言ってんのよ、そんなのわかるわけないじゃん。」 「…なっ、お前!!」 「でも大丈夫、大体の道はわかるから。」 少し適当な気もするが…。 そんなこんなで、俺たちは平原地帯を抜けて、山々が連なる山脈地帯に出た。 ひとまず、二人でふもとの町にある、人が全くいない公園に入った。 「まずは、この山を登るために必要な物を、くすねてこないと…。」 「…盗みはできるだけやりたくない。」 「じゃあ、あんたは使えそうなもの拾ってきてよ。」 そういうと、ミナモは市場のほうに向きを変えた。 「ここで、今日の夜8時集合ね。」 そういうとミナモは、走り出し、見えなくなってしまった。 …さて、あと半日は時間がある。 俺はとりあえず、何か目ぼしいものがないか、ゴミ捨て場のほうに歩いて行った。 ---- 「…ルークは、今何しているかな?」 いけない、またルークのことを考えてしまった。 あたしの中で、初めは使える奴だったルークも、電撃から守ってくれた時から、私の中で大きくなりすぎていた。 …これって、もしかして恋なのかな? ちがう、それにあたしはエデンにつくまで、恋なんかしない。 ルークは、ただのあたしの手下…。 …いまは別のことを考えよう、そうだ、食料も必要だな。 あたしは人間が持っていた沢山の紙袋を、そっと奪い取って、さっと物陰に隠れた。 奪い取られた人間は、そんなことに気づかない様子で、店の中に入って行ってしまった。 これで、だいぶたまったみたい。 あたしがルークと約束した公園に行こうと、紙袋を咥えて引き返した。 …そこで、私は一番見たくなかったものを、見てしまった。 「最後の二匹は、一匹当65万円でどうだい?」 「…安すぎて心配だな。」 「安心しなって、集落ごと襲ってしまえば、低コストで、何匹も手に入るからね。」 「なるほど、いいペットショップだなぁ。」 公園まで引き返したあたしの目に、さっきまで無かった大きな看板の屋台が映った。 「これって・・・。」 どくん、どくんとあたしの心臓が波打つ、看板の文字は読めなかったけど、何を売っているかはすぐにわかった。 屋台の前で、何人かの人間と、鎖で繋がれた、姉弟らしい二匹のイーブイが、寄り添うようにうずくまっていた。 「…奴隷?」 あたしは、怒りで手が震えた。 「じゃあ、こっちの雄をもらうよ。」 「まいどあり!!」 中年の男が、紙切れの束を、商人とみられる男に渡した、そして商人は、姉弟の弟のほうだけを、檻に入れた。 「待って、私も連れてって!!」 取りのこされた姉が、中年にすがりつく。 「うるさい、このチビ!!」 商人が少女を蹴とばし、少女は短く悲鳴を上げ、地面に倒れた。 「お姉ちゃん!!」 弟のほうのイーブイが、檻の中で悲痛まじりの声を上げた。 あたしは、息をのむと、腕に力を入れた。 「特にいいもの、見つからねえな。」 俺はゴミ捨て場を漁りつくしたが、何も収穫もなかった。 この分じゃ、ミナモにまた怒鳴られそうだな。 「まあ、仕方ねえか、貴重品ゴミに出す奴なんていねえし。」 まだ時間もあるし、場所を変えようと、俺は呑気にゴミ捨て場を後にした。 「今日も、一日平和かな…。」 俺はあくびをして、裏通りのを引き返していく。 しかし、裏通りをでて、大通りの観光客向けの市場に差しかかった時、俺はつんざくような悲鳴を聞いた。 「何だ!?」 悲鳴は甲高く、耳につくような男の声、おそらく人間だろう。 市に来ていた人達は、皆悲鳴の聞えた方向に走り出してしまい、あたりにいるのはは俺だけになった。 「公園のほうだな… 何かあったのか?」 少し気にはなったが、あまり面白いことではないし、俺は気にせず、逆方向に再び歩き出した。 「逃げろっ!!」 