ポケモン小説wiki
I WISH FOR THE SUN RISING #8~ の変更点


written by [[朱烏]]

&color(red){※流血表現あり};


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#8 先(ふあん?) 



俺はもらった案内図を頼りに出口を目指していた。だが、こんなものって普通あるのだろうか。来客者用と仮定してみるが、城の来客者だったら当然偉いひとばかりだろう。だったらそれなりの身分のひとが導くはず・・・。 
改めて案内図を見てみる。何か違和感を覚える。・・・手書きだった。俺はゼントの性格を垣間見たような気がした。 
そうこう考えているうちに、自分は案内図が出口を指し示す場所に立っていた。そして目の前には見上げるほどの高さのある扉がある。とてもじゃないが自分の力だけでは開きそうにない。何か開く方法は無いか思案してみる。それが周りから見ればただ突っ立っているようにしか見えなかったのだろう。その扉の両脇にいた岩肌でがたいの良い門番(?)が無言で扉を開けてくれた。 
「ありがとうございます。」 
そう言うと、なぜだかジロッと睨まれた。何か憎まれるようなことしたっけ? 
「口があるなら突っ立ってんじゃねーよ。」 
なるほど、最初から頼めばよかったのか。理由が分かって納得はした。が、何も分からないやつにそんな口の聞き方しなくても・・・。さっきのことといい、今といい、無駄に不快感が募っている。まあ後者のほうは自分にも非があるのは認める。 
だが、自分の目の前に開かれた世界がその感情を一気に吹き飛ばした。 
「うわぁ。」 
口から飛び出た感嘆詞はさっきと同じだが、感動の度合いはまったく違っていた。まるで別世界に来たようだった。今、視界の中央には石造りの橋があり、それは向こうへ見える街・・・かは分からないが、低い建物が立ち並ぶ場所へ繋がっている。橋の下には碧い海が見え、底が見えるほどに透き通っている。街のさらに向こう側には、頂きが雲につきそうなほど高い山が見える。その景色を際立たせている蒼い空。すべてが美しく、神秘的なものに感じられた。自然と気持ちが引き締まる。 
やがて俺は前に向かって歩き始めた。 



『もしここで働きたいのであれば、2週間後の入隊試験を受けてください。』 
『よい答えを期待しています。』 



俺はこの答えを見つけるために外に出てきた。もし入隊できたら、ラナの言っていたとおり、新しい自分を見つけることが出来るのだろうか。俺はそんなことを考えながら、街の中へと消えていった。 




ここは城のある一室。そこでツボツボとヨルノズクが何か重要そうなことを話している。 
「ライエルさん。頼んでいた・・・あの・・・・・例のことで。」 
「心配しなくても大丈夫じゃよ、ワース君。あのマグマラシの眠っていた2日間で、町民の余分な記憶は消しておいた。いくつか嘘の噂も流しておいた。それにしても、町全部を回るのは大変だったんじゃぞ。あまり年寄りを荒く扱わんでくれ。」 
「無理を承知でお願いしました。では、このことについて詳しく知っているのは国王、姫、あなた、そして私ということに・・・。」 
ワースは深いため息をついた。まるで、また厄介なことを抱え込んでしまったとでも言うように。だが、これはある意味仕方のないことだった。 
「いや、ワシとお主だけじゃ。国王と姫の分も、謁見のついでに消しておいたよ。でないと厄介事が起こりそうな気がしてな。」 
そっちのほうが厄介事じゃないか。無駄に重荷が増えただけだ。胃がきりきりと痛む。これ以上ここにいるともっとストレスが溜まりそうだ。 
「で、では失礼します。」 
「待て。」 
ワースはその厳しい声で動きが止まった。そして次にライエルから発せられた言葉は、確信をついたものだった。 
「お主、もっとワシに聞きたいことがあるのではないのか。そうだな・・・例えば、あの子がここにいたら悪いことが怒るのではないかと心配しているとか・・・。」 
ライエルは ポケモン (ひと)の心を読むことに長けている。それには毎回驚かされる。だが、いつもは心を読まれると不快になるだけなのだが、今回は&ruby(・・・・・・・・・){読まれてほしかった};。 
「あの子は只者ではありません。それに、眼の色、爪の形、体毛の質、そのほかよく見ないと分からないところまで普通とは違います。そして、成り行きは分かりませんが、姫はその子に入隊を勧めていました。それが正しいことなのか・・・。いやな予感がするんです。」 
ライエルは目を閉じて黙って聞いていたが、やがて目をゆっくりと開いた。 
「ワシは数々の未来を予測し、そのすべてを当ててきた。それらは、今起こっている出来事や、変わりかけている物事、色々な事象を組み合わせることによってできる。だが今回は、ワシにもわからん。」 
ワースはライエルが微笑んでいるように見えた。 



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#9 友(とも?) 



