※直接的な描写はないですが、多少の&color(brown,brown){スカ};要素、それとリョナ要素に注意! &size(30){Le châtiment d’Y}; あるいはイベルタル打擲 作:[[群々]] ——私は世界の秩序の為に立ち上がらねばなりませんでした。浅はかなイベルタルが不当に私の慈愛に覆われた生命たちを吸い尽くそうとしているのを目の当たりにして、内より込み上げる怒りを抑えることはどうしても出来なかったのです。 無論、私とイベルタルとはある種の&ruby(めおと){夫婦};の関係を結んでいましたし、結ばざるを得ませんでした。それは愛情というよりも、均衡の為であるということは言うまでもありません。ルギアとホウオウ、グラードンとカイオーガ、ディアルガとパルキア、レシラムとゼクロムがそうであるように。ですから私としても、イベルタルと共にあるという事にかけては何の不満もありません。イベルタルがある、ということは私があることと同義であり、逆も然りでした。ゼルネアスたる私は、世界の幸福と安寧の為に自己を犠牲にする事を寧ろ喜びとしておりますし、そうして安定した世界が保たれてきたのだという自負もあります。 ですが、この度のイベルタルの振る舞いは度を越したものとしか言いようがありませんでした。つくづく、私はあの鳥なのか竜なのか判然としないイベルタルの不遜ぶりには眉を顰めながらも、これが私の対であるという事実を淡々と受け止めてきました。多少の狼藉にはやむを得ず目を瞑ったこともありました。しかし、何度も忠告したにも拘らず、吸うべき生命の限度を大幅に超過するような大胆な振る舞いをした上に、私の注意を顧みぬどころか、唾棄すべき態度を示したことで、流石に私の堪忍袋の緒も切れた次第です。秩序の監視者たるジガルデとも重ねて協議した上で、あの不作法なイベルタルを打擲することを決心しました。 私と比べれば遥かにおつむの悪いイベルタルのことでしたから、誑かすのは誠に容易なことでした。私は単に嘘を吐きました。彼の地の生命の均衡を保つべく、少々の死を与えて欲しいのです、と。嘘というものを基本的に私は不正義とみなして軽蔑していますが、時には方便というものもあるのだということは認めざるをえません。私から幾度となく過剰な殺戮を咎められていたにも拘らず、約束の場所にのうのうと現れたイベルタルのことを、私の自然を操る力によって生ぜしめた蔓でもって拘束したのでした。怒りに満ちた蔓で身動きの取れなくなったこの嘆かわしい私の対をきつく大樹の幹へと戒めてやりました。 「畜生っ、ゼルネアス、テメエっ、何しやがるっ、どういうつもりだっ、放せ、放しやがれっ! クソが」 そう悪態を吐くイベルタルに対して、私はまず深い嘆息を漏らしました。予想しきっていたこととはいえ、流石に思ったままの行動を取られると、私としても吐息する他ありません。私はその気になりさえすれば、あらゆる生命を我が物のように操る能力があります。もちろん、私はその力を濫用することを嫌います。大いなる権限をその身に宿した者には、それ相応の責任というものが生じますし、それに相応しい徳も身につけるべく努めなければならないと、私は信じています。それは私のみならずイベルタルも同様のことですが、この有様では、どうにも処置なしでした。 「テメエ、騙しやがって、ゼルネアスのくせに!」 「私は何度も申し上げたはずです」 と私は蔓を鉄鎖のように引き絞りながら、イベルタルに言いました。 「貴方の不埒千万にはほとほと呆れ果てていると」 「うぐぐっ!……けっ、何かと思えば、そんなことかよ」 微かな苦悶を漏らしながらも、猶もイベルタルは&ruby(ごうはら){業腹};な態度を崩しませんでした。それどころか、顎を上げて挑みかかるような目つきで私のことを睥睨するのには閉口させられました。 「命を喰って、何が悪い。俺はイベルタルなんだぜ? どれだけ生命を吸い上げればいいかなんて、俺が決めることだろうが。俺だって腹一杯、絶望と悲鳴を味わいたい時だってあるもんな」 言語道断な物言いに対して、私はもう慣れ切っていました。