いきなり後ろから悲鳴がいくつも聞え、先ほどの野次馬たちがこちらに逃げてきた。 「なっ…何だぁ?」 俺はわけもわからず、逃げ惑う野次馬たちの群れにぶつかり、尻もちをついた。 「にげろっ、殺人グレイシアがまた出たぞっ!!」 悲鳴に混じって、何週間かまえカーラジオで聞いた、ミナモの別称がこだまする。 「…まさか、あいつ騒ぎを!!」 俺は急いで、人混みをかき分けて公園に向かった。 ――俺が見たものは、惨劇そのものだった。 公園には、バラバラに壊された屋台の一部が転がっていた。 ゆがんだ、『イーブイ売ります』と人間の文字で書かれた看板、請われて原型を失った檻のようなもの、 …そして、寄り添いあって震えている二匹のイーブイだけが、夕暮れの中に取り残されていた。 「ミナモはっ!?」 どこにもミナモの影はない、俺はとりあえずイーブイたちから話を聞いてみょうと、二人の前にかがみこんだ。 「お前たち、さっきここで雌のグレイシアを見なかったか…?」 聞いてから、俺は二人の首に鎖が巻かれているのに気がついて、はっと息をのんだ。 「…あっち。」 片方のイーブイが口を開き、一本の道を指差した。 見ると、その道には何かを引きずった跡と、血痕が生々しく残っていた。 「まさか…、あいつまた…。」 俺は血痕をたどっていこうとしたが、イーブイたちの首の鎖を思い出し、二人の前に引き返した。 「…そうだ、案内してくれ、グレイシアが言った場所まで行きたいんだ。」 血痕の跡で行先はわかるが、鎖のついたこの子たちをほうっておけない。 「…わかった。」 先ほどのイーブイが首を縦に振り、つぶやくように答えた。 「よし、行こう!!」 俺は二人の鎖を引きちぎると、抱きかかえながら血痕にそって走り出した。 ---- 「…お前たち、名前は?」 「私はラナ、こっちは弟のシオン。」 「姉弟なのか?」 「うん。」 以外にも血痕は長い、この短時間でこんなに長い距離を移動できるなんて…。 「ねぇ、おにいちゃん、あのグレイシアと友達なの?」 ラナが不安そうに俺に聞く。 「…んっ、ああ、まあそうだ。」 「あのおねえちゃん、私たちを助けようとしてくれたんだよ…。」 「ええっ?」 あいつが人助けをする、なんか、そういう奴には見えないが…。 「人間に捕まった私たちを、逃がそうとしてくれたんだ、…でも、やりすぎだよね。」 転々と連なる血痕を見ながら、ラナがすまなそうに言う。 「…そうか、でも、あいつを見つけても、何も言うなよ?」 「…わかった。」 俺は二人にとりあえず釘を刺し、血痕を睨みつけた。 …あいつはまた、無暗に人を殺してしまうのか? いや、俺も人のことは言えない、俺はあのライチュウを…。 俺も罪を犯したんだ、仕方がなかったとはいえ、罪は罪だ。 「おいおい、あの嬢ちゃん、相当イッちまっているじゃんか。」 突然懐かしい声が聞え、俺は現実に引き戻される。 「…お前は!!」 俺は目を疑った、そこに立っているのは、まぎれもなく俺たちが殺した…。 「…奇遇だな、俺も今お前のこと考えていたんだ、強盗団。」 「俺の名前はノクターンって言ったろ、覚えとけよ。」 …あのライチュウ、いやノクターンが元気な姿で立っている、あの時胸を貫かれたはずなのに。 「おっと、今は襲わないぜ、なにせ子供たちが震えているからな。」 俺は抱えていた二人のことを思い出し、震える二人を強く抱きしめた。 「今日は宣戦布告だ、俺たちはあの嬢ちゃんが欲しいんだ、でも今は、使い物になりそうにないがな。」 「なんだとっ!!」 「まあ行ってやれよ、あの嬢ちゃん、また誰か殺しそうだぜ、姫君を守る騎士、…いや、城塞さんよぉ。」 あいつはそれだけ言うと、信じられない速さで俺の横を通り抜け、瞬く間に見えなくなった。 