「ま、何も無いところだけど朝までゆっくりしていけ。」 
「う、うん。」 
俺はある事情でこの家の世話になっている。 この家のひとの名前はレック。それにしても、今日一日は不幸としか形容できない。 



~数時間前~ 



(無駄に)活気があふれる街。ここの町の門をくぐったとき、そう感じた。いや、感じざるをえなかった。いきなりいろんなひとに囲まれて、 
「お客さん!最近人気のモモンパイはいかがですか?ものすごく美味しいですよ!!」 
「ものすごく不味いの間違いだろ!それよりだったらこっちのマトマジュースを!!」 
「そんなゲテモノ、誰が飲むんだよ?だったらこっちのほうが・・・」 
という具合で目の前で合戦が始まってしまったら、誰だってそう思うんじゃないだろうか。 
「・・・あの・・その・・・・し、失礼します・・・。」 
おれは極力この方たちのお邪魔にならないように、その場から脱出した・・・・・はずだった。 
「あ、逃げたぞ、追え!!」 
視線が背中に集中した。その瞬間、俺は振り返らず、前だけを見てスタートを切った。そして後ろから迫り来る無数の足音。 
(な、何で追いかけられなきゃいけないんだ!?何も悪いことしてないのに!) 
そんな苛立ちをどこにぶつければいいのかわからないまま、迫ってくる鬼をまくため、右へ左へとひたすら走り続けた・・・。 



「はぁ、はぁ、つ、疲れた・・・。」 
走り続けてかなりの時間が経過した。後ろを振り返ってみる。・・・もう追いかけてくる奴らはいなかった。 
「はぁ、や、やっと、まけた・・・。」 
これだけ走って息が切れなかったのは奇跡に近い。自分の体力に感謝しよう。そんな必要性のまったく無い達成感に浸っているとき、突如後ろから声がした。 
「ハハ、お前災難だったな。」 
まさか、まだ完全にはまいていなかったか?あわてて振り返ると城にいたときと同じ恐怖に襲われた。別に見たことのあるポケモンだったわけではない。ただ、あの城で自分をアブナイ目にあわせようとしたやつと姿かたちが似ていたのだ。 
「何で固まってんの?」 
そう言ってそいつは近づいてくる。それもあのときの情景と重なってしまって頭が混乱する。もう戦慄と焦燥感以外何も考えられなくなって、思考のぐちゃぐちゃが頂点に達したとき、意味不明な言葉が飛び出してしまった。 
「ご、ごめんなさい!お、お相手いたしますから!」 
「ハハ、・・・・・え?」 



~しばらくして~ 
「アハハ、お前本当に災難だったんだな、ハハ。」 
よく見るとやっぱり違うポケモンだった。大きさだって自分よりも一回り大きいぐらいだ。俺はこいつに名前と今までの出来事の一部始終を話した。だが全然笑えることじゃない。ひとの不幸を笑うとはいやなやつだ。 
「最初のやつはリザードンだな。あいつは昼間から酒飲んでるようなやつだし、酔ったらいつもそうなる。悪気があったわけじゃないと思うから許してやれよ。それに、追いかけてきたひと達だって、ただ初顔をひいきにしたかっただけだ。&ruby(きい){気};悪くすんなよ。」 
今俺はお前に笑われたことに気を悪くしている。 
「ここ初めてなんだよな?案内してやろうか?なんかおごってやるからさ。」 
 ・・・・前言撤回。とてもいいひとだ。 



そんなこんなで胃が破れるくらいに食わされた後、街のいろんなところを回った。最初に起きたことを除けば、ここはすごくいいところだ。すれ違うひとはみんな挨拶してきて、、そのときの表情も笑顔で満ち溢れている。みんなとても幸せそうだ。自分もそんな気持ちで満たされていく。なんだかこんな気持ちになったのは初めてのような気がする。 



そんな楽しい時間は急速に過ぎ、あたりは既に暗くなっていた。あの偏屈の決めた門限も刻一刻と近づいている。 
「俺、そろそろ帰らなきゃ。」 
「え、そうなのか?なんだよ、せっかく友達になれたのにな。」 
友達・・・?なんか懐かしい響きだ。 
「ま、また明日来るから。」 
「ああ、じゃあな。」 
そう言ったレックの顔はなんだか淋しそうだった。俺ももっと街を見て回りたかったが、あいつに「もう城には入れません。」などといわれたら困る。ここは昂ぶる気持ちを押し殺して前に進まなければ・・・。 
この街の門までの道順は大体憶えている。この記憶が正しければ、ここをまっすぐ歩いて、その次にこの角を曲がって・・・・云々。 
 ・・・そしてここを右に曲がれば、 
(あった!ここの門をくぐれば城へと繋がっている橋があるはず。もう時間がおしてる。早く行かなきゃ!) 
そんな焦る気持ちで門をくぐった俺には、目の前の情景が理解できなかった。唖然とするしかなかった。誰だって絶対に無くなるはずのないものが無くなってしまっていたらそうなるだろう。 
 ・・・・・橋が無くなっていたのだ。 



