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LH18 の変更点


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'''&size(19){ルイス・ホーカー.18};'''

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 席に座り直したサンダースのルイスに、シャワーズのリリアンは声を低める。

「ちょっと、何してるの」
「いや、なんかな……」

 いかにも咎めるような口調のそれに、ルイスは釈然としない様子で首をかしげて言った。どこがとまでははっきりしないが、ふいに感じた違和感のようなもの。

「……なんでもない。気のせいだ」

 そういうことにしておこう。と、皿に注がれた酒に舌をつける。どっちにしろ他人のふりをする以上、追求することはできない。

「気を付けてよ。そうでなくても、ここじゃあなた目立つんだから」

 はいはい、とリリアンの小言をあしらいながら、たしかにそうだと店内を見渡す。
 アルとその仲間の集団と自分たち。それで全員だった。残りはすべて空席があるだけ。ロストヘイブンもそうだが、都市から離れた田舎町はどこも同じなのかもしれない。

「にしても」ルイスは空になった皿に酒を継ぎ足しながら声を低める。「アルのやつ。よりにもよって同じ店に入りやがって」
「他に店が開いてなかったんだし、仕方ないわ。ドドさんもうまいこと誤魔化してくれたんだし、このままお互いに顔を合わせなきゃ問題ないんじゃないかしら」

 リリアンの言に耳を傾けながら酒を飲み干すルイス。相づちを打ちつつ三杯目に取り掛かろうと瓶に手を伸ばそうとしたところで、リリアンに指先を叩かれた。

「ちょっと。飲み過ぎないで」
「いいじゃねえか。やっと運転から解放されたんだ。好きにさせてくれよ」
「でも、明日じゃない。飲みたいのは分かるけど、ほとほどにしないと」

 わかったよ、とふてくされたように卓に顎を乗せるルイス。そのいかにも不機嫌そうな様子に、リリアンは道中何度も感じてきた不安に胸を押さえる。博物館のあの一件以来、ルイスの状況はその場に静止したままだった。いかに振る舞おうとも、一見していつも通りに見えようとも、彼の中に&ruby(たいりゅう){滞留};するものは決して消えていない。
 わかったよ、とふてくされたように卓に顎を乗せるルイス。そのいかにも不機嫌そうな様子に、リリアンは道中何度も感じてきた不安に胸を押さえる。博物館のあの一件以来、ルイスの状況はその場に静止したままだった。いかに振る舞おうとも、一見していつも通りに見えようとも、彼の中に&ruby(たいりゅう){滞留};するものは決して消えていない。
 居心地の悪い空気が二人の間に流れる。押し黙ったままでいるわけにはいかないと話の穂を探していると、先ほどのゴウカザルが料理を抱えて戻ってきた。湯気の立つ大皿を並べながら、空いてる席を見やって首をかしげる。

「三人分って聞いたんだけど」
「連れがいるんです。今ちょっと外にいまして」
「そういうことね。冷めないうちに入ってくればいいのに」

 ゴウカザルの言に、リリアンはとりあえず苦笑してみせる。笑いながら、恐らくそれは無理だろうな、と思った。ゾルタンは酒やタバコの匂いを嫌う。理由こそはっきり聞いたことないが、誰にだって譲れないものはある。必要もないのにわざわざ無理強いさせる必要もないだろう。

「まぁ、旅行者さんに色々聞いても悪いからね。今日はあそこの団体さん騒がしいけど、勘弁ね」

 笑いながらそう言って、ぱたぱたとキッチンへ戻っていく。忙しそうに立ち回るゴウカザルに感嘆しながらルイスに向き直ると、彼はすでに自分の取り皿に料理を移していた。
 
「ゾルタンの分も残しておいてよね」
「ここのところ運転しっぱなしだったんだ。多目に見てくれよ」

 呆れたようにリリアンが言うのに、ルイスは口を尖らせる。そうは言いつつも、大皿に伸ばしかけていた手を引っ込めてくれるあたりがルイスらしい。
 
「とりあえず、ゾルタンにも持って行ってあげないと」

 苦笑しながら皿に寄せて置かれたスプーンに手を伸ばす。通常、四足ポケモンには柄の部分に特別な細工が成された器具が誂われるのだが、この店にそういうのはないらしい。指の間に柄を挟み、力の入りづらい持ち方で料理を掬い上げようと苦心していると、見かねたルイスが自分の皿を寄越してきた。

