作者[[勇]] 同時進行で書いていた長編二作目。やっと形になりました。 こっちは官能無しで進めて行くつもりです。あしからず。 ----- **STORY ONE 〔旅からの帰宅〕 [#q920c208] 風が町を吹き抜けていくと、海から船のエンジンの音が響き渡る。 漁港から漁船が出発したのだろう。 この町の一番最初に聞こえる音で、町を活気づけ始める合図でもある。 そんな中、町の入り口にいくつかの影が差してくる。 「汽笛だな。港町独特の音。実に懐かしい気がする音だ」 そんな声が私の横で聞こえた。どうせまたご主人が独り言を言ったのだろう。 耳もかたむけず、その場で足踏みをして待っている。 だが、目も向けずご主人は一目散に走っていってしまった。 「………………」 もう呆れかえって、何も言う気が無くなっている。 此処にずっといるのもなんなので、仕方なく朝日の差す中をとぼとぼと追いかけていった。 追いつくまでの間、簡単に色々説明しておこう。 港町・レイクネル。それがこの町の名前だ。 主に、漁業の盛んな町として知られているが、他の地方からの船の行き来も行われている。 ビメグス島の最東端で、少し南の方に位置している町だ。 ビメグス島とは、どの地方にも属さない公海に浮かんでいるそれほど大きくない島だ。 そいで、さっき走っていったのは、この町の権力を握る富豪の息子。私の今の仮ご主人。 今歩いているのが私、グレイシアのクリシア。(ちなみに雌ですよ、私) 私は今まで、あの自分勝手息子の旅に付き合わされていたのだ。 それがやっと終わって帰って来れたというのに、無視してこの有り様だ。 旅に出たときから、ほとんど気遣ってくれなかったから今さらではないが。 言うまでもないが、私はこんな奴のことは何とも思ってもいないし、好きなわけでもない。 というか、大嫌いだ。勝手に町のポケモンから選び出されたのだから。 その気持ちをどうにか抑えて付き合ってきたのだから、誰かから感謝でもあって欲しい 。 (…そんな分けないよなぁ。はぁ…) ふと、顔を上げると、あの息子と豪邸が建っていた。どうやら付いたようだ。 「遅いぞ。何処で道草をしていたんだ?」 その言葉にまたカチンとくる。言い返したかったが踏みとどめた。 ごめんなさ~い、という感じの適当ではない軽い返事を返してやった。 ムッとした顔の横目で睨みつけてきたが、も~そんなのは徹底的に無視、無視。 数秒睨みを利かせていたが、鼻で笑って門の中に入っていった。 「どうにだってすればいいさ。既にお前は私にとっての価値はない。じゃあな」 嫌みを言い残し、ガチャンと閉じた門の中にきえていった。 やはりどうでも良いので聞き流して、本当の主の家。私の家に向かっていった。 私の家は海辺じゃなくて陸の方にある。あのバカの豪邸から20分弱の所だ。 こっちは森と繋がっている。海より静かで落ち着いている。 ドアの開いてるすき間を通って家に入っていった。 この時間は主のおばさんがいないため、私もいつもはいない。 でも、流石に疲れたため、一時間ぐらい寝ることにした。と、その時。 「お帰り。長旅ご苦労だったね、クリシア」 ふと、隣の部屋から声がしてきた。その声の方を向く。 「あっ、お父さん。ごめんね、ただいまも言わずに入ってきちゃって」 「いや、お前が無事に帰って来れたなら、それがなによりさ」 顔を覗かせたのは、お父さんのサンダースだった。たった1人の血のつながった人だ。 お母さんは、よくは知らないが、死んでしまったらしい。 「で、どうだったんだ?行ってみての感想は」 その質問に、大きなため息をついて言った。 「最悪! 愚痴を言ったら言いきれないほど。もう、息の詰まるような旅だったわ」 それが面白かったのか、笑って聞いていた。(だいぶこらえてたけど) 私の顔がふくれると、お父さんの笑いも消え、「そうか」と一言言った。 すぐにお父さんは部屋に戻っていく。少し慌てて続こうとすると…。 「嫌なことを聞いて悪かった。その様子だとだいぶ疲れているだろう? 気にせずお休み」 優しく微笑んだ顔をこっちに向け、そう言ってくれた。 私はお父さんの厚意に甘えさしてもらうことにした。 「ごめんね。悪いけどお言葉に甘えて、ゆっくり眠ることにする。じゃあまた後で…」 笑みを返して父さんに背を向けた。そして、その先の部屋にある毛布の山に潜り込んだ。 毛布の中で私は丸くなり、目を瞑った。毛布の感触に触れただけで、良い夢見れそうだ。 数秒で眠りに付いた。落ち着きを感じさせる温もりの中で…。 **STORY TWO 〔気になる影を追いかけて…〕 [#e46874b3] 私が目を覚ましたのはその日の夕食の直前だった。 急いで眠気を吹き飛ばし、食器のぶつかる音の聞こえるダイニングの扉を開いた。 すぐさま、三つの顔がこっちを向いた。お父さんと、おじさんおばさんの顔が。 ただいま、と二人に挨拶をした。二人ともいつもと変わらずニッコリ顔だ。 「お帰り。もうご飯出来てるよ。早くおいで」 おばさんがそう言い、手招きをする。駆け足でおばさんの側に近づいていく。 テーブルの下まで近づくと、目の前に魚のほぐし身の入ったお皿を置いてくれた。 それを見ただけで、ゴクリと喉を鳴らした。久しぶりの好物にすぐに飛びつく。 あの馬鹿がどんな高級な食べ物を出そうが、私はこっちの素朴な料理の方が好きだった。 今思っても、ポケモンの事を全く考えていなかったのだと、食べてる間に溜息をもらした。 それ以降は、何も考えず、料理を味わいながら、おばさん達と楽しく接していた。 