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#10 泊(いえ) 



なんで?何で橋がないの?場所は絶対あってる。ちゃんと向こう側には城も建っている。なのになんで? 
頭の中が混乱しまくっている。もう日は落ちてしまったし、これだと門限にも間に合わない。ワースに怒られる・・・けどそれはどうでもいいか・・・。 
「と、とりあえず戻るか・・・。」 



さっきレックと別れた場所に戻ってみると、幸いレックはまだそこにいた。レックは誰かと話をしていた。暗くてよく見えなかったが、かなり小さい影が見えた。 
「おーい!レック!」 
大きな声で呼んでみたが、先に反応したのはレックではなく、小さい影のほうだった。しかも、こちらを振り向いたのではなく、自分とは逆の方向に行ってしまった。どう考えてもレックと話し終わったから行ったのではなく、俺を避けているようだった。 
「レック、誰と話してたの?」 
「え?・・・ああ、道を聞かれてな。教えたらどっかへ行っちまった。」 
答え方がぎこちなかったような気がする。視線も合ってないような・・・。 
「それよりどうしたんだ?わざわざ戻ってきて。」 
「あ・・・そ、そうだ!橋が無くなっちゃったんだよ!城から出てきたときは確かにあったはずなのに。場所間違えるはずはないんだけど・・・。」 
だが返ってきた答えは明瞭なものだった。 
「そりゃそうだろ。」 
「え・・・なんで?」 
それからずっとレックの長い説明を受けて納得した。 
レックが言うには、この辺の地形はものすごく複雑で、しかも満潮時には陸と陸をつなぐ唯一の橋が全部水に浸かってしまうそうだ。舟もないわけではないが、時間もかかるし、その分の料金もかかる。昔はそんなことはなかったらしいが、近年海抜が上がってきたり、その他色々な原因が重なったりして橋が水没するようになったらしい。 
城のあるほうの陸地は山ばかりで、城下町という部分は海を挟んだもう一つの陸につくったらしい。そんなことをわざわざしたもう一つの理由は、昔は戦争が絶えなかったため、城と城下町を離して攻め込まれにくいようにつくっただとか。 
「ま、そんなわけだからさ、今日はうちで泊まれよ。」 
いつの間にか話は別の方向へ進んでいた。 
「でも・・・・迷惑かけたくないし・・・。」 
「俺達は友達だろ?遠慮すんなって!」 
こうして俺はレックの家に一晩泊まることになった。 



~現在~ 



「昼飯の後何も食ってないよな?これ食えよ。」 
そう言って渡されたモモンパイ。俺は黙々とそれを食べていた。味は好みではなかったが、特別不味いわけでもなかった。 
家の中を見わたしてみると、造りはあの城と同じレンガだった。そういえば街中を歩いてるときもレンガ造りの建物ばっかりだったな・・・。レックの家はけっこう簡素で、物はあまり置いてなかった。目立つものは椅子とテーブルくらいだと思う。例えるなら城の中にある自分が寝かせられていた部屋と同じ感じだ。外に出ても戻るところは同じなんだなと思った。 
「俺、城の軍隊に入ってるんだ。階級は真ん中あたりで・・・」 
レックはそこでの生活や訓練とか、色々な経験を話してくれた。これから入隊しようとしている俺にとって、レックの話にはとても興味をそそられた。ラナが言っていた『新しい自分を見つける』ことができそうな気がした。 
「レック、俺入隊試験を受けようと思うんだ。」 
「ほんとか?」 
「それで、試験ってどんなことするのかよく分からないから教えてほしいんだけど・・・。」 
ここはラナと話していたときから少し気になってた疑問だ。 
「簡単だよ。1対1のバトルだ。どれだけ相手にダメージを与えられるからが鍵だな。」 
バトル・・・なぜか懐かしい響きがする。相手にダメージを与えて倒したほうが勝ちだが、技のキレ、判断力、ピンチ時の勝負強さなど奥深いものが沢山ある。そういうことは覚えているようだ。しかも、レックの口から『バトル』と言う言葉が出てきたとき、条件反射のように体がブルッと震えた。決して恐怖感だとか緊張だとかで震えたのではない。体が何かを憶えていたんだ。体の中で何かが熱くたぎっている。 
「ところで、どうしてそんな気になったんだ?」 
不意にレックが聞いてきた。 
「うーん・・・。話せば長くなるんだけど、簡単に言えばラナってひとに誘われたからかな。」 
俺は普通に話した。でもそのとき家の中が一瞬静まり返ったような気がした。同時にレックも目を丸くして、持っていたモモンパイも床に落としていた。・・・なにかいけないことでも言ってしまったんだろうか。 
「お・・・お前・・・ひ、姫のことを呼び捨てで・・・。」 
「え?」 
またややこしいことが一つ増えてしまった。 