「無理すんなって。これ持っていけよ」

 そう言ってスプーンを引ったくると、新しい皿に器用に料理を移していく。素早い手つきに、リリアンは感心して息を漏らす。
 
「あんた本当に器用よね」
「ようは握力だろ。毎日壁をよじ登ってみろ、すぐにできるようになるぜ」
「遠慮しとく」
「というか、ゾルタンだったら口移しでもよかったんじゃないか」
「さすがに怒られるわ」
「お前からならむしろ喜ぶかもしれないぜ?」
 
 リリアンの分をよそいながら軽口を叩くルイスに、リリアンは呆れたように目線で半円を描く。にやにやと笑うルイスを置いて席を降りると、背中に料理を乗せて外に出た。あるかないかの敷地を回り、店の脇に隠すように停め置かれた車の影で佇む人影に声をかける。
 
「遅くなってごめん」

 いえ、とマグマラシのゾルタンは言うと、リリアンから皿を受けとる。

「どうだった?」
「あれからその辺を見て回ってみました。やはり出歩いてる人は誰もいませんね」
「どうも不気味ね」

 リリアンは夜の中に沈んだ町並みを見渡した。モヘガンに着いてから今まで、車で仮眠するルイスを置いて二人で町を偵察した。そこで気になったのが、この住人の少なさだった。海沿いの田舎はこんなものだと昼間車内でアルから聞いたが、それでも引っ掛かる。仕事が仕事なだけに、なおさら無視できなかった。
 
「無人の家もかなりあるみたいです」
「廃屋ってこと?」
「住人自体は最近までいたようです。空き家というより、単にいないだけといった&ruby(あんばい){塩梅};です」
「住人自体は最近までいたようです。空き家というより、単にいないだけといった&ruby(あんばい){塩梅};です」
「昼間の話もあるし、どうも気になるわ。今日と明日だけとはいえ、私たちも用心するべきかしら」
「そうですね」
 
 そう言ったきり、二人の間に無言が流れる。ただでさえ他人行儀で物静かな青年は、博物館を発って以来、目に見えて口数が減っている。無理もない、とリリアンは思う。少なくとも明日の昼には、アルたちの取引現場に飛び込み、”輝石”を奪還しなければならないのだ。黙りがちになるのは致し方ないことだろう。
 リリアンはゾルタンの側に腰を下ろすと、彼の背中を励ますように擦る。触れた瞬間、緊張したように背筋を伸ばすのがゾルタンらしい。

「明日のこと、どう思う」
「……よく分からないです。相手が何人で、どこからやってくるのか。どこへ去っていくのか。分からないことが多すぎて」
「本当にね。大それたことをするのに、肝心な情報がまるでないんだからね」
「成功するでしょうか」

 「成功させないと」言って、ゾルタンの背を軽く叩いてやる。また無言。なにかを考えるように遠くを見つめるゾルタン。話の継ぎ穂もなくなり、そろそろ戻ろうかと立ち上がりかけたときだった。

「ビアスさん、その」

 呼び止めるゾルタンの声。振り返って、リリアンは驚いた。種族上夜目が効くとはいえ、光源に乏しい夜間の視界は色彩を欠いている。にもかかわらず、今自身を見つめるゾルタンの目は、強い紅を宿していたのだ。――そう見えた。そう見えるだけの強い意思を感じた。
 これが昼間なら。リリアンはゾルタンの赤く上気した耳や頬に気づけただろう。おそらく彼が何を言おうとしているのかも理解できたはずだ。
 続きを急かすようにリリアンはゾルタンを見つめた。その目に射竦められたように、ゾルタンは視線を落とす。

