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LH19 魔の手。希望の手 の変更点


[[てるてる]]
'''&size(19){ルイス・ホーカー.19};'''

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&color(red){※暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。};
   


 窓から差し込む月の光芒を、ライトはぼんやりと見つめていた。彼の腰掛けてるのはつい先程荷造りを終えた鞄。「荷は必要最低限にしろ」と言うシドの言うとおり、それは自身のような体格でも容易に持ち運びできる大きさだった。数カ月に及ぶ旅路の結末としては、いささか寂しいものだ。
 何度目かのため息のあと、手元の写真を見下ろす。そこに写されてるのは妻と娘の写真だった。仕事に旅立つ直前に撮ったせいか、写真にはどこか淋しげな顔をした妻と、その横で目に涙を溜めてこちらを睨みつける娘がいる。
 彼女らを見下ろすライトが、わずかに口元をほころばせた。たしか写真を撮ったあと、すっかり拗ねてしまった娘を妻と自分の二人がかりで宥めたんだったか。まるで今しがたのことのように思い出すことのできる二人の姿が、空虚なライトの心奥に染み渡る。友を裏切ってまで会いたいと願った妻と娘の笑顔。自身の所業を知った上でも、果たして今まで通りライトのことを受け入れてくれるのだろうか。
 物思いに耽っていたそのとき、唐突に背後の扉のノブが回される。思わず手に持っていた写真を体の前に隠した。

「終わったか」

 振り返ると、シドが半分開いた扉から顔を覗かせていた。

「それ一つだけか」

 言って、シドがライトが椅子にしている鞄を顎で示す。ああ、とライトはしどろもどろに頷いた。

「ああ、ああ……。言われた通りまとめたよ。これで全部だ」
「そうか。ところでおまえに渡したいものがある。すぐ荷物を置いてこっちに来てくれないか」
「構わないけど、渡したいもの?」
「……こい」

 それだけ言うと、ライトの返事を待たずに扉の隙間から姿を消した。足音が遠ざかる。恐らくは自室へ行ったのだろう。
 ライトはホッとして息を吐き出した。写真のことはバレてないだろう。なぜだかシドに写真のことは知られたくなかった。町から逃げるという提案には乗ったものの、心のどこかではやはり信用していないのかもしれない。
 写真を拾い上げ、とりあえずそれをサイドテーブルに隠す。無理やり鞄に押し込んでシワをつけたくない。だからといって丁寧に仕舞っていたらシドが急かしに来るかもしれない。用事が済んだら適当に口実をつけて取りに来たらいい。どうせ他の仲間はしばらく帰ってこないのだから。
 部屋を出て、相変わらず埃の舞う廊下を小走りに進む。短い廊下には日中作業を業者が置き去りにしたらしい資材で乱雑としている。途中、工具箱を避けそこねて中身を盛大にばらまいた。けたたましい音が廊下に響く。内心舌打ちしながら拾おうとして、ふとライトは目の前のドアを見上げかけ、そして目を伏せた。ドアの向こうに助けを求めるべき人はもういない。納得しきれない自身を改めて知覚してしまう。
 



 浅く荒い呼吸を繰り返しながら、アルは目だけでドアを睨みつけていた。今しがたそこでした気配は、軽い足音とともに通り過ぎていった。せめて体さえ動かすことができれば、どうにかこちらに注意を向けられるのだが。とアルは忌々しく手首の縛めを睨めつけた。かろうじて首をよじらせれば、限界まで引き伸ばされた腕と、そこから伸びるロープが見える。縛めを逃れようと散々格闘したおかげで、擦り切れた手首の辺りは血を含んで黒ずんでいる。
 アルが意識を取り戻してからかなり経つ。気づいたときにはベッドの上にうつ伏せに寝かされ、全身をロープでベッドごと縛り上げられていた。四肢はそれぞれベッド足の方へ固定され、口には何かを含まされている上マズルをダクトテープで完全に塞がれている。しゃべれない、身動きできない。圧迫された肺でかろうじて呼吸をする以外何もできないことを、この数時間でアルが学べた唯一の収穫だった。
(クソッタレめ)
 喉の奥でうめく。皮膚の剝け上がった手首足首は、わずかでも身動ぐだけで激痛が走る。痛みを逃そうとシーツを掴む指先から血の跡が拡がる。爪が剥がされたのだ。それでも逃げ道を探してもがくことを止めないのは、長年危険を掻い潜ってきた老トレジャーハンターとしての本能か。
 悪態すらつくことのできない今の状況は最悪だった。助けを呼ぶことも、危険を知らせることもできない。殺されていないことが唯一の僥倖だったが、ここまでされているにも関わらず、一思いに殺してしまわない"やつら"の思惑が不気味だ。
 なぜ殺さなれなかった。暴れることを予想して厳重な戒めを施す手間を考えれば、さっさと殺してどこかへ運び出してしまえばいい。それをしないということは、まだ何か企みがあるのだろう。日中のあのときのように。
 猿轡を噛まされた顎に力がこもる。昼間の光景が脳裏に鮮明によみがえる。突然の訪問者。助けを求めてすがり付いたシドや改装業者たちのとった行動。せめて自身がどこかで違和感に気づくことができれば。張り巡らされた罠の一つにでも触れずに済めば、このようなことにはならなかっただろうに。いや、そもそもあの日ハリー・オールに目を付けられた時点ですべてが手遅れだったのかもしれない。それだけのことをする。やつにはそれだけの力がある。そうまで手に入れようとする"輝石"には何が隠されているのか。ハリー・オールは自分の知らない何かを知っている。そして、それを手に入れるためには何だってするのだろう。――何とかしなければ。

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なかがき
久々の更新なので、誤字脱字感想等、気になることがあったら一言でもいいのでビシバシ送ってくださいませ。

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