「…あいつ、…いや、今はミナモを止めなきゃな…。」 俺は子供たちを抱きなおし、再び血痕をたどっていった。 ---- 路地を抜けた先に、ミナモは氷でできた刃を持って立っていた。 …あいつの足元には、半分氷漬けにされて、気を失っている二人の人間が、殺されるのを待つように、いた。 (止めなければ…。) 俺はラナたちを地面に下ろすと、ミナモの刃に火炎を投げつけた。 ジュウッという音を立てながら、刃が音を立てて、水となって崩れ落ちる。 「誰、 …ルーク?」 驚いたように、彼女は俺のほうに振り返った。 …あいつの目は、俺とであった日以来見ていなかった、殺人鬼の目をしていた。 「やめろ、やりすぎだぞ!! …ミナモ。」 俺はミナモに軽く体当たりし、彼女の体を押し倒し、地面に組み伏せた。 「…お前、復讐はやめたんじゃなかったのか?」 「やめたよ。」 「じゃあ聞くが、何でこんなことしたんだ!?」 俺は氷漬けになった人間を、あごで示した。 「…嫌いだからよ。」 あっさりと、彼女は即答した。 「嫌いって、それだけで殺すのか?」 「あたり前じゃない、特にこういう人間を見ていると、むしゃくしゃするから。」 そういうと彼女は、凄い力で俺を振りほどき、再び冷気を腕に吹きかけて、刃を作りだした。 「ねえ、ルークには人間ってどう見えるの?」 「どう見えるかって言われても…。」 俺は投げ飛ばされたときにできた腕の傷をさすりながら、俺は立ちあがった。 「あたしはね、人間は殺害対象、簡単に言うと害獣、それ以下なの、違う?」 「違うって…。」 違わない、あいつらは色々な者を壊してばかりだ、「害獣」としか言いようがない、だけど…。 「だからって、殺すことないだろう、こいつらだって生きているんだし!!」 「…その人間は、子供を売ったのよ、それでも生かしておくの? それって偽善じゃないかな。」 「お前の言っていることもそうだろ?」 「そうだよ。」 …俺は頭が混乱してきた、何が善なのか、何が悪なのかわからなくなってしまった。 「悪人」を殺すことが正義なら、殺すという彼女の行為は正当化されてしまう。 しかし、人間たちから見て彼女は犯罪者、彼女の行為は「悪」である。 …どちらが正しいのか、本当に善悪の区別などあるのかわからない。 わからないのに彼女を止める権利など、俺にあるのかすらわからない、気づけば俺は、一歩も動けなくなった。 「何も言い返せないみたいね、…そろそろ、終わりにしようかな♪」 ミナモが刃を、二人のうち一人の人間の首筋にあてがった。 …止めなければ、でも、体が動けない。 俺は自分のしようとしている意味がわからなくなって、そのまましゃがみこんでいしまった。 …俺は、正義なのか、それとも悪なのか? ---- 「やめてっ!!」 ミナモが人間を斬首しようとする瞬間に、あたりに幼い声が響いた。 俺は我に返り、立ち上がって振り返る、ミナモも手を止め、俺と同じ方向を向いた。 声の主は、ラナだった。 「おねえちゃん、この人たちは悪い人だけど、殺しちゃだめだよ!!」 鎖を引きずり、弟を後ろにかばいながら、彼女は大声で叫び続けた。 「でも、こいつらを生かすなんて…、それこそ悪だし…。」 ミナモが少し困惑したように答える。 「違うよ、悪いことじゃない、だって私には殺すことのほうが悪いことに見えるよ!!」 ラナは泣きそうになりながら、自分の思いを訴えた、彼女の姿を見ていると、俺の答えがわかりそうになる… …そうか、今わかったぞ。 俺はミナモに近づくと、氷の刃を取り上げた。 「…ルーク!!」 「ミナモ、お前はあいつらを見て何も感じないのか?」 俺が強く詰め寄ると、彼女は黙り込んでしまった。 