「……なんでもありません」

 かろうじて絞り出したような声だった。それだけ言って、ゾルタンはなにも言わなくなってしまった。

「ごめんなさい。また来るから、用事があったらまた言ってちょうだいね」

 手元の料理を見下ろして黙りこくるゾルタンを励ますように言うと、踵を返した。ゾルタンには申し訳ないが、今はあまり彼のことを気に掛ける余裕がない。輝石奪還の他に、私にはもうひとつ解決させなければならないことがあるのだから。
 店の角を曲がり、入り口の方へ近づこうとしたそのとき、ふと店先に人影が佇んでいるのに気づいて立ち止まる。たった今店から出てきたといった様子の男――ピカチュウ――は、色のない顔で足元を見下ろしている。離れていても見て取れるほどに打ちひしがれた様子の男は、最後に店の方を振り返ったあと、ふらふらとおぼつかない足取りで夜のモヘガンの町へ消えていった。







 ピカチュウのライトは店先まで出たところで立ち止まる。俯いた視線の先には、足裏に縫い付けられた影が、背後の光輝を受けて一層の闇を湛えて自身の形に切り取っている。路面に写る手足が震えているのは気のせいではない。押さえつけようにもままならないほどの寒さを、ライトは感じていた。
 結局ロジャーはライトの訴えた不安を理解してくれることはなかった。そんなことありえないと厳然と言い放ち、一言も耳を貸してくれなかった。
(違うんだ)
 震える手をもう一方の手で抑えながら、ライトは背後を振り返る。喧騒に混じり、雇い主であるアルの声が時折流れてくる。
 いかにも親しげに話しかけてきたヘルガー。見た目や声こそアルだったが、それはアルではなかった。アルではない何かが、アルの振りをして成り代わろうとしている。自分達を取り巻く不安感は、とうとう一線を越えて接近してきたのだ。アルの形をした異形の男は、まさにその象徴だった。
 ライトは足を踏み出す。とにかくここから離れなければ。自身を苛む現実から逃れるために、どこかに隠れるのだ。味方はいない。頼れるものもない。どこか、たった一人で身を隠せるところは。
 逃げるように、ふとすればへたりこみそうになる足を励ましなから店の裏手へ回ろうとしたときだった。背後から声を掛けられ、身体が跳ねあがった。

「おい……」

 驚いて足がもつれ、次の足を踏み出す間もなくその場に転んだ。おそるおそる声がした方を振り仰ぐと、見知った顔がこちらを見ていた。

「大丈夫か」

 滅多にしゃべらない口から出てきたのは、ライトの身を案ずる言葉。硬直したままのライトに、クチートのシドは手を差し出した。

「派手に転んだな。起きれるか」

 ああ、と何とか返事をしてシドの手をつかんだ。起き上がり、礼を言う間も、シドは心配そうな様子でライトを見ていた。そこに、いつもの相手を見透かそうとする態度はなかった。

「何も言わずに店を出たから心配になった。何かあったのか」

 ライトは何も言わずにシドを見た。返事を促すように黙って首をかしげる様子に、ライトは驚愕を覚えずにはいられなかった。シドと言えば、誰とも交わることもせず、いつも一人で行動してるという印象だ。たまに声をかければ、さも迷惑そうに二言三言で会話を打ち切ってしまう。典型的な近寄りがたい存在だった。ーー今までは。

「ありがとう。ちょっと飲み過ぎただけだよ。夜風にでも当たろうかと思ったんだ」
「そんなに飲んでたようには見えなかった」
「そうでもないよ」

 シドに軽く礼を言い、ライトは進みかけていた道のりを辿り始めた。一度話して落ち着きを取り戻したのか、歩調は穏やかだった。後ろをついてくるシドが、横並びになったのは自然の流れだった。

「悩みごとか」

 唐突に切り出され、ライトはその場で足をとめる。モヘガンで自分達が寝起きしている、作りかけの宿舎前のことだった。

「俺でよければ話を聞く」
「そんなんじゃない……」

 そう強がろうとした自分の声は、しかしか細く頼りないものにしかならなかった。もはやモヘガンにおいて当然のこととなったひとけのない通りに、自分たち以外の気配はない。
 恐る恐るシドを見ると、彼は先を促すように無言で頷くだけだった。嘲笑するわけでも否定するわけでもない態度に、ライトは促されるように口を開いた。