不感症にまでなっていましたし、ヤヤコマの囀りのようにそれは私にとり親しいものでした。私は縛られたイベルタルの正面に佇んでおりましたが、俄に角を色彩豊かに輝かせました。 「ふうん、怒ってんのか」 イベルタルは嘲笑するように言いました。 「馬鹿だな。何を怒ることがある。俺が暴れた分だけ、テメエが祝福をすれば、それで済む話じゃねえか?」 そんなこともわからねえのかよ、ゼルネアスの、くせに。私は沈黙したまま、蔓に一層の力を込めて忌憚なくイベルタルの肉体を締め付けました。低く、呻くような声を聴きながら、私はただその苦悶する姿を眺めました。私は何事にかけても曇りなき眼で見ることを好みます。生命を与える者として、全てと分け隔てなく接するための公準を持たなければなりませんし、それはこの目の前の死神であろうと歪曲することがあってはなりませんでした。神性を持つものは残酷なまでにも、公平でなければなりません。 「うぐっ……ふんっ!……ぐぐぐぐっ!……ううぐっ……!」 イベルタルの肉体は美しい、その点に関して私には何らの異議もありません。イベルタルの肉体は美しい。猛禽と翼竜を掛け合わせた風貌には、力強い印象があります。強靭な&ruby(くび){頸};、腕かとも見紛う両翼、第三の翼とも言うべき尾と言い、私としても賛美するにやぶさかではありません。あまつさえ、そのトルソの美には崇敬すべきものがあることは否めませんでした。&ruby(わきか){腋窩};の窪みと逞しい胸から、峻険にくびれていく腰と複雑な腹の角張りは言うまでもありませんが、鮮血のような皮膚を、黒ずんだ血塊のような模様が、筋骨隆々たるイベルタルの肉体の隅々にまで、地上絵のように刻まれているのは結構でした。 「くくっ! くくくく、くくっ! へっ」 苦悶を欠伸のように咬み殺しながら、イベルタルは驕慢にも&ruby(あいぎょく){藍玉};の瞳を私に向けて、鼻を鳴らしました。締め上げられた全身が本能的に悶えてその肉体に影差すと、複雑にも鮮やかな筋の襞が浮かび上がりました。イベルタルは死を司る神的な存在であることを除けば、愚者といってもいい存在ではありましたが、そのような愚者にありがちなように、肉体だけはひたすらに誇らしげでした。 「ぐはあっ!」 私はイベルタルを縛めた蔓を茨に変えたのでした。ブリガロンが頸より出すような蔓から忽ちにしてカエンジシの牙のような棘を生やして、鈍い音を立ててイベルタルの身体を刺し貫きました。目を見開いて、痛みのあまりに流石に絶句した私の対から、漆黒の血がしとどに溢れ出しました。 「くっふ……この、ゼルネアスがっ」 イベルタルは強がりを言いました。 「たかがっ命の食い過ぎごときで、大袈裟なんだよ、ああっ、面倒くせぇっ……」 「貴方を諭すつもりなど毛頭ありません」 私はイベルタルの大いなる胸から腹へと斜めに伝う流血を見つめました。コフキムシが這うようにぎこちなくこの怪物の皮膚を垂れ落ちていくカラマネロの吐いた墨のような血から、私は一羽のヤヤコマを生み出しました。血溜まりからふんわりと浮かび上がった雫から、細い枝のような脚が二本生えてくると、たちまちにして泥のような血の塊は小鳥の輪郭をとって、色合いも鮮やかな橙色を帯びた頭から、そこからつぶらな瞳と小さな嘴も現れ、灰色の羽毛と翼に、一筋の白線の走った薄黒い尾羽も生じました。我が愛しいヤヤコマは、イベルタルの肉体から軽快に飛び立って、私の角に止まって、きゅきゅいと鳴くと、忙しなく角から角へと飛び移って、やがて忙しくもどこかへ飛んでいきました。 「私はただ平穏な世界のために身を&ruby(やつ){窶};しているに過ぎません」 「……はははっ!」 イベルタルは哄笑しました。額から生えた鎌のような角をそびやかしつつ、カタカタと筋の肉を震わせるながらも、血糊と共に皮脂も浮かんでいるのが私には見えました。 「ご苦労様なこったぜ」 私はそれに対して何も反駁しようとは思いませんでした。ただ地上から新たに生やした蔓を鞭にして、イベルタルを激しく打ち据えました。 「ぐぅふっ!」 体幹を樹木に拘束され、両翼は茨によって吊り下げられていたイベルタルの姿勢は、文字通りの「&ruby(イガレッカ){Y};」でした。