「…あいつらに教えてもらったよ、善悪について、そしてお前の行為についてな。」 「何よ…それって。」 俺は息を大きくすると、教えてもらった答えをはき出した。 「自分が見て、正しいと思うことが正義だ。」 俺は氷をへし折ると、ミナモの足元に放り投げた。 「そして、俺はお前の行為を、「悪」だと思う。」 俺はミナモの顔を見つめて、彼女に再び問いかける。 「俺の思う悪はお前にとって善だろう、だけど今回は我慢してくれ、この子らにそんなところを見せたくない。」 俺は勇気を出して、ここまで歩いてきたラナを抱きあげ、ミナモを再び見つめた。 「ばーか、そんなこと、どうでもいいじゃん。」 そう言うとミナモは、諦めたように人間たちの氷を蹴り壊した。 解放されても、人間たちは気を失ったまま、地面に崩れるように倒れた。 「ははっ、よく考えたらこんな奴殺したって、返り血洗わなきゃならないだけだしね。」 ミナモは俺から顔をそむけ、後ろを向きながら強がった。 「…でもさ、代わりにあたしの「正義」に協力してくれない?」 ミナモが少し小さめな声で、俺に尋ねる。 「なんだよ、それって。」 「簡単なことよ、そんなに変なことじゃないし。」 ミナモは振り返ると、俺に抱きかかえられているラナを見たあと、顔を上げて言った。 「この子たちを、故郷に送り届けるよ!!」 誇らしげなその顔は、俺の知っている、いつものミナモだった。 ---- 「だから、あいつは今のままじゃ使い物にならないって、なっ!!」 白や青を基準とした単調な部屋で、数人のポケモンたちが半円形に並べられた椅子に腰かけていた。 椅子は大きな玉座を取り囲むように配置されていたが、それに座る者の姿はなかった。 そのなかで、一匹のライチュウが計画の失敗を弁解していた。 「しかし、奴が一人の時のほうが、楽に実行できたものを。」 がっしりとした体格を持つラグラージが、ライチュウに反論する。 「いや、ノクターンの言うとおりだぞ、バルカル、奴はまだ玉座に座るには狂いすぎだ。」 同じく体格のいいラムパルドが、かばうようにさらに反論を返す。 「見てきたかのように言うな、メッツオ、それよりお前は自分の仕事を真面目にしろ。」 「…騒がしいな、お前らがそんな調子だと、我々の計画が意味をなさないじゃないか。」 まとめ役とみられるエルレイドが口を開くと、今まで好き勝手に話していた男たちが異性に静かになった。 「まずはノクターン、お前は新規の団員を探すほうに回す、メンバーが8人では何かと不便だからな。 …それと、娘の確保にはロンドとリュードにまかせる、ほかの団員は今までの仕事を続けろ、いいな。」 「そりゃないぜ、ラプソディ!!」 不満そうにライチュウが叫ぶも、彼が腕を上げた瞬間、静かにうなずいた。 「解散だ、最後に伝えておくが、娘の精神には、例のマグマラシがかかっている、彼も一緒に捕獲しろ、 …これはボスからの命令だ、しくじるなよ。」 命令を告げると、彼はひとり言のようにつぶやいた。 「娘の目に人間が、憎しみの存在に見えている間に成功させなければ…。」 終わり、[[Memory Lost existence 山脈を越えて ]]に続く 四章終わり、[[Memory Lost existence 山脈を越えて ]]に続く ---- どうも、春風です。 じつは今回は、予定していなかった話なんですよ。 初めはまたバトルシーン、みたいなものを書く予定でしたが、ミナモの精神状態に触れておきたくて、強引に この話を入れました。 …ですがラナたちを登場させてしまったので、次回も予定にない話になってしまいました…。 #pcomment(君の目に映るモノ、コメント,10,);