「……あんたはどう思ってるかは知らないけど、この町は絶対におかしいんだ」

 住人が減っていること。それが自分達がやって来てから起こり始めたということ。自分達の立場が悪くなるような事件が起こること。エデングループという会社の存在。
 打ち明ける間、シドはただライトの言葉に耳を傾けてくれていた。時折質問してくる以外、熱心に話を聞いてくれるのに、急速に肩の荷が降りていくのを感じた。

「あんたは荒唐無稽だって思うかもしれないけど、ここに来て以来ずっと違和感があったんだ。ここまでは堪えてきたけど、旦那までおかしくなった今、もう耐えられない」

 ふと、シドの目が険しくなった。

「アル・ドドが? なぜ?」

 ライトはタバコの件を伝えた。アルがとっくの昔に禁煙していること。それを昼間に話してくれたこと。にもかかわらず、さっきのアルは平然とタバコを吸い、その事に対してライトに何も言わなかったこと。
 ライトが言うと、シドは「そうか」とだけ呟き、考え込むように腕を組んだ。何を考えてるのか、宙を見上げて微動だにしない。痺れを切らして声を掛けようとしたそのとき、シドが口を開いた。

「逃げるか」

 一瞬、その言葉が何を意味しているのか、ライトは理解に手間取った。戸惑いを悟ったらしく、シドはライトの両肩を掴むと、正面から一言一言に力を込めて言った。

「ここを出るんだ。今すぐ。ライトの考えが正しいなら、もう時間は残されてない。二人で逃げよう」

 ライトは呆然とシドを見つめ返す。こんなに簡単に自分の話を信じてくれるなんて。実感が追い付くにつれ、沸き上がる安堵感に思わずその場にへたり込みそうになる。ようやく分かってもらえた。たったそれだけのことにも関わらず、心奥に蟠っていた不安が急速に薄らいでいく。いかに自分の身が孤独であったかを思い知った。
 
「ああ、ああ……。だけど俺たちだけで逃げる訳にはいかない。他のみんなにも声を掛けないと」

 そう言ってもと来た道を振り返ろうしたが、シドは肩の手を離そうとしなかった。言い差そうとするライトを押し込めるように、ゆっくりと首を振る。

「戻ってなんて言うんだ。この町は危険だから報酬を捨てろと? そんなことを言って聞き入れてくれると思うのか。仮に説得できたとして、そんな大人数をどうやって悟られずに脱出させるんだ」

「それは……」

「報酬の条件は全員が揃っていることだ。逃げ出すなんて身勝手を、大金を求めてきた彼らが黙って見過ごしてくれると思うのか」
 
 ライトは押し黙る。シドの言っていることは、自分達の身の安全のために仲間を売れということだ。このままここに残れば何が起こるかわからない。それを知っているにも関わらず、黙って立ち去れということ。そんなことは許されない。普段ならば迷いなくそう考えるだろう。――だが。

「……そうかもしれない」 

 ロジャーの言葉が甦る。そんなことはあり得ない。そう言い切ったロジャーは、はなからライトの言葉には耳を貸す気がないようだった。他の者も同様だろう。明日を目前にし舞い上がった彼らには、何を訴えても意味を成さないだろう。今さら何を言い出すとまともに取り合ってもらえないに違いない。それどころか、裏切り者として吊るし上げにされるかもしれない。

「ライト。お前には家族がいるはずだ。他人と家族、どっちが大切なんだ」

 家族、とライトは口の中で呟いた。家族。妻と娘、もうすぐ七歳になる娘は、もうピカチュウになってもいい年頃なのに、いまだにぬいぐるみと一緒に寝ている。それをからかう自身と、そんな二人を微笑ましく見つめる妻。
 親友を裏切り、大勢を見捨てて一人逃げ帰ってきた自分を、妻と娘は許してくれるだろうか。二人ならきっとわかってくれるだろうと、願うのはあまりにも身勝手な振る舞いだ。
 たとえ一人家路についたライトの心中を察し、自身の話す言葉に心を痛め、避けられない運命に涙してくれようとも、友を裏切り、逃げ帰ってきたという事実はいつまでも残り続けるにちがいない。ライトの知っている家族の形は歪み、永遠に失われしまうのだ。
 ――だけどもう、限界だった。