私はホルビーの耳のように太ましいその首を音高く打ちました。オンバーンよりも豊かな首元の毛並みに隠された胸鎖を打ちました。影が複雑な溝を織りなしている脇腹をしつこく、強かに打ちました。 「ぐあああっ! うがあっ! あぎゅあっ!」 折檻しながら、茨の棘をいっそうイベルタルの肉深くへと食い込ませ、そのままゆっくりと抉らせると、鈍い水音と共に泡立った血がドロドロと流れていきましたが、私はそれを次々とヤヤコマに生まれ変わらせました。麗しい橙色の小鳥たちの群れが、輝かしい太陽のようにイベルタルから花開き、しなる蔓と痙攣する赤と黒との肉体の間を楽しげに戯れていました。 私は静かに歩み寄って、しばかれているイベルタルの姿を見つめました。身体を甚く傷つけられて悶絶しながらも、懲罰が止むとどうせ全てを忘れたかのように居直るであろうこの怪異をしかと見据えました。イベルタルも私の物言わぬ視線に気づいて、苦悶の叫びを低くあげながら、嘲笑するように一睨しました。そのようにして、私たちは対峙していましたが、いかに死を司るダイモーンといえども、不遜であり続けるには体力が要るものです。挑発的なイベルタルが根を上げるまで、私は蔓の鞭を振るい、茨でその身を引き裂き続けました。 「……ゼルネアス」 その細長い頭をうなだれて、イベルタルが私の名を漏らすまで、私はいくらでも待ち続けることができました。それがディアルガの鼓動何億回、何兆回分であろうが、私は秩序のためにならいくらでもそうすることができるし、そうしなければなりませんでした。 「いい加減、離せよ」 聞こえるか聞こえないかどうかの微かな声で、イベルタルが弱音を吐きました。 「でなければ殺したらどうなんだよ……」 繭として眠る時のようにイベルタルは、首と尾を胴へとぴたりとくっつくように丸めようとしたものの、緊縛された翼を思うままにできずにもどかしそうに蠢きました。何より、無理に体を縮こめることで、冷徹な茨がより深くイベルタルの肉に食い込んで、その先鋭な口先から苦痛の叫びを上げさせました。 「うぐうぅぅぅっ……くっそ」 「私たちには所謂平凡な生と死というものはありません」 蔓で手痛くイベルタルの頬を一打ちして、私は言いました。 「あるのは、日が昇り、沈み、また昇るような輪廻だけです。その一環として私は泉のように生命をもたらしますが、貴方はそのお零れに与るように生を貪る。すなわち、死をもたらしているのです」 「この期に及んでゼルネアス様のご教説かよ、つまんねえ」 少し責める手を休めたうちに、微かに悪態を吐く気力を取り戻したイベルタルの胴を再びきつく茨で締めて、私はさらに激しくその身を打ちました。先ほども申しましたように、イベルタルの肉体は美しい。破壊の化身、無垢と表裏一体の無知蒙昧の無様に相応しい、彫琢された身体は、いっそう傷つけ苦しめられるべきです。 「ぎゅぐっ!……こんのっ……!」 クソがっ、とイベルタルは叫ぼうとしましたが、その瞬間に蔓が激しく&ruby(おとがい){頤};を打ったので、言葉は掻き消え、イベルタルはしばらく何も口に出すことはできませんでした。 「がっ、はあっ!」 細くも太い体躯を微かにひくつかせながら、喘ぎ切らすイベルタルの側で私はずっと佇んでいました。このいつも命を喰うことしか考えていない&ruby(きんじゅう){禽獣};が、次の言葉を漏らすまで待ちました。 「はあっ……はあああっ……ゼルネアスっ」 「……」 「おい、テメエ」 「……」 「ごらっ、聞いてんのかよ」 「何か」 「いつまで、んなことする気だっての」 「私の知ったことではありません」 「ざけんなクソがっ、とっとと離せっ、ゼルネアスのくせに偉ぶりやがって、キメエんだよ!」 それは貴方次第なのですイベルタル、と私は言おうとしたのでしたが、口を噤みました。敢えて、でした。私はいっそうきつく茨をイベルタルの身に締め付けました。内臓さえ握られる鈍い音と共に、目の前の赤い化物は苦しみながら笑いました。 「かはっ、はっ、はっ、はっ! 怒ってるんだな、ゼルネアスっ! ぐはははっ! だったらっ、んな遠回しなこと、やってねえで、その&ruby(ね){無};え口で、言ってみろよ! く、ふっ、はははっ! ゼルネアス様ぁ? かはははは、はっ!」 