食事が終わり、食器の片づけを手伝う。食器を割らないように慎重に…。 洗い物を終えると、おばさんがお風呂場で私のことを洗ってくれた。 人間よりも体温が低いため、冷水で洗ってもらっている。正直、少し申し訳ないと思う。 ドライヤー(勿論、冷風)で水気を払ってもらって、ダイニングに戻った。 既に時刻は、八時半。おじさんは布団を敷き始めていて、お父さんもあくびをしている。 この後起きていても、一人でボーッとしている羽目になるので、おじさんにお休みを言って寝床に向かった。 「お休みなさい、お父さん」 「ああ、お休み。さて、私も寝るとするか」 もう一回大きくあくびをして、ソファに飛び乗って丸くなった。 それを見て、私は部屋に消えた。そして使い古しのベッドに置かれた毛布の中に潜り込み、昼間と同様に丸くなった。 ベッドの上なだけあって、床で寝るより気持ちがいい。 更に毛布にくるまり、目を瞑った。そうして、間もなく睡魔に襲われ、意識が遠退いた。 それから数時間後。 窓から入ってきた月光が、顔に当たり、私は目を覚ましてしまった。 薄々は感じていたが、昼間に寝てしまったせいで大して眠くはなかった。 もう一度目を瞑ってみるが、一向に瞼の重くなる気配はない。仕方なく目を開けて座った。 月光が、西側のこの部屋に差し込んでいるということは、深夜過ぎぐらいだろうか。 しっかりと丸形をした満月が、空の高いところに見えている。 「…はぁぁ、本当に綺麗だなぁ。たまには夜更かしも良いか…。良い物見られたし…」 眠気がぶり返してくるまで、どれ位掛かるか分からないけど、月を見ていることにした。 ただボーっと眺めているだけなのに、何故かその美しさがいつもより強く感じられた。 暫く月を凝視することがなかったせいだろう。それでもこれほど変わる物かと感心する。 そんな事を思いながら、暫く月の美しさに見とれていた。 が、ガサガサという音を耳にして現実に戻された。 視線を前に戻すと、道を挟んで向こう側の低木の葉が揺れている。何かがいるようだ。 窓の下にある程度顔を隠し、その葉の揺れている場所を見ていた。 やがてガサリと葉が大きく揺れ、何かが出て来た。此処からだと月光が逆光を起こしていてシルエットしか見えない。 体の大きさは約一メートル。二足でなく、四足で歩いている。 スラッとした体格に長い尻尾、その先には魚の尾ビレのようなものが付いている。 顔の近くには、またヒレのようなものと、首周りには襟巻きのようなものが付いていた。 (あんなポケモンこの辺りにいたっけ? と言うより、あれ何ていうポケモン?) 少なくとも、私が此処を出る前にはいなかったはずだ。最近この町に来たのだろうか? そのポケモンは、キョロキョロと辺りを見回し、誰もいないのを確認すると、道路沿いを歩き始めた。確か、その先は公園だったはずだけど、何をしに行くのだろう? 窓を開け、其処から外に出た。そして、さっきのポケモンを追いかけていった。 あのポケモンが何で、何のために公園に行ったのか知りたいがために…。 家の中とは違い、外は海の方から運ばれてくる潮風で、少々冷えていた。 大した時間も経たないうちに、公園の敷地内に入った。既にあのポケモンの姿はない。 この公園、ただでさえ広いのに、更に一匹のポケモンを探すとなると…。探しきれるか…。 「一体どこに行ったんだろう? ……ん?」 微かに何か聞こえた。聞き間違いでなければ、水が飛び散った時のような音だったと思う。 海に面していない公園なので、水音がする場所は限られてくる。 そうなってくると、一番水音がしそうなのは、公園中央にある噴水の台座だ。 場所の特定が出来れば、庭と同然、迷いはしない。中央に向かう道を再び走り始めた。 さっき聞いた水音が段々大きくなってくる。今の時間、噴水の水は出ていない。つまり、水音がするのは不自然であり、誰かが水で何かしているのが分かるわけだ。 しかも、こんな真夜中に此処に来る人はいないと言っていい。来るのは、この辺りを住処にしているポケモンだけだと断言しても、過言ではない。長い間此処にいて付けた知識だ。 林の向こうに噴水が見えた。林の中に入り、真っ直ぐ噴水に向かって、足音をたてないようにゆっくり近づいていった。 大体、気付かれないであろう距離の木の陰に身を隠して、其処から噴水を覗いてみた。 其処にある光景を見て、私は一瞬目を疑った。 噴水の水場では、さっきのポケモンが踊っていたのだ。 水の中を自由に泳いだり、水から飛びだして回転したりしている。 飛び出してきた時に、月光で見えた青い姿をしたポケモンは、シャワーズというポケモンだと思う。 細い体が、飛び出した時のしなやかな動きを作り出し、水の中では優雅な動きで美しさを一層引き立てている。 水飛沫は、月光に反射して宝石のような輝きを放ち、その中央でシャワーズが水のドレスを身に纏い、月に劣らない輝きを放って踊っているのだ。 いつの間にか私は、その光景に心奪われていた。まるで絵に描かれたような光景に…。 暫くして、シャワーズが水から上がってきた。体をブルブルと動かし、水滴を振り払っている。 それを見て、やっと我に返った。そして、急いで此処からいなくなろうとした。 しかし、反対側を向いたその先には……。 「…………へ?」 「始めまして。こんばんは。僕に何か御用がおありですか?可愛いグレイシアのお嬢さん」 さっきまで噴水の前にいたはずのシャワーズが、此方を向いてにこやかに笑っていた。 ----- 修復かんりょ~ ----- コメント御願いします。 #pcomment