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#11 試(しけんかいじょう) 



あれから2週間後。 
「うわー、やっぱり沢山来てるなー。このなかで犯し・・・もとい可愛い子はいるかな?」 
「お姉ちゃん、双眼鏡っていうのはそんなことに使うためじゃないんだからね。」 
「そうだよ、恥ずかしいからやめてよ。」 
さっきから不可解な会話をしているのはある三姉妹。姉はライチュウで名前はカーナ。妹は双子のピカチュウで名前はロロとリル。 
「いいじゃない、少しくらい。こうでもしないと男は捕まえられないんだって。」 
「だいたいここのベランダは立ち入り禁止でしょ。」 
「見つかったら大変だから早く行こうよ。」 
どうやら妹ふたりが姉を説得しているらしい。 
「じゃああともうちょっと。」 
「・・・はぁ・・・。ワースさんと別れてからずーっとこの調子なんだよね・・・。」 
「あのひとのどこがいいんだかわかんないよね。ていうかお姉ちゃんは自分の欲求満たしたいだけだし。」 
「ああ!?」 
一瞬で二匹の話し声は止まった。それほどカーナの形相には迫力があった。 
「・・・リル、声大き過ぎだよ・・・。」 
「ワースさんは・・・ワースさんは、ほんとはすごくいいひとなんだから・・・。私だって・・・私だって・・・ぐすっ。」 
また始まった。お姉ちゃんは感情的になるとすぐに泣き出してしまう。お姉ちゃんは顔が綺麗なほうだ。性格さえ直せばどんな雄とでもつきあえるとおもうんだけどな・・・。 
それにしても、今日の試験にはどんなひとが受けに来るんだろう。そろそろ私も恋っていうものを経験できるのかな。 
「今度は絶対にいい男見つけてやるんだから!」 
 ・・・お姉ちゃんみたいに相手を傷つけて終わらないようにしよう。 



「レック、何だか緊張してきた。本当にバトルするだけで合格するの?」 
「大丈夫だって。最近は試験受けるやつがめっきり減ったから、よほどのことがなければ受かるって。そしたらお前を舎弟に・・・。」 
「舎弟?」 
「嘘だって!まあ頑張れよ。」 
そう言ってレックはどこかへ行ってしまった。 
それにしても随分ひとがいるように思う。本当にこれでも少ないほうなんだろうか。 
会場は城の中庭・・・といっても広さはかなりある。10匹ぐらい一斉にバトルをしても大丈夫そうだ。 
受験の手続きはワースが全部やってくれた。ときどきいやそうな顔をしていたのが引っかかるが。そのワースが取ってきたエントリーナンバーは23番。最初から2匹ずつ戦っていくと12回目に自分の番が来る計算だ。 
この2週間、この試験の対策は何一つしてこなかった。余裕があったわけではなく、何をすればいいかよく分からなかった。レックも暇があればバトルの練習相手になると言っていたけど、結局兵の仕事で暇にならなかった。 
ここの会場は何だか居心地が悪い。出会うひとは睨みつけてくるし、暑苦しいし・・・。さっさと始めてほしかった。 



「では、これから開会式を始めます。」 
開会の言葉は王に仕えているらしい側近のようなひとだった。その隣ではラナ・・・ではなく姫が座っていた。 
間違っても他の人の前で姫の名を呼び捨てにしてはいけない、とレックに叱られた。そんなことをすれば即殺されるらしい。もちろん誇張した表現だとは思うが。 
「続いて来賓の祝辞を・・・」 
まだやるのか。いろんなひとの長々しい挨拶を聞かされるのはうんざりだ。眠くなってしまう。 
とうとう上瞼が下瞼にくっついたとき、隣から声が聞こえた。 
「あの・・・ルー先輩・・・ですか?」 
意識がどこかへ飛んでいてよく聞き取れなかったが、とりあえず首を縦に振っておいた。いや、でも先輩と言う言葉が聞こえた気がする。後輩を持った記憶は今のところないのだが。 
「たぶんあなたと・・・対戦することになると思うんですけど、そのときは・・・よろしくお願いします。」 
対戦相手?目を開けてみると、自分より一回り・・・いや、二回りほど小さなポケモンがいた。皮膚全体が砂のように乾いているようなポケモンだ。これも名前がわからない。 
「・・・先輩って言ったけど・・・、何で君が俺の後輩なの?会ったことはないと思・・・。」 
口が滑った。もし俺がこの子と知り合いだったとしたら、知らないなんて言ったら傷ついてしまうかもしれないのに。何で俺はこうなんだろう。 
「いや・・・会ったことはないんですが、もしどっちも受かったらあなたは先輩ですから・・・。」 
なんだ、会ったことはないのか。・・・って何で俺が年上だってわかるんだ?そもそも俺の年齢って? 
その旨の質問(自分の年齢がわからないこと以外)をすると、 
「いや、あそこにいるツボツボさんが・・・15歳だって教えてくれたんで・・・。」 
15歳?・・・ああ、そういう設定にしてくれたのか。 
「僕はイオです。勝負のときは・・・よろしくお願いします。」 
「こちらこそよろしく・・・お願いします。」 
相手がかなり丁寧な物言いだったので、こっちも言葉遣いが同じようになってしまった。 