私は黙っていました。イベルタルの切り裂かれ、擦り切れた身体からはとくとくと澱んだ血が流れていました。その周りをまだヤヤコマたちは幼くも跳ね回り、飛び回っていましたが、私はイベルタルの尾に留まっていた一羽に一対の大きな丸い耳を生やしました。むくむくとヤヤコマはその形を変えて、首元からはイベルタルと同様のふさふさとした毛並みが現れました。灰色の翼が膨らむように大きくなって、黒と紫と薄緑から成る飛膜となり、先端にはそれぞれ3本の赤い爪が生えてきました。薄黒い尾羽がしゅるしゅると伸びて、先端に鋸のような刻み目のある尻尾に変わり、か弱い枝のような脚にはむっちりとした肉が付き、羽毛はみるみると縮んでがっちりと筋骨の浮き出た張りのある肉体と化しました。可愛らしい顔は大きな丸みを帯びて、尖った鼻先からはV字型の赤い触覚が生え伸び、つぶらだった瞳はその触覚に沿って吊り上がり、涙丘は飛膜と同じく翡翠色でした。 「はっ!」 イベルタルは嘲笑しました。 「ヤヤコマをオンバーンに変身させて遊びやがって。テメエだって、生命を弄んでやがるじゃねえか!」 「イベルタル様、そう大きな声を出さないでください……」 「はあ?」 「僕は物音に敏感ですから。そんな近場で声を出されたら、苦しいです、イベルタル様」 「ああ?……な、なんだよ……」 ヤヤコマが姿を変えたオンバーンは、イベルタルの雄大な尾へと跪いていました。茨に苛まれるその身体を労るように、赤い爪を何度も心腹に這わせました。 「ごらっ、やめろ、やめろっ……!」 肉を裂かれる痛痒を忘れて、オンバーンを口で摘み出そうとしたので、私はイベルタルの首元を茨でキツく締め上げさせました。 「ああ、イベルタル様! なんて、お痛ましい……!」 竜と蝙蝠の合いの子は、涙ぐみながら、殉教した聖人であるかのようにイベルタルの肉体を愛撫しました。皮膚ごしに内側の猛々しい筋の形を感じながら、吸血する牙が当たらぬように気を遣いながら、その浮き彫りのあちこちに接吻を施しました。 「んんっ! んん、んっ! おいっ、ごらあっ……!」 私はその様子を黙して見つめていました。我が角の陰で、オンバーンは愛しげにイベルタルへの接吻を続け、接吻から自ずと厚い舌を伸ばしてその&ruby(はだえ){膚};を舐り始めました。 「んっ……愛してますっ、イベルタル様」 「やめろっ、クソっ、離れろっ、気持ち悪いっ!」 イベルタルが脅迫めいた視線を私に送るのを感じましたが、その程度で私は動じません。無垢なオンバーンが、ただ目の前の傷ついた一匹を哀しんでいるという光景を、見つめていました。 「ゼルネアスっ!」 憎々しげにイベルタルは叫びました。 「とっとと、こいつを何とかしろっ。俺の身体をベロベロ舐めやがって……さっきからジロジロ見てやがるテメエも同類だぞ!」 「はふっ……ん……イベっ……タル様っ」 「クソッ、クソッ、ざけんなっ……離れろ変態っ!」 抵抗する身体のうねりから、イベルタルが上気していることがわかりました。屈むオンバーンのために隠れてはいましたが、合いの子の背中が撓って、背骨の一本一本が浮かび上がったのを見て、私はそのことを悟りました。 「ぐぐぐぐっ……!」 「わあっ……」 「おい、て、テメエっ、みみみっ、見んなっ、ざけんなっ! クソがあああッ!」 茨と蔓で雁字搦めになったイベルタルを尻目に、恍惚としたオンバーンはそれを咥えたようでした。頭を深く下げて、口腔の奥にまでそれを含んでいることが察せられました。 「うあああっ……ふううっ……!」 私は特に何もしていませんでしたが、イベルタルは手痛い一撃を受けたかのように、首を直立させました。低い声も多少甲高くなっていましたし、発せられる言葉も共鳴する音叉のように震えていました。 「うあああああっ……うおおおおっ……」 頭を上下させるオンバーンから、殊更に粘った音が立っていました。その厚い舌がそれと絡み合っていると考えるのは容易でした。あたかも、茨がこのイベルタルを束縛し、懲罰しているようにです。イベルタルの息が荒くなりました。