「……分かった」 

 頷くライトの肩を、シドは軽く叩く。
 
「心配いらない。あてがある」
 
 シドが言う。その背後で大顎がかすかに笑うのを、ライトはたしかに見た。







 ゴウカザルは最後の客を送り出し、食器を流し台へ仕舞うと、改めて店内を見渡した。
 扉を挟んで、通りの方から先ほどの客たちの立てる喧騒が木霊する。あの浮かれ具合からすると、また違う店へ向かうのかもしれない。昼夜を問わず船を迎える必要のある港町では、朝まで開いている店も多い。少なくとも今まではそうだった。
 もう日付が変わろうかという塩梅、片付け途中の店内が、窓から差し込む街灯の淡い光の中で静かに息を潜めている。
 いつの間にかどこかへ去っていた喧騒に、ゴウカザルはやれやれとエプロンを外すと、凝り固まった肩をほぐすように動かしながら店と住宅とを隔てているドアに手を掛けた。モヘガンの他の店がそうであるように、住居を半分改築するようにして備え付けられた店は、ほとんど生活スペースと地続きとなっている。
 ドアを潜ると、ちょうど荷造りを終えたらしい息子のモウカザルと目があった。

「店のほうはもういいのか」
「ええ。どうせ旦那は残るんだし、そこまで念入りに片付けておかなくたって大丈夫でしょ。残りは明日起きてからやるわ」

 ゴウカザルはエプロンを洗濯籠へ投げ込むと、時計を見上げて仰々しくため息をはいた。

「やだわ、もうこんな時間。まったく、稼がせてくれるのはありがたいけど、こうも毎日閉店ギリギリまで飲み食いされると時間掛かってしょうがないわ」
「あの外からやってきた奴ら?」

 そう言った息子の様子は、いかにも不快気だ。
 彼らに関する悪い噂は挙げればキリがない。誰それが後ろから押された。誰それの持ち物が盗まれた。変な目付きでこっちを見てきたなど、実際聞いてみればどれも根拠のないものばかりなのだが、もともとが平和な田舎町な分、噂が定着するのは早かった。そうでなくても、ここのところ町人の不安を煽ることが多いのだ。矛先が向かうのも無理のない話なのかもしれない。

「こっちも早いとこ切り上げたかったんだけどねぇ。向こうも今日が最後だって言うし。それならやっぱり喜んでもらいたいじゃない?」
「適当言って、叩き出してやればよかったんだ」
「そうねェ……」

 息子の悪し様な物言いに、ゴウカザルは苦々しげに笑うに留めた。

「エデングループといい変な余所者といい。何だってこう変なのが集まってくるんだ」
「でも、その余所者のおかげで稼がせてもらってるんだしね。あんたも、そのエデングループのおかげで仕事があるんだし、あんまり悪く言うと嫌われるよ」
「雇用期間の更新と引き換えに家族との旅行を強要したり、かと思えば急に休暇を一日ずらさせたりするような会社、こっちから願い下げたけどな」

 実際、旅行の話を聞いたときは呆れた。職場の環境改善の一環として、社員に休暇を勧める。これ自体はよくある話なのかもしれないが、そこに雇用契約を絡めてくる辺りが普通じゃない。行き先こそ自由に決められたが、指定された期間は必ず地元から離れなければならない。これが守られない限り、解雇も辞さないという話だった。

「本当、どういうつもりなのかしらねぇ」
「さあ。まぁ、旅行費は出してくれる上にボーナス付きだからな。よっぽど会社も金が余ってるんだろう」

 そういうもんかしらね。言いながらゴウカザルは窓辺に寄って窓を開ける。雨戸に手を掛け、何気なく外を見た。家の裏の通りと、通りを挟んで立ち並ぶ民家が見える。灯りはない。どれもが夜の中で息を潜めている。それは単に雨戸を閉めているからなのか、もしくは本当にいないのか。物寂しい光景を追い払うように、ゴウカザルは雨戸を閉めた。錠を下ろしながら、旅行から帰って再びこの窓を開けたとき、すべてが元通りになっていることを祈らないではいられなかった。



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なかがき
晩餐パート2です。長くなってしまったので二つに分けました。
久々の更新なので、誤字脱字感想等、気になることがあったらビシバシ送ってくださいませー。

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