「ロロ、リル、あのマグマラシすごく可愛いよ!でも隣のサンドも・・・。」 
「だからやめようよ・・・。せめて&ruby(ここ){立入禁止};じゃなくて反対側のベランダにしようよ。そうすれば誰にも怒られないから・・・。」 
「こっちに誰もいないからいいんじゃない。ほら、あんたも見なさいよ。」 
姉に強要されてロロはベランダから少しだけ身を乗り出した。 
「うん・・・・・可愛いかもね。」 
ロロは口調では興味なさそうに演じたが、一目見た瞬間に突然心臓が高鳴った。 
(なんだろう、この気持ち・・・) 



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#12 問(ひとつのとい) 



「それではエントリーナンバー1番、そして2番の方は準備を願いします。」 
試験と言うよりもバトル大会のような雰囲気になっている。まあそういう意識でいたほうが緊張して硬くならないのかもしれない。 
「今から戦うのは・・・ストライクとザングースみたいですね。」 
そういえば開会式が終わった後もなぜか隣でくっついている奴がいる。対戦相手と一緒にいるのは変な気分だ。今自分の隣にいる奴と戦って負けたら試験は落ちるかもしれない。そんな対抗心を燃やさなければいけない対象の傍で、なんでこんなに落ち着いているのだろうか。まさか、自信があるからなのか?でもそんなに強そうには見えないし・・・。 



ストライクとザングースと呼ばれるポケモンが開始の合図とともに、お互いに飛びかかっていった。先制攻撃したのはストライク。『切り裂く』がザングースの腹部に命中したようだ。が、ザングースは攻撃を受ける直前に少し受け流したようで、大してダメージは受けていなかった。 
ストライクは次々と両腕の鎌から『切り裂く』を繰り出しているが、ザングースは次々とかわしていく。攻撃が外れるごとにストライクの鎌の振りは大きくなっていく。多分攻撃が当たらないことにイラついてきているんだろうが、それが仇になるんだろうなあ、と直感で思った。 
ストライクの右腕の鎌が今までよりも大きく振り下ろされた。ザングースはそれをひらりとよけストライクのがら空きの背後に回った。彼が気づいたときには既に遅く、背中には大きな2つの爪痕が残っていた。 
「ぐあっ!」 
彼の上げた悲鳴とともに、ザングースは彼の前へ移動し、腹部に『切り裂く』を見舞った。その攻撃のスピードは背中を攻撃したときよりも少し遅かったが、ストライクには自分の鎌を使って攻撃し続けていたときの疲労、背中の痛みが重なってよけることが不可能だったようだ。 
彼の体が宙に舞い、地に堕ちたときに終了の合図は鳴った。 