堪えきれないとでも言うように、首を大きく横に振りました。オンバーンは情熱的な口淫を続けていました。 「チクショウっ、やめろっ、無理っ、無理い゛っ!」 オンバーンが口を離して、首を傾けながら横から食んだので、私にもその形がよく見えました。いかにも、この図体に相応しいミアレの塔のような肉棒でした。 「ぐぁあああああああっ……!」 一閃の悲鳴と共に、イベルタルは精を放ちました。全身を激しく身震いさせて、心ここにあらずといった虚ろな瞳で、唖然としながら吐精しているかのようでした。オンバーンは慌ててその止めどない横溢を飲み込もうとしましたが、流石に全てを収めることは困難で、咽せながら顔を離すと、この怪鳥にしては素直に真っ白い精液が泡を立てながら噴き出してきました。 「あああっ……はああっ……!」 私はその泡をじっと見つめました。ぶくぶくとした泡が大きくなって膨らみ、そこから水色の頭がちょこんと生えてきました。反対側からは小さな胴としなやかな四肢が伸びて、一体のケロマツとなりました。糸目で周囲を注意深く窺ってから、ケロマツは高らかに跳躍し、どこかへと跳んで行きます。 「イベルタル様……ああ、イベルタル様ぁ……」 精をまともに浴びて気もそぞろなオンバーンも、オーロットに変えてやりました。両翼がみるみる&ruby(すぼ){窄};んで枝の腕となって、手首からは草木が茂りました。頭部とトルソが一体となって老いた幹となると、虚ろな穴から仄赤い瞳が灯って、&ruby(さんさそう){三叉槍};に分かれた頭部の先端は波を打ち、手首と同様の茂みが生まれました。優美な脚が縮んで幹に飲み込まれたかと思うと、たちまち6本の根が伸びて、しかと地へと降ろすと、のそのそと蠢きながら私たちのもとを離れました。 項垂れたイベルタルと、私だけが残されました。イベルタルは言葉にならない呪詛をぶつぶつと呟いていました。白く澱んだ子種の余りが凝固した血と混じり合って、雄々しい腹を汚していました。 「……何、じろじろ見てんだよ」 忌々しげにイベルタルは毒づきました。 「ド変態」 「……」 「一体、いつになったら離すつもりだよ、カスっ、ゴミっ!」 私は妙なる空気を吸いました。そして、言いました。 「……それは貴方次第なのです、イベルタル」 「あ?」 「それは、貴方次第なのです。イベルタル」 「けっ! 含蓄持たせたつもりかよ」 イベルタルは地に唾しました。その唾をヌメラに変えながら、私は無責任な死神を見下ろしました。 「私とて、できることは多くはないのです」 「だろうな」 「だからこそ、イベルタル、貴方次第と言っているのです」 「はっ! 全っ然わっかんねえな!」 私は改めて妙なる空気を、神妙に肺へと収めました。尊い酸素を忝くも二酸化炭素へと変えて、神聖なる下界へと吐き出しました。そして、再び茨を強く締めると、イベルタルの周囲に蔓をそびやかせました。 「かははっ、俺、頭悪いからさ、ゼルネアス語わかんねえんだよなあ、言いてえことあんなら、はっきりと言ってくんねえとさあ……」 「仕方がありませんね」 私はきっぱりと言い、そしてイベルタルに宣告しました。 「私もそれを言うことにはやぶさかではありません」 イベルタルを何度となく鞭打った蔓の先端を、私は萎えた肉棒の直下へとあてました。 「……あ?」 困惑しているイベルタルをよそに、蔓を竜でもあり鳥でもあるところの «l’anus» へと押し込ませました。 「いや、おい、テメエっ、ゼルネアス! ご、ゴラあっ!……」 乱暴にこじ開けたイベルタルの中を、蔓が激しく掻き回していました。罵詈雑言を放つ口も別の蔓で抑え込んで、グルグルと噛みきれぬ程に巻きつけると、その口腔内を撫ぜました。茨の棘も擦りつけて、その皮膚をゆっくりと掻きむしらせました。 「ぎゅうあああが、がが、がががっ! ああ゛っ!」 整った腹部から、内部を弄する蔓の形がくっきりと浮かんで見えました。硬質な肉がそれに抵抗しながらも、ゆっくりと軟らかくなっていくのがわかりましたし、付言すれば、下腹から再び精力が持ち上がってきていました。 「ングぐっ! んんむうむむうっ!」 