「すごい速攻でしたね。」 
平然とイオは言ったが、俺は少し怖かった。もちろんバトルに対する好奇心はまったく消えていない。だからこのバトルを見ているときにも揺さぶられるものはあった。ただ・・・こんな激しいバトルを隣にいる子としなければいけないのかと思うと・・・。もちろんイオの実力は分からないし、自分の実力だって分からない。もしかしたらこの子よりも弱いのかもしれないし・・・。 
でも体が何かを訴えている気がするのだ。さっきザングースがストライクを切り裂いたとき、その体から血が飛び散った。一瞬会場はどよめいたが、それは日常茶飯事のことらしいのでそれ以上何かが起きたわけではなかった。だが、俺はあの鮮血を見たとき、鉄輪がはまっている前足がズキッと痛んだのだ。それは一瞬だったが、あの痛みがずっと続けば発狂するんじゃないかと思った。それくらい痛かった・・・。 
「続いてのエントリーナンバー・・・。」 
次々とバトルか繰り返される。最初のバトルのようにまではいかなかったが、みんなそれなりに激しいバトルを繰り広げている。これだけみんなのレベルが高いと少し不安になってくる。 
8組目が始まったとき、突然イオが話しかけてきた。 
「ルー先輩・・・こういう争いとか戦いって好きですか?」 
何を言い出したかと思えば、そんな対した質問ではなかった。が、イオの顔はものすごく真剣だった。 
だが、今目の前で繰り広げられているバトルは、好きとか嫌いとかじゃなくてやらなければいけないことだ。だから俺はその質問をする意味がよく分からなかった。一応は答えておいたが。 
「すごく好きってわけでもないけど・・・嫌いでもないかな。」 
イオの表情はどこか寂しかった。期待通りの答えではなかったということか。 
「そうですか・・・。僕は好きじゃないです。ひとをむやみに傷つけて何が面白いのか分かりません・・・。」 
なんだか『バトル』イコール『暴力』のようなニュアンスになっている。 
「いや、傷つけるって意味じゃなくて、自分の力を試す・・・」 
「同じことだと思います。」 
なんだか俺が怒られているようだ。それに戦うときは手加減してください、と言っているようにも聞こえる。でも・・・ 
「じゃあ何でイオはここにいるの?バトルが好きじゃなかったらここに来る必要はないよね?」 
イオの目が泳いだ。 
「そ、それは・・・。・・・・・・自分に・・・・・・・。」 
口ごもってよく聞こえなかった。何か理由があるらしいが、雰囲気が自分の口を開けさせてくれなかったので、何も聞かなかった。 
しばらく黙った後、イオは口を開いた。 
「僕は・・・・そんなに強くないです。でも本気で勝負してください。・・・・お願いします。」 
言われなくてもそうするつもりだ、とでも言おうと思ったが、やはり雰囲気がそうさせてくれない。そのうちイオはどこかへ行ってしまった。 
イオの話はいろいろ矛盾していたが、最後の言葉を言っていたときの目は、何かの決意を感じさせる目だった。 
その決意が何なのか俺には分からない。 
「では、エントリーナンバー21番と22番の方は・・・。」 
「おい、ルー。この次はお前だぞ。」 
いつの間にかレックが後ろにいた。そうか、もうそろそろ始まるんだな。 
「・・・レックはこういうバトルって好き?」 
「そんなこと聞いてどうするんだ?・・・俺は好きだけどな。自分の力を試したいし・・・、それに楽しいだろ?」 
さっきイオの話を聞いて迷った部分はあったが、レックとは意見が一致したようだ。 
「ま、とにかく自分の力を出し切ってこいよ。受かったらお前は俺の舎弟だからな。」 
「なんでだよ!」 
「だから冗談だって。本気で怒るなよ・・・。少しは冗談を受け入れる寛容な心を持てよ。・・・俺はここで見てるからな。」 
もう前のバトルが終わりそうだ。そろそろ準備をしなければいけない。レックに背中を押され、バトルステージの方へ走っていった。 
時は刻々と近づく。 



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#13 験(しけん) 



「それではエントリーナンバー23番と24番の方、入場してください。」 
司会のひとに促されて、バトルステージに立つ。歓声が聞こえてくる。観戦してたときにはこんなに歓声が大きかったなんて気づかなかった。試験ではなくてイベントではないのかと疑うほどだ。バトルステージ・・・この庭の中央に立ってここの広さを改めて感じた。上に見える、切り取られたような四角い空の淵・・・ベランダにいる沢山のひとがここを見下ろしている。 
これだけの人に見られているとやっぱり緊張してしまう。レックがあんな冗談を言ったのは俺の緊張を和らげるためだったのかもしれない。いまだに本当に舎弟にする気なんじゃないかと疑っているが。 
「それでは両者前へ。」 
あれ、もう始まっちゃうのか。あと少しだけ雰囲気を堪能したかったな。それに前へ、って言われてもまだ距離が20メートルくらいはある。 
「それでは・・・。」 
審判の準備の合図で睨み合う&ruby(ふたり){二匹};。正確にはイオが睨みつけてきただけなんだけど。 
「はじめ!!」 
開始の合図で先に動いたのは俺。とりあえず全速力で『体当たり』を仕掛けた。自分の能力をほとんど把握していない俺にとって、一番無難な技だ。 
しかしイオはそれをひらりとよけた。まあ全速力とはいえどこんな開いた距離だったらよける時間は十分にある。 
(先輩、いいんですか?背中ががら空きですよ。) 
攻撃をよけられた直後、俺の背中に何かが撃ち込まれた。チクッとするこの痛みは・・・針か?まあこの程度じゃどうってことないけど・・・。自分で強くないって言ってたけど本当だったのかな。 
(特訓に特訓を積み重ねて強化した『毒針』。放って置いたらそのうち動けなりますよ・・・。) 
それでも先制攻撃されると悔しい。簡単に隙を見せるとこうなってしまうんだな。だったら・・・攻撃をよけることができないくらいに速くすればいい。 
俺は四肢に力を込め、対峙しているイオにものすごい速さで突っ込んでいた。『電光石火』だ。 
(は、速い・・・。) 
体と体がぶつかった瞬間、少しうめき声が聞こえて、イオは吹っ飛んだ。飛ばした距離は思いのほか大きい。 
こんな技のやり方は最初はもちろんわからなかった。けど、俺よりも前にバトルした奴が使っていて、結構よさそうな技だと思った。だからバトルステージにギリギリまで近づいて、そいつの筋肉の動きだとか技の発動のタイミングだとかを観察していた。注意して見ているうちに、感覚的にだが俺にも使えるんじゃないかと思った。あくまでも感覚で、漠然とだが。 
(く・・・隙を見せたかと思えば、速攻で『電光石火』を繰り出してくる。・・・よくわからないひとだ。でも僕よりは強いな・・・。) 
イオはフラフラと立ち上がった。その様子を見ると、与えたダメージは結構大きかったようだ。 
(多分今の僕がこのひとに勝つためにはあの技しかない。さっきの毒針が効き始めるころだし・・・。) 
立ち上がったと思ったら、今度は下へ沈み始めた。そして数秒も経たないうちに地中へと消えてしまった。もしかして、『穴を掘る』というやつか。そういえば・・・、 



『いいかルー。お前がこれから戦うのは地面タイプ。相性で言えばお前のほうが不利だ。『穴を掘る』には気をつけろ。地中に消えちまったら、厄介だからな。』 



とレックが忠告してきた技だな。・・・って対処法も何も聞いてないよ・・・。相手の下のほうから攻撃してくる技らしいから、よけることができたら隙ができそうだな。どの攻撃技にも通じることだけど。そこで『火の粉』(レックがほんの少しだけやり方を教えてくれた)か何かを喰らわせたら・・・。タイプを考えたらダメージを与えられるかどうかは微妙だが、与えたダメージも計算すれば、決めることはできるかもしれない。 
考えているうちに下のほうから音が聞こえてきた。振動も微弱だが後ろ足に伝わってくる。俺はかすかな音や振動を最大限まで感じ取るために目を閉じた。なぜだか分からないが、少しだけ不思議な力が自分を取り巻いているような気がした。イオがどのあたりを潜っているのか、手に取るように分かるような気がするのだ。この振動だと、そろそろ地面から出てくるころだろう。あと少し・・・あと少しだ・・・。 
よける準備をするために後ろ足に力を入れようとしたとき、予期せぬ問題が起こった。 
(あれ・・・?足が・・・動かない・・・?) 
何が起こったか自分でもわからない。ひとつだけ分かるのは、体全体が痺れるような感覚に冒されて、動けなくなった。つまり、イオの攻撃をよけるのがかなり難しくなってしまったということだ。 
イオが俺に何かしたのか?・・・まさか、あの針に毒が・・・。何も気にしてなかったけど、最悪のタイミングで毒がきき始めてしまったということか。さっきまではバトルを楽しめていたが、焦り、恐怖で汗がどっと出てくるのを感じた。 
音も振動もかなり大きくなっている。やばいな・・・もうだめだ・・・。 
大きな音とともに舞い上がった砂、そして二つの影と鮮血。完全にイオの技が決まった。ドサッという鈍い音を立ててルーの体は地に沈んだ。初戦、あのストライクが地に堕ちたように。 
(くそ・・・・こんなところで・・・終わらせてたまるか・・・!) 
毒に冒されている体にむち打って、フラフラになりながらも何とか立ち上がった。さっきは動くことができなかったのに・・・ひとっていうのは窮地に立たされるとけっこう力を発揮できるものなんだな。まともなダメージをこの技でしか受けていないことも幸いしている。 
視界が少し霞んできていたが、イオの姿は捉えることができた。その右腕の爪は緋色に染まっている。血・・・ということは、俺は・・・。さっきから痛む腹を前足でなぞってみる。べったりとした赤い血が俺の前足を染めた。思いのほか大量出血だ。 
そのときだ。 
「ぐ・・・ぁ・・・!」 
突然右の前足がズキズキと痛み始めた。初戦を観ていたときに起こったときと同じような痛み。でも一瞬の痛みなんかじゃない。心臓が鼓動するたびに痛みが全身に転移していく。体が熱い。このまま蒸発していくんじゃないかと思うくらい熱い。視界が暗く、狭くなっていく。イオが見えない。 
誰か・・・誰か助けて・・・・・・・。 



記憶はそこから途切れた。 



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#14 合(win?) 



『はかせ、ぼくがいまやってることって、なにかいみがあるの?』 
『意味・・・か。面白いことを言うようになったな。・・・バトルが嫌いか?』 
『ううん、すごくたのしいよ。でもね、さいきんよくかんがえるんだ。たたかういみとか、いきるいみとか。おにいちゃんにきいたけど、わからないんだって。』 
『そりゃそうだろうだろうな。・・・5歳のお前がそこまで考えることができることには驚いたよ。でもな、楽しかったり面白かったりすればそれでいいんじゃないか?』 
『うん、そうだね。・・・はかせ、どうやったらグラックにかてるようになるの?』 
『今日のお前はやたらと質問が多いな・・・。』 