磔にされた姿勢のまま、イベルタルは全身を激しく揺すぶろうとしていました。瞳からは、その残酷さに似合わぬ綺麗な涙の粒が流れていました。ようやく、その傲岸不遜な表情に、頑なな自我を放擲した絶望が差してきました。蔓はより一層、上から、下から、イベルタルの身を責め立てました。悲鳴とも絶叫とも嗚咽とも慟哭とも悶絶とも喜悦ともつかない金切り声が漏れて、辺りに木霊していました。 私はイベルタルがそうなる時までずっとそのようにさせていました。死神といえど一介の雄が、体内を隈なく辱められて、そのはしたない性衝動を引き摺り出されている様は些か滑稽で哀れでもありましたが、これもまた生命の証と言えるので容赦すべきことでした。余った蔓の鞭で音高く脇腹のくびれを打ちながら、私は «l’acmé» を待ちました。 「んむむムムムっ! ふんっ、ぬぬぬぬぬぬっ! んぎゅう゛ううううっ!」 体内にその叫号を響かせながら、イベルタルは壮絶に «l’acmé» をしました。壮健な赤黒の肉体が電撃を浴びたように引き攣りました。震えのために、その身が縮んでしまうのではないかと思わせる甚だしさでした。藍色の目が見開いて、瞳は塩のように小さくなっていました。下腹は殊更に戒めの茨を振り払わんとするかのごとくのたうち回っていましたが、衝動のあまりに、もたげていた精が敢えなく泉のように噴いていましたので、その泡から金貨のように続々とケロマツが生み出されました。 「んぐぅう……ううんっ……んぬうっ……」 精根尽き果てて、朦朧と項垂れるイベルタルを私は長々と眺めていました。茨の束縛を外すと、傷痕と白濁に覆われたその肉体の傷ましさがよくわかりました。口と、下の口を封じていた蔓も抜き取りました。私はそれをじっと見つめました。 「イベルタル」 「……ぐぬ」 「イベルタル」 「ううっ……もうっ、なんなんだよっ……」 私は丁寧に言葉を紡ぐように心がけました。 「ただ、一言です」 イベルタルは深いため息をついて、何も言いませんでしたので、蔓を使ってその頤を支えて、私に視線を向けさせました。邪気の込もった目は、さすがに今は弱々しく灯っていました。 「ううっ……」 「私は貴方の言葉を待っているのです」 「……ぐぐるるっ」 「貴方がそれを口にする、それだけでいいのですよ」 私はイベルタルの鼻先に、蔓を差し向けました。先ほどまでこの怪鳥の尾の奥深くを捏ね回していたそれでした。 「んうっ?!」 「私は」 「いやっ、あのっ、それは」 「貴方を愛していますよ」 「いや、でも、やめろっ、やだっ、やだっ、それだけは、やめっ! おかしい、おがしいだろっ! だって、それっ、それえっ!」 「私からの贈物です。喜んで受け取るべきです」 「無理っ! 無理い゛っ! ぜ、ゼルネアスうううっ!」 「私は、これでも、貴方のことを愛しているのですよ」 イベルタルは絶叫していました。私は蔓の先端をイベルタルの口にべっとりと押し付けました。 「ずゅんませんでしたっ! もうあ゛んなことしませんっ! 俺が馬鹿でちたっ! ゼルネアズュ、頼むから許じでっ、それだけは、本当に、あがあっ、止めでえ゛えええっ!」 #hr ——ゼルネアスがイベルタルを打擲した一連の驚くべき場面を、秩序の監視者として見届けたジガルデは、イベルタルの悲鳴を背後に聞きながら、潜伏する終の洞窟へと引き上げて行った。このやり取りは、アルセウスによる創世以来、これで何度目だったかと、長い尾を引きずりながらジガルデは首を緩く傾げた。しかし、そのためには必要なコアが足りなかった。 #hr これがバレンタインネタだったってマジ? いくらなんでも品性が無さすぎるだろ…… それはともかく、ゼルイベの関係性は好き。イベルタルの鳥とドラゴンのいいとこ取りした見た目も好き。 ポケ界隈はダイパリメイクフィーバーという時に、&ruby(シコシコ){粛々};とXYネタを書く、これもポケ字書きならでは、なのか? (2021/03/03) 作品の感想やご指摘、イシツブテ合戦はこちらか[[twitterアカウント >https://twitter.com/GuenGuan]]へどうぞ #pcomment(イベルタル打擲の感想ログ,10,below)