一度見た光景が再び目の前に広がった。長方形の赤茶色が隙間なく並んだ天井。これだけ見れば、今自分がいる場所を知るには十分だった。 
ここは間違いなく・・・俺が記憶をなくしてから初めて目を開いた、あの無機質な部屋。もしそのときから何も変わっていなければ、小さなテーブルと椅子があって、マグカップも置いてあって、そして赤い体のポケモン・・・・れっく? 
なぜかレックが椅子に座っている。まるで俺を監視しているかのようだ。 
「なんだ、もう起きたのか。まだ2時間もたってないのにな。」 
もう起きたとか2時間とかいったい何のことだ?集中して考えてみよう。起きた・・・つまり寝ていた。でもこんな太陽が出ている時間から寝ることなんて・・・。倒れたとか気絶したとかだったらまだ合点が・・・。・・・気絶?・・・・・・いお?・・・・やられた? 
何かの拍子に頭の中を駆けめぐり始めた言葉のピースが次々と繋がっていく。導き出された答えに俺は愕然とした。 
「・・・俺ってやっぱり不合格だよね。」 
「・・・は?何言ってんだお前。勝ったのに不合格になるわけないだろ。」 
勝った?何言ってんだこいつは。俺はイオにやられた。イオに攻撃された後、体中が激痛に襲われて・・・。何で体が痛みだしたかはわからないけど・・・。その後の記憶はないから、多分そこで倒れたんだと思う。 
なのに勝った?わけがわからない。その後の俺が何かしたわけでもないのに。 
「でもあの『火炎放射』は凄かったな。相性の悪い技だったけど、一発で倒れたからなぁ。あいつが地面タイプじゃなかったら、重傷だぜ?」 
レックがおかしいのか俺がおかしいのかわからなくなってきた。『火炎放射』?まあタイプ的に考えたら使えなくはないだろうけど、『火の粉』にやり方もわからなかったやつができるはずないだろ。使った記憶すらない。 
「でもな、あんまり無理するなよ。いきなりぶっ倒れて、ほんとびっくりしたんだぞ。軽い熱中症みたいだから、もうちょっと休んどけ。俺は用事があるから・・・。」 
なんだ、結局倒れたことには変わりがないのか。もちろんそんな記憶もないが。 
「それと、そこにあるジュース・・・新作だとよ。」 
それだけ言うと、レックは足早にドアから出ていった。 
部屋には俺と妖しげな輝きを放つ木の実ジュースだけが残された。 



「どうでしたか、ルー君の様子は?」 
「・・・何がだ?」 
「何がって・・・様子はどうでしたかという意味です。」 
「普通だよ。」 
しばらくの沈黙のあと、ワースは一人で頷いてその場から下がろうとした。 
「おい、待てよ。ひとつだけ言いたいことがある。・・・お前が何を探っているのかは知らない。だけど、ルーのことは何も穿鑿するな。確かにあいつにも変なところはあるけど、そんなたいしたことじゃないだろ。尾行をつけてまで・・・。」 
「・・・気づいていましたか。流石ヴァークさんの息子だ。」 
くそ、何なんだこいつは。しかも聞きたくないクソ親父の名前まで出してきやがって。ムカつく野郎だな。 
「しかし、私にとってはたいしたことじゃないんです。明らかに今日の彼の&ruby(・・・・・・・){一度目の倒れ方};は不自然だった。そのあと立ち上がってからは、表面上、普通に相手を倒しただけですから、皆さんがそれを忘れているだけです。それに・・・」 
「ふたりとも何を話しているのですか?」 
「ひ、姫!?」 
突然の姫登場に、ワースとレックは違う驚きかたをした。前者は声を張り上げて。後者は大きく目を見開いて。レックに関して言えば、自分の目の前に姫がいるなんて初めてのことだったので、緊張のあまり汗が止まらなくなっていた。 
「な、なぜここにおられるのですか?合否判定の立ち会いは・・・。」 
「何も動かないでじっとしているのは苦手なんです。なので抜け出してきました。それと、ルーさんのお見舞いにも行きたいと思いまして。」 
「しかし・・・。」 
「大丈夫です。わたしが抜けたくらいじゃ何も起こりません。」 
それが起こるんだよな・・・千を超える兵による姫の一斉捜索が。前に姫が勝手にひとりで散歩に出かけたとき一度だけあったが、覚えているのだろうか。とにかく大ごとになる前に事前に知らせておかなければ。 
「それでは行ってきます。」 
行ってきますって・・・。まあ行動力のある姫を止めることはできないから(泣きだして手がつけられなくなる)、こっちで何とかしよう。ルーの様子も聞けるかもしれないし・・・。 
ちなみにこのやりとりの間、レックは一度も口を開かなかった。 



ルーは天井を見つめながら、今日の出来事とレックが言っていたことを思案していた。 
何でだろう。なんでイオを倒したときの記憶がないんだ?おかしくなったのはあの『痛み』からなのはわかるんだけど・・・。それにレックが言ってた『火炎放射』を繰り出したっていう話。あの試験でそんな強力な技を使っているひとなんていなかった。でも俺はそんな技が使えた・・・。過去の俺は・・・少なくともバトル経験だけはかなりあったほうなんじゃないか?云々・・・。 


そろそろ頭が破裂しそうだから考えるのやめようかな。

↓感想